説明

活性剤を送達するための非ポリマー性造血細胞クロット

【課題】物質を被験体に送達するための新規の方法および装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、物質を送達するための方法および装置を包含する。物質の送達は、被験体に、非ポリマー性造血細胞クロット(その内に物質が組み込まれる)を投与する工程を包含する。非ポリマー性造血細胞クロットは、物質の送達ビヒクルとして機能する。本発明は、損傷組織の治癒のための活性物質(例えば、遺伝子送達ビヒクル、細胞または可溶性タンパク質)の適用のための新規の系に関する。非ポリマー性造血細胞クロットが物質を被験体に送達するために使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、活性剤の送達、より詳細には、活性剤の送達を助ける非ポリマー性造血細胞クロットに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
生物学的因子および細胞を用いる、軟骨、骨、脊椎盤および軟組織領域の処置は、欠損修復の促進のための最新のアプローチである。組換えタンパク質およびタンパク質増殖因子を投与して、組織再生を促進し、治療的濃度の維持としての不本意な結果を導くことは、非常に高い負荷容量または反復投与を必要とするため、修復の効率を下げ、同時に、費用、複雑性、および非標的器官の曝露により望まない副作用が生じる危険性が増大する。
【0003】
組織修復への組換えタンパク質の適用を容易にするように設計された1つのアプローチは、この組換え細胞を組織損傷への移植のための生体適合性マトリクスまたは徐放性デバイスに組み込む必要があり、それにより損傷部位にこのタンパク質を局在化させ、そしておそらく、細胞をコロニーへ移動するための三次元構造を提供する必要があった。骨格筋組織の修復について評価されたマトリクスは、種々の合成ポリマーおよび天然ポリマーを含む。これらの系はまた、マトリクスに負荷されるタンパク質が、大量生成するには非常に高価であり得、まれに長くかつ均一な放出を有し得、一方、新たに形成する修復組織は、外来の移植材料の存在により悪影響を受け得るという点で、制限を有する。遺伝子移入は、損傷組織へのタンパク質の送達の多くの制限を解決し得るアプローチを提供する
Bonadioら、1999;Evans and Robbins,1995;Evansら、1995;Kangら、1997;Smithら、2000)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
本発明は、損傷組織の治癒のための活性物質(例えば、遺伝子送達ビヒクル、細胞または可溶性タンパク質)の適用のための新規の系に関する。非ポリマー性造血細胞クロットが物質を被験体に送達するために使用され得ることが発見された。この非ポリマー性造血細胞クロットは、物質を被験体へ送達するための送達ビヒクルとして機能する。
【0005】
1つの局面によると、本発明は、物質を被験体に送達する方法である。この方法は、被験体に、物質を含む非ポリマー性造血細胞クロットを投与して、この物質をこの被験体に送達する工程を包含する。
【0006】
別の局面によると、本発明は、非ポリマー性造血細胞クロット物質送達系を調製する方法である。この方法は、造血細胞のサンプルに物質を添加し、この物質を含む造血細胞のサンプルに非ポリマー性造血細胞クロットを形成させる工程を包含する。
【0007】
さらに別の局面によると、本発明は、物質が組み込まれた非ポリマー性造血細胞クロットを含む物質送達系である。
【0008】
非ポリマー性造血細胞クロットは、骨髄細胞、血液細胞またはクロットを形成する任意の他の型の細胞を含み得る。この物質は、遺伝子移入ビヒクル、さらなる細胞(例えば、遺伝子操作された細胞または未処理の細胞)、タンパク質(例えば、組換えタンパク質または可溶性タンパク質)、生体活性分子、あるいは被験体に影響を与え得る任意の他の型の物質を含み得る。
【0009】
非ポリマー性造血細胞クロットは、任意の型の組織に送達され得る。例えば、いくつかの実施形態において、この組織は、骨、軟組織、軟骨、靭帯、腱、半月板、および脊椎盤または任意の他の身体領域である。
【0010】
非ポリマー性造血細胞クロットの形状およびサイズは、いくつかの実施形態において、容器によって決定され得る。非ポリマー性造血細胞クロットは、この物質と共にホモジナイズされ得る。他の実施形態において、非ポリマー性造血細胞クロットは、少なくとも1つの増殖因子および組織修復を促進する他の遺伝子産物を発現するように、遺伝子改変され得る。
【0011】
非ポリマー性造血細胞クロットは、他の実施形態において、修復される組織のサイズによって決定される容量を有し得る。
【0012】
さらに他の実施形態において、非ポリマー性造血細胞クロットは、被験体から収集され得る。骨質量細胞は、他の実施形態において、腸骨稜から、下に存在する骨髄を露出させる軟骨損傷から、または骨髄細胞が収集され得る被験体の任意の他の領域から収集され得る。
【0013】
この物質は、必要に応じて、溶液の形態であり得る。
【0014】
この物質を含む非ポリマー性造血細胞クロットは、滴定され得る。この滴定は、ピペットを使用して行われ得る。
【0015】
いくつかの実施形態において、非ポリマー性造血細胞クロットは、少なくとも1つの未処理の細胞および遺伝子改変された細胞の懸濁液と混合されて、細胞懸濁液を形成する。この細胞懸濁液は、さらなる遺伝子ベクターを含んでいてもよいし、さらなる遺伝子ベクターを含まなくてもよい。
【0016】
他の実施形態において、この送達は、非ポリマー性造血細胞クロットからの物質の遅く局在化した放出であり得る。この非ポリマー性造血細胞クロットは、この物質の効率的な送達を可能にする様式で成形され得る。この物質送達系は、物質送達領域において組織の再生を生じ得る。
【0017】
非ポリマー性造血細胞クロットは、いくつかの実施形態において、室温でまたは容器に入れられた場合、15〜30分間でクロット形成し得る造血細胞のサンプルから生成され得る。この非ポリマー性造血細胞クロットは、次いで、この容器から収集され得る。
【0018】
この非ポリマー性造血細胞クロットはまた、リン酸緩衝化生理食塩水中で洗浄される造血細胞のサンプルから生成され得る。任意の未結合の物質が、非ポリマー性造血細胞クロットから除去され得る。
【0019】
他の実施形態によると、非ポリマー性造血細胞クロットは、被験体に移植され得る。物質は、この被験体に送達され得る。この送達は、非ポリマー性造血細胞クロットからの物質の遅く局在化した放出であり得る。必要に応じて、この非ポリマー性造血細胞クロット送達系は、組織を再生するために使用され得る。
【0020】
造血細胞のサンプルは、被験体から収集され得るか、または造血細胞の別の供給源から得られ得る。この被験体は、このクロットが後に移植される同じ被験体または異なる被験体であり得る。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
被験体に物質を送達する方法であって、物質を含む非ポリマー性造血細胞クロットを、被験体に投与して、該物質を該被験体に送達する工程を包含する、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、骨髄細胞を含有する、方法。
(項目3)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、血球を含有する、方法。
(項目4)
項目1に記載の方法であって、前記物質が、遺伝子移入ビヒクルを含有する、方法。
(項目5)
項目1に記載の方法であって、前記物質が、さらなる細胞を含有する、方法。
(項目6)
項目5に記載の方法であって、前記さらなる細胞が、遺伝子学的に操作された細胞を含有する、方法。
(項目7)
項目5に記載の方法であって、前記さらなる細胞が、ナイーブな細胞を含有する、方法。
(項目8)
項目1に記載の方法であって、前記物質が、タンパク質を含有する、方法。
(項目9)
項目1に記載の方法であって、前記物質が、組換え型タンパク質を含有する、方法。
(項目10)
項目1に記載の方法であって、前記物質が、可溶性タンパク質を含有する、方法。
(項目11)
項目1に記載の方法であって、前記物質が、生物活性な分子を含有する、方法。
(項目12)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、骨に送達される、方法。
(項目13)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、軟部組織に送達される、方法。
