説明

洗浄装置

【課題】洗浄液の減圧沸騰および突沸の有無を切り替えることのできる洗浄装置を提供する。
【解決手段】減圧手段5により洗浄槽3内を減圧後、液相給気弁18を開いて、洗浄槽3の内外の差圧により被洗浄物2よりも下方から洗浄槽3内の水溶液中に外気を導入する。減圧手段5による洗浄槽3内の減圧は、洗浄槽3内の水溶液が所定温度未満の場合には、水溶液を沸騰させるが、洗浄槽3内の水溶液が所定温度以上の場合には、水溶液を沸騰させない範囲の減圧に止める。水溶液を沸騰させた場合、その後の水溶液中への外気導入により、その気泡を核として、水溶液を突沸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具の他、電子部品や機械部品などを洗浄する洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示される洗浄装置が知られている。この特許文献1に記載の洗浄装置は、その[0033]および[0034]に記載のとおり、排気装置(30)を稼働させた状態で排気弁(23b)を開放して、洗浄槽(20)内を減圧して、洗浄液(24)を沸騰させる。その後、[0037]に記載のとおり、排気弁(23b)を閉鎖した状態でリーク弁(26)を開放し、洗浄槽(20)の内外の差圧により導気管(25)から外気を導入する。このようにして、[0038]に記載のとおり、導入された外気が気泡となって被洗浄物に接触したり、その気泡によって洗浄液を揺動したり、或いは圧力解放時の衝撃によって、洗浄効果を得ようとするものである。
【0003】
しかしながら、前記特許文献1に記載の洗浄装置は、洗浄槽内を減圧して洗浄液を沸騰させた後、「排気弁23bを閉鎖し、リーク弁26を開放」して、液相部に外気を導入する。この場合、排気弁を閉じた時点で、気相部は直ちに蒸気で満たされ、洗浄液の沸騰は止むことになる。従って、特許文献1に記載の洗浄装置は、洗浄液の沸騰中に液相部に外気を導入するものではなく、それ故、洗浄液を突沸(激しく沸騰)させることもできない。
【0004】
これに対し、出願人は、先に、下記特許文献2に開示されるように、洗浄液を設定温度まで加温後、洗浄槽内を減圧して洗浄液を沸騰させ、この沸騰中に洗浄槽内からの排気を継続しつつ液相部に外気を導入して、洗浄液を突沸させることで、被洗浄物の洗浄を図る洗浄装置を提案している。
【0005】
この装置では、洗浄液が沸騰している最中に、外気は、大気圧との差圧により自然に吸い込まれる。この場合、液中に導入された気泡の圧力は、最初の気泡が気相部に達するまで、洗浄槽内の圧力そのものとなる。従って、液中に空気泡を導入したことによって、導入された気体を沸騰の核として、導入された気泡は爆発的に膨張する。具体的には、液中に導入された気泡は、減圧下の洗浄槽内において膨張すると共に、液体の沸騰蒸気が入り込むことでさらに膨張しつつ、液相部を上昇する。このようにして液体を突沸させ、液体の爆発的な噴上げとそれに続く落下とによって、液体を大きく揺動させて、被洗浄物を効果的に洗浄することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−10509号公報(段落番号0025−0041、図1)
【特許文献2】国際公開第2010/137212号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような突沸を用いた洗浄装置について、発明者らは、その後も鋭意研究に努めた結果、液相部への給気による突沸は、洗浄槽内の液体の温度(洗浄槽内の圧力ともいえる)に左右されることを知見した。すなわち、液体が高温になるほど、洗浄槽内における液体の上層と下層での温度差が小さくなるため、沸騰の核となる空気泡を導入しても、過熱領域ができず、突沸が起きにくいことが分かった。
【0008】
