説明

活性エネルギー線硬化型被覆用組成物および該組成物の硬化物からなる被膜を有する成形品

【課題】優れた指紋除去性を発現し、耐磨耗性、透明性が良好な被膜を形成する被覆用組成物および該組成物の硬化物からなる被膜を有する成形品の提供。
【解決手段】活性エネルギー線硬化性の重合性単量体(A)、撥水撥油性付与剤(B)および活性エネルギー線重合開始剤(C)を含む被覆用組成物であり、前記撥水撥油性付与剤(B)は、撥水撥油性を発現する部位(b−1)、活性エネルギー線硬化性の官能基(b−2)および重合性単量体(A)に対して相溶性に優れる部位(b−3)を有する撥水撥油性付与剤(B−T)を含有する活性エネルギー線硬化型被覆用組成物および該組成物の硬化物からなる被膜を有する成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線の照射により硬化し、耐磨耗性が良好であり、かつ脂性の汚れに対する防汚性、特に表面に付着した指紋の除去性に優れた透明な被膜を与える活性エネルギー線硬化型の被覆用組成物に関する。また、本発明は、ガラスまたはプラスチックの基材表面に該被覆用組成物の硬化物からなる被膜を有し、長期にわたって優れた耐磨耗性および脂性の汚れに対する防汚性、特に優れた指紋除去性を発現する成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡面仕上げされた金属プレートや無機ガラス製ショウウインドー、ショウケース、自動車の開口部材、反射防止膜、光学フィルタ、光学レンズ、液晶ディスプレー、CRTディスプレー、プロジェクションテレビ、プラズマディスプレー、ELディスプレー、光ディスク等は、そのおかれた環境によって指紋、皮脂、汗、化粧品等の脂性の汚れが付着する場合が多い。このような脂性の汚れは、一度付着すると除去することは容易ではなく、特に、反射防止膜付きの光学部材では、付着した汚れが目立つために問題となる。そこで、これら脂性の汚れの付着による問題を解決する手段として、脂性の汚れが付着しにくく、付着しても拭き取りやすい性能を持つ防汚層を光学部材の表面に形成する技術が種々提案されている。防汚層を表面に有する光学部材において、最外層に位置する防汚層は、拭き取る際にその表面部分に傷がつきやすい。
【0003】
特許文献1には、被覆成型品の硬化物層に耐磨耗性、潤滑性を付与すべく、シリコーン系化合物または含フッ素系化合物を潤滑性付与剤として添加した被覆用組成物が使用されている。しかし、前記公報に例示されたシリコーン系化合物や含フッ素系化合物は、マトリクス樹脂との親和性が低いため、被覆した際にマトリクス樹脂の表面からブリードアウトしやすく、被覆された部位の透明性を損ないやすいという問題を有していた。また、潤滑性付与剤としてシリコーン系化合物を添加したのでは、十分な防汚性を発現することができない。
【0004】
特許文献2には、フッ素系界面活性剤を含有する光記録媒体用ハードコート剤が開示されている。しかし、当該フッ素系界面活性剤を含有するハードコート層は耐磨耗性が十分ではなく、防汚性を付与するために、架橋型フッ素系界面活性剤と、非架橋型フッ素系界面活性剤という2種類のフッ素系界面活性剤を必要とする。
【0005】
特許文献3には、末端にカルバメート結合を介してアルコキシシラン構造を有する含フッ素化合物と、無機化合物または有機化合物の微粒子とを含む防汚性組成物が記載されている。しかし、この防汚性組成物は、二酸化ケイ素等の無機化合物からなる層に該組成物に含まれるアルコキシシランが結合することで密着性を得るため、基材表面に無機化合物層が存在しない場合には、一時的には防汚性を得ることができても、長期にわたって防汚性を発現できないという問題を有していた。また、この防汚性組成物も防汚性のみを目的としており、機械的強度をもたず、表面部分が比較的傷が付き易い。このため、基材表面に耐磨耗性等機械的強度を付与することが必要な場合には、基材表面にハードコート層を設けることが必要であり、工程が複雑になるという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−248703号公報
【特許文献2】特開平11−293159号公報
【特許文献3】特開2000−191668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決するものであり、種々の被処理基材、特に、ガラス、金属またはプラスチックの基材表面に、耐磨耗性が良好であり、かつ脂性の汚れに対する防汚性が優れており、特に長期にわたって優れた指紋除去性を発現する透明な被膜を形成することができる被覆用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、その外表面に被覆用組成物の硬化物からなる被膜を有するガラスまたはプラスチック製の成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下[1]〜[8]の構成を有する活性エネルギー線硬化型被覆用組成物および該組成物の硬化物からなる被膜を有する成形品を提供する。
[1]活性エネルギー線硬化性の重合性単量体(A)の100質量部に対して、撥水撥油性付与剤(B)の0.01〜10質量部、および活性エネルギー線重合開始剤(C)の0.1〜10質量部を含む被覆用組成物であり、
前記重合性単量体(A)は、前記被覆用組成物に含有される該重合性単量体(A)の総質量中、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選択される重合性官能基を1分子中に2個以上有する多官能性重合性単量体(a−1)を20質量%以上含有し、
前記撥水撥油性付与剤(B)は、下記式(10)または下記式(11)で示される部分を有する撥水撥油性を発現する部位(b−1)、活性エネルギー線硬化性の官能基(b−2)および下記式(2)〜(4)で表される部分からなる群から選択される少なくとも1つからなる部位(b−3)を有する撥水撥油性付与剤(B−T)を含有し、
前記撥水撥油性付与剤(B−T)において、前記活性エネルギー線硬化性の官能基(b−2)は、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニル基およびビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記撥水撥油性付与剤(B−T)は、前記部位(b−1)を有するラジカル重合性のマクロマーと、前記部位(b−3)を有するラジカル重合性のマクロマーと、を共重合させて、さらに前記官能基(b−2)を導入した共重合型であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型被覆用組成物。
−(CH2CH2O)x− ・・・式(2)
−(CH2CH(CH3)O)y− ・・・式(3)
−(C(=O)CuH2uO)t− ・・・式(4)
(式中、xおよびyは5〜100の整数であり、uは3〜5の整数であり、tは1〜20の整数である。)
f(OC36n−O−(CF2m−(CH2L−O− ・・・式(10)
(式中、Rfはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜16のポリフルオロアルキル基であり、nは1〜50の整数であり、mおよびLは1〜3の整数であり、6≧m+L>0である。)
f(OC24e−O−(CF2g−(CH2h−O− ・・・式(11)
(式中、Rfはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜16のポリフルオロアルキル基であり、eは1〜50の整数であり、gおよびhは1〜3の整数であり、6≧g+h>0である。)
[2]活性エネルギー線硬化性の重合性単量体(A)の100質量部に対して、撥水撥油性付与剤(B)の0.01〜10質量部、および活性エネルギー線重合開始剤(C)の0.1〜10質量部を含む被覆用組成物であり、
前記重合性単量体(A)は、前記被覆用組成物に含有される該重合性単量体(A)の総質量中、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選択される重合性官能基を1分子中に2個以上有する多官能性重合性単量体(a−1)を20質量%以上含有し、
前記撥水撥油性付与剤(B)は、下記式(14)で表される撥水撥油性付与剤(B−T)を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型被覆用組成物。
CH2=C(CH3)COOC24NHCOO−(C(=O)C510O)t−CH2(CF2CF2O)p(CF2O)sCF2CF2CH2O−(C(=O)C510O)t−CONHC24OCOC(CH3)=CH2 ・・・式(14)
(式中、tは1〜20の整数であり、pおよびsは1〜100の整数である。)
[3]前記重合性単量体(A)100質量部に対して0.1〜500質量部のコロイダルシリカ(D)をさらに含有する[1]または[2]の被覆用組成物。
[4]前記コロイダルシリカ(D)は、メルカプト基を有する有機基と、加水分解性基または水酸基と、がケイ素原子に結合しているメルカプト基含有シラン化合物(S1)または(メタ)アクリロイル基を有する有機基と、加水分解性基または水酸基とが、ケイ素原子に結合している(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物(S2)で表面修飾して得られる修飾コロイダルシリカであることを特徴とする[3]の被覆用組成物。
[5]前記メルカプト基含有シラン化合物(S1)は、下記式(12)で表される化合物であることを特徴とする[4]の被覆用組成物。
HS−R1−SiR2f53-f ・・・式(12)
(式中、R1は2価の炭化水素基、R2は水酸基または加水分解性基、R5は1価の炭化水素基、fは1〜3の整数を表す。)
[6]前記(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物(S2)は、下記式(13)で表される化合物であることを特徴とする[4]の被覆用組成物。
CH2=C(R6)−R7−SiR2f53-f ・・・式(13)
(式中、R6は水素原子またはメチル基、R7は2価の炭化水素基、R2は水酸基または加水分解性基、R5は1価の炭化水素基、fは1〜3の整数を表す。)
[7]硬化後の被膜表面のオレイン酸に対する接触角が初期60度以上かつ耐湿試験後55度以上であり、前記硬化後の被膜のヘーズ値が3%以下であり、かつISO9352で定めるテーバー磨耗性試験(磨耗輪:CS−10F、片輪加重500g、500回転)の前後における前記硬化後の被膜のヘーズ値の変化が10%以下であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかの被覆用組成物。
[8]ガラスまたはプラスチックの基材表面に、[1]〜[7]のいずれかの被覆用組成物の硬化物からなる厚さ0.1〜50μmの被膜を有する成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の被覆用組成物は、撥水撥油性付与剤(B−T)が、該組成物の他の成分に対して適度な相溶性を有するため、基材表面に塗布した際に、硬化前の塗膜の透明性を損なうことなしに、撥水撥油性付与剤(B−T)が塗膜表面に偏析する。その後、活性エネルギー線を照射して硬化させる際に撥水撥油性付与剤(B−T)中の活性エネルギー線硬化性の官能基が該組成物において樹脂マトリクスと結合して固定されるため、該組成物の硬化物からなる被膜表面が撥水撥油性に優れており、長期にわたって優れた指紋除去性を発現する。
