説明

洗濯方法

【課題】本発明は、安全性が高く、かつ、貯蔵安定性の優れた過酢酸製剤を使用して、被洗物に付着した耐熱性菌を、高い信頼性で洗濯殺菌できるのみならず、洗濯中の作業環境を損なわず、かつ、廃液処理が容易な洗濯方法を提供する。
【解決手段】アルカリ洗剤と過酢酸製剤とを使用する被洗物の洗濯方法において、被洗物を予洗し、該予洗に使用した水を抜き取り、次いで、アルカリ洗剤と過酢酸製剤とを含む水であって、該水中の過酢酸濃度が10〜500質量ppmである水により、上記の予洗した被洗物を、更に本洗することを特徴とする洗濯方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯方法に関し、更に詳しくは、アルカリ洗剤と過酢酸製剤とを使用する被洗物の洗濯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リネンサプライ業及びクリーニング業における業務用洗濯機としては、予洗、本洗及び濯ぎ用の浴槽を複数並設してなり、被洗物を、これら各浴槽間を移動させながら連続して洗濯を行う連続多槽式洗濯機が知られている(特許文献1)。従来、このような連続多槽式洗濯機を使用して、洗濯及び殺菌をする方法として、過酢酸を殺菌剤として使用して、リネン類などを洗濯及び殺菌する方法が知られている。該方法においては、以下の各要件を具備することが要求されている。即ち、
(1)強い汚れと共に、セレウス菌(バチルス・セレウス)などの耐性菌が付着した被洗物に対して、十分に高い殺菌性能を有すること、
(2)殺菌製剤が、発ガン性、皮膚刺激性などの危険性を伴わないこと、
(3)大量の洗剤、殺菌製剤を使用する連続多槽式洗濯機の作業において、過酢酸から発生する臭気が低く、作業環境が良好であること、
(4)殺菌製剤が危険物などに該当せず、その輸送及び貯蔵が容易かつ安全であり、それに伴うランニングコストが低いこと、
(5)洗濯殺菌後の過酢酸を含む廃液処理が容易であり、環境汚染の危険性が低いこと、
(6)上記の条件を満たしつつ、殺菌製剤の種類を変えずに、本洗浴中への添加量を変えることにより、汚れが少ないものから、汚れが強く固着したものまで幅広い被洗物を処理できること
である。
【0003】
従来、過酢酸をリネン類などの殺菌に使用する方法は、例えば、特許文献2及び3に知られている。例えば、特許文献2には、業務用の衛生洗濯において、リネン類のアルカリ洗浄後に、過酢酸等の有機過酸を用いて、サワー効果付与と殺菌を同時に行う洗濯方法が開示されている。この方法は、アルカリ洗浄後の汚れを除去した被洗物を、その後の、いわゆる濯ぎの段階で殺菌する方法である。また、該方法は、耐熱性の弱い黄色ブドウ球菌を殺菌対象とするものであり、耐熱性菌を対象とするものではない。特許文献2は、耐熱性菌に対する殺菌効果を開示していない。
【0004】
特許文献3には、リネンサプライ業及びクリーニング業において、アルカリ洗剤と、過酢酸製剤を洗濯機に投入し、セレウス菌などの耐熱性菌が付着したタオルなどを洗濯殺菌する方法が開示されている。この方法は、ホテルのシーツ等の軽度な汚れの殺菌には有効ではあるものの、病院などから搬出される強い汚れの被洗物の殺菌に対しては、不十分であるというケースが頻発する問題があった。また、十分な殺菌力を得るために、洗濯及び殺菌時間を長くすることも考えられるが、生産性が低下して、コストアップにつながる。
【0005】
病院などから搬出される被洗物のように、強い汚れの付着した被洗物の殺菌には、過酢酸製剤の投入量を増やして、本洗浴中の過酢酸濃度を高める方法が考えられる。しかし、過酢酸及び酢酸の臭気により、洗濯機周辺の作業環境が低下する。また、洗濯後の廃液処理のために使用する活性汚泥中の微生物は、過酢酸のような殺菌剤により、死滅し易い。故に、過酢酸製剤投入量を増加する方法も、かかる観点からの制約が大きい。従って、作業環境及び廃液処理の問題を起こさずに、軽度な汚れの被洗物から、血液が固着したような強度の汚れ被洗物まで、幅広い被洗物に対して、確実に殺菌できる方法が求められている。しかし、従来の方法では、上記のような実用上の総合的な要求を満足できる洗濯殺菌方法が得られていないのが現状である。
【0006】
また、特許文献1の実施例に記載された方法では、使用する過酢酸製剤中の過酸化水素濃度が11重量%、過酢酸濃度が15重量%と高く、輸送及び貯蔵時に爆発の危険性があり、それ故、消防法上の規制対象となっていた。特許文献2の実施例に記載された方法では、過酢酸濃度は4.5重量%と低いものの、過酸化水素が16重量%と高く、やはり消防法上の危険物に相当しており、それ故、取扱が煩雑でコストアップの大きな要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−208175号公報
【特許文献2】特開2000−219896号公報
【特許文献3】特開2009−292988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性が高く、かつ、貯蔵安定性の優れた過酢酸製剤を使用して、被洗物に付着した耐熱性菌を、高い信頼性で洗濯殺菌できるのみならず、洗濯中の作業環境を損なわず、かつ、廃液処理が容易な洗濯方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来、特許文献2に記載されているように、ブドウ球菌のような耐熱性の弱い菌に対しては、アルカリ性洗剤で洗濯した後に、いわゆる濯ぎの段階で殺菌するという方法が知られていた。しかし、特許文献2には、該方法がブドウ球菌のような耐熱性の弱い菌に対して有効であることは記載されているものの、セレウス菌のような耐熱性菌に対する使用については何ら開示されていない。セレウス菌のような耐熱性菌に対しては、特許文献3に記載されているように、有機過酸と共にアルカリ性洗剤又は中性洗剤を用いて、洗濯及び殺菌を同時に行う方法が知られている。しかし、このような方法では、強い汚れの被洗物に対して十分な殺菌ができないことが度々あった。また、上記いずれの方法においても、例えば、耐熱性菌に対する殺菌効果を高めるために有機過酸の濃度を高くしたのでは、廃液処理、危険性の問題等、種々の問題が生ずる。そこで、本発明者らは、特許文献3記載の方法では、何故、十分な殺菌ができないのかについて、種々検討した。