説明

洗浄液

【課題】洗浄後の金型表面の発錆を抑える洗浄液を提供する。
【解決手段】脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、および、トリエステルの3種混合物とジメチルスルホキシドを含む洗浄液である。脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、およびトリエステルの混合比としては、好ましくは、モノエステル:ジエステル:トリエステル=30〜70:20〜60:1〜30、より好ましくは、モノエステル:ジエステル:トリエステル=40〜60:30〜50:2〜20である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液に関するものであり、特に、金型洗浄液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属を様々な形に加工する手法の一つとして鋳造法がある。鋳造法は、融解した金属を型に流し込んだ後、硬化させて取り出す手法である。様々な鋳造法があるが、例えば、樹脂と鋳物砂の硬化物を鋳型として用いる。
【0003】
樹脂と鋳物砂の硬化物を鋳型として用いる鋳造法は、まず樹脂と鋳物砂を混合したものを金型に流し込み、アミン類や熱等によって硬化させ、鋳型を形成する。次に鋳型を金型から取り外し、高温で融解させた金属を鋳型に流しこみ、金属が硬化した後、鋳型から金属を取り出す。
【0004】
鋳型の成形を繰り返し行うと、金型表面に樹脂と砂の硬化物が徐々に固着する。金型によっては極めて高い精度が必要なものもあるため、そのまま使用を繰り返すと、鋳型の品質に支障をきたすことから、固着物を頻繁に除去する必要がある。
【0005】
固着物除去にはハンマー、ブラシ、エアブラスト等の物理的方法を用いる方法や、適当な溶媒を用いて溶解または膨潤させて除去する方法、もしくはこの二つを組み合わせた方法等が用いられている。複雑な構造の金型では、自動洗浄による方法だけでは固着物の除去が困難である。そこで手作業による固着物の除去が必要になる場合もあり、手作業の時、人が洗浄液と接触する頻度が増すため、組成物は有害性が低いものが好ましい。また洗浄分野では有害性が懸念される溶媒は使用が控えられ、有害性の低い洗浄溶媒へ移行する傾向がある。
【0006】
ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと記載する場合がある)は、洗浄力、低有害性を同時に満たす溶媒であり、有害性の高い溶媒を用いる洗浄液の代替としての用途が広がりつつある。しかし、他の洗浄溶媒に比べると洗浄表面の材質によっては錆が生じる。微量の錆でも残ると鋳型に不良を生じ、また錆を落とすには工程を別途設けなければならず、その結果生産性が低下し、大きな問題になる。例えば、特許文献1では、DMSOとアニオン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤を含有する金型洗浄液が提案されているが、防錆効果は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−153542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、洗浄後の金型表面の発錆を抑える洗浄液を提供することにある。本発明は、特に、DMSOを主成分とした洗浄液であって、鋳型を取り外した金型に固着した樹脂と砂を除去する金型に最適な洗浄液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するため、本発明の洗浄液は下記の組成からなる。すなわち、脂肪酸グリセリルのうち、モノエステル、ジエステル、およびトリエステルの3種混合物とジメチルスルホキシドを含む洗浄液である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のDMSOを含有する洗浄液は、脂肪酸グリセリルのうち、モノエステル、ジエステル、およびトリエステルの3種混合物を添加することによって、従来のDMSOを主成分とする洗浄液に比べて、金型表面に付着した鋳物砂と樹脂の固着物を除去後、金型表面の発錆を抑制することができる。
【0011】
