説明

活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法及び装置

【課題】III族窒素化合物膜の平坦性及び成膜速度を有効に高めることができるとともに結晶性が良好である立方晶または六方晶窒素化合物半導体膜を安定して容易にかつ安価に製造することができる活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法及び装置を提供すること。
【解決手段】第1分子線セルから第1シャッターを介して基板への第1(III族)分子線の照射量を制御するとともに、第1シャッターの閉期間T2、LB励起状態からHB励起状態に切替えられた窒素励起セルから上記基板に向けて照射される窒素活性種のうち、生成膜の窒素化合物の化学結合に直接的に関与する励起窒素原子および基底窒素原子の照射量を制御しながら上記基板に付与されたIII族分子と共有結合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法及び装置に関し、詳しくは、化学活性度制御式の窒素化合物、代表的に、III族窒素化合物の分子線エピタキシャル成膜方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、青色発光ダイオード等の電子ディバイス用に、例えば、サファイア基板等の基板にGaN、InGaN、InN、InAlN等のIII族窒素化合物膜を生成するにあたり、比較的低温にて成膜操作が比較的簡単でありかつ膜厚を原子レベルで制御可能であることから、成膜室を、10-2〜10-9Pa程度の高真空とする分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)成膜装置を用いて作製されている。
【0003】
従来、MBE成膜装置の成膜室内に保持された基板にIII族金属窒素化合物膜、例えば、GaN膜をエピタキシャル成長させるにあたり、成膜開始時にGa用分子線セル(固体金属Ga源)の出口部分に装着されたシャッターを開として上記基板にGa分子線を連続的に照射する一方、高周波(Radio Frequency:RF)電力を用いるRF窒素励起セルから励起窒素分子線を、該窒素励起セルの出口部分に配置したシャッターを周期的に時間幅変調デュ−ティ(開閉期間比)をもって断続的に開閉しながら上記基板に照射することにより、GaN膜の成長表面の平坦性を有効に向上させる方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、固体金属分子線セルからの金属(例えば、Ga)分子線と、窒素励起セルからの励起窒素分子線とを、両セルの出口部分にそれぞれ配置したシャッターを交互に開閉し、基板面上でGa分子が横方向に拡散又は移動(Migration)する時間を付与しながら、Ga分子線の照射停止後(Ga分子線セル用のシャッターを閉じた後)、窒素励起セル用のシャッターを開いて該窒素励起セルから射出された窒素活性種を上記基板面に吸着したGa分子と反応させることにより、GaN成長面の平坦性を改善する方法が知られている(非特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び非特許文献1に記載の方法は、原理的に、窒素励起セルの出口部分に配置した機械的シャッターを断続的に開閉して基板面上に照射されたGa分子が分散又は移動する時間的猶予を付与することによりGaN膜の平坦性の向上化を図るものである。このため、金属フラックスと窒素活性種とを同時に基板に照射する通常方式による基板面の成長と比べ、かなり拙速であるばかりか、成長量を精細に制御することが難しく、特に、Gaフラックス量と窒素活性種の照射量とを関連付けて制御することが考慮されておらず、励起窒素フラックスの利用効率がいまひとつ良くなかった。
【0006】
そこで、本発明の発明者等は、従来形式のものにおける窒素励起セルの出口部に配置する機械的シャッターに代え、固体金属分子線セル(第1分子線セル)の出口部分に配置したシャッターの周期的開閉動作と同期して窒素励起セルの励起コイルへのRF電力投入量を切替えることにより該窒素励起セルの励起状態をLB励起モードとHB励起モード間で切替え、生成膜の平坦性及び結晶性並びに成膜速度を同時に有効に高め得るようにした活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法及び装置を既に提案している(特願2006−252887号)。
【0007】
しかしながら、上記構成の本発明の発明者等による方法および装置により、成膜の平坦性及び成膜速度がかなり改善されるものの、通常のMBE方式における比較的低温かつ超高真空の製造条件下で、たとえば、熱力学的に準安定である立方晶閃亜鉛鉱形の窒素化合物半導体膜を安定して容易にかつ安価に製造することが非常に困難であった。実際上、従来形式のMBE方式によっては、比較的高温の製造条件下で熱力学的に安定である六方晶ウルツ鉱形の窒素化合物半導体膜が得られるものの、その製造コストも非常に高価であった。特に、成膜速度の向上化を図るにあたり、たとえば、固体金属セルからの金属分子量を増大させた場合、多結晶膜となり易く、熱力学的に安定性がありかつ結晶共有性、したがって電気特性が良好である立方晶または六方晶の窒素化合物半導体膜を得難いという問題があった。
