説明

洗浄水吐出装置及びこれを備えた水洗便器

【課題】薬剤タンクを洗浄水流路から離れた位置に設置した場合でも、薬剤タンクから洗浄水流路に至る経路内での薬剤の詰まりをなくすことができ、薬剤タンクの設置場所に制約を受けないようにしながら微量の液体薬剤を洗浄水中に安定供給でき、薬剤の詰まりによるメンテナンスを不要にすること。
【解決手段】液体薬剤を溜める薬剤タンク8と、両端が薬剤タンク8に接続された循環経路5と、循環経路5内の液体薬剤を循環経路5内に循環させる循環ポンプ7と、上記循環経路5から分岐して洗浄水流路3内に連通する分岐経路6とを備え、上記循環経路5内を循環する液体薬剤を分岐経路6を経て洗浄水流路3内に供給するための薬剤供給手段を設けた洗浄水吐出装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水中に液体薬剤を混合した薬剤混合洗浄水を吐出口から吐出させる洗浄水吐出装置及びこれを備えた水洗便器に関し、詳しくは、液体薬剤を溜める薬剤タンクの設置場所の制約をなくしながら薬剤混合洗浄水の安定した供給を可能にしようとするための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、便器本体の後部に、リム給水の洗浄水流路に連通してリム給水と共に薬剤を吐出する薬剤タンクを設置し、洗浄水流路をリム給水開閉弁にて開閉すると共に薬剤タンクから洗浄水流路に至る経路を薬剤吐出弁にて開閉することで、リム給水によるボウル部の前洗浄、ジェット給水による汚水排出、及びリム給水によるボウル部の封水などの各洗浄行程を行なう水洗便器装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところが上記特許文献1に示された従来例では、薬剤タンク内の薬剤を洗浄水流路内の負圧によって薬剤タンクから液体薬剤を吸引して洗浄水に添加するものであるから、例えば、薬剤タンクを洗浄水流路から遠くに離して設置した場合は、薬剤タンクから洗浄水流路に至る経路が長くなり、経路内に薬剤が残留し、この残留した薬剤が粘性によって固まり、経路内が詰まりやすくなることによって、その後の便器洗浄時の洗浄水吐出ができなくなり、メンテナンスが必要になるという問題がある。このため従来では薬剤タンクの経路を短くして薬剤タンクを洗浄水流路に近い位置に設置しなければならず、薬剤タンクの設置場所に制約を受けるものであった。
【0004】
他の従来例として、固形薬剤を水中に浸漬した薬剤溶解タンクから流れ落ちる液体薬剤をバイパス管内を通して洗浄排水管に供給するようにした小便器用の洗浄液の自動供給装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ところが上記特許文献2に示された従来例では、バイパス管内に残留した薬剤がバイパス管内で固まって詰まりやすく、洗浄排水管に供給できなくなるという問題があり、しかも薬剤タンクから薬剤を流し落とす方式であるため、薬剤タンクを高所に設置しなければならないという制約もあった。
【特許文献1】特開平5−214757号公報
【特許文献2】特開2002−256284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、薬剤タンクを洗浄水流路から離れた位置に設置した場合でも、薬剤タンクから洗浄水流路に至る経路内での薬剤の詰まりをなくすことができ、薬剤タンクの設置場所に制約を受けないようにしながら微量の液体薬剤を洗浄水中に安定供給でき、メンテナンスが不要な洗浄水吐出装置及びこの洗浄水吐出装置を備えた水洗便器を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明に係る洗浄水吐出装置は、洗浄水流路3を流れる洗浄水中に液体薬剤を混合した薬剤混合洗浄水を吐出口2から吐出させる洗浄水吐出装置であって、液体薬剤を溜める薬剤タンク8と、両端が薬剤タンク8に接続された循環経路5と、循環経路5内の液体薬剤を循環経路5内に循環させる循環ポンプ7と、上記循環経路5から分岐して洗浄水流路3内に連通する分岐経路6とを備え、上記循環経路5内を循環する液体薬剤を分岐経路6を経て洗浄水流路3内に供給するための薬剤供給手段を設けたことを特徴としている。
