説明

津波対策用岸辺構造

【課題】 津波が陸地まで遡上する前に、津波のエネルギーを大きく減衰させ、遡上する津波による防波堤への影響を極力防止することができ、防波堤の天端高さを抑制すると共に、視認性あるいは住環境も確保でき、構築に要する材料コストを低減しつつ迅速に構築可能な津波対策用の岸辺構造を提供する。
【解決手段】 岸辺13に沿って地表面を穿設することにより形成され、内部に津波を落下させるようにした凹状溝部20と、凹状溝部20の少なくとも海側の縁部に形成され、津波の落下高さが高くなるようにした嵩上げ部30と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波のエネルギーを減衰させる津波対策用として構築される海岸あるいは河岸などの岸辺構造に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国において一般的に行われている津波の被害に対する防止策としては、防波堤を構築する方法である。防波堤の構築に当たっては、過去の津波の規模から天端高さや胸壁の強度などを決定し、これにより越波を阻止し、津波の遡上による集落などの損壊を防止している。
【0003】
しかし、天端高さが高く、胸壁が高強度な防波堤は、底面も広くなり、構築物全体としては大規模となり、建設コストも膨大になる。天端高さの高い防波堤は、陸地側からの視界が大きく遮られ、地域住人の生活環境が損なわれるのみでなく、観光資源的にも問題である。特に、津波発生時に津波に対する視認性も低下する結果、地域住人の避難遅れが生じる可能性もある。
【0004】
最近提案されている防波堤としては、例えば、津波が陸地に到達する前に津波のエネルギーを減衰させるように、海の中に複数段の防波堤を建設するもの(下記特許文献1参照)、あるいはコンクリート製のセルラを用いて胸壁を構築し、防波堤の下部に多数の支柱や暗渠を設け、海水の出入りを容易にする一方、暗渠に鋼鉄製の扉を設け津波の侵入を防止するようにしたものもある(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−113219号公報
【特許文献2】特開2007−63896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、これらは、いずれも防波堤自体が大きな津波のエネルギーを直接受けるものであるため、防波堤自体が相当の強度を有するものでなければならず、防波堤の構築に関しては、材料を現地に運び込み、これを使用して構築することになり、膨大な費用と労力を要するものである。また、後者の場合、視界の確保に関しても十分ではなく、地域住人の生活環境、観光資源も損なわれるものとなっている。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、津波が陸地まで遡上する前に、津波のエネルギーを大きく減衰させ、遡上する津波による防波堤への影響を極力防止することができ、防波堤の天端高さを抑制すると共に、視認性あるいは住環境も確保でき、構築に要する材料コストを低減しつつ迅速に構築可能な津波対策用の岸辺構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の津波対策用岸辺構造は、地表面を穿設することにより形成され、内部に津波を落下させるようにした凹状溝部と、当該凹状溝部の少なくとも海側の縁部に形成され、前記津波の落下高さが高くなるようにした嵩上げ部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、地表面を穿設することにより凹状溝部を形成し、陸地に向かって遡上する津波を当該凹状溝部内に自由落下させ、一旦地中に向かう垂直方向あるいは海岸に沿うような横方向に向けるようにしたので、大きな津波のエネルギーを大幅に減衰させることができ、集落などに直接津波が到達する事態を回避乃至遅らせることができる。
【0010】
