説明

洗浄溶液及びアフィニティークロマトグラフィーの方法

本発明は、好ましくは8.0より高い高pHでアルギニンまたはアルギニン誘導体および非緩衝塩を含む洗浄液が、高分子種および宿主タンパク質などの不純物の除去に有効であると同時に、溶出液中の産物の濃度を上昇させ、回収産物の高い収率を維持する、アフィニティークロマトグラフィーのための洗浄方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
アフィニティークロマトグラフィーにより、ゲル基質のような固相中の標的に対象のタンパク質が選択的に結合することに基づき、細胞採取のように分子混合物から対象のタンパク質を精製できる。この固相成分は通常はカラムに形成され、対象のタンパク質を含む混合物をそれに通す。この最初の手順である捕捉手順において、対象のタンパク質は固相中の標的に特異的に結合し、混合物中の他の成分はカラムを通って流れる。しかし、高分子量種(HMWs)、低分子量種(LMWs)及びホスト細胞タンパク質(HCPs)を含む混合物内のある成分は、不純物として対象のタンパク質と共にカラム内に保持される。そのため通常は1回以上の洗浄手順を行い、対象のタンパク質を固相に結合させたまま、洗浄溶液を1回以上カラムに用いてこれらの不純物を除去する。最後に、洗浄手順により不純物を除去した後、溶離手順によりカラムから対象のタンパク質を回収し、ここでは固相標的への対象のタンパク質の結合を分裂させる溶離溶液をカラムに用いて対象のタンパク質を溶離液中に回収する。従って、対象のタンパク質の精製におけるアフィニティークロマトグラフィーの有効性の大部分は、固相標的への対象のタンパク質の結合を分裂させずにまたは不要な影響を与えずに、不純物(例えばHMWs、LMWs、HCPs)を有効に除去できる洗浄条件を識別することにかかっている。
【0002】
アフィニティークロマトグラフィーの特に有用な種類は、抗体及びFc融合タンパク質のような免疫グロブリンFc領域を含むタンパク質の精製用のプロテインAクロマトグラフィーである。以下の1つを含む洗浄溶液を含む様々な洗浄溶液がプロテインAカラムから不純物を除去することについて述べられており、疎水性電解液(例えばpH5.0〜7.0のテトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウム)、溶媒(例えば5〜20%イソプロパノールまたはポリプロピレン/ヘキシレングリコール)、尿素(例えば濃度1〜4M)、洗剤(例えば0.1〜1%Tween20またはTween80)、ポリマー(例えばPEG400またはPEG8000のような5〜15%ポリエチレングリコール)または濃度0.8〜2.0M、pH5.0〜7.0のTris、HCl、酢酸塩、硫酸塩、リン酸塩またはクエン酸塩緩衝剤のような高濃度緩衝溶液である(例えばShukla.A.A and Hinckley.P(2005)Biotechnol.Prog.24:1115−1121、Blankによる米国特許第6,127,526号及び第6,333,398号、及びBreeceらによる米国特許第6,870,034号を参照)。しかしこれらの化学薬品の多くには、この限りではないが有毒性、腐食性、可燃性、不安定性、有害廃棄物としての高価な処分及び/または洗浄手順中に汚染物質を除去する効率の悪さを含む1つ以上の不便さがある。
【0003】
単独でまたは洗剤(例えばTween20)、溶媒(例えばヘキシレングリコール)またはポリマー(例えばポリエチレングリコール)のどれかと組み合わせて塩(塩化ナトリウムのような)を含むプロテインAクロマトグラフィー洗浄緩衝剤について述べられている(Breeceらによる米国特許第6,870,034号)。
【0004】
Barronらは、pH5.0〜7.5のリン酸塩/酢酸塩緩衝剤中に0.5〜2.0Mアルギニン(任意選択で、pH5.0の1Mアルギニン、0.1Mリン酸塩/酢酸塩緩衝剤)を含むプロテインAクロマトグラフィー用の中間体洗浄溶液について述べている。このアルギニン洗浄手順はHCP汚染物質を除去することを報告されている。著者らは、pH5.0〜7.5の0.5〜2.0Mの塩化ナトリウムを含む中間体洗浄溶液も試験したが、NaCl洗浄はHCPにおける有意な減少を示さないことを報告した(Barronら,“Improving Purity on Protein A Affinity Media Through Use of an Arginine Intermediate Wash Step”,http://www.priorartdatabase.com/IPCOM/00127319)。
【0005】
Sunらはまた、プロテインAカラムのようなアフィニティークロマトグラフィーカラムを濃度0.1〜2.0M及びpH4.5〜8.0でアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄緩衝剤を用いて洗浄することについても述べている(米国特許出願公開第20080064860号及び第20080064861号、PCT公報第WO2008/031020号)。
【0006】
アルギニンはアフィニティークロマトグラフィーカラム及び他の種類の精製カラムからタンパク質を溶離するためにも使用されてきた。例として、Arakawaらは、pH4.1〜5.0で0.5〜2.0Mアルギニンを含む溶離緩衝剤を使用しプロテインAカラムから抗体を溶離させる方法を述べている(Arakawaら(2004)Protein Expression and Purification 36:244−248、Tsumato,Kら(2004)Biotechnol.Prog.20:1301−1308、米国特許出願公開第20050176109号)。更に、Ejimaらによる米国特許第7,501,495号は、アルギニン塩酸塩を含む展開溶液を使用することによりゲルろ過カラムからタンパク質を溶離させる方法について述べている。Ghoseらは溶離液としてアルギニン勾配を用い非誘導体化シリカから対象のタンパク質を溶離させる方法を述べている(Ghose,S.ら(2004)Biotech.Bioeng.87:413−423)。Coffmanらによる米国特許出願公開第20030050450号は、分子及びタンパク質Aを含むFcの錯体から分子を含むFcを分離する方法を述べており、ここでFc/プロテインA錯体は疎水性相互作用カラム(HIC)に適用され、カラムはアルギニンを含む緩衝剤で洗浄される。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、アフィニティークロマトグラフィー用の効果的で強力な洗浄溶液を、この溶液を使用する洗浄方法と共に提供する。この洗浄溶液は溶離手順に先立ち洗浄手順で用いられ、その使用により、親和性基質から溶離された対象のタンパク質を高収率、高濃度で得られ、基質に用いられた出発材料から高分子量種(HMWs)及びホスト細胞タンパク質(HCPs)を効果的に除去できる。この洗浄溶液の特徴はアルギニン(またはアルギニン誘導体)及び非緩衝塩の両方が存在することである。好ましくは、洗浄溶液は8.0を越える高pHである。アルギニン(またはアルギニン誘導体)及び非緩衝塩の組み合わせは、アルギニンまたは塩のどちらかのみが含まれる洗浄溶液よりかなり多くの不純物を除去し、回収された対象のタンパク質の高い濃度に相関する鋭い溶離液ピークが得られる。
【0008】
従って一形態において、本発明は対象のタンパク質が結合するアフィニティークロマトグラフィー(AC)基質を用いて対象の精製タンパク質を生産する方法を提供し、この方法は、AC基質から対象のタンパク質を溶離させる前に、(i)アルギニンまたはアルギニン誘導体及び(ii)非緩衝塩を含む1種以上の洗浄溶液でAC基質を洗浄することを含む。好ましくは、1種以上の洗浄溶液で洗浄する前に対象のタンパク質をAC基質に付加し、1種以上の洗浄溶液で洗浄後対象のタンパク質をAC基質から溶離させ、特にAC基質から不純物を除去する。
