説明

活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂とこれを用いた粘着シート、及び粘着シートの製造方法

【課題】材料の取り扱いが容易で、粘着特性に優れ、かつ地球環境への負荷を低減することができる活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂とこれを用いた粘着シート、及び粘着シートの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル系プレポリマーAと、カルボキシル基を有するマレイミド系化合物Bとの反応物である活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂であって、前記ポリエステル系プレポリマーAが、植物由来のジオール、3官能以上の多価アルコール及び植物由来のジカルボン酸の縮合物であり、前記ジオール及び前記多価アルコールの水酸基と、前記ジカルボン酸のカルボキシル基とのモル比(水酸基のモル数/カルボキシル基のモル数)が、1.01〜1.70であり、かつ前記多価アルコールのモル数が、前記ジオール100モルに対して4〜28モルである活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂とこれを用いた粘着シート、及び粘着シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、化石資源の枯渇や地球の温暖化防止対策として、再生可能な材料である植物由来材料の使用が推奨され始めている。これまでの粘着剤の材料としては、主にアクリル系の材料などが使用されているが、現在のところ、粘着剤に使用可能な植物由来のアクリル系の材料は見つかっていない。
【0003】
一方、ポリエステル系感圧性粘着剤の材料となるジオールやジカルボン酸には植物由来のものがあり、これら再生可能な循環型材料を使用する事により、地球環境への負荷を低減することが可能である。
【0004】
一般的に粘着剤は、耐熱性や保持性向上の為、塗工後に分子の架橋処理が行われる。従来のポリエステル系粘着剤には、イソシアネートやエポキシ系の架橋剤を用いて熱架橋するタイプのものがあるが、これらは水分の影響を受け易く、ポリマーや架橋剤の含水量により特性が変化したり、白化や気泡が発生するなどの課題があった。また、これら熱架橋型粘着剤は架橋反応を完結させるために、塗工した後、3日程度の熟成が必要であり、生産性が低下するという課題があった。また、この課題を解決する為に架橋促進剤を用いると、ゲル化し易くなり、保存性が低下するという課題もあった。
【0005】
他方、植物由来の材料を使用した環境配慮型の紫外線硬化型粘着剤としては、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製、商品名カレンズ−MOI)等を、ポリエステル樹脂末端に導入し、光開始剤を添加して紫外線硬化を行う粘着剤が提案されている(特許文献1)。しかし、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートは非常に臭気が強く、また、強い皮膚腐食性を有しており、作業者の安全性を確保するのが困難である。さらに、光開始剤を添加することによるフィルムの変色や耐熱劣化などが課題となっていた。
【0006】
また、特許文献2及び3には、紫外線により架橋されるマレイミド基を含有した紫外線硬化型組成物が提案されている。特許文献2及び3では、紫外線硬化型組成物中のポリエステル骨格を有する化合物に分岐構造をもたせるために、イソシアネート系化合物を含むモノマー成分から得られたポリエステルが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−102476号公報
【特許文献2】特開2001−220567号公報
【特許文献3】国際公開第2003/072674号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2及び3では、イソシアネート系化合物を用いるため、イソシアネート系化合物によるかぶれの懸念や、比較的低温での硬化反応も起こりうるため、ポットライフの観点からも取り扱いに注意を要していた。
【0009】
本発明は、材料の取り扱いが容易で、粘着特性に優れ、かつ地球環境への負荷を低減することができる活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂とこれを用いた粘着シート、及び粘着シートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明の活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂は、ポリエステル系プレポリマーAと、カルボキシル基を有するマレイミド系化合物Bとの反応物である活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂であって、
