説明

洗濯機

【課題】磁気粘性流体の注入を効率的に、しかもより確実に行うことができるようにする。
【解決手段】ダンパ機構は、シリンダと、シリンダに対して相対的に軸方向へ往復移動可能なシャフトと、シャフトの外周部周りに隙間を形成するようにシリンダ内に配設された磁場発生装置と、前記隙間の軸方向の両外側端部を封鎖して磁場発生装置とシャフトとの間に中空の収容部を形成するように組み込まれたシール部材と、収容部に充填される磁気粘性流体と、を備える。磁場発生装置は、ボビンと、ボビンの外周部に巻装されたコイルと、ボビンの軸方向の両端部に配設されたヨークとを具備する。磁気粘性流体は、ダンパ機構の組立時に、外側のシール部材を組み込む前の状態にあって、磁場発生装置の外側に位置するヨークとシャフトとの間の隙間から収容部に注入する。シャフトが挿通されるボビンの第1シャフト挿通孔に、これとシャフトとの間の隙間が周方向で部分的に大きくなるように大隙間形成部を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水槽を防振支持する洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばドラム式洗濯機では、内部に回転可能なドラムを備えた水槽は、筐体の底部に複数のサスペンションにより弾性的に支持され、該サスペンションは洗濯物を収容したドラムの回転に伴い生ずる振動を減衰する、所謂ダンパ機能を発揮するようにしている。ところで、この種サスペンションのダンパ機能として、例えば磁場の強度によって粘度が変化する磁気粘性流体(MR流体)を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記磁気粘性流体は、磁界を与えることで該流体の粘度を可変制御可能であることから、最近では洗濯機のサスペンションとして有効活用することが検討されている。すなわち、上記水槽の振動に伴い上下動(往復動)するシャフトに対して、上記磁気粘性流体を接触させ、その粘性によりシャフトの上下動を抑制する抵抗(摩擦力)として機能させることで、水槽の振動振幅を速やかに減衰し、低振動、低騒音の洗濯機を提供しようとするものである。
【0004】
このようなサスペンションの磁気粘性流体は、漏出しないように封鎖された所定の中空状の収容部を満たすように充填され、これに上下動するシャフトの外周面と摩擦接触する構成としている。従って、長期安定して所期のダンパ性能を得るには、所定量の磁気粘性流体が収容部に確実に充填されなければならないし、容易に漏出しない封鎖された水密構成等を必要としている。このため、ダンパ機構やシール部材などの構成要素は筒状のシリンダ内に組み込み収納された組立構成にあることから、封鎖された収容部は外部から見えない隠蔽された状態にあり、従って磁気粘性流体を内部の収容部に注入するとき、正常に注入され確実に充填されたかなどについて容易に確認できない。また、密閉性の維持やコスト面などから磁気粘性流体の使用量はできるだけ少量とするのが好ましいなどの事情もあって、この磁気粘性流体を充填する注入作業では狭い収容部に対して慎重に時間をかけて行なうなど作業効率が悪いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−45755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、磁気粘性流体の注入を効率的に、しかもより確実に行うことが期待できる洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の洗濯機は、筐体内に、回転可能な洗濯槽を収容した水槽をサスペンションを介して防振支持する。サスペンションは、筐体と水槽との間にダンパ機構を介して組み込まれる。ダンパ機構は、筒状のシリンダと、一端がシリンダ内に挿入されかつ他端がシリンダ外へ突出しそのシリンダに対して相対的に軸方向へ往復移動可能なシャフトと、このシャフトの外周部周りに隙間を形成するようにシリンダ内に配設された磁場発生装置と、前記隙間の軸方向の両外側端部を封鎖して磁場発生装置とシャフトとの間に中空の収容部を形成するように組み込まれたシール部材と、前記収容部に充填され磁場発生装置を介して磁界が印加されたとき粘性が変化する磁気粘性流体と、を備える。