説明

洗浄用溶剤組成物

【課題】油が付着した被洗浄物に対して、洗浄効果の優れた溶剤組成物を提供することである。
【解決手段】(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン100重量部に対して、(b)1種以上の、一般式(1):R−O−R(1)(式中、Rは、少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基であり、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基である)で示される、ハイドロフルオロエーテル化合物を40〜450重量部含むことを特徴とする、油が付着した被洗浄物を洗浄するための溶剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄用溶剤組成物に関し、更に詳しくは、油が付着した被洗浄物を洗浄するための溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子部品、光学部品、自動車部品、及び機械部品の加工及び製造において、各種部品には、種々の油類、例えば、切削油、プレス油、引抜き油、熱処理油、防錆油、及び潤滑油等が付着するため、これらが付着した各種部品の洗浄工程が必要である。
【0003】
特許文献1には、(a)メチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテルおよびこれらの混合物から選ばれる少なくとも一種以上の化合物と(b)特定のグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも一種以上の化合物を含有することを特徴とする不燃性洗浄剤が記載されている。
特許文献2には、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(365mfc、化学式C)と、プロピレングリコール系溶剤とを含有し、引火性がないことを特徴とする洗浄用溶剤組成物が、洗浄能力、特に脱脂洗浄能力の大幅なアップが図れ、各種洗浄剤としては、十分な性能を発揮させることができることが記載されている。
いずれの文献においても、鉱物油に対する洗浄剤が開示されているが、様々な種類の油に対して優れた洗浄効果を発揮する溶剤組成物は開示されておらず、様々な種類の油のいずれに対しても優れた洗浄効果を有する洗浄剤としては、HCFC225(3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンと1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンの混合物)などの塩素系溶剤が用いられているが、オゾン破壊係数が高く、規制の対象となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−80893号公報
【特許文献2】特開2003−129090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、様々な種類の油による汚れに対して優れた洗浄力を発揮する洗浄用溶剤組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(365mfc)、及び1種以上の特定のハイドロフルオロエーテル化合物を主成分とする溶剤組成物が、油が付着した被洗浄物に対して優れた洗浄効果を有することを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン100重量部に対して、(b)1種以上の、一般式(1):
−O−R (1)
(式中、
は、少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜4のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基である)
で示される、ハイドロフルオロエーテル化合物を40〜450重量部含むことを特徴とする、油が付着した被洗浄物を洗浄するための溶剤組成物に関する。
また、本発明は、さらに、(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対して、(c)炭化水素系溶剤を0.1重量部〜50重量部含む、前記に記載の溶剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の溶剤組成物は、油が付着した被洗浄物に対して良好な洗浄効果を奏する。また、本発明の溶剤組成物は、乾燥性に優れるため本発明の溶剤組成物を用いて洗浄した被洗浄物には洗浄しみが存在せず、さらに毒性も少なく、安全性の面からも非常に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の溶剤組成物は、(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン100重量部に対して、(b)1種以上の、一般式(1):
−O−R (1)
(式中、
は、少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜4のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基である)
で示される、ハイドロフルオロエーテル化合物を40〜450重量部含む。
【0010】
本発明において、少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であってよく、好ましくは、下記式(2):
(2n−m+1)− (2)
(式中、
