説明

活性化白血球組成物

治療用の血液由来の活性化白血球組成物、それらの作製方法、ならびに創傷の修復もしくは治癒促進のためのそれらの組成物の使用方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年3月5日に出願された、活性化白血球組成物(Activated Leukocyte Composition)という題名の仮出願第61/209,298号ならびに2009年4月1日に出願された、血管不全のための活性化白血球組成物(Activated Leukocyte Composition for Vascular Insufficiencies)という題名の仮出願第61/211,587号の利益を主張するものであり、これらの開示は参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
創傷治癒の過程には、白血球(white blood cell)(白血球(leukocyte)としても知られている)が関与する。白血球は、リンパ球、顆粒球および単球を含む。リンパ球の3つの一般的なタイプはT細胞、B細胞および天然キラー細胞である。T細胞およびB細胞は体内の抗原認識において重要な役割を果たす(Parkin, 2001)。天然キラー(NK)細胞は、主要組織適合複合体(MHC)レベルを変化させることにより感染細胞を同定して、感染細胞を破壊する(Moretta, 2008)。リンパ球の治癒過程への関与は、リンパ球によるサイトカインおよび成長因子の産生と大いに関連する(Keen, 2008)。皮膚内の新規クラスのγ−δ−T細胞について記載されている(Jameson, 2002. Havran, 2005)。異なるタイプの顆粒球は好中球、好塩基球および好酸球である。単球はマクロファージに分化し、これは組織破片の破壊または侵入外来物質に関与する。マクロファージは炎症を制御して修復する分子も産生する(Riches, 1996)。
【0003】
創傷治癒の過程は重複する3段階で起こる(Li, 2007; Broughton, 2006; Tsirogianni, 2006; Singer, 1999; Martin, 1997)。第1段階は炎症段階である。これは創傷部位への好中球の動員、続いて単球の動員を特徴とし、これらは創傷部位で細菌を殺傷して貪食する(Agaiby, 1999)。
【0004】
増殖期として知られている創傷治癒の第2段階は、新しい顆粒化組織の形成に関与する。線維芽細胞が増殖して創傷空間に移動し、細胞外基質のコラーゲンおよび他の成分を合成する(Greiling, 1997)。同時に、血管形成が起こり、代謝的に活性な新しい顆粒化組織に栄養および酸素を提供する(Tonnesen, 2000)。インタクトな表皮由来の角質細胞は仮の基質上で移動を開始し、増殖し始めて、新しい上皮組織を誘導する(Kim, 1992)。
【0005】
修復は創傷治癒の第3段階かつ最終段階である。それは線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を特徴とし、筋線維芽細胞は収縮して創傷の両端を互いに近接させる(Tomasek, 2002)。減成および再合成によるコラーゲン線維の修復は、コラーゲン線維の再配向により創傷強度を増す(成長因子により厳密に制御される過程)(Werner, 2003)。
【0006】
創傷治療という難題は、多発性病態(糖尿病、冠動脈疾患および高血圧症など)の患者においてさらに困難となることが多い。これらの疾患には、様々な生理状態に起因する血管合併症の増悪という共通の作用がある。創傷の合併症は罹患率および致死率を上昇させ得る(Doshi, 2008)。
【0007】
従来の創傷治療としては、創面切除、抗生物質療法および様々なドレッシングが挙げられる(Moran, 2008; Fonder, 2008)。従来の治療に耐性の創傷は難治性創傷とも呼ばれる。これらの創傷は生活の質を低下させ、罹患率および致死率を上昇させ得る。したがって、効果的な創傷治癒の組成物および方法が必要とされ続けている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、血液由来の活性化白血球組成物(ALC)(例えば、全血試料から入手可能または得られる)の作製方法に関する。この方法は、全ヒト血液試料から採取し得る白血球を、白血球を活性化させる時間および温度で第1のインキュベーションに供する工程を含み、好ましい実施形態では、室温で約8時間〜約20時間供する。インキュベーション後、白血球を生理的に許容可能な水溶液(滅菌蒸留水など)と接触させ、低浸透圧ショックを開始してから、ショック化した白血球を生理的に許容可能な塩溶液に接触させて等張に戻した。この活性化白血球組成物(ALC)は治療的に使用してよい。しかしながら、いくつかの実施形態では、第1の白血球のインキュベーションと別々かつ実質的に同時に、同一または異なる全血試料から(すなわち、同一または異なるヒトから)採取し得る血漿試料を、白血球のインキュベーションと同時に約37℃で、好ましい実施形態では、約8時間〜約20時間、凝固剤と接触させた後、凝固した血漿試料から血清を分離する。凝固した血漿試料から採取した血清で白血球を再懸濁することによって、ALCを形成する。第1のインキュベーション後、白血球をさらに約37℃で約60分〜約120分、第2のインキュベーションに供する。
【0009】
本発明の別の態様では、血液由来のALCに関する。本発明の活性化白血球組成物は、組成物中の白血球集団に関して、ALC中の白血球総数に基づき約40%〜約90%の顆粒球、約5%〜約20%の単球および約5%〜約30%のリンパ球を含む。実施例に示すように、本発明のALCは、特性も決定し得、(全血試料に対して)最小収率の白血球、白血球の生存能、および顆粒球の最小活性化レベル(例えば、CD11bにより指定される)に関して既知の組成物と区別もし得る。ALCは残存レベルの血小板(約46.8+/−39.2(10/μL)量)および赤血球(約0.1+/−0.06(10/μL)量)をさらに含み得る。リンパ球集団は、約7%〜約25%のB細胞(CD19+)、約20%〜約30%のNK細胞(CD3−/CD56+)、約40%〜約60%のT細胞(CD3+)、約0.1%〜約30%のNKT細胞CD3+/CD56+、約8%〜約20%のTヘルパー細胞(CD4+/CD3+)、および約20%〜約30%のCD8+/CD3+細胞を含み得る。細胞は、(レシピエントに関して自己であっても同種異系であってもよい)血清などの担体または細胞の保存および投与に適した一部の他の生理的に許容可能な等張液(等張に戻すために使用される溶液など)で懸濁してよい。