【0008】
このような構成とすることで、薬剤タンク8を洗浄水流路3から離れた位置に設置した場合でも、液体薬剤を循環経路5内に循環させると共にこの液体薬剤を分岐経路6を経て洗浄水流路3内に供給することにより、薬剤タンク8から洗浄水流路3に至る経路内での薬剤の詰まりを防止でき、従って、薬剤タンク8からの微量の液体薬剤を洗浄水中に安定供給することが可能となる。
【0009】
また、上記循環ポンプ7が薬剤供給手段を兼ねていると共に、上記循環ポンプ7の出力を調整して、洗浄水流路3に送り出される液体薬剤の供給量を制御するためのポンプ制御手段を備えているのが好ましく、この場合、循環ポンプ7の出力調整によって洗浄水流路3に送り出される液体薬剤の供給量を制御でき、液体薬剤の微量調整が容易となる。
【0010】
また、上記薬剤タンク8は循環経路5から取り外し自在とされると共に、取り外した薬剤タンク8を再び取り付けた後に循環ポンプ7を自動的に駆動して循環経路5内に液体薬剤を満たすと共に満たした後に循環ポンプ7を自動的に停止することで、薬剤混合洗浄水の吐出動作を可能にする待機状態で保持する初期設定モードを有するのが好ましく、この場合、使用者が循環経路5から薬剤タンク8を取り外して液体薬剤を補充した後、薬剤タンク8を再び取り付けたときに初期設定モードが実行され、循環ポンプ7を自動的に駆動して循環経路5内に液体薬剤を循環させることで循環経路5内に液体薬剤が満たされた状態とし、所定時間後に循環ポンプ7を自動的に停止させる。これにより、薬剤供給の迅速な立ち上がり動作が可能な待機状態に復帰させることができる。
【0011】
また、上記分岐経路6から液体薬剤が混入される洗浄水流路3部分の流路断面積を、他の流路部分の流路断面積よりも絞った小径部24とするのが好ましく、この場合、小径部24において洗浄水により発生する負圧力が大きくなるので、この大きな負圧を利用して、分岐経路6から洗浄水流路3内に液体薬剤を吸引できるようになる。つまり、循環ポンプ7の出力と洗浄水流路3内の負圧とによって、液体薬剤を洗浄水流路3内に安定供給できるようになるので、循環ポンプ7の低出力化によって運転コストを節約できると共に循環ポンプ7の小型化が可能となる。
【0012】
また、本発明の上記洗浄水吐出装置を備えた水洗便器は、上記洗浄水吐出装置1を便器本体10内のボウル部11外部に設置すると共に、洗浄水吐出装置1の吐出口2をボウル部11内面に臨ませて配置してなることを特徴としている。
【0013】
このような構成とすることで、高い洗浄能力に加えて、薬剤タンク8の設置場所に制約を受けず、しかも液体薬剤を常に安定供給できる洗浄水吐出装置1を、外部から目に触れない場所で且つ水のかからない場合に設置できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、循環ポンプにより液体薬剤が循環経路内に循環しながら薬剤供給手段により液体薬剤を分岐経路を経て洗浄水流路内に供給することにより、薬剤タンクを洗浄水流路から離れた位置に設置した場合でも、薬剤タンクから洗浄水流路に至る経路内で薬剤が詰まることがなくなり、結果、薬剤タンクの設置場所に制約を受けないようにしながら、微量の液体薬剤を洗浄水中に安定供給できる洗浄水吐出装置をできるものである。
【0015】
また本発明は、高い洗浄能力に加えて、薬剤タンクの設置場所に制約を受けず、しかも液体薬剤の詰まりによるメンテナンスが不要な洗浄水吐出装置を備えた水洗便器を提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0017】
図1は本発明の洗浄水吐出装置1を備えた水洗便器の一例であり、合成樹脂製の便器本体10で主体を構成してある。
【0018】