【0008】
本発明の発明者等は、更に鋭意研究した結果、本発明の発明者等の先の出願に係るMBE成膜方法において、HB励起状態とされた窒素励起セルからターゲット位置に固定された基板に照射される窒素活性種のうち、窒素分子イオン及び電子は生成される膜の結晶性及び物理的特性に好ましくない影響を与えていると推論するに至った。
【0009】
そこで、上記推論に基づき、本発明の発明者等は、金属分子線セル(第1分子線セル)の出口部に配置した第1分子線用のシャッター(第1シャッター)を周期的に開閉し、該第1シャッターの開期間中、LB励起状態とされる窒素励起セルからターゲット位置に保持した基板に向けて放出される窒素分子イオン及び電子を排除して実質的に励起窒素分子のみを上記基板に供給する一方、上記第1シャッターの閉期間中の一定期間、窒素励起セルをHB励起状態に保持して該窒素励起セルから上記基板に放射される窒素活性種の化学活性度を制御しながら基板に熱力学的に準安定または安定である立方晶または六方晶窒素化合物半導体膜を得る方法及び装置を案出するに至った。
【特許文献1】特開平11−111617号公報
【非特許文献1】Veeco Application Note March 2000 No.2/00,Veeco Instruments Company USA
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来形式の窒素化合物、代表的に、III族窒素化合物の化学活性度制御式MBE成膜方法及び装置における問題点を完全に解消して従来方式におけるよりも成膜の平坦性及び成膜速度を有効に高めることができるとともに結晶性が良好である立方晶または六方晶窒素化合物半導体膜を安定して容易にかつ安価に製造することができる活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法は、MBE成膜室内のターゲット位置に固定した基板に、第1分子線セルの出口部分に配置した第1シャッターを介して第1分子線(III族分子線)を供給するとともに窒素励起セルから上記基板に窒素活性種フラックスを供給して窒素化合物のエピタキシャル膜を生成するにあたり、
上記第1シャッターを周期的に繰り返し開閉し、上記第1シャッターの開期間T1中、上記第1分子線セルから放出される第1分子線を、該第1シャッターを介して上記基板に照射するとともに、上記窒素励起セル内をLB励起状態に維持して該窒素励起セルから上記基板に放射される窒素分子イオンおよび電子を排除して実質的に励起窒素分子のみを該基板に照射する成膜予備工程と、上記第1シャッター閉期間T2中、上記第1分子線セルから上記基板へ第1分子線の照射を遮断するとともに上記窒素励起セル内をHB励起状態に維持して該窒素励起セルから上記基板に向けて放射される窒素活性種のうち、励起窒素分子イオン及び電子を排除して上記基板に実質的に励起窒素原子、基底窒素原子および励起窒素分子を照射することにより該基板に窒素化合物のエピタキシャル膜を生成する成膜工程とから成る、成膜サイクルを複数回繰り返すことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法は、成膜工程を開始するまでに、LB励起状態とした窒素励起セルからターゲット位置に固定した基板に、窒素分子イオンおよび電子を排除して実質的に励起窒素分子のみを供給するかまたはHB励起状態とした窒素励起セルから放出される窒素活性種のうち、窒素分子イオン及び電子を排除して実質的に励起窒素原子および基底窒素原子を低流量をもって上記基板に供給することにより上記基板表面に該基板と同元系の単結晶窒化膜を生成することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法は、第1シャッターの開時点t0から該第1シャッターの繰り返し一定開期間T1に応じて予め定めた時間αだけ短い遅れ時間τ=(T1−α)を経過した時点t2で窒素励起セル内のLB励起状態をHB励起状態に切替えることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法は、第1シャッターが閉じた期間T2において、窒素励起セル内をHB励起状態からLB励起状態に戻した時点t3より該第1シャッターが再び開く時点t0までの期間β中、LB励起状態の窒素励起セルからの励起窒素分子により基板上の残留第1分子を除去することを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法では、第1シャッターの開期間T1は基板に1分子層以下の膜をエピタキシャル成長させる金属分子の数量に応じて定め、HB励起状態保持期