説明

活性マイクロシーブおよび生物学的応用のための方法

【課題】生物検体もしくは細胞の分離および特性化の分野に関する。より具体的には、生物検体(bio-analyte)および/もしくは細胞の分離、検出、計数、ならびに/または特性化に関し、ならびにかかるデバイスの製造方法に関する。
【解決手段】生物検体の分離および特性化のための活性シーブデバイスであって、前記デバイスは、生物検体を支持するための基板7を備え、該基板7は、複数の相互接続部および複数の領域10を有する。各領域10は、ホールと、ホールと電気的に結合した電極であって、基板7に内蔵され、または基板7上に配置され、少なくとも1つの電極3とを備える。各領域10はさらに、基板7内に集積され、少なくとも1つの電極および複数の相互接続部の少なくとも1つに作動可能に接続された少なくとも1つのトランジスタ9を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物検体もしくは細胞の分離および特性化の分野に関する。より具体的には、本発明は、生物検体(bio-analyte)および/もしくは細胞の分離、検出、計数、ならびに/または特性化に関し、ならびにかかるデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的サンプルは、しばしば複雑なマトリクスの中に存在する。したがって、興味ある細胞または標的を他の生物学的材料と区別することは、最も重要である。例えば、診断のセッティングにおけるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の実施は、しばしば抑制化合物の存在によって制限され、有効なサンプル準備プロトコルが要求される。細胞について同様に、さまざまな細胞亜種を濃縮し(enrich)、計数し、選別さえも行うための有効なテクニックが依然必要とされている。ふるい分けまたは誘電泳動のテクニックを含む、小型のデバイス上で細胞を分離する種々のアプローチが既に記載されてきた(Tan et al., Biomed. Microdevices, 11 (2009), 883; Mohamed et al., J. Chromatogr. A, 1216 (2009), 8289)。他の手法は、親和性をベースにしている。これらについて、典型的には、特定の抗体を蛍光標識し(即ち、免疫蛍光)、または磁気ビーズと結合させて(即ち、免疫磁性)、特性化が開始可能になる前に、興味ある細胞を(複雑で乱雑な)マトリックスから分離する。
【0003】
米国特許公報第2004/0130339号において、細胞分析のためのシステムおよび方法が開示されており、所望の方法で配置された、複数のホールを有する有孔キャリアが設けられ、各ホールは、例えばホールの大きさに対応した所定の最小サイズを有する細胞を、受容および保持することに好適である。その後、キャリアに支持される細胞は、ホールの中に延びる2つの電極に電流および電圧を印加することによって分析され、その結果、電流または電界が生体細胞を通過して、細胞の存在を検出し、または生体細胞内で特性反応を生じさせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の目的は、生物検体および/もしくは細胞の分離、検出、計数ならびに/または特性化するための優れたふるい分け(seiving)デバイスを提供することである。本発明に係る前記ふるい分けデバイスは、さらには「活性シーブ」(active sieve)と呼ぶこともある。上記目的は、本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスおよび本発明の実施形態に従ってかかる活性デバイスを製造するための方法によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様において、本発明は、生物検体の分離および/または特性化のための活性シーブデバイスを提供する。本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスは、生物検体を支持するための基板を備え、該基板は、複数の相互接続部および複数の領域を有し、各領域は、
ホールと、
ホールと電気的に結合した電極であって、基板に内蔵され、または基板上に配置された少なくとも1つの電極と、
前記基板内に集積され、少なくとも1つの電極および複数の相互接続部の少なくとも1つに作動可能に接続された少なくとも1つのトランジスタとを備える。
【0006】
本発明の実施形態に係るデバイス内部でのトランジスタの集積は、EIS測定の感度を維持するために好都合である。この目的のために、本発明の実施形態に従って、トランジスタは、すべてのホールの近くに設置する。測定感度の問題は別にして、本発明の実施形態は、信号伝送線路を短くするという更なる利点をもたらす。
【0007】
本発明の実施形態の利点は、細胞濃縮のためのふるい分けデバイスを提供することである。
【0008】
本発明の実施形態の利点は、単細胞の電気的な読み出しを提供できることである。
【0009】
本発明の実施形態の利点は、生物検体および/または細胞を、分離し、計数し、区別し、および/または溶解させてもよいことである。
【0010】
本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスにおいて、少なくとも1つのトランジスタを基板に内蔵してもよく、基板主面に対する法線に実質的に沿った方向に配置された導電性経路を介して、少なくとも1つの電極を前記トランジスタに接続してもよい。
【0011】
本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスにおいて、少なくとも1つの電極は、例えばインピーダンス測定を可能にするように配置した、少なくとも2つの極板を備えてもよい。代替として、1つの極板のみが存在する場合、静電容量測定を実行してもよい。
【0012】
本発明の実施形態に係る活性シーブはさらに、マルチプレクサ、アナログ−デジタル変換器(ADC)、デジタル−アナログ変換器(DAC)、処理ユニット、高速フーリエ変換(FFT)装置、および通信制御装置、ならびに/または他のデジタル回路を備えてもよい。
【0013】
本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスにおいて、各領域はさらに、ホールに隣接配置した誘導エレメントを備えてもよい。本発明の実施形態の利点は、マイクロシーブデバイスへの所定の誘導経路に沿って生物検体を導き、ホール間の間隔に起因して損失を制限できることである。
【0014】
本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスにおいて、例えば基板の正平面(regular planar)部分を形成するように、複数の領域を配置してもよい。
【0015】
本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスは、生物検体に対する磁気的操作または電気的操作を実施することによって、マルチパラメータ分離を可能にするように、前記少なくとも1つの電極を駆動するための駆動手段をさらに備えてもよい。
【0016】
本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスは、細胞および/または生物検体を、計数し、動作させ、および/または溶解させることに適合した制御装置をさらに備えてもよい。
【0017】
本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスは、細胞を光学的にアドレスするための手段をさらに備えてもよい。
【0018】
本発明の実施形態に係る活性シーブデバイスは、所定のコンポーネントについて、結合特性を化学的に変更することに適合した表面層をさらに備えてもよい。
【0019】
第2の態様において、本発明は、活性シーブデバイスを製造するための方法を提供する。該方法は、
基板を取得することと、
前記基板上に、複数のトランジスタを備えるトランジスタ層を設けることと、
前記基板上に、少なくとも1つのトランジスタにそれぞれ作動可能に接続した複数の電極を備える電極層を設けることと、
前記基板内に、少なくとも1つの電極にそれぞれ電気的に結合した複数のホールを設けることとを含む。
【0020】
本発明の実施形態の利点は、従来の加工ステップ、特に半導体加工ステップを、活性シーブの様々なコンポーネントを製造するために使用できることである。
【0021】
本発明の実施形態に係る方法は、直流に対する大きいインピーダンスを有する不動態材料から成る少なくとも1層を付加することをさらに含んでもよい。
【0022】
本発明の実施形態に係る方法は、基板の上部に、少なくとも1つの誘導エレメントを設けることをさらに含んでもよい。
【0023】