【0010】
本発明の被覆用組成物は、硬化させることで被膜を形成する被覆用組成物であって、硬化後の被膜表面のオレイン酸に対する接触角が初期60度以上かつ耐湿試験後55度以上であり、前記硬化後の被膜のヘーズ値が3%以下であり、かつISO9352で定めるテーバー磨耗性試験(磨耗輪:CS−10F、片輪加重500g、500回転)の前後における前記硬化後の被膜のヘーズ値の変化が10%以下である。
【0011】
本発明の被覆用組成物は、硬化後の被膜表面が撥水撥油性に優れており、かつその優れた撥水撥油性が長期にわたって発現する。また、硬化後の被膜が、透明性、耐磨耗性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の被覆用組成物は、活性エネルギー線硬化性の重合性単量体(A)の100質量部に対して、撥水撥油性付与剤(B)の0.01〜10質量部、および活性エネルギー線重合開始剤(C)の0.1〜10質量部を含む活性エネルギー線硬化型被覆用組成物である。
【0013】
本発明の被覆用組成物において、活性エネルギー線硬化性の重合性単量体(A)(以下、重合性単量体(A)と記すことがある。)は、後述する活性エネルギー線重合開始剤(C)の存在下で、活性エネルギー線を照射することで重合反応を開始する単量体であり、具体的には、重合性官能基としてアクリロイル基またはメタクリロイル基を1分子中に2個以上有する多官能性重合性単量体(a−1)(以下、単量体(a−1)と記すことがある。)と、後述する単官能性重合性単量体(a−2)に代表される他の重合性単量体を包括的に表している。ただし、後述する撥水撥油性付与剤(B)に該当する化合物は含まない。以下の説明において、アクリロイル基およびメタクリロイル基を総称して(メタ)アクリロイル基という。
【0014】
本発明の被覆用組成物において、単量体(a−1)は、特開平10−81839号公報の段落番号0013〜0052に記載された多官能性化合物(a)に相当する。すなわち、活性エネルギー線により重合しうる重合性官能基として、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個以上有する多官能性の重合性単量体である。
本発明の被覆用組成物において、単量体(a−1)としては、高度な耐磨耗性を発現させる観点から重合性官能基を分子中に3個以上有し、1官能基あたりの分子量が120以下であるものが好ましい。このような条件を満たす単量体(a−1)としては、以下の化合物が挙げられる。
【0015】
ペンタエリスリトール又はポリペンタエリスリトールと、(メタ)アクリル酸と、の反応生成物であるポリエステルであり、かつ(メタ)アクリロイル基を3個以上、より好ましくは4〜20個有する多官能性化合物。具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が好ましく挙げられる。
【0016】
一方、ウレタン結合を分子内に有する(メタ)アクリロイル基含有化合物(以下、アクリルウレタンという。)は、そのウレタン結合がその水素結合の作用で擬似架橋点として働き、1官能基あたりの分子量が上記ほど小さくなくても充分高度な耐摩粍性を発現させることが可能であり、好ましく用いることができる。このような条件を満たす単量体(a−1)としては、以下の化合物が好ましい。
【0017】
ペンタエリスリトールやポリペンタエリスリトールと、ポリイソシアネートと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、の反応生成物であるアクリルウレタンであり、かつ(メタ)アクリロイル基を3個以上、より好ましくは4〜20個有する多官能性化合物。
【0018】
ペンタエリスリトールやポリペンタエリスリトールの水酸基含有ポリ(メタ)アクリレートと、ポリイソシアネートと、の反応生成物であるアクリルウレタンであり、かつ(メタ)アクリロイル基を3個以上、より好ましくは4〜20個有する多官能性化合物。
【0019】
本発明の被覆用組成物は、重合性単量体(A)として、単量体(a−1)以外の重合性単量体を含んでもよい。単量体(a−1)以外の重合性単量体(A)としては、(メタ)アクリロイル基を1分子中に1個有する単官能性重合性単量体(以下、単量体(a−2)とも記す。)または(メタ)アクリロイル基以外の重合性官能基を1個以上有する化合物がある。しかし、(メタ)アクリロイル基以外の重合性官能基は、活性エネルギー線による硬化性が充分でないことが多く、また入手も容易でないことから、単量体(a−1)以外の重合性単量体(A)としては、単量体(a−2)が好ましい。
【0020】
単量体(a−2)としては、一般式CH2=C(R4)COOCz2z+1(R4は水素原子またはメチル基であり、zは1〜13の整数である。Cz2z+1は直鎖構造でも分岐構造でもよい。)で表されるアルキル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオール(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、γ−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−スルホン酸ナトリウムエトキシ(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ビニルアセテート、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレートなどが挙げられる。
【0021】
本発明の被覆用組成物に含まれる重合性単量体(A)の総質量中、単量体(a−1)は20〜100質量%である。第1の被覆用組成物に含まれる重合性単量体(A)のうち、単量体(a−1)の割合がこの範囲であると、第1の被覆用組成物の硬化物からなる被膜(以下、硬化後の被膜と記すこともある。)の耐磨耗性が優れている。単量体(a−1)は、50〜100質量%であることがより好ましく、70〜100質量%であることが特に好ましい。
【0022】
本発明の被覆用組成物において、撥水撥油性付与剤(B)は、以下に説明する撥水撥油性付与剤(B−T)と、後述する他の撥水撥油性付与剤を包括的に表している。本発明の被覆用組成物は、このような撥水撥油性付与剤(B)を重合性単量体(A)の100質量部に対して、0.01〜10質量部含有し、好ましくは0.1〜5.0質量部含有する。撥水撥油性付与剤(B)の量がこの範囲にあると、硬化後の被膜が撥水撥油性および耐磨耗性に優れている。撥水撥油性付与剤(B)が0.01質量部未満であると、硬化後の被膜が撥水撥油性に劣る。一方、撥水撥油性付与剤(B)が10質量部超であると、硬化後の被膜が可塑化され耐磨耗性が低下し、透明性に劣る。
【0023】
本発明の撥水撥油性付与剤(B−T)は、撥水撥油性を発現する部位(b−1)、活性エネルギー線硬化性の官能基(b−2)および下記式(2)〜(4)で表される部分からなる群から選択される少なくとも1つからなる部位(b−3)を1分子中に併せ持った化合物である。
−(CH2CH2O)x ・・・式(2)
−(CH2CH(CH3)O)y− ・・・式(3)
−(C(=O)Cu2uO)2t− ・・・式(4)
(式中、xおよびyは5〜100の整数であり、uは3〜5の整数であり、tは1〜20の整数である。)
【0024】
撥水撥油性付与剤(B−T)において、撥水撥油性を発現する部位(b−1)(以下、部位(b−1)ということがある。)は、一般的に撥水剤または撥油剤として用いられる含フッ素化合物(例えば、ポリフルオロアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルのようなポリフルオロアルキル基を含有する重合性単量体の単独重合体あるいはこれと他のアクリル酸エステル、無水マレイン酸、クロロプレン、ブタジエン、メチルビニルケトン等の重合性単量体との共重合体、含フッ素ポリエーテル化合物、フルオロシリコーン化合物等)の含フッ素有機基からなる部位を意味する。
【0025】
前記撥水撥油性付与剤(B−T)において、部位(b−1)は、下記式(10)で示される部分を有することが好ましい。
f(OC36n−O−(CF2m−(CH2L−O− ・・・式(10)
(式中、Rfは、炭素数1〜16のポリフルオロアルキル基(酸素原子を有するものを含む)であり、nは1〜50の整数であり、mおよびLは、下記式の関係を満足することを条件に1〜3の整数である。
6≧m+L>0)
【0026】
式10において、OC36は、OCF2CF2CF2又はOCF(CF3)CF2を意味する。
【0027】
ポリフルオロアルキル(Rf)基とは、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基をいう。Rf基は直鎖構造が好ましいが、分岐構造を有していてもよく、分岐構造を有する場合には、分岐部分がRf基の末端部分に存在し、かつ、末端部分は炭素数1〜4の短鎖であるのが好ましい。
【0028】
f基の炭素数は1〜8であることが好ましい。Rf基の炭素数が該範囲であると、Rf基の結晶性が比較的弱く、硬化後の被膜が透明性に優れている。
【0029】
f基は、フッ素原子以外の他のハロゲン原子を含んでいてもよい。他のハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。また、Rf基中の炭素−炭素結合間には、エーテル性酸素原子、エステル結合、スルホンアミド基またはチオエーテル性硫黄原子が挿入されていてもよい。
【0030】
f基中のフッ素原子数は、[(Rf基中のフッ素原子数)/(Rf基と同一炭素数の対応するアルキル基中に含まれる水素原子数)]×100(%)で表現した場合に、60%以上が好ましく、特に80%以上が好ましい。
【0031】
さらにRf基は、アルキル基の水素原子の全てがフッ素原子に置換された基(すなわちペルフルオロアルキル基)、またはペルフルオロアルキル基を末端部分に有する基が好ましい。
【0032】
f基の具体例としては、以下の基が挙げられる。
CF3−、C22F5−、C37−[CF3(CF22−、(CF32CF−等の構造異性の基を含む]、C49−[CF3(CF23−、(CF32CFCF2−、(CF33C−またはCF3CF2(CF3)CF−等の構造異性の基を含む]、C511、−[たとえばCF3(CF24−]、C613−[たとえばCF3(CF25−]、C715−[たとえばCF3(CF26−]、C8817−[たとえばCF3(CF27−]、C919−[たとえばCF3(CF28−]、C1021−[たとえばCF3(CF29−]、C1225−[たとえばCF3(CF211−]、C1429−[たとえばCF3(CF213−]、C1633−[たとえばCF3(CF215−]、Cl(CF2v−、H(CF2v−(vは1〜16の整数)、(CF32CF(CF2w−(wは1〜13の整数)等。
【0033】
