説明

活性剤に応答する結晶性コロイドアレイ

【課題】Braggの法則に従って放射線を回折する放射線回折センサーを製造する方法の提供。
【解決手段】このセンサーは、基盤上に周期的に整列された粒子のアレイを形成する工程、粒子のアレイをポリマーマトリックスでコートする工程、マトリックスを硬化してマトリックス内の粒子のアレイを固定する工程、および固定アレイを活性剤に接触する工程によって製造され、そこにおいて、この活性剤は、センサーによって回折された放射線の波長を、第1波長から第2波長へ偏移する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線回折材料から製造されるセンサー、より具体的には、活性剤組成物と接触すると、回折の波長に変化を示す放射線回折センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性コロイドアレイをベースとする放射線回折材料は、種々の目的に使用されている。結晶性コロイドアレイ(CCA)は、単分散コロイド粒子の三次元規則アレイである。粒子は通常、ポリスチレンなどのポリマーラテックスまたはシリカなどの無機材料からなる。
【0003】
粒子のこのようなコロイド分散物は、紫外線、可視光線または赤外線の波長に匹敵する格子面間隔を有する結晶性構造を形成することができる。これらの結晶性構造は、放射線の隣接波長の透過を可能にすると同時に、入射放射線の広域スペクトルから狭帯域の選択された波長を濾波するために使用されている。先行デバイスは、粒子を液体媒体中に分散させ、これによって、粒子が規則アレイに自己整列することによって創出されている。粒子は、相互重合によって、または粒子を一緒に膨潤および溶融させる溶媒を導入することによって、一緒に溶融される。
【0004】
CCAの他の使用において、規則アレイはマトリックス中に固定され、この固定アレイが可視スペクトル中の放射線を回折する場合、着色剤として使用されうる。あるいは、CCAは、光学フィルター、光学スイッチおよび光学リミッタとして使用するために、放射線を回折するように加工される。これらのCCAは、一定の粒子間間隔を使用しているが、刺激に応答して粒子間間隔が変化する場合には、CCAはセンサーとして機能しうる。
【0005】
最近、このようなセンサーが、ヒドロゲル内に重合されたCCAを含むヒドロゲルから製造されている。CCAを取り囲んでいるヒドロゲルのポリマーは、特定の外部刺激に応答して、立体配座を変化させる。例えば、ヒドロゲルの体積は、溶液中の金属イオンなどの化学物質およびグルコースなどの有機分子の存在を含めた刺激に応答して、変化することが可能であり、これによって、デバイスが化学分析に有用なものとなる。ヒドロゲルをベースとするデバイスにおいて、高度に荷電した単分散コロイド粒子は、低イオン強度の液体媒体中に分散される。粒子は、それらの静電荷のためにCCA中に自己集合する。これらの規則構造は、Braggの法則に従って放射線を回折する。ここで、Braggの条件を満たす放射線は反射されるが、Braggの条件を満たさない隣接スペクトル領域は、デバイスの中を貫いて透過される。
【0006】
Braggの法則に従って放射線を回折する、周期的に整列された粒子のアレイは、式mλ=2ndsinθ
を満たす。ここで、mは整数であり、λは反射された放射線の波長であり、nはアレイの有効屈折率であり、dは粒子層間の距離であり、θは反射された放射線が粒子層の平面となす角である。入射放射線は、アレイ中の粒子の最上層において、第1層の平面に対して角θで一部反射され、下にある粒子層に一部透過される。しかも入射放射線の吸収が一部起こるが、透過された放射線の一部は、アレイ中の粒子の第2層において、角θで一部反射され、下にある粒子層に一部透過される。角θでの部分的な反射および下にある粒子層への部分的な透過のこの特徴は、アレイの厚さ分ずっと続く。回折される放射線の波長(λ)は、各層における粒子の中心の平面間の距離でもあるdの寸法によって制御することができる。初めに、回折される波長(λ)は、充填された粒子のアレイに関して、粒子径に比例する。しかし、周期的な規則アレイにおける粒子層間の距離(d)が増加すると、回折される放射線の波長も増加する。特定の化学種に応答するデバイス内部で空間体積を増加させるセンサーデバイスは、粒子層間の空間距離を増加させ、これによって回折される放射線の波長を変える。
【0007】
ヒドロゲルをベースとするCCAにおいて、ヒドロゲルの体積が変化すると、CCAの回折波長が変化する。ヒドロゲルをベースとする、このようなCCAデバイスは、通常、体積で約30%というような大きい割合の水を含む。ヒドロゲルをベースとするこれらのCCAは、脆弱であり、CCAの含水量が変化すると、光学性能が著しく変化する傾向がある。
【0008】
ヒドロゲルをベースとするCCAのこれらの欠点を克服するために、あるアプローチは、ヒドロゲルをベースとするCCAを調製し、CCAを取り囲んでいるヒドロゲルマトリックスを脱水し、次いで重合可能なモノマーでアレイを再び満たすことである。モノマーは重合され、本質的に水を含まない重合結晶性コロイドアレイを生成する。これらのアレイは、ある環境の刺激、例えば圧縮応力(これによって格子面間隔を変える)などに応答して、CCAの回折波長を変える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、ヒドロゲルをベースとするCCAのこれらの先行系は、製造および取り扱い上の重大な欠点を有する。適用される化学的な刺激などに応答して放射線を回折する特性を示し、刺激を除去すると初期の光学特性に実質的に戻る、より頑健なCCAが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基盤上に形成された周期的に整列された粒子のアレイおよび粒子のアレイ上にコートされた固体マトリックス組成物を含み、マトリックス組成物は、活性剤に曝されると、センサーによって回折された放射線の波長を第1波長から第2波長へ偏移(shift)するように、活性剤に応答するように選択される、放射線回折センサーに関する。本発明はまた、基盤上に周期的に整列された粒子のアレイを形成する工程、粒子のアレイをマトリックスでコートする工程、およびマトリックスを硬化してマトリックス内の粒子を固定する工程を含み、マトリックスは、活性剤に曝されると、センサーによって回折された放射線の波長を偏移するように、活性剤に応答するように選択される、センサーを製造する方法を含む。
【0011】
本発明はまた、基盤上に周期的に整列された粒子のアレイを形成する工程、粒子のアレイをマトリックスでコートする工程、マトリックスを硬化してマトリックス内の粒子のアレイを固定し、第1波長で放射線を回折するセンサーを製造する工程、センサーを物品に適用する工程、および活性剤が回折波長を偏移するように、センサーを活性剤に接触する工程を含み、偏移した回折波長がその物品の真偽を示す、物品を認証する方法を含む。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
