説明

活性分子の制御放出のためのポリマー結合体

本発明は香料の分野に関する。より具体的には、無水マレイン酸誘導体およびエチレン誘導体に由来し、活性分子(例えば、α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステル)を遊離させることができる少なくとも1つのβ−オキシまたはβ−チオカルボニル部分を含むコポリマーに関する。本発明はまた、香料中でのポリマーまたはコポリマーの使用、ならびに本発明の化合物を含む芳香性組成物または芳香物品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は香料の分野に関する。より具体的には、無水マレイン酸誘導体に由来し、活性分子(例えば、α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステル)を遊離させることができる少なくとも1つのβ−オキシまたはβ−チオカルボニル部分を含むコポリマーに関する。本発明はまた、香料中でのポリマーまたはコポリマーの使用、ならびに本発明の化合物を含む芳香性組成物または芳香物品に関する。
【0002】
香水業界では、例えば、揮発性が高すぎるか、直接性が低い芳香性成分を使用する場合に直面する諸問題を克服するため、特定の期間にわたって活性成分の効果を延長させることができる誘導体に対して特に関心が持たれている。具体的には、この業界では、嗅覚的性能を改善することができる誘導体に関心が集まっている。前記改善は、時間、強さ、または放出される活性化合物の有効量における改善である可能性がある。
【0003】
国際特許出願第03/049666号では、活性成分の効果を延長させることができるクラスの化合物が記載されている。これらの化合物の中でも、特にポリマーについて明記されており、具体的な例としていくつかのスチレンコポリマーが挙げられている。しかし、いくつかのモノマー誘導体について実施例に記載した性能はきわめて良好であるものの、スチレンコポリマーについて記載された性能は、比較的低いものである(前記出願の実施例6および7を参照)。そのため、活性成分の効果を延長させることができるポリマー系成分の放出特性を改善することが依然として求められている。
【0004】
米国特許第6315987号では、口腔ケアに使用される細菌活性アルコール、着香料または精油を放出する一連のコポリマーについて記載されている。前記コポリマーは、エステル加水分解によるアルコールの放出は可能にするものの、本発明に記載のような脱離反応によるエノン誘導体の放出は可能でない。さらに、前記の従来技術は、口腔用組成物を開示しているものの、全く異なる媒質である芳香性組成物は示唆していない。さらに、エステルの加水分解による放出は、酵素の非存在下において、特に第二級アルコールエステルを使用する場合や、これらのエステルを立体的な要求の厳しいポリマー骨格に直接グラフトされる場合には、きわめて遅いというのが一般的である。
【0005】
本発明のコポリマーは、これまで従おいて具体的に開示または示唆されたことは全くなく、その特定の性能についても香水放出の分野において開示また示唆されたことがないと考えられる。
【0006】
今回、驚くべきことに、本発明者等は、無水マレイン酸誘導体に由来し、活性分子(すなわち、エノン)を遊離させることができる少なくとも1つのβ−オキシまたはβ−チオカルボニル部分を含み、従来技術のものに比べて優れた性能を有する特定のポリマーまたはコポリマーの存在を発見した。本明細書において、「活性分子」とは、その周辺環境に香気の利点または効果をもたらすことができるいずれかの分子、具体的には発香性分子(すなわち、α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステル)を意味する。
【0007】
前記ポリマーまたはコポリマーは芳香性成分として使用することができる。
【0008】
本発明の第1の目的は、発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルを制御された様式で放出することができ、次式
【化1】

[式中、
Pは、発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルを生成しやすい基を表わし、次式
【化2】

(式中、波線は前記PとXとの間の結合の位置を示す)
により表され、
1は、水素原子、C1〜C6アルコキシル基、またはC1〜C4アルキル基により置換される可能性があるC1〜C15直鎖、環式もしくは分岐鎖アルキル、アルケニルもしくはアルカジエニル基を表し、
2、R3およびR4は、水素原子、C6〜C10芳香族環、またはC1〜C4アルキル基により置換される可能性があるC1〜C15直鎖、環式もしくは分岐鎖アルキル、アルケニルまたはアルカジエニル基を表すか、あるいはR1〜R4基の2個または3個を一緒に結合して、5〜20個の炭素原子を有する飽和または不飽和環を形成し、前記R1、R2、R3またはR4基が結合する炭素原子を含めて、当該環はC1〜C8直鎖、分岐鎖または環式アルキルまたはアルケニル基により置換される可能性があり、
Xは、次式i)〜v)
【化3】

(式中、波線は上に定義した通りであり、太線は前記XとLとの間の結合の位置を示し、R5は水素原子またはC1〜C4アルキル基を表す)
からなる群から選択される官能基を表し、
Lは、場合により1〜10個の酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含むC2〜C15炭化水素基を表し、
Zは、酸素原子もしくは硫黄原子またはNR5基を表し、R5は水素原子またはC1〜C4アルキル基を表し、
6基は、互いに独立して水素原子またはC1〜C4炭化水素基を表し、
Mは、Zが酸素原子または硫黄原子を表す場合に水素原子、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを表すか、あるいはZがNR5基を表す場合に水素原子を表す]
の少なくとも1つの反復単位を含むコポリマーに関する。
【0009】
本明細書において、Pの定義で使用される「発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステル」という表現は、芳香性成分として香料中で使用されることが当業者により認識されるα,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルを意味する。一般的に、前記発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボンエステルは、8〜20個の炭素原子、またはさらにより好ましくは10〜15個の炭素原子を有する化合物である。
【0010】
式(I)の特定の実施形態によれば、Pは、次式(P−1)〜(P−11)
【化4】

[式中、波線は上記の意味を有し、点線は一重または二重結合を表し、R7はメチルまたはエチル基を示し、R8はC6〜C9直鎖または分岐鎖アルキル、アルケニルまたはアルカジエニル基を表し、R9は水素原子またはメチル基であり、R10は水素原子、ヒドロキシもしくはメトキシ基、またはC1−C4直鎖もしくは分岐鎖アルキル基を表す]
の基を、その異性体のいずれか1つの形態で表す。
【0011】
具体的には、Pはまた、上に定義した式(P−1)または(P−7)の基を表す場合もある。さらにより具体的には、Pは、式(P−1)の化合物を表す場合がある。
【0012】
本発明の別の実施形態によれば、Xは、上に定義した式i)〜iii)
【化5】

からなる群から選択される官能基を表す。より具体的には、Xは、酸素原子または硫黄原子を表す場合がある。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、Zは酸素原子またはNR5基を表し、R5は水素原子またはメチル基を表す。あるいは、Zは酸素原子を表す場合がある。
【0014】
本発明の別の実施形態によれば、一方のR6は水素原子を表し、もう一方はメチル基または水素原子を表す。あるいは、R6はいずれも水素原子を表す。
【0015】
本発明の別の実施形態によれば、Lは、場合により1〜7個の酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含むC2−C12炭化水素基を表す。あるいは、Lは、場合により1〜7個の酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含むC2〜C10炭化水素基を表す場合がある。このようなL基の具体的だが非限定的な例は、次式(a)〜(d)
【化6】

[式中、斜線は前記LとZとの間の結合の位置を示し、太線はLとXとの結合を示し、nは1〜5の整数を表し、Rは水素原子またはメチル基もしくはエチル基を表す]
の1つである。具体的には、Xが式iii)またはiv)の基である場合には、式(b)または(d)のL基を使用することができ、一方、Xが式i)、ii)またはv)の基である場合には、式(a)または(c)のL基を使用することができる。
【0016】
あるいは、Lはまた、直鎖または分岐鎖C2〜C5アルキル基、具体的にはC2、C3またはC4直鎖または分岐鎖アルキル基を表す場合もある。
【0017】
本発明のコポリマーは、ランダムコポリマーまたはブロックコポリマーの形態である場合がある。本発明の特定の実施形態によれば、コポリマーは、ランダム型または統計型が優先される。
【0018】
さらに、本発明の別の実施形態によれば、本発明のコポリマーは、500Da〜1000000Da、より具体的には2000Da〜200000Daの範囲よりなる分子量により特徴付けられる場合がある。
【0019】
さらに、反復単位(I)の合計量と本発明のコポリマーの反復単位の合計量との間のモル比(以下、(I)/(Tot)と呼ぶ)は、1/100〜100/100、具体的には5/100〜100/100、さらには20/100〜95/100よりなってもよいと言及するのが有用でもある。
【0020】
本発明のコポリマーは、少なくとも1つの他の反復単位を含み、場合により架橋する場合もある。前記他の反復単位は、次式
【化7】