f基が、炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子、エステル結合、スルホンアミド基またはチオエーテル性硫黄原子が挿入された基である場合の具体例としては、以下の基が挙げられる。
CF3(CF24OCF(CF3)−、
F[CF(CF3)CF2O]GCF(CF3)CF2CF2−、
F[CF(CF3)CF2O]HCF(CF3)−、
F[CF(CF3)CF2O]HCF2CF2−、
F(CF2CF2CF2O)HCF2CF2−、
F(CF2CF2O)HCF2CF2−、
F(CF25SCF(CF3)−、
F[CF(CF3)CF2S]GCF(CF3)CF2CF2−、
F[CF(CF3)CF2S]HCF(CF3)−、
F[CF(CF3)CF2S]HCF2CF2−、
F(CF2CF2CF2S)HCF2CF2−、
F(CF2CF2S)JCF2CF2−(Gは1〜3の整数、Hは1〜4の整数、Jは1〜7の整数)等。
【0034】
本発明の被覆用組成物においては、上記例示したRf基の中でも、CF3−、C25−、C37−が好ましい。Rf基がこれらの基であれば、式(10)の部位を合成する際に原料の入手が容易であり、該部位の合成も容易であるので好ましい。
【0035】
また、撥水撥油性付与剤(B−T)において、部位(b−1)は、下記式(11)で示される部分を含むことが好ましい。
f(OC24e−O−(CF2g−(CH2h−O− ・・・式(11)
(式中、Rfは、炭素数1〜16のポリフルオロアルキル基(酸素原子を有するものを含む)であり、eは1〜50の整数であり、gおよびhは、下記式の関係を満足することを条件に1〜3の整数である。
6≧g+h>0)
式(11)におけるRfは、式(10)におけるRfについて説明したのと同一である。
【0036】
また、本発明の被覆用組成物は、撥水撥油性付与剤(B−T)として、異なる部位(b−1)を有する撥水撥油性付与剤(B−T)を複数種併用してもよい。
【0037】
撥水撥油性付与剤(B−T)において、活性エネルギー線硬化性の官能基(b−2)(以下、官能基(b−2)ということがある。)とは、ラジカル反応性を有する官能基であればよく、具体的には(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニル基、ビニルエーテル基等が好ましく挙げられる。ラジカル反応性および形成される化学結合の安定性から、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
【0038】
撥水撥油性付与剤(B−T)は、官能基(b−2)を有することにより、第1の被覆用組成物が活性エネルギー線の照射によって硬化する際に、官能基(b−2)も硬化反応を起こし、本発明の被覆用組成物の樹脂成分をなす重合性単量体(A)と共有結合する。これにより、撥水撥油性付与剤(B−T)は、本発明の被覆用組成物の硬化物、すなわち硬化後の被膜と共有結合を介して結合するため、撥水撥油性付与剤(B−T)が被膜の表面に固定されて存在する。このため被膜表面から撥水撥油性付与剤(B−T)が揮散しないため好ましい。また、撥水撥油性付与剤(B−T)は、該被膜と結合しているため、硬化後の被膜表面は長期にわたって優れた撥水撥油性を発現し、かつ優れた指紋除去性が長期にわたって持続する。
【0039】
撥水撥油性付与剤(B−T)は、官能基(b−2)として上で例示した官能基のうちいずれか1つを有していてもよく、または同一分子内に2種以上の官能基を有していてもよい。また、本発明の被覆用組成物は、撥水撥油性付与剤(B−T)として、異なる官能基(b−2)を有する撥水撥油性付与剤(B−T)を複数種併用してもよい。
【0040】
撥水撥油性付与剤(B−T)の式(2)〜(4)で表される部分からなる群から選択される少なくとも1つを有する部位(b−3)(以下、部位(b−3)ということがある。)は、重合性単量体(A)との相溶性を発現する機能を有する。
−(CH2CH2O)x− ・・・式(2)
−(CH2CH(CH3)O)y− ・・・式(3)
−(C(=O)Cu2uO)t− ・・・式(4)
(式中、xおよびyは5〜100の整数であり、uは3〜5の整数であり、tは1〜20の整数である。)
【0041】
撥水撥油性付与剤(B−T)の撥水撥油性を発現する部位(b−1)は、重合性単量体(A)から形成される樹脂マトリクスとの親和性が低いため、被覆用組成物を硬化した際に樹脂マトリクスの表面にブリードアウトしやすく、硬化後の被膜の透明性を損ないやすいという傾向を有する。
【0042】
重合性単量体(A)との相溶性に優れる部位(b−3)を有する撥水撥油性付与剤(B−T)は、重合性単量体(A)との親和性の低い部位(b−1)を選択した場合であっても、重合性単量体(A)に対して適度な相溶性を有している。
【0043】
本発明の被覆用組成物では、撥水撥油性付与剤(B−T)が重合性単量体(A)に対して適度な相溶性を有するため、本発明の被覆用組成物を基材表面に塗布した際に、硬化前の塗膜の透明性を損なうことなく撥水撥油性付与剤(B−T)が該塗膜の表面に偏析する。このため硬化後の被膜の透明性も損なわれない。
【0044】
上記した式(2)の部分は、エチレンオキシドのユニットを表す。重合度を示すxとしては、5〜100であり、好ましくは5〜80である。xが該範囲であると、撥水撥油性付与剤(B−T)が、重合性単量体(A)に対して適度な相溶性を有するため、硬化後の被膜の透明性および該被膜表面の撥水撥油性に優れており、長期にわたって優れた指紋除去性を発現する。xが4以下であると、撥水撥油性付与剤(B−T)の相溶性が低くなり、硬化後の被膜の透明性が損なわれる。一方、xが100超であると、撥水撥油性付与剤(B−T)の相溶性が高くなりすぎ、撥水撥油性付与剤(B−T)が塗膜表面に偏析しにくくなり、硬化後の被膜が撥水撥油性を充分に発現できない。
【0045】
上記した式(3)の部分は、プロピレンオキシドのユニットを表す。重合度を示すyとしては、5〜100であり、好ましくは5〜80である。yが該範囲であると、撥水撥油性付与剤(B−T)が、重合性単量体(A)に対して適度な相溶性を有するため、硬化後の被膜の透明性および該被膜表面の撥水撥油性に優れており、長期にわたって優れた指紋除去性を発現する。yが4以下であると、撥水撥油性付与剤(B−T)の相溶性が低くなり、硬化後の被膜の透明性が損なわれる。一方、yが100超であると、撥水撥油性付与剤(B−T)の相溶性が高くなりすぎ、撥水撥油性付与剤(B−T)が塗膜表面に偏析しにくくなり、硬化後の被膜が撥水撥油性を充分に発現できない。
【0046】
上記した式(4)の部分は、ラクトンの開環体から得られるユニットを表す。該基の炭素数は入手しやすさから3〜5が好ましい。また、重合度を示すtとしては、20以下であることが好ましい。tが該範囲であると、該基の結晶性が強すぎず、硬化後の被膜が透明性に優れている。
【0047】
撥水撥油性付与剤(B−T)は、部位(b−3)として上記式(2)〜(4)の部分のうちいずれか1つを有していてもよく、または同一分子内に2種以上の部分を有していてもよい。また、第1の被覆用組成物は、撥水撥油性付与剤(B−T)として、異なる部位(b−3)を有する撥水撥油性付与剤(B−T)を複数種併用してもよい。
【0048】
撥水撥油性付与剤(B−T)における各部位の結合形態は、特に制限されない。撥水撥油性付与剤(B−T)における各部位の結合形態としては、具体的には以下の例が好ましく挙げられる。
【0049】
共重合型:部位(b−1)を有するラジカル重合性のマクロマーと部位(b−3)を有するラジカル重合性のマクロマーとして用意し、これらのマクロマーを共重合させてもよい。得られた共重合体に、さらに官能基(b−2)を導入すればよい。以下、共重合型と記す。
【0050】
部位(b−1)を有するマクロマーとしては、具体的にはたとえば上記式(10)または上記式(11)の末端が(メタ)アクリロイル基で変性されたものや、(メタ)アクリル酸の含フッ素アルキルエステル等が好ましく挙げられる。
【0051】
部位(b−3)を有するマクロマーとしては、具体的にはたとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリマーの片末端が(メタ)アクリロイル基変性されているもの、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、ラクトンの開環重合体の片末端が(メタ)アクリロイル基変性されているもの等が好ましく挙げられる。
【0052】
官能基(b−2)は、上記2種類のマクロマーを共重合した後にその末端に導入する方法が挙げられる。たとえば、上記2種のマクロマーの(メタ)アクリロイル基が付加していない方の末端の水酸基を、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸クロリド等を用いてエステル結合により導入する方法、2−メタアクリル酸エチルイソシアネートを用いてウレタン結合により導入する方法が好ましく挙げられる。
【0053】
または、上記2種類のマクロマーと共に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を共重合せしめ、その後に(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸クロリド等を用いてエステル結合により導入する方法、2−メタアクリル酸エチルイソシアネートを用いて導入する方法も挙げられる。
【0054】
なお、官能基(b−2)は、部位(b−3)に隣接して結合していることが好ましい。官能基(b−2)が、部位(b−3)に隣接して結合している場合には、部位(b−1)に隣接して結合している場合に比べ、部位(b−1)の表面移行性が高くなり、硬化後の被膜表面の撥水撥油性に優れるからである。
【0055】
また、本発明の被覆用組成物は、撥水撥油性付与剤(B)は、下記式(14)で表される撥水撥油性付与剤(B−T)を含有するものも用いることができる。
CH2=C(CH3)COOC24NHCOO−(C(=O)C510O)t−CH2(CF2CF2O)p(CF2O)sCF2CF2CH2O−(C(=O)C510O)t−CONHC24OCOC(CH3)=CH2) ・・・式(14)
式(14)中、tは1〜20の整数であり、pおよびsは1〜100の整数である。
【0056】
撥水撥油性付与剤(B)は、上記した撥水撥油性付与剤(B−T)以外に公知の撥水撥油性付与剤を含んでもよい。このような公知の撥水撥油性付与剤としては、たとえば四フッ化エチレン、フッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ペルフルオロアルキル基を有するフッ素化合物等を用いたフッ素系の撥水撥油性付与剤、主鎖にシロキサン結合を有し、側鎖にメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基またはフルオロアルキル基を有するオルガノポリシロキサンを用いたシリコーン系の撥水撥油性付与剤、みつろうやパラフィン等を用いたワックス系撥水撥油性付与剤、ジルコニウムと脂肪酸の塩、アルミニウムと脂肪酸の塩を用いた金属塩系の撥水撥油性付与剤等が挙げられる。ただし、本明細書における公知の撥水撥油性付与剤には、上記した撥水撥油性付与剤(B−T)に該当する化合物は含まない。これらの公知の撥水撥油性付与剤を含める場合、撥水撥油性付与剤(B)の合計質量100質量部に対して30質量部以下含有させることが好ましい。
