説明

活性ポリマーフィルム

1つまたは2つ以上の官能基を有する透過性ポリマーマトリックス、およびポリマーマトリックス内に埋め込まれた、抗微生物特性を提供するための銅または銀などの無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子を含む活性ポリマーフィルムが記載される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、活性ポリマーフィルムに関する。より具体的には、本発明は、無機物質(単数または複数)のナノ粒子が埋め込まれたポリマーマトリックスを含むフィルムに関する。
【0002】
参照による援用
本特許出願は、2008年12月17日に出願された豪州仮特許出願番号2008906500号、「活性ポリマーフィルム」、に基づく優先権を主張する。本願は、当該出願に記載された全ての内容を援用する。
本特許出願は、Griesser, HJ (1989), Small scale reactor for plasma processing of moving substrate web, Vacuum 39(5):485-488についても言及する。本願は、当該文献に記載された全ての内容を援用する。
【背景技術】
【0003】
微生物感染または汚染は、依然として、医療、食品プロセシング、製剤プロセシングおよび環境設定における病気および/または腐敗の大きな原因である。さらに、全ての外科的処置は創傷感染症のリスクを抱える一方で、インプラント手術中または手術後の医療用インプラントの表面上の微生物の付着、コロニー形成および/またはバイオフィルム形成は、感染症のリスクを著しく増加させる。さらに、微生物バイオフィルムは、例えば食品、製薬、化学産業におけるプロセシング機器の表面上、および灌漑機器、雨水もしくは排水パイプライン、冷却塔または船舶などの中の他の表面上に形成することが知られている。バイオフィルムは、しばしば、かかる機器への深刻な被害の原因となり、さらには、微生物バイオフィルムの堆積(build-up)は、パイプラインおよびプロセシング機器内の詰まりをもたらす可能性がある。
【0004】
微生物防除は、静菌または殺菌剤の使用によって成し遂げられる。静菌剤は、微生物のさらなる増殖を防ぎ、これは次いでバイオフィルム形成を防ぐことができ、または医療の場で投与される場合には、感染症が本格的な病気へ発展することを防ぐことができる。他方で、殺菌剤は、微生物を死滅させることにより作用する。ほとんどの殺菌剤は、微生物において広域性の効果を有さず、いくつかの例では、微生物の増殖を管理するために剤の組み合わせが必要となるだろう。しかしながら、ほとんどの広域性の殺菌剤は、高等生物の組織にも悪影響を及ぼす傾向があるため、医療用途での使用に不適である。さらに、通常は細菌のみに活性を有する抗生物質が、かかる悪影響を生じずに、ヒトおよび他の動物における微生物感染を、処置または予防する可能性を提供する一方で、残念ながら、広域な活性を示す抗生剤はほとんどない(つまり、それらの殺菌活性はしばしば、特定の細菌種または属に特異的である)。さらに述べると、数年にわたる抗生物質の広汎で頻繁な使用は、抗生物質耐性または多剤耐性菌株の進化を導いてきた(例:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、MRSA)。よって、特定の細菌感染においては、抗生物質が有効でないことがある。
【0005】
そこで、進行中の相当な研究努力が、医療用途のための新規な静菌または殺菌剤の開発に向けられている。この需要はまた、院内感染率を軽減することへの全世界的な需要、西欧社会における老齢人口、医療費を最小限にすることへの関心の高まり、および向上した医療処置を求める、ますます情報に通じた患者によっても悪化している。これに関し、手術中および手術後の細菌感染に対処するための有望なアプローチとして、医療用インプラントおよびプロステーシスのための抗微生物コーティングおよび表面の採用が増加してきた。そのために、ナノベースのコーティング技術などの、代替的な抗微生物技術の開発が活発になってきている。抗微生物コーティングおよび表面技術のための潜在的候補として検討されてきた医療機器には、創傷被覆材、カテーテルならびにステントおよびペースメーカーなどの医療用インプラントが含まれる。
【0006】
銀の抗微生物特性は、長年にわたって認識されている。銀のコスト、およびその投与が現代の抗生物質に比べて比較的困難であるが故に、銀には、最近まで、抗微生物剤としてほとんど関心が寄せられていなかった。すなわち、抗微生物剤としての銀の潜在的な使用について関心が復活してきたのは、ここ数年のことである。例えば、銀化合物およびコロイドは、熱傷創のための、急性および慢性創傷における、ならびに下腿潰瘍の処置におけるバンデージに組み込まれている。実際に、1%スルファジアジン銀を含有するSilvadene(登録商標)クリームとして知られる製品は、いまや、熱傷に関連する感染症の処置のための、最も広く用いられている抗微生物製品の1つである。加えて、最近のいくつかの研究では、マクロまたはナノ粒子状表面に結合した銀イオンの、微生物感染および医療用途における細菌の付着および/またはコロニー形成の発生率を軽減する能力が実証されている。これらには、例えば、熱傷治療法(Paddock et al, 2007; Caruso et al, 2004)、カテーテルインプランテーション(Rupp et al, 2004; Yobin and Bambauer, 2003)、プロステーシスインプランテーション(Hardman et al, 2004; Gosheger et al, 2004)、関節形成術(Alt et al, 2004)、義歯(O’Donnell et al, 2007; Ohashi et al, 2004)および他の医療用途が含まれる。銀を含む抗微生物コーティングおよび表面の潜在的な非医療用途には、例えば、水処理機器およびシステム(Chou et al, 2005; Martinez et al, 2004)ならびに織物(Paddock et al, 2007; Dubas et al, 2006; Lee et al, 2003)が含まれる。いくつかの文献レビューは、層ごとの堆積(Dubas et al, 2006; Li et al 2006)、ゾル・ゲル法(Marini et al, 2007; Mahltig et al, 2004)、電気化学(Voccia et al, 2006)、イオンビーム堆積(Song et al, 2005)、および化学気相蒸着(Martin et al, 2007)などの手段を利用する、銀ナノ粒子を含む抗微生物コーティングを創作することへの可能性を探求する。
【0007】
本明細書中では、無機物質(単数または複数)のナノ粒子がロードされたポリマーフィルムを形成するためのプラズマ重合法を記載する。
この方法で製造したフィルムは、あらゆる好適な基材(硬いまたは軟らかい表面を有するものを含む)のコーティングに好適であり得る。これらを、例えば、抗微生物活性をもたらすため、および/または望まない細菌の付着、コロニー形成および/またはバイオフィルム形成を防止するために、好適な基材の表面を機能化させることに、またはそうでなければ、光学または電子機器を所望の無機物質(単数または複数)でコートするために、表面をコートすることに用いてもよい。本明細書で記載する方法は、生理活性無機物質(単数または複数)(例:抗微生物剤)のための持続放出性コーティングをさらに提供し得、または単純に、無機物質(単数または複数)を表面に固定する手段を提供し得る。
【発明の概要】
【0008】
第一の側面において、本発明は、1つまたは2つ以上の官能基を有する透過性ポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックス内に埋め込まれた、無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子とを含むフィルムを提供する。
好ましくは、無機物質は銀である。
【0009】
第二の側面において、本発明は、好適な基材の表面上にフィルムを適用する方法を提供し、前記方法は、以下の工程:
(i)透過性ポリマーマトリックスを前記表面上に形成するために、1つまたは2つ以上の官能基を含むモノマー(単数または複数)をプラズマ重合により堆積および重合させる工程、
(ii)前記官能基に無機物質(単数または複数)を錯化する工程、および
(iii)前記無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子を形成するために前記無機物質(単数または複数)を還元する工程
を含み、ここで前記無機物質(単数または複数)の前記1個または2個以上ナノ粒子は、前記ポリマーマトリックス内に埋め込まれている。
【0010】