[式中、R11基は互いに独立して、
水素またはハロゲン原子、
場合により酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される1〜4個のヘテロ原子を含むC1〜C6炭化水素基、
式COOR12(式中、R12は水素原子、場合により1〜30個の酸素原子を含むC1〜C60アルキルまたはアルケニル基を表す)のカルボン酸基、
OR13基(式中、R13は水素原子、C1〜C6アルキル基、またはCOR14基を表し、R14はC1〜C6アルキル基を表す)、あるいは
窒素原子により結合されるピロリドン単位
を表す]
のものであってよい。
【0021】
本発明の特定の実施形態によれば、R11基の1つは水素原子を表す。本発明の特定の実施形態によれば、R12基は、水素原子、場合により1〜14個の酸素原子を含むC1〜C25アルキルまたはアルケニル基を表す。
【0022】
本発明の特定の実施形態によれば、R11基は互いに独立して、
水素またはハロゲン原子、
場合により酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される1〜2個のヘテロ原子を含むC1〜C6炭化水素基、
式COOR12(式中、R12は水素原子、場合により1〜5個の酸素原子を含むC1〜C10アルキルまたはアルケニル基を表す)のカルボン酸基、
OR13基(式中、R13は水素原子、C1〜C2アルキル基、またはCOR14基を表し、R14はC1〜C3アルキル基を表す)、あるいは
窒素原子により結合されるピロリドン単位
を表す。
【0023】
前記他の反復単位の別の種類は、次式
【化8】

[式中、R15またはR15’基は、水素原子またはメチル基もしくはエチル基を表し、2つのR15は一緒に結合して、酸素原子またはCH2O基を表してもよい]
のものであってよい。
【0024】
本発明のコポリマーは、従来の方法(例えば、以下に記載する方法)により市販の化合物から合成される場合がある。
【0025】
上記実施形態のいずれか1つによれば、特定の種類の本発明のコポリマー(以下、化合物(V)と呼ぶ)は、以下の工程:
A)式CH2=CR112[R11は単位(III)について上に定義した通りである]の少なくとも1つのオレフィンと、次式
【化9】

[式中、R6基およびZは、上に記載したのと同じ意味を有する]
の少なくとも1つの誘導体とを一緒に反応させることにより得られるコポリマーと、
式P−X−L−Z−M[式中、P、X、L、ZおよびMは、上に記載したのと同じ意味を有する]の化合物とを一緒に反応させる工程、
B)場合によりコポリマーの重合モノマー(VI)の未反応無水物官能基のすべてまたは一部を加水分解する工程、ならびに/あるいは
C)場合により工程A)またはB)で得たコポリマーと塩基とを反応させる工程、
を含む方法により得られるものである。
【0026】
本発明の実施形態によれば、前記オレフィンCH2=CR11は、式CH2=CHR11のものであり、R11は上に示した意味を有する。
【0027】
このようなオレフィンの非限定的な例は、1−アルケン(例えば、1−オクタデセン、スチレン、アクリル酸(メタクリル酸)、酢酸ビニル/ビニルアルコール、スルホン化スチレン、スルホン化エチレン、スルホン化イソブチレンもしくはスルホン化ジイソブチレン、メトキシエチレン、ポリオキシエチレン(2−メチル−2−プロペニル)メチルジエーテル、ポリオキシエチレン(2−メチル−2−プロペニル)ビニルエーテルもしくはポリオキシエチレン(2−メチル−2−プロペニル)ジビニルエーテル(DIVEMA、MVE2、MVE5、MVE−2、MVE−5、NSC46015、NSC−46015、NSC46015、ピランコポリマー;例えば米国特許第4010254号を参照)、塩化ビニル、アクリル酸ステアリル(メタクリル酸ステアリル)もしくはアクリル酸ラウリル(メタクリル酸ラウリル)、アクリル酸2−ヒドロキシエチル(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸アルキル(メタクリル酸アルキル)、アクリル酸エチレングリコールメチルエーテル(メタクリル酸エチレングリコールメチルエーテル)、アクリル酸ポリ(エチレングリコール)(メタクリル酸ポリ(エチレングリコール))、アクリル酸ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタクリル酸ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル)、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル(メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル)およびその四級化形態、ジフリルメタン、ビニルピロリドン、ブタジエン、またはメタクリル酸2−エトキシエチル)である。
【0028】
工程A)で使用されるコポリマーの化学構造は、以下の反復単位(VII)および(VIII)
【化10】

[式中、R11およびR6は上に記載した意味を有する]
を含む。
【0029】
そのため、工程A)で使用されるコポリマーはまた、99/1〜60/40よりなるか、または90/10〜60/40、さらには70/30〜55/45よりなるモル比(VII)/(VIII)により特徴付けることもできる。
【0030】
上述の方法の工程Aは、コポリマー(V)の反復単位(VIII)と式P−X−L−Z−Mの化合物との反応を含意し、前記化合物は、コポリマー(V)に存在する反復単位(VIII)の合計量に対して1/100〜100/100よりなるモル比にて添加することができる。このような反応の結果、化合物(V)の化学構造は、反復単位(IX)
【化11】

[式中、M、R6、Z、L、XおよびPは上に記載した意味を有する]
を含む。
【0031】
上述の方法の工程B)は、塩基または酸であってよい加水分解剤を用いた、コポリマー(V)の未反応反復単位(VIII)の加水分解を含意する。上述の方法の工程C)は、加水分解された反復単位(VIII)と塩基との反応を含意する。一般的に、加水分解剤および/または塩基としては、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物を使用することができる。前記加水分解剤および/または塩基は、[反復単位(VIII)−反復単位(IX)]の合計量に対して1/100〜1/1よりなるモル比にて反応させることができる。水酸化物の具体的な例には、NaOHまたはKOHがある。既述の通り、加水分解は酸を用いても行うことができ、前記酸は、無水物基を加水分解するために一般的に使用される従来のいずれの酸であってもよい。加水分解剤としては消費製品の媒質を使用することもでき、その中に本発明のコポリマーを添加する。
【0032】
あるいは、コポリマー(V)の未反応反復単位(VIII)のすべてまたは一部を式RxOH[式中、RxはC1〜C4アルキル基、好ましくはメチルもしくはエチル、または100〜4000g/mol、好ましくは200〜1000g/molよりなる分子量を有するポリエーテルを表す]のアルコールで加水分解することができる。特定の実施形態によれば、アルコールRxOHは、ポリエチレングリコールであってよい。
【0033】
従って、化合物(V)の化学構造は、場合により反復単位(X)または(X’)
【化12】

[式中、M、Z、RxおよびR6は上に記載した意味を有する]
も含むことができる。
【0034】
そのため、化合物(V)は、0/100〜95/5、または2/98〜70/30よりなるモル比(VIII)/[(IX)+(X)+(X’)]によっても特徴付けることができる。
【0035】
前記コポリマー(V)はまた、他のコモノマーも含み、場合により架橋することもできる。例えば、このような他のコモノマーは、反復単位の合計量の最大10%を表す場合がある。このような他のコモノマーの非限定的な例は、式(XI)
【化13】