【0010】
本発明のさらに別の態様では、創傷に対してALCを投与すること、あるいは適用することを含む、創傷治癒を促進する方法に関する。
【0011】
開示した本発明は、白血球を含む少なくとも1つの既知の創傷治癒組成物と比較していくつもの予想外の結果を達成する。本明細書の実施例に示すように、これらの結果は、白血球(WBC)の高い収率および生存能、ならびに高い率の活性化顆粒球を含む。開示した本発明は、CD8 T細胞と比較して予想外に高い率の活性化単球および相対的に高い率のCD4 T細胞を含むとも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のALC組成物を産生するための代表的なシステムの第1の部分を図解的に示し、これには血液保存バッグまたは容器であるバッグA〜C(セット1)が含まれ、バッグAにはドナーから採取した濃厚赤血球が含まれ、バッグBには血漿が含まれ;およびバッグCには白血球(全血から初回分離後に一般に軟膜と呼ばれる層を形成する)が含まれる。
【図2】本発明のALC組成物を産生するための代表的なシステムの第2の部分を図解的に示し、これには、RBC入りのバッグAを系から除去して、図1のバッグBとCをバッグ1〜5(セット2)と統合後に7つのバッグセットが含まれる。
【図3A】図3Aは、細胞活性化の指標であるCD62Lの発現の一般的な傾向を例証するグラフである。
【図3B】図3Bは、細胞活性化の指標であるCD42bの発現の一般的な傾向を例証するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
血液は、本明細書において、全血またはその任意の構成部分(例えば、血漿、白血球、血小板または赤血球)として規定する。本発明のALCに存在し得る血小板および赤血球の量は、全血中の血小板および赤血球の量より少ない場合がある。
【0014】
本明細書で使用される「約」という用語は、+/−0.5%〜+/−20%(および間の値、例えば、±1%、±1.5%、±2%、±2.5%、±3%、±3.5%、±4%、±4.5%、±5%、±5.5%、±6%、±6.5%、±7%、±7.5%、±8%、±8.5%、±9%、±9.5%、±10%、±10.5%、±11%、±11.5%、±12%、±12.5%、±13、±13.5%、±14%、±14.5%、±15%、±15.5%、±16%、±16.5%、±17%、±17.5%、±18%、±18.5%、±19%、±19.5%、および±20%)の許容可能な偏差範囲を有する任意の値として任意のおよびすべての値(数値範囲の下限および上限を含む)と関連する。
【0015】
本発明のALCを産生するための出発材料は、いくつもの供給源から採取し得る。全血またはその1つ以上成分(例えば、白血球および血漿)は、自己または同種異系供給源から採取し得る。本発明の1つの実施形態では、血液試料は最終的にALCで治療する患者から採取され、この血液試料は本明細書において自己血試料または供給源と呼ぶ。供給源(すなわち、血液またはその成分)が意図されたALCレシピエント以外の個体から採取される(これは同種異系血試料または供給源と呼ぶ)実施形態では、これらの出発材料は血液銀行から好都合に採取し得る。試料は血液銀行により血液型(ABO、Rh)、赤血球抗原に対する不規則な抗体、および輸液を遺伝性疾患についてスクリーニングし得る。より具体的には、スクリーニングは、Abbott PRISM機器を用いて、抗体でB型肝炎、C型肝炎、HIV1/2、HTLVおよび梅毒(−HCV;HbsAg;抗HIV 1/2 0+;ならびに抗HTLV I/II)について実行することができる。試料は分子方法(NAT−核酸検査)によりHIV、HCVおよびHBVに対してもスクリーニングできる。分子スクリーニングは、市販の機器(例えば、ChironのTIGRISシステム)を用いて達成できる。
【0016】
同種異系の供給源に関与するこれらの実施形態では、意図されたALCレシピエントと同じ血液型のドナーから試料を得ることができる。代替的におよび本明細書に詳述のように、血漿試料はAB+血液型ドナーから得ることができ、白血球は、O−血液型の患者から得ることができる。AB+血液型の患者は血漿の万能ドナーであり、O−血液型の患者は白血球の万能ドナーである。供給源に関わらず、試料の必要な処理はすべて、高度に特殊な装置を必要とせずに実行することができる。
【0017】
本発明のALC組成物の好ましい作製方法を図1および2に関連して記載し、これらは相互に連結した2セットの滅菌注入バッグを含むシステムを例証する。このシステムは、外環境に曝されないように密閉する。具体的には、無菌回路接続装置(例えば、TSCD(登録商標)−IIカタログ番号ME−203AH、Terumo)を用いて2セットを接続する管を統合して1つのシステムを形成する。より具体的には、無菌標準コンプライアンスを確実にするため、特殊ウエハーにより約300℃へ予熱して管を統合および切断する。この高温は統合処置の無菌性を高める。無菌をさらに確実にするため、統合を、クラス100,000処置設備内のクラス100生物学的安全性キャビネット内で実施し得る。
【0018】