磁場発生装置は、シャフトが貫通する第1シャフト挿通孔を有するボビンと、このボビンの外周部に巻装されて磁界を発生するコイルと、ボビンの軸方向の両端部に配設されそれぞれシャフトが貫通する第2シャフト挿通孔を有するヨークとを具備する。前記磁気粘性流体は、前記ダンパ機構の組立時に、シリンダ内にシャフトの一端、奥側のシール部材および磁場発生装置を組み込み、かつシリンダにあってシャフトの他端が突出する側となる外側のシール部材を組み込む前の状態で、磁場発生装置の外側に位置する前記ヨークの第2シャフト挿通孔とシャフトの外周部との間の隙間から前記収容部に注入する。ボビンの第1シャフト挿通孔に、当該第1シャフト挿通孔とシャフトの外周部との間の隙間が周方向で部分的に大きくなるように大隙間形成部を設けた。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態による洗濯機全体の概略構成を示す縦断側面図
【図2】サスペンションの外観斜視図
【図3】サスペンションの縦断面図
【図4】ダンパ機構の要部の分解斜視図
【図5】磁気粘性流体を注入する際の状態を示す要部の縦断面図
【図6】ボビンとシャフトとの間の隙間を示す横断平面図
【図7】図5のA−A線に沿う横断平面図
【図8】第2実施形態による図6相当図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、複数の実施形態による洗濯機を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
ドラム式洗濯機に適用した第1実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。図1に示すドラム式洗濯機(以下、単に洗濯機という)は、乾燥機能付の洗濯機であり、まずその全体構成の概要につき説明する。外殻を形成する箱状の筐体1の前面部(図1において右側)には、そのほぼ中央部に洗濯物出入口2が形成されているとともに、その洗濯物出入口2を開閉する扉3が設けられている。筐体1の前面部の上部には操作パネル4が設けられており、その操作パネル4の裏側に運転制御用の制御装置5が設けられている。
【0010】
筐体1の内部には、水槽6が配設されている。この水槽6は、軸方向を前後とする横軸円筒状をなし、筐体1の底板1a上に長手方向を上下方向とした左右一対(一方のみ図示)のサスペンション7(詳細は後述する)によって前上がりの傾斜状態に弾性支持されている。水槽6の背面部には、モータ8が取り付けられている。このモータ8は、例えば直流のブラシレスモータからなるもので、アウターロータ形であり、そのロータ8aの中心部に取り付けられた図示しない回転軸が、軸受ブラケット9を介して水槽6の内部に挿通され、後述するドラム10の背面部の中央部に連結されている。
【0011】
前記ドラム10は、水槽6内部に配設され、洗濯物を収容するとともに回転可能な洗濯槽として機能する。このドラム10は、当該ドラム10を内包した水槽6と同様に軸方向を前後となす横軸円筒状をなすもので、前記した如くモータ8の回転軸と連結されて水槽6と同軸状の前上がりの傾斜状態に支持されている。このドラム10は、モータ8によりダイレクトに駆動されて横軸周りに回転し、ドラム10を回転させるドラム駆動装置として機能する。
【0012】
ドラム10の周側部(胴部)には、通水および通風可能な小孔11が全域にわたって多数形成されている。これに対し水槽6は、ほぼ無孔状をなし貯水可能な構成とされている。これらドラム10および水槽6は、共に前面部に開口部12,13を有しており、そのうちの水槽6の開口部13と前記洗濯物出入口2との間に、環状のベローズ14が装着されている。これにより、洗濯物出入口2は、ベローズ14、水槽6の開口部13、およびドラム10の開口部12を介して、ドラム10の内部に連なる形態とされている。貯水可能な水槽6の最低部位には、途中に排水弁15を介して排水管16が接続されていて、水槽6内の水は、その排水管16を通して機外に排出可能とされている。
【0013】
ここで、前記した乾燥機能の構成について簡単に説明する。水槽6の背面側から上方および前方にわたって、乾燥ユニット17が設けられている。この乾燥ユニット17は、送風装置18、加熱装置19、および図示しない除湿手段等を備えた循環ダクト20から構成されていて、乾燥運転時に水槽6内から排出された空気中の水分を除湿し、次いで加熱して所謂乾燥風を生成し、水槽6内に戻す(供給)ことを繰り返す循環を行ない、回転駆動されるドラム10内の洗濯物を乾燥させるようになっている。