[式中、R17は水素原子またはメチル基を表し、R16はC2〜C8アルカンジイル基または−[CH2CHR17O]mCH2CHR17基(mは0〜10の整数を表し、R17は上に記載した意味を有する)を表す]
の化合物である。
【0036】
前記コポリマーの、市販されている具体的だが非限定的な例には、以下がある:スチレン−無水マレイン酸コポリマー、アクリル酸(メタクリル酸)−無水マレイン酸コポリマー、酢酸ビニル/ビニルアルコール−無水マレイン酸コポリマー、スルホン化スチレン−無水マレイン酸コポリマー、エチレン−無水マレイン酸コポリマー、イソブチレンまたはジイソブチレン−無水マレイン酸コポリマー、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー(例えば、商標名Gantrez(登録商標)名で市販されているもの)、ポリオキシエチレン(2−メチル−2−プロペニル)メチルジエーテル−無水マレイン酸コポリマー、ビニルエーテルまたはジビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー(DIVEMA、MVE2、MVE5、MVE−2、MVE−5、NSC46015、NSC−46015、NSC46015、ピランコポリマー)(例えば、米国特許第4010254号を参照)、塩化ビニル−無水マレイン酸コポリマー、メタクリル酸ステアリル−無水マレイン酸コポリマー、メタクリル酸ラウリル−無水マレイン酸コポリマー、ジフリルメタン−無水マレイン酸コポリマー、ビニルピロリドン−無水マレイン酸コポリマー、ブタジエン−無水マレイン酸コポリマー、メタクリル酸2−エトキシエチル−スチレン−無水マレイン酸コポリマー。
【0037】
化合物(V)の特定の実施形態によれば、前記コポリマーは、Pが上に定義した通りであり、
Xが硫黄原子を表し、
Lが直鎖、分岐鎖または環式飽和または不飽和C2〜C6基を表し、
Mがナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムまたは水素原子を表し、
Zが酸素原子を表す
コポリマーであり、
前記コポリマーは、無水マレイン酸と、1−オクタデセン、エチレン、イソブチレンまたはメトキシエチレンからなる群から選択されるオレフィンとの共重合により得られるものである。
【0038】
前記実施形態において、該当する場合、Rxは上に定義した通りであってよい。
【0039】
式P−X−L−Z−Mの化合物は、式(P’)
【化14】

[式中、炭素−炭素二重結合の配置は、(E)または(Z)型であってよく、記号R1、R2、R3およびR4は、式(II)に記載した意味を有する]の発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルと、式M−X−L−Z−M[式中、すべての記号は式(I)に定める意味を有する]の適切な化合物との間の[1,4]付加反応により得られる。実用上の理由により、官能基Xの性質および求核性によっては、本発明の化合物は、式(P’)の発香性化合物のアルドール誘導体である式(P’’)
【化15】

[式中、記号R1、R2、R3およびR4は、式(II)に記載した意味を有する]の化合物と、L−Z−M部分またはその等価物を提供する(当業者に周知の)適切な化合物(例えば、ラクトン)との間の反応によりより有利に得られる場合がある。
【0040】
アルドール誘導体の使用は、式(I)[式中、Xは例えば酸素原子またはカルボン酸基を表す]の全化合物の合成において特に興味深い。一方、出発材料としての発香性分子の直接使用は、式(I)[式中、Xは例えば硫黄原子を表す]の全化合物の合成において特に興味深い。
【0041】
本発明のポリマーまたはコポリマーは、それらの特定の化学構造により、分解反応を介して、残基および発香性分子(例えば、式(P’)のα,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステル)を放出することができる。
【0042】
化合物(I)の合成に使用し、その後放出することができる、式(P’)の化合物の包括的な一覧を提供することは不可能である。しかし、以下を好適な例として挙げることができる:2−アルケニル−2−シクロペンテン−1−オン、2−アルキル−2−シクロペンテン−1−オン、2−シクロペンタデセン−1−オン、6,6−ジメチル−ビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−エン−2−カルバルデヒド、1−(3,3または5,5−ジメチル−1−シクヘキセン−1−イル)−1−エタノン、1−(5,5−ジメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン、(E)−1−(2,2−ジメチル−6−メチレン−1−シクロヘキシル)−2−ブテン−1−オン(γ−ダマスコン)、(E)−4−(2,2−ジメチル−6−メチレン−1−シクロヘキシル)−3−ブテン−2−オン(γ−イオノン)、2,5−ジメチル−5−フェニル−1−ヘキセン−3−オン、2,4−デカジエン酸エチル、2−オクテン酸エチル、2,4−ウンデカジエン酸エチル、4,4A,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−6−イソプロペニル−4,4A−ジメチル−2(3H)−ナフタレノン(ヌートカトン)、2−ヘキセナール、(E)−2−ヘキシル−3−フェニル−2−プロペナール、4−イソプロピル−2−シクロヘキセン−1−オン、4−(4−ヒドロキシフェニル)−3−ブテン−2−オン、5−イソプロピル−2−メチル−2−シクロヘキセン−1−オン(1(6)−p−メンテン−2−オン)、1,8−p−メンタジエン−7−アール、1(6),8−p−メンタジエン−2−オン、1−p−メンテン−7−アール、1−(4−メトキシ−1−フェニル)−1−ペンテン−3−オン、2,4,8−デカトリエン酸メチル5,9−ジメチル、5−メチル−2−ヘプテン−4−オン、2−ノネン酸メチル、2−オクテン酸メチル、3−メチル−5−プロピル−2−シクロヘキセン−1−オン、(E)−3−メチル−4−(2,6,6−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン、2,6−ノナジエナール、2−ノネナール、2−オクテナール、(E)−3−フェニル−2−プロペナール(桂皮アルデヒド)、(E)−4−(2,5,6,6−テトラメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン、(E)−4−(2,5,6,6−テトラメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン、1−(2,2,3,6−テトラメチル−1−シクロヘキシル)−2−ブテン−1−オン、4−(2,2,3,6−テトラメチル−1−シクロヘキシル)−3−ブテン−2−オン、2,6,6−トリメチル−ビシクロ[3.1.1]ヘプタン−3−スピロ−2’−シクロヘキセン−4’−オン、(E)−1−(2,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(β−ダマセノン)、(E)−1−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(β−ダマスコン)、(E)−1−(2,6,6−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(α−ダマスコン)、(E)−1−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(δ−ダマスコン)、(E)−4−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン(β−イオノン)、(E)−4−(2,6,6−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン(α−イオノン)、(E)−1−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−1−ペンテン−3−オン、および(E)−1−(2,6,6−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−1−ペンテン−3−オン。当然ながら、後者化合物の式(P’’)のアルドール誘導体はまた、本発明の化合物の合成にも有用である。
【0043】
本発明の特定の実施形態によれば、式(P’)の以下の化合物を挙げることができる:2−シクロペンタデセン−1−オン、1−(5,5−ジメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン、(E)−1−(2,2−ジメチル−6−メチレン−1−シクロヘキシル)−2−ブテン−1−オン(γ−ダマスコン)、(E)−4−(2,2−ジメチル−6−メチレン−1−シクロヘキシル)−3−ブテン−2−オン(γ−イオノン)、2,5−ジメチル−5−フェニル−1−ヘキセン−3−オン、2,4−デカジエン酸エチル、2−オクテン酸エチル、2,4−ウンデカジエン酸エチル、4,4A,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−6−イソプロペニル−4,4A−ジメチル−2(3H)−ナフタレノン(ヌートカトン)、1(6),8−p−メンタジエン−2−オン、2,4,8−デカトリエン酸メチル5,9−ジメチル、2−ノネン酸メチル、2−オクテン酸メチル、3−メチル−5−プロピル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−オクテナール、(E)−3−フェニル−2−プロペナール(桂皮アルデヒド)、1−(2,2,3,6−テトラメチル−1−シクロヘキシル)−2−ブテン−1−オン、4−(2,2,3,6−テトラメチル−1−シクロヘキシル)−3−ブテン−2−オン、2,6,6−トリメチル−ビシクロ[3.1.1]ヘプタン−3−スピロ−2’−シクロヘキセン−4’−オン、(E)−1−(2,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(β−ダマセノン)、(E)−1−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(β−ダマスコン)、(E)−1−(2,6,6−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(α−ダマスコン)、(E)−1−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(δ−ダマスコン)、(E)−4−(2,6,6−トリメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン(β−イオノン)、および(E)−4−(2,6,6−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−3−ブテン−2−オン(α−イオノン)。
【0044】
上記の一覧に挙げた発香性化合物の中で好適なものは、β−ダマセノン、ダマスコン、イオノン、2−シクロペンタデセン−1−オン、1−(5,5−ジメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン、1(6),8−p−メンタジエン−2−オン、1−(2,2,3,6−テトラメチル−1−シクロヘキシル)−2−ブテン−1−オン、および4−(2,2,3,6−テトラメチル−1−シクロヘキシル)−3−ブテン−2−オンである。
【0045】
そのため、このような化合物(P’)を放出することができる本発明の化合物もまた、本発明の特に特に高く評価される実施形態である。
【0046】
上述の分解反応の例を、以下のスキーム(1単位のみを示す)に例示する:
【化16】