第3の態様において、本発明は、活性シーブデバイスを用いて生物検体を分析するための方法を提供する。活性シーブデバイスは、生物検体を支持するための基板を備え、該基板は、複数の相互接続部および複数の領域を有する。各領域は、ホールと、ホールと電気的に結合した電極であって、基板に内蔵され、または基板上に配置された少なくとも1つの電極と、前記基板内に集積され、少なくとも1つの電極および複数の相互接続部の少なくとも1つと作動可能に接続した少なくとも1つのトランジスタとを備える。該方法は、
活性シーブデバイス(1)内に、前記生物検体を含む媒質を導入することと、
該活性シーブデバイスを用いて前記生物検体を分離することと、
前記トランジスタを駆動することによって、前記分離した生物検体上で測定を実施することと、
前記測定に従って、標的とする生物検体を特定することとを含む。
【0024】
本発明の実施形態に従って生物検体を分析するための方法は、前記の標的とした生物検体を、計数し、動作させ、および/または溶解させることをさらに含んでもよい。
【0025】
本発明の特定の好ましい態様は、添付する独立請求項および従属請求項において詳説する。従属請求項の特徴は、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と、適切および単に請求項に明記されただけでないものとして組み合わせてもよい。
【0026】
本発明および先行技術を上回って達成される利点を要約するために、本発明の特定を上述してきた。本発明のいずれかの特定の実施形態に従って、必ずしもかかる目的または利点のすべてを達成することができるわけではないことは当然理解されることになる。したがって、例えば、必ずしもここで教示され提案された他の目的または利点を達成することなしに、ここで教示された1つの利点または利点の集まりを達成または最適化する方法で具現化または実行してもよい、と当業者は理解することになる。
【0027】
本発明の上記の、または他の態様は、これ以降で記載する実施形態から明らかになり、またはそれらを基に解明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明は、添付図面に関連して、これ以降でさらに例として説明される。
【0029】
【図1】先行技術に係る、電気インピーダンス分光法(EIS)測定のための回路モデルの概略図を示す。
【図2】内皮細胞がある場合とない場合について、周波数の関数として細胞インピーダンスを示す。
【図3A】本発明に係る活性シーブの構造の一実施形態を表しており、ホールは、オンチップマルチプレクサを有する行列(Row-column)アドレスまたはRCMアドレスと呼ばれる本発明の実施形態に従って、チップ上でマルチプレクサと結合した不活性マトリックスによって接続可能である。
【図3B】図3A内の活性シーブの1ホールの構造の断面図を示す。
【図4】磁性粒子を使用した細胞分離の適用に使用できるホールの断面図を示す。MPは磁性粒子を表す。
【図5A】本発明の実施形態に係る細胞捕捉のための、誘電泳動(DEP)力と流体力との組み合わせを有する活性シーブ内のホールの概略図である。
【図5B】本発明の代替の実施形態に係る細胞捕捉のための、磁力と流体力との組み合わせを有する活性シーブ内のホールの概略図である。
【図6A】標的細胞または非標的(irrelevant)細胞の選択的遊離の、いずれの細胞の遊離もしていない状態を示す概略図である。
【図6B】標的細胞または非標的細胞の選択的遊離の、非標的細胞が遊離した状態を示す概略図である。
【図6C】標的細胞または非標的細胞の選択的遊離の、標的細胞が遊離した状態を示す概略図である。
【図7】複数の機能を実行するための、または換言すると、本発明の実施形態に係る、細胞のふるい分け、インピーダンス測定、計数および/または溶解の決定方法を可能にするための、本発明の実施形態に従った、活性シーブのホールに適用可能な測定フローを示す。
【図8A】本発明の実施形態に係る活性シーブの個々のホール内で、電気的インピーダンス分光法(EIS)測定を実施するために採用可能な電極形状パターンの概略図である。
【図8B】本発明の実施形態に係る活性シーブの個々のホール内で、電気的インピーダンス分光法(EIS)測定を実施するために採用可能な電極形状パターンの概略図である。
【図8C】本発明の実施形態に係る活性シーブの個々のホール内で、電気的インピーダンス分光法(EIS)測定を実施するために採用可能な電極形状パターンの概略図である。
【図9】本発明の実施形態に係る活性シーブ内のホールの概略図であり、前記ホールは、両側に電極を有する。
【図10】本発明の実施形態に係る活性シーブ内の2つのホールの概略図であり、前記ホールは、動作電極および包括的(global)対向電極を有する。
【図11】本発明の実施形態に係る活性シーブを使用して電気穿孔法を実施するための、好適なスイッチ回路を示す。
【図12】本発明の実施形態に係る活性シーブ内のホールへ向かう生物検体の流れの、想定される側面図を示す。
【図13】免疫磁性濃縮した生物検体に対するサンプル準備ステップの組み合わせを示しており、最初に、生物検体を、磁気ビーズを使用して臨床サンプルから分離し、次に、活性シーブのホールを通過させることによって流し去る。一方、より大きい細胞は、マトリックスによって保持され、次に、本発明の実施形態に係る活性シーブ内の個々のホール上に存在する電極を使用して、個々に分析される。
【図14】電気インピーダンス分光法(EIS)電極製造の前の、前工程(front end of line:FEOL)および後工程(back end of line:BEOL)についての断面図を示す。
【図15】前面からホールを開口する前の、本発明の実施形態に係るシーブ内のホールを示す。
【図16A】単一エッチングステップによってホールを開口した後の、本発明の実施形態に係るシーブ内のホールを示す。
【図16B】前面ホールをエッチングした後の、本発明の実施形態に係るシーブ内のホールを示す。
【図17】マイクロ構造の製造目的で前面に堆積した不動態材料層を有する、本発明の実施形態に係るシーブ内のホールを示す。
【図18】不動態材料をエッチングして前面にマイクロ構造を形成した後の、本発明の実施形態に係るシーブ内のホールを示す。
【図19】不動態材料をエッチングして前面ホールを開口した後の、本発明に係るシーブ内のホールを示す。
【図20A】前面で、マイクロ構造を有しないシーブをキャリアウエハに接着した後の、本発明の実施形態に係るシーブ内のホールを示す。
【図20B】前面で、マイクロ構造を有するシーブをキャリアウエハに接着した後の、本発明の実施形態に係るシーブ内のホールを示す。
【図21】スルーホールの製造の後、更なる不動態層を堆積した、本発明の実施形態に係るシーブ内のホールを示す。
【図22】本発明の実施形態に係る、細胞の分離、特性化および溶解のための動作フローを示す。
【図23】本発明の実施形態に従って、活性シーブデバイスを製造するための例示的な方法を示す。
【図24】異なる詳細スケールでの、本発明の実施形態に係るシーブを示す。
【図25】誘導エレメントを設けた、本発明の実施形態に係るシーブの断面図を示す。
【図26】マイクロ流体チャネルの前側の流れの側面図を示す。
【図27】本発明の実施形態に係るシーブの一部の断面図を示しており、細胞がシーブ内を流れるように誘導するために、隣接する細孔の間に孤立構造を有する。
【図28】さまざまな媒質中の細胞に対する、DEPスペクトルについてのCM因子の実部を示している。
【図29】本発明の実施形態に係るシーブを用いて実行可能なインピーダンス測定の等価回路モデルを示している。
【図30】本発明の実施形態に従ったインピーダンス測定のシュミレーション結果を示している。
【0030】
記載した図面は概略的なものに過ぎず、限定的でない。図面において、いくつかのエレメントのサイズは、説明目的のため、誇張し、およびスケールどおり描いていないことがある。異なる図面において、同一の参照符号は、同一または類似のエレメントを参照する。
【0031】
請求項中のどの参照符号も、範囲を限定するものと解釈すべきでない。
【0032】
異なる図面において、同じ参照符号は同一または類似のエレメントを参照する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、特定の実施形態について特定の図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらに限定されず、請求項によってのみ限定される。記載した図面は概略的なものに過ぎず、限定的でない。図面において、いくつかのエレメントのサイズは、説明目的のため、誇張し、およびスケールどおり描いていないことがある。寸法および相対寸法は、本発明の実際の実施化と対応していない。
【0034】
さらに、説明および請求項での用語「第1」「第2」等は、類似のエレメントを区別するための使用しており、必ずしもシーケンスを時間的、空間的に、序列で、または他のどの様式で表したものでもない。こうして用いた用語は、好適な状況下で交換可能であり、本発明の実施形態は、ここで説明したり図示したものとは別の順番で動作可能であると理解すべきである。