放射線回折センサーであって、
基盤上に形成された周期的に整列された粒子のアレイ、および
該粒子のアレイ上にコートされた固体マトリックス組成物
を含み、該マトリックス組成物が、活性剤に曝されると、該センサーによって回折された放射線の波長を第1波長から第2波長へ偏移するように、該活性剤に応答するように選択される、放射線回折センサー。
(項目2)
前記活性剤が前記センサーから除去されると、回折された放射線の波長が、前記第1波長に実質的に戻る、項目1に記載のセンサー。
(項目3)
前記マトリックスが、水に応答する親水性アクリルポリマーを含む、項目1に記載のセンサー。
(項目4)
前記マトリックスが、有機溶媒に応答するポリマーを含む、項目1に記載のセンサー。
(項目5)
前記基盤が薄膜である、項目1に記載のセンサー。
(項目6)
前記基盤が微孔性シートである、項目1に記載のセンサー。
(項目7)
前記基盤が、物品の表面である、項目1に記載のセンサー。
(項目8)
前記表面が、物品の包装および/またはハウジングである、項目7に記載のセンサー。
(項目9)
センサーを製造する方法であって、
基盤上に周期的に整列された粒子のアレイを形成する工程、
該粒子のアレイをマトリックスでコートする工程、および
該マトリックスを硬化して該マトリックス内の該粒子のアレイを固定する工程
を含み、該マトリックスが、活性剤に曝されると、該センサーによって回折された放射線の波長を偏移された波長へ偏移するように、該活性剤に応答するように選択される、方法。
(項目10)
前記活性剤が水を含む、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記マトリックスが親水性アクリルポリマーを含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記活性剤が有機溶媒を含む、項目9に記載の方法。
(項目13)
前記マトリックスが、有機溶媒に応答するポリマーを含む、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記偏移された波長が、可視スペクトル中に存在する、項目9に記載の方法。
(項目15)
前記偏移された波長が、可視スペクトル外に存在する、項目9に記載の方法。
(項目16)
前記センサーを前記基盤から除去する工程をさらに含む、項目9に記載の方法。
(項目17)
前記センサーを粒子形状に粉砕する工程をさらに含む、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記活性剤が、前記マトリックスと反応する官能基を含む、項目9に記載の方法。
(項目19)
項目9に記載の方法に従って製造されるセンサーを有する物品。
(項目20)
物品を認証する方法であって、
基盤上に周期的に整列された粒子のアレイを形成する工程、
該粒子のアレイをマトリックスでコートする工程、
該マトリックスを硬化して該マトリックス内の該粒子のアレイを固定し、第1波長で放射線を回折するセンサーを製造する工程、
該センサーを物品に適用する工程、および
活性剤が回折波長を偏移するように、該センサーを該活性剤に接触する工程
を含み、偏移された該回折波長が該物品の真偽を示す、方法。
(項目21)
前記偏移された波長が、可視スペクトル中に存在する、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記偏移された波長が、可視スペクトル外に存在する、項目20に記載の方法。
(項目23)
前記基盤が、前記物品に適用される薄膜である、項目20に記載の方法。
(項目24)
前記基盤が、前記物品の表面である、項目20に記載の方法。
(項目25)
前記基盤が微孔性シートである、項目20に記載の方法。
(項目26)
回折された放射線の波長が、前記第1波長に実質的に戻るように、前記活性剤を前記センサーから除去する工程をさらに含む、項目20に記載の方法。
(項目27)
前記物品がセキュリティーカードである、項目20に記載の方法。
(項目28)
前記基盤が可撓性である、項目20に記載の方法。
(項目29)
前記基盤がEVAフォームである、項目20に記載の方法。
(項目30)
前記基盤が金属である、項目20に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、センサーが可視および/または非可視スペクトル中の放射線を回折する、放射線回折センサーおよび同センサーを作製するための方法を含む。放射線回折センサーは、ポリマーマトリックス中に保持された周期的に整列された粒子のアレイを含む。アレイは粒子の複数の層を含み、Braggの法則
mλ=2ndsinθ
を満たす。ここで、mは整数であり、nはアレイの有効屈折率であり、dは粒子層間の距離であり、λは粒子層の平面から角θをなして反射された放射線の波長である。本明細書において使用される場合、回折される放射線の「1つの」波長とは、電磁放射線スペクトルの一帯域を含む。例えば、600nmの波長への言及は、590から610nmを含むことができる。
【0013】
種々の組成物が粒子に使用されてよく、かかる組成物は、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリルポリマー、アルキドポリマー、ポリエステル、シロキサン含有ポリマー、ポリスルフィド、エポキシ含有ポリマーなどの有機ポリマーおよび金属酸化物(例えば、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛または二酸化チタン)などの無機材料またはカドミウムなどの半導体を含むが、これらに限定されない。また、粒子は、コアが上記の単一粒子と同じ材料から製造されうるコア−シェル構造を有することができる。シェルは、コア材料と同じポリマーから製造されてよく、コア−シェル粒子の特定のアレイに関しては、粒子シェルのポリマーは、コア材料とは異なっている。コア材料およびシェル材料は、異なる屈折率を有することができる。加えて、シェルの屈折率は、シェル厚による屈折率の勾配の形で、シェル厚の関数として変化しうる。シェル材料は、薄膜を形成しない。これによって、シェル材料は、コア−シェル粒子が別々の粒子としてポリマーマトリックス内にとどまるように、シェル材料の薄膜を形成することなく、各粒子コアを取り囲んでいる位置にとどまる。
【0014】
通常、粒子は、一般的に球状である。コア−シェル粒子に関しては、コアの直径は、総粒子径の70から95%または総粒子径の90%を構成することができ、シェルは、粒子径の平衡を構成し、放射状の厚さ寸法を有する。
【0015】