前記ポリエステル系プレポリマーAが、植物由来のジオール、3官能以上の多価アルコール及び植物由来のジカルボン酸の縮合物であり、
前記ジオール及び前記多価アルコールの水酸基と、前記ジカルボン酸のカルボキシル基とのモル比(水酸基のモル数/カルボキシル基のモル数)が、1.01〜1.70であり、かつ前記多価アルコールのモル数が、前記ジオール100モルに対して4〜28モルであることを特徴とする。
【0011】
本発明の活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂(単に「ポリエステル系樹脂」ともいう)では、使用される成分(材料)のいずれについても取り扱いが容易である。また、3官能以上の多価アルコール(単に「多価アルコール」ともいう)を用いることによって分岐構造が得られると考えられ、その結果、接着力や保持性等の粘着特性に優れるポリエステル系樹脂を提供できると考えられる。また、植物由来のジオール(単に「ジオール」ともいう)及び植物由来のジカルボン酸(単に「ジカルボン酸」ともいう)を用いるため、地球環境への負荷を低減することができる。
【0012】
また、本発明のポリエステル系樹脂では、ジオール及び多価アルコールの水酸基と、ジカルボン酸のカルボキシル基とのモル比(水酸基のモル数/カルボキシル基のモル数)が1.01〜1.70の範囲であるため、末端に水酸基を有するプレポリマーAを容易に調製することができる。これにより、カルボキシル基を有するマレイミド系化合物B(単に「マレイミド系化合物B」ともいう)と、プレポリマーAとの反応を容易に行うことができる。つまり、プレポリマーAの末端の水酸基と、マレイミド系化合物Bのカルボキシル基とをエステル化反応させることによって、プレポリマーAの末端にマレイミド基を導入することができる。
【0013】
更に、本発明のポリエステル系樹脂では、多価アルコールのモル数が、ジオール100モルに対して4〜28モルであるため、プレポリマーA中の分岐点が増えることによって凝集力が高まり、粘着特性を向上させることができると考えられる。また、多価アルコールのモル数が、ジオール100モルに対して28モル以下であるため、プレポリマーAの調製時において、過剰な高分子量化やゲル化を防ぐことができる。これにより、材料の取り扱い性が向上する。
【0014】
本発明において、前記マレイミド系化合物Bのモル数は、前記ポリエステル系プレポリマーAを形成する前記多価アルコール1モルに対して0.1〜12モルであることが好ましい。多価アルコール1モルに対しマレイミド系化合物Bを0.1モル以上添加すると、架橋度が高くなることによって凝集力が高まるため、粘着特性を向上させることができる。また、マレイミド系化合物Bの添加量が、多価アルコール1モルに対して12モル以下であると、過剰な架橋反応を抑制して粘着剤として適したゲル分率が得られるため、粘着特性の低下を抑制できる。
【0015】
本発明では、プレポリマーAの重量平均分子量が3万〜13万であることが好ましい。プレポリマーAの重量平均分子量が3万以上であれば、架橋度が高くなることによって凝集力が高まるため、粘着特性を向上させることができる。また、プレポリマーAの重量平均分子量が13万以下であれば、プレポリマーAのゲル化を防ぐことができる。これにより、材料の取り扱い性が向上する。
【0016】
本発明の粘着シートは、活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物により形成された粘着層を有する粘着シートであって、前記活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂が、上記本発明のポリエステル系樹脂であることを特徴とする。本発明の粘着シートによれば、上記本発明のポリエステル系樹脂と同様の効果が得られる。
【0017】
本発明の粘着シートの製造方法は、活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物により形成された粘着層を有する粘着シートの製造方法であって、上記本発明のポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物を、支持体の少なくとも一方の面に塗布して樹脂組成物層を形成する工程Aと、前記樹脂組成物層に活性エネルギー線を照射する工程Bとを有することを特徴とする。本発明の粘着シートの製造方法によれば、上記本発明の粘着シートを容易に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のポリエステル系樹脂は、上述したようにプレポリマーAとマレイミド系化合物Bとを反応させて得られ、かつ活性エネルギー線により架橋され、硬化されるポリエステル系樹脂である。活性エネルギー線としては、遠紫外線、紫外線、近紫外線等の光線;X線、γ線等の電磁波;電子線;プロトン線;中性子線等が利用できるが、硬化速度、照射装置の入手のし易さ、コスト等から紫外線が好ましい。
【0019】
プレポリマーAは、植物由来のジオール、3官能以上の多価アルコール及び植物由来のジカルボン酸を縮合して得られたものである。これらのモノマーは、いずれも取り扱いが容易である上、低温での反応が起こりにくいため、作業者の安全を確保でき、かつポットライフの懸念を回避できる。
