活性なシルク粘液接着剤、シルク電気的ゲル化方法、およびデバイス
本発明は、電気的ゲル化と呼ばれるプロセスにおいて、電圧の直接印加を用いてシルクフィブロイン溶液をシルクフィブロインゲルに急速に変換するための組成物、方法、およびデバイスを提供する。シルクフィブロインゲルは、逆の電圧を印加することによって液体型に可逆的に変換され、または剪断力もしくは他の処置を適用することによってβ-シート構造にさらに変換されうる。電気的ゲル化シルクは、材料またはデバイスに加工するための、抽出されたバルクゲル、ゲルのスプレー、もしくはストリームとして用いられ、またはデバイスに対するシルクゲルコーティングとして用いられうる。多様な医学的応用のために、活性物質をシルクゲルに包埋してもよい。電気的ゲル化シルクは、シルクIコンフォメーションおよびシルクβ-シート構造を有するシルクフィブロインタンパク質の混合物を含む圧電シルク材料として存在する。本発明のシルク電気的ゲル化プロセスは、組織工学、医学デバイスもしくはインプラント、薬物送達、ソフトロボティクス、または動きに関連する技術などの多様な応用において有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援
本発明は、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって与えられたEB 002520、アメリカ空軍(U.S. Air Force)によって与えられたFA9550-07-1-0079、およびU.S. Army Research, Development and Engineering Command Acquisition Centerによって与えられたW911SR-08-C-0012の下で政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願
本出願は、35 U.S.C.§119(e)の下で、2008年9月26日に提出された米国特許仮出願第61/100,352号、および2009年3月3日に提出された米国特許仮出願第61/156,976号の優先権の恩典を主張する。
【0003】
発明の分野
本発明は、電場を印加することによって、シルクフィブロイン溶液をゲルに迅速かつ可逆的に変換させるための方法およびデバイスを提供する。
【背景技術】
【0004】
背景
シルクは、一般的にカイコなどのいくつかの鱗翅目の幼虫およびクモによって繊維に紡がれるタンパク質ポリマーとして定義される。シルクは、その重さが軽いこと、信じられないほどの強度、および弾性のために興味をそそられる生物材料である。カイコガ(Bombyx mori)のシルクの主成分は、フィブロインタンパク質および膠様のセリシンタンパク質である。シルクフィブロインタンパク質組成物は、その生体適合性、遅い分解性、および優れた機械的特性のために、組織工学操作などの生物医学応用において魅力的である。分解性のシルクフィブロイン製剤は、薬物送達が含まれる生物医学応用にとって広範囲の機械的および機能的特性に関して機械的に強い材料を提供する。有用なシルクフィブロイン調製物は、シルクゲルである。多様な応用のためにシルクゲルを形成するための追加的アプローチがなおも必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の態様は、電気的ゲル化(electrogelation)と呼ばれるプロセスにおいてシルクフィブロイン溶液に電場を印加することによって、可溶化されたシルクフィブロイン溶液をシルクフィブロインゲルに可逆的に変換する方法を提供する。可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加することは、たとえば可溶化されたシルクフィブロイン溶液の中に電極を沈める段階、および電極間に一定の電圧を印加する段階によって行われうる。電圧によって作成された電場は、ランダムコイルからシルクIフォーメーションへのシルクフィブロインのコンフォメーションの変化を引き起こす。約50 VDCまでの電圧は、ゲル化の誘導において有効であるが、より高い電圧も有用でありうる。一般的に、シルクフィブロイン溶液がその電気抵抗を低減させる塩などの追加の添加物を有しなければ、電圧の印加は低い電流で行われうる。約50 VDC未満の試験において、典型的な電流は約10ミリアンペア未満である。しかし、可溶化されたシルクフィブロイン溶液に塩を付加すると、電流は、約80ミリアンペアよりも上に劇的に増加して、ゲル化速度の増加を伴う。DC電圧を逆転させると(電極の極性を反転させる)、シルクゲルは、液体型(ランダムコイルコンフォメーション)に戻るように変換する傾向がある。
【0006】
電気的ゲル化は、様々な理由から、pHの操作、加熱、様々なイオンの適用および機械的剪断などの、シルクのゲル化を誘導する他の機序に対して利点を有する。たとえば、電気的ゲル化によって達成されるシルクフィブロインの準安定的なシルクIコンフォメーションの増加は、他のゲル化技術によって生成されたβ-シートコンフォメーションと比較してより用途の広い材料相を提供する。加えて、ゲル型で示されるシルクI構造を、液体型(ランダムコイル型)に戻るように変換させることができ、あるいは、分子の最小限の追加的整列を通して、β-シート構造に変換させることができる。これが可能であることは、「高性能構造」の重要な特徴である。
【0007】
電気的ゲル化はまた、白金ワイヤ電極から嵌め合い金属板に至る広範囲の電極材料および幾何学構造を用いて、シルクゲルによってコーティングされうる組織(インビトロまたはインビボ)に適用されうる。他の化学的操作に対して、電圧、たとえば電池操作デバイスからのDC電圧を印加する必要があるだけであることから、このプロセスは、生細胞が影響を受ける可能性がある生物医学的応用においてより安全な可能性がある。
【0008】
本発明の1つの局面はまた、シルクIコンフォメーションおよびシルクβ-シート構造を有するシルクフィブロインタンパク質の混合物を含む圧電シルク材料も提供する。このシルク材料の圧電特性は、シルクIコンフォメーションとシルクβ-シート構造との比によって特徴づけられ、これは本明細書において示される方法を適用することによって決定されうる。たとえば、シルクIコンフォメーションの含有量は、DC電圧によって調節され、シルクβ-シート構造の含有量は、脱水、機械的な力、または熱力学的処置によって電気的ゲル化シルクを処置することによってもたらされる。
【0009】
加えて、電気的ゲル化に関して様々な処理および送達デバイスが容易に想像されうる。本明細書において記述されるように、ゆっくりとした大量の送達または急速な噴霧およびコーティング送達のいずれかが望ましい生物医学および非生物医学応用のために、電気ゲル化シルクを処理および送達するデバイスが作成されている。
【0010】
本明細書において記述される電気ゲル化アプローチは、玩具から消火、医学的技法に至るまで様々な応用領域において夥しい可能性を有する。プロセスそのものは実行が容易であり、様々な実現が想像される。
【0011】
たとえば、1つの態様は、子供が電気ゲル化シルクゲルの急速なストリーム(stream)を安全に射出することができる手持ち型ディスペンサーを提供する。このシルクゲルは食用であり、香料を加えるまたは着色することができ、同様に壁に対して粘着能を有するが生分解性であり、シリーストリング(SILLY STRING、登録商標)パーティノベルティの魅力的な代用物となる特色を有する。
【0012】
本発明の電気的ゲル化プロセスによって生成されたシルクゲルはまた、組織もしくは再生組織(インビボまたはインビトロ)、または医学用インプラントなどの医学デバイスにおける、生分解性で生体適合性のコーティングとして用いられてもよい。そのような生分解性で生体適合性のインプラントコーティングは、それがインプラントの周辺組織に望ましい薬物(たとえば、抗炎症薬または増殖因子)を連続的に溶出できることから臨床的に重要である。
【0013】
もう1つの態様は、シルク溶液の交換可能なカートリッジを有する手持ち型デバイスを提供する。カートリッジはまた、シルク溶液に入れられてもよい特異的細胞または生物活性分子を含有してもよい。外科医の手によって、シルクゲルは、空隙を埋めるために、まとまった徐々に排出されるストリームでデバイスから射出されうる。組織再構築において、たとえば、ゲル化したシルクを用いれば、空隙を充填して、組織の生育を促進することができるであろう。
【0014】
もう1つの態様は、その中でシルク溶液の可逆的電気的ゲル化が、動きに関連する技術(たとえば、カメラ)手段を提供する、「ソフトロボティクス」を提供する。特に、シルクフィブロイン溶液は粘着性ではないが、シルクゲルは粘着性である。この粘液接着特徴は、カタツムリの粘液などの他の天然の粘液接着剤を模倣するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電気的ゲル化プロセスの模式図を表す。
【図2】シルク電気的ゲル化のいくつかの特色を示す。
【図3】シルク電気的ゲル化の様々な送達スタイル、特性、および追加的特色を表す。
【図4】平行電極による電気的ゲル化の設定の模式図を表す。
【図5】22.2 VDC印加の0分、20分、および275分後の平行電極電気的ゲル化実験の画像を示す。
【図6】シルクフィブロイン溶液の電気的ゲル化プロセスを例証する。
【図7】74.9 VDC印加の0分、15分、および30分後の平行電極電気的ゲル化実験の画像を示す。
【図8】24.8 VDCで30分間曝露後の平行電極と環状電極設定の比較を描写する。
【図9】個々のおよび二重のアルミニウム管電極設定の模式図を示す。
【図10】0分、5分、および15分後でのばね形状電極を利用するシリンジ(3 ml)に基づく電気的ゲル化の結果を示す。
【図11】24.8 VDC電圧を0分および10分間印加した後の、13日目および65日目の可溶化シルクの電気的ゲル化の成果の比較を示す。
【図12】24.8 VDC電圧印加の0分、5分、および10分後での、ばね形状電極を利用するシリンジ(3 ml)に基づく電気的ゲル化の結果を示す。
【図13】24.8 VDC電圧印加の0分、5分、および10分後での平行銅コイル電極を用いる電気的ゲル化を描写する。
【図14】24.8 VDC電圧で0分、5分、および10分間のゲル化時間で、平行電極の幾何学構造を用いる、塩およびDMEMを有する4%および8%可溶化シルクの電気的ゲル化の結果を示す。
【図15】グラファイト電極を用いる24.8 VDC電圧での可溶化シルクの電気的ゲル化である。
【図16】高圧電気的ゲル化の設定の図面である。
【図17】高圧電気的ゲル化の結果の模式図である。
【図18】そのあいだにオーガーを有する2つの電極を有する混合電気的ゲル化デバイス、およびゲル化の成果を示す。
【図19】排出のためのInstron(登録商標)材料試験デバイス(Grove City, PA)の設定、および代表的な成果を示す。
【図20】図20AおよびBは、シルク溶液およびDMEMに関する白金電極によるゲル化の前後の写真である。
【図21】図21A〜Cは、シルクゲルが液体型に戻るように電極の極性を逆転させた後の結果を示す。
【図22】以下のように表示された以下の成分を有する手持ち型シルクゲル排出器の態様の写真である:ハウジング99、水圧ポンプ10、プロセスボタン11、操作バルブ12、シルクカートリッジ13、タイミングおよびロジックボード14、再充電可能電池15、排出ボタン16、水圧ドライブ17。
【図23】シルクゲルを特定の部位に送達するための態様の送達末端部の左右の透視図を示す。写真は、以下のように表示される:ノズルアタッチメント20、バルブおよび(-)白金電極21、シルク溶液22、(+)白金電極23。
【図24】電気的ゲル化を用いて作成および操作されうる圧電性シルク骨格タンパク質構造の例を示す模式図である。
【図25】シルク処理技術、予想される特性、および可能な応用の描写である。
【図26】図26Aおよび26Bは、シルクの電気的ゲル化によって可動性となるサーベイランスプラットフォームの成分を示す。
【図27】図27A〜27Cは、サーベイランスプラットフォームの検査からの画像を示す。
【図28】図28A〜28Cは、活性なシルク粘液接着剤の作用を通して垂直および水平方向の双方においてアクリル表面および木製表面に取り付けられたサーベイランスプラットフォームを示す。
【図29】図29A〜29Cは、らせん状コイル電気的ゲル化パッドデザインを示す。
【図30】図30A〜30Cは、水中の垂直なプレキシガラス表面からの電気的ゲル化および制御放出を示す。
【図31】図31A〜31Cは、水中の重りの持上げに適用した場合の電気的ゲル化および制御放出を示す。
【図32】図32Aおよび32Bは、室温で約2時間乾燥させた前後の、電気的ゲル化したゲルによってコーティングされた歯科用インプラントの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
本発明は、本明細書において記述される特定の方法論、プロトコール、および試薬等に限定されず、したがって変化する可能性があることが理解されるべきである。本明細書において用いられる用語は、特定の態様を記述する目的のためであるに過ぎず、特許請求の範囲のみによって定義される本発明の範囲を制限すると意図されない。
【0017】
本明細書においておよび特許請求の範囲において用いられるように、本文が明らかにそれ以外であることを示している場合を除き、単数形には複数形が含まれ、その逆も真である。実施例またはそれ以外であると示されている場合を除き、本明細書において用いられる成分または試薬条件の量を表す全ての数値は、全ての例において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。
【0018】
特定された全ての特許および他の刊行物は、たとえば本発明に関連して用いられる可能性があるそのような刊行物において記述される方法論を記述および開示する目的のために、明白に参照により本明細書に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の提出日以前にその開示がなされたという理由のみによって提供される。この点において、いかなるものも、先行発明のためにまたは他の任意の理由からそのような開示に先行する権利が本発明者らにないと自認したと解釈されるべきではない。これらの文書の内容に関する日付または提示に関する全ての声明は、出願人に入手可能な情報に基づいており、これらの文書の日付または内容の正確性に関するいかなる承認も構成しない。
【0019】
それ以外であると定義されている場合を除き、本明細書において用いられる全ての科学技術用語は、本発明が関連する当業者に一般的に理解される意味と同じ意味を有する。任意の公知の方法、デバイス、および材料が、本発明の実践または試験において用いられうるが、この点に関して、方法、デバイス、および材料を本明細書において記述する。
【0020】
シルクフィブロインは、様々な形状およびコンフォメーションでのその天然または合成状態から再形成されうる独自のバイオポリマーである。シルクフィブロインタンパク質は最近、過去に主に利用されてきた様式である織物および医学縫合糸応用以外の利用法が発見されている。たとえば、ハイドロゲルの生成(WO2005/012606;PCT/US08/65076)、超薄膜(WO2007/016524)、厚い被膜、コンフォーマルコーティング(WO2005/000483;WO2005/123114)、ミクロスフェア(PCT/US2007/020789)、3D多孔性マトリクス(WO2004/062697)、固体ブロック(WO2003/056297)、マイクロフルイディックデバイス(PCT/US07/83646;PCT/US07/83634)、電子光学デバイス(PCT/US07/83639)、および直径がナノスケール(WO2004/0000915)から数センチメートル(米国特許第6,902,932号)までのファイバーが、バイオマテリアルおよび再生医学との関係に関して調査されている(WO2006/042287;米国特許出願公開第20070212730号;PCT/US08/55072)。この天然繊維の、天然にはあまりない強靱性は、シルクに基づく材料に、印象的な機械的特性(伸展性および圧縮性の双方)を付与し、これはKevlar(登録商標)などのほとんどの有機相対物または他のポリマー材料を超えることはないとしても、これらに匹敵する。
【0021】
シルクは、何年ものあいだ生物医学応用において用いられている。応用は、縫合材料から、腱、軟骨および靱帯などの体における工学操作組織の開発のために用いられる組織足場構造に及ぶ。特定の応用にとって必要なシルクの形状は多様である。ゆえに、シルク被膜(Jin et al., 15 Adv. Funct. Matter 1241-47 (2005))、不織布マット(Jin et al., 25 Biomats. 1039-47 (2004))、スポンジ(多孔性足場構造)(Karageorgiou et al., Part A J. Biomed. Mats. Res. 324-34 (2006))、ゲル(Wang et al, 29 Biomats. 1054-64 (2008))、および他の形状(Sofia et al., 54 J. Biomed. Materials Res. 139-48 (2000))の開発に対して多くの研究が行われている。
【0022】
これらの形状の各々に関して、昆虫に由来するシルクは通常、2段階技法を用いて溶液に処理される。カイコのシルクの場合、カイコガの繭を水溶液中で沸騰させた後、すすいで、天然のシルクを覆う膠様のセリシンタンパク質を除去する。次に、抽出されたシルクフィブロインを、LiBr中で可溶化(すなわち、溶解)した後、水中で透析する。次に、可溶化されたシルクフィブロインの濃度を、意図する使用に従って調節することができる。米国特許出願公開第20070187862号を参照されたい。または、組み換え型シルクタンパク質を用いてもよい。蛛形類に由来するシルクタンパク質を大量に収集することは難しいことが多いことから、クモのシルクを用いる場合に組み換え型が有利であることが証明されている。Kluge et al., 26(5) Trends Biotechnol. 244-51 (2008)。その上、組み換え型シルクフィブロインは、象牙質のマトリクスタンパク質1およびRGDなどの異種タンパク質またはペプチドを発現するように工学操作することができ、シルクフィブロインタンパク質に対して追加的な生物学的機能性を提供する。Huang et al., 28(14) Biomats. 2358-67 (2007);Bini et al., 7(11) Biomacromolecules 3139-45 (2006)。
【0023】
シルク溶液の標的材料形状への処理は、所望の幾何学形状および形態学に依存する標的特異的アプローチを必要とする。たとえば、エレクトロスピニングは、様々なマットおよび管状構造に重ね合わせることができるナノサイズのファイバーを生成するために用いられるプロセスである。このプロセスにおいて、高い電圧電位、典型的に10 kV〜20 kVを用い、針からシルク溶液の噴出流を急速に射出させて、サブミクロンの直径の固体ファイバーへの噴出流の固化を加速させる。プロセスは、織物様の形態を有する層となめらかな沈着下層とを構築することができる。Li et al., 27 Biomats. 3115-24 (2006)。
【0024】
特に重要なもう1つの材料形状はシルクゲルである。生物医学応用において、シルクハイドロゲルは、細胞および生物活性ポリマーの封入および送達のために用いられる。ハイドロゲルの高い水分含有量および機械的応答のために、それらはいくつかの組織回復応用に適している。様々なポリマー系において、ハイドロゲルは、ポリマー鎖が化学的または物理的手段を通して架橋して網状となる場合に形成される。架橋試薬などの化学的誘発剤またはpHもしくは温度などの物理的刺激因子が奏功することが示されている。Wang et al., 2008。
【0025】
本明細書において提供されるシルク電気的ゲル化プロセスは非常に簡素であり、DCまたはAC電圧源などの電圧源を用いて電場を印加することによって、ランダムコイルシルク溶液を準安定なシルクIコンフォメーションが増加したゲルへ変換することを伴う。電流源、アンテナ、レーザー、および他の発生装置などの、シルク溶液に電場を印加する他の方法も同様に用いうる。興味深いことに、本発明の方法を用いる電気的ゲル化は可逆的である。DC電圧を逆転させると(電極の極性を逆転させる)、シルクゲルはランダムコイルコンフォメーションに戻るように変換する傾向がある。逆転プロセスはほぼ完全であるようであり、逆転を何回も繰り返すことができ、おそらく最も重要なことに、材料の性質は、ゲルから液体シルク溶液へと交互させると劇的に変化する。ゲルは非常に粘着性で濃厚な粘液様の粘ちゅう度(consistency)を有する。液体シルク溶液は全く粘着性ではなく、ゲルと比較して非常に低い粘度を有する。ゆえに、電気的にゲル化したシルクは、カタツムリが移動のためにおよび様々な表面に自身を固定するために利用する粘液分泌物と類似の活性なシルク粘液接着剤として見なされうる。
【0026】
単純なシルクの電気的ゲル化の例において、図1Aにおいて示されるように約9%可溶化シルクフィブロイン溶液を数ml(4 ml)含有する直径70 mmのプラスチック製培養皿の底に沿って、2本の平行なワイヤ(電極)を置く。液体レベルは電極の上部をわずかに覆ってもよく、本例の電極は約40 mm離れていた。22.2 VDCの電圧電位を、高電流リチウムポリマー(Li-Pol)電池を用いて印加した。電池の陽性端子に接続された電極を「+」(正極)と呼び、電池の陰性端子に接続された他方の電極を「-」(陰極)と呼ぶ。図1Aの写真において例証されるように、電圧印加のほぼ直後に、正極および陰極上の双方に気泡が形成された。正極上の気泡、おそらく酸素ガスは、電極から外向きに、概ね陰極に向かって発散する成長しつつある「ゲルの先端」にやがて包み込まれた。275分間のあいだに、シルク溶液の有意な容積がゲル化した。このことは、印加されたDC電圧がシルクフィブロインのゲル化を引き起こすことができることを証明している。電極の表面積(図1B)および材料(図1C)の効果も同様に調べた。他のアプローチ、たとえばコイル状の電極幾何学を用いても、および/または電極材料として白金を用いても(図1D)、シルクフィブロインのゲル化が起こった。
【0027】
電気的ゲル化プロセスの電源は、直流電圧を提供する任意の電源でありうる。直流は、電池、熱電対、太陽電池等などの電源によって生成される。または、事業および住居用の一般的な電源である交流(AC)も同様に電気的ゲル化プロセスを誘導するために用いられてもよいが、ゲルの形成は、直流電圧によって誘導されるゲル化プロセスほど速くない可能性がある。
【0028】
一般的に、ゲル化したシルクを電気的ゲル化プロセスから除去した後、得られる材料は非常に粘度が高く、柔らかく、非常に粘着性である。時間が経つにつれて、ゲル化したシルクは非常に堅くなりうる。図2は、シルクの電気的ゲル化のいくつかの特色を示す。電気的ゲル化は、低い電圧および電流のプロセスであり、10分未満でゲル化を引き起こすことができる。プロセスを、手持ち型デバイスに組み入れると、低いコストであるが、多様な標的ゲル化容積に対して拡大可能なアプローチを提供することができる。シルクの改変によって、いくつかの応用に関して香料を付与することができ、他の応用に関して細胞または生物活性分子を封入することができる。シルクの生体適合性および分解の制御を提供できることが証明されたことはまた、応用特異的表現に組み入れられうる要素でもある。
【0029】
言及したように、電気的ゲル化は、ランダムコイルからシルクIコンフォメーションへのシルクフィブロインの少なくともいくつかのコンフォメーションシフトを誘発するようである。この現象は、主にβ-シートコンフォメーションが起こる傾向があるpHの操作、加熱、様々なイオンの適用、および機械的剪断などの、シルクのゲル化を誘導する他のいくつかの機序によって達成される現象からは独自である。電気的ゲル化によって達成される準安定なシルクIコンフォメーションの増加は、β-シートコンフォメーションの場合より達成するためにより用途の広い材料相である。たとえば、シルクIゲル形状を液体型(ランダムコイル)に戻るように変換させることができ、または分子の最低減の追加的整列を通してβ-シートに変換することができる。これによって、図24において示されるように、双方の構造を含む複合体の作成および操作が可能となる。
【0030】
興味深いことに、α-ヘリックスで整列したシルクポリペプチド鎖はまた、圧電特性を示すことが示されている。圧電材料は、75%もの高い効率で電気シグナルを物理的な次元の変化に変換するまたはその逆であることが知られている。骨は、その構造の多くを占める石灰化(らせん状)コラーゲンマトリクスにより圧電特性を示す。骨の機械的荷重および荷重除去によって引き起こされる微細な電気シグナルは、骨の形成および修復の双方において重要な役割を果たす。埋め込まれたデバイスにおいてこれらの本来の特性を適合させることは、患者の回復を早めて損傷前の運動性の回復を助ける可能性を有する。方向性のシルクIドメインに沿って強くて遅く分解するシルクモチーフを含有するハイブリッド材料は、改善された骨修復が含まれる多数の生物医学応用において用いられうる強い「高性能の」材料プラットフォームを提供する。α-ヘリックス含有量対β-シート含有量の相対比を調整することによって、シルクのマクロ構造の強度、分解性、および圧電特性を、広範囲の材料特性にわたって変化させることができる。
【0031】
理論に拘束されることなく、電気的ゲル化は、印加された電場によるコンフォメーションの変化として説明されうる。水溶性のシルク溶液中に電極および電圧を典型的に直接導入すると、電気分解を誘発するが、これは電気的ゲル化において主要な役割を果たさないと考えられる。電気分解は、電極でのシルク溶液のpHレベルに急速に影響を及ぼし、正極付近のpHが減少するが(pH 4未満)、陰極付近のpHは増加する(pH 13より上)。酸素ガスが正極で生成され、陰極では水素ガスが生成されて、pHレベルに影響を及ぼしている可能性が高い。重要なことに、これらのpH変化は電気的ゲル化の必要条件ではないようであり、電気的ゲル化はシルクフィブロインにおいてpHとは無関係に起こる。電気的ゲル化は約pH 6〜約pH 7.5のpH範囲で達成されうる。プロセスの電気的説明に関して、シルクタンパク質は、小さい側鎖を有する(グリシン、アラニン、セリン)非常に反復性の高いアミノ酸配列からなると認識することが重要である。電場の存在下、磁気双極子として作用する極性側鎖は電場の方向を向く可能性があり、大きい電気モーメントを有する分子コンフォメーションはおそらく濃度が増加する。電気的ゲル化の場合、ゲル形成によって表されるコンフォメーションの変化はそのような機序による可能性がある。 Neumann, 47 Prog. Biophys. Molec. Bio. 197-231 (1986)。
【0032】
可能性がある応用を図3に描写するが、これは様々な送達スタイル、達成可能なゲル特性、および本発明に包含される追加的特色を記述する。電気的ゲル化シルクは、スプレー、ストリーム、低速排出の形状で、およびバルクでゲルを作成するために送達されてもよい。ゲルの処理および操作によって、軟性、ゴム様、硬性、湿潤性、および粘着性の粘ちゅう度が達成されうることが示されている。これらの特性の組み合わせも達成可能である。たとえば、ゲル化したシルクの柔らかく、湿潤性で粘着性の形状を作成することができる。これらのスタイル、特性、および特色は、可能な多くの応用における電気的ゲル化の有意な機会を提供する。
【0033】
たとえば、シリーストリング(SILLY STRING、登録商標)パーティストリング(Just For Kicks, Inc.)は、明るい色のプラスチック製ストリングの粘着性のストリームを形成する液体を噴射するエアロゾル缶である。たとえばHow Stuff Worksのウェブサイトを参照されたい。主に子供向けに販売されるが、この製品は、イラクでの米国陸軍によって新たな応用を見いだされ、兵士はこれを玄関口および部屋における偽装されたトリップワイヤを明らかにするために用いて、それによって人員に対する重大な危害を防止している。Santana, NJ. woman collects Silly String for serious mission in Iraq, USA TODAY (December 11, 2006)。この製品は特に子供におよびお祝いの際に非常に人気があるが、直火の周囲で用いると有害となりえて、壁紙および他の材料に損害を与えることがあり、生分解性ではなく、海洋生物に対して特に有害である可能性がある。実際に、ロサンゼルス(ハロウィーンの夜のパーティストリングの清掃費用は200,000ドルを超える)などのいくつかの地域は、これを禁止している。LAMC §56.02 (2004)。シルクに基づくパーティストリングは、柔軟なストリームで射出されうるが、既存のパーティストリングとは異なり、シルクゲル版は生分解性で生体適合性であり、環境に対する害がより少なく、子供に対してもより高い安全性を提供する。実際に、シルクゲルに香料を加えてもよく、摂取してもリスクは最小である。
【0034】
本発明のもう1つの態様は、消火において用いるためのフォームまたはゲルを提供する。様々な消火用ゲルが市販されている。たとえばTHERMO-GEL(登録商標)ゲル濃縮液(Thermo Technologies, LLC)は、水に添加するとクラスA難燃剤に変換する。これは、空軍での応用において戦闘時の火炎に対して、および構造を保護するために有効でありうる。もう1つの市販されている消火用ゲルであるAURORAGEL(商標)breakable fire gel(McCoy & Assoc, Inc.)は、酸素の利用率を制限すること、ゲルの層によって燃料源を隔離すること、燃焼しているものの温度を低下させることによって火炎を停止して防止する。AURORAGEL(商標)fire gelは、本質的にゲル化した水の厚い層であり、確実に水が表面に接触して留まるようにする。これを、水平および垂直表面に噴霧することができるが、追加的な保護のために消防士にも噴霧することができる。このゲルはノズルから送達されることができ、安全なゲル化剤を含有し、カルシウム含有水によって除去されうる。本発明において記述される電気的ゲル化プロセスを利用して、シルクに基づくゲルを消火応用に利用してもよい。シルク溶液を急速にゲル化して、それをノズルを通して噴霧できることが証明されている。化学的改変を利用して、シルクゲルの難燃性を改善してもよい。得られたゲルは、生体適合性で生分解性である全てが水溶である系で構成されえて、垂直および水平構造要素に噴霧することが可能で、追加的な保護のために消防士自身に噴霧することが可能である。
【0035】
本発明の重要な態様は、熱傷および創傷の処置などの医学的応用を提供する。熱傷の犠牲者は、罹患組織を冷却して感染症を予防するための待機的手段を伴う処置戦略、重度に損傷した組織の除去および適した材料との交換を伴うより集中的戦略を必要とする。現在、救急の応急処置シナリオにおいて熱傷処置のために用いることができる多くの製品が市場に存在する。たとえば、Water-Jel Technologies(Carlstadt, NJ)は、静菌特性および生分解特性の双方を有する水性基剤のハイドロゲルを組み入れた毛布、包帯、およびゲルを製造している。ゲルは熱傷領域を冷却して、感染症に対して保護することができ、および疼痛を軽減するためにリドカインを含めることができる。BURNFREE Products(Sandy, UT)は、類似の分野の熱傷処置製品を有する。その非常に粘度の高いゲルは熱傷創傷の場所に留まるが、さらなる処置のために完全にすすぎ落とすことができる。ゲルは、予想される使用条件下での機能性を確保するために、抗蒸発剤、濃化剤、および保存剤添加物を含有する。組織工学研究に由来する他のより洗練された製品が市販されつつある。Cook Biotech, Inc.(West Lafayette, IN)のOASIS(登録商標)創傷マトリクスは、第二度の熱傷を処置するために用いられうるブタ起源に由来する材料であり、患者の細胞が損傷組織と置き換わるように湿潤環境を提供する。
【0036】
有意な損傷が起こっている中等度の皮膚熱傷の場合、自家移植は1つの処置戦略でありうる。自家移植は、損傷した皮膚を体における他の場所からの健康な皮膚に交換することを伴う。このアプローチの代わりとして、EPICEL(登録商標)培養表皮自己移植片として知られるGenzyme(Cambridge, MA)社の製品を永続的な皮膚置換物として用いることができる。患者の皮膚の細胞(マウス細胞と同時培養した)を用いることによって、免疫の拒絶を恐れることなく同種異系移植片を培養することができる。プロセスは、2週間を要し、体全体を覆うために十分な置換皮膚を産生しうる。EPICEL(登録商標)培養表皮自己移植片は、米国における主要な熱傷施設において用いられる。類似の応用において用いられる他の製品には、Integra(商標)二層マトリクス創傷包帯(Integra Lifescience Holdings Corp., Ontario, Canada);ALLODERM(登録商標)無細胞皮膚マトリクス(LifeCell Corp., Branchburg, NJ);ORCEL(登録商標)二層細胞マトリクス(Forticell Bioscience, Inc., New York, NY);およびAPLIGRAF(登録商標)生存皮膚パッチ(Organogenesis Inc., Canton, MA)が含まれる。
【0037】
シルクに基づくハイドロゲル製品は、創傷、特に熱傷創傷の処置において有意な影響を有しうる。シルクゲルは水性基剤で生分解性であることから、これは、廃棄物を生じることなく容易に適用または除去されうる。その接着性および高い粘度のために、ゲルはその場に留まることができ、創傷を冷却して空気媒介性の汚染を防止する。組織工学アプローチおよび組み換え技術を応用することによって、創傷を保護して、組織再生を刺激するために、細胞、薬物、および/または他の生物活性分子をシルクゲルに組み入れてもよい。たとえば、電気的ゲル化プロセスにおいて使用されるシルクフィブロインペプチドに、VEGFまたはBMP-2などの組み換え型増殖因子が含まれない場合、これらをフィブロインタンパク質にコンジュゲートさせてもよく、または電気的ゲル化が行われる前の何らかの適した時間でフィブロイン溶液に添加してもよい。
【0038】