その結果、これは、汚れが付着した被洗物を、アルカリ洗剤を使用した本洗浴中で洗濯及び殺菌する際に、殺菌剤が汚れやアルカリ洗剤と反応して分解され、殺菌力が徐々に低下すること、及び、付着した汚れが殺菌剤の拡散及び浸透を妨げるという、二つの原因によるものではないかという知見を得た。そこで、本発明者らは、このような知見に基づいて更に検討したところ、アルカリ洗濯槽中で過酢酸により洗濯殺菌をするに際して、被洗物の予洗を実施し、かつ、該予洗後、アルカリ洗剤による本洗を実施する前の段階で、予洗に使用した水の抜き取り(ドレイン抜き)を行い、かつ、アルカリ本洗濯浴中の過酢酸濃度を、下記所定の比較的低い濃度範囲にすることにより、作業環境及び廃液処理に大きな負担をかけることなく、強固な汚れが付着した被洗物でも、短時間で確実に洗濯及び殺菌できることを見出した。また、洗濯槽に投入する過酢酸製剤を、好ましくは、下記所定の組成にすることにより、更に好ましくは、下記所定の界面活性剤を併用することにより、殺菌力を著しく向上させ得ることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)アルカリ洗剤と過酢酸製剤とを使用する被洗物の洗濯方法において、被洗物を予洗し、該予洗に使用した水を抜き取り、次いで、アルカリ洗剤と過酢酸製剤とを含む水であって、該水中の過酢酸濃度が10〜500質量ppmである水により、上記の予洗した被洗物を、更に本洗することを特徴とする洗濯方法である。
【0011】
好ましい態様として、
(2)上記の予洗に使用した水の抜き取りの後であって、かつ、上記本洗の前に、被洗物を濯ぎ、次いで、該濯ぎに使用した水を抜き取る操作を実施する、上記(1)記載の方法、
(3)上記の濯ぎ、続く水抜きの操作が、1〜3回実施される、上記(2)記載の方法、
(4)上記の濯ぎ、続く水抜きの操作が、2〜3回実施される、上記(2)記載の方法、
(5)上記被洗物の予洗が、アルカリ洗剤を含む水により実施される、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の洗濯方法、
(6)上記被洗物の予洗が、中性洗剤を含む水により実施される、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の洗濯方法、
(7)上記過酢酸製剤が、過酢酸1.0〜6.0質量%、過酸化水素1.0〜6.0質量%、酢酸20〜40質量%、及び、水の合計100質量%から成る、上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の洗濯方法、
(8)上記過酢酸製剤が、過酢酸1.5〜2.5質量%、過酸化水素4.0〜6.0質量%、酢酸25〜30質量%、及び、水の合計100質量%から成る、上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の洗濯方法、
(9)上記水中の過酢酸濃度が、100〜300質量ppmである、上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の洗濯方法、
(10)上記本洗に使用する水が、下記式(1)で示される両性界面活性剤
【化1】

(ここで、R〜Rは、夫々独立して、炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜4のアルカノール基を示し、但し、R〜Rの少なくとも一つは、炭素数8〜30の炭化水素基を示す。)
を更に含む、上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の洗濯方法、
(11)上記本洗に使用する水が、下記式(2)で示されるノニオン界面活性剤
【化2】

(ここで、Rは、炭素数8〜18の炭化水素基を示し、Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を示し、nは6〜20の数を示す。)
を更に含む、上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の洗濯方法、
(12)上記界面活性剤が、過酢酸製剤中に0.1〜10質量%含まれるものである、上記(10)又は(11)記載の洗濯方法、
(13)自動式洗濯機が使用される、上記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の洗濯方法、
(14)上記自動式洗濯機が、少なくとも予洗槽、本洗槽及び濯ぎ槽を備え、被洗物を、上記各槽の順序に移動させながら洗濯を行う連続多槽式洗濯機である、上記(13)記載の洗濯方法、
(15)上記過酢酸製剤が本洗槽に投入される、上記(14)記載の洗濯方法、
(16)アルカリ洗剤が、更に本洗槽に投入される、上記(14)又は(15)記載の洗濯方法、
(17)上記過酢酸製剤の投入量が調節される、上記(15)又は(16)記載の洗濯方法、
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の洗濯方法によれば、本洗に先立って、被洗物を予洗し、次いで、該予洗に使用した水を抜き取る故、本洗中の過酢酸の分解及び消費を小さくすることができる。従って、実用的な処理速度、及び、低い過酢酸濃度で、信頼性の高い洗濯及び殺菌ができる。また、低い過酢酸濃度の殺菌剤を使用することから、安全性が高く、かつ、貯蔵安定性に優れ、加えて、洗濯中の臭気等による作業環境を損なわず、かつ、廃液処理が容易となる。加えて、予洗を採用することにより、本洗中の比較的低い過酢酸濃度であっても、強い汚れの被洗物及び弱い汚れの被洗物の殺菌及び洗浄に対応できる。従って、過酢酸濃度を適宜コントロールすることにより、一台の洗濯機で、幅広い被洗物の処理が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアルカリ洗剤と過酢酸製剤とを使用する被洗物の洗濯方法は、被洗物を予洗し、該予洗に使用した水を抜き取り、次いで、アルカリ洗剤と過酢酸製剤とを含む水であって、該水中の過酢酸濃度が10〜500質量ppmである水により、上記の予洗した被洗物を、更に本洗することを特徴とする。本発明の方法においては、まず、被洗物を予洗し、該予洗に使用した水を抜き取る。ここで、水の抜き取り(ドレイン抜き)とは、予洗において生じた汚れた水を排出すること、例えば、好ましく使用される自動式洗濯機においては、予洗において予洗槽から被洗物と一緒に移動してきた汚れた水を洗濯機外に排出することを言う。かかる水の抜き取りにより、予洗により取り除かれた汚れ及び細菌等をドレインへ排出することができ、本洗中に過酢酸が、これらの汚れ及び細菌等により分解及び消費されることを低減することができる。ここで、予洗に使用する水としては、水道水を使用することができる。好ましくは、本発明の方法における本洗後の濯ぎ工程から排出される水をリサイクル使用する。