【0020】
植物由来のジオールとしては、ヒマシ油から誘導される脂肪酸エステルやオレイン酸などから得られるダイマージオールなどが挙げられる。市販品としては、クローダ社製のプリポール2033等が例示できる。植物由来のジカルボン酸としては、ヒマシ油由来のセバシン酸やオレイン酸などから得られるダイマー酸などが挙げられる。市販品としては、クローダ社製のプリポール1009等が例示できる。植物由来のモノマーでTgが低いポリエステル系樹脂を得るには、ダイマージオールやダイマー酸を用いることが好ましい。
【0021】
また、本発明では、ジカルボン酸と反応させる成分として、ジオールと共に3官能以上の多価アルコールを使用する。これにより、ポリエステル鎖に分岐をもたせることができると考えられる。ポリエステル鎖が分岐を有すると、架橋構造が形成され易くなり、その結果、弾性率が高くなり、保持性等の粘着特性が向上すると考えられる。
【0022】
本発明に用いる3官能以上の多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ポリグリセリン等が挙げられる。取り扱い性の観点、及び反応の制御を容易に行う観点から、4官能以下の多価アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、グリセリンがより好ましい。
【0023】
本発明でプレポリマーAを得る方法は特に限定されないが、触媒を用いて上記モノマー成分を縮合重合させる方法が例示できる。触媒としては、一般の縮合反応に用いられる触媒が使用でき、具体的には、テトラ−n−ブチルチタネート、チタンテトライソプロポキシド、三酸化アンチモン、ブチルスズオキシドなどの金属化合物が挙げられる。触媒の使用量は、敵宜選択できるが、反応の制御を容易に行う観点から、ジオール100モルに対し、0.1〜2モルが好ましく、より好ましくは0.4〜1.7モル、更に好ましくは0.7〜1.4モルである。なお、プレポリマーAを得る際の縮合重合反応では、溶剤を使用して重合しても良く、減圧下において無溶剤で重合しても良い。
【0024】
本発明では、プレポリマーAを調製する際、ジオール及び多価アルコールの水酸基と、ジカルボン酸のカルボキシル基とのモル比(水酸基のモル数/カルボキシル基のモル数)が、1.01〜1.70である。これにより、末端に水酸基を有するプレポリマーAを容易に調製することができる上、プレポリマーAの低分子量化を防ぐことができる。同様の観点から、上記モル比は、1.02〜1.70とするのが好ましく、1.03〜1.60とするのがより好ましい。
【0025】
また、本発明では、プレポリマーAを調製する際、ジオール100モルに対し、多価アルコールを4〜28モル添加する。ジオール100モルに対し、多価アルコールを4モル以上添加するため、プレポリマーA中の分岐点が増えることによって凝集力が高まり、粘着特性を向上させることができると考えられる。また、多価アルコールの添加量が、ジオール100モルに対して28モル以下であるため、プレポリマーAの調製時において、過剰な高分子量化やゲル化を防ぐことができる。これにより、材料の取り扱い性が向上する。同様の観点から、多価アルコールの添加量は、ジオール100モルに対して5〜25モルであることが好ましく、8〜25モルであることがより好ましく、8〜20モルであることが更に好ましい。
【0026】
本発明では、プレポリマーAの重量平均分子量(Mw)が3万〜13万であることが好ましく、6万〜10万であることがより好ましい。プレポリマーAのMwが3万以上であれば、架橋度が高くなることによって凝集力が高まるため、粘着特性を向上させることができる。また、プレポリマーAのMwが13万以下であれば、プレポリマーAのゲル化を防ぐことができる。これにより、材料の取り扱い性が向上する。
【0027】
本発明では、プレポリマーAの末端にマレイミド基を付加するため、光開始剤を使用することなく活性エネルギー線照射による架橋を行うことができる。これにより、架橋物(粘着シート等)の変色や、耐熱劣化などの課題を克服できる。また、活性エネルギー線照射により架橋を行うので、硬化処理後の熟成工程が不要となる。
【0028】
プレポリマーAの末端にマレイミド基を導入するために使用されるマレイミド系化合物Bとしては、N−フタロイルグリシン等のマレイミドカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
プレポリマーAとマレイミド系化合物Bとを反応させてポリエステル系樹脂を調製する方法は、特に限定されないが、例えばプレポリマーAとマレイミド系化合物Bを混合した後、温度180〜220℃で常圧下、1〜3時間攪拌した後、徐々に3〜5時間かけて0.1MPa以下まで減圧を行うことによって反応させる方法が例示できる。なお、得られるポリエステル系樹脂が高粘度で攪拌できない場合は、溶剤で希釈することによって低粘度化して攪拌する事もできる。その際は、溶剤の沸点以下で攪拌するのが望ましい。
【0030】