さらに、シルクゲルは、特にβ-シートコンフォメーションの誘発において、構造的コンフォメーションをもたらすように操作されうることから、シルクゲルは、骨修復において特に有用でありうる。たとえば、組み換え型シルクペプチドを、シルクコンセンサスリピートと共にシルクIコンフォメーションペプチドへと電気的ゲル化して、β-シートの襞に対して平行にらせんドメインを加えてもよい。このようにして、シルクIコンフォメーションの双極モーメントは相加的に組み合わさり、互いに打ち消し合うことなく、材料の真の双極モーメントに至り、上記のようにバルク圧電挙動を生じる。シルクIドメインの含有量を変化させることによって、真の圧電応答を調整することができる。さらに、バルク材料を産生する場合、シルクIドメインを含有するタンパク質を非改変シルクタンパク質と混和して、系の真の強度を増加させて、系の真の圧電特性を変更することができる。バルク材料は、真の双極子が存在するように十分に異方性に向いていなければならない。それ自身平行に自己集合する電気的ゲル化プロセスからのシルクIコンフォメーションを利用することによって、全体的な系は増加した方向性を示す。繊維を生成する場合、分子の整列を誘導するために狭い開口部からタンパク質を排出させることができる。系をゆっくり乾燥させると、最もエネルギー的に都合のよい平行な整列の助けとなりえて、系の真の双極モーメントが得られる。最初の材料を、AFM(先端が表面に当たると領域の電気的応答が測定される)によって顕微鏡レベルで検査してもよい。バルク材料に関する測定は、電気的負荷にカップリングした状態での負荷試験が含まれる多数の技術によって行われうる。このように、電気的ゲル化は、タンパク質マトリクスにおけるシルク-らせん含有量の相対比を調べて活用できる能力、機械的特性に関連する圧電特色を最適化することができる能力、および骨修復系にとって有用なバルクシステムを形成するために適した選択肢を同定できる能力を与える。
【0039】
たとえば、シルクの電気的ゲル化は、手持ち型の市販のLi-Pol電池によって達成されうることから、本発明のアプローチは、救急救命士または戦場の従軍医師などの、まず初めに応答する者にとって極めて有用でありうる。シルクゲルより容積が少ない可溶化シルクフィブロイン溶液は、水溶性で室温で安定であり、シルクゲルが必要である場合に(たとえば、創傷を覆うために)、医療従事者が電池によって操作される電場にシルク溶液の一部を曝露して、10分以内に患者に用いるために適したシルクゲルを手にすることができるように、電池およびスイッチを備えたデバイスにおいて運ばれてもよい。
【0040】
たとえば、図22を参照すると、これは、内部で電気ゲル化されたシルクを生成して、例えば生物医学型応用のために一定のストリームを送達するためのデバイスおよびハウジング(99)の1つの態様である。使用する場合、操作バルブ(12)を開いて、シルクフィブロイン溶液を含有するシルクカートリッジ(13)を挿入する。この時点で、LEDが、スタンバイシグナル(たとえば、緑色)を表示する。ユーザーがプロセスボタン(11)を押すと、これがタイミングおよびロジックボード(14)に、充電型電池でありうる電池(15)を用いて電場を生成するように誘発する。LEDは、異なる色(たとえば、赤色)を表示して、処理が進行中であることを示す。タイミングおよびロジックボード(14)はまた、ゲル化処理の時間を調節可能にモニターする。既定の時間が経過すると、LEDは色が変化して(たとえば、緑色に戻る)、ユーザーは操作バルブ(12)を閉める。ユーザーが排出ボタン(16)を押すと、水圧ポンプ(10)および水圧ドライブ(17)が嵌合してユニットの先端からシルクゲルを射出する。
【0041】
シルクゲルを所望の位置に送達するためのデバイスはまた、図23において示されるような特殊なシルクカートリッジデバイスを用いてもよい。この図において、DC電圧は電池によって供給され、シルク溶液中に浸された白金正極(23)およびバルブとしても作用する管状の陰極(21)によってシルク溶液(22)中で電場を作成する。ノズルアタッチメント(20)も示されており、これを取り外して、ノズル(20)から射出される際にシルクゲルに剪断力が適用されるようにより大きいまたはより小さい口径のノズルに交換してもよい。電気的にゲル化したシルクに、ノズルを通して選択された剪断力を適用することによって、準安定的なシルクゲルの分子コンフォメーションをたとえばシルクIからβ-シートに操作してもよく、これは排出されるシルクゲルの溶解度および機械的特性に影響を及ぼす。
【0042】
本発明のもう1つの態様は、美容外科または再建手術における医学的充填材料として用いるためのシルクフィブロインの電気的ゲル化を提供する。美容的強化に対する現在のアプローチは、顔の筋肉を麻痺させて、一時的に眉間のしわまたは小じわを消すBOTOX(登録商標)ボツリヌス毒素A(Allergan Inc., Irvine, CA)の注射を用いうる。または、COSMODERM(登録商標)コラーゲン皮膚充填剤およびCosmoplast(登録商標)コラーゲン皮膚充填剤は、「ヒトに基づく」タンパク質インプラントであり、ならびにZYDERM(登録商標)およびZYPLAST(登録商標)コラーゲンインプラントは、顔の輪郭、小じわ、およびシミをきれいにするためにFDAの承認を受けているウシ由来製品である。ヒアルロン酸などの他の材料は薄い唇および顔のしわを埋めることができる。ヒトの骨において見いだされる鉱質様材料であるヒドロキシアパタイトは、さらに深いしわを埋めることができる。加えて、脂質(脂肪)組織を患者自身の体から採収して顔の位置に注入し、そこで充填剤がしわを高めることができ、または小じわをなめらかにすることができる。罹患領域における組織の切除を必要とする一定の外傷または疾患は、充填を必要とする欠損または空隙を残す可能性がある。たとえば、乳房切除術によって、胸部に大きい空隙空間ができるが、これは、切除された乳房の場所の上に皮膚のひだを縫合することによって、またはインプラントもしくは患者から採集した脂質(脂肪)組織によって胸部を再度埋めることによって除きうるであろう。血管再生の欠如により、移植体積の低減が問題となりうる。乳房再建のための脂肪組織に対する組織工学アプローチが追求されている。PLGAなどの多孔性ポリマーフォームを前脂肪細胞に播種すると、脂肪組織形成を生じる。これらの材料は堅すぎて患者を不快にすると考えられている。アルギン酸塩およびヒアルロン酸ハイドロゲルなどの材料の注入も同様に調べられている。Patrick, 19 Seminars Surgical Oncol. 302-11 (2000)。
【0043】
電気的にゲル化したシルクは、美容外科および再建手術の双方において役立ちうる。シルクハイドロゲルは、特定の応用のために望ましい特性を有するように容易に調整される。たとえば、乳房再建の場合、柔らかいシルクゲルの注入は、埋込PLGAに関して報告されているよりも患者にとって高レベルの快適さを提供する可能性がある。細胞播種シルク由来ゲルが生きている工学操作組織に分化できることが証明されたことは、多くの外科的応用にとって魅力的である。シルクの電気的ゲル化に基づいて迅速なプロトタイプ作成能を開発することができれば、おそらく術前に患者から走査された3D画像を用いて、3D組織工学操作足場構造を生成することができる。公知の組織工学操作戦略を適用すると、播種した細胞は、脂肪組織に分化して、患者の自然の乳房の幾何学形状にマッチする幾何学形状と長期間の安定性の双方を提供する可能性がある。
【0044】
言及したように、電気的にゲル化したシルクを、少なくとも1つの物質のシルクゲルへの封入を可能にするように改変してもよい。物質は、電場を生成するためにシルク溶液に電圧を印加する前、あいだ、または直後にシルクフィブロイン溶液に導入されてもよい。いくつかの物質は、電圧または電流によって有害な影響を受ける可能性があり、ゆえに電場の印加後までシルクフィブロイン溶液に導入されてはならない。たとえば、電流の印加は、印加された電圧および電流の程度に応じて、生細胞に損傷を与えるまたは破壊する可能性がある。よって、電気的にゲル化したシルクに物質を封入する技法および条件には注意を払い、たとえば物質は電場の印加直後にシルク溶液に導入されうる。
【0045】
電気的にゲル化したシルクに封入される物質は、シルクゲルに封入することができる任意の物質でありうる。たとえば、物質は、細胞(幹細胞が含まれる)、タンパク質、ペプチド、核酸(DNA、RNA、siRNA)、核酸アナログ、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたは配列、ペプチド核酸、アプタマー、抗体、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組み換え型増殖因子ならびにその断片および変種、サイトカインまたは酵素、抗生物質、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬物、ならびにその組み合わせなどの治療物質または生物学的材料でありうる。電気的ゲル化シルクに封入するために適した例示的な物質には、細胞(幹細胞が含まれる)、エリスロポエチン(EPO)、YIGSRペプチド、グリコサミノグリカン(GAG)、ヒアルロン酸(HA)、インテグリン、セレクチン、およびカドヘリン;鎮痛薬および鎮痛薬の組み合わせ;ステロイド;抗生物質;インスリン;インターフェロンαおよびγ;インターロイキン;アデノシン;化学療法剤(たとえば、抗癌剤);腫瘍壊死因子αおよびβ;抗体;RGDまたはインテグリンなどの細胞接着メディエータ、または他の天然に由来するもしくは遺伝子操作されたタンパク質、多糖類、糖タンパク質、細胞毒、プロドラッグ、免疫原、またはリポタンパク質が含まれる。
【0046】
1つまたは複数の物質を電気的ゲル化シルクに封入してもよい。例として、細胞などの生物材料を封入する場合、物質の生長を促進するために、それが封入から解放された後の物質の機能性を促進するために、または封入期間のあいだ物質が生存するまたはその効能を保持する能力を増加させるために他の材料を添加することが望ましい可能性がある。細胞の生育を促進することが知られている例示的な材料には、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)などの細胞増殖培地、ウシ胎児血清(FBS)、非必須アミノ酸および抗生物質、ならびに線維芽細胞増殖因子(たとえば、FGF 1〜9)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF-IおよびIGF-II)、骨形態形成増殖因子(たとえば、BMP 1〜7)、骨形態形成様タンパク質(たとえば、GFD-5、GFD-7、およびGFD-8)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-α、TGF-βI〜III)、神経生長因子、および関連タンパク質などの増殖因子および形態形成因子が含まれるが、これらに限定されるわけではない。増殖因子は、当技術分野において公知であり、たとえば、Rosen & Thies, CELLULAR & MOL. BASIS BONE FORMATION & REPAIR(R.G. Landes Co.)を参照されたい。シルクゲルに封入される追加的な材料には、DNA、siRNA、アンチセンス、プラスミド、リポソーム、および遺伝材料を送達するための関連系;活性な細胞シグナル伝達カスケードに対するペプチドおよびタンパク質;細胞からの無機質化または関連事象を促進するためのペプチドおよびタンパク質;ゲル-組織界面を改善するための接着ペプチドおよびタンパク質;抗菌ペプチド;ならびにタンパク質および関連化合物が含まれうる。
【0047】
生物活性物質を封入する電気的ゲル化シルクは、制御放出での活性物質の送達を可能にする。電気的ゲル化シルク調製プロセスを通して活性状態で生物活性物質を維持することによって、シルクゲルからの放出の際に生物活性物質は活性でありうる。活性物質の制御放出により、活性物質は、制御放出速度で経時的に持続的に放出される。いくつかの例において、生物活性物質は、処置が必要である部位に連続的に、たとえば数週間にわたって送達される。たとえば一定期間の制御放出、たとえば数日間、または数週間、またはそれより長い放出により、好ましい処置を得るために、生物活性物質の連続的送達が可能である。制御送達ビヒクルは、それが体液および組織において、たとえばプロテアーゼによるインビボでの生物活性物質の分解を防止することから、有利である。
【0048】
電気的ゲル化シルクからの活性物質の制御放出は、たとえば12時間または24時間のあいだに起こるように設計されうる。放出時間は、たとえば約12時間〜約24時間;約12時間〜42時間;またはたとえば約12〜72時間の期間起こるように選択されてもよい。もう1つの態様において、放出はたとえば、約1日〜15日の程度で起こってもよい。制御された放出時間は、処置される状態に基づいて選択されうる。たとえば、創傷治癒の場合にはより長い期間がより有効である可能性があるが、いくつかの心血管応用の場合にはより短い送達時間がより有用である可能性がある。
【0049】
インビボでの電気的ゲル化シルクからの活性物質の制御放出は、たとえば約1 ng〜1 mg/日の量で起こってもよい。他の態様において、制御放出は、約50 ng〜500 ng/日の量で起こってもよく、またはもう1つの態様において、約100 ng/日の量で起こってもよい。たとえば治療応用に応じて、治療物質10 ng〜1 mg、または約1μg〜500μg、または約10μg〜100μgが含まれる治療物質および担体を含む送達系を処方してもよい。
【0050】
生物活性物質を封入した電気的ゲル化シルクを含有する薬学的製剤を調製してもよい。生物活性物質は、先に記述された1つまたは複数の活性物質でありうる。製剤は、電気的ゲル化シルクに封入されている特定の生物活性物質を必要とする患者に投与されうる。
【0051】
薬学的製剤はまた、公知の賦形剤などの他の薬学的製剤において見いだされる一般的な成分を含有してもよい。例示的な賦形剤には、望ましい特定の投与剤形にとってふさわしいように、希釈剤、溶媒、緩衝剤、または他の液体ビヒクル、溶解剤、分散または懸濁剤、等張物質、粘度制御剤、結合剤、潤滑剤、界面活性剤、保存剤、安定化剤等が含まれてもよい。製剤にはまた、増量剤、キレート剤、および抗酸化剤が含まれてもよい。非経口製剤を用いる場合、製剤には、追加的にまたは代替的に、糖、アミノ酸、または電解質が含まれてもよい。
【0052】
薬学的に許容される担体として役立ちうる材料のいくつかの例には、乳糖、グルコース、およびスクロースなどの糖;コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、および大豆油などの油;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの非毒性の適合性の潤滑剤;トレハロース、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどの、たとえば分子量約70,000 kD未満のポリオールが含まれるが、これらに限定されるわけではない。たとえば、その開示が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,589,167号を参照されたい。例示的な界面活性剤には、Tween界面活性剤、ポリソルベート20または80などのポリソルベート等、およびポロキサマー184または188などのポロキサマー、Pluronicポリオールおよび他のエチレン/ポリプロピレンブロックポリマー等などの非イオン性界面活性剤が含まれる。適した緩衝剤には、Tris、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、またはヒスチジン緩衝液が含まれる。適した保存剤には、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが含まれる。他の添加剤には、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、およびゼラチンが含まれる。適した安定化剤には、ヘパリン、ポリ硫酸ペントサン、および他のヘパリノイド、ならびにマグネシウムおよび亜鉛などの二価の陽イオンが含まれる。着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、香料および着香料、保存剤、および抗酸化剤も同様に、処方者の判断に従って組成物に存在しうる。
【0053】
薬学的製剤は、局所適用、経口、眼内、鼻腔内、経皮、または非経口(静脈内、腹腔内、筋肉内、および皮下注射のみならず、鼻腔内または吸入投与)、および埋め込みが含まれる当技術分野において公知の多様な経路によって投与されうる。送達は、全身性、限局的、または局所であってもよい。加えて、送達は、髄腔内、たとえばCNS送達であってもよい。
【0054】
薬学的製剤は、公知の賦形剤などの他の薬学的製剤において見いだされる一般的な成分を含有してもよい。例示的な賦形剤には、望ましい特定の投与剤形にとってふさわしいように、希釈剤、溶媒、緩衝剤、または他の液体ビヒクル、溶解剤、分散または懸濁剤、等張物質、粘度調節剤、結合剤、潤滑剤、界面活性剤、保存剤、安定化剤等が含まれる。製剤にはまた、増量剤、キレート剤、および抗酸化剤が含まれてもよい。非経口製剤を用いる場合、製剤には、追加的にまたは代替的に、糖、アミノ酸、または電解質が含まれる。
【0055】
薬学的に許容される担体として役立ちうる材料のいくつかの例には、乳糖、グルコース、およびスクロースなどの糖;コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、および大豆油などの油;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの非毒性の適合性の潤滑剤;トレハロース、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどの、たとえば分子量約70,000 kD未満のポリオールが含まれるが、これらに限定されるわけではない。たとえば、米国特許第5,589,167号を参照されたい。例示的な界面活性剤には、Tween界面活性剤、ポリソルベート20または80等などのポリソルベート、およびポロキサマー184または188などのポロキサマー、Pluronicポリオールおよび他のエチレン/ポリプロピレンブロックポリマー等などの非イオン性界面活性剤が含まれる。適した緩衝剤には、Tris、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、またはヒスチジン緩衝液が含まれる。適した保存剤には、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが含まれる。他の添加剤には、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、およびゼラチンが含まれる。適した安定化剤には、ヘパリン、ポリ硫酸ペントサン、および他のヘパリノイド、ならびにマグネシウムおよび亜鉛などの二価の陽イオンが含まれる。着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、香料および着香料、保存剤、ならびに抗酸化剤も同様に、処方者の判断に従って組成物に存在しうる。
【0056】
治療物質を封入した電気的ゲル化シルクを含有する薬学的製剤は、治療物質の一部が一定期間のあいだに患者に放出されるように制御放出様式で投与されうる。治療物質は、急速または徐々に放出されてもよい。例として、薬学的製剤は、治療物質の約5%未満が1ヶ月のあいだに電気的ゲル化シルクから患者に放出されるように投与されうる。または、治療物質のより多くの部分が最初に放出されてもよく、より少ない部分がシルクゲルに保持されて、後に放出されてもよい。たとえば、薬学的製剤は、治療物質の少なくとも5%が投与後10日目にシルクに留まるように投与されうる。
【0057】
電気的ゲル化シルクは、多様な分野において有用である様々な他の活性物質を封入してもよい。例として、活性物質は酵素または酵素に基づく電極であってもよい。酵素または酵素に基づく電極は、組織工学、バイオセンサー、食品産業、環境制御、または生物医学応用の分野において用いられうる。この系はまた、ビタミン、栄養分、抗酸化剤、および他の添加剤を有するように食品産業において;環境修復または水の処置のための微生物を有するように環境分野において;材料不全および材料の自己修復の非破壊的評価のためなどのインサイチュー検出および修復成分源として役立つように添加剤として材料において;ならびに細胞、分子、および関連する系を安定化させるために役立つように生物学的検出スキームのためなどの、多様な要求のためのリザーバーとして用いられうる。
【0058】
本明細書において記されるように、シルクフィブロインゲルは食用であり、香味をつけてもよい。よって、ビタミン、栄養補助食品、または他の薬剤の香味付きシルクゲル製剤を小児での使用のために製造しうる。ゲルは、予め形成されて包装されてもよく、または成人の監督下で事務所または家庭でゲルを作成する適したディスペンサー中の溶液として調製されてもよい。
【0059】
本発明のもう1つの態様は、組織、再生組織、医学的デバイス、および医学的インプラント上の生分解性および生体適合性のコーティングとして用いるための電気的ゲル化シルクを提供する。生分解性および生体適合性のインプラントコーティングは、望ましい薬物(たとえば、抗炎症薬または増殖因子)をインプラントの周辺組織に連続的に溶出できることから臨床的に重要である。このように、静脈内送達などのさらなる薬物送達法が回避されうる。インプラントまたはデバイスコーティングに薬物を包埋することによって、薬物は標的部位でより高用量で濃縮されて、生物全体にはあまり広がらない。
【0060】
PLAまたはPGA被膜などの現在の生分解性で生体適合性のインプラントコーティングは、組み入れられた薬物の活性に障害を与えうる高い処理温度または過酷な条件を伴う。加えて、従来のコーティング技術およびコーティング材料の制限のために、従来の分解性のインプラントコーティングは、単純なインプラント型に限って応用可能であり、内部構成またはアンダーカット(undercut)を有するインプラントなどの複雑なインプラント幾何学構造のコーティングには適していない。しかし、現代の進んだ生体力学的設計によって、歯の埋め込み技術、外傷学、整形外科、および心血管応用などの生物医学分野において用いられるインプラント形状はしばしば複雑となる。このゆえに、脊椎ケージ(spine cage)、冠動脈ステント、歯科用インプラント、または股関節および膝人工補綴物などの複雑なインプラントの設計にとって、新しいタイプの生分解性で生体適合性のインプラントコーティング材料および技術が必要である。
【0061】
電気的ゲル化は、白金ワイヤ電極から嵌め合い金属板までの広範囲の電極材料および幾何学を用いて、シルクによってコーティングされうる組織(インビトロまたはインビボ)に適用されうることから、電気的ゲル化は、他の医学デバイスコーティング技術に対して優れうる。このゆえに、本発明に従うシルクe-ゲル(本明細書において定義されるシルクe-ゲルは、電気的ゲル化シルクゲルを指す)は、組織または多様な医学的デバイスおよび医学的インプラント上の薄膜コーティングまたはバルクコーティングとして用いられうる。
【0062】
本明細書におけるシルクe-ゲルコーティング技術は、本発明の態様において記述されるシルク電気的ゲル化プロセスを使用する。シルクe-ゲルコーティングプロセスに関する単純な例において、電気エネルギーを印加することによって、シルクフィブロイン水溶液を局所的にゲル様状態にすることができる。インプラントなどの医学的デバイスは、正の電極(たとえば、インプラントまたはデバイスは回路の正の電極に接続される)として実際に用いられ、コーティングされることが望ましいデバイスの全ての表面が溶液に接触するまでシルク水溶液に浸される。適当な電圧および電流(たとえば、U=25 V、I=10 mA)を印加すると、正の電極(デバイス)周囲のシルク水溶液はほぼ直後にゲル様構造に変化して(いわゆるe-ゲル効果)、ゲル様構造は、電子回路が開かれるまで、デバイスの溶液接触表面(複雑な幾何学構造の外部表面または内部表面のいずれか)から周辺のシルク溶液へと生長する。e-ゲル効果は、シルク溶液中に挿入された任意の基質(たとえば、組織または医学用デバイス)に適用することができ、基質上に均一な生分解性で生体適合性のシルクe-ゲルコーティングを生じることができる。
【0063】
シルクe-ゲルコーティングは、バルクゲルコーティングの形状または薄膜コーティングのいずれかの形状であってもよい。たとえば、上記の電気的ゲル化プロセスは、基質の表面において成長する均一なバルクシルクe-ゲルコーティングを生じることができる。任意で、シルクe-ゲルコーティングされた基質を、安定なβ-シートコンフォメーションを達成するために脱水処置法によってさらに処置してもよい。脱水処置とは、シルクe-ゲルコーティング基質を空気中で乾燥させること、または窒素ガスなどの脱水ガスもしくはメタノールなどの脱水溶媒の流れにシルクe-ゲルコーティング基質を曝露することを指しうる。たとえば、シルクe-ゲルコーティングを乾燥させると、水の蒸発を誘導して、シルクe-ゲルコーティングを基質上で機械的に安定なシルク薄膜に変換することができる。
【0064】
図32Aは、記述した直接電気的ゲル化技術によって、シルクe-ゲルによってコーティングされたStraumann(登録商標)歯科用インプラント(BL RC、φ4.1 mm、10 mm SLActive(登録商標)、Straumann, Basel, Switzerland)を例証する。歯科用インプラント480を正の電極として用いて、約4.5%シルク溶液の中に挿入する。25 Vの電圧電位を、電流10 mAで10秒間歯科用インプラント480に印加した。均一なシルクe-ゲル485が歯科用インプラント480上に形成される。図32Aにおいて示されるシルクe-ゲルコーティング歯科用インプラント480を、室温で2時間乾燥させて、e-ゲル中の水を蒸発させる。その後シルクe-ゲルは縮み、図32Bにおいて示されるように機械的に安定なシルク薄膜489を形成する。
【0065】
電気的ゲル化シルクのコーティングのための基質には、任意の数の組織または再生組織材料または医学的デバイスおよびインプラントのみならず、診断および/または治療および/または外科目的のためにおよびその適切な応用のために、単独または組み合わせて用いられる任意の機器、装置、器具、材料、または他の商品が含まれてもよい。たとえば、細胞増殖因子を含有するシルクe-ゲルコーティングを、熱傷創傷治癒を促進するためにインビボで皮膚組織に適用してもよい。例示的な医学的デバイスおよびインプラントには、歯科用充填材料、歯科用人工補綴デバイス(たとえば、歯冠、ブリッジ、取り外し可能な義歯)、歯科用インプラント(たとえば、骨組み込みインプラント)、および矯正装置(たとえば、歯科用固定具または保定装置)などの歯科応用におけるデバイスおよびインプラント;骨充填材料、関節形成デバイス(たとえば、股関節および膝人工補綴物)、整形外科インプラント(たとえば、股関節、膝、肩、および肘の人工補綴物、骨セメント、人工関節補綴成分)、顎顔面インプラントおよびデバイス(たとえば、頭蓋、顔、および顎人工補綴物)、脊椎デバイスまたはインプラント(たとえば、脊髄、脊柱、脊椎ケージ)、骨および/または関節成分を固定するための骨接合デバイスおよび機器(たとえば、釘、ワイヤ、ピン、プレート、ロッド、ワイヤ、ねじ、または他の固定具)などの整形外科応用におけるデバイスおよびインプラント;創傷治癒デバイスまたはインプラント(皮膚、骨、および血管創傷移植片およびパッチ、縫合糸、血管創傷修復デバイス、止血包帯)などの外傷応用におけるデバイスおよびインプラント;人工血管補綴物、ステント、カテーテル、血管移植片、心臓弁およびペースメーカーなどの心血管デバイスおよびインプラント;コーティングしたプローブを有するアルゴン強化凝固デバイスなどの凝固デバイス;埋め込み可能な人工臓器(たとえば、人工心臓、肝臓、腎臓、肺、脳ペースメーカー等);またはオクルダー、フィルター、ねじ、ボルト、ナット、ピン、プレート、ギア、スリーブベアリング、ワッシャー、アンカー(縫合および/または腱固定のため)、プラグ、釘等などの他の小さい埋め込み材料が含まれる。加えて、メス、鉗子、へら、キュレット、ステオトーム、ノミ、切骨器、抜去器等などの医学用器具をシルクe-ゲルによってコーティングしてもよく、さらに患者の転帰に効果を表すように、抗生物質または抗凝固剤などの活性物質をシルクe-ゲルコーティングに包埋してもよい。同様に、獣医学インプラント、デバイスおよび機器にもまた、本発明に従ってシルクフィブロインゲルを含ませうる。
【0066】
電気的ゲル化シルクをコーティングするための基質は、電気的ゲル化プロセスを通してシルクゲルによってコーティングされるために適した任意の材料でありうる。たとえば、基質は、金属、合金、導電性ポリマー、もしくはセラミクス、またはその組み合わせなどの導電性材料であってもよい。デバイスおよびインプラントを生成するための例示的な金属または合金には、パラジウム、チタン、金、白金、銀、ニオビウム、ステンレススチール、ニッケル、スズ、銅、タンタルまたはその合金、コバルト-クロム合金、またはVitallium(CoCrMo合金)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。デバイスおよびインプラントを生成するための例示的なポリマーには、シリコン(乳房人工補綴物、ペースメーカーリード)、ポリウレタン(ペースメーカー成分)、ポリメタクリレート(歯科用人工補綴物、骨セメント)、ポリ(エチレンテレフタレート)(血管移植片、心臓弁縫合環、縫合糸)、ポリプロピレン(縫合糸)、ポリエチレン(人工関節補綴成分)、ポリテトラフルオロエチレン(人工血管補綴物)、ポリアミド(縫合糸)ならびにポリラクチドおよびポリ(グリコール酸)(生体吸収性剤、bioresorbable)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。デバイスおよびインプラントを製造するための例示的なセラミック材料には、関節置換物および歯科用人工補綴物において一般的に用いられる金属酸化物(アルミナ、ジルコニア)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。リン酸カルシウムに基づく材料(骨充填剤)および熱分解炭素に基づく材料(心臓弁)などの他の材料も同様に、シルクe-ゲルコーティングのための基質として用いられうる。
【0067】
任意で、1つまたは複数の活性物質を、機能的コーティングとして用いられるシルクe-ゲルコーティングの中に包埋してもよい。または、活性物質を、予め形成されたシルクe-ゲルコーティングの上に負荷することができる。予め形成されたシルクe-ゲルコーティングは、活性物質を含有してもしなくてもよく、予め形成されたシルクe-ゲルコーティングにおける活性物質は、予め形成されたシルクe-ゲルコーティングの上に負荷される活性物質と同じであってもよく、同じでなくてもよい。または、活性物質は、電気的ゲル化プロセスの前に第一層コーティングとして基質上にコーティングされてもよく、その後活性物質をコーティングした基質上にシルクe-ゲル層をコーティングしてもよい。そうすれば、シルクe-ゲルが分解するまで活性物質は放出されないであろう。活性物質は、液体、薬物粒子などの細かく粉砕された固体、または他の任意の適当な物理的形状として存在しうる。
【0068】
活性物質は、上記の物質などの治療物質または生物学的材料でありうる。組織または医学的デバイスを本発明のシルクフィブロインゲルによってコーティングすることによって、組織またはデバイスはさらに、同様にコーティングされていない組織またはデバイスよりさらなる恩典を提供する可能性がある。たとえば、熱傷の創傷治癒を促進するために、少なくとも1つの細胞増殖因子(たとえば、上皮細胞増殖因子)を含有するシルクe-ゲルコーティングによって、創傷を受けた皮膚組織をコーティングしてもよい。創傷を受けたシルク組織のそのようなシルクe-ゲルコーティングプロセスは、創傷の上皮を再形成するように細胞を刺激するためにインビボで行われてもよい。または、シルクe-ゲルコーティングプロセスはまた、その後に埋め込まれる組織または再生組織上でインビトロで行われてもよい。もう1つの例において、インプラントは、抗生物質または抗炎症薬を含有するシルクe-ゲルによってコーティングされてもよい。埋め込まれると、ゲルが溶解して、抗生物質または抗炎症薬が切開部またはインプラント領域の可能な限り近傍で放出され、最低限の手術部位感染率を達成可能である。加えて、薬物包埋シルクe-ゲルコーティング医学的デバイスまたはインプラントは、適切な治療濃度を維持するために薬物を頻繁に投与する必要性を低減させる可能性がある。
【0069】
電気的ゲル化は本明細書において可逆的であることが示されている。簡単に表現すると、電気的ゲル化は、DC電圧によって電場を印加することによって、可溶化されたランダムコイルシルク溶液を有意なシルクI含有量を有するゲルに変換する段階を伴う。DC電圧を逆転させると(電極の極性の逆転)、シルクゲルは、ランダムコイルコンフォメーションに戻るように変換する傾向がある。実際に、逆転プロセスを、ほぼ完了するまで駆動してもよく、電気的ゲル化/逆転プロセスを何回も繰り返すことができる。重要なことには、シルク材料の性質は、ゲル状態から液体シルク溶液状態に交互する場合に劇的に変化する。ゲルは非常に粘着性で、濃厚で粘液様の粘ちゅう度を有する。液体シルク溶液は、全く粘着性ではなく、ゲルと比較して非常に低い粘度を有する。ゆえに、電気的ゲル化シルクは、カタツムリおよびナメクジが移動のためにおよび様々な表面に自身を固定するために利用する粘液分泌と類似の活性なシルク粘液接着剤として用いられうる。
【0070】
他の材料は、外部エネルギーまたは場(field)を加えるまたは減ずることに基づいて剛性または粘ちゅう度を変化させる能力を示す。たとえば、一般的に「高性能流体」として知られるクラスの流体は、電場または磁場の存在下で特性を変化させうる。典型的に、流体の粘度は、印加された場の存在および/または強度によって改変される。加えて、磁気-レオロジー流体は、磁場の存在下で整列する磁気粒子の浮遊液を含有する。流体粘度は整列により有効に増加する。電気-レオロジー流体は、絶縁流体に浮遊される非伝導性粒子からなる。流体の粘度は電場の存在下で劇的に変化しうる。さらに、熱応答性ポリマーは、温度変化によって溶解状態およびサイズなどの材料特性の変化を示しうる。
【0071】
本発明のもう1つの局面は、粘液接着剤に関する。典型的にはポリマーであるこれらの材料は、ハイドロゲル、被膜、ミクロスフェア、スポンジ、錠剤、またはマイクロタブレットとして調製されうる。湿った表面が含まれる多数の表面に対する優れた接着能のために、1つの適用領域は、制御された局所薬物送達である。MUCOAD(商標)(非毒性で非刺激性の液体粘液接着剤担体、Strategic Pharmaceuticals Co., Washington, DC)は、ヒプロメロース[ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)]ポリマーに基づく。この製品は粘膜に対して高い親和性を有するようであり、薬物と粘膜組織のあいだの接触時間を延長させる。これは、鼻腔内、眼内(たとえば、ドライアイを軽減するために役立つ)、膣内、および直腸内応用の可能性を有する。
【0072】
さらに、結腸鏡検査を行うために粘液接着剤の摩擦を用いる生物型ロボットが開発されている。結腸内でカタツムリ様の運動を促進するためにバルーン様アクチュエータを用いる場合、生物ロボットの設計は、ロボット-結腸界面で正確な量の摩擦および/または接着を提供する材料を用いることに依存する。この応用は、アクリル酸の高分子量架橋ポリマーであるCARBOPOL(登録商標)架橋アクリル酸骨格ポリマー(NOVEON(登録商標)Consumer Specialties, Wickliffe, OH)として知られる固体の粘液接着被膜を使用する。この材料は、急速に形成する物理的結合によって粘液に接着することができる。CARBOPOL(登録商標)ポリマーは、テープ形状で用いられてブタの結腸に首尾よく接着することができるが、剪断による損傷のためにテープは1回限りの応用に限定される。このように、ロボットの段階毎に新しいテープの分配を必要とした(Dodou et al., Proc. 12th Int'l Conf Adv. Robotics 352-59 (Seattle, WA, 2005))。摩擦力を克服するために水を導入することができ、それによってテープが外れる。Dadou et al., 15(5) Minimally Invasive Therapy 286-95 (2006)。