【0035】
さらに、説明および請求項での用語「上(top)」「下(under)」等は、説明目的で使用しており、必ずしも相対的な位置を記述するためのものでない。こうして用いた用語は、好適な状況下で交換可能であって、ここで説明した本発明の実施形態がここで説明または図示した以外の他の向きで動作可能であると理解すべきである。
【0036】
請求項で使用する用語「備える、含む(comprising)」は、それ以降に列挙された手段に限定されるものと解釈すべきでなく、他のエレメントまたはステップを除外していない。記述した特徴、整数、ステップまたはコンポーネントの存在を、参照したように特定するように解釈する必要があるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップまたはコンポーネント、あるいはこれらのグループの存在または追加を除外していない。したがって、「手段AおよびBを備えるデバイス」という表現の範囲は、コンポーネントAおよびBだけからなるデバイスに限定すべきでない。本発明に関して、デバイスの関連したコンポーネントだけがAおよびBであることを意味する。
【0037】
この明細書を通じての「一実施形態(one embodimentまたはan embodiment)」の参照が意味するのは、該実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造または特性は、本発明の少なくとも一実施形態に含まれるということである。したがって、この明細書を通じてさまざまな場所で現れるフレーズ「一実施形態(one embodimentまたはan embodiment)」は、必ずしもすべてが同じ実施形態を参照するわけではないが、参照してもよい。さらに、特定の特徴、構造または特性は、この開示から当業者にとって明らかなように、1以上の実施形態において、好適な方法で組み合わせることができる。
【0038】
同様に、本発明の例示の実施形態の説明において、本発明の種々の特徴は、開示を効率化し、1以上のさまざまな発明の態様を理解することを助ける目的で、時には単一の実施形態、図面、またはその説明の中に一緒にグループ化されることを認識するべきである。しかしながら、この開示の方法は、請求項記載の発明が、各請求項に明確に記載されたものより多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈すべきではない。むしろ、以下の請求項が示すように、発明の態様は、先に開示された単一の実施形態のすべての特徴より少なくなる。したがって、詳細な説明に続く請求の範囲は、これにより詳細な説明中に明確に包含され、各請求項は、この発明の別々の実施形態としてそれ自身で成立する。
【0039】
さらに、ここに記載したいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴は含むが、他の特徴は含まない。一方、当業者が理解することになるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の請求の範囲において、請求項記載の実施形態のいずれもが、任意の組み合わせで使用可能である。
【0040】
ここでされる説明において、多くの具体的詳細が明記される。しかしながら、本発明の実施形態はこれらの具体的詳細なしに実践してもよいことが理解される。他の例において、周知の方法、構造、および技術は、この説明の理解を不明瞭にしないために、詳細には示さない。
【0041】
次のパラグラフで、本発明と組み合わせて、ならびに生物検体の分離および特性化に関連して使用するデバイスおよび方法の定義および説明を記載する。
【0042】
本発明の実施形態において「生物検体」について言及する場合、他で言及しない限り、ウイルス、バクテリア、原核細胞および/または真核細胞を指す。
【0043】
マイクロホールまたはナノホールを製造する最先端の技術は、ホールにナノメートル精度に近い精度を提供する。かかる技術の多くは、標準のフォトリソグラフィ後の、異方性エッチングのような技術を使用した、より大きいナノホールの製造から開始し、続いて、異方性エッチングを伴う電子ビームリソグラフィによって、底部を小さく形成する。本発明の実施形態に係るマイクロシーブについて、リソグラフィプロセスおよび/または異方性エッチングによって得られるホールは、以降でさらに説明するように、充分な解像度を示すことができる。
【0044】
マイクロ流体システムにおいて、細胞純化(purification)または細胞濃縮(enrichment)のために、さまざまな物理法則を使用してもよい。見通し的な(perspective)分類において、これらの手法は、細胞の物理的特性および/または生化学的特性、例えば大きさ、圧縮率、電磁的特性または表面マーカ表示をベースとしてもよい。
【0045】
大きさをベースとして、異なる細胞種を分離するために、専用の機械構造を設計してもよい。デバイス平面内または該平面に垂直な方向に、所定の寸法を有する種々の形状の堤部(dam)またはホールを製造して大きな細胞を保持し、小さな細胞は通過させてもよい。大きさの違いによって、放物線状流れの中の異なる横断流セグメントに細胞を配置してもよく、したがって流体力学的な細胞分離が可能になる。図26に示すように、流れの前面の外形270は放物線状であり、中央部でより速く、側壁271でより遅い。したがって、大きい細胞272は、チャネルの中央、即ち、流れの外形270のより速い部分を流れる可能性がより大きい。あるいは換言すると、それらは、チャネルの側壁271、即ち、外形270の遅い部分付近を流れる可能性がより小さい。小さい細胞273に対しては、この逆が当てはまる。細胞はまた、密度および圧縮率の関数として、異なる音響放射力を受ける。細胞は、大きさおよび誘電率の変化に伴って、交流電界中、異なる移動度または移動パターンで誘電泳動(DEP)を受ける。走磁性を有する生物検体、および磁気標識とも呼ばれる、磁性粒子と接合した生物検体について、検体を磁力で動作させた場合は、同様の運動が生じるだろう。これは磁気泳動(MAP)と呼ばれる。例えば抗体−抗原認識による、細胞と粒子との接合が、標的細胞の表面バイオマーカに特有のものである場合は、標的細胞を、MAPを用いて明確に分離してもよい。
【0046】
分離方法の選択は、分離純度、特異性、効率性、マイクロ流体集積化、処理適合性(processing compatibility)、費用などのような因子などに依存するだろう。通常、より多くの細胞特性を使用する方法が、より優れた細胞分離につながるが、より優れた制御能力を要求し、したがって再現性が低く、より複雑になりやすいであろう。
【0047】
機械的ふるい分けは、その単純さ、比較的製造が容易であること、および充分な再現性のために、細胞分離および/または細胞濃縮を実施するための一般的な方法であろう。しかしながら、純粋に機械的ふるい分けを行うと、細胞の大きさが同程度である異なる細胞種を区別することができない可能性がある。更なる機能性を、蛍光染色または電気インピーダンス分光法(EIS)のような、更なる細胞同定に適合させてもよい。
【0048】
電気インピーダンス分光法(EIS)は、生物検体での生理学的研究のための非常に有用なツールである。該テクニックは、生体分子に加えて、電気的メカニズムが、生きた細胞の活動に対して重要な役割を果たすという理論に依存する。この仮説は、EIS実験、例えば細胞癌化の検出によって支持されている。通常の細胞と比較した場合、癌細胞は、通常の細胞よりも低い膜電位およびインピーダンスを示す。より低いインピーダンス、即ちより高い透過率は、トランス膜の集まり、例えばイオン、およびエネルギー、例えばATP(アデノシン3リン酸)、の輸送に対する制御能力の損失の理由となる可能性がある。
【0049】
電気的見地から、細胞は、抵抗、容量性コンポーネントまたは誘導性コンポーネントのネットワークによって表すことができる。同様に、所定の媒質中で、細胞を少なくとも1つの電極の近くに設置した場合、いくつかの追加のコンポーネントが存在してもよい。図1は、媒質中の導電性キャリア104、例えば金キャリア上でのEIS測定に好適な等価回路モデルを示す。Cは膜の静電容量を、Rは細胞内部の抵抗を、αは細胞基板の粘着力を示す。図2は、内皮細胞がある場合とない場合の細胞インピーダンスを示す。インピーダンススペクトルは、細胞−電解質−電極モデルによって説明できる。周波数の小さい、f<10Hzの範囲では、インピーダンスは、電極表面、および媒質中の細胞周囲の電流経路での電気二重層(EDL)によって主に決定する。細胞体は、細胞膜および細胞内含有物を絶縁する、大きい抵抗を有する該細胞膜に主に起因して、電気信号に「盲目」(blind)になる。膜の抵抗および静電容量は、中間周波数帯、10Hz<f<1MHzにおいて重要な役割を果たし始める。インピーダンスは、周波数の増加に伴って小さくなる。周波数が充分大きい場合、膜は容量結合し、したがって細胞小器官および電解質もまた、全インピーダンスに寄与する。中間の周波数帯は、最も情報が豊かな周波数帯である。非常に大きな周波数f>1MHzでは、細胞インピーダンスは、寄生容量および寄生インダクタンスのような系統的回路誤差と比較して、支配的でなくなり始める。さまざまな周波数での細胞の生体外インピーダンス測定をチップ上で実施し、異常細胞と通常の細胞とを区別してきた。細胞の数を電気的に測定するための商業的製品が、ECIS(登録商標)(Applied Biophysics Inc., NYから取得できる)およびRT−CES(登録商標)(ACEA Biosciences, CAから取得できる)のようなマーケットで手に入る。かかる製品のすべてではないにしても、大部分は、基板表面上で剥き出しになった電極アレイを備え、電極は個々に、または全体としてアドレス可能である。電極アレイは、基板上方に存在する細胞集団のインピーダンスを測定する。
