説明

活性エネルギー線硬化型被覆組成物及び該組成物の硬化被膜を有する成形品

【課題】優れた耐摩耗性及び耐侯性を有する硬化被膜を形成しうる活性エネルギー線硬化型被覆組成物を提供する。
【解決手段】(A)イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールジアクリレートとペンタエリスリトールトリアクリレートを反応させて得られるポリウレタンポリアクリレート化合物10〜40質量%、
(B)イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートとを反応させた6官能ウレタンアクリレート化合物5〜30質量%、
(C)ペンタエリスリトールテトラアクリレート5〜20質量%、
(D)特定のポリ(アクリロイルオキシアルキル)イソシアヌレート5〜20質量%、
(E)ラジカル重合性無機微粒子5〜70質量%、
を含むラジカル重合性化合物を含む活性エネルギー線硬化型被覆組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線照射により、特に耐摩耗性に優れ、かつ表面平滑性、耐熱性、耐薬品性、耐候性、及び基材との密着性に優れた硬化被膜を基材表面に形成しうる活性エネルギー線硬化型被覆組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂などから製造された合成樹脂成形品は、軽量で耐衝撃性に優れているばかりでなく、透明性も良好で、近年、自動車用プラスチック材料として、各種ランプレンズ、グレージング、計器類のカバーなどに多用されている。特にヘッドランプレンズについては自動車の燃費向上のための軽量化、デザインの多様化などからプラスチック材料の使用が増加している。しかし、これらの合成樹脂成形品はその表面の耐摩耗性が不足しているため、他の硬い物との接触、摩擦、引っ掻きなどによって表面に損傷を受けやすく、表面に発生した損傷はその商品価値を低下させることになる。また、前述の自動車用プラスチック材料として使用される場合には、その耐候性も重要な性能となる。特にポリカーボネート樹脂等の場合は耐候性が低く、太陽光に含まれる紫外線等の活性エネルギー線によって劣化を受け、成形品が著しく黄変したり、表面にクラックが生じたりする。
【0003】
このような合成樹脂成形品の欠点を改良する方法については、従来種々検討されてきており、例えばシリコン系、メラミン系の樹脂組成物からなる被覆材を合成樹脂成形品表面に塗布し、加熱縮合させて架橋被膜を形成させ、耐摩耗性を向上させる方法や、ラジカル重合性単量体からなる樹脂組成物を塗布した後、活性エネルギー線を照射させ架橋被膜を形成する方法などが提案されている(特許文献1)。
【0004】
これまで、我々は、表面処理されたシリカ微粒子を含む樹脂組成物を提案してきた(特許文献2)。しかし、屋外の環境に対し、さらに長期間に渡り硬化被膜及び合成樹脂基材の劣化を抑制するために、さらなる耐侯性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−122840号公報
【特許文献2】特開平5−320289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の背景においてなされたものであり、その目的とするところは、優れた耐摩耗性及び耐侯性を有する硬化被膜を形成しうる活性エネルギー線硬化型被覆組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の多官能ウレタンアクリレート化合物、イソシアヌレート骨格を有するアクリレート化合物、多官能アクリレート、ラジカル重合性無機微粒子を、特定の比率で配合することによって、耐摩耗性及び耐侯性に優れる活性エネルギー線硬化型被覆組成物を見出した。
【0008】
本発明に係る活性エネルギー線硬化型被覆組成物は、
ラジカル重合性化合物を含む活性エネルギー線硬化型被覆組成物において、
前記ラジカル重合性化合物100質量%中、
(A)下記一般式(1)に示されるポリウレタンポリアクリレート化合物10質量%以上、40質量%以下、
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、nは1〜10である。)
(B)イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートとを反応させた6官能ウレタンアクリレート化合物5質量%以上、30質量%以下、
(C)ペンタエリスリトールテトラアクリレート5質量%以上、20質量%以下、
(D)下記一般式(2)で示されるポリ(アクリロイルオキシアルキル)イソシアヌレート5質量%以上、20質量%以下、
【0011】
【化2】

【0012】
(式(2)中、X1、X2及びX3はアクリロイル基(CH2=CH−CO−)、カプロラクトンにより変性されたアクリロイル基[(CH2=CH−CO(O(CH25C=O)a−)、aは1以上の整数である。]、水素原子又はアルキル基を示し、これらのうちの少なくとも2つはアクリロイル基もしくはカプロラクトンにより変性されたアクリロイル基であり、R1、R2及びR3はオキシアルキレン基又はポリオキシアルキレン基を示す。)
(E)ラジカル重合性無機微粒子5質量%以上、70質量%以下、
