説明

活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス及び印刷インキ

【課題】本発明は、インキの流動性を上げることによって印刷機の操作性を向上させることのできる活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス、当該ゲルワニスを使用することにより印刷機の操作性が向上した活性エネルギー線硬化型印刷インキ、及び当該印刷インキを用いて印刷した印刷物を提供することを目的とする。
【解決手段】 A.アルミニウムアルコレート又はアルミニウムキレート化合物と、B.ジアリルフタレートプレポリマーと、C.Bと相溶する活性エネルギー線硬化性液状化合物とを、含有する混合物を加熱して得られる活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスであって、Bとしてオルソタイプとイソタイプとを併用することを特徴とする活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線等の活性エネルギー線により硬化するインキに用いるゲルワニス及びそれを用いた印刷インキに関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化型インキを構成するビヒクルには、液状のものとゲル弾性を有するものに分けられるが、後者のゲル弾性を有するビヒクルをゲルワニスという。
【0003】
凸版又は平版インキでは、ゲル状のワニスを加えて、印刷基材への転移性、インキ流動性、耐乳化性等を向上させることがあるが、特に活性エネルギー線硬化型インキにおいては、インキが適度の粘度と粘弾性を有しながら、それが印刷温度、湿し水供給量などの印刷条件によって大きく変化しないようにするため必要不可欠なものとされている。
【0004】
そこで、特許文献1には、紫外線硬化型インキ用ビヒクルとして保持すべき性質(硬化性、保存安定性、顔料その他を分散維持させる能力等)を損なわず、ゲルワニスとして紫外線硬化型インキに耐熱変化性、湿し水性(耐乳化性)、チクソトロピック性を付与することのできる紫外線硬化型インキ用ゲルワニスとして、アルミニウムアルコレート又はアルミニウムキレート化合物と、ジアリルフタレートプレポリマーと、紫外線硬化性を有する液状化合物でジアリルフタレートプレポリマーと相溶するものとを混合することにより得られる紫外線硬化型ゲルワニスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−64670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のゲルワニスを使用したインキは、印刷機上での耐熱変化性、耐湿し水性、紫外線硬化性及び貯蔵安定性については良好であるが、インキの流動性が不十分なため機上での条件変化への対応が遅れる(印刷機の操作性が悪い)、ローラー間の転移性が不十分といった問題があった。
従って、本発明は、インキの流動性を上げて、適度なものとすることによって印刷機の操作性を向上させることのできる活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス、当該ゲルワニスを使用することにより印刷機の操作性が向上した活性エネルギー線硬化型印刷インキ、及び当該印刷インキを用いて印刷した印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスに用いるジアリルフタレートプレポリマーについて、オルソタイプとイソタイプとを混合して用いることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) A.アルミニウムアルコレート又はアルミニウムキレート化合物と、
B.ジアリルフタレートプレポリマーと、
C.Bと相溶する活性エネルギー線硬化性液状化合物とを、
含有する混合物を加熱して得られる活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ワニスであって、Bとしてオルソタイプとイソタイプとを併用することを特徴とする活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス、
(2) 前記A、B、Cの配合比率が、これらの合計量を100重量部としたとき、Aが0.1〜10重量部、Bが5〜60重量部、Cが30〜94.9重量部であることを特徴とする(1)記載の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス、
(3) 前記Bを構成するオルソタイプとイソタイプとの比率が重量部で5:95〜95:5であることを特徴とする(1)又は(2)記載の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス、
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスを含有する活性エネルギー線硬化型印刷インキ、
(5) 印刷基材に(4)記載の活性エネルギー線硬化型印刷インキを用いて印刷してなる印刷物、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスを用いて製造された印刷インキは、印刷物の品質を維持するため印刷条件を変更したとき追従性に優れ、品質不良の印刷物を無駄に刷ることがなく、省資源及びコスト低減の効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。 なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。 以下の説明において「部」は「重量部」を示す。
【0011】
本発明で用いるアルミニウムアルコレート又はアルミニウムキレート化合物は、アルミニウムアルコレート、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジn−ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジイソブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジsec−ブトキシドモノエチルアセトアセテート、環状アルミニウムオキシドステアレート等を例示できる。
【0012】