便器本体10のボウル部11の下部には、後方に向けて排水筒部12を突設してあり、該排水筒部12からトラップを介してボウル部11内の溜水を排水できるようになっている。本例のトラップはターントラップ方式のもので、排水筒部12に接続したフレキシブルなトラップ筒9により構成してあり、ターントラップ用モータ31(図8)によりアーム部材15を回動させてトラップ筒9を上向きU字状となるトラップ構造の状態(図10の実線の状態)と、下向き逆L字状となってトラップ構造が解除される状態(図10の仮想線の状態)とを選択できるようになっており、通常はトラップ筒9が上向きU字状となったトラップ構造となっていてボウル部11内の下部、排水筒部12、トラップ筒9内に水が溜まった状態となっていて、この状態で大便や小便を行い、大便や小便が終わると、後述のように洗浄水吐出装置1の吐出口2から気泡混合洗浄水を流すと共に、トラップ筒9を回動してトラップ構造を解除する図10の仮想線の状態として、汚物と共に汚水を排水するようになっている。
【0019】
図2、図3は洗浄水吐出装置1の外観説明図であり、図4は断面図である。洗浄水吐出装置1は、図1に示すように、便器本体10の後部に設けた機器収納部14に内装されており、洗浄水流路3内に洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、洗浄水中に空気を吸引混入させる空気混入手段と、洗浄水に液体薬剤を供給する薬剤供給手段と、気泡混合洗浄水又は薬剤混合洗浄水のいずれかを吐出する吐出口2とを備えている。吐出口2から洗浄水に気泡を混入した気泡混合洗浄水、又は、気泡混合洗浄水に液体薬剤を混入して得た薬剤混合洗浄水のいずれか一方を選択的にボウル部11内面に吐出し、これによりボウル部11内面を洗浄するものである。
【0020】
洗浄水供給手段は、例えば水道管に直結される洗浄水流路3の上流に設けた電磁弁からなる給水制御弁16(図1)で構成され、この給水制御弁16はボウル部11への洗浄水の吐水動作時に開くように制御される。洗浄水流路3に洗浄水を供給する手段としては水道圧を利用する。洗浄水流路3の下流側端端にはボウル部11の上端部後方に配設されてボウル部11内に臨む吐出口2を設けてある。
【0021】
ここで、洗浄水流路3の下流側は、図4に示すように、先端にいくほど流路断面積を徐々に小さくする先細形状に形成されたノズル管21と、ノズル管21の先端部が挿入される横管状のエジェクタ管22と、吐出口2とで構成されている。エジェクタ管22は、上流(図4の左側)で流路断面積が大きく、下流(図4の右側)にいくほど流路断面積を徐々に小さくする上流大径部23と、経路径を絞った小径部24と、小径部24の下流(図4の右側)にいくほど流路断面積を徐々に大きくする下流大径部25とが、上流から下流に向かってこの順に形成されており、上流大径部23の流路部分が空気混入部23aとなっており、小径部24の流路部分が薬剤混入部24aとなっており、小径部24から下流大径部25に至る流路部分が気泡発生部25aとなっている。この気泡発生部25aは、上流から流れてきた気泡混合洗浄水を加圧・減圧して圧力を変化させることで、洗浄水に含まれる気泡を剪断して微小化する。なおエジェクタ管22の下流側には、洗浄水を気泡を更に細分化する気泡細分化手段として気泡をせん断するメッシュで構成した整流板50を設けてある。
【0022】
空気混入手段は、洗浄水流路3の空気混入部23a(エジェクタ管22の上流大径部23)に外部から空気を供給するためのものであり、一端が外気に開放され、他端が空気混入部23a内に開放された空気供給路26(図2)の途中に吸気弁17(図1)が設けられて構成されており、ノズル管21の先端からエジェクタ管22内に流れ込む洗浄水によって空気混入部23a内に負圧が発生し、このエジェクタ効果によって吸気弁17が開弁して外部からの空気が空気供給路26を介して洗浄水中に吸引混入され、洗浄水に空気が混入した気泡混合洗浄水が生成される。図4の例では、空気混入部23aはノズル管21の先端部よりも大径に形成してあり、これにより空気混入部23aは、ノズル管21の先端部近傍において洗浄水の流れにより大きな負圧発生部となっている。
【0023】
上記洗浄水吐出装置1は、液体薬剤を溜める薬剤タンク8と、両端が薬剤タンク8に接続された循環経路5と、循環経路5内に液体薬剤を循環させる循環ポンプ7と、循環経路5から分岐して洗浄水流路3内に連通する分岐経路6とを備えている。