【0073】
制御された薬物送達系が利用可能であり、有意な進歩がなされているが、生理的必要性に正確に適合するように薬物を投与する系のかなりの必要性がなおも存在する。その上、ペプチドおよびタンパク質薬を送達するためのツールが必要である。ハイドロゲルは薬物送達系において用いられており、薬物を保護して、外部刺激によって駆動されるゲル構造の変化を通して薬物の放出制御を可能にする。ハイドロゲルに影響を及ぼす刺激には、温度、電場、溶媒の組成、光、圧力、音、磁場、pHおよびイオンの導入が含まれる。ポリ(N-イソ-プロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)およびポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)(PDEAAm)などの温度感受性のポリマーが広く用いられている。ポリ(プロピレンオキサイド)PPOおよびポリ(エチレンオキサイド)PEOブロックコポリマーは、体温でのゾルゲル変換に基づく薬物送達制御において用いられている(たとえば、PLURONICS(登録商標)ブロックコポリマー、BASF)。
【0074】
もう1つのクラスの刺激感受性ハイドロゲルは、電気感受性ハイドロゲルである。そのようなハイドロゲルは典型的にpH感受性でもあるが、通常、多価電解質で構成され、印加電場の存在下で収縮または膨張する。そのような材料は薬物送達に適用されている。たとえば、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸-コ-n-ブチルメタクリレート)のハイドロゲルは、蒸留脱イオン水において電流を用いて塩化エドロホニウムおよびヒドロコルチゾンを拍動的に放出するために用いられた。電場はまた、ポリ(エチルオキサゾリン)-PMA複合体から作成されるハイドロゲルの生理食塩液中での腐食を制御するためにも用いられている。典型的に、これらのハイドロゲルはまた、外部電場によって作動されうる。制限の1つは、電解質中での応答、言い換えれば、生理的条件下での応答を達成することが難しい点である。Oui & Park, 53 Adv. Drug Deliv. Rev. 321-39 (2001)。化学的に架橋されたヒアルロン酸(HA)ハイドロゲルも同様に電気感受性であることが示されている。電場を用いて、陰性荷電高分子の拍動的放出が達成されうる。Tomer et. al., 33 J. Contr. Release 405-13 (1995)。
【0075】
シルクの用途が広いこと、ならびに異なる形状、コンフォメーション、および処理技術を利用できることは、可能性がある豊富な応用領域を広げる。図39は、処理の戦略、予想される特性、および可能性がある応用領域の簡単な概要を提供する。処理技術を連続して行ってもよいことに注意されたい。「Egel」と表示されるプロセスは、本明細書において記述される電気的ゲル化プロセスである。超音波発生装置によって生成される高い強度のエネルギーまたは電動歯ブラシ型アクチュエータによって生成される低い強度のエネルギーの形で、振動を適用することができる。剪断力は、実地操作を通して材料を引っ張ることによって、または開口部を通してそれを排出すること(流れによって誘導される剪断、flow-induced shear)によって提供されうる。室温でのプロセスはゆっくりとした乾燥を提供するが、乾燥器を用いて急速な乾燥をもたらしてもよい。これは、網羅的な一覧であることを意味するのではなく、電気的ゲル化プロセスに関する前後関係を提供することを意味することに注意すべきである。pH改変、メタノール処理、および水焼き鈍しなどの他の処理技術も同様に、所望のシルクの成果を達成するために用いられる。
【0076】
シルクおよびシルクに基づく材料について行う実験の結果および経験に基づいて、本明細書において記述される活性なシルク粘液接着剤に関して、ロボット応用(非生物医学)および生物医学応用が含まれる、可能性がある多くの応用が存在することは明らかである。
【0077】
ロボティクス領域において、非常に粘着性から非粘着性へと移行することができる材料に関して多くの応用が存在する。軍および警察の監視から爆発物の配置に及ぶ応用のみならず、グリーンケミストリー接着剤および関連応用に関して、壁および天井を上るロボットが追求されている。活性なシルク粘液接着剤は、壁および天井に対する接着制御の提供に関して直接応用を有するであろう。電気的ゲル化を通して作成された接着剤ゲルの特性は、カタツムリ(たとえば、テャオビエスカルゴ(Helix lucorum))が生成する粘液を模倣するようである。これらカタツムリは、下面から粘液を押し出して、粘液性の道を作り、その上を這う。加えて、これらの動物は、自身を葉、岩、または他の表面に固定する場合には、わずかにより接着性の高い粘液を押し出す。カタツムリにおいて、移動は、その筋肉の足(下面)での波状応答を通して達成される。その足の後部が前方を押し動かして、粘液中を滑動する。停止する場合、足がその場に接着する。接着した部分の前の足の部分が粘液中で前方に滑動する。このようにして、カタツムリまたはナメクジは、粘液の道に沿って前方に動く。
【0078】
この移動法は、シルク粘液接着剤が2つの方法で利用されうる、すなわちロボットがそれに沿って這うことができる粘着性の粘液を提供する、および接着固定系として利用されうることから、シルク粘液接着剤を用いて容易に利用される可能性がある。この応用は、ゲル化の逆転を利用する必要はない。言い換えれば、接着剤は活性である必要はない。第二の型の移動は、活性な接着剤を用いることによって達成されうる。たとえば、個々のロボットの「足」は、小さいディスペンサーと電気的ゲル化コイルとを含有しうる。ロボットが壁または天井に接着する必要がある場合、シルク溶液を適当なディスペンサーを通して排出して、電気的ゲル化を通してゲルに変換することができる。足を壁から外す必要がある場合、逆の電気的ゲル化がゲルを液体に戻すように変換して、接着を消失させる。
【0079】
監視応用では、その場に長期間留まることが重要でありうる。同様に、搭載しているエネルギーがこの期間のあいだ位置を維持するために消耗されないことも重要である。シルク粘液接着剤は、ロボットまたは他のデバイスを長期間にわたって様々な表面に固定するために用いられうる。電気的ゲル化シルクゲルは、逆の電気的ゲル化または適用された力が接着の破壊を引き起こしても、一時的に物体に接着することができる。これはまた、長期間の接着のためにも用いられうる。物体は、エネルギーを消費することなく、数日間およびおそらく数週間、塗装された壁表面に接着できることが示されている。制限因子はおそらく、シルク材料が分解するまでの期間である。ロボティクスにおけるもう1つの応用領域は、ペイロードに関してである。ロボットのミッションは、監視のためにカメラ、アンテナ、または他のデバイスを送達することでありうる。シルク粘液接着剤は、短期間または長期間の監視のために、壁に任意のそのようなデバイスを固定するために用いられうる。1つの戦略は、ロボットに、細いワイヤが包埋されている電気的ゲル化シルクの一定のストリームを排出させることでありうる。ワイヤは粘液接着性のために壁に接着して、アンテナとして作用するであろう。
【0080】
活性なシルク粘液接着剤は、これまで十分に調査されてこなかったロボットのミッションの範囲を広げる。基本的にカタツムリの粘液に依存する動きに基づく小さいサイズのカタツムリ様ロボットを構築することができる。カタツムリと同様に、シルク粘液接着剤は、ロボットカタツムリを滑面から粗面までの多様な表面に接着させることができる。表面のタイプには、例を挙げれば、ガラス、アクリル、木、塗装された壁、セメント、岩、汚れて埃の多い表面が含まれうる。そのようなロボットは、流体の存在下であってもパイプの内外を検査するために用いられうる;火災の強さおよび存在を検出するために森林領域において用いられうる;壊れた家または鉱山などの人命救助の状況において役立つ;竜巻のような過酷な天候の際のデータを採取するためにビルの表面または木もしくは岩などの様々な天然の表面において利用されうる;絶滅危惧動物を追跡するために動物保護区において展開されうる;または試験を行うために一時的に動物に取り付けられうる。警察または他の人命救助サービスは、ロボットのミニチュア版を壁または道路標識に投げて、無線ビデオ供給などの一時的な情報獲得法を提供することができるであろう。
【0081】
このアプローチを用いて、シルク粘液接着剤を用いて、サーベイランスプラットフォームを壁に接着させた。プラットフォームは、リモートコントローラーを用いてカメラを動力ピボット上で移動させながら、ラップトップコンピュータに生の映像を流す無線ビデオカメラを含有した。コントローラはまた、ゲル化逆転の制御を提供するためにも用いられ、これによりプラットフォームは重力によって表面の下に送られた。シルク粘液接着剤が水中表面に接着できる独自の能力により、本発明に従うシルク粘液接着剤を用いるロボットは、多くの水中でのミッション:オイルプラットフォームおよび他の水中構造の検査;監視および通信傍受のためのボートおよび潜水艦に対する隠しアタッチメント;ならびに川床および水床の調査、を行うことができる。おそらく、水泳ロボットは、船を発見するために音または温度センサーなどのホーミングデバイスを用いて、次に電気的ゲル化を通じて接着することができ;修復または偵察ミッションを行うことができるであろう。より期間の長いミッションに適合させるために、高いpHで維持されるシルク溶液を機上保管庫に載せることができ、より高いpHはシルクのより長い貯蔵寿命を延長させる。
【0082】
加えて、活性なシルク粘液接着剤に関して広範囲の生物医学的応用が存在する。カタツムリ様ロボットを作成するための夥しい可能性を考慮して、医学的診断または処置のために生物医学バージョンを作成することができる。例として、ミニチュア版は嚥下または小さい切開部を通しての挿入のいずれかによって体内に入ることができる。生物医学ロボットは、接着移動を通して臓器の中、上、または周囲を動くことができる。湿った表面に接着できることから、ロボットを、損傷または疾患部位の近傍に配置することができる。センサーまたはカメラを用いて、医療職員に重要な情報を中継することができる。ロボット内部に貯蔵されるシルクゲルを、損傷部位に沈着させて、最初の一時的修復を提供することができる。ゲルは、治癒を促進するために薬物、増殖因子、抗生物質、または他の生物活性成分を含有することができる。振動の適用または治療超音波の使用などの他の機能と共に、ゲルパッチ(シルクIコンフォメーション)をβ-シートコンフォメーションに操作することができる。この形状において、パッチはかなり強く、水に不溶性である。これによって、パッチはより長い持続期間を有することができる。材料はまた、熱傷、創傷、または体外の他の位置で用いることができる。体内での応用と同様に、治癒を改善するために生物活性成分を組み入れることができ、材料は鎮静を与え、感染症および汚染に対する保護を補助することができる。もう1つの生物医学応用において、シルク粘液接着剤はまた、丸剤または他の薬物放出製品を様々な組織の粘膜層に固定するためにも用いられうる。これは薬物の徐放性送達能を提供する。
【0083】
シルク粘液接着剤は、ロボットの設計において有用でありうる。ヒトの体内を調査する生物医学ロボットにおける多くの重要な成分が、そのような材料を利用することができる。電気的ゲル化シルクはまた、アクチュエータとしても重要でありうる。シルク溶液を電気的ゲル化すると、剛性の変化があり、同様におそらく体積の変化もある。これらの特徴は、アクチュエータを作成するために利用されうる。1つの態様において、シルク溶液およびゲルを用いてプレートの角度を調整することができる。プレートを用いてミニチュアカメラを支持する場合、プロセスは、従来の機序を用いることなく動きを行うことができる。もう1つのアクチュエータ設計は、柔軟なチューブまたは袋付きチューブ(bladder-supported tube)からなる。電気的ゲル化の際にシルク溶液の体積が変化すると、指を振るように、チューブを作動させることができる。生物医学応用の全てにおいて、シルク材料を用いることによって経時的にゆっくりと分解するため、デバイスを体から除去する必要性がなくなる。
【0084】
さらに、上記の系を、シルクファイバーオプティクスの形状で体の内部に光ファイバーケーブルを埋設するために用いることができる。既に報告されているように、シルク繊維は、光のガイドとして役立ちうることから、この態様は、創傷、癌または血管沈着物の治癒、処置、および多くの関連する必要性に新しい領域を提供するインビボイメージングのための選択肢を提供する。
【0085】
先に概要したロボットおよび関連分野とは別に、これらの系は、とりわけ玩具、科学プロジェクト、および新しい形状の芸術作品などの消費者に関連する製品において有用である。さらに、担体を機能化して、新しい材料を沈着、分泌、または埋設するという選択肢は、遠隔の構造物、封鎖作用、危険箇所、ボートの船体、ならびに陸地、海、および空での多くの他の関連する応用における選択肢を示唆する。
【実施例】
【0086】
実施例1.平行電極のゲル化
可溶化シルクフィブロインの保存水溶液を既に記述されたように調製した。Sofia et al., 54 J. Biomed. Mater. Res. A 139-48 (2001)。米国特許出願第11/247,358号、WO/2005/012606、およびWO/2008/127401を参照されたい。簡単に説明すると、カイコガの繭を0.02 M炭酸ナトリウム水溶液中で20分間沸騰させた後、純水によって十分にすすいだ。乾燥後、抽出されたシルクフィブロインを9.3 M LiBr溶液中で60℃で4時間溶解し、20%(w/v)溶液が得られた。得られた溶液をSlide-A-Lyzer(登録商標)3.5K MWCO透析カセット(Pierce, Rockford, IL)を用いて蒸留水に対して3日間透析して、残っている塩を除去した。溶液は、透析後光学的に透明であったが、これを10,000 rpmで20分間2回遠心して、シルク凝集物のみならず当初の繭からの破片を除去した。シルクフィブロイン水溶液の最終濃度はおよそ8%(w/v)であった。この濃度は、容積のわかっている溶液を乾燥させて、残っている固体の重量を測定する段階によって決定された。8%シルクフィブロイン溶液を4℃で保存して、使用前に超純水によって希釈した。シルクフィブロイン溶液は希釈してもよく、またはより高濃度になるまで濃縮してもよい。より高濃度のシルクフィブロイン溶液を得るために、より低濃度のシルクフィブロイン溶液を吸湿性ポリマー、たとえばPEG、ポリエチレンオキサイド、アミロース、またはセリシンに対して透析してもよい。たとえば、8%シルクフィブロイン溶液を10%(w/v)PEG(10,000 g/mol)溶液に対して透析してもよい。
【0087】
2つの平行なワイヤ(電極)を、図4において示されるように、約9%シルクフィブロイン溶液4 mlを含有する直径70 mmのプラスチック培養皿の底に沿って配置した。液体レベルは電極上部よりわずかに上であり、電極はおよそ40 mm離れていた。高電流Li-Pol電池を用いて22.2 VDCの電圧を印加した。図5A、5Bおよび5Cはそれぞれ、0分、20分、および275分の時点での初回実験の写真を示す。図5Aおよび図6において示されるように、電位を印加するとほぼ直ちに、ゲル化が正極(+)で始まり、正極(+)および陰極(-)で気泡が形成された。図5Bにおいて示されるように、電気的ゲル化の最初の30分のあいだ、ゲル化プロセスは持続して、正極(+)から発散する「ゲルの先端」が全般的に陰極(-)の方向に着実に生長した。
【0088】
より厳密に検査すると、ゲル化域において、正極から発散して、全般的に陰極の方向を向く放射状パターンが認められた。約30分後、ゲル化は持続したが速度はより遅くなった。正極(+)で形成された気泡、おそらく酸素ガスは、それらの周囲に固体が形成されることから、ゲル内での永続的な特色となるであろう。この電極において永続的な気泡によって形成された障壁は、先端の生長速度の減少において重要な役割を果たす可能性がある。陰極(-)における気泡は、おそらく水素ガスであり、絶えず形成されるが、そのガス様内容物はシルク溶液表面に達するといくぶん消散した。全ての場合において、気泡形成速度は消散速度より大きかった。ゲル化シルクの粘ちゅう度は、非常に粘度が高く(柔らかく)、非常に粘着性であり、濃厚な粘液の粘ちゅう度と類似であった。培養皿を終夜冷蔵した後、ゲル化シルクはかなり堅くなった。
【0089】
実施例2.平行電極のゲル化
約9%シルク溶液について、電場を生成するために74.9 VDCのより高い電圧電位を電極間に印加したことを除き、実施例1の同じ平行電極実験の設定を用いた。これは、より高い電圧がゲル化プロセスを加速して、およびおそらくより完全なゲル化が起こるか否かを試験した。図7A、7B、および7Cはそれぞれ、0分、15分、および30分の時点での実験結果を示す。先に記述したように、類似のゲル化プロセスが示された。たとえば、ゲル化先端の放射状パターンは図7Bにおいて明らかに認められた。より高い電圧では、ゲル化の先端は、より速い速度で拡大したが、電気的ゲル化シルクは、より低い電圧を用いた場合に示されたほど密度が高くないように思われた。陰極での気泡は、基礎反応が加速された証拠として、この電圧でより速い速度で形成された。
【0090】
実施例3.排出試験は電気的ゲル化シルクフィブロインの基本構造を特徴付けする。
シルク溶液の制御された容積を急速に電気的にゲル化できることは、多数の実際的な応用を提供する。電気的ゲル化の5時間後に生成されたシルクのゲル化部分を抽出して、10 mlシリンジに注いだ。取り付けた直径1 mmのシリンジ針を用いて、ゲル化したシルクをゆっくりと排出した。針から射出されたシルク材料は皿から抽出されたときよりもかなり堅かった。この効果は、シルクが小さい直径の針の中を押し出される際の流れによって誘導される剪断によって引き起こされうる。電気的ゲル化シルクが準安定なシルクIコンフォメーションを保持する場合、針を通しての排出は、微小構造をβ-シートに変換させるために必要な追加的な整列を引き起こす。この最初に排出されたゲル化試料から多くの定性的観察がなされた。たとえば、材料は粘着性で、かなり堅く、かなり弾性で、触れると冷たかった。実際に、電気的ゲル化から排出までの全ゲル化プロセスは、シルクの温度をほぼ室温に維持するようである。シルクが針を通して排出されると、得られた排出されたゲルはまとまったストリームとして射出された。排出時に、得られる材料は透明である。空気に曝露された約5分後、色は不透明な白色に変化した。
【0091】
実施例4.磁場
本発明の態様に従う方法は、印加電場によって、可溶化シルクのゲル化が起こることを証明した。しかし、印加電場によって誘導された磁場は、ゲル化の真の原因ではない。磁場の効果を証明するために、電気的ゲル化の設定の変化形を用いた。培養皿の外側の周囲に裸のワイヤを巻き付けることによって、図8Cにおいて最もよく示される環状の正極を形成して、直線のワイヤを陰極として用いた。陰極を培養皿の中央で約9%シルク溶液の中に沈めた。ゲル化速度を測るために、図8Aにおいて示される既に用いられた平行電極の設定を対照として用いて第二の実験を同時に行った。いずれの実験も24.8 VDCの電圧電位で行った。図8Bにおいて示されるように、環状の電極設定(磁場)を用いた場合には30分後であっても目に見えるゲル化は起こらなかった。平行電極設定で起こった有意なゲル化によって、環状電極設定におけるゲル化の欠如は、シルク、電極材料、または印加した電圧の問題によるものではなかったことが確認された。
【0092】
実施例5.アルミニウム管に基づく電極
培養皿の中に沈めた環状電極によって電気的ゲル化が成功裡に達成された。この構成は、増加した電極表面積により、より大きい電気的ゲル化速度および総体積が得られるという証拠を提供した。加えて、アルミニウム管を電極として用いることができる。1つの態様において、正極として作用するアルミニウム管を、熱接着を用いて培養皿の内部に垂直に取り付けた。陰極として作用する露出したワイヤをシリンダーと同心円に配置した。この実験の設定の概略図を図9Aに示す。0分、7.5分、および15分の電気的ゲル化時間を比較する培養皿の下からの観察により、電気的ゲル化がこの構成で急速に起こり、それによってシルク溶液の少なくとも80%がゲルに変換したことが示された。
【0093】
電極表面積が電気的ゲル化に及ぼす効果をさらに理解するために、もう1つの態様は、電極として2つの同心円のアルミニウム管を利用した。この設定の模式図を図9Bに示す。双方の管を培養皿の底に熱接着させて、約9%可溶化シルクを環状の体積に充填した。この実験によって、非常に迅速なゲル化動力学が起こり、急速なゲル化および気泡形成を生じた。環状体積のほぼ100%がゲル化した。双方の管状電極の態様は、電極の表面積を最大限にすることが、電気的ゲル化速度を増加させて、最終的なゲル化体積を増加させるために重要であることを明らかに証明している。
【0094】
実施例6.シリンジに基づく金属被覆(ホイル)プランジャー電極の実験
アルミニウム管に基づく電極の態様の成功を考慮して、異なる態様は、アルミニウム管に基づく電極態様の結果を模倣するために、シルク溶液を含有して、しかも必要な円柱状の電極幾何学構造を提供するためにシリンジを利用した。いくつかのシリンジの態様において、標準的な実験スタンドハードウェアを用いてシリンジを垂直に取り付けた。最初の設計において、アルミニウムホイルを用いて、3 mlシリンジのプランジャーに金属を被覆した。シリンジ針を倒立させて、シリンジノズルを通して配置して、もう一方の電極として作用させた。ホイルを正極として、すなわち針を陰極として、およびその逆で、試験的構成を実行した。いずれの構成においても、電気的ゲル化の結果はいくぶん不良であった。これは、限られたホイル表面積またはホイルの不良な導電率に起因する可能性がある。
【0095】
アルミニウムホイルをコーティングしたプランジャーによって電気的ゲル化の結果を改善する努力において、10 mlシリンジプランジャーを改変した。この設定において、電極の露出領域の効果を理解するためには、より大きい表面積のプランジャーが利用されるであろう。電圧印加の30分後であっても、電気的ゲル化はほとんど示されなかった。
【0096】
実施例7.シリンジに基づく金属被覆(プラグ)プランジャー電極
もう1つのシリンジ設計は、アルミニウムホイルの代わりに直径3/8インチのアルミニウムプラグを用いた。このプラグをプランジャーに取り付けると、長さの約1/4インチがシルク溶液容積の中に伸びた。シリンジ針をシリンジのノズル末端から溶液の中に通過させた。アルミニウムホイルの態様と同様に、この設計を2つの構成で試験した:プラグを正極として針を陰極とする、およびその逆。針を正極とすると、より多くのゲル化が証明された。しかし、ゲル化プロセスは双方の構成に関して遅かった。プラグおよび針の限られた表面積が、おそらくその理由である。
【0097】
実施例8.シリンジに基づくばねと針の電極
ばね形状の電極幾何学を本出願のもう1つの態様において構築した。伝導性ワイヤを、シリンジのプランジャー側からプランジャーヘッドを通して通過させた。プランジャーヘッドを超えてその絶縁を取り除いたワイヤをらせん状に巻いてシリンジ内で有意な回数巻いた。コイルを正極と呼んだ。針を陰極として再度使用して、正極と陰極のあいだが確実に接触しないように特に注意を払った。図10A〜10Cはそれぞれ、0分後、5分後、および15分後での電気的ゲル化実験の結果を示す。正極として作用するばね形状の電極により、非常に速いゲル化が達成され、15分後にほぼ90%のゲル体積が達成された。この構成は、この設計がシリンジからのゲルの排出を直接妨害しないという事実により、特に重要である。シリンジプランジャーを押し下げると、ばね形状の電極が圧縮して、ゲルをシリンジ本体から押し出す。ゲルは、たとえシリンジ針を用いなくとも、粘着性のまとまったストリームとしてシリンジから排出された。シリンジ針を用いると、流れによって誘導される剪断により、ゲルの剛性をさらに増加させることができる。
【0098】
実施例9.製造後新しい(13日)可溶化シルクと製造後の日数が経過した(65日)可溶化シルクを比較する平行電極実験
シルクを可溶化すると、シルクは最終的に経時的に自己集合することができる。自己集合において、シルク溶液のランダムコイル性質の変換が誘導されて、β-シート内容物への変換が起こり、堅い固体を生成する。上昇したpHおよび温度などの一定の条件は、固化を加速することができる。図4において示される24.8 VDCによる平行電極の構成を用いて、試験の13日前に調製されたシルクと、65日前に調製されたシルクとの比較を行った。図11は、電圧印加後0分および10分での結果を示す。古いシルク溶液は、陰極でより大きい体積の気泡を生成したが、ゲル化はより新しいシルクでより速いように見える。
【0099】
実施例10.酸化対非酸化電極ワイヤを比較する平行電極実験
酸化の関数として電気的ゲル化速度を比較するために、2つの同時の平行電極態様を構築した:1つは長期間空気に露出されていた電極を有する態様であり、もう1つは電極として新しく露出されたワイヤを有する態様である。この実験においてごくわずかな差のみが観察された。非酸化ワイヤを有するゲル化したシルクでは輝度勾配が存在したが、酸化したワイヤによって生成されたゲル化シルクでは全体がほとんど明るい白色であった。輝度勾配は、非酸化ワイヤを用いるとゲル化がより速く進行するために起こる可能性がある。この観察を確認するために、インサイチュー電気抵抗および電流測定を行う。
【0100】
実施例11.3 mlシリンジに基づくばねおよび針
実際のゲル化送達ツールを、シリンジに基づくばねおよび針の概念で仕上げた。3 mlシリンジは、10分間の時間枠内でほぼ完全な電気的ゲル化を提供する比較的小さいサイズである。図12は、電圧印加の10分間のあいだにほぼ90%のゲル化が達成されたことを示している。得られた材料は、プランジャーを用いてまとまったストリームでシリンジから容易に射出することができた。1つの興味深い観察は、気泡がシルク溶液の上部で形成されると、十分な圧力が形成されてシリンジプランジャーを下方に押すことである。
【0101】
実施例12.平行銅コイル電極を用いる電気的ゲル化
電気的ゲル化プロセスは、DC電圧源、金属被覆正極および陰極、ならびに可溶化シルク溶液が含まれる電気化学セルによって生成される電気化学反応を伴う。可溶化シルクにおける平行銅電極によるゲル化は、提唱される電気的ゲル化機序に関連しうる成果である色の変化、気泡形成、および電極金属の軽微なくぼみに関する他の態様における観察を確認した。増強されたゲル化を提供するために、双方の電極をばね様コイルに形成して、正極および陰極の双方の表面積を増加させた。実験結果を図13に示す。電気的ゲル化プロセスは非常に反応性であり、電圧印加の10分後に陰極で有意な気泡形成と、全体的なゲル化を生じた。かなり明瞭な緑色-青色-インディゴ-紫色のスペクトルが生成され、正極は緑色であり、および陰極は紫色であった。
【0102】
実施例13.塩およびDMEMを有する可溶化シルクの平行電極でのゲル化
組織工学操作に対する電気的ゲル化の応用に関して、適切な構造の完全性および細胞環境を提供することができる生存構築物の作成能を理解することが重要である。1つの提唱される足場構造幾何学において、可溶化シルクは、塩およびDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)と混合され、固化される。水中に浸すと、塩は溶解して、理想的な多孔性の幾何学構造を残す。電気的ゲル化をそのような足場材料の固化に用いることができるか否かを調査するために、一連の試験を行った。図14において示されるように、塩およびDMEMを含有する4%および8%可溶化シルクについて平行電極実験を行った。DMEMは、最初の材料に強いマゼンタ色を与える。電圧印加のあいだ、陰極においてガス様気泡の極端な量が形成され、正極でのゲル化の証拠は非常にわずかであった。強い緑色-青色の着色が起こったが、電圧印加の短期間の後に、培養皿は熱すぎて触れなくなった。加えて、正極の有意なくぼみが明らかとなった。
【0103】
実施例14.塩およびDMEMを有する可溶化シルクのシリンジに基づくばねおよび針電極のゲル化
可溶化シルク、塩、およびDMEMによる平行電極実験の際に生成された高温は、溶液のより低い電気抵抗を反映している可能性がある。電流のその後の増加によって、プロセスはかなりより反応性となる可能性がある。温度の制御能を調べるため、これまでの実験のシリンジに基づくバージョンが行われている。上記添加剤を含む可溶化シルクを、3 mlシリンジに入れて、ばね形状の正極および倒立させた針を陰極として用いた。実験は5℃の冷蔵庫で行った。ゲル化プロセスは非常に反応性であり、90秒以内にガス様気泡の極端な量を生成して、最終的にシリンジからシルクをほぼ完全に瀉出した。暗褐色への色の変化が示されたが、目に見えるシルクのゲル化は起こらなかった。
【0104】
実施例15.グラファイト電極を用いる電気的ゲル化実験
電気的ゲル化試験は、用いられる金属被覆電極が、反応速度を促進するために重要な役割を果たすことを示している。特に、電気抵抗が低い溶液を用いる場合、より貴(noble)である電極材料;すなわちより低い電気化学電位を有する材料を選択することが重要でありうる。この状況において、シャープペンシルの芯から作成されるグラファイト電極を正極および陰極として用いて実験を行った。図15に示されるように、グラファイトは非常に良好な電極を作成して、急速なゲル化に至り、非常に良好に定義された三次元ゲル化先端を有した。電圧印加のちょうど10分後に、可溶化シルク容積のほぼ全体がゲル化した。この迅速かつ完全なゲル化にもかかわらず、陰極上でのガス様の気泡形成は、過剰ではなかった。
【0105】
実施例16.グラファイト電極ならびに塩およびDMEMを含む可溶化シルクを用いる低電圧(4 VDC)電気的ゲル化実験
先の鉛筆の芯の実験において、より貴である材料を用いることは、ゲル化プロセスを安定化させたようである。当然、グラファイト鉛筆芯は、純粋な炭素で作成されているわけではない;それにもかかわらず、ガス様気泡の形成が低減されてゲル化先端は良好に定義された。塩およびDMEMを含有する可溶化シルクによるこの設定を用いて、もう1つの実験を行った。ゲル化プロセスをさらに制御し続けるために、4 VDCの電圧を印加した。このアプローチはなおも、電圧印加の8分後であっても、添加剤を有するシルクの識別可能なゲル化を提供しなかった。かなり有意な気泡形成が起こった。加えて、マゼンタからオレンジ/茶色へのわずかな色の変化が示された。DMEMは、pHが約pH 6に下落するとマゼンタから黄色へと色が変化するマーカーを含有する。これがおそらく色の変化の原因である。
【0106】
実施例17.鉛筆芯の電極ならびに塩およびDMEMを含む可溶化シルクを用いる高電圧(25 VDC)の電気的ゲル化
先の実験は、低い電圧で維持されたグラファイト電極が電気的ゲル化プロセスを制御するために役立ちうることを証明した。高い印加電圧下で鉛筆芯に基づく設定の応答を理解するために実験を行った。25 VDCの印加電圧は、塩およびDMEMを含有する可溶化シルクにおいて完全に制御されない反応を引き起こした。シルクのほとんどが、陰極で発生しているガス様気泡によって容器から移動して、急速な反応は容器が熱くなりすぎて触れないほどの熱を生成した。硬い緑色がかった残渣が試料容器に残ったが、目に見えるゲル化は示されなかった。この残渣は、結晶型で沈殿した固体であるように思われた。銅または炭素に基づく芯であるか否かの電極材料によらず、高い塩分含有量のシルクは伝導性が高すぎて、電圧および電極の効率を調節しなければシルクにおいて制御されたゲル化応答を生成することができないようである。
【0107】
実施例18.グラファイト電極を用いる電気的ゲル化のモニター
これまでの実験から、グラファイト電極を可溶化シルク上で用いた場合に優れた電気的ゲル化の結果が得られることが証明された。電気的ゲル化の応答をより注意深く測定するために、制御されたグラファイト電極(シャープペンシル芯)の実験を行った。25 VDCを用いて、電流計によって消費電流をモニターすると、10分間にわたって起こった急速なゲル化を生成し、色の変化を生じなかったが、ゲル化先端が良好に形成されて、それによってシルク容積のほぼ完全なゲル化が起こった。電流データは、電圧を印加した直後に約7 mAが電池から消費されていることを示した。このレベルは、3 mAの定常状態電流が消費されるまで非直線的に下落する。この消費電力の傾向はおそらくシルクのゲル化の生長傾向と類似である。
【0108】
実施例19.シルクをコーティングした生鶏肉の電気的ゲル化
電気的ゲル化の重要な応用は、組織へのその適用または投与である。たとえば、皮膚に適用される電気的ゲル化を、熱傷の治癒を促進するために使用してもよい。シルクに基づくゲル化層を生成するために生の鶏肉を用いることができるか否かを調べるための概念実証として実験を行った。生の鶏肉の細い小片を可溶化シルクに浸して、正極として作用させた。裸のワイヤを陰極として用いた。電圧を印加すると、陰極で気泡が形成され、電気的ゲル化が起こっていることを確認した。半透明なシルクゲルと明るい色の鶏肉組織のあいだに視覚的対比がないことから、視覚的結果は曖昧であった。
【0109】
実施例20.可溶化シルクの高電圧電気的ゲル化
電気的ゲル化に及ぼす高電圧レベルの効果を調査するために、Gamma High Voltageからの高圧電源を用いて一連の実験を行った。例としての態様を図16に示す。シリンジ針をシルク溶液表面から1インチ上に吊した。針を、10 kVまたは20 kVの正の電位のいずれかに設定した。シルク溶液に沈めた裸のワイヤ電極を接地した。+10 kVの針では、針の先端で電子の蓄積および溶液への定期的放電によって生成される有意なスパークが起こった。小さい気泡が各放電と共に生成されたものの、ゲル化はシルク内で認められなかった。電子の充電と放電の繰り返しは、電流制御電源によって制御された。そのような電源の場合、消費電流は、電力レベルがピークの許容可能なレベル近傍であることから、電源に対する損傷を防止するために制限された。針の電位が+20 kVレベルまで増加すると、有意に異なる応答が示された。スパークと電子の放電の代わりに、針の真下のシルク溶液は、針の位置から押し下げられた。シルク溶液は、上部表面で、針によって反発される陽電荷を発生させた可能性がある。この電圧レベルでは、反発力が液体容積の操作を引き起こした。追跡実験はこの応答を繰り返した。初回電荷を印加すると、有意なスパークが起こり、高い電流がDC電源から消費された。試料の高さおよび電圧を調節すると、シルク溶液において安定な溝が作成された。溶液と針のあいだの空間が減少すると、溝は培養皿の底がほぼ露出するまで十分に深くなった。周囲の照明を消してさらに観察すると、実験の際に針の先端で独自の青色の輪が生成されることが示された。さらに文献を詳しく調べると、これは、かなりよく知られているコロナ効果であるように思われる。溝を作成する機序はおそらく、基本的に高速でイオンを押し出して表面の低下を引き起こすイオン風に起因する。