(項目14)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、軟骨、靭帯、腱、半月板および椎間円板のうちの少なくとも1つに送達される、方法。
(項目15)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットの形および大きさが、鋳型によって決定される、方法。
(項目16)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、前記物質によって、ホモジネートされる、方法。
(項目17)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、組織修復を促進する成長因子および他の遺伝子生成物の少なくとも1つを発現するように、遺伝子学的に改変される、方法。
(項目18)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、修復される細胞の大きさによって決定される容積を有する、方法。
(項目19)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、被験体から採取される、方法。
(項目20)
項目2に記載の方法であって、前記骨髄細胞が、腸骨稜から得られる、方法。
(項目21)
項目2に記載の方法であって、前記骨髄細胞が、下にある骨髄を露出する、骨軟骨性欠損症から得られる、方法。
(項目22)
項目1に記載の方法であって、前記物質が、溶液の形態にある、方法。
(項目23)
項目1に記載の方法であって、物質を含む前記非ポリマー性造血細胞クロットが、滴定される、方法。
(項目24)
項目23に記載の方法であって、前記滴定が、ピペットを使用して行われる、方法。
(項目25)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、ナイーブな細胞および遺伝子学的に改変させた細胞の少なくとも1つの懸濁液と混合させ、細胞の懸濁液を形成する、方法。
(項目26)
項目25に記載の方法であって、前記細胞の懸濁液が、少なくとも1つの遺伝子ベクターを含有する、方法。
(項目27)
項目25に記載の方法であって、前記細胞の懸濁液が、さらなる遺伝子ベクターを含有しない、方法。
(項目28)
項目1に記載の方法であって、前記送達が、前記非ポリマー性造血細胞クロット由来の物質の局在化した遅い放出である、方法。
(項目29)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、前記物質の効果的な送達を可能にするように形成される、方法。
(項目30)
項目1に記載の方法であって、物質の送達の領域内に再生組織をさらに含む、方法。
(項目31)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、15〜30分間クロット形成するように、造血細胞のサンプルから生成された、方法。
(項目32)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが室温でクロット形成するように、造血細胞のサンプルから生成された、方法。
(項目33)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、クロット形成する脈管内に置かれた造血細胞のサンプルから生成された、方法。
(項目34)
項目33に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、前記脈管から得られる、方法。
(項目35)
項目1に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、リン酸緩衝食塩水中で洗浄される造血細胞のサンプルから生成される、方法。
(項目36)
項目1に記載の方法であって、任意の非結合物質が、前記非ポリマー性造血細胞クロットから除去される、方法。
(項目37)
非ポリマー性造血細胞クロット物質送達システムを調製する方法であって、該方法が、以下:
物質を、造血細胞のサンプルに添加する、工程;および
前記物質を含む、造血細胞のサンプルに、非ポリマー性造血細胞クロットを形成させる工程を包含する、方法。
(項目38)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、被験体に移植される、方法。
(項目39)
項目37に記載の方法であって、前記物質が、被験体に送達される、方法。
(項目40)
項目39に記載の方法であって、前記送達が、前記非ポリマー性造血細胞クロットからの物質の、遅く、局在化した放出である、方法。
(項目41)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、物質の効果的な送達を可能にするように形成される、方法。
(項目42)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットの送達システムが、組織を再生させるために使用される、方法。
(項目43)
項目37に記載の方法であって、前記造血細胞のサンプルが、被験体から採取される、方法。
(項目44)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、脈管内で形成される、方法。
(項目45)
項目44に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、脈管から得られることをさらに含む、方法。
(項目46)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットを洗浄することをさらに含む、方法。
(項目47)
項目46に記載の方法であって、任意の非結合の物質を、洗浄により除去する、方法。
(項目48)
項目46に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットを、リン酸緩衝食塩水で洗浄する、方法。
(項目49)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットを、15〜30分間クロットさせる、方法。
(項目50)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットを、室温でクロット形成させる、方法。
(項目51)
項目37に記載の方法であって、前記造血細胞が、骨髄細胞を含有する、方法。
(項目52)
項目37に記載の方法であって、前記造血細胞が、血球を含有する、方法。
(項目53)
項目37に記載の方法であって、前記物質が、遺伝子移入ビヒクルを含有する、方法。
(項目54)
項目37に記載の方法であって、前記物質が、さらなる細胞を含有する、方法。
(項目55)
項目54に記載の方法であって、前記さらなる細胞が、遺伝子学的に操作された細胞を含有する、方法。
(項目56)
項目54に記載の方法であって、前記さらなる細胞が、ナイーブな細胞を含有する、方法。
(項目57)
項目37に記載の方法であって、前記物質が、タンパク質を含有する、方法。
(項目58)
項目37に記載の方法であって、前記物質が、組換え型タンパク質を含有する、方法。
(項目59)
項目37に記載の方法であって、前記物質が、可溶性タンパク質を含有する、方法。
(項目60)
項目37に記載の方法であって、前記物質が、生物活性な分子を含有する、方法。
(項目61)
項目38に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、骨に送達される、方法。
(項目62)
項目38に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、軟部組織に送達される、方法。
(項目63)
項目38に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、軟骨、靭帯、腱、半月板および椎間円板の少なくとも1つに送達される、方法。
(項目64)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットの形および大きさが、鋳型によって決定される、方法。
(項目65)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、前記物質によってホモジネートされる、方法。
(項目66)
