説明

活性メチレン基のジメチル化の方法

本発明により、活性メチレン基のジメチル化の方法が開示される。具体的には、本発明により、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを調製するための方法が開示される。本発明のジメチル化の方法によって生成される3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドなどの化合物は、治療薬、予防薬または診断薬(例えばアリスキレンまたはクリプトフィシン)の合成経路における中間体として使用することができる。特に、本発明は、前記治療薬、予防薬または診断薬を含む医薬製剤を調製するための方法にまでも及ぶ実施形態に関する。より具体的には、本発明は、治療薬、予防薬もしくは診断薬を製造するための、または前記治療薬、予防薬もしくは診断薬を含む医薬製剤を製造するための、本発明のジメチル化の方法によって生成される化合物の使用に関する。本発明による方法は、アリスキレンまたはクリプトフィシンなどの種々の医薬品有効成分の合成に有益に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性メチレン基のジメチル化の方法に関する。本発明は、さらに、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを調製するための方法に関する。本発明のジメチル化の方法によって生成される化合物は、治療薬、予防薬または診断薬(例えばアリスキレンまたはクリプトフィシン)の合成経路における中間体として使用することができる。特に、本発明は、前記治療薬、予防薬または診断薬を含む医薬製剤を調製するための方法にまでも及ぶ実施形態に関する。本発明は、また、治療薬、予防薬もしくは診断薬を製造するための、または前記治療薬、予防薬もしくは診断薬を含む医薬製剤を製造するための、本発明のジメチル化の方法によって生成される化合物の使用にも関する。本発明による方法は、アリスキレン、クリプトフィシンおよび同様な他の化合物などの種々の医薬品有効成分の合成に有益に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
ジメチル化されたメチレン基を含む化合物は、医薬品有効成分の重要な中間体である。モノメチルのおよび脱メチル化した不純物がほとんどなく、迅速、簡便、堅調で、比較的危険がなく、工業規模に適している、高収率の生成物が得られる活性メチレン基のジメチル化の方法を実現することへの関心が大きい。モノメチルのおよび脱メチル化した不純物がないことは、生成物からのこれらの除去が非常に厄介で、多数の方法が結果的に不満足な収率となってしまうので、とてつもなく重要である。
【0003】
α,α−ジメチル置換されたカルボン酸の誘導体のような化合物を調製する方法がChem.Pharm.Bull.33、3046(1985年)に開示され、この方法では、シアノ酢酸エチルが、エタノール中で水酸化カリウムの存在下でヨウ化メチルを使用してメチル化された。同様に、Tetrahedron44、1107(1988年)には、テトラヒドロフラン中で水素化ナトリウムの存在下でヨウ化メチルを使用したシアノ酢酸アルキルのジメチル化が開示されている。Tetrahedron Lett.46、6337(2005年)には、エタノール中でナトリウムエトキシドと共にヨウ化メチルを使用することがさらに明らかにされている。全ての3つの合成経路は、生成物中にモノメチルのおよび脱メチル化した不純物が相当存在する欠点がある。2005年の刊行物では、N−CBzを保護してさらに精製を実行することで前記欠点を解決することが示されているが、当該誘導体化は全収率を低下させてしまう。
【0004】
さらに、従来のメチル化剤であるヨウ化メチルまたは臭化メチルを使用したCH酸性化合物のジメチル化の方法(炭酸カリウムを塩基として使用し、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシドとテトラヒドロフランの混合物を溶媒として使用する。)が、例えば、EP1717238A1;K.Beckら、Chemische Berichte、第120巻、1987年、477頁から483頁;W.Adam、Synthesis、1995年、1163頁から1170頁;WO2008/147697およびDE10357978A1に開示されている。
【0005】
2−シアノアセトアミドのジメチル化の方法において、さらに安価なジメチル硫酸を使用する試みがCN1990461に開示されたが、当該手順は再現性が低く、相当量のモノメチルの残留物が検出された。活性メチレン基のジメチル化は、WO00/023429でさらに開示され、この文献では、エチル2−シアノアセテートのジメチル化は、ジメチルホルムアミド中でのヨウ化メチルおよび炭酸セシウムの使用により達成された。
【0006】
EP0924196A1には、トリアルキルアミンまたはトリアルキルホスフィンの存在下での、アルキルシアノまたはベンジルシアノ誘導体のアルキル化方法が記載されている。とりわけ、この文献には、トリオクチルアミンの存在下での水性水酸化ナトリウム中のシアン化ベンジルのジメチル化が開示されており、この文献では塩化メチルが高圧下でメチル化剤として使用される。しかし、この方法は極めて腐食性の条件を用いるので、加水分解性の出発化合物には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1717238号明細書
【特許文献2】国際公開第2008/147697号
【特許文献3】独国特許出願公開第10357978号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第1990461号明細書
【特許文献5】国際公開第00/023429号
【特許文献6】欧州特許出願公開第0924196号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chem.Pharm.Bull.33、3046(1985年)
【非特許文献2】Tetrahedron44、1107(1988年)
【非特許文献3】Tetrahedron Lett.46、6337(2005年)
【非特許文献4】K.Beckら、Chemische Berichte、第120巻、1987年、477頁から483頁
【非特許文献5】W.Adam、Synthesis、1995年、1163頁から1170頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、活性メチレン基のジメチル化のための改善した方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下の項目に要約される本発明の様々な態様、有利な特徴および好ましい実施形態は、それぞれ単独でまたは組み合わせて、本発明の目的を達成することに寄与する:
(1)式(I)の化合物を調製するための方法であって、
【0011】
【化1】

[式中、Wは、−M効果を有する電子求引基を表し、Yは、Wと同一であるもしくは異なる電子求引基であり、またはYは、H以外の、+M効果を有するもしくはM効果のない基から選択される。]
式(II)の化合物
【0012】
【化2】

[式中、WおよびYは上記で定義された通りである。]を極性非プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒中、プロトン受容体の存在下で塩化メチルと反応させる方法。
【0013】
本明細書で用いられる用語「電子求引基」は、負の共鳴効果(いわゆる−M効果)によって定義される、電子的な極性効果を有する部分を意味する。好ましくは、Wは、付加的に負の誘起効果(いわゆる、−I効果)を有し、すなわち、好ましくは−I効果および−M効果の両方を有する。それにより、式(II)の化合物の2つのW基間に位置しているメチレン基において静電力が変更され、すなわち、電子がメチレン基から引き離される。これが次にプロトンの形態のメチレン基のH原子の引き抜きを促進し、すなわち、そこにはある種の「C−H酸性」がある。したがって、この種のメチレン基は、「活性メチレン基」と呼称され得る。
【0014】
Y基が上記で定義された電子求引基ではない場合、WとYの間を結び付けているメチレン基のプロトンの酸性度が、実質的なジメチル化を可能にするのに十分であるように設定される、すなわち、ジメチル化反応が、式(II)の化合物から式(I)の化合物への少なくとも50%の変換、好ましくは少なくとも80%の変換、より好ましくは少なくとも90%の変換をもたらす、特に少なくとも99%の変換をもたらすという条件で、Y基を式(II)の他の基Wを考慮して選択できる。「H(水素)以外の、+M効果を有するまたはM効果のないY基」の例は、−I効果および+M効果を有する基、+I効果および+M効果を有する基、−I効果のみを有する基または+I効果のみを有する基である。
【0015】
アジド、NHCOOR、SOR’、OR’およびSR’(式中、RおよびR’は下記に定義される。)は、−I効果および+M効果を有する基の例を表す。フェニルもしくはナフチルなどの6員単環または6員縮合環から選択されるアリール基は、−I効果および+M効果を有する基の例である。例えば、非置換の直鎖または分岐アルキル基は、+I効果のみを有する基を表す。例えば、−NR(式中、Rは、上記で定義された通りである。)および−NHは、−I効果のみを有する基を表す。Yが+M効果を有する基から選択される場合、酸性度は、実質的なジメチル化を可能にするのに十分である、すなわち、ジメチル化反応が、式(II)の化合物から式(I)の化合物への少なくとも50%の変換、好ましくは少なくとも80%の変換、より好ましくは少なくとも90%の変換をもたらし、−I効果および/またはW基の強力な電子求引特性によって+M効果が取り消される場合のみ特に少なくとも99%の変換をもたらす。
【0016】
本発明のこの有益な態様によると、溶媒が水または他の極性溶媒を本質的に含まないので、MeIに優るMeCIのより良好な反応性を可能にする有利な反応条件が提供される。しかし、有機溶媒は、水をわずかな量含有し得る、または通常の取扱条件下でも依然として少量の水を含み得ることが知られている。効率的な方法を実現するためには、前記溶媒中の水分量は、溶媒の質量を基準として5重量%未満に維持されなければならない。
【0017】
(2)式(I)の化合物を調製するための方法であって、
【0018】
【化3】