【0014】
次に、前記したサスペンション7の具体構成について、図2および図3も参照して説明する。サスペンション7は、その概略構成として図1に示したように、前記筐体1と水槽6との間に上下方向に連結して設けられている。具体的には、筐体1の底板1aが有する取付板21側に取り付けた円筒状のシリンダ22と、一端となる下端部がシリンダ22内を往復動可能たる上下動可能に挿通され、その他端となる上端部が前記水槽6が有する取付板23側に取り付けられたシャフト24と、シリンダ22から外部となる上方に突出して延びるシャフト24周りに装着されたコイルばね25を備えた構成とされている。
【0015】
このサスペンション7を筐体1内に組み込む際には、特には図3の縦断面図に示すようにシリンダ22の下端部に当該シリンダ22の下部開口端を閉塞するようにシリンダ連結部22aを固着していて、このシリンダ連結部22aを、図1に示す底板1aの取付板21にゴムなどの弾性座板26等を介してナット27で締結することにより、当該シリンダ22を底板1a側の取付板21に取付固定している。なお、シリンダ22は鉄製で、詳細は後述するが、当該シリンダ22と共にダンパ機構28を構成する磁場発生装置29等を備えている。
【0016】
シャフト24は、シリンダ22の内部に下半部が挿入されるシャフト主部24aと、その上端部に一体的に連結されたシャフト連結部24bとから構成されていて、少なくともシャフト主部24aは鉄製の磁性体としている。そして、シャフト連結部24bを、図1に示す水槽6の取付板23に同様の弾性座板30等を介してナット31で締結することにより、シャフト24を水槽6の振動に追従して一体的に上下方向等に応動するように連結した構成としている。
【0017】
なお、前記コイルばね25は図3に示すように、下端部がダンパ機構28を構成するシリンダ22の外側上端部に支持され、上端部はシャフト24の上部に装着された円板状のばね受け座32に受け止められ、弾発力が蓄積した状態に装着されている。つまり、シャフト24をシリンダ22から上方たる外部に引き出すように付勢した状態に張設され、当然ながらシャフト24は所定以上、上方に突出しない位置に保持される構成、つまりシャフト24の抜け止め手段(詳細は後述する)が施されている。
【0018】
前記ダンパ機構28の具体構成について、主に図3を参照して述べる。このダンパ機構28は、前記シリンダ22と、このシリンダ22の筒状内部に上下位置に離間して組み込まれた軸受部材33,34と、一端部が軸受部材33,34に軸方向に往復動可能に挿通され他端となる上方側がシリンダ22外に延出された前記シャフト24と、このシャフト24周りに隙間G(図5参照)を形成するようにシリンダ22内に配設された磁場発生装置29と、前記隙間Gの両外側端部(上下端部)を封鎖して磁場発生装置29とシャフト24との間に
中空環状の収容部35(図5参照)を形成するように組み込まれたシール部材36,37と、前記収容部35に充填され磁場発生装置29を介して磁界が印加されたとき粘性が変化する磁気粘性流体38(詳細は後述する)とを具備した構成となっている。
【0019】
上記構成のうち、シリンダ22内の所定位置に保持される前記シャフト24の抜け止め手段につき図3および図5に基づき具体的に述べる。シャフト24側にあっては、このシャフト24の下端部に環状の係止リング39が装着され、シリンダ22側には、その上下方向のほぼ中間部に中空筒状をなす前記軸受部材33が組み込まれている。この軸受部材33は、アルミニウム製の非磁性体からなる軸受ケース33aと、この内部に嵌合固定されシャフト24を軸方向でもある上下方向へ往復動可能に摺動支持する環状の軸受33bとから構成されている。軸受33bは、例えば非磁性体である銅系の焼結含油軸受から構成されている。
【0020】
軸受ケース33aは、その下端部がシリンダ22のほぼ中間部位に径方向(内方)に絞ったくびれ部22bに当接する位置に配置され、例えばかしめや圧入により嵌合固定される。この軸受部材33の下面側に、シャフト24の下端部に装着された前記係止リング39が位置していて、シャフト24の上方への移動は係止リング39が軸受部材33の下面に当接することで衝止される。ただし、シリンダ22のくびれ部22b以下は、空洞部22cを形成していて、シャフト24の下方への移動を自由としている。