【0014】
上記の予洗は、好ましくは、アルカリ洗剤、中性洗剤等の洗剤を含む水により実施することができる。ここで、アルカリ洗剤の濃度は、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは0.2〜5質量%であり、中性洗剤の濃度は、好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.03〜0.3質量%である。これらの洗剤のpHは、濃度0.1質量%の水溶液において、好ましくは7.0以上である。このようなアルカリ洗剤又は中性洗剤は、特に限定されるものではなく、慣用の洗濯用洗剤を使用することができる。また、必要に応じて、例えば、界面活性剤、ビルダー、及びその他の添加剤、例えば、再汚染防止剤、酵素、消泡剤、蛍光増白剤、抗菌剤などを含むことができる。
【0015】
上記の洗剤に含める界面活性剤としては、アニオン界面活性剤及び/又はノニオン界面活性剤を用いることができる。アニオン界面活性剤としては、例えば、(1)炭素数10〜20の脂肪酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩)、モノエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のセッケン;(2)炭素数10〜20のα―スルホ脂肪酸エステルナトリウム等のα―スルホ脂肪酸エステル;(3)炭素数10〜14のアルキルを有するアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;(4)ドデシル硫酸ナトリウム等の炭素数10〜20の高級アルコール硫酸エステル塩などが挙げられる。また、ノニオン界面活性剤としては、例えば、(1)アルキル基の炭素数が6〜14であるポリオキシエチレンアルキルエーテル;(2)アルキル基の炭素数が6〜18であるポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルなどが挙げられる。
【0016】
上記の洗剤に含めるビルダーは、洗剤のpHを調整するために使用される。該ビルダーとしては、アルカリビルダーが好ましい。該アルカリビルダーとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、ケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属ケイ酸塩などが挙げられる。また、その他のビルダーとして、例えば、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩等の無機系リン酸塩、炭酸水素塩などを用いることもできる。
【0017】
本発明の方法においては、上記の予洗に使用した水の抜き取りの後であって、かつ、上記本洗の前に、被洗物を濯ぎ、次いで、該濯ぎに使用した水を抜き取る操作を実施することが好ましい。即ち、予洗に使用した水の抜き取りをした後、予洗が終了した段階での濯ぎを行うことが好ましい。該濯ぎに際しては、被洗物を搖動して濯ぎの効果を上げることもできる。予洗が終了した段階での濯ぎにより、更に、汚れ及び菌類が除去されるため、後に実施される本洗での殺菌をより効果的にすることができる。従って、多量の被服物について、低濃度の過酢酸により、より良好に殺菌することができる。特に、病院における被洗物のように、血液の汚れ等が強い被洗物を良好に殺菌することができる。該濯ぎに使用する水の量は、予洗に使用した水の質量に対して、好ましくは100質量%以下、より好ましくは20〜50質量%である。また、予洗が終了した段階での濯ぎは、好ましくは1〜3回、より好ましくは2〜3回、更に好ましくは2回である。上記上限を超えると、予洗後の濯ぎに時間を要しすぎて、本発明の方法全体の処理速度が低下する。また、上記下限未満では、強固な汚れに対しては、後の本洗において過酢酸濃度を高めなければならないことがある。
【0018】
上記の予洗は、好ましくは、自動式洗濯機の予洗槽において実施され、水の抜き取り及び任意的に実施される予洗が終了した段階での濯ぎは、好ましくは、自動式洗濯機の予洗槽で予洗が完了した後に順次実施される。あるいは、自動式洗濯機の予洗槽の後に水抜き専用の槽(水抜き槽)を設けて、該槽から予洗後の水を抜き出し、また、予洗が終了した段階での濯ぎを実施する際には、該槽に、水、例えば、水道水等を供給して濯ぎを行い、該槽から水を抜出すこともできる。もちろん、バッチ式洗濯機を使用した場合には、予洗及び水抜き、並びに、任意的に実施される予洗が終了した段階での濯ぎ及びその水抜きは、全て同一の単一槽で実施される。
【0019】
次いで、本発明の方法においては、上記の予洗した被洗物が、アルカリ洗剤と過酢酸製剤とを含む水により本洗される。ここで、過酢酸製剤は、過酢酸製剤を投入する本洗槽において本洗に使用される水中の過酢酸濃度が10〜500質量ppm、好ましくは100〜300質量ppmであるように添加される。とりわけ、軽度の汚れの被洗物、例えば、ホテルのシーツ等の本洗に際しては、好ましくは10〜300質量ppmとし、感染可能性が高く、重度の汚れの被洗物、例えば、病院などから搬出される被洗物等の本洗に際しては、好ましくは100〜500質量ppmとする。これにより、被洗物の汚れの度合いにより、従来のように洗濯機を複数所持して洗濯機を変える必要がなく、一台の洗濯機で幅広い汚れ度合の被洗物に対して対応可能である。過酢酸濃度が10質量ppm未満では、十分な殺菌をすることができず、また、好ましい下限である100質量ppm未満では、式(1)及び/又は式(2)で示される界面活性剤を添加しても、強固な汚れの被洗物を大量に処理すると、殺菌効果が不安定になることがある。一方、500質量ppmを超えては、作業時の臭気の悪化、排水処理の困難性、及び、コスト高等の問題を生じ、また、好ましい上限である300質量ppmを超えては、作業時に洗濯機周辺の臭気が強くなることがある。
【0020】