また、前記凹状溝部の少なくとも海側の縁部に嵩上げ部を形成したので、津波の落下高さが高くなり、よりのエネルギーを減衰することができる。特に、前記嵩上げ部を、前記凹状溝部の形成により生じた廃土の利用により構築すると、新たな材料を必要とせずに成形でき、コスト的にも有利となる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、前記凹状溝部の側壁、底面及び嵩上げ部の表面をシート部材により覆ったので、前記凹状溝部及びその周辺の強度が向上し、津波によって崩壊することがなく、長期にわたり凹状溝部の形状や構造を維持できる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、前記凹状溝部を防波堤の少なくとも海側に形成したので、第一義的には津波を凹状溝部内に落下させることにより大きな津波のエネルギーを減衰させ、津波のエネルギーが防波堤に直接影響を及ぼさず、津波の到達を極力回避乃至遅らせることができる。第二義的には防波堤が津波のエネルギーを直接受けないため、極力防波堤の強度や天端高さを抑制することができ、ある程度視認性や住環境を確保でき、観光資源が損なわれることもない。さらに、既存の防波堤が存在している場合には、その近傍に凹状溝部を形成すればよく、迅速な作業でかつ低コストで津波対策の構築が可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、前記凹状溝部を防波堤の陸側にも形成したので、上述した効果に加え、前記防波堤を越波した津波が凹状溝部に自由落下することにより、さらに津波が集落などに直接到達する事態を回避乃至遅らせることができる。また、津波の引きによりあらゆるものが海に流れ込むことも阻止でき、これによりある程度の財産の保全乃至確保が可能となり、また、海洋汚染も防止される。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、シート部材は、繊維とセメント材とを混合してなる内装部材を、通水可能な表面部材と、非通水性の裏面部材とにより封止することにより形成したコンクリートシートにより構成したので、前記凹状溝部の側壁及び嵩上げ部をコンクリートシートにより覆い固定した後、当該コンクリートシートに散水するのみで、該コンクリートシートを固化させることができ、前記凹状溝部などに強固な保護壁を簡単にかつ迅速に構築することができる。しかも、コンクリートシートは、ひび割れが生じにくく、劣化も少ないので、凹状溝部の耐久性が向上する。また、コンクリートシートは、容易に搬送することができるので、凹状溝部の構築を極めて迅速に行うことができる。
【0015】
請求項6に記載の発明によれば、前記凹状溝部の内部に消波ブロックを配置したので、凹状溝部の内部に流入した津波の勢いを消波ブロックによっても低減でき、津波エネルギーをさらに減衰させることができる。
【0016】
請求項7に記載の発明によれば、前記消波ブロックをポカラにより構成したので、ポカラの内部において流入した津波の勢を低減できる。
【0017】
請求項8に記載の発明によれば、ポカラを階段状に配置したので、凹状溝部内部において津波が階段状ポカラに沿って上昇する流れを生じさせることができ、この上昇流の発生により津波エネルギーを減衰させることができるのみでなく、新たに落下してきた津波と上昇流との相互衝突によっても津波エネルギーを減衰させることができる。
【0018】
請求項9に記載の発明によれば、前記凹状溝部の底部に堆積物を貯留する貯溜部を形成したので、砂や木屑などが凹状溝部に入り込んでも、凹状溝部の深さを長期にわたり維持することができる。
【0019】
請求項10に記載の発明によれば、前記凹状溝部の上面の一部を、例えばネット、橋あるいは蓋いなどのカバー部材により覆うと、大きな凹状溝部を形成しても、当該地域の住人の生活に支障を生じさせることもない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態を示す概略平面図である。
【図2】図1の2−2線に沿う概略断面図である。
【図3】図2の要部拡大断面図である。
【図4】シート部材の断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態を示す要部概略断面図である。
【図6】ポカラの一例を示す概略斜視図である。
【図7】本発明の第3実施形態を示す要部概略断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
(第1実施形態)
本実施形態に係る津波対策用岸辺構造10は、図1に示すような海岸11あるいは河岸12などの岸辺13に構築されるもので、岸辺13に沿って地表面を穿設することにより形成され、内部に津波を落下させるようにした凹状溝部20と、凹状溝部20における海側の縁部に形成された嵩上げ部30と、を有している。
【0023】
なお、図中、「14」は樹木、「15」は道路、「16」は凹状溝部20に設けられた橋、「17」は防波堤である。
【0024】