【0047】
発香性分子の放出を生じる分解反応は、pHの変化または熱による影響を受けると考えられるが、他の種類の機序により誘引される場合もある。
【0048】
上述の通り、本発明は、芳香性成分としての上述のコポリマーの使用に関する。換言すれば、本発明は、芳香性組成物または芳香物品の香気特性を付与する、向上させる、改善するまたは改良する方法であって、前記組成物または芳香物品に本発明の少なくとも1つのコポリマーの有効量を添加することを含む、方法に関する。本明細書において、「本発明のコポリマーの使用」とは、前記コポリマーを含有し、香料業界において活性成分として有利に使用することができるいずれかの組成物の使用と理解しなければならない。
【0049】
実際に芳香性成分として有利に使用することができる前記組成物は、本発明の1つの目的でもある。
【0050】
そのため、本発明の別の目的は、
i)芳香性成分として、上に定義したような少なくとも1つの本発明のコポリマーと、
ii)香料担体および香料基剤からなる群から選択される少なくとも1つの成分と、
iii)場合により少なくとも1つの香料アジュバントと
を含む、芳香性組成物である。
【0051】
本明細書において、「香料担体」とは、香料の点から事実上中性であり、すなわち、芳香性成分の官能的性質を顕著に変化させない材料を意味する。前記担体は液体である場合ガある。
【0052】
液体担体としては、乳化系、すなわち溶剤および界面活性剤系、または香料で通常使用される溶剤を、非限定例として挙げることができる。香水で通常使用される溶剤の性質および種類の詳細な説明は、包括的なものとなり得ない。しかし、最も多く使用される、ジプロピレングリコール、フタル酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル、安息香酸ベンジル、2−(2−エトキシエトキシ)−1−エタノール、またはクエン酸エチルなどの溶剤を非限定例として挙げることができる。
【0053】
一般的に言えば、本明細書において、「香料基剤」とは、少なくとも1つの芳香性共成分を含む組成物を意味する。
【0054】
前記芳香性共成分は、本発明のコポリマーでない。さらに、本明細書において、「芳香性共成分」とは、快楽作用を与えるために芳香性製造物または組成物で使用される化合物を意味する。換言すれば、芳香性共成分であると考えられるこのような共成分は、単に香気を有するだけではなく、良好または快適な方法で組成物の香気を与えるか、改良することができることが当業者により認識されなければならない。
【0055】
基剤中に存在する芳香性共成分の性質および種類は、本明細書におけるより詳細な説明を保証するものではなく、いかなる場合においても包括的なものではなく、当業者は一般的な知識に基づき、かつ所期の使用または用途および所望の官能的効果に従って共成分を選択することができる。一般的に、これらの芳香性共成分は、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、酢酸塩、ニトリル、テルペン炭水化物、窒素または硫黄複素環式化合物、および精油のように様々な化学クラスに属し、前記芳香性共成分は、天然または合成由来のものであってよい。これらの共成分の多くは、いずれの場合も、S.Arctander,Perfume and Flavor Chemicals,1969,Montclair,New Jersey,USAもしくはその最新版などの参考文献、または類似の性質の他の論文、ならびに香料分野に豊富に存在する特許文献に列挙されている。また、前記共成分は、制御された様式で種々の芳香性化合物を放出することが知られている化合物である場合もあることも理解される。
【0056】
一般的に言えば、本明細書において、「香料アジュバント」とは、色、特定の耐光性、化学安定性などのような追加の利点をさらに付与することができる成分を意味する。芳香性基剤で通常使用されるアジュバントの性質および種類の詳細な説明は、包括的なものとなり得ないが、前記成分が当業者に周知であることは言及する必要がある。
【0057】
少なくとも1つのコポリマーおよび少なくとも1つの香料担体からなる本発明の組成物は、本発明の特定の実施形態を表すほか、少なくとも1つのコポリマー、少なくとも1つの香料担体、少なくとも1つの香料基剤および場合により少なくとも1つの香料アジュバントを含む芳香性組成物を表す。
【0058】
上述の組成物中に複数の本発明のコポリマーを有する可能性は、調香師が調合物(香水)を製造し、本発明の種々の化合物の香気の調和を得て、それによりこれらの作業のための新しいツールを作り出すことが可能となることから、重要なものであると、本明細書で言及するのが有用である。
【0059】
さらに、本発明のコポリマー、または前記コポリマーを含む芳香性組成物は、高級香料や機能的香料などの現代香料の全分野において有利に使用することができる有用な芳香性成分である。実際に、本発明の化合物は、発香性化合物のより制御された沈着とその後の放出を達成するように、高級または機能的香料で有利に使用される場合がある。例えば、本発明のコポリマーは、発香性分子の直接性に優れ、揮発性が低く、放出が良好に制御されることから、本明細書で上に定義したように発香性成分を迅速にまたは長期間にわたり遊離する効果を必要とするいずれの用途においても組み込むことができ、さらに、処理した表面に香りと新鮮さを与えることもでき、これらは洗浄および/または乾燥方法の後も長きにわたり持続するとされる。適切な表面とは、具体的には織物、硬質表面、毛髪および皮膚である。
【0060】
従って、
i)芳香性成分として、上に定義した少なくとも1つの本発明のコポリマーと、
ii)消費製品の基剤と
を含む芳香物品も本発明の目的である。
【0061】
理解を明確にするため、本明細書において、「消費製品の基剤」とは、芳香性成分に適合する消費製品を意味することに言及しておく必要がある。換言すれば、本発明の芳香物品は、官能製剤のほか、場合により消費製品(例えば、洗剤または空気清浄剤)に対応する追加の利点のある薬剤、および嗅覚的有効量の少なくとも1つの本発明のポリマーまたはコポリマーを含む。
【0062】
消費製品の構成物質の性質および種類は、本明細書におけるより詳細な説明を保証するものではなく、いかなる場合においても包括的なものではなく、当業者は一般的な知識に基づき、かつ前記製品の性質および所望の効果に従って構成物質を選択することができる。
【0063】
適切な消費製品の基剤の例には、固体または液体洗剤および柔軟仕上げ剤、ならびに香料において一般的なその他すべての物品(すなわち、香水、コロンまたはアフターシェーブローション、芳香石鹸、シャワーまたはバスソルト、ムース、オイルまたはゲル、衛生用品またはヘアケア製品(例えば、シャンプー)、ボディケア製品、デオドラントまたは制汗剤、空気清浄剤、およびさらには化粧品)が含まれる。洗剤としては、例えば、織物、食器または硬質表面の処理を目的とした、種々の表面を洗浄または清掃するための洗剤組成物または洗浄製品などの用途が意図され、これらは家庭用途または工業用途を目的とするかに関係ない。他の芳香物品には、織物脱臭剤、アイロンウォーター、ペーパー類、拭き取り布または漂白剤がある。
【0064】
上述の消費製品の基剤の中には、本発明の化合物に対して攻撃的な媒質であるものもあり、そのため、例えばカプセル化により早期分解から本発明の化合物を保護することが必要な場合がある。
【0065】
好適な芳香性組成物または芳香物品は、香水、衣類用洗剤または柔軟剤の基剤である。
【0066】
本発明の化合物を組み込むことができる衣類用洗剤または柔軟剤組成物の典型的な例については、国際特許出願第97/34986号、または米国特許第4137180号および第5236615号、または欧州特許第799885号に記載されている。使用可能な他の典型的な洗剤および柔軟剤組成物については、Ullman’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,vol.A8,pages 315−448(1987) and vol.A25,pages 747−817(1994);Flick,Advanced Cleaning Product Formulations,Noye Publication,Park Ridge,New Jersey(1989)、Showell,in Surfactant Science Series,vol.71:Powdered Detergents,Marcel Dekker,New York(1998)、Proceedings of the World Conference on Detergents(4th,1998,Montreux,Switzerland),AOCS printなどの著作物に記載されている。
【0067】
上述の消費製品の基剤はすべて、事実上中性(例えば、ボディケア製品または香水)、酸性(例えば、柔軟仕上げ剤)または塩基性(例えば、洗剤、石鹸)を特徴とするが、本発明のコポリマーは、非イオン性またはイオン性(陽イオン性または陰イオン性)のどちらであってもよい。
【0068】
本発明の特定の実施形態によれば、消費製品の基剤のpH値が6未満である(例えば、柔軟剤)場合は、このような基剤を、酸性のpHに比べて塩基性または中性のpHで負電荷が多い本発明のコポリマー(すなわち、COOM基を含むコポリマー)と結合させることが好ましいことを、本発明者等は発見した。
【0069】
本発明の化合物を上述の種々の物品または組成物に組み込むことができる割合は、幅広い値の範囲内で変動する。これらの値は、本発明の化合物を当該技術分野で通常使用される芳香性共成分、溶剤または添加剤と混合する場合に、芳香を付ける物品または生成物の性質および所望の嗅覚的効果、ならびに所与の組成物中の共成分の性質によって異なる。
【0070】
例えば、典型的な濃度は、本発明の化合物を組み込む組成物の質量に対して、本発明の化合物が0.001%〜20質量%程度またはさらにそれ以上である。本明細書において上に記載した種々の消費製品の芳香付けにおいて本化合物を直接塗布する場合には、これらよりも低い濃度(例えば、0.001〜5質量%程度)を使用することができる。
【0071】
本発明の別の目的は、表面に芳香を付ける方法、または表面に対する発香性成分の特徴的な香りの拡散作用を強化するまたは持続させる方法であって、前記表面を本発明の化合物の存在下において処理することを特徴とする、方法に関する。適切な表面とは、具体的には織物、硬質表面、毛髪および皮膚である。
【0072】
実施例
次に、本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。以下の実施例において、略語は当該技術分野における通常の意味を有し、温度は摂氏(℃)で示し、NMRスペクトルデータは、1Hで400MHzおよび13Cで100MHzのBruker DPX 400スペクトロメーターにてCDCl3(特に記載がない場合)で記録し、化学変位δは標準物質TMSに対しppmで示し、結合定数JはHzで表す。
【0073】
特に記載がない場合、市販の試薬および溶剤をさらに精製することなく使用した。IRスペクトル:Perkin Elmer Spectrum One FTIRスペクトロメーター、v(cm-1)。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析を室温(約22℃)にて、ThermoSeparationProducts(tsp)Spectra System IR−150レフラクトメーターおよびViscotek 270 Dual Detector粘度計と組み合わせた、真空オンライン脱ガス機、4液LCポンプ、オートサンプラーおよびUV/Vis検出器からなるThermoFinnigan Surveyorシステムで行った。試料を、SDS製のHPLCグレードTHFを使用し、1.0mL/分の流速にてMacherey−Nagel Nucleogel GPC 104−5カラム(内径300×7.7mm、粒径5μm)から溶出した。普遍検量を、Flukaから市販されるポリメタクリル酸メチル(PMMA)ポリマー標準物質を使用し、粘度計およびRI検出器を用いて行った。約40mgのポリマー標準物質を正確に計量し、10mLの溶剤に溶解させた後、これらの溶液50μLを検量用に注入した。
【0074】
以下の出発ポリマー材料は、種々のオレフィンモノマーと無水マレイン酸の改変コポリマーであり、2種類の反復単位間の比率は50%を意味する。
【0075】
本発明のコポリマーの合成において、「変換」とは、反復単位(IX)に変換された反復単位(VIII)の量(%)を意味する。
【0076】
実施例1
ポリ(1−オクタデセン−アルト−マレイン酸モノ−{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2.6.6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造
a)3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−ブタン−1−オンの製造:20mLのTHF中の2−メルカプトエタノール(供給元:Aldrich、3.5mL、50mmol)を50mLのTHF中の(E)−1−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(δ−ダマスコン、52.1mmol)および1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−ウンデカ−7−エン(1,5−5)(DBU、0.78mL、5.21mmol)溶液に45℃で滴加した。反応媒質を12時間撹拌した後、HCl(5%)水溶液で処理した。水相をEt2Oで抽出し、NaHCO3飽和溶液に次いでNaCl飽和溶液で洗浄した有機相に結合した。有機相をNa2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。生成物を無色の油として得た。
【0077】