【0009】
好ましい実施形態では、AC基質はプロテインAカラムである。様々な他の形態では、AC基質は例えば、プロテインGカラム、プロテインA/Gカラム、プロテインLカラム、固定金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)カラム、カルモジュリン樹脂カラム、MEP HyperCel(登録商標)カラム、麦芽糖結合タンパク質(MBP)と結合するカラム、グルタチオン−S−転移酵素(GST)と結合するカラム及びStrep−TagIIと結合するカラムから選択される。好ましい実施形態では、対象のタンパク質はプロテインAカラムのようなAC基質に結合する抗体または抗体切片であり、ここで述べられた親和性基質に結合する他のタンパク質も本発明の方法による精製に適している。
【0010】
好ましい実施形態では、1種以上の洗浄溶液はアルギニン−HClを含み、好ましくは濃度が0.05〜2.0Mの範囲、より好ましくは0.05〜0.85Mの範囲、最も好ましくは0.1〜0.5Mの範囲にある。好ましい実施形態では、アルギニン−HClは0.1Mまたは約0.1Mの濃度、0.25Mまたは約0.25Mあるいは0.5Mまたは約0.5Mで存在する。他の実施形態では、1種以上の洗浄溶液は、アセチルアルギニン、N−アルファ−ブチロイル−アルギニン、アルマチン、アルギニン酸及びN−アルファ−ピバロイルアルギニンからなる群から選択された誘導体のようなアルギニン誘導体を含む。アルギニンまたはアルギニン誘導体はL−アルギニンを含むことが好ましいが、D−アルギニンも含まれる。
【0011】
好ましい実施形態では、1種以上の洗浄溶液中の非緩衝塩は塩化ナトリウム(NaCl)であり、好ましくは濃度が0.1〜2.0Mの範囲にある。好ましい実施形態では、NaClは0.75Mまたは約0.75Mの濃度、1.0Mまたは約1.0Mあるいは1.25Mまたは約1.25Mで存在する。他の実施形態では、1種以上の洗浄溶液中の非緩衝塩は塩化カリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから成る群から選択される。
【0012】
特定の実施形態では、1種以上の洗浄溶液のpHは8.0より大きく、好ましくは少なくとも8.1であり、より好ましくは少なくとも8.5、少なくとも8.9である。一態様では、1種以上の洗浄溶液のpHは8.1〜9.5の範囲にある。別の形態では、1種以上のpHは8.5〜9.5の範囲にある。別の形態では、1種以上の洗浄溶液のpHは約9.0である。別の形態では、1種以上の洗浄溶液のpHは9.0である。
【0013】
ここに述べられたアルギニン及び非緩衝塩の洗浄組み合わせは、両方の成分を含む単一の洗浄溶液で用いられることが好ましい(すなわち、AC基質は(i)アルギニンまたはアルギニン誘導体及び(ii)非緩衝塩の両方を含む1種の洗浄溶液で洗浄される)。代わりに、一方はアルギニンまたはアルギニン誘導体を含み(好ましくはpHが8.0より大きい)、他方は非緩衝塩を含む2種の洗浄溶液を二段階の洗浄で使用できる。従って、洗浄方法の別の形態では、AC基質は一次洗浄溶液及び二次洗浄溶液の2種の洗浄溶液で洗浄される。一形態では、一次洗浄溶液はアルギニンまたはアルギニン誘導体を含み、二次洗浄溶液は非緩衝塩を含む。別の形態では、一次洗浄溶液は非緩衝塩を含み、二次洗浄溶液はアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む。
【0014】
本発明の洗浄方法は、高分子量(HMW)種及びホスト細胞タンパク質(HCPs)を含む様々な不純物を除去する際に有効である。
【0015】
別の形態では、本発明はプロテインAカラムを使用して精製抗体または抗体切片を生産する方法を提供し、この方法は、(a)抗体または抗体切片を含む混合物をプロテインAカラムに付加し、(b)(i)濃度が0.05〜2.0M(より好ましくは0.05〜0.85M、最も好ましくは0.1〜0.5M)の範囲にあるアルギニン−HCl及び濃度が0.1〜2.0Mの範囲にある塩化ナトリウムを含む洗浄溶液でプロテインAカラムを洗浄し、洗浄溶液はタンパク質Aカラムから不純物を除去し、(c)プロテインAカラムから抗体または抗体切片を溶離させることを含み、アルギニン−HClは0.1Mまたは約0.1M、0.25Mまたは約0.25Mあるいは0.5Mまたは約0.5Mの濃度で存在する。特別な形態では、NaClは0.75Mまたは約0.75M、1.0Mまたは約1.0Mあるいは1.25Mまたは約1.25Mの濃度で存在する。様々な形態では、洗浄溶液のpHは8.0より大きく、好ましくは少なくとも8.1であり、より好ましくは少なくとも8.5であり、より好ましくは9.0であり、8.1〜9.5または8.5〜9.5の範囲にある。
【発明の詳細な説明】
【0016】
本発明は、プロテインAクロマトグラフィーのようなアフィニティークロマトグラフィー用の新しい洗浄溶液を提供し、これは不純物を除去するため対象のタンパク質の溶離に先立ちカラムに適用される。新しい洗浄溶液は、アルギニンまたはアルギニン誘導体及び非緩衝塩を含む。通常、洗浄溶液は水溶液である。
【0017】
ここで用いられている「非緩衝塩」という用語は、酸または塩基を添加した際、適用条件下(高pH値のような)洗浄溶液(または複数の洗浄溶液)のpHを保持することに実質上寄与しないような種類でそのような濃度にある洗浄溶液中に存在する塩を指す。通常、非緩衝塩イオン性塩である。非緩衝塩は、ClまたはBr(より好ましくはCl)を含む塩を含むハロゲン塩、特にNa、K、Ca及びMg(より好ましくはNaまたはK)を含むアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むハロゲン塩を含む。「非緩衝塩」という用語は、適用条件下で洗浄溶液(または複数の洗浄溶液)のpHを保持することに実質上寄与する酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム及びTrisのような緩衝塩を含まない。好ましい形態では、非緩衝塩はハロゲン(例えば、ClまたはBr)の塩である。好ましい形態では、非緩衝塩はナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)またはマグネシウム(Mg)を含むハロゲン塩であり、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)がより好ましい。また別の形態では、非緩衝塩はNaCl、KCl、CaCl及びMgClから成る群から選択される。特に好ましい形態では、非緩衝塩は塩化ナトリウム(NaCl)である。通常、非緩衝塩は少なくとも1Mの「高」濃度で使用される。他の適した濃度及び濃度範囲については更に以下で述べる。
【0018】
洗浄成分のこの新しい組み合わせは、収率に影響を与えずに一般に使用される手順よりかなり多くの不純物を除去する。更に、この洗浄条件により溶離物中の対象のタンパク質の高い濃度に相関する鋭い溶離液ピークが得られ、更なる下流の精製工程の性能を向上させることに有利である。
【0019】
ホスト細胞タンパク質(HCPs)及び高分子量(HMW)種及び低分子量(LMW)種のような生成物に関連する不純物を含む不純物を効率的に除去することは、対象のタンパク質の下流処理中の重要な因子である。アフィニティークロマトグラフィーはしばしば対象のタンパク質(例えば抗体)の多段階精製工程の第1段階として使用され、アフィニティークロマトグラフィーの後の対象のタンパク質の純度は、後に続く精製手順の種類及び数に著しく影響を与える。アフィニティークロマトグラフィーの別の重要な役割は生成物を濃縮することであり、これにより後に続く精製手順において使用されるカラムが比較的小さくなり、費用が安くなる。そのため、アフィニティークロマトグラフィー手順の間の不純物の除去を最適化することが特に重要である。