【0024】
薬剤タンク8は、図1に示すように、機器収納部14の仕切り部13よりも下方の下部空間14bに収納されており、洗浄水吐出装置1の他の構成部品(循環ポンプ7、分岐経路6、給水制御弁16、洗浄水流路3等)は上方の上部空間14aに収納されている。
【0025】
上部空間14aから下部空間14bにまたがって循環経路5が配置されている。循環経路5の両端5a,5bはそれぞれ下部空間14bに延びていて、その両端にそれぞれ接続された2本のタンク挿入管27a,27bが薬剤タンク8内に挿入されていて、各タンク挿入管27a,27bの下端がタンク底壁近くに達している。例えば図11に示すように、薬剤タンク8の上端面の接続口に嵌め込まれる接続部材28を介して2本のタンク挿入管27a,27bと循環経路5の両端5a,5bとが各々取り外し可能に接続されており、薬剤タンク8内に液体薬剤を補給する際は例えば循環経路5の両端5a,5bを接続部材28から取り外すことで、薬剤タンク8を循環経路5の両端5a,5bから取り外し可能となり、便器本体10の外面部分に設けたカバー(図示せず)を取り外すことで、便器本体10外部に薬剤タンク8を取り出すことができ、キヤップ29付き薬剤投入口30から液体薬剤を投入可能となっている。なお液体薬剤として、例えば、界面活性剤を含む洗剤、或いは芳香剤などの水溶液が挙げられる。
【0026】
上記循環経路5の上部空間14aに配置される部分の途中には、図1に示すように、循環ポンプ7が介在されている。循環ポンプ7は、薬剤タンク8内の液体薬剤をタンク挿入管27a,27bの一方から循環経路5内に吸い出して、他方から薬剤タンク8内に戻すことにより、液体薬剤を循環経路5内に循環させる働きをする。
【0027】
さらに上記循環ポンプ7の吐出側には、循環経路5の途中から分岐した分岐経路6の一端が分岐している。分岐経路6の一端は小径の孔部で構成してあり、分岐経路6の他端は洗浄水流路3の薬剤混入部24a(エジェクタ管22の小径部24)に臨ませて配置されている。循環ポンプ7により循環経路5を循環する液体薬剤の少量が分岐経路6を経て洗浄水流路3に供給される。この分岐経路6の先端には例えば電磁弁からなる開閉弁18(図8)が設けてあり、開閉弁18を開くことで洗浄水流路3内への液体薬剤の供給可能な状態となり、閉じることで液体薬剤が洗浄水流路3内に漏れるのを防止できるようになっている。
【0028】
本例の循環ポンプ7は、薬剤タンク8内に溜められた液体薬剤を循環経路5に循環させる機能に加えて、循環経路5内の液体薬剤を分岐経路6を経て洗浄水流路3内に供給するための薬剤供給手段としても機能する。つまり、循環ポンプ7は薬剤供給手段を兼ねており、循環ポンプ7の出力はポンプ制御手段である制御部20(図8)により制御され、循環ポンプ7の出力を調整することで洗浄水流路3に送り出される液体薬剤の供給量を調整できるようにしている。
【0029】
図8に示す制御部20は、循環ポンプ7、給水制御弁16、ターントラップ用モータ31、分岐経路開閉弁18をそれぞれ制御するマイクロコンピュータにより構成されている。例えば洗浄スイッチ32を操作する等して便器洗浄指令が制御部20に送信されると、制御部20は後述する洗浄水吐出モードと、薬剤混合洗浄水吐出モードとを実行してボウル部11の洗浄を行ない、また薬剤タンク8の液体薬剤補給後に後述の初期設定モードを実行して、薬剤混合洗浄水吐出モードの迅速な立ち上がり可能な状態に復帰させるものである。
【0030】
次に水洗便器の洗浄動作を図9を参照して説明する。
【0031】
使用者が洗浄スイッチ32(図8)をオンにして便器洗浄開始指令を出すと制御部20は洗浄水吐出モードを実行する。洗浄水吐出モードの前半は気泡混合洗浄水のみを吐出し、洗浄水吐出モードで所定時間運転した後半には薬剤混合洗浄水吐出モードを開始して、微小気泡と液体薬剤とが混入された薬剤混合洗浄水を吐出する。以下、具体的に説明する。
【0032】