【0078】
b)ポリ(1−オクタデセン−アルト−マレイン酸モノ−{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造:ポリ(1−オクタデセン−アルト−無水マレイン酸)(供給元:Aldrich、5mmol)を30mLのTHFに溶解した。THF10mL中3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセニル)−ブタン−1−オン(5mmol)溶液を滴加した。次いで、THF20mL中トリエチルアミン(5mmol)およびN,N−ジメチルアミノピリジン(DMAP、30.50mg、0.25mmol、5mol%)溶液を滴加した。媒質を48時間、70℃にて加熱した。ポリマー溶液を塩化メチレンで希釈し、HCl(5%)水溶液で抽出し、Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮し、ヘプタンに析出した。生成物を白色固体(m=0.70g)として得た。収率=変換率28%で23%。
【0079】

【0080】
実施例2
ポリ(イソブチレン−アルト−マレイン酸モノ−{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造
ポリ(イソブチレン−アルト−無水マレイン酸)(供給元:Aldrich、5mmol)を30mのN−メチルピロリドン(NMP)に溶解した。10mLのNMP中の3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−3−シクロヘキセニル)−ブタン−1−オン(5mmol、実施例1aに記載の通りに製造)溶液を滴加した。次いで、20mLのNMP中のトリエチルアミン(5mmol)およびDMAP(30.50mg、0.25mmol、5mol%)溶液を滴加した。媒質を70℃にて48時間加熱した。ポリマー溶液を塩化メチレンで希釈し、HCl(5%)水溶液で抽出して、Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、ヘプタンに析出した。生成物を白色固体(m=1.20g)として得た。収率=変換率8%で57%。
【0081】

【0082】
実施例3
ポリ(エチレン−アルト−マレイン酸モノ−{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造
ポリ(エチレン−アルト−無水マレイン酸)(供給元:Aldrich、5mmol)を30mLのTHFに溶解した。10mLのTHF中の3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−ブタン−1−オン(5mmol、実施例1aに記載の通りに製造)溶液を滴加した。次いで、20mLのTHF中のトリエチルアミン(5mmol)およびDMAP(30.50mg、0.25mmol、5mol%)溶液を滴加した。媒質を70℃にて48時間加熱した。ポリマー溶液を塩化メチレンで希釈し、HCl(5%)水溶液で抽出して、Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、ヘプタンに析出した。生成物を白色固体(m=1g)として得た。収率=変換率91%で50%。
【0083】

【0084】
実施例4
ポリ(メトキシエチレン−アルト−マレイン酸モノ−{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造
ポリ(メトキシエチレン−アルト−無水マレイン酸(Gantrez(登録商標)AN−119BF、供給元:ISP Technologies、5mmol)を30mLのTHFに溶解した。10mLのTHF中の3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−ブタン−1−オン(5mmol、実施例1aに記載の通りに製造)溶液を滴加した。次いで、20mLのTHF中のトリエチルアミン(5mmol)およびDMAP(30.50mg、0.25mmol、5mol%)溶液を滴加した。媒質を70℃にて48時間加熱した。ポリマー溶液を塩化メチレンで希釈し、HCl(5%)水溶液で抽出して、Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、ヘプタンに析出した。生成物を固体(m=1g)として得た。収率=変換率80%で47%。
【0085】