[式中、Wは、−M効果を有する電子求引基を表し、
Yは、Wと同一であるもしくは異なる電子求引基であり、またはYは、H以外の、+M効果を有するもしくはM効果のない基から選択される。]
式(II)の化合物
【0019】
【化4】

[式中、WおよびYは上記で定義した通りである。]を溶媒なしで、プロトン受容体の存在下で塩化メチルと反応させる方法。
【0020】
本発明のこの代替の態様によると、溶媒を必要としないジメチル化の方法が提供される。したがって、当該方法は、環境適合性、作業条件およびおそらく経済性を考えると、とりわけ有利である。
【0021】
「電子求引基」および「H以外の、+M効果を有するまたはM効果のない基」の意味に関しては、上記の項目(1)にある説明を参照されたい。
【0022】
(3)Wが、
CN、CHOおよびNO
COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHRおよびCSNR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。);および
COR’、SOR’、CR’=NR”(式中、R’およびR”は、独立して、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から選択される。)
から成る群から選択され;
またはWおよびYが協同して、式Z’(CHZ”[式中、Z’およびZ”は同一でありまたは異なり、CO、CO−O−、CO−NR−、CO−S−およびSO基(式中、RはH、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)のいずれかであり、pは、1から4の間の整数である。]の基を表し;
Yが、上記で定義されたWから選択される同一であるもしくは異なる電子求引基であり、またはYが、アジド、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アルキル、NHCOOR、SOR’、OR’およびSR’、好ましくは、アジド、置換または非置換アリールおよび置換または非置換アルキル(式中、RおよびR’は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から選択される。)から成る群から選択される、項目(1)または(2)に記載の方法。
【0023】
本明細書で使用される「アルキル」とは、炭素原子が1から10個、好ましくは炭素原子が1から8個、より好ましくは炭素原子が1から6個の直鎖または分岐アルキルを意味し、「シクロアルキル」とは、炭素原子が3から8個のシクロアルキルを意味し、「アリール」とは、6員単環または6員縮合環から選択される置換または非置換アリールを意味し、好ましくはフェニルまたはナフチルであり、より好ましくはフェニルであり、「アリールアルキル」とは、アルキルの炭素原子が1から6個である、置換または非置換フェニルアルキルを意味し、「ヘテロアリール」とは、1、2または3個の炭素原子が酸素、窒素または硫黄で交換されている炭素原子が5から7個の芳香環を意味し、「ヘテロアリールアルキル」とは、炭素原子が1から6個のアルキルを含む前述のヘテロアリールを意味する。前述の任意のアルキル、アリール、アリールアルキルまたはヘテロアリールアルキルは、場合によって、このアルキル部分において不飽和結合であり得るまたはこの芳香環部分および/またはアルキル部分において、炭素原子が1から4個のアルキル、F、Cl、Br、OH、OCH、CFおよびCOOR(式中、Rは、H、炭素原子が1から4個のアルキル、フェニル、アルケニルまたは炭素原子が2から10個のアルキニルである。)から選択される1つまたは複数の置換基で置換することができる。
【0024】
(4)Wが、
CNおよびNO
COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHR、CSNRおよびCOR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)から成る群から選択され、
Yが、上記で定義されたWから選択される同一であるまたは異なる電子求引基である、項目(1)から項目(3)のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
(5)Wが、
COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHR、CSNRおよびCOR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)から成る群から選択される、項目(1)から項目(4)のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
(6)Yが、Wと同一の電子求引基である、項目(1)から項目(5)のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
(7)Wが、COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHRおよびCSNR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)から成る群から選択され、YがCNである、項目(1)から項目(6)のいずれか一項に記載の方法。
【0028】
(8)WがCNであり、Yが、COOR、CONH、CONHRまたはCONR(式中、Rは、置換または非置換アルキル、好ましくはメチルまたはエチルである。)である、項目(1)から項目(7)のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
(9)Yが、好ましくはCOORである、項目(8)に記載の方法。
【0030】
(10)WがCNであり、Yが、COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHR、CSNRおよびCOR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)から成る群から選択される、項目(1)から項目(9)のいずれか一項に記載の方法。
【0031】
(11)WがCNであり、YがCOOR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキルまたはベンジル、好ましくはメチル、エチルまたはベンジル、より好ましくはメチルまたはエチルである。)である、項目(1)から項目(10)のいずれか一項に記載の方法。
【0032】
(12)プロトン受容体が、アルカリ金属の炭酸塩から成る群から選択され、好ましくは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウムまたは炭酸カリウムであり、より好ましくは炭酸セシウムまたは炭酸カリウムであり、特に炭酸カリウムである、項目(1)から項目(11)のいずれか一項に記載の方法。
【0033】
(13)極性非プロトン性溶媒が、スルホキシド、スルホンおよびアミドから成る群から選択され、好ましくはDMSOおよびDMFから成る群から選択され、より好ましくはDMFから選択される、項目(1)および項目(3)から項目(12)のいずれか一項に記載の方法。
【0034】
(14)極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物中に含まれる無極性非プロトン性溶媒が、アセトニトリル、エーテルおよびC−C20の炭化水素から成る群から選択され、好ましくはアセトニトリル、ジエチルエーテル、THF、ペンタンおよびヘキサンから成る群から選択される、項目(1)および項目(3)から項目(13)のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
(15)極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒が、極性非プロトン性溶媒の非プロトン性溶媒に対する体積比1:0から1:2を有し、好ましくは、当該比がプロトン受容体の十分な溶解性が提供されるという条件で選択される、項目(1)および項目(3)から項目(14)のいずれか一項に記載の方法。
【0036】
(16)極性非プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒が、溶媒の式(II)の化合物に対する質量比、約1から20、好ましくは約1から5、より好ましくは約2から3で使用される、項目(1)および項目(3)から項目(15)のいずれか一項に記載の方法。
【0037】
本明細書で用いられる単語「約」とは、これを前に付けた値が、当該値の20%で変動し得ることを意味し、好ましくは、当該値の10%で変動し得ることを意味し、これを前に付けた値と一緒になってその値を正確に意味することがより好ましい。
【0038】
(17)前記溶媒が、溶媒の式(II)の化合物に対する質量比、1以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.1以下で使用される、項目(1)および項目(3)から項目(15)のいずれか一項に記載の方法。
【0039】
(18)式(II)の化合物が、液体状または流体状であり、好ましくは、方法が溶媒なしで実施される場合は液体状である、項目(1)から項目(17)のいずれか一項に記載の方法。
【0040】
(19)塩化メチルが、気体状または流体状で提供され、好ましくは、方法が溶媒の存在下で実施される場合は気体状で提供され、または方法が溶媒なしで実施される場合は流体状で提供される、項目(1)から項目(19)のいずれか一項に記載の方法。
【0041】
(20)反応が大気圧または高圧下で実施され、好ましくは約1から約3バールの圧力下で実施され、より好ましくは大気圧下で実施される、項目(1)から項目(19)のいずれか一項に記載の方法。
【0042】
(21)反応が、約−10℃から約100℃の温度、大気圧下で実施され、好ましくは約15℃から約35℃の温度、大気圧下で実施され、または反応が、約10℃未満の温度、高圧下で実施され、好ましくは約5℃未満の温度、高圧下で実施され、より好ましくは、約0℃未満の温度、高圧下で実施される、項目(1)から項目(20)のいずれか一項に記載の方法。
【0043】
(22)モノメチル化された中間化合物の濃度が、式(II)の化合物と比較して1面積%を下回る時に反応が停止する、好ましくは0.1面積%を下回る時に反応が停止する、より好ましくは、ガスクロマトグラムにおいて検出限界を下回る時に反応が停止する、項目(1)から項目(21)のいずれか一項に記載の方法。
【0044】
(23)残留している塩化メチルが、反応混合物を加熱することまたは不活性ガスでバブリングすることにより、反応後に除去され、好ましくは不活性ガスでバブリングすることにより除去される、項目(22)に記載の方法。
【0045】
(24)エステル基であるWおよび/またはYをアミド基に変換する後続ステップをさらに含む、項目(1)から項目(23)のいずれか一項に記載の方法。
【0046】
(25)COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHRもしくはCSNRであるWおよび/またはYを、それぞれCOOH、CONH、COSH、CSOHもしくはCSNHに変換する後続ステップをさらに含む、項目(1)から項目(24)のいずれか一項に記載の方法。
【0047】
(26)シアノ基であるWおよび/またはYをアミノメチル基(−CH−NH)に変換する後続ステップをさらに含む、項目(1)から項目(25)のいずれか一項に記載の方法。
【0048】
(27)前記変換ステップが、アンモニアの存在下で接触水素化によって実施される、項目(26)に記載の方法。
【0049】
(28)塩化メチルが、式(II)の化合物に対して、約1から10倍のモル量で使用され、好ましくは2から5倍のモル量で使用され、より好ましくは2.1から3倍のモル量で使用される、または気体形態の塩化メチルが、体積が1リットルまでにある反応混合物中では、式(II)の化合物に対して4から8倍のモル量で使用され、好ましくは、1から10リットルまでの体積にある反応混合物中では、式(II)の化合物に対して2.5から4倍のモル量で使用され、より好ましくは、10を超え50リットル未満までの体積にある反応混合物中では、式(II)の化合物に対して2.20から3.60のモル量で使用され、特に、50リットル以上の反応混合物中では、式(II)の化合物に対して2.02から2.5倍のモル量で使用される、項目(1)から項目(27)のいずれか一項に記載の方法。
【0050】
(29)反応が密閉容器内で実施される場合、式(II)の化合物に対してモル量が約2.0倍と2.2倍の間にある過剰量で、塩化メチルが使用される、項目(1)から項目(28)のいずれか一項に記載の方法。
【0051】
(30)塩化メチルが、質量比で約5から30過剰の液体形態で使用され、反応温度での塩化メチルの蒸気圧に対応する少なくとも圧力において反応が実行される、項目(1)から項目(29)のいずれか一項に記載の方法。
【0052】
(31)プロトン受容体が、式(II)の化合物に対して、2から4のモル量、好ましくは2.0から2.5のモル量およびより好ましくは2.1から2.3のモル量の量で使用される、項目(1)から項目(30)のいずれか一項に記載の方法。
【0053】
(32)i)接触水素化により変換可能である、W基およびY基のうちの少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の方法によって調製される式(I)の化合物を提供するステップならびに
ii)前記Wおよび/またはY基を接触水素化させるステップ
を含む、ジメチル化されたメチレン基を含み、さらに、シクロヘキシル、−NH、−CHNH、−CHNHR、−CHNR、−CHR’−NHR”、−CHOH、−CHR’−OH、COOH(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルであり、R’およびR”は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から選択される。)から成る群から選択される少なくとも1つの基を有することにより定義される化合物を調製するための方法。
【0054】
本発明の有益な態様によると、アミノ基、ヒドロキシル基もしくはカルボン酸基などの反応基のためまたはかさ高いシクロヘキサン基のため合成について価値ある中間体である化合物は、いくつかの合成ステップだけで得ることができ、同時にステップi)において、モノメチルの不純物および脱メチル化した不純物がほとんどないので、この方法の反応生成物は有利なことに純粋である。ステップi)における実質的に十分な変換により、ステップi)の生成物の精製ステップを行う必要がなく、それゆえ後続ステップii)は、粗生成物を用いて行うことができる。
【0055】
(33)前記方法によって得られた化合物が、COOH基および電子求引基Wを含み、前記COOH基は、COORからCOOHへの変換の後でさらに脱カルボキシル化される、項目(32)に記載の方法。
【0056】
この有益な実施形態によると、−COOH基が脱カルボキシル化の後で−Hによって置き換えられるので単官能化合物が得られる。これらの単官能化合物は、合成の単官能前駆体が必要な治療薬、予防薬または診断薬の合成用に価値のある前駆体である。その一方で、本発明の方法が、アリスキレンまたはクリプトフィシンの誘導体の合成のための中間体の調製に適用される場合、アリスキレンまたはクリプトフィシンの誘導体の合成においては二官能性の中間体が必要である/好ましいので、カルボン酸基を含む生成物の脱カルボキシル化を促進する条件は回避されなければならない。
【0057】
(34)式(I)の化合物が、フェニル、NO、N、シアノ、CONHR、CONR、CR’=NR”、COOR、COR’、COOCHPh(式中、Phは置換もしくは非置換されており、Rは置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルであり、R’およびR”は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から独立して選択される。)から成る群から選択される、少なくとも1つのWおよび/またはY基を含む、項目(32)または(33)に記載の方法。
【0058】
(35)ステップi)のメチル化試薬としての塩化メチルおよびステップii)の水素化試薬としての水素が、気体形態で提供される、項目(32)から項目(34)のいずれか一項に記載の方法。
【0059】
(36)a)項目(8)に記載の方法により2−シアノ−2−メチルプロパン酸のエステルまたはアミド誘導体を提供するステップ、
b)場合によって、エステル基であるYをアミド基に変換するステップおよび
c)シアノ基であるWを、アンモニアの存在下で接触水素化によりアミノメチル基(−CH−NH)に変換するステップ
を含む、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを調製するための方法。
【0060】
(37)ステップb)が、ステップa)の生成物の精製ステップを行わずに実施される、項目(36)に記載の方法。
【0061】
(38)塩化メチルおよび水素が気体状態で(場合によって高圧下で)反応に導入される、項目(36)または項目(37)に記載の方法。
【0062】
(39)酸化、還元、アルキル化、エステル化、アミド化、加水分解、環化、脱保護および触媒反応から成る群から選択される後続の反応ステップまたは精製をさらに含む、項目(36)から項目(38)のいずれか一項に記載の方法。
【0063】
(40)治療薬、予防薬または診断薬が得られる、項目(39)に記載の方法。
【0064】
本明細書で用いられる用語「治療薬、予防薬または診断薬」とは、任意のヒトまたは他の哺乳類の疾患の診断、予防または治療を目的とした任意の医薬品有効成分を意味する。一般に、この用語は、例えば内臓器官、血液循環、成長、ホルモンレベル、細胞排泄、代謝もしくは生理機能の状態に作用する、または前記状態における変化を追跡することに使用することができる任意の医薬品有効成分を意味し得る。例えば、治療薬、予防薬または診断薬は、抗生物質製剤、(サルタン、アリスキレン、利尿剤のような)抗圧薬、ホルモン、ビタミン、(スルホニル尿素、ビグアナイド、チアゾリジンジオンのような)抗糖尿病薬、放射性ヨードを含む化合物または同種のものを意味し得る。本発明による方法は、このような治療薬、予防薬または診断薬の合成に有益に適用することができる。
【0065】
(41)前記治療薬、予防薬または診断薬が、アリスキレンまたはクリプトフィシンの誘導体、好ましくはアリスキレンである、項目(40)に記載の方法。
【0066】
(42)前記治療薬、予防薬または診断薬を含む医薬製剤を得るための後続のステップ(単数または複数)を含む、項目(40)または項目(41)に記載の方法。
【0067】
(43)a)項目(32)に記載の方法によって調製される化合物を提供するステップおよび
b)治療薬、予防薬または診断薬を生成するのに十分な条件下で、前記化合物を反応させるステップ
を含む、治療薬、予防薬または診断薬を調製するための方法。
【0068】
(44)前記治療薬が、アリスキレンまたはクリプトフィシンの誘導体である、項目(43)に記載の方法。
【0069】
(45)
a)式(I)
【0070】
【化5】