【0020】
通常pH3〜4の低pH条件は、親和性基質から結合した対象のタンパク質を溶離し、するための必要条件であり、凝集を引き起こすかもしれない欠点を有する。以前は、pH5〜5.5のあまり厳しくない条件は、対象のタンパク質と親和性基質間の相互作用を保ち、カラムから非特異的に結合された不純物を洗浄するために使用されてきた。しかし、特に高付加密度で作業する場合、これらの条件で対象のタンパク質が部分的に溶離するため、対象のタンパク質の収率はしばしば低減する。従って好ましい形態では、本発明により提供される洗浄溶液は8.0より高い高pHで有利に機能し、不純物を除去できるが、親和力基質への対象のタンパク質の結合は保つ。
【0021】
本発明により提供されるアフィニティークロマトグラフィー用の新しい洗浄溶液は、好ましくは高pHで機能する、アルギニン(またはアルギニン誘導体)及び非緩衝塩の混合物に基づく。不純物の広い生物物理学的多様性が一般の収穫物または細胞抽出物に存在するため、クロマトグラフィー媒体の固相及び/または対象の結合されたタンパク質との相互作用が非常に多様な様式となる。水素結合、静電相互作用、疎水性及びファンデルワールス力または相互作用のこれらの型の組み合わせのような2つの分子間の非共有分子間相互作用により、不純物が多少強くつながれる。そのため、不純物を除去するためのいくつかの異なる機構の組み合わせが、不純物を除去するための単一の機構に基づく手段よりかなり有効なようである。
【0022】
本発明の分析データに基づき、洗浄溶液中の非緩衝塩の効果に関して、対象のタンパク質と親和性基質の配位子間の高い親和力相互作用は、高い非緩衝塩濃度での洗浄により切断されず、固定配位子または結合された対象のタンパク質のどちらかの上の荷電残留物に非特異的につながれた荷電汚染物質は効率的に除去される。従って、機構に拘束されることは意図しないが、洗浄溶液に使用される非緩衝塩は、アフィニティークロマトグラフィー基質の1種以上の成分(例えば、前記基質の樹脂などの化学的支持体、前記基質に固定されたアフィニティー配位子、及び/又は前記マトリックス上に固定された前記リガンドに結合した対象となる標的)上の荷電残留物に非特異的につながれた荷電汚染物質(不純物)間のイオン性相互作用を切断する能力を有するが、固定配位子に結合された標的の特異的な結合を分裂しない。
【0023】
洗浄溶液中のアルギニンの効果に関して、アルギニンはある沈殿したタンパク質を安定化できること(Umetsu,M.ら(2005)Biochem.Biophys.Res.Commun.328:189−197;Tsumoto,K.ら(2003)Biochem.Biophys.Res.Commun.312:1383−1386)、凝集体の形成を減少させること(Ejima,D.ら(2005)J.Chromatogr.A.1094:49−55)が報告されている。機構に拘束されることを意図しないが、タンパク質凝集体の減少は、アルギニンと相互作用するタンパク質上の疎水性部分のマスキングから起きる。この相互作用は、アルギニン上のグアニジウム基とタンパク質上のトリプトファン基間に生じるまたはアルギニンのクラスター化により疎水性部分の形成から生じる、またはそのような効果の組み合わせである。
【0024】
洗浄溶液中の8.0より高いpH値を用いることに関して、塩基性pHはHCPs及びHMWsを部分的に変性させるが、単量体抗体を含む安定なタンパク質はこれらの条件で影響を受けない。機構に拘束されることは意図しないが、汚染物質タンパク質の変性は構造におけるわずかな変化として現れ、それは非特異的結合を弱めるために十分である。そのため、結合されたまたは親和性基質の固体支持体との相互作用を不安定にすることにより、対象のタンパク質洗浄溶液の高いpHは不純物の除去を高めるために有益である。
【0025】
従って、一形態では、本発明は対象のタンパク質が結合されるアフィニティークロマトグラフィー(AC)基質を使用して精製タンパク質を生産する方法を提供し、この方法はAC基質から対象のタンパク質を溶離させる前にAC基質を1種以上の洗浄溶液で洗浄することを含み、洗浄溶液は(i)アルギニンまたはアルギニン誘導体及び(ii)非緩衝塩を含む。
【0026】
ここで用いられている「アフィニティークロマトグラフィー基質」または「AC基質」という用語は固相媒体、通常はゲルまたは樹脂を指すものであり、それにより受容体と配位子、酵素と基体または抗原と抗体間のような対象のタンパク質とAC基質間の非常に特異的な結合相互作用に基づいて生化学的混合物が分離される。そのため、緩衝剤条件に依存し、固相媒体は対象のタンパク質が可逆的に付着できる標的を含む。AC基質を含む固定または固相媒体の例として、アガロースビード(市販のSepharose基質のような)のようなゲル基質及び多孔性ガラスビード(市販のProSep基質のような)のようなガラス基質を含むが、この限りでない。
【0027】
対象のタンパク質のAC基質への結合は通常、カラムクロマトグラフィーによりなされる。つまり、AC基質はカラムに形成され、対象のタンパク質を含む生化学的基質をカラムに流し、1種以上の洗浄溶液をカラムに流すことによりカラムを洗浄し、溶離緩衝剤をカラムに流すことによりカラムから対象のタンパク質を溶離する。
【0028】
代わりに、対象のタンパク質のAC基質への結合はバッチ処理によりなされ、そこで対象のタンパク質を含む生化学的混合物を容器中でAC基質と定温放置して対象のタンパク質をAC基質に結合させ、固相媒体を容器から除去し(例として遠心分離による)、固相媒体を洗浄して不純物を除去し、再度回収し(例として遠心分離による)対象のタンパク質を固相媒体から溶離させる。
【0029】
また別の実施形態では、バッチ処理及びカラムクロマトグラフィーの組み合わせが用いられる。例として、対象のタンパク質のAC基質への最初の結合はバッチ処理によりなされ、その後固相媒体をカラムに充填し、カラムを洗浄しカラムから対象のタンパク質を溶離させる。
【0030】
特別な固相基質の性質、特に固相に付着された標的の結合特性は、固相基質を用いて精製されるタンパク質の種類を決定する。例えば、本発明の好ましい実施形態では、AC基質はプロテインAカラムであり、これは固相に付着される標的として細菌細胞壁タンパク質であるプロテインAを含み、ある免疫グロブリンのFc領域内のCH及びCH域と特異的に結合する。プロテインAの結合特性は当技術分野で確立されている。従って、本発明の好ましい形態では、対象のタンパク質(精製される)はFc領域を含む抗体または抗体切片である。さらに、プロテインAクロマトグラフィーを使用して精製できる補足のタンパク質はFc融合タンパク質を含む。タンパク質がプロテインA基質に特異的に結合できる場合に限り、本発明の方法に従って精製できる。
【0031】
様々なプロテインA樹脂は当技術分野でよく知られており、本発明における使用に適している。市販のプロテインA樹脂の例として、MabSelect、MabSelectXtra、MabSelectSure、rProtein A SepharoseFF、rmpProteinA、SepharoseFF、Protein A SepharoseCL−4B及びnProtein A Sepharose4FF(全てGE Healthcareから入手できる);ProSep A 、ProSep−vA High Capacity、ProSep−vA Ultra及びProSep−Va Ultra Plus(全てMilliporeから入手できる);Poros A及びMabcapture A(両方ともPorosから入手できる);IPA−300、IPA−400及びIPA−500(全てRepliGen Corp.から入手できる);Affigel protein A及びAffiprep protein A(両方ともBio−Radから入手できる)、MABsorbent AIP及びMABsorbentA2P(両方ともAffinity Chromatography Ltd.から入手できる);Protein A Ceramic Hyper D F (Pall Corporationから市販);Ultralink Immobilized Protein A及びProteinAgarose Protein A(両社ともPIERCEから市販);A Cellthru 300及びProtein A Ultraflow(両方ともSterogen Bioseparationsから入手できる)が挙げられるがこの限りではない。