【0086】
実施例5
ポリ(メトキシエチレン−アルト−マレイン酸モノ−{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−2−エニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造
a)3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−2−エニル)−ブタン−1−オンの製造:20mLのTHF中の2−メルカプトエタノール(3.5mL、50mmol)を50mLのTHF中の(E)−1−(2,6,6−トリメチル−2−シクロヘキセン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(α−ダマスコン、52.1mmol)およびDBU(0.78mL、5.21mmol)溶液に45℃にて滴加した。反応媒質を12時間撹拌した後、HCl(5%)水溶液で処理した。水相をEt2Oで抽出し、NaHCO3飽和溶液に次いでNaCl飽和溶液で洗浄した有機相に結合した。有機相をNa2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。生成物を無色の油(m=13.7g)として得た。収率=98%。
【0087】

【0088】
b)ポリ(メトキシエチレン−アルト−マレイン酸モノ−{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−2−エニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造:ポリ(メトキシエチレン−アルト−無水マレイン酸(Gantrez(登録商標)AN−119BF、5mmol)を30mLのTHFに溶解した。10mLの溶剤中の3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−2−エニル)−ブタン−1−オン(5mmol)溶液を滴加した。次いで、20mLのTHF中のトリエチルアミン(5mmol)およびDMAP(30.50mg、0.25mmol、5mol%)溶液を滴加した。媒質を70℃にて48時間加熱した。ポリマー溶液を塩化メチレンで希釈し、HCl(5%)水溶液で抽出して、Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、ヘプタンに析出した。生成物を固体(m=1g)として得た。収率=変換率88%で47%。
【0089】

【0090】
実施例6
ポリ(メトキシエチレンおよびマレイン酸モノ−{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−2−ジエニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造
a)3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−1,3−ジエニル)−ブタン−1−オンの製造:20mLのTHF中の2−メルカプトエタノール(3.5mL、50mmol)を50mLのTHF中の(E)−1−(2,6,6−トリメチル−1,3−シクロヘキサジエン−1−イル)−2−ブテン−1−オン(ダマセノン、52.1mmol)およびDBU(0.78mL、5.21mmol)溶液に45℃で滴加した。反応媒質を12時間撹拌した後、HCl(5%)水溶液で処理した。水相をEt2Oで抽出し、NaHCO3飽和溶液に次いでNaCl飽和溶液で洗浄した有機相に結合した。有機相をNa2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮した。生成物を無色の油(m=13.4g)として得た。収率=変換率95%で47%。
【0091】

【0092】
b)ポリ(メトキシエチレンおよびマレイン酸モノ−{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−2,4−ジエニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造:ポリ(メトキシエチレン−アルト−無水マレイン酸、いわゆる、Gantrez(登録商標)AN−119BF、5mmol)を30mLのTHFに溶解した。10mLの溶剤中の3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−1,3−ジエニル)−ブタン−1−オン(5mmol)溶液を滴加した。次いで、20mLのTHF中のトリエチルアミン(5mmol)およびDMAP(30.50mg、0.25mmol、5mol%)溶液を滴加した。媒質を70℃にて48時間加熱した。ポリマー溶液を塩化メチレンで希釈し、HCl(5%)水溶液で抽出し、Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、ヘプタンに析出した。生成物を固体(m=1g)として得た。収率=47%。
【0093】

【0094】
実施例7
ポリ(メトキシエチレン−アルト−マレイン酸モノ(α−メトキシ−ポリエチレンオキシド)およびモノ{2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル)の製造
ポリ(メトキシエチレン−アルト−無水マレイン酸(Gantrez(登録商標)AN−119BF、供給元:ISP Technologies、10mmol)を40mLのTHFに溶解した。30mLのTHF中の3−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−1−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−ブタン−1−オン(8mmol、実施例1aに記載の通りに製造)およびα−メトキシ−ポリエチレンオキシド(PEO、2mmol、Mn=550g/mol)溶液を滴加した。次いで、30mLのTHF中のトリエチルアミン(10mmol)およびDMAP(61mg、0.5mmol、5mol%)溶液を0℃で滴加した。媒質を40℃にて24時間加熱した。ポリマー溶液を塩化メチレンで希釈し、HCl(5%)水溶液で抽出して、Na2SO4上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、ペンタンに析出した。生成物を固体(m=4g)として得た。収率=PEO20mol%および2−[1−メチル−3−オキソ−3−(2,6,6−トリメチル−シクロヘキサ−3−エニル)−プロピルスルファニル]−エチル}エステル50mol%の変換率で75%。
【0095】

【0096】
実施例8
消費製品(柔軟仕上げ剤)に組み込まれた本発明のコポリマーからの芳香性成分の放出に関するダイナミックヘッドスペース分析
芳香性成分としての本発明のコポリマーの使用について、柔軟仕上げ用途における試験を、以下の組成物を有する柔軟仕上げ剤の基剤を使用して行った:Stepantex(登録商標)VK90(供給元:Stepan)16.5%、塩化カルシウム0.2%、および水83.3%。遊離発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルと本発明のコポリマーの芳香性能を、ダイナミックヘッドスペース分析を使用して、1日後と3日後の乾燥衣類で比較した。
【0097】
ビーカー内において、実施例4で製造した1mLのポリ無水マレイン酸系コポリマー溶液(アセトン10mL中204.2mg)を1.80gの均質化した柔軟仕上げ剤の基剤に添加し、600gの脱塩した冷たい水道水で満たした。3枚の綿タオル(EMPA綿試験布Nr.221、供給元:Eidgenoessische Materialpruefanstalt(EMPA)、無芳香粉末洗剤で予洗し、約12×12cmのシートに切断)を加えて、3分間手動で撹拌し、2分間静置した後、手で絞り、計量して残留水の定量を確認した。基準試料として、等モル量の未修飾δ−ダマスコンを含有する1mLの溶液(10mLのアセトン中87.2mg)を、新たに用意した元の柔軟仕上げ剤の基剤1.80gに添加し、これを上述の通りに処理した。綿タオルはいずれもそれぞれ1日間または3日間吊り干しした。
【0098】
δ−ダマスコンのヘッドスペース濃度を測定するため、乾燥タオルの1枚をそれぞれヘッドスペースサンプリングセル(内容積約160mL)に入れ、25℃に温度調節し、200mL/分の一定流量にさらした。空気は活性炭で濾過し、NaCl飽和溶液を介して吸気した。揮発物を汚水処理用Tenax(登録商標)カートリッジに15分間吸着させた後、浄水処理用Tenax(登録商標)カートリッジに15分間吸着させた。サンプリングは60分毎に7回繰り返した(汚水処理用カートリッジに45分間、および浄水処理用カートリッジに15分間吸収させた)。カートリッジは、J&W Scientific DB1毛管カラム(30m、内径0.45mm、薄膜0.42μm)とFID検出器を備えたCarlo Erba MFC500ガスクロマトグラフに連結したPerkin Elmer TurboMatrix ATD脱着器で脱着した。揮発物を、3℃/分にて70℃から130℃までと、25℃/分にて260℃までの2段階の温度勾配を使用して分析した。注入温度は240℃であり、検出器の温度は260℃であった。ヘッドスペース中のδ−ダマスコンの量を定量化するため、6種類からなるアセトン中のδ−ダマスコンの濃度(1.96×10-6mol/Lから9.26×10-4mol/Lの間で変動)を使用して、外部標準検量を行った。2μLの各検量溶液をそれぞれ3つの浄水処理用Tenax(登録商標)カートリッジに注入した。すべてのカートリッジは、ヘッドスペースサンプリングによる条件と同じ条件下ですぐに脱着した。
【0099】
実施例4で製造したコポリマーを含有する試料からは、以下のδダマスコン量が検出され、未修飾δ−ダマスコンを用いた基準試料(括弧内)と比較している。すべての値は、2回の測定値の平均である。
【0100】
【表1】