nは、3〜6の整数であり、
mは、0又は1〜6の整数であり、そして
m≦nである)
で示される基であり、特に好ましくは、下記式(3):
(2n+1)− (3)
(式中、nは、3〜6の整数である)
で示されるペルフルオロアルキル基である。
【0011】
このような少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基の具体例は、−CH、−C、−CH(CH)CFCHFCF、及び−CFCHFCFなどのハイドロフルオロアルキル基、並びに−C、−CF(CF)CF、−C、−CF(CF)CFCF、及び−CF(C)CF(CF)CFなどのペルフルオロアルキル基が挙げられる。
【0012】
炭素原子数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基が挙げられ、好ましくはメチル基及びエチル基である。
【0013】
よって、一般式(1)で示されるハイドロフルオロエーテルとしては、メチルパーフルオロエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、メチルノナフルオロイソブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロイソブチルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロ−3−メトキシ−4−(トリフルオロメチル)ペンタン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)−ペンタンが挙げられ、メチルノナフルオロブチルエーテル、メチルノナフルオロイソブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロイソブチルエーテルが好ましい。
【0014】
以上より、(b)成分として、メチルノナフルオロブチルエーテル、メチルノナイソブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナイソブチルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル及びメチルノナイソブチルエーテルの混合物、並びにエチルノナフルオロブチルエーテル及びエチルノナイソブチルエーテルの混合物が好ましい。
【0015】
(b)成分において、2以上のハイドロフルオロエーテル化合物の混合物を用いる場合、これらの成分の含有量の比は任意であってよい。例えば、(b)成分として、メチルパーフルオロブチルエーテル及びメチルパーフルオロイソブチルエーテルの混合物を用いる場合、メチルパーフルオロブチルエーテル及びメチルパーフルオロイソブチルエーテルの混合物の重量に対して、メチルパーフルオロブチルエーテルは5〜95重量%が好ましく、50〜80重量%がより好ましい。このようなハイドロフルオロエーテルは、市販品として、住友スリーエム社より、HFE7000、HFE7100、HFE7200、HFE7300、HFE7600などのノベックHFEシリーズが挙げられる。
【0016】
本発明において、(b)1種以上の一般式(1)で示されるハイドロフルオロエーテル化合物が40重量部未満であると、特にフッ素オイルを被洗浄物から効率よく洗浄除去することが難しく、450重量部を超えると、特に鉱物油などに対する洗浄効果が劣るので好ましくない。本発明の溶剤組成物は、(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン100重量部に対して、(b)1種以上の一般式(1)で示されるハイドロフルオロエーテルを50〜400重量部含むのが好ましく、70〜350重量部含むのがより好ましい。
【0017】
また、本発明の溶剤組成物は、例えばフッ素オイルが付着した被洗浄物を洗浄するために、(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン100重量部に対して、(b)1種以上の一般式(1)で示されるハイドロフルオロエーテル化合物を100〜450重量部含むのが好ましく、150〜450重量部含むのがより好ましい。さらに、本発明の溶剤組成物は、鉱物油が付着した被洗浄物を洗浄するために、(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン100重量部に対して、(b)1種以上の一般式(1)で示されるハイドロフルオロエーテル化合物を40〜100重量部含むのが好ましく、40〜70重量部含むのがより好ましい。このような範囲であれば、油が付着した被洗浄物に対する浸透力が高くなり、洗浄時間が短くなる点で良好である。また、洗浄後に被洗浄物に洗浄しみが残らず、かつ被洗浄物に対する乾燥性が優れ、洗浄時間が短くなり、さらなるすすぎ工程を必要としない点で良好である。また、本発明において、(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン及び(b)1種以上の一般式(1)で示されるハイドロフルオロエーテル化合物は、全溶剤に対して10重量%〜100重量%の含有量で含まれる。
【0018】
本発明の溶剤組成物は、更なる洗浄力の向上のために(c)炭化水素系溶剤を添加することができる。炭化水素系溶剤として、パラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、芳香族系炭化水素、並びにパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素及び芳香族系炭化水素からなる群より選択される2以上の炭化水素の混合物が挙げられる。
【0019】
