説明

洗浄水タンク装置

【課題】 フラッパー弁の開弁操作を電動モーターを用いて自動で行う場合に、電動モーターの選定に制約が少ない洗浄水タンク装置を提供する。
【解決手段】 電動モーターによって引き上げ部材にってフラッパー弁を開弁する洗浄水タンク装置において、前記引き上げ部材を、前記弁体本体部の中心から前記軸体に対して遠ざかる側に係止した第1引き上げ部材と、前記弁体本体部の中心から前記軸体に近づく側に係止した第2引き上げ部材と、から構成し、前記フラッパー弁の開弁開始においては、前記第1引き上げ部材は引張り状態で、前記第1引き上げ部材は弛緩状態で、その後全開弁までの間に、前記第1引き上げ部材が弛緩状態で、前記第2引き上げ部材が引張り状態となるように、前記第1引き上げ部材および第2引き上げ部材の長さを設定している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器の洗浄に用いる洗浄水を貯水しておく便器洗浄タンクに関するものであり、具体的には、フラッパータイプ排水弁を備えた洗浄水タンク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水洗便器に洗浄水を供給するフラッパータイプ排水弁を備えた洗浄水タンク装置は、洗浄水を貯留するタンク本体と、タンク本体の底部に配設した排水口を開閉するフラッパー弁と、前記フラッパー弁を軸支する軸部と、前記フラッパー弁を開弁操作するための開弁操作装置とこのフラッパー弁を連繋する引き上げ部材とから構成されている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
上記特許文献1においては図7に示すように、引き上げ部材130bはフラッパー弁121の略中心位置に連結され、開弁操作装置としての操作ハンドル52の開弁操作によりスピンドル部53が回動して引き上げ部材130bを引き上げると、フラッパー弁121は軸体121aを中心にして上方に回動して排水口40aを開放して、図示しない水洗便器に洗浄水を供給している。
開弁動作の初期段階ではフラッパー弁121には上方からタンク本体内の洗浄水の初期水位の水頭圧が印加されており、引き上げ部材としての玉鎖130とフラッパー弁121との連結位置と軸体121aとの距離が短かいので、フラッパー弁121を引き上げる際、開弁操作装置としてのスピンドル部53に対して大きな回動トルクが必要とされている。前記回動トルクは、開弁操作を手動で行う場合は問題となる大きさではないが、開弁操作を電動モーターを用いて自動で行う場合は電動モーターに求められる出力トルクに影響してくる。
即ち、複数の洗浄水タンク装置を同一仕様の電動モーターを用いて自動洗浄を行う場合、前記同一仕様の電動モーターであっても電動モーターの各々の間で出力トルクが正規分布状にばらついている。正規分布状にばらついている中から必要とする出力トルクを発生する電動モーターを改めて検査して選定する手間が発生したり、必要とする出力トルクの下限値以下の電動モーターが多い場合最適モーターの収率が小さくなりコスト高になる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−219785(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、洗浄水を貯留するタンク本体と、タンク本体の底部に配設した排水口を開閉するフラッパー弁と、前記フラッパー弁を開弁操作するための開弁操作装置と、この開弁操作装置と前記フラッパー弁を連繋する引き上げ部材とを備えた洗浄水タンク装置において、開弁操作を電動モーターを用いて自動で行う場合に、電動モーターの選定に制約が少ない洗浄水タンク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、洗浄水を貯留する洗浄水タンクと、この洗浄水タンクの底部に配設した排水口を開閉する弁体本体部とこの弁体本体部から延びた腕部とを有するフラッパー弁と、前記腕部を回動自在に支持する軸体と、前記フラッパー弁に一端部を係止して、このフラッパー弁を前記軸体を中心に上方に引き上げるための可撓性を有する引き上げ部材と、この引き上げ部材を引き上げ移動する、電動モーターによって駆動される開弁操作装置と、を備えた洗浄水タンク装置において、前記引き上げ部材は、前記弁体本体部の中心から前記軸体に対して遠ざかる側に係止した第1引き上げ部材と、前記弁体本体部の中心から前記軸体に近づく側に係止した第2引き上げ部材と、から構成され、前記第1引き上げ部材及び第2引き上げ部材の他端部が前記開弁操作装置に連繋されており、前記フラッパー弁の開弁開始においては、前記第1引き上げ部材は引張り状態で、前記第1引き上げ部材は弛緩状態で、その後全開弁までの間に、前記第1引き上げ部材が弛緩状態で、前記第2引き上げ部材が引張り状態となるように、前記第1引き上げ部材および第2引き上げ部材の長さを設定していることを特徴とする。