具体的に説明すると、図5は、洗浄槽内の液体の飽和圧力と飽和温度との関係を示す図であるが、同じ圧力差ΔP(具体的には洗浄槽内の貯留液の上層と下層との水頭圧による圧力差)であっても、それに対応する温度差ΔT,ΔT´が高圧になるほど小さくなることが分かる(ΔT>ΔT´)。そして、液体を突沸させるには、液中に過熱領域が必要であるので、温度差は小さくなるのは突沸の誘発には不利となる。
【0009】
このように、突沸現象の有無は、洗浄液の温度に左右され、洗浄液が高温の場合、沸騰中に液相部に給気しても、突沸現象が生じにくいことが分かった。しかも、洗浄液が高温の場合、減圧沸騰させると温度低下が著しくなるので、洗浄効果が薄いのに洗浄液の冷却だけがなされるという不都合もある。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、突沸の有無を予測して、最適な洗浄運転を実行する洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、水溶液を貯留して被洗浄物を浸漬する洗浄槽と、この洗浄槽内の水溶液を加温する加温手段と、前記洗浄槽内の気相部に接続され、前記洗浄槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記洗浄槽内を減圧する減圧手段と、前記洗浄槽内の液相部に接続され、前記洗浄槽内を減圧した状態で液相給気弁を開く液相給気手段とを備え、前記減圧手段により前記洗浄槽内を減圧後、前記液相給気弁を開いて、前記洗浄槽の内外の差圧により前記被洗浄物よりも下方から前記洗浄槽内の水溶液中に外気を導入し、前記減圧手段による前記洗浄槽内の減圧は、前記洗浄槽内の水溶液の温度が所定温度未満の場合には、前記洗浄槽内の気相部の圧力を前記洗浄槽内の水溶液の蒸気圧以下まで下げて水溶液を沸騰させるが、前記洗浄槽内の水溶液の温度が所定温度以上の場合には、前記洗浄槽内の気相部の圧力を前記洗浄槽内の水溶液の蒸気圧以下とならない圧力までの減圧に止めて水溶液を沸騰させないことを特徴とする洗浄装置である。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、洗浄槽内の水溶液が所定温度未満の場合には、水溶液を減圧沸騰させた後、液相部への給気により水溶液を突沸させるが、洗浄槽内の水溶液の温度が所定温度以上の場合には、水溶液を減圧沸騰させない範囲での減圧に止めて、液相部への給気による洗浄を図ることで、水溶液の過度の温度低下を防止しつつ被洗浄物の洗浄を図ることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記所定温度は、60〜95℃の範囲で設定されることを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置である。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、60〜95℃の範囲で設定される所定温度より低ければ、洗浄槽内の水溶液に沸騰や突沸を生じさせる運転を行い、前記所定温度より高ければ、洗浄槽内の水溶液に沸騰や突沸を生じさせない運転を行うことで、水溶液の過度の温度低下を防止しつつ、被洗浄物を効果的に洗浄することができる。
【0015】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記加温手段による第一設定温度までの水溶液の加温と、前記液相給気弁を閉じた状態において設定条件を満たすまでの前記減圧手段による前記洗浄槽内の減圧と、前記液相給気弁を開くことによる水溶液中への外気の導入とを順に繰り返し、前記設定条件は、前記洗浄槽内の水溶液が第二設定温度となるか、前記洗浄槽内が前記第二設定温度を飽和温度とする圧力となるまでとされ、前記第二設定温度が前記所定温度未満の場合には、前記減圧手段による前記洗浄槽内の減圧により水溶液が沸騰し、この沸騰中に前記液相給気弁を開いて水溶液中に外気を導入して水溶液を突沸させ、前記第二設定温度が前記所定温度以上の場合には、前記減圧手段による前記洗浄槽内の減圧により水溶液が沸騰せず、その状態で前記液相給気弁を開いて水溶液中に外気を導入することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の洗浄装置である。