【0110】
実施例21.デバイスの設計−処理速度を増加させるための混合の使用
これらの実験の当初の目標は、リアルタイムでの(連続的な)使用にとって十分速く電気的ゲル化シルクを産生できる実際のデバイスの作成に設計努力を集中させることであった。より古いシルクがより新しいシルクより速く電気的にゲル化できることは公知である(同様に、一定期間後、電気的ゲル化速度は減少することも公知であるが、このことは電気的ゲル化速度に対する製造後の期間の正の効果に対して何らかの制限があることを示している)。シルクに及ぼす時間の1つの重要な効果は、自己集合が起こり、β-シート含有量の増加を提供することである。シルク混合の剪断作用が類似の効果を生じうる、すなわちより古いシルクの場合と同様にβ-シート含有量を増加させると推測される。8.4%可溶化シルク(製造後32日)6 mlを用いて25 VDCおよび従来のグラファイト電極設定(0.5 mmの2Bタイプの鉛筆芯)によって実験を行った。10 ml Falconチューブを半分(高さ)に切ってチャンバーを作成した。絶縁した22-ゲージワイヤを1つの平面で曲げることによって混合オーガーを作成した。オーガーを、Parallax USB ServoボードおよびParallax Servo Controller Interfaceソフトウェアバージョン0.9h Betaを実行するPCによって制御される低速サーボモーター(10〜15 RPM)に取り付けた。図18において示されるように、オーガーは正極と陰極のあいだに、およそ12 mm離れて位置した。
【0111】
およそ最初の2分間の電気的ゲル化のあいだに、先の実験において認められるように正極の鉛筆芯において固体が形成された。しかし、固体の大きさが生長すると、固体が正極から外れて、回転しているオーガーに捕らえられるようになる移行期が存在した。この移行期が起こると、正極の鉛筆芯は、オーガーに絶えず引っ張られるものの、シルクゲルを生成し続けた。実験の終了後、オーガーをFalconチューブから外すと、シルクゲルは全てオーガー上に残った(図18C)。このシルクゲルについていくつかの独自の差が観察された:ゲルの色は、これまでのゲルの白色がかった色とは対照的に顕著に透明であった。ゲルはこれまでのゲルほど堅くないが、非常に粘着性でまとまった固体であり、いくらかの変形に耐えうるであろう。このゲルを室温で表面に沈着させた後、液体型に戻り始めることが観察された。液体へのほぼ完全な逆転(80%〜90%)は5日後に起こった。15日後、この割合はほぼ同じであることが観察された;これ以上の液体への移行が起こるようではなかった。液体への逆転を促進するのはゲルにおける気泡の存在であると推測された。オーガーが正極からゲルを引っ張る際に、同様に負極から気泡を引っ張っていることに注目することは重要である。得られた回転する塊は、ゲルと多くの気泡の双方を含有した。シルクゲル/気泡の組み合わせのpHは、ほぼ中性、すなわちpH 7.0〜pH 7.4付近であるようであった。非常に粘着性のシルクの迅速なゲル化および液体型への逆転が長所である応用に関して、この構成は非常に有望である。たとえば、この機序はパーティストリングにとって理想的である可能性がある。
【0112】
実施例22.処理速度(より高いRPM)を増加させるための混合の使用
シルク4 mlのみを用いてより高いオーガー回転速度(約400 RPM)を用いたことを除き、実施例21と同じ実験パラメータ(8.4%シルク、製造後33日、0.5 mm 2B鉛筆芯、25 VDC)を用いて、もう1つの混合実験を行った。試験後、シルクの約30%が電気的にゲル化されて、オーガーに接着していることが観察された。シルクゲルは、より低い回転速度実験の場合より増加した剛性を有するようであった。
【0113】
実施例23.Instron(登録商標)デバイスに基づく電気的ゲル化シルクの排出試験
電気的ゲル化シルクの剛性を一連の機械的試験によって定量した。電気的ゲル化シルクを用いるであろうほとんどの物理的デバイスに関して、シルクは開口部から排出される(押し出される)であろう。ゆえに、排出のために必要な力および排出されたシルクの機械的特性を調べた。可溶化シルクに剪断力を適用すると、β-シート形成を引き起こし、これはシルクの機械的応答を増加させた。非常に単純な予備的設定を用いた:濃度8.4%の可溶化シルクを「標準的な」鉛筆芯の態様を用いて電気的にゲル化した。電気的ゲル化シルク(約2 ml)を実験チューブから採取して5 mlシリンジに挿入した。試験を、Instron 3366 10-kNロードフレームにおいて容量1 kNのロードセルによって行った。BlueHill 2.0において単軸圧縮法を実行したが、これは1 mm/秒の一定速度で垂直方向のシリンジからシルクを押し出すであろう。図19において認められるように、シルクは非常に堅くまとまったストリームとして排出された。力の応答を異なるグラフ上に記録した。小さい針を通してシルクを押し出す行為は、材料の剛性の劇的な増加を提供した。出て行くシルクのストリームがボール状に集合する傾向があり、針に粘着する傾向があることから、得られたシルクも同様に非常に粘着性であった。
【0114】
排出プロセスにおけるエージングの効果を定量するために、この実験を30日後に繰り返した。次の排出試験のあいだに、より古いシルクをシリンジ針から排出するために必要な力は非常に大きく、内部シルク圧によってシリンジの損傷が起こったが、それでも排出されなかった。よって、何らかの状況下ではエージングは、剪断(β-シート含有量に関連して)を用いる堅いシルクの生成能に対して効果を有するように思われる。
【0115】
実施例24.電圧の生成
初期の実験から、シルク溶液が、電気的ゲル化が始まった後に電気化学セルのように作用することが示された。言い換えれば、電圧を電極から外しても、電圧計は、DC電圧の些細でないレベルを示すであろう。シルクが電気化学セルとして作用できるか否かを調査するために、一連の実験を行った。最初のベースライン実験は、新しいシャープペンシル芯の電極を非電気的ゲル化バッチのシルク(約8.4%シルク4 ml、製造後34日)の中に沈める段階、およびそれらの間に存在する任意の電圧を記録する段階を伴った。意外なことに、外部電圧をこのシルクに導入したことがないにもかかわらず、電圧計は0.2 VDCが生成されていることを示した。予想される消費電流はおそらくマイクロアンペア範囲であった。電圧生成は電気化学セルとして作用する実験によると推測される。基本的に、シャープペンシルの芯は、グラファイト以外に、金属が含まれる多くの材料を含有することが知られている。電気化学セルは典型的に、異なる材料組成の電極を電解質に導入することによって設定される。シルクが電解質として作用して、鉛筆芯が十分な非グラファイト金属を有する可能性があり、そのため電池のように作用していた可能性がある。どの電極が正極でどの電極が陰極であるかを何が決定するかは、この時点では不明である。
【0116】
実施例25.電極材料は電気的ゲル化に影響を及ぼす
グラファイト(シャープペンシルの芯)を電極材料として用いることは、電気的ゲル化において有効であった。電極の当初の光る表面は、電気的ゲル化において用いた後、粗面となった。電気的ゲル化速度が開始後遅くなることがわかったことから、電気的ゲル化は芯の表面特性によって主に駆動されるのであって、バルク特性によるのではないと推測された。電極の分解の効果を理解するために、一連の実験を行った。これらの試験の各々に関して、新しいシャープペンシル芯の電極を最初に用いて約8.4%シルク(25 VDCで10分間)を電気的にゲル化した。電気的ゲル化後、正極に形成されたいかなる固体も除去した。先に考察したように、電気的ゲル化の際にシルクに沈められていた各々の電極の一部が、粗面となった表面と共に残された。次に、これらの使用した電極を、以下に示される構成を用いて、残っている可溶化シルクに再度戻して沈めた。電極に取り付けた電圧計を用いて、シルクによって生成された電圧を測定した。光っている半分または粗面の半分のいずれかを電圧の記録の際に沈めて、いずれかの電極を正極/陰極として用いた。1つの一貫した実験結果は、電気的ゲル化から得られた正極を電圧の読み取りの際に沈めると、比較的大きい電圧(約0.6 VDC)が記録されたことである。陰極を沈めた場合、結果はあまり一貫しなかった(おそらくイオン動力学の変化による)。イオン動力学に対する1つの影響は溶液pHであることが知られており、これは電気的ゲル化の際に印加された電圧によって劇的に影響を受ける可能性がある。
【0117】
電気的ゲル化の態様に応じて、電気的ゲル化が起こっているあいだに、正極周囲のシルクは、バージンシルクより低いpHを有する可能性がある。電圧測定において用いるための電極の除去後、電極自身は、この挙動を反映するpH値を有する可能性があるであろう。電圧測定のためにシルクに再導入した場合、シルクはおそらく電気化学セルとして作用し続ける。セルの動力学は、電極のpHがプロセスを増強または抑制するかに応じて改変されるであろう。より低いpHを有する正極を沈めることによって、動力学は増加して、より高い電圧の読みを生じる。上昇したpHを有する陰極を沈めると、動力学は抑制される。
【0118】
電気的ゲル化の背後にある可能な物理学的機構、および結果を解釈するための意味は、さらなる考察の正当な理由となる。異なる2つの材料を直接接触させるまたは電解質に沈めることを通して電気的に接触させると、電池対物質ができる。金属は腐食に対して非常に異なる感受性を有しうる。亜鉛のようないくつかの金属は、非常に容易に腐食するが、他の金属、中でも特にステンレススチールおよび白金は腐食抵抗性である。金属のこの特性は、電池対物質におけるその反応によって決まる。腐食性の低い金属はより貴である;すなわち、ガルバニ列のリストにおいて、これらの金属はより高い電極電位を有する。電池対物質が作成される場合、あまり貴でない金属は電子を失い、金属陽イオンとして溶液に溶解するであろう。電圧計を用いて電極間の電位を測定した場合、あまり貴でない金属で構成される電極は、正極であると見なされ、ゆえに、電圧計は正の電圧電位を読み取るであろう。放出された電子は、より貴である金属に向かって電解質の中を流れるであろう。より貴である金属の表面では、溶解した酸素が電子の獲得を通して水酸化物陰イオンに還元されるであろう。あまり貴でない金属が存在しない場合、電子が酸化を通してこの金属によって与えられる場合を除き、他の金属が酸素の水酸化物への還元をなおも受けるであろう。
【0119】
電気的ゲル化実験の全体的な組を通して用いられている電極材料のいくつかには、白金、銅、アルミニウム、およびグラファイトが含まれる。白金は非常に貴であるが、銅およびアルミニウムは貴ではない(ガルバニ列の中では非常に低い)。シャープペンシル芯における主な構成成分は、最も貴金属であるグラファイトであるが、他の元素が存在する。残念なことに、ゆえにグラファイトのシャープペンシル芯の実際の貴金属性は、グラファイト含有量に単に依存するのではなくて、他の元素にも同様に依存する可能性がある。これらの実験において用いられるグラファイト電極の実際の組成が何であるか、または何がその対応する電気化学電位であるかは不明である。
【0120】
同じ純粋な金属の電極を用いる場合、電池対物質は生じないはずである。この観点から、もう1つの電子源が提供されなければ、電極間の電圧電位は測定されないはずである。これらの電気的ゲル化実験において、アルミニウム、銅、およびグラファイト電極を用いる場合、電池対物質を生じるであろう合金元素および他の材料構成成分がおそらく存在する。電極間の電圧電位を測定する場合、測定は非ゼロであり、電圧は、正の電圧計リードにどの電極が接触しているかに応じてプラスまたはマイナスのいずれかであろう。電池対物質を生じる以外に電気的ゲル化プロセスにおいて生じる追加的な電気化学応答が存在するようである。さらに、シルクは並外れた電解質である。カイコのシルクは、多様な金属イオンを含有することが知られており、これらは処理後の可溶化シルク溶液中に残っている可能性がある。これらのイオンは、電気的ゲル化の電気化学プロセスに影響を及ぼす可能性があり、電極間の電圧計の読みの際に検出される可能性があるようである。
【0121】
実施例26.電気的ゲル化に及ぼす白金電極の効果
上記の考察に照らして、非常に貴で純粋な金属を電極として用いる場合、電気的ゲル化は起こらないか、またはシャープペンシル芯を用いる場合よりかなり遅いであろうことを確認するために一連の実験を行った。実施例20の頻繁に用いられる実験の設定を用いて、2つの電極を約8%可溶化シルクフィブロイン(製造後48日)の中に部分的に沈めた。これらの実験に関して、シャープペンシル芯と直径0.02インチで99.95%純粋な白金(Pt)電極の双方を用いた。加えて、pH試験紙を用いて、電気的ゲル化の前後でのシルク溶液のpHを記録した。製造後48日のシルク溶液は、pH 6.0〜pH 6.3を有することが見いだされた。最初の実験において、Pt電極を正極として用いて、シャープペンシルの芯を陰極として用いた。25 VDCを印加すると、電気的ゲル化は2つの鉛筆芯電極を用いた場合より有意に低い速度で起こった。用いた電源からの肉眼的観察に基づくと、実験の際に2 mAの電流が消費された。電気的ゲル化の10分後、印加電圧を停止した後、0.95 VDCの電圧電位が電極間で測定された。このことは、電気的ゲル化後のシルクが電池、すなわちDC電圧源のように作用することを暗示している。得られた電気的ゲル化シルクはほぼ透明であった。固体ゲルを非電気的ゲル化シルク溶液から除去すると、残っている溶液はpH 7.2〜pH 7.6を有することが示された。固体ゲル表面のpH(pH試験紙は、固体内部に挿入することができない)は、pH 4.9〜pH 5.1であることが見いだされた。この実験の予想される成果は、正極として用いたPtの高い貴金属性を考慮すると、電気的ゲル化が起こらないであろうという点である。しかしゲル化速度はより遅いものの、明らかに起こっていた。本明細書において考察されるように、シルク溶液中に分散したイオンが、実際に起こった電気化学プロセスに関与した可能性がある(電子の供給はかなり急速に消散すると予想されるが)。さらに、Ptが非常に腐食抵抗性であるという事実にもかかわらず、あらゆる金属は何らかのレベルで腐食する。ゆえに、この非常に低い腐食速度が、電気的ゲル化に対して寄与しうるであろう。
【0122】
正極および陰極の双方が、電気的ゲル化に関する接触腐食の説明において役割を果たすことから、いずれの電極が支配的な役割を果たすかを調べるために追跡実験を行った。前回の実験を、正極としてシャープペンシル芯および陰極としてPtを用いることによって単に調節した。他の全ての実験条件は同じままであった。電気的ゲル化は、2つのシャープペンシル芯を電極として用いた場合に観察された速度にマッチする速度で起こった。正極は、電気的ゲル化速度の指示において支配的な役割を果たすように思われた。得られた電気的ゲル化シルクは不透明で白色であった(グラファイト電極からの成果と同様に)。残りのシルク溶液は、pH 9.4〜pH 9.7を有することが見いだされたが、電気的ゲル化シルクは、pH 4.6〜pH 4.9を有した。ゲル化後に測定された1.83 VDCの電圧電位は、Ptを正極としてグラファイトを陰極とした場合に観察された電圧レベルのほぼ2倍である。この電圧の増加は、それがPtより貴ではなく、腐食に対してかなり感受性であることから、グラファイト電極から射出されるであろう電子数の増加による可能性がある。
【0123】
2つのPt電極を電気的ゲル化のために用いる場合、電気的ゲル化は遅い速度ではあるが起こることが観察された。速度は正極がPtであって、陰極がグラファイトである場合とおおよそ同じであった。興味深いことに、得られた固体ゲルは、不透明で白色であることが観察され、Pt正極を用いた実験において得られたゲルのように透明ではなかった。電気的ゲル化後のPt電極間の電圧電位は、1.98 VDCであると測定された。これは、この「電池」電位が腐食プロセスを通してシルク溶液の中に押し出される電子の量に関連するという推測とは一貫しない。どの機序が電圧の増加を引き起こすのか、およびシルクゲルの透明性がなぜ電極の組み合わせによって影響を受けるのかは不明である。残りのシルク溶液はpH 8.0〜pH 8.5を有することが見いだされたが、電気的ゲル化シルクはpH 4.6〜pH 4.9を有した。
【0124】
実施例27.可溶化シルクおよびDMEMと白金電極
これまでの実験から、塩を含有するDMEM溶液の導入が電気的ゲル化に対して劇的な効果を有することが示された。Pt正極を用いた場合でも、起こった腐食量を劇的に低減させながら電気的ゲル化が起こったことから、DMEMの添加は、より大きい腐食に対して有意に寄与することなく、ゲル化速度に対して正の効果を有するであろうと考えられた。さらに、非ゲル化シルク溶液および得られるゲルのpHは、電気的ゲル化によってもたらされる。同様に、DMEMのpHは可溶化シルクのpHより大きいことが観察された。この上昇したpHは、電気的ゲル化の前に可溶化シルクと混合すればゲル化速度を増加させることができると推測された。2つのPt電極を用いた場合の電気的ゲル化速度に対するDMEMの影響を観察するために、実験を行った。
【0125】
これらの実験において用いられたDMEMおよび可溶化シルクはそれぞれ、pH 8.2〜pH 8.5およびpH 6.0〜pH 6.3を有することが観察された。濃度40%のDMEMと混合すると、得られた溶液はpH 7.9〜pH 8.2を有した。25 VDCを用いると、2つのPt電極によって極めて急速なゲル化が起こった(90%〜95%ゲルを達成するまでに約1分)。正極において固体が急速に形成されると共に、非常に有意な気泡形成がPt陰極において起こった。DMEMの最初のうす紫色の着色は、シルクが電気的にゲル化すると、淡黄色に変化した。DMEMには、pHが約pH 6に達した場合に黄色に移行するpHマーカーが含まれている。非電気的ゲル化シルクは、pH 8.8〜pH 9.7を有することが観察されたが、ゲルはpH 3.1〜pH 3.4を有することが観察された。DMEMの存在は電気的ゲル化に対して効果を有した。しかし、この場合、Pt電極を用いることによって制御されたゲル化速度が起こった。pHの変化は劇的なゲル化速度の変化を伴う;液体のpHは増加して固体のpHは減少する。
【0126】
もう1つの実験では、DMEMおよびシルク混合物を有する同じ二重Pt電極設定を用いたが、より低い5 VDCの電圧を印加した。この実験によって、25 VDCの印加電圧および可溶化シルクのみによってグラファイト電極について観察された速度とほぼ同じ速度である電気的ゲル化速度が得られた。電気的ゲル化の10分後、約90%〜95%のゲル化が達成された。得られた液体シルクおよびゲルはそれぞれ、pH 9.5〜pH 10.0およびpH 3.1〜pH 3.4を有した。
【0127】
実施例28.電極と電気的ゲル化産物とを隔離するための透析カセットの使用
電気的ゲル化プロセスの懸念の1つは、溶液およびゲルのpHレベルが極端な値(pH 3〜pH 14)を達成しうる点である。もう1つの懸念は、プロセスが電気分解、すなわちシルク溶液の水内容物の水素および酸素ガスへの分解を伴う可能性があり、水素ガスは細胞の生存にとって問題である点である。ゆえに、電気的ゲル化の際に生成される産物を分離するために多孔性メンブレンを用いる透析カセットを用いて実験を行った。白金電極を、8重量%シルク溶液を充填した透析カセットのシリンジ口に挿入した。この電極を最初に正極として用いた。白金陰極を一般的な食卓塩を含有する脱イオン水に浸した。この電気的ゲル化設定に25 VDCを印加すると、良好なゲル化応答が得られた。
【0128】
このプロセスの際に、陰極において典型的に生成する水素ガスは、ゲルから離れて透析カセットの外側で維持された。実験の終了後、非ゲル化シルク溶液のpHは、pH 7.9〜pH 8.2のあいだであることが示された。これはおそらく、バージンシルク溶液のpHに対してわずかなpH上昇を表す(製造後74日のシルク溶液を用いた場合、pHはおそらく約pH 6である)。ゲルの表面上での液体のpHはpH 6〜pH 7.2付近であることが測定された。この実験は、適当なメンブレン材料を使用することによって、シルク溶液およびゲルから水素ガスを分離し続ける方法を提供する。同様に、ゲル周囲で測定されたpH範囲は、可溶化シルクフィブロイン溶液に正極および陰極を沈めた配置より中性にかなり近いことも明らかである。
【0129】
電気的ゲル化を、透析カセットの設定を用いて、陰極がカセットの内部で、正極が外部で、30 VDCの電源電圧を用いて行った。最初、結果は曖昧であった:目に見えるゲル化は起こらず、唯一の目に見える応答は、電極における気泡の形成であった。しかし、正極を透析カセットメンブレンに接触させると、電極との接触領域に沿ってメンブレンの内側にゲルが形成された。この結果に基づいて、透析カセットを脱イオン水浴から外した。筆記用具のような正極を用いると、シルクゲルからメンブレンの内部表面上に形状および文字を形成することが可能であった。カセットは、水浴中に存在する必要はなく、制御されたゲル化幾何学構造を生じたことから、この結果は、興味をそそられる。このプロセスは、シルクゲル材料を用いて3Dの迅速なプロトタイプ作成ツールを作成するために将来的に利用されるであろう。応用領域には、注文に合わせたシルクに基づく組織工学足場構造の作成が含まれる。
【0130】
実施例29.逆転させた電気的ゲル化−シルクゲルの固化および再液体化
電気的ゲル化によって生成されたシルクゲル微小構造は、主にシルクI構造を含む可能性がある(FTIRおよびCD測定はこの主張を確認する/異議を唱えるであろう)。この準安定な材料相は、それが典型的にランダムコイルコンフォメーション(シルク溶液)に戻るように、またはβ-シートコンフォメーション(堅いゲルおよび固体)を形成するように操作されうることから興味をそそられる。シルクIは、再液体化されうることがわかっていることから、電気的ゲル化に応用した場合にこの現象を調べるために実験を行った。白金電極を4重量%シルク溶液の中に沈めた。電極を用いて25 VDCによって溶液を3分間充電した。成果を図21Bに示す。次に、電気の接続を逆転させた;すなわち正極であった電極を陰極に変化させて、陰極であった電極を正極にした。実験の成果を図21Cに示す。当初、正極において形成されたシルクゲルは、半透明になってから完全に消失した。示されるように、これまで陰極であった電極上に新しいゲルが形成された。この実験は、ゲル化プロセスが完全に逆転されうることを示した。ゆえに、電気的ゲル化は、液体から固体への移行が重要である応用にとってプロセスとして有望であることを示している。たとえば、電気的ゲル化は、柔らかい体のロボットにおいて柔らかい「脚」を作動させるために用いられうると想像され:固化および再液体化の繰り返しが移動を引き起こすであろうと想像されうる。
【技術分野】
【0001】
政府支援
本発明は、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって与えられたEB 002520、アメリカ空軍(U.S. Air Force)によって与えられたFA9550-07-1-0079、およびU.S. Army Research, Development and Engineering Command Acquisition Centerによって与えられたW911SR-08-C-0012の下で政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願
本出願は、35 U.S.C.§119(e)の下で、2008年9月26日に提出された米国特許仮出願第61/100,352号、および2009年3月3日に提出された米国特許仮出願第61/156,976号の優先権の恩典を主張する。
【0003】
発明の分野
本発明は、電場を印加することによって、シルクフィブロイン溶液をゲルに迅速かつ可逆的に変換させるための方法およびデバイスを提供する。
【背景技術】
【0004】
背景
シルクは、一般的にカイコなどのいくつかの鱗翅目の幼虫およびクモによって繊維に紡がれるタンパク質ポリマーとして定義される。シルクは、その重さが軽いこと、信じられないほどの強度、および弾性のために興味をそそられる生物材料である。カイコガ(Bombyx mori)のシルクの主成分は、フィブロインタンパク質および膠様のセリシンタンパク質である。シルクフィブロインタンパク質組成物は、その生体適合性、遅い分解性、および優れた機械的特性のために、組織工学操作などの生物医学応用において魅力的である。分解性のシルクフィブロイン製剤は、薬物送達が含まれる生物医学応用にとって広範囲の機械的および機能的特性に関して機械的に強い材料を提供する。有用なシルクフィブロイン調製物は、シルクゲルである。多様な応用のためにシルクゲルを形成するための追加的アプローチがなおも必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の態様は、電気的ゲル化(electrogelation)と呼ばれるプロセスにおいてシルクフィブロイン溶液に電場を印加することによって、可溶化されたシルクフィブロイン溶液をシルクフィブロインゲルに可逆的に変換する方法を提供する。可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加することは、たとえば可溶化されたシルクフィブロイン溶液の中に電極を沈める段階、および電極間に一定の電圧を印加する段階によって行われうる。電圧によって作成された電場は、ランダムコイルからシルクIフォーメーションへのシルクフィブロインのコンフォメーションの変化を引き起こす。約50 VDCまでの電圧は、ゲル化の誘導において有効であるが、より高い電圧も有用でありうる。一般的に、シルクフィブロイン溶液がその電気抵抗を低減させる塩などの追加の添加物を有しなければ、電圧の印加は低い電流で行われうる。約50 VDC未満の試験において、典型的な電流は約10ミリアンペア未満である。しかし、可溶化されたシルクフィブロイン溶液に塩を付加すると、電流は、約80ミリアンペアよりも上に劇的に増加して、ゲル化速度の増加を伴う。DC電圧を逆転させると(電極の極性を反転させる)、シルクゲルは、液体型(ランダムコイルコンフォメーション)に戻るように変換する傾向がある。
【0006】
電気的ゲル化は、様々な理由から、pHの操作、加熱、様々なイオンの適用および機械的剪断などの、シルクのゲル化を誘導する他の機序に対して利点を有する。たとえば、電気的ゲル化によって達成されるシルクフィブロインの準安定的なシルクIコンフォメーションの増加は、他のゲル化技術によって生成されたβ-シートコンフォメーションと比較してより用途の広い材料相を提供する。加えて、ゲル型で示されるシルクI構造を、液体型(ランダムコイル型)に戻るように変換させることができ、あるいは、分子の最小限の追加的整列を通して、β-シート構造に変換させることができる。これが可能であることは、「高性能構造」の重要な特徴である。
【0007】
電気的ゲル化はまた、白金ワイヤ電極から嵌め合い金属板に至る広範囲の電極材料および幾何学構造を用いて、シルクゲルによってコーティングされうる組織(インビトロまたはインビボ)に適用されうる。他の化学的操作に対して、電圧、たとえば電池操作デバイスからのDC電圧を印加する必要があるだけであることから、このプロセスは、生細胞が影響を受ける可能性がある生物医学的応用においてより安全な可能性がある。
【0008】
本発明の1つの局面はまた、シルクIコンフォメーションおよびシルクβ-シート構造を有するシルクフィブロインタンパク質の混合物を含む圧電シルク材料も提供する。このシルク材料の圧電特性は、シルクIコンフォメーションとシルクβ-シート構造との比によって特徴づけられ、これは本明細書において示される方法を適用することによって決定されうる。たとえば、シルクIコンフォメーションの含有量は、DC電圧によって調節され、シルクβ-シート構造の含有量は、脱水、機械的な力、または熱力学的処置によって電気的ゲル化シルクを処置することによってもたらされる。
【0009】
加えて、電気的ゲル化に関して様々な処理および送達デバイスが容易に想像されうる。本明細書において記述されるように、ゆっくりとした大量の送達または急速な噴霧およびコーティング送達のいずれかが望ましい生物医学および非生物医学応用のために、電気ゲル化シルクを処理および送達するデバイスが作成されている。
【0010】
本明細書において記述される電気ゲル化アプローチは、玩具から消火、医学的技法に至るまで様々な応用領域において夥しい可能性を有する。プロセスそのものは実行が容易であり、様々な実現が想像される。
【0011】
たとえば、1つの態様は、子供が電気ゲル化シルクゲルの急速なストリーム(stream)を安全に射出することができる手持ち型ディスペンサーを提供する。このシルクゲルは食用であり、香料を加えるまたは着色することができ、同様に壁に対して粘着能を有するが生分解性であり、シリーストリング(SILLY STRING、登録商標)パーティノベルティの魅力的な代用物となる特色を有する。
【0012】
本発明の電気的ゲル化プロセスによって生成されたシルクゲルはまた、組織もしくは再生組織(インビボまたはインビトロ)、または医学用インプラントなどの医学デバイスにおける、生分解性で生体適合性のコーティングとして用いられてもよい。そのような生分解性で生体適合性のインプラントコーティングは、それがインプラントの周辺組織に望ましい薬物(たとえば、抗炎症薬または増殖因子)を連続的に溶出できることから臨床的に重要である。
【0013】
もう1つの態様は、シルク溶液の交換可能なカートリッジを有する手持ち型デバイスを提供する。カートリッジはまた、シルク溶液に入れられてもよい特異的細胞または生物活性分子を含有してもよい。外科医の手によって、シルクゲルは、空隙を埋めるために、まとまった徐々に排出されるストリームでデバイスから射出されうる。組織再構築において、たとえば、ゲル化したシルクを用いれば、空隙を充填して、組織の生育を促進することができるであろう。
【0014】
もう1つの態様は、その中でシルク溶液の可逆的電気的ゲル化が、動きに関連する技術(たとえば、カメラ)手段を提供する、「ソフトロボティクス」を提供する。特に、シルクフィブロイン溶液は粘着性ではないが、シルクゲルは粘着性である。この粘液接着特徴は、カタツムリの粘液などの他の天然の粘液接着剤を模倣するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電気的ゲル化プロセスの模式図を表す。
【図2】シルク電気的ゲル化のいくつかの特色を示す。
【図3】シルク電気的ゲル化の様々な送達スタイル、特性、および追加的特色を表す。
【図4】平行電極による電気的ゲル化の設定の模式図を表す。
【図5】22.2 VDC印加の0分、20分、および275分後の平行電極電気的ゲル化実験の画像を示す。
【図6】シルクフィブロイン溶液の電気的ゲル化プロセスを例証する。
【図7】74.9 VDC印加の0分、15分、および30分後の平行電極電気的ゲル化実験の画像を示す。
【図8】24.8 VDCで30分間曝露後の平行電極と環状電極設定の比較を描写する。
【図9】個々のおよび二重のアルミニウム管電極設定の模式図を示す。
【図10】0分、5分、および15分後でのばね形状電極を利用するシリンジ(3 ml)に基づく電気的ゲル化の結果を示す。
【図11】24.8 VDC電圧を0分および10分間印加した後の、13日目および65日目の可溶化シルクの電気的ゲル化の成果の比較を示す。
【図12】24.8 VDC電圧印加の0分、5分、および10分後での、ばね形状電極を利用するシリンジ(3 ml)に基づく電気的ゲル化の結果を示す。
【図13】24.8 VDC電圧印加の0分、5分、および10分後での平行銅コイル電極を用いる電気的ゲル化を描写する。
【図14】24.8 VDC電圧で0分、5分、および10分間のゲル化時間で、平行電極の幾何学構造を用いる、塩およびDMEMを有する4%および8%可溶化シルクの電気的ゲル化の結果を示す。
【図15】グラファイト電極を用いる24.8 VDC電圧での可溶化シルクの電気的ゲル化である。
【図16】高圧電気的ゲル化の設定の図面である。
【図17】高圧電気的ゲル化の結果の模式図である。
【図18】そのあいだにオーガーを有する2つの電極を有する混合電気的ゲル化デバイス、およびゲル化の成果を示す。
【図19】排出のためのInstron(登録商標)材料試験デバイス(Grove City, PA)の設定、および代表的な成果を示す。
【図20】図20AおよびBは、シルク溶液およびDMEMに関する白金電極によるゲル化の前後の写真である。
【図21】図21A〜Cは、シルクゲルが液体型に戻るように電極の極性を逆転させた後の結果を示す。
【図22】以下のように表示された以下の成分を有する手持ち型シルクゲル排出器の態様の写真である:ハウジング99、水圧ポンプ10、プロセスボタン11、操作バルブ12、シルクカートリッジ13、タイミングおよびロジックボード14、再充電可能電池15、排出ボタン16、水圧ドライブ17。
【図23】シルクゲルを特定の部位に送達するための態様の送達末端部の左右の透視図を示す。写真は、以下のように表示される:ノズルアタッチメント20、バルブおよび(-)白金電極21、シルク溶液22、(+)白金電極23。
【図24】電気的ゲル化を用いて作成および操作されうる圧電性シルク骨格タンパク質構造の例を示す模式図である。
【図25】シルク処理技術、予想される特性、および可能な応用の描写である。
【図26】図26Aおよび26Bは、シルクの電気的ゲル化によって可動性となるサーベイランスプラットフォームの成分を示す。
【図27】図27A〜27Cは、サーベイランスプラットフォームの検査からの画像を示す。
【図28】図28A〜28Cは、活性なシルク粘液接着剤の作用を通して垂直および水平方向の双方においてアクリル表面および木製表面に取り付けられたサーベイランスプラットフォームを示す。
【図29】図29A〜29Cは、らせん状コイル電気的ゲル化パッドデザインを示す。
【図30】図30A〜30Cは、水中の垂直なプレキシガラス表面からの電気的ゲル化および制御放出を示す。
【図31】図31A〜31Cは、水中の重りの持上げに適用した場合の電気的ゲル化および制御放出を示す。
【図32】図32Aおよび32Bは、室温で約2時間乾燥させた前後の、電気的ゲル化したゲルによってコーティングされた歯科用インプラントの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
本発明は、本明細書において記述される特定の方法論、プロトコール、および試薬等に限定されず、したがって変化する可能性があることが理解されるべきである。本明細書において用いられる用語は、特定の態様を記述する目的のためであるに過ぎず、特許請求の範囲のみによって定義される本発明の範囲を制限すると意図されない。
【0017】
本明細書においておよび特許請求の範囲において用いられるように、本文が明らかにそれ以外であることを示している場合を除き、単数形には複数形が含まれ、その逆も真である。実施例またはそれ以外であると示されている場合を除き、本明細書において用いられる成分または試薬条件の量を表す全ての数値は、全ての例において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。