これらの図に例証するとおり、システムには2つの滅菌バッグセットが含まれる。バッグA、B、およびCを含むセット1は標準の市販されている3つのバッグセットであり、輸血用に一般に使用されている。ヒト血液試料は、典型的には約400〜約550mLの容量であり、静脈穿刺を介して血液銀行に収集し、バッグAに入れてから、標準技術を用いてバッグA、BおよびCに成分を分類する。例えば、血液試料を含むバッグAを遠心分離する。遠心分離後、(例えば、Baxter製の血液成分抽出器を用いて)血液成分を分離する。白血球を含む軟膜はバッグCに入れ、血漿はバッグBに入れ、赤血球はバッグAに残す。したがって、この処理の結果、バッグAは濃厚赤血球を含み、バッグBは血漿を含み、バッグCは白血球(ならびに、場合によっては残存する血漿および赤血球)を含む軟膜を含む。あるいは、当技術分野において知られているアフェレーシス技術を介して血液成分を全血から分離できる。
【0019】
次いでバッグAを3つのバッグセットから外す。次いで図2に例証するように、バッグBとCを注文製の注入バッグ1〜5(セット2)と統合して、活性化白血球組成物を作製するために使用するシステムを形成する。上記に開示したように、統合は無菌回路接続装置で実施する。バッグ1は第1の水溶液(例えば、滅菌蒸留水200mL)を含み、これは軟膜中の細胞を低浸透圧ショックに曝すために使用する。これは存在し得る残存赤血球を溶解する上で役立つ。バッグ2は第2の溶液(例えば、塩化ナトリウム緩衝液(8.91%NaCl、USP)20mL、または無機イオンを含む他の任意の生理的に許容可能な溶液、有機オスモライト(スクロースなど)、または乳酸加リンゲル(Hartmans)溶液などの一部の組み合わせ)を含み、これは低浸透圧ショック後の白血球を等張に戻す上で役立つ。塩化ナトリウム溶液を蒸留水200mLに追加する場合、0.9%NaCl溶液になる。バッグ3は第三の溶液(例えば、塩化カルシウム緩衝液(1.17%CaCl二水和物、USP)約60mL)を含み、これはバッグBの血漿を凝固して、血小板と血清への分離を促進するように作用する。バッグ4およびバッグ5は濾過滅菌空気をそれぞれ約60mLおよび約500mL含む。このセットは単一単位としてパックし、高圧蒸気を用いて滅菌する。これは患者の二次感染リスクを大幅に減らす。
【0020】
次いで白血球をバッグCからバッグ4(またはバッグ5)に移し、好ましくは垂直位でインキュベートして白血球を活性化させる。本発明の目的のための細胞活性化とは、細胞(白血球)を活性化させることによる過程として、より具体的には、生物活性物質の合成または合成前物質の細胞質から細胞膜への転位またはそれらの細胞からの放出を伴う静止状態から機能的活性状態への変移として規定する。これらの物質は、接着分子、サイトカイン、成長因子、酵素、転写因子および細胞シグナル受容体およびメディエーターとして機能するタンパク質またはポリペプチド、脂質、糖、酸素ラジカルおよび他の生化学的部分を含み得る。これらの分子は、細胞内または細胞表面上で検出および同定時、活性化マーカーと呼ぶ。
【0021】
いくつかの実施形態では、白血球を単に室温で静置することによりインキュベートする。本発明の目的のための室温とは、約12℃〜約28℃の範囲の温度を指し、いくつかの実施形態では、約16℃〜約25℃の範囲の温度を指す。インキュベーション時間は温度に応じて変更してよい。インキュベーション時間は温度上昇に伴い短くなる。白血球の活性化に必要なインキュベーション時間は、インキュベーション実行時の温度と大体逆比例する。例えば、白血球を室温で静置させる実施形態では、インキュベーション時間は一般に約90分から最大2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、または8時間〜約20時間の範囲である。好ましい実施形態では、インキュベーション時間は約8時間〜約20時間の範囲である。より好ましい実施形態では、白血球のインキュベーションは約18℃〜約24℃で約8時間〜約12時間行う。他の実施形態では、白血球のインキュベーションは熱(例えば、室温を超えて約37℃までの温度)曝露に関与する。高温下のインキュベーション時間は一般に5時間〜約24時間の範囲である。
【0022】
図2について再述すると、バッグCの白血球を、典型的にはバッグCより小さな(例えば約250mL〜約500mL)バッグ4に移す。また、細胞を別の500mLバッグ(バッグ5)に移すことができる。白血球を活性化させるため、バッグ4(またはバッグ5)を垂直位に置いて室温で約8時間〜約20時間インキュベートする。
【0023】
白血球をインキュベーション後、低浸透圧ショックを与えることにより、赤血球を溶解する。好ましい実施形態では、低浸透圧ショックは迅速に(すなわち、先行工程の完了時、任意の中間工程または不要な遅延なしに、典型的には2分未満で)実施する。低浸透圧ショックは、白血球を含む蒸留水をバッグ1からバッグ4(またはバッグ5)に移すことにより開始してよい。低浸透圧ショック処理は典型的には約45秒実行する。この工程後(好ましくは工程直後)、塩化ナトリウム溶液をバッグ2からバッグ4(またはバッグ5)に移すことにより白血球を等張に戻す。細胞懸濁水溶液に対する塩化ナトリウム溶液の容量比は一般に約1:10である。次いでバッグ4の内容物をバッグ4より大きな容量のバッグ1に移す(またはバッグ5に残す)。上記のとおり、この組成物は本発明の方法において治療的に使用してよい。
【0024】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの追加工程に関与する。したがって、白血球のインキュベーションと同時に行い得る別の工程において、凝固剤(CaClなど)の使用、続く遠心分離により、血漿を血小板と血清に分離する。したがって、この代表的な実施形態では、バッグ3のCaClをバッグBに移す。血漿およびCaClの組成物を含むバッグBは、典型的には約37℃の温度で凝固が可能である。血漿は、実質的に白血球のインキュベートと同じ時間、凝固剤と接触させ続ける。
【0025】