洗浄開始前は、開閉弁18を閉じ循環経路5と洗浄水流路3との連通を遮断すると共に循環ポンプ7は停止した待機状態で保持されている。洗浄スイッチ32を押すと洗浄水吐出モードが実行され、給水制御弁16を一定時間(図9のt1→t6)開いて、水道配管から洗浄水流路3に洗浄水を供給する。このとき洗浄水流路3の空気混入部23a(エジェクタ管22の上流大径部23)を流れる洗浄水のエジェクタ効果により、吸気弁17が開いて外部から空気が洗浄水中に吸引混入される。ここで洗浄水中に混入された空気は、洗浄水流路3の気泡発生部25a(エジェクタ管22の小径部24から下流大径部25に至る領域)を通る際に流速が速くなるとともに減圧されて膨張し、さらに下流側の大径部において洗浄水流路3の流路断面積が増加するに従って加圧されて収縮するが、この時に生じるせん断力によって分割されて例えば3〜5mmの気泡が洗浄水中に混入されて吐出口2から気泡混合洗浄水として吐出される。この気泡混合洗浄水はボウル部11の上部内面に略水平に吐出されることで内面に沿って周回しつつ汚れを洗い落としていく。このとき洗浄水中に含まれる気泡がmmオーダーと大きく、ボウル部11内面に衝突した際に発生する高周波振動の惹起による気泡混合洗浄水自体の高い洗浄力によりボウル部11内面を効率良く洗浄できる。つまり、mmオーダーの気泡は破裂しやすくてよりボウル部11内面を効率良く洗浄できる結果、洗い流し効果が良好となり、水洗便器の汚水排出機能が強化される。
【0033】
その後、図9の時刻t2でターントラップ用モータを駆動させてターントラップを上方位置から下方位置に回転させることで汚水排出を行ない、図9の時刻t3で再びターントラップ用モータを駆動させてターントラップを上方位置に復帰させて、以後ボウル部11内に洗浄水が溜められる状態を維持する。
【0034】
この段階で薬剤混合洗浄水吐出モードを実行する。図9の時刻t4で開閉弁18を開くと同時に循環ポンプ7が駆動して、循環経路5内に液体薬剤を循環させる。このとき循環ポンプ7の圧力と洗浄水流路3の薬剤混入部24a(エジェクタ管22の小径部24)を通過する洗浄水により発生する負圧とによって、循環経路5を循環する液体薬剤が循環経路5から分岐した分岐経路6を経て洗浄水流路3の薬剤混入部24a内に吸引されて洗浄水中に混入される。液体薬剤として界面活性剤を用いた場合は、洗浄水中に界面活性剤が混入すると、水の表面張力は低下し、洗浄水流路3の気泡発生部25a(エジェクタ管22の下流大径部25)においてせん断力、衝撃波などの外力が作用することによって、気泡がより微小化される。つまり、薬剤によって気泡同士がくっつきにくい状態となるため、50〜60μmの微小気泡を含む薬剤混合洗浄水が生成されるようになり、この薬剤混合洗浄水が吐出口2から吐出してボウル部11内に溜水として溜められていく。このように薬剤混合洗浄水吐出モードにおいて吐出口2から吐出される薬剤混合洗浄水に含まれる気泡の径を微小化することで、ボウル部11内面において溜水の水面と接する喫水線部分に、界面活性剤を含む薬剤混合洗浄水で界面を形成した防汚効果の高いμオーダーの微小泡を付着させることができ、またこの微小泡は破裂し難くて長時間、ボウル部11内に滞留、浮遊してボウル部11内面に付着させることができ、これらによりボウル部11内面、特に喫水線部分を清潔にできる。
【0035】
その後、図9の時刻t5で薬剤混合洗浄水吐出モードが終了して、循環ポンプ7が停止すると共に開閉弁18が閉じることによって、洗浄水流路3内への薬剤供給が停止する。その後、図9の時刻t6で洗浄水吐出モードが終了して給水制御弁16が閉じられて洗浄水の供給が停止する。
【0036】
しかして、薬剤タンク8が洗浄水流路3から離れた位置、本例では便器本体10後方の機器収納部14の下部空間14bに設置されている場合であっても、循環ポンプ7により液体薬剤を循環経路5内に循環させることにより、薬剤タンク8から洗浄水流路3に至る経路4(循環経路5,分岐経路6)内での薬剤の詰まりを防止できるようになる。しかも循環経路5を洗浄水流路3の真上位置付近まで延ばすことができるので、循環経路5と洗浄水流路3とを上下につなぐ分岐経路6の長さを短くでき、分岐経路6内で薬剤の残留による詰まり防止にも効果的となる。しかも本例では、洗浄水吐出モードの終了時よりも早い時点で薬剤混合洗浄水吐出モードが終了する。つまり液体薬剤の供給停止後に所定時間(図9の時刻t5→t6の間)、給水制御弁16は開放されているので、洗浄水流路3内に液体薬剤が残留することがないので、洗浄水流路3内での薬剤の詰まりも防止できるようになる。この結果、液体薬剤を溜める薬剤タンク8の設置場所の制約をなくしながら、循環ポンプ7の駆動開始と同時に微量の液体薬剤を迅速且つ定量的に洗浄水流路3内に常に安定供給できると共に気泡混合洗浄水又は薬剤混合洗浄水を吐出口2から常に安定して吐出させることができるものである。