項目37に記載の方法であって、前記造血細胞が、組織修復を促進する成長因子および他の遺伝子生成物の少なくとも1つを発現するように、遺伝子学的に改変されている、方法。
(項目67)
項目37に記載の方法であって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、修復される組織の大きさによって決定される容積を有する、方法。
(項目68)
項目51に記載の方法であって、前記骨髄細胞が、腸骨稜から得られる、方法。
(項目69)
項目51に記載の方法であって、前記骨髄細胞が、下にある骨髄を露出する、骨軟骨性欠損症から得られる、方法。
(項目70)
項目37に記載の方法であって、前記物質が、溶液の形態にある、方法。
(項目71)
項目37に記載の方法であって、物質を含む前記非ポリマー性造血細胞クロットが、滴定される、方法。
(項目72)
項目71に記載の方法であって、前記滴定が、ピペットを使用して行われる、方法。
(項目73)
項目37に記載の方法であって、前記造血細胞が、ナイーブな細胞および遺伝子学的に改変させた細胞の少なくとも1つの懸濁液で混合され、細胞懸濁物を形成する、方法。
(項目74)
項目73に記載の方法であって、前記細胞の懸濁液が、少なくとも1つの遺伝子ベク
ターを含有する、方法。
(項目75)
項目73に記載の方法であって、前記細胞の懸濁液が、さらなる遺伝子ベクターを含有しない、方法。
(項目76)
物質送達システムであって、以下:
非ポリマー性造血細胞クロットであって、そこに組み込まれた物質を含有する非ポリマー性造血細胞クロットを含有する、送達システム。
(項目77)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、物質の効果的な送達を可能にするように形成される、物質送達システム。
(項目78)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、骨髄細胞を含有する、物質送達システム。
(項目79)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、血球を含有する、物質送達システム。
(項目80)
項目76に記載の物質送達システムであって、物質が、遺伝子移入ビヒクルを含有する、物質送達システム。
(項目81)
項目76に記載の物質送達システムであって、物質が、さらなる細胞を含有する、物質送達システム。
(項目82)
項目81に記載の物質送達システムであって、前記さらなる細胞が、遺伝子学的に操作された細胞を含有する、物質送達システム。
(項目83)
項目81に記載の物質送達システムであって、前記さらなる細胞が、ナイーブな細胞を含有する、物質送達システム。
(項目84)
項目81に記載の物質送達システムであって、前記物質が、タンパク質を含有する、物質送達システム。
(項目85)
項目81に記載の物質送達システムであって、前記物質が、組換え型タンパク質を含有する、物質送達システム。
(項目86)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記物質が、可溶性タンパク質を含有する、物質送達システム。
(項目87)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記物質が、生物活性な分子を含有する、物質送達システム。
(項目88)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、骨に送達されるために処方される、物質送達システム。
(項目89)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、軟部組織に送達されるために処方される、物質送達システム。
(項目90)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、軟骨、靭帯、腱、半月板および椎間円板の少なくとも1つに送達されるために、処方される、物質送達システム。
(項目91)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットの形および大きさが、鋳型によって決定される、物質送達システム。
(項目92)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、前記物質によってホモジネートされる、物質送達システム。
(項目93)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、組織修復を促進する成長因子および他の遺伝子生成物の少なくとも1つを発現するように、遺伝子学的に改変される、物質送達システム。
(項目94)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、修復される細胞の大きさによって決定される容積を有する、物質送達システム。
(項目95)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、単離された造血細胞のサンプルから調製される、物質送達システム。
(項目96)
項目78に記載の物質送達システムであって、前記骨髄細胞が、腸骨稜骨髄細胞から単離される、物質送達システム。
(項目97)
項目78に記載の物質送達システムであって、前記骨髄細胞が、下にある骨髄を露出する骨軟骨性欠損症から単離される、物質送達システム。
(項目98)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記物質が、ナイーブな細胞および遺伝子学的に改変された細胞の少なくとも1つである、物質送達システム。
(項目99)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、造血細胞のサンプルを15〜30分間クロット形成させる工程により、調製される、物質送達システム。
(項目100)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、造血細胞のサンプルを室温でクロット形成させる工程により、調製される、物質送達システム。
(項目101)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、造血細胞のサンプルを脈管中でクロット形成させる工程により、調製される、物質送達システム。
(項目102)
項目101に記載の物質送達システムであって、前記脈管から非ポリマー性造血細胞クロットを得ることをさらに含む、物質送達システム。
(項目103)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、リン酸緩衝生理食塩水中で前記非ポリマー性造血細胞クロットを洗浄する工程により、調製される、物質送達システム。
(項目104)
項目76に記載の物質送達システムであって、前記非ポリマー性造血細胞クロットが、任意の非結合の物質を前記非ポリマー性造血細胞クロットから除去する工程により、調製される、物質送達システム。
【図面の簡単な説明】
【0021】
ここで、本発明の種々の実施形態が、添付の図面を参照して、例示の目的で記載される。
【図1−1】図1−1は、遺伝子治療で使用されている例示的な遺伝子リストである。
【図1−2】図1−2は、遺伝子治療で使用されている例示的な遺伝子リストである。
【図1−3】図1−3は、遺伝子治療で使用されている例示的な遺伝子リストである。
【図1−4】図1−4は、遺伝子治療で使用されている例示的な遺伝子リストである。
【図2】図2は、ヒト血液クロットおよびコラーゲン−グルコサミノグリカン−マトリクスの負荷容量のグラフである。
【図3】図3は、クロット形成後24時間の予備感染したウサギ骨髄細胞を含むヒト血液クロットの写真である。
【図4】図4は、厚さ2mm、直径30mmのヒト血液クロット(組織培養ウェルで形成)の写真である。
【図5】図5は、1日目(図5a)および21日目(図5b)におけるクロット中のGFP陽性細胞の写真である。
【図6】図6は、Ad TGF−β感染ウサギ骨髄細胞を含むウサギ血液クロットによる、TGF−βの生成のグラフである。
【図7】図7は、周辺媒体へのTGF−βの発現のグラフであり、ここで、「BL」は、血液を表わし、「BM」は、骨髄を表わす。
【図8】図8は、脱凝集したウサギ骨髄および血液クロットにおけるTGF−βの発現のグラフである。
【図9】図9は、クロット中のアデノウイルスの安定性のグラフである。
【図10】図10は、3日目における、ウサギにおけるインビボ遺伝子発現のグラフである。
【図11】図11は、Gomori’s Trichrome Kit染色を使用した、6週間後のインビトロにおけるウサギ骨髄クロットの写真である。