[式中、WはCNであり、Yは、COOR、CONH、CONHRまたはCONR(式中、Rは、置換または非置換アルキル、好ましくはメチルまたはエチルである。)である。]の化合物を、項目(8)に記載の方法により提供するステップおよび
b)アリスキレンまたはその薬学的に許容し得る誘導体を生成するのに十分な条件下で、前記式(I)の化合物を反応させるステップ
を含む、アリスキレンを調製するための方法。
【0071】
(46)
a)式(I)
【0072】
【化6】

[式中、WはCNであり、Yは、COOR(式中、Rは、置換または非置換アルキル、好ましくはメチルまたはエチルである。)である。]の化合物を、項目(8)に記載の方法により提供するステップおよび
b)クリプトフィシン誘導体またはその薬学的に許容し得る誘導体を生成するのに十分な条件下で、前記式(I)の化合物を反応させるステップ
を含む、クリプトフィシン誘導体を調製するための方法。
【0073】
(47)a)項目(36)に記載の方法により、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを提供するステップおよび
b)アリスキレンまたはその薬学的に許容し得る誘導体を生成するのに十分な条件下で、前記3−アミノ−2、2−ジメチルプロパンアミドを反応させるステップ
を含む、アリスキレンを調製するための方法。
【0074】
(48)a)項目(36)に記載の方法により、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを提供するステップおよび
b)クリプトフィシン誘導体またはその薬学的に許容し得る誘導体を生成するのに十分な条件下で、前記3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを反応させるステップ
を含む、クリプトフィシン誘導体を調製するための方法。
【0075】
上記でそれぞれ規定されたアリスキレンおよびクリプトフィシンを調製するための方法では、項目(1)から項目(39)で定義されたような条件を選択することが特に好都合である。
【0076】
(49)治療薬、予防薬または診断薬を製造するための、項目(1)から項目(39)のいずれか一項に記載の方法によって調製される化合物の使用。
【0077】
(50)治療薬、予防薬または診断薬が、アリスキレンまたはクリプトフィシンの誘導体である、項目(49)に記載の使用。
【0078】
(51)アリスキレンを製造するための、項目(8)に記載の方法により調製される式(I):
【0079】
【化7】

[式中、WはCNであり、Yは、COOR、CONH、CONHRまたはCONRであり、好ましくはCOOR(式中、Rは、置換または非置換アルキル、好ましくはメチルまたはエチルである。)である。]の化合物の使用。
【0080】
(52)クリプトフィシン誘導体を製造するための、項目(9)に記載の方法により調製される式(I):
【0081】
【化8】