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、水溶液の加温と、洗浄槽内の減圧と、水溶液中への外気の導入とを繰り返すに際し、水溶液の温度に応じて、水溶液中に沸騰や突沸を生じさせるか否かを切り替えることで、水溶液の過度の温度低下を防止しつつ、被洗浄物を効果的に洗浄することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、突沸の有無を予測して、最適な洗浄運転を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の洗浄装置の一実施形態を示す概略図であり、一部を断面にして示している。
【図2】図1の洗浄装置の運転状態を示す図であり、グラフは、洗浄槽内の液温Tと経過時間tとの関係を示しており、(A)から(C)は、グラフと対応して示すタイムチャートである。
【図3】洗浄槽内の温度および圧力と経過時間との関係を示す図であり、本発明によらず、第二設定温度が所定温度以上の場合でも、敢えて液体を減圧沸騰させた場合を示している。
【図4】洗浄槽内の温度および圧力と経過時間との関係を示す図であり、本発明によって、第二設定温度が所定温度以上の場合には、液体を減圧沸騰させない場合を示している。
【図5】洗浄槽内の液体の飽和圧力と飽和温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の洗浄装置の一実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の洗浄装置の一実施形態を示す概略図であり、一部を断面にして示している。本実施形態の洗浄装置1は、液体(洗浄液)を貯留して被洗浄物2を浸漬する洗浄槽3と、この洗浄槽3内の液体を加温する加温手段4と、洗浄槽3内の気体を外部へ吸引排出して洗浄槽3内を減圧する減圧手段5と、減圧された洗浄槽3内の液相部へ外気を導入する液相給気手段6と、減圧された洗浄槽3内の気相部へ外気を導入する気相給気手段7とを備える。さらに、洗浄装置1は、洗浄槽3内の気相部の圧力を検出する圧力センサ8と、洗浄槽3内の液相部の温度を検出する温度センサ9と、これらセンサ8,9の検出信号などに基づき前記各手段4〜7を制御する制御手段(図示省略)とを備える。
【0020】
洗浄槽3は、内部空間の減圧に耐える中空容器である。洗浄槽3は、上方へ開口して中空部を有する本体10と、この本体10の開口部を開閉する扉11とを備える。扉11を閉じた状態で、本体10と扉11との隙間はパッキン12で封止される。これにより、本体10の中空部は密閉され、洗浄槽3内に密閉空間が形成される。
【0021】
洗浄槽3には、被洗浄物2が収容されると共に、液体が設定液位(被洗浄物2の浸漬状態で洗浄槽3内の底面からたとえば150〜250mm、本実施形態では200mm)まで貯留される。なお、洗浄槽3内に貯留される液体は、水溶液であれば特に問わず、たとえば水(具体的には純水)、または洗剤を含んだ水である。本実施形態では、洗剤を0.5%含んだ水である。また、被洗浄物2は、洗浄を図りたい物品であり、たとえば、医療器具、電子部品または機械部品である。
【0022】
洗浄槽3には、洗浄槽3内の気相部の圧力を検出する圧力センサ8と、洗浄槽3内の液相部の温度を検出する温度センサ9とが設けられる。
【0023】
加温手段4は、洗浄槽3内の液体を加温する。加温手段4は、その具体的構成を特に問わないが、本実施形態では、洗浄槽3内の底部に配置された電気ヒータ13である。この場合、洗浄槽3内に液体を貯留した状態で、電気ヒータ13に通電することで、洗浄槽3内の液体を加温することができる。