【0021】
このように、下部側における軸受部材33は、シャフト24の上方への抜け移動を規制する手段として機能するとともに、軸受33bを保持し、更にはその上面側に装着された前記シール部材36を保持するのにも機能している。シール部材36は、その内周側の環状のリップ36aがシャフト24の外周面に圧接して、隙間Gの下側を封鎖するシール性能を発揮する構成としている。シール部材36は、リップ36aの外周側に上側が開口した環状溝部36b(図4および図5参照)を有している。
【0022】
上記した下側の軸受部材33およびシール部材36に対し、シリンダ22の開口端側の離間した位置に、実質的に同一材料でほぼ同一形状の前記軸受部材34およびシール部材37が対向した状態に組み込み固定されている。従って、軸受部材34は軸受ケース34aと軸受34bとから構成され、また、上部側のシール部材37は、環状のリップ37aと、下面側が開口した環状溝部37bを有した構成となっている。この軸受部材33およびシール部材37は、本実施形態では図1に示すようにサスペンション7として組み込まれた状態では上部側に位置し、下部側の軸受部材33およびシール部材36とは対向配置された状態にある。
【0023】
なお、上部側の軸受ケース34aは、図3に示すように中央上面に円筒状の凸部34cを一体に突設している点で下部側の軸受ケース33aと異なっている。この凸部34cは、冠状のキャップ40をシリンダ22の開口端部に装着した組立完成した状態でも、このキャップ40から上方に突出する高さを有している。なお、キャップ40は、上部側の軸受部材34およびシール部材37をシリンダ22内の上端部に組み込み、例えば軸受ケース34aをかしめにより嵌合固定した後、シリンダ22の開口側上端部の外側に圧入により嵌合固定されている。
【0024】
そして、このキャップ40上面と突出した凸部34cの外周囲に、前記コイルばね25の下端部が圧接保持されている。よって、コイルばね25は、キャップ40と前記ばね受け座32との間で伸縮可能な圧縮状態に保持されている。このようにして、シャフト24は、軸受手段を構成する上下部の軸受部材33,34の各軸受33b,34bに摺動可能に軸支され、およびシール部材36,37に水密に摺接し、もって往復動可能に設けられている。
【0025】
次に、上記した上下部の軸受部材33,34の間に組み込まれた磁場発生装置29の具体構成について説明する。この磁場発生装置29は、ボビン41と、このボビン41に巻装されて磁界(磁場)を発生するコイル42と、ボビン41の軸方向の両端部に配置される磁性体製のヨーク43,44とを備えている。
【0026】
このうちボビン41は、図4に示すように、円筒状をなす胴部41aと、この胴部41aの軸方向の両端部に設けられた鍔部41bとを一体に有した合成樹脂製のものであり、その胴部41aの外周部にコイル42が巻装されている。胴部41aの内周部には、シャフト24が貫通する第1シャフト挿通孔45が形成されている。その第1シャフト挿通孔45の内周面とシャフト24の外周面との間には、図6に示すように隙間Gが形成されている。この場合、第1シャフト挿通孔45はシャフト24の外形よりやや大きな小判形をなしており、この第1シャフト挿通孔45には、当該第1シャフト挿通孔45とシャフト24との間の隙間Gが周方向で部分的に大きくなるように大隙間形成部46が設けられている。大隙間形成部46は、シャフト24を挟んで対向する2箇所に設けられている。また、第1シャフト挿通孔45において、一方の大隙間形成部46には、径方向の外側に窪む溝部47が軸方向に沿って延びるように設けられている。
【0027】
下側のヨーク43および上側のヨーク44は、共に短円筒状をなしていて、シャフト24が貫通する第2シャフト挿通孔48を有している。これら上下のヨーク43,44の各第2シャフト挿通孔48とシャフト24との間にも、図7に示すように隙間Gが形成されている。上下のヨーク43,44の各第2シャフト挿通孔48には、径方向の外側に窪む溝部49が軸方向に沿って延びるように設けられている。これら溝部49も、シャフト24を挟んで対向する2箇所に設けられている。これら溝部49のうち、上側のヨーク44の一方の溝部49を、注入用溝部49a(図4および図7参照)としている。