【0018】
特定された全ての特許および他の刊行物は、たとえば本発明に関連して用いられる可能性があるそのような刊行物において記述される方法論を記述および開示する目的のために、明白に参照により本明細書に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の提出日以前にその開示がなされたという理由のみによって提供される。この点において、いかなるものも、先行発明のためにまたは他の任意の理由からそのような開示に先行する権利が本発明者らにないと自認したと解釈されるべきではない。これらの文書の内容に関する日付または提示に関する全ての声明は、出願人に入手可能な情報に基づいており、これらの文書の日付または内容の正確性に関するいかなる承認も構成しない。
【0019】
それ以外であると定義されている場合を除き、本明細書において用いられる全ての科学技術用語は、本発明が関連する当業者に一般的に理解される意味と同じ意味を有する。任意の公知の方法、デバイス、および材料が、本発明の実践または試験において用いられうるが、この点に関して、方法、デバイス、および材料を本明細書において記述する。
【0020】
シルクフィブロインは、様々な形状およびコンフォメーションでのその天然または合成状態から再形成されうる独自のバイオポリマーである。シルクフィブロインタンパク質は最近、過去に主に利用されてきた様式である織物および医学縫合糸応用以外の利用法が発見されている。たとえば、ハイドロゲルの生成(WO2005/012606;PCT/US08/65076)、超薄膜(WO2007/016524)、厚い被膜、コンフォーマルコーティング(WO2005/000483;WO2005/123114)、ミクロスフェア(PCT/US2007/020789)、3D多孔性マトリクス(WO2004/062697)、固体ブロック(WO2003/056297)、マイクロフルイディックデバイス(PCT/US07/83646;PCT/US07/83634)、電子光学デバイス(PCT/US07/83639)、および直径がナノスケール(WO2004/0000915)から数センチメートル(米国特許第6,902,932号)までのファイバーが、バイオマテリアルおよび再生医学との関係に関して調査されている(WO2006/042287;米国特許出願公開第20070212730号;PCT/US08/55072)。この天然繊維の、天然にはあまりない強靱性は、シルクに基づく材料に、印象的な機械的特性(伸展性および圧縮性の双方)を付与し、これはKevlar(登録商標)などのほとんどの有機相対物または他のポリマー材料を超えることはないとしても、これらに匹敵する。
【0021】
シルクは、何年ものあいだ生物医学応用において用いられている。応用は、縫合材料から、腱、軟骨および靱帯などの体における工学操作組織の開発のために用いられる組織足場構造に及ぶ。特定の応用にとって必要なシルクの形状は多様である。ゆえに、シルク被膜(Jin et al., 15 Adv. Funct. Matter 1241-47 (2005))、不織布マット(Jin et al., 25 Biomats. 1039-47 (2004))、スポンジ(多孔性足場構造)(Karageorgiou et al., Part A J. Biomed. Mats. Res. 324-34 (2006))、ゲル(Wang et al, 29 Biomats. 1054-64 (2008))、および他の形状(Sofia et al., 54 J. Biomed. Materials Res. 139-48 (2000))の開発に対して多くの研究が行われている。
【0022】
これらの形状の各々に関して、昆虫に由来するシルクは通常、2段階技法を用いて溶液に処理される。カイコのシルクの場合、カイコガの繭を水溶液中で沸騰させた後、すすいで、天然のシルクを覆う膠様のセリシンタンパク質を除去する。次に、抽出されたシルクフィブロインを、LiBr中で可溶化(すなわち、溶解)した後、水中で透析する。次に、可溶化されたシルクフィブロインの濃度を、意図する使用に従って調節することができる。米国特許出願公開第20070187862号を参照されたい。または、組み換え型シルクタンパク質を用いてもよい。蛛形類に由来するシルクタンパク質を大量に収集することは難しいことが多いことから、クモのシルクを用いる場合に組み換え型が有利であることが証明されている。Kluge et al., 26(5) Trends Biotechnol. 244-51 (2008)。その上、組み換え型シルクフィブロインは、象牙質のマトリクスタンパク質1およびRGDなどの異種タンパク質またはペプチドを発現するように工学操作することができ、シルクフィブロインタンパク質に対して追加的な生物学的機能性を提供する。Huang et al., 28(14) Biomats. 2358-67 (2007);Bini et al., 7(11) Biomacromolecules 3139-45 (2006)。
【0023】
シルク溶液の標的材料形状への処理は、所望の幾何学形状および形態学に依存する標的特異的アプローチを必要とする。たとえば、エレクトロスピニングは、様々なマットおよび管状構造に重ね合わせることができるナノサイズのファイバーを生成するために用いられるプロセスである。このプロセスにおいて、高い電圧電位、典型的に10 kV〜20 kVを用い、針からシルク溶液の噴出流を急速に射出させて、サブミクロンの直径の固体ファイバーへの噴出流の固化を加速させる。プロセスは、織物様の形態を有する層となめらかな沈着下層とを構築することができる。Li et al., 27 Biomats. 3115-24 (2006)。
【0024】
特に重要なもう1つの材料形状はシルクゲルである。生物医学応用において、シルクハイドロゲルは、細胞および生物活性ポリマーの封入および送達のために用いられる。ハイドロゲルの高い水分含有量および機械的応答のために、それらはいくつかの組織回復応用に適している。様々なポリマー系において、ハイドロゲルは、ポリマー鎖が化学的または物理的手段を通して架橋して網状となる場合に形成される。架橋試薬などの化学的誘発剤またはpHもしくは温度などの物理的刺激因子が奏功することが示されている。Wang et al., 2008。
【0025】
本明細書において提供されるシルク電気的ゲル化プロセスは非常に簡素であり、DCまたはAC電圧源などの電圧源を用いて電場を印加することによって、ランダムコイルシルク溶液を準安定なシルクIコンフォメーションが増加したゲルへ変換することを伴う。電流源、アンテナ、レーザー、および他の発生装置などの、シルク溶液に電場を印加する他の方法も同様に用いうる。興味深いことに、本発明の方法を用いる電気的ゲル化は可逆的である。DC電圧を逆転させると(電極の極性を逆転させる)、シルクゲルはランダムコイルコンフォメーションに戻るように変換する傾向がある。逆転プロセスはほぼ完全であるようであり、逆転を何回も繰り返すことができ、おそらく最も重要なことに、材料の性質は、ゲルから液体シルク溶液へと交互させると劇的に変化する。ゲルは非常に粘着性で濃厚な粘液様の粘ちゅう度(consistency)を有する。液体シルク溶液は全く粘着性ではなく、ゲルと比較して非常に低い粘度を有する。ゆえに、電気的にゲル化したシルクは、カタツムリが移動のためにおよび様々な表面に自身を固定するために利用する粘液分泌物と類似の活性なシルク粘液接着剤として見なされうる。
【0026】
単純なシルクの電気的ゲル化の例において、図1Aにおいて示されるように約9%可溶化シルクフィブロイン溶液を数ml(4 ml)含有する直径70 mmのプラスチック製培養皿の底に沿って、2本の平行なワイヤ(電極)を置く。液体レベルは電極の上部をわずかに覆ってもよく、本例の電極は約40 mm離れていた。22.2 VDCの電圧電位を、高電流リチウムポリマー(Li-Pol)電池を用いて印加した。電池の陽性端子に接続された電極を「+」(正極)と呼び、電池の陰性端子に接続された他方の電極を「-」(陰極)と呼ぶ。図1Aの写真において例証されるように、電圧印加のほぼ直後に、正極および陰極上の双方に気泡が形成された。正極上の気泡、おそらく酸素ガスは、電極から外向きに、概ね陰極に向かって発散する成長しつつある「ゲルの先端」にやがて包み込まれた。275分間のあいだに、シルク溶液の有意な容積がゲル化した。このことは、印加されたDC電圧がシルクフィブロインのゲル化を引き起こすことができることを証明している。電極の表面積(図1B)および材料(図1C)の効果も同様に調べた。他のアプローチ、たとえばコイル状の電極幾何学を用いても、および/または電極材料として白金を用いても(図1D)、シルクフィブロインのゲル化が起こった。
【0027】
電気的ゲル化プロセスの電源は、直流電圧を提供する任意の電源でありうる。直流は、電池、熱電対、太陽電池等などの電源によって生成される。または、事業および住居用の一般的な電源である交流(AC)も同様に電気的ゲル化プロセスを誘導するために用いられてもよいが、ゲルの形成は、直流電圧によって誘導されるゲル化プロセスほど速くない可能性がある。
【0028】
一般的に、ゲル化したシルクを電気的ゲル化プロセスから除去した後、得られる材料は非常に粘度が高く、柔らかく、非常に粘着性である。時間が経つにつれて、ゲル化したシルクは非常に堅くなりうる。図2は、シルクの電気的ゲル化のいくつかの特色を示す。電気的ゲル化は、低い電圧および電流のプロセスであり、10分未満でゲル化を引き起こすことができる。プロセスを、手持ち型デバイスに組み入れると、低いコストであるが、多様な標的ゲル化容積に対して拡大可能なアプローチを提供することができる。シルクの改変によって、いくつかの応用に関して香料を付与することができ、他の応用に関して細胞または生物活性分子を封入することができる。シルクの生体適合性および分解の制御を提供できることが証明されたことはまた、応用特異的表現に組み入れられうる要素でもある。
【0029】
言及したように、電気的ゲル化は、ランダムコイルからシルクIコンフォメーションへのシルクフィブロインの少なくともいくつかのコンフォメーションシフトを誘発するようである。この現象は、主にβ-シートコンフォメーションが起こる傾向があるpHの操作、加熱、様々なイオンの適用、および機械的剪断などの、シルクのゲル化を誘導する他のいくつかの機序によって達成される現象からは独自である。電気的ゲル化によって達成される準安定なシルクIコンフォメーションの増加は、β-シートコンフォメーションの場合より達成するためにより用途の広い材料相である。たとえば、シルクIゲル形状を液体型(ランダムコイル)に戻るように変換させることができ、または分子の最低減の追加的整列を通してβ-シートに変換することができる。これによって、図24において示されるように、双方の構造を含む複合体の作成および操作が可能となる。
【0030】
興味深いことに、α-ヘリックスで整列したシルクポリペプチド鎖はまた、圧電特性を示すことが示されている。圧電材料は、75%もの高い効率で電気シグナルを物理的な次元の変化に変換するまたはその逆であることが知られている。骨は、その構造の多くを占める石灰化(らせん状)コラーゲンマトリクスにより圧電特性を示す。骨の機械的荷重および荷重除去によって引き起こされる微細な電気シグナルは、骨の形成および修復の双方において重要な役割を果たす。埋め込まれたデバイスにおいてこれらの本来の特性を適合させることは、患者の回復を早めて損傷前の運動性の回復を助ける可能性を有する。方向性のシルクIドメインに沿って強くて遅く分解するシルクモチーフを含有するハイブリッド材料は、改善された骨修復が含まれる多数の生物医学応用において用いられうる強い「高性能の」材料プラットフォームを提供する。α-ヘリックス含有量対β-シート含有量の相対比を調整することによって、シルクのマクロ構造の強度、分解性、および圧電特性を、広範囲の材料特性にわたって変化させることができる。
【0031】
理論に拘束されることなく、電気的ゲル化は、印加された電場によるコンフォメーションの変化として説明されうる。水溶性のシルク溶液中に電極および電圧を典型的に直接導入すると、電気分解を誘発するが、これは電気的ゲル化において主要な役割を果たさないと考えられる。電気分解は、電極でのシルク溶液のpHレベルに急速に影響を及ぼし、正極付近のpHが減少するが(pH 4未満)、陰極付近のpHは増加する(pH 13より上)。酸素ガスが正極で生成され、陰極では水素ガスが生成されて、pHレベルに影響を及ぼしている可能性が高い。重要なことに、これらのpH変化は電気的ゲル化の必要条件ではないようであり、電気的ゲル化はシルクフィブロインにおいてpHとは無関係に起こる。電気的ゲル化は約pH 6〜約pH 7.5のpH範囲で達成されうる。プロセスの電気的説明に関して、シルクタンパク質は、小さい側鎖を有する(グリシン、アラニン、セリン)非常に反復性の高いアミノ酸配列からなると認識することが重要である。電場の存在下、磁気双極子として作用する極性側鎖は電場の方向を向く可能性があり、大きい電気モーメントを有する分子コンフォメーションはおそらく濃度が増加する。電気的ゲル化の場合、ゲル形成によって表されるコンフォメーションの変化はそのような機序による可能性がある。 Neumann, 47 Prog. Biophys. Molec. Bio. 197-231 (1986)。
【0032】
可能性がある応用を図3に描写するが、これは様々な送達スタイル、達成可能なゲル特性、および本発明に包含される追加的特色を記述する。電気的ゲル化シルクは、スプレー、ストリーム、低速排出の形状で、およびバルクでゲルを作成するために送達されてもよい。ゲルの処理および操作によって、軟性、ゴム様、硬性、湿潤性、および粘着性の粘ちゅう度が達成されうることが示されている。これらの特性の組み合わせも達成可能である。たとえば、ゲル化したシルクの柔らかく、湿潤性で粘着性の形状を作成することができる。これらのスタイル、特性、および特色は、可能な多くの応用における電気的ゲル化の有意な機会を提供する。
【0033】
たとえば、シリーストリング(SILLY STRING、登録商標)パーティストリング(Just For Kicks, Inc.)は、明るい色のプラスチック製ストリングの粘着性のストリームを形成する液体を噴射するエアロゾル缶である。たとえばHow Stuff Worksのウェブサイトを参照されたい。主に子供向けに販売されるが、この製品は、イラクでの米国陸軍によって新たな応用を見いだされ、兵士はこれを玄関口および部屋における偽装されたトリップワイヤを明らかにするために用いて、それによって人員に対する重大な危害を防止している。Santana, NJ. woman collects Silly String for serious mission in Iraq, USA TODAY (December 11, 2006)。この製品は特に子供におよびお祝いの際に非常に人気があるが、直火の周囲で用いると有害となりえて、壁紙および他の材料に損害を与えることがあり、生分解性ではなく、海洋生物に対して特に有害である可能性がある。実際に、ロサンゼルス(ハロウィーンの夜のパーティストリングの清掃費用は200,000ドルを超える)などのいくつかの地域は、これを禁止している。LAMC §56.02 (2004)。シルクに基づくパーティストリングは、柔軟なストリームで射出されうるが、既存のパーティストリングとは異なり、シルクゲル版は生分解性で生体適合性であり、環境に対する害がより少なく、子供に対してもより高い安全性を提供する。実際に、シルクゲルに香料を加えてもよく、摂取してもリスクは最小である。
【0034】
本発明のもう1つの態様は、消火において用いるためのフォームまたはゲルを提供する。様々な消火用ゲルが市販されている。たとえばTHERMO-GEL(登録商標)ゲル濃縮液(Thermo Technologies, LLC)は、水に添加するとクラスA難燃剤に変換する。これは、空軍での応用において戦闘時の火炎に対して、および構造を保護するために有効でありうる。もう1つの市販されている消火用ゲルであるAURORAGEL(商標)breakable fire gel(McCoy & Assoc, Inc.)は、酸素の利用率を制限すること、ゲルの層によって燃料源を隔離すること、燃焼しているものの温度を低下させることによって火炎を停止して防止する。AURORAGEL(商標)fire gelは、本質的にゲル化した水の厚い層であり、確実に水が表面に接触して留まるようにする。これを、水平および垂直表面に噴霧することができるが、追加的な保護のために消防士にも噴霧することができる。このゲルはノズルから送達されることができ、安全なゲル化剤を含有し、カルシウム含有水によって除去されうる。本発明において記述される電気的ゲル化プロセスを利用して、シルクに基づくゲルを消火応用に利用してもよい。シルク溶液を急速にゲル化して、それをノズルを通して噴霧できることが証明されている。化学的改変を利用して、シルクゲルの難燃性を改善してもよい。得られたゲルは、生体適合性で生分解性である全てが水溶である系で構成されえて、垂直および水平構造要素に噴霧することが可能で、追加的な保護のために消防士自身に噴霧することが可能である。
【0035】
本発明の重要な態様は、熱傷および創傷の処置などの医学的応用を提供する。熱傷の犠牲者は、罹患組織を冷却して感染症を予防するための待機的手段を伴う処置戦略、重度に損傷した組織の除去および適した材料との交換を伴うより集中的戦略を必要とする。現在、救急の応急処置シナリオにおいて熱傷処置のために用いることができる多くの製品が市場に存在する。たとえば、Water-Jel Technologies(Carlstadt, NJ)は、静菌特性および生分解特性の双方を有する水性基剤のハイドロゲルを組み入れた毛布、包帯、およびゲルを製造している。ゲルは熱傷領域を冷却して、感染症に対して保護することができ、および疼痛を軽減するためにリドカインを含めることができる。BURNFREE Products(Sandy, UT)は、類似の分野の熱傷処置製品を有する。その非常に粘度の高いゲルは熱傷創傷の場所に留まるが、さらなる処置のために完全にすすぎ落とすことができる。ゲルは、予想される使用条件下での機能性を確保するために、抗蒸発剤、濃化剤、および保存剤添加物を含有する。組織工学研究に由来する他のより洗練された製品が市販されつつある。Cook Biotech, Inc.(West Lafayette, IN)のOASIS(登録商標)創傷マトリクスは、第二度の熱傷を処置するために用いられうるブタ起源に由来する材料であり、患者の細胞が損傷組織と置き換わるように湿潤環境を提供する。
【0036】
有意な損傷が起こっている中等度の皮膚熱傷の場合、自家移植は1つの処置戦略でありうる。自家移植は、損傷した皮膚を体における他の場所からの健康な皮膚に交換することを伴う。このアプローチの代わりとして、EPICEL(登録商標)培養表皮自己移植片として知られるGenzyme(Cambridge, MA)社の製品を永続的な皮膚置換物として用いることができる。患者の皮膚の細胞(マウス細胞と同時培養した)を用いることによって、免疫の拒絶を恐れることなく同種異系移植片を培養することができる。プロセスは、2週間を要し、体全体を覆うために十分な置換皮膚を産生しうる。EPICEL(登録商標)培養表皮自己移植片は、米国における主要な熱傷施設において用いられる。類似の応用において用いられる他の製品には、Integra(商標)二層マトリクス創傷包帯(Integra Lifescience Holdings Corp., Ontario, Canada);ALLODERM(登録商標)無細胞皮膚マトリクス(LifeCell Corp., Branchburg, NJ);ORCEL(登録商標)二層細胞マトリクス(Forticell Bioscience, Inc., New York, NY);およびAPLIGRAF(登録商標)生存皮膚パッチ(Organogenesis Inc., Canton, MA)が含まれる。
【0037】
シルクに基づくハイドロゲル製品は、創傷、特に熱傷創傷の処置において有意な影響を有しうる。シルクゲルは水性基剤で生分解性であることから、これは、廃棄物を生じることなく容易に適用または除去されうる。その接着性および高い粘度のために、ゲルはその場に留まることができ、創傷を冷却して空気媒介性の汚染を防止する。組織工学アプローチおよび組み換え技術を応用することによって、創傷を保護して、組織再生を刺激するために、細胞、薬物、および/または他の生物活性分子をシルクゲルに組み入れてもよい。たとえば、電気的ゲル化プロセスにおいて使用されるシルクフィブロインペプチドに、VEGFまたはBMP-2などの組み換え型増殖因子が含まれない場合、これらをフィブロインタンパク質にコンジュゲートさせてもよく、または電気的ゲル化が行われる前の何らかの適した時間でフィブロイン溶液に添加してもよい。
【0038】
さらに、シルクゲルは、特にβ-シートコンフォメーションの誘発において、構造的コンフォメーションをもたらすように操作されうることから、シルクゲルは、骨修復において特に有用でありうる。たとえば、組み換え型シルクペプチドを、シルクコンセンサスリピートと共にシルクIコンフォメーションペプチドへと電気的ゲル化して、β-シートの襞に対して平行にらせんドメインを加えてもよい。このようにして、シルクIコンフォメーションの双極モーメントは相加的に組み合わさり、互いに打ち消し合うことなく、材料の真の双極モーメントに至り、上記のようにバルク圧電挙動を生じる。シルクIドメインの含有量を変化させることによって、真の圧電応答を調整することができる。さらに、バルク材料を産生する場合、シルクIドメインを含有するタンパク質を非改変シルクタンパク質と混和して、系の真の強度を増加させて、系の真の圧電特性を変更することができる。バルク材料は、真の双極子が存在するように十分に異方性に向いていなければならない。それ自身平行に自己集合する電気的ゲル化プロセスからのシルクIコンフォメーションを利用することによって、全体的な系は増加した方向性を示す。繊維を生成する場合、分子の整列を誘導するために狭い開口部からタンパク質を排出させることができる。系をゆっくり乾燥させると、最もエネルギー的に都合のよい平行な整列の助けとなりえて、系の真の双極モーメントが得られる。最初の材料を、AFM(先端が表面に当たると領域の電気的応答が測定される)によって顕微鏡レベルで検査してもよい。バルク材料に関する測定は、電気的負荷にカップリングした状態での負荷試験が含まれる多数の技術によって行われうる。このように、電気的ゲル化は、タンパク質マトリクスにおけるシルク-らせん含有量の相対比を調べて活用できる能力、機械的特性に関連する圧電特色を最適化することができる能力、および骨修復系にとって有用なバルクシステムを形成するために適した選択肢を同定できる能力を与える。
【0039】
たとえば、シルクの電気的ゲル化は、手持ち型の市販のLi-Pol電池によって達成されうることから、本発明のアプローチは、救急救命士または戦場の従軍医師などの、まず初めに応答する者にとって極めて有用でありうる。シルクゲルより容積が少ない可溶化シルクフィブロイン溶液は、水溶性で室温で安定であり、シルクゲルが必要である場合に(たとえば、創傷を覆うために)、医療従事者が電池によって操作される電場にシルク溶液の一部を曝露して、10分以内に患者に用いるために適したシルクゲルを手にすることができるように、電池およびスイッチを備えたデバイスにおいて運ばれてもよい。
【0040】
たとえば、図22を参照すると、これは、内部で電気ゲル化されたシルクを生成して、例えば生物医学型応用のために一定のストリームを送達するためのデバイスおよびハウジング(99)の1つの態様である。使用する場合、操作バルブ(12)を開いて、シルクフィブロイン溶液を含有するシルクカートリッジ(13)を挿入する。この時点で、LEDが、スタンバイシグナル(たとえば、緑色)を表示する。ユーザーがプロセスボタン(11)を押すと、これがタイミングおよびロジックボード(14)に、充電型電池でありうる電池(15)を用いて電場を生成するように誘発する。LEDは、異なる色(たとえば、赤色)を表示して、処理が進行中であることを示す。タイミングおよびロジックボード(14)はまた、ゲル化処理の時間を調節可能にモニターする。既定の時間が経過すると、LEDは色が変化して(たとえば、緑色に戻る)、ユーザーは操作バルブ(12)を閉める。ユーザーが排出ボタン(16)を押すと、水圧ポンプ(10)および水圧ドライブ(17)が嵌合してユニットの先端からシルクゲルを射出する。
【0041】
シルクゲルを所望の位置に送達するためのデバイスはまた、図23において示されるような特殊なシルクカートリッジデバイスを用いてもよい。この図において、DC電圧は電池によって供給され、シルク溶液中に浸された白金正極(23)およびバルブとしても作用する管状の陰極(21)によってシルク溶液(22)中で電場を作成する。ノズルアタッチメント(20)も示されており、これを取り外して、ノズル(20)から射出される際にシルクゲルに剪断力が適用されるようにより大きいまたはより小さい口径のノズルに交換してもよい。電気的にゲル化したシルクに、ノズルを通して選択された剪断力を適用することによって、準安定的なシルクゲルの分子コンフォメーションをたとえばシルクIからβ-シートに操作してもよく、これは排出されるシルクゲルの溶解度および機械的特性に影響を及ぼす。
【0042】
本発明のもう1つの態様は、美容外科または再建手術における医学的充填材料として用いるためのシルクフィブロインの電気的ゲル化を提供する。美容的強化に対する現在のアプローチは、顔の筋肉を麻痺させて、一時的に眉間のしわまたは小じわを消すBOTOX(登録商標)ボツリヌス毒素A(Allergan Inc., Irvine, CA)の注射を用いうる。または、COSMODERM(登録商標)コラーゲン皮膚充填剤およびCosmoplast(登録商標)コラーゲン皮膚充填剤は、「ヒトに基づく」タンパク質インプラントであり、ならびにZYDERM(登録商標)およびZYPLAST(登録商標)コラーゲンインプラントは、顔の輪郭、小じわ、およびシミをきれいにするためにFDAの承認を受けているウシ由来製品である。ヒアルロン酸などの他の材料は薄い唇および顔のしわを埋めることができる。ヒトの骨において見いだされる鉱質様材料であるヒドロキシアパタイトは、さらに深いしわを埋めることができる。加えて、脂質(脂肪)組織を患者自身の体から採収して顔の位置に注入し、そこで充填剤がしわを高めることができ、または小じわをなめらかにすることができる。罹患領域における組織の切除を必要とする一定の外傷または疾患は、充填を必要とする欠損または空隙を残す可能性がある。たとえば、乳房切除術によって、胸部に大きい空隙空間ができるが、これは、切除された乳房の場所の上に皮膚のひだを縫合することによって、またはインプラントもしくは患者から採集した脂質(脂肪)組織によって胸部を再度埋めることによって除きうるであろう。血管再生の欠如により、移植体積の低減が問題となりうる。乳房再建のための脂肪組織に対する組織工学アプローチが追求されている。PLGAなどの多孔性ポリマーフォームを前脂肪細胞に播種すると、脂肪組織形成を生じる。これらの材料は堅すぎて患者を不快にすると考えられている。アルギン酸塩およびヒアルロン酸ハイドロゲルなどの材料の注入も同様に調べられている。Patrick, 19 Seminars Surgical Oncol. 302-11 (2000)。
【0043】
電気的にゲル化したシルクは、美容外科および再建手術の双方において役立ちうる。シルクハイドロゲルは、特定の応用のために望ましい特性を有するように容易に調整される。たとえば、乳房再建の場合、柔らかいシルクゲルの注入は、埋込PLGAに関して報告されているよりも患者にとって高レベルの快適さを提供する可能性がある。細胞播種シルク由来ゲルが生きている工学操作組織に分化できることが証明されたことは、多くの外科的応用にとって魅力的である。シルクの電気的ゲル化に基づいて迅速なプロトタイプ作成能を開発することができれば、おそらく術前に患者から走査された3D画像を用いて、3D組織工学操作足場構造を生成することができる。公知の組織工学操作戦略を適用すると、播種した細胞は、脂肪組織に分化して、患者の自然の乳房の幾何学形状にマッチする幾何学形状と長期間の安定性の双方を提供する可能性がある。
【0044】
言及したように、電気的にゲル化したシルクを、少なくとも1つの物質のシルクゲルへの封入を可能にするように改変してもよい。物質は、電場を生成するためにシルク溶液に電圧を印加する前、あいだ、または直後にシルクフィブロイン溶液に導入されてもよい。いくつかの物質は、電圧または電流によって有害な影響を受ける可能性があり、ゆえに電場の印加後までシルクフィブロイン溶液に導入されてはならない。たとえば、電流の印加は、印加された電圧および電流の程度に応じて、生細胞に損傷を与えるまたは破壊する可能性がある。よって、電気的にゲル化したシルクに物質を封入する技法および条件には注意を払い、たとえば物質は電場の印加直後にシルク溶液に導入されうる。
【0045】
電気的にゲル化したシルクに封入される物質は、シルクゲルに封入することができる任意の物質でありうる。たとえば、物質は、細胞(幹細胞が含まれる)、タンパク質、ペプチド、核酸(DNA、RNA、siRNA)、核酸アナログ、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたは配列、ペプチド核酸、アプタマー、抗体、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組み換え型増殖因子ならびにその断片および変種、サイトカインまたは酵素、抗生物質、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬物、ならびにその組み合わせなどの治療物質または生物学的材料でありうる。電気的ゲル化シルクに封入するために適した例示的な物質には、細胞(幹細胞が含まれる)、エリスロポエチン(EPO)、YIGSRペプチド、グリコサミノグリカン(GAG)、ヒアルロン酸(HA)、インテグリン、セレクチン、およびカドヘリン;鎮痛薬および鎮痛薬の組み合わせ;ステロイド;抗生物質;インスリン;インターフェロンαおよびγ;インターロイキン;アデノシン;化学療法剤(たとえば、抗癌剤);腫瘍壊死因子αおよびβ;抗体;RGDまたはインテグリンなどの細胞接着メディエータ、または他の天然に由来するもしくは遺伝子操作されたタンパク質、多糖類、糖タンパク質、細胞毒、プロドラッグ、免疫原、またはリポタンパク質が含まれる。
【0046】
1つまたは複数の物質を電気的ゲル化シルクに封入してもよい。例として、細胞などの生物材料を封入する場合、物質の生長を促進するために、それが封入から解放された後の物質の機能性を促進するために、または封入期間のあいだ物質が生存するまたはその効能を保持する能力を増加させるために他の材料を添加することが望ましい可能性がある。細胞の生育を促進することが知られている例示的な材料には、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)などの細胞増殖培地、ウシ胎児血清(FBS)、非必須アミノ酸および抗生物質、ならびに線維芽細胞増殖因子(たとえば、FGF 1〜9)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF-IおよびIGF-II)、骨形態形成増殖因子(たとえば、BMP 1〜7)、骨形態形成様タンパク質(たとえば、GFD-5、GFD-7、およびGFD-8)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-α、TGF-βI〜III)、神経生長因子、および関連タンパク質などの増殖因子および形態形成因子が含まれるが、これらに限定されるわけではない。増殖因子は、当技術分野において公知であり、たとえば、Rosen & Thies, CELLULAR & MOL. BASIS BONE FORMATION & REPAIR(R.G. Landes Co.)を参照されたい。シルクゲルに封入される追加的な材料には、DNA、siRNA、アンチセンス、プラスミド、リポソーム、および遺伝材料を送達するための関連系;活性な細胞シグナル伝達カスケードに対するペプチドおよびタンパク質;細胞からの無機質化または関連事象を促進するためのペプチドおよびタンパク質;ゲル-組織界面を改善するための接着ペプチドおよびタンパク質;抗菌ペプチド;ならびにタンパク質および関連化合物が含まれうる。
【0047】
生物活性物質を封入する電気的ゲル化シルクは、制御放出での活性物質の送達を可能にする。電気的ゲル化シルク調製プロセスを通して活性状態で生物活性物質を維持することによって、シルクゲルからの放出の際に生物活性物質は活性でありうる。活性物質の制御放出により、活性物質は、制御放出速度で経時的に持続的に放出される。いくつかの例において、生物活性物質は、処置が必要である部位に連続的に、たとえば数週間にわたって送達される。たとえば一定期間の制御放出、たとえば数日間、または数週間、またはそれより長い放出により、好ましい処置を得るために、生物活性物質の連続的送達が可能である。制御送達ビヒクルは、それが体液および組織において、たとえばプロテアーゼによるインビボでの生物活性物質の分解を防止することから、有利である。
【0048】
電気的ゲル化シルクからの活性物質の制御放出は、たとえば12時間または24時間のあいだに起こるように設計されうる。放出時間は、たとえば約12時間〜約24時間;約12時間〜42時間;またはたとえば約12〜72時間の期間起こるように選択されてもよい。もう1つの態様において、放出はたとえば、約1日〜15日の程度で起こってもよい。制御された放出時間は、処置される状態に基づいて選択されうる。たとえば、創傷治癒の場合にはより長い期間がより有効である可能性があるが、いくつかの心血管応用の場合にはより短い送達時間がより有用である可能性がある。
【0049】
インビボでの電気的ゲル化シルクからの活性物質の制御放出は、たとえば約1 ng〜1 mg/日の量で起こってもよい。他の態様において、制御放出は、約50 ng〜500 ng/日の量で起こってもよく、またはもう1つの態様において、約100 ng/日の量で起こってもよい。たとえば治療応用に応じて、治療物質10 ng〜1 mg、または約1μg〜500μg、または約10μg〜100μgが含まれる治療物質および担体を含む送達系を処方してもよい。
【0050】
生物活性物質を封入した電気的ゲル化シルクを含有する薬学的製剤を調製してもよい。生物活性物質は、先に記述された1つまたは複数の活性物質でありうる。製剤は、電気的ゲル化シルクに封入されている特定の生物活性物質を必要とする患者に投与されうる。
【0051】
薬学的製剤はまた、公知の賦形剤などの他の薬学的製剤において見いだされる一般的な成分を含有してもよい。例示的な賦形剤には、望ましい特定の投与剤形にとってふさわしいように、希釈剤、溶媒、緩衝剤、または他の液体ビヒクル、溶解剤、分散または懸濁剤、等張物質、粘度制御剤、結合剤、潤滑剤、界面活性剤、保存剤、安定化剤等が含まれてもよい。製剤にはまた、増量剤、キレート剤、および抗酸化剤が含まれてもよい。非経口製剤を用いる場合、製剤には、追加的にまたは代替的に、糖、アミノ酸、または電解質が含まれてもよい。
【0052】