【0101】
データでは、乾燥衣類を覆ったヘッドスペース中のδ−ダマスコン量が、未修飾の遊離香気分子の存在下に比べて本発明のコポリマーの存在下において顕著に増加したことが示されている。450分間サンプリングを行った結果、1日後にはヘッドスペース濃度の30倍の増加が認められ、3日後には50倍の増加が認められた。従って、本発明のコポリマーを使用することにより所望の効力持続性の延長が得られたことが示されている。
【0102】
実施例9
消費製品(柔軟仕上げ剤)に組み込まれた本発明のコポリマーからの芳香性成分の放出に関するダイナミックヘッドスペース分析
本発明のコポリマーの芳香性成分としての使用について、上(実施例8)に記載したような柔軟仕上げ用途における試験を、以下の組成物を有する柔軟仕上げ剤の基剤を使用して行った:Stepantex(登録商標)VL90A(供給元:Stepan)16.5%、塩化カルシウム(10%)0.60%、Proxel(登録商標)GXL(供給元:Arch Chemicals)0.04%、および水82.86%。遊離発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルと本発明のコポリマーの芳香性能を、ダイナミックヘッドスペース分析を使用して、1日後と3日後の乾燥衣類で比較した。
【0103】
測定に当たり、実施例1で製造したポリ無水マレイン酸系コポリマー(68.7mg)、実施例2で製造したポリ無水マレイン酸系コポリマー(99.6mg)、実施例3で製造したポリ無水マレイン酸系コポリマー(18.5mg)および実施例7で製造したポリ無水マレイン酸系コポリマー(41.3mg、2mLの脱塩水に溶解)、ならびに国際特許出願第2007/007216号(実施例1(3d))に記載のコポリマー(16.4mg)および国際特許出願第03/049666号(実施例6b)に記載のコポリマー(35.5mg、1mLのTHFに溶解)をそれぞれ、1.8gの柔軟仕上げ剤の基剤に添加し(ほぼ等モルのδ−ダマスコン量を得て)、試料を1時間撹拌した。次いで試料をビーカーに移し、600gの脱塩した冷たい水道水で満たした。2枚の綿タオル(EMPA綿試験布Nr.221、無芳香粉末洗剤で予洗し、約12×12cmのシートに切断)を加えて、3分間手動で撹拌し、2分間静置した後、手で絞り、計量して残留水の定量を確認し、上(実施例8)に記載の通りに分析した。基準試料として、等モル量の未修飾δ−ダマスコン(8.8mg)を、新たに用意した元の柔軟仕上げ剤の基剤1.80gに添加し、これを上(実施例8)に記載の通りに処理した。綿タオルはいずれもそれぞれ1日間または3日間吊り干しした。
【0104】
ヘッドスペース中のδ−ダマスコン量を定量化するため、4種類からなるアセトン中のδ−ダマスコンの濃度(1.06×10-6mol/Lから1.06×10-3mol/Lの間で変動)を使用して、外部標準検量を行った。2μLの各検量溶液をそれぞれ3つの浄水処理用Tenax(登録商標)カートリッジに注入した。すべてのカートリッジは、ヘッドスペースサンプリング(上記を参照)による条件と同じ条件下ですぐに脱着した。
【0105】
実施例1〜3、7で製造したコポリマーまたは国際特許出願第2007/007216号および第03/049666号に記載のコポリマーを含有する試料(1回の測定値)からは、以下のδダマスコン量が検出され、未修飾δ−ダマスコンを用いた基準試料(3回の測定値の平均)と比較している。
【0106】
乾燥から1日後に得られたヘッドスペースデータ:
【表2】

【0107】
乾燥から3日後に得られたヘッドスペースデータ:
【表3】

【0108】
乾燥から3日後に得られたヘッドスペースデータ:
【表4】

*δ−ダマスコン量
**放出されたδ−ダマスコン量
【0109】
データでは、乾燥衣類を覆ったヘッドスペース中のδ−ダマスコン量が、未修飾の遊離香気分子(基準試料)の存在下に比べて本発明のポリ無水マレイン酸系コポリマーの存在下において顕著に増加したことが示されている。さらに、測定したヘッドスペース濃度は、実施例1および実施例2で製造したコポリマーの特定の徐放効果を示し、この場合、1日後よりも3日後の方がさらにより高いヘッドスペース濃度が測定された。
【0110】
骨格中に同等量のグラフトされたδ−ダマスコンおよび遊離カルボン酸官能基を有するポリマー(例えば、本実施例4のポリ無水マレイン酸系コポリマー(実施例8を参照)および国際特許出願第2007/007216号(実施例1(3d))に記載のポリメタクリル酸塩)は、同様の極性および/または親水性を有する。これら2種類のポリマーの挙動を比較すると、ポリ無水マレイン酸系コポリマーの方がより良好な放出性能を示すことが明らかに示されている。
【0111】
また、ポリ無水マレイン酸骨格のポリマー部分の極性を(例えば、ポリエチレンオキシドをグラフトすることにより)変更することによっても、放出特性に影響が及ぶ可能性がある。本実施例7のポリ無水マレイン酸系コポリマーにおいて測定したヘッドスペース濃度と、国際特許出願第2007/007216号(実施例1(3d))に記載のポリメタクリル酸塩または国際特許出願第03/049666号(実施例6d)に記載のポリスチレンを用いて得た濃度との比較では、本発明のポリ無水マレイン酸系コポリマーの性能が向上したことが示されている。
【0112】
さらに、ヘッドスペースサンプリングから2日後における、実施例7のポリ無水マレイン酸系コポリマーで処理した綿タオルと、国際特許出願第03/049666号(実施例6d)に記載のポリスチレンで処理した綿タオルの嗅覚性を直接比較したところ、前者の場合には強力なダマスコン型の香気が確認され、後者の場合にははるかに少ない匂いが確認された。
【0113】
水中におけるポリマーの放出効率および/または分散性は、ポリマー骨格の極性を調節することにより調整することができる。実施例4(メトキシ基含有コモノマーを有する、実施例8を参照)および実施例7のポリ無水マレイン酸系コポリマーは、例えば、実施例2および実施例3の(それぞれ疎水性イソブチレンまたはエチレンコモノマーを有する)コポリマーよりも極性が高い。
【0114】
コモノマーの極性効果に加えて、織物へのポリマーの沈着も、考慮すべき別の重要な態様である。疎水性材料の方がより効率よく織物に沈着することが知られている。そのため、実施例2および実施例3のポリ無水マレイン酸系コポリマーに比べて実施例1のポリ無水マレイン酸系コポリマーの性能が良好であるのは、後者に比べて前者の方が表面沈着が増大していることに起因すると、本発明者等は考える。
【0115】
ポリマーのδ−ダマスコン量が同等であり、および/またはポリマーの極性が類似する場合、本発明のポリ無水マレイン酸系コポリマーは、他の従来技術のポリマーよりも良好な放出特性を示す。疎水性(沈着は良好だが、水性媒質中での分散が少ない)と親水性(沈着は少ないが、水性媒質中での分散が良好)の間で良好な均衡をはかることが、標的用途に対して適切な材料を選択する上での重要な基準となる。
【0116】
実施例10
消費製品(柔軟仕上げ剤)に組み込まれた本発明のコポリマーからの芳香性成分の放出に関する嗅覚性評価
試験は、テリー織タオルの処理に一般的に使用される標準的な柔軟仕上げ剤の基剤を使用して行った。
【0117】
以下の最終組成物を有する柔軟仕上げ剤の基剤を製造した:Stepantex(登録商標)VK90(供給元:Stepan)16.5%、塩化カルシウム0.2%、および水83.3%。テリー織タオルを、85gの非芳香洗剤の基剤(VIA、供給元:Unilever)を用いて洗浄した後、0.5mmolの純粋なδ−ダマスコンあるいは実施例4で製造した対応する等モル量のδ−ダマスコン放出コポリマーを予め添加した上述の柔軟剤の基剤35gを使用して、すすぎサイクルにかけた。
【0118】
洗濯機(Miele Novotronic W300−33CH)に10枚の小判テリー織タオル(それぞれ18cm×18cm、約30g)と2kgの大判綿タオルを入れた。これらの投入物を短時間サイクルプログラムを使用して40℃にて洗浄し、900rpmにてすすいだ。
【0119】
洗浄が終了したら、17枚の小判テリー織タオルを24時間吊り干して、保存のためアルミ箔に包み、その後3日後と7日後に20名の審査員により、「1」(香気なし)から「10」(きわめて強い)の範囲の等級を使用して、強度と判定を評価した。
【0120】
各試料の強度と爽快さ(括弧内)の平均を以下の通り算出した。
【0121】
【表5】