本発明で使用する過酢酸製剤は、過酢酸と、酢酸、過酸化水素及び水の平衡組成物であり、好ましくは、過酢酸1.0〜6.0質量%、過酸化水素1.0〜6.0質量%、酢酸20〜40質量%、及び、水の合計100質量%から成り、より好ましくは、過酢酸1.5〜2.5質量%、過酸化水素4.0〜6.0質量%、酢酸25〜30質量%、及び、水の合計100質量%から成る。ここで、過酢酸の濃度は、過酢酸製剤中、好ましくは、1.0〜6.0質量%、より好ましくは1.5〜2.5質量%である。過酢酸の濃度が1.0質量%未満では、過酢酸製剤の貯蔵安定性に欠けるばかりではなく、過酢酸製剤全体としての使用量が増加することから、過酢酸製剤の運搬及び貯蔵が煩雑となり、作業性等の低下を招く。また、より好ましい下限の1.5質量%未満では、殺菌作用が不安定になることがある。一方、過酢酸の濃度が6.0質量%を超えては、過酢酸製剤全体として危険性が増大するばかりではなく、消防法の適用を受けなければならない。また、より好ましい上限の2.5質量%を超えると、過酢酸製剤の取り扱い時の臭気が多少強くなる傾向にあり、作業性等の低下を招くことがある。また、過酢酸製剤の運搬及び貯蔵用容器がポリオレフィン系樹脂で作られていることが多いために、過酢酸などの酸化作用の影響により、これらの容器に劣化が生ずることがある。過酢酸濃度をより好ましい範囲である1.5〜2.5質量%とすることにより、過酢酸製剤の貯蔵安定性を高めることができ、かつ、臭気を著しく低減することができる。本発明で使用する過酢酸製剤中の過酸化水素の濃度は、好ましくは1.0〜6.0質量%、より好ましくは4.0〜6.0質量%である。過酸化水素の濃度が1.0質量%未満では、過酢酸の平衡濃度を安定的に得ることが困難になることがあり、一方、6.0質量%を超えては、消防法の適用対象となる。より好ましい範囲である4.0〜6.0質量%にすることにより、過酢酸製剤をより安定化することができる。過酢酸製剤中の酢酸の濃度は、好ましくは20〜40質量%、より好ましくは25〜30質量%である。上記範囲を外れると、過酢酸の平衡濃度を安定的に得ることが困難になることがある。より好ましい範囲である25〜30質量%にすることにより、過酢酸製剤をより安定化することができる。
【0021】
本発明においては、本洗中の殺菌性能を向上させるために、好ましくは、更に界面活性剤を使用することができる。界面活性剤としては、下記式(1)
【化3】

で示される両性界面活性剤、
及び/又は、
下記式(2)
【化4】

で示されるノニオン界面活性剤を使用することができる。上記いずれの界面活性剤も、殺菌及び洗浄性能に優れている。これらのうち、上記のノニオン界面活性剤が、泡立ちが少なく、作業性が良好なことから、好ましく使用される。また、式(1)及び/又は(2)の界面活性剤を使用することにより、本洗中の過酢酸濃度が低いときであっても、強い汚れが付着した被洗物を確実に殺菌することができる。これは、式(1)及び/又は(2)の界面活性剤の作用により、過酢酸の菌への浸透性が向上するためと推定される。
【0022】
式(1)で示される両性界面活性剤はアミンオキシドであり、式(1)中、R〜Rは、夫々独立して、炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜4のアルカノール基を示す。ここで、炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。これらのうち、R〜Rは、夫々独立して、アルキル基又は炭素数1〜4のアルカノール基を示すことが好ましい。これにより、過酢酸との優れた相乗効果が期待される。また、式(1)中、R〜Rの少なくとも一つ、好ましくは一つが、炭素数8〜30の炭化水素基、好ましくは炭素数8〜18の炭化水素基、より好ましくは炭素数10〜16の炭化水素基である。式(1)中、R〜Rの一つが、上記の炭化水素基であるとき、R〜Rの他の二つは、夫々独立して、好ましくは、炭素数1〜4の炭化水素基又は炭素数1〜4のアルカノール基を示し、より好ましくは炭素数1〜2の炭化水素基又は炭素数2〜4のアルカノール基を示し、更に好ましくは、メチル基、エタノール基又はプロパノール基を示す。
【0023】
上記のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ネオペンチル基、ターシャリペンチル基、ヘキシル基、2級ヘキシル基、ヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、2級オクチル基、ノニル基、2級ノニル基、デシル基、2級デシル基、ウンデシル基、2級ウンデシル基、ドデシル基、2級ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、2級トリデシル基、テトラデシル基、2級テトラデシル基、ヘキサデシル基、2級ヘキサデシル基、ステアリル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、トリアコンチル基、2−ブチルオクチル基、2−ブチルデシル基、2−ヘキシルオクチル基、2−ヘキシルデシル基、2−オクチルデシル基、2−ヘキシルドデシル基、2−デシルテトラデシル基、2−ドデシルヘキサデシル基、モノメチル分枝−イソステアリル基等が挙げられる。
【0024】
上記のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、オレイル基等が挙げられる。
【0025】
上記のアリール基としては、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基、p−クミルフェニル基、フェニルフェニル基、ベンジルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基等が挙げられる。
【0026】
また、上記のシクロアルキル基及びシクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0027】
一方、炭素数1〜4のアルカノール基としては、例えば、メタノール基、エタノール基、プロパノール基、ブタノール基、イソプロパノール基、イソブタノール基、ターシャリブタノール基等が挙げられる。
【0028】