本発明のポリエステル系樹脂を調製する際は、プレポリマーAの調製に使用した多価アルコール1モルに対し、マレイミド系化合物Bを0.1〜12モル添加することが好ましく、0.5〜10モル添加することがより好ましく、1〜10モル添加することが更に好ましく、2〜9モル添加することが更により好ましい。多価アルコール1モルに対しマレイミド系化合物Bを0.1モル以上添加すると、架橋度が高くなることによって凝集力が高まるため、粘着特性を向上させることができる。また、マレイミド系化合物Bの添加量が、多価アルコール1モルに対して12モル以下であると、過剰な架橋反応を抑制して粘着剤として適したゲル分率が得られるため、良好な粘着特性を確保できる。
【0031】
本発明の粘着シートは、上述した本発明のポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物により形成された粘着層を有する粘着シートである。本発明の粘着シートにおいて、粘着層は、硬化されていても、硬化されていなくてもよい。なお、本発明における粘着シートとは、粘着フィルムや粘着テープ等を含むものである。
【0032】
上記粘着層を形成する樹脂組成物には、粘着層の特性を損なわない程度であれば、紫外線吸収剤、光安定剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料や染料などの着色剤、老化防止剤、界面活性剤などの一般的な添加剤を使用することができる。
【0033】
上記粘着層は、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃で周波数1Hzの条件下で測定したときの貯蔵弾性率が、1×10〜1×10Paであることが好ましく、より好ましくは1×10〜1×10Paである。貯蔵弾性率が1×10Pa以上であれば、粘着層の凝集力と保持力を向上させることができる。一方、1×10Pa以下であれば、粘着力の低下を抑制できる。
【0034】
上記粘着層の厚さとしては、適宜選択することができるが、例えば、5〜1000μm程度が好ましく、より好ましくは20〜500μmであり、更に好ましくは30〜100μmである。なお、粘着層としては、単層、積層体のいずれの形態であっても良い。
【0035】
本発明の粘着シートは、支持体の片面のみに粘着層を設けたものであってもよく、支持体の両面に粘着層を設けたものであってもよい。あるいは、支持体を有さない粘着シートであってもよい。支持体を有さない粘着シートの場合は、片面のみが粘着面であってもよく、両面が粘着面であってもよい。なお、本発明の粘着シートとしての特性を損なわない範囲であれば、中間層や下塗り層などを有していても問題ない。
【0036】
前記支持体としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。例えば、グラシン紙、クラフト紙、和紙、上質紙、合成紙等の紙;綿布やスフ布などの天然繊維、半合成繊維又は合成繊維の繊維状物質による布(織布);レーヨン、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維(ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維など)、アクリル系繊維、アセテート繊維、マニラ麻、綿などの天然繊維、半合成繊維、合成繊維などの繊維状物質による不織布;ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系フィルムやシートなどの多孔質プラスチック基材;低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン/αオレフィン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、エチレン/メチルメタクリレート共重合体、エチレン/n−ブチルアクリレート共重合体、ポリプロピレンなどのホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーなどのポリオレフィン樹脂などを使用することができる。なお、前記多孔質プラスチック基材や不織布等を使用する場合には、その片面に、プラスチックフィルムやシートなどの非多孔質基材を積層することができる。
【0037】
前記支持体には、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、充填剤、顔料や染料などの通常の粘着シート用基材(支持体)に用いられる各種添加剤を使用することができる。
【0038】
また、前記支持体には、コロナ放電処理やプラズマ処理などの物理的処理、下塗り処理や背面処理などの化学的処理などを適宜行うことができる。
【0039】
前記支持体(基材)の厚さとしては、その材質や形態などに応じて、適宜選択することができるが、例えば、1〜1000μm程度が好ましく、より好ましくは20〜500μm程度である。
【0040】