[式中、WはCNであり、YはCOOR(式中、Rは、置換または非置換アルキル、好ましくはメチルまたはエチルである。)である。]の化合物の使用。
【0082】
(53)アリスキレンまたはクリプトフィシンの誘導体、好ましくはアリスキレンを製造するための、項目(36)から項目(41)のいずれか一項に記載の方法により調製される3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドの使用。
【0083】
(54)医薬製剤を製造するための、項目(43)から項目(48)のいずれか一項に従って得られる治療薬、予防薬または診断薬の使用。
【0084】
(55)単一の液相により定義される反応混合物中で実施される、項目(1)から項目(31)のいずれか一項に記載の方法。
【0085】
本明細書で用いられる用語「単一の液相」とは、反応混合物の液相中に液−液界面がないことを意味し、すなわち、溶媒およびこの中に溶解している成分で表される液相が1つだけであることを意味する。このようにして、物質移動が一液相間で起こるので、すなわち、物質移動を遅らせるまたはさらに抑制する液−液界面がないので、速い反応速度または比較的速い反応速度が実現される。
【0086】
(56)相間移動触媒を使用せずに実施される、項目(1)から項目(31)のいずれか一項または項目(55)に記載の方法。
【0087】
相間移動触媒は、例えば、第三級アルキルアミンまたは第四級アルキルアミンである。本発明のこの有益な実施形態によると、プロトン受容体および/または式(II)の化合物などの、不溶の固体成分または部分的に不溶である固体成分を含む反応混合物の場合は、固相と液相の間で物質移動を実現するまたは向上させるための相間移動触媒は必要としない。
【0088】
本発明において、塩化メチル(これが、気体状態で通常条件下にあるにもかかわらず)が、活性メチレン基のジメチル化反応に非常に適するメチル化剤であることが驚くべきことに分かった。このことは、非プロトン性極性溶媒と組み合わせて使用される場合にとりわけ該当する。驚くべきことであるが、塩化メチルは、前記非プロトン性極性溶媒中の溶解性が非常に高く、その結果、たとえ反応がきつく閉じられていない反応器内で起こっても、工業規模におけるロスがわずかだけである。意外にも発見された別の利点は、ヨウ化メチルは従来の条件下ではより反応性の高いメチル化剤であるが、本明細書で開示された条件では、塩化メチルはヨウ化メチルよりも反応性が高いことである。したがって、本発明のジメチル化反応は、出発物質(脱メチル化化合物)またはモノメチル化された化合物がもはや実質的に存在しなくなるまで続く。
【0089】
塩化メチルが通常の条件下(すなわち室温および大気圧)で気体状態であるという事実は、塩化メチルを反応混合物中へ導入することができる、適切なパイプ設備または調節された反応装備を必要とするので、当初は障害であると思われた。通常、十分に装備が整った研究室または具体的に言うと製造工業には、これらの自由裁量で適切な装備がある。しかし、低分子量の塩化メチルが貯蔵の観点からおよび反応混合物中にこれを導入する可能性の観点から取り扱いが適度に容易なので、塩化メチルの有利な作用についての本発明の知識を用いて、本発明の態様を活性メチレン基のジメチル化の方法に取り入れることは特に歓迎される。その上、塩化メチルは、ヨウ化メチルまたは臭化メチルよりも毒性が低く、他のメチルハロゲン化物と比較しても著しく安価である。したがって、工業規模における前述の塩化メチルの利点を考えると、気体の反応物を取り扱うための装備の改造は歓迎される。
【0090】
塩化メチルをジメチル化反応におけるメチル化剤として使用するさらに観察された利点は、反応混合物を他のガスで、好ましくは不活性ガスでバブリングして塩化メチルの過剰の量を除去する可能性である。この特別な特徴により、単にさらなる試薬を添加するだけで、同じ反応混合物における後続の反応ステップを行うことが実現され、有機溶媒の著しい節約がさらに得られる。精製を行わずに粗生成物を後続のステップで使用できるので、本発明により改善が実現される。これとは対照的に、液体の臭化メチルおよびヨウ化メチルでは、未反応のメチル化剤を除去するために、反応混合物から溶媒を完全に蒸発させることが必要である。
【0091】
塩化メチルの使用は、ジメチル化反応が接触水素化反応のステップより前に起こっている時の場合で、より簡略化した方法に寄与することが観察された。このような設定では、1つの気体反応物の代わりに2つの気体反応物が使用される。塩化メチルは、反応混合物中へ水素を供給するためにも使用される同一のパイプシステムを用いて反応混合物中に導入することができる。塩化メチルは、塩化メチルに類する別の気体反応物を使用するために余分の改良を要することなく、水素と同じ様式で反応物中に吹き込まれる。これは、すでに確立されている装備を利用し、当該方法を、取り扱い易く安価で、高収率で十分制御されたものに変更する。ジメチル化後および接触水素化へ進む前に適用される、酸化、加水分解、アミド化などの中間反応ステップ、好ましくはアミド化である中間反応ステップ(単数および複数)があり得る。場合によって、中間反応ステップおよび接触水素化ステップを組み合わせて同時または連続して稼働させるが、ワンポット反応として稼働させる。結論として、本発明により、少なくとも2つの気体反応物が使用される、好ましくは塩化メチルおよび水素が使用される、ジメチル化と接触水素化の組合せを含む方法が提供される。
【0092】
当該反応に、極性非プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物(通常、「非プロトン性溶媒」と呼ばれる)から本質的に成る溶媒を選択することは、本発明による有利な効果にさらに寄与する。非プロトン性溶媒により、塩化メチルの高い溶解性が可能になる。加えて、ジメチル化反応に塩化メチルと一緒に非プロトン性溶媒を使用すると、プロトン性溶媒が使用されるジメチル化反応と比較して、メチル化されない生成物もしくはモノメチル化された生成物または他の副生物が実質的にない、ジメチル化された生成物がより高収率で得られる。塩化メチルは非プロトン性溶媒中で安定である一方で、プロトン性溶媒中ではこれをクエンチさせると考えられるので、非プロトン性溶媒は反応混合物中の塩化メチルの安定性にさらに寄与する。この特徴は、高収率の純粋な生成物を得ることにかさねて寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0093】
本発明は、式の化合物のジメチル化の方法であって、
【0094】
【化9】

[式中、Wは、−M効果を有する電子求引基を表し、Yは、Wと同一であるもしくは異なる電子求引基を表し、またはYは、H以外の、+M効果を有するもしくはM効果のない基から選択される。]式(II)の化合物
【化10】