【0057】
本発明の被覆用組成物は、上記の構成に加えて、活性エネルギー線重合開始剤(C)を重合性単量体(A)の100質量部に対して0.1〜10質量部含有する。活性エネルギー線重合開始剤(C)の量が該範囲にあると、硬化性が充分であり、硬化の際に全ての活性エネルギー線重合開始剤(C)が分解するため好ましい。
【0058】
ここでいう活性エネルギー線重合開始剤(C)とは、公知の光重合開始剤を広く含む。
公知の光重合開始剤の具体例としては、アリールケトン系光重合開始剤(たとえば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アルキルアミノベンゾフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、ベンゾイルベンゾエート類、α−アシルオキシムエステル類等)、含硫黄系光重合開始剤(たとえば、スルフィド類、チオキサントン類等)、アシルホスフィンオキシド類(たとえば、アシルジアリールホスフィンオキシド等)、その他の光重合開始剤がある。該光重合開始剤は2種以上併用してもよい。また、光重合開始剤はアミン類などの光増感剤と組み合わせて使用してもよい。具体的な光重合開始剤としては、例えば以下のような化合物があるがこれらのみに限定されるものではない。
【0059】
4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、1−{4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル}−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−{4−(メチルチオ)フェニル}−2−モルホリノプロパン−1−オン。
【0060】
ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラキス(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、9,10−フェナントレンキノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアントラキノン、4’,4”−ジエチルイソフタロフェノン、(1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2(o−エトキシカルボニル)オキシム)、α−アシルオキシムエステル、メチルフェニルグリオキシレート。
【0061】
4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルフィド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド。
【0062】
本発明の被覆用組成物には、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱重合防止剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、顔料(有機着色顔料、無機顔料)、着色染料、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、分散剤、導電性微粒子、帯電防止剤、防曇剤、カップリング剤からなる群から選ばれる1種以上の機能性配合剤を含めてもよい。
【0063】
紫外線吸収剤としては、合成樹脂用紫外線吸収剤として通常使用されているベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、フェニルトリアジン系紫外線吸収剤などが好ましい。具体的には、特開平11−268196号公報の段落番号0078に記載された化合物が挙げられる。本発明の被覆用組成物は、多官能性の重合性単量体(a−1)を含有することから、2−{2−ヒドロキシ−5−(2−アクリロイルオキシエチル)フェニル}ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル−3−(3−ベンゾトリアゾール−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロピオネートなど分子内に光重合性の官能基を有するものが特に好ましい。
【0064】
光安定剤としては、合成樹脂用光安定剤として通常使用されているヒンダードアミン系光安定剤が好ましい。具体的には、特開平11−268196号公報の段落番号0080に記載された化合物が挙げられる。本発明においては、N−メチル−4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどの分子内に重合性官能基を有するものが特に好ましい。
【0065】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールなどのヒンダードフェノール系酸化防止剤、トリフェニルホスファイトなどのリン系酸化防止剤などが挙げられる。熱重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテルなどが挙げられる。また、レベリング剤としては、シリコーン樹脂系レベリング剤、アクリル樹脂系レベリング剤などが挙げられる。
【0066】
消泡剤としては、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂系消泡剤などが挙げられる。また、増粘剤としては、ポリメチルメタクリレート系ポリマー、水添ひまし油系化合物、脂肪酸アミド系化合物などが挙げられる。
【0067】
有機着色顔料としては、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料などが挙げられる。無機顔料としては、二酸化チタン、酸化コバルト、モリブデンレッド、チタンブラックなどが挙げられる。また、着色染料としては、有機溶剤可溶性アゾ系金属錯塩染料、有機溶剤可溶性フタロシアニン系染料などが挙げられる。
【0068】
赤外線吸収剤としては、ポリメチン系、フタロシアニン系、金属錯体系、アミニウム系、ジイモニウム系、アントラキノン系、ジチオール金属錯体系、ナフトキノン系、インドールフェノール系、アゾ系、トリアリールメタン系の化合物などが挙げられる。
導電性微粒子としては、亜鉛、アルミニウム、ニッケルなどの金属粉、リン化鉄、アンチモンドープ型酸化スズなどが挙げられる。
【0069】
帯電防止剤としては、ノニオン系帯電防止剤、カチオン系帯電防止剤、アニオン系帯電防止剤などが挙げられる。
【0070】
カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などが挙げられる。
【0071】
さらに、硬化後の被膜の耐磨耗性をより向上させる目的で、コロイダルシリカ(D)を本発明の被覆用組成物に配合してもよい。コロイダルシリカ(D)は、分散媒中にコロイド状に分散した無水ケイ酸の超微粒子であり、分散媒は特に限定されないが、水、低級アルコール類、セロソルブ類等が好ましい。具体的な分散媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、アセトン等が挙げられる。
【0072】
コロイダルシリカ(D)の平均粒径は特に限定されないが、硬化後の被膜の高い透明性を発現させるためには、1〜1000nmが好ましく、特に1〜200nmが好ましく、とりわけ1〜50nmが好ましい。
【0073】
またコロイダルシリカ(D)は分散安定性を向上させるために、粒子表面を加水分解性シラン化合物の加水分解物で修飾して使用することもできる。ここで「加水分解物で表面が修飾された」とは、コロイダルシリカ粒子の表面の一部または全部のシラノール基にシラン化合物の加水分解物が物理的又は化学的に結合した状態であり、これにより表面特性が改質されていることを意味する。なお、加水分解物の縮合反応が進んだものが同様に結合しているシリカ粒子も含まれる。この表面修飾はシリカ粒子存在下にシラン化合物の加水分解性基の一部または全部の加水分解、または加水分解と縮合反応を生じせしめることにより容易に行いうる。
【0074】
加水分解性シラン化合物としては、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基などの官能性基を有する有機基とアルコキシ基などの加水分解性基又は水酸基とがケイ素原子に結合しているシラン化合物が好ましい。本明細書で加水分解性基とは、ケイ素原子との結合部分で加水分解しうる基をいう。たとえば、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が好ましく挙げられる。
【0075】
加水分解性シラン化合物としては、メルカプト基を有する有機基と、加水分解性基又は水酸基とが、ケイ素原子に結合しているメルカプト基含有シラン化合物(S1)が重合性単量体(A)との反応性の高さの点から好ましい。メルカプト基含有シラン化合物(S1)は、下記式(12)で表される化合物であることが好ましい。
HS−R1−SiR2,R53-f ・・・式(12)
(式中、R1は2価の炭化水素基、R2は水酸基または加水分解性基、R5は1価の炭化水素基、fは1〜3の整数を表す。)
【0076】
式(12)におけるR1は炭素数2〜6のアルキレン基が好ましく、炭素数3のアルキレン基が特に好ましい。R5は炭素数4以下のアルキル基が好ましく、メチル基とエチル基が特に好ましい。R2は加水分解性基であることが好ましく、ハロゲン基または炭素数4以下のアルコキシ基がより好ましく、炭素数4以下のアルコキシ基が特に好ましい。ハロゲンとしては、塩素または臭素が好ましい。アルコキシ基としてはさらにメトキシ基とエトキシ基が加水分解性が良好であり好ましい。fは2または3が好ましい。
【0077】
式(12)で表されるメルカプト基含有シラン化合物の代表例を以下に例示する。なお、OMeはメトキシ基を、OEtはエトキシ基を、OPrはn−プロポキシ基を示す。
HS−CH2CH2CH2−Si(OMe)3、HS−CH2CH2CH2−Si(OEt)3、HS−CH2CH2CH2−Si(OPr)3、HS−CH2CH2CH2−SiMe(OMe)2、HS−CH2CH2CH2−SiMe(OEt)2、HS−CH2CH2CH2−SiMe(OPr)2、HS−CH2CH2CH2−SiMe2(OMe)、HS−CH2CH2CH2−SiMe2(OEt)、HS−CH2CH2CH2−SiMe2(OPr)、HS−CH2CH2CH2−SiCl3、HS−CH2CH2CH2−SiBr3、HS−CH2CH2CH2−SiMeCl2、HS−CH2CH2CH2−SiMeBr2、HS−CH2CH2CH2−SiMe2Cl、HS−CH2CH2CH2−SiMe2Br。
【0078】
また、加水分解性シラン化合物としては、(メタ)アクリロイル基を有する有機基と、加水分解性基又は水酸基とが、ケイ素原子に結合している(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物(S2)が重合性単量体(A)との反応性の高さおよびその結合の安定性の点から好ましい。(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物(S2)としては、下記式(13)で表される化合物が好ましい。