を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る被覆組成物を合成樹脂成形品の表面に塗布し、活性エネルギー線を照射することにより、耐摩耗性、耐侯性に優れた硬化被膜を有する合成樹脂成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の詳細について以下に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。先ず本発明の被覆組成物の各成分について説明する。
【0015】
<(A)成分について>
(A)成分である、前記式(1)に記載のポリウレタンポリアクリレート化合物は、強靭性を発現するために必要な成分であり、硬化塗膜の耐摩耗性を損なうことなく、耐侯性(耐クラック性)を向上させることが出来る。
【0016】
(A)成分の調製方法としては、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールジアクリレートを反応後、ペンタエリスリトールトリアクリレートを反応させることにより調製することができる。具体的には、過剰のイソホロンジイソシアネート及びペンタエリスリトールジアクリレートをジラウリン酸ジn−ブチル錫等の錫系触媒の存在下、60〜70℃で数時間加熱し反応させる。その後、ペンタエリスリトールトリアクリレートを60〜100℃で数時間加熱し反応させることにより調製することができる。
【0017】
前記式(1)におけるnは1〜10である。好ましくは2〜8である。1以上で、塗膜の靭性が向上し、耐クラック性が向上する。10以下で粘度が下がり、配合時のハンドリング性が向上する。nは合成する際のイソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールジアクリレートとのモル比を変えることで調整できる。イソホロンジイソシアネートのモル数を1とした場合、ペンタエリスリトールジアクリレートのモル数を1に近づけるほどnは大きくなる。また、モル数が1を超えてもそれ以上nは増えない。なお(A)成分が混合物である場合には、nは数平均値を意味する。
【0018】
イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールジアクリレートとを反応させる際、イソホロンジイソシアネートのモル数を1とした場合、ペンタエリスリトールジアクリレートのモル数は0.4〜0.9が好ましい。より好ましくは0.5〜0.8である。0.4以上であれば、前記式(1)中のnが大きくなり耐クラック性が向上する。0.8以下であれば粘度が下がり、配合時のハンドリング性が向上する。
【0019】
本発明において、(A)成分の使用割合はラジカル重合性化合物の合計量100質量%中、10質量%以上、40質量%以下である。(A)成分の使用割合は、15質量%以上、32質量%以下が好ましく、24質量%以上、32質量%以下がより好ましい。(A)成分の量が10質量%未満の場合、硬化被膜の耐候性(耐クラック性)が低下する。また、40質量%をこえると、硬化被膜の耐摩耗性が低下する。なお、前記ラジカル重合性化合物の合計量100質量%とは、(A)〜(E)成分の合計量を示す。
【0020】
<(B)成分について>
(B)成分はイソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートとを当量反応させた6官能ウレタンアクリレート化合物である。(B)成分は活性エネルギー線により良好な重合活性を示し、硬化被膜の耐擦傷性及び耐熱性を向上させることができる。(B)成分の具体的な調製方法としては、当量のイソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートをジラウリン酸ジn−ブチル錫等の錫系触媒の存在下、60〜70℃で数時間加熱することにより調製することができる。
【0021】
本発明において、(B)成分の使用割合はラジカル重合性化合物の合計量100質量%中、5質量%以上、30質量%以下である。(B)成分の使用割合は、15質量%以上、25質量%以下が好ましく、17質量%以上、23質量%以下がより好ましい。(B)成分の量が5質量%未満の場合、硬化被膜の耐熱性、耐摩耗性が低下する。また、30質量%をこえると、硬化被膜の耐侯性(耐クラック性)が低下する。
【0022】
<(C)成分について>
(C)成分はペンタエリスリトールテトラアクリレートである。(C)成分は活性エネルギー線により良好な重合活性を示し、硬化被膜の耐摩耗性及び耐熱性を向上させることができる。
【0023】
本発明において、(C)成分の使用割合はラジカル重合性化合物の合計量100質量%中、5質量%以上、30質量%以下である。(C)成分の使用割合は、10質量%以上、25質量%以下が好ましく、14質量%以上、18質量%以下がより好ましい。(C)成分の量が5質量%未満の場合、硬化被膜の耐熱性、耐擦傷性が低下する。また、30質量%をこえると、硬化被膜の耐侯性(耐クラック性)が低下する。
【0024】
<(D)成分について>
(D)成分である前記式(2)で示されるポリ(アクリロイルオキシアルキル)イソシアヌレートは、活性エネルギー線により良好な重合活性を示し、また得られた硬化被膜の耐摩耗性を損なうことなく、耐熱性を向上させることができる。