本方法は、多層フィルムの製造のために適応し得、ここで、(i)〜(iii)の工程によって製造されたフィルムは、1つまたは2つ以上の官能基を有する第一のポリマーマトリックスを有する第一のフィルム層、および前記第一のポリマーマトリックス内に埋め込まれた、無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子を構成し、前記方法は以下の工程:
(iv)第二のフィルム層を第一のフィルム層の表面に適用すること
をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、HA−銀プラズマポリマー(pp)フィルムの作製のための実験計画(experimental strategy)の概略図を提供する:(a)は、n−ヘプチルアミン(HA)のプラズマ堆積を図示し、(b)は、AgNO溶液への浸漬によってHAプラズマフィルムに銀イオンをロードする方法を図示し、および(c)は、銀ナノ粒子を形成するための、NaBHへの浸漬による銀イオンの還元を図示する。
【0012】
【図2】図2は、ガラス固体表面上に形成したHAフィルム内での銀ナノ粒子の形成を図示する:(a)(i)は、100nmのHAプラズマフィルムの堆積後のガラス固体表面の混濁(opacity)を示し、(a)(ii)は、HAプラズマフィルムに銀イオンをロードしたあとのガラス固体表面の混濁を示し、および(a)(iii)は、NaBHでの銀イオンの還元後のガラス固体表面の混濁を示し、(b)は、銀イオンでロードしたあと(下方の線)およびNaBHでの還元のあと(上方の線)の試料のUV可視スペクトルを示し、X軸に波長(nm)を示し、Y軸に吸光度を示す。
【0013】
【図3】図3は、銀ナノ粒子のローディング濃度への様々な調整を図示する:(a)は、厚さ100nmのHA−銀フィルムにおける還元時間30分での、AgNOへの浸漬時間の効果を示し、(b)は、厚さ100nmのHA−銀フィルムにおける1時間のAgNO浸漬時間での、還元時間の効果を示し、ならびに(c)は、1時間のAgNO浸漬時間および30分の還元時間での、HA−銀プラズマフィルムの厚さの効果を示す。X軸に時間(分または秒)を示し、Y軸に吸収極大の強度を示す。
【0014】
【図4】図4は、HAプラズマフィルムの追加層の堆積のあとの、HA−銀プラズマフィルムからの銀イオン放出速度の調整を図示する:(a)は、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)における21日間にわたる浸漬を経たフィルムからの銀イオン放出速度を示し、四角はHA−銀プラズマフィルムの放出速度を指し、丸はHA−銀プラズマフィルムの表面上の6nmのHAプラズマフィルムの追加堆積を指し、三角はHA−銀プラズマフィルムの表面上の12nmのHAプラズマフィルムの追加堆積を指し、ならびに(b)は、二層プラズマフィルムの調製に関わる方法を図示する。固体基材を下部に図示し、HA−銀層を中部に示し、追加のHA層を上部に示す。
【0015】
【図5】図5は、HAプラズマフィルムと比較した、HA−銀プラズマフィルムの細菌の増殖およびコロニー形成を示す:(a)は、HAプラズマフィルムにおける細菌の増殖を図示し、(b)は、HA−銀プラズマフィルムにおける細菌の増殖およびコロニー形成を図示し、ならびに(c)は、HAプラズマポリマーの6nmの第二層を含む二層プラズマフィルムにおける細菌の増殖およびコロニー形成を図示する。
【0016】
【図6】図6は、LB培地および100μlのEscherichia coli K12(MG1655)株で充填されたペトリ皿に設置したHA−銀プラズマフィルムの試料より生成された推定細菌阻害面積の棒グラフを提供する。
【0017】
【図7】図7は、銀イオンでロードしてNaBH中で還元した後の、アリルアミン(AA)プラズマポリマーフィルム試料のUV可視スペクトルを示し、X軸に波長(nm)を示し、Y軸に吸光度を示す。
【0018】
【図8】図8は、AAプラズマフィルムの追加層の堆積のあとの、AA−銀プラズマフィルムからの銀イオン放出速度の調節を図示し、具体的には、図はPBSにおける20日間にわたる浸漬を経たフィルムからの銀イオン放出速度を示し、四角はAA−銀プラズマフィルムの放出速度を示し、丸はAA−銀プラズマフィルムの表面への6nmAAプラズマフィルムの追加堆積の効果を示し、上向き三角はAA−銀プラズマフィルムの表面への12nmAAプラズマフィルムの追加堆積の効果を示し、下向き三角は、AA−銀プラズマフィルムの表面への18nmAAプラズマフィルムの追加堆積の効果を示す。
【0019】
【図9】図9は、PEGグラフト前後のガラス基材コーティングのUV可視スペクトルを提供する(コーティングは、PEGなしのHA−銀プラズマフィルム(つまり、HA+銀ナノ粒子(SNP))、およびPEGありのHA−銀プラズマフィルム(つまり、HA+SNP+PEG)である)。
【0020】
発明の詳細な説明
本出願人は、無機物質(単数または複数)のナノ粒子が埋め込まれたポリマーを含むフィルム、およびこれを生産する方法を同定し、開発した。これらのフィルムについてはいくつもの用途を見出すことができ、例としては、抗微生物コーティングまたは表面の作製におけるものがある。これらのフィルムの生産方法は、表面に活性ポリマーフィルムを適用するための、迅速、単純かつ簡便なプロセスを提供する。
【0021】
したがって、第一の側面において、本発明は、1つまたは2つ以上の官能基を有する透過性ポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックス内に埋め込まれた、無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子とを含むフィルムを提供する。
【0022】
本明細書で用いる用語「フィルム」には、物理的なあらゆる表面層が含まれ、これは、これが適用され得る基礎表面(underlying surface)(例:固体表面)へ、例えば、特定の特性を提供し得る。したがって、フィルムは不規則なまたは均一な厚さまたは組成であり得、基礎表面を部分的にまたは完全に囲い込みまたは覆い得る。
【0023】
第一の側面によるフィルムはポリマーマトリックスを含み、前記ポリマーマトリックスは、その内部にナノ粒子(単数または複数)が埋め込まれ、前記無機物質に対して透過性がある(例:無機物質は、ポリマーマトリックスの内外に拡散し得る)。
【0024】
ポリマーマトリックスは、非常に多数のポア、一般的にはナノポア(例:直径が約2nm〜約4μm、より好ましくは約5nm〜1μmのポア)を含む多孔性であってもよく、これらは孤立していても、連続していても、またはその組み合わせであってもよい。無機ナノ粒子は、ポリマーマトリックスのポア内に位置していてもよい。
【0025】
好ましくは、フィルムはプラズマポリマーマトリックスを含む。したがって、かかるポリマーマトリックスは、プラズマ重合プロセスにより形成されてもよく、ここで、少なくとも1つのモノマーは、ポリマーマトリックスを形成するように重合されている。より好ましくは、フィルムは、多孔性プラズマポリマーマトリックスを含む。
【0026】
プラズマポリマーマトリックスを含むコーティングが、しばしば「剛性」となることがあり、これが収縮および圧潰によるコーティング不全をもたらし得ることは、当業者に広く認識されている。かかるコーティングの剛性は、プラズマ重合プロセス中の構成モノマーの架橋によって生じると考えられている。したがって、第一の側面のフィルムは、好ましくは、薄くて柔軟なポリマーマトリックスを含む薄膜である。医療用途において特に重要である、不全になりにくい潜在力とはまた別に、かかる薄膜は、コンタクトレンズの表面コーティングなどの「軟らかい」適用によく適し得る。第一の側面のフィルムはまた、機械的柔軟性を提供するために、低い架橋密度のプラズマポリマーマトリックスを含み得る。
【0027】
薄膜は、プレーティング(plating)、化学溶液堆積(CSD)および化学気相蒸着(CVD)などの化学堆積方法、物理気相蒸着(PVD)、熱蒸発法、電子ビーム蒸着、スパッタリング、パルスレーザー蒸着および陰極アーク蒸着(Arc−PVD)などの物理堆積方法、ならびに反応性スパッタリング、分子ビームエピタキシーおよびトポタキシーなどのほかの方法を含むが、これらに限定されない、任意の、当業者に公知の薄膜の堆積方法から形成され得る。薄膜は、好ましくは約4μm未満、より好ましくは約5nm〜約4μm、さらにより好ましくは約5nm〜500nm、なおもさらにより好ましくは約5nm〜150nm、最も好ましくは約5nm〜約25nmの厚さである。
【0028】
本明細書で用いる用語「官能基」には、ポリマーマトリックス(またはポリマーマトリックスを構成するモノマー)の原子または特定の原子団を含み、これと任意の無機物質(単数または複数)が、例えば共有、イオンまたは配位子結合により(例:錯体を形成するために)化学的に結合してもよい。
【0029】
本明細書で用いる用語「ナノ粒子」は、様々なサイズの粒子を含み得、一般的に、1〜250nmの範囲、より好ましくは5〜50nmの範囲、および最も好ましくは10〜25nmの範囲の平均(mean)もしくは平均(average)直径または主要断面寸法(major cross-sectional dimension)のを示し得る「ナノ」サイズの粒子として理解される。