本発明の粘着シートの製造方法は、上記本発明のポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物を、支持体の少なくとも一方の面に塗布して樹脂組成物層を形成する工程Aと、前記樹脂組成物層に活性エネルギー線を照射する工程Bとを有する。
【0041】
前記工程Aは、例えば、前記樹脂組成物を含む溶液又は分散液を支持体(基材)に塗布する方法や、前記樹脂組成物を支持体(基材)上に押出し形成塗布する方法等が例示できる。上記支持体は、剥離処理面を有する剥離ライナー等であってもよい。なお、溶剤で希釈した樹脂組成物を用いる場合は、塗布後、乾燥して溶剤を除去した後、前記工程Bを行うことができる。
【0042】
前記樹脂組成物を塗布する方法としては、従来公知の塗工機を用いることができる。具体的には、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーターなどが挙げられる。
【0043】
前記剥離ライナーとしては、特に限定されず、従来公知のものを適宜使用することができる。例えば、基材(剥離ライナー用基材)の少なくとも片面に、剥離処理層を形成したものを用いることができる。なお、剥離ライナー用基材は、単層、積層体のいずれの形態も用いることができる。
【0044】
前記剥離ライナー用基材としては、プラスチックフィルム、紙、発泡体、金属箔等の各種薄葉体等を用いることができ、特に好ましくは、プラスチックフィルムである。また、プラスチックフィルムの原料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルや、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0045】
前記剥離ライナー用基材の厚さは、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0046】
前記剥離処理層としては、特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系などの適宜な剥離剤で処理された剥離処理層を使用することができる。
【0047】
前記工程Bにおいて、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、紫外線源としては、水銀アーク、炭素アーク、低圧水銀ランプ、中・高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ブラックライトなどの一般の紫外線照射装置が用いられる。紫外線の光量は、被照射体までの距離や電圧の調整及び照射時間(生産性)との兼ね合いで適宜設定できるが、粘着剤として適したゲル分率を得るには、200〜3000mJ/cmが好ましく、500〜2000mJ/cmがより好ましい。
【0048】
活性エネルギー線照射後のポリエステル系樹脂のゲル分率は、粘着特性の観点から、20〜90重量%であることが好ましく、30〜80重量%であることがより好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について比較例と併せて説明するが、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0050】
(実施例1)
〈プレポリマーの調製方法〉
三つロセパラブルフラスコに攪拌機、温度計を付し、これにダイマージオール(クローダ社製、プリポール2033、Mw:981)100g、ダイマー酸(クローダ社製、プリポール1009、Mw:1039)117.13g、多価アルコール成分としてトリメチロールプロパン(和光純薬工業社製、分子量:196)2g、触媒としてチタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業社製、分子量:205)0.1g(ダイマージオール100モルに対し0.5モル)を仕込み、減圧雰囲気(0.09MPa)で攪拌しながら250℃まで昇温し、この温度を保持した。そして、得られるプレポリマーの重量平均分子量(Mw)を、後述する重量平均分子量(Mw)の測定方法で確認し、当該Mwが10万となった時に反応を停止し、プレポリマーaを得た。なお、プリポール2033及びプリポール1009のMwは、後述する重量平均分子量(Mw)の測定方法で測定した。
【0051】
〈ポリエステル系樹脂の調製方法〉
三つロセパラブルフラスコに攪拌機、温度計を付し、上記で得られたプレポリマーaを加えた後、常圧下、180℃まで昇温した後、N−フタロイルグリシン(東京化成社製、分子量:205.2)4.18gを添加し、200℃に昇温し、窒素雰囲気下で2時間反応させた。その後、4時間かけて0.09MPaまで減圧して反応を終了し、実施例1のポリエステル系樹脂を得た。
【0052】
〈粘着シートの作製方法〉
上記で得られたポリエステル系樹脂を乾燥後の厚さが50μmになる様に、剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み25μm)の剥離処理面に塗布し、100℃で3分間乾燥した後、メタルハライドランプを用いて、照度150mW/cm、光量1000mJ/cmの条件で照射し、実施例1の粘着シートを得た。
【0053】