薬学的に許容される担体として役立ちうる材料のいくつかの例には、乳糖、グルコース、およびスクロースなどの糖;コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、および大豆油などの油;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの非毒性の適合性の潤滑剤;トレハロース、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどの、たとえば分子量約70,000 kD未満のポリオールが含まれるが、これらに限定されるわけではない。たとえば、その開示が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,589,167号を参照されたい。例示的な界面活性剤には、Tween界面活性剤、ポリソルベート20または80などのポリソルベート等、およびポロキサマー184または188などのポロキサマー、Pluronicポリオールおよび他のエチレン/ポリプロピレンブロックポリマー等などの非イオン性界面活性剤が含まれる。適した緩衝剤には、Tris、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、またはヒスチジン緩衝液が含まれる。適した保存剤には、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが含まれる。他の添加剤には、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、およびゼラチンが含まれる。適した安定化剤には、ヘパリン、ポリ硫酸ペントサン、および他のヘパリノイド、ならびにマグネシウムおよび亜鉛などの二価の陽イオンが含まれる。着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、香料および着香料、保存剤、および抗酸化剤も同様に、処方者の判断に従って組成物に存在しうる。
【0053】
薬学的製剤は、局所適用、経口、眼内、鼻腔内、経皮、または非経口(静脈内、腹腔内、筋肉内、および皮下注射のみならず、鼻腔内または吸入投与)、および埋め込みが含まれる当技術分野において公知の多様な経路によって投与されうる。送達は、全身性、限局的、または局所であってもよい。加えて、送達は、髄腔内、たとえばCNS送達であってもよい。
【0054】
薬学的製剤は、公知の賦形剤などの他の薬学的製剤において見いだされる一般的な成分を含有してもよい。例示的な賦形剤には、望ましい特定の投与剤形にとってふさわしいように、希釈剤、溶媒、緩衝剤、または他の液体ビヒクル、溶解剤、分散または懸濁剤、等張物質、粘度調節剤、結合剤、潤滑剤、界面活性剤、保存剤、安定化剤等が含まれる。製剤にはまた、増量剤、キレート剤、および抗酸化剤が含まれてもよい。非経口製剤を用いる場合、製剤には、追加的にまたは代替的に、糖、アミノ酸、または電解質が含まれる。
【0055】
薬学的に許容される担体として役立ちうる材料のいくつかの例には、乳糖、グルコース、およびスクロースなどの糖;コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、および大豆油などの油;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの非毒性の適合性の潤滑剤;トレハロース、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどの、たとえば分子量約70,000 kD未満のポリオールが含まれるが、これらに限定されるわけではない。たとえば、米国特許第5,589,167号を参照されたい。例示的な界面活性剤には、Tween界面活性剤、ポリソルベート20または80等などのポリソルベート、およびポロキサマー184または188などのポロキサマー、Pluronicポリオールおよび他のエチレン/ポリプロピレンブロックポリマー等などの非イオン性界面活性剤が含まれる。適した緩衝剤には、Tris、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、またはヒスチジン緩衝液が含まれる。適した保存剤には、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが含まれる。他の添加剤には、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、およびゼラチンが含まれる。適した安定化剤には、ヘパリン、ポリ硫酸ペントサン、および他のヘパリノイド、ならびにマグネシウムおよび亜鉛などの二価の陽イオンが含まれる。着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、香料および着香料、保存剤、ならびに抗酸化剤も同様に、処方者の判断に従って組成物に存在しうる。
【0056】
治療物質を封入した電気的ゲル化シルクを含有する薬学的製剤は、治療物質の一部が一定期間のあいだに患者に放出されるように制御放出様式で投与されうる。治療物質は、急速または徐々に放出されてもよい。例として、薬学的製剤は、治療物質の約5%未満が1ヶ月のあいだに電気的ゲル化シルクから患者に放出されるように投与されうる。または、治療物質のより多くの部分が最初に放出されてもよく、より少ない部分がシルクゲルに保持されて、後に放出されてもよい。たとえば、薬学的製剤は、治療物質の少なくとも5%が投与後10日目にシルクに留まるように投与されうる。
【0057】
電気的ゲル化シルクは、多様な分野において有用である様々な他の活性物質を封入してもよい。例として、活性物質は酵素または酵素に基づく電極であってもよい。酵素または酵素に基づく電極は、組織工学、バイオセンサー、食品産業、環境制御、または生物医学応用の分野において用いられうる。この系はまた、ビタミン、栄養分、抗酸化剤、および他の添加剤を有するように食品産業において;環境修復または水の処置のための微生物を有するように環境分野において;材料不全および材料の自己修復の非破壊的評価のためなどのインサイチュー検出および修復成分源として役立つように添加剤として材料において;ならびに細胞、分子、および関連する系を安定化させるために役立つように生物学的検出スキームのためなどの、多様な要求のためのリザーバーとして用いられうる。
【0058】
本明細書において記されるように、シルクフィブロインゲルは食用であり、香味をつけてもよい。よって、ビタミン、栄養補助食品、または他の薬剤の香味付きシルクゲル製剤を小児での使用のために製造しうる。ゲルは、予め形成されて包装されてもよく、または成人の監督下で事務所または家庭でゲルを作成する適したディスペンサー中の溶液として調製されてもよい。
【0059】
本発明のもう1つの態様は、組織、再生組織、医学的デバイス、および医学的インプラント上の生分解性および生体適合性のコーティングとして用いるための電気的ゲル化シルクを提供する。生分解性および生体適合性のインプラントコーティングは、望ましい薬物(たとえば、抗炎症薬または増殖因子)をインプラントの周辺組織に連続的に溶出できることから臨床的に重要である。このように、静脈内送達などのさらなる薬物送達法が回避されうる。インプラントまたはデバイスコーティングに薬物を包埋することによって、薬物は標的部位でより高用量で濃縮されて、生物全体にはあまり広がらない。
【0060】
PLAまたはPGA被膜などの現在の生分解性で生体適合性のインプラントコーティングは、組み入れられた薬物の活性に障害を与えうる高い処理温度または過酷な条件を伴う。加えて、従来のコーティング技術およびコーティング材料の制限のために、従来の分解性のインプラントコーティングは、単純なインプラント型に限って応用可能であり、内部構成またはアンダーカット(undercut)を有するインプラントなどの複雑なインプラント幾何学構造のコーティングには適していない。しかし、現代の進んだ生体力学的設計によって、歯の埋め込み技術、外傷学、整形外科、および心血管応用などの生物医学分野において用いられるインプラント形状はしばしば複雑となる。このゆえに、脊椎ケージ(spine cage)、冠動脈ステント、歯科用インプラント、または股関節および膝人工補綴物などの複雑なインプラントの設計にとって、新しいタイプの生分解性で生体適合性のインプラントコーティング材料および技術が必要である。
【0061】
電気的ゲル化は、白金ワイヤ電極から嵌め合い金属板までの広範囲の電極材料および幾何学を用いて、シルクによってコーティングされうる組織(インビトロまたはインビボ)に適用されうることから、電気的ゲル化は、他の医学デバイスコーティング技術に対して優れうる。このゆえに、本発明に従うシルクe-ゲル(本明細書において定義されるシルクe-ゲルは、電気的ゲル化シルクゲルを指す)は、組織または多様な医学的デバイスおよび医学的インプラント上の薄膜コーティングまたはバルクコーティングとして用いられうる。
【0062】
本明細書におけるシルクe-ゲルコーティング技術は、本発明の態様において記述されるシルク電気的ゲル化プロセスを使用する。シルクe-ゲルコーティングプロセスに関する単純な例において、電気エネルギーを印加することによって、シルクフィブロイン水溶液を局所的にゲル様状態にすることができる。インプラントなどの医学的デバイスは、正の電極(たとえば、インプラントまたはデバイスは回路の正の電極に接続される)として実際に用いられ、コーティングされることが望ましいデバイスの全ての表面が溶液に接触するまでシルク水溶液に浸される。適当な電圧および電流(たとえば、U=25 V、I=10 mA)を印加すると、正の電極(デバイス)周囲のシルク水溶液はほぼ直後にゲル様構造に変化して(いわゆるe-ゲル効果)、ゲル様構造は、電子回路が開かれるまで、デバイスの溶液接触表面(複雑な幾何学構造の外部表面または内部表面のいずれか)から周辺のシルク溶液へと生長する。e-ゲル効果は、シルク溶液中に挿入された任意の基質(たとえば、組織または医学用デバイス)に適用することができ、基質上に均一な生分解性で生体適合性のシルクe-ゲルコーティングを生じることができる。
【0063】
シルクe-ゲルコーティングは、バルクゲルコーティングの形状または薄膜コーティングのいずれかの形状であってもよい。たとえば、上記の電気的ゲル化プロセスは、基質の表面において成長する均一なバルクシルクe-ゲルコーティングを生じることができる。任意で、シルクe-ゲルコーティングされた基質を、安定なβ-シートコンフォメーションを達成するために脱水処置法によってさらに処置してもよい。脱水処置とは、シルクe-ゲルコーティング基質を空気中で乾燥させること、または窒素ガスなどの脱水ガスもしくはメタノールなどの脱水溶媒の流れにシルクe-ゲルコーティング基質を曝露することを指しうる。たとえば、シルクe-ゲルコーティングを乾燥させると、水の蒸発を誘導して、シルクe-ゲルコーティングを基質上で機械的に安定なシルク薄膜に変換することができる。
【0064】
図32Aは、記述した直接電気的ゲル化技術によって、シルクe-ゲルによってコーティングされたStraumann(登録商標)歯科用インプラント(BL RC、φ4.1 mm、10 mm SLActive(登録商標)、Straumann, Basel, Switzerland)を例証する。歯科用インプラント480を正の電極として用いて、約4.5%シルク溶液の中に挿入する。25 Vの電圧電位を、電流10 mAで10秒間歯科用インプラント480に印加した。均一なシルクe-ゲル485が歯科用インプラント480上に形成される。図32Aにおいて示されるシルクe-ゲルコーティング歯科用インプラント480を、室温で2時間乾燥させて、e-ゲル中の水を蒸発させる。その後シルクe-ゲルは縮み、図32Bにおいて示されるように機械的に安定なシルク薄膜489を形成する。
【0065】
電気的ゲル化シルクのコーティングのための基質には、任意の数の組織または再生組織材料または医学的デバイスおよびインプラントのみならず、診断および/または治療および/または外科目的のためにおよびその適切な応用のために、単独または組み合わせて用いられる任意の機器、装置、器具、材料、または他の商品が含まれてもよい。たとえば、細胞増殖因子を含有するシルクe-ゲルコーティングを、熱傷創傷治癒を促進するためにインビボで皮膚組織に適用してもよい。例示的な医学的デバイスおよびインプラントには、歯科用充填材料、歯科用人工補綴デバイス(たとえば、歯冠、ブリッジ、取り外し可能な義歯)、歯科用インプラント(たとえば、骨組み込みインプラント)、および矯正装置(たとえば、歯科用固定具または保定装置)などの歯科応用におけるデバイスおよびインプラント;骨充填材料、関節形成デバイス(たとえば、股関節および膝人工補綴物)、整形外科インプラント(たとえば、股関節、膝、肩、および肘の人工補綴物、骨セメント、人工関節補綴成分)、顎顔面インプラントおよびデバイス(たとえば、頭蓋、顔、および顎人工補綴物)、脊椎デバイスまたはインプラント(たとえば、脊髄、脊柱、脊椎ケージ)、骨および/または関節成分を固定するための骨接合デバイスおよび機器(たとえば、釘、ワイヤ、ピン、プレート、ロッド、ワイヤ、ねじ、または他の固定具)などの整形外科応用におけるデバイスおよびインプラント;創傷治癒デバイスまたはインプラント(皮膚、骨、および血管創傷移植片およびパッチ、縫合糸、血管創傷修復デバイス、止血包帯)などの外傷応用におけるデバイスおよびインプラント;人工血管補綴物、ステント、カテーテル、血管移植片、心臓弁およびペースメーカーなどの心血管デバイスおよびインプラント;コーティングしたプローブを有するアルゴン強化凝固デバイスなどの凝固デバイス;埋め込み可能な人工臓器(たとえば、人工心臓、肝臓、腎臓、肺、脳ペースメーカー等);またはオクルダー、フィルター、ねじ、ボルト、ナット、ピン、プレート、ギア、スリーブベアリング、ワッシャー、アンカー(縫合および/または腱固定のため)、プラグ、釘等などの他の小さい埋め込み材料が含まれる。加えて、メス、鉗子、へら、キュレット、ステオトーム、ノミ、切骨器、抜去器等などの医学用器具をシルクe-ゲルによってコーティングしてもよく、さらに患者の転帰に効果を表すように、抗生物質または抗凝固剤などの活性物質をシルクe-ゲルコーティングに包埋してもよい。同様に、獣医学インプラント、デバイスおよび機器にもまた、本発明に従ってシルクフィブロインゲルを含ませうる。
【0066】
電気的ゲル化シルクをコーティングするための基質は、電気的ゲル化プロセスを通してシルクゲルによってコーティングされるために適した任意の材料でありうる。たとえば、基質は、金属、合金、導電性ポリマー、もしくはセラミクス、またはその組み合わせなどの導電性材料であってもよい。デバイスおよびインプラントを生成するための例示的な金属または合金には、パラジウム、チタン、金、白金、銀、ニオビウム、ステンレススチール、ニッケル、スズ、銅、タンタルまたはその合金、コバルト-クロム合金、またはVitallium(CoCrMo合金)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。デバイスおよびインプラントを生成するための例示的なポリマーには、シリコン(乳房人工補綴物、ペースメーカーリード)、ポリウレタン(ペースメーカー成分)、ポリメタクリレート(歯科用人工補綴物、骨セメント)、ポリ(エチレンテレフタレート)(血管移植片、心臓弁縫合環、縫合糸)、ポリプロピレン(縫合糸)、ポリエチレン(人工関節補綴成分)、ポリテトラフルオロエチレン(人工血管補綴物)、ポリアミド(縫合糸)ならびにポリラクチドおよびポリ(グリコール酸)(生体吸収性剤、bioresorbable)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。デバイスおよびインプラントを製造するための例示的なセラミック材料には、関節置換物および歯科用人工補綴物において一般的に用いられる金属酸化物(アルミナ、ジルコニア)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。リン酸カルシウムに基づく材料(骨充填剤)および熱分解炭素に基づく材料(心臓弁)などの他の材料も同様に、シルクe-ゲルコーティングのための基質として用いられうる。
【0067】
任意で、1つまたは複数の活性物質を、機能的コーティングとして用いられるシルクe-ゲルコーティングの中に包埋してもよい。または、活性物質を、予め形成されたシルクe-ゲルコーティングの上に負荷することができる。予め形成されたシルクe-ゲルコーティングは、活性物質を含有してもしなくてもよく、予め形成されたシルクe-ゲルコーティングにおける活性物質は、予め形成されたシルクe-ゲルコーティングの上に負荷される活性物質と同じであってもよく、同じでなくてもよい。または、活性物質は、電気的ゲル化プロセスの前に第一層コーティングとして基質上にコーティングされてもよく、その後活性物質をコーティングした基質上にシルクe-ゲル層をコーティングしてもよい。そうすれば、シルクe-ゲルが分解するまで活性物質は放出されないであろう。活性物質は、液体、薬物粒子などの細かく粉砕された固体、または他の任意の適当な物理的形状として存在しうる。
【0068】
活性物質は、上記の物質などの治療物質または生物学的材料でありうる。組織または医学的デバイスを本発明のシルクフィブロインゲルによってコーティングすることによって、組織またはデバイスはさらに、同様にコーティングされていない組織またはデバイスよりさらなる恩典を提供する可能性がある。たとえば、熱傷の創傷治癒を促進するために、少なくとも1つの細胞増殖因子(たとえば、上皮細胞増殖因子)を含有するシルクe-ゲルコーティングによって、創傷を受けた皮膚組織をコーティングしてもよい。創傷を受けたシルク組織のそのようなシルクe-ゲルコーティングプロセスは、創傷の上皮を再形成するように細胞を刺激するためにインビボで行われてもよい。または、シルクe-ゲルコーティングプロセスはまた、その後に埋め込まれる組織または再生組織上でインビトロで行われてもよい。もう1つの例において、インプラントは、抗生物質または抗炎症薬を含有するシルクe-ゲルによってコーティングされてもよい。埋め込まれると、ゲルが溶解して、抗生物質または抗炎症薬が切開部またはインプラント領域の可能な限り近傍で放出され、最低限の手術部位感染率を達成可能である。加えて、薬物包埋シルクe-ゲルコーティング医学的デバイスまたはインプラントは、適切な治療濃度を維持するために薬物を頻繁に投与する必要性を低減させる可能性がある。
【0069】
電気的ゲル化は本明細書において可逆的であることが示されている。簡単に表現すると、電気的ゲル化は、DC電圧によって電場を印加することによって、可溶化されたランダムコイルシルク溶液を有意なシルクI含有量を有するゲルに変換する段階を伴う。DC電圧を逆転させると(電極の極性の逆転)、シルクゲルは、ランダムコイルコンフォメーションに戻るように変換する傾向がある。実際に、逆転プロセスを、ほぼ完了するまで駆動してもよく、電気的ゲル化/逆転プロセスを何回も繰り返すことができる。重要なことには、シルク材料の性質は、ゲル状態から液体シルク溶液状態に交互する場合に劇的に変化する。ゲルは非常に粘着性で、濃厚で粘液様の粘ちゅう度を有する。液体シルク溶液は、全く粘着性ではなく、ゲルと比較して非常に低い粘度を有する。ゆえに、電気的ゲル化シルクは、カタツムリおよびナメクジが移動のためにおよび様々な表面に自身を固定するために利用する粘液分泌と類似の活性なシルク粘液接着剤として用いられうる。
【0070】
他の材料は、外部エネルギーまたは場(field)を加えるまたは減ずることに基づいて剛性または粘ちゅう度を変化させる能力を示す。たとえば、一般的に「高性能流体」として知られるクラスの流体は、電場または磁場の存在下で特性を変化させうる。典型的に、流体の粘度は、印加された場の存在および/または強度によって改変される。加えて、磁気-レオロジー流体は、磁場の存在下で整列する磁気粒子の浮遊液を含有する。流体粘度は整列により有効に増加する。電気-レオロジー流体は、絶縁流体に浮遊される非伝導性粒子からなる。流体の粘度は電場の存在下で劇的に変化しうる。さらに、熱応答性ポリマーは、温度変化によって溶解状態およびサイズなどの材料特性の変化を示しうる。
【0071】
本発明のもう1つの局面は、粘液接着剤に関する。典型的にはポリマーであるこれらの材料は、ハイドロゲル、被膜、ミクロスフェア、スポンジ、錠剤、またはマイクロタブレットとして調製されうる。湿った表面が含まれる多数の表面に対する優れた接着能のために、1つの適用領域は、制御された局所薬物送達である。MUCOAD(商標)(非毒性で非刺激性の液体粘液接着剤担体、Strategic Pharmaceuticals Co., Washington, DC)は、ヒプロメロース[ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)]ポリマーに基づく。この製品は粘膜に対して高い親和性を有するようであり、薬物と粘膜組織のあいだの接触時間を延長させる。これは、鼻腔内、眼内(たとえば、ドライアイを軽減するために役立つ)、膣内、および直腸内応用の可能性を有する。
【0072】
さらに、結腸鏡検査を行うために粘液接着剤の摩擦を用いる生物型ロボットが開発されている。結腸内でカタツムリ様の運動を促進するためにバルーン様アクチュエータを用いる場合、生物ロボットの設計は、ロボット-結腸界面で正確な量の摩擦および/または接着を提供する材料を用いることに依存する。この応用は、アクリル酸の高分子量架橋ポリマーであるCARBOPOL(登録商標)架橋アクリル酸骨格ポリマー(NOVEON(登録商標)Consumer Specialties, Wickliffe, OH)として知られる固体の粘液接着被膜を使用する。この材料は、急速に形成する物理的結合によって粘液に接着することができる。CARBOPOL(登録商標)ポリマーは、テープ形状で用いられてブタの結腸に首尾よく接着することができるが、剪断による損傷のためにテープは1回限りの応用に限定される。このように、ロボットの段階毎に新しいテープの分配を必要とした(Dodou et al., Proc. 12th Int'l Conf Adv. Robotics 352-59 (Seattle, WA, 2005))。摩擦力を克服するために水を導入することができ、それによってテープが外れる。Dadou et al., 15(5) Minimally Invasive Therapy 286-95 (2006)。
【0073】
制御された薬物送達系が利用可能であり、有意な進歩がなされているが、生理的必要性に正確に適合するように薬物を投与する系のかなりの必要性がなおも存在する。その上、ペプチドおよびタンパク質薬を送達するためのツールが必要である。ハイドロゲルは薬物送達系において用いられており、薬物を保護して、外部刺激によって駆動されるゲル構造の変化を通して薬物の放出制御を可能にする。ハイドロゲルに影響を及ぼす刺激には、温度、電場、溶媒の組成、光、圧力、音、磁場、pHおよびイオンの導入が含まれる。ポリ(N-イソ-プロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)およびポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)(PDEAAm)などの温度感受性のポリマーが広く用いられている。ポリ(プロピレンオキサイド)PPOおよびポリ(エチレンオキサイド)PEOブロックコポリマーは、体温でのゾルゲル変換に基づく薬物送達制御において用いられている(たとえば、PLURONICS(登録商標)ブロックコポリマー、BASF)。
【0074】
もう1つのクラスの刺激感受性ハイドロゲルは、電気感受性ハイドロゲルである。そのようなハイドロゲルは典型的にpH感受性でもあるが、通常、多価電解質で構成され、印加電場の存在下で収縮または膨張する。そのような材料は薬物送達に適用されている。たとえば、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸-コ-n-ブチルメタクリレート)のハイドロゲルは、蒸留脱イオン水において電流を用いて塩化エドロホニウムおよびヒドロコルチゾンを拍動的に放出するために用いられた。電場はまた、ポリ(エチルオキサゾリン)-PMA複合体から作成されるハイドロゲルの生理食塩液中での腐食を制御するためにも用いられている。典型的に、これらのハイドロゲルはまた、外部電場によって作動されうる。制限の1つは、電解質中での応答、言い換えれば、生理的条件下での応答を達成することが難しい点である。Oui & Park, 53 Adv. Drug Deliv. Rev. 321-39 (2001)。化学的に架橋されたヒアルロン酸(HA)ハイドロゲルも同様に電気感受性であることが示されている。電場を用いて、陰性荷電高分子の拍動的放出が達成されうる。Tomer et. al., 33 J. Contr. Release 405-13 (1995)。
【0075】
シルクの用途が広いこと、ならびに異なる形状、コンフォメーション、および処理技術を利用できることは、可能性がある豊富な応用領域を広げる。図39は、処理の戦略、予想される特性、および可能性がある応用領域の簡単な概要を提供する。処理技術を連続して行ってもよいことに注意されたい。「Egel」と表示されるプロセスは、本明細書において記述される電気的ゲル化プロセスである。超音波発生装置によって生成される高い強度のエネルギーまたは電動歯ブラシ型アクチュエータによって生成される低い強度のエネルギーの形で、振動を適用することができる。剪断力は、実地操作を通して材料を引っ張ることによって、または開口部を通してそれを排出すること(流れによって誘導される剪断、flow-induced shear)によって提供されうる。室温でのプロセスはゆっくりとした乾燥を提供するが、乾燥器を用いて急速な乾燥をもたらしてもよい。これは、網羅的な一覧であることを意味するのではなく、電気的ゲル化プロセスに関する前後関係を提供することを意味することに注意すべきである。pH改変、メタノール処理、および水焼き鈍しなどの他の処理技術も同様に、所望のシルクの成果を達成するために用いられる。
【0076】
シルクおよびシルクに基づく材料について行う実験の結果および経験に基づいて、本明細書において記述される活性なシルク粘液接着剤に関して、ロボット応用(非生物医学)および生物医学応用が含まれる、可能性がある多くの応用が存在することは明らかである。
【0077】
ロボティクス領域において、非常に粘着性から非粘着性へと移行することができる材料に関して多くの応用が存在する。軍および警察の監視から爆発物の配置に及ぶ応用のみならず、グリーンケミストリー接着剤および関連応用に関して、壁および天井を上るロボットが追求されている。活性なシルク粘液接着剤は、壁および天井に対する接着制御の提供に関して直接応用を有するであろう。電気的ゲル化を通して作成された接着剤ゲルの特性は、カタツムリ(たとえば、テャオビエスカルゴ(Helix lucorum))が生成する粘液を模倣するようである。これらカタツムリは、下面から粘液を押し出して、粘液性の道を作り、その上を這う。加えて、これらの動物は、自身を葉、岩、または他の表面に固定する場合には、わずかにより接着性の高い粘液を押し出す。カタツムリにおいて、移動は、その筋肉の足(下面)での波状応答を通して達成される。その足の後部が前方を押し動かして、粘液中を滑動する。停止する場合、足がその場に接着する。接着した部分の前の足の部分が粘液中で前方に滑動する。このようにして、カタツムリまたはナメクジは、粘液の道に沿って前方に動く。
【0078】
この移動法は、シルク粘液接着剤が2つの方法で利用されうる、すなわちロボットがそれに沿って這うことができる粘着性の粘液を提供する、および接着固定系として利用されうることから、シルク粘液接着剤を用いて容易に利用される可能性がある。この応用は、ゲル化の逆転を利用する必要はない。言い換えれば、接着剤は活性である必要はない。第二の型の移動は、活性な接着剤を用いることによって達成されうる。たとえば、個々のロボットの「足」は、小さいディスペンサーと電気的ゲル化コイルとを含有しうる。ロボットが壁または天井に接着する必要がある場合、シルク溶液を適当なディスペンサーを通して排出して、電気的ゲル化を通してゲルに変換することができる。足を壁から外す必要がある場合、逆の電気的ゲル化がゲルを液体に戻すように変換して、接着を消失させる。
【0079】
監視応用では、その場に長期間留まることが重要でありうる。同様に、搭載しているエネルギーがこの期間のあいだ位置を維持するために消耗されないことも重要である。シルク粘液接着剤は、ロボットまたは他のデバイスを長期間にわたって様々な表面に固定するために用いられうる。電気的ゲル化シルクゲルは、逆の電気的ゲル化または適用された力が接着の破壊を引き起こしても、一時的に物体に接着することができる。これはまた、長期間の接着のためにも用いられうる。物体は、エネルギーを消費することなく、数日間およびおそらく数週間、塗装された壁表面に接着できることが示されている。制限因子はおそらく、シルク材料が分解するまでの期間である。ロボティクスにおけるもう1つの応用領域は、ペイロードに関してである。ロボットのミッションは、監視のためにカメラ、アンテナ、または他のデバイスを送達することでありうる。シルク粘液接着剤は、短期間または長期間の監視のために、壁に任意のそのようなデバイスを固定するために用いられうる。1つの戦略は、ロボットに、細いワイヤが包埋されている電気的ゲル化シルクの一定のストリームを排出させることでありうる。ワイヤは粘液接着性のために壁に接着して、アンテナとして作用するであろう。
【0080】
活性なシルク粘液接着剤は、これまで十分に調査されてこなかったロボットのミッションの範囲を広げる。基本的にカタツムリの粘液に依存する動きに基づく小さいサイズのカタツムリ様ロボットを構築することができる。カタツムリと同様に、シルク粘液接着剤は、ロボットカタツムリを滑面から粗面までの多様な表面に接着させることができる。表面のタイプには、例を挙げれば、ガラス、アクリル、木、塗装された壁、セメント、岩、汚れて埃の多い表面が含まれうる。そのようなロボットは、流体の存在下であってもパイプの内外を検査するために用いられうる;火災の強さおよび存在を検出するために森林領域において用いられうる;壊れた家または鉱山などの人命救助の状況において役立つ;竜巻のような過酷な天候の際のデータを採取するためにビルの表面または木もしくは岩などの様々な天然の表面において利用されうる;絶滅危惧動物を追跡するために動物保護区において展開されうる;または試験を行うために一時的に動物に取り付けられうる。警察または他の人命救助サービスは、ロボットのミニチュア版を壁または道路標識に投げて、無線ビデオ供給などの一時的な情報獲得法を提供することができるであろう。
【0081】
このアプローチを用いて、シルク粘液接着剤を用いて、サーベイランスプラットフォームを壁に接着させた。プラットフォームは、リモートコントローラーを用いてカメラを動力ピボット上で移動させながら、ラップトップコンピュータに生の映像を流す無線ビデオカメラを含有した。コントローラはまた、ゲル化逆転の制御を提供するためにも用いられ、これによりプラットフォームは重力によって表面の下に送られた。シルク粘液接着剤が水中表面に接着できる独自の能力により、本発明に従うシルク粘液接着剤を用いるロボットは、多くの水中でのミッション:オイルプラットフォームおよび他の水中構造の検査;監視および通信傍受のためのボートおよび潜水艦に対する隠しアタッチメント;ならびに川床および水床の調査、を行うことができる。おそらく、水泳ロボットは、船を発見するために音または温度センサーなどのホーミングデバイスを用いて、次に電気的ゲル化を通じて接着することができ;修復または偵察ミッションを行うことができるであろう。より期間の長いミッションに適合させるために、高いpHで維持されるシルク溶液を機上保管庫に載せることができ、より高いpHはシルクのより長い貯蔵寿命を延長させる。
【0082】
加えて、活性なシルク粘液接着剤に関して広範囲の生物医学的応用が存在する。カタツムリ様ロボットを作成するための夥しい可能性を考慮して、医学的診断または処置のために生物医学バージョンを作成することができる。例として、ミニチュア版は嚥下または小さい切開部を通しての挿入のいずれかによって体内に入ることができる。生物医学ロボットは、接着移動を通して臓器の中、上、または周囲を動くことができる。湿った表面に接着できることから、ロボットを、損傷または疾患部位の近傍に配置することができる。センサーまたはカメラを用いて、医療職員に重要な情報を中継することができる。ロボット内部に貯蔵されるシルクゲルを、損傷部位に沈着させて、最初の一時的修復を提供することができる。ゲルは、治癒を促進するために薬物、増殖因子、抗生物質、または他の生物活性成分を含有することができる。振動の適用または治療超音波の使用などの他の機能と共に、ゲルパッチ(シルクIコンフォメーション)をβ-シートコンフォメーションに操作することができる。この形状において、パッチはかなり強く、水に不溶性である。これによって、パッチはより長い持続期間を有することができる。材料はまた、熱傷、創傷、または体外の他の位置で用いることができる。体内での応用と同様に、治癒を改善するために生物活性成分を組み入れることができ、材料は鎮静を与え、感染症および汚染に対する保護を補助することができる。もう1つの生物医学応用において、シルク粘液接着剤はまた、丸剤または他の薬物放出製品を様々な組織の粘膜層に固定するためにも用いられうる。これは薬物の徐放性送達能を提供する。
【0083】
シルク粘液接着剤は、ロボットの設計において有用でありうる。ヒトの体内を調査する生物医学ロボットにおける多くの重要な成分が、そのような材料を利用することができる。電気的ゲル化シルクはまた、アクチュエータとしても重要でありうる。シルク溶液を電気的ゲル化すると、剛性の変化があり、同様におそらく体積の変化もある。これらの特徴は、アクチュエータを作成するために利用されうる。1つの態様において、シルク溶液およびゲルを用いてプレートの角度を調整することができる。プレートを用いてミニチュアカメラを支持する場合、プロセスは、従来の機序を用いることなく動きを行うことができる。もう1つのアクチュエータ設計は、柔軟なチューブまたは袋付きチューブ(bladder-supported tube)からなる。電気的ゲル化の際にシルク溶液の体積が変化すると、指を振るように、チューブを作動させることができる。生物医学応用の全てにおいて、シルク材料を用いることによって経時的にゆっくりと分解するため、デバイスを体から除去する必要性がなくなる。
【0084】
さらに、上記の系を、シルクファイバーオプティクスの形状で体の内部に光ファイバーケーブルを埋設するために用いることができる。既に報告されているように、シルク繊維は、光のガイドとして役立ちうることから、この態様は、創傷、癌または血管沈着物の治癒、処置、および多くの関連する必要性に新しい領域を提供するインビボイメージングのための選択肢を提供する。
【0085】
先に概要したロボットおよび関連分野とは別に、これらの系は、とりわけ玩具、科学プロジェクト、および新しい形状の芸術作品などの消費者に関連する製品において有用である。さらに、担体を機能化して、新しい材料を沈着、分泌、または埋設するという選択肢は、遠隔の構造物、封鎖作用、危険箇所、ボートの船体、ならびに陸地、海、および空での多くの他の関連する応用における選択肢を示唆する。