式(2)で示されるノニオン界面活性剤において、Rは、炭素数8〜18の炭化水素基を示す。炭素数が8未満であると、良好な洗浄力が得られないことがあり、また、菌への浸透力低下に伴い殺菌力が低下することがある。一方、炭素数が18を超えると、過酢酸製剤への溶解性が低下して、長期の保存で過酢酸製剤が分離することがある。上記の炭素数8〜18の炭化水素基としては、例えば、オクチル基、イソオクチル基、2級オクチル基、ノニル基、イソノニル基、2級ノニル基、デシル基、イソデシル基、2級デシル基、ウンデシル基、イソウンデシル基、2級ウンデシル基、ドデシル基、イソドデシル基、2級ドデシル基、トリドデシル基、イソトリデシル基、2級トリドデシル基、テトラドデシル基、イソテトラドデシル基、2級テトラドデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、2級ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソオクタデシル基、2級オクタデシル基などのアルキル基;オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基などのアルケニル基;キシリル基、クメニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基などのアリール基などが挙げられる。これらのうち、アルキル基が好ましく、炭素数炭素数8〜15のアルキル基がより好ましく、炭素数9〜13のアルキル基が更に好ましい。
【0029】
式(2)で示されるノニオン界面活性剤において、Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を示す。該アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基が挙げられる。Rは、n個の繰り返し構造を有し、n個のRは同一であっても異なっていてもよい。ここで、n個のRの50モル%以上がエチレン基であることが好ましく、80モル%以上がエチレン基であることがより好ましく、全てがエチレン基であることが更に好ましい。Rが炭素数4以上では、過酢酸製剤への溶解性が低下して、過酢酸製剤に溶解しないことがある。
【0030】
また、式(2)で示されるノニオン界面活性剤において、nは、6〜20、好ましくは6〜15の数を示す。nが6未満では、過酢酸製剤への溶解性が低下して、過酢酸製剤に溶解しないことがあり、20を超えると、配合した過酢酸や過酸化水素が過剰に分解し、過酸化水素や過酢酸濃度が低下して殺菌性及び洗浄性に悪影響を与えることがある。
【0031】
上記の式(1)又は式(2)で示される界面活性剤は、過酢酸製剤に予め混合して使用することもできるし、又は、本洗の開始前又は本洗中に、過酢酸製剤とは別に本洗槽(洗濯槽)に、直接投入して使用することもできる。
【0032】
過酢酸製剤に予め混合するに際しては、界面活性剤の濃度は、過酢酸製剤中に、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.15〜5質量%、更に好ましくは0.3〜3質量%である。上記下限未満では、殺菌効果が不十分となり易く、上記上限を超えては、過酢酸の安定性が低下したり、また、本洗槽中での泡立ち、濯ぎ後に界面活性剤の残留が生ずることがある。また、本洗槽に、直接投入して使用するに際しては、界面活性剤の濃度が、過酢酸製剤に対して、上記と同一になるように計量して投入すればよい。
【0033】
本発明の過酢酸製剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、殺菌剤及び洗浄剤に使用する、他の公知の添加剤を含めることができる。該添加剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤、キレート剤、溶剤、酸化防止剤、香料、色素、防腐剤等が挙げられる。
【0034】
本発明の過酢酸製剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を使用することができる。例えば、酢酸と過酸化水素とを水中で混合し、必要に応じて、触媒や安定化剤を加えることにより、酢酸と過酸化水素が反応して過酢酸が生成され、過酢酸製剤の平衡溶液が得られる。更に好ましくは、この平衡溶液に、式(1)及び/又は式(2)で示される界面活性剤を添加することができる。酢酸又は過酸化水素の濃度を高くすればするほど、より一層高濃度の過酢酸が生成されるので、上記の過酢酸濃度となるように、酢酸及び過酸化水素の濃度を設定すればよい。
【0035】
本洗において使用される洗剤は、アルカリ洗剤である。該アルカリ洗剤としては、上記の予洗で使用したものを使用することができる。好ましくは、濃度0.1質量%の水溶液において、そのpHが8.0を超えるアルカリ洗剤が使用される。該アルカリ洗剤を使用することにより、過酢酸と併用したとき、過酢酸の分解が一層促進され、それにより殺菌効果を高めることができる。本洗において使用するアルカリ洗剤の濃度は、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは0.2〜5質量%である。アルカリ洗剤の濃度が上記上限を超えては、未溶解のアルカリ洗剤が濯ぎ工程に持ち込まれたり、過酢酸の分解速度が大きくなり過ぎ、上記下限未満では、汚れ除去能力が低下する。また、アルカリ洗剤に加えて、好ましくは中性洗剤を使用することもできる。該中性洗剤としても、上記の予洗で使用したものを使用することができる。該中性洗剤の濃度は、好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.03〜0.3質量%である。
【0036】
本洗において、上記の洗剤は、上記の過酢酸製剤と組み合わせて使用される。洗剤は、予め過酢酸製剤と混合して使用してもよく、あるいは、その場で、例えば、本洗槽中で、混合して使用してもよい。後者の場合には、更に、界面活性剤及びビルダー等も、その場で混合することもできる。また、上記の洗剤及び過酢酸製剤に加えて、更に、過酸化水素を組み合わせて用いることもできる。ここで、過酢酸製剤と洗剤との比率は、質量比で、過酢酸製剤/洗剤=0.05〜10であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5である。
【0037】
上記の本洗は、好ましくは、自動式洗濯機の本洗槽(洗濯槽)において実施される。自動式洗濯機、例えば、連続多槽式洗濯機を用いて洗濯を行うに際して、上記の過酢酸製剤及び洗剤は本洗槽に投入される。連続多槽式洗濯機は、予洗/本洗/濯ぎの各浴槽が並設されており、そして、通常、本洗槽として、複数の浴槽が並設されている。それ故、最初の本洗槽に、過酢酸製剤及び洗剤を同時に投入し、これらを水に溶かして洗濯液とすることが好ましい。もちろん、最初の本洗槽ではなく、第二又は第三の本洗槽に投入することもできる。