【0032】
プロテインAクロマトグラフィーに加えて、本発明の洗浄方法は他のアフィニティークロマトグラフィー系に用いられる。例として、他の実施形態では、AC基質はプロテインGカラム、プロテインA/GカラムまたはプロテインLカラムであり、その各々は当技術分野で確立された結合特性を有する免疫グロブリン結合細菌タンパク質でもある。そのため、プロテインG基質、プロテインA/G基質またはプロテインL基質であるAC基質はFc領域及びFc領域タンパク質を含む抗体、抗体切片を精製するために使用できる。
【0033】
AC 基質の他の無限定な例、及び精製時に有効なタンパク質種は次を含む:固定金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)カラム(ヒスチジン−標識付けタンパク質のような金属イオンに対する親和力を有するタンパク質の精製用)、カルモジュリン樹脂カラム(カルモジュリン結合ペプチド(CBP)で標識付けされたタンパク質の精製用)、MEP HyperCel(登録商標)カラム(免疫グロブリンと選択的に結合するセルロース基質)、麦芽糖結合タンパク質(MBP)と結合するカラム(MBPで標識付けされたタンパク質と選択的に結合するDextrin Sepharose(登録商標)樹脂のような)、グルタチオン−S−転移酵素(GST)と結合するカラム(GSTで標識付けされたタンパク質と選択的に結合するGlutathione Sepharose(登録商標)樹脂のような)及びStrep−TagIIと結合するカラム(Strep−TagIIで標識付けされたタンパク質と選択的に結合するStrep−Tactin(登録商標)Sepharose樹脂のような)。更に、免疫親和性基質は固相に固定される標的としての抗体を含み、固相に固定される抗体に特異的に結合する対象の抗原を精製するために使用される。
【0034】
関心のある本発明は、特にプロテインAクロマトグラフィーを使用する抗体の精製に関して述べられ、タンパク質が特にAC基質に選択的に結合することを当業界でよく知られている場合に限り、タンパク質は本明細書に述べられた洗浄方法を用いて精製される。
【0035】
本発明の洗浄溶液はアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む。本発明に用いられるアルギニンは、天然アミノ酸アルギニン(例えばL−アルギニン)、D−アルギニンまたはアルギニン誘導体である。アルギニン誘導体の例として、アセチルアルギニン及びN−アルファ−ブチロイル−アルギニンのようなアシル化アルギニン、アグマチン、アルギニン酸及びN−アルファ−ピバロイルアルギニンを含むがこの限りではない。アルギニンまたはアルギニン誘導体は酸付加塩の形態で用いてもよい。酸付加塩を形成できる酸の例は、塩酸等を含む。
【0036】
洗浄溶液中のアルギニンまたはアルギニン誘導体濃度は通常、0.05Mと2.0Mの間であり(例えば、0.05M、0.1M、0.15M、0.2M、0.25M、0.3M、0.35M、0.4M、0.45M、0.5M、0.55M、0.6M、0.65M、0.7M、0.75M、0.8M、0.85M、0.9M、0.95M、1.0M、1.1M、1.15M、1.20M、1.25M、1.30M、1.35M、1.40M、1.45M、1.5M、1.55M、1.6M、1.65M、1.7M、1.75M、1.8M、1.85M、1.9M、1.95Mまたは2.0M)、特に好ましくは0.05Mと0.85Mの間であり(これは20℃におけるアルギニンの上限溶解度である)(例えば、0.05M、0.1M、0.15M、0.2M、0.25M、0.3M、0.35M、0.4M、0.45M、0.5M、0.55M、0.6M、0.65M、0.7M、0.75M、0.8Mまたは0.85M)、最も好ましくは0.1Mと0.5Mの間である(例えば、0.1M、0.15M、0.2M、0.25M、0.3M、0.35M、0.4M、0.45Mまたは0.5M)。様々な形態では、アルギニンまたはアルギニン誘導体濃度は例えば、0.05M、0.1M、0.2M、0.25M、0.3M、0.4M、0.5M、0.6M、0.7Mまたは0.8Mであるか、あるいは0.1Mと0.5Mとの間の範囲である。ある実施形態では、洗浄溶液中のアルギニンまたはアルギニン誘導体濃度は0.25Mまたはそれ以上である。特別な実施形態では、アルギニンは0.1Mまたは約0.1M、0.25Mまたは約0.25Mあるいは0.5Mまたは約0.5Mの濃度で存在する。
【0037】
本発明の洗浄溶液はまた上に述べたように非緩衝塩を含み、不純物と親和性基質の1種以上の成分間のイオン性相互作用を分裂させるために十分な種類でそのような濃度である。好ましい実施形態では、非緩衝塩はハロゲン塩である。特に好ましい実施形態では、非緩衝塩は塩化ナトリウム(NaCl)である。他の実施形態では、非緩衝塩は例えば塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl)または塩化マグネシウム(MgCl)である。洗浄溶液中の非緩衝塩濃度は通常、0.1Mと2.0Mの間であり(例えば、0.1M、0.15M、0.2M、0.25M、0.3M、0.35M、0.4M、0.45M、0.5M、0.55M、0.6M、0.65M、0.7M、0.75M、0.8M、0.85M、0.9M、0.95M、1.0M、1.1M、1.15M、1.20M、1.25M、1.30M、1.35M、1.40M、1.45M、1.5M、1.55M、1.6M、1.65M、1.7M、1.75M、1.8M、1.85M、1.9M、1.95Mまたは2.0M)、または0.5Mと1.5Mの間であり(例えば、0.5M、0.55M、0.6M、0.65M、0.7M、0.75M、0.8M、0.85M、0.9M、0.95M、1.0M、1.1M、1.15M、1.2M、1.25M、1.3M、1.35M、1.4M、1.45Mまたは1.5M)、または1Mと2Mの間である(例えば、1.0M、1.1M、1.15M、1.2M、1.25M、1.3M、1.35M、1.4M、1.45M、1.5M、1.55M、1.6M、1.65M、1.7M、1.75M、1.8M、1.85M、1.9M、1.95Mまたは2M)。ある実施形態では、戦場溶液中の非緩衝塩の濃度は1M以上である。特別な実施形態では、洗浄溶液中の非緩衝塩濃度は0.75Mまたは約0.75M、1.0Mまたは約1.0Mあるいは1.25Mまたは約1.25Mの濃度で存在する。
【0038】