一実施形態では、単一構造(コア−シェルではない)を有する粒子は、界面活性剤の存在下で、エマルジョン重合によって製造され、荷電粒子の分散物を生じる。ラテックス粒子の分散に適した界面活性剤には、スチレンスルホン酸ナトリウム、ナトリウム1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート(Rhodia CorporationからSIPOMER COPS−Iとして市販されている)、アクリルアミドプロピルスルホネートおよびアリルスルホン酸ナトリウムが含まれるが、これらに限定されない。特に有用な界面活性剤は、粒子分散物の分散液(例えば、水)にごく僅かしか溶けないものである。荷電粒子は、未反応のモノマー、小さいポリマー、水、開始剤、界面活性剤、非結合塩およびグリット(凝集した粒子)などの望まれていない材料を除去し、荷電粒子の単分散物を生成するために、限外濾過、透析またはイオン交換などの技術によって、分散物から精製される。限外濾過は、荷電粒子を精製するのに特に適している。粒子が、塩または副生成物などの他の材料と一緒に分散している場合には、荷電粒子の反発力が緩和され得る。したがって、粒子分散物は、荷電粒子のみを本質的に含むように精製され、次いで荷電粒子は、互いに容易に反発し、規則アレイを形成する。
【0016】
過剰な原料、副生成物、溶媒などを除去すると、荷電粒子の静電反発力のために、粒子がそれら自体で規則アレイ中に整列する。精製した粒子分散物は、基盤に適用され、乾燥される。基盤に適用される粒子分散物は、10〜70体積%の荷電粒子または30〜65体積%の荷電粒子を含むことができる。分散物は、浸漬、噴霧、ブラッシング、ロールコーティング、カーテンコーティング、フローコーティングまたはダイコーティングにより、所望の厚さにすることによって、基盤に適用することができる。湿式コーティングは、4〜50ミクロン、例えば40ミクロンなどの厚さを有することができる。乾燥すると、この材料に本質的に含まれているのは、Braggアレイに自己整列しており、これによって放射線を回折する粒子のみである。
【0017】
基盤は、金属のシートもしくは箔(例えばアルミ箔)、紙またはポリエステルもしくはポリエチレンテレフタレート(PET)の薄膜(もしくはシート)などの可撓性材料、あるいはガラスまたはプラスチックなどの不撓性材料であってよい。「可撓性」とは、基盤が、著しい不可逆変化をすることなく、曲げ、伸張、圧縮などの機械的応力を受けることができることを意味する。ある適した基盤は、微孔性シートである。微孔性シートのいくつかの例は、米国特許第4833172号、第4861644号および第6114023号に開示されており、これらは参照によって本明細書に組み込まれる。市販の微孔性シートは、PPG Industries,Inc.によってTESLINという名称で販売されている。他の適した可撓性基盤には、天然皮革、合成皮革、仕上げ済天然皮革、仕上げ済合成皮革、スエード、ビニルナイロン、エチレン酢酸ビニルフォーム(foam)(EVAフォーム(foam))、熱可塑性ウレタン(TPU)、含液ブラダー、ポリオレフィンおよびポリオレフィン混合物、ポリ酢酸ビニルおよびコポリマー、ポリ塩化ビニルおよびコポリマー、ウレタンエラストマー、合成繊維および天然繊維が含まれる。
【0018】
ある実施形態では、可撓性基盤は圧縮性基盤である。「圧縮性基盤」などの用語は、圧縮変形を受けることができ、圧縮変形を中止するとすぐに、実質的に同じ形状に戻ることができる基盤を指す。「圧縮変形」という用語は、基盤の少なくとも一時的な体積を、少なくとも一方向に減少させる機械的応力を意味する。
【0019】
「EVAフォーム(form)」は、連続気泡フォーム(foam)および/または独立気泡フォーム(foam)を含むことができる。「連続気泡フォーム」は、相互につながった複数の空気室を含むフォームを意味し、「独立気泡フォーム」は、個々の閉じられた細孔を含むフォームを意味する。EVAフォームは、フラットシートもしくはスラブまたは靴の中物などの成形EVAフォームを含むことができる。異なるタイプのEVAフォームは、異なるタイプの表面多孔性を有することができる。成形EVAは、高密度の表面または「スキン」を含むことができるが、フラットシートまたはスラブは、多孔性の表面を示すことができる。本発明によるポリウレタン基盤は、芳香族、脂肪族およびハイブリッドの、ポリエステルまたはポリエーテル(ハイブリッドの例は、シリコーンポリエーテルウレタンまたはシリコーンポリエステルウレタンおよびシリコーンカーボネートウレタンである)をベースとする熱可塑性ウレタンを含む。「プラスチック」とは、よく見かける任意の熱可塑性または熱硬化性の合成材料を意味し、これには、ポリエチレンおよびポリプロピレンおよびそれらの混合物などの熱可塑性オレフィン(「TPO」)、熱可塑性ウレタン、ポリカーボネート、シート成形化合物、反応射出成形化合物、アクリロニトリルをベースとする材料、ナイロンなどが含まれる。特定のプラスチックは、ポリプロピレンおよびEPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)を含むTPOである。
【0020】
本発明の別の実施形態では、コア−シェル粒子の製造は、コアモノマーを開始剤と一緒に溶液中に分散させてコア粒子を製造することによって行われる。シェルモノマーがコア粒子上で重合するように、シェルモノマーを、乳化剤および/または界面活性剤(単一粒子に関する上記のような)と一緒にコア粒子分散物に加える。コア−シェル粒子の分散物を上記のように精製して、荷電コア−シェル粒子のみの分散物を製造し、次いで、これが基盤に適用されると、基盤上に規則アレイを形成する。
【0021】
基盤上の粒子(単一またはコア−シェル)の乾燥アレイを、ポリマーマトリックス中に固定する。これは、粒子のアレイを、モノマーまたは他のポリマー前駆材料を含む液硬化性マトリックス組成物でコーティングし、その後マトリックス組成物を硬化することによって行う。米国特許第6894086号(参照によって本明細書に組み込まれる)に開示されているように、乾燥アレイに自己整列している粒子は、紫外線(UV)硬化性組成物などの液硬化性マトリックス組成物と相互浸透することができる。硬化性マトリックス組成物材料は、浸漬、噴霧、ブラッシング、ロールコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、フローコーティング、スロットダイコーティングまたはインクジェットコーティングによって、粒子の乾燥アレイ上にコートすることができる。コーティングとは、ポリマー前駆材料が、アレイ全体を覆い、粒子間の間隙スペースの少なくともいくつかを埋めていることを意味する。マトリックス組成物は、硬化され(UV放射線に曝すことなどによって)、充填された粒子のアレイを固定する。他の硬化機構は、粒子の周りにマトリックス組成物を固定するために使用されうる。