白血球に低浸透圧ショックを与えてから等張に戻した後、バッグ4の内容物をバッグ1に移し(またはバッグ5に残し)、バッグBの血漿の凝固後、7つのバッグシステム全体を遠心分離する。好ましい実施形態では、遠心分離は、細胞を溶血液に曝さないように、白血球をバッグ1に移した(またはバッグ5に残した)直後に行う。遠心分離後、バッグ1(またはバッグ5)の上清をバッグCに移し、遠心分離の結果バッグ1(またはバッグ5)に形成された白血球ペレットをバッグBの血清約20mL〜約50mLで再懸濁する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態のさらに別の工程では、最終組成物が作製される前に、上述した凝固血漿中で活性化白血球をインキュベートしてよい。一般に、この第2のインキュベーションは37℃で約1〜2時間行う。
【0027】
他の実施形態では、ALC組成物は、全溶液の容量を同量減らし、より小さなバッグを使用して低容量の血液試料から調製し得る。さらに、これらの異なるサイズのバッグの使用により、異なる組成のALCが得られる。これらの実施形態においても、同種異系血または自己血試料を出発材料として使用してよい。低容量の使用により、いくつかのタイプの外傷を呈している他は健常な免疫系である患者の救急治療(例えば、戦場(battlefield)および戦闘(combat)状況下)などにおいて、臨床医は外部の血液銀行を用いずに自己血採血できる。これらの実施形態では、遺伝性疾患および抗原の検査を省いてよい。しかしながらそのような場合、難治性創傷患者は効果的なALC調製において臨床的に許容可能な血液ドナーではない。この場合、ALCは、本明細書に記載の処置により同種異系ドナーから産生する。
【0028】
本発明のALCは、白血球、例えば、顆粒球、単球およびリンパ球を含む。顆粒球は、好中球、好酸球および好塩基球を含む。広義において、ALCの白血球集団は、一般に約40%〜約90%の顆粒球、約5%〜約20%の単球および約5%〜約30%のリンパ球を含む。具体的な細胞量は、使用する分析技術に基づき異なり得る。FACSを用いて(例えば、側方散乱対前方散乱ドットプロット分析を用いて)分析を実施時、白血球組成物は一般に約55%〜約80%の顆粒球;約5%〜約15%の単球および約5%〜約30%のリンパ球を含み、いくつかの実施形態では、約58〜76%の顆粒球;約5〜11%の単球および約9〜23%のリンパ球を含む。Cell Dyn分析装置を用いて分析を実施時、白血球組成物は一般に約50%〜約90%の顆粒球;約5%〜約15%の単球;および約10%〜約25%のリンパ球を含む。ALC中のリンパ球の亜集団は以下の一般的な範囲において以下の細胞を確証し得る:約7%〜約25%のB細胞(CD19+);約20%〜約30%のNK細胞(CD3−/CD56+)、約40%〜約60%のT細胞(CD3+);約0.1%〜約30%のNKT細胞CD3+/CD56+、約8%〜約20%のTヘルパー細胞(CD4+/CD3+)、および約20%〜約30%のCD8+/CD3+細胞。好ましい実施形態では、リンパ球亜集団は少なくとも9%のCD56+細胞(CD3−/CD56+;CD3+/CD56+;CD3+/CD56+/CD8+)で強化され、Tヘルパーリンパ球(CD4+/CD3+)量は20%未満に低下し、および/またはTサプレッサー細胞(CD4+/CD3+:CD8+/CD3+)に対するTヘルパー比は、0.8未満である。
【0029】
創傷を呈している患者は、生理的に易感染性であっても健常であってもよい。例えば、糖尿病および他の医学的に易感染性の患者は代謝系がすでに損なわれており、患者自身の白血球は処置にとって最適ではない場合があるため、異種血由来ALCの候補である。しかしながら、創傷の他は健常な患者も外傷患者の例として本発明のALC組成物の良好な候補である。
【0030】
本発明は、多くの創傷タイプの治癒促進に有用である。臨床現場では他の治療様式と併用して使用し得るが、効果的な創傷治癒が達成される必要はない。本発明者らは、任意の創傷タイプに対するALCの適用を意図し、治療できる創傷タイプが限定されないものと予測する。(例えば、標準シリンジまたは類似した適用機器との)適用の容易さは、本発明のALC組成物を安全にし、使用を容易にする。
【0031】
本発明による治療が奏効する創傷は、典型的には生組織の穿刺傷、切傷または裂傷の形態である。皮膚創傷は表皮、真皮を貫通し得、完全厚の創傷の場合は皮下組織を貫通し得る。したがって、本発明の組成物および方法による治療が奏効する代表的な創傷タイプとしては、褥瘡性潰瘍すなわち圧力潰瘍;糖尿病性潰瘍、例えば、開心術後の深部胸骨創傷(冠血行再建後の大伏在静脈に対する創傷、および大伏在静脈の獲得);ならびに腹部および他の任意のタイプの外科手術後創傷が挙げられる。他の創傷は、例えば弾丸、ナイフ、または皮膚を切るもしくは裂くことができる他の任意の物体による外傷に起因する。口腔創傷(例えば、歯)、ならびに薬剤の副作用としてもしくは様々な病態症状(例えば、カポジ肉腫を合併した傷)として生じた創傷、ならびに体内創傷(例えば裂肛、ならびに消化管の創傷もしくは病巣(胃潰瘍または腸潰瘍など))にも本発明による治療が奏効し得る。
【0032】
ALCは血管不全により悪化したいかなる創傷の治療にも使用してよい。本発明の目的のための血管不全とは、患部への不十分な潅流に至る不適切な血液循環を指す。かかる機能不全は外傷(例えば骨折に隣接した脈管構造の損傷)、または様々な病態(例えば糖尿病およびアテローム性動脈硬化症)に惹起され得る。血管不全は、外傷誘発性または疾患誘発性のいずれの場合においても、効果的な創傷治癒の可能性を低下させる。ALCはこれらの患者における創傷治癒の転帰改善において有用であり得、本明細書に記載の方法により投与すべきである。さらに、治療アルゴリズムは、創傷の重症度もしくはタイプ、または血管不全の程度によって制限されるべきではない。ALCは最も重篤な創傷および血管不全を呈する患者においてより有効であり得る。
【0033】
一般に、活性化白血球組成物の適用は、創傷または創傷を取り囲む組織内へ直接ALCを1回または複数回注射することにより達成される。ALCは開放創内に直接適用してよい。
【0034】
創傷内への注射において、ルアーロックシリンジまたはシリンジと注射針間に施錠装置を有する他の任意の市販シリンジを用いることが好ましい。創傷、特に圧力創傷の生物的空間は限られていることが多い。創傷内へ注射時、シリンジを注射針から分離させる圧力リスクがある。このリスクは、固定シリンジを用いて取り除く。