【0050】
超高電界による細胞膜の破壊は、細胞電気穿孔法と呼ばれる。最初に、電界を細胞膜に印加した場合、完全な電圧降下、即ち、細胞の脂質二分子膜(BLM)、バクテリアなど、細胞がカプセル化した物全体で、またはウイルスのエンベロープ全体で印加した電圧が、かかるカプセル化物またはエンベロープの非常に大きい抵抗に起因して減少する。しかしながら、いったんカプセル化物またはエンベロープ、例えばBLMが破裂すると、電圧降下は、カプセル化物もしくはエンベロープ、媒質および電極によって決定する。なぜなら、それらの抵抗を比較できるようになるからである。いくつかの機構において、しばしば短期間に強い電界を印加して、熱的効果を最小化している。大きい抵抗を有するカプセル化物、または細胞のエンベロープ、例えばBLMは、該BLM全体の電界が充分大きい場合に絶縁破壊する。電気穿孔法に使用される電界は、典型的にV/μmのオーダーであり、印加時間は、1ミリ秒未満である。より弱い電界では、より長い印加時間を必要とし、おおよそ双曲線の関係に従う。
【0051】
典型的な電気穿孔法は、2つの連続的な段階を含む。即ち、透過性の劇的な増大、および機械的破裂である。前半段階は、通常、電極を流れる一様な電流を伴い、後半段階は、大きな電流変動を示す。通常、該破裂は、膜上で絶縁破壊強度が最も低いであろう小さい領域で起こる。不可逆な破裂は、膜全体での化学物質および分子の制御不能な輸送、即ち細胞溶解を引き起こす。
【0052】
第1の態様において、本発明は、生物検体もしくは細胞の分離および特性化に好適な活性シーブデバイス1に関する。このデバイス1は、生物検体13を支持するための基板7を備える。基板7は、複数の領域10を有し、例えばかかる領域のアレイまたはグリッドを備える。各領域10は、1つのホール2を有し、例えば複数のホール2は、ホールのアレイを形成するようにする。各領域10は、ホール2と電気的に結合した少なくとも1つの電極3をさらに備え、電極3は、基板7に内蔵または基板7上に配置してもよく、例えば、基板7の上部に堆積してもよく、その結果、使用中に、少なくとも1つの電極3は、ホール2の内部または上に存在する粒子によって電気的にアクセス可能である。
【0053】
ホール2と結合した電極3はさらに、複数の電気的相互接続部4を通じて個々にアドレス可能である。各領域10は、基板7内に集積され、少なくとも1つの電極3および複数の相互接続部4の少なくとも1つと作動可能に接続した、少なくとも1つのトランジスタ9を備える。少なくとも1つのトランジスタ9は、接続して、少なくとも1つの電極4と複数の相互接続部4の少なくとも1つとの間にスイッチを形成してもよい。例えば、各ホール2の近くにある各領域10において、少なくとも1つのトランジスタ9が電極3の近くにあることによって、EIS測定の感度を維持することを容易にすることができる。測定感度の問題は別にして、本発明は、オンチップ信号伝送経路の全長を短くするという更なる利点を提供することができる。
【0054】
少なくとも1つの電極3と少なくとも1つのトランジスタ9との間に短い伝送経路長を設けるために、トランジスタ9は、電極3の少なくとも一部の下の位置で基板7に内蔵してもよく、その結果、少なくとも1つの電極3を、例えば実質的に基板7の主面に垂直な方向に沿って配置した導電性経路12を介して、少なくとも1つのトランジスタ9に接続してもよい。
【0055】
本発明の第1の態様の第1の実施形態を、図3Aに斜視図で示しており、単一領域10を、図3Bに断面図で詳細に示している。トランジスタ9は、いずれの好適なトランジスタでも可能であり、例えば信号増幅しないアナログのバッファトランジスタも可能である。次に、電極3がとらえた信号は、信号マルチプレクサ8を経由して1以上のアンプに送信され、例えばデジタルデータに変換するために、アナログ−デジタル変換器(ADC)に到達してもよい。マルチプレクサを配置して、例えば少なくとも1つのトランジスタ9に集積させることによって、ホールに個々にアドレスしてもよい。さらに、ADC、デジタル−アナログ変換器(DAC)、例えばフェーズ・ロック・ループまたは高速フーリエ変換(FFT)を実行するための信号処理ユニット、および通信制御装置、例えばRS485を、前記少なくとも1つのトランジスタ9内に集積してもよい。
【0056】
図3Bは、単一領域10の実施形態の断面図であり、電極3は基板7に内蔵され、また、電極3は、ホール2の上部に存在する粒子、即ちシーブの動作によってはふるい分けされず、ホール2を横切ってシーブ1の上部に横たわり続ける粒子、によって電気的にアクセス可能である。トランジスタ構造9は、基板7に内蔵される。電極3は、基板7に内蔵された導電性経路12を介してトランジスタ構造9と接続する。かかるホールの更なる断面図を、トランジスタと一緒に図4に示している。
【0057】
特定の実施形態において、活性シーブ1の個々のホール2、例えばホールの電極3は、個々にアドレスされ、それゆえに、オンチップ多重化を用いた行列アドレス(RCM)を使用する。ホール2は、チップ上のマルチプレクサと結びついた不活性マトリックスによって接続してもよい。RCMアドレスは、チップ上にマルチプレクサ8を実装することによって、インターフェイスコンタクトの数、例えば接合パッド5の数を制限するが、それは、論理デバイス、例えばMOSの集積を必要とするので、より費用がかかる可能性がある。読み出し回路に接続するための接続コンタクトの総数は、加工技術および包装技術の両方によって制限される。一方、信号品質は、より少ないコンタクトを使用した場合、ホール−ホール(hole-to-hole)干渉に起因して、低下する可能性がある。
【0058】
図3Aは、可能な接続スキームを有する、かかる活性シーブマトリックス1の概略図である。活性シーブの個々のホール2、例えばベースの膜を穿孔する基板7を、例えば穿孔するホールの電極3は、オンチップマルチプレクサ8を用いた行列アドレス(RCM)により、個々にアドレス可能である。導電性の、例えば金属製の電極3は、優れた電気的不動態化のために、好ましくはホール2に近いところだけが露出し、少なくとも1つのトランジスタ9、および任意に導電性経路12を介して、導電性の、例えば金属製の相互接続部4に接続し、例えばクロストークおよび容量結合を避けることができる。図3Aはさらに、先に既定した導電性の、例えば金属製の電極3を、不動態化した導電性の、例えば金属製の相互接続部4を通じて結合させる、導電性の接合パッド5、例えば金の接合パッドを示している。活性シーブ1を収容する基板7の外部表面は、表面層6、例えば上部の不動態層6によって、さらに不動態化してもよい。
【0059】
本発明の実施形態に従って、活性シーブ1は、サンプル準備ステップ、例えば、特に、磁性ビーズを使用して、複雑なサンプルマトリックスから細胞を濃縮する免疫磁性分離技術と組み合わせて使用してもよく、それゆえに、該シーブ1を使用して、細胞を保持し濃縮してもよい。それゆえに、好適なホールの大きさを規定することによって、非結合磁性粒子がシーブ1を流れることになり、該粒子を簡単に取り除くことができることは利点である。
【0060】
本発明の実施形態に従って、活性シーブ1は、表面層6をさらに備えてもよく、該層は、所定のコンポーネント、例えば化学修飾したインターフェイスに対する結合特性を化学的に変更することに適合し、増大特異結合または減少非特異結合を達成してもよい。このように、標的細胞は、変化した、表面に対する結合親和性を有することができる。例えば、癌細胞は結合するが、白血球は結合しない。さまざまな表面修飾プロトコルが知られており、例えばタンパク質の非特異相互作用を最小化し、「不活性」無機表面を構築することに好適である。これらは、それに限定されないが、マンニトール、オリゴ糖、アルブミン、ヘパリン、リン脂質、デキストラン、またはポリ(エチレンオキシド)(PEO)を含む。多くのケースにおいて、PEOは最も成功してきており、活性化表面でのポリマー接合、物理吸着、表面重合および自己集積化を含む、PEO機能的表面コーティングを準備するためのいくつかのアプローチが報告されてきている。