【0007】
上記のように構成された本発明においては、開弁操作をするために電動モーターを作動させて引き上げ部材を上方へ引上げることにより、二本の引き上げ部材の内、軸体から近い側の第2引き上げ部材よりも緩みの少ない遠い側に設置されている第1引き上げ部材がフラッパー弁を持上げることにより、フラッパー弁は開弁される。開弁角度が大きくなると幾何学的に第2引き上げ部材の緩みがなくなり緊張状態に達してフラッパー弁を持上げる。この時第1引き上げ部材は緊張状態から弛緩状態に移行しフラッパー弁を持上げる効果はなくなる。その後開弁終了まで第2引き上げ部材がフラッパー弁を引上げる。すなわち一連の開弁動作の内、前半部分が第1引き上げ部材でフラッパー排水弁を引き上げ、後半部分が第2引き上げ部材でフラッパー排水弁を引上げる。
【0008】
また、本発明においては、前記引き上げ部材を玉鎖で構成し、前記第1引き上げ部材と前記第2引き上げ部材の何れかに一方に他方を着脱自在に係止する玉鎖係止部を配設して、この玉鎖係止部の係止位置を調節することで、前記第1引き上げ部材と前記第2引き上げ部材の相対長さを調整可能であることも特徴とする。
従って、フラッパー弁が閉弁状態から開弁状態に至るまでの、各引き上げ部材における、引き上げ分担割合を簡単に調節することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、最初は引き上げ力に有利だが引き上げ距離に不利であるフラッパー弁の軸体から遠い側にある第1引き上げ部材でフラッパー弁を引き上げ、フラッパー弁が開弁し、引き上げ負荷の少なくなった時に引き上げ力が少なく引き上げ距離の大きなフラッパー弁の軸体から近い側の第2引き上げ部材でフラッパー弁を引上げることにより、従来より受圧面積の大きいフラッパー弁を用いても引き上げ部材を操作する電動モーターのトルクを増加させることなく従来の引き上げ距離でフラッパー弁を開弁させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明に係る洗浄水タンク装置の実施形態を説明する。
【0011】
図1は本発明の第1の実施の形態にかかる洗浄水タンク装置を示す断面図である。図2は図1の便器用洗浄水タンク装置50の排水弁が開閉する前状態を説明する説明図である。
図1において、洗浄水タンク装置50は二本の引き上げ部材としての玉鎖で弁体を引上げることで電動モーターの負荷トルクを軽減させるものであり、洗浄水を貯える樹脂によって形成されたタンク本体140には、洗浄水の排水弁装置20が設けられており、この排水弁装置20は、下部に排水口23を有するオーバーフロー管22と、この排水口23を開閉するフラッパー弁21を有しており、このフラッパー弁21をオーバーフロー管22の周面に設けられた軸体22aに回動可能に取り付ている。フラッパー弁21は、排水口23の周面に当接して排水口23を閉止する弁体本体部21cと、この弁体本体部から軸体22aに向かって延びた一対の脚部21dとから構成されている。弁体本体部21cと脚部21dとは軟質樹脂によって一体に形成されている。また、このタンク本体140の上部には開弁操作装置10が設けられており、この開弁操作装置10とフラッパー弁21とを連結する第1玉鎖30aと第2玉鎖30bとを備えている。
【0012】
タンク本体140の上部には、このタンク本体140内の水位に応じて給水動作を行なうボールタップ(図示せず)が設けられている。このボールタップは、周知の構成であり、すなわち、水道管に接続された給水弁と、タンク本体140の水位に応じて上下動して上記給水弁を開閉するフロートとを備え、タンク本体140内の洗浄水の水位が低下したときにフロートが下降することにより給水弁を開き、一方、タンク本体140内への給水により水位が上昇したときにフロートが上昇することにより給水弁を閉じ、これにより、タンク本体140内を所定の水位状態に維持するものである。