【0095】
[式中、WおよびYは、上記で定義された通りである。]をプロトン受容体の存在下で塩化メチルと反応させるジメチル化の方法に関する。
【0096】
本発明の態様によるジメチル化の方法は、活性メチレン基を含む物質に適している。活性メチレン基は、1つの電子求引基に隣接したメチレン基であり、好ましくは同一であり得るまたは異なり得る2つの電子求引基の間に位置し、メチレン基内の水素の反応性をより高くしている。電子求引基Wは、CN、CHO、NO;COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHRおよびCSNR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキルである。);COR’、SOR’、CR’=NR”(式中、R’およびR”は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキルから成る群から独立して選択される。)から成る群から選択される。代替として、メチル化することが意図されるメチレン基の両側にある電子求引基を一緒に結合させて、C4からC8の環を形成することができ、式中、WおよびYは協同して、式Z’(CHZ”[式中、Z’およびZ”は、同一でありまたは異なり、CO、CO−O−、CO−NR−(式中、Rは、H、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキルである。);CO−S−およびSO基であり、pは、1から4の間の整数である。]の基を表す。
【0097】
前記環構造には、酸素、硫黄もしくは窒素原子で置換されているさらなる電子求引基または炭素原子を含めることができる。
【0098】
好ましくは、電子求引基Wは、CN、NO;COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHR、CSNRおよびCOR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキルである。)から成る群から選択される。
【0099】
ジメチル化される式(II)による物質中の基Yは、Wと同一であるまたは異なる電子求引基である、またはYは、アジド、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アルキル、NHCOOR、SOR’、OR’およびSR’、好ましくは、アジド、置換または非置換アリールおよび置換または非置換アルキル(式中、RおよびR’は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から選択される。)から成る群から選択される。
【0100】
より好ましくは、電子求引基Wは、COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHR、CSNRおよびCOR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキルである。)から成る群から選択される。
【0101】
具体的には、式(II)[式中、電子求引基Wは、COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHRおよびCSNR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキルである。)から成る群から選択され、YはCNである]による物質が選択される。より具体的には、電子求引基WはCNであり、Yは、COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHR、CSNRおよびCOR(式中Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)から成る群から選択される。
【0102】
好ましい実施形態では、式(II)[式中、WはCNであり、YはCOOR、CONH、CONHRまたはCONR2、好ましくはCOOR(式中、Rは置換もしくは非置換アルキルであり、好ましくはメチルまたはエチルである。)である。]による化合物が、極性非プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒中で、プロトン受容体の存在下で塩化メチルを用いてジメチル化される。さらに好ましい実施形態によると、電子求引基WはCNであり、YはCOOR(式中、Rは置換もしくは非置換アルキルまたは置換もしくは非置換ベンジル、好ましくはメチル、エチルまたはベンジル、より好ましくはメチルまたはエチルである。)である。
【0103】
本発明の別の実施形態によると、活性メチレン基のジメチル化は、極性非プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒中で実施される。
【0104】
前記溶媒は、溶媒の式(II)の化合物に対する質量比が、約1から約20、好ましくは1から5で使用されるのが好ましい。工業規模では、溶媒の量は可能な限り少なくするべきであるが、反応混合物の粘度により制約される。上記で言及した溶媒の量域では、有利な範囲内における反応混合物の粘度の設定が実現され、これにより十分な撹拌が可能になり、それゆえ信頼できる堅調な方法が可能になる。より好ましい溶媒の式(II)の化合物に対する質量比は、約2から約3の間である。
【0105】
しかし、溶媒の式(II)の化合物に対する1未満の質量比まで、溶媒の量を減少させることが可能であり得る。このようにすると有機溶媒の節約に有利であり、このことは前記方法の環境適合性、作業条件およびおそらく経済性に寄与する。上記の方法で使用される溶媒の量は、前記溶媒中の式(II)の化合物の溶解性に左右される。式(II)の化合物が前記溶媒中で非常に易溶性であるまたは式(II)の化合物が液体である場合は、好ましい実施形態を適用することができ、溶媒の式(II)の化合物に対する質量比が0.5未満、好ましくは0.3未満、より好ましくは0.1未満にある、より少ない量の溶媒でさえ使用できる。別の実施形態によると、前記方法は溶媒が存在しない中でも行うことができる。この実施形態は、液体または流体状態にある(例えば、実施例2で例示した)式(II)の化合物に適用可能である。好ましくは、この実施形態では、溶媒なしで反応を行うための十分な低粘度を保証するために、式(II)の液体化合物および液体塩化メチルの過剰量が使用される。液体塩化メチルの過剰量は、好ましくは質量比で5から30であり、最も好ましくは8から15である。液体塩化メチルは、この沸点よりも低い温度で、他の化合物と混合させるべきであり、次に混合物をしっかり閉じて反応容器へ移し、反応温度へ加温する。圧力は、対応する温度における塩化メチルの蒸気圧に従う。反応槽を開けた後で蒸発する塩素化剤の過剰量は、冷凍凝縮器内で簡単に回収され次のバッチで使用される。このような方法は、実験室の規模よりも工業規模でさらに実行可能である。溶媒を完全に除外できるような状況は、前記方法の環境適合性、作業条件およびおそらく経済性を考えると、当該方法をとりわけ有利なものにしている。
【0106】
さらに好ましい実施形態で使用されるプロトン受容体は、pKaが約8を超える任意の物質、好ましくはpKaが約8から約12の任意の物質とすることができる。例えば、塩基性物質のようなプロトン受容体、とりわけ水素化ナトリウム、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物などの無機塩基のプロトン受容体を使用することができ、水酸化ナトリウムまたはアルコキシド(好ましくはナトリウムアルコキシド)を使用できることが好ましい。しかし、好ましい実施形態には、エステル基、アミド基またはチオエステル基を含む化合物のジメチル化が含まれ、強力なプロトン受容体は方法にとって不適当なものになり、出発化合物が加水分解またはエステル転移反応を受けてしまう。むしろこの場合は、弱いプロトン受容体が選択されるべきである。最良の結果は、アルカリ金属の炭酸塩を使用した場合に達成される。好ましく選択されるものは、炭酸セシウム、炭酸リチウム、炭酸ルビジウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムであり、より好ましく選択されるものは炭酸セシウムおよび炭酸カリウムであり、さらにより好ましく選択されるものは炭酸カリウムである。
【0107】
本発明の方法で炭酸セシウムに比べて炭酸カリウムを使用する利点は、炭酸セシウムが、より大きなカチオンを有する炭酸塩であるということにある。より大きな対カチオンを有する炭酸塩は、非プロトン性溶媒中ではるかに多く解離されており、非プロトン性溶媒中では溶解性がより高い。したがって、反応が完了した後、追ってこれらを除去することがより困難である。炭酸セシウムの周辺温度におけるN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホオキシド(DMSO)中の溶解度は、それぞれ1.195g/10mLおよび3.625g/10mLであり、他方、炭酸カリウムの同じ溶媒中の溶解度は、それぞれ0.075g/10mLおよび0.470g/10mLである。炭酸カリウムの溶解度は、ジメチル化反応を可能にするためには十分であるが、同時に任意の反応ステップの場合は、反応物の次の合成ステップ(例えば、水素化)への円滑な移行を可能にするためには、簡単なろ過で十分に炭酸カリウムがほとんど除去される。強力なプロトン受容体とは対照的に、炭酸カリウムには、エステル基、アミド基またはカルバメート基を有する出発化合物を加水分解せず、得られた生成物を単離するために水の添加が必要である時に、これを加水分解しないという利点がある。
【0108】
別の実施形態によると、方法には、溶媒中にプロトン受容体を供給する前に、受容体の供給と一緒にまたは受容体を供給した後に、活性メチレン基を有する化合物を極性非プロトン性溶媒中にまたは極性非プロトン性溶媒とさらなる非プロトン性溶媒の混合物中に供給することが含まれ、プロトン受容体は、好ましくはアルカリ金属の炭酸塩であり、より好ましくは炭酸セシウムおよび炭酸カリウムであり、さらにより好ましくは炭酸カリウムである。加えて、塩化メチルが、他の成分とは独立して溶媒または反応混合物に添加され、好ましくは活性メチレン基を有する化合物およびプロトン受容体が溶媒に添加された後に添加される。塩化メチルは、任意の集合状態で反応物に添加され、これは冷却して液体にし添加できることを意味するが、好ましくは気体状態で添加される。塩化メチルの添加は、一度に行う、複数回に分けて行う、または連続して行うことができる。最も好ましい選択は、数時間の時間帯中の連続添加、好ましくは約5時間の間の連続添加である。
【0109】
本発明の好ましい実施形態では、極性非プロトン性溶媒は、スルホキシド、最も好ましくはDMSO、最も好ましくはスルホランであるスルホンおよびアミドの群から選択され、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルトリアミド、1,1,3,3−テトラメチル尿素または1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−(1H)−ピリミジノンから選択され、より好ましくはN,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドから選択され、最も好ましくはN,N−ジメチルホルムアミドから選択される。
【0110】