【0024】
減圧手段5は、洗浄槽3内の気相部に接続され、洗浄槽3内の気体を外部へ吸引排出して洗浄槽3内を減圧する。具体的には、減圧手段5は、真空発生装置14を備え、この真空発生装置14は、排気路15を介して、洗浄槽3内の気相部に接続されている。真空発生装置14は、その具体的構成を特に問わないが、典型的には水封式の真空ポンプを備え、この真空ポンプより上流側に、排気路15内の蒸気を凝縮させる熱交換器をさらに備えてもよい。また、排気路15には、洗浄槽3の出口において、洗浄槽3内からの気体中に含まれる液滴や固形物を除去するために、デミスターのような気水分離器を設けてもよい。
【0025】
液相給気手段6は、洗浄槽3内の液相部に接続され、洗浄槽3内の圧力と洗浄槽3外の大気圧との差圧により、洗浄槽3内の液相部に外気を導入する。具体的には、液相給気手段6は、減圧された洗浄槽3内の液相部に、液相給気路16を介して外気を導入する。液相給気路16には、洗浄槽3へ向けて順に、フィルター17および液相給気弁18が設けられている。従って、洗浄槽3内が減圧された状態で液相給気弁18を開くと、洗浄槽3の内外の差圧により、フィルター17を介した空気を、洗浄槽3内の液相部に導入することができる。
【0026】
ところで、本実施形態では、液相給気路16からの空気は、洗浄槽3内の底部に設けた液相給気ノズル19を介して、洗浄槽3内の液中に導入される。液相給気ノズル19は、洗浄槽3内の底部に、横向きに配置されたパイプである。このパイプは、本実施形態では、洗浄槽3内の底部を蛇行するよう設けられている。また、このパイプは、洗浄槽3内の底部ではあるが底面から離隔して、水平に保持されている。さらに、このパイプには、その延出方向へ沿って設定間隔で、パイプの周側壁にノズル孔20が下方へ開口して形成されている。これにより、洗浄槽3内が減圧された状態で液相給気弁18を開くと、洗浄槽3内の液中に均質に空気を導入することができる。
【0027】
気相給気手段7は、洗浄槽3内の気相部に接続され、洗浄槽3内の圧力と洗浄槽3外の大気圧との差圧により、洗浄槽3内の気相部に外気を導入する。具体的には、気相給気手段7は、減圧された洗浄槽3内の気相部に、気相給気路21を介して外気を導入する。気相給気路21には、洗浄槽3へ向けて順に、フィルター22および気相給気弁23が設けられている。従って、洗浄槽3内が減圧された状態で気相給気弁23を開くと、洗浄槽3の内外の差圧により、フィルター22を介した空気を、洗浄槽3内の気相部に導入することができる。
【0028】
制御手段は、前記各センサ8,9の検出信号などに基づき、前記各手段4〜7を制御する。具体的には、電気ヒータ13、真空発生装置14、液相給気弁18、気相給気弁23の他、圧力センサ8および温度センサ9は、制御手段に接続されている。そして、制御手段は、以下に述べるように、所定の手順(プログラム)に従い、洗浄槽3内の被洗浄物2の洗浄を図る。
【0029】
以下、本実施形態の洗浄装置1の運転方法の一例について説明する。
図2は、本実施形態の洗浄装置1の運転状態を示す図であり、グラフは、洗浄槽3内の液温Tと経過時間tとの関係を示しており、(A)から(C)は、グラフと対応して示すタイムチャートである。ここで、(A)は電気ヒータ13の作動の有無を示し、(B)は真空発生装置14の作動の有無を示し、(C)は液相給気弁18の開閉を示している。
【0030】
まず、洗浄槽3内に被洗浄物2を収容すると共に液体を貯留することで、洗浄槽3内の貯留液に被洗浄物2を浸漬した状態とする。その後、洗浄槽3内の液体を第一設定温度T1まで加温する加温動作S1と、設定条件を満たすまで洗浄槽3内を減圧する減圧動作S2と、洗浄槽3内の液中に外気を導入する液相給気動作S3とを順に実行する。その後、所望により、所定の終了条件を満たすまで、加温動作S1と、減圧動作S2と、液相給気動作S3とを繰り返す。以下、まずは第一回目の各動作S1〜S3について説明し、その後、第二回目以降の各動作S1〜S3について説明する。