(実施例2)
ダイマー酸の添加量を81.21gとしたことと、Mwが6万となった時に反応を停止したこと以外は上記プレポリマーaと同様の方法で、プレポリマーbを得た。得られたプレポリマーbを用いて、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0054】
(実施例3)
ダイマー酸の添加量を101.51gとしたことと、Mwが8万となった時に反応を停止したこと以外は上記プレポリマーaと同様の方法で、プレポリマーcを得た。得られたプレポリマーcを用いて、実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0055】
(実施例4)
ダイマー酸の添加量を94.88gとし、トリメチロールプロパンの添加量を1gとしたことと、Mwが6万となった時に反応を停止したこと以外は上記プレポリマーaと同様の方法で、プレポリマーdを得た。得られたプレポリマーdを用いて、N−フタロイルグリシンの添加量を2.09gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0056】
(実施例5)
ダイマー酸の添加量を94.88gとし、トリメチロールプロパンの添加量を5gとしたことと、Mwが9万となった時に反応を停止したこと以外は上記プレポリマーaと同様の方法で、プレポリマーeを得た。得られたプレポリマーeを用いて、N−フタロイルグリシンの添加量を10.45gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0057】
(実施例6)
実施例3で調製したプレポリマーcを用いて、N−フタロイルグリシンの添加量を0.63gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0058】
(実施例7)
実施例3で調製したプレポリマーcを用いて、N−フタロイルグリシンの添加量を20.91gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0059】
(実施例8)
実施例3で調製したプレポリマーcを用いて、N−フタロイルグリシンの添加量を16.8gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0060】
(比較例1)
ダイマー酸の添加量を69.61gとしたことと、Mwが2万となった時に反応を停止したこと以外は上記プレポリマーaと同様の方法で、プレポリマーfを得た。得られたプレポリマーfを用いて、N−フタロイルグリシンの添加量を20.91gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0061】
(比較例2)
ダイマー酸の添加量を125.58gとしたことと、Mwが8万となった時に反応を停止したこと以外は上記プレポリマーaと同様の方法で、プレポリマーgを得た。得られたプレポリマーgを用いて、N−フタロイルグリシンの添加量を20.91gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0062】
(比較例3)
ダイマー酸の添加量を92.23gとし、トリメチロールプロパンの添加量を0.6gとしたことと、Mwが5万となった時に反応を停止したこと以外は上記プレポリマーaと同様の方法で、プレポリマーhを得た。得られたプレポリマーhを用いて、N−フタロイルグリシンの添加量を6.28gとしたこと以外は実施例1と同様の方法でポリエステル系樹脂及び粘着シートを得た。
【0063】
(比較例4)
ダイマー酸の添加量を127.98gとし、トリメチロールプロパンの添加量を6gとしたことと、Mwが15万となった時に反応を停止したこと以外は、上記プレポリマーaと同様の方法で、プレポリマーiを得た。しかし、このプレポリマーiは、重合中にゲル化したため、ポリエステル系樹脂及び粘着シートの作製ができなかった。
【0064】
各物性値の測定方法について、以下に示す。
【0065】
〈重量平均分子量(Mw)の測定方法〉
試料0.01gを秤量し、テトラヒドロフラン(THF)10gに添加した後、24時間放置して試料を溶解させた。この溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー社製、HLC−8220GPQ)にて以下の条件で測定し、Mwを求めた。
カラム:G6000H6
カラムサイズ:径7.5mm×長さ30.0cm
溶離液:THF
流量:0.300mL/分
検出器:RI
カラム温度:40℃
注入量:20μL
【0066】
〈ゲル分率の測定方法〉
各実施例及び比較例で得られた粘着シートを5×5cm角に切り出して、これを測定片とした。この測定片を、重さが判っているポリテトラフルオロエチレンシートで包み、測定片とポリテトラフルオロエチレンシートの合計重量Aを秤量した。次いで、ポリテトラフルオロエチレンシートに包まれた測定片をトルエン(温度23℃)中に7日間放置して、測定片中のゾル分を抽出した。その後、120℃で2時間乾燥し、乾燥後の測定片とポリテトラフルオロエチレンシートの合計重量Bを秤量し、下記の式にてゲル分率を算出した。