パラフィン系炭化水素は、直鎖状の脂肪族炭化水素であり、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、n−ヘキサデカン、n−エイコサン、n−テトラコサン、及びn−ヘキサコサン等が挙げられる。
【0020】
イソパラフィン系炭化水素は、分岐状の脂肪族炭化水素であり、例えば、ヘキサメチルエタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、2,2,4−トリメチルヘプタン、2,3−ジメチルヘプタン、2−メチルノナン、2−メチル−3−エチルヘプタン、2−メチルデカン、2,3,4−トリメチルデカン、2,3−ジメチルウンデカン、2−メチルドデカン、2−メチルプロピル−3−ドデカン、2−エチルウンデカン、及び2−メチルトリデカン等が挙げられる。
【0021】
ナフテン系炭化水素は、炭化水素基を置換基として有していてもよい環状構造有する脂肪族飽和炭化水素であり、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、2−メチルプロピルシクロヘキサン、2−シクロヘキシルオクタン、9−シクロヘキシルヘプタデカン、1,2−ジシクロヘキシルエタン、及び1,1−ジシクロヘキシルテトラデカン等が挙げられる。
芳香族系炭化水素としては、例えば、1,2−ジフェニルエタン、1,1−ジフェニルテトラデカン、9−n−ドデシルフェナントレン、及び9−n−ドデシルアントラセン等が挙げられる。
【0022】
本発明において、(c)炭化水素系溶剤の含有量は、(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜50重量部であり、より好ましくは0.1〜30重量部である。
【0023】
本発明の溶剤組成物は、さらに、安定剤、アルコール、及びグリコールエーテルモノアルキルエーテルから選択される1以上の(d)添加剤を含むことができる。
【0024】
安定剤として、ニトロアルカン系安定剤、エポキシド系安定剤、及びエーテル系安定剤が挙げられる。ニトロアルカン系安定剤としては、例えばニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン及び2−ニトロプロパンが挙げられ、毒性が少ないことからニトロメタン及びニトロエタンが好ましい。エポキシド系安定剤としては、1,2−ブチレンオキシド、プロピレンオキシド及びグリシドール等が挙げられる。エーテル系安定剤としては、1,3−ジオキソラン等が挙げられる。
【0025】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール及びイソプロパノール等が挙げられ、エタノール及びイソプロパノールが好ましい。
【0026】
グリコールエーテルモノアルキルエーテルとして、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられ、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0027】
本発明において、(d)添加剤の含有量の合計量は、(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜10重量部であり、より好ましくは1〜5重量部である。
【0028】
本発明の溶剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内において、さらに防錆剤、界面活性剤、紫外線吸収剤及び酸化防止剤を含むことができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。これらそれぞれの成分の含有量は、(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対して、0.1重量部〜5重量部含むことが好ましく、0.1重量部〜3重量部含むことがより好ましい。
【0029】
防錆剤としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アミノメチルプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン及びN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミンが挙げられ、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミンが特に好ましい。
【0030】
本発明の溶剤組成物は、フッ素オイル及び鉱物油に対する溶解速度の向上のために、界面活性剤を含有することができる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましく、例えば高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
本発明の溶剤組成物は、洗浄液の長期保存等における安定性の向上のために、紫外線吸収剤及び酸化防止剤を含有することができる。紫外線吸収剤は、本発明の溶剤組成物に溶解するものであればいずれも使用することができ、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びヒンダードアミン系紫外線吸収剤が挙げられる。酸化防止剤は、本発明の溶剤組成物に溶解するものであればいずれも使用することができ、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、及びリン系等酸化防止剤が挙げられる。
【0032】