【0030】
本明細書で用いる用語「無機物質」には、実質的に純粋な形態の非炭素元素(例:銅、銀またはセレニウム)および主に炭素以外の元素から形成される任意の無機化合物が含まれる。炭素を含有する化合物のあるもの、例えば、炭酸塩、単純な炭素の酸化物類およびシアン化物類ならびに炭素の同素体などは無機化合物と認識されているが、本願明細書の目的においては、炭素骨格を含む化合物および有機金属化合物を無機化合物とみなさない。
【0031】
第一の側面のフィルムを、任意の好適な基材、好ましくは固体基材の表面上のコーティングとして用いてもよい。好ましくは、フィルムの適用のために、表面の事前改質を行わない。
【0032】
好適な「硬質」基材には、金属、セラミックス、合成ポリマー、バイオポリマー、ならびにステンレス鋼、チタン、ポリプロピレンチタン、ヒドロキシアパタイト、ポリエチレン、ポリウレタン、オルガノシロキサンポリマーおよびペルフルオロポリマーを含む医療用途においてしばしば遭遇する種類の材料を含む。好適な「軟質」基材には、アクリルヒドロゲルポリマーおよびシロキサンヒドロゲルポリマー、繊維質の(fibrous)バンデージおよび包帯材料、ならびに、ヒドロゲルまたは泡包帯(foam dressings)などの合成包帯が含まれる。
【0033】
加えて、第一の側面のフィルムは、プラスチック(例:ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルクロリド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリビニリデンクロリドおよびポリエチレン等)、金属および金属合金(例:ステンレス鋼、鋼、鉄およびスズ等)などの製造および梱包材料として用いるコーティング材料として好適であり得ると考えられる。さらに、シリコン、無水ケイ酸、アルミニウム、銅などの光学または電子デバイスに用いる材料を、第一の側面によるフィルムでコーティングしてもよい。
【0034】
第一の側面のフィルムは、好ましくは、1つまたは2つ以上の官能基を含むモノマー(単数または複数)から形成されるポリマーマトリックスを含み、前記官能基は前記無機物質(単数または複数)の酸化形態と錯体を形成し得る。よって、好ましいモノマーは、ヒドロキシル基、カルボニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、ヒドロペルオキシ基、カルボキサミド基、アミン基、イミン基、イミド基、アジド基、シアン酸基および硝酸基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む。しかしながら、最も好ましいものは、少なくとも1つのアミン基を含むモノマーである。例えば、モノマーは、例えばアリルアミン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ジメチルアミノシラン、ピリジン、およびヘプチルアミンを含む揮発性アミンからなる群から選択される。本発明の一部の態様において、モノマー(単数または複数)を、重合して生体適合性ポリマーを形成し得るものから選択してもよい。さらに、一部の態様において、モノマー(単数または複数)を、重合後に官能化することができるもの、または、さもなくば、生成されるポリマーマトリックスを官能化するために共重合できるものから、選択してもよい。
【0035】
最も好ましくは、第一の側面のフィルムは、アリルアミン、ヘプチルアミンおよび他の揮発性アルキルアミンからなる群から選択されるモノマー(単数または複数)を含む。
【0036】
1つの特に好ましい態様において、フィルムは、n−ヘプチルアミン(HA)、アリルアミン(AA)またはそれらの組み合わせから形成されたポリマーマトリックスを含む。以下の例で説明するように、n−ヘプチルアミンおよびアリルアミンは、アミン官能基リッチな薄膜の作製に特に有用であることが明らかとなった。さらに、n−ヘプチルアミンは、揮発性および毒性が、当業者に公知の他のアミンリッチなモノマーより低いことが知られており、このため、これから形成されるポリマーマトリックスを含むフィルムは、医療用途ならびに食品および/または製剤プロセシング用途に特に好適であり得る。さらに、以下の例に示す、n−ヘプチルアミンおよびアリルアミンの物理化学的特性は、所望であれば、それらに埋め込まれた無機物質(単数または複数)のナノ粒子の濃度および放出を変更する(modifying)ために適し得る。
【0037】
第一の側面のフィルムを、好適な、好ましくは、固体の基材を前記無機物質(単数または複数)で官能化するのに用いてもよい。かかる官能化基材は、例えば医療用インプラントのコーティングなどの医療用途、一般に、微生物の付着、コロニー形成および/またはバイオフィルム形成の防止のためのコーティング材、光学機器における反射または抗反射コーティングを生成するため、ならびに、例えば、絶縁体層、集積回路の導体、マイクロプロセッサーおよび半導体を形成するための電子機器コーティング表面におけるものなど、多くの用途を見出し得る。したがって、該フィルムを、三酸化ヒ素(例:ヒ化物半導体のコーティングのためまたは急性骨髄性白血病の処置において)、ホウ酸(例:殺菌性または殺虫性表面のため)、硫酸マグネシウムまたは酸化マグネシウム(例:様々な医療用途のため)、二酸化ケイ素(例:マイクロエレクトロニクスにおける電気絶縁体としての使用のため)、酸化亜鉛(例:化学センサーおよびバイオセンサーにおける、半導体におけるまたは医療用栄養補助剤としての使用のため)、セレン酸(例:栄養補助剤としての使用のため)などの無機化合物で、好適な基材を官能化するのに用いることができる。代替的に、フィルムを、抗微生物表面またはコーティングを形成するための(例:置換関節、尿カテーテル、経皮アクセスカテーテル、ステント、および他のプロステーシスなどの移植可能な(implantable)および非移植可能な(non-implantable)デバイス、ならびにバンデージ、創傷被覆材、コンタクトレンズおよびマスクならびに医用空気および酸素を呼吸させるための装置などの非移植可能なデバイスを含む医療デバイスのため)または、半導体およびマイクロプロセッサーのコーティングにおける金属(例:銅、銀、金、マグネシウムおよび亜鉛、または金属合金)例えば、太陽電池のコーティングのための、または栄養補助剤としての用途のためのセレニウム、および非金属(例:歯科用プロステーシスをコーティングするためのフッ化物)金属などの非炭素元素で、好適な基材を官能化するのに用いることができる。
【0038】
フィルムが元素金属のナノ粒子を含む場合、好ましくは該金属を、銅または銀(広く認識されている抗微生物剤であり、高等生物への投与後に十分に耐容され得る金属)またはそれらの混合物から選択する。かかるフィルムを、好ましくは、ポリマーマトリックスにおける金属イオンと錯体を形成することができる官能基で、特定の金属の酸化(つまり、イオン性)形態を錯化することで形成する。その後、前記錯体を還元して、ポリマーマトリックス内に埋め込まれたナノ粒子を形成する。最も好ましくは、かかるフィルムを、アミン金属イオン錯体の形成の後に、n−ヘプチルアミンおよび/またはアリルアミンのプラズマ重合により形成する。
【0039】
本発明による抗微生物フィルム(例:銅、銀、セレニウム、またはこれらの混合物のナノ粒子を含むもの)は、上述したものなどの様々な医療用途において好適であり得る。かかる抗微生物フィルムは、ナノ粒子を構成する抗微生物剤に対して透過性があるポリマーマトリックスを含む。つまり、抗微生物剤は、時間とともに溶解(例:フィルムへ浸透した液体へ)またはナノ粒子から解離し、その後、該剤がその抗微生物活性を発揮し得る表面および/または周囲に向かって、フィルム外へ浸透し得る。したがって、抗微生物フィルムが、例えば銅または銀のナノ粒子を含む場合、ポリマーマトリックスは好ましくは、金属イオン(例:CuおよびAg)に対し透過性がある。
【0040】
本発明による抗微生物フィルム(例:銅、銀、セレニウムまたはこれらの混合物のナノ粒子を含むもの)は、微生物の付着コロニー形成および/またはバイオフィルム形成の阻害が望まれる非医療用途に好適であり得る。例えば、水性流としばしば接触する工業用表面は、特にバイオフィルムが形成されやすいため、本明細書記載の抗微生物フィルムは、かかる表面への適用に好適であり得る。好適な非医療用途の具体的な例には、水処理設備のコーティング、冷却塔部材のコーティング、特に、食品および医薬品製造プロセスにおけるプロセシング設備のコーティング、ならびに食品および医薬品用包装のコーティングが含まれる。さらに、本発明による抗微生物フィルムを、好適な、好ましくは固体の基材に耐食バリヤを提供するのに使用してもよい(つまり、フィルムは抗腐食コーティングを提供し得る)。
【0041】
さらには、元素金属、特に銅、銀および金(これらは、その電気伝導性がよく知られている)のナノ粒子を含む場合、フィルムは半導体またはマイクロプロセッサーをコーティングするために好適であり得る。
