津波による漂流物を捕捉する構造物、及びこの構造物を備えた津波漂流物対策施設
【課題】津波の寄せ波によって流れてきた漂流物をより確実に堰き止めることができ、漂流物によって発生する被害をより確実に防止することができる構造物を得る。
【解決手段】津波による漂流物を捕捉する構造物1は、岸壁50に立設される支柱2を備え、支柱2の海側Aとなる箇所には、海側Aに向かって斜め上方に傾斜する海側傾斜部3が形成されているものである。
【解決手段】津波による漂流物を捕捉する構造物1は、岸壁50に立設される支柱2を備え、支柱2の海側Aとなる箇所には、海側Aに向かって斜め上方に傾斜する海側傾斜部3が形成されているものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波による漂流物を捕捉する構造物、及びこの構造物を備えた津波漂流物対策施設に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等が起こって津波が発生した場合、この津波は、陸上に上がると内陸に数キロまで遡上する場合がある。その際、水そのものによる被害もさることながら、津波によって陸上に流されてきた船舶等の漂流物が家屋等の各種施設に衝突し、津波の被害を拡大させている。また、津波は、寄せ波の後に引き波が発生する。この引き波によっても、家屋や車両等が漂流物として陸上から流れ出し、財産の紛失や当該漂流物の湾港への沈積等といった被害が発生する。
【0003】
津波による漂流物によって発生するこのような被害を防止する施設として、例えば湾港の岸壁等に津波による漂流物を捕捉する構造物を所定間隔毎に並設した津波漂流物対策施設が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1に記載の津波漂流物対策施設は、側面視略逆V字型に支柱を接続した立設体を備えた構造物を所定間隔毎に並設した構成となっている。また、特許文献2に記載の津波漂流物対策施設は、側面視において下側が開口した略コの字型に支柱を接続し、当該支柱(立設体)の海側の箇所に衝撃吸収体を設けた構造物を所定間隔毎に並設した構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−202339号公報
【特許文献2】特開2007−211559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の津波漂流物対策施設においては、津波の寄せ波によって津波漂流物対策施設に流れてきた船舶等の漂流物は、構造物の立設体の海側の支柱に衝突し、捕捉されて堆積していく。そして、津波漂流物対策施設に漂流物が堆積していくにしたがって、立設体の海側の支柱近傍に堆積した漂流物は、後から流れ込んできた漂流物によって、立設体の海側の支柱に押しつけられることとなる。
【0006】
ここで、従来の津波漂流物対策施設においては、津波の寄せ波によって流れてきた船舶等の漂流物を捕捉する海側の支柱は、その海側の面が垂直方向又は陸側に向かって傾斜する構造となっていた。このため、津波漂流物対策施設に漂流物が堆積していくにしたがって、立設体の海側の支柱近傍に堆積した漂流物は、後から流れ込んできた漂流物によって上方に押し上げられ、構造物を乗り越えてしまう場合があった。したがって、従来の津波漂流物対策施設は、津波の寄せ波によって流れてきた船舶等の漂流物を十分に堰き止めることができず、漂流物によって発生する被害を十分に防止することができない場合があるといった問題点があった。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、津波の寄せ波によって流れてきた漂流物をより確実に堰き止めることができ、漂流物によって発生する被害をより確実に防止することができる構造物、及びこの構造物を備えた津波漂流物対策施設を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物は、陸上に立設される立設体を備え、立設体の海側の箇所には、少なくとも上部に、海側に向かって斜め上方に傾斜する第1の傾斜部が形成されているものである。
【0009】
また、本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物の立設体は、第1の傾斜部の形成箇所の反対側となる箇所において、少なくとも上部に、第1の傾斜部とは反対の方向に向かって斜め上方に傾斜する第2の傾斜部が形成されているものである。
【0010】
また、本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物の立設体は1本の支柱であり、第1の傾斜部及び第2の傾斜部がこの支柱に形成されているものである。このとき、支柱の途中部に柱状部材を接続することにより第1の傾斜部及び第2の傾斜部を構成し、支柱の頭部が、支柱における第1の傾斜部及び第2の傾斜部の接続部よりも上方に突出しているとよい。
【0011】
また、本発明に係る津波漂流物対策施設は、上記した本発明に係る構造物のいずれかを複数備え、これら津波による漂流物を捕捉する構造物を所定の間隔を介して並設したものである。このとき、津波による漂流物を捕捉する構造物の間に、津波による漂流物を捕捉するスクリーンを設けてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物においては、立設体の海側の箇所には、少なくとも上部に、海側に向かって斜め上方に傾斜する第1の傾斜部が形成されている。このため、立設体近傍に堆積した漂流物が後から流れ込んできた漂流物によって立設体側に押しつけられた場合でも、立設体近傍に堆積した漂流物は第1の傾斜部に押しつけられることになり、立設体近傍に堆積した漂流物には、下側に作用する力が付与されることとなる。このため、本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物は、立設体近傍に堆積した漂流物が立設体を乗り越えることがない。したがって、本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物は、津波の寄せ波によって流れてきた漂流物をより確実に堰き止めることができ、漂流物によって発生する被害をより確実に防止することができる。
【0013】
また、第1の傾斜部の形成箇所の反対側となる箇所には、少なくとも上部に、第1の傾斜部とは反対の方向に向かって斜め上方に傾斜する第2の傾斜部を形成することにより、津波の引き波によって立設体近傍に堆積した漂流物が立設体を乗り越えることも防止できる。このため、第2の傾斜部を形成することにより、津波の引き波によって流れてきた漂流物による被害も確実に防止することができる。
【0014】
また、立設体を1本の支柱で構成することにより、立設体を立設するための基礎面積を小さくすることができ、本発明に係る構造物を設置する場所の自由度が向上する。
立設体の基礎としては、例えば、コンクリート基礎や杭基礎等が想定される。このとき、支柱の下部を基礎杭としても用いる場合、支柱の頭部を第1の傾斜部及び第2の傾斜部の接続部よりも上方に突出しておくことにより、支柱を基礎部に打ち込むことが容易となり、本発明に係る構造物の設置が容易となる。
【0015】
また、本発明に係る津波漂流物対策施設は、上記した本発明に係る構造物のいずれかを複数備え、これら津波による漂流物を捕捉する構造物を所定の間隔を介して並設しているので、上述の効果を有する津波漂流物対策施設を得ることができる。
構造物間の距離は、通常、想定される漂流物の大きさ等によって適宜決定される。このとき、漂流物の大きさが想定よりも小さかった場合や、漂流物が流される際の姿勢等によっては、構造物間を通り過ぎることも考えられる。構造物の間に津波による漂流物を捕捉するスクリーンを設けることにより、このような漂流物を捕捉することも可能となる。
【0016】
なお、本発明に係る漂流物を捕捉する構造物及び津波漂流物対策施設は、海沿いのみに設置されるものではなく、例えば河川沿いに設置しても勿論よい。この場合、第1の傾斜部を河川側に向かって斜め上方に傾斜するように形成すればよい。つまり、本発明に係る漂流物を捕捉する構造物及び津波漂流物対策施設は、第1の傾斜部を水面側(海側や河川側)に向かって斜め上方に傾斜するように形成することにより、津波によって流れてきた漂流物による被害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物の別の一例を示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物における漂流物の捕捉動作を説明するための説明図(側面図)である。