本発明の溶剤組成物は、原料成分である(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、(b)1種以上の一般式(1)で示されるハイドロフルオロエーテル化合物、並びに場合により更に含まれる成分、例えば(c)炭素水素系溶剤、(d)添加剤、防錆剤、界面活性剤、及び紫外線吸収剤及び酸化防止剤を混合することにより製造することができる。
【0033】
本発明の溶剤組成物は、油が付着した被洗浄物を洗浄するための組成物として用いることができる。本発明において、洗浄とは、油が付着した被洗浄物から、油を除去することをいう。本発明において、油としては、常温、例えば20℃において液体であり、水に溶解せず、粘性を感じるものであれば特に限定されないが、例えばフッ素オイル、鉱物油、及びシリコーンオイルが挙げられる。よって、本発明の溶剤組成物の用途として、例えば、油により汚染された被洗浄物用の洗浄剤、例えば切削油、プレス油、引抜き油、熱処理油、防錆油、及び潤滑油により汚染された被洗浄物用の洗浄剤が挙げられる。また本発明の溶剤組成物が、(a)成分及び(b)成分からなる場合は、各種洗浄剤により洗浄された被洗浄物のためのリンス洗浄剤や仕上げ洗浄剤として使用することもできる。
【0034】
本発明において、フッ素オイルとは、ポリアルキルエーテル化合物における水素原子の一部又は全部をフッ素で置換した物質であり、塩素及び臭素等のハロゲン、リン、硫黄、及び窒素などの更なる原子を含んでいてもよい。フッ素オイルは、常温で液状又はグリース状である。本発明において、フッ素オイルは、例えば一般式(4):
CF3CF2CF2O−(CF(CF3)CF2O)−CF2CF3 (4)
(式中、xは、1以上の整数である)、
一般式(5):
HOCH2CF2O−(CF2CF2O)p−(CF2O)q−CF2CH2OH (5)
(式中、p及びqは、互いに独立して、1以上の整数である)、
又は、一般式(6):
F−(CF2CF2CF2O)−CF2CF2O−CH2OH (6)
(式中、yは、1以上の整数である)
で示される構造を有する。
【0035】
上記のフッ素オイルは、市販品として、例えばソルベイソレクシス社製のフォンブリン Y−LVAC、Y−HVAC、Y04、及びYR;NOKクリューバー社製のバリエルタ(BARRIERTA)J100フルード、バリエルタJ25フルード、バリエルタJ400フルード、バリエルタJ25V、バリエルタSJ07、バリエルタSJ15、及びバリエルタSJ30;デュポン株式会社製のクライトックス1506、クライトックス1514、及びクライトックス1525;ダイキン工業株式会社製のデムナムS−20等が挙げられる。本発明の溶剤組成物は、フッ素オイルのなかで、一般式(4)及び(5)で示されるパーフルオロアルキルエーテルオイルに対して特に優れた洗浄効果を有する。
【0036】
鉱物油とは、天然の石油由来の油分で、精製蒸留されて得られる液状及びグリース状の化学物質である。鉱物油に含まれる成分として、例えばパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、芳香族系炭化水素、並びにパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素及び芳香族系炭化水素からなる群より選択される2以上の炭化水素の混合物が挙げられる。これら炭化水素の具体例は上記の炭化水素系溶剤の具体例として挙げられた炭化水素が挙げられる。このような鉱物油は、市販品として、出光興産株式会社製のアリソールエース、アイソールソフト、及びアイソール;ジャパンエナジー社製のニッコーホワイトN−10;エクソン化学社製エクソンD−40、及びエクソンナフサNo−5等が挙げられる。本発明において、鉱物油が付着した被洗浄物を洗浄するための溶剤組成物として、(c)成分を含まない溶剤組成物が好ましい。また、本発明の溶剤組成物は、鉱物油のなかで、パラフィン系炭化水素油及びナフテン系炭化水素系油の混合物に対して特に優れた洗浄効果を有する。
【0037】
本発明において、シリコーンオイルとは、シロキサン結合からなる直鎖状ポリマーであるシリコーンオイルであり、主にジメチルシリコーンオイルやメチルフェニルシリコーンオイルの側鎖又は末端に、カルボキシル基、アミノ基、又はエポキシ基などの他の有機基を導入したものであってもよい。このようなシリコーンオイルの具体例としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ポリオキシエチレン−メチルポリシロキサンなどが挙げられる。このようなシリコーンオイルとしては、市販品として、信越化学社製KF−96L−2CSが挙げられる。
【0038】
本発明の溶剤組成物を用いて洗浄される被洗浄物は、油が付着した、すなわち油により汚染された各種部品が挙げられる。このような部品として、電気・電子部品、光学部品、自動車部品、及び機械部品等が挙げられる。なお、本発明の被洗浄物は、日常的なメンテナンス用、1日に1回〜2回洗浄される被洗浄物であるか、オーバーホール用、例えば6か月〜1年に1回洗浄される被洗浄物であってもよい。
【0039】
電気・電子部品としては、プリント配線基板、及びセラミック配線基板などの配線基板が挙げられる。
光学部品としては、カメラ用のレンズ及びカメラ筐体が挙げられる。
自動車部品としては、自動車用のシャフトやフレーム部品、外装部品等に用いられる金属製部品が挙げられる。
機械部品としては、真空ポンプ、半導体製造装置、洗浄装置、モーター、ファンなどの軸受、時計などの精密機械用部品などの軸受などの部品が挙げられる。
これらの部品は、金属製又は樹脂製であり、その形状は板状部材に限らず、断面円形状や矩形状のパイプ状部材や長尺部材であったり、その他、複雑な形状を有する部材であったりする。なお、本発明の溶剤組成物は、洗浄後の乾燥性に優れるため、プリント基板や各種樹脂製部品に付着した塵や埃もあわせて除去することができる。