【0013】
また、上記フラッパー弁21は、水没状態であっても閉弁する方向へ付勢されるように構成される。つまり、弁体本体部21cの内部に形成された空洞部21eと、弁体本体部21cの自体及び錘重21fにより水より比重を大きくしている。なお、比重の調整に限らず、スプリングで閉弁方向に付勢力を加えて閉弁するように構成することもできる。
【0014】
さらに上記フラッパー弁21の弁体本体部21cには、第1玉鎖30aを接続させるための突起21aと第2玉鎖30bを接続させるための突起21bを備えている。突起21aはフラッパー弁21の弁体本体部21cの中心線CLから軸体22aに対して遠ざかる側に設置されている。突起21bはフラッパー弁21の中心線CLより軸体22aに近い側に設置されている。なお、この中心線CLは、弁体本体部21cのシート面の中心、即ち、排水口23と当接する円の中心を通る法線である。
【0015】
タンク側壁部141の上部には上記開弁操作装置10が設けられている。この開弁操作装置10はケース本体11と、このケース本体11に回動自在に設置されたスピンドル12と、スピンドル12の先端に枢着されたレバー14と、スピンドル12とレバー14に嵌挿してレバー14をスピンドル12に拘止するためのピン13を備えている。
このケース本体11には、DCモーターと減速ギア列とが収納されており、図示しないリモコンからの信号に基づいてDCモータが回転し、その回転を減速ギア列によってトルクを高めてスピンドルに伝達する。そして、このスピンドル12の回転軸としてレバー14が回動する。
【0016】
上記レバー14のスリット14aには第1玉鎖30aと第2玉鎖30bが装着されており、レバー14が回動することにより、第1玉鎖30aと第2玉鎖30bとが引き上げられる。
【0017】
次に洗浄水タンク装置50の一連の排水動作について説明する。いま、図2に示すようにフラッパー弁21が閉じている状態にあるとする。この状態で第2玉鎖30bは第1玉鎖30aに比べて緩んでいる。具体的には、第1玉鎖30aと第2玉鎖30bとは同じ長さであるが、フラッパー弁21が突起21aが突起21bに比べて低くなるように傾斜しており、また、レバー14のスリット14aから図2の紙面左右方向における距離も突起21aが突起21bに比べて長いことから、第1玉鎖30aに比べて第2玉鎖30bが緩んだ状態である。なお、この図2のフラッパー弁21が閉じている状態においては、第1玉鎖30aも僅かに緩んでいるように設計されている。
【0018】
この状態から洗浄するために開弁操作装置10を作動させる。上述したように、ケース本体11に内蔵されたDCモータが作動するとスピンドル12が回転し、それに伴いレバー14も同方向に回転する。レバー14が回転することによりレバー14先端が上方に持ち上がることに伴って玉鎖30aと玉鎖30bも同時に引上げられる。先に玉鎖30aが緊張状態になり突起21aを持上げることで弁体部材21が持上がり開弁する。この時突起21aは軸体22aから外側にある突起なので、幾何学的理由により、軸体22aから内側の突起である突起21bを持ち上げてフラッパー弁21を引上げる場合よりもレバー14の引上げ荷重は少なくてすむ。
【0019】
さらにレバー14を回転させると第2玉鎖30bが緊張状態に達し、突起21bが持上がろうとする。この瞬間、突起21aと突起21bは同時に上方に引上げられる(図3参照)。
さらにレバー14を回転させると第2玉鎖30bの緊張状態を持続し、第1玉鎖30aは緊張状態から緩和状態になる(図4参照)。その瞬間から突起21aの上方からの引き上げ力がなくなり、突起21bにのみ引き上げ力がかかる。すなわち第2玉鎖30bでのみでフラッパー弁21を引上げている状態になる。一般に排水弁装置20が大気中に存在する場合、幾何学的にみて軸体22aに近い突起21bを引上げてフラッパー弁21を持上げることは突起21aを引上げてフラッパー弁21を持上げる時よりも引き上げ荷重がかかってしまう。
しかし、実際には、排水弁装置20は水中に没しているため、フラッパー弁21には上方から水圧が弁上面にかかっているので、大気中にある場合よりも開弁させるのに引き上げ荷重が必要になるが、一度開弁してしまえばフラッパー弁21の上面と下面の圧力差が減少し、大気中よりも大きな浮力が作用するので、突起21bを引上げる場合でも開弁させることが可能である。