【0035】
ALCは、創傷組織内に注射することが不可能である場合、創傷腔内に直接適用できる。この方法における適用は、シリンジまたは管材料による直接適用に使用できる。
【0036】
ALCはドレッシングの補助で創傷部位にまたは創傷部位の周辺部に適用してよい。乾燥ドレッシングとしては、ガーゼおよび包帯、非粘着メッシュ、膜およびホイル、発泡材、ならびに組織粘着剤が挙げられる。湿気を保つバリアドレッシングとしては、泥膏、クリームおよび軟膏、非透過性もしくは半透過性の膜もしくはホイル、親水コロイド、ヒドロゲル、ならびに配合生成物が挙げられる。生体活性ドレッシングとしては、抗菌ドレッシング、双方向ドレッシング、単一成分の生物ドレッシング、および配合生成物が挙げられる。いくつかの実施形態では、創傷は、ALCに浸した滅菌ガーゼで覆う。ドレッシング(例えば、滅菌ガーゼパッドなど)は、乳酸加リンゲル(Hartman)溶液、アルギン酸塩含有ドレッシング、ポリウレタンドレッシングまたはカルボキシメチルセルロースドレッシングなどの組成物で飽和してよく、これを適用して創傷を覆ってから、乾燥ドレッシングを適用する。対象の創傷感染が重度である場合、銀ドレッシング(Silverlonなど)を適用できる。注射後のドレッシングの選択は、臨床医の判断に基づく。商業的入手性、過去の臨床的成功歴、および患者耐性が、創傷ドレッシングの選択において考慮される全要素である。ドレッシングは、創傷を(例えば、滅菌水および石けんで)洗浄するために定期的に(例えば、典型的には約24時間後に)除去してよい。
【0037】
別の実施形態では、組成物は生理的不活性および/もしくは吸収性基質もしくは足場(例えば、コラーゲン)上に乗せること、ならびに圧入手段により創傷内に挿入することができる。これにより、患部へのALCの持続的な送達が可能となり、細胞がin situでより長い期間有する点で患者に便益をもたらす。
【0038】
ALC組成物は創傷に1回または複数回(例えば、臨床医が別の適用が必要かどうかを決定した場合、4週間後に)適用してよい。考慮し得る要素としては、拡大した創傷寸法(幅、長さおよび深さ)、化膿、発熱、または再治療が是認されるような難治性感染を示す他の任意の徴候もしくは症状が挙げられる。再治療の他に、外科的デブリードマンへの照会を臨床医が適切とみなす任意の時点で指示し得る。
【0039】
ALCは他の任意の従来の創傷治療(加温(治療熱)、電気刺激、磁気、レーザ光線療法、サイクロイド振動療法および超音波など)と併せて使用してよい。生物療法、例えば幼虫療法、代用皮膚、培養角質細胞(Epicel, Genzyme biosurgery)、ヒト真皮置換(Dermagraft, Smith and Nephew Inc.)、加工した死体真皮(Alloderm, Life Cell Corporation)、二層からなる人工皮膚(Apligraf, Organogenesis Inc.)、TransCyte(Smith and Nephew Inc.)、成長因子(PDGFは局所使用用に認可を受けている現時点で唯一の成長因子である)、およびフィブリン組織密封材などとも使用できる。いくつかの実施形態では、ALCは、市販の創傷療法であるKCI製VACと併せて使用する。VACは、創傷に対して陰性圧力を適用することにより創傷治癒を促進する。これらの実施形態では、ALCは好ましくはVAC療法の前に創傷に適用する。さらに他の実施形態では、ALCは高圧療法と併せて使用する(Thackham, 2008)。例えば、ALCは患者が高圧療法を受ける直前に創傷に適用できる。ALCは低エネルギーショック波療法(例えば、約0.1mJ/mm;5Hzの衝撃)/創傷長センチメートル)と併せて使用してもよい。例えば、Dumfarth, et al., Ann. Thorac. Surg. 86:1909−13 (2008)を参照されたい。
【0040】
治療後の創傷は、長さ、幅、および高さを測定することにより評価し得る。典型的に、これらのパラメーターの測定値がすべて無視できるほどわずかである場合に創傷が治癒したとみなされる。ALCは鎮痛作用も提供し得る。
【0041】
活性化白血球組成物は、創傷(糖尿病性足潰瘍および褥瘡性潰瘍を含む)において特に有用である。褥瘡性潰瘍は、通常、特定領域への長期的な圧力に起因する血流阻害によって惹起される圧力潰瘍である(Berlowitz, 2007)。褥瘡性潰瘍は高齢者の罹患および致死を引き起こす。少なくとも48%の圧力潰瘍IV期が治療1年後に治癒しないまま残る(Girouard, 2008)。衰弱性壊死を呈している患者は一般に糖尿病および高血圧症などの病態も合併している。これらの病態は衰弱性壊死の治療の成功をさらに困難にする。
【0042】
褥瘡性潰瘍の治療のための1つの実施形態では、18標準規格(18G)注射針を用いて組成物を任意のサイズの滅菌シリンジ内に吸引する。吸引は、細胞損傷を最小限に抑えるためにゆっくりと実施する。シリンジおよび注射針のサイズは決して限定されないが、大きな標準規格注射針が吸引に好ましい。大きな標準規格注射針は移動を容易にし、細胞損傷を減らす。
【0043】
活性化白血球組成物の潰瘍への適用は、創傷への組成物の注射を含む。シリンジ内の全試料を分散することができ、臨床パラメーターに基づき必要と判断される場合はさらにALCを投与することを臨床医は選択できる。
【0044】
吸引に用いた18G注射針は22〜35Gのサイズ範囲の注射針と交換する。ALCは創傷の様々な位置に注射してよい。1つの実施形態では、完全長の創傷の約1センチメートルごと〜約3センチメートルごとに注射する。各注射部位にて、ALC 0.1〜0.3mLを注射する。
【0045】
別の実施形態では、シリンジ全体を創傷の単一部位に一度に注射できる。
【0046】
本発明の態様(1つ以上)を以下の非制限的な実施例により記載する。
【0047】
実施例1−細胞活性化の分析。
【0048】