【0061】
シーブ1の基板7は、非常に薄くてもよいので、シーブ1は、それらの間に所定の間隔を有する複数のセグメントに分割し、機械的に安定した頑丈なシーブ1を提供するために、該間隔領域において充分なチップの厚さを確保してもよい。これは、図24に図示している。図24の左上部分に、シーブ1を備えるチップを図示している。シーブ1は、複数のセグメント250に分割する。かかるセグメントの4つを、図24の右上部分により詳細に図示している。各セグメント250は、複数の領域10を有し、
それぞれがホール2と、
ホール2と電気的に結合した少なくとも1つの電極3と、
基板7内に集積され、少なくとも1つの電極3、および、例えば動作させ、または測定するための電気回路に少なくとも1つの電極3を相互接続させるための複数の相互接続部4の少なくとも1つに作動可能に接続した少なくとも1つのトランジスタ(図24には図示していない)とを備える。隣接するセグメント250間の、実質的に直交する間隔D1,D2は、対応する方向のセグメント250の寸法に対して、例えば少なくとも20%、例えば約半分の割合を有するであろう。隣接する領域10の、実質的に直交する間隔D3、D4は、対応する寸法の領域10の寸法と、ほとんど同じであり、例えばその80%〜120%であろう。
【0062】
デバイス1の各領域10は、図25に断面図で示すような、ホール2に隣接配置した誘導エレメント11、例えばマイクロ誘導捕捉構造を備えてもよい。誘導エレメント11の形状はさらに、シーブアレイ間の間隔領域における損失なしに、確実にすべての細胞が、シーブホール2へ流れるようにしてもよく、例えば誘導エレメント11の先端を細くしてもよい。図4は、誘導エレメント11に設けた、活性シーブアレイの領域10の断面図を示す。
【0063】
本発明の実施形態に従って、集積した電極3を有する活性シーブ1は、マルチパラメータ細胞分離を可能にする。それゆえに、細胞の大きさの選択は、最適なシーブホールの寸法によって、磁気的操作および/または電気的操作と連動する。いずれの追加の力もない場合、細胞は通常、流体力および重力によってホール2内に捕捉される。追加の磁力および/またはDEP力は合力を変化させ、したがって効率性、特に細胞分離の効率を変化させる。力の略図を、図5Aおよび図5Bに、DEP力および磁力についてそれぞれ示している。誘電泳動は、AC電界内で電気的に分極した物体の運動である。物体は、電界が空間的に均一でない場合は、クーロン力によって動作する。粒子の極性および電荷量は、粒子の相対誘電率および周囲の媒質に依存する。従来のDEP力は、式[1]に従って算出できる。ここで、ωは角周波数であり、Rは細胞の流体力学的半径、εは媒質の誘電率、Eは電界を表す。RE[fCM(ω)]は、クラウジウス−モソッティ(CM)因子(式[2]参照)の実部を表し、τ=ε/σ、τ=CD/2σである。Cは膜の静電容量(F/m)、σは細胞質の伝導率、εは細胞質の誘電率、σは媒質の伝導率である。細胞は通常、薄い殻によってコーティングされた球とみなされ、それぞれ細胞質と細胞膜を表す。これは、しばしばプロトプラストモデルと呼ばれる。このモデルにおいて、CM因子は、追加の静電容量および細胞膜のコンダクタンスを考慮する。プロトプラストモデルに従って、DEP力は、細胞膜および細胞内含有物の両方の極性によって決定する。したがって、DEPスペクトルは、ある程度、細胞の種類に特有のものである。このために、DEPは通常、標識を必要としないが、追加の標識によって、より優れた制御能力を得ることができる。DEP力が正の場合、細胞は電極に引き付けられ、この逆も成立する。
【0064】
【数1】

【0065】
図28に示すように、正のCM因子の実部に対する充分広いウインドウが存在し、伝導率の低い媒質、例えばスクロース緩衝液または1mMのNaCl中では、DEP力は引力である。それに対して、負のみの(即ち斥力)DEP力は、伝導率の高い媒質、例えばPBS、または細胞培地に対して存在する。したがって、媒質の低い伝導率は、本発明の実施形態に係る活性シーブを用いる使用に対して利点がある。さもなければ、EIS測定中、細胞は、DEP力によって電極から反発力を受けることになるからである。
【0066】
インピーダンス測定の等価回路モデルを図29に示しており、RICMは細胞内マトリックスの抵抗であり、CICMは細胞内マトリックスの静電容量であり、RMEMは細胞膜の抵抗であり、CMEMは細胞膜の静電容量であり、RGAPは細胞−電極ギャップの抵抗であり、CGAPは細胞−電極ギャップの静電容量であり、RSOLは媒質ギャップを介した電極−電極抵抗であり、CSOLは媒質ギャップを介した電極−電極静電容量であり、RDLは電極−電解質インターフェイスの抵抗であり、CDLは電極−電解質インターフェイスの静電容量であり、CSUBは基板を介した2つの電極の寄生容量であり、CTRAは単一伝送ラインの寄生容量である。
【0067】
1mMのイオン強度について、インピーダンス測定のシュミレーションを図30に示している。周波数の小さい領域(<1kHz)において、インピーダンスは主に電極−電解質インピーダンスに支配される。中間周波数領域(1kHz−1MHz)において、電極−電解質インターフェイスのインピーダンスは無視できるようになる。したがって、細胞膜のインピーダンスおよび媒質ギャップ(細胞と電極との間の)が支配的になる。ギャップが充分小さい場合、細胞膜インピーダンスは主な貢献をする。より大きい周波数領域(>1MHz)においてでさえ、細胞膜は容量結合し、よって細胞内マトリックスは、全インピーダンスを支配する。細胞の特製化について、細胞膜インピーダンスが大きく関係している。即ち、1kHz〜1MHzの中間周波数領域で測定を実施することには利点がある。図28および図30を比較すると、この領域においてDEP力は正であり、即ち、細胞は電極に引きつけられることがわかる。換言すると、引力は細胞と電極との間のギャップ、したがってギャップインピーダンスに起因する影響を最小化するのに役立つ。
【0068】
細胞が、磁性マイクロ粒子または磁性ナノ粒子(MP)と接合している場合、磁力を印加することができる。磁界中の超常磁性体MPについての磁力は、式[3]で表すことができる。mは磁気モーメント、Bは印加される磁束密度である。細胞−MPの複合体の運動は磁気泳動(MAP)と呼ばれる。多くの細胞は磁性を有しない(即ち反磁性である)。したがって、MPの接合が普通は必要であり、例えば該接合のための抗体−抗原認識によって、生物学的特異性が可能になる。
【0069】
【数2】

【0070】
誘電泳動および磁気泳動の両方について、運動はニュートンの第2法則(式[4]参照)によって調べられる。Gは質量、vは細胞と媒質との間の相対速度、Dは流体学的大きさ、ηは速度、ΣFは、流体力学的けん引力および重力を除くすべての力の総和である。細胞がホール内に捕捉され、すべての力が互いに相殺した場合、第1項は0になる。
【0071】
【数3】

【0072】
細胞捕獲だけでなく、力の組み合わせはまた、細胞遊離にも適用することができる。図6Aは、非標的細胞と比較した、標的細胞の選択的遊離の遊離前を示しており、図6Bは、非標的細胞の遊離を示しており、図6Cは、標的細胞の遊離を示している。標的細胞42と非標的細胞41の異なる物理特性は、斥力の選択的利用を可能にする。したがって、標的細胞42(正の分離)または非標的細胞41(負の分離)のどちらかがシーブ1から反発力を受け、下流での分析のために流れによって運搬される。
【0073】
本発明の実施形態に従って、活性シーブ1は、複数の機能、例えばふるい分けすること、インピーダンス測定、計数すること、動作させること、および/または溶解させることを有するホール2を備えてもよい。前記複数の機能は、細胞のふるい分けの意思決定方法を可能にする。図7のステップ70に示すように、迅速で粗いEIS測定をすべての測定サイクルの第1ステップとして適用し、選択されたホール2に細胞が存在するか否かを伝えることができる。ステップ71で、粗い測定70が、細胞の痕跡が存在することを意味する場合のみ、精密測定が必要となり、ステップ72および73で、捕捉した細胞が標的細胞型か否かを決定する。ステップ71で、細胞の存在が検出されなかった場合、時間は経過し、そしてステップ74で次の走査を待つ。その後、ステップ73の捕捉した細胞の細胞型の決定の後に、ステップ75で選択的に細胞の計数を実施し、および/またはステップ76で細胞溶解を実施する。
【0074】
本発明の実施形態に従って、インピーダンス測定ステップ70を使用して、個々のホール2に細胞が存在するか否かを特定してもよい。これにより、インピーダンス測定の際にシーブ1を走査することによって、シーブ1での細胞濃縮を監視することができる。
【0075】