【0042】
一部の態様において、第一の側面のフィルムは、多層フィルム(つまり、2層または3層以上のフィルム層を含むもの)であってもよい。したがって、フィルムは、第一のおよび第二のポリマーフィルム層を含んでよく、前記第一のフィルム層は1つまたは2つ以上の官能基を備えるポリマーマトリックス(好ましくは多孔性)を含み、前記ポリマーマトリックス内には無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子が埋め込まれ、ここで前記第二のフィルム層は、例えば、フィルムに追加の機能的特性を提供し、および/または、第一のフィルム層の特性を変更してもよく(例:抗微生物剤または他の無機物質(単数または複数)を持続的に放出できる多層フィルムを提供するため、第一のフィルム層からの抗微生物剤の透過率を変更するため)、あるいは代替的に、無機物質(単数または複数)を効果的に「捕獲する」ために、第二のフィルム層が、第一のフィルム層に埋め込まれた無機物質(単数または複数)に対して基本的に不透過性であるようにしてもよい。第二のフィルム層は、生物学的接着に対する耐性を与えるために、タンパク質またはペプチド(宿主細胞の付着および/または増殖に有益な増殖因子を含む)などの有用なリガンド、あるいはポリエーテル(例:ポリエチレングリコール)などの他の化学化合物をまた含んでもよい。
【0043】
したがって、一部の態様において第一の側面のフィルムは、第一のおよび第二のポリマーフィルム層を含み、ここで前記第一のフィルム層は、1つまたは2つ以上の官能基を有する第一のポリマーマトリックス(好ましくは多孔性)、前記第一のポリマーマトリックス内に埋め込まれた、第一の無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子を含み、ここで前記第二のフィルム層は、1つまたは2つ以上の官能基(例:金属イオン錯化官能基)を有する第二のポリマーマトリックス(好ましくは多孔性)、および前記第二のポリマーマトリックス内に埋め込まれた、第二の無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子を含む(ここで、第一のおよび第二の無機物質(単数または複数)は、同一であっても異なっていてもよい)。一方、他の態様において、第一の側面のフィルムは、第一のおよび第二のポリマーフィルム層を含み、ここで前記第一のフィルム層は、1つまたは2つ以上の官能基を有する第一のポリマーマトリックス(好ましくは多孔性)、前記第一のポリマーマトリックス内に埋め込まれた、無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子を含み、ここで前記第二のフィルム層は、前記無機物質(単数または複数)の透過を制御する第二のポリマーマトリックスを含む(例:第二のポリマーマトリックスは、前記無機物質(単数または複数)に対する透過性が不十分であり得、または前記無機物質(単数または複数)に対して本質的に不透過性である)。
【0044】
さらに、例えば細胞付着または細胞付着への耐性などの特定のバイオ界面効果を発揮させるために、タンパク質またはペプチドなどの有用なリガンド、またはポリエーテルなどの他の化学化合物を含み得る、少なくとも第三のフィルム層を追加してもよい。
【0045】
任意の第二または第三などのフィルム層の厚さは、好ましくは約100nm未満、最も好ましくは約1nm〜約50nm、より好ましくは約5〜約25nmである。
【0046】
さらに、一部の態様において、第一の側面のフィルムを酸化剤にさらすことによって(例:フィルムを生物学的液体、または冷却塔用水、汚水または環境用水などの他の水性物質にさらすことによって)、ポリマーマトリックス内に埋め込まれたナノ粒子から無機物質を放出(すなわち、透過を介して)するよう、該フィルムを「誘発」することができる。
【0047】
第二の側面において、本発明は、好適な基材の表面上にフィルムを適用する方法を提供し、前記方法は、以下の工程:
(i)透過性ポリマーマトリックスを前記表面上に形成するために、1つまたは2つ以上の官能基を含むモノマー(単数または複数)をプラズマ重合により堆積および重合させる工程
(ii)前記官能基に無機物質(単数または複数)を錯化する工程、および
(iii)前記無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子を形成するために前記無機物質(単数または複数)を還元する工程:
を含み、ここで前記無機物質(単数または複数)の前記1個または2個以上のナノ粒子は、前記ポリマーマトリックス内に埋め込まれる。
好ましくは、ポリマーマトリックスは多孔性ポリマーマトリックスである。
【0048】
プラズマ重合は、上述した硬質基材および軟質基材などの任意の好適な基材の表面上にモノマー(単数または複数)を堆積および重合させる(つまり、ポリマーマトリックスを生産するために)のに好適であり得る。さらに、プラズマ重合プロセスは、表面の特性を好適に変更し得る適切なモノマーの選択を(例:親水性質または疎水性質を提供することにより)可能とする。さらに、プラズマ重合プロセスを、所望の架橋密度を有するポリマーマトリックスをもたらすように操作することができ、これは、所望の場合には、埋め込まれたナノ粒子(単数または複数)からの無機物質(単数または複数)の任意の外方拡散速度の調整を可能とし得る。
【0049】
モノマーを重合する工程を、多孔性プラズマポリマーマトリックスが形成されるように、好ましくは高周波グロー放電プラズマ重合などのプラズマ重合プロセスによって実施する。好ましいモノマーは、本発明の第一の側面との関係において述べたものである。最も好ましくは、モノマーはn−ヘプチルアミン、アリルアミンまたはそれらの組み合わせであり、重合は、アミン官能基リッチなポリマーマトリックスの形成をもたらす。
【0050】
無機物質(単数または複数)を官能基に錯化する工程には、当業者に公知の任意の方法が含まれてもよい。しかしながら、好ましくは、無機物質(単数または複数)を官能基に錯化する工程は、工程(i)で形成されたポリマーマトリックスを、前記無機物質(単数または複数)を含む溶液に浸すことを含む。例えば、銀イオンをアミン官能基リッチなポリマーマトリックスに錯化するために、ポリマーマトリックスをAgNO溶液に浸してもよい(例:0.02M、1時間)。
【0051】
無機物質(単数または複数)を還元する工程は、当業者に公知の任意の方法を用いて実施してもよい。しかしながら、好ましくは、無機物質(単数または複数)を還元する工程には、官能基に錯化した無機物質(単数または複数)を含むポリマーマトリックスを、還元剤に浸すことが含まれる。例えば、銀ナノ粒子を形成すべく銀イオンとアミン官能基との錯体を還元するために、ポリマーマトリックスをNaBH溶液に浸してもよい(例:0.01M、30分間)。
【0052】
第二の側面の方法の工程(i)、(ii)および(iii)(つまり、堆積および重合させる、錯化するおよび/または還元する工程)のうちの1つまたは2つ以上を、ポリマーマトリックス内に埋め込まれた無機物質(単数または複数)のナノ粒子の量を制御するように実施してもよい。例えば、ナノ粒子の量を制御すべく、ポリマーの厚さを変化させて(例:高周波グロー放電(rfgd)プラズマ堆積および重合の時間を制御しながら)工程(i)を実施してもよく、ナノ粒子の量を制御すべく、ポリマーマトリックスの無機物質(単数または複数)への浸漬時間を変化させて工程(ii)を実施してもよく、ナノ粒子の量を制御すべく、ポリマーマトリックスの還元剤への浸漬時間を変化させて工程(iii)を実施してもよい。
【0053】
好ましくは、第二の側面の方法には、基材表面のいかなる事前改質も含まれない。
第二の側面の方法は、好適な基材の表面上へのフィルムの適用をもたらし、ここで無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子がフィルムのポリマーマトリックス内に埋め込まれる。ナノ粒子は、フィルムに、反射性などの所望の特性を与えてもよく、または抗微生物である銀イオンなどの無機物質(単数または複数)の持続放出を提供してもよい。本方法を、フィルムの表面特性の変更をもたらすように、さもなくば、さらなる部分(例:他の化学的反応性官能基または表面へのさらなるフィルム層もしくはコーティング)を付着させるために用いてもよい。
【0054】
第二の側面の方法を多層フィルムの製造のために適応させてもよく、ここで、(i)〜(iii)の工程によって製造されたフィルムは、1つまたは2つ以上の官能基を有する第一のポリマーマトリックス(好ましくは多孔性)を有する第一のフィルム層、および前記第一のポリマーマトリックス内に埋め込まれる、無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子を構成し、前記方法は以下の工程:
(iv)多層フィルムを製造せしめるために、第二のフィルム層を第一のフィルム層の表面に適用する工程