【0040】
本発明において、被洗浄物を洗浄する方法は、本発明の溶剤組成物を、油が付着した被洗浄物と接触させる工程を含む。本発明の溶剤組成物と、油が付着した被洗浄物とを接触させるための方法としては、特に制限はなく、溶剤組成物への前記被洗浄物の浸漬、溶剤組成物を含浸したスポンジによる前記被洗浄物の拭き取り、及び前記被洗浄物に対する溶剤組成物のスプレー等が好ましく、浸漬による方法がより好ましい。浸漬による方法において、洗浄効果を高めるために、浸漬と同時に、攪拌、揺動、超音波振動、又はエアバブリング等による手段を組み合わせることが好ましく、超音波振動による手段を組み合わせることがより好ましい。超音波振動は、発振周波数が20〜100kHzであり、発振出力が10〜500Wであるのが好ましい。エアバブリングでは、微細な気泡を、ガス及び溶剤組成物の体積比が1:1〜5:1となるように通気することが好ましい。
【0041】
本発明において、溶剤組成物及び被洗浄物の接触時間に相当する洗浄時間は、被洗浄物に付着した油を洗浄除去できる時間であれば特に制限されない。例えば、超音波振動を組み合わせた浸漬による方法における、油が付着した被洗浄物を洗浄するための洗浄時間は、好ましくは5秒間〜5分間、特に好ましくは10秒間〜1分間であり、浸漬による方法における、油が付着した被洗浄物を洗浄するための洗浄時間は、好ましくは10分〜5時間、特に好ましくは30分〜2時間である。上記洗浄時間未満である場合は洗浄が不十分で、付着した油を被洗浄物から十分に除去できない場合があり、一方、上記洗浄時間を超えた場合は、洗浄効果が格別向上しない。
【0042】
本発明において洗浄温度は、好ましくは20〜120℃である。このような温度において、より高温で処理することにより洗浄効果を上昇させることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0044】
実施例1〜6及び比較例1〜5の溶剤組成物を、表1で示される組成で各成分を混合することにより調製した。
【0045】
【表1】

【0046】
試験例1 フッ素オイル
(1−1)フッ素オイルの溶解
フッ素オイルとして、NOK製バリエルタJ100フルード(BARRIERTA J100 FLUID、(フッ素オイル(1)))及びソルベイソレクシス社製フォンブリン Y−LVAC(フッ素オイル(2))を用いた。試験管に、実施例1〜6及び比較例1〜4の各溶剤組成物5gを入れた。そこにフッ素オイル1gを添加し、充分に撹拌した後、1時間静置させた。静置後、混合液の濁り、分離の発生の有無を目視により判定した。試験例1の結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
試験例2 鉱物油
(2−1)鉱物油を塗布したステンレス板の作成
鉱物油として、出光興産社製アイソールエースを用いた。この鉱物油を、4cm×4cm角、厚さ0.4mmのステンレス板に0.1gを滴下し、刷毛を用いて全体に塗布し、鉱物油が付着したステンレス板を得た。アイソールエースは、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素油の混合物を主成分とするものである。
(2−2)被洗浄物の洗浄及び乾燥
被洗浄物の洗浄のため、200mlのビーカーに、実施例1〜6及び比較例1〜4の各溶剤組成物150gを入れた。鉱物油が付着したステンレス板を、実施例1〜6及び比較例1〜4の溶剤組成物に浸漬させて、超音波洗浄機(発信周波数38kHz、出力360W)にて、1分間洗浄を行った。洗浄後、ステンレス板を取り出して、室温にて10分間放置し、ステンレス板状上の鉱物油の液残留を目視により判定した。結果を表3に示す。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の溶剤組成物は、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン並びに1種以上の一般式(1)で示されるハイドロフルオロエーテル化合物を主成分として含有するため、塩素系溶剤と比較して毒性が少ない。また、本発明の洗浄用溶剤組成物は、フッ素オイル及び鉱物油をはじめとする様々な種類の油に対して優れた溶解力を発揮し、油が付着した被洗浄物に対して良好な洗浄効果を有する。よって、本発明の溶剤組成物は、油の洗浄剤として工業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン100重量部に対して、
(b)1種以上の、一般式(1):
−O−R (1)
(式中、
は、少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜4のアルキル基、又は少なくとも1つのフッ素原子で置換された炭素原子数3〜6のアルキル基である)
で示される、ハイドロフルオロエーテル化合物を40〜450重量部含むことを特徴とする、油が付着した被洗浄物を洗浄するための溶剤組成物。
【請求項2】
さらに、(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対して、(c)炭化水素系溶剤を0.1重量部〜50重量部含む、請求項1記載の溶剤組成物。

【公開番号】特開2012−121948(P2012−121948A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271709(P2010−271709)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(597115750)株式会社カネコ化学 (12)
【Fターム(参考)】