【0022】
コア−シェル粒子を有する放射線回折センサーに関しては、アレイが液硬化性マトリックス組成物と相互浸透すると、マトリックスのモノマーのいくらかは、シェル中に拡散することができ、それによって、マトリックス組成物が硬化されるまで、シェル厚(および粒子径)が増加する。溶媒はまた、シェル中に拡散し、膨潤を生み出し得る。溶媒はアレイから最終的に除去されるが、溶媒によるこの膨潤は、シェルの最終的な寸法に影響を与え得る。モノマーのアレイ中への相互浸透と、モノマーの硬化との間の時間の長さが、シェルによる膨潤度を幾分決定する。
【0023】
本発明の放射線回折センサーは、非ゲル状であり、実質的に固体である。非ゲル状とは、放射線回折センサーが、水などの流動化する材料を含まず、ヒドロゲルではないことを意味する。また、製品センサーは、ヒドロゲルから製造されたものでもないことが、当業者によって理解される。これは、現在請求されているものとは異なる製品に帰結するためである。ある実施形態では、本発明の放射線回折センサーは、粒子および多少可能な残留溶媒を有するポリマーマトリックスのみを実質的に含むので、実質的に固体である。放射線回折センサー中の粒子とポリマーマトリックスとの体積比は、通常、約25:75から約80:20である。
【0024】
放射線回折センサーは、種々の方法で物品に適用されうる。放射線回折センサーは、基盤上に製造され、次いで基盤から除去され、フレークの形などの微粒子形状に粉砕される。粉砕された放射線回折センサーは、物品に適用するために、添加剤として、塗料またはインクなどのコーティング組成物中に組み込むことができる。あるいは、放射線回折センサーは、物品に直接適用することができ、これによって、基盤は、製造品の包装および/またはハウジングなどの物品の表面である。例として、製造品は、基盤が商品用の包装である消費財(医薬品または食料品を含む)を含むことができる。あるいは、粒子のアレイを、電子デバイスのハウジングなどの、物品のハウジングに直接、または衣料、履物、スポーツ用品などの商品に直接適用することによって、物品自体が基盤としての機能を果たすことがある。同様に、物品は、身分証明書、法律関係書類またはその真偽の確認が要求される他の書類であってよい。
【0025】
加えて、放射線回折センサーは、薄膜またはシートの形に製造することができ、次いで、接着剤などによって物品に適用される。基盤上にセンサーを製造するこれらの方法は、最初に、直接基盤上に規則アレイを形成せずに、その後アレイをマトリックス材料でコートする、センサーを製造する他の技術とは異なることが認識されるべきである。
【0026】
放射線回折センサーは、マトリックスが異なる波長での回折を引き起こす1種または複数種の活性剤の存在に応答する。本発明によると、マトリックス組成物は、マトリックスと特定の活性剤との接触がマトリックスの寸法を変えるように、および/またはマトリックスの屈折率を変化させるように選択される。寸法が変化する場合、アレイ中の粒子間および/または粒子層間の空間距離が変化しうる。本発明において使用される「活性剤」は、マトリックスの寸法および/または屈折率の変化を引き起こす任意の材料である。「マトリックスの寸法を変化させる」などの用語は、マトリックスが活性剤に応答して、拡大(すなわち「膨潤」)または縮小(すなわち「収縮」)することを意味する。「マトリックスの屈折率を変化させる」とは、マトリックスの有効屈折率が、活性剤に応答して変化し、それ故、センサーによって回折される放射線の波長および/または強度が変化することを意味する。マトリックスの寸法を変化させることなく、マトリックスの屈折率を変化させることは可能であり、その逆もまた同様に可能である。活性剤は、例えば、水もしくは有機溶媒などの化学種、または溶質もしくは気体を含む液体であることができる。マトリックスは、特定の活性剤に応答するように選択される。活性剤に「応答する」とは、活性剤が、マトリックスの寸法を変化させることおよび/またはマトリックスの屈折率を変化させることを意味する。ある実施形態では、活性剤がセンサーのマトリックスに接触すると、活性剤はマトリックスと会合するようになり、マトリックスの体積を増加させる。マトリックスの体積におけるこの増加によって、粒子層が大きく広がることになる。Braggの法則によると、粒子間距離(d)が増加すると、回折される放射線の波長(λ)は、初期または第1の波長(λ)から、初期波長よりも長くあり得る第2波長(λ)へと変化する。あるいは、他の実施形態では、第2波長(λ)は、初期波長(λ)よりも短くあり得る。波長λおよびλは、粒子組成物、粒子サイズ、マトリックス組成物および/または活性剤組成物を選択することによって調整することができる。粒子組成物およびマトリックス組成物は、センサーの有効屈折率(n)を決定する。粒子サイズは、アレイの層間の初期距離(d)を決定する。マトリックス組成物および活性剤組成物は、活性剤がマトリックスと十分な親和性を示してマトリックス内にとどまり、マトリックスが異なる波長の回折を引き起こすように選択される。波長λおよびλは両方とも、活性剤の存在が目に見える色偏移によって示されるように、放射線の可視スペクトル中に存在してよい。λおよびλの両方が不可視スペクトル中に存在してよく、この場合、波長偏移は適切な計測器を用いて検出できる。あるいは、λは不可視スペクトル(UVまたはIR)中に存在し、λは可視スペクトル中に存在してよく、この場合、センサーと活性剤とが接触すると色が現れる。同様に、λは可視スペクトル中に、λは不可視スペクトル中に存在してよく、この場合、センサーが活性剤と接触すると回折光の色が消える。他の任意の波長の組合せはまた、本発明の範囲内である。
【0027】
活性剤を除去すると(蒸発などによって)、センサーのマトリックスは、元の回折波長、すなわちλに少なくとも実質的に戻ることができる。実質的にとは、回折波長が、その元の波長の約5〜10nmの範囲内に戻ることを意味する。理論的には、活性剤を完全に除去すると、マトリックスは、その元の回折波長に戻る。しかし、実際には、いくらかの活性剤はマトリックス内にとどまり得、そのため、あるマトリックスと活性剤との組合せに関しては、回折波長がその元の波長に完全には戻らないことがある。いずれの場合にも、センサーがその元の状態に完全に戻るか、または実質的に戻ると、センサーは、活性剤の有無を検出する働きをする。活性剤の除去時にマトリックスがその元の回折波長に少なくとも実質的に戻ることは、即時から逐次までの範囲の任意の速度であることができる。ある実施形態では、センサーは、センサーをその元の状態に戻すために、活性剤がマトリックスから容易に除去できない1回のみの使用のデザインであってよい。
【0028】