【0031】
第一回目の加温動作S1では、洗浄槽3内の液体が第一設定温度T1になるまで、洗浄槽3内の液体を加温する。具体的には、液相給気弁18および気相給気弁23を閉じると共に真空発生装置14を停止した状態で、電気ヒータ13を作動させればよい。加温動作S1中、温度センサ9により洗浄槽3内の液体の温度を監視して、洗浄槽3内の液体が第一設定温度T1になれば、電気ヒータ13を停止させて加温動作S1を終了する。なお、この加温動作S1では、洗浄槽3内の液体を沸騰させない範囲で真空発生装置14により洗浄槽3内を減圧し、その後、液相給気弁18を開いて液相部に外気を導入して、洗浄槽3内の液体を撹拌する動作を適宜行ってもよい(図4)。
【0032】
第一回目の減圧動作S2は、設定条件を満たすまで、減圧手段5を用いて洗浄槽3内を減圧する。具体的には、液相給気弁18および気相給気弁23を閉じた状態で、真空発生装置14を作動させればよい。前記設定条件としては、洗浄槽3内の液体が第二設定温度T2となるか、洗浄槽3内が第二設定圧力P2となるか、あるいはこれらを満たす設定時間が経過するまでとされる。なお、第二設定温度T2は、第二設定圧力P2における飽和温度であり、逆にいうと、第二設定圧力P2は、第二設定温度T2における飽和圧力であり、第二設定温度T2と第二設定圧力P2とは所定の関係にある。
【0033】
第一回目の液相給気動作S3は、減圧手段5の作動を継続して洗浄槽3内からの排気を継続したまま、液相給気手段6を用いて、洗浄槽3の内外の差圧により被洗浄物2よりも下方から洗浄槽3内の液体中に外気を導入する。具体的には、真空発生装置14の作動を継続したまま、液相給気弁18を開いて、大気圧との差圧により、フィルター17、液相給気路16および液相給気ノズル19を介して、貯留液中に外気を導入する。
【0034】
液相給気手段6により液相部に供給された空気は、やがて気相部に達し、洗浄槽3内を復圧する。液相給気動作S3において、洗浄槽3内を大気圧まで復圧してもよいが、加温動作S1、減圧動作S2および液相給気動作S3のセットを繰り返す場合には、洗浄槽3内を大気圧まで復圧してしまうと次回の減圧動作において減圧時間に無駄を生じるので、大気圧未満の所定圧力までの復圧で止めるように、液相給気弁18を閉じるのがよい。
【0035】
第二設定温度T2が所定温度未満の場合、減圧動作S2において、洗浄槽3内の気相部の圧力は洗浄槽3内の液体の蒸気圧以下まで下げられて、洗浄槽3内の液体は沸騰する。そして、液相給気動作S3において、液体の沸騰中に液相給気弁18を開いて、液中に外気を導入して液体は突沸する。
【0036】
突沸現象が生じる理由は、次のとおりである。すなわち、まず、液中に導入された気泡の圧力は、最初の気泡が気相部に達するまで、洗浄槽3内の圧力そのものとなる。従って、液中に空気泡を導入したことによって、導入された気体を沸騰の核として、導入された気泡は爆発的に膨張する。具体的には、液中に導入された気泡は、減圧下の洗浄槽3内において膨張すると共に、液体の沸騰蒸気が入り込むことでさらに膨張しつつ、液相部を上昇する。このようにして液体を突沸させ、液体の爆発的な噴上げとそれに続く落下とによって、液体を大きく揺動させて、被洗浄物2を効果的に洗浄することができる。
【0037】
一方、第二設定温度T2が所定温度以上の場合、減圧動作S2において、洗浄槽3内の気相部の圧力は洗浄槽3内の液体の蒸気圧以下とならない圧力までの減圧に止められて、洗浄槽3内の液体は沸騰しない。そして、液相給気動作S3において、液相給気弁18を開いて、沸騰していない液中に外気を導入する。このようにして、液中に導入された外気の上昇と、それによる液体の揺動とにより、被洗浄物2の洗浄を図ることができる。
【0038】