本発明の洗浄溶液のpHは通常、8.0より高いが、低いpHも本発明の洗浄溶液の使用に適している。特別な実施形態では、pHは8.0より高く、好ましくは少なくとも8.1、より好ましくは少なくとも8.5または8.9である。一実施形態では、1種以上の洗浄溶液のpHが8.1〜9.5の範囲にある。別の実施形態では、1種以上の洗浄溶液のpHが8.5〜9.5の範囲にある。別の実施形態では、1種以上の洗浄溶液のpHが約9.0である。別の実施形態では、1種以上の洗浄溶液のpHが9.0である。代わりに、精製される対象のタンパク質に依り、低いpH値、例えばpH5.0〜8.0の範囲にあるpHまたは7.5または7.0または6.5または5.0のpHを使用できる。精製されるタンパク質の特性に依り、普通の当業者は洗浄溶液の適切なpH値を選択できる。従って、洗浄溶液(複数の洗浄溶液)はpHを調節する及び/または保持するため1種以上の緩衝剤を含む。洗浄溶液(複数の洗浄溶液)に含まれる通常の緩衝剤の例は、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン)、ビス−Tris、ビス−Trisプロパン、ヒスチジン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ギ酸塩、酢酸塩、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、リン酸塩、HEPES(4−2−ヒドロキシエチル−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、クエン酸塩、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、TAPS(3−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸)、Bicine(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン)、Tricine(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)、TES(2−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸))、カコジル酸塩(ジメチルアルシン酸)及びSSC(クエン酸ナトリウム食塩溶液)を含むがこの限りではない。
【0039】
本明細書で述べられているアルギニン及び非緩衝塩洗浄溶液の組み合わせは、両方の成分を含む単一の洗浄溶液で用いられることが好ましい。代わりに、一方がアルギニンまたはアルギニン誘導体を含み(好ましくは高pHで)他方が非緩衝塩を含む2種の洗浄溶液も連続洗浄で使用できる。従って、洗浄方法の別の実施形態では、対象のタンパク質を溶離させる前に、一次洗浄溶液及び二次洗浄溶液の2種の洗浄溶液で洗浄する。一実施形態では、一次洗浄溶液はアルギニンまたはアルギニン誘導体を含み(8.0より高いpHが好ましい)、二次洗浄溶液は非緩衝塩を含む。別の実施形態では、一次洗浄溶液は非緩衝塩を含み、二次洗浄溶液はアルギニンまたはアルギニン誘導体(8.0より高いpHが好ましい)を含む。適したアルギニン誘導体及び非緩衝塩の例は、洗浄溶液の好ましい濃度、濃度範囲及びpH条件と共に前述の通りである。
【0040】
本発明の洗浄方法は、高分子量(HMW)種及びホスト細胞タンパク質(HCPs)を含む様々な不純物を除去することに有効である。実施形態で詳しく述べたように、本発明の洗浄溶液は溶離液中のHMW種及びHCPsの両方を減らすことに有効であり、溶離液中の対象のタンパク質の収率割合は高く溶離液中の対象のタンパク質の濃度は高い。例として、様々な実施形態では、本明細書で述べた洗浄方法を用いると対象のタンパク質の収率割合は95%より高い、より好ましくは96%より高い、更により好ましくは97%より高くなる。溶離液中のHMW種の減少に関して、溶離液中%HMWと表され、様々な実施形態では、本明細書で述べた洗浄方法を用いると溶離液中の%HMWは10%未満または5%未満または2.0%未満または1%未満または0.5%未満となる。溶離液中のHCPsの減少に関して、対数減少値(LRV)と表され、様々な実施形態では、本明細書で述べた洗浄方法を用いるとHCPsに関するLRVは少なくとも1.1または少なくとも1.3または少なくとも1.5または少なくとも2.0または少なくとも2.3または少なくとも2.5または少なくとも2.7となる。
【0041】
本発明はアフィニティークロマトグラフィー中の洗浄手順に関して本明細書で述べているが、アフィニティークロマトグラフィー基質から対象のタンパク質を精製するため洗浄手順の前後両方で補足の手順を行うことは普通の当業者に明白である。例えば、洗浄手順に先立ち、本発明の方法は平衡化手順及び付加または捕捉手順を含み、平衡化手順でアフィニティークロマトグラフィー基質を付加緩衝剤で平衡化し、付加または捕捉手順で対象のタンパク質を含む生化学的混合物(例えば細胞採取物)をAC基質に適用する。平衡化及び付加緩衝剤に適した条件は、AC基質及び精製される対象のタンパク質の性質に依って変わり、普通の当業者は当技術分野で確立された方法及び情報を用いそのような条件をたやすく決定できる。プロテインAカラム上の抗体の精製について平衡化及び付加緩衝剤の例は、実施例1および2に示すがこの限りではない。更に、上述した洗浄手順(または複数の洗浄手順)の後、本発明の方法は一般の洗浄溶液を用いる1種以上の追加の洗浄手順(または複数の洗浄手順)及び/または溶離手順を含み、溶離手順では、アフィニティークロマトグラフィー基質に溶離緩衝剤を用いて基質から対象のタンパク質を溶離させる。溶離緩衝剤の適した条件は、AC基質及び精製される対象のタンパク質の性質に依り変わり、普通の当業者は当技術分野で確立された方法及び情報を用いてそのような条件をたやすく決定できる。通常、AC基質からの対象のタンパク質の溶離は酸性pHで行われる。プロテインAカラム上の抗体を精製するための溶離緩衝剤の例は、実施例1及び2に示すがこの限りではない。
【0042】
別の態様では、本発明は、抗体のプロテインA精製中に抗体含有混合物から不純物を除去する好ましい方法を提供する。従って、本発明はプロテインAカラムを用いて精製された抗体または抗体切片を生産する方法を提供し、この方法は、
a)抗体または抗体切片から成る混合物をプロテインAカラムに負荷し
b)(i)0.05〜2.0Mの範囲(より好ましくは0.05〜0.85Mの範囲、最も好ましくは0.1〜0.5Mの範囲)にある濃度のアルギニン−HCl及び(ii)0.1〜2.0Mの範囲にある濃度の塩化ナトリウムから成る洗浄溶液でプロテインAカラムを洗浄し、ここで洗浄溶液はプロテインAカラムから不純物を除去し
c)抗体または抗体切片をプロテインAカラムから溶離させる
ことから成る。好ましくは、洗浄溶液は8.0より高いpHにある。アルギニン−HClの好ましい濃度及び濃度範囲は前述の通りである。例として、好ましい実施形態では、アルギニン−HClは約0.25Mの濃度または0.25Mの濃度にある。塩化ナトリウムの好ましい濃度及び濃度範囲は上述の通りである。例として、好ましい実施形態では、塩化ナトリウムは約1Mの濃度または1Mの濃度にある。好ましいpH及びpH範囲は上述の通りである。例として、一実施形態では、洗浄溶液のpHは8.1〜9.5の範囲にある。別の実施形態では、洗浄溶液のpHは8.5またはそれより高い。別の実施形態では、洗浄溶液のpHは9.0である。
【0043】
本発明は更に以下の実施形態により説明され、これらを更に制限するものとして解釈するべきでない。本出願に引用された全ての参照、特許及び公開特許出願は全体として特に本明細書に援用される。
【発明を実施するための形態】
【0044】
実施例
実施例1:アルギニン/非緩衝塩洗浄液と他の洗浄液との比較
本実施例では、アフィニティークロマトグラフィー中に抗体含有液から不純物を除去するための様々な洗浄液の有効性を比較する。より詳細には、3種の洗浄液(1種目はpH5.0でアルギニンおよび非緩衝塩を含まず、2種目はpH7.0で非緩衝塩を含むがアルギニンを含まず、3種目はpH9.0で非緩衝塩とアルギニンの両方を含む)を比較する。
【0045】
分かりやすく説明すると、1.5から2.5g/Lの抗体を含む哺乳動物細胞培養の上清を深層濾過によって回収し、ALCカラム、特にプロテインAカラム(GE Healthcare)を使用して、以下の表1に記載の条件に従って精製する。
【表1】