一実施形態では、マトリックス組成物は、水溶性または親水性のアクリルポリマーであり、活性剤は水である。水溶性または親水性のマトリックスを製造するのに適したモノマーは、エトキシル化15トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化20トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレートおよびアクリル酸を含むが、これらに限定されない。
【0029】
水溶性または親水性のポリマーマトリックスを製造するのに適した他のモノマーは、ポリエチレングリコール(1000)ジアクリレート、メトキシポリエチレングリコール(350)モノアクリレート、メトキシポリエチレングリコール(350)モノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(550)モノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(550)モノアクリレート、エトキシル化30ビスフェノールAジアクリレート、2(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、アクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジメタクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジメタクリレート、エトキシル化30ビスフェノールAジメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートおよびヒドロキシプロピルメタクリレートを含むことができる。
【0030】
これらのモノマーによって製造される水溶性または親水性のポリマーは、水で膨潤することができる。水溶性または親水性のポリマーのマトリックスを有する本発明の放射線回折センサーに、水を適用すると、粒子間のマトリックスが水を受け入れ、膨潤を引き起こす。水膨潤は、粒子間の空間距離(Braggの法則の可変(d))を増加させるので、回折される放射線の波長が増加する。
【0031】
あるいは、マトリックスは、有機溶媒によって膨潤される組成物であってよい。適した有機溶媒膨潤性マトリックス材料は、有機溶媒に対して親和性を有するポリマーであり、マトリックスポリマーが有機溶媒によって、回折される放射線の波長の変化が検出できる程度に膨潤可能であることを意味する。適した有機溶媒膨潤性ポリマーは、以下の限定されないモノマーから製造することができる。すなわち、アルコキシル化ヘキサンジオールジアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートおよび1,6−ヘキサンジオールジアクリレートである。
【0032】
有機溶媒膨潤性アクリルポリマーマトリックスを製造するのに適した他のモノマーは、プロポキシル化グリセリルトリアクリレート、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウレルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソクチルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、トリデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、エトキシル化ノニルフェノールアクリレート、イソボルニルアクリレート、ブチルアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ジ−トリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシル化ペンタエリトリトールテトラアクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、スチレン、アクリロニトリル、トリメチロールプロパントリアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、プロポキシル化アリルメタクリレート、アリルメタクリレート、エトキシセチルメタクリレート、エトキシステアリルメタクリレート、エトキシル化ヒドロキシエチルメタクリレート、エトキシル化ヒドロキシエチルメタクリレート、エトキシル化10ヒドロキシエチルメタクリレート、エトキシル化ノニルフェノールメタクリレート、エトキシトリグリコールメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化10ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、脂肪族ウレタンオリゴマー、アクリルオリゴマー、ポリエーテルアクリレートオリゴマー、ポリブタジエンジメタクリレートオリゴマー、ジアクリレートオリゴマー、トリアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートおよび芳香族ウレタンアクリレートを含んでよい。
【0033】
適した有機溶媒には、脂肪族炭化水素(石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびイソドデカンなど)、脂環式炭化水素(シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、テトラヒドロナフタレンおよびデカヒドロナフタレンなど)、テルペンおよびテルペノイド(ウッドテレビン油、松根油、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテンおよびd−リモネンなど)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、メシチレン(mestylene)、プソイドクメン、ヘメリテン(hemellitene)、シモール(cymol)およびスチレンなど)、塩素化炭化水素(ジクロロメタン、トリクロロメタン、塩化エチル、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ペルクロロエチレンおよび1,2−ジクロロプロパンなど)、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、メチルイソブチルカルビノール(methyisobutylcarbinol)、2−エチルブタノール、イソクチルアルコール(isoctyl