【0037】
また本例の循環ポンプ7は、薬剤タンク8内に溜められた液体薬剤を循環経路5に循環させると共に循環経路5内の液体薬剤を分岐経路6を経て洗浄水流路3の薬剤混入部24a内に供給するので、循環ポンプ7は薬剤供給手段も兼ねる構造となり、薬剤供給手段を別途設ける必要がないものであり、しかも、循環ポンプ7の出力調整によって洗浄水流路3に送り出される液体薬剤の供給量を制御できるので、液体薬剤の微量調整が容易となる。
【0038】
また、ボウル部11に吐出される気泡混合洗浄水中には多数のmmオーダーの気泡が混入しているので、水だけの場合と比較して良好な洗い流し効果が得られると同時に、使用水量が少なくて済み、高い節水効果が得られるものであり、さらに、薬剤混合洗浄水では多数のμオーダーの微小気泡と薬剤とが分散混入されるので、洗浄水中への薬剤の均一分散化が図られ、より安定した洗浄効果が得られるようになる。そのうえ分岐経路6の先端に開閉弁18を設けたことにより、循環ポンプ7の駆動を停止後に、洗浄水流路3内の負圧がかかっても液体薬剤が洗浄水流路3内に漏出するのを開閉弁18を閉じることによって防止できるので、液体薬剤の無駄な消費も抑えることができる。
【0039】
また本例では、薬剤タンク8は図11に示すように、循環経路5の両端5a,5bから取り外し自在とされており、薬剤を補給する際は、使用者が循環経路5から薬剤タンク8を取り外して液体薬剤を補充し、その後、取り外した薬剤タンク8を再び取り付けたときに、例えばリミットスイッチからなるタンク検知センサー33(図8)が薬剤タンク8を検知して検知信号を制御部20に送るようになっている。制御部20は検知信号が送られると初期設定モードを実行して、循環ポンプ7を自動的に駆動して循環経路5内に液体薬剤を循環させることで循環経路5内に液体薬剤が満たされた状態とし、所定時間後に循環ポンプ7を自動的に停止させる。これにより、薬剤混合洗浄水吐出モードの迅速な立ち上がり動作が可能な待機状態に復帰させることができる。
【0040】
上記実施形態では、循環ポンプ7の出力を調整することで循環ポンプ7が薬剤供給手段を兼ねる場合を説明したが、本発明の他の実施形態として、循環ポンプ7の出力を低くして、洗浄水流路3内を流れる洗浄水によって発生する負圧を利用して薬剤供給を行なうことも可能である。図4に示す例では、洗浄水流路3内の薬剤混入部24aはエジェクタ管22の最も絞った小径部24にて構成されているので、薬剤混入部24aを流れる洗浄水が発生させる負圧が大きくなり、この大きな負圧を利用して液体薬剤を洗浄水流路3内に吸引することができる。つまり、循環ポンプ7の出力を液体薬剤を分岐経路6から洗浄水流路3内に送り出す高出力としない場合でも、循環経路5内を循環する液体薬剤は、洗浄水流路3内に発生する負圧によるエジェクタ効果だけで洗浄水流路3内に吸引されるようになる。従ってこの場合、循環ポンプ7の出力と洗浄水流路3内の負圧とによって、液体薬剤を洗浄水流路3内に安定供給できるようになり、循環ポンプ7の低出力化によって運転コストを節約できると共に、循環ポンプ7の小型化が可能となり、ひいては循環ポンプ7を内蔵する便器本体10の小型化が可能となる。
【0041】
また本例の水洗便器においては、上記構成の洗浄水吐出装置1を便器本体10のボウル部11後方に設けた機器収納部14に組み込んだものであり、外部から目に触れない場所で且つ水のかからない場合に洗浄水吐出装置1を収納でき、外観上の納まりが良好となると共に、循環ポンプ7駆動のための特別の電源を必要とする場合でも、便器本体10に内蔵することで、トイレ室内における水濡れや高い湿度による漏電事故を回避でき、実使用上、好ましいものとなる。