本発明の実施形態に従って、活性シーブ1は、インピーダンス測定を実施するのに好適なホールを備えてもよい。典型的に、細胞インピーダンス測定のための2つの検出方法、2端子検出および4端子検出がある。2端子検出は、細胞ごとに2つの電極のみの単純な構造を用いてインピーダンスを測定する。電極および導電性ワイヤの数を有効に減少させることができるが、測定は、リード線の抵抗、リード線のインダクタンスおよび浮遊容量を含む寄生インピーダンスに起因する系統的誤差を包含する。該誤差は、4ワイヤ測定を使用することによって有効に減少させることができるが、2組の電極は、局所測定位置で分かれており、1組は電流測定、もう1組は電位測定に使用する。
【0076】
特定の実施形態において、活性シーブ1は、インピーダンス測定を実施するのに好適なホール2を備えてもよく、前記インピーダンス測定は、化学的刺激または物理的刺激の後に影響を受けてもよい。同じ刺激中または刺激後に、標的細胞42および非標的細胞41は、異なる方法でインピーダンス変化を示してもよく、細胞の特定および区別に使用することができる。この点で、広義の刺激はまた、例えばマイクロ粒子/ナノ粒子と細胞との結合のような標識の接合、接合という事象そのものか、これらの粒子を介してはたらく力、例えば磁力の印加か、のどちらかを含む。
【0077】
特定の実施形態において、活性シーブ1は、インピーダンス測定を実施するのに好適なホール2を備えてもよく、前記インピーダンス測定は、インピーダンス測定のステップ70と、細胞の特徴を特定するステップ71との両方を、図7に示すように含む。高速で正確な測定のために、例えば等価な電気回路をモデル化することによって、両態様のために新規なアルゴリズムを開発することができる。例えば、複数周波数の多重信号を印加することができ、対応する周波数でのインピーダンスを後で抽出してもよい。シングルパルス励起を印加し、フーリエ変換(例えばFFT)後の全周波数領域のインピーダンス測定を可能にすることもできる。特に、全周波数帯に対する分光法を、離散した少数の周波数に置き換えることで、測定効率は大きく向上する。
【0078】
本発明の実施形態に従って、さまざまな電極形状パターンを採用し、本発明の実施形態の活性シーブ1を用いたEIS測定を実施してもよい。図8A−図8Cは、好適な電極配置および電極形状の例を示している。図8A−図8Cにおいて、活性シーブ1の個々のホール2は、第1電極62および第2電極63と電気的に結合している。図8Cの特定の実施形態において、第1電極62は動作電極であり、第2電極63は対向電極である。細胞が第1電極62を覆うのに充分大きいと仮定すると、この電極は、より大きい細胞を通じて電流を伝送し、最後に電流は媒質を通じて第2電極63を流れる。この実施形態において、細胞は、第2電極63を完全に覆うということはないだろうし、したがって、媒質のインピーダンスも、細胞との直列接続で測定することになることに注意する。しかしながら、これは、対向電極が充分大きい限りは重要でない。なぜなら、細胞のインピーダンスと比較して、媒質のインピーダンスを無視できるからである。最も好適な形状の選択は、高い信号対騒音比と製造の容易さとの間のトレードオフであり、更には、因子の数に依存する。該因子は、例えば細胞の大きさ、細胞の変形能、媒質の伝導性、流れ圧力、および/または流量の安定性などの物理的因子、例えば光アライメントの解像度、フォトレジストのトーン(tone)およびフォトレジストのタイプ、および/または電極パターニングのための方法などの製造の実行可能性、ならびに最小の寄生インピーダンス、ホール間のクロストークまたは設計規則における他の基準を目的とするチップレベルでの電気的特性を含んでもよい。
【0079】
図9において、1つの設計形状を図示しており、活性シーブデバイス1の個々のホール2は、両側に電極を有し、一方の電極100を上部に、他方の電極101を底部に有する。別の設計形状を図10に示しており、その中で、本発明の実施形態に係る活性シーブデバイス1の2つのホールを図示しているが、各ホール2は、少なくとも複数のホール2に共通して、局所動作電極81a、81b、および包括的対向電極82とそれぞれ結合している。各ホール2はさらに、1組より多い組の電極を有してもよい(図10には示していない)。
【0080】
本発明の実施形態に従って、活性シーブ1内のホール2の個々のアドレス能力はさらに、標的細胞42と非標的細胞41の両方の電気穿孔法を可能にする。該電気穿孔法は、EIS測定のための電極と同じセット、または同じホール2と結合した異なる電極によって可能になる。電極をEIS測定と電気穿孔法の両方で共有する場合、図11に示すように、読み出し回路(EISのための)および駆動回路(電気穿孔法のための)のための特別な切り替え回路が要求されることもある。
【0081】
本発明の実施形態に従って、生物検体13が、活性シーブ1のホール2を通って特性化されることを含む、流れ、例えば液体の流れは、図12に示すように、デバイス平面と実質的に垂直方向である。マイクロホールアレイの構造に対する細胞の入射位置に依存して、いくつかの細胞、例えば図12の中央に示す細胞は、流れて2つの隣接するホールの中央の位置に達する可能性がある。この位置は、構造の対称性に起因する、流体力学的局所エネルギーが最大となる特異な位置であり、決定的ではない横方向、例えば図12における左または右に進み、細胞は最終的に捕捉されることになる。細胞は、位置の特異性に起因して、最終的に隣接するホール2のうちの1つへ移動する可能性があり、細胞−デバイスの付着状態が長い時間続く可能性は、精密な環境に大きく依存する。この問題は、単調な局所エネルギー場に起因して、細胞の大部分、例えば図12の左および右の細胞には重要でないかもしれない。しかしながら、循環腫瘍細胞(CTC)の細胞分離は、細胞消失への非常に低い耐性に起因して、受容することができない。図12に示す実施形態において、電極3を基板表面上に設けてホール2を形成することができる。さらに、ホール2は先の細い形状を有しており、ホールの流出側に向かって断面寸法が減少する。代替の実施形態において、他の図面で示すように、ホール2は、実質的にホール2の高さ全体を越える断面寸法を有する直線形状をとることができる。その上部、または代替として、ホール2に隣接する基板の主表面に、電極3を設けることができる。
【0082】
特定の実施形態において、特別なマイクロ構造の設計を提供して、構造の対称性を減少させ、または避け、したがって特異なエネルギー位置を避けてもよい。例えば、孤立構造280は、図27に示すように、隣接する細孔の間に製造して細胞の流れを誘導することができる。孤立構造280は、不動態材料から、3D形状を有する誘導エレメントを形成してもよい。
【0083】
特定の実施形態において、追加の力/場の摂動を加えてエネルギーの特異点(singularity)を避け、2つのホール2の間に付着した細胞を再度活性化させてもよい。追加の力は、例えばDEP力、磁力、音響力、または単に変化した流速および/もしくは方向のような、いずれの好適な力も可能である。
【0084】
本発明の実施形態に従って、活性シーブ1の機械的強度は、充分大きい流速を維持することができるようにし(>20μl/min、例えば、少なくとも1mL/min)、シーブに細胞を供給することに使用されるマイクロ流体チャネル内のビーズの固着を避ける。シミュレーションは、10000個の細孔(4μm×4μmの開口部、厚さ0.3mm)を有するシーブに対して、1mL/minの流速で、3000Paの誘起圧力、および10Paのミーゼス応力を想定した。本発明の実施形態に係るシーブは、印加される圧力、応力および力に耐えるのに充分強い必要がある。
【0085】
本発明の実施形態に従って、活性シーブ1は、濃縮に使用してもよく、または、種々のサンプル準備ステップとさらに結びついてもよい。例えば、流体マトリックスの中に存在する大きい生体化合物、例えば牛乳内のバクテリアをシーブ1に保持することができる。一方、他のすべての、より小さい非標的化合物は、シーブを通過することができる。保持された化合物は、化合物を保持するホール2と結合した電極3と接触するので、上述のように、電気的に連続して分析することができる。保持された化合物は、少なくとも1つの電極、および該少なくとも1つの電極を分析回路に接続する複数の相互接続部に作動可能に接続した少なくとも1つのトランジスタの存在に起因して、個々に分析することができる。本発明の実施形態に係る活性シーブ1はまた、免疫磁性純化技術と結びつくことができる。複雑マトリックスに由来する化合物(例えば細胞)の免疫磁性濃縮の後、非結合磁性ビーズ(または、細胞に由来する、切断されたビーズ)を、興味ある化合物のみが分析のために保持される間に、ホール2を通過させることができる。これは図13に示しているが、本原理を他の濃縮技術、たとえば密度遠心分離による細胞濃縮と組み合わせて適用することもできる。図13に例示する手順は、次の連続するステップ、即ち、サンプル準備ステップ31、複雑なマトリックスの残部に由来する、結合および非結合磁気ビーズの分離ステップ32、ならびに標的細胞の検出ステップ33ならびに廃棄物(非結合ビーズ)処理ステップを示す。