【0046】
平衡化したカラムに清澄化した回収物を負荷し、以下の表2に記載の洗浄液1で一次洗浄し、続いて洗浄液2(20mMのNaHPO/NaHPO、pH7.0)で二次洗浄し、次に低pHで溶出する。この溶出液を、分析ALCによりその抗体濃度を、分析サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によりHMW/LMWを、および同じ細胞株で作成された酵素結合免疫吸着測定法によりHCP含量を分析する。一次洗浄用に比較する様々な洗浄液を以下の表2に示す。
【表2】

【0047】
表2に示す3種の異なる洗浄液を使用した、4種の異なるモノクローナル抗体(mAb)のプロテインA精製の収率を以下の表3に示す。
【表3】

【0048】
表3は、W1−A5(非緩衝塩またはアルギニンを含まない、pH5.0)またはW2−N7(非緩衝塩を含むがアルギニンを含まない、pH7.0)のどちらかを用いた洗浄は、精製される抗体によって回収される抗体量が変動する結果となることを示す。より詳細には、W1−A5を用いた洗浄では81から96%の間で変動する収率となり、W2−N7を用いた洗浄では92から101%の間で変動する収率となる。これに対して、pH9.0で非緩衝塩とアルギニンの両方を含むW3−Arg/N9を用いた洗浄は、精製された4種全ての抗体に関して96%を超え、一貫して高収率になる。
【0049】
表2に示す3種の異なる洗浄液を使用した、4種の異なるmAbのプロテインA精製後の溶出液濃度(g/L)を以下の表4に示す。
【表4】

【0050】
表4は、溶出液濃度もまたALC中に用いられる洗浄バッファーに影響されることを示す。4種のmAb(mAbQg、ByおよびVa)のうちの3種に関して、W3−Arg/N9を用いた洗浄は、W1−A5またはW2−N7を用いた洗浄よりも高い溶出液濃度となる。4種の抗体に対する平均溶出液濃度は、W1−A5洗浄後(17.1g/L)が最も低く、続いてW2−N7洗浄(17.3g/L)であり、W3−Arg/N9を用いた洗浄後(21.7g/L)が最も高い。
【0051】
表2に示す3種の異なる洗浄液を使用した、4種の異なるmAbのプロテインA精製後の溶出液中における宿主細胞タンパク質(HCP)の減少を表5に示す。HCPの減少は、細胞回収物中の値に対する対数減少値(LRV)として表される。
【表5】