【0038】
上記のように、予洗、予洗に使用した水の抜き取り、任意的な予洗が終了した段階での濯ぎ、続く、本洗により、順次、洗濯及び殺菌がなされた被洗物は、次いで、好ましくは濯ぎ工程において濯がれる。本洗で使用された洗濯液が、排出された後、濯ぎ用の水、例えば、水道水が投入され、この水によって、常法に従い濯ぎが実施され、洗濯が終了する。洗濯された被洗物は、その後、乾燥機等で乾燥される。乾燥方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
【0039】
本発明の方法に適用される被洗物は、特に限定されず、商業洗濯を行う全ての洗濯物を対象とすることができる。また、各種繊維製品においては、その素材も限定されない。好ましくは、ポリエステル及び綿が対象とされ、更に好ましくは、タオル及びバスマット等に使用される、吸水性の高い綿が対象とされる。例えば、ホテルのシーツ等の軽度な汚れの被洗物、病院などから搬出される、強い汚れの付着した被洗物等の幅広い範囲の洗濯物を対象とすることができる。
【0040】
本発明の洗濯方法は、好ましくは、リネンサプライ業及びクリーニング業等で使用される業務用洗濯機において実施される。このような業務用洗濯機としては、予洗、本洗及び濯ぎを、夫々、単独槽で行うバッチ式洗濯機と、予洗、本洗及び濯ぎを、並設された複数の浴槽を使用して、被洗物をこれら各浴槽間を移動させながら連続して洗濯を行う連続多槽式洗濯機とがある。本発明の方法においては、いずれの洗濯機も使用可能であるが、連続多槽式洗濯機を用いることが特に好ましい。連続多槽式洗濯機は、更に、カウンターフロー方式洗濯機とバッチフロー方式洗濯機とに大別され、両者ともに使用可能である。カウンターフロー方式とは、本洗槽において上流側(第1槽側)から移送される被洗物に対向して、洗濯液を下流側から上流側に向かって移動させる方式である。バッチフロー方式には、本洗槽の洗濯液を移動させずに、被洗物のみを各浴槽間に移送させて洗濯する方式と、洗濯液と被洗物が同時に各浴槽間に移送されて洗濯をする方式があり、共に使用可能である。
【0041】
上記の連続多槽式洗濯機としては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、特許文献1に記載されているように、連続多槽式洗濯機は、両端に入口と出口を有するとともに、少なくとも下部側を各浴槽に分割する複数の隔壁を有する細長い外側ハウジングと、該外側ハウジングの各浴槽内に配設された短円筒状ドラムを軸方向に連結してなる内側ハウジングとを備え、内側ハウジングを回転させることによって、浴槽内の被洗物の予洗/本洗/濯ぎを各浴槽内で行いながら、ドラム間を各ドラム内に設置されたすくいシャベルの揺動により上流側から下流側に移送するように構成されている。
【0042】
本発明の方法においては、洗濯温度(本洗中の洗濯液の温度)は、特に限定されものではないが、40〜80℃であることが好ましい。過酢酸製剤とアルカリ洗剤及び/又は中性洗剤とを併用することにより、従来の高温洗濯に比べて、40〜60℃という中温での洗濯も可能であり、温度制御のために燃料コストを低減することができる。
【0043】
本発明における各槽での処理速度はタクトタイムで評価される。タクトタイムは、直接、生産性及びコストに反映されるために、短いほど好ましいが、短すぎると汚れの除去、殺菌などを十分達成し得なくなることがある。本発明においてタクトタイムは、好ましくは1.5〜20分間、より好ましくは2〜10分間、更に好ましくは3〜5分間である。ここで、タクトタイムとは、各槽に被洗物が移動した時点から、被洗物がその槽から排出された時点までの槽内での滞留時間を意味する。従って、例えば、同一槽において、水の投入、洗浄、及び水抜きが実施されるときは、この合計を含めた時間を言う。
【0044】
以下の実施例において、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
下記の実施例及び比較例において使用した過酢酸製剤、界面活性剤及び洗剤は、下記の通りである。
【0046】
<過酢酸製剤>
使用した過酢酸製剤I、II、III及びIVの各組成を下記の表1に示した。
【0047】
【表1】

表1中、界面活性剤S1及びS2は下記の通りである。
【0048】
<界面活性剤>
式(1)で示される両性界面活性剤(S1):ドデシルジメチルアミンオキシド
式(2)で示されるノニオン界面活性剤(S2):ドデシルアルコールエチレンオキシド9モル付加物(式(2)において、Rがドデシル基であり、Rがエチレン基であり、nが9である。)
【0049】
<洗剤>
アルカリ洗剤:クラリアントジャパン株式会社製シスタクリーンFM(商標)
中性洗剤:クラリアントジャパン株式会社製シスタクリーンJ−1(商標)
【0050】
また、下記の実施例及び比較例において使用した殺菌対象菌、被洗サンプル及び洗濯機は、下記の通りである。
【0051】
<殺菌対象菌>
殺菌対象菌として、耐熱性菌であるバチルス・セレウス(Bacillus cereus)(以下、「セレウス菌」と言うことがある)を使用した。セレウス菌としては、Raben Labs社製Bacillus cereus ATCC No.11778(菌数:1.5×10cfu/ミリリットル)を使用した。セレウス菌は、好気性の芽胞形成桿菌であり、耐熱性の芽胞を形成する。
【0052】
<被洗サンプル>
汚れ付着サンプル(被洗サンプルA):人工汚染布[EMPA社製血液汚染布EMPA−111(商標)]を10cm×10cmに切断したもの
汚れ付着なしサンプル(被洗サンプルB):人工汚染布[EMPA社製血液汚染布EMPA−111(商標)]を10cm×10cmに切断したものを、目視により汚れが認められなくなるまで、アルカリ洗剤で十分に洗濯したもの
【0053】