【0086】
本発明の実施形態に従って、活性シーブ1は、下流の加工ステップと組み合わせて使用してもよい。例えば、細胞の電気的分析の後、それらを個々に溶解または動作させ、下流でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施してもよい。代替として、濃縮した細胞の存在を光学的に検証し、特性化してもよい。本発明の実施形態に従って、活性シーブ1内のホール2はさらに、細胞の特性化のためのインピーダンス分光法に加えて、細胞の光学的なアドレス能力に対応している(個々に)。これは、シーブを、光学的に透明なカバー、例えばスライドガラスまたはポリカーボネートの蓋で包むことによって実施可能になる。細胞は、種々の光学的標識と接合してもしなくてもよい。標識を用いない光学的観察を使用して、細胞の形態、例えば大きさ、形状、透明度などを調べることができる。特に、分子レベルの更なる情報は、特定の蛍光分子、例えば特定の抗体、プラズモン標識、または表面増強ラマン散乱(SERS)標識との接合によって取得することができる。光信号は、インピーダンス分光法と組み合わせて使用し、細胞の特性化の、特異性、感度、信頼性および効率性を向上させることができる。細胞は、大きさ、透明性、形態、または蛍光/SERSスペクトルに従って光学的に分類し、特有のインピーダンススペクトルに従って電気的に分類することができる。異なる光学的および電気的特徴を有する細胞に対しては、どちらかのアプローチが分類のために効果的である。類似の光学的特徴を有するが、異なる電気的インピーダンススペクトルを有する細胞に対しては、電気的特徴を使用して分類することができ、この逆もまた成立する。これら2つの技術の組み合わせは、細胞の特定および分類のための、相互検証および独立検証を提供する。
【0087】
第2の態様において、本発明は、活性シーブデバイス1を製造するための方法90に関する。例示的な方法90は、これ以降に記載しており、図23に示している。
【0088】
方法90は、基板を提供するステップ91を含む。本発明の文脈中、用語「基板」は、いずれの基礎となる材料、または活性シーブ1を形成するために使用する可能性のある材料、または少なくとも1つのホールと電気的に結合した少なくとも1つの電極と作動可能に接続したトランジスタを上部に形成した材料を含んでもよい。本発明の実施形態において、この「基板」は、半導体基板、例えばシリコン、ヒ化ガリウム(GaAs)、ガリウムヒ素リン(GaAsP)、リン化インジウム(InP)、ゲルマニウム(Ge)、またはシリコンゲルマニウム(SiGe)、またはポリエチレンテレフタラート(PET)、またはポリカーボネート(PC)基板を含んでもよい。該「基板」は、半導体基板部分に加えて、例えばSiOまたはSiのような絶縁体層を含んでもよい。したがって、基板という用語はまた、シリコンオングラス基板、シリコンオンサファイア基板を含む。したがって、用語「基板」は、概して、基礎となる、または興味ある層もしくは部分、特にシーブ1を形成する層のためのエレメントを定義するために使用する。例として、本発明はそれに限定されないが、基板は、シリコン−オン−インシュレータ(SOI)ウエハ、例えば10μm〜20μmの厚い上部シリコン層および約10μmの埋め込み酸化層(BOX)を有するSOIウエハでもよい。
【0089】
本発明の実施形態に係るトランジスタ集積活性シーブ1は、半導体技術を使用して製造する。基板は、集積トランジスタの製造を可能にする。ここで、方法90はさらに、トランジスタ層を、例えば前工程(FEOL)において作成するステップ92を含む。トランジスタのタイプは、バイポーラ接合トランジスタ(BJT)または金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)が可能であり、好ましくはMOSFETであり、より好ましくは相補型金属酸化膜半導体(CMOS)である。高電圧が必要な場合は、拡散金属酸化膜半導体(DMOS)を使用することができる。典型的に、CMOSベースのトランジスタ9は、例えば0.35μm、0.25μm、0.18μm、0.13μm、90nm、65nm、45nm、32nm、またはそれ以下の半導体のテクノロジーノード(node)を使用したFEOLステップで製造してもよい。FEOL加工後の、活性シーブチップの概略図を図14に示しており、トランジスタ9は詳細に図示しておらず、トランジスタ層として図示している。
【0090】
方法90はさらに、電極層を作成するステップ93を含む。トランジスタ9を製造した後、シーブの他の構造、例えば電極3、導電性経路12および相互接続部4を後工程(BEOL)で製造してもよい。図15に示すように、細胞インピーダンス測定および/または電気的細胞位置決め(例えばDEP)のための電極を、電極間および/または上部に絶縁部6を任意に有するチップの上部(即ち前面)に製造してもよい。
【0091】
電極材料は、直流電流および/または交流電流を導電することができるいずれの材料も可能であり、Au、Pt、W、TiN、TaN、IrO、C、カーボンナノチューブ/カーボンナノシート、Ag、Ag/AgCl、グラフェン、Al、Cu、ITOを含むが、これらに限定されない。絶縁体材料は、SiO、SiN、Ta、パリレン、SU8、ポリアミドまたは直流電流に対する大きいインピーダンスを示す他の任意の材料が可能である。
【0092】
方法90はさらに、ホール2、例えばスルーホールを基板7に作成するステップ94を含む。ホール2は、ウェットエッチング、例えばKOHもしくはTMAHのようなエッチング液での異方性エッチングを使用して、またはドライエッチングを使用して製造してもよい。ドライエッチングは、反応性イオンエッチング(RIE)、深堀り反応性イオンエッチング(DRIE)またはイオンミリングが可能である。スルーホールは、単一ステップ(図15および図16)または複数のステップ(図15、図16Bおよび図17〜図21)におけるドライエッチングが可能である。単一ステップエッチングの場合、チップの上部に前面エッチングマスクを堆積およびパターン化し、次にエッチングによってスルーホールを開口する(図16A)。ホールの直径は、適用方法に依存してもよい。循環腫瘍細胞(CTC)分離のための典型的な大きさは、1μm〜10μm、好ましくは3μm〜6μmの範囲にある。
【0093】
単一ステップエッチングが技術的に難しい場合、複数のステップにおいてスルーホール2をエッチングすることができる。最初、ブラインドホール20は、前面(図16B)から基板7内までエッチングされる。次に、デバイスは、任意に、例えば接着剤14を用いて、前面のキャリア基板15、例えばSiウエハの上に接着させてもよい。その後、第2ブラインドホール21を、フォトリソグラフィを使用して、後面から第1ホール20に達するまでエッチングし、スルーホールを形成する(図20A)。任意であるが、後面エッチングが達成できる最大深さに依存して、ウエハを薄くするステップを後面ホールのエッチング前に実施することができる。後面ホールの直径は、前面ホールの直径よりも大きくてもよく、例えば5μm〜50μmである。
【0094】
例えば、いくつかの状況において、ホール2内でなくホール2の上方で細胞を物理的に捕捉する必要がある場合、例えば図18で示すような不動態材料で形成される構造16、または図27で示すような孤立構造280のようなマイクロ構造をシーブ1上に製造することができる。ここで、典型的な実施形態として、マイクロ構造を形成するために、不動態材料層16をシーブの前面に堆積してもよい(図17)。リソグラフィを使用してシーブ1の上方にマイクロ構造を製造するために、2つのアプローチを適用することができる。
【0095】
第1のアプローチにおいて、不動態材料層16は、図16Bのような構造に付加されるが、ブラインドホールが既に設けられている。最初、図18に示すように、マイクロ構造を不動態材料層16内でパターン化し、次に、前面ホール20の内部で不動態材料16をエッチングする。
【0096】
代替として、図15に示すような構造に、即ちホール2またはブラインドホール2を設ける前に不動態材料層16を付加する。この場合、最初に、スルーホール(不図示)として、または図19に示すようにブラインドホールとして、不動態材料層16を貫通して前面ホールをエッチングする。その後、マイクロ構造を不動態材料層16内でパターン化する。
【0097】
前面ホールを共に開口してマイクロ構造を形成した後、どちらかのアプローチを使用して、後面からシーブを加工して、スルーホールを作成することになる。ここで、マイクロ構造を有するシーブは、図20Bに示すように、接着剤14を用いてキャリアウエハ15に接着してもよい。必要であれば、チップを薄くすることができる。
【0098】