【図5】凹み変形によるエネルギー(吸収エネルギー)を説明するための概念図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物の変形状態を示す側面図である。
【図7】従来の津波漂流物対策施設の構造物の変形状態を示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る津波漂流物対策施設を示す外観斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る津波漂流物対策施設の構造物を示す側面図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物の一例を示す側面図である。
【図11】本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
【図13】本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設を示す外観斜視図である。また、図2は、この津波漂流物対策施設の構造物を示す側面図である。以下、図1及び図2に基づいて、本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100、及び津波漂流物対策施設100の構造物1(つまり、津波による漂流物を捕捉する構造物)について説明する。なお、本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100の設置場所は特に限定されないが、以下では、津波漂流物対策施設100を湾港の岸壁50に設置した場合を例にして説明する。
【0019】
本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100は、津波による漂流物を捕捉するためのものである。この津波漂流物対策施設100は複数の構造物1を備え、これら構造物1は、所定の間隔を介して岸壁50に並設されている。また、津波漂流物対策施設100は、構造物1の間に設けられたスクリーン10も備えている。本実施の形態1では、構造物1間にワイヤを張ることによりスクリーン10を構成している。
【0020】
なお、構造物1間の間隔は、津波によって津波漂流物対策施設100に流れてくることが想定される漂流物(船舶、家屋、車両等)の大きさ等によって適宜決定される。例えば、構造物1間の間隔は、津波によって津波漂流物対策施設100に流れてくる漂流物が2つの構造物1に引っ掛かるような間隔としている。このため、スクリーン10が設置されていなくとも、津波漂流物対策施設100は十分に漂流物を捕捉することができる。しかしながら、漂流物の大きさが想定よりも小さかった場合や、漂流物が流される際の姿勢等によっては、構造物1間を通り過ぎることも考えられる。本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100は、構造物1の間に津波による漂流物を捕捉するスクリーン10を設けることにより、このような漂流物を捕捉することも可能としている。なお、本実施の形態1では、構造物1間にワイヤを張ることによりスクリーン10を構成しているが、スクリーン10の構成は任意である。例えば、より小さい漂流物を捕捉することを可能とするため、ネット状のスクリーンとしてもよい。
【0021】
(構造物1の詳細構成)
図2に示すように、本実施の形態1に係る構造物1は、岸壁50の基礎部に立設された例えば円筒形状の支柱2(本実施の形態1では、鋼管φ508×t19を使用)を備えている。この支柱2の上端部には、海側傾斜部3となる筒状部材(本実施の形態1では、鋼管φ508×t19を使用)が、例えば溶接接続されている。この海側傾斜部3となる筒状部材は、海側Aに向かって斜め上方に傾斜するように、支柱2に溶接接続されている。つまり、海側傾斜部3は、津波の寄せ波が来る方向に向かって斜め上方に傾斜するように形成されている。なお、支柱2の上部を折り曲げ加工すること等により、海側傾斜部3を形成しても勿論よい。
ここで、支柱2が本発明における立設体に相当し、海側傾斜部3が本発明における第1の傾斜部に相当する。
【0022】
また、本実施の形態1に係る構造物1には、海側傾斜部3となる筒状部材に、陸側傾斜部4となる筒状部材(本実施の形態1では、鋼管φ508×t19を使用)が例えば溶接接続されている。この陸側傾斜部4となる筒状部材は、陸側B(例えば、湾港施設等が建設されている側)に向かって斜め上方に傾斜するように、海側傾斜部3となる筒状部材に溶接接続されている。つまり、陸側傾斜部4は、津波の引き波が来る方向に向かって斜め上方に傾斜するように形成されている。
ここで、陸側傾斜部4が本発明における第2の傾斜部に相当する。
【0023】
構造物1(より詳しくは、海側傾斜部3及び陸側傾斜部4の上端部)の高さは、例えば、想定される津波の高さに応じて適宜決定される。この際、引き波は一般的に寄せ波よりも低くなるので、陸側傾斜部4の上端部の高さを海側傾斜部3の上端部の高さよりも低く設定してもよい。なお、本実施の形態1では、陸側傾斜部4となる筒状部材を海側傾斜部3となる筒状部材の途中部に取り付けているが、陸側傾斜部4となる筒状部材のこの取り付け位置はあくまでも一例である。例えば、図3(a)に示すように、陸側傾斜部4となる筒状部材を海側傾斜部3となる筒状部材の先端部に取り付けてもよい。また例えば、図3(b)に示すように、陸側傾斜部4となる筒状部材を支柱2に取り付けてもよい。
【0024】
(動作説明)
続いて、このように構成された構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)における漂流物の捕捉動作について説明する。
【0025】
図4は、本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物における漂流物の捕捉動作を説明するための説明図(側面図)である。
津波の寄せ波によって構造物1に流れてきた船舶等の漂流物21は、支柱2の海側Aに面した箇所や海側傾斜部3に衝突し、捕捉されて堆積していく。
例えば、津波漂流物対策施設設計ガイドライン(案)(発行所:財団法人 沿岸技術研究センター、及び、社団法人 寒地湾港技術研究センター、平成21年5月発刊)によると、船型5G.T.の漁船の諸元は、船長11.0m、船幅2.8m、喫水1.8mであるが、この漁船が流速3.0m/s、浸水深2.8mの津波によって構造物1に衝突すると想定した場合、この漁船の構造物1への衝突エネルギーは、54kJとなる。この衝突エネルギーに対して、構造物1は、支柱2及び海側傾斜部3の凹み変形によるエネルギーと梁変形によるエネルギーを加算したエネルギーErにて抵抗し、漁船を捕捉する。ここで、凹み変形によるエネルギーとは、図5の概念図に示すように、支柱2又は海側傾斜部3を構成する鋼管に漂流物が衝突した際に、当該鋼管が局部的に変形することによって吸収するエネルギーである。また、梁変形によるエネルギーとは、図6(a)に示すように、構造物1(支柱2又は海側傾斜部3)に漂流物が衝突した際に、支柱2の下端部が局部座屈することによって吸収するエネルギーである。津波漂流物対策施設設計ガイドライン(案)に基づいて本実施の形態1に係る構造物1のエネルギーErを計算すると、支柱2及び海側傾斜部3の鋼管サイズをφ508×t19、構造物1の高さH(基礎部上面部から海側傾斜部3の上端部までの高さ)を3m、支柱2の基礎部に対する許容変位角を15°とした場合、エネルギーErは208kJとなり、本実施の形態1に係る構造物1が船型5G.T.の漁船による衝突エネルギーに対して十分に抵抗できること(つまり、船型5G.T.の漁船による衝突エネルギーを十分に吸収できること)がわかる。
【0026】