をさらに含む。
【0055】
第二のフィルム層は、追加の機能的特性を提供してもよく、および/または第一の側面との関係において上述するように、第一のフィルム層の特性を変更してもよい。
【0056】
さらに、本方法は、以下の工程:
(v)第二のフィルム層の表面に第三のフィルム層を適用する工程
をさらに含んでもよい。
【0057】
多層フィルムの製造のための適切なプラズマ重合条件は(例:例えば、第二のフィルム層の厚さ、または所望の場合には、第一のポリマーマトリックスのナノ粒子からの無機物質(単数または複数)の任意の外方拡散速度を制御するために)、具体的な多層フィルムおよび意図する用途の要件に適合するように選択してもよい。
以下、本発明を、以下の非限定的な例および添付の図によってさらに説明する。
【0058】

N−ヘプチルアミン(HA)およびアリルアミン(AA)を、アミン基で官能化されたプラズマフィルムを提供するために、プラズマ堆積のための選択材料として選択した。n−ヘプチルアミンおよびアリルアミンを例全般にわたって用いたが、本明細書に記載の方法は、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ジメチルアミノシラン、ピリジン、酸化エチレン、アリルアルコール、エチレングリコール、モノメチルエーテル、アクリル酸、N−ビニルピロリドン、アセチレンまたはエチレンなどの他の官能化モノマー、あるいは内方拡散する無機材料を錯化することができる他の基を提供する官能化モノマー(ヒドロキシル類、カルボニル類、アルデヒド類、ケトン類、炭酸塩類、カルボン酸塩類、カルボキシル類、エーテル類、エステル類、ヒドロペルオキシ類、ペルオキシ類、カルボキサミド類、アミン類、イミン類、イミド類、アジド類、アゾ類、シアン酸塩類、イソシアン化物類、イソシアン酸塩類、硝酸類、ニトリル類、ニトロソオキシ類、ニトロ類、ニトロソ類、ピリジル類、ホスフィノ類、ホスホ類、ホスホノ類、スルホニル類、スルホ類、スルフィニル類、スルフヒドリル類、チオシアン酸類またはジスルフィド類など)も同等に用いることができることが理解されるべきである。具体的には、n−ヘプチルアミンまたはアリルアミン(Vasilev et al, 2009)を、ジアミノシクロヘキサン(DACH)(Lassen and Malmsten, 1997)、1,3−ジアミノプロパン(Gengenbach et al, 1999)、エチレンジアミン(Gengenbach et al, 1996)、ブチルアミン(Gancarz et al, 2003)、プロパルギルアミンおよびプロピルアミン(Fally et al, 1995)、アセトニトリル(Hiratsuka et al, 2000)およびアクリロニトリル(Inagaki et al, 1992)によって置き換えてもよい。
【0059】
例1 銀ナノ粒子が埋め込まれた抗菌HAプラズマポリマー薄膜
材料および方法
材料
製造元(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, United States of America)によって供給されたHA、硝酸銀、水素化ホウ素ナトリウム、およびガラス基材を用いた。細菌抑制実験を、製造元の説明書に従い、0.25%グルコースとともに調製したトリプトンソイブロス(TSB)において37℃で一晩培養して調製したStaphylococcus epidermidis株ATCC35984を用いて実施した。生細菌および/またはコロニーならびに/あるいは死細菌および/またはコロニーを、細菌抑制実験の後に、BacLight(商標)細菌生存率キット(Invitrogen Corporation, Canada)を用いて観察し、蛍光顕微鏡(Olympus BX 40、エキサイタフィルターBP460-490、ダイクロイックビームスプリッターDM505、バリヤフィルターBA515-IF付)によって対物倍率40倍で可視化した。全ての洗浄手順を、超純水(18.2オームの抵抗率)を用いて実施した。
【0060】
プラズマ重合方法
プラズマ重合を、参照により本明細書に援用されるGriesser、HJ(1989)に記述されたカスタムメイドリアクターで行った。簡単に言えば、リアクターチャンバは、パイレックス(登録商標)シリンダーおよび2つのPVCエンドプレートを含む。それぞれのエンドプレートにおける円形の溝は、ガラスシリンダーの研磨された端に面しているo−リングのシールを有する。上蓋は、駆動モータおよびギアを支持し、底のプレートは、リアクター内にあるすべての付属品を支持する。該付属品は、テフロン(登録商標)またはパースペックスから機械加工された固体のブロックを含む。中央の平面にある2つのブロックは、寸法18ミリメートル×90ミリメートルであり、16ミリメートル間隔である銅電極を有する。ガスの入口および出口ポートならびに電気的フィードスルーを、o−リングによって塞ぐ。分解のために、トップエンドプレートおよびガラスシリンダーを外してもよい。rf電源を、ブロックに埋め込まれた真鍮製の導体を介して供給し、プッシュインフィッティング(push-in fitting)によるフィードスルーに接続する。リアクターを除いて、rf発生器およびガラスの真空ラインは標準的な設計によるものであり、コールドトラップを含むものは標準の市販品であった。
【0061】
13.56MHzのプラズマ発生器を、0.2Torrの圧力で実施されたすべてのケースにおいて、堆積のために用いた。所望のフィルムの厚さを得るために、これまでの研究から1秒間のプラズマ持続時間に1nmとなることが知られている一定の出力での堆積速度を考慮して、堆積時間を調整した。ガラス基材を、まずピラニア溶液で清浄し、水で何度も洗浄し、乾燥させた。プラズマ堆積の前に、基材を40Wの電力を使用して40秒間酸素プラズマでクリーニングした。
【0062】
銀のローディング方法
プラズマポリマーフィルムを、0.02M AgNOの溶液に、標準ローディング時間である1時間、またはローディング時間実験では0〜120分間浸漬することによって、銀のローディングを行った。
【0063】
銀の還元方法
銀がロードされたプラズマポリマーフィルムを、NaBHの0.01M溶液の溶液へ、標準還元時間である30分間、または還元時間実験では0〜60分間浸漬することによって、銀の還元を行った。
【0064】
UV−visスペクトロスコピー
Carry 5 UV−visスペクトロメータ(Varian Australia Pty Ltd, Melbourne, Australia)を用いてUV可視スペクトルを観察し、記録した。
【0065】
細菌抑制実験
細菌抑制実験に先立って、細菌ストック培養物を、生細菌の定量化のために、BacLight(商標)細菌生存率アッセイを用いて定量した。各試験抗菌スライドを、それぞれ12マイクロウェルプレート(使い捨て細胞培養、Nunclon(商標)表面、Denmark)のウェル内に配置し、そこに不動化した。スライドを、ブロス培養物からの10CFU/ml(約200ml)のStaphylococcus epidermidis株ATCC35984で接種した。プレートを、細菌コロニーを形成できるように、37℃で4時間インキュベートした。スライドを12ウェルプレートから取り出し、2mlのPBS(8g/L NaCl、0.2g/L KCl、1.44g/L NaHPOおよび0.24g KHPO、HClでpHを7.4に調整)で2回洗浄した。生理食塩水溶液(0.9% w/v NaCl溶液)中の10%のホルムアルデヒドを含む固定試薬200mlを各スライド上に滴下し、細菌コロニーを10分間スライド表面に固定した。固定試薬を除去し、BacLight(商標)染色試薬200mlを、暗室内で各スライド上に滴下し、15分間で約10ストローク/分で穏やかに振盪した。染色したスライドを、生理食塩水溶液ですすぎ、スライドガラスの表面に配置し、油を載せてカバーガラスで覆うことによりスライドの表面を濡らして、可視化のために準備した。スライドを、蛍光顕微鏡(Olympus BX 40)により可視化した。
【0066】
結果および考察
銀ナノ粒子をロードしたHAプラズマフィルムの作製
図1(a)に示すように、HAを、アミン官能基リッチなプラズマポリマー薄膜を生成する前駆体として用いた。HAをまず、カスタムメイドリアクター(上記)を用いて清潔なガラス表面上に堆積させた。プラズマポリマー薄膜の原子間力画像は、ナノ多孔性構造(Vasilev et al, 2008)を含むように適切に調製されたフィルムを示した。
【0067】
HAのアミン基と溶液中の銀イオン(Ag)を錯化すべく、銀イオンを、図1(b)に示すように、AgNOの溶液にフィルムを1時間漬けることによってフィルム中に埋め込んだ。理論に束縛されることを望まないが、錯体は次の反応に従って形成されることが信じられている:
Ag+2RNH→[Ag(RNH
【0068】
図1(c)に図示するように、銀イオンを、NaBH溶液でのプラズマ薄膜の浸漬により、銀ナノ粒子に還元した。本プロセスは、内部に埋め込まれた銀ナノ粒子を含む薄膜ポリマーの表面コーティングを生成する。