CH2=C(R6)−R7−SiR2f53-f ・・・式(13)
(式中、R6は水素原子またはメチル基、R7は2価の炭化水素基、R2は水酸基または加水分解性基、R5は1価の炭化水素基、fは1〜3の整数を表す。)
【0079】
式(13)におけるR7は炭素数2〜6のアルキレン基が好ましく、炭素数3のアルキレン基が特に好ましい。R5は炭素数4以下のアルキル基が好ましく、メチル基とエチル基が特に好ましい。R2は加水分解性基であることが好ましく、ハロゲン基または炭素数4以下のアルコキシ基がより好ましく、炭素数4以下のアルコキシ基が特に好ましい。ハロゲンとしては、塩素または臭素が好ましい。アルコキシ基としてはさらにメトキシ基とエトキシ基が加水分解性が良好であり好ましい。fは2または3が好ましい。
【0080】
上記式で表される(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物(S2)の代表例を以下に例示する。
CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−Si(OMe)3、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−Si(OEt)3、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−Si(OPr)3、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMe(OMe)2、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMe(OEt)2、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMe(OPr)2、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMe2(OMe)、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMe2(OEt)、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMe2(OPr)、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiCl3、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiBr3、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMeCl2、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMeBr2、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMe2Cl、CH2=C(R6)−CH2CH2CH2−SiMe2Br。
【0081】
コロイダルシリカ(D)を配合する場合、その配合量(固形分)は重合性単量体(A)の100質量部に対して0.1質量部以上500質量部以下が好ましく、1質量部以上300質量部以下がより好ましく、10質量部以上200質量部以下が特に好ましい。当該範囲であると、硬化後の被膜において、耐磨耗性が充分であり、ヘーズが生じにくく、かつ、外力によるクラック等が生じにくい。
【0082】
さらに、被膜用組成物の塗工性、基材表面との密着性を向上させる目的で、本発明の被覆用組成物に有機溶剤を配合してもよい。有機溶剤としては、重合性単量体(A)、撥水撥油性付与剤(B)、活性エネルギー線重合開始剤(C)、コロイダルシリカ(D)、その他の添加剤の溶解性に問題がなければ特に限定されず、上記性能を満足させるものであればよい。また2種以上の有機溶剤を併用できる。有機溶剤の使用量は、重合性単量体(A)に対して質量で100倍以下が好ましく、特に50倍以下が好ましい。
【0083】
有機溶剤としては、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−t−ブチルエーテル等のエーテル類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ類などの有機溶剤が好ましく挙げられる。そのほか、n−ブチルアセテート、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノアセテートなどのエステル類、ポリフルオロヘキサン、ポリフルオロメチルシクロヘキサン、ポリフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン等の炭素数5〜12のパーフルオロ脂肪族炭化水素、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等の多フッ素化芳香族炭化水素、多フッ素化脂肪族炭化水素等などのハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素類なども使用できる。これらの有機溶剤は、2種以上混合して使用してもよい。
【0084】
本発明の被覆用組成物に有機溶剤を含める場合、被膜を形成する基材の種類に応じて、適当な有機溶剤を選択するのが好ましい。例えば、基材が耐溶剤性の低い芳香族ポリカーボネート樹脂製である場合、芳香族ポリカーボネート樹脂に対する溶解性の低い溶剤を用いることが好ましく、低級アルコール類、セロソルブ類、エステル類、エーテル類、それらの混合物などが適当である。
【0085】
本発明の被覆用組成物は、ガラス製またはプラスチック製の基材にディッピング法、スピンコート法、フローコート法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の方法で塗布し、有機溶剤を含む組成物の場合は乾燥した後、活性エネルギー線を照射して硬化させる。
【0086】
なお、活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、放射線および高周波線等が好ましく挙げられ、特に180〜500nmの波長を有する紫外線が経済的に好ましい。
活性エネルギー線源としては、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等の紫外線照射装置、電子線照射装置、X線照射装置、高周波発生装置等が使用できる。
【0087】
活性エネルギー線の照射時間は、重合性単量体(A)の種類、活性エネルギー線重合開始剤(C)の種類、被膜の厚さ、活性エネルギー線源等の条件により適宜変えうる。通常は0.1〜60秒間照射することにより目的が達成される。さらに硬化反応を完結させる目的で、活性エネルギー線照射後に加熱処理することもできる。
【0088】
被膜の厚さは、所望により種々の厚さを採用できる。通常は0.1〜50μmの厚さの被膜が好ましく、特に0.2〜20μmの厚さの被膜を形成することが好ましい。被膜の厚さが該範囲にあると、耐磨耗性が充分となり、被膜深部の硬化も充分となるため好ましい。最も好ましい被膜の厚さは0.3〜10μmである。
【0089】
硬化後の被膜は、透明性が良好であり、かつその表面が耐磨耗性、撥水撥油性に優れており、長期にわたって優れた指紋除去性を発現する。したがって、該被膜は、指紋、皮脂、汗、化粧品等の脂性の汚れに対する防汚性に優れており、このような脂性の汚れが付着しにくく、付着したとしても容易に拭き取ることができる。
【0090】
本発明の被覆用組成物の硬化後の被膜が、優れた指紋除去性を発現するのは以下の理由によると考えられる。
光学部材等の表面に付着する一般に指紋と呼ばれるもの(以下、“指紋”と記す。)は、指先に付着している汗および皮脂成分が、指紋の模様を転写する形で該表面に付着したものである。
硬化後の被膜は、その表面が撥水撥油性に優れるため、該被膜表面に“指紋”が付着しても、該被膜表面は“指紋”に含まれる水分および皮脂成分をはじき、“指紋”は該被膜表面に密着せず、球状の水分および皮脂成分が該被膜表面に載った状態になっていると考えられる。このため、該皮脂成分等を容易に拭き取ることができる。これにより指紋除去性に優れていると考えられる。
【0091】
本発明の被覆用組成物は、下記特性を有することを特徴とする。
・硬化後の被膜表面のオレイン酸に対する接触角が初期60度以上かつ耐湿試験後55度以上
・硬化後の被膜のヘーズ値が3%以下
・ISO9352で定めるテーバー磨耗性試験(磨耗輪:CS−10F、片輪加重500g、500回転)の前後における硬化後の被膜のヘーズ値の変化が10%以下
【0092】
本発明の被覆用組成物は、上記特性を有することで硬化後の被膜表面が撥水撥油性に優れており、かつその優れた撥水撥油性が長期にわたって発現する。本発明では、撥水撥油性の指標として、硬化後の被膜表面に液滴(具体的には、水およびオレイン酸の液滴)を載せた状態での該液滴に対する接触角を用いる。本発明の被覆用組成物は、後述する実施例に示す手順で測定される硬化後の被膜表面の接触角が以下の通りである。
硬化後の被膜表面の接触角
水:85度以上、好ましくは90度以上、さらに好ましくは95度以上(初期)、80度以上(耐湿試験後)
オレイン酸:60度、好ましくは65度以上、さらに好ましくは70度以上(初期)、55度以上(耐湿試験後)
【0093】
また、本発明の被覆用組成物は、上記特性を有することで硬化後の被膜が透明性にも優れている。
本発明では、硬化後の被膜の透明性の指標として、ヘーズ値を用いる。第2の被覆用組成物の硬化後の被膜のヘーズ値は、厚さ3mmのポリカーボネート基材上に形成された厚さ1.2μmの被膜のヘーズ値により定義される。本発明の被覆用組成物は、硬化後の被膜のヘーズ値が3%以下であり、好ましくは1%以下であり、より好ましくは0.5%以下である。
【0094】
さらにまた、本発明の被覆用組成物は、上記特性を有することで硬化後の被膜表面の耐磨耗性にも優れている。本発明では、硬化後の被膜表面の耐磨耗性の指標として、ISO9352で定めるテーバー磨耗性試験(磨耗輪:CS−10F、片輪加重500g、500回転)を実施した際の試験前後における該被膜のヘーズ値の変化を用いる。本発明の被覆用組成物は、硬化後の被膜の当該ヘーズ値の変化が10%以下であり、好ましくは8%以下であり、より好ましくは6%以下である。
【0095】
本発明の被覆用組成物は、上記特性を有することで硬化後の被膜表面の表面潤滑性にも優れている。本発明では、硬化後の被膜表面の表面潤滑性の指標として、後述する実施例に示す手順で測定する被膜表面の動摩擦係数を用いる。具体的には、本発明の被覆用組成物は、硬化後の被膜における初期の動摩擦係数および耐湿試験後の動摩擦係数がいずれも0.1以下である。
【0096】
本発明の被覆用組成物は、光学部材として使用されるガラス製またはプラスチック製の基材の表面に適用され、透明性、耐磨耗性および撥水撥油性に優れており、長期にわたって優れた指紋除去性を発現する硬化被膜を形成する。
【0097】