前記所定温度は、減圧沸騰させた場合の液温の低下速度(減圧沸騰させた場合に高温ほど速く冷めてしまう)と、突沸を起こせるか否か(高温になるほど突沸を起こしにくい)とを考慮して決定され、たとえば60〜95℃の範囲、より好ましくは60〜70℃の範囲で設定される。本実施形態では、たとえば70℃に設定される。[発明が解決しようとする課題]の欄において図5に基づき説明したように、高温になるほど、洗浄槽3内における液体の上層と下層での温度差が小さくなるため、沸騰の核となる空気泡を導入しても、過熱領域ができず、突沸が起きにくい反面、高温になるほど、減圧沸騰による液体の冷却ばかりがなされることになるので、これらを考慮して前記所定温度が定められる。
【0039】
なお、第一設定温度T1は、第二設定温度T2(または第二設定圧力P2における飽和温度)に基づき設定すればよい。たとえば、第一設定温度T1は、第二設定温度T2よりも所定温度(たとえば0.5〜2℃)高い温度に設定される。
【0040】
以上のようにして、加温動作S1、減圧動作S2および液相給気動作S3がなされるが、その後、所望により、これら動作が順に繰り返される。その場合、まず、再び加温動作S1がなされる。この加温動作S1では、電気ヒータ13に通電して、洗浄槽3内の液体を第一設定温度T1まで加温する。この加温動作S1では、真空発生装置14は、作動を継続したままとするが、場合により停止させてもよい。加温動作S1において真空発生装置14の作動を継続する場合、液相給気弁18を閉じたままでは洗浄槽3内の液体が沸騰してしまうので、沸騰しないように適宜、液相給気弁18を開く動作が繰り返される。洗浄槽3内の液体が第一設定温度T1になると、電気ヒータ13を停止して、減圧動作S2に以降する。
【0041】
その後の減圧動作S2では、前述した第一回目の減圧動作S2と同様であり、液相給気弁18を閉じた状態を維持して、たとえば洗浄槽3内の液体が第二設定温度T2になるという設定条件を満たすまで、真空発生装置14により洗浄槽3内を減圧する。そして、この設定条件を満たすと、液相給気動作S3に以降する。
【0042】
液相給気動作S3では、前述した第一回目の液相給気動作S3と同様であり、液相給気弁18を開けて、洗浄槽3内の貯留液中に外気を導入する。この場合も、第二設定温度T2が所定温度未満の場合には、減圧動作S2において液体を沸騰させ、液相給気動作S3において、沸騰中の液中に外気を導入して液体を突沸させるが、第二設定温度T2が所定温度以上の場合には、減圧動作S2においても液体を沸騰させず、液相給気動作S3において、液中に外気を導入し、液体は突沸しない。
【0043】
このようにして、加温動作S1、減圧動作S2および液相給気動作S3を、所定の終了条件を満たすまで繰り返すのであるが、この終了条件として、第一回目の加温動作S1の終了時点からの経過時間、液相給気動作S3の実行回数を採用することができる。
【0044】
そして、終了条件を満たせば、液相給気弁18を閉じて、電気ヒータ13および真空発生装置14を停止した状態で、気相給気弁23を開けて洗浄槽3内を大気圧まで復圧すればよい。その後、所望により、洗浄槽3内の液体を入れ替えて被洗浄物2をもう一度洗浄したり、被洗浄物2を乾燥したりしてもよい。なお、本実施形態において、洗浄には、濯ぎも含まれる。
【0045】
ところで、上述した各減圧動作S2では、加温手段4を停止したが、場合により作動を継続してもよい。
【0046】
図3および図4は、洗浄槽3内の温度Tおよび圧力Pと、経過時間tとの関係を示す図である。この内、図3は、第二設定温度T2が所定温度以上の場合でも、敢えて貯留液を沸騰するまで減圧動作S2を実行した後、液相給気動作S3を実行した例を示している。一方、図4は、第二設定温度T2が所定温度以上の場合には、本発明に従って、貯留液を沸騰させない範囲で減圧動作S2を実行した後、液相給気動作S3を実行した例を示している。
【0047】