【0069】
図2(a)は、フィルムプロセス中の、ガラス基材の光学特性を図示する。100nmのHAプラズマフィルムの堆積の後でも、ガラス基材は、まだなお透過性であり、当初の光学特性を維持する。再度のAgNOでの浸漬(すなわち、フィルム中への銀イオンのローディング)のあとでは、ガラス基材の光学特性に目に見える変化は認められなかった。しかしながら、NaBHでの基材の浸漬による銀イオンから銀ナノ粒子への還元のあと、ガラス基材の色は黄褐色に変化した。表面の光学性質の変化は、フィルム内に埋め込まれた銀ナノ粒子の存在を示している。
【0070】
図2(b)は、UVから可視スペクトルまでの波長の吸光度スペクトルにわたり、銀イオン単独をロードしたガラス基材の吸光度スペクトルを、銀ナノ粒子に還元された銀イオンと対比させて示す。還元のあとにのみ現れる、約420nmの波長における吸光度のよく目立つピークは、フィルム内に埋め込まれた銀ナノ粒子のプラスモン共鳴波長を示す。
【0071】
ナノ粒子のローディング濃度の調整
いくつかの研究が、フィルム内に埋め込まれた銀ナノ粒子の濃度を制御する最も効果的な方法を決定するために行われ、様々な抗微生物用量を提供する抗微生物プラズマフィルムを作製できることを実証した。一連の研究は当初、フィルム内に埋め込まれた銀ナノ粒子の濃度における、プラズマ堆積条件または抗微生物のローディング条件を変更した場合の効果を理解するために実施された。約410〜420nmの波長でのプラスモン共鳴の強度を、以下の調節を経た40Wの堆積力で形成されたHAプラズマフィルムにおいて測定した:
(A)Agのローディング時間、
(b)還元時間、および
(c)フィルムの厚さ。
【0072】
(a)Agのローディング時間
HAプラズマフィルム内の銀ナノ粒子の最終濃度におけるAgNOでの浸漬時間の効果を、フィルムの吸収極大の強度に基づいて決定した。すべての条件を、AgNO溶液での浸漬の長さを除いて一定に維持した。図3(a)に示すように、吸収強度は、最初の0〜40分で観測された吸収の最大の増加を伴って、120分のAgNOでの浸漬期間を通じて増加し続けた。浸漬の60分後、吸収は増加し続けたが、非常に遅い速度であった。
【0073】
これらの結果は、AgNO溶液でのHAプラズマフィルムの浸漬時間の増加は、銀イオンのHAアミン官能基への利用能を向上させることを実証し、これは次いで、銀イオンの還元に続いて形成された銀ナノ粒子の濃度の増加につながる。
【0074】
(b)還元時間
HAプラズマポリマー内に形成された銀ナノ粒子の最終濃度における還元時間の効果を、上記のように、フィルムの吸収極大で観測された変化から評価した。再度、プラズマ重合条件を、NaBHでの還元時間によらず一定に維持し、60分間にわたり一定の間隔でモニターした。図3(a)に示すように、最初の10分以内に、銀ナノ粒子の形成が急速に進み、銀ナノ粒子の総濃度が、30分後にはほぼ倍増した。ナノ粒子形成の増加が観察され続けたものの、30分〜60分での還元速度は遅くなった。
【0075】
加えて、NaBHでのフィルムの浸漬に続く吸収極大の波長の変化が、より長い期間(すなわち30分を超えて)観察されたので、約424nmのより長い波長へのわずかなシフトが観察された。より長い還元時間に典型的であることが分かっていたプラスモン共鳴ピークのシフトは、既存のナノ粒子の継続的な成長のためのHAプラズマポリマーフィルム内に埋め込まれた銀イオンの利用によって説明し得ると推測されるが、その一方で、最初の30分では核形成が起こり、粒子が全粒子に共通な一定の大きさに成長する。
【0076】
(c)フィルムの厚さ
HAのポリマーフィルム内に埋め込まれた銀ナノ粒子の濃度におけるフィルムの厚さの効果を、堆積時間を増やす(これにより厚いフィルムが生成された)ことによって調べた。図3(c)に示すように100nmまでフィルムの厚さを増加させることで、埋め込まれた銀ナノ粒子の総濃度の急激な増加がもたらされる相互依存関係が観察された。しかしながら、約100nm〜約200nmの厚さのフィルムにおける銀ナノ粒子の濃度は一定に保たれ、その後、銀ナノ粒子の濃度は徐々に減少した。
【0077】
これらの結果は、堆積時間の増加が、HAプラズマフィルムの化学的および表面特性が徐々に変化を引き起こすことを示している。堆積時間の増加は官能基の架橋を増加させることが推測され、これは結果的に、銀イオン錯体を形成するための利用可能な官能基の数を減少させ、さらに銀ナノ粒子をロードするための利用可能なポアの数を減らす。
【0078】
抗微生物剤放出速度の調節
フィルム内に埋め込まれた銀ナノ粒子の濃度の制御に加えて、フィルム内の銀ナノ粒子の保持特性における変化を、様々な抗微生物放出速度(すなわち、瞬時放出速度から持続放出速度)を有するフィルムを提供するために研究した。
【0079】
図4(a)(四角で示される)に図示するように、銀ナノ粒子は、溶解して銀イオンを溶出するために、水性システムにおける酸化を経る。銀イオンの放出速度の制御は、抗微生物である銀の長期にわたるまたは持続的な放出性を有するフィルムを提供することができる。したがって、図4(b)に示すように、HA−銀プラズマフィルムからの銀の放出速度を低減するために、HAの第二の薄層をHA−銀プラズマフィルムの表面上に堆積させた。
【0080】
(a)多層フィルムを用いた放出速度の制御
6nmまたは12nmのHAプラズマフィルムでさらにコーティングしたHA−銀プラズマフィルムにおける銀の放出を、21日間にわたってPBS中の銀イオンの溶出をモニターすることによって研究した。二層フィルムからの銀イオンの溶出は、420nmにおけるプラスモン共鳴ピークの強度の変化によって観察された。図4は、(a)は、追加の6nmの(丸で示される)または12nm(三角で示される)のHAプラズマフィルムのさらなる堆積が、追加のHAプラズマフィルムなしのフィルム(四角で示される)と比べて、銀イオンの放出速度を減少させたことを示す。
追加のプラズマフィルムの厚さを12nm(三角で示される)に増やすことは、6nmフィルムを(丸で示される)を含むフィルムと比べると、銀イオンの放出速度のさらなる減少を示した。HA−銀のプラズマフィルムからの銀イオンの放出は、明らかに、追加の表面のプラズマコーティングを適用することによって効果的に制御することができ、これによって銀イオンの放出速度がより厚い表面コーティングを適用することによって低減することができる。
【0081】
HA−銀プラズマフィルムの抗微生物特性
HA−銀プラズマフィルムの抗微生物特性を評価するために、HAプラズマフィルム、HA−銀プラズマフィルムおよび6nmのHAフィルムでコーティングしたHA−銀プラズマフィルムを、上記細菌抑制アッセイに供した。
【0082】
図5(a)は、銀ナノ粒子を含まないHAプラズマのフィルム上に、細菌が容易に吸着し、4時間以内に表面のコロニー形成を開始することを示す。一方、同フィルムに銀ナノ粒子が埋め込まれているときに、より少ない細菌が表面に吸着することができ、細菌のコロニー形成はほとんど観察されない。さらに、細菌死滅の指標である赤みを帯びたコロニーの出現(BacLight(商標)染色による緑/赤の染色)が、HA−銀プラズマフィルムで観察された。図5(c)は、HA−銀プラズマフィルムの表面に追加のHAプラズマフィルムを適用することによって形成された持続放出性フィルムにおける、細菌付着および増殖を図示する。延長した6時間のインキュベーション期間のあと、表面に付着しているわずかな単一の細菌が観察され、10CFU/mlの死滅を示す。さらに、細菌のコロニー形成の兆候は観察されなかった。
【0083】
いくつかの細菌がHA−銀プラズマフィルムで観察できる一方、追加のHAプラズマフィルムでコーティングした持続放出性フィルムは、長続きする殺菌特性を示し、コーティングの表面に適用される細菌の数を劇的に減らす。
【0084】
記載した方法により、実質的にあらゆるタイプの固体表面の上に堆積することができる、rfgdプラズマ重合による抗微生物コーティング剤の作製のための効率的な手順を提供する。さらに、プラズマフィルムにロードされた銀ナノ粒子の濃度および抗微生物剤である銀イオンの放出速度は、堆積時間、銀ローディングの長さ、還元時間を変更すること、またはHAプラズマフィルムを伴う追加の表面コーティングの堆積によって制御することができる。
【0085】
例2 銅ナノ粒子が埋め込まれたプラズマポリマー薄膜の作製
材料および方法
上記のHA−銀プラズマのフィルムの作製方法は、他の金属ナノ粒子を含むHAプラズマフィルムを形成するために容易に適合させることができる。CuおよびSeもまた、公知の抗微生物剤であるので、銅および/またはセレニウムナノ粒子を、HAプラズマフィルムにおける銀ナノ粒子の代わりに用いてもよい。
【0086】
上記の方法は、HAプラズマフィルムにAgのかわりにCuをロードする「銀のローディング方法」に適切な変更を加えて、再現される。具体的には、「銀のローディング方法」における0.02MのAgNOを0.02MのCuNOで置き換える。CuNOの濃度および銅のローディング時間が最適化を必要とすると想定される一方で、堆積または還元工程には少しの変化も必要とされない。