alcohol)、2−エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、ジイソブチルカルビノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコールおよびジアセトンアルコールなど)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、エチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ジメチルシクロヘキサノン、トリメチルシクロヘキサノン、メシチルオキシド、イソホロンおよびアセチルアセトンなど)、エステル(ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピレングリコールジアセテート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ペンチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸アミル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸イソブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル、グリコール酸ブチル、メチルグリコールアセテート、エチルグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、エチル3−エトキシプロピオネート、二塩基酸エステル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチロラクトンなど)、グリコールエーテル(メチルグリコール、エチルグリコール、プロピルグリコール、イソプロピルグリコール、ブチルグリコール、ヘキシルグリコール、フェニルグリコール、メチルジグリコール、エチルジグリコール、ブチルジグリコール、ヘキシルジグリコール、メチルトリグリコール、エチルトリグリコール、ブチルトリグリコール、ブチルテトラグリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、エトキシプロパノール、イソプロポキシプロパノール、ブトキシプロパノール、イソブトキシプロパノール、tert−ブトキシプロパノール、フェノキシプロパノール、メチルジプロピレングリコール、イソプロピルジプロピレングリコール、ブチルジプロピレングリコール、メチルトリプロピレングリコール、ブチルトリプロピレングリコール、ジグリコールジメチルエーテルおよびジプロピレングリコールジメチルエーテルなど)、エーテル(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、2,2−ジメチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサンおよび1,2−プロピレンオキシドなど)および他の溶媒(ジメチルアセタール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、二硫化炭素、フルフロール、ニトロエタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−シクロヘキシルピロリドン、N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンおよびヘキサメチレンリン酸トリアミド(hexamethylenephosphoric triamide)など)が含まれる。これらの有機溶媒はまた、水溶性または親水性アクリルポリマーのマトリックスを膨潤するために使用することができる。
【0034】
別の実施形態では、ポリマーマトリックスは、溶液中の金属イオン、グルコースなどの有機分子、溶液中の気体、種々の源からの抗原、種々の源からの抗体およびHIVなどのウイルスなどの特定の活性剤に応答して、マトリックスが異なる波長を回折するように選択されうる。例えば、酸官能基を有するポリマーマトリックスは、塩基を含む活性剤組成物に反応し、または逆に、マトリックスが塩基官能基を有し、活性剤が酸官能基を有する場合も同様である。ポリマーマトリックスは、マトリックスが種々の活性剤に応答して、寸法および/または屈折率を膨潤、収縮またはそれ以外の様相に変化するように選択されうる。マトリックスは、抗原を含むことができ、抗体に曝されると抗体がこれに結合する。同様に、センサーは、酵素と基盤との組合せ、キレート剤、錯化剤またはアプタマーに基づいていてよい。あるセンサーに関しては、活性剤とマトリックスとの結合が十分に強いため、活性剤は、依然として引きつけられた状態、結合された状態および/またはマトリックス内にとどまった状態であり、センサーがその元の状態に戻ることはほとんどないか、または全くない。このような実施形態では、共有結合またはイオン結合が、活性剤とマトリックスとの間に生じ得る。当業者であれば、本明細書において開示されている種々の実施形態および本発明の範囲内の他の実施形態が、環境、医薬、冶金および化学の分野において多数の応用例を有することを認識する。
【0035】
特定のマトリックス組成物および適切な活性剤を選択することによって、マトリックスの回折波長を調整し得ることは認識される。本発明の放射線回折センサーは、物品へのマーキングまたは識別(薬剤の源を認証するために、薬剤の包装上などに)、書類などを認証するためのセキュリティーデバイスを含めた種々の応用例に、化学種の存在に対するセンサーとして、または玩具などの目新しい物品として使用することができる。本発明の放射線回折センサーは、単独でまたはキットの形で、回折される放射線を偏移された波長に変える、センサーを接触させるための活性剤と一緒に提供することができる。
【0036】
本発明のセンサーは、書類もしくはデバイスを認証するため、または製造品の源を識別するためなど、物品を認証するために使用することができる。本発明のセンサーを有する、セキュリティーカードなどの書類は、センサーが活性剤に応答する場合に真正であると見なされる。「セキュリティーカード」は、その持参者の身元を認証するか、施設への立入りを許可する、バッジの形などの書類またはデバイスを含む。セキュリティーカードは、カード(例えば、写真付身分証明書またはパスポート)の持参者を識別することができ、またはその持参者自信が安全な施設への立入りを許可されることを示す書類またはデバイスとして機能することができる。例えば、セキュリティーカードは、真正であるとしてあらわれ得、適切な活性剤を適用すると、カード上のセンサーが回折された放射線の波長に偏移を示す。偽物のセキュリティーカードであれば、その波長偏移を示さない。同様に、本発明のセンサーを有する包装中に提供される品目(医薬品など)の消費者は、適切な活性剤を包装に適用することによって、包装を調べ、その真偽を検証することができる。活性剤に応答しない包装は、偽物であると見なされるが、活性剤に応答する包装は、真正であると見なされる。他の消費財は、製造品(例えば電子デバイス)のハウジング上または衣料(例えば靴)の物品の表面上などに、本発明のセンサーを含むことができる。消費財の真偽は、それに活性剤を適用することによって試験することができ、またはセンサーの活性化が、物品の新しさの特徴付けとし得る。「物品」は、本センサーが適用されうる任意の製品を含むが、本明細書において論じられているものに限定されない。