【0028】
前記ボビン41と、これに巻装されたコイル42と、ボビン41の両端部に配置されたヨーク43,44は、合成樹脂からなるモールド樹脂50(図3、図5参照)によりモールドして一体化された構成なっていて、これにより本実施形態における磁場発生装置29が構成されている。このとき、図4に示すように、上下のヨーク43,44の溝部49、49と、ボビン41の大隙間形成部46(溝部47)が、軸方向に並ぶように配置する。これにより、上側のヨーク43の注入用溝部49aと、ボビン41の溝部47とは、周方向の位置がほぼ一致する。
【0029】
そして、このような構成の磁場発生装置29をシリンダ22内に組み込んだ状態で、下および上の各ヨーク43,44とシャフト24との間の隙間G、ボビン41とシャフト24との間の隙間Gは、シャフト24の軸方向に沿って連通していて、その隙間Gの上下の端部が前記シール部材36,37によって封鎖されている。これにより、シャフト24と磁場発生装置29との間に密閉された円筒状の収容部35が形成され、その収容部35に磁気粘性流体38(図3参照)が充填されている。
【0030】
磁気粘性流体38は、電気的エネルギーの印加により粘性が変化する流体で、磁界(磁場)の強度に応じて粘性特性が変化するものであり、例えばポリアルファオレフィンオイルを主体とするベースオイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものからなり、磁界が印加されると強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで見かけ上の粘度が上昇する特性を有するものである。
【0031】
ここで、コイル42への通電に伴い該コイル42周りに発生する磁気回路Dは、図2の矢印方向に形成される。具体的には、コイル42によって発生する磁気回路Dは、シャフト24→収容部35(隙間G)→上部のヨーク44→シリンダ22→下部側のヨーク43→収容部35(隙間G)→シャフト24に至る経路にて形成される。なお、コイル42のリード線51は、上部のヨーク44付近からシリンダ22の外部へ引き出されている。このリード線51は、図示しない駆動回路を介して前記制御装置5に接続される。コイル42は、その制御装置5により通断電制御される。
【0032】
そして、前記収容部35へ充填すべく磁気粘性流体38の注入は、図1に示すように、シリンダ22にシャフト24の下端部を挿入するとともに、上記した磁場発生装置29と下部側のシール部材36および軸受部材33を収容固定し、上部側のシール部材37および軸受部材34が組み込まれる前の状態で実行される。つまり、収容部35の一端たる上端面が開放されたヨーク44とシャフト24との間の隙間G側から、磁気粘性流体38を注入するようにしている。
【0033】
収容部35に磁気粘性流体38を注入するには、具体的には、図1に示すような注入器52を用いて行う。注入器52は、容器部53と、注入針54と、操作杆55とを有する構成で、容器部53内に磁気粘性流体38を収容しておく。なお、本実施形態では、注入器52の容器部53に、収容部35を複数回分満たす量の磁気粘性流体38を収容している。そして、注入針54の先端部を、上端が開放されたシリンダ22の上方から上側のヨーク44の一方の溝部49(注入用溝部49a)に一部挿入するように宛がった状態で、操作杆55を押圧操作することにより、容器部53内の磁気粘性流体38に圧力をかけて当該磁気粘性流体38を注入針54の先端部から押し出すようにする。
【0034】
注入針54の先端部から押し出された磁気粘性流体38は、主に、上側のヨーク44の注入用溝部49aとシャフト24との間の隙間G、ボビン41の第1シャフト挿通孔45における一方の大隙間形成部46(溝部47)とシャフト24との間の隙間G、下側のヨーク43の一方の溝部49とシャフト24との間の隙間Gを通り、下側のシール部材36の環状溝部36bに入り込む(図4の点線矢印R参照)。これに伴い、収容部35内の空気が、主に、下側のヨーク43の溝部49とシャフト24との間の隙間G、ボビン41の第1シャフト挿通孔45における大隙間形成部46とシャフト24との間の隙間G、上側のヨーク44の溝部49とシャフト24との間の隙間Gを通り、収容部35の外部に押し出される。また、下側のシール部材36の環状溝部36bに入り込んだ磁気粘性流体38は、環状溝部36bを埋めながら徐々に上昇し、主に、先程とは逆に、下側のヨーク43の他方の溝部49とシャフト24との間の隙間G、ボビン41の第1シャフト挿通孔45における他方の大隙間形成部46とシャフト24との間の隙間G、上側のヨーク44の他方の溝部49とシャフト24との間の隙間Gを通り、収容部35内に充填されていく。