本発明の好ましい実施形態により作製した活性化白血球組成物を、様々な細胞表面マーカーの分析により定量化した。単球または顆粒球のいずれかの血小板凝集の増大は、Pセレクチン発現を介した単球および顆粒球の活性化徴候である。CD62Lは活性化中に剥落する血漿膜タンパク質であり、したがって細胞活性化に伴い低下する。CD42bは凝集因子として凝固過程に関与する血小板活性化マーカーである。CD42bは細胞外基質ならびに接着分子と相互作用し、単球および顆粒球の活性化指標としても本発明において使用される。
【0049】
細胞試料を3つの時点、新しい軟膜(Fr.BC);インキュベートした軟膜(IBC);および最終活性化白血球組成物(FP)で採取した(表1)。
【表1】

【0050】
軟膜調製の直後にFr.BCを採取した。IBCを第1のインキュベーション時間後に採取し、FPを最終生成物から採取した。各時点で、細胞を特異的モノクローナル抗体(アロフィコシアニン(APC)に抱合した抗CD14、フィコエリトリン(PE)に抱合した抗CD42b、およびフルオレセインイソチオシアネート(FITC)に抱合した抗CD62L抗体)で標識してから、FACSにより分析した。
【0051】
各時点からの細胞をFACS染色溶液(PBS、2%正常マウス血清;0.02%アジ化ナトリウム)で洗浄し、等分して、染色プロトコルにより染色した。簡単に述べると、0.5×(10/μL)細胞を適切なモノクローナル抗体で室温(RT)または+4℃で暗闇で30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞組成物を赤血球溶解緩衝液で処理し、洗浄してから、最終的にFACS獲得のためにPBSで再懸濁した。CD62L陽性(+)染色において、細胞組成物を抗ヒトCD14(APC)および抗ヒトCD62L(FITC)抗体で+4℃でインキュベートした。CD42b+染色において、細胞組成物を抗ヒト−CD14(APC)および抗ヒトCD42b(PE)と室温(RT)でインキュベートした。陰性対照細胞組成物を抗ヒト−CD14および適切なアイソタイプ対照と関連条件下でインキュベートした。FACS CALIBUR(Becton Dickinson)を用いて細胞関連光散乱および蛍光を分析した。単球をCD14陽性細胞として測定し、顆粒球をこれらの特徴的光散乱特性により同定した。CD62LまたはCD42b陽性細胞を閾値より高い蛍光の単球および顆粒球の百分率として規定し、単球および顆粒球を適切なアイソタイプ対照抗体とインキュベートすることにより測定した。
【0052】
図3Aおよび3Bならびに表1に示すように、結果は、CD62L発現は活性化が進行するにつれて低下し、CD42bは活性化が進行するにつれて増大するという予想と一致した。これらのデータは、白血球が活性化したことを示す。
実施例2−活性化白血球組成物の分析
【0053】
表2および3は、Cell Dyn分析装置による分析により測定した最終ALCの細胞組成物を示す。血清中の活性化白血球の再懸濁後、細胞を分析した。生存細胞をトリパンブルー排除を用いて染色し、顕微鏡で観察した。
【表2】

【表3】

【0054】
表2に示すように、Cell Dyn結果により、ALCには血小板46.8+/−39.2(103/μL)、赤血球0.1+/−.03(106/μL)および白血球6.8+/−3.8(103/μL)が含まれることが示される。標準偏差を考慮すると、ALC中の白血球組成物には(表3に示すように)、52%〜78%の好中球、1〜2%の好塩基球、1〜9%の好酸球、6%〜12%の単球、および13%〜24%のリンパ球が含まれることもCell Dyn分析に基づき測定した。これらの表に示した範囲は、Cell Dyn分析装置を用いた8つの別々の分析後の高い結果および低い結果を代表する。
実施例3
【0055】
本発明の方法と先行技術処理との比較
本発明と関連した様々な予想外の利益を強調するため、これらの実施形態をDanonの米国特許第6,146,890号(「Danon」)に開示の処理と比較した。
【0056】
本発明の実施形態
図1および2に関して、全血を主成分(すなわち、赤血球、血漿、および軟膜)に分離した直後、軟膜をバッグCからバッグ4に移し、室温で12時間±2時間インキュベートした。この工程後、(溶血液が産生される)低浸透圧ショック処理のために蒸留水をバッグ1からバッグ4(またはバッグ5)に移した。この処理を約45秒間行った。直後、軟膜(白血球)を等張に戻すためバッグ2に含まれる塩化ナトリウム緩衝液をバッグ4(またはバッグ5)に移した。
【0057】
血漿を凝固させるため、上記の軟膜のインキュベーションと同時に、血漿部分を含むバッグBにバッグ3の塩化カルシウム緩衝液を移した。これは白血球に低浸透圧ショックを与えて等張に戻す間に12時間±2時間強、行った。
【0058】
等張に戻した直後、完全バッグアセンブリを(典型的には約8分〜約10分)遠心分離し、続いて細胞を溶血液から分離した。このようにして、細胞が溶血液の影響に曝される時間を最小限に抑えた(すなわち、約10分)。遠心分離後、バッグ1(またはバッグ5)の溶血液の上清を廃棄し、新しい培液をバッグ1(またはバッグ5)に添加し、続いて37℃で約1〜2時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を単回洗浄工程に供した。
【0059】
比較(先行技術)処置
Danonの教示に従い、全血を処理して3つの主成分(すなわち、赤血球、血漿、および軟膜)に分離直後、軟膜に低浸透圧ショックを与えた。したがって、本発明とは際立って対照的に、Danonの処置では、主要血液成分への分離後かつ軟膜に低浸透圧ショックを与える前に軟膜のインキュベーションを必要としない。バッグPBに含まれる間、軟膜に低浸透圧ショックを与えた。
【0060】
別の工程として、低浸透圧ショック後に、塩化カルシウム緩衝液をバッグPBから血漿を含むバッグPBに移し、続いて血漿のPB溶液を10分間急速冷凍してから、37℃の湯浴中に入れてさらに30分間インキュベートした。この時間中、低浸透圧ショックを与えた軟膜留分を静置して白血球を溶血液に曝し続けた。
【0061】