図3に示すように、液体が高温(図示例の場合は93℃)であるのに、減圧動作S2において液体を減圧沸騰させたのでは、液体の冷却が大きくなってしまう。それ故、一回の減復圧パルス(減圧動作S2後の液相給気動作S3)に要する時間も長くなっている。
【0048】
これに対し、図4に示すように、液体が高温(図示例の場合93℃)である場合に、減圧沸騰させずに液相部に給気する場合には、液体の冷却が抑制され、また同一時間で多くの減復圧パルスを実行することができる。図3では、温度変化は5℃であったが、図4では、温度変化は1℃以内で、場所的な温度ムラも1℃以内であった。
【0049】
本発明の洗浄装置1は、上述した実施形態に限定されることなく、適宜変更可能である。特に、洗浄槽3内の液体の温度が所定温度未満の場合には、洗浄槽3内の減圧により液体を沸騰させ、その後の液相部への給気により液体を突沸させる一方、洗浄槽3内の液体の温度が所定温度以上の場合には、洗浄槽3内の減圧や液相部への給気によっても、液体を沸騰および突沸させない構成であれば、その他の構成および制御は適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 洗浄装置
2 被洗浄物
3 洗浄槽
4 加温手段
5 減圧手段
6 液相給気手段
7 気相給気手段
8 圧力センサ
9 温度センサ
13 電気ヒータ
14 真空発生装置
18 液相給気弁
T1 第一設定温度
T2 第二設定温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液を貯留して被洗浄物を浸漬する洗浄槽と、
この洗浄槽内の水溶液を加温する加温手段と、
前記洗浄槽内の気相部に接続され、前記洗浄槽内の気体を外部へ吸引排出して、前記洗浄槽内を減圧する減圧手段と、
前記洗浄槽内の液相部に接続され、前記洗浄槽内を減圧した状態で液相給気弁を開く液相給気手段とを備え、
前記減圧手段により前記洗浄槽内を減圧後、前記液相給気弁を開いて、前記洗浄槽の内外の差圧により前記被洗浄物よりも下方から前記洗浄槽内の水溶液中に外気を導入し、
前記減圧手段による前記洗浄槽内の減圧は、前記洗浄槽内の水溶液の温度が所定温度未満の場合には、前記洗浄槽内の気相部の圧力を前記洗浄槽内の水溶液の蒸気圧以下まで下げて水溶液を沸騰させるが、前記洗浄槽内の水溶液の温度が所定温度以上の場合には、前記洗浄槽内の気相部の圧力を前記洗浄槽内の水溶液の蒸気圧以下とならない圧力までの減圧に止めて水溶液を沸騰させない
ことを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
前記所定温度は、60〜95℃の範囲で設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記加温手段による第一設定温度までの水溶液の加温と、前記液相給気弁を閉じた状態において設定条件を満たすまでの前記減圧手段による前記洗浄槽内の減圧と、前記液相給気弁を開くことによる水溶液中への外気の導入とを順に繰り返し、
前記設定条件は、前記洗浄槽内の水溶液が第二設定温度となるか、前記洗浄槽内が前記第二設定温度を飽和温度とする圧力となるまでとされ、
前記第二設定温度が前記所定温度未満の場合には、前記減圧手段による前記洗浄槽内の減圧により水溶液が沸騰し、この沸騰中に前記液相給気弁を開いて水溶液中に外気を導入して水溶液を突沸させ、
前記第二設定温度が前記所定温度以上の場合には、前記減圧手段による前記洗浄槽内の減圧により水溶液が沸騰せず、その状態で前記液相給気弁を開いて水溶液中に外気を導入する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−148222(P2012−148222A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7464(P2011−7464)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】