【0020】
図5は本発明の第二の実施の形態にかかる便器用洗浄水タンク装置60を示す断面図である。図5において便器用洗浄水タンク装置60は図1の開弁操作装置10と排水弁装置20を備えている点が共通であり、二股玉鎖である玉鎖30を用いた点が異なっている。このように、玉鎖30は途中で第1玉鎖30aと第2玉鎖30bとに分岐されており、そのため、レバー14に対する取付け箇所が一箇所ですむため、取付け作業が簡単である。
【0021】
図6は本発明の第三の実施の形態にかかる便器用洗浄水タンク装置70を示す断面図である。図6において便器用洗浄水タンク装置70は第2玉鎖30bを玉鎖係止部30cを用いて第1玉鎖30aの任意の部分に設置する事により玉鎖30bの緩みを自在に調節できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一の実施の形態にかかる便器用洗浄水タンク装置50を示す断面図。
【図2】便器用洗浄水タンク装置50の排水弁が開弁する前状態を説明する説明図。
【図3】便器用洗浄水タンク装置50の排水弁の開弁途中を説明する説明図。
【図4】便器用洗浄水タンク装置50の排水弁が開弁した状態を説明する説明図。
【図5】本発明の第一の実施の形態にかかる便器用洗浄水タンク装置60を示す断面図。
【図6】本発明の第一の実施の形態にかかる便器用洗浄水タンク装置70を示す断面図。
【図7】特許文献1の便器用洗浄水タンク装置160を示す断面図。
【符号の説明】
【0023】
10…開弁操作装置
11…ケース本体
12…スピンドル
13…ピン
14…レバー
14a…スリット
20…排水弁装置
21…フラッパー弁
21a…突起部
21b…突起部
21c…弁体本体部
21d…脚部
21e…空洞
21f…錘重
22…オーバーフロー管
22a…軸体
23…排水口
30…二股玉鎖
30a…第1玉鎖
30b…第2玉鎖
30c…玉鎖係止部
50…便器用洗浄水タンク装置
51…ケース本体
52…操作ハンドル
53…スピンドル部
60…便器用洗浄水タンク装置
70…便器用洗浄水タンク装置
120…弁装置
121…フラッパー弁
121a…軸体
130…玉鎖
140…タンク本体
141…タンク側壁部
160…便器用洗浄水タンク装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水を貯留する洗浄水タンクと、
この洗浄水タンクの底部に配設した排水口を開閉する弁体本体部とこの弁体本体部から延びた腕部とを有するフラッパー弁と、
前記腕部を回動自在に支持する軸体と、
前記フラッパー弁に一端部を係止して、このフラッパー弁を前記軸体を中心に上方に引き上げるための可撓性を有する引き上げ部材と、
この引き上げ部材を引き上げ移動する、電動モーターによって駆動される開弁操作装置と、
を備えた洗浄水タンク装置において、
前記引き上げ部材は、前記弁体本体部の中心から前記軸体に対して遠ざかる側に係止した第1引き上げ部材と、前記弁体本体部の中心から前記軸体に近づく側に係止した第2引き上げ部材と、から構成され、
前記第1引き上げ部材及び第2引き上げ部材の他端部が前記開弁操作装置に連繋されており、
前記フラッパー弁の開弁開始においては、前記第1引き上げ部材は引張り状態で、前記第1引き上げ部材は弛緩状態で、その後全開弁までの間に、前記第1引き上げ部材が弛緩状態で、前記第2の引き上げ部材が引張り状態となるように、前記第1引き上げ部材および第2引き上げ部材の長さを設定していることを特徴とする洗浄水タンク装置。
【請求項2】
前記引き上げ部材を玉鎖で構成し、前記第1引き上げ部材と前記第2引き上げ部材の何れかに一方に他方を着脱自在に係止する玉鎖係止部を配設して、この玉鎖係止部の係止位置を調節することで、前記第1引き上げ部材と前記第2引き上げ部材の相対長さを調整可能であることを特徴とする請求項1に記載の洗浄水タンク装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−308908(P2007−308908A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137364(P2006−137364)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】