上記の被洗サンプルA及びBは、いずれも、予めセレウス菌が検出されないことを確認した。この確認は、上記の被洗サンプルA及びBを300ミリリットル三角フラスコに移し、滅菌水100ミリリットルを加えた。該三角フラスコを滅菌したゴム栓で密閉した後、室温で振とう機を使用して、30往復/秒の振動数で30秒間振とうして抽出処理を実施した。次いで、抽出完了後の滅菌水を500マイクロリットル採取し、シャーレ内の直径50mmのプレート上のセレウス菌培地に、全量添加した後、綿棒で均一になるように培地上に広げた。次いで、シャーレの蓋をした後、シャーレごと該プレートをひっくり返し35±2℃で48時間培養した。培地上のコロニー数は、培養後、デジタルカメラで寒天培地の写真撮影を行い、20インチ液晶モニター全面に表示して、目視で観察して確認したものである。
【0054】
次いで、上記の市販のセレウス菌原液1ミリリットルを、生理食塩水99ミリリットルに加えて100倍に希釈し、1ミリリットル当たり1.5×10cfu(コロニー形成単位)のセレウス菌を含む溶液を作製し、これを1ミリリットル滴下したものを被洗サンプルとした。
【0055】
<洗濯機>
連続多槽式洗濯機(三菱重工産業機器株式会社製12槽式全自動洗濯機タイプC19−12)を使用した。この洗濯機は、第1〜2槽で予洗、第3〜8槽で本洗、第9〜11槽ですすぎを行うことができる連続多槽式洗濯機である。なお、第12槽は加工処理槽であり、この実施例及び比較例では加工処理を実施していない。
【0056】
下記の実施例及び比較例において使用した評価方法は、下記の通りである。
【0057】
<殺菌効果>
殺菌効果は、仕上がった被洗サンプルのセレウス菌数で評価した。仕上がった被洗サンプルを300ミリリットル三角フラスコに移し、滅菌水100ミリリットルを加えた。該三角フラスコを滅菌したゴム栓で密閉した後、室温で振とう機を使用して、30往復/秒の振動数で30秒間振とうして抽出処理を実施した。次いで、抽出完了後の滅菌水を500マイクロリットル採取し、シャーレ内の直径50mmのプレート上のセレウス菌培地に、全量添加した後、綿棒で均一になるように培地上に広げた。次いで、シャーレの蓋をした後、シャーレごと該プレートをひっくり返し35±2℃で48時間培養した。培地上のコロニー数は、培養後、デジタルカメラで寒天培地の写真撮影を行い、20インチ液晶モニター全面に表示して、目視でコロニー数をカウントした。コロニー数が多い場合には、20インチ液晶モニター全面に表示した映像をハードコピーしてその数をカウントした。評価は、いずれの実施例及び比較例においても、被洗サンプル3枚を使用し、夫々、上記のようにしてコロニー数をカウントし、被洗サンプル3枚のコロニー数の平均値を算出し、該平均値を使用して実施した。コロニー数の平均値が、30以下であれば合格、5以下であれば、非常に良好とした。
【0058】
<臭気>
過酢酸製剤取扱い時、及び、本洗中の連続多槽洗濯機周辺での臭気を評価した。いずれの場合にも、実施例及び比較例を実施している空調室(約100m、24℃、60%RHに設定した独立型空調機使用)に、3人の検査員が、夫々、一定時間間隔で3回入室して入室時に感じた官能テストにより評価した。評価方法は、臭気が強く感じられる場合を5点、やや強い場合を4点、はっきりと感じる場合を3点、弱い場合を2点、非常に弱い場合を1点とし、3人の検査員の3回の合計点で評価した。評価結果は、いずれも、以下のように分類した。
◎(9点以上16点以下):臭気小さく作業環境良好
○(16点を超え23点以下):若干臭気が感じられるが特に作業環境に支障なし
Δ(23点を超え30点以下):臭気が感じられるが作業に支障なし
×(30点を超え37点以下):臭気強く作業環境不良
××(37点を超え45点以下):臭気強く作業継続には強力な排気装置が必要
【0059】
<洗濯後の汚れ>
洗濯後の被洗サンプルを目視により観察して評価した。
【0060】
(実施例1〜8及び比較例1〜5)
被洗物としては、上記のようにして作製した被洗サンプル3枚と、ホテルのシーツ40kgとを一緒にしたものを使用した。被洗物の洗濯は、空調室(約100m、24℃、60%RHに設定した独立型空調機使用)内で上記の連続多槽式洗濯機を使用して、下記の通りに実施した。連続多槽式洗濯機の第1〜2槽を予先槽として用いて、被洗物を予洗し(予洗工程)、第3槽で予洗に使用した水の水抜き後、水道水を補給して濯ぎを実施し、並びに、所望により、該濯ぎに使用した水の水抜き後、水道水を補給して、更に、濯ぎを実施する操作を所定回数繰り返し(水抜き工程)、次いで、第4槽において、第5槽からオーバーフローする洗濯水により被洗物を洗濯しつつ第5槽に移送し、第5槽でアルカリ洗剤を投入し、第5〜8槽で被洗物の本洗を実施した(本洗工程)。次いで、第9〜11槽で濯ぎを行い(濯ぎ工程)、次いで、乾燥した(乾燥工程)。ここで、1槽当たりのタクトタイムは、夫々、4分間とした。
【0061】
第1〜2槽の予洗工程における被洗物の予洗は、アルカリ洗剤及び中性洗剤を使用して実施した。アルカリ洗剤及び中性洗剤は、予洗水300kg(約300リットル)中に、夫々、アルカリ洗剤が0.8質量%、また、中性洗剤が0.08質量%になるように添加した。ここで、予洗水としては、濯ぎ工程において、水道水を使用して一度濯ぎを行ったのちの水をリサイクルして使用した。
【0062】
水抜き工程、即ち、第3槽では、予洗後の、アルカリ洗剤及び中性洗剤を含む水を抜いた後、水道水約150リットル(予洗に使用した水の約50質量%)を投入して濯ぎを実施し、かつ、所望により、更に、該濯ぎに使用した水を抜出し、次いで、水道水約150リットルを投入して濯ぎを実施する操作を繰り返した。表2における水抜き回数は、予洗後の水の水抜き、及び、上記の濯ぎに使用した水の水抜き回数の合計を言う。例えば、水抜き回数1回は、予洗に使用した水を抜き、水道水を投入して濯ぎをし、その濯ぎに使用した水を抜かずに、本洗に供したものであり、水抜き回数2回は、予洗に使用した水を抜き、水道水を投入して濯ぎをし、更に、その濯ぎに使用した水を抜き、水道水を投入して濯ぎをし、その濯ぎに使用した水を抜かずに、本洗に供したものであり、水抜き回数3回は、予洗に使用した水を抜き、水道水を投入して濯ぎをし、更に、その濯ぎに使用した水を抜き、水道水を投入して濯ぎをし、次いで、更に、その濯ぎに使用した水を抜き、水道水を投入して濯ぎをし、その濯ぎに使用した水を抜かずに、本洗に供したものである。また、表3における水抜きの回数0回は、予洗は実施したが、予洗に使用した水の水抜きを実施せず、そのまま本洗に供したことを意味する。
【0063】