【図12】図12は、Gomori’s Trichrome Kit染色を使用した、6週間後のインビトロにおけるAd TGF−βを含むウサギ骨髄クロットの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(詳細な説明)
本発明によると、被験体に、物質を含む非ポリマー性造血細胞クロットを投与することによって、この被験体にこの物質が送達され得るということが発見された。物質を被験体に送達するための従来技術の方法は、多くの制限を有する。例えば、これらのうちのいくつかは、高価で、複雑であり、そして稀に、所望の持続的または均一な放出を有する。
本明細書中で使用される場合、「造血細胞クロット」は、種々の条件下でクロットを形成し得る任意の型の造血細胞を含むクロットである。例は、血液クロットおよび骨髄クロットである。骨髄または血液の吸引液は、最小の侵襲性の手順を使用して、被験体から容易に得られ得る。このことは、はるかに時間がかかり、高価であり労働集約的な人工材料の製造とは対照的である。血液クロットを生成するために、欠損のサイズによって決定される容量の血液細胞が、採血によって被験体から収集され得る。同様に、骨髄クロットを生成するために、適切な容量の骨髄吸引液が、腸骨稜のような骨髄を多く含む供給源から、下に存在する骨髄を露出させる軟骨損傷から、または他の適切な部位から収集され得る。骨髄吸引液および血液は、一般に、同じコンシステンシーであり、かつ類似のクロット特性を有する。
【0023】
組織修復において骨髄または血液クロットを使用することは、血液クロットの形成および骨髄細胞の移動が、骨軟骨性欠損、骨、腱、半月板または椎間板欠損の形成後の天然の修復応答の一部であるという利点を与える。さらに、骨髄クロットは、幹細胞と共に多く存在し、この幹細胞は身体の異なる組織を形成する能力を維持し;従って、このクロットは、修復応答に対する天然の微小環境を示す。適切な生物学的因子と組み合わされる場合、造血クロットは、いくつかの組織型の修復を促進する可能性を有する。
【0024】
造血細胞は、クロットが送達される同じ被験体から、物質が送達されない別の被験体から、インビトロで増殖した研究用サンプルから、または造血細胞の任意の他の供給源から単離され得る。明らかに異なる状況および物質には、造血細胞クロットが採取される異なる供給源が好ましい。例えば、造血細胞クロットが、この物質が送達される同じ被験体から得られる場合、このクロットは完全に天然であり、かつこの被験体に対して自系である。従って、造血細胞は、物質の送達を妨害するか、物質の所望の効果を阻害するか、または免疫応答を生じる可能性が低い。
【0025】
造血細胞クロットは、任意のサイズおよび形状を有し得る。例えば、造血細胞クロットは、これがクロットプロセスの間に天然でとるいかなる形態でも使用され得る。あるいは、造血細胞クロットを特定のサイズまたは形状に形成するための工程が行われ得る。特定のサイズまたは形状の造血細胞クロットは、特定の組織損傷の修復に有用であり得る。この場合、矯正または処置される特定の損傷に近いサイズを有するクロットを生成すること
が所望され得る。
【0026】
特定のサイズまたは形状の造血細胞クロットを調製するための1つの方法は、成形容器を使用することである。例えば、造血細胞クロットは、容器中で形成され;その結果、造血細胞と物質との混合物のサンプルは、この容器中で固化する。このように、クロットは、容器のサイズおよび形状によって決定されるサイズおよび形状を有する。造血細胞クロットはまた、物質(例えば、薬物)の効率的な送達を可能にする様式で(すなわち、組織損傷の非存在下においてでさえ)成形され得る。固体状態の造血細胞クロットによって、このクロットは容易に取扱われ、かつ損傷部位に移植され得る。
【0027】
上記のように、造血細胞クロットは、損傷組織の修復に有用であり得る。このクロットは、組織に配置されて、治癒プロセスを助ける。好ましくは、修復プロセスにおいて有用でもある物質が、クロットに組み込まれる。クロットが単独で使用され得るいくつかの例において、修復プロセスの間の細胞の内殖のためのマトリクスを単に提供することが可能であるが、好ましくは、物質(例えば、細胞、薬物または遺伝子ベクター)は、この中に組み込まれる。損傷組織は、修復の必要な任意の組織であり得る。例えば、この組織は、骨および種々の軟組織(軟骨、靭帯、腱、半月板および脊椎盤を含むが、これらに限定されない)であり得る。あるいは、この造血細胞クロットは、後の移植のために組織を操作または修復するためのインビトロ系として使用され得る。インビトロにおける組織形成について、造血細胞クロットは、細胞と共に播種され、そして適切な培地中で培養され得る。
【0028】
造血細胞クロットはまた、修復されるべき任意の組織の非存在下で、薬物または細胞を被験体に送達するために使用され得る。例えば、クロットは、化合物を被験体に送達するために使用される任意の他の持続性放出デバイスとして使用され得る。特定の使用は、被験体に送達される薬物、細胞または遺伝子ベクターの型に依存する。
【0029】
本明細書中で使用される場合、「被験体」は、脊椎動物(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、雌ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、またはげっ歯類)である。
【0030】
造血細胞クロットの形成は、種々の条件(例えば、室温)下で起こり得る。例えば、ウサギまたはヒトの血液および骨髄吸引液の凝固は、約15〜30分以内に起こる。従って、このクロットは、そのように所望される場合、操作可能内に発生されかつ移植され得る。
【0031】
一旦、造血細胞クロットが形成されると、任意の未結合の物質が、クロットから除去され得る。例えば、造血細胞クロットは、溶液(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水)中で洗浄され得る。クロットを調製するためのより詳細な方法の例は、以下に示される実験の記載において示される。当業者は、造血細胞を有するクロットを調製するための他の方法を認識する。
【0032】
本明細書中で使用される場合、「非ポリマー性造血細胞クロット」は、上記で定義されるような造血細胞クロットであり、ここで、ポリマーマトリックスは、このクロットに組み込まれないか、またはクロットのための構造物として使用されない。組織修復のためのほとんどの薬物送達デバイスは、薬物を送達するための構造物として、ポリマーマトリックスを使用する。ポリマーマトリックスは、ポリマー(例えば、修飾多糖類または天然の多糖類(例えば、キトサン、キチン、ヒアルロナン、グリコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、またはヘパリン硫酸))から形成される。ポリマーは、天然のタンパク質、組換えタンパク質または合成タンパク質(例えば、可溶性コラーゲンまたは可溶性ゼラチン、あるいはポリアミノ酸(例えば、ポリリジン))であり得る。ポリマーはまた、追加の官能基(例えば、限定なしに、ヒドロキシル基、チオール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、およびアロイルオキシ基)を有するかまたは有さない、カルボキシル官能基、アミノ官能基、スルホン官能基、ホスホン官能基、ホスフェン官能基を含むポリ乳酸、ポリグリコール酸、合成ホモコポリマーおよび合成ブロックコポリマーであり得る。さらに、ポリマーは、オルトエステル、無水物、プロピレン−co−フマレート、または1つ以上のα−ヒドロキシカルボン酸モノマー(例えば、α−ヒドロキシ酢酸(グリコール酸)および/またはα−ヒドロキシプロピオン酸(乳酸))のポリマーを含み得る。
【0033】
ポリマーは、最初に、無機塩(例えば、塩化ナトリウム、カリウムカルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸塩、およびカルボン酸塩)を含む緩衝液中に溶解され得るか、または懸濁され得る。ポリマーはまた、有機塩(例えば、グリセリンリン酸、フルクトースリン酸、グルコースリン酸、L−セリンリン酸、アデノシンリン酸、グルコサミン、ガラクトサミン、HEPES、PIPES、およびMES)を含む緩衝液中に溶解され得るか、または懸濁され得る。
【0034】