方法90は、図21に示すように、例えば後面からコーティングされた、直流電流に対して大きいインピーダンスを有する不動態材料から成る少なくとも1つの層22を作成するステップ95を任意に含んでもよく、先の加工ステップに由来する欠点をカバーし、媒質からトランジスタまでの容量結合を減少させ(シーブの後面に達する際、この媒質は廃棄物、即ちシーブによってブロックされてきた興味ある細胞を主に含むので)、および/または媒質から使用中の固体デバイスまでの腐食を避ける。この作成ステップ95は、材料の堆積または熱酸化の使用を含んでもよい。かかる不動態層は、個々の電極を分離して電極間の干渉を妨げることができる。不動態層の厚さおよび均一性は、上記目的の達成を可能にする必要があるが、シーブの機能を害しない必要がある(例えばホールのブロッキング)。不動態材料は、SiO、SiN、Ta、パリレン、SU8、テフロン(登録商標)、ポリアミドなどが可能である。典型的な厚さは、5nm〜1μmの範囲にあってもよく、好ましくは10nm〜200nmである。
【0099】
製造の後、キャリアウエハ15は、付加する際に除去してもよい。
【0100】
本発明の実施形態に従って活性シーブを製造するための方法はさらに、電子回路、チップ、バイオセンサ、光センサ、光刺激装置の少なくとも1つを設けるステップを含んでもよく、該方法はさらに、相互作用するための、更なる電子デバイスを設けるステップを含んでもよい。
【0101】
本発明の第3の態様は、活性シーブデバイス1を用いて生物検体13を分析するための方法、例えば単細胞の電気的読み出しと組み合わせて細胞を濃縮して、細胞を分離し、計数し、および潜在的には区別までも行い、または溶解させるための方法に関する。前記方法は、ホール2を有する活性シーブ1、それと電気的に結合した電極3、および本発明の第1の態様に関する上記のような集積トランジスタの動作に関する。動作方法は、生物検体13を含む媒質を活性シーブ1に導入することと、活性シーブ1により生物検体13を分離することと、活性シーブデバイス1内のトランジスタ9を駆動することによって、分離した生物検体13上で測定を実施することと、測定に従って、標的とした生物検体を特定することとを含む。
【0102】
細胞分離、EIS測定、DEP位置決め、および細胞溶解についての例示的な動作フローを図22に示している。動作ステップは、デバイス動作と流体動作とに分類される。簡単に言うと、特定の媒質中の細胞は、シーブに誘導され、媒質の残りの部分から分離する(例えば、媒質中のより小さい細胞、タンパク質およびDNA)。その後、DEP位置決めによって支援された状態で、細胞インピーダンスを測定する。標的細胞が特定された場合、それらを電気的に溶解してもよい。
【0103】
EIS測定は、「オープン−ショート−ロード」(open-short-load)補償方法をベースにしており、信号伝送に沿って寄生インピーダンスを補償する。したがって、EIS測定は、ホールのすべて、または一部の上で空のロード(「オープン」)を用いたインピーダンス測定で開始する。シーブは、構造が典型的な活性ホールと類似または同一である、いくつかの校正エレメントを集積してもよいが、EIS電極は電気的に短絡している。これらの校正エレメントは、ゼロロード(「ショート」)を有するとみなすことができる。細胞が流入する前に、デバイスが媒質で湿っている場合、媒質のインピーダンスを測定することができる(「ロード」)。代替として、EIS電極が既知のインピーダンスの回路エレメント(例えば、抵抗またはキャパシタ)によって接続されている校正エレメントから、既知の値のロードを取得することができる。その後、上記の3つの実測結果を、オープン−ショート−ロード補償に使用する。いずれのEIS測定においても、励起信号は電圧(したがって電流を測定する)または電流(したがって電圧を測定する)が可能である。いずれの状況においても、最大電圧は、媒質の電気分解を避けるために10Vに制限されている。好ましくは、電圧は1V未満である。
【0104】
DEP電圧は通常50mV〜10V、10Hz〜100MHzである。所望のDEP極性およびEIS周波数に依存して、DEP信号は、EIS信号と同時に、または異なる時に、DEP電極を通じて印加することができる。EIS信号が、興味ある細胞のDEPスペクトルに合致する場合、DEP力は、EIS信号によって取得することもできる。この場合、DEP電極を使用しなくてもよい。
【0105】
本発明は図面および先の説明において詳細に図示し、説明してきた。かかる図示および説明は、説明目的または励磁であり、制限的なものではない。先の説明は、本発明の特定の実施形態を詳細に述べている。しかしながら、どれほど詳細に先の説明を明細書にて行っても、本発明は多くの方法で実施できことが理解されるだろう。本発明は、開示した実施形態に限定されず、請求項の用語によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物検体の分離および/または特性化のための活性シーブデバイスであって、前記デバイスは、生物検体を支持するための基板を備え、該基板は、複数の相互接続部および複数の領域を有し、各領域は、
ホールと、
ホールと電気的に結合した電極であって、基板に内蔵され、または基板上に配置された少なくとも1つの電極と、
前記基板内に集積され、少なくとも1つの電極および複数の相互接続部の少なくとも1つに作動可能に接続された少なくとも1つのトランジスタとを備える活性シーブデバイス。
【請求項2】
前記少なくとも1つのトランジスタは、前記基板に内蔵され、前記少なくとも1つの電極は、基板の表面に対する法線に実質的に沿った方向に配置された導電性経路を介して、前記トランジスタに接続している請求項1記載の活性シーブデバイス。
【請求項3】
少なくとも1つの電極は、例えばインピーダンス測定を可能にするように配置された少なくとも2つの電極を備える請求項1記載の活性シーブデバイス。
【請求項4】
マルチプレクサ、アナログ−デジタル変換器、デジタル−アナログ変換器、処理ユニット、高速フーリエ変換装置、および通信制御装置、ならびに/または他のデジタル回路をさらに備える請求項1記載の活性シーブデバイス。
【請求項5】
各領域は、前記ホールに隣接配置された誘導エレメントをさらに備える請求項1記載の活性シーブデバイス。
【請求項6】
該複数の領域は、例えば基板の正平面部分を形成するように配置した請求項1記載の活性シーブデバイス。
【請求項7】
磁気的操作または電気的操作を実施することによってマルチパラメータ分離を可能にするために、前記少なくとも1つの電極を駆動するための駆動手段をさらに備える請求項1記載の活性シーブデバイス。
【請求項8】
細胞を計数し、動作させ、および/または溶解させることに適合した制御装置をさらに備える請求項1記載の活性シーブデバイス。
【請求項9】
光学的に細胞にアドレスするための手段をさらに備える請求項1記載の活性シーブデバイス。
【請求項10】
所定のコンポーネントについて、結合特性を化学的に変更することに適合した表面層をさらに備える請求項1記載の活性シーブデバイス。
【請求項11】
活性シーブデバイスを製造するための方法であって、
基板を取得することと、
前記基板上に、複数のトランジスタを備えるトランジスタ層を設けることと、
前記基板上に、それぞれが少なくとも1つのトランジスタと作動可能に接続した複数の電極を備える電極層を設けることと、
前記基板内に、それぞれが少なくとも1つの電極と電気的に結合した複数のホールを設けることとを含む方法。
【請求項12】
直流に対して大きいインピーダンスを有する不動態材料から成る少なくとも1つの層を付加することをさらに含む請求項11記載の方法。
【請求項13】
基板上部に、少なくとも1つの誘導エレメントを設けることをさらに含む請求項11記載の方法。
【請求項14】
活性シーブデバイスを用いて生物検体を分析するための方法であって、
前記活性シーブデバイスは、生物検体を支持するための基板を備え、該基板は、複数の相互接続部および複数の領域を有し、各領域は、ホールと、ホールと電気的に結合した電極であって、基板に内蔵され、または基板上に配置された少なくとも1つの電極と、前記基板内に集積され、少なくとも1つの電極および複数の相互接続部の少なくとも1つに作動可能に接続された少なくとも1つのトランジスタとを備え、
前記生物検体を含む媒質を、前記活性シーブデバイスに導入することと、
該活性シーブデバイスを用いて前記生物検体を分離することと、
前記トランジスタを駆動することによって、前記分離した生物検体上で測定を実施することと、
前記測定に従って、標的とした生物検体を特定することとを含む方法。
【請求項15】
前記標的とした生物検体を計数すること、動作させること、および/または溶解させることをさらに含む請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−65649(P2012−65649A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−196042(P2011−196042)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
【Fターム(参考)】