本実施形態によると、極性非プロトン性溶媒は単独でまたは種々の極性非プロトン性溶媒の混合物で使用できる。場合によって、極性非プロトン性溶媒は、おそらくアセトニトリル、エーテルまたは炭化水素から選択され、好ましくは、アセトニトリル、ジエチルエーテル、THF、ペンタンおよびヘキサンである、無極性非プロトン性溶媒との混合物で使用される。このような無極性非プロトン性溶媒は、プロトン受容体の溶解性を減少させ、変換の減少をもたらし、それゆえ反応収率が減少する結果となるので、この溶媒の量は限定される。したがって、極性非プロトン性溶媒の無極性非プロトン性溶媒に対する体積比が1:0から1:2である、極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒が使用され、好ましくは前記比は、プロトン受容体の十分な溶解性が得られるという条件で選択される。より好ましくは、無極性溶媒は、式(II)の出発化合物の溶解性を促進するまたは反応収率を最適化するためのみに添加される。
【0111】
方法は、大気圧または高圧下で実施され、好ましくは約1から約3バールの圧力下で実施され、より好ましくは大気圧下で実施される。
【0112】
塩化メチルは、活性メチレン基を含む化合物に対して等モル量、正確に2倍モル量で使用することができ、または2.1倍モル量、2.5倍モル量、3倍モル量、5倍モル量および10倍モル量のモル過剰で使用することができ、またはさらに10倍を超える過剰のモル量で使用することができる。塩化メチルは気体なので、解放された槽中で要求される過剰量は、蒸発による損失によって決まり、反応混合物の体積から蒸発する損失に大きく左右される。塩化メチルの好ましいモル過剰量は、1リットルまでの体積にある式(II)の化合物に対して、4から8倍のモル量であり、より好ましくは、10を超え50リットル未満の体積にある反応混合物中では、式(II)の化合物に対して2.20から3.60のモル量であり、特に1から10リットルの体積にある反応混合物中では、式(II)の化合物に対して2.5から4倍のモル量であり、少なくとも50リットルである工業用の体積にある反応混合物中では、式(II)の化合物に対して2.02から2.5のモル量である。驚くべきことであるが、塩化メチルは、前記非プロトン性溶媒中での溶解性が非常に高く、したがって、反応器がきっちり閉じられていない場合でも工業規模での損失がごくわずかである。きっちり閉じられた槽、特に高圧下の槽では、反応を完了させてモノメチル化された副生成物である残留物を1モル%をはるかに下回るところにもっていくためには、式(II)の化合物と比べて2.0から2.2倍モル量の間の過剰量で通常十分である。
【0113】
反応混合物は、ガスクロマトグラフィー(GC)によって分析でき、モノメチル化された中間体の濃度が、ジメチル化された生成物と比べて1面積%を下回って低下する時に、好ましくは0.1面積%を下回って低下する時に、最も好ましくは検出限界を下回る時に反応が止まった。通常、これには、約5から約48時間かかり、好ましくは、約12から約18時間かかる。
【0114】
反応は、開放された槽内でまたは大気圧において、約−10℃から約100℃の温度で行うことができ、好ましくは、約15℃から約35℃で行なうことができる。高圧においては、反応温度は室温よりかなり低くなり、好ましくは約0℃を下回る。
【0115】
硫酸メチルとは反対に、さらにヨウ化メチルを使用するジメチル化の多くの方法にも反して、本発明の条件に従って塩化メチルを使用するシアノアセテートのジメチル化は、脱メチル化された基質またはモノメチル化された基質が実質的に存在しなくなるまで続く。比較例1では、ジメチル硫酸がメチル化剤として使用され、25から35%のモノメチル類似化合物が反応混合物中に残る。比較例1の場合は、ジメチル化された生成物の収率は、温度を上昇させることにより改善できたが、反応混合物は不安定になり色がかなり変化する。ジメチル硫酸による不完全なジメチル化の問題のほかにも、塩化メチルは、不活性ガスでバブリングするまたは溶液を加熱することのどちらかでこの過剰量を完全に除去できるという可能性に優れており、他方、ジメチル硫酸は残留物を油性にさせ、さらなる化学変換において粗生成物の使用をひどく制限し得る。反応効率に関しては、ヨウ化メチルを使用した時と同様な観察を行うことができ、これは比較例2に開示されている。反応が完了した混合物を20時間撹拌した後で、反応が不十分な出発物質がまだ少なくとも8%含まれていた。これとは対照的に、本発明の概念に従って塩化メチルを使用した場合、脱メチル化された残留物またはモノメチル化された残留物は、(例えば、モノメチル化された化合物の量をGCで分析した実施例1および3)に例示されるように)実質的に何も残っていない。
【0116】
得られたジメチル化された生成物は、従来の任意の化学手法により単離されるが、好ましい方法には、無機沈殿物のろ過、有機溶媒および水による沈殿物の洗浄(好ましくは、抽出で使用したものと同じものによる洗浄)が含まれる。集めたろ液を溶媒/水の2相系で処理して生成物を単離し、水相を除去し、有機溶媒を蒸発させる。粗生成物は、液体生成物には蒸留、固体化合物には再結晶などの従来の化学手法によりさらに精製することができ、または一般の精製法としてクロマトグラフィーにより精製することができる。もし反応手順が許されるなら、好ましい選択肢は、後続のさらなる化学変換に粗生成物を使用することであり、好ましくは、後続の反応は同一の溶媒中で実施される。
【0117】
塩化メチルを使用したジメチル化により調製される、2−シアノ−2−メチルプロパン酸のエステル誘導体、好ましくはメチルエステルまたはエチルエステル、好ましくは特別な精製を行わない粗製エステルは、アンモニアで処理することによりアミドに変換でき、好ましくはアルコール、最も好ましくはメタノールを使用して希釈し、液体アンモニアの沸点から100℃の温度において、好ましくは室温において、約5時間から約48時間、より好ましくは約12から約18時間アンモニアで処理すると、2−シアノ−2−メチルプロパンアミドが得られ、これが従来の化学手法によって単離される。粗生成物は、場合によって溶媒から再結晶させる、最も好ましくはイソプロパノールから再結晶させることにより精製される。
【0118】
代替として、2−シアノ−2−メチルプロパンアミドは、本発明の方法に従って、シアノアセトアミドの塩化メチルを使用したジメチル化により調製することができる。この場合、2−シアノ−2−メチルプロパン酸のアミド誘導体、すなわちシアノアセトアミドを、シアノ基からアミノメチル基への変換に直接供することができる。
【0119】
本発明に従って得られるシアノ基を含むジメチル化された化合物のシアノ基は、例えば、アミド基に変換されるエステル基のような他の電子求引基の変換前後に、変換することができる。この変換は、接触水素化還元によって行うことができ、ここでは触媒およびアンモニアまたはアミンの存在が必要である。適切な触媒は、当業者によって簡単に特定されると考えられる。一般に、触媒は、例えばスポンジ触媒、担持触媒、薄層触媒または非担持触媒とすることができる。好ましくは、触媒は、パラジウム、コバルト、白金またはニッケルのような少なくとも1つの貴金属を含む。加えて、場合によって触媒は、銅、マンガン、クロムおよび鉄の群からの少なくとも1つの金属を含むことができる。好ましくは、水素化は、ラネーコバルト触媒またはラネーニッケル触媒上で実施され、より好ましくはラネーニッケル触媒上で実施される。アンモニアおよびアミンの存在に関して、これらは、単独でまたは組み合わせてのどちらかで使用することができる。しかし、より良好な結果は、1つだけ使用した場合に、とりわけアンモニアを使用した場合に達成される。本発明での用途に適切なアミンは、とりわけモノアルキルアミンまたはジアルキルアミンであり、特にメチルアミンまたはジメチルアミンである。触媒およびアンモニアまたはアミンの存在下で接触水素化が、好ましくは、アルコールから選択される溶媒中で、最も好ましくはメタノール中で、約25ら約100℃の高温において、好ましくは約70ら約80℃の高温で実施される。最終生成物は、従来の化学手法によって単離され、好ましくは再結晶によって単離される。
【0120】
好ましい実施形態では、2−シアノ−2−メチルプロパンアミドは、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドに変換される。本発明では、極性非プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒中において、アルカリ金属の炭酸塩の存在下でシアノ酢酸メチルを塩化メチルと反応させること、エステル基をアミド基に変換すること、およびアンモニアまたはアミンの存在下で水素を使用する接触水素化によりシアノ基をアミンに変換することを含み、塩化メチルおよび水素が気体状態で反応物に導入され、場合によって高温において取り込まれる、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドの調製のための工業的方法が提供される。さらなる代替手段は、同時にワンポットでエステル基をアミド基に変換しシアノ基をアミンに変換することによって、シアノ酢酸メチルのジメチル化を進めることである。この手段は、例えば高圧および高温のような特別な反応条件を適用することによって行うことができる。圧力は、2−10バールに上げるべきであり、温度は、好ましくは20℃から150℃の間に設定される。本発明による3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドは、シアノアセトアミドから開始する場合に、エステル基からアミド基への同時変換の際の中間体を必要としないで得ることができる。
【0121】
本発明による化合物のジメチル化は、エステル基からアミド基への変換および/またはシアノ基の還元に加えて、さらなる変換に結びつけることが容易である。当該変換には、治療薬、予防薬または診断薬、好ましくは、アリスキレンまたはクリプトフィシンの誘導体を得るために、例えば、酸化、還元、アルキル化、エステル化、アミド化、加水分解、環化、脱保護または触媒などの追加の化学反応もしくは精製を含めることができる。特に、本発明によるジメチル化された化合物は、治療薬、予防薬または診断薬の合成経路の中間体として使用することができる。具体的には、これらは、アリスキレンまたはクリプトフィシンを調製するために使用することができる。特別な実施例では、極性非プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒中で、シアノ酢酸メチルがプロトン受容体の存在下で塩化メチルと反応し、エステル基からアミド基への変換を続行し、シアノ基からアミノエチル基(−CH−NH)への変換を続行して3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドが得られ、こうして得られた3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドが変換されてアリスキレンが得られる。この場合もやはり、エステル基からアミド基への変換を最初に行うことができ、シアノアセトアミドがジメチル化のための出発物質として使用される。シアノ酢酸エチルまたは他のシアノ酢酸アルキルもまた、場合によって使用できることを理解されたい。これには、2−シアノ−2−メチルプロパン酸の粗製のエステル誘導体を本発明により調製し、これを使用して3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを調製することができ、これを、例えば降圧剤のアリスキレンを調製する際の構成単位としてさらに使用することができるというつながりがある。3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを使用することによるアリスキレン製造の、必要な実施例で実証されたさらなる教示は、EP0678503に見出すことができる。同様に、2−シアノ−2−メチルプロパン酸のエステル誘導体を使用して、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパノエートを調製することができ、これを抗ガン剤のクリプトフィシンの調製に使用することができる。抗ガン剤のクリプトフィシンの合成に必要な教示は、WO00/023429に開示されている。