好ましくは、物質は、非ポリマー性造血細胞クロット中に組み込まれる。本明細書中で使用される場合、「物質」は、被験体に対する効果(診断効果を含む)を有する任意の組成物である。物質は、例えば、細胞または任意の他の活性な薬剤(例えば、薬物、またはペプチドを発現可能な遺伝子ベクター、低分子など)であり得る。物質は、外因性物質である。すなわち、これは、造血細胞のサンプルに添加され、かつそのサンプルが以前の環境(すなわち、被験体、インビトロ環境など)から取得される前にその細胞サンプル中に存在しなかったものである。物質の例は、遺伝子移入ビヒクル(ウイルス性または非ウイルス性)、追加細胞、遺伝子組換えタンパク質または未処置のタンパク質、組換えタンパク質、可溶性タンパク質または任意の他の型のタンパク質あるいは他の生物活性分子(例えば、増殖因子)である。
【0035】
本明細書中で使用される場合、活性薬剤は、生物有機体において診断効果、予防効果、または治療効果を有する任意の化合物である。活性薬剤としては、タンパク質、ペプチド、抗体、多糖類、核酸(例えば、RNA、DNA、PNA、それらの複合体(例えば、三重鎖))、糖類、糖タンパク質、アミノ酸、ウイルス、高分子の異種混合物(例えば、自然産物の抽出物)およびハイブリッド高分子(例えば、タンパク質/核酸ハイブリッド、アルブミン複合タンパク質、無機分子のリンカー、有機分子のリンカーもしくはそれらの組み合わせのリンカーを有する薬物)のような化合物が挙げられる。
【0036】
生物活性薬剤は、生物有機体において診断効果または治療効果を有する任意の化合物である。いくつかの実施形態において、生物活性薬剤は、以下の薬剤のうちのいずれかである:アドレナリン作用薬剤;副腎皮質ステロイド;副腎皮質抑制剤;認知、抗血小板、アルドステロンアンタゴニストを処置するための薬剤;アミノ酸;同化剤;興奮剤;鎮痛剤;麻酔剤;食欲抑制剤(anorectic);抗座瘡剤;抗アドレナリン作用薬剤;抗アレルギー剤;抗アルツハイマー剤;抗アメーバ剤;抗貧血剤;抗狭心症剤;抗関節炎剤;抗喘息剤;抗アテローム硬化剤;抗細菌剤;抗コリン作動剤;抗凝血剤;抗痙攣剤;抗降下剤;抗糖尿病剤;抗下痢剤;抗利尿剤;抗催吐剤(anti−emetic);抗癲癇剤;抗線維素溶解剤;抗真菌剤(antifungal);抗出血剤;抗ヒスタミン剤;抗高脂血症剤;抗高血圧剤;抗低血圧剤;抗感染剤;抗炎症剤;抗微生物剤;抗片頭痛剤;抗有糸分裂剤;抗真菌剤(antimycotic);抗催吐剤(antinauseant);抗新生物剤;抗好中球減少剤(antineutropenic);抗寄生虫剤;抗増殖剤;抗精神病剤;抗リウマチ剤;抗脂漏剤;抗分泌剤;抗痙性剤;抗血栓剤;抗潰瘍剤;抗ウイルス剤;抗不安剤;食欲抑制剤(appetite suppressant);血液グルコース調節因子;骨吸収インヒビター;気管支拡張剤;心臓血管薬剤;コリン作用剤;COX1インヒビター、COX2インヒビター、直接トロンビンインヒビター、降下剤;診断用補助剤;利尿剤;ドーパミン作用剤;エストロゲンレセプターアゴニスト;線維素溶解剤;蛍光剤;フリー酸素ラジカル捕捉剤;胃腸運動効果剤;糖質コルチコイド;GPIIbIIIaアンタゴニスト、毛髪増殖刺激剤;止血剤;ヒスタミンH2レセプターアンタゴニスト;ホルモン;ヒト成長ホルモン、低コレステロール血症剤;血糖降下剤;脂質低下剤;睡眠剤、血圧降下剤;造影剤;免疫学的薬剤(例えば、免疫剤、免疫調節因子(immunomodulator)、免疫調節因子(immunoregulator)、免疫刺激剤、および免疫抑制剤);角質溶解剤;LHRHアゴニスト;気分調節因子;粘液溶解剤;散瞳剤;鼻詰まりの薬剤;神経筋遮断剤;神経保護剤;NMDAアンタゴニスト;非ホルモン性ステロール誘導体;プラスミノゲン活性化剤;血小板活性化因子アンタゴニスト;血小板凝集インヒビター;プロトンポンプインヒビター、向精神剤;放射活性薬剤;抗疥癬虫剤;硬化剤;鎮静剤;鎮静催眠剤;選択的アデノシンA1アンタゴニスト;セロトニンアンタゴニスト;セロトニンインヒビター;セロトニンレセプターアンタゴニスト;スタチン、ステロイド;甲状腺ホルモン;甲状腺インヒビター;甲状腺模倣物;精神安定剤;筋萎縮性側索硬化症薬剤;脳虚血薬剤;パジェット病薬剤;不安定狭心症薬剤;血管収縮剤;血管拡張剤;創傷治療剤;キサンチンオキシダーゼインヒビター。
【0037】
非ポリマー性造血細胞クロットの1つの好ましい使用は、骨および組織欠損を修復することである。軟骨、骨および軟組織修復と最も関連しそうなタンパク質は、トランスホーミング増殖因子−β(TGF−β)スーパーファミリーのメンバー(TGF−β S 1〜3が挙げられる)、種々の骨形成タンパク質(BMP)、線維芽細胞増殖因子、成長ホルモン、およびインスリン様増殖因子(IGF)である。
【0038】
軟骨の形成および軟骨修復、ならびに骨および軟組織の形成および修復を促進するための組換えタンパク質のインビボ投与は、種々の欠損モデルおよび実験用動物において調査されている(Hunziker、2001;Nixonら、1999;Sellersら、1997)。有望な結果にも関わらず、組換えタンパク質の臨床適用は、これらの分子の短い生物学的半減期、および持続した標的送達についての有効な方法の欠失によって妨げられる。組織損傷の部位へのタンパク質増殖因子の直接注射は、不本意な結果を導いている。なぜなら、この因子は、体液によって希釈され、迅速に代謝されるかまたは他の組織に散布されるからである。従って、治療の濃度の維持には、非常に多くの負荷容量または反復投与を必要とする。このことは、修復の有効性を減少させる一方で、費用、煩雑さ、および非標的器官の曝露により望まない副作用が生じる危険性を増大させる。本明細書中で記載される非ポリマー性造血細胞クロットは、以下に示される実施例において実証されるように、これらの問題の多くを克服する。
【0039】
クロットはまた、一般的には被験体に、または被験体の特定の組織に遺伝子を送達するために有用である。本明細書中で使用される場合、「遺伝子」は、長さが30ヌクレオチドを超える、より代表的には100ヌクレオチド以上の、単離された核酸分子である。一般的には、これは、適切なプロモーターの制御下にあり、誘導性であり得るか、抑制性であり得るか、または構成性であり得る。所望の機能を置き換えるかまたは補完すること、あるいは所望の効果(例えば、腫瘍増殖の阻害)を達成することにおいて有用な任意の遺伝子は、本明細書中で記載されるクロットを使用して誘導され得る。プロモーターは、一般的なプロモーターであり得、種々の哺乳動物細胞において、または細胞特異的に、あるいは核対細胞質特異的にさえ発現を生じる。これらは、当業者に公知であり、かつ標準的な分子生物学的プロトコルを使用して構築され得る。
【0040】
遺伝子の任意の型が、本発明の方法に従って有用である。特定の状況において使用される特定の遺伝子は、処置される条件および/または所望の治療結果に依存する。遺伝子治療において使用されている遺伝子の例示的なリストは、図1に提供される。本発明のいくつかの実施形態において、図1に列挙される遺伝子の任意1つまたは組み合わせが、本発明の送達デバイス中に組み込まれ得る。
【0041】
遺伝子移入は、損傷した組織に対するタンパク質送達についての多くの制限を克服し得るアプローチを提供する。この開示において記載される本発明は、損傷した組織を治癒するための遺伝子送達ビヒクル、細胞および可溶性タンパク質の適用のための、新規のシステムを提示する。損傷部位または疾患部位での特定の細胞に対する修繕能力または治療能力を有するタンパク質をコードするcDNAを送達することによって、遺伝的に改変された細胞が、薬物生産のための局所因子となり、特定のタンパク質の持続的な合成を可能にする。
【0042】
このような遺伝子についての適切なプロモーター、エンハンサー、ベクターなどは、文献に公開される。一般的には、有用な遺伝子は、機能を置き換えるかまたは補完し、これらとしては、不在酵素(missing enzyme)(例えば、ADA欠損を処置するために臨床試験において使用されているアデノシンデアミナーゼ(ADA))および補助因子(例えば、インスリン)ならびに凝固因子VIIIをコードする遺伝子が挙げられる。調節に影響を及ぼす遺伝子はまた、単独でか、または特定の機能を補完するかまたは置き換えた遺伝子と組み合わせて投与され得る。例えば、特定のタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制するタンパク質をコードする遺伝子は、本発明のクロットによって投与され得る。遺伝子は、種々の供給源(文献の参照、Genbank、または商業的供給者を含む)から得られ得るか、または誘導され得る。これらは、相対的に小さい場合、固相合成を使用して合成され得るか、寄託されたサンプル(例えば、American Type Culture Collection,Rockville,MDに寄託されたサンプル)から得られ得るか、または公開された配列情報を使用して新規に単離され得る。