【0122】
評価では、2つの試料の比較において強度に顕著な(統計的有意差の99.9%を超える)差が示された。本発明のコポリマーを含有するタオルは、基準試料を含有するタオルに比べて強度も爽快さも良好があることが明らかになった。基準試料の香りの強度は時間とともに低下するのに対して、コポリマーを含有する試料の香りの強度は一定していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルを制御された様式で放出することができ、次式
【化1】

[式中、
Pは、発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルを生成しやすい基を表わし、次式
【化2】

(式中、波線は前記PとXとの間の結合の位置を示す)
により表され、
1は、水素原子、C1〜C6アルコキシル基、またはC1〜C4アルキル基により置換されていてよいC1〜C15直鎖、環式もしくは分岐鎖アルキル、アルケニルもしくはアルカジエニル基を表し、
2、R3およびR4は、水素原子、C6〜C10芳香族環、またはC1〜C4アルキル基により置換されていてよいC1〜C15直鎖、環式もしくは分岐鎖アルキル、アルケニルまたはアルカジエニル基を表すか、あるいはR1〜R4基の2個または3個を一緒に結合して、5〜20個の炭素原子を有する飽和または不飽和環を形成し、前記R1、R2、R3またはR4基が結合する炭素原子を含めて、当該環はC1〜C8直鎖、分岐鎖または環式アルキルまたはアルケニル基により置換されていてよく、
Xは、次式i)〜v)
【化3】

(式中、波線は上に定義した通りであり、太線は前記XとLとの間の結合の位置を示し、R5は水素原子またはC1〜C4アルキル基を表す)
からなる群から選択される官能基を表し、
Lは、場合により1〜10個の酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含むC2〜C15炭化水素基を表し、
Zは、酸素原子もしくは硫黄原子またはNR5基を表し、R5は水素原子またはC1〜C4アルキル基を表し、
6基は、互いに独立して水素原子またはC1〜C4炭化水素基を表し、
Mは、Zが酸素原子または硫黄原子を表す場合に水素原子、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを表すか、あるいはZがNR5基を表す場合に水素原子を表す]
の少なくとも1つの反復単位を含む、コポリマー。
【請求項2】
Pが、次式(P−1)〜(P−11)
【化4】

[式中、波線は請求項1に記載の意味を有し、点線は一重または二重結合を表し、R7はメチルまたはエチル基を示し、R8はC6〜C9直鎖または分岐鎖アルキル、アルケニルまたはアルカジエニル基を表し、R9は水素原子またはメチル基であり、R10は水素原子、ヒドロキシもしくはメトキシ基、またはC1−C4直鎖もしくは分岐鎖アルキル基を表す]の基を、その異性体のいずれか1つの形態で表すことを特徴とする、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
Xが、請求項1に記載の式i)〜iii)
【化5】

からなる群から選択される官能基を表すことを特徴とする、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項4】
Zが酸素原子を表すことを特徴とする、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項5】
前記コポリマーがさらに、式(III)
【化6】

[式中、R11基は互いに独立して
水素またはハロゲン原子、
場合により酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される1〜4個のヘテロ原子を含むC1〜C6炭化水素基、
式COOR12(式中、R12は水素原子、場合により1〜30個の酸素原子を含むC1〜C60アルキルまたはアルケニル基を表す)のカルボン酸基、
OR13基(式中、R13は水素原子、C1〜C6アルキル基、またはCOR14基を表し、R14はC1〜C6アルキル基を表す)、あるいは
窒素原子により結合されるピロリドン単位
を表す]の反復単位、あるいは式(IV)
【化7】

[式中、R15またはR15’基は、水素原子またはメチル基もしくはエチル基を表し、2つのR15は一緒に結合して、酸素原子またはCH2O基を表してもよい]の反復単位も含むことを特徴とする、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項6】
前記コポリマーが、β−ダマセノン、ダマスコン、イオノン、2−シクロペンタデセン−1−オン、1−(5,5−ジメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン、1(6),8−p−メンタジエン−2−オン、1−(2,2,3,6−テトラメチル−1−シクロヘキシル)−2−ブテン−1−オン、および4−(2,2,3,6−テトラメチル−1−シクロヘキシル)−3−ブテン−2−オンからなる群から選択される発香性α,β不飽和ケトン、アルデヒドまたはカルボン酸エステルを放出することを特徴とする、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項7】
前記コポリマーが、以下の工程:
A)式CH2=CR112[R11は請求項5に定義した通りである]の少なくとも1つのオレフィンと、次式
【化8】

[式中、R6基およびZは、上に記載したのと同じ意味を有する]
の少なくとも1つの誘導体とを一緒に反応させることにより得られるコポリマーと、
式P−X−L−Z−M[式中、P、X、L、ZおよびMは、請求項1に記載したのと同じ意味を有する]の化合物とを一緒に反応させる工程、
B)場合によりコポリマーの重合モノマー(VI)の未反応無水物官能基のすべてまたは一部を加水分解する工程、ならびに/あるいは
C)場合により工程A)またはB)で得たコポリマーと塩基とを反応させる工程、
を含む方法により得られることを特徴とする、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項8】
前記コポリマーが、工程B)に記載の加水分解を含む方法により得られ、前記加水分解が、式RxOH[式中、RxはC1〜C4アルキル基、好ましくはメチルもしくはエチル、または100〜4000g/molよりなる分子量を有するポリエーテルを表す]のアルコールを用いて行われることを特徴とする、請求項7に記載のコポリマー。
【請求項9】
前記コポリマーは、Pが上に定義した通りであり、
Xが硫黄原子を表し、
Lが直鎖、分岐鎖または環式飽和または不飽和C2〜C6基を表し、
Zが酸素原子を表し、
Mがナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムまたは水素原子を表す
ものであり、
前記コポリマーが、無水マレイン酸と、1−オクタデセン、エチレン、イソブチレンまたはメトキシエチレンからなる群から選択されるオレフィンとの共重合により得られるものであることを特徴とする、請求項7に記載のコポリマー。
【請求項10】
i)芳香性成分として、請求項1に記載の少なくとも1つの本発明のコポリマーと、
ii)香料担体および香料基剤からなる群から選択される少なくとも1つの成分と、
iii)場合により少なくとも1つの香料アジュバントと
を含む、芳香性組成物。
【請求項11】
i)芳香性成分として、請求項1に記載の少なくとも1つの本発明のコポリマーと、
ii)消費製品の基剤と
を含む、芳香物品。
【請求項12】
前記消費製品の基剤が、固体もしくは液体洗剤、柔軟仕上げ剤、香水、コロンまたはアフターシェーブローション、芳香石鹸、シャワーまたはバスソルト、ムース、オイルまたはゲル、衛生用品、ヘアケア製品、シャンプー、ボディケア製品、デオドラントまたは制汗剤、空気清浄剤、化粧品、織物脱臭剤、アイロンウォーター、ペーパー類、拭き取り布または漂白剤であることを特徴とする、請求項11に記載の芳香物品。

【公表番号】特表2010−506029(P2010−506029A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531950(P2009−531950)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054060
【国際公開番号】WO2008/044178
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】