Cuのローディングおよび放出速度を評価して最適化し、HA−銅のプラズマフィルムの抗微生物活性が上記のように決定される。
【0087】
例3 グラム陰性細菌に対する、銀ナノ粒子を有する抗菌プラズマポリマー薄膜の有効性
例1では、銀ナノ粒子が埋め込まれた抗菌プラズマポリマー薄膜が、代表的なグラム陽性菌、すなわちStaphylococcus epidermidis株ATCC35984を阻害するのに有効であることがわかった。本例では、しばしば阻害するのがより困難なグラム陰性細菌に対するかかるフィルムの有効性を評価するために実験を行った。
【0088】
材料および方法
細菌抑制実験
細菌抑制実験に先立って、Escherichia coli K12 (MG1655)株のストック培養物を、生細菌の定量化のために、BacLight(商標)細菌生存率アッセイを用いて定量した。例1(HA上層フィルムがある場合とない場合)で上述したように準備した、ガラス基材上に銀ナノ粒子がロードされたHAプラズマフィルムの四角形の試料(1cm)を、対照である円形のガラスカバースリップとともに、固体のLB培地(リッチ培地)で満たされたペトリ皿にフィルム側を下にして配置した。その後、100μlのストック培養物を固体培地に接種した。テストした試料は次のとおりだった:
試料1 HAプラズマフィルムのみ
試料2 HA−銀プラズマフィルム
試料3 6nmのHA上層を有するHA−銀プラズマ層を含む二層フィルム
試料4 12nmのHA上層を有するHA−銀プラズマ層を含む二層フィルム
試料5 18nmのHA上層を有するHA−銀プラズマ層を含む二層フィルム
【0089】
結果および考察
HA−銀プラズマフィルムを有する試料を含むペトリ皿は、銀がロードされたフィルムの四角形試料の周りに、細菌抑制の明確な領域を示した。光学顕微鏡を利用して、阻害面積を推定した。結果を図6に示す。明らかに、銀がロードされたすべての試料は、効率的に細菌増殖を阻害した。二層試料、12nmを超える厚さのHAプラズマ上層(銀の放出速度を遅くするために用いられる)については、阻害面積が約50%減少した。
【0090】
例4 銀ナノ粒子が埋め込まれた抗菌アリルアミンプラズマポリマー薄膜
材料および方法
材料
製造元(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, United States of America)によって供給された、アリルアミン(AA)、硝酸銀、水素化ホウ素ナトリウム、およびガラス基材を使用した。製造元の指示に従って0.25%グルコースとともに調製したトリプトンイソブロス(TSB)で37℃一晩培養して準備したStaphylococcus epidermidis株ATCC35984を用いて、細菌抑制実験を行った。生細菌および/または死細菌および/またはコロニーを蛍光顕微鏡で観察した。全ての洗浄手順を、超純水(18.2オームの抵抗率)を用いて実施した。
【0091】
プラズマ重合法
プラズマ重合を、例1で簡単に記載したように、カスタムメイドリアクター(Griesser、HJ、1989)で実施した。13.56MHzのプラズマ発生器を堆積のために利用し、堆積を0.2Torrの圧力で実施した。所望のフィルムの厚さ(例:10nm)を得るために、1秒間のプラズマ時間に1nmとすることが従来の研究から知られている一定出力における堆積速度を考慮しながら、堆積時間を調節した。ガラス基材をまずピラニア溶液で清浄し、水でよくすすぎ、乾燥させた。プラズマ堆積の前に、基材を、40Wの電力を用いて40秒間酸素プラズマにより清浄した。いくつかのケースでは、銀のローディングおよび還元のあとで、二層フィルムを生産するためにAA上層を適用した。上層を、6nm、12nmまたは18nmの厚さで適用した。
【0092】
銀のローディング方法
プラズマポリマーフィルムを、0.02MのAgNO溶液へ標準ローディング時間である1時間浸漬することによって、銀のローディングを行った。
【0093】
銀の還元方法
銀がロードされたプラズマポリマーフィルムを、0.01MのNaBH溶液へ標準還元時間である30分間浸漬することで、銀の還元を行った。
【0094】
UV−visスペクトロスコピー
Carry 5 UV−visスペクトロメータ(Varian Australia Pty Ltd, Melbourne, Australia)を用いてUV可視スペクトルを観察し、記録した。
【0095】
細菌抑制実験
細菌抑制実験に先立って、S. epidermidis株ATCC35984の細菌ストック培養物を、生細菌の定量化のために、BacLight(商標)細菌生存率アッセイを用いて定量した。各試験抗菌スライドを、それぞれ12マイクロウェルプレート(使い捨て細胞培養、Nunclon(商標)表面、Denmark)のウェル内に配置し、そこに不動化した。スライドを、ストック培養物からの10CFU/ml(約200ml)のS. epidermidis株で接種した。プレートを、細菌コロニーが形成できるように、37℃で4時間インキュベートした。スライドを12ウェルプレートから取り出し、細菌の蛍光顕微鏡による可視化のために、例1に記載したように準備した。
【0096】
結果および考察
銀ナノ粒子をロードしたAAプラズマフィルムの作製
アミン官能基リッチなプラズマポリマー薄膜を、清潔なガラス表面上に、カスタムメイドリアクターを用いて生成するための前駆体として、AAを用いた。溶液中の銀イオン(Ag)をAAアミン基と錯化するために、AgNO溶液にフィルムを1時間浸漬することによって、銀イオンがフィルム中に埋め込まれた。その後、NaBH溶液中にプラズマ薄膜を浸漬することで、銀イオンを銀ナノ粒子に還元した。図7は、銀ナノ粒子をロードしたフィルムの吸光度スペクトル(325〜700nm)を示し、約420nmでの吸光度ピークは、フィルム内に埋め込まれた銀ナノ粒子のプラスモン共鳴波長を示す。
【0097】
多層フィルムを用いた放出速度の制御
水溶液中でAA−銀プラズマフィルムからの銀の放出速度をモニターした。銀の放出速度を低減するために、AAの第2の薄層(6、12または18nm)を、AA−銀プラズマフィルムの表面上に堆積させた。PBS中の銀イオンの溶出を、420nmでのプラスモン共鳴ピークの強度の変化によって、21日間にわたってモニターした。図8は、6nm(丸で示される)または12nm(上向き三角で示される)の追加の堆積AAプラズマフィルムは、追加のAAプラズマフィルムなしのフィルム(四角で示される)と比較して、銀イオンの放出速度を減少させたことを示す。さらに、追加のプラズマフィルムのフィルムの厚さを18nmまで増加すること(下向き三角で示される)は、12nmフィルムを含むフィルム(上向き三角で示される)と比べて、銀イオンの放出速度のさらなる減少を示した。
【0098】
HA−銀プラズマフィルムの抗微生物特性
AA−銀プラズマフィルムの抗微生物特性を評価するために、AAプラズマフィルム、AA−銀プラズマフィルムおよび6nmのAAフィルムでコーティングしたAA−銀プラズマフィルムを、上記細菌抑制アッセイに供した。
【0099】
AAプラズマフィルムを観察した結果は、HAフィルムについて例1で上述したものと類似していた。つまり、細菌が、銀ナノ粒子を含まないAAプラズマのフィルム上に容易に吸着し、数時間以内に表面のコロニー形成を開始することが分かった。対照的に、同フィルムに銀ナノ粒子が埋め込まれているときに、より少ない細菌が表面に吸着することができ、細菌のコロニー形成はほとんどみられなかった。さらに、追加のAAプラズマ上層フィルムがAA−銀プラズマフィルムの表面に含まれていたところでは、表面に付着しているわずかな単一の細菌が観察され(延長した6時間のインキュベーション期間のあと)、細菌のコロニー形成の兆候は観察されなかった。
【0100】
例5 銀ナノ粒子が埋め込まれた抗菌HAプラズマポリマー薄膜上へのリガンドの不動化
本発明の抗菌フィルムを、追加の機能的特性を提供するおよび/または表面の特性を変更する機会を可能とする1つまたは2つ以上の化学的反応性官能基とともに提供する。これを実証するために、本例では、ポリエチレングリコール(PEG)を、還元的アミノ化を介した例1に記載の方法に従って調製したHA−銀プラズマフィルムのアミン基を有する表面上に不動化した。この反応は、PEG−アルデヒドのアルデヒド末端基と共有結合的に反応するために利用できる表面のアミン基の存在のみが原因でおきる。
【0101】
材料および方法
HA−銀プラズマフィルムの表面へのPEG「グラフト」を、PBS中、60℃で12時間行った。生成物のXPS分析および調査のスペクトル分析を、標準的な手順に従って行った。
【0102】
結果および考察
HA−銀プラズマポリマーフィルムのXPSスペクトル解析を、PEGの不動化(「PEGグラフト」)の前後に実施した。4つの元素、すなわち、炭素、窒素および酸素(プラズマポリマーフィルムから)ならびに銀(銀ナノ粒子から)が、PEGグラフト前にコーティングのXPSスペクトルから明確に識別可能であった。C1sのピークの高分解能XPSスペクトルは、表面の炭素の主要な形態が脂肪族(C−C、C−H結合)であることを示した。対照的に、PEGグラフト後の化学組成の表面には、グラフトされたPEGのC−O寄与による顕著なピークが、C1s領域のXPSスペクトルに現れた。