本発明の洗浄液は、特に、金属を鋳造法で加工する際に用いる鋳型の製造時に使用した金型の表面を効果的に洗浄することができる。さらに、本発明の洗浄液は、樹脂と鋳物砂の硬化物からなる鋳型を金型から離型する際に、金型表面に付着した鋳物砂と樹脂を除去すると同時に、金型表面の発錆を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、錆(図の黒い部分)が発生したテストピースの模式図である。
【図2】図2は、図1を上からみたものである。升目(20×20)で区切り、錆発生率を算出した
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、DMSOに脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、およびトリエステルの3種混合物を添加する金型洗浄液である。
【0014】
本発明で用いるDMSOの製造方法に特に制限はない。例えばDMSOはジメチルスルフィドの酸化によって得られる。
【0015】
脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステルは、脱水反応する部位によって一般式、
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Rは、脂肪酸グリセリルの脂肪鎖部位である。)
【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
(式中R,Rは、脂肪酸グリセリルの脂肪鎖部位であり、同一であっても良いし異なってもよい)が例示されるが、いずれの構造の組み合わせであってもよい。
【0022】
脂肪酸グリセリルのジエステル、トリエステルは、分子内でそれぞれの脂肪鎖部位が同一のものであってもよいし、異なっていてもよい。
【0023】
脂肪酸グリセリルの脂肪鎖部位の炭素鎖の炭素数は、好ましくは、12〜20である。炭素数が12より少ないと防錆効果が低下する場合がある。炭素数が20より多いと、DMSOに溶解しにくくなる場合がある。脂肪鎖部位の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等があげられる。これらの脂肪鎖は単体であってもよいし、モノエステル、ジエステル、およびトリエステルがそれぞれ異なる種類の脂肪鎖のエステルで構成されてもよい。また、脂肪酸グリセリルの脂肪酸部位の炭素鎖は直鎖であっても枝分かれしていてもよい。
【0024】
本発明で用いる脂肪酸グリセリルは、より好ましくは、モノオレイン酸グリセリル,ジオレイン酸グリセリル,トリオレイン酸グリセリルである。
【0025】
本発明で用いる脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、および、トリエステルの混合物の製造方法は特に制限はない。例えば酸性条件下、脂肪酸とグリセリンの脱水反応によるエステル化によって脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、およびトリエステルの混合物を得ることができる。
【0026】
脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、およびトリエステルの混合比としては、好ましくは、モノエステル:ジエステル:トリエステル=30〜70:20〜60:1〜30、より好ましくは、モノエステル:ジエステル:トリエステル=40〜60:30〜50:2〜20である。防錆効果の検討から、この3成分の混合比の内、ひとつでも0の場合は、防錆効果が低下する。
【0027】
脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、およびトリエステルの3種混合物の洗浄液中の含有量は、好ましくは、0.1〜5.0重量%、より好ましくは、0.5〜3.0重量%である。脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、およびトリエステルの3種混合物の含有量が0.1重量%より少ないと防錆力が弱くなる場合がある。5.0重量%よりも多いと、洗浄力が低下し、洗浄液が分離する場合がある。
【0028】
本発明の洗浄液は、好ましくは、一般式
【0029】
【化5】