凹状溝部20は、防波堤17の海側近傍、つまり防波堤17から海側に所定長離間した位置に設けることが好ましい。なお、防波堤17としては、どのようなものであってもよいが、例えば、図2に示すように、岩盤から立設された基礎部17aと、基礎部17a上に設けられた胸壁17bとから構成されている。胸壁17bの形状も、図示のような直立壁のみでなく、経斜壁あるいはオーバーハングした形状のものなどどのようなものであってもよい。
【0025】
凹状溝部20は、現場の地形、立地条件あるいは想定される津波の規模に応じて幅Wや深さDを決定すべきであるが、直接津波が集落あるいは建造物に到達する時間をどの程度遅らせるかも考慮することが好ましい。
【0026】
凹状溝部20は、幅Wが、例えば、数百メートルあるいは数キロという単位のきわめて大きなものであれば、凹状溝部20の内部に小さな凹状溝部20を1つ乃至複数個相互に平行に形成し、津波をさらに多段階に自由落下させるようにしてもよく、また、必要に応じて公園あるいは道路などの公共的な建造物を設け、津波に対する抵抗体として機能させてもよい。
【0027】
凹状溝部20の深さDに関しては、普段の生活時の利便性や危険性などを考慮すれば、極力浅くすべきで、深くても数十メートル程度とすることが好ましい。
【0028】
このような凹状溝部20の形成は、構築規模に応じてではあるが、廃土の処理が問題となる。本実施形態では、これを凹状溝部20の縁部における嵩上げ部30の形成に利用することとしている。
【0029】
嵩上げ部30は、図2、3に示すように、凹状溝部20の海側の縁部に形成することが好ましい。このようにすれば、津波(図3では実線矢印で示す)が嵩上げ部30を乗り越えて移動しなければならず、しかも嵩上げ高さが高くなる分、津波の自由落下する高さも高くなるため、この嵩上げ部30の形成によっても津波エネルギーを減衰させることができる。
【0030】
嵩上げ部30の形状は、海側から陸側に向かって上り傾斜する斜面となるように形成することが好ましい。このような斜面であれば、津波を円滑に凹状溝部20に導きつつ津波エネルギーを減衰させることができ、しかも嵩上げ部30の成形も容易となり、廃土処理やコストの面からも好ましい。
【0031】
また、嵩上げ部30の斜面の形状も、始端から終端まで一定の角度θ1とした単純な斜面であってもよいが、図3に示すように、斜面の途中からさらに大きな傾斜角θ2となるようにしたもの、あるいはさらに多段に傾斜角が増大変化するものであってもよい。場合によっては、階段状としてもよい。
【0032】
ところが、単に廃土を盛ることのみにより形成した嵩上げ部30の場合、津波に対し強度的に軟弱である。このため、本実施形態では、嵩上げ部30の表面のみでなく、凹状溝部20の側壁及び底壁もシート部材31により覆っている。
【0033】
シート部材31としては、どのようなものであってもよいが、後述するコンクリートシートを使用すると、凹状溝部20の側壁などへの設置作業性の面あるいは補強の面でも優れたものとなり、好ましい。
【0034】
ここに、コンクリートシートとは、図4に示すように、繊維32とセメント材33とを混合してなる内装部材34を、通水可能な表面部材35と、非通水性の裏面部材36とにより封止することにより形成したものである。さらに詳述する。コンクリートシートは、通水可能な表面部材35と非通水性の裏面部材36とを重ね合せ、その外周面を縫合することにより袋状部材を形成し、この袋状部材内に内装部材34を収容すると共に封止し、全体を扁平に形成したものである。表面部材35としては、外部から供給される水又は海水が内部に滲み込むように構成されたものであればどのようなものであってもよい。例えば、織られた繊維、あるいは不織布などからなる薄肉の繊維材料を使用することが好ましいが、強度を高める目的で、アラミド製のシートである、ベクトランTM、ケブラーTMなどを使用してもよい。裏面部材36としては、表面部材35を通り内部に滲み込んだ水又は海水が外部に漏れ出ないように構成されたものであればどのようなものであってもよい。例えば、合成樹脂製のシート、あるいはポリ塩化ビニールなどのような合成樹脂によりコーティングされた布などからなる薄肉の材料を使用することが好ましいが、強度を高める目的で、高強度ポリエチレン製のシートである、スペクトラTM、ダイニーマTMなどを使用してもよい。内装部材34は、立体状の繊維32とセメント材33が混合されたもので、外部から供給された水又は海水と化合して固化し、コンクリート壁を形成するようになっている。
【0035】
コンクリートシートは、どのような大きさであってもよいが、取り扱いの容易性を考慮すれば、厚さtが3mm〜20mm、幅が0.5m〜3m、長さが10m〜20m程度のものが好ましい。この程度の大きさにすれば、水又は海水を供給する前、つまり硬化前の重量が、5Kg/m2〜20Kg/m2程度であり、凹状溝部20の内表面及び嵩上げ部30の表面を覆って使用する場合の作業性に問題はない。