【0035】
このとき、特に、ボビン41の第1シャフト挿通孔45には大隙間形成部46を形成していて、第1シャフト挿通孔45とシャフト24との間の隙間Gを部分的に大きくしているので、磁気粘性流体38は、その隙間Gの大きな部分を起点にして収容部35内へ広がり易くなるとともに、収容部35内からの空気の排出もされ易くなり、当該収容部35内への磁気粘性流体38の注入が一層効率的に行われることを期待できる。
【0036】
そして、収容部35内のほぼすべてに磁気粘性流体38が充填されると、収容部35内に入りきれない磁気粘性流体38の一部が、上側のヨーク44とシャフト24との間の隙間Gから上部へ溢れ出るようになる。このように磁気粘性流体38の一部がヨーク44の外部側へ溢れる状態となったところで、磁気粘性流体38の注入を停止する。なお、好ましくは、注入器52に一定量の磁気粘性流体38を予め計量してセットすることで、注入し切った時点で適量が注入されるようにすれば作業効率を高めることができる。
【0037】
そして、この磁気粘性流体38の注入後は、図3に示すように上部側のシール部材37および軸受部材34をシリンダ22内に組み込んだ後、シリンダ22の開口端側を例えばかしめ加工して固定し、もって収容部35は密閉された状態に構成される。この後に、前記キャップ40を嵌合して圧入固定するとともに、このシリンダ22の上端部に、凸部34c周りにコイルばね25を配置して組み込むことでサスペンション7として組立てられる。なお、本実施形態ではシャフト連結部24bは、シャフト主部24aと着脱可能に連結されていて、コイルばね25をシャフト主部24a周りに配置し、その上端部をばね受け座32で受け止めるとともにシャフト連結部24bを連結するようにしている。
【0038】
このように構成されたサスペンション7は、前記した如く筐体1の底板1aと水槽6との間の上下方向において、図1に示すように水槽6側にシリンダ22から突出したシャフト24およびコイルばね25が位置し、筐体1側にシリンダ22が位置した状態で、水槽6の左右両側に夫々配置され弾性的に連結支持される。
【0039】
次に、上記構成の洗濯機の作用について述べる。
本実施形態の横軸周りのドラム10を備えた洗濯機では、洗い、すすぎ、脱水、および乾燥の各行程において、制御装置5がドラム10を夫々適正な回転速度にて駆動制御することで運転が自動的に実行される。そして、ドラム10内に収容された洗濯物(図示せず)による偏荷重などに起因してドラム10に振動が生ずると、弾性的に支持された水槽6も上下方向を主体に振動する。この水槽6の上下振動に応動して、サスペンション7では、水槽6に一体的に連結されたシャフト24とシリンダ22との間のコイルばね25を伸縮させ、該シャフト24はシリンダ22内を上下方向に往復動する。コイルばね25は、その伸縮作用により振動を吸収して筐体1(底板1a)側への振動伝達を効果的に阻止する機能を発揮する。
【0040】
一方、下方側においてはシリンダ22や磁場発生装置29等からなるダンパ機構28により振動を速やかに減衰する作用を発揮する。すなわち、ドラム10を回転駆動する運転時には、磁場発生装置29を構成するコイル42に通電され磁場が発生する。これにより、コイル42の周りに磁気回路D(図3参照)が形成され、そのうちの特に磁束密度の高い下部および上部の各ヨーク43,44とシャフト24との間にあっては、隙間Gも狭小としていることも相俟って、該隙間G部位において磁界が与えられた磁気粘性流体38は、その粘度が急速に高められ、シャフト24の上下方向の往復動に対する摩擦抵抗を増大し、結果として水槽6の振動振幅を速やかに減衰する。特に、脱水運転ではドラム10を高速回転する回転初期における共振点付近では急速に振動が大きくなる傾向にあるが、このような振動を速やかに減衰する所謂ダンパ効果を有効に発揮する。従って、異常振動や異常騒音を招くことなく円滑な脱水運転を継続して実行できる。