【0042】
前記実施形態では、分岐経路6の開閉弁18として電磁弁を用いた場合を説明したが、他例として、弾性変形可能なゴムのような部材で形成した開閉弁19を用いることも可能である。図4〜図7にその一例を示している。本例では図7に示すように、洗浄水流路3の薬剤混入部24aを構成するエジェクタ管22の小径部24から上方に向けて、分岐経路6を構成する筒部40を一体に突設してあり、筒部40の下端には小径部24内と連通するスリット状の連通孔41を形成している。筒部40の上端は循環経路5内に連通している。
【0043】
筒部40の下部の内側には弾性変形可能なゴムのような部材で形成した開閉弁19を配設している。開閉弁19は、図7(a)に示すように、一端(上端)が開口した有底筒状の筒状部19aと、筒状部19aの底部から筒状部19aと反対方向(下方)に突設した薄片状の弁部19bを備えており、筒状部19aの外周面と筒部40の内周面はぴったりと密接して封止されている。
【0044】
開閉弁19には筒状部19aの内側と弁部19bの先端面(下端面)を連通させるスリット状孔19cを形成してあり、該スリット状孔19cは筒状部19aの軸方向(洗浄液の流れ方向)から見てスリット状に形成されている。スリット状孔19cは弁部19bの厚み方向の中央部に形成してあり、外力が加わっていない状態(図7(a)の状態)ではスリット状孔19cを閉じた状態で自己の形状を保持する。
【0045】
開閉弁19の薄片状の弁部19bの先端部は、前述のエジェクタ管22の小径部24に形成した連通孔41内に挿入され、該開閉弁19のスリット状孔19cの弁部19b先端側の開口は小径部24内(即ち洗浄水流路3の薬剤混入部24a内)に臨んでいる。また筒部40において弁部19bに対向する部分には筒部40内の開閉弁19の弁部19b外側に形成された空間を外部に連通させる貫通孔42(図5)を設けている。これにより開閉弁19がスリット状孔19cを閉じた図7(a)の状態では、洗浄水流路3の薬剤混入部24aは、開閉弁19の弁部19bの先端部と連通孔41の内周面との間に形成された隙間43、空間44、貫通孔42を順に介して外部に連通することとなり、これら隙間43、空間44、貫通孔42で洗浄水流路3の薬剤混入部24aを大気に開放させる大気開放路が構成される。
【0046】
上記開閉弁19は、薬剤混合洗浄水吐出モード時においては、図7(b)に示すように循環ポンプ7の圧力と洗浄水流路3の薬剤混入部24a(エジェクタ管22の小径部24)で発生する負圧により弁部19bがスリット状孔19cを開くように弾性変形するように設定してあり、これにより分岐経路6と洗浄水流路3とが連通して循環経路5内の液体薬剤が分岐経路6及び開閉弁19を経て洗浄水流路3内に供給される。またこの時、弾性変形した弁部19bの先端部の外周面が連通孔41の内周面に接して大気開放路を構成する隙間43(図7(a))を閉じるように設定してあり、該開閉弁19により大気開放路と外部の連通状態が遮断される。従って、この場合は循環ポンプ7の圧力に加えて洗浄水流路3の薬剤混入部24aで発生する負圧を利用して循環経路5内の液体薬剤(図7(b)のW)を分岐経路6から洗浄水流路3に確実に供給することができる。
【0047】
また循環ポンプ7が停止される洗浄水吐出モード時においては開閉弁19には循環ポンプ7の圧力がかからず、図7(a)に示すように開閉弁19は弁部19bがスリット状孔19cを閉じるように弾性復帰するように設定されており、これにより洗浄水吐出モードにおいては分岐経路6と洗浄水流路3の連通状態が遮断される。またこの時、弾性復帰した弁部19bの先端部と連通孔41の内周面との間には隙間43が形成され、大気開放路が形成され、洗浄水流路3の薬剤混入部24aが大気開放路を介して外部に連通することにより、薬剤混入部24aの負圧は低減する。従ってこの場合は、洗浄水流路3の薬剤混入部24aで発生する負圧により開閉弁19が弾性変形してスリット状孔19cが開くことが防止され、この結果、洗浄水吐出モード時において液体薬剤が洗浄水流路3に漏れ出すことが防止されている。また、電磁弁を用いた場合と比較して開閉弁19の構造を簡素化でき、低コスト化を図ることができる。