【0036】
ここにおいて、コンクリートシート10の具体例を挙げると、下記A,B,Cに示すものである。
【0037】
【表1】

【0038】
ここに、モース硬度とは、ナイフにより傷をつけることができる程度の硬さをいい、例えば、コンクリートの場合、モース硬度は3〜7程度である。
【0039】
凹状溝部20は、底部に木葉や砂などの堆積物がたまる恐れがある。このため、本実施形態では、図3に一点鎖線で示すように、凹状溝部20の底部をV字状に成形し、ここに堆積物を貯留する貯溜部37を形成することが好ましい。このような貯溜部37を形成すれば、木葉や砂などが凹状溝部20に入り込んでも、除去しやすく、凹状溝部20の深さDを長期にわたり維持することができる。
【0040】
また、凹状溝部20は、通常時に人の落下事故などが生じないように、上面全体あるいは一部を、図3に一点鎖線で示すように、カバー部材38により覆ってもよく、住民生活の利便性を考慮し、橋16あるいは階段、さらにはエレベータなどを設けてもよい。
【0041】
次に作用を説明する。
【0042】
まず、津波対策用岸辺構造10を構築するには、現場の地形、立地条件あるいは想定される津波の規模に応じて幅Wや深さDを決定し、岸辺13から陸側に所定距離離間した位置の地面を掘削し、断面矩形状をした凹状溝部20を形成する。
【0043】
このような凹状溝部20を形成すると、多量の廃土が生じるが、この廃土は、凹状溝部20の海側の縁部の盛り上げに利用し、嵩上げ部30を形成する。嵩上げ部30は、海側から陸側に向かって徐々に競り上がるようなテーパ面とする。
【0044】
そして、コンクリートシートからなるシート部材31を、嵩上げ部30の表面、凹状溝部20の側壁及び底壁に貼り付けると共に、釘あるいはアンカーボルトなどを用いて固定する。この固定後にコンクリートシートの表面部材35に散水し、コンクリートシートを固化させ,凹状溝部20及び嵩上げ部30をコンクリートシートにより補強する。
【0045】
凹状溝部20が形成されると、凹状溝部20から陸側に所定距離離間した位置に、定法に従って凹状溝部20に沿って防波堤17を形成する。防波堤17は、岩盤に基礎部17aを設け、基礎部17a上に胸壁17bを立設することにより形成する。
【0046】
このようにして構築された岸辺構造10に向かって津波が遡上すると、津波は、まず、嵩上げ部30の海側から陸側に向かって上り傾斜した斜面である嵩上げ部30を登ることになる。嵩上げ部30の斜面により、津波のエネルギーはある程度減衰されつつ円滑に凹状溝部20に向かう。
【0047】
嵩上げ部30を乗り越えた津波は、凹状溝部20内に落下し、岸辺13に向かう方向から地中方向あるいは海岸に沿った横方向に方向変換される。この落下及び方向変換により津波のエネルギーは大幅に減衰され、その勢力が殺がれることになる。また、凹状溝部20の底部に達し横方向に変更された津波は、新たに落下してくるものと衝突することになるので、これによっても津波のエネルギーは大幅に減衰されることになる。この結果、凹状溝部20内において、津波は、流れ方向の変更や相互衝突、渦流の発生などにより、エネルギーが大幅に減衰されることになる。
【0048】
凹状溝部20においては、側壁及び底壁にコンクリートシートからなるシート部材31が設けられているので、津波の凹状溝部20内への落下によってもシート部材31が破損したり剥離したりすることはなく、上述した津波エネルギーの減衰効果を確実に発揮することができる。
【0049】
凹状溝部20の内部が海水により満杯になり、さらに津波が岸辺方向に向かう場合には、凹状溝部20の近傍に設けられた防波堤10がこれを阻止することになる。しかし、津波のエネルギーは、大幅に減衰されているので、防波堤10も津波の遡上を阻止しやすい。
【0050】
また、想定以上の巨大な津波が発生し、当該津波が防波堤10を超えて遡上する場合もあるが、この場合には、本実施形態の防波堤10は高さが不必要に高くないので、集落の住人は、津波の遡上を目視しやすく、この結果、避難の開始遅れも防止できる。
【0051】
(第2実施形態)
図5は本発明の第2実施形態を示す要部概略断面図、図6はポカラの一例を示す概略斜視図であり、前述した部材と共通する部材には同一符号を付し、説明は省略する。
【0052】