【0037】
周期的に整列された粒子のアレイは、基盤上に形成され、マトリックスでコートされ、上記のように硬化されて、センサーを製造する。センサーが形成される基盤は、薄膜またはシートであってよく、続いてこれが、物品または別の表面(微孔性シートの表面または金属箔の表面など)に適用される。あるいは、物品の表面が、センサーを製造するための基盤としての機能を果たすことがある。その場合には、周期的な規則アレイは、物品表面上に形成され、マトリックス組成物がその上にコートされる。センサーは、センサーを特定の位置に置くために、マスクによって物品の一部に適用することができる。物品表面の残りの部分はいずれも、適したコーティング組成物でコートされ、または実質的にコートされて、センサーが曝される基盤を製造することができるが、残りの基盤のいずれもがコートされる。例えば、本発明によるセンサーは、微孔性シートに適用することができ、シートの残りはコート、ラミネート加工などが行われうる。セキュリティーカードは、このような方法で作製することができる。加えて、センサーは適切な活性剤によって接触されることが可能であるが、カードの残りは、コーティングまたはラミネート加工によって摩耗や断裂などから保護される。
【0038】
物品上に位置するセンサーは、回折される放射線の波長を偏移する活性剤と接触される。偏移した波長は、可視または不可視スペクトル中に存在してよい。センサーは、活性剤を除去すると、その元の状態に少なくとも実質的に戻る。例えば、親水性アクリルポリマーマトリックスは、水に曝されることによって膨潤することができる。センサーを有する身分証明書が、水によって接触される場合、回折波長の偏移が生じ、これによって身分証明書の真偽が証明される。水が蒸発すると、回折波長は、実質的にその元の状態に戻る。
【0039】
本明細書において使用される場合、他に特に規定がなければ、値、範囲、量または百分率を表現しているものなどのすべての数は、たとえ「約」という用語が明らかに出現していなくても、この語で始めているように読むことができる。本明細書に列挙されている任意の数値範囲は、その中に包含されている部分的範囲をすべて含むことが意図されている。複数形は、単数形を含み、その逆もまた同様である。例えば、特許請求の範囲を含めた本明細書において、「1つの」周期的な規則アレイ、「1つの」マトリックス、「1つの」活性剤などに言及がなされているが、2つ以上を使用することができ、マトリックスの寸法の変化に言及がなされているが、1つの寸法のみが変化し得る。また、本明細書において使用される場合、「ポリマー」という用語は、プレポリマー、オリゴマーならびにホモポリマーおよびコポリマーの両方を指すことを意味し、「ポリ」という接頭辞は、2つ以上を指す。
【0040】
放射線回折センサーの、すかし模様としてのこれらの例証的な使用は、限定されることを意味しない。加えて、以下の実施例は、本発明を単に例証するだけのものであり、限定されるためのものではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)硬化性アクリルマトリックス
紫外線硬化性有機組成物を、以下の手順によって調製した。Aldrich Chemical Company,Inc.,Milwaukee,Wis.からのジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドおよび2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノンの50/50混合物(0.15g)を、撹拌しながら、Sartomer Company,Inc.,Exton,Pa.からのエトキシル化20トリメチロールプロパントリアクリレート5.0gに加えた。
【0042】
(実施例2)硬化性アクリルマトリックス
紫外線硬化性有機組成物を、以下の手順によって調製した。Aldrich Chemical Company,Inc.,Milwaukee,Wis.からのジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドおよび2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン混合物の50/50混合物(0.15g)を、撹拌しながら、Sartomer Company,Inc.,Exton,Pa.からのエトキシル化20トリメチロールプロパントリアクリレート4.0gに加えた。次いで、Aldrich Chemical Company,Inc.からのアクリル酸(1.0g)を、混合物に撹拌しながら加えた。
【0043】
(実施例3)硬化性アクリルマトリックス
紫外線硬化性有機組成物を、以下の手順によって調製した。Aldrich Chemical Company,Inc.,Milwaukee,Wis.からのジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドおよび2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン混合物の50/50混合物(0.15g)を、撹拌しながら、Sartomer Company,Inc.,Exton,Pa.からのプロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート5gに加えた。
【0044】
(実施例4)コア−シェル粒子のアレイ
ポリスチレン−ジビニルベンゼンコア/スチレン−メチルメタクリレート−エチレングリコールジメタクリレート−ジビニルベンゼンシェル粒子の水中分散液を、以下の手順によって調製した。
【0045】
Aldrich Chemical Company,Inc.からの重炭酸ナトリウム(4.9g)を、脱イオン水4090gと混合し、熱電対、加熱マントル、撹拌機、還流冷却器および窒素吸入口を備えた12リットル反応釜に加えた。混合物に窒素を43分間撹拌しながら散布し、次いで、窒素で覆った。Cytec Industries,Inc.からのAerosol MA80−I(脱イオン水410g中46.8g)を、この混合物に撹拌しながら加え、その後、脱イオン水48gで洗浄した。加熱マントルを使用して、混合物を約50℃に加熱した。Aldrich Chemical Company,Inc.から入手可能なスチレンモノマー(832.8g)を撹拌しながら加えた。混合物を60℃に加熱した。Aldrich Chemical Company,Inc.からの過硫酸ナトリウム(脱イオン水144g中12.5g)を、混合物に撹拌しながら加えた。混合物の温度を一定に40分間保った。撹拌下で、Aldrich Chemical Company,Inc.からのジビニルベンゼン(205.4g)を混合物に加え、温度を約60℃で2.3時間保った。