本発明で用いるジアリルフタレートプレポリマーは、オルソタイプとイソタイプの2種類を併用する。 単独使用の場合は流動性不足のため印刷機の操作性が悪いが、併用することによって、得られた印刷インキが適度な流動性となり、結果として印刷機の操作性が改善される。
【0013】
本発明で用いるジアリルフタレートプレポリマーと相溶する活性エネルギー線硬化性液状化合物としては、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等のモノマー、及びエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等のオリゴマーを例示できる。 これらは単独或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。 なお、(メタ)アクリレートとはアクリレート、メタクリレートの両方を示す。
【0014】
本発明の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスは、B成分であるジアリルフタレートプレポリマーと、Bと相溶する活性エネルギー線硬化性液状化合物であるC成分とを100〜120℃で加熱溶解し、次いでA成分であるアルミニウムアルコレート又はアルミニウムキレート化合物を添加し、100〜120℃で加熱混合して製造される。
【0015】
A、B、Cの各成分の混合比率は、これらの合計量を100部としたとき、Aが0.1〜10部、Bが5〜60部、Cが30〜94.9部である。 Aが0.1部未満ではゲルワニスの弾性が弱過ぎて実用的でなく、10部を越えると弾性が強すぎてインキ化するのに適さない。 Bが5部未満の場合もゲル弾性が弱すぎ、60部を超えると活性エネルギー線硬化性が悪くなるとともに、ゲルワニスが高粘度化するためインキ化しにくくなる。 さらに、好ましくはAが0.5〜5部、Bが10〜40部、Cが55〜89.5部であるが、Aの種類によってゲル化する能力に差があるため添加量を適宜調整して用いる必要がある。
【0016】
B成分については、イソタイプとオルソタイプを併用する。 その比率は5:95〜95:5部である。 イソタイプがこれより多いとインキの活性エネルギー線硬化性が低下し、少ないとインキの流動性が低下するため好ましくない。 より好ましくは10:90〜90:10部である。 この範囲ではインキの流動性と硬化性のバランスが良い。
【0017】
これまでは、ゲルワニスが1種類として説明してきたが、インキの色や種類によってイソタイプとオルソタイプのジアリルフタレートプレポリマーの好ましい比率が異なることがあるので、イソタイプとオルソタイプのワニスを別々に製造し、それをインキ製造時に混合して用いても良い。
【0018】
なお、このときオルソジアリルフタレートプレポリマーを用いたワニスには、A成分を入れなくても良い。 すなわち、オルソのジアリルフタレートプレポリマー及びこれと相溶する活性エネルギー線硬化性液状化合物を混合して得られたゲル化しないワニスと、A成分、イソのジアリルフタレートプレポリマー及びC成分から得られたゲルワニスとをインキ製造時に混合して用いることができる。 また、A成分、イソのジアリルフタレートプレポリマー及びC成分を混合加熱して得られたゲルワニスにオルソジアリルフタレートプレポリマーを混合して用いることも可能である。
【0019】
以上で説明してきたゲルワニスには、ラジカル重合性を抑制するため重合禁止剤を添加する。 その使用量は、重合性反応化合物の総量に対し0.001〜1重量%であり、その代表例としてハイドロキノン、ベンゾキノン、モノter−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p−ter−ブチルカテコール、メチルハイドロキノン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン・アルミニウム塩等が挙げられる。
【0020】
本発明の活性エネルギー線硬化型印刷用インキは、上記のようにして製造されたゲルワニスに、活性エネルギー線増感剤、活性エネルギー線硬化性化合物、顔料、熱重合禁止剤、その他の助剤を添加混合して製造され、凸版印刷、平版印刷等の印刷方法を用いて、紙を始めとした種々の印刷基材に印刷される。
【0021】
なお、本発明における活性エネルギー線とは、硬化反応の出発物質が基底状態から遷移状態に励起するのに必要なエネルギーのことを表し、本発明における活性エネルギー線とは、紫外線や電子線をさす。
【0022】
活性エネルギー線硬化型印刷インキを硬化するには、一般的に有電極高圧水銀ランプ、有電極メタルハライドランプ、無電極高圧水銀ランプ、無電極メタルハライドランプ、紫外線LED(発光ダイオード)等の紫外線を発光する光源を用いる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
[活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスの製造]
実施例1
ジアリル(イソ)フタレートプレポリマー(商品名:ダイソーイソダップ、ダイソー社製 )90部、ジアリル(オルソ)フタレートプレポリマー((商品名:ダイソーダップA、ダイソー社製 )160部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート250部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート497部及び重合禁止剤のメチルハイドロキノン2部を混合し、100℃で60分間撹拌した。 更に、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート3部を少しずつ添加し、100℃で60分間撹拌し、活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス1を得た。
【0025】
実施例2
ジアリル(イソ)フタレートプレポリマー(商品名:ダイソーイソダップ、ダイソー社製 )25部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート25部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート50部及び重合禁止剤のメチルハイドロキノン0.1部を混合し、100℃で60分間撹拌した。 更にアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート1部を少しずつ添加し、100℃で60分間撹拌して活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスの前駆体1を得た。