【0052】
不純物除去に関しては、表5のデータに基づいて、3種の洗浄バッファー間に明確な順位を定めることができる。最も低いHCPの減少は低pH洗浄であるW1−A5で得られ、続いて塩洗浄であるW2−N7を用いた洗浄であり、最も高い除去係数は、pH9.0のアルギニン−NaClを組合せたバッファー(W3−Arg/N9)を用いることで得られる。除去の対数オーダーで表すと、W1−A5を用いた洗浄後に平均1.4logが得られ、W2−N7では1.55logであり、W3−Arg/N9では2.2logという最も高い除去が達成される。
【0053】
表2に示す3種の異なる洗浄液を使用した、4種の異なるmAbのプロテインA精製後の溶出液中の高分子(HMW)種のレベルを以下の表6に示す。溶出液中のHMW種のレベルは、溶出液中の総タンパク質のパーセント(%)として表す。
【表6】

【0054】
表6は、HMW種のレベルは4種の異なるmAbの間で非常に不均一であり、HMWの除去はmAb依存的であることを示す。全体的に見て、W1−A5洗浄液は最も有効でない洗浄液である。より良い結果がW2−N7洗浄液で得られ、ALC溶出液中の最も低いHMWの値が、W3−Arg/N9洗浄液で一貫して見出される。W1−A5洗浄に対してW3−Arg/N9洗浄を比較すると、3種のmAb(mAbQg、ByおよびVa)は、2.6から5.9倍のHMWの減少に対応するが、mAb−Bpは、ごくわずかな減少しか示さなかった。
【0055】
上の表3〜6に概説した実験に関する結果のまとめを以下の表7に示す。陰をつけた行には、回収物の組成を表す。
【表7】

【0056】
実施例2:様々なアルギニン/塩洗浄液の比較
本実施例では、アフィニティー液体クロマトグラフィー(ALC)中に不純物を除去するための、異なったpH値で異なった量の非緩衝塩および/またはアルギニンを含むさらなる洗浄液の有効性を比較する。本実施例で使用するクロマトグラフィーの条件は、以下の表8に記載の通りである。
【表8】

【0057】
本実施例で比較する洗浄液を以下の表9に記載する。
【表9】

【0058】
表9に示す4種の洗浄液によって、低非緩衝塩洗浄液(150mMのNaClを含むW4−0.15MN7)と高非緩衝塩洗浄液(1MのNaClを含むW2−N7)の直接的な比較、ならびにpH8.0でアルギニンだけを含む洗浄液(W5−Arg8)と塩基性pHで非緩衝塩とアルギニンの組合せを含む洗浄液(W6−Arg/N8)の比較が可能になる。
【0059】
表9に示す4種の異なる洗浄液ならびにアルギニン単独の洗浄(W5−Arg8)と高塩単独の洗浄(W2−N7)の組合せを使用した、mAb−Byの精製に対する収率、溶出液中のHMW種のパーセントおよびHCPの減少(LRVとして表される)を以下の表10に示す。
【表10】

【0060】
表10は、抗体の収率は全ての洗浄条件に対して97%を上回ったままであることを示す。さらに、HMWとHCPの両方の不純物の除去に最も有効な洗浄液は、塩基性pHでアルギニンと高非緩衝塩の両方を含む洗浄液(W6−Arg/N8)、または塩基性pHでアルギニンを含む洗浄液(W5−Arg8)と高非緩衝塩洗浄液(W2−N7)の併用である。
【0061】
ある程度生理的な洗浄液であるW4−0.15MN7を用いた洗浄は、カラムに負荷した出発材料と比較して、HCPを64分の1(1.8log)に減少させる。これとは対照的に、pH8で非緩衝塩−アルギニンの組合せ(W6−Arg/N8)を用いた洗浄は、498分の1(2.7log)に減少させる。
【0062】
HMWの減少は、同様の傾向を取る。pH7.0で20mMリン酸ナトリウム、150mMのNaClを含む洗浄液(W4−0.15MN7)を用いた洗浄は、溶出液中に1.6%のHMWをもたらすのに対して、非緩衝塩−アルギニンの組合せ(W6−Arg/N8)を用いた洗浄は、この値を5分の1以下に減少させる。
【0063】
実施例3:洗浄液における塩基性pHと生理的pHとの比較
本実施例では、HCPおよびHMWの除去に対する洗浄液のパラメータとしてのpHの分析を行い、塩基性pH条件の優位性を示す。実施例2の表8に記載の条件を使用したアフィニティー液体クロマトグラフィー(ALC)を、わずかに異なるレベルのHMWおよびHCPを用いて、mAb−Vaの細胞回収物に対して行う。
【0064】
本実施例で比較する洗浄液を以下の表11に記載する。
【表11】

【0065】
表11に示す3種の異なる洗浄液を使用した、mAb−Vaの精製に対する収率、溶出液中のHMW種のパーセントおよびHCPの減少(LRVとして表される)を以下の表12に示す。
【表12】

【0066】
高非緩衝塩単独の洗浄液であるW2−N7を基準のコントロール洗浄に供して、ほぼ生理的なpH7.0(洗浄液W6−Arg/N7)および塩基性のpH8.9(洗浄液W3b−Arg/N8.9)で、アルギニン/非緩衝塩の組合せのHCP/HMW除去能力を確かめる。低い方のpH(pH7.0)と比較すると、高い方のpH(pH8.9)において、1.6から1.4%というわずかであるが注目すべきHMWレベルの減少が観察される。HCP除去への効果はさらに明らかである。ここでは、低い方のpHの洗浄(pH7.0)がHCPを1.48log減少させるのに対して、高い方のpHの洗浄(pH8.9)は、この値を1.61log減少させる。このことは、不純物除去能力における高いpHの洗浄の優位性を強調するものである。
【0067】
実施例4:アルギニン/塩洗浄液と他の洗浄液との比較
本実施例では、Tween80、アルギニン以外のアミノ酸または高濃度のトリスを含む他の洗浄液を、アルギニン/非緩衝塩洗浄液と比較する。本実施例では、HCPおよびHMWの除去に対する洗浄液のパラメータとしてのpHの分析を行い、塩基性pH条件が優位であること示す。実施例1の表1に記載の条件を使用したアフィニティー液体クロマトグラフィー(ALC)を、わずかに異なるレベルのHMWおよびHCPを用いて、mAb−Vaの細胞回収物に対して行う。
【0068】
本実施例で比較する洗浄液を以下の表13に記載する。
【表13】

【0069】
表13に示す6種の異なる洗浄液を使用した、mAb−Vaの精製に対する収率、溶出液中のHMW種のパーセントおよびHCPの減少(LRVとして表される)を以下の表14に示す。
【表14】