本実施形態の津波対策用岸辺構造10は、凹状溝部20の海側側壁に沿って消波ブロック40を重積配置したものである。消波ブロック40としては、図6に示すようなポカラ41を使用することが好ましい。ポカラ41は、立方体状をした中空のコンクリート製の消波ブロックであり、立方体の6面に通孔42が開設されたもので、内部に海水が入りやすく、多量の海水が流入する津波のエネルギーを減衰させるものとしては最適なものであり、設置する作業性の面でも好ましい。
【0053】
このようなポカラ41をシート部材31が設けられた凹状溝部20の側壁及び底壁にアンカーボルトなどにより固定的に連結して配置すると共に、これら相互をボルトなどにより連結すれば、ポカラ41の特質から津波を内部に導き入れることができ、津波の勢いを殺ぎ、津波エネルギーを減衰させることができる。
【0054】
つまり、このようにして構築された凹状溝部20に向かって津波が遡上すると、津波は、まず、第1実施形態と同様に、嵩上げ部30の斜面により津波のエネルギーがある程度減衰され、そして、凹状溝部20内に落下し、そのエネルギーが大幅に減衰されることになる。
【0055】
この落下時に、本実施形態においては、ポカラ41の内部に津波が流入し、津波の勢いを殺ぎ、津波エネルギーを減衰させる。また、凹状溝部20に落下した海水は、凹状溝部20内を上昇する場合に、ポカラ41内に流れ、そのエネルギーがさらに減衰される。しかも、ポカラ41が凹状溝部20の底面から階段状に積み重ねられていると、津波の一部がポカラ41に沿って移動し、渦流が生じることになる。この渦流の発生によっても津波のエネルギーが減衰されるが、この渦流は、新たに凹状溝部20の内部に落下してきた津波の流れと相互に衝突するので、これにより新たに落下してきた津波のエネルギーが減衰される。
【0056】
なお、凹状溝部20の内部が海水により満杯になり、さらに津波が岸辺方向に向かう場合は、前述した第1の実施形態と同様、凹状溝部20の近傍に設けられた防波堤10がこれを阻止することになる。
【0057】
ただし、本実施形態の津波対策用岸辺構造10を設置する場所が、小規模の津波しか遡上しないところであれば、必ずしもポカラ41相互を固定的に連結する必要はない。また、上述したポカラのみでなく、いわゆるテトラポットのような消波ブロックであってもよい。
【0058】
(第3実施形態)
図7は本発明の第3実施形態を示す要部概略断面図であり、前述した部材と共通する部材には同一符号を付し、説明は省略する。上述した実施形態は、凹状溝部20が防波堤17の海側に設けられたものであるが、本実施形態は、図7に示すように、岸辺13に沿って形成された防波堤17の陸側にも凹状溝部20を形成したものである。なお、図7では、海側に形成されている凹状溝部20は省略されている。
【0059】
この陸側に形成した凹状溝部20は、海側に形成した凹状溝部20とは嵩上げ部30が相違している。本実施形態の嵩上げ部30は、凹状溝部20の陸側縁部に形成されている。つまり、凹状溝部20の陸側側壁が海側側壁よりも高くなるように嵩上げ部30を形成し、防波堤17を越波した海水が凹状溝部20に入っても、嵩上げ部30により陸側に流れにくくしている。
【0060】
また、このような嵩上げ部30を超えて陸側に遡上した津波が引くとき、嵩上げ部30に邪魔されることなく円滑に凹状溝部20内に戻るように、嵩上げ部30の下部に陸側と凹状溝部20内とを挿通する水抜き流路39が設けられている。
【0061】
このように構成された本実施形態は、防波堤17の海側にも陸側にも凹状溝部20を有しているので、先の実施形態と同様、海側の凹状溝部20や防波堤17による津波エネルギーの減衰作用を発揮することに加え、陸側に形成した凹状溝部20によっても同様の津波エネルギーの減衰作用を発揮することになり、両者相俟って大きな津波エネルギーの減衰を行うことになる。
【0062】
また、陸側に形成した凹状溝部20や嵩上げ部30を超えて陸側に遡上した津波が引くときにおいて、海水は、嵩上げ部30に邪魔されることはなく、挿水抜き流路39を通って凹状溝部20に円滑に戻る。
【0063】
(第4実施形態)
図8は本発明の第4実施形態を示す概略断面図であり、前述した部材と共通する部材には同一符号を付し、説明は省略する。
【0064】
上述した実施形態は、廃土を嵩上げ部30の形成に利用しているが、廃土が多量に排出される場合には、これのみでなく道路15の構築に利用し、道路15によっても津波の遡上を防止してもよい。
【0065】
例えば、図8に示すように、前述の第3実施形態と同様、防波堤17の陸側に水抜き流路39を有する第1凹状溝部20aを形成し、第1凹状溝部20aから陸側に所定距離離間した位置に第2凹状溝部20bと道路15を形成する。この場合、第2凹状溝部20bは、道路15の海側に形成することが好ましい。ただし、嵩上げ部30に関しては、必ずしも設けなくてもよいが、第2凹状溝部20bの側壁などや道路15の側面には、前述したシート部材31であるコンクリートシートを設けることが好ましい。