【0041】
このように、ダンパ機構28が有効に機能するには磁気粘性流体38を収容部35内に確実に充填する必要がある。そこで、本実施形態では図5に示すように、前記シャフト24がシリンダ22外に延出する側、つまり水槽6側に位置する一方側たる上部側のシール部材37および軸受部材34を組み込む前において、外部に露呈した上側のヨーク44とシャフト24間に形成された隙間G側から、注入器52により収容部35内に注入できるようにしているので、磁気粘性流体38を収容部35内へ容易に注入することができる。しかも、上側のヨーク44の第2シャフト挿通孔48には注入用溝部49aを形成していて、シャフト24との間の隙間Gを部分的に大きくしているので、注入器52による磁気粘性流体38の注入を一層容易に行うことができる。
【0042】
そして、本実施形態においては、シリンダ22内に収容配置される磁場発生装置29のボビン41における第1シャフト挿通孔45には大隙間形成部46を形成していて、第1シャフト挿通孔45とシャフト24との間の隙間Gを周方向において部分的に大きくしているので、磁気粘性流体38を収容部35へ注入する際に、磁気粘性流体38は、その隙間Gの大きな部分を起点にして収容部35内へ広がり易くなるとともに、収容部35内からの空気の排出もされ易くなる。これにより、収容部35内への磁気粘性流体38の注入が一層効率的に行われることが期待でき、しかも一層確実に充填することを期待できる。
【0043】
この場合、ボビン41における第1シャフト挿通孔45を全体に大きくして、シャフト24との間の隙間G全体を大きくすることが考えられる。しかし、隙間G全体を大きくした場合には、収容部35の容量もその分大きくなってしまい、その収容部35に充填される磁気粘性流体38の量が多くなり、コスト的に不利になってしまうため、得策ではない。
【0044】
ボビン41における第1シャフト挿通孔45にあって大隙間形成部46を設けた部分に、径方向外側へ窪む溝部47を形成したことにより、収容部35内への磁気粘性流体38の注入を一層スムーズに行うことができるようになる。
【0045】
上部側のヨーク44の第2シャフト挿通孔48には、磁気粘性流体38を収容部35に注入するための注入用溝部49aが設けられており、ボビン41における前記溝部47と前記ヨーク44における注入用溝部49aは、周方向の位置がほぼ一致している。これにより、注入用溝部49aから注入された磁気粘性流体38は、ボビン41の溝部47に一層スムーズに案内されるようになり、これによっても、収容部35内への磁気粘性流体38の注入を一層スムーズに行うことができるようになる。
【0046】
ボビン41の第1シャフト挿通孔45には、大隙間形成部46が周方向の複数箇所、この場合2箇所に設けられているので、これによっても、収容部35内への磁気粘性流体38の注入を一層スムーズに行うことができるようになる。
【0047】
上記した実施形態において、第1シャフト挿通孔45の大隙間形成部46は1箇所のみでもよい。また、溝部47は、対向する2箇所に設けてもよい。また、溝部47は設けなくてもよい。
【0048】
(第2実施形態)
図8は第2実施形態を示している。この第2実施形態は、上記した第1実施形態とは次の点が異なっている。すなわち、ボビン41における第1シャフト挿通孔60は、シャフト24の外形より大きな円形状であるが、その円の中心O2が、シャフト24の円の中心O1に対して径方向にずれていて、第1シャフト挿通孔60とシャフト24との間の隙間Gは、周方向に部分的に大きくなっている。この場合も、第1シャフト挿通孔60には、当該第1シャフト挿通孔60とシャフト24の外周部との間の隙間Gが周方向で部分的に大きくなるように大隙間形成部61を設けている。このような第2実施形態においても、基本的に第1実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0049】
(その他の実施形態)
上記した実施形態では、横軸周りのドラム10を備えたドラム式洗濯機に適用して述べたが、これに限らず、例えば縦軸周りに回転可能な脱水槽を兼用した洗濯槽を有し、その縦軸状に有底筒状の水槽を備えた、所謂縦軸型の洗濯機でも適用可能である。