【0025】
なお、得られた硬化被膜における耐摩耗性の観点から前記式(2)におけるaは5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることが更に好ましい。
【0026】
(D)成分としては、具体的には、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(2−アクリロイルオキシプロピル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、トリス(2−アクリロイルオキシプロピル)イソシアヌレート、1分子あたり1個のカプロラクトンにより変性されたトリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(商品名「アロニックスM−325」、東亞合成(株)製)、1分子あたり3個のカプロラクトンにより変性されたトリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(商品名「アロニックスM−327」、東亞合成(株)製)等が挙げられる。
【0027】
本発明において、(D)成分の使用割合はラジカル重合性化合物の合計100質量%中、5質量%以上、20質量%以下である。(D)成分の使用割合は、10質量%以上、19質量%以下が好ましく、15質量%以上、18質量%以下がより好ましい。(D)成分の量が5質量%未満の場合、硬化被膜の耐熱性が低下する。また、20質量%をこえると活性エネルギー線に対する反応性が低下する。
【0028】
<(E)成分について>
(E)成分であるラジカル重合性無機微粒子は硬化被膜の耐摩耗性を向上させることができる。(E)成分としては、他成分と混合し活性エネルギー線硬化型被覆組成物とした際に均一に分散し、硬化被膜の透明性及び耐摩耗性が良好になるものであれば特に限定されない。しかし、他のラジカル重合性化合物との相溶性及び硬化被膜の耐摩耗性の観点から(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシランカップリング剤により表面処理されたシリカ微粒子が好ましい。ラジカル重合性無機微粒子は公知の方法で合成することができる。
【0029】
本発明において、(E)成分の使用割合はラジカル重合性化合物の合計100質量%中、5質量%以上、70質量%以下である。(E)成分の使用割合は、10質量%以上、40質量%以下が好ましく、10質量%以上、30質量%以下がより好ましい。(E)成分の使用割合が5質量%未満の場合、硬化被膜の耐摩耗性が低下する。また、70質量%をこえると、硬化被膜の耐候性(耐クラック性)が低下する。
【0030】
本発明の活性エネルギー線硬化型被覆組成物が塗布される基材の紫外線による劣化を防ぐため、活性エネルギー線硬化型被覆組成物がさらに紫外線吸収剤(以下、(F)成分とする)及びヒンダードアミン系光安定剤(以下、(G)成分とする)を含むことが好ましい。
【0031】
<(F)成分について>
(F)成分である紫外線吸収剤は特に限定されず、組成物に均一に溶解し、かつその耐候性が良好なものであれば使用可能である。しかし、組成物に対する良好な溶解性及び耐候性改善効果という点から、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、安息香酸フェニル系から誘導された化合物で、それらの最大吸収波長が240〜380nmの範囲である紫外線吸収剤が好ましい。更に、組成物に多量に含有させることが可能という点から、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤がより好ましい。またポリカーボネート等の基材の黄変を防ぐことができるという点から、トリアジン系及びベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤がより好ましい。
【0032】
(F)成分の使用割合は、ラジカル重合性化合物の合計量100質量部に対し、1質量部以上、30質量部以下が好ましい。(F)成分の使用割合は、3質量部以上、15質量部以下がより好ましい。(F)成分の量が1質量部以上の場合、硬化被膜及び基材の耐候性(耐黄変)が良好となる。また30質量部以下の場合、硬化被膜の耐熱性及び耐摩耗性が良好となる。
【0033】
<(G)成分について>
(G)成分であるヒンダードアミン系光安定剤としては、公知のヒンダードアミン系光安定剤が使用できる。(G)成分としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5])ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5])ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンとの縮合物(商品名「チヌビン123」、チバ・ジャパン(株)製)、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジンが好ましい。また、分子内に(メタ)アクリロイル基を有するヒンダードアミン系光安定剤も使用でき、例えば、{2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジンと2−アクリロイルオキシエチルイソシアネートとの反応生成物が挙げられる。製造方法は特開2008−56906号公報に記載されている。