漂流物21が堆積していくにしたがって、構造物1の近傍に堆積した漂流物21は、後から流れ込んできた漂流物21によって、上方に押し上げられるようになる。このとき、本実施の形態1に係る構造物1は海側傾斜部3を備えているので、上方に押し上げられようとする漂流物21は、海側傾斜部3に押しつけられることになり、この漂流物21には、下側に作用する力が付与されることとなる。このため、構造物1の近傍に堆積した漂流物21が上方に押し上げられそうになっても、この漂流物21が海側傾斜部3を乗り越えること、つまり、この漂流物21が構造物1を乗り越えることを防止できる。したがって、寄せ波によって構造物1に流れてきた漂流物21が陸側Bに流れ込むことを防止でき、漂流物21が陸側Bに設置された家屋等の各種施設を破損すること等を防止できる。
【0027】
なお、本実施の形態1に係る構造物1は陸側傾斜部4となる筒状部材を備えているので、漂流物21が海側傾斜部3を万が一乗り越えたとしても、陸側傾斜部4となる筒状部材で再度捕捉することが可能となっている。つまり、本実施の形態1に係る構造物1は、陸側傾斜部4となる筒状部材を備えることにより、漂流物21が構造物1を乗り越えることをより確実に防止できる構成となっている。
【0028】
津波は、寄せ波の後に引き波が発生する。このため、引き波によっても家屋や車両等が漂流物22として構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)に流れてくる。津波の引き波によって構造物1に流れてきた漂流物22は、支柱2の陸側Bに面した箇所や陸側傾斜部4に衝突し、捕捉されて堆積していく。
例えば、津波漂流物対策施設設計ガイドライン(案)によると、重量25kNの車両が流速2.4m/s、浸水深2.24mの津波によって構造物1に衝突すると想定した場合、この車両の構造物1への衝突エネルギーは、9kJとなる。この衝突エネルギーに対して、構造物1は、支柱2及び陸側傾斜部4の凹み変形によるエネルギーと梁変形によるエネルギーを加算したエネルギーErにて抵抗し、漁船を捕捉する。ここで、凹み変形によるエネルギーとは、図5の概念図に示すように、支柱2又は陸側傾斜部4を構成する鋼管に漂流物が衝突した際に、当該鋼管が局部的に変形することによって吸収するエネルギーである。また、梁変形によるエネルギーとは、図6(b)に示すように、構造物1(支柱2又は陸側傾斜部4)に漂流物が衝突した際に、支柱2の下端部が局部座屈することによって吸収するエネルギーである。津波漂流物対策施設設計ガイドライン(案)に基づいて本実施の形態1に係る構造物1のエネルギーErを計算すると、支柱2及び陸側傾斜部4の鋼管サイズをφ508×t19、構造物1の高さH(基礎部上面部から陸側傾斜部4の上端部までの高さ)を3m、支柱2の基礎部に対する許容変位角を15°とした場合、エネルギーErは208kJとなり、本実施の形態1に係る構造物1が車両による衝突エネルギーに対して十分に抵抗できること(つまり、車両による衝突エネルギーを十分に吸収できること)がわかる。
【0029】
漂流物22が堆積していくにしたがって、構造物1の近傍に堆積した漂流物22は、後から流れ込んできた漂流物22によって、上方に押し上げられるようになる。このとき、本実施の形態1に係る構造物1は陸側傾斜部4を備えているので、上方に押し上げられようとする漂流物22は、陸側傾斜部4に押しつけられることになり、この漂流物22には、下側に作用する力が付与されることとなる。このため、構造物1の近傍に堆積した漂流物22が上方に押し上げられそうになっても、この漂流物22が陸側傾斜部4を乗り越えること、つまり、この漂流物22が構造物1を乗り越えることを防止できる。したがって、引き波によって構造物1に流れてきた漂流物22が海側Aに流れ込むことを防止でき、財産の紛失や当該漂流物の湾港への沈積等といった被害等を防止できる。
【0030】
なお、漂流物22が陸側傾斜部4を万が一乗り越えたとしても、海側傾斜部3となる筒状部材で再度捕捉することが可能となっている。つまり、本実施の形態1に係る構造物1は、海側傾斜部3となる筒状部材を備えることにより、漂流物22が構造物1を乗り越えることをより確実に防止できる構成となっている。
【0031】
ここで、津波漂流物対策施設に衝突する漂流物の衝突エネルギーを緩和するため、上述のように、ある一定値以上の荷重が構造物にかかった際、構造物1が一定量だけ変形(例えば15°倒れる等)するように津波漂流物対策施設を構成する場合がある。このような場合、図7に示すように、海側傾斜部3及び陸側傾斜部4を備えない従来の構造物121においては、支柱122が倒れるように変形すると、構造物121の高さ(つまり、支柱122の高さ)は、L5からL6となって低くなってしまう。これに対して、本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100をこのように構成する場合、本実施の形態1に係る構造物1は海側Aに向かって斜め上方に傾斜する海側傾斜部3を備えているので、図6(a)に示すように、支柱2が陸側Bに倒れるように変形しても、構造物1の高さ(つまり、海側傾斜部3の高さ)は、L1からL2(≒L1)となって低くならないという効果を得ることもできる。同様に、本実施の形態1に係る構造物1は陸側Bに向かって斜め上方に傾斜する陸側傾斜部4を備えているので、図6(b)に示すように、支柱2が海側Aに倒れるように変形しても、構造物1の高さ(つまり、陸側傾斜部4の高さ)は、L3からL4(≒L3)となって低くならないという効果を得ることもできる。
【0032】
以上、本実施のように構成された構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)においては、海側Aに向かって斜め上方に傾斜する海側傾斜部3を備えているので、津波の寄せ波によって流れてきた漂流物21を確実に堰き止めることができ、漂流物21によって発生する被害を確実に防止することができる。
【0033】
また、陸側Bに向かって斜め上方に傾斜する陸側傾斜部4を備えているので、津波の引き波によって流れてきた漂流物22を確実に堰き止めることができ、津波の引き波によって流れてきた漂流物22による被害も確実に防止することができる。
【0034】
なお、本実施の形態1では、構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)を湾港の岸壁50に設ける構成としたが、構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)の設置箇所は、津波が襲来する可能性の有る場所であれば任意である。例えば、河川沿いに構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)を設置してもよい。この場合、海側傾斜部3が河川側に向かって斜め上方に傾斜し、陸側傾斜部4が陸側に向かって斜め上方に傾斜するように構造物1を設置すればよい。つまり、本実施の形態1に係る構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)は、海側傾斜部3が水面側(海側や河川側)に向かって斜め上方に傾斜し、陸側傾斜部4が陸側に向かって斜め上方に傾斜するように構造物1を陸上に設置することにより、津波による漂流物によって発生する被害を防止することができる。
【0035】
また、本実施の形態1に係る構造物1では、岸壁50に立設する立設体を1本の支柱2で構成したが、複数の筒状部材を組み合わせたラーメン構造体で立設体を構成しても勿論よい。なお、本実施の形態1では、立設体を立設するための基礎面積を小さくできるので、立設体を1本の支柱2で構成している。これにより、構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)を設置する場所の自由度を向上することができる。
【0036】
また、本実施の形態1で示した支柱2、海側傾斜部3となる筒状部材及び陸側傾斜部4となる筒状部材の鋼管サイズはあくまでも一例である。これらの鋼管サイズは、構造物1に衝突することが想定される漂流物の衝突エネルギーに基づいて、適宜決定すればよい。例えば、上述のように、引き波時に衝突が想定される漂流物(例えば車両等)は、寄せ波時に衝突が想定される漂流物(例えば、船型5G.T.の漁船等)よりも衝突エネルギーが小さくなることがある。このような場合、陸側傾斜部4となる筒状部材の鋼管サイズを、支柱2や海側傾斜部3となる筒状部材の鋼管サイズ(例えばφ508×t19)よりも小さいφ216.3×t6等としてもよい。
【0037】
実施の形態2.