【0122】
本発明によって調製されるジメチル化された化合物を変換して得られる、治療薬、予防薬または診断薬、好ましくは、アリスキレンまたはクリプトフィシンの誘導体、より好ましくはアリスキレンは、ヒトまたは他の哺乳類に投与することができる。例えば、投与は経口、非経口(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内)または局所とすることができる。代替的に、または同時的に、投与を経気道経路とすることができる。治療薬、予防薬または診断薬は、単独でまたは他の治療薬と組み合わせて使用することができる。これらは、単独でまたは選ばれた投与経路および承認された薬務に基づいて選択される、薬学的に許容し得る添加剤と一緒に投与することができる。両方の例において、本発明に従って調製される治療薬、予防薬または診断薬を、単独でまたは組み合わせて投与にために適応させる(一般論として、これは、医薬製剤として投与されることを意味する。)。剤形は、適当な投与経路に従って選択することができるが、一般に、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸薬、粉剤などの経口固体剤形;シロップ剤、懸濁剤、乳剤、液剤などの液体剤形;およびクリーム剤、軟膏剤、気泡剤などの半固体剤形の群またはこれらに類するものから選択されると考えられる。必要により、剤形は、投与のために無菌として調製するまたは別の方法で投与に適応させることができる(例えば、丸薬または錠剤をカプセルに充填できる、錠剤を被覆できる、不安定な懸濁剤を安定なものに変換できるまたはこれらに類するものである。)。
【0123】
治療薬、予防薬または診断薬を含む医薬製剤の調製には、好ましくは薬学的に許容し得る添加剤が使用される。例えば、ラクトース、デンプンもしくはセルロースの誘導体のような希釈剤、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸のような流動促進剤、クロスカルメロースナトリウムのような錠剤崩壊剤、ゼラチン、ポリエチレングリコールのような結合剤またはこれらに類するものが固形剤形に使用される。水、適切な油、生理食塩水、デキストロース、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール、EDTA、塩、酸化防止剤(亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸)およびこれらに類するものを、液体剤形の調製に使用することができる。半固形剤形には、水および油を、安定化剤、酸化防止剤およびこれらに類するものと一緒にして、調製のために使用することができる。他の薬学的に許容し得る添加剤は、当業者には直ちに明らかとなる。
【0124】
したがって、本発明の方法には、治療薬、予防薬または診断薬を含む、好ましくはアリスキレンまたはクリプトフィシンを含む、より好ましくはアリスキレンを含む医薬製剤を得るステップ(単数および複数)を含めることができる。投与される治療薬、予防薬または診断薬、好ましくはアリスキレンまたはクリプトフィシン、より好ましくはアリスキレンの用量は、被投与者の年齢、健康および状態に左右され、任意の併用療法および達成されるべき所望の効果もまた考慮に入れることにより決まり、これらの全ては当業者には明らかと思われる。用量は、1ミリグラム未満から、100ミリグラムを超える用量、500ミリグラムを超える用量またはさらに1000ミリグラムを超える用量まで変更することができる。医薬品を用意するために、調製された剤形は、例えばブリスター、プラスチック瓶またはガラス瓶、バイアル、シリンジ、小袋のような適切なパッケージまたはこれらに類するものに入れられる。
【0125】
以下の実施例は、本発明の単なる例示であって、いかなる形でも本発明の範囲を限定するものと考えるべきではなく、これらの実施例、これらの改変および他の同等物は、本開示および添付の請求項に照らし合わせて、当業者には明らかとなる。反応は、GCクロマトグラフィーにより追跡され、出発化合物、中間体の間の比は、ピーク面積の比として規定される。
【実施例1】
【0126】
(本発明に従った実施例1)
メチル2−シアノ−2−メチルプロパノエート(非プロトン性極性溶媒としてのDMF中における)調製
シアノ酢酸メチル(198g)と炭酸カリウム(607.2g)のDMF500ml中の撹拌混合物中に、温度15−30℃で塩化メチルをゆっくりと加えた。反応速度をガスクロマトグラフィー(GC)により確認した。約374gの塩化メチルを加えた後(およそ5時間)で、まだ20%のモノメチル誘導体があった。モノメチル誘導体が0.1面積%を下回って(通常、そこには、もはや検出可能なモノメチル誘導体が存在しなかった。)下降したことをGCが示すまで、15−30℃において塩化メチルの撹拌および(流量を低下させた)添加を続けた。塩化メチルの全消費量は、400gであった。合計反応時間は、12−18時間に変動する。
【0127】
次に反応混合物を窒素でバブリングし、固体物質をろ過し、ろ過ケーキをメチル第三ブチルエーテル(MTBE)800mlで洗浄した。次にろ液を水800mlで洗浄した。水相を、MTBE270mlで再度抽出した。有機相を合わせて、5%のNaClの500mlで2回洗浄し蒸発させると、茶色−黄色の油形態の粗製のメチル2−シアノ−2−メチルプロパノエートが222.8g(88%)得られ、これを精製せずに次のステップに使用した。
【実施例2】
【0128】
(本発明に従った実施例2)
メチル2−シアノ−2−メチルプロパノエートの調製(溶媒なし)
アンカー型撹拌棒を装備したステンレス鋼の高圧槽内で、細かく粉砕した炭酸カリウム(1.21kg)を、2時間かけて強烈に撹拌してシアノ酢酸メチル(0.4kg)と混合すると、乳白色の濁った懸濁剤が得られる。次に、混合物を−30℃に冷却し、続いて液体塩化メチル(3.5L)を注意深く加える。次に、槽をしっかりと閉じ、反応混合物を35℃に温め、36時間強烈に撹拌する。最終的にバルブを開けて圧力を低下させ、塩化メチルの過剰量を、混合物の温度を10−20℃の間に維持し、水(2L)を徐々に加えて低温のコンデンサーへ蒸留する。塩化メチルのほとんどが除去された後に、上層を分別し、水相をメチル第三ブチルエーテル0.5Lで2回洗浄する。有機相を合わせて、5%のNaClの250mlで2回洗浄し蒸発させると、粗製のメチル2−シアノ−2−メチルプロパノエートの452gが得られ、これを蒸留すると若干黄色の油412g(80%)を形成した。
【実施例3】
【0129】
(本発明に従った実施例3)
エチル2−シアノ−2−メチルプロパノエートの(非プロトン性極性溶媒としてのDMF中における)調製
シアノ酢酸エチル(113g)と炭酸カリウム(303.6g)のDMF500ml中の撹拌混合物中に、温度15−30℃で塩化メチルをゆっくりと加えた。反応速度をGCにより追跡した。約195gの塩化メチルを加えた後(およそ5時間)で、まだ23%のモノメチル誘導体があった。モノメチル誘導体が0.1面積%を下回って(通常、そこには、もはや検出可能なモノメチル誘導体が存在しない。)下降したことをGCが示すまで、15−30℃において塩化メチルの撹拌および(流量を低下させた)添加を続けた。塩化メチルの全消費量は、220gであった。
【0130】
次に反応混合物を窒素でバブリングし、固体物質をろ過し、ろ過ケーキをMTBE750mlで洗浄した。次にろ液を水400mlで洗浄した。水相を、MTBE250mlで再度抽出した。有機相を合わせて、5%のNaClの250mlで2回洗浄し蒸発させると、茶色−黄色の油形態の粗製のエチル2−シアノ−2−メチルプロパノエートが108.0g(85%)得られ、これを精製せずに次のステップに使用した。
【0131】
比較例1
エチル2−シアノ−2−メチルプロパノエートの調製
シアノ酢酸エチル(5.65g)と炭酸カリウム(13.8g)のDMF50ml中混合物を10℃に冷却し、次に硫酸メチル15.75gを、温度を35℃未満に維持する間に0.5時間以内にゆっくりと加えた。撹拌を室温で18時間継続し、得られた懸濁液をろ過し、MTBE70mlで洗浄した。次に、合わせたろ液を水(50ml)で洗浄し、水相をMTBE30mlで再度抽出し、有機相を抽出の最初の回収分に加え、合わせたフラクションを最終的に、5%のNaClの30mlで2回洗浄し蒸発させると、茶色の油形態の生成物が5.2g得られ、この生成物には、32.5%(GC、面積)のモノメチル誘導体およびいくらかの量(6%)の未同定の不純物があることが分かった。
【0132】
比較例2
エチル2−シアノ−2−メチルプロパノエートの調製
シアノ酢酸エチル(30g)と炭酸カリウム(73.4g)のDMF80ml中撹拌混合物に、ヨウ化メチル(49.6ml、50%過剰)を30℃未満の温度に保持してゆっくりと加えた。混合物を室温でさらに20時間撹拌し、塩をろ過し、作りたてのMTBEで洗浄した。ろ過した溶液を、0.1N HClの120ml、ブライン120mlで洗浄し蒸発させると、固形の表題生成物35gが得られ、GCで測定すると8面積%のモノメチル化された不純物を含んでいた。
【実施例4】
【0133】
(本発明に従った実施例4)
2−シアノ−2−メチルプロパンアミドの調製
実施例1からの粗製のメチル2−シアノ−2−メチルプロパオネートを、メタノール−アンモニア混合物(1kgに付きNH169g)700mlに溶解し、室温で15時間撹拌した。次に、溶媒を蒸発させ、残っている粗生成物を、イソプロパノール600mlから結晶化させると、白色の結晶が159.6g(81%)得られた。
【実施例5】
【0134】
(本発明に従った実施例5)
3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドの調製
実施例4の生成物をメタノール−アンモニア混合物(1kgに付きNH169g)840mlに溶解した後にオートクレーブ内に移し、次にラネーNiの47.9gを加えた。混合物を60−70℃で10時間撹拌しながら、水素5バールにおいて水素化した。分析により出発物質がもはや存在しないと分かった時、反応混合物をろ過し、メタノールで洗浄し蒸発させると、粗製の表題生成物が160g(97%)得られ、これをさらにイソプロパノール−トルエン(1:9)800mlから再結晶した。実験による合計収率は、124g(78%)であった。
【実施例6】
【0135】
(本発明に従った実施例6)
アリスキレンの調製
実施例6の生成物を、EP0678503の教示に従ってさらに変換すると、アリスキレンが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物を調製するための方法であって、
【化1】