【0034】
これらの中でも、長期に渡り耐候性を付与できるという観点から、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン、分子内に(メタ)アクリロイル基を有するヒンダードアミン系光安定剤がより好ましい。
【0035】
(G)成分の使用割合は、ラジカル重合性化合物の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下が好ましい。(G)成分の使用割合は、0.5質量部以上、2質部以下がより好ましい。(G)成分の量が0.1質量部以上の場合、硬化被膜の耐候性(耐クラック性)が良好となる。また5質量部以下の場合、硬化被膜の耐熱性及び耐摩耗性が良好となる。
【0036】
本発明の被覆組成物は、上記(A)〜(E)成分を含んでなり、場合によっては、(F)、(G)成分を含んでなるが、必要に応じて、(A)〜(E)成分以外のラジカル重合性化合物、有機溶剤、光重合開始剤、酸化防止剤、黄変防止剤、赤外線吸収剤、ブルーイング剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、帯電防止剤、防曇剤等の各種の添加剤が含まれていてもよい。
【0037】
有機溶剤は、基材の種類により選択して用いるのが好ましい。例えば、基材としてポリカーボネートを使用する場合には、イソブタノールなどのアルコール系溶剤、酢酸n−ブチルなどのエステル系溶剤の1種もしくは2種以上を組み合わせて用いるのが好ましい。
【0038】
<(A)〜(E)成分以外のラジカル重合性化合物について>
硬化被膜の耐摩耗性及び耐侯性などの各種物性を低下させない範囲であれば、(A)〜(E)成分以外のラジカル重合性化合物を使用しても良い。他のラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単官能もしくは多官能モノマー又はオリゴマーなどが挙げられる。これらは、周知の方法で製造されるものであり、例えば、高分子刊行会発行「UV・EB硬化ハンドブック−原料編」などに記載されている。
【0039】
具体的には、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシドにより変性されたグリセロールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドにより変性されたグリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシドにより変性されたトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドにより変性されたトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシドにより変性されたリン酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、エチレンオキシドにより変性されたジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシドにより変性されたジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、(A)及び(B)成分以外のウレタン(メタ)アクリレート化合物、多価アルコールと(メタ)アクリル酸及び多官能性カルボン酸との縮合反応により合成されるポリエステル(メタ)アクリレート化合物、ビスフェノール型エポキシ樹脂あるいはノボラック型エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との付加反応により合成されるエポキシ(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
<光重合開始剤について>
活性エネルギー線として、紫外線を使用する場合には、光重合開始剤を添加することが好ましい。光重合開始剤としては、活性エネルギー線照射によりアクリル系モノマー又はオリゴマーの重合を開始させうるものであれば、いずれのものも使用できる。具体的には、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン等のカルボニル化合物、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドなどの硫黄化合物、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどのアシルフォスフィンオキサイド等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上の混合系で使用される。これらの中でも、ベンゾフェノン、ベンゾインイソプロピルエーテル、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジルジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドが好ましい。