【0043】
遺伝子に加えて、物質は、短いオリゴヌクレオチド(例えば、それらの長さおよび機能によって遺伝子と区別されるアンチセンスおよびリボザイム)であり得る。このような短いオリゴヌクレオチドとは異なり、遺伝子はタンパク質をコードし、従って、代表的には、長さが最低でも100塩基対を超える、より代表的には何百もの塩基対である。
【0044】
本明細書中で使用される場合、ベクターは、分解せずに遺伝子を細胞内に輸送する薬剤であり、この遺伝子が送達される細胞において遺伝子の発現を生じるプロモーターが挙げられる。
【0045】
発現ベクター中の遺伝子が、インビトロで宿主細胞および細胞株(例えば、原核生物(例えば、E.coli)、または真核生物(例えば、樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、酵母発現系および昆虫細胞における組換えバキュロウイルス発現))中にトランスフェクトされ得ることもまた、認識される。次いで、これらの細胞は、クロット中に組み込まれる。特に有用なのは、哺乳動物細胞(例えば、ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヒツジ、霊長類など)である。これらは、広範囲の組織型の細胞であり得、かつ初代の細胞および細胞株を含み得る。特定の例としては、ケラチノサイト、末梢血白血球、骨髄幹細胞および胚幹細胞が挙げられる。発現ベクターは、適切な遺伝子配列が、プロモーターに操作可能に連結されていることを必要とする。
【0046】
いくつかの実施形態において、遺伝子を送達するためのウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス(ワクシニアウイルスおよび弱毒化ポックスウイルスを含む)、セムリキ森林熱ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、レトロウイルス、シンドビスウイルス、およびTyウイルス様粒子からなる群より選択される。外因性の核酸を送達するために使用されているウイルスおよびウイルス様粒子の例としては、複製欠損アデノウイルス(例えば、Xiangら、Virology 219:220−227、1996;Eloitら、J.Virol.7:5375−5381、1997;Chengalvalaら、Vaccine 15:335−339、1997)、修飾レトロウイルス(Townsendら、J.Virol.71:3365−3374、1997)、非複製性レトロウイルス(Irwinら、J.Virol.68:5036−5044、1994)、複製欠損セムリキ森林熱ウイルス(Zhaoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:3009−3013、1995)、カナリア痘ウイルスおよび高度に弱毒化したワクシニアウイルス誘導体(Paoletti、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:11349−11353、1996)、非複製性ワクチニアウイルス(Moss、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:11341−11348、1996)、複製性ワクチニアウイルス(Moss、Dev.Biol.Stand.82:55−63、1994)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(Davisら、J.Virol.70:3781−3787、1996)、シンドビスウイルス(Pugachevら、Virology 212:587−594、1995)、およびTyウイルス様粒子(Allsoppら、Eur.J.Immunol 26:1951−1959、1996)が挙げられる。好ましい実施形態において、ウイルスベクターは、アデノウイルスまたはアルファウイルスである。
【0047】
特定の適用のための別の好ましいウイルスは、アデノ随伴ウイルス、二本鎖DNAウイルスである。アデノ随伴ウイルスは、広範囲の細胞型および細胞種を感染可能であり、かつ操作されて、複製欠損であり得る。さらに、加熱安定性および脂質溶解安定性、多様な系統の細胞(例えば、造血細胞)における高い形質転換頻度、および重感染阻害の欠失に従って、複数のシリーズの形質転換が可能である、というような利点を有する。アデノ随伴ウイスルは、部位特異的な様式においてヒト細胞DNA中に組み込まれ得、それによって、挿入性の変異誘発の可能性および挿入された遺伝子発現の可変性を最小限にする。さらに、野生型アデノ随伴ウイルス感染は、選択的圧力の非存在下で、組織培養物において100継代を超えて続いており、このことは、アデノ随伴ウイルスのゲノム統合が、相対的に安定な事象であることを暗示する。アデノ随伴ウイルスはまた、染色体外の様式において機能し得る。
【0048】
一般的には、他の好ましいウイルス性ベクターは、非必須な遺伝子が目的の遺伝子で置換されている、非細胞変性の真核生物ウイルスに基づく。非細胞変性ウイルスとしては、レトロウイルスが挙げられ、その生活周期は、宿主細胞DNAへの連続的なプロウイルス統合を有する、ゲノムウイルス性RNAからDNAへの逆転写を包含する。アデノウイルスおよびレトロウイルスは、ヒト遺伝子治療試行については承認されている。一般的には、レトロウイルスは、複製欠損性である(すなわち、所望のタンパク質の合成を指向することは可能であるが、感染性粒子を製造することは不可能である)。こうような遺伝的に変化されたレトロウイルス性発現ベクターは、インビボでの遺伝子の有効性の高い形質転換について一般的な有用性を有する。複製欠乏性のレトロウイルスを産生するための標準的なプロトコル(外因性の遺伝物質をプラスミド中に取り込む工程、プラスミドでパッケージ細胞株を形質転換する工程、パッケージ細胞株によって組換えレトロウイルスを産生する工程、組織培養培地からウイルス粒子を収集する工程、および標的細胞をウイルス粒子で感染させる工程を包含する)は、Kriegler,M.、「Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual」、W.H.Freeman Co.、New York(1990)、およびMurry,E.J.編「Methods in Molecular Biology」、第7巻、Humana Press,Inc.、Cliffton、New Jersey(1991)において提供される。
【0049】
好ましくは、上記の核酸送達ベクターは:(1)哺乳動物細胞において転写され得かつ翻訳され得る外因性の遺伝物質を含み、そして(2)必要に応じて、標的細胞(例えば、哺乳動物細胞)の表面上でレセプターに選択的に結合し、それによって標的細胞への侵入を得るリガンドを、表面上に含み得る。
【0050】
種々の技術が、本発明の核酸を細胞中に導入するために使用され得、これらの技術は、この核酸が宿主においてインビトロまたはインビボで導入されるかどうかに依存する。このような技術としては、核酸CaPO沈殿物のトランスフェクション、DEAEに関連する核酸のトランスフェクション、上記のウイルス(目的の核酸を含む)を用いるトランスフェクションまたは感染、リポソーム媒介性トランスフェクションなどが挙げられる。特定の使用のために、特にクロットが標的細胞から遠い部位に移植されるかまたは投与される場合には、特定の細胞に対する核酸を標的とすることが好ましくあり得る。このような場合、クロットからの放出後に、本発明の核酸を細胞中に送達するために使用されるビヒクル(例えば、レトロウイルス、または他のウイルス;リポソーム)は、それに付着した標的分子を有し得る。例えば、分子(標的細胞上の表面膜タンパク質に対して特異的な抗体、または標的細胞におけるレセプターについてのリガンド)は、核酸送達ビヒクルに結合され得るか、または核酸送達ビヒクル中に取り込まれ得る。リポソームが遺伝子を送達するために使用される場合、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質は、ターゲッティングのためにおよび/または取り込みを促進するためにリポソーム処方物中に取り込まれ得る。このようなタンパク質としては、特定の細胞型について回帰性(tropic)のカプシドタンパク質またはそのフラグメント、周期において内在化を受けるタンパク質についての抗体、細胞内の局在化を標的としかつ細胞外の半減期を増強するタンパク質などが挙げられる。