被膜を形成するプラスチック基材の材質としては、透明性を有するプラスチック材料、耐磨粍性に劣るプラスチック材料が好ましく、具体的には例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、MS(メチルメタクリレート・スチレン)樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例(例5〜7、11、15〜16)および比較例(例4、9、12、14、19)に基づき説明するが、本発明はこれらに限定されない。各例において、各種物性の測定および評価は以下に示す方法で行い、その結果を表2に示した。なお、基材としては、厚さ3mmの透明な芳香族ポリカーボネート樹脂製シート(100mm×100mm)を用いた。
【0099】
[接触角]
自動接触角計(DSA10D02:独クルス社製)を用いて、乾燥状態(20℃、相対湿度65%)で3μLの液滴を針先に作り、これをサンプルの被膜表面に接触させて液滴を作った。接触角とは、固体と液体が接触する点における液体表面に対する接線と固体表面がなす角で、液体を含む方の角度で定義した。液体には、蒸留水とオレイン酸をそれぞれ使用した。また、接触角は初期サンプルと、耐湿試験後のサンプル(60℃、相対湿度95%の湿潤環境下に500時間保存)について測定した。
【0100】
[指紋除去性]
サンプルの被膜表面に付着した指紋をセルロース製不織布(ペンコットM−3:旭化成(株)製)で拭き取り、その取れ易さの目視判定を行った。なお、サンプルは初期サンプルと、耐湿試験後のサンプル(60℃、相対湿度95%の湿潤環境下に500時間保存)について評価した。
判定基準は次の通りとした。
○:指紋を完全に拭き取ることができる
×:指紋を拭き取ることができない
【0101】
[透明性]
サンプルの被膜について、4ヵ所のヘーズ(%)をヘーズメータで測定し、その平均値(初期ヘーズ)を算出した。
【0102】
[耐磨耗性]
ISO9352で定めるテーバー磨耗性試験に則し、2つのCS−10F磨耗輪をそれぞれ500gの重りを組み合わせた状態でサンプルの被膜表面上に載せて500回転させた。摩耗性試験実施後のヘーズをヘーズメータにて測定した。ヘーズの測定は磨耗輪のサイクル軌道の4ヶ所で行い、平均値を測定した。耐磨耗性は、(磨耗試験実施後のヘーズ)−(初期ヘーズ)の値(%)で示した。
【0103】
[表面潤滑性]
前記した初期サンプルと耐湿試験後のサンプルについて、サンプルの被膜表面の動摩擦係数を測定した。動摩擦係数は、下記の条件において、荷重を水平に移動するのに必要な滑り片の重さ(g)を測定し「該重さ/荷重」として求めた。
試験パッド:セルロース製の不織布(ベンコット、旭化成社製)
荷重:500g(接触面積50mm×100mm)
移動距離:20mm
移動速度:10mm/分
試験環境:25℃、相対湿度45%
【0104】
[密着性]
サンプルの被膜表面に剃刀で1mm間隔で縦横それぞれ11本の切れ目を付け、100個のます目を作り、市販のセロハンテープ(ニチバン社製)をよく密着させた後、90度手前方向に急激にはがした際の、被膜が剥離せずに残存した碁盤目の数(個)で表す。
【0105】
また、実施例において使用した原料等について以下に記す。
「原料化合物」
1)重合性単量体(A):
A−1:水酸基含有ジペンタエリスリトールポリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートを反応させて得られた1分子あたりの平均アクリロイル基数が15で分子量2300のアクリルウレタン。
A−2:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート。
A−3:イソボルニルアクリレート。
【0106】
2)活性エネルギー線重合開始剤(C)
C−1:2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノ−プロパン−1−オン
【0107】
3)コロイダルシリカ(D)
D−1:エチルセロソルブ分散型コロイダルシリカ(シリカ含量30質量%、平均粒径11nm)100質量部に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン2.5質量部を加え80℃にて窒素気流下5時間加熱撹拌した後、12時間室温下で熟成して得られた、メルカプト基含有シラン化合物の加水分解縮合物を表面に有するコロイダルシリカ。
【0108】
[撥水撥油性付与剤(B−T)]
以下に記す数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によりポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0109】
B−2:撹拌機を装着した300mLの4つ口フラスコに、100gの前記C37(OCF2CF2CF220O(CF22CH2OH、50mgのジラウリン酸ジブチルスズおよび250mgの2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを加え、室温で30分間撹拌した後、3.6gの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加え室温で更に24時間撹拌し、末端がメタクリロイル基で修飾された撥水撥油性付与剤(B−2)を得た。(B−2)の数平均分子量は4150であった。
撥水撥油性付与剤(B−2)は、部位(b−3)を有しておらず、その構造は下記式で表される。
37(OCF2CF2CF2nO(CF22CH2O−CONHC24OCOC(CH3)=CH2
n≒20,t≒3.5
【0110】
B−3:撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、600mgの2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、740mgのn−ドデシルメルカプタン、90gの酢酸ブチルおよび90gのヘキサフルオロメタキシレンを加え、15分間室温にて撹拌した後、45gの上記撥水撥油性付与剤(B−2)と15gのポリプロピレンオキシドの片末端がアクリロイル基により変成されたマクロマー(日本油脂社製ブレンマーAP−800、CH2=CHCOO−(CH2CH(CH3)O)y−H、y≒13、水酸基価=66.8)を加え、窒素パージした後70℃で18時間撹拌して重合を行い、反応生成物を得た。
その結果、数平均分子量で10000の重合体が得られた。続いて、得られた反応生成物を室温まで冷却し、50mgのジラウリン酸ジブチルスズおよび100mgの2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを加え、室温で30分間撹拌した後、2.27gの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加え室温で更に24時間撹拌し、共重合体の重合単位の内、ポリプロピレンオキシド末端がメタクリロイル基で修飾された撥水撥油性付与剤(B−3)の酢酸ブチル溶液(固形分濃度約25質量%)を得た。(B−3)の数平均分子量は10460であった。
撥水撥油性付与剤(B−3)は、共重合型であり、その構造は下記式で表される。
−[CH2−C(CH3)CO{P}]f−[CH2−CHCO{Q}]g
f≒1.8,g≒3.0
{P}:C37(OCF2CF2CF2nO(CF22CH2O−CONHC24O−
{Q}:CH2=C(CH3)COOC25NHCOO−(CH2CH(CH3)O)y
n≒20,y≒13
【0111】
B−4:撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、600mgの2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、740mgのn−ドデシルメルカプタンおよび180gの酢酸ブチルを加え、15分間室温にて撹拌した後、35gの上記撥水撥油性付与剤(B−2)、20gのステアリルアクリレートおよび5gの2−ヒドロキシエチルアクリレートを加え、窒素パージした後70℃で18時間撹拌し重合を行い反応生成物を得た。
その結果、数平均分子量で25000の重合体が得られた。続いて、得られた反応生成物を室温まで冷却し、50mgのジラウリン酸ジブチルスズおよび100mgの2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを加え、室温で30分間撹拌した後、6.61gの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加え室温で更に24時間撹拌し、共重合体の重合単位の内、2−ヒドロキシエチルアクリレート末端がメタクリロイル基で修飾された撥水撥油性付与剤(B−4)の酢酸ブチル溶液(固形分濃度約25質量%)を得た。(B−4)の数平均分子量は27800であった。
撥水撥油性付与剤(B−4)は、共重合型であり、その構造は下記式で表される。
−[CH2−C(CH3)CO{P}]f−[CH2−CHCO{Q}]g−[CH2−CHCO{R}]h
f≒3.5,g≒25.6,h≒18.0
{P}:C37(OCF2CF2CF2nO(CF22CH2O−CONHC24O−
{Q}:C1837O−
{R}:CH2=C(CH3)COOC25NHCOO−CH2CH2O−
n≒20
【0112】
B−5:撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、600mgの2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、740mgのn−ドデシルメルカプタンおよび180gの酢酸ブチルを加え、15分間室温にて撹拌した後、45gの上記撥水撥油性付与剤(B−2)および15gの不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε−カプロラクトン(ダイセル化学社製、プラクセルFA2D、カプロラクトンの重合度数=2)を加え、窒素パージした後70℃で18時間撹拌し重合を行い反応生成物を得た。
その結果、数平均分子量で35000の重合体が得られた。続いて、得られた反応生成物を室温まで冷却し、50mgのジラウリン酸ジブチルスズおよび100mgの2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを加え、室温で30分間撹拌した後、6.69gの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加え室温で更に24時間撹拌し、共重合体の重合単位の不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε−カプロラクトン末端がメタクリロイル基で修飾された撥水撥油性付与剤(B−5)の酢酸ブチル溶液(固形分濃度約25質量%)を得た。(B−5)の数平均分子量は39000であった。
撥水撥油性付与剤(B−5)は、共重合型であり、その構造は下記式で表される。
−[CH2−C(CH3)CO{P}]f−[CH2−CHCO{Q}]g
f≒6.3,g≒26.7
{P}:C37(OCF2CF2CF2nO(CF22CH2O−CONHC24O−
{Q}:CH2=C(CH3)COOC25NHCOO−(COC510−O)x−C24O−
n≒20,x≒2
【0113】