【0041】
光重合開始剤の添加量は、(A)〜(E)成分のラジカル重合性化合物及び前記他のラジカル重合性化合物の合計量100質量部に対し、0.1質量部以上、10質量部以下が好ましい。光重合開始剤の添加量は、1質量部以上、5質量部以下がより好ましい。光重合開始剤の量が0.1質量部以上の場合、硬化性が良好となる。また、10質量部以下の場合、硬化被膜の透明性及び耐候性が良好となる。
【0042】
本発明の被覆組成物を基材に塗布するには、ハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、カーテンコートなどの方法が用いられるが、被覆組成物の塗布作業性、被覆の平滑性、均一性、硬化被膜の基材に対する密着性向上の点から、適当な有機溶剤を添加して塗布するのが好ましい。また、粘度を調整するために被覆組成物を加温してから塗装しても良い。
【0043】
本発明の被覆組成物は、基材に塗布した後の活性エネルギー線照射により架橋し、硬化被膜を形成する。活性エネルギー線照射により硬化する際には、被覆組成物を基材上に好ましくは膜厚1〜50μm、より好ましくは3〜20μmになるように塗布し、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いて、波長340nm〜380nmの紫外線を1000〜5000mJ/cm2となるように照射することが好ましい。照射する雰囲気は、空気中でもよいし、窒素、アルゴン等の不活性ガス中でもよい。
【0044】
本発明において、塗装工程と活性エネルギー線照射工程の間に加熱処理工程を施してもよい。一般的に加熱処理工程は、近赤外線ランプの照射、温風の循環等によって達成される。本発明の被覆組成物は、塗装後、加熱処理工程炉内中の基材表面温度(以下加熱温度)が40℃〜90℃、加熱時間が60〜180秒で加熱処理した場合、屋外での長期に渡る密着性が良好となるため好ましい。より好ましくは、加熱温度が50〜70℃、加熱時間が90〜120秒である。加熱温度が40℃以上の場合、塗膜内部における有機溶剤等の残存量が少なくなって、耐水性、耐候性が良好となる。一方、90℃以下の場合、外観、耐候性が良好となる。また加熱時間が90秒以上の場合、塗膜内部における有機溶剤等の残存量が少なくなって、耐水性、耐候性が良好となる。一方、180秒以下の場合、外観、耐候性が良好となる。
【0045】
本発明の被覆組成物は、基材たる各種合成樹脂成形品の表面の改質に使用できるが、この合成樹脂成形品としては、従来から耐摩耗性や耐侯性等に関する改善要望のある各種の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。具体的には、ポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリアリルジグリコールカーボネート樹脂などが挙げられる。特に、ポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂は、透明性に優れかつ耐摩耗性改良要求も強いため、本発明の被覆組成物を適用するのが有効である。また合成樹脂成形品とは、これらの樹脂からなるシート状成形品、フィルム状成形品、各種射出成形品などである。
【0046】
本発明の被覆組成物の硬化被膜は、耐摩耗性、耐候性に優れる。そのため、前記合成樹脂成形品であるランプレンズの表面に本発明の被覆組成物の硬化被膜を形成することが好ましい。特に、本発明の被覆組成物をポリカーボネート樹脂成形品の表面に塗布し、活性エネルギー線を照射することにより、硬化被膜を形成した樹脂成形品は自動車、オートバイ、電車等の車両用ヘッドランプレンズ用ポリカーボネート樹脂成形品に好適である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を掲げ本発明について更に詳しく説明する。また実施例中の測定評価は次のような方法で行った。
【0048】
(1)耐摩耗性
JIS K7204「摩耗輪によるプラスチック摩耗試験」に準拠し、ROTARY ABRASION TESTER((株)東洋精機製)を使用し摩耗輪CS−10F、4.9N(500gf)荷重にて500回転摩耗した後、ヘイズメーター(HM−65W、(株)村上色彩技術研究所製)にてヘイズ値を測定し、耐摩耗性の判定を行った。耐摩耗性の判定基準は次の通りである。
◎ 増加ヘイズ値が0以上、15.0未満である。
○ 増加ヘイズ値が15.0以上、20.0未満である。
× 増加ヘイズ値が20.0以上である。
【0049】
(2)耐熱性
120℃及び130℃のオーブン中に、240時間静置した。取り出し後、硬化塗膜の外観を目視評価した。耐熱性の判定基準は次の通りである。
◎ 120℃及び130℃のいずれの試験後もクラックの発生がない。
○ 120℃の試験後にはクラックの発生がないが、130℃の試験後にはクラックを生じた。
× 120℃の試験後にクラックを生じた。
【0050】
(3)耐侯性
サンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製、WEL−SUN−HC−B型)耐候試験機を用いて、ブラックパネル温度63±3℃、降雨12分間、照射48分間のサイクルで試験した。試験時間2000及び3000時間後に、以下の評価を行った。
【0051】