【0103】
調査スペクトルにおける変化もまた発生した。PEG上層により、銀および窒素のピークの強度が減少した。酸素の量もまた、PEG中のC−O含有量により増加した。
【0104】
さらに、銀ナノ粒子がPEGグラフト後のコーティング中に残ることを示すために、UV−visスペクトロスコピーを実施した(図9を参照)。これは、銀ナノ粒子の酸化におそらくつながったであろう、PEGグラフトに関与した反応にもかかわらず、銀ナノ粒子の存在によるプラスモン共鳴吸収が、PEGグラフト後もなお存在していたことを示した。しかしながら、より短い波長へのわずかなシフトおよび強度の小さな落ち込みは、酸化プロセスが、限られた範囲で発生していることを示している。
【0105】
本例の結果は、十分な数のアミン官能基が、HAプラズマポリマーフィルムへの銀ナノ粒子のローディング後でも、ポリマーマトリックスの表面で引き続き利用可能であり、これを化学化合物や生体分子(タンパク質、ペプチドなど)などの様々なリガンドの不動化のために利用することができることを実証する。
【0106】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」なる語句、あるいは「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などのバリエーションは、前述の要素、整数もしくは工程、または複数の要素、整数もしくは工程の群の包含を意味すると理解され、いかなるほかの要素、整数もしくは工程、または複数の要素、整数もしくは工程の群の排除を意味するものではないと理解されるべきである。
【0107】
本明細書に言及されている全ての文献は、本明細書に参照によって援用される。本明細書に含まれる文書、行為、材料、機器、物品等のあらゆる議論は、本発明のコンテキストを提供するためのものにすぎない。これは、これらの事項のいずれかまたはすべてが、先行技術の基盤の一部を形成すること、あるいは本願に係る各クレームの優先日前に、オーストラリアまたは他の場所に存在していたとして、本発明に関連する分野における一般常識であったとすることの了承とみなすべきではない。
【0108】
特定の態様で示される本発明に、広く記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、数々の変化および/または改変を加えることができることは当業者によって理解されるであろう。したがって、本態様はすべての点において例示的であり、限定的ではないとして考慮されるべきである。
【0109】
参考文献
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または2種以上の官能基を有する透過性ポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックス内に埋め込まれた、無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子とを有するフィルム。
【請求項2】
ポリマーマトリックスが多孔性ポリマーマトリックスである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
ポリマーマトリックスがプラズマポリマーマトリックスである、請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
ポリマーマトリックスの厚さが約5nm〜約150nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】
ポリマーマトリックスの厚さが約5nm〜約25nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項6】
無機物質が実質的に純粋な形態の非炭素元素である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項7】
非炭素元素が銅、銀、セレニウムまたはそれらの組み合わせである、請求項6に記載のフィルム。
【請求項8】
ポリマーマトリックスが、アルキルアミンからなる群から選択されるモノマー(単数または複数)から形成される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項9】
モノマー(単数または複数)が、n−ヘプチルアミン、アリルアミンまたはそれらの組み合わせである、請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のフィルムであって、前記フィルムが第一および第二のポリマーフィルム層を含む多層フィルムであり、前記第一のフィルム層は1つまたは2つ以上の官能基を有するポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックス内に埋め込まれた、無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子とを含み、前記第二のフィルム層は、追加の機能的特性を有するフィルムを提供する、および/または第一のフィルム層の特性を変更する、前記フィルム。
【請求項11】
第二のフィルム層が、無機物質(単数または複数)を持続的に放出する多層フィルムの提供などのために、第一のフィルム層からの前記無機物質(単数または複数)の透過を変更する、請求項10に記載のフィルム。
【請求項12】
フィルムが、有用なリガンドを含む少なくとも第三のフィルム層を含む、請求項10または11に記載のフィルム。
【請求項13】
第二のフィルム層の厚さが約5〜約25nmである、請求項10または11に記載のフィルム。
【請求項14】
フィルムが、好適な基材の表面上のコーティングとして提供される、請求項1〜13のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項15】
好適な基材の表面上にフィルムを適用する方法であって、前記方法は、以下の工程:
(i)透過性ポリマーマトリックスを前記表面上に形成するために、1つまたは2つ以上の官能基を含むモノマー(単数または複数)をプラズマ重合により堆積および重合させる工程
(ii)前記官能基に無機物質(単数または複数)を錯化する工程、および
(iii)前記無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子を形成するために前記無機物質(単数または複数)を還元する工程:
を含み、ここで前記無機物質(単数または複数)の前記1個または2個以上のナノ粒子が、前記ポリマーマトリックス内に埋め込まれている、前記方法。
【請求項16】
ポリマーマトリックスが多孔性ポリマーマトリックスである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
モノマー(単数または複数)を堆積および重合させる工程を、高周波グロー放電(rfgd)プラズマ重合によって行う、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
モノマー(単数または複数)が、n−ヘプチルアミン、アリルアミンまたはそれらの組み合わせである、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法であって、(i)〜(iii)の工程によって製造されたフィルムが、1つまたは2つ以上の基を有する第一のポリマーマトリックスと、前記第一のポリマーマトリックス内に埋め込まれた、無機物質(単数または複数)の1個または2個以上のナノ粒子とを含む第一のフィルム層を構成し、前記方法は以下の工程:
(iv)多層フィルムを製造せしめるために、第二のフィルム層を第一のフィルム層の表面に適用する工程
をさらに含む、前記方法。
【請求項20】
以下の工程:
(v)第二のフィルム層の表面に第三のフィルム層を適用する工程
をさらに含む、請求項19に記載の方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−512280(P2012−512280A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541022(P2011−541022)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001635
【国際公開番号】WO2010/068985
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(501345909)ユニバーシティ オブ サウス オーストラリア (5)
【氏名又は名称原語表記】University of South Australia
【Fターム(参考)】