【0051】
物質は、物質を造血細胞と混合してクロットを形成することが可能な任意の状態(例えば、溶液、固体、ベクター、気体または任意の他の状態)であり得る。
【0052】
直接的な遺伝子移入のために、収集された血液または骨髄は、遺伝子移入ベクター(ウイルス性または非ウイルス性)または適切な大きさの成形容器中で、または細胞サンプルが物質と混合することを可能にする容器中で、タンパク質を含有する溶液に添加され得る。この混合物は、ピペットまたはこの物質を細胞サンプルと混合する任意の他のデバイスもしくはシステムを使用して滴定され得る。
【0053】
エキソビボでの遺伝子送達アプローチのために、造血細胞(例えば、血液または骨髄吸引液)は、追加のベクターを有してかまたは有さずに、未処置の細胞または遺伝的に改変された細胞の懸濁液と混合され得る。次いで、細胞はクロット中に取り込まれ、そして身体に戻される。
【0054】
本発明はまた、産物を包含する。この産物は、物質送達システムである。本明細書中で使用される場合、「物質送達システム」とは、物質を含有する非ポリマー性造血細胞クロットであり、この非ポリマー性造血細胞クロットが物質を被験体に送達し得る。
【0055】
投与される場合、組成物(物質を含有する非ポリマー性造血細胞クロット)は、薬学的に受容可能な調製物の形態で投与され得る。このような調製物は、慣用的には、薬学的に受容可能な濃度の塩、緩衝剤、保存剤、互換性キャリア、および必要に応じて、他の非取り込み性の治療剤を含有し得る。
【0056】
組成物は、注射を含む任意の従来の経路、または時間をかけての漸進的注入によって投与され得る。例えば、投与は、直接注射または移植、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、腔内、肺内、粘膜(すなわち、直腸、膣、眼球、皮膚、鼻内など)、皮下、エアロゾル、または経皮であり得る。投与は、全身性または局所性であり得る。
【0057】
本発明の組成物は、有効量で投与される。「有効量」は、単独でか、またはさらなる用量と一緒になって、所望の応答を生じる組成物の量である。当然、所望の応答は、処置される特定の状態および細胞の型あるいはクロットに投与されている活性剤に依存する。これらの因子は、当業者に周知であり、慣習的な実験法で対処し得るに過ぎない。一般的には、個々の成分またはそれらの組み合わせ物の最大量、すなわち、健全な医療判断に従う最も安全性の高い容量が、使用されることが好ましい。しかし、患者は、医学的な理由、心理的な理由、または実質的には任意の他の理由のために、より低い容量または耐容量を主張することが、当業者によって理解される。上記の方法において使用される組成物は、好ましくは、無菌性であり、かつ患者への投与のために適切な1単位の重量または容積において、所望の応答を生じるために有効量の物質を含有する。
【0058】
投与される場合、本発明の薬学的調製物は、薬学的に受容可能な量で、かつ薬学的に受容可能な組成物で適用される。用語「薬学的に受容可能な」とは、活性成分の生物活性の有効性を妨害しない無毒性物質を意味する。このような調製物は、慣用的には、塩、緩衝剤、保存剤、互換性キャリア、および必要に応じて、他の治療剤を含有し得る。医薬において使用される場合、塩は、薬学的に受容可能であるべきであるが、薬学的に受容可能でない塩は、都合よく、その薬学的に受容可能な塩を調製するために使用され得、そして本発明の範囲から除外されない。このような薬理学的かつ薬学的に受容可能な塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸などの酸から調製される塩が挙げられるが、これらに限定されない。また、薬学的に受容可能な塩は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩)として調製され得る。
【実施例】
【0059】
(インビトロ:)
(実施例1:血餅または骨髄クロットの装填能力)
クロット形成プロセスを中断させることなくヒト血液に加えられ得る流体の最大量を評価するために、200μlの容量の血液を、増大する量のPBSと混合した。血液のほぼ2倍の容積のPBSを加えた後も、クロット形成は依然として起こった。図2に示されるように、この発見を、同じサイズのコラーゲン−グリコサミノグリカン−マトリクス(コラーゲン−gag−マトリクス)が吸収され得る流体量と比較した。クロットとコラーゲン−gag−マトリクスとの間の流体の摂取における有意な違いは、観察されなかった。
【0060】
ヒト血餅が細胞を取り込み得るか否かを決定するために、ウサギ骨髄細胞を、単層中で培養し、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を有するアデノウイルスベクターに感染させた。24時間後、およそ600,000個の蛍光細胞を、トリプシン処理し、遠心分離により回収した。細胞ペレットを、450μlのヒト血液中に各々再懸濁した。次いで、これらの血球構築物を、微小遠心分離管中でクロット形成した。1時間後、クロットを収集し、1mlのPBSに浸し、Ham’s F12媒体で、12ウェルプレートの各々で24時間培養した。
【0061】
ヒト血餅は、図3に見られ得るような、クロット形成後24時間で、高い密度の緑蛍光ウサギ骨髄細胞を示した。クロット形成後のエッペンドルフチューブ中に残っている流体の分析は、残渣の緑色の細胞を明らかにせず、全ての形質導入されたウサギ骨髄細胞がヒト血餅により保持されたことを示す。
【0062】
(実施例2:クロットの形成)
クロット形成のための異なる脈管を使用する実験が、クロットが広範な形状およびサイズに形成され得ることを確かめた。従って、生成したクロットは、任意のサイズおよび形状の欠損に埋め込まれるのに十分安定なまま保たれ、この例が、図4に示される。
【0063】
(実施例3:血餅および骨髄クロットの遺伝的に改変された細胞での接種(エキソビボ遺伝子送達アプローチを刺激する))
エキソビボ遺伝子送達アプローチを刺激するために、ウサギ血餅の4つの群が、インビトロで試験された:
1.450μlのウサギ血液のみ
2.400,000個のウサギ骨髄細胞の懸濁液と混合した450μlのウサギ血液
3.組換えアデノウイルスで遺伝的に改変されてGFPを発現する400,000個のウサギ骨髄細胞の懸濁液と混合された450μlのウサギ血液
4.組換えアデノウイルスで遺伝的に改変されてTGF−βを発現する400,000個のウサギ骨髄細胞の懸濁液と混合された450μlのウサギ血液
各々の群は、4つの複製を含んだ。クロットを、蛍光顕微鏡により1日目、3日目、7日目、14日目、および21日目で試験した。TGF−β発現を、形質導入されてTGF−βを発現する細胞を接種されるクロット中で、ELISAを使用する培地中でTGF−βレベルを測定することにより、決定した。
【0064】
クロット中の蛍光細胞は、インビトロで少なくとも21日の間、観察された。図5aは、1日目の細胞を示し、図5bは、21日後の細胞を示す。同様なTGF−β発現が、7日目の最大の発現と共に少なくとも21日間観察された;この結果を、図6に示す。
【0065】
(実施例4:血餅および骨髄クロット中の細胞の直接の形質導入(直接の遺伝子送達アプローチを刺激する))
血餅または骨髄クロット中の細胞が導入遺伝子発現を支持し得るか否かを決定するために、血液および骨髄を、アデノウイルスベクター、Ad TGF−βおよびAd GFPと混合した。
【0066】
1.450μlウサギ血液のみ
2.450μlウサギ血液および10μl Ad GFP
3.450μlウサギ血液および10μl Ad TGF−β
4.450μlウサギ骨髄吸引物のみ
5.450μlウサギ骨髄吸引物および10μl Ad GFP
6.450μlウサギ骨髄吸引物および10μl Ad TGF−β
各々の群は、4つの複製からなる。クロットは、以前に記載されたように形成され、1日目、3日目、7日目、14日目および21日目に顕微鏡で検証した。条件付けられた培地のELISAを、同じ時点で実施し、TGF−β発現を測定した。
【0067】
GFP発現を、最大14日間の間、血餅および骨髄クロット中で観察した。その結果は、図7に見られ得る。
【0068】
TGF−β産生を、骨髄クロット中で最大7日間の間検出し、3日目で最大となり、14日目までにバックグラウンドレベルに減少した。
【0069】
対照的に、TGF−βの検出可能なレベルは、Ad TGF−βで感染された血餅中で発現されなかった。培地中で分泌されたTGF−βの非存在は、クロット中に捕捉される成長因子または他のベクターでの識別に起因し得る。
【0070】