(a)外観
クラック、白化の発生及び硬化被膜の剥離については、発生しなかったものを○とし、発生したものを×とした。
【0052】
(b)透明度
ヘイズメーター(HM−65W、(株)村上色彩技術研究所製)を用いて試験前後のヘイズ値を測定した。
◎ 増加ヘイズ値が0以上、1.0未満である。
○ 増加ヘイズ値が1.0以上、2.0未満である。
× 増加ヘイズ値が2.0以上である。
【0053】
(c)黄変度
瞬間マルチ測光システム(MCPD−3000、大塚電子(株)製)を用いて三刺激値(X、Y、Z)を測定し、下記式を用いてイエローインデックス(YI)値を算出した。
【0054】
イエローインデックス(YI)値=100×(1.28×X−1.06×Z)/Y
◎ 増加イエローインデックス(YI)値が0以上、1.00未満である。
○ 増加イエローインデックス(YI)値が1.00以上、2.00未満である。
× 増加イエローインデックス(YI)値が2.00以上である。
【0055】
(4)分子量
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)「HLC−8120」(商品名、東ソー株式会社製)を用いて測定した。カラムは、TSKgel G5000HXL*GMHXL−L(商品名、東ソー株式会社製)を使用した。また、検量線は、TSK標準ポリスチレンF288/F80/F40/F10/F4/F1/A5000/A1000/A500(商品名、東ソー株式会社製)及びスチレンモノマーを使用して作成した。
【0056】
ポリマーをテトラヒドロフラン(THF)に0.4質量%になるように溶解した溶液100μlを使用して、40℃で測定を行った。標準ポリスチレン換算にて重量平均分子量を算出した。
【0057】
[合成例1(UA1)]
保温機能付き滴下ろうと、還流冷却器、攪拌羽及び温度センサーを装備したフラスコ中に、イソホロンジイソシアネート264.8g(1mol)、及びジラウリン酸ジn−ブチル錫300ppmを仕込み、60℃に加温した。ペンタエリスリトールジアクリレート195.4g(0.8mol)を内温60℃に保持しながら、3時間かけて滴下した。その後1時間かけて70℃に昇温した後、ペンタエリスリトールトリアクリレート119.3g(0.4mol)を内温70℃に保持しながら、2時間かけて滴下した。その後、70℃で3時間攪拌し、目的のUA1を得た。UA1の数平均分子量は、ポリスチレン換算で2158であって、式(1)におけるn(数平均値)=2.4であった。
【0058】
[合成例2(UA2)]
保温機能付き滴下ろうと、還流冷却器、攪拌羽及び温度センサーを装備したフラスコ中に、イソホロンジイソシアネート264.8g(1mol)、及びジラウリン酸ジn−ブチル錫300ppmを仕込み、60℃に加温した。ペンタエリスリトールトリアクリレート596.58(2mol)を内温60℃に保持しながら、3時間かけて滴下した。その後1時間かけて70℃に昇温した後、さらに70℃で3時間攪拌し、目的のUA2を得た。UA2の数平均分子量は、ポリスチレン換算で820であった。
【0059】
[合成例3(MCS分散体)]
還流冷却器、攪拌羽及び温度センサー及びディーンスターク装置を備えたフラスコに、メタノールシリカゾル(分散媒:メタノール、SiO2濃度:30質量%、一次粒子径:12nm、商品名:「MT−ST」、日産化学工業(株))(以下、「MT−ST」と略記)1200g(SiO2分として360g)と、有機シラン化合物としてγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(商品名「SZ6030」、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)230gを入れ、攪拌しながら昇温させ、揮発成分の還流が始まると同時に純水100gを徐々に滴下させ、滴下終了後、還流下で2時間攪拌しながら加水分解を行った。
【0060】
加水分解終了後、常圧状態でアルコール、水等の揮発成分を留出させ、固形分濃度が60質量%になった時点でトルエン720gを追加し、アルコール、水等をトルエンと一緒に共沸留出させた。
【0061】
次に、トルエン1000gを追加し、完全に溶媒置換を行い、トルエン分散系とした。このときの固形分濃度は約40質量%であった。
【0062】
更に、トルエンを留出させながら110℃で4時間反応を行い、固形分濃度を約60質量%とした。この後、更に1−メトキシ−2−プロパノール1000gを追加し、トルエンを蒸発留出させ溶媒置換を行い、1−メトキシ−2−プロパノール分散系とし、ラジカル重合性無機微粒子分散体を合成した。このラジカル重合性無機微粒子分散体(以下、MCS分散体と記載する場合有)は、黄色状で透明な液体であり、固形分濃度は加熱残分で50質量%であった。またMCS分散体の酸価は8mgKOH/gであり、ラジカル重合性微粒子単体の酸価に換算すると16mgKOH/gであった。
【0063】
[実施例1]
表1に示す配合比で被覆組成物を調製し、厚さ3mmのポリカーボネート樹脂板(商品名「レキサンLS−2」、SABICポリマーランドジャパン(株)製)に、硬化後の被膜が8μmになるようにスプレー塗装した。オーブン中で80℃、3分間加熱処理することにより有機溶剤分を揮発させた後、空気中で高圧水銀ランプを用い、波長340nm〜380nmの積算光量が3000mJ/cm2((株)オーク製作所製紫外線光量計UV−351(SN型)での測定値)のエネルギーを照射し、硬化被膜を得た。得られた硬化被膜の評価結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2〜8、比較例1〜5]