本発明に係る構造物の立設体(例えば、実施の形態1の支柱2)は、立設される場所の基礎部の構成が限定されるものではない。例えば、コンクリート基礎に、本発明に係る構造物1の立設体を直接立設してもよい。また例えば、杭基礎の杭に本発明に係る構造物1の立設体を接続し、立設体を立設させてもよい。また例えば、立設体を1本の支柱で構成する場合、この支柱の下部を基礎杭をして用い、支柱を立設させてもよい。そして、支柱の下部を基礎杭をして用いる場合、支柱を以下のように構成することで、構造物の設置を容易にすることが可能となる。なお、本実施の形態2において、特に記述しない項目については実施の形態1と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
【0038】
図8は、本発明の実施の形態2に係る津波漂流物対策施設を示す外観斜視図である。
本実施の形態2に係る津波漂流物対策施設100も、実施の形態1で示した津波漂流物対策施設100と同様に複数の構造物1を備え、これら構造物1は、所定の間隔を介して岸壁50に並設されている。また、本実施の形態2に係る津波漂流物対策施設100も、実施の形態1で示した津波漂流物対策施設100と同様に、構造物1の間に設けられたスクリーン10を備えている。しかしながら、構造物1の構成が、本実施の形態2と実施の形態1とでは異なっている。具体的には、本実施の形態2に係る構造物1は、次のように構成されている。
【0039】
図9は、本発明の実施の形態2に係る津波漂流物対策施設の構造物を示す側面図である。
図9に示すように、本実施の形態2に係る構造物1は、1本の支柱2によって立設体が構成されている。そして、海側傾斜部3となる筒状部材及び陸側傾斜部4となる筒状部材は、この支柱2の途中部に例えば溶接接続されている。つまり、支柱2の頭部が、海側傾斜部3となる筒状部材及び陸側傾斜部4となる筒状部材と支柱2との接続部よりも上方に突出している構成となっている。また、本実施の形態2に係る構造物1は、支柱2の下部を基礎杭をして用い、支柱2を岸壁50の基礎部に立設させている。
【0040】
以上、本実施の形態2のように構成された構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)においては、支柱2を岸壁50の基礎部に打ち込む際、支柱2の頭部を利用し、打ち込むことができる。このため、本実施の形態2のように構成された構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)は、実施の形態1と同様の効果に加え、構造物1の設置が容易になるという効果を得ることもできる。
【0041】
また、本実施の形態2のように構成された構造物1は、支柱2の頭部が突出しているので、漂流物の衝突エネルギーを緩和するために支柱2が傾いた際、支柱2の上部が海側傾斜部3又は陸側傾斜部4として機能するという効果を得ることもできる。
【0042】
実施の形態3.
実施の形態1及び実施の形態2で示した構造物1は、あくまでも、本発明に係る構造物の一例である。本発明に係る構造物を、例えば次のように構成してもよい。なお、本実施の形態3において、特に記述しない項目については実施の形態1又は実施の形態2と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
【0043】
図10は、本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物の一例を示す側面図である。
実施の形態1及び実施の形態2では、海側傾斜部3となる筒状部材を支柱2に溶接接続等し、支柱2の上部に海側傾斜部3を形成していた。一方、図10に示す構造物1は、支柱2を海側Aに傾けて立設し、支柱2全体を海側傾斜部3としている。
【0044】
このように構成された構造物1(つまり、この構造物1を用いた津波漂流物対策施設100)においても、実施の形態1及び実施の形態2と同様に、津波の寄せ波で流れてきた漂流物21を海側傾斜部3によって確実に堰き止めることができ、漂流物21によって発生する被害を確実に防止することができる。また、津波の引き波で流れてきた漂流物22を陸側傾斜部4によって確実に堰き止めることができ、漂流物22によって発生する被害を確実に防止することができる。
【0045】
なお、図10では、海側傾斜部3として機能する支柱2に陸側傾斜部4となる筒状部材を溶接接続し、構造物1に陸側傾斜部4を形成している。これに限らず、構造物1に陸側傾斜部4を形成する場合、支柱2を陸側Bに傾けて立設して支柱2全体を陸側傾斜部4とし、この支柱2に、海側傾斜部3となる筒状部材を溶接接合してもよい。
【0046】
図11は、本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
実施の形態1及び実施の形態2では、直線形状の筒状部材(支柱2、海側傾斜部3となる筒状部材、及び陸側傾斜部4となる筒状部材)を用いて構造物1を構成していた。一方、図11に示す構造物1は、湾曲する支柱2を用い、当該支柱2の上部が海側Aへ向くように支柱2を立設している。これにより、支柱2の上部が、海側Aに向かって斜め上方に傾斜する海側傾斜部3となる。
【0047】
このように構成された構造物1(つまり、この構造物1を用いた津波漂流物対策施設100)においても、実施の形態1及び実施の形態2と同様に、津波の寄せ波で流れてきた漂流物21を海側傾斜部3によって確実に堰き止めることができ、漂流物21によって発生する被害を確実に防止することができる。また、津波の引き波で流れてきた漂流物22を陸側傾斜部4によって確実に堰き止めることができ、漂流物22によって発生する被害を確実に防止することができる。
【0048】
なお、図11では、海側傾斜部3として機能する支柱2に陸側傾斜部4となる筒状部材を溶接接続し、構造物1に陸側傾斜部4を形成している。これに限らず、構造物1に陸側傾斜部4を形成する場合、上部が陸側Bへ向くように支柱2を立設して支柱2全体を陸側傾斜部4とし、この支柱2に、海側傾斜部3となる筒状部材を溶接接合してもよい。
【0049】
図12は、本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
実施の形態1及び実施の形態2では、構造物1の立設体を1本の支柱2で構成していた。一方、図12に示す構造物1は、複数の筒状部材を組み合わせたラーメン構造体5で立設体を構成している。詳しくは、図12に示す構造物1のラーメン構造体5は、岸壁50の基礎部に立設された2本の支柱5a,5bと、これら支柱5a,5bの上端部を接続する支持材5cと、で構成されている。そして、海側Aに立設された支柱5aには、海側傾斜部3となる筒状部材(例えば円柱部材)が、海側Aに向かって斜め上方に傾斜するように溶接接続されている。また、陸側Bに立設された支柱5bには、陸側傾斜部4となる筒状部材(例えば円柱部材)が、陸側Bに向かって斜め上方に傾斜するように溶接接続されている。
【0050】
このように構成された構造物1(つまり、この構造物1を用いた津波漂流物対策施設100)においても、実施の形態1及び実施の形態2と同様に、津波の寄せ波で流れてきた漂流物21を海側傾斜部3によって確実に堰き止めることができ、漂流物21によって発生する被害を確実に防止することができる。また、津波の引き波で流れてきた漂流物22を陸側傾斜部4によって確実に堰き止めることができ、漂流物22によって発生する被害を確実に防止することができる。
【0051】
つまり、構造物1の立設体の構成にかかわらず、立設体の海側Aの箇所に海側傾斜部3を形成し、立設体の陸側Bの箇所に陸側傾斜部4を形成することにより、本発明を実施することができる。
このため、例えば図13に示すように、海側Aの支柱5aを海側Aに傾けて立設し、支柱5a全体を海側傾斜部3としてもよい。同様に、陸側Bの支柱5bを陸側Bに傾けて立設し、支柱5b全体を陸側傾斜部4としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 構造物、2 支柱、3 海側傾斜部、4 陸側傾斜部、5 ラーメン構造体、5a,5b 支柱、5c 支持材、10 スクリーン、21 漂流物、22 漂流物、50 岸壁、100 津波漂流物対策施設、121 構造物(従来)、122 支柱(従来)、A 海側(水面側)、B 陸側。
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波による漂流物を捕捉する構造物、及びこの構造物を備えた津波漂流物対策施設に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等が起こって津波が発生した場合、この津波は、陸上に上がると内陸に数キロまで遡上する場合がある。その際、水そのものによる被害もさることながら、津波によって陸上に流されてきた船舶等の漂流物が家屋等の各種施設に衝突し、津波の被害を拡大させている。また、津波は、寄せ波の後に引き波が発生する。この引き波によっても、家屋や車両等が漂流物として陸上から流れ出し、財産の紛失や当該漂流物の湾港への沈積等といった被害が発生する。