血餅中に捕捉されて残っているこれらの導入遺伝子産物を定量するさらなる実験が、同じ手順を使用して実施され、その結果が、図8に見られ得る。
【0071】
1.ウサギ血液(450μl)
2.ウサギ骨髄(450μl)
3.ウサギ血液(450μl)およびAd TGF−β(10μl)
4.ウサギ骨髄(450μl)およびTGF−β(10μl)。
【0072】
培養の2日目において、クロットが収集され、PBS中で洗われ、機械的に構成要素に分けられ、Ham’s F12培地中で培養した。TGF−βレベルを3日目、7日目、14日目、21日目にアッセイした。
【0073】
血餅および骨髄クロット中のTGF−βレベルを遺伝子送達に続く3日間は高かったが、7日目までに非常に低いレベルに落ちた。しかし、骨髄クロットは、そのより高い細胞質に起因する可能性のある血餅と比較して6倍高いTGF−βの総発現を示した。このように骨髄の使用は、直接の遺伝子送達に続く遺伝子導入産物の発現のために血液よりもより効率的であるようである。
【0074】
(実施例5:血餅および骨髄クロットにおけるアデノウイルスの安定性)
さらなる研究を、感染性ウイルスベクターが保持され得るかを決定し、そしてクロット中に形質導入し続けるように実施し、その結果は図9に見られ得る。
【0075】
血餅および骨髄クロットは、Ad GFPで感染され、上記のように培養された。種々の時点で、クロットは、機械的に構成要素に分けられ、そして遠心分離されて細胞破片を取り除く。上清を収集し、使用して、293個の細胞の単層培養物を感染した。24時間後、細胞を、蛍光について分析した。
【0076】
蛍光細胞は、1日目、3日目および7日目から壊れたクロットからの上清で感染した培養物中に実際に存在した。
【0077】
クロット中に捕捉されたウイルスベクター、Ad GFPを証明したこの発見は、培養物中の少なくとも7日間の間の感染性を保持することが出来た。
【0078】
(インビボ:)
(実施例6:ウサギのひざの軟骨欠損への直接の遺伝子送達のための自己血餅および骨髄クロットの使用)
この目的のために、ルシフェラーゼ、GFP、および/またはLac Zについての遺伝子をコードするアデノウイルス遺伝子送達ベクターを、ニュージーランドシロウサギから得られた血液および骨髄吸引物と混合し、クロット形成した。クロット形成(およそ30分間)した後、血液または骨髄ベクターを、同じウサギの大腿骨顆の外科的に生成した骨軟骨(osteochondral)欠損に移植した。移植後、関接嚢は縫われ、この動物は回復した。3日後、このウサギは、屠殺され、クロットが欠損から収集された。定量分析のために、クロットにおけるルシフェラーゼ活性が決定された。定性的分析のために、蛍光細胞が、顕微鏡で観察された。隣接する滑膜をまた、導入遺伝子の発現について
検証した。
【0079】
図10に示されるように、高いレベルのルシフェラーゼ導入遺伝子発現が、Adルシフェラーゼと混合された収集された血餅および骨髄クロット中で観察された。同様に、多数の蛍光細胞が、Ad GFPに感染した収集されたクロット中で観察された。いくつかの緑細胞がまた、欠損部位にすぐ隣接する滑液ライニング中で観察された。しかし、滑液の他の領域で、発現は観察されなかった。これらの結果は、Ad GFPを含むコラーゲン−gagマトリクスの骨軟骨欠損への直接の遺伝子送達に続いて観察される高度な緑色蛍光滑液ライニングに対照的である。従って、血餅および骨髄クロットは、インビボで移植される場合、より抑えられた局在化した導入遺伝子発現を提供する。
【0080】
(実施例7:ウサギ血餅および骨髄クロットを使用する軟骨形成または骨形成についての可能性)
この研究は、内因性前駆体細胞の表現型を変化させ、血餅および骨髄クロット中の軟骨形成または骨形成分化を経る能力を調査する。このために、血液および骨髄は、ニュージーランドシロウサギから収集され、6つの群の「合計」についてクロットされる。
【0081】
1.ウサギ血液(450μl)(1クロット)
2.ウサギ血液(450μl)およびAd GFP(10μl)(3クロット)
3.ウサギ血液(450μl)およびAd TGF−β(10μl)(4クロット)
4.ウサギ骨髄(450μl)(1クロット)
5.ウサギ骨髄(450μl)およびGFP(10μl)(5クロット)
6.ウサギ骨髄(450μl)およびTGF−β(10μl)(3クロット)
これらのクロットを、6週間の間、Ham’s F12培地で培養した。収集後、これらのクロットを、固定し、パラフィンに包埋し、薄片にし、組織学的に検証した。これらの薄片を、Hematoxylin−EosinおよびGomori’s Trichrome Kit(Collagen Blue Staining)で染色した。薄片を、目隠し試験の様式で3人の異なる個体により検証した。
【0082】
成長因子で遺伝的に改変されなかった骨髄クロット(骨髄のみおよびAd GFPと混合された骨髄)において、内因性細胞の多能性の性質が明らかとなった。筋肉様組織、脂肪様組織、および繊維組織の領域が、図11に描かれるように、6週間後のこれら全てのクロットにおいて見出された。Ad TGF−βで富化された骨髄クロットは、筋肉様組織は見られないままに、より多くの同種の分化を示した。代わりに、より多くの繊維組織が、図12に描かれるように観察された。
【0083】
細胞分化は、血餅において明らかではなかった。しかし、異なる濃度およびベクターの組み合わせが、分化を生じ得る。これらの結果は、骨髄クロット中の細胞が多能性であり、多くの組織型に分化する能力を有することを示す。
【0084】
アデノウイルスベクターが、遺伝子産物の過剰発現の効果を研究するための強力な手段であるために、これらのベクターは、本明細書で記載される実験において最適なベクターであった。しかし、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレトロウイルスベクターのような他の遺伝子移入ベクターは、アデノウイルスから得られるベクターよりもさらに大きな臨床的有用性を有し得る。
【0085】
(実施例8:軟骨性組織を修復するためのAd.TGF−1で改変された骨髄クロットの使用)
この研究は、軟骨性組織を修復する際の骨髄クロットの使用を調査する。骨軟骨欠損を、軟骨を通してウサギのひざの骨および骨髄中に3mm幅かつ8mmの深さの穴を穿孔することにより、作製した。コントロールの欠損は、処置されないままである(空の欠損)か、未改変骨髄クロットを受けるかのいずれかである。成長因子β−1(TGF−β1)を形質転換するための遺伝子を含むアデノウイルスで予め感染された骨髄クロットは、残っている骨軟骨欠損中に移植された。
【0086】
スライドを、手術後6週間とり、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)およびトルイジンブルーで染色した。H&Eは、一般的な酸−塩基組織染料である;トルイジンブルーは、グリコサミノグリカン(GAG)の指標として作用する。
【0087】
処置されないままであったコントロール欠損において、隣接する軟骨に類似しない繊維修復が生じた。未改変骨髄クロットで処置された他のコントロール欠損は、骨表面のみを示し、GAGを示さない。
【0088】
TGF−β1を含んだ、予め感染された骨髄クロットで処置された欠損は、軟骨形成(chondrogenic)の発生を有し、強固な細胞外マトリクスを示す。修復のほとんどにおいて、修復マトリクスは、暗い青色で染色され、GAGが存在したことを示した。修復マトリクス中の細胞は、軟骨細胞に形態学的に類似するが、クラスターで現れる。軟骨修復組織の下で、強固な骨形成がなされた。また、軟骨層は、隣接する組織とほぼ同じ深さであった。
【0089】
これらの結果は、修復組織が完全ではないが、この遺伝子送達へのアプローチを使用して、凝固した(coagulated)骨髄吸引物中の細胞の生物学が、正の方向に影響され得ることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−53147(P2010−53147A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278030(P2009−278030)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【分割の表示】特願2004−511462(P2004−511462)の分割
【原出願日】平成15年6月6日(2003.6.6)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【Fターム(参考)】