一方、ジアリル(オルソ)フタレートプレポリマー(商品名:ダイソーダップA、ダイソー社製 )25部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート25部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート50部及び重合禁止剤のメチルハイドロキノン0.1部を混合し、100℃で60分間撹拌して活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスの前駆体2を得た。
前駆体1及び2を表1記載の重量比で混合しゲルワニス2〜5を得た。
【0026】
【表1】

【0027】
比較例1
ジアリル(オルソ)フタレートプレポリマー(商品名:ダイソーダップA、ダイソー社製 )25部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート25部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート50部及び重合禁止剤のメチルハイドロキノン0.1部を混合し、100℃で60分間撹拌した。 更にアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート1部を少しずつ添加し、100℃で60分間撹拌して活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス6を得た。
【0028】
比較例2
ジアリル(イソ)フタレートプレポリマー(商品名:ダイソーイソダップ、ダイソー社製 )25部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート25部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート50部及び重合禁止剤のメチルハイドロキノン0.1部を混合し、100℃で60分間撹拌した。 更に、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート1部を少しずつ添加し、100℃で60分間撹拌して、活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス7を得た。
【0029】
[活性エネルギー線硬化型印刷インキの製造]
実施例1、2及び比較例1、2で製造したゲルワニス1〜7及び表2記載の材料を用い、表3の組成物を三本ロールで練肉して平版印刷用の活性エネルギー線硬化型印刷インキ(実施例3〜8、比較例3、4)を得た。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
[印刷テスト]
表3の活性エネルギー線硬化型印刷インキ(実施例3〜8、比較例3、4)を用いて、下記条件で印刷テストを行い、操作追従性、連続印刷安定性、乳化性及び硬化性を評価し、その結果を表4に記載した。
印刷機: LS40(小森コーポレーション社製)
印刷速度: 毎時12000枚
用紙: OKトップコート+(王子製紙社製)
紫外線照射条件: オゾンレスメタルハライドランプ 125W
【0033】
(1)操作追従性
基準濃度で印刷中にインキキーを2ポイントプラスに変更した後、印刷物の濃度変化を観察し、キー変更が印刷物濃度に反映されるまでの印刷枚数を測定し、以下の基準で評価した。
100枚以内 ○
100〜300枚 △
300枚以上 ×
【0034】
(2)連続印刷安定性
汚れを生じない湿し水の最小水上げ量にて連続印刷を行い、印刷物に汚れが発生するまでの印刷枚数を測定し、以下の基準で評価した。
10000枚以上 ○
10000〜3000枚 △
3000枚以下 ×
【0035】
(3)乳化性
10000枚印刷したときの、インキ練りローラー上のインキの乳化状態を調べ、以下の基準で評価した。
良好 ○
やや不良 △
不良 ×
【0036】
(4)硬化性
インキの皮膜硬化度合いを指触乾燥試験で評価した。
良好 ○
やや不良 △
不良 ×
【0037】
【表4】

【0038】
表4から、本発明の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスを用いて製造したインキを用いて印刷すると殆ど全ての評価項目で良好な結果が得られている。 唯一実施例8で硬化性がやや不良となっているが、これはゲルワニスの組成を微調整すれば改善されるレベルの問題に過ぎない。 一方、比較例3及び4はジアリルフタレートプレポリマーのオルソタイプ又はイソタイプのみを使用した例で、特許文献1に相当するものであるが、オルソタイプのみでは操作追従性と連続印刷安定性に大きな問題があり、イソタイプのみでは硬化性に大きな問題があることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスは、それを用いて製造した印刷インキは印刷機上で操作応答性に優れ、安定して印刷物を生産できるため性エネルギー線硬化型印刷インキとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A.アルミニウムアルコレート又はアルミニウムキレート化合物と、
B.ジアリルフタレートプレポリマーと、
C.Bと相溶する活性エネルギー線硬化性液状化合物とを、
含有する混合物を加熱して得られる活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスであって、Bとしてオルソタイプとイソタイプとを併用することを特徴とする活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス。
【請求項2】
前記A、B、Cの配合比率が、これらの合計量を100重量部としたとき、Aが0.1〜10重量部、Bが5〜60重量部、Cが30〜94.9重量部であることを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス。
【請求項3】
前記Bを構成するオルソタイプとイソタイプとの比率が重量部で5:95〜95:5であることを特徴とする請求項1又は2記載の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスを含有する活性エネルギー線硬化型印刷インキ。
【請求項5】
印刷基材に請求項4記載の活性エネルギー線硬化型印刷インキを用いて印刷してなる印刷物。