【0003】
津波による漂流物によって発生するこのような被害を防止する施設として、例えば湾港の岸壁等に津波による漂流物を捕捉する構造物を所定間隔毎に並設した津波漂流物対策施設が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1に記載の津波漂流物対策施設は、側面視略逆V字型に支柱を接続した立設体を備えた構造物を所定間隔毎に並設した構成となっている。また、特許文献2に記載の津波漂流物対策施設は、側面視において下側が開口した略コの字型に支柱を接続し、当該支柱(立設体)の海側の箇所に衝撃吸収体を設けた構造物を所定間隔毎に並設した構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−202339号公報
【特許文献2】特開2007−211559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の津波漂流物対策施設においては、津波の寄せ波によって津波漂流物対策施設に流れてきた船舶等の漂流物は、構造物の立設体の海側の支柱に衝突し、捕捉されて堆積していく。そして、津波漂流物対策施設に漂流物が堆積していくにしたがって、立設体の海側の支柱近傍に堆積した漂流物は、後から流れ込んできた漂流物によって、立設体の海側の支柱に押しつけられることとなる。
【0006】
ここで、従来の津波漂流物対策施設においては、津波の寄せ波によって流れてきた船舶等の漂流物を捕捉する海側の支柱は、その海側の面が垂直方向又は陸側に向かって傾斜する構造となっていた。このため、津波漂流物対策施設に漂流物が堆積していくにしたがって、立設体の海側の支柱近傍に堆積した漂流物は、後から流れ込んできた漂流物によって上方に押し上げられ、構造物を乗り越えてしまう場合があった。したがって、従来の津波漂流物対策施設は、津波の寄せ波によって流れてきた船舶等の漂流物を十分に堰き止めることができず、漂流物によって発生する被害を十分に防止することができない場合があるといった問題点があった。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、津波の寄せ波によって流れてきた漂流物をより確実に堰き止めることができ、漂流物によって発生する被害をより確実に防止することができる構造物、及びこの構造物を備えた津波漂流物対策施設を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物は、陸上に立設される立設体を備え、立設体の海側の箇所には、少なくとも上部に、海側に向かって斜め上方に傾斜する第1の傾斜部が形成されているものである。
【0009】
また、本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物の立設体は、第1の傾斜部の形成箇所の反対側となる箇所において、少なくとも上部に、第1の傾斜部とは反対の方向に向かって斜め上方に傾斜する第2の傾斜部が形成されているものである。
【0010】
また、本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物の立設体は1本の支柱であり、第1の傾斜部及び第2の傾斜部がこの支柱に形成されているものである。このとき、支柱の途中部に柱状部材を接続することにより第1の傾斜部及び第2の傾斜部を構成し、支柱の頭部が、支柱における第1の傾斜部及び第2の傾斜部の接続部よりも上方に突出しているとよい。
【0011】
また、本発明に係る津波漂流物対策施設は、上記した本発明に係る構造物のいずれかを複数備え、これら津波による漂流物を捕捉する構造物を所定の間隔を介して並設したものである。このとき、津波による漂流物を捕捉する構造物の間に、津波による漂流物を捕捉するスクリーンを設けてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物においては、立設体の海側の箇所には、少なくとも上部に、海側に向かって斜め上方に傾斜する第1の傾斜部が形成されている。このため、立設体近傍に堆積した漂流物が後から流れ込んできた漂流物によって立設体側に押しつけられた場合でも、立設体近傍に堆積した漂流物は第1の傾斜部に押しつけられることになり、立設体近傍に堆積した漂流物には、下側に作用する力が付与されることとなる。このため、本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物は、立設体近傍に堆積した漂流物が立設体を乗り越えることがない。したがって、本発明に係る津波による漂流物を捕捉する構造物は、津波の寄せ波によって流れてきた漂流物をより確実に堰き止めることができ、漂流物によって発生する被害をより確実に防止することができる。
【0013】
また、第1の傾斜部の形成箇所の反対側となる箇所には、少なくとも上部に、第1の傾斜部とは反対の方向に向かって斜め上方に傾斜する第2の傾斜部を形成することにより、津波の引き波によって立設体近傍に堆積した漂流物が立設体を乗り越えることも防止できる。このため、第2の傾斜部を形成することにより、津波の引き波によって流れてきた漂流物による被害も確実に防止することができる。
【0014】
また、立設体を1本の支柱で構成することにより、立設体を立設するための基礎面積を小さくすることができ、本発明に係る構造物を設置する場所の自由度が向上する。
立設体の基礎としては、例えば、コンクリート基礎や杭基礎等が想定される。このとき、支柱の下部を基礎杭としても用いる場合、支柱の頭部を第1の傾斜部及び第2の傾斜部の接続部よりも上方に突出しておくことにより、支柱を基礎部に打ち込むことが容易となり、本発明に係る構造物の設置が容易となる。
【0015】
また、本発明に係る津波漂流物対策施設は、上記した本発明に係る構造物のいずれかを複数備え、これら津波による漂流物を捕捉する構造物を所定の間隔を介して並設しているので、上述の効果を有する津波漂流物対策施設を得ることができる。
構造物間の距離は、通常、想定される漂流物の大きさ等によって適宜決定される。このとき、漂流物の大きさが想定よりも小さかった場合や、漂流物が流される際の姿勢等によっては、構造物間を通り過ぎることも考えられる。構造物の間に津波による漂流物を捕捉するスクリーンを設けることにより、このような漂流物を捕捉することも可能となる。
【0016】
なお、本発明に係る漂流物を捕捉する構造物及び津波漂流物対策施設は、海沿いのみに設置されるものではなく、例えば河川沿いに設置しても勿論よい。この場合、第1の傾斜部を河川側に向かって斜め上方に傾斜するように形成すればよい。つまり、本発明に係る漂流物を捕捉する構造物及び津波漂流物対策施設は、第1の傾斜部を水面側(海側や河川側)に向かって斜め上方に傾斜するように形成することにより、津波によって流れてきた漂流物による被害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物の別の一例を示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物における漂流物の捕捉動作を説明するための説明図(側面図)である。
【図5】凹み変形によるエネルギー(吸収エネルギー)を説明するための概念図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物の変形状態を示す側面図である。
【図7】従来の津波漂流物対策施設の構造物の変形状態を示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る津波漂流物対策施設を示す外観斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る津波漂流物対策施設の構造物を示す側面図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物の一例を示す側面図である。
【図11】本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
【図13】本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設を示す外観斜視図である。また、図2は、この津波漂流物対策施設の構造物を示す側面図である。以下、図1及び図2に基づいて、本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100、及び津波漂流物対策施設100の構造物1(つまり、津波による漂流物を捕捉する構造物)について説明する。なお、本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100の設置場所は特に限定されないが、以下では、津波漂流物対策施設100を湾港の岸壁50に設置した場合を例にして説明する。