実施例2〜8、比較例1〜5では、表1、2に示す配合比で被覆組成物を調製し、実施例1と同様の条件で硬化被膜を得た。
【0065】
得られた硬化被膜の評価結果を表1、2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
なお、表1、2中の化合物の記号は次の通りである。
UA1:合成例1で得たウレタンアクリレート化合物
UA2:合成例2で得たウレタンアクリレート化合物
PETA:ペンタエリスリトールテトラアクリレート
TAIC:トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート
TAIC−3C:1分子あたり3個のカプロラクトンにより変性されたトリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(商品名「アロニックスM−327」、東亞合成(株)製)
MCS分散体:合成例3で得たラジカル重合性無機微粒子分散体(固形分50質量%であり、MCS分散体100g中には、ラジカル重合性無機微粒子(固形分)は50g含有される。)
MIBK−SD:アクリロイル基で被覆されたラジカル重合性無機微粒子分散体(商品名「MIBK−SD」、日産化学工業(株)製)
HHBT:2−[4−(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシ−プロピル)オキシ−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−[ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(商品名「チヌビン400」、チバ・ジャパン(株)製)
BTPS:ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート
BNP:ベンゾフェノン
MPG:メチルフェニルグリオキシレート
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド
BYK340:フッ素変性ポリマー(レベリング剤)(商品名「BYK340」、ビックケミージャパン(株)製)
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
MIBK:メチルイソブチルケトン
ECA:エチルカルビトールアセテート
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の被覆組成物を車両用ヘッドランプレンズなどのプラスチック基材に塗装することにより、長期に渡り紫外線やキズからレンズを保護し、良好な外観を維持することが可能となる。これにより、例えば自動車用ヘッドランプレンズに用いた場合には良好な視野を確保することができ、夜間走行時の安全性がさらに向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性化合物を含む活性エネルギー線硬化型被覆組成物において、
前記ラジカル重合性化合物100質量%中、
(A)下記一般式(1)に示されるポリウレタンポリアクリレート化合物10質量%以上、40質量%以下、
【化1】

(式(1)中、nは1〜10である。)
(B)イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートとを反応させた6官能ウレタンアクリレート化合物5質量%以上、30質量%以下、
(C)ペンタエリスリトールテトラアクリレート5質量%以上、20質量%以下、
(D)下記一般式(2)で示されるポリ(アクリロイルオキシアルキル)イソシアヌレート5質量%以上、20質量%以下、
【化2】

(式(2)中、X1、X2及びX3はアクリロイル基(CH2=CH−CO−)、カプロラクトンにより変性されたアクリロイル基[(CH2=CH−CO(O(CH25C=O)a−)、aは1以上の整数である。]、水素原子又はアルキル基を示し、これらのうちの少なくとも2つはアクリロイル基もしくはカプロラクトンにより変性されたアクリロイル基であり、R1、R2及びR3はオキシアルキレン基又はポリオキシアルキレン基を示す。)
(E)ラジカル重合性無機微粒子5質量%以上、70質量%以下、
を含む活性エネルギー線硬化型被覆組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型被覆組成物の硬化被膜で被覆されている合成樹脂成形品。
【請求項3】
合成樹脂成形品が車両用ヘッドランプレンズ用ポリカーボネート樹脂成形品である請求項2記載の合成樹脂成形品。

【公開番号】特開2011−144309(P2011−144309A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7951(P2010−7951)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】