ゲル分率(重量%)=(合計重量B−ポリテトラフルオロエチレンシートの重量)/(合計重量A−ポリテトラフルオロエチレンシートの重量)×100
【0067】
〈接着力の測定方法〉
各実施例及び比較例で得られた粘着シートの粘着面(ポリエチレンテレフタレートフィルムが貼られていない面)を、コロナ処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み25μm)に貼付し、長さ80mm×幅20mmに切り出して、これを測定片とした。この測定片をステンレス鋼板に貼付し、測定片上で2kgのローラーを一往復させて圧着し、23℃の雰囲気下で圧着直後から30分放置した後に、引張圧縮試験機(ミネベア社製、TG−1kN)にて、180度ピール接着力(剥離速度:300mm/分、温度:23±2℃、相対湿度:65±5%)を測定した。
【0068】
〈保持性の評価方法〉
各実施例及び比較例で得られた粘着シートの粘着面とは反対側の面(ポリエチレンテレフタレートフィルム)に厚さ90μmのアルミテープを貼付し、10mm×100mmに切り出して、これを測定片とした。この測定片の一方の先端から20mmをベークライト板(125mm×25mm、厚み2mm)に貼付し、貼付箇所上で5kgのローラーを一往復させて圧着し、80℃の雰囲気下で圧着直後から30分放置した後に、他方の先端に0.5kgの分銅をかけ、80℃の雰囲気下で剪断方向へ荷重を加えた。荷重を加えた直後から1時間経過した後の測定片の移動距離(ズレ距離)を測定し、保持性を評価した。
【0069】
各実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。なお、表1の接着力の欄において、括弧内の数値は、凝集破壊を起こした時の数値である。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、本発明の実施例は、接着力及び保持性のいずれもが良好な値を示した。一方、比較例1〜3は、接着力の測定において、いずれも凝集破壊を起こした。また、比較例1〜3は、保持性の評価において、いずれも測定片が落下し、ズレ距離を測定できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系プレポリマーAと、カルボキシル基を有するマレイミド系化合物Bとの反応物である活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂であって、
前記ポリエステル系プレポリマーAが、植物由来のジオール、3官能以上の多価アルコール及び植物由来のジカルボン酸の縮合物であり、
前記ジオール及び前記多価アルコールの水酸基と、前記ジカルボン酸のカルボキシル基とのモル比(水酸基のモル数/カルボキシル基のモル数)が、1.01〜1.70であり、かつ前記多価アルコールのモル数が、前記ジオール100モルに対して4〜28モルであることを特徴とする活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂。
【請求項2】
前記マレイミド系化合物Bのモル数が、前記ポリエステル系プレポリマーAを形成する前記多価アルコール1モルに対して0.1〜12モルである請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂。
【請求項3】
前記ポリエステル系プレポリマーAの重量平均分子量が、3万〜13万である請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂。
【請求項4】
活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物により形成された粘着層を有する粘着シートであって、
前記活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂が、請求項1〜3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂であることを特徴とする粘着シート。
【請求項5】
活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物により形成された粘着層を有する粘着シートの製造方法であって、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物を、支持体の少なくとも一方の面に塗布して樹脂組成物層を形成する工程Aと、
前記樹脂組成物層に活性エネルギー線を照射する工程Bとを有することを特徴とする粘着シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−36276(P2012−36276A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176605(P2010−176605)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】