【0066】
このように構成した本実施形態は、前述の第3実施形態が有している機能に加え、第2凹状溝部20bによる津波エネルギーの減衰機能と、道路15自体の防波堤機能が付加されたものとなり、優れた津波対策用岸辺構造となる。
【0067】
本実施形態では、多量に排出された廃土を利用して道路15の構築を行うので、道路15は、津波に対し粘り強く対抗する海岸保全施設としてあるいは多重防護として機能する。特に、防波堤17と交通のインフラストラクチャーである道路の両者を津波対策として活用すると、いわば二重線堤を当該地域に整備することができ、優れた津波対策となる。
【0068】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々改変することができる。例えば、上述した実施形態では、凹状溝部20を海側のみあるいは陸側と海側に形成しているが、陸側のみに形成してもよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、津波のエネルギーを減衰させる津波対策用岸辺構造として利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
10…津波対策用岸辺構造、
13…岸辺、
15…道路、
16…橋、
17…防波堤、
20…凹状溝部、
30…嵩上げ部、
31…シート部材、
32…繊維、
33…セメント材、
34…内装部材、
35…表面部材、
36…裏面部材
39…水抜き流路、
40…消波ブロック、
41…ポカラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岸辺に沿って地表面を穿設することにより形成され、内部に津波を落下させるようにした凹状溝部と、当該凹状溝部の少なくとも海側の縁部に形成され、前記津波の落下高さが高くなるようにした嵩上げ部と、を有することを特徴とする津波対策用岸辺構造。
【請求項2】
前記凹状溝部の側壁及び底面と前記嵩上げ部の表面をシート部材により覆ったことを特徴とする請求項1に記載の津波対策用岸辺構造。
【請求項3】
前記凹状溝部は、前記岸辺に沿って形成された防波堤の少なくとも海側に形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の津波対策用岸辺構造。
【請求項4】
前記凹状溝部は、前記岸辺に沿って形成された防波堤の陸側に形成され、前記嵩上げ部を当該凹状溝部における陸側の縁部に形成すると共に、当該嵩上げ部に陸側に遡上した水を前記凹状溝部内に戻す水抜き流路を形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の津波対策用岸辺構造。
【請求項5】
前記シート部材は、繊維とセメント材とを混合してなる内装部材を、通水可能な表面部材と、非通水性の裏面部材とにより封止することにより形成したコンクリートシートにより構成したことを特徴とする請求項2に記載の津波対策用岸辺構造。
【請求項6】
前記凹状溝部は、内部に消波ブロックを配置したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の津波対策用岸辺構造。
【請求項7】
前記消波ブロックは、ポカラにより構成したことを特徴とする請求項6項に記載の津波対策用岸辺構造。
【請求項8】
前記ポカラは、前記凹状溝部の遇部に階段状に配置したことを特徴とする請求項7項に記載の津波対策用岸辺構造。
【請求項9】
前記凹状溝部は、底部に堆積物を貯留する貯溜部を形成したことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の津波対策用岸辺構造。
【請求項10】
前記凹状溝部の上面全体若しくは一部をカバー部材により覆ったことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の津波対策用岸辺構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−87526(P2013−87526A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230081(P2011−230081)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(599077409)日本特装株式会社 (7)
【Fターム(参考)】