B−6:前記C37(OCF2CF2CF220O(CF22CH2OH活性エネルギー線硬化性の官能基(b−2)および部位(b−3)を持たない撥水撥油性付与剤。
撥水撥油性付与剤(B−6)の構造は下記式で表される。
37(OCF2CF2CF2nO(CF22CH2OH
n≒20
【0114】
B−7:撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、80mgのチタンテトライソブトキサイド、100gの両末端水酸基のポリフルオロポリエチレンオキサイド(ソルベイ・ソレクシス社製、商品名フォンブリンZ−dol1000、HOCH2(CF2CF2O)p(CF2O)sCF2CF2CH2OH、平均分子量1000)および25gのε−カプロラクトンを加え、150℃で5時間加熱し、ポリフルオロポリエチレンオキサイドの両末端にε−カプロラクトンが開環付加した白色ワックス状の化合物を得た。数平均分子量は1250であり、各末端のカプロラクトンの重合度数は約1.1個であった。
続いて、得られた化合物を室温まで冷却し、67gの1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンおよび60mgの2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを加え、30分間撹拌した後、31.0gの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加え室温で更に24時間撹拌し、反応を完結せしめた。その後、減圧下40℃で溶剤の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを留去し、末端がメタクリロイル基で修飾された撥水撥油性付与剤(B−7)を得た。(B−7)の数平均分子量は1560であった。
撥水撥油性付与剤(B−7)の構造は下記式で表される。
CH2=C(CH3)COOC25NHCOO−(C(=O)C510O)t−CH2(CF2CF2O)p(CF2O)nCF2CF2CH2O−(C(=O)C510O)t−CONHC24OCOC(CH3)=CH2
t≒1.1
【0115】
B−8およびB−10〜B−12の原料である化合物M(CF3O(CF2CF2O)PCF2CH2OH、p≒7.3)の合成
以下においてテトラメチルシランをTMS、CClF2CF2CHClFをAK−225、CCl2FCClF2をR−113と記す。
【0116】
工程1)市販のポリオキシエチレングリコールモノメチルエーテル(CH3O(CH2CH2O)p+1、H、p≒7.3)(25g)とAK−225(20g)、NaF(1.2g)、ピリジン(1.6g)をフラスコに入れ、内温を10℃以下に保ちながら激しく撹拌して、窒素をバブリングさせた。そこにFCOCF(CF3)OCF2CF(CF3)OCF2CF2CF3(46.6g)を、内温を5℃以下に保ちながら3.0時間かけて滴下した。滴下終了後、50℃にて12時間、その後室温にて24時間撹拌して、粗液を回収した。さらに粗液を減圧濾過し、その後、回収液を真空乾燥機(50℃、667Pa)で12時間乾燥した。ここで得た粗液を100mlのAK−225に溶解し、1000mlの飽和重曹水で3回水洗を行い、有機相を回収した。さらに、回収した有機相に硫酸マグネシウム(1.0g)を加え、12時間撹拌を行った。その後、加圧濾過を行って硫酸マグネシウムを除去し、エバポレーターにてAK−225を留去し、室温で液体のポリマー、56.1gを得た。1H−NMR、19F−NMR分析の結果、得られたポリマーはCH3O(CH2CH2O)p+1、COCF(CF3)OCF2CF(CF3)OCF2CF2CF3(pは前記と同じ意味を示す。)で表される化合物であることを確認した。
【0117】
工程2)500mLのハステロイ製オートクレーブに、R−113(1560g)を加えて撹拌し、25℃に保った。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、及び20℃に保持した冷却器を直列に設置した。なお、−20℃に保持した冷却器からは凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。窒素ガスを1.0時間吹き込んだ後、窒素ガスで10%に希釈したフッ素ガス(以下、10%フッ素ガスと記す。)を、流速24.8L/hで1時間吹き込んだ。
次に、10%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、工程1で得た生成物(27.5g)をR−113(1350g)に溶解した溶液を30時間かけて注入した。
次に、10%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、R−113溶液を12mL注入した。この際、内温を40℃に変更した。つづけて、ベンゼンを1wt%溶解したR−113溶液(6mL)を注入した。さらに、フッ素ガスを1.0時間吹き込んだのち、窒素ガスを1.0時間吹き込んだ。
反応終了後、溶媒を真空乾燥(60℃、6.0時間)にて留去し、室温で液体の生成物45.4gを得た。NMR分析の結果、工程1で得た生成物の水素原子の総数の99.9%がフッ素原子に置換された、CF3O(CF2CF2O)p+1COCF(CF3)OCF2CF(CF3)OCF2CF2CF3で表される化合物であることを確認した。
【0118】
工程3)スターラーチップを投入した300mLの丸底フラスコを充分に窒素置換した。メタノール(36g)、NaF(5.6g)及び、AK−225(50g)を加えて、工程2で得た生成物(43.5g)を滴下したのち、室温にてバブリングを行いながら、激しく撹拌した。ナスフラスコ出口は窒素シールを行った。
8時間後、冷却管に真空ポンプを設置して系内を減圧に保ち、過剰のメタノール、及び反応副性物を留去した。24時間後、室温で液体の生成物26.8gを得た。
分析の結果、工程2で得た生成物のエステル基の全量がメチルエステルに変換された、CF3O(CF2CF2O)pCF2COOCH3で表される化合物が主たる生成物であることを確認した。
【0119】
工程4)スターラーチップを投入した300mLの丸底フラスコを充分に窒素置換した。2−プロパノール(30g)、AK−225(50.0g)及び、NaBH4(4.1g)を加えて、工程3で得た生成物(26.2g)をAK−225(30g)に希釈して滴下した。その後、室温にて激しく撹拌を行い、丸底フラスコ出口は窒素シールを行った。
8時間後、冷却管に真空ポンプを設置して系内を減圧に保ち、溶媒を留去した。24時間後、AK−225(100g)を投入し、撹拌を行いながら、0.2規定塩酸水溶液(500g)を滴下した。滴下後、6時間撹拌を維持した。その後、有機相を蒸留水(500g)にて3回水洗し、二層分離にて有機相を回収した。さらに、回収した有機相に硫酸マグネシウム(1.0g)を加え、12時間撹拌を行った。その後、加圧濾過を行って硫酸マグネシウムを除去し、エバポレーターにてAK−225を留去して室温で液体のポリマー、24.8gを得た。
分析の結果、工程3で得た生成物のエステル基の全量が還元された、CF3O(CF2CF2O)pCF2CH2OHで表される化合物が主たる生成物であることを確認した。
【0120】
B−8:撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、80mgのチタンテトライソブトキサイド、100gの化合物Mおよび25gのε−カプロラクトンを加え、150℃で5時間加熱し、ポリフルオロポリエチレンオキサイドの末端にε−カプロラクトンが開環付加した白色ワックス状の撥水撥油性付与剤(B−8)を得た。(B−8)の分子量は1250であり、カプロラクトンの重合度数は約2.2個であった。
撥水撥油性付与剤(B−8)は、官能基(b−2)を持たない撥水撥油性付与剤であり、その構造は下記式で表される。
CF3O(CF2CF2O)pCF2CH2O−(C(=O)C510O)t−H
p≒7.3,t≒2.2
【0121】
B−10:撹拌機を装着した300mLの4つ口フラスコに、100gの化合物Mおよび60mgの2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを加え、30分間撹拌した後、31.0gの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加え室温で更に24時間撹拌し、末端がメタクリロイル基で修飾された撥水撥油性付与剤(B−10)を得た。(B−10)の数平均分子量は1160であった。
撥水撥油性付与剤(B−10)は、部位(b−3)を持たない撥水撥油性付与剤であり、その構造は下記式で表される。
CF3O(CF2CF2O)pCF2CH2O−CONHC24OCOC(CH3)=CH2
p≒7.3
【0122】
B−11:撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、600mgの2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、740mgのn−ドデシルメルカプタン、90gの酢酸ブチルおよび90gの1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを加え、15分間室温にて撹拌した後、45gの上記撥水撥油性付与剤(B−10)と15gのポリプロピレンオキシドの片末端がアクリロイル基により変成されたマクロマー(日本油脂社製、ブレンマーAP−800、CH2=CHCOO−(CH2CH(CH3)O)y−H、y≒13、水酸基価=66.8)を加え、窒素パージした後70℃で18時間撹拌して重合を行い、反応生成物を得た。
その結果、数平均分子量で10000の共重合体が得られた。続いて、得られた反応生成物を室温まで冷却し、50mgのジラウリン酸ジブチルスズおよび100mgの2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを加え、室温で30分間撹拌した後、2.27gの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加え室温で更に24時間撹拌し、反応を完結せしめた。その後、減圧下40℃で溶剤の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを留去し、共重合体の重合単位の内、ポリプロピレンオキシド末端がメタクリロイル基で修飾された撥水撥油性付与剤(B−11)を得た。(B−11)の数平均分子量は10460であった。
撥水撥油性付与剤(B−11)は、共重合型であり、その構造は下記式で表される。
−[CH2−C(CH3)CO{P}]f−[CH2−CHCO{Q}]g
f≒6.5,g≒3.0
{P}:CF3O(CF2CF2O)nCF2CH2O−CONHC24O−
{Q}:CH2=C(CH3)COOC25NHCOO−(CH2CH(CH3)O)y
p≒7.3,y≒13
【0123】