【実施例】
【0086】
実施例1.平行電極のゲル化
可溶化シルクフィブロインの保存水溶液を既に記述されたように調製した。Sofia et al., 54 J. Biomed. Mater. Res. A 139-48 (2001)。米国特許出願第11/247,358号、WO/2005/012606、およびWO/2008/127401を参照されたい。簡単に説明すると、カイコガの繭を0.02 M炭酸ナトリウム水溶液中で20分間沸騰させた後、純水によって十分にすすいだ。乾燥後、抽出されたシルクフィブロインを9.3 M LiBr溶液中で60℃で4時間溶解し、20%(w/v)溶液が得られた。得られた溶液をSlide-A-Lyzer(登録商標)3.5K MWCO透析カセット(Pierce, Rockford, IL)を用いて蒸留水に対して3日間透析して、残っている塩を除去した。溶液は、透析後光学的に透明であったが、これを10,000 rpmで20分間2回遠心して、シルク凝集物のみならず当初の繭からの破片を除去した。シルクフィブロイン水溶液の最終濃度はおよそ8%(w/v)であった。この濃度は、容積のわかっている溶液を乾燥させて、残っている固体の重量を測定する段階によって決定された。8%シルクフィブロイン溶液を4℃で保存して、使用前に超純水によって希釈した。シルクフィブロイン溶液は希釈してもよく、またはより高濃度になるまで濃縮してもよい。より高濃度のシルクフィブロイン溶液を得るために、より低濃度のシルクフィブロイン溶液を吸湿性ポリマー、たとえばPEG、ポリエチレンオキサイド、アミロース、またはセリシンに対して透析してもよい。たとえば、8%シルクフィブロイン溶液を10%(w/v)PEG(10,000 g/mol)溶液に対して透析してもよい。
【0087】
2つの平行なワイヤ(電極)を、図4において示されるように、約9%シルクフィブロイン溶液4 mlを含有する直径70 mmのプラスチック培養皿の底に沿って配置した。液体レベルは電極上部よりわずかに上であり、電極はおよそ40 mm離れていた。高電流Li-Pol電池を用いて22.2 VDCの電圧を印加した。図5A、5Bおよび5Cはそれぞれ、0分、20分、および275分の時点での初回実験の写真を示す。図5Aおよび図6において示されるように、電位を印加するとほぼ直ちに、ゲル化が正極(+)で始まり、正極(+)および陰極(-)で気泡が形成された。図5Bにおいて示されるように、電気的ゲル化の最初の30分のあいだ、ゲル化プロセスは持続して、正極(+)から発散する「ゲルの先端」が全般的に陰極(-)の方向に着実に生長した。
【0088】
より厳密に検査すると、ゲル化域において、正極から発散して、全般的に陰極の方向を向く放射状パターンが認められた。約30分後、ゲル化は持続したが速度はより遅くなった。正極(+)で形成された気泡、おそらく酸素ガスは、それらの周囲に固体が形成されることから、ゲル内での永続的な特色となるであろう。この電極において永続的な気泡によって形成された障壁は、先端の生長速度の減少において重要な役割を果たす可能性がある。陰極(-)における気泡は、おそらく水素ガスであり、絶えず形成されるが、そのガス様内容物はシルク溶液表面に達するといくぶん消散した。全ての場合において、気泡形成速度は消散速度より大きかった。ゲル化シルクの粘ちゅう度は、非常に粘度が高く(柔らかく)、非常に粘着性であり、濃厚な粘液の粘ちゅう度と類似であった。培養皿を終夜冷蔵した後、ゲル化シルクはかなり堅くなった。
【0089】
実施例2.平行電極のゲル化
約9%シルク溶液について、電場を生成するために74.9 VDCのより高い電圧電位を電極間に印加したことを除き、実施例1の同じ平行電極実験の設定を用いた。これは、より高い電圧がゲル化プロセスを加速して、およびおそらくより完全なゲル化が起こるか否かを試験した。図7A、7B、および7Cはそれぞれ、0分、15分、および30分の時点での実験結果を示す。先に記述したように、類似のゲル化プロセスが示された。たとえば、ゲル化先端の放射状パターンは図7Bにおいて明らかに認められた。より高い電圧では、ゲル化の先端は、より速い速度で拡大したが、電気的ゲル化シルクは、より低い電圧を用いた場合に示されたほど密度が高くないように思われた。陰極での気泡は、基礎反応が加速された証拠として、この電圧でより速い速度で形成された。
【0090】
実施例3.排出試験は電気的ゲル化シルクフィブロインの基本構造を特徴付けする。
シルク溶液の制御された容積を急速に電気的にゲル化できることは、多数の実際的な応用を提供する。電気的ゲル化の5時間後に生成されたシルクのゲル化部分を抽出して、10 mlシリンジに注いだ。取り付けた直径1 mmのシリンジ針を用いて、ゲル化したシルクをゆっくりと排出した。針から射出されたシルク材料は皿から抽出されたときよりもかなり堅かった。この効果は、シルクが小さい直径の針の中を押し出される際の流れによって誘導される剪断によって引き起こされうる。電気的ゲル化シルクが準安定なシルクIコンフォメーションを保持する場合、針を通しての排出は、微小構造をβ-シートに変換させるために必要な追加的な整列を引き起こす。この最初に排出されたゲル化試料から多くの定性的観察がなされた。たとえば、材料は粘着性で、かなり堅く、かなり弾性で、触れると冷たかった。実際に、電気的ゲル化から排出までの全ゲル化プロセスは、シルクの温度をほぼ室温に維持するようである。シルクが針を通して排出されると、得られた排出されたゲルはまとまったストリームとして射出された。排出時に、得られる材料は透明である。空気に曝露された約5分後、色は不透明な白色に変化した。
【0091】
実施例4.磁場
本発明の態様に従う方法は、印加電場によって、可溶化シルクのゲル化が起こることを証明した。しかし、印加電場によって誘導された磁場は、ゲル化の真の原因ではない。磁場の効果を証明するために、電気的ゲル化の設定の変化形を用いた。培養皿の外側の周囲に裸のワイヤを巻き付けることによって、図8Cにおいて最もよく示される環状の正極を形成して、直線のワイヤを陰極として用いた。陰極を培養皿の中央で約9%シルク溶液の中に沈めた。ゲル化速度を測るために、図8Aにおいて示される既に用いられた平行電極の設定を対照として用いて第二の実験を同時に行った。いずれの実験も24.8 VDCの電圧電位で行った。図8Bにおいて示されるように、環状の電極設定(磁場)を用いた場合には30分後であっても目に見えるゲル化は起こらなかった。平行電極設定で起こった有意なゲル化によって、環状電極設定におけるゲル化の欠如は、シルク、電極材料、または印加した電圧の問題によるものではなかったことが確認された。
【0092】
実施例5.アルミニウム管に基づく電極
培養皿の中に沈めた環状電極によって電気的ゲル化が成功裡に達成された。この構成は、増加した電極表面積により、より大きい電気的ゲル化速度および総体積が得られるという証拠を提供した。加えて、アルミニウム管を電極として用いることができる。1つの態様において、正極として作用するアルミニウム管を、熱接着を用いて培養皿の内部に垂直に取り付けた。陰極として作用する露出したワイヤをシリンダーと同心円に配置した。この実験の設定の概略図を図9Aに示す。0分、7.5分、および15分の電気的ゲル化時間を比較する培養皿の下からの観察により、電気的ゲル化がこの構成で急速に起こり、それによってシルク溶液の少なくとも80%がゲルに変換したことが示された。
【0093】
電極表面積が電気的ゲル化に及ぼす効果をさらに理解するために、もう1つの態様は、電極として2つの同心円のアルミニウム管を利用した。この設定の模式図を図9Bに示す。双方の管を培養皿の底に熱接着させて、約9%可溶化シルクを環状の体積に充填した。この実験によって、非常に迅速なゲル化動力学が起こり、急速なゲル化および気泡形成を生じた。環状体積のほぼ100%がゲル化した。双方の管状電極の態様は、電極の表面積を最大限にすることが、電気的ゲル化速度を増加させて、最終的なゲル化体積を増加させるために重要であることを明らかに証明している。
【0094】
実施例6.シリンジに基づく金属被覆(ホイル)プランジャー電極の実験
アルミニウム管に基づく電極の態様の成功を考慮して、異なる態様は、アルミニウム管に基づく電極態様の結果を模倣するために、シルク溶液を含有して、しかも必要な円柱状の電極幾何学構造を提供するためにシリンジを利用した。いくつかのシリンジの態様において、標準的な実験スタンドハードウェアを用いてシリンジを垂直に取り付けた。最初の設計において、アルミニウムホイルを用いて、3 mlシリンジのプランジャーに金属を被覆した。シリンジ針を倒立させて、シリンジノズルを通して配置して、もう一方の電極として作用させた。ホイルを正極として、すなわち針を陰極として、およびその逆で、試験的構成を実行した。いずれの構成においても、電気的ゲル化の結果はいくぶん不良であった。これは、限られたホイル表面積またはホイルの不良な導電率に起因する可能性がある。
【0095】
アルミニウムホイルをコーティングしたプランジャーによって電気的ゲル化の結果を改善する努力において、10 mlシリンジプランジャーを改変した。この設定において、電極の露出領域の効果を理解するためには、より大きい表面積のプランジャーが利用されるであろう。電圧印加の30分後であっても、電気的ゲル化はほとんど示されなかった。
【0096】
実施例7.シリンジに基づく金属被覆(プラグ)プランジャー電極
もう1つのシリンジ設計は、アルミニウムホイルの代わりに直径3/8インチのアルミニウムプラグを用いた。このプラグをプランジャーに取り付けると、長さの約1/4インチがシルク溶液容積の中に伸びた。シリンジ針をシリンジのノズル末端から溶液の中に通過させた。アルミニウムホイルの態様と同様に、この設計を2つの構成で試験した:プラグを正極として針を陰極とする、およびその逆。針を正極とすると、より多くのゲル化が証明された。しかし、ゲル化プロセスは双方の構成に関して遅かった。プラグおよび針の限られた表面積が、おそらくその理由である。
【0097】
実施例8.シリンジに基づくばねと針の電極
ばね形状の電極幾何学を本出願のもう1つの態様において構築した。伝導性ワイヤを、シリンジのプランジャー側からプランジャーヘッドを通して通過させた。プランジャーヘッドを超えてその絶縁を取り除いたワイヤをらせん状に巻いてシリンジ内で有意な回数巻いた。コイルを正極と呼んだ。針を陰極として再度使用して、正極と陰極のあいだが確実に接触しないように特に注意を払った。図10A〜10Cはそれぞれ、0分後、5分後、および15分後での電気的ゲル化実験の結果を示す。正極として作用するばね形状の電極により、非常に速いゲル化が達成され、15分後にほぼ90%のゲル体積が達成された。この構成は、この設計がシリンジからのゲルの排出を直接妨害しないという事実により、特に重要である。シリンジプランジャーを押し下げると、ばね形状の電極が圧縮して、ゲルをシリンジ本体から押し出す。ゲルは、たとえシリンジ針を用いなくとも、粘着性のまとまったストリームとしてシリンジから排出された。シリンジ針を用いると、流れによって誘導される剪断により、ゲルの剛性をさらに増加させることができる。
【0098】
実施例9.製造後新しい(13日)可溶化シルクと製造後の日数が経過した(65日)可溶化シルクを比較する平行電極実験
シルクを可溶化すると、シルクは最終的に経時的に自己集合することができる。自己集合において、シルク溶液のランダムコイル性質の変換が誘導されて、β-シート内容物への変換が起こり、堅い固体を生成する。上昇したpHおよび温度などの一定の条件は、固化を加速することができる。図4において示される24.8 VDCによる平行電極の構成を用いて、試験の13日前に調製されたシルクと、65日前に調製されたシルクとの比較を行った。図11は、電圧印加後0分および10分での結果を示す。古いシルク溶液は、陰極でより大きい体積の気泡を生成したが、ゲル化はより新しいシルクでより速いように見える。
【0099】
実施例10.酸化対非酸化電極ワイヤを比較する平行電極実験
酸化の関数として電気的ゲル化速度を比較するために、2つの同時の平行電極態様を構築した:1つは長期間空気に露出されていた電極を有する態様であり、もう1つは電極として新しく露出されたワイヤを有する態様である。この実験においてごくわずかな差のみが観察された。非酸化ワイヤを有するゲル化したシルクでは輝度勾配が存在したが、酸化したワイヤによって生成されたゲル化シルクでは全体がほとんど明るい白色であった。輝度勾配は、非酸化ワイヤを用いるとゲル化がより速く進行するために起こる可能性がある。この観察を確認するために、インサイチュー電気抵抗および電流測定を行う。
【0100】
実施例11.3 mlシリンジに基づくばねおよび針
実際のゲル化送達ツールを、シリンジに基づくばねおよび針の概念で仕上げた。3 mlシリンジは、10分間の時間枠内でほぼ完全な電気的ゲル化を提供する比較的小さいサイズである。図12は、電圧印加の10分間のあいだにほぼ90%のゲル化が達成されたことを示している。得られた材料は、プランジャーを用いてまとまったストリームでシリンジから容易に射出することができた。1つの興味深い観察は、気泡がシルク溶液の上部で形成されると、十分な圧力が形成されてシリンジプランジャーを下方に押すことである。
【0101】
実施例12.平行銅コイル電極を用いる電気的ゲル化
電気的ゲル化プロセスは、DC電圧源、金属被覆正極および陰極、ならびに可溶化シルク溶液が含まれる電気化学セルによって生成される電気化学反応を伴う。可溶化シルクにおける平行銅電極によるゲル化は、提唱される電気的ゲル化機序に関連しうる成果である色の変化、気泡形成、および電極金属の軽微なくぼみに関する他の態様における観察を確認した。増強されたゲル化を提供するために、双方の電極をばね様コイルに形成して、正極および陰極の双方の表面積を増加させた。実験結果を図13に示す。電気的ゲル化プロセスは非常に反応性であり、電圧印加の10分後に陰極で有意な気泡形成と、全体的なゲル化を生じた。かなり明瞭な緑色-青色-インディゴ-紫色のスペクトルが生成され、正極は緑色であり、および陰極は紫色であった。
【0102】
実施例13.塩およびDMEMを有する可溶化シルクの平行電極でのゲル化
組織工学操作に対する電気的ゲル化の応用に関して、適切な構造の完全性および細胞環境を提供することができる生存構築物の作成能を理解することが重要である。1つの提唱される足場構造幾何学において、可溶化シルクは、塩およびDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)と混合され、固化される。水中に浸すと、塩は溶解して、理想的な多孔性の幾何学構造を残す。電気的ゲル化をそのような足場材料の固化に用いることができるか否かを調査するために、一連の試験を行った。図14において示されるように、塩およびDMEMを含有する4%および8%可溶化シルクについて平行電極実験を行った。DMEMは、最初の材料に強いマゼンタ色を与える。電圧印加のあいだ、陰極においてガス様気泡の極端な量が形成され、正極でのゲル化の証拠は非常にわずかであった。強い緑色-青色の着色が起こったが、電圧印加の短期間の後に、培養皿は熱すぎて触れなくなった。加えて、正極の有意なくぼみが明らかとなった。
【0103】
実施例14.塩およびDMEMを有する可溶化シルクのシリンジに基づくばねおよび針電極のゲル化
可溶化シルク、塩、およびDMEMによる平行電極実験の際に生成された高温は、溶液のより低い電気抵抗を反映している可能性がある。電流のその後の増加によって、プロセスはかなりより反応性となる可能性がある。温度の制御能を調べるため、これまでの実験のシリンジに基づくバージョンが行われている。上記添加剤を含む可溶化シルクを、3 mlシリンジに入れて、ばね形状の正極および倒立させた針を陰極として用いた。実験は5℃の冷蔵庫で行った。ゲル化プロセスは非常に反応性であり、90秒以内にガス様気泡の極端な量を生成して、最終的にシリンジからシルクをほぼ完全に瀉出した。暗褐色への色の変化が示されたが、目に見えるシルクのゲル化は起こらなかった。
【0104】
実施例15.グラファイト電極を用いる電気的ゲル化実験
電気的ゲル化試験は、用いられる金属被覆電極が、反応速度を促進するために重要な役割を果たすことを示している。特に、電気抵抗が低い溶液を用いる場合、より貴(noble)である電極材料;すなわちより低い電気化学電位を有する材料を選択することが重要でありうる。この状況において、シャープペンシルの芯から作成されるグラファイト電極を正極および陰極として用いて実験を行った。図15に示されるように、グラファイトは非常に良好な電極を作成して、急速なゲル化に至り、非常に良好に定義された三次元ゲル化先端を有した。電圧印加のちょうど10分後に、可溶化シルク容積のほぼ全体がゲル化した。この迅速かつ完全なゲル化にもかかわらず、陰極上でのガス様の気泡形成は、過剰ではなかった。
【0105】
実施例16.グラファイト電極ならびに塩およびDMEMを含む可溶化シルクを用いる低電圧(4 VDC)電気的ゲル化実験
先の鉛筆の芯の実験において、より貴である材料を用いることは、ゲル化プロセスを安定化させたようである。当然、グラファイト鉛筆芯は、純粋な炭素で作成されているわけではない;それにもかかわらず、ガス様気泡の形成が低減されてゲル化先端は良好に定義された。塩およびDMEMを含有する可溶化シルクによるこの設定を用いて、もう1つの実験を行った。ゲル化プロセスをさらに制御し続けるために、4 VDCの電圧を印加した。このアプローチはなおも、電圧印加の8分後であっても、添加剤を有するシルクの識別可能なゲル化を提供しなかった。かなり有意な気泡形成が起こった。加えて、マゼンタからオレンジ/茶色へのわずかな色の変化が示された。DMEMは、pHが約pH 6に下落するとマゼンタから黄色へと色が変化するマーカーを含有する。これがおそらく色の変化の原因である。
【0106】
実施例17.鉛筆芯の電極ならびに塩およびDMEMを含む可溶化シルクを用いる高電圧(25 VDC)の電気的ゲル化
先の実験は、低い電圧で維持されたグラファイト電極が電気的ゲル化プロセスを制御するために役立ちうることを証明した。高い印加電圧下で鉛筆芯に基づく設定の応答を理解するために実験を行った。25 VDCの印加電圧は、塩およびDMEMを含有する可溶化シルクにおいて完全に制御されない反応を引き起こした。シルクのほとんどが、陰極で発生しているガス様気泡によって容器から移動して、急速な反応は容器が熱くなりすぎて触れないほどの熱を生成した。硬い緑色がかった残渣が試料容器に残ったが、目に見えるゲル化は示されなかった。この残渣は、結晶型で沈殿した固体であるように思われた。銅または炭素に基づく芯であるか否かの電極材料によらず、高い塩分含有量のシルクは伝導性が高すぎて、電圧および電極の効率を調節しなければシルクにおいて制御されたゲル化応答を生成することができないようである。
【0107】
実施例18.グラファイト電極を用いる電気的ゲル化のモニター
これまでの実験から、グラファイト電極を可溶化シルク上で用いた場合に優れた電気的ゲル化の結果が得られることが証明された。電気的ゲル化の応答をより注意深く測定するために、制御されたグラファイト電極(シャープペンシル芯)の実験を行った。25 VDCを用いて、電流計によって消費電流をモニターすると、10分間にわたって起こった急速なゲル化を生成し、色の変化を生じなかったが、ゲル化先端が良好に形成されて、それによってシルク容積のほぼ完全なゲル化が起こった。電流データは、電圧を印加した直後に約7 mAが電池から消費されていることを示した。このレベルは、3 mAの定常状態電流が消費されるまで非直線的に下落する。この消費電力の傾向はおそらくシルクのゲル化の生長傾向と類似である。
【0108】
実施例19.シルクをコーティングした生鶏肉の電気的ゲル化
電気的ゲル化の重要な応用は、組織へのその適用または投与である。たとえば、皮膚に適用される電気的ゲル化を、熱傷の治癒を促進するために使用してもよい。シルクに基づくゲル化層を生成するために生の鶏肉を用いることができるか否かを調べるための概念実証として実験を行った。生の鶏肉の細い小片を可溶化シルクに浸して、正極として作用させた。裸のワイヤを陰極として用いた。電圧を印加すると、陰極で気泡が形成され、電気的ゲル化が起こっていることを確認した。半透明なシルクゲルと明るい色の鶏肉組織のあいだに視覚的対比がないことから、視覚的結果は曖昧であった。
【0109】
実施例20.可溶化シルクの高電圧電気的ゲル化
電気的ゲル化に及ぼす高電圧レベルの効果を調査するために、Gamma High Voltageからの高圧電源を用いて一連の実験を行った。例としての態様を図16に示す。シリンジ針をシルク溶液表面から1インチ上に吊した。針を、10 kVまたは20 kVの正の電位のいずれかに設定した。シルク溶液に沈めた裸のワイヤ電極を接地した。+10 kVの針では、針の先端で電子の蓄積および溶液への定期的放電によって生成される有意なスパークが起こった。小さい気泡が各放電と共に生成されたものの、ゲル化はシルク内で認められなかった。電子の充電と放電の繰り返しは、電流制御電源によって制御された。そのような電源の場合、消費電流は、電力レベルがピークの許容可能なレベル近傍であることから、電源に対する損傷を防止するために制限された。針の電位が+20 kVレベルまで増加すると、有意に異なる応答が示された。スパークと電子の放電の代わりに、針の真下のシルク溶液は、針の位置から押し下げられた。シルク溶液は、上部表面で、針によって反発される陽電荷を発生させた可能性がある。この電圧レベルでは、反発力が液体容積の操作を引き起こした。追跡実験はこの応答を繰り返した。初回電荷を印加すると、有意なスパークが起こり、高い電流がDC電源から消費された。試料の高さおよび電圧を調節すると、シルク溶液において安定な溝が作成された。溶液と針のあいだの空間が減少すると、溝は培養皿の底がほぼ露出するまで十分に深くなった。周囲の照明を消してさらに観察すると、実験の際に針の先端で独自の青色の輪が生成されることが示された。さらに文献を詳しく調べると、これは、かなりよく知られているコロナ効果であるように思われる。溝を作成する機序はおそらく、基本的に高速でイオンを押し出して表面の低下を引き起こすイオン風に起因する。
【0110】
実施例21.デバイスの設計−処理速度を増加させるための混合の使用
これらの実験の当初の目標は、リアルタイムでの(連続的な)使用にとって十分速く電気的ゲル化シルクを産生できる実際のデバイスの作成に設計努力を集中させることであった。より古いシルクがより新しいシルクより速く電気的にゲル化できることは公知である(同様に、一定期間後、電気的ゲル化速度は減少することも公知であるが、このことは電気的ゲル化速度に対する製造後の期間の正の効果に対して何らかの制限があることを示している)。シルクに及ぼす時間の1つの重要な効果は、自己集合が起こり、β-シート含有量の増加を提供することである。シルク混合の剪断作用が類似の効果を生じうる、すなわちより古いシルクの場合と同様にβ-シート含有量を増加させると推測される。8.4%可溶化シルク(製造後32日)6 mlを用いて25 VDCおよび従来のグラファイト電極設定(0.5 mmの2Bタイプの鉛筆芯)によって実験を行った。10 ml Falconチューブを半分(高さ)に切ってチャンバーを作成した。絶縁した22-ゲージワイヤを1つの平面で曲げることによって混合オーガーを作成した。オーガーを、Parallax USB ServoボードおよびParallax Servo Controller Interfaceソフトウェアバージョン0.9h Betaを実行するPCによって制御される低速サーボモーター(10〜15 RPM)に取り付けた。図18において示されるように、オーガーは正極と陰極のあいだに、およそ12 mm離れて位置した。
【0111】
およそ最初の2分間の電気的ゲル化のあいだに、先の実験において認められるように正極の鉛筆芯において固体が形成された。しかし、固体の大きさが生長すると、固体が正極から外れて、回転しているオーガーに捕らえられるようになる移行期が存在した。この移行期が起こると、正極の鉛筆芯は、オーガーに絶えず引っ張られるものの、シルクゲルを生成し続けた。実験の終了後、オーガーをFalconチューブから外すと、シルクゲルは全てオーガー上に残った(図18C)。このシルクゲルについていくつかの独自の差が観察された:ゲルの色は、これまでのゲルの白色がかった色とは対照的に顕著に透明であった。ゲルはこれまでのゲルほど堅くないが、非常に粘着性でまとまった固体であり、いくらかの変形に耐えうるであろう。このゲルを室温で表面に沈着させた後、液体型に戻り始めることが観察された。液体へのほぼ完全な逆転(80%〜90%)は5日後に起こった。15日後、この割合はほぼ同じであることが観察された;これ以上の液体への移行が起こるようではなかった。液体への逆転を促進するのはゲルにおける気泡の存在であると推測された。オーガーが正極からゲルを引っ張る際に、同様に負極から気泡を引っ張っていることに注目することは重要である。得られた回転する塊は、ゲルと多くの気泡の双方を含有した。シルクゲル/気泡の組み合わせのpHは、ほぼ中性、すなわちpH 7.0〜pH 7.4付近であるようであった。非常に粘着性のシルクの迅速なゲル化および液体型への逆転が長所である応用に関して、この構成は非常に有望である。たとえば、この機序はパーティストリングにとって理想的である可能性がある。
【0112】
実施例22.処理速度(より高いRPM)を増加させるための混合の使用
シルク4 mlのみを用いてより高いオーガー回転速度(約400 RPM)を用いたことを除き、実施例21と同じ実験パラメータ(8.4%シルク、製造後33日、0.5 mm 2B鉛筆芯、25 VDC)を用いて、もう1つの混合実験を行った。試験後、シルクの約30%が電気的にゲル化されて、オーガーに接着していることが観察された。シルクゲルは、より低い回転速度実験の場合より増加した剛性を有するようであった。
【0113】
実施例23.Instron(登録商標)デバイスに基づく電気的ゲル化シルクの排出試験
電気的ゲル化シルクの剛性を一連の機械的試験によって定量した。電気的ゲル化シルクを用いるであろうほとんどの物理的デバイスに関して、シルクは開口部から排出される(押し出される)であろう。ゆえに、排出のために必要な力および排出されたシルクの機械的特性を調べた。可溶化シルクに剪断力を適用すると、β-シート形成を引き起こし、これはシルクの機械的応答を増加させた。非常に単純な予備的設定を用いた:濃度8.4%の可溶化シルクを「標準的な」鉛筆芯の態様を用いて電気的にゲル化した。電気的ゲル化シルク(約2 ml)を実験チューブから採取して5 mlシリンジに挿入した。試験を、Instron 3366 10-kNロードフレームにおいて容量1 kNのロードセルによって行った。BlueHill 2.0において単軸圧縮法を実行したが、これは1 mm/秒の一定速度で垂直方向のシリンジからシルクを押し出すであろう。図19において認められるように、シルクは非常に堅くまとまったストリームとして排出された。力の応答を異なるグラフ上に記録した。小さい針を通してシルクを押し出す行為は、材料の剛性の劇的な増加を提供した。出て行くシルクのストリームがボール状に集合する傾向があり、針に粘着する傾向があることから、得られたシルクも同様に非常に粘着性であった。
【0114】
排出プロセスにおけるエージングの効果を定量するために、この実験を30日後に繰り返した。次の排出試験のあいだに、より古いシルクをシリンジ針から排出するために必要な力は非常に大きく、内部シルク圧によってシリンジの損傷が起こったが、それでも排出されなかった。よって、何らかの状況下ではエージングは、剪断(β-シート含有量に関連して)を用いる堅いシルクの生成能に対して効果を有するように思われる。
【0115】
実施例24.電圧の生成
初期の実験から、シルク溶液が、電気的ゲル化が始まった後に電気化学セルのように作用することが示された。言い換えれば、電圧を電極から外しても、電圧計は、DC電圧の些細でないレベルを示すであろう。シルクが電気化学セルとして作用できるか否かを調査するために、一連の実験を行った。最初のベースライン実験は、新しいシャープペンシル芯の電極を非電気的ゲル化バッチのシルク(約8.4%シルク4 ml、製造後34日)の中に沈める段階、およびそれらの間に存在する任意の電圧を記録する段階を伴った。意外なことに、外部電圧をこのシルクに導入したことがないにもかかわらず、電圧計は0.2 VDCが生成されていることを示した。予想される消費電流はおそらくマイクロアンペア範囲であった。電圧生成は電気化学セルとして作用する実験によると推測される。基本的に、シャープペンシルの芯は、グラファイト以外に、金属が含まれる多くの材料を含有することが知られている。電気化学セルは典型的に、異なる材料組成の電極を電解質に導入することによって設定される。シルクが電解質として作用して、鉛筆芯が十分な非グラファイト金属を有する可能性があり、そのため電池のように作用していた可能性がある。どの電極が正極でどの電極が陰極であるかを何が決定するかは、この時点では不明である。
【0116】
実施例25.電極材料は電気的ゲル化に影響を及ぼす
グラファイト(シャープペンシルの芯)を電極材料として用いることは、電気的ゲル化において有効であった。電極の当初の光る表面は、電気的ゲル化において用いた後、粗面となった。電気的ゲル化速度が開始後遅くなることがわかったことから、電気的ゲル化は芯の表面特性によって主に駆動されるのであって、バルク特性によるのではないと推測された。電極の分解の効果を理解するために、一連の実験を行った。これらの試験の各々に関して、新しいシャープペンシル芯の電極を最初に用いて約8.4%シルク(25 VDCで10分間)を電気的にゲル化した。電気的ゲル化後、正極に形成されたいかなる固体も除去した。先に考察したように、電気的ゲル化の際にシルクに沈められていた各々の電極の一部が、粗面となった表面と共に残された。次に、これらの使用した電極を、以下に示される構成を用いて、残っている可溶化シルクに再度戻して沈めた。電極に取り付けた電圧計を用いて、シルクによって生成された電圧を測定した。光っている半分または粗面の半分のいずれかを電圧の記録の際に沈めて、いずれかの電極を正極/陰極として用いた。1つの一貫した実験結果は、電気的ゲル化から得られた正極を電圧の読み取りの際に沈めると、比較的大きい電圧(約0.6 VDC)が記録されたことである。陰極を沈めた場合、結果はあまり一貫しなかった(おそらくイオン動力学の変化による)。イオン動力学に対する1つの影響は溶液pHであることが知られており、これは電気的ゲル化の際に印加された電圧によって劇的に影響を受ける可能性がある。
【0117】
電気的ゲル化の態様に応じて、電気的ゲル化が起こっているあいだに、正極周囲のシルクは、バージンシルクより低いpHを有する可能性がある。電圧測定において用いるための電極の除去後、電極自身は、この挙動を反映するpH値を有する可能性があるであろう。電圧測定のためにシルクに再導入した場合、シルクはおそらく電気化学セルとして作用し続ける。セルの動力学は、電極のpHがプロセスを増強または抑制するかに応じて改変されるであろう。より低いpHを有する正極を沈めることによって、動力学は増加して、より高い電圧の読みを生じる。上昇したpHを有する陰極を沈めると、動力学は抑制される。
【0118】
電気的ゲル化の背後にある可能な物理学的機構、および結果を解釈するための意味は、さらなる考察の正当な理由となる。異なる2つの材料を直接接触させるまたは電解質に沈めることを通して電気的に接触させると、電池対物質ができる。金属は腐食に対して非常に異なる感受性を有しうる。亜鉛のようないくつかの金属は、非常に容易に腐食するが、他の金属、中でも特にステンレススチールおよび白金は腐食抵抗性である。金属のこの特性は、電池対物質におけるその反応によって決まる。腐食性の低い金属はより貴である;すなわち、ガルバニ列のリストにおいて、これらの金属はより高い電極電位を有する。電池対物質が作成される場合、あまり貴でない金属は電子を失い、金属陽イオンとして溶液に溶解するであろう。電圧計を用いて電極間の電位を測定した場合、あまり貴でない金属で構成される電極は、正極であると見なされ、ゆえに、電圧計は正の電圧電位を読み取るであろう。放出された電子は、より貴である金属に向かって電解質の中を流れるであろう。より貴である金属の表面では、溶解した酸素が電子の獲得を通して水酸化物陰イオンに還元されるであろう。あまり貴でない金属が存在しない場合、電子が酸化を通してこの金属によって与えられる場合を除き、他の金属が酸素の水酸化物への還元をなおも受けるであろう。
【0119】
電気的ゲル化実験の全体的な組を通して用いられている電極材料のいくつかには、白金、銅、アルミニウム、およびグラファイトが含まれる。白金は非常に貴であるが、銅およびアルミニウムは貴ではない(ガルバニ列の中では非常に低い)。シャープペンシル芯における主な構成成分は、最も貴金属であるグラファイトであるが、他の元素が存在する。残念なことに、ゆえにグラファイトのシャープペンシル芯の実際の貴金属性は、グラファイト含有量に単に依存するのではなくて、他の元素にも同様に依存する可能性がある。これらの実験において用いられるグラファイト電極の実際の組成が何であるか、または何がその対応する電気化学電位であるかは不明である。
【0120】
同じ純粋な金属の電極を用いる場合、電池対物質は生じないはずである。この観点から、もう1つの電子源が提供されなければ、電極間の電圧電位は測定されないはずである。これらの電気的ゲル化実験において、アルミニウム、銅、およびグラファイト電極を用いる場合、電池対物質を生じるであろう合金元素および他の材料構成成分がおそらく存在する。電極間の電圧電位を測定する場合、測定は非ゼロであり、電圧は、正の電圧計リードにどの電極が接触しているかに応じてプラスまたはマイナスのいずれかであろう。電池対物質を生じる以外に電気的ゲル化プロセスにおいて生じる追加的な電気化学応答が存在するようである。さらに、シルクは並外れた電解質である。カイコのシルクは、多様な金属イオンを含有することが知られており、これらは処理後の可溶化シルク溶液中に残っている可能性がある。これらのイオンは、電気的ゲル化の電気化学プロセスに影響を及ぼす可能性があり、電極間の電圧計の読みの際に検出される可能性があるようである。
【0121】
実施例26.電気的ゲル化に及ぼす白金電極の効果
上記の考察に照らして、非常に貴で純粋な金属を電極として用いる場合、電気的ゲル化は起こらないか、またはシャープペンシル芯を用いる場合よりかなり遅いであろうことを確認するために一連の実験を行った。実施例20の頻繁に用いられる実験の設定を用いて、2つの電極を約8%可溶化シルクフィブロイン(製造後48日)の中に部分的に沈めた。これらの実験に関して、シャープペンシル芯と直径0.02インチで99.95%純粋な白金(Pt)電極の双方を用いた。加えて、pH試験紙を用いて、電気的ゲル化の前後でのシルク溶液のpHを記録した。製造後48日のシルク溶液は、pH 6.0〜pH 6.3を有することが見いだされた。最初の実験において、Pt電極を正極として用いて、シャープペンシルの芯を陰極として用いた。25 VDCを印加すると、電気的ゲル化は2つの鉛筆芯電極を用いた場合より有意に低い速度で起こった。用いた電源からの肉眼的観察に基づくと、実験の際に2 mAの電流が消費された。電気的ゲル化の10分後、印加電圧を停止した後、0.95 VDCの電圧電位が電極間で測定された。このことは、電気的ゲル化後のシルクが電池、すなわちDC電圧源のように作用することを暗示している。得られた電気的ゲル化シルクはほぼ透明であった。固体ゲルを非電気的ゲル化シルク溶液から除去すると、残っている溶液はpH 7.2〜pH 7.6を有することが示された。固体ゲル表面のpH(pH試験紙は、固体内部に挿入することができない)は、pH 4.9〜pH 5.1であることが見いだされた。この実験の予想される成果は、正極として用いたPtの高い貴金属性を考慮すると、電気的ゲル化が起こらないであろうという点である。しかしゲル化速度はより遅いものの、明らかに起こっていた。本明細書において考察されるように、シルク溶液中に分散したイオンが、実際に起こった電気化学プロセスに関与した可能性がある(電子の供給はかなり急速に消散すると予想されるが)。さらに、Ptが非常に腐食抵抗性であるという事実にもかかわらず、あらゆる金属は何らかのレベルで腐食する。ゆえに、この非常に低い腐食速度が、電気的ゲル化に対して寄与しうるであろう。