【0070】
表14は、高非緩衝塩単独(W2−N7)、Tween80(W7−N7−T80)、グリシン等の他のアミノ酸(W8−N7−0.1MG)または高濃度のトリス(W9−0.5Mトリス8.9LW)を含む他の洗浄液と比較して、高pHのアルギニン/非緩衝塩洗浄液(W3b−Arg/N8.9)は、HMWとHCPの両方を除去することにおいて最も有効な洗浄液であることを示す。
【0071】
実施例5:高pHのアルギニン/非緩衝洗浄液と低pHおよび高pHの塩単独との比較
本実施例では、高pHのアルギニン/非緩衝塩洗浄液の有効性を、高pHおよび低pHの非緩衝塩液と比較する。詳細に述べると、以下の条件、つまり(1)低pH(すなわち7.0)の非緩衝塩洗浄液、(2)高pH(すなわち9.0)の非緩衝塩洗浄液および(3)高pH(すなわち9.0)でアルギニンと組合せた非緩衝塩洗浄液を評価および比較する。さらに、HMW、LMWおよびHCPの除去に対するアルギニンの効果を分析し、塩基性pH条件でアルギニンと組合せた非緩衝塩液の使用が特に有効で有益であることを示す。本実施例で比較する洗浄液を以下の表15に記載する。
【表15】

【0072】
以下の表16で詳細に説明するように、実施例1の表1に記載の条件を使用するアフィニティー液体クロマトグラフィー(ALC)を、最小限の変動で異なるレベルのHMWおよびHCPを用いて、mAb−Byの細胞回収物に対して行う。
【表16】

【0073】
表15に示す3種の異なる洗浄液を使用して、(1)SEC由来抗体の濃度(g/L)、(2)HMW種およびLMW種のパーセント、(3)ng/mgモノクローナル抗体で表されるHCPレベルおよび(4)ALC溶出液中のALC由来収率というパラメータを、mAb−Byの精製に対して測定した。以下の表17にその結果を示す。
【表17】

【0074】
詳細に述べると、非緩衝塩単独を含む他の洗浄液(W2−N7およびW10−N9)と比較した場合、それらのpHに関係なく、9.0という高pHのアルギニン/非緩衝塩洗浄液(W3−Arg/N9)がHMW、LMWおよびHCPの除去に最も有効な洗浄液であることを表17は示す。特に、pHが7(W2−N7)またはpHが9(W10−N9)の非緩衝塩単独を用いた洗浄と比較して、pHが9.0のアルギニン/非緩衝塩洗浄液を用いた洗浄は、HCPを少なくとも3分の1、およびLMWを少なくとも4分の1減少させた。
【0075】
実施例6:アルギニン/塩洗浄液に対するアルギニンおよびNaClの濃度範囲ならびにpH範囲の比較
本実施例では、さらなるアルギニンおよび非緩衝塩の濃度ならびにpH洗浄条件について、アフィニティー液体クロマトグラフィー(ALC)中に不純物を除去することに対するそれらの有効性を決定づけるために検討する。本実施例で比較する洗浄液を以下の表18に記載する。
【表18】

【0076】
以下の表19で詳細に説明するように、最小限の変動でわずかに異なるレベルのHMWおよびHCPを用いて、mAb−Byの細胞回収物に対してALCを行う(実施例1の表1に記載の条件下で)。
【表19】

【0077】
(1)SEC由来抗体の濃度(g/L)、(2)HMW種およびLMW種のパーセント(%)、(3)ng/mgモノクローナル抗体で表されるHCPレベルおよび(4)ALC溶出液中のALC由来収率というパラメータを、表18に示す2種の異なった洗浄液のいずれかを使用したmAb−Byの精製後に測定した。これらの結果を以下の表20に示す。
【表20】

【0078】
表20に示すデータは、アフィニティー液体クロマトグラフィー用の使用に関して、高pHのアルギニン/非緩衝塩洗浄液の有効性を強調するものである。(1)pHが8.5でアルギニンおよび低い方の濃度の非緩衝塩(0.75MのNaCl)、(2)pHが9.5でアルギニンおよび高い方の濃度の非緩衝塩(1.25MのNaCl)または(3)低(例えば100mM)または高(例えば500mM)濃度のアルギニンのどちらかを用いた洗浄は、収率を損なうことなくHCPを顕著に減少させる(平均で>2logの減少)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的タンパク質が結合するアフィニティークロマトグラフィー(AC)マトリックスを使用して、精製された目的タンパク質を産生する方法であって、前記ACマトリックスから前記目的タンパク質を溶出する前に、(i)アルギニンまたはアルギニン誘導体および(ii)非緩衝塩を含む1種または複数の洗浄液で前記ACマトリックスを洗浄することを含む方法。
【請求項2】
(i)アルギニンまたはアルギニン誘導体および(ii)非緩衝塩の両方を含む1種の洗浄液で前記ACマトリックスが洗浄される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄液がアルギニン−HClを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記非緩衝塩が塩化ナトリウム(NaCl)である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ACマトリックスが一次洗浄液および二次洗浄液の2種の洗浄液で洗浄され、ここで、
(a)一次洗浄液がアルギニンまたはアルギニン誘導体を含み、二次洗浄液が非緩衝塩を含む、または
(b)一次洗浄液が非緩衝塩を含み、二次洗浄液がアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記目的タンパク質が前記プロテインAカラムに結合する抗体または抗体断片である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記1種または複数の洗浄液が前記ACマトリックスから不純物を除去する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
プロテインAカラムを使用して、精製された抗体または抗体断片を産生する方法であって、
a)抗体または抗体断片を含む混合物を前記プロテインAカラムに負荷すること、
b)(i)0.05〜0.85Mの範囲の濃度のアルギニン−HClおよび(ii)0.1〜2.0Mの範囲の濃度の塩化ナトリウムを含む洗浄液で前記プロテインAカラムを洗浄し、前記洗浄液が、前記プロテインAカラムから不純物を除去すること、および
c)前記プロテインAカラムから前記抗体または抗体断片を溶出すること
を含む方法。
【請求項9】
前記アルギニン−HClが0.25Mまたは約0.25Mの濃度である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記塩化ナトリウムが1Mまたは約1Mの濃度である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1種または複数の洗浄液のpHが8.0より高い、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記1種または複数の洗浄液のpHが約8.5〜9.5の範囲である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
もう1つの洗浄液のpHが9.0である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記不純物が高分子(HMW)種を含む、請求項7から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記不純物が宿主細胞タンパク質(HCP)を含む、請求項7から13のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−514073(P2013−514073A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543787(P2012−543787)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070076
【国際公開番号】WO2011/073389
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】