B−12:撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、600mgの2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、740mgのn−ドデシルメルカプタンおよび180gの酢酸ブチルを加え、15分間室温にて撹拌した後、45gの上記撥水撥油性付与剤(B−10)および15gの不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε−カプロラクトン(ダイセル化学社製、プラクセルFA2D、カプロラクトンの重合度数=2)を加え、窒素パージした後70℃で18時間撹拌して重合を行い反応生成物を得た。
その結果、数平均分子量35000の共重合体が得られた。続いて、得られた反応生成物を室温まで冷却し、50mgのジラウリン酸ジブチルスズおよび100mgの2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを加え、室温で30分間撹拌した後、6.69gの2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを加え室温で更に24時間撹拌し、反応を完結せしめた。その後、減圧下40℃で溶剤の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを留去し、共重合体の重合単位の内、不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε−カプロラクトン末端がメタクリロイル基で修飾された撥水撥油性付与剤(B−12)を得た。(B−12)の数平均分子量は39000であった。
撥水撥油性付与剤(B−12)は、共重合型であり、その構造は下記式で表される。
−[CH2−C(CH3)CO{P}]f−[CH2−CHCO{Q}]g
f≒22.6,g≒26.7
{P}:CF3O(CF2CF2O)nCF2CH2O−CONHC24O−
{Q}:CH2=C(CH3)COOC25NHCOO−(COC510−O)x−C24O−
p≒7.3,x≒2
【0124】
B−14:側鎖の一部がC817CH2CH2基で置換されたジメチルシリコーンオイル(旭硝子社製、商品名「FLS525」)。官能基(b−2)および部位(b−3)を持たない撥水撥油性付与剤。
【0125】
[例4]
撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、80gの重合性単量体(A−2)、1.0gの撥水撥油性付与剤(B−2)、4.0gの活性エネルギー線重合開始剤(C−1)、熱重合防止剤として1.0gのハイドロキノンモノメチルエーテルおよび有機溶剤として65.0gの酢酸ブチル(AcBt)を入れ、常温および遮光にした状態で、1時間撹拌して均一化した。続いて撹拌しながら、75.0gのコロイダルシリカ(D−1)をゆっくりと加え、さらに常温および遮光にした状態で1時間撹拌して均一化した。
次いで、有機溶剤として65.0gのジブチルエーテル(DBE)を加え、常温および遮光にした状態で1時間撹拌して被覆用組成物(Q4)を得た。続いて、基材表面に被覆用組成物(Q4)をスピンコート(2000rpm×10秒)して、90℃の熱風循環オーブン中で1分間乾燥させた後、高圧水銀ランプ(光量:1200mJ/cm2、波長300〜390nm領域の紫外線積算エネルギー量)を用いて被膜を硬化させた。その結果、基材表面に厚さ1.2μmの硬化物層(被膜)を有するサンプル4が得られた。本サンプル4を用いて先に挙げた各項目について測定と評価を行った。結果を表2に示す。
【0126】
[例5〜7、9、11〜12、14〜16、19]
例4における被覆用組成物中の重合性単量体(A)、撥水撥油性付与剤(B)、活性エネルギー線重合開始剤(C)、コロイダルシリカ(D)および有機溶剤を、表1に記載した種類と量(カッコ内、単位:g)に変更する以外は、例4と同様にしてサンプル5〜7、9、11〜12、14〜16、19を製造し、例4と同様の測定と評価を行った。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】

*膜面にはじきあり。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の被覆用組成物の硬化物からなる被膜を表面に有するガラス製またはプラスチック製の成形品は、防汚性、特に、指紋、皮脂、汗、化粧品等の脂性の汚れに対する防汚性に優れており、このような脂性の汚れが付着しにくく、付着した場合でも容易に拭き取ることができる。また、該成形品は耐磨耗性、透明性にも優れている。このため、脂性の汚れの付着が外観上問題となる反射防止膜、光学フィルタ、光学レンズ、液晶ディスプレー、ELディスプレー、光ディスク等の光学部材として好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性の重合性単量体(A)の100質量部に対して、撥水撥油性付与剤(B)の0.01〜10質量部、および活性エネルギー線重合開始剤(C)の0.1〜10質量部を含む被覆用組成物であり、
前記重合性単量体(A)は、前記被覆用組成物に含有される該重合性単量体(A)の総質量中、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選択される重合性官能基を1分子中に2個以上有する多官能性重合性単量体(a−1)を20質量%以上含有し、
前記撥水撥油性付与剤(B)は、下記式(10)または下記式(11)で示される部分を有する撥水撥油性を発現する部位(b−1)、活性エネルギー線硬化性の官能基(b−2)および下記式(2)〜(4)で表される部分からなる群から選択される少なくとも1つからなる部位(b−3)を有する撥水撥油性付与剤(B−T)を含有し、
前記撥水撥油性付与剤(B−T)において、前記活性エネルギー線硬化性の官能基(b−2)は、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニル基およびビニルエーテル基からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記撥水撥油性付与剤(B−T)は、前記部位(b−1)を有するラジカル重合性のマクロマーと、前記部位(b−3)を有するラジカル重合性のマクロマーと、を共重合させて、さらに前記官能基(b−2)を導入した共重合型であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型被覆用組成物。
−(CH2CH2O)x− ・・・式(2)
−(CH2CH(CH3)O)y− ・・・式(3)
−(C(=O)CuH2uO)t− ・・・式(4)
(式中、xおよびyは5〜100の整数であり、uは3〜5の整数であり、tは1〜20の整数である。)
f(OC36n−O−(CF2m−(CH2L−O− ・・・式(10)
(式中、Rfはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜16のポリフルオロアルキル基であり、nは1〜50の整数であり、mおよびLは1〜3の整数であり、6≧m+L>0である。)
f(OC24e−O−(CF2g−(CH2h−O− ・・・式(11)
(式中、Rfはエーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜16のポリフルオロアルキル基であり、eは1〜50の整数であり、gおよびhは1〜3の整数であり、6≧g+h>0である。)
【請求項2】
活性エネルギー線硬化性の重合性単量体(A)の100質量部に対して、撥水撥油性付与剤(B)の0.01〜10質量部、および活性エネルギー線重合開始剤(C)の0.1〜10質量部を含む被覆用組成物であり、
前記重合性単量体(A)は、前記被覆用組成物に含有される該重合性単量体(A)の総質量中、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選択される重合性官能基を1分子中に2個以上有する多官能性重合性単量体(a−1)を20質量%以上含有し、
前記撥水撥油性付与剤(B)は、下記式(14)で表される撥水撥油性付与剤(B−T)を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型被覆用組成物。
CH2=C(CH3)COOC24NHCOO−(C(=O)C510O)t−CH2(CF2CF2O)p(CF2O)sCF2CF2CH2O−(C(=O)C510O)t−CONHC24OCOC(CH3)=CH2) ・・・式(14)
(式中、tは1〜20の整数であり、pおよびsは1〜100の整数である。)
【請求項3】
前記重合性単量体(A)100質量部に対して0.1〜500質量部のコロイダルシリカ(D)をさらに含有する請求項1または2に記載の被覆用組成物。
【請求項4】
前記コロイダルシリカ(D)は、メルカプト基を有する有機基と、加水分解性基または水酸基と、がケイ素原子に結合しているメルカプト基含有シラン化合物(S1)または(メタ)アクリロイル基を有する有機基と、加水分解性基または水酸基とが、ケイ素原子に結合している(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物(S2)で表面修飾して得られる修飾コロイダルシリカであることを特徴とする請求項3に記載の被覆用組成物。
【請求項5】
前記メルカプト基含有シラン化合物(S1)は、下記式(12)で表される化合物であることを特徴とする請求項4に記載の被覆用組成物。
HS−R1−SiR2f53-f ・・・式(12)
(式中、R1は2価の炭化水素基、R2は水酸基または加水分解性基、R5は1価の炭化水素基、fは1〜3の整数を表す。)
【請求項6】
前記(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物(S2)は、下記式(13)で表される化合物であることを特徴とする請求項4に記載の被覆用組成物。
CH2=C(R6)−R7−SiR2f53-f ・・・式(13)
(式中、R6は水素原子またはメチル基、R7は2価の炭化水素基、R2は水酸基または加水分解性基、R5は1価の炭化水素基、fは1〜3の整数を表す。)
【請求項7】
硬化後の被膜表面のオレイン酸に対する接触角が初期60度以上かつ耐湿試験後55度以上であり、前記硬化後の被膜のヘーズ値が3%以下であり、かつISO9352で定めるテーバー磨耗性試験(磨耗輪:CS−10F、片輪加重500g、500回転)の前後における前記硬化後の被膜のヘーズ値の変化が10%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の被覆用組成物。
【請求項8】
ガラスまたはプラスチックの基材表面に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の被覆用組成物の硬化物からなる厚さ0.1〜50μmの被膜を有する成形品。

【公開番号】特開2012−82431(P2012−82431A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−264566(P2011−264566)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【分割の表示】特願2005−505673(P2005−505673)の分割
【原出願日】平成15年11月12日(2003.11.12)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】