計約40分継続したこの凝固過程による結論に従い、完全バッグシステムを遠心分離し、溶血液を廃棄した。したがって、細胞を少なくとも約55分(すなわち、血漿凝固と関係する静置時間40分、および遠心分離のためのさらなる15分を含む)溶血液に曝した。対照的に、本発明の方法では、白血球を迅速に約5分間遠心分離し、したがってより短時間(すなわち、10分未満)溶血液に曝した。
【0062】
上清をPBから廃棄後、新しい培液をPBに添加してから、完全懸濁液をPBに戻し、これを37℃で約17時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を3回洗浄した。対照的に、本発明の実施形態では、インキュベーションは凝固血漿中で1〜2時間行い、1回のみ洗浄した。
【0063】
上述のインキュベーションを実行するまで、すべての前工程を、全血を収集した輸液バッグ内で行った。対照的に、本発明の実施形態では、静脈注射用の溶液(生理食塩水など)の投与に通常用いられる注入バッグの使用を必要とした。
【0064】
Danonの処置を4回行い、本発明の実施形態により生じた結果と比較した。結果を、以下に説明するとおりに平均した。
【0065】
結果
標準血液単位から得られる白血球(white blood cell)(白血球(leukocyte))の総量(最終容量の細胞懸濁液を乗じた最終濃度として算出)を全血の各バッチにおいて測定した。本発明の方法により処理した全血の111個のバッチ、およびDanonに開示の処置により処理した4個のバッチの平均結果を表4に説明する。
【0066】
【表4】

結果により、本発明の方法では、標準血液単位(約450mL)から得られる白血球総数はDanonの処置と比較して約90倍多い結果に至ることが示される。より一般的に述べると、本方法では、少なくとも約100×10、125×10、150×10、175×10、200×10、225×10、250×10、275×10、300×10、325×10、350×10、375×10、400×10、425×10、450×10、475×10、500×10、または500×10超の白血球/標準血液単位(これらのすべての部分範囲を含む)収率に至る。
【0067】
総細胞集団内に含まれる生存細胞数は、トリパンブルー排除方法により測定された百分率として表す。生存細胞数および生存率の評価のため、細胞をトリパンブルーで懸濁後(1:1比)、ノイバウェル血球計算盤で算出した。結果を表5に提示する。
【表5】

【0068】
表5のデータにより、Danonの処置では(表4に示す)低収率に加えて、生存能の有意に低い細胞懸濁液に至ることが示される。すなわち、調製物の4分の1弱(すなわち、23%)が死白血球からなった(10倍超高い死細胞率)。際立って対照的に、本発明の方法により処理した白血球は、ほぼすべて生存可能であることが測定された。より一般的に述べると、本発明のALCは、ALC中のこの白血球細胞総数に基づき少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または98%超の生存白血球を含み得る(これらのすべての部分範囲を含む)。
【0069】
顆粒球上のCD11b活性化マーカー発現をフローサイトメトリーにより測定し、顆粒球集団内のCD11b陽性細胞(CD15陽性細胞)の百分率として提示する。最終生成物から抽出した細胞を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)に抱合した抗CDllbおよびフィコエリトリン(PE)に抱合した抗CD15で共染色し、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson Immunocytometry Systems, San Jose, CA, USA)を用いて分析した。本発明の方法により実施した81個の最終生成物バッチからの細胞中の顆粒球上におけるCD11b発現、およびDanonの処置により産生した3個の最終生成物バッチからの細胞中の顆粒球上におけるCD11b発現を分析した。
【表6】

【0070】
表6に含まれるデータに示されたように、本発明の方法によりDanonの処置と比較して2倍近く高い率の活性化顆粒球が得られた。より一般的に述べると、本発明のALCはALC中の総顆粒球集団に対して少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、または85%超のCD11b(+)顆粒球を含み得る(これらのすべての部分範囲を含む)。
【0071】
比較実験の結果により、本明細書に開示した発明は、Danonに開示の処理と比較して少なくとも3つの予想外の結果、すなわち、高収率の生存白血球、高い生存細胞率、および高い顆粒球活性化レベル(CD11b活性化マーカーの高発現に示される)を達成することが示される。これらの上昇は劇的であり予想外である。
【0072】
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【0073】
本明細書で引用したすべての文献(特許文献と非特許文献の両方を含む)は本発明の属する分野の当業者の技能レベルを示す。これらすべての文献が、あたかもそれぞれ個々の文献が参照により組み込まれることを具体的かつ個別に示しているかのように、参照により同一範囲で本明細書に組み込まれる。
【0074】
本発明は特定の実施形態に関連して記載されているが、これらの実施形態は単に本発明の本質および本出願の例証に過ぎないことが理解されるべきである。したがって、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の精神および範囲から逸脱せずに例証的な実施形態に対して多数の改変を行ってよく、他の配置を考案してよいことが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化白血球組成物の作製方法であり、
a.ヒト白血球を室温で約8時間〜約20時間インキュベートすること;
b.白血球に低浸透圧ショックを与えること;