【0019】
本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100は、津波による漂流物を捕捉するためのものである。この津波漂流物対策施設100は複数の構造物1を備え、これら構造物1は、所定の間隔を介して岸壁50に並設されている。また、津波漂流物対策施設100は、構造物1の間に設けられたスクリーン10も備えている。本実施の形態1では、構造物1間にワイヤを張ることによりスクリーン10を構成している。
【0020】
なお、構造物1間の間隔は、津波によって津波漂流物対策施設100に流れてくることが想定される漂流物(船舶、家屋、車両等)の大きさ等によって適宜決定される。例えば、構造物1間の間隔は、津波によって津波漂流物対策施設100に流れてくる漂流物が2つの構造物1に引っ掛かるような間隔としている。このため、スクリーン10が設置されていなくとも、津波漂流物対策施設100は十分に漂流物を捕捉することができる。しかしながら、漂流物の大きさが想定よりも小さかった場合や、漂流物が流される際の姿勢等によっては、構造物1間を通り過ぎることも考えられる。本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100は、構造物1の間に津波による漂流物を捕捉するスクリーン10を設けることにより、このような漂流物を捕捉することも可能としている。なお、本実施の形態1では、構造物1間にワイヤを張ることによりスクリーン10を構成しているが、スクリーン10の構成は任意である。例えば、より小さい漂流物を捕捉することを可能とするため、ネット状のスクリーンとしてもよい。
【0021】
(構造物1の詳細構成)
図2に示すように、本実施の形態1に係る構造物1は、岸壁50の基礎部に立設された例えば円筒形状の支柱2(本実施の形態1では、鋼管φ508×t19を使用)を備えている。この支柱2の上端部には、海側傾斜部3となる筒状部材(本実施の形態1では、鋼管φ508×t19を使用)が、例えば溶接接続されている。この海側傾斜部3となる筒状部材は、海側Aに向かって斜め上方に傾斜するように、支柱2に溶接接続されている。つまり、海側傾斜部3は、津波の寄せ波が来る方向に向かって斜め上方に傾斜するように形成されている。なお、支柱2の上部を折り曲げ加工すること等により、海側傾斜部3を形成しても勿論よい。
ここで、支柱2が本発明における立設体に相当し、海側傾斜部3が本発明における第1の傾斜部に相当する。
【0022】
また、本実施の形態1に係る構造物1には、海側傾斜部3となる筒状部材に、陸側傾斜部4となる筒状部材(本実施の形態1では、鋼管φ508×t19を使用)が例えば溶接接続されている。この陸側傾斜部4となる筒状部材は、陸側B(例えば、湾港施設等が建設されている側)に向かって斜め上方に傾斜するように、海側傾斜部3となる筒状部材に溶接接続されている。つまり、陸側傾斜部4は、津波の引き波が来る方向に向かって斜め上方に傾斜するように形成されている。
ここで、陸側傾斜部4が本発明における第2の傾斜部に相当する。
【0023】
構造物1(より詳しくは、海側傾斜部3及び陸側傾斜部4の上端部)の高さは、例えば、想定される津波の高さに応じて適宜決定される。この際、引き波は一般的に寄せ波よりも低くなるので、陸側傾斜部4の上端部の高さを海側傾斜部3の上端部の高さよりも低く設定してもよい。なお、本実施の形態1では、陸側傾斜部4となる筒状部材を海側傾斜部3となる筒状部材の途中部に取り付けているが、陸側傾斜部4となる筒状部材のこの取り付け位置はあくまでも一例である。例えば、図3(a)に示すように、陸側傾斜部4となる筒状部材を海側傾斜部3となる筒状部材の先端部に取り付けてもよい。また例えば、図3(b)に示すように、陸側傾斜部4となる筒状部材を支柱2に取り付けてもよい。
【0024】
(動作説明)
続いて、このように構成された構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)における漂流物の捕捉動作について説明する。
【0025】
図4は、本発明の実施の形態1に係る津波漂流物対策施設の構造物における漂流物の捕捉動作を説明するための説明図(側面図)である。
津波の寄せ波によって構造物1に流れてきた船舶等の漂流物21は、支柱2の海側Aに面した箇所や海側傾斜部3に衝突し、捕捉されて堆積していく。
例えば、津波漂流物対策施設設計ガイドライン(案)(発行所:財団法人 沿岸技術研究センター、及び、社団法人 寒地湾港技術研究センター、平成21年5月発刊)によると、船型5G.T.の漁船の諸元は、船長11.0m、船幅2.8m、喫水1.8mであるが、この漁船が流速3.0m/s、浸水深2.8mの津波によって構造物1に衝突すると想定した場合、この漁船の構造物1への衝突エネルギーは、54kJとなる。この衝突エネルギーに対して、構造物1は、支柱2及び海側傾斜部3の凹み変形によるエネルギーと梁変形によるエネルギーを加算したエネルギーErにて抵抗し、漁船を捕捉する。ここで、凹み変形によるエネルギーとは、図5の概念図に示すように、支柱2又は海側傾斜部3を構成する鋼管に漂流物が衝突した際に、当該鋼管が局部的に変形することによって吸収するエネルギーである。また、梁変形によるエネルギーとは、図6(a)に示すように、構造物1(支柱2又は海側傾斜部3)に漂流物が衝突した際に、支柱2の下端部が局部座屈することによって吸収するエネルギーである。津波漂流物対策施設設計ガイドライン(案)に基づいて本実施の形態1に係る構造物1のエネルギーErを計算すると、支柱2及び海側傾斜部3の鋼管サイズをφ508×t19、構造物1の高さH(基礎部上面部から海側傾斜部3の上端部までの高さ)を3m、支柱2の基礎部に対する許容変位角を15°とした場合、エネルギーErは208kJとなり、本実施の形態1に係る構造物1が船型5G.T.の漁船による衝突エネルギーに対して十分に抵抗できること(つまり、船型5G.T.の漁船による衝突エネルギーを十分に吸収できること)がわかる。
【0026】
漂流物21が堆積していくにしたがって、構造物1の近傍に堆積した漂流物21は、後から流れ込んできた漂流物21によって、上方に押し上げられるようになる。このとき、本実施の形態1に係る構造物1は海側傾斜部3を備えているので、上方に押し上げられようとする漂流物21は、海側傾斜部3に押しつけられることになり、この漂流物21には、下側に作用する力が付与されることとなる。このため、構造物1の近傍に堆積した漂流物21が上方に押し上げられそうになっても、この漂流物21が海側傾斜部3を乗り越えること、つまり、この漂流物21が構造物1を乗り越えることを防止できる。したがって、寄せ波によって構造物1に流れてきた漂流物21が陸側Bに流れ込むことを防止でき、漂流物21が陸側Bに設置された家屋等の各種施設を破損すること等を防止できる。
【0027】
なお、本実施の形態1に係る構造物1は陸側傾斜部4となる筒状部材を備えているので、漂流物21が海側傾斜部3を万が一乗り越えたとしても、陸側傾斜部4となる筒状部材で再度捕捉することが可能となっている。つまり、本実施の形態1に係る構造物1は、陸側傾斜部4となる筒状部材を備えることにより、漂流物21が構造物1を乗り越えることをより確実に防止できる構成となっている。
【0028】
津波は、寄せ波の後に引き波が発生する。このため、引き波によっても家屋や車両等が漂流物22として構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)に流れてくる。津波の引き波によって構造物1に流れてきた漂流物22は、支柱2の陸側Bに面した箇所や陸側傾斜部4に衝突し、捕捉されて堆積していく。
例えば、津波漂流物対策施設設計ガイドライン(案)によると、重量25kNの車両が流速2.4m/s、浸水深2.24mの津波によって構造物1に衝突すると想定した場合、この車両の構造物1への衝突エネルギーは、9kJとなる。この衝突エネルギーに対して、構造物1は、支柱2及び陸側傾斜部4の凹み変形によるエネルギーと梁変形によるエネルギーを加算したエネルギーErにて抵抗し、漁船を捕捉する。ここで、凹み変形によるエネルギーとは、図5の概念図に示すように、支柱2又は陸側傾斜部4を構成する鋼管に漂流物が衝突した際に、当該鋼管が局部的に変形することによって吸収するエネルギーである。また、梁変形によるエネルギーとは、図6(b)に示すように、構造物1(支柱2又は陸側傾斜部4)に漂流物が衝突した際に、支柱2の下端部が局部座屈することによって吸収するエネルギーである。津波漂流物対策施設設計ガイドライン(案)に基づいて本実施の形態1に係る構造物1のエネルギーErを計算すると、支柱2及び陸側傾斜部4の鋼管サイズをφ508×t19、構造物1の高さH(基礎部上面部から陸側傾斜部4の上端部までの高さ)を3m、支柱2の基礎部に対する許容変位角を15°とした場合、エネルギーErは208kJとなり、本実施の形態1に係る構造物1が車両による衝突エネルギーに対して十分に抵抗できること(つまり、車両による衝突エネルギーを十分に吸収できること)がわかる。