【0048】
本発明に係る洗浄水吐出装置1は、ターントラップ式水洗便器に限らず、サイフォンジェット式水洗便器、洗い落とし式水洗便器などにも同様に適用できる。さらに、水洗便器以外にも、泡洗浄を行なう食器洗浄器などにも広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態の洗浄水吐出装置を備えた水洗便器の断面図である。
【図2】同上の洗浄水吐出装置の斜視図である。
【図3】(a)〜(c)は同上の洗浄水吐出装置の平面図、正面図、側面図である。
【図4】同上の洗浄水流路を説明する正面断面図である。
【図5】同上の洗浄水流路を説明する平面断面図である。
【図6】図5のA―A線断面図である。
【図7】同上の開閉弁の変形例であり、(a)は開閉弁が閉じた状態を示し、(b)は開閉弁が開いた状態を説明する断面図である。
【図8】同上の制御部に関するブロック図である。
【図9】同上の洗浄水吐出モード及び薬剤混合洗浄水吐出モードを説明するタイムチャートである。
【図10】同上のターントラップの開閉を説明する図である。
【図11】同上の薬剤タンクと循環経路との取り外し可能に接続した状態を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 洗浄水吐出装置
2 吐出口
3 洗浄水流路
5 循環経路
6 分岐経路
7 循環ポンプ
8 薬剤タンク
10 便器本体
11 ボウル部
24 小径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水流路を流れる洗浄水中に液体薬剤を混合した薬剤混合洗浄水を吐出口から吐出させる洗浄水吐出装置であって、液体薬剤を溜める薬剤タンクと、両端が薬剤タンクに接続された循環経路と、循環経路内の液体薬剤を循環経路内に循環させる循環ポンプと、上記循環経路から分岐して洗浄水流路内に連通する分岐経路とを備え、上記循環経路内を循環する液体薬剤を分岐経路を経て洗浄水流路内に供給するための薬剤供給手段を設けたことを特徴とする洗浄水吐出装置。
【請求項2】
上記循環ポンプが薬剤供給手段を兼ねていると共に、上記循環ポンプの出力を調整して、洗浄水流路に送り出される液体薬剤の供給量を制御するためのポンプ制御手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の洗浄水吐出装置。
【請求項3】
上記薬剤タンクは循環経路から取り外し自在とされると共に、取り外した薬剤タンクを再び取り付けた後に循環ポンプを自動的に駆動して循環経路内に液体薬剤を満たすと共に満たした後に循環ポンプを自動的に停止することで、薬剤混合洗浄水の吐出動作を可能にする待機状態で保持する初期設定モードを有することを特徴とする請求項1又は2記載の洗浄水吐出装置。
【請求項4】
上記分岐経路から液体薬剤が混入される洗浄水流路部分の流路断面積を、他の流路部分の流路断面積よりも絞った小径部としたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の洗浄水吐出装置。
【請求項5】
上記請求項1乃至4のいずれか一項に記載の洗浄水吐出装置を便器本体内のボウル部外部に設置すると共に、洗浄水吐出装置の吐出口をボウル部の内面に臨ませて配置してなることを特徴とする水洗便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−163742(P2008−163742A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48008(P2008−48008)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【分割の表示】特願2006−324589(P2006−324589)の分割
【原出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】