また、水槽6側にシャフト24を連結しシリンダ22内を上下動(往復動)する構成としたが、これに限らず、例えばシリンダ22側を水槽6側に取り付け、シャフト24(コイルばね25)側を筐体1の底板1aに取り付ける連結構造としても良い。この場合、水槽6に応動してシリンダ22側が直接往復動するが、シャフト24はシリンダ22に対し相対的に往復動する構成となり、実質的に上記実施形態と同様の作用効果が期待できる。
さらに、磁場発生装置29におけるコイル42(ボビン41)は1個のみに限られず、コイル42をシリンダ22の軸方向に2段、あるいはそれ以上設ける構成としてもよい。
【0050】
以上のように本実施形態の洗濯機によると、磁場発生装置におけるボビンの第1シャフト挿通孔に、当該第1シャフト挿通孔とシャフトの外周部との間の隙間が周方向で部分的に大きくなるように大隙間形成部を設けたことにより、磁場発生装置とシャフトとの間の収容部に注入される磁気粘性流体の注入を効率的に、しかもより確実に行うことが期待できる。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
図面中、1は筐体、6は水槽、7はサスペンション、10はドラム(洗濯槽)、22はシリンダ、24はシャフト、25はコイルばね、28はダンパ機構、29は磁場発生装置、33,34は軸受部材、35は収容部、36,37はシール部材、38は磁気粘性流体、41はボビン、42はコイル、43,44はヨーク、45は第1シャフト挿通孔、46は大隙間形成部、47は溝部、48は第2シャフト挿通孔、49は溝部、49aは注入用溝部、52は注入器を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に、回転可能な洗濯槽を収容した水槽をサスペンションを介して防振支持する洗濯機において、
前記サスペンションは、前記筐体と前記水槽との間にダンパ機構を介して組み込まれ、
前記ダンパ機構は、筒状のシリンダと、一端が前記シリンダ内に挿入されかつ他端が前記シリンダ外へ突出しそのシリンダに対して相対的に軸方向へ往復移動可能なシャフトと、このシャフトの外周部周りに隙間を形成するように前記シリンダ内に配設された磁場発生装置と、前記隙間の軸方向の両外側端部を封鎖して前記磁場発生装置と前記シャフトとの間に中空の収容部を形成するように組み込まれたシール部材と、前記収容部に充填され前記磁場発生装置を介して磁界が印加されたとき粘性が変化する磁気粘性流体と、を備え、
前記磁場発生装置は、前記シャフトが貫通する第1シャフト挿通孔を有するボビンと、このボビンの外周部に巻装されて磁界を発生するコイルと、前記ボビンの軸方向の両端部に配設されそれぞれ前記シャフトが貫通する第2シャフト挿通孔を有するヨークとを具備してなり、
前記磁気粘性流体は、前記ダンパ機構の組立時に、前記シリンダ内に前記シャフトの一端、奥側のシール部材および前記磁場発生装置を組み込み、かつ前記シリンダにあって前記シャフトの他端が突出する側となる外側のシール部材を組み込む前の状態で、前記磁場発生装置の外側に位置する前記ヨークの前記第2シャフト挿通孔と前記シャフトの外周部との間の隙間から前記収容部に注入するようにしていて、
前記ボビンの前記第1シャフト挿通孔に、当該第1シャフト挿通孔と前記シャフトの外周部との間の隙間が周方向で部分的に大きくなるように大隙間形成部を設けたことを特徴とする洗濯機。
【請求項2】
前記ボビンの前記第1シャフト挿通孔にあって前記大隙間形成部を設けた部分に、径方向外側に窪む溝部を設けたことを特徴とする請求項1記載の洗濯機。
【請求項3】
前記磁気粘性流体を注入する側の前記ヨークの第2シャフト挿通孔には、前記磁気粘性流体を前記収容部に注入するための注入用溝部が設けられており、前記ボビンにおける前記溝部と前記ヨークにおける前記注入用溝部は、周方向の位置がほぼ一致していることを特徴とする請求項2記載の洗濯機。
【請求項4】
前記ボビンの前記第1シャフト挿通孔には、前記大隙間形成部が周方向の複数箇所に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−102803(P2013−102803A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246389(P2011−246389)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】