【0029】
漂流物22が堆積していくにしたがって、構造物1の近傍に堆積した漂流物22は、後から流れ込んできた漂流物22によって、上方に押し上げられるようになる。このとき、本実施の形態1に係る構造物1は陸側傾斜部4を備えているので、上方に押し上げられようとする漂流物22は、陸側傾斜部4に押しつけられることになり、この漂流物22には、下側に作用する力が付与されることとなる。このため、構造物1の近傍に堆積した漂流物22が上方に押し上げられそうになっても、この漂流物22が陸側傾斜部4を乗り越えること、つまり、この漂流物22が構造物1を乗り越えることを防止できる。したがって、引き波によって構造物1に流れてきた漂流物22が海側Aに流れ込むことを防止でき、財産の紛失や当該漂流物の湾港への沈積等といった被害等を防止できる。
【0030】
なお、漂流物22が陸側傾斜部4を万が一乗り越えたとしても、海側傾斜部3となる筒状部材で再度捕捉することが可能となっている。つまり、本実施の形態1に係る構造物1は、海側傾斜部3となる筒状部材を備えることにより、漂流物22が構造物1を乗り越えることをより確実に防止できる構成となっている。
【0031】
ここで、津波漂流物対策施設に衝突する漂流物の衝突エネルギーを緩和するため、上述のように、ある一定値以上の荷重が構造物にかかった際、構造物1が一定量だけ変形(例えば15°倒れる等)するように津波漂流物対策施設を構成する場合がある。このような場合、図7に示すように、海側傾斜部3及び陸側傾斜部4を備えない従来の構造物121においては、支柱122が倒れるように変形すると、構造物121の高さ(つまり、支柱122の高さ)は、L5からL6となって低くなってしまう。これに対して、本実施の形態1に係る津波漂流物対策施設100をこのように構成する場合、本実施の形態1に係る構造物1は海側Aに向かって斜め上方に傾斜する海側傾斜部3を備えているので、図6(a)に示すように、支柱2が陸側Bに倒れるように変形しても、構造物1の高さ(つまり、海側傾斜部3の高さ)は、L1からL2(≒L1)となって低くならないという効果を得ることもできる。同様に、本実施の形態1に係る構造物1は陸側Bに向かって斜め上方に傾斜する陸側傾斜部4を備えているので、図6(b)に示すように、支柱2が海側Aに倒れるように変形しても、構造物1の高さ(つまり、陸側傾斜部4の高さ)は、L3からL4(≒L3)となって低くならないという効果を得ることもできる。
【0032】
以上、本実施のように構成された構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)においては、海側Aに向かって斜め上方に傾斜する海側傾斜部3を備えているので、津波の寄せ波によって流れてきた漂流物21を確実に堰き止めることができ、漂流物21によって発生する被害を確実に防止することができる。
【0033】
また、陸側Bに向かって斜め上方に傾斜する陸側傾斜部4を備えているので、津波の引き波によって流れてきた漂流物22を確実に堰き止めることができ、津波の引き波によって流れてきた漂流物22による被害も確実に防止することができる。
【0034】
なお、本実施の形態1では、構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)を湾港の岸壁50に設ける構成としたが、構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)の設置箇所は、津波が襲来する可能性の有る場所であれば任意である。例えば、河川沿いに構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)を設置してもよい。この場合、海側傾斜部3が河川側に向かって斜め上方に傾斜し、陸側傾斜部4が陸側に向かって斜め上方に傾斜するように構造物1を設置すればよい。つまり、本実施の形態1に係る構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)は、海側傾斜部3が水面側(海側や河川側)に向かって斜め上方に傾斜し、陸側傾斜部4が陸側に向かって斜め上方に傾斜するように構造物1を陸上に設置することにより、津波による漂流物によって発生する被害を防止することができる。
【0035】
また、本実施の形態1に係る構造物1では、岸壁50に立設する立設体を1本の支柱2で構成したが、複数の筒状部材を組み合わせたラーメン構造体で立設体を構成しても勿論よい。なお、本実施の形態1では、立設体を立設するための基礎面積を小さくできるので、立設体を1本の支柱2で構成している。これにより、構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)を設置する場所の自由度を向上することができる。
【0036】
また、本実施の形態1で示した支柱2、海側傾斜部3となる筒状部材及び陸側傾斜部4となる筒状部材の鋼管サイズはあくまでも一例である。これらの鋼管サイズは、構造物1に衝突することが想定される漂流物の衝突エネルギーに基づいて、適宜決定すればよい。例えば、上述のように、引き波時に衝突が想定される漂流物(例えば車両等)は、寄せ波時に衝突が想定される漂流物(例えば、船型5G.T.の漁船等)よりも衝突エネルギーが小さくなることがある。このような場合、陸側傾斜部4となる筒状部材の鋼管サイズを、支柱2や海側傾斜部3となる筒状部材の鋼管サイズ(例えばφ508×t19)よりも小さいφ216.3×t6等としてもよい。
【0037】
実施の形態2.
本発明に係る構造物の立設体(例えば、実施の形態1の支柱2)は、立設される場所の基礎部の構成が限定されるものではない。例えば、コンクリート基礎に、本発明に係る構造物1の立設体を直接立設してもよい。また例えば、杭基礎の杭に本発明に係る構造物1の立設体を接続し、立設体を立設させてもよい。また例えば、立設体を1本の支柱で構成する場合、この支柱の下部を基礎杭をして用い、支柱を立設させてもよい。そして、支柱の下部を基礎杭をして用いる場合、支柱を以下のように構成することで、構造物の設置を容易にすることが可能となる。なお、本実施の形態2において、特に記述しない項目については実施の形態1と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
【0038】
図8は、本発明の実施の形態2に係る津波漂流物対策施設を示す外観斜視図である。
本実施の形態2に係る津波漂流物対策施設100も、実施の形態1で示した津波漂流物対策施設100と同様に複数の構造物1を備え、これら構造物1は、所定の間隔を介して岸壁50に並設されている。また、本実施の形態2に係る津波漂流物対策施設100も、実施の形態1で示した津波漂流物対策施設100と同様に、構造物1の間に設けられたスクリーン10を備えている。しかしながら、構造物1の構成が、本実施の形態2と実施の形態1とでは異なっている。具体的には、本実施の形態2に係る構造物1は、次のように構成されている。
【0039】
図9は、本発明の実施の形態2に係る津波漂流物対策施設の構造物を示す側面図である。
図9に示すように、本実施の形態2に係る構造物1は、1本の支柱2によって立設体が構成されている。そして、海側傾斜部3となる筒状部材及び陸側傾斜部4となる筒状部材は、この支柱2の途中部に例えば溶接接続されている。つまり、支柱2の頭部が、海側傾斜部3となる筒状部材及び陸側傾斜部4となる筒状部材と支柱2との接続部よりも上方に突出している構成となっている。また、本実施の形態2に係る構造物1は、支柱2の下部を基礎杭をして用い、支柱2を岸壁50の基礎部に立設させている。
【0040】
以上、本実施の形態2のように構成された構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)においては、支柱2を岸壁50の基礎部に打ち込む際、支柱2の頭部を利用し、打ち込むことができる。このため、本実施の形態2のように構成された構造物1(つまり、津波漂流物対策施設100)は、実施の形態1と同様の効果に加え、構造物1の設置が容易になるという効果を得ることもできる。
【0041】
また、本実施の形態2のように構成された構造物1は、支柱2の頭部が突出しているので、漂流物の衝突エネルギーを緩和するために支柱2が傾いた際、支柱2の上部が海側傾斜部3又は陸側傾斜部4として機能するという効果を得ることもできる。
【0042】
実施の形態3.