第4〜8槽の本洗工程における被洗物の本洗は、アルカリ洗剤、中性洗剤及び過酢酸製剤を使用して実施した。アルカリ洗剤及び中性洗剤は、水道水300kg(約300リットル)中に、夫々、アルカリ洗剤が0.8質量%、また、中性洗剤が0.08質量%になるように添加した。一方、過酢酸製剤は、空調室内にある各過酢酸製剤の貯蔵容器から、連続多槽式洗濯機の殺菌剤用ストックタンクに手動ポンプを使用して移送し、次いで、過酢酸製剤濃度が、第5槽において、表2及び3に記載の所定濃度になるように計量して、第5槽に投入した。ここで、第5槽の過酢酸濃度が、所定濃度になっていることを、理工協産株式会社製過酢酸・過酸化水素分析計(ポータブル型)を使用して、ヨウ素水溶液の電気化学的測定法により測定しチェックした。また、洗濯中の洗濯槽温度は、第5槽の温度をモニターしながら洗濯槽温度(第5〜8槽の温度)が所定の温度となるように水蒸気により制御した。
【0064】
第9〜11槽の濯ぎ工程では、まず、第8槽で、本洗に使用したアルカリ洗剤、中性洗剤及び過酢酸製剤を含む水を排水した後、第9〜11槽において、水道水を7ton/時間(約120kg/分)で連続的に供給して被洗物を濯いだ。濯ぎ完了後、被洗物を連続多槽式洗濯機から取り出し、次いで、乾燥して、殺菌効果測定用のサンプルとした。
【0065】
各実施例及び比較例の洗濯の条件及びその結果を、表2及び3に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
実施例1〜8は、本発明の洗濯方法により被洗物を処理したものである。いずれもセレウス菌の殺菌効果は良好であり、かつ、臭気も低く作業環境は良好であった。実施例6〜8は、水抜き回数を2回とし、かつ、過酢酸製剤IIIを使用して、本洗に使用した水中の過酢酸濃度を200質量ppm、300質量ppm及び500質量ppmと変化させたものである。本洗中の温度制御に多少のバラツキはあったものの、いずれも良好なセレウス菌の殺菌効果及び低い臭気を示した。実施例2及び3は、水抜き回数を1回とし、かつ、過酸化製剤の種類を、夫々、II及びIIIとしたものである。過酸化製剤II及びIIIは、表1に示したように界面活性剤の種類が異なるものであるが、いずれの実施例においても、良好なセレウス菌の殺菌効果及び低い臭気を示した。また、実施例3及び6は、いずれも過酢酸製剤IIIを使用し、かつ、本洗水中の過酢酸製剤濃度を同一にして、水抜き回数を、夫々、1回及び2回としたものである。水抜き回数を多くするとセレウス菌の殺菌効果がより向上することが分かった。
【0069】
一方、比較例1〜5は、予洗後に水抜きを実施しなかったものである(水抜き回数0回)。比較例1〜3は、本洗に使用した水中の過酢酸濃度を、夫々、20質量ppm、40質量ppm及び80質量ppmと本発明の範囲内で変化させたものである。臭気は低く満足できるものであったが、セレウス菌に対する殺菌効果は著しく悪いものであった。また、比較例4は、セレウス菌に対する殺菌効果を高めるべく、本洗に使用した水中の過酢酸濃度を600質量ppmと本発明の範囲を超えるものとしたものである。臭気が多く作業環境は悪いものであった。比較例5は、過酸化製剤IVを使用したものである。臭気が多く作業環境は著しく悪かった。但し、防臭マスクを着用すれば作業可能であった
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の洗濯方法は、安全性が高く、かつ、貯蔵安定性の優れた過酢酸製剤を使用して、被洗物に付着した耐熱性菌を、高い信頼性で洗濯殺菌できるのみならず、洗濯中の作業環境を損なわず、かつ、廃液処理が容易である。従って、今後、リネンサプライ業及びクリーニング業、並びに、病院内衣類洗濯などの業務用洗濯に利用されることが大いに期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ洗剤と過酢酸製剤とを使用する被洗物の洗濯方法において、被洗物を予洗し、該予洗に使用した水を抜き取り、次いで、アルカリ洗剤と過酢酸製剤とを含む水であって、該水中の過酢酸濃度が10〜500質量ppmである水により、上記の予洗した被洗物を、更に本洗することを特徴とする洗濯方法。
【請求項2】
上記の予洗に使用した水の抜き取りの後であって、かつ、上記本洗の前に、被洗物を濯ぎ、次いで、該濯ぎに使用した水を抜き取る操作を実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記過酢酸製剤が、過酢酸1.0〜6.0質量%、過酸化水素1.0〜6.0質量%、酢酸20〜40質量%、及び、水の合計100質量%から成る、請求項1又は2記載の洗濯方法。
【請求項4】
上記過酢酸製剤が、過酢酸1.5〜2.5質量%、過酸化水素4.0〜6.0質量%、酢酸25〜30質量%、及び、水の合計100質量%から成る、請求項1又は2記載の洗濯方法。
【請求項5】
上記水中の過酢酸濃度が、100〜300質量ppmである、請求項1〜4のいずれか一つに記載の洗濯方法。
【請求項6】
上記本洗に使用する水が、下記式(1)で示される両性界面活性剤
【化1】

(ここで、R〜Rは、夫々独立して、炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜4のアルカノール基を示し、但し、R〜Rの少なくとも一つは、炭素数8〜30の炭化水素基を示す。)、及び/又は、
下記式(2)で示されるノニオン界面活性剤
【化2】

(ここで、Rは、炭素数8〜18の炭化水素基を示し、Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を示し、nは6〜20の数を示す。)
を更に含む、請求項1〜5のいずれか一つに記載の洗濯方法。
【請求項7】
上記界面活性剤が、過酢酸製剤中に0.1〜10質量%含まれるものである、請求項6記載の洗濯方法。
【請求項8】
自動式洗濯機が使用され、かつ、該自動式洗濯機が、少なくとも予洗槽、本洗槽及び濯ぎ槽を備え、被洗物を、上記各槽の順序に移動させながら洗濯を行う連続多槽式洗濯機であり、かつ、上記過酢酸製剤が、本洗槽に投入される、請求項1〜7のいずれか一つに記載の洗濯方法。

【公開番号】特開2013−9921(P2013−9921A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146050(P2011−146050)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(397040605)クラリアント ジャパン 株式会社 (4)
【Fターム(参考)】