Aldrich Chemical Company,Inc.からのBrij35(ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル)(脱イオン水100g中5.0g)を、混合物に撹拌しながら加えた。次に、Aldrich Chemical Company,Inc.からの過硫酸ナトリウム(脱イオン水900g中9.1g)を、混合物に撹拌しながら加えた。Aldrich Chemical Company,Inc.からすべて入手可能な、スチレン(200g)、メチルメタクリレート(478.8g)、エチレングリコールジメタクリレート(48g)およびジビニルベンゼン(30.2g)の混合物を、反応混合物に撹拌しながら加えた。Rhodia,Inc.Cranbury,NJ.からのSipomer COPS−I(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸82.7g)を、反応混合物に撹拌しながら加え、その後脱イオン水(100g)を入れた。混合物の温度を60℃で、約4.0時間維持した。
【0046】
得られたポリマー分散液を、5ミクロン濾過袋に通して濾過した。2.41インチポリフッ化ビニリジン膜を備えた4インチ限外濾過ハウジング、両方ともPTI Advanced Filtration,Inc.,Oxnard,CA.からのものを使用して、ポリマー分散液を限外濾過し、蠕動ポンプを使用して、流速約170ml/秒で注入した。限外濾液3000gを除去した後、脱イオン水(2985g)を分散液に加えた。限外濾液11349gが脱イオン水11348gで置換されるまで、この交換を数回繰り返した。次いで、混合物の固体含量が44.8重量パーセントの状態まで、追加の限外濾液を除去した。
【0047】
材料を、Frontier Industrial Technology,Inc.,Towanda,PAからのスロットダイコーターによって、厚さ2milのポリエチレンテレフタレート(PET)基盤に適用し、180°Fで40秒間、約7ミクロンの乾燥厚さまで乾燥した。得られた材料の518nmにおける回折光を、Varian,Inc.からのCary500分光光度計を用いて測定した。
【0048】
(実施例5)水溶性固定アレイ
実施例1において調製された材料を、実施例4からのポリスチレン−ジビニルベンゼンコア/スチレン−メチルメタクリレート−エチレングリコールジメタクリレート−ジビニルベンゼンシェル粒子の固定アレイに、ドローダウン棒を使用して適用した。次いで、厚さ2milのPET薄膜の一切れを、実施例1からの堆積した材料上に、材料を完全に覆うように置いた。PET基盤の表側にローラーを使用して、実施例1からのUV硬化性コーティングを、実施例4からの固定アレイの間隙スペース中に広げて塗り込んだ。100Wの水銀ランプを使用して、試料を紫外線硬化させた。次いで、PETの2層を分離した。
【0049】
薄膜は、観測者にとって垂直または0度で見ると緑色を示し、観測者にとって45度以上で見ると青色を示す。薄膜の回折波長を、Cary500分光光度計を使用して測定した。続いて、薄膜を水に曝し、回折波長を再び測定した。水が蒸発した後、薄膜を最後にもう一度測定した。下記の表1に掲載されている結果は、材料の回折波長が、水の適用とともに増加し、水を除去すると、本質的にその元の状態に戻ったことを示す。
【0050】
【表1】

(実施例6)官能基膨潤性固定アレイ
実施例5の手順を繰り返したが、但し、実施例2からの材料(酸性基を含む)を、実施例1からの材料の代わりに使用した。薄膜は、観測者にとって垂直または0度で見ると緑色を示し、観測者にとって45度以上で見ると青色を示した。薄膜の回折波長を、Cary500分光光度計を使用して測定した。続いて、薄膜を水に曝し、回折波長を再び測定した。薄膜を、脱イオン水中で塩基(ジメチルエタノールアミン(DMEA))の5%溶液に曝し、回折波長を再測定した。DMEA溶液が蒸発した後、薄膜を最後にもう一度測定した。表2に掲載されている結果は、酸性基を含む薄膜のアクリルポリマーマトリックス材料が、水および塩基の両方によって膨潤可能であり、水および塩基を除去すると、本質的にその元の状態に戻ったことを示す。
【0051】
実施例6の生成物は、実施例6のマトリックス材料中に酸官能基を含んでいるため、実施例5の生成物とは異なった。回折された放射線の波長が、560nmから602nmまで変化したことによって実証されているように、両方の生成物は、水と接触すると膨潤した。実施例6の生成物は、回折された放射線の波長が623nmにさらに増加したことによって実証されているように、塩基(DMEA)と接触すると、さらに変わった。
【0052】
【表2】

(実施例7)有機溶媒膨潤性固定アレイ
実施例5の手順を繰り返したが、但し、実施例3からの材料を、実施例1からの材料の代わりに使用した。薄膜は、観測者にとって垂直または0度で見ると緑色を示し、観測者にとって45度以上で見ると青色を示した。薄膜の回折波長を、Cary500分光光度計を使用して測定した。続いて、薄膜を水に曝し、回折波長を再び測定したが、本質的に全く変化が見られなかった。次いで、薄膜を、95%変性エタノールに曝し、回折波長を測定した。エタノールが蒸発した後、薄膜を最後にもう一度測定した。表3に掲載されている結果は、薄膜が、水によって膨潤不可能であったが、エタノールによって膨潤可能であり、エタノールを除去すると、ほぼその元の状態に戻ったことを示す。
【0053】
【表3】

本明細書において実証されているように、本発明の放射線回折材料は、水または有機溶媒の存在を感知するために使用されうる。
【0054】
本発明の好ましい実施形態は上に記載されているが、本発明の明らかな改変および変更は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく行われうる。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその相当物に定めるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【公開番号】特開2012−215893(P2012−215893A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−133961(P2012−133961)
【出願日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【分割の表示】特願2009−549070(P2009−549070)の分割
【原出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(599087017)ピーピージー インダストリーズ オハイオ,インコーポレイテッド (267)
【Fターム(参考)】