[式中、Wは、−M効果を有する電子求引基を表し、
Yは、Wと同一であるもしくは異なる電子求引基であり、またはYは、H以外の、+M効果を有するもしくはM効果のない基から選択される。]
式(II)の化合物
【化2】

[式中、WおよびYは、上記で定義された通りである。]を極性非プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒中、プロトン受容体の存在下で塩化メチルと反応させる方法。
【請求項2】
式(I)の化合物を調製するための方法であって、
【化3】

[式中、Wは、−M効果を有する電子求引基を表し、
Yは、Wと同一であるもしくは異なる電子求引基であり、またはYは、H以外の、+M効果を有するもしくはM効果のない基から選択される。]
式(II)の化合物
【化4】

[式中、WおよびYは上記で定義した通りである。]を溶媒なし、プロトン受容体の存在下で塩化メチルと反応させる方法。
【請求項3】
Wが、
CN、CHOおよびNO
COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHRおよびCSNR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。);および
COR’、SOR’、CR’=NR”(式中、R’およびR”は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から選択される。)
から成る群から選択され;または
WおよびYが協同して、式Z’(CHZ”[式中、Z’およびZ”は同一でありまたは異なり、CO、CO−O−、CO−NR−、CO−S−およびSO基(ここで、Rは、H、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)のいずれかであり、pは、1から4の間の整数である。]の基を表し;Yが、上記で定義されたWから選択される同一であるもしくは異なる電子求引基であり、またはYが、アジド、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アルキル、NHCOOR、SOR’、OR’およびSR’、好ましくは、アジド、置換または非置換アリールおよび置換または非置換アルキル(式中、RおよびR’は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から選択される。)から成る群から選択され;または
Wが、
CNおよびNO
COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHR、CSNRおよびCOR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)から成る群から選択され;Yが、上記で定義されたWから選択される同一であるもしくは異なる電子求引基であり、またはYが、アジド、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アルキル、NHCOOR、SOR’、OR’およびSR’、好ましくは、アジド、置換または非置換アリールおよび置換または非置換アルキル(式中、RおよびR’は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から選択される。)から成る群から選択され;または
Wが、COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNHR、CSNH、CSNRおよびCOR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)から成る群から選択され;Yが、上記で定義されたWから選択される同一であるもしくは異なる電子求引基であり、またはYが、アジド、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アルキル、NHCOOR、SOR’、OR’およびSR’、好ましくは、アジド、置換または非置換アリールおよび置換または非置換アルキル(式中、RおよびR’は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から選択される。)から成る群から選択され;または
Wが、COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSNH、CSNHRおよびCSNR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)から成る群から選択され、YがCNであり;または
WがCNであり、Yが、COOR、CONH、CONHR、CONR、COSR、CSOR、CSNH、CSNHR、CSNRおよびCOR(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルである。)から成る群から選択され;または
WがCNであり、YがCOOR(式中、Rが置換もしくは非置換アルキルまたはベンジル、好ましくはメチル、エチルまたはベンジル、より好ましくはメチルまたはエチルである。)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
WがCNであり、YがCOOR、CONHR、CONHまたはCONR、好ましくはCOOR(式中Rは、置換または非置換アルキルである。)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
プロトン受容体が、アルカリ金属の炭酸塩から成る群から選択され、好ましくは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウムまたは炭酸カリウムであり、より好ましくは炭酸セシウムまたは炭酸カリウムであり、特に炭酸カリウムである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
式(II)の化合物を、極性非プロトン性溶媒または極性非プロトン性溶媒と無極性非プロトン性溶媒の混合物から本質的に成る溶媒中で反応させ;
好ましくは、極性非プロトン性溶媒が、スルホキシド、スルホンおよびアミドから成る群から選択され、好ましくはDMSOおよびDMFから選択され、より好ましくはDMFから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、単一の液相によって定義される反応混合物中で実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、相間移動触媒を使用せずに実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
i)調製された式(I)の化合物のW基およびY基のうちの少なくとも1つが接触水素化により変換可能である、請求項1または2に記載の方法を実施するステップならびに
ii)前記Wおよび/またはY基を接触水素化させるステップ
を含む、ジメチル化されたメチレン基を含み、さらに、シクロヘキシル、−NH、−CHNH、−CHNHR、−CHNR、−CHR’−NHR”、−CHOH、−CHR’−OH、COOH(式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルであり;R’およびR”は、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アリールアルキル、置換もしくは非置換ヘテロアリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルから成る群から選択される。)から成る群から選択される少なくとも1つの基を有することにより定義される化合物を調製するための方法。
【請求項10】
a)調製された式(I)の化合物が2−シアノ−2−メチルプロパン酸のエステルまたはアミド誘導体である、請求項4に記載の方法を実施するステップ、
b)場合によって、エステル基であるYをアミド基に変換するステップおよび
c)シアノ基であるWを、アンモニアの存在下で接触水素化によりアミノメチル基(−CH−NH)に変換するステップ
を含む、3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを調製するための方法。
【請求項11】
a)請求項9または10に記載の方法を実施するステップおよび
b)治療薬、予防薬または診断薬を生成するのに十分な条件下で、ステップa)において調製される化合物を反応させるステップ
を含む、治療薬、予防薬または診断薬を調製するための方法。
【請求項12】
a)調製される化合物が、式(I)
【化5】

[式中、WはCNであり、YはCOOR、CONH、CONHRまたはCONR(式中、Rは、置換または非置換アルキル、好ましくはメチルまたはエチルである。)である。]の化合物である、請求項4に記載の方法を実施するステップおよび
b)アリスキレンまたはその薬学的に許容し得る誘導体を生成するのに十分な条件下で、前記式(I)の化合物を反応させるステップ
を含む、アリスキレンを調製するための方法。
【請求項13】
a)調製される化合物が、式(I)
【化6】

[式中、WはCNであり、YはCOOR(式中、Rは、置換または非置換アルキル、好ましくはメチルまたはエチルである。)である。]の化合物である、請求項4に記載の方法を実施するステップおよび
b)クリプトフィシン誘導体またはその薬学的に許容し得る誘導体を生成するのに十分な条件下で、前記式(I)の化合物を反応させるステップ
を含む、クリプトフィシン誘導体を調製するための方法。
【請求項14】
a)請求項10に記載の方法を実施するステップおよび
b)アリスキレンまたはその薬学的に許容し得る誘導体を生成するのに十分な条件下で、調製された3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを反応させるステップ
を含む、アリスキレンを調製するための方法。
【請求項15】
a)請求項10に記載の方法を実施するステップおよび
b)クリプトフィシン誘導体またはその薬学的に許容し得る誘導体を製造するのに十分な条件下で、調製された3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドを反応させるステップ
を含む、クリプトフィシン誘導体を調製するための方法。
【請求項16】
治療薬、予防薬または診断薬を製造するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって調製される化合物の使用。
【請求項17】
治療薬、予防薬または診断薬、好ましくはアリスキレンまたはクリプトフィシン誘導体、より好ましくはアリスキレンを製造するための、請求項4に記載の方法によって調製される、WがCNであり、YがCOOR、CONH、CONHRまたはCONR(式中、Rは、置換または非置換アルキル、好ましくはメチルまたはエチルである。)である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
アリスキレンまたはクリプトフィシンの誘導体を製造するための、請求項10に記載の方法によって調製される3−アミノ−2,2−ジメチルプロパンアミドの使用。
【請求項19】
医薬製剤を製造するための、請求項11から15のいずれか一項に従って得られる治療薬、予防薬または診断薬の使用。

【公表番号】特表2012−522746(P2012−522746A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502628(P2012−502628)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054151
【国際公開番号】WO2010/112482
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(504359293)レツク・フアーマシユーテイカルズ・デー・デー (60)
【Fターム(参考)】