c.工程bの白血球を等張に戻すために、生理的に許容可能な塩溶液を有効量添加すること;
d.白血球と血漿を同一ドナーから採取してもよいし異なるドナーから採取してもよい別々のヒト血漿試料を凝固剤と接触させること、および血清を得るために凝固固体を除去すること;ならびに
e.工程cの白血球と工程dの血清を混合すること、
を含む活性化白血球組成物の作製方法。
【請求項2】
前記インキュベーションが約8時間〜約12時間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記白血球と血漿が異なるドナーから採取される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記白血球と血漿が同一ドナーから採取される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記白血球がO型陰性血液型ドナーから採取される、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記血漿がAB型陽性血液型ドナーから採取される、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ショックが白血球を水と接触させることを含む、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
c)の生理的に許容可能な塩溶液が0.9%塩化ナトリウム溶液である、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
d)の接触が約37℃で行われる、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
d)の接触が約8時間〜20時間行われる、請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記凝固剤がCaClである、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記除去が遠心分離を含む、請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
さらに、f)血清中の白血球を約37℃で約60分〜約120分インキュベートすることを含む、請求項1〜12に記載の方法。
【請求項14】
創傷治癒における使用のための活性化白血球組成物であり、
a)約40%〜約90%の顆粒球;
b)約5%〜約20%の単球;および
c)約5%〜約30%のリンパ球、
を含む活性化白血球組成物。
【請求項15】
さらに約0.1×10μLの赤血球を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
さらに約46.8×10μLの血小板を含む、請求項14または15に記載の組成物。
【請求項17】
前記顆粒球が
a)約52%〜約78%の好中球;
b)約1%〜約9%の好酸球;および
c)約1%〜約2%の好塩基球、
を含む請求項14〜請求項16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記リンパ球が
a)約7%〜約25%のB細胞(CD19+);
b)約20%〜約30%のNK細胞(CD3−/CD56+);
c)約40%〜約60 T細胞(CD3+);
d)約0%〜約30 NKT細胞(CD3+/CD56+);
e)約8%〜約20%のTヘルパー細胞、(CD4+/CD3+);ならびに
f)約20%〜約30%のCD8+/CD3+細胞、
を含む請求項14〜請求項17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
請求項14〜請求項18のいずれか一項に記載の活性化白血球組成物を創傷に投与することを含む、創傷の治療方法。
【請求項20】
前記創傷が褥瘡性潰瘍である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記創傷が圧力潰瘍である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記創傷が糖尿病患者の下肢潰瘍である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記創傷が深部胸骨創傷である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記創傷が術後創傷である、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記創傷が体幹領域の難治性術後創傷である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記創傷が大伏在静脈に対する創傷である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記創傷が静脈潰瘍である、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記活性化白血球組成物が自己血試料由来である、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記活性化白血球組成物が同種異系血試料由来である、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2012−519681(P2012−519681A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552537(P2011−552537)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000882
【国際公開番号】WO2010/100570
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(511214923)マクロキュア,リミテッド (1)
【Fターム(参考)】