【0122】
正極および陰極の双方が、電気的ゲル化に関する接触腐食の説明において役割を果たすことから、いずれの電極が支配的な役割を果たすかを調べるために追跡実験を行った。前回の実験を、正極としてシャープペンシル芯および陰極としてPtを用いることによって単に調節した。他の全ての実験条件は同じままであった。電気的ゲル化は、2つのシャープペンシル芯を電極として用いた場合に観察された速度にマッチする速度で起こった。正極は、電気的ゲル化速度の指示において支配的な役割を果たすように思われた。得られた電気的ゲル化シルクは不透明で白色であった(グラファイト電極からの成果と同様に)。残りのシルク溶液は、pH 9.4〜pH 9.7を有することが見いだされたが、電気的ゲル化シルクは、pH 4.6〜pH 4.9を有した。ゲル化後に測定された1.83 VDCの電圧電位は、Ptを正極としてグラファイトを陰極とした場合に観察された電圧レベルのほぼ2倍である。この電圧の増加は、それがPtより貴ではなく、腐食に対してかなり感受性であることから、グラファイト電極から射出されるであろう電子数の増加による可能性がある。
【0123】
2つのPt電極を電気的ゲル化のために用いる場合、電気的ゲル化は遅い速度ではあるが起こることが観察された。速度は正極がPtであって、陰極がグラファイトである場合とおおよそ同じであった。興味深いことに、得られた固体ゲルは、不透明で白色であることが観察され、Pt正極を用いた実験において得られたゲルのように透明ではなかった。電気的ゲル化後のPt電極間の電圧電位は、1.98 VDCであると測定された。これは、この「電池」電位が腐食プロセスを通してシルク溶液の中に押し出される電子の量に関連するという推測とは一貫しない。どの機序が電圧の増加を引き起こすのか、およびシルクゲルの透明性がなぜ電極の組み合わせによって影響を受けるのかは不明である。残りのシルク溶液はpH 8.0〜pH 8.5を有することが見いだされたが、電気的ゲル化シルクはpH 4.6〜pH 4.9を有した。
【0124】
実施例27.可溶化シルクおよびDMEMと白金電極
これまでの実験から、塩を含有するDMEM溶液の導入が電気的ゲル化に対して劇的な効果を有することが示された。Pt正極を用いた場合でも、起こった腐食量を劇的に低減させながら電気的ゲル化が起こったことから、DMEMの添加は、より大きい腐食に対して有意に寄与することなく、ゲル化速度に対して正の効果を有するであろうと考えられた。さらに、非ゲル化シルク溶液および得られるゲルのpHは、電気的ゲル化によってもたらされる。同様に、DMEMのpHは可溶化シルクのpHより大きいことが観察された。この上昇したpHは、電気的ゲル化の前に可溶化シルクと混合すればゲル化速度を増加させることができると推測された。2つのPt電極を用いた場合の電気的ゲル化速度に対するDMEMの影響を観察するために、実験を行った。
【0125】
これらの実験において用いられたDMEMおよび可溶化シルクはそれぞれ、pH 8.2〜pH 8.5およびpH 6.0〜pH 6.3を有することが観察された。濃度40%のDMEMと混合すると、得られた溶液はpH 7.9〜pH 8.2を有した。25 VDCを用いると、2つのPt電極によって極めて急速なゲル化が起こった(90%〜95%ゲルを達成するまでに約1分)。正極において固体が急速に形成されると共に、非常に有意な気泡形成がPt陰極において起こった。DMEMの最初のうす紫色の着色は、シルクが電気的にゲル化すると、淡黄色に変化した。DMEMには、pHが約pH 6に達した場合に黄色に移行するpHマーカーが含まれている。非電気的ゲル化シルクは、pH 8.8〜pH 9.7を有することが観察されたが、ゲルはpH 3.1〜pH 3.4を有することが観察された。DMEMの存在は電気的ゲル化に対して効果を有した。しかし、この場合、Pt電極を用いることによって制御されたゲル化速度が起こった。pHの変化は劇的なゲル化速度の変化を伴う;液体のpHは増加して固体のpHは減少する。
【0126】
もう1つの実験では、DMEMおよびシルク混合物を有する同じ二重Pt電極設定を用いたが、より低い5 VDCの電圧を印加した。この実験によって、25 VDCの印加電圧および可溶化シルクのみによってグラファイト電極について観察された速度とほぼ同じ速度である電気的ゲル化速度が得られた。電気的ゲル化の10分後、約90%〜95%のゲル化が達成された。得られた液体シルクおよびゲルはそれぞれ、pH 9.5〜pH 10.0およびpH 3.1〜pH 3.4を有した。
【0127】
実施例28.電極と電気的ゲル化産物とを隔離するための透析カセットの使用
電気的ゲル化プロセスの懸念の1つは、溶液およびゲルのpHレベルが極端な値(pH 3〜pH 14)を達成しうる点である。もう1つの懸念は、プロセスが電気分解、すなわちシルク溶液の水内容物の水素および酸素ガスへの分解を伴う可能性があり、水素ガスは細胞の生存にとって問題である点である。ゆえに、電気的ゲル化の際に生成される産物を分離するために多孔性メンブレンを用いる透析カセットを用いて実験を行った。白金電極を、8重量%シルク溶液を充填した透析カセットのシリンジ口に挿入した。この電極を最初に正極として用いた。白金陰極を一般的な食卓塩を含有する脱イオン水に浸した。この電気的ゲル化設定に25 VDCを印加すると、良好なゲル化応答が得られた。
【0128】
このプロセスの際に、陰極において典型的に生成する水素ガスは、ゲルから離れて透析カセットの外側で維持された。実験の終了後、非ゲル化シルク溶液のpHは、pH 7.9〜pH 8.2のあいだであることが示された。これはおそらく、バージンシルク溶液のpHに対してわずかなpH上昇を表す(製造後74日のシルク溶液を用いた場合、pHはおそらく約pH 6である)。ゲルの表面上での液体のpHはpH 6〜pH 7.2付近であることが測定された。この実験は、適当なメンブレン材料を使用することによって、シルク溶液およびゲルから水素ガスを分離し続ける方法を提供する。同様に、ゲル周囲で測定されたpH範囲は、可溶化シルクフィブロイン溶液に正極および陰極を沈めた配置より中性にかなり近いことも明らかである。
【0129】
電気的ゲル化を、透析カセットの設定を用いて、陰極がカセットの内部で、正極が外部で、30 VDCの電源電圧を用いて行った。最初、結果は曖昧であった:目に見えるゲル化は起こらず、唯一の目に見える応答は、電極における気泡の形成であった。しかし、正極を透析カセットメンブレンに接触させると、電極との接触領域に沿ってメンブレンの内側にゲルが形成された。この結果に基づいて、透析カセットを脱イオン水浴から外した。筆記用具のような正極を用いると、シルクゲルからメンブレンの内部表面上に形状および文字を形成することが可能であった。カセットは、水浴中に存在する必要はなく、制御されたゲル化幾何学構造を生じたことから、この結果は、興味をそそられる。このプロセスは、シルクゲル材料を用いて3Dの迅速なプロトタイプ作成ツールを作成するために将来的に利用されるであろう。応用領域には、注文に合わせたシルクに基づく組織工学足場構造の作成が含まれる。
【0130】
実施例29.逆転させた電気的ゲル化−シルクゲルの固化および再液体化
電気的ゲル化によって生成されたシルクゲル微小構造は、主にシルクI構造を含む可能性がある(FTIRおよびCD測定はこの主張を確認する/異議を唱えるであろう)。この準安定な材料相は、それが典型的にランダムコイルコンフォメーション(シルク溶液)に戻るように、またはβ-シートコンフォメーション(堅いゲルおよび固体)を形成するように操作されうることから興味をそそられる。シルクIは、再液体化されうることがわかっていることから、電気的ゲル化に応用した場合にこの現象を調べるために実験を行った。白金電極を4重量%シルク溶液の中に沈めた。電極を用いて25 VDCによって溶液を3分間充電した。成果を図21Bに示す。次に、電気の接続を逆転させた;すなわち正極であった電極を陰極に変化させて、陰極であった電極を正極にした。実験の成果を図21Cに示す。当初、正極において形成されたシルクゲルは、半透明になってから完全に消失した。示されるように、これまで陰極であった電極上に新しいゲルが形成された。この実験は、ゲル化プロセスが完全に逆転されうることを示した。ゆえに、電気的ゲル化は、液体から固体への移行が重要である応用にとってプロセスとして有望であることを示している。たとえば、電気的ゲル化は、柔らかい体のロボットにおいて柔らかい「脚」を作動させるために用いられうると想像され:固化および再液体化の繰り返しが移動を引き起こすであろうと想像されうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加して、シルクフィブロインゲルを生成する段階を含む、可溶化シルクフィブロイン溶液をシルクフィブロインゲルに変換する方法。
【請求項2】
約20 VDC〜約75 VDCのDC電圧を用いて電場が印加される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
高電流リチウムポリマー(Li-Pol)電池を用いて電場が印加される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
シルクフィブロインゲルをシルクIコンフォメーションからβ-シート構造に変換する段階をさらに含む方法であって、該変換する段階に、シルクフィブロインゲルを脱水する段階、シルクフィブロインゲルに機械的な力を適用する段階、シルクフィブロインゲルのpHを上昇させる段階、シルクフィブロインゲルの温度を上昇させる段階、およびシルクフィブロインゲルに塩を導入する段階、の少なくとも1つが含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
機械的な力が、開口部を通してシルクフィブロインゲルを排出することによって生成される流れによって誘導される剪断力である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法に従って調製される電気的ゲル化シルク組成物。
【請求項7】
食用であり、香料をさらに含む、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項8】
スプレー、ストリーム、低速排出、またはバルク抽出の形状で対象または場所に送達される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項9】
玩具またはパーティの飾りとして製造される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項10】
難燃剤として製造される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項11】
熱傷または創傷の処置として処方される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項12】
組織再生組成物として処方される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項13】
医学的充填材料として処方される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項14】
機械の成分として製造される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項15】
シルクIコンフォメーションとシルクβ-シート構造とを有するシルクフィブロインタンパク質の混合物を含む、圧電シルク材料であって、
シルク材料の圧電特性が、シルクIコンフォメーションおよびシルクβ-シート構造の比によって特徴づけられ、
シルクIコンフォメーションの含有量が、DC電圧によって調節され、シルクβ-シート構造の含有量が、脱水、機械的な力、または熱力学的処置の少なくとも1つをシルク材料に適用することによって調節される、
圧電シルク材料。
【請求項16】
請求項15記載の圧電シルク材料を含む、再生された組織材料。
【請求項17】
再生された骨、腱、象牙質、大動脈、気管、または腸管材料の少なくとも1つである、請求項16記載の再生組織材料。
【請求項18】
請求項15記載の圧電シルク材料を含む、機械的デバイスまたは成分。
【請求項19】
機械的デバイスが、アクチュエータ、ブレーキフルード、バルブ成分、または衝撃吸収材料の少なくとも1つである、請求項18記載の機械的デバイスまたは成分。
【請求項20】
以下を含む、電気的ゲル化シルクを処理および送達するためのデバイス:
ハウジング;
ハウジング内に取り外し可能に配置された電源;
電源に接続されたポンプ;
ポンプに機能的に接続された、可溶化シルクフィブロイン溶液を保持する容器;
各々が電源に接続されて容器に接触するように配置された、正極と陰極;
シルクフィブロイン溶液の電気的ゲル化をもたらしてシルクゲルを作成するために、電源からの電圧を電極に印加するように構成されたコントローラであって、ポンプも作動させる、コントローラ;
デバイスからシルクゲルを射出するためにポンプを作動させるためのアクチベータ;および
その中を通してシルクゲルが容器から射出される、ハウジングにおいて取り外し可能に配置されたノズル。
【請求項21】
射出されたシルクゲルの剛性がノズルの口径のサイズによって調節される、請求項20記載のデバイス。
【請求項22】
タイミングボードまたはシグナルディスプレイをさらに含む、請求項20記載のデバイス。
【請求項23】
以下の段階を含む、シルクフィブロインゲルに少なくとも1つの物質を封入する方法:
可溶化シルクフィブロイン溶液に少なくとも1つの物質を導入する段階;
シルクフィブロイン溶液の電気的ゲル化を誘導してシルクフィブロインゲル封入活性物質を形成するために、シルクフィブロイン溶液に電場を印加する段階。
【請求項24】
少なくとも1つの物質が、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸アナログ、ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、アプタマー、抗体またはその一部もしくは断片、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組み換え型増殖因子およびその一部、断片または変種、サイトカイン、酵素、抗生物質または抗菌化合物、ウイルス、抗ウイルス剤、抗真菌剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬物、およびその組み合わせからなる群より選択される生物活性物質である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法に従って調製された生物活性物質封入シルクフィブロインゲル。
【請求項26】
請求項25記載の生物活性物質封入シルクフィブロインゲルを含む生物学的送達デバイス。
【請求項27】
請求項25記載の生物活性物質封入シルクフィブロインゲルと、薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的製剤。
【請求項28】
以下の段階を含む、シルクフィブロインゲルによって基質の少なくとも一部をコーティングする方法:
基質の少なくとも一部を可溶化シルクフィブロイン溶液に露出する段階;
シルクフィブロイン溶液の電気的ゲル化を誘導するために正極に機能的に接続された基質に電場を印加する段階;
基質の表面上にシルクフィブロインゲルコーティングを蓄積させる段階。
【請求項29】
シルクフィブロインゲルコーティングをシルクフィブロイン被膜に変換させるためにさらに脱水する、請求項28記載の方法。
【請求項30】
シルクゲルによってコーティングされる基質が、組織、再生組織、医学的デバイス、医学的インプラント、獣医学的デバイス、または獣医学的インプラントである、請求項28記載の方法。
【請求項31】
インビボ組織再生または組織欠損修復のために用いられる、請求項30記載の方法。
【請求項32】
組織が皮膚組織である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
再生組織、医学的デバイス、またはインプラントが、歯科学、整形外科、外傷学、心血管応用、凝固デバイス、埋め込み可能な人工臓器、小さい埋め込み材料または医学機器からなる群より選択される分野で用いられるために製造される、請求項30記載の方法。
【請求項34】
再生組織、医学的デバイス、またはインプラントが、歯科用充填材料;歯冠、ブリッジ、取り外し可能な義歯を含む歯科用人工補綴デバイス;骨組み込みインプラントを含む歯科用インプラント;歯科用固定具および保定装置を含む矯正装置;整形外科骨充填材料;股関節、膝、肩、および肘の人工補綴物、骨セメント、人工関節補綴成分を含む関節形成デバイスまたはインプラント;頭蓋、顔面、および顎人工補綴物を含む顎顔面インプラントおよびデバイス;脊髄、脊柱、脊椎ケージを含む脊椎デバイスまたはインプラント;釘、ワイヤ、ピン、プレート、ロッド、ワイヤ、ねじ、または他の固定具を含む、骨および/または関節成分を固定するための骨接合デバイスおよび機器;皮膚、骨、血管創傷移植片およびパッチ、縫合糸、血管創傷修復デバイス、ならびに止血用包帯を含む、創傷治癒デバイスまたはインプラント;血管補綴物、ステント、カテーテル、血管移植片、心臓弁およびペースメーカーを含む、心血管デバイスおよびインプラント;コーティングしたプローブを有するアルゴン強化凝固デバイスを含む凝固デバイス;人工心臓、肝臓、腎臓、肺、脳ペースメーカー等を含む埋め込み可能な人工臓器;オクルダー、フィルター、ねじ、ボルト、ナット、ピン、プレート、ギア、スリーブベアリング、ワッシャー、アンカー、プラグ、釘等を含む小さい埋め込み材料;ならびにメス、鉗子、へら、キュレット、ステオトーム、ノミ、切骨器、抜去器等を含む医学用器具からなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
シルクゲルコーティングに少なくとも1つの活性物質を包埋する段階をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1つの物質が、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸アナログ、ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、アプタマー、抗体またはその断片もしくは一部、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組み換え型増殖因子ならびにその断片および変種、サイトカイン、酵素、抗生物質または抗菌化合物、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬物、およびその組み合わせからなる群より選択される生物活性物質である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
シルクゲルコーティングに細胞増殖培地を包埋する段階をさらに含む、請求項36記載の方法。
【請求項38】
再生組織、医学的デバイス、またはインプラントが、金属、合金、導電性ポリマーもしくはセラミクス、またはその組み合わせの群から選択される材料から加工される、請求項30記載の方法。
【請求項39】
以下の段階を含む、可溶化シルクフィブロイン溶液をシルクフィブロインゲルに可逆的に変換する方法:
電気的ゲル化を誘導するために該シルクフィブロイン溶液にDC電圧を印加する段階;および
電極の極性を逆転させる段階であって、それによって電気的ゲル化シルクフィブロインゲルがシルクフィブロイン溶液に変換される、段階。
【請求項40】
請求項39記載の電気的ゲル化法を適用および逆転させる段階を含む、シルクゲルの流体粘度、粘着性、および剛性を交互させる(alternating)方法。
【請求項41】
シルク粘液接着剤を含む、媒体に沿って動くことができるソフトロボティックデバイスであって、ソフトロボティックデバイスの動きが、請求項39記載の電気的ゲル化法を適用および逆転させることを通して、媒体におけるシルク粘液接着剤の粘着性を制御することによって調節される、ソフトロボティックデバイス。
【請求項42】
動いていない場合に、媒体に接着することができる、請求項41記載のソフトロボティックデバイス。
【請求項43】
媒体が湿っているまたは水性環境に存在する場合に、媒体に接着することができる、請求項41記載のソフトロボティックデバイス。
【請求項44】
モニタリング、送達、診断、または処置デバイスと組み合わせて用いられる、請求項41記載のソフトロボティックデバイス。
【請求項1】
可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加して、シルクフィブロインゲルを生成する段階を含む、可溶化シルクフィブロイン溶液をシルクフィブロインゲルに変換する方法。
【請求項2】
約20 VDC〜約75 VDCのDC電圧を用いて電場が印加される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
高電流リチウムポリマー(Li-Pol)電池を用いて電場が印加される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
シルクフィブロインゲルをシルクIコンフォメーションからβ-シート構造に変換する段階をさらに含む方法であって、該変換する段階に、シルクフィブロインゲルを脱水する段階、シルクフィブロインゲルに機械的な力を適用する段階、シルクフィブロインゲルのpHを上昇させる段階、シルクフィブロインゲルの温度を上昇させる段階、およびシルクフィブロインゲルに塩を導入する段階、の少なくとも1つが含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
機械的な力が、開口部を通してシルクフィブロインゲルを排出することによって生成される流れによって誘導される剪断力である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法に従って調製される電気的ゲル化シルク組成物。
【請求項7】
食用であり、香料をさらに含む、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項8】
スプレー、ストリーム、低速排出、またはバルク抽出の形状で対象または場所に送達される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項9】
玩具またはパーティの飾りとして製造される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項10】
難燃剤として製造される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項11】
熱傷または創傷の処置として処方される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項12】
組織再生組成物として処方される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項13】
医学的充填材料として処方される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項14】
機械の成分として製造される、請求項6記載の電気的ゲル化シルク。
【請求項15】
シルクIコンフォメーションとシルクβ-シート構造とを有するシルクフィブロインタンパク質の混合物を含む、圧電シルク材料であって、
シルク材料の圧電特性が、シルクIコンフォメーションおよびシルクβ-シート構造の比によって特徴づけられ、
シルクIコンフォメーションの含有量が、DC電圧によって調節され、シルクβ-シート構造の含有量が、脱水、機械的な力、または熱力学的処置の少なくとも1つをシルク材料に適用することによって調節される、
圧電シルク材料。
【請求項16】
請求項15記載の圧電シルク材料を含む、再生された組織材料。
【請求項17】
再生された骨、腱、象牙質、大動脈、気管、または腸管材料の少なくとも1つである、請求項16記載の再生組織材料。
【請求項18】
請求項15記載の圧電シルク材料を含む、機械的デバイスまたは成分。
【請求項19】
機械的デバイスが、アクチュエータ、ブレーキフルード、バルブ成分、または衝撃吸収材料の少なくとも1つである、請求項18記載の機械的デバイスまたは成分。
【請求項20】
以下を含む、電気的ゲル化シルクを処理および送達するためのデバイス:
ハウジング;
ハウジング内に取り外し可能に配置された電源;
電源に接続されたポンプ;
ポンプに機能的に接続された、可溶化シルクフィブロイン溶液を保持する容器;
各々が電源に接続されて容器に接触するように配置された、正極と陰極;
シルクフィブロイン溶液の電気的ゲル化をもたらしてシルクゲルを作成するために、電源からの電圧を電極に印加するように構成されたコントローラであって、ポンプも作動させる、コントローラ;
デバイスからシルクゲルを射出するためにポンプを作動させるためのアクチベータ;および
その中を通してシルクゲルが容器から射出される、ハウジングにおいて取り外し可能に配置されたノズル。
【請求項21】
射出されたシルクゲルの剛性がノズルの口径のサイズによって調節される、請求項20記載のデバイス。
【請求項22】
タイミングボードまたはシグナルディスプレイをさらに含む、請求項20記載のデバイス。
【請求項23】
以下の段階を含む、シルクフィブロインゲルに少なくとも1つの物質を封入する方法:
可溶化シルクフィブロイン溶液に少なくとも1つの物質を導入する段階;
シルクフィブロイン溶液の電気的ゲル化を誘導してシルクフィブロインゲル封入活性物質を形成するために、シルクフィブロイン溶液に電場を印加する段階。
【請求項24】
少なくとも1つの物質が、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸アナログ、ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、アプタマー、抗体またはその一部もしくは断片、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組み換え型増殖因子およびその一部、断片または変種、サイトカイン、酵素、抗生物質または抗菌化合物、ウイルス、抗ウイルス剤、抗真菌剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬物、およびその組み合わせからなる群より選択される生物活性物質である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法に従って調製された生物活性物質封入シルクフィブロインゲル。
【請求項26】
請求項25記載の生物活性物質封入シルクフィブロインゲルを含む生物学的送達デバイス。
【請求項27】
請求項25記載の生物活性物質封入シルクフィブロインゲルと、薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的製剤。
【請求項28】
以下の段階を含む、シルクフィブロインゲルによって基質の少なくとも一部をコーティングする方法:
基質の少なくとも一部を可溶化シルクフィブロイン溶液に露出する段階;
シルクフィブロイン溶液の電気的ゲル化を誘導するために正極に機能的に接続された基質に電場を印加する段階;
基質の表面上にシルクフィブロインゲルコーティングを蓄積させる段階。
【請求項29】
シルクフィブロインゲルコーティングをシルクフィブロイン被膜に変換させるためにさらに脱水する、請求項28記載の方法。
【請求項30】
シルクゲルによってコーティングされる基質が、組織、再生組織、医学的デバイス、医学的インプラント、獣医学的デバイス、または獣医学的インプラントである、請求項28記載の方法。
【請求項31】
インビボ組織再生または組織欠損修復のために用いられる、請求項30記載の方法。
【請求項32】
組織が皮膚組織である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
再生組織、医学的デバイス、またはインプラントが、歯科学、整形外科、外傷学、心血管応用、凝固デバイス、埋め込み可能な人工臓器、小さい埋め込み材料または医学機器からなる群より選択される分野で用いられるために製造される、請求項30記載の方法。
【請求項34】
再生組織、医学的デバイス、またはインプラントが、歯科用充填材料;歯冠、ブリッジ、取り外し可能な義歯を含む歯科用人工補綴デバイス;骨組み込みインプラントを含む歯科用インプラント;歯科用固定具および保定装置を含む矯正装置;整形外科骨充填材料;股関節、膝、肩、および肘の人工補綴物、骨セメント、人工関節補綴成分を含む関節形成デバイスまたはインプラント;頭蓋、顔面、および顎人工補綴物を含む顎顔面インプラントおよびデバイス;脊髄、脊柱、脊椎ケージを含む脊椎デバイスまたはインプラント;釘、ワイヤ、ピン、プレート、ロッド、ワイヤ、ねじ、または他の固定具を含む、骨および/または関節成分を固定するための骨接合デバイスおよび機器;皮膚、骨、血管創傷移植片およびパッチ、縫合糸、血管創傷修復デバイス、ならびに止血用包帯を含む、創傷治癒デバイスまたはインプラント;血管補綴物、ステント、カテーテル、血管移植片、心臓弁およびペースメーカーを含む、心血管デバイスおよびインプラント;コーティングしたプローブを有するアルゴン強化凝固デバイスを含む凝固デバイス;人工心臓、肝臓、腎臓、肺、脳ペースメーカー等を含む埋め込み可能な人工臓器;オクルダー、フィルター、ねじ、ボルト、ナット、ピン、プレート、ギア、スリーブベアリング、ワッシャー、アンカー、プラグ、釘等を含む小さい埋め込み材料;ならびにメス、鉗子、へら、キュレット、ステオトーム、ノミ、切骨器、抜去器等を含む医学用器具からなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
シルクゲルコーティングに少なくとも1つの活性物質を包埋する段階をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1つの物質が、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸アナログ、ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、アプタマー、抗体またはその断片もしくは一部、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組み換え型増殖因子ならびにその断片および変種、サイトカイン、酵素、抗生物質または抗菌化合物、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬物、およびその組み合わせからなる群より選択される生物活性物質である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
シルクゲルコーティングに細胞増殖培地を包埋する段階をさらに含む、請求項36記載の方法。
【請求項38】
再生組織、医学的デバイス、またはインプラントが、金属、合金、導電性ポリマーもしくはセラミクス、またはその組み合わせの群から選択される材料から加工される、請求項30記載の方法。
【請求項39】
以下の段階を含む、可溶化シルクフィブロイン溶液をシルクフィブロインゲルに可逆的に変換する方法:
電気的ゲル化を誘導するために該シルクフィブロイン溶液にDC電圧を印加する段階;および
電極の極性を逆転させる段階であって、それによって電気的ゲル化シルクフィブロインゲルがシルクフィブロイン溶液に変換される、段階。
【請求項40】
請求項39記載の電気的ゲル化法を適用および逆転させる段階を含む、シルクゲルの流体粘度、粘着性、および剛性を交互させる(alternating)方法。
【請求項41】
シルク粘液接着剤を含む、媒体に沿って動くことができるソフトロボティックデバイスであって、ソフトロボティックデバイスの動きが、請求項39記載の電気的ゲル化法を適用および逆転させることを通して、媒体におけるシルク粘液接着剤の粘着性を制御することによって調節される、ソフトロボティックデバイス。
【請求項42】
動いていない場合に、媒体に接着することができる、請求項41記載のソフトロボティックデバイス。
【請求項43】
媒体が湿っているまたは水性環境に存在する場合に、媒体に接着することができる、請求項41記載のソフトロボティックデバイス。
【請求項44】
モニタリング、送達、診断、または処置デバイスと組み合わせて用いられる、請求項41記載のソフトロボティックデバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
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【図13】
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【図15】
【図16】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公表番号】特表2012−509252(P2012−509252A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529298(P2011−529298)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/058534
【国際公開番号】WO2010/036992
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(510300430)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (12)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/058534
【国際公開番号】WO2010/036992
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(510300430)トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (12)
【Fターム(参考)】
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