【0030】
(式中、Rは、置換基を有してもよい炭素数7〜13のアラルキル基を表す)で表されるアミンを含む。
【0031】
アミンは、好ましくは、一般式:
【0032】
【化6】

【0033】
(式中、R1は、水素、水酸基、tert-ブチル基、メチル基、メトキシ基のいずれか、Rは水素、メチル基、メトキシ基のいずれか)で表されるベンジルアミン誘導体である。
【0034】
アミン類は、例えば、ベンジルアミン、2、4−ジメトキシベンジルアミン、4−tert−ブチルベンジルアミン、2、3−ジメチルベンジルアミン2−メトキシベンジルアミン、4−メトキシベンジルアミン、4−ヒドロキシベンジルアミン等が挙げられるが、洗浄液の洗浄力を向上させ、低有害性かつ、工業的に入手しやすいという観点から、好ましくはベンジルアミンである。
【0035】
アミンの洗浄液中の含有量は、好ましくは、5〜50重量%であり、より好ましくは10〜20重量%である。アミンの添加量が5重量%より少ないと洗浄力が低下する場合がある。30重量%より多いと有害性、臭気が問題となる場合がある。
【0036】
本発明で用いるアミンの製造法に特に制限はない。ハロゲン化アルキル等に対してアンモニアやアミンを反応させる方法や、ニトロ基、オキシム、アミド等を還元する方法によって得られる。
【0037】
洗浄液中のDMSO(融点18.4℃)の含有量は、洗浄力の維持や、冬期に洗浄液を凝固させずに作業性を維持するために、60〜95重量%が好ましい。より好ましくは70〜80重量%である。
【0038】
また、本発明のDMSOを含有する洗浄液には、必要に応じて、凝固点を下げるためなど、他の成分、例えば水や有機溶媒を配合することができる。
【0039】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、シクロヘキサノール、へプタノール等のアルコール類、N−メチルホルムアミド、N、N-ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N、N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−ピロリドン等のラクタム類、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1、3−ジエチル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール類、1、3−ジオキサン、1、4−ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。添加することによる洗浄液の洗浄力の維持、低有害性、低臭気性を満たす必要性から、好ましくは、アルコール類であり、より好ましくは、エタノール、イソプロピルアルコールであり、さらに好ましくはエタノールである。エタノールの洗浄液中の含有量は10〜30重量%が好ましく、より好ましくは15〜20重量%である。エタノールの添加量が10重量%よりも少ないと、冬期に凝固して作業性が低下する。添加量が30重量%よりも多いと洗浄力が低下する。
【0040】
本発明に用いるエタノールの製造法に特に制限はない。グルコース等の糖類を酵母を用いて分解する方法やエチレンの水和反応によって得られる。
【0041】
本発明で洗浄の対象となる鋳型製造の方法としては特に制限はないが、シェルモールド法(フラン樹脂と珪砂を混合し、金型上で熱によって硬化させ鋳型を得る方法)やコールドボックス法(フェノール樹脂とイソシアネート樹脂と珪砂を混合し、金型上でアミン類を噴霧し硬化させて鋳型を得る方法)等が挙げられる。
【0042】
本発明の洗浄液は、好ましくは、金型洗浄液として使用可能であり、機械部品等の鋳型形成に用いられる金型に対して、その表面に固着した樹脂や鋳物砂の除去に使用できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0044】
試験方法
テストピース(材質:鋳鉄FC−25、直径50mm、厚さ20mm)を紙やすり(三共理化学(株)製:100番→180番→320番→600番→1000番→1500番)で研磨した。テストピースに、表1〜3で示す各種洗浄液を0.3mL塗布し、35℃相対湿度60%の恒温恒湿槽で4日間静置し、升目を用意し目視で升目の数を数えた。錆発生率は、下記式に従って算出した。
錆発生率(%)=(錆が発生した升目の数)/(鋳鉄の表面の升目の数)×100
図1は錆(図の黒い部分)が発生したテストピースの模式図であり、図2は、図1を上からみたものである。升目(20×20)で区切り、錆発生率は、上記式に従って算出した。
【0045】
実施例1〜7、比較例1〜21
洗浄液の組成と、試験結果を表1〜3に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
オレイン酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、およびトリエステルの3種混合物を加えた実施例1〜7は発錆を完全に抑えることができた。しかし他の界面活性剤を加えた比較例1〜15は発錆を完全に抑えることはできなかった。錆発生率を0%にすることは、難易度が高い。
【0049】
【表3】

【0050】
表3は、オレイン酸グリセリル混合物を添加した洗浄液の防錆力比較である。オレイン酸グリセリル1種あるいは2種混合物では、発錆を完全に抑えることはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸グリセリルのモノエステル、ジエステル、およびトリエステルの3種混合物とジメチルスルホキシドを含む洗浄液。
【請求項2】
脂肪酸グリセリルがモノオレイン酸グリセリル,ジオレイン酸グリセリル,トリオレイン酸グリセリルである請求項1記載の洗浄液。
【請求項3】
一般式
【化1】

(式中、Rは置換機を有してもよい炭素数7〜13のアラルキル基を表す)で表されるアミンを含む請求項1または2記載の洗浄液。
【請求項4】
一般式
【化2】

(式中、R1は水素、水酸基、tert-ブチル基、メチル基、メトキシ基のいずれか、Rは水素、メチル基、メトキシ基のいずれか)で表されるベンジルアミン誘導体を含む請求項3記載の洗浄液。
【請求項5】
金型を洗浄することを特徴とする請求項1から4に記載の洗浄液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−60511(P2013−60511A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199096(P2011−199096)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】