実施の形態1及び実施の形態2で示した構造物1は、あくまでも、本発明に係る構造物の一例である。本発明に係る構造物を、例えば次のように構成してもよい。なお、本実施の形態3において、特に記述しない項目については実施の形態1又は実施の形態2と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
【0043】
図10は、本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物の一例を示す側面図である。
実施の形態1及び実施の形態2では、海側傾斜部3となる筒状部材を支柱2に溶接接続等し、支柱2の上部に海側傾斜部3を形成していた。一方、図10に示す構造物1は、支柱2を海側Aに傾けて立設し、支柱2全体を海側傾斜部3としている。
【0044】
このように構成された構造物1(つまり、この構造物1を用いた津波漂流物対策施設100)においても、実施の形態1及び実施の形態2と同様に、津波の寄せ波で流れてきた漂流物21を海側傾斜部3によって確実に堰き止めることができ、漂流物21によって発生する被害を確実に防止することができる。また、津波の引き波で流れてきた漂流物22を陸側傾斜部4によって確実に堰き止めることができ、漂流物22によって発生する被害を確実に防止することができる。
【0045】
なお、図10では、海側傾斜部3として機能する支柱2に陸側傾斜部4となる筒状部材を溶接接続し、構造物1に陸側傾斜部4を形成している。これに限らず、構造物1に陸側傾斜部4を形成する場合、支柱2を陸側Bに傾けて立設して支柱2全体を陸側傾斜部4とし、この支柱2に、海側傾斜部3となる筒状部材を溶接接合してもよい。
【0046】
図11は、本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
実施の形態1及び実施の形態2では、直線形状の筒状部材(支柱2、海側傾斜部3となる筒状部材、及び陸側傾斜部4となる筒状部材)を用いて構造物1を構成していた。一方、図11に示す構造物1は、湾曲する支柱2を用い、当該支柱2の上部が海側Aへ向くように支柱2を立設している。これにより、支柱2の上部が、海側Aに向かって斜め上方に傾斜する海側傾斜部3となる。
【0047】
このように構成された構造物1(つまり、この構造物1を用いた津波漂流物対策施設100)においても、実施の形態1及び実施の形態2と同様に、津波の寄せ波で流れてきた漂流物21を海側傾斜部3によって確実に堰き止めることができ、漂流物21によって発生する被害を確実に防止することができる。また、津波の引き波で流れてきた漂流物22を陸側傾斜部4によって確実に堰き止めることができ、漂流物22によって発生する被害を確実に防止することができる。
【0048】
なお、図11では、海側傾斜部3として機能する支柱2に陸側傾斜部4となる筒状部材を溶接接続し、構造物1に陸側傾斜部4を形成している。これに限らず、構造物1に陸側傾斜部4を形成する場合、上部が陸側Bへ向くように支柱2を立設して支柱2全体を陸側傾斜部4とし、この支柱2に、海側傾斜部3となる筒状部材を溶接接合してもよい。
【0049】
図12は、本発明の実施の形態3に係る津波漂流物対策施設の構造物のさらに一例を示す側面図である。
実施の形態1及び実施の形態2では、構造物1の立設体を1本の支柱2で構成していた。一方、図12に示す構造物1は、複数の筒状部材を組み合わせたラーメン構造体5で立設体を構成している。詳しくは、図12に示す構造物1のラーメン構造体5は、岸壁50の基礎部に立設された2本の支柱5a,5bと、これら支柱5a,5bの上端部を接続する支持材5cと、で構成されている。そして、海側Aに立設された支柱5aには、海側傾斜部3となる筒状部材(例えば円柱部材)が、海側Aに向かって斜め上方に傾斜するように溶接接続されている。また、陸側Bに立設された支柱5bには、陸側傾斜部4となる筒状部材(例えば円柱部材)が、陸側Bに向かって斜め上方に傾斜するように溶接接続されている。
【0050】
このように構成された構造物1(つまり、この構造物1を用いた津波漂流物対策施設100)においても、実施の形態1及び実施の形態2と同様に、津波の寄せ波で流れてきた漂流物21を海側傾斜部3によって確実に堰き止めることができ、漂流物21によって発生する被害を確実に防止することができる。また、津波の引き波で流れてきた漂流物22を陸側傾斜部4によって確実に堰き止めることができ、漂流物22によって発生する被害を確実に防止することができる。
【0051】
つまり、構造物1の立設体の構成にかかわらず、立設体の海側Aの箇所に海側傾斜部3を形成し、立設体の陸側Bの箇所に陸側傾斜部4を形成することにより、本発明を実施することができる。
このため、例えば図13に示すように、海側Aの支柱5aを海側Aに傾けて立設し、支柱5a全体を海側傾斜部3としてもよい。同様に、陸側Bの支柱5bを陸側Bに傾けて立設し、支柱5b全体を陸側傾斜部4としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 構造物、2 支柱、3 海側傾斜部、4 陸側傾斜部、5 ラーメン構造体、5a,5b 支柱、5c 支持材、10 スクリーン、21 漂流物、22 漂流物、50 岸壁、100 津波漂流物対策施設、121 構造物(従来)、122 支柱(従来)、A 海側(水面側)、B 陸側。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波による漂流物を捕捉する構造物において、
陸上に立設される立設体を備え、
該立設体の水面側の箇所には、少なくとも上部に、水面側に向かって斜め上方に傾斜する第1の傾斜部が形成されていることを特徴とする津波による漂流物を捕捉する構造物。
【請求項2】
前記立設体の前記第1の傾斜部の形成箇所の反対側となる箇所には、少なくとも上部に、前記第1の傾斜部とは反対の方向に向かって斜め上方に傾斜する第2の傾斜部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の津波による漂流物を捕捉する構造物。
【請求項3】
前記立設体は1本の支柱であり、前記第1の傾斜部及び前記第2の傾斜部が当該支柱に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の津波による漂流物を捕捉する構造物。
【請求項4】
前記第1の傾斜部及び前記第2の傾斜部は、前記支柱の途中部に柱状部材が接続されて構成され、
前記支柱の頭部は、当該支柱におけるこれら柱状部材の接続部よりも上方に突出していることを特徴とする請求項3に記載の津波による漂流物を捕捉する構造物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の津波による漂流物を捕捉する構造物を複数備え、
これら津波による漂流物を捕捉する構造物を所定の間隔を介して並設したことを特徴とする津波漂流物対策施設。
【請求項6】
津波による漂流物を捕捉する構造物の間に、津波による漂流物を捕捉するスクリーンを設けたことを特徴とする請求項5に記載の津波漂流物対策施設。
【請求項1】
津波による漂流物を捕捉する構造物において、
陸上に立設される立設体を備え、
該立設体の水面側の箇所には、少なくとも上部に、水面側に向かって斜め上方に傾斜する第1の傾斜部が形成されていることを特徴とする津波による漂流物を捕捉する構造物。
【請求項2】
前記立設体の前記第1の傾斜部の形成箇所の反対側となる箇所には、少なくとも上部に、前記第1の傾斜部とは反対の方向に向かって斜め上方に傾斜する第2の傾斜部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の津波による漂流物を捕捉する構造物。
【請求項3】
前記立設体は1本の支柱であり、前記第1の傾斜部及び前記第2の傾斜部が当該支柱に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の津波による漂流物を捕捉する構造物。
【請求項4】
前記第1の傾斜部及び前記第2の傾斜部は、前記支柱の途中部に柱状部材が接続されて構成され、
前記支柱の頭部は、当該支柱におけるこれら柱状部材の接続部よりも上方に突出していることを特徴とする請求項3に記載の津波による漂流物を捕捉する構造物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の津波による漂流物を捕捉する構造物を複数備え、
これら津波による漂流物を捕捉する構造物を所定の間隔を介して並設したことを特徴とする津波漂流物対策施設。
【請求項6】
津波による漂流物を捕捉する構造物の間に、津波による漂流物を捕捉するスクリーンを設けたことを特徴とする請求項5に記載の津波漂流物対策施設。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−36190(P2013−36190A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171641(P2011−171641)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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