間T3は第1シャッターの開期間T1中に基板に供給された金属分子と反応するに必要な窒素活性種の原子数量に応じて定めることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項6に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法は、第1シャッターの開期間T1は基板に複数分子層の膜をエピタキシャル成長させる金属分子の数量に応じて定められ、HB励起状態保持期間T3が第1シャッターの開期間T1中に基板に供給された金属分子と反応するに必要な窒素活性種の原子数量に応じて定められることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項7に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法は、上記窒素励起セル内に電磁波を照射してLB励起状態を維持することを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項8に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置は、MBE成膜室内のターゲット位置に固定した基板に、第1分子線セルの出口部分に配置されて周期的に繰り返し開閉する第1シャッターを介して第1分子線を供給するとともに上記基板に窒素励起セルから窒素活性種フラックスを供給して窒素化合物のエピタキシャル膜を生成する窒素化合物MBE成膜装置において、上記窒素励起セルの放出口部付近に配置され、上記第1シャッターの閉期間T2中、上記窒素励起セルから放出される窒素活性種のうち窒素分子イオン及び電子を排除して実質的に励起窒素原子、基底窒素原子および励起窒素分子を上記基板に照射するようにした荷電粒子排除手段と、上記第1シャッターを一定の開期間T1をもって周期的に繰り返し開閉する第1シャッター駆動手段と、成膜対象に応じて少なくとも上記第1シャッターを開閉する周期T、開期間T1およびHB励起状態保持期間T3を予め定めてこれらの設定データ(T、T1、T3)を入力する設定データ入力手段と、上記第1シャッターの開閉動作に同期して上記窒素励起セルの励起コイルに、比較的小さい電力WLBをもって給電することによりLB励起状態を確立する一方、比較的大きい電力WHBをもって給電することによりHB励起状態を確立するように、励起電力を切替え制御する給電制御手段とを備え、上記窒素励起セルから窒素活性種フラックスの化学活性度を制御しながら上記基板に供給して窒素化合物のエピタキシャル膜を生成することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項9に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置における荷電粒子排除手段は電磁荷電粒子偏向回路を含み、窒素励起セルから放出される窒素活性種のうち窒素分子イオン及び電子を偏向させて実質的に励起窒素原子、基底窒素原子および励起窒素分子をターゲット位置に固定された基板に照射するように構成したことを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項10に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置は、MBE成膜室内に複数の窒素励起セルを配置するとともに各窒素励起セルの出口部分にそれぞれ第2シャッターを配置し、第1シャッターの開閉動作と同期して各第2シャッターの開閉を、第2シャッター駆動手段を介して制御するとともに、各窒素励起セルの励起コイルに給電する励起電力を、給電制御手段を介して切替え制御することにより、各窒素励起セルからターゲット位置に固定した基板に放射する窒素活性種の活性度を制御しながら該基板に窒素化合物のエピタキシャル膜を生成することを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項11に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置の給電制御手段は、RF(高周波)電源と各窒素励起セルの励起コイルとの間に挿入した整合用可変リアクタンス回路と、上記窒素励起セルから放出される励起窒素ビームフラックス流量を検出する窒素ビームフラックス検出手段とを含み、上記窒素ビームフラックス検出手段による検出値がHB励起状態保持期間T3中、上記整合用可変リアクタンス回路のリアクタンス値を予め定めた一定値となるように調整して上記励起コイルに比較的大きい一定の電力WHBをもってRF電力を投入するように構成したことを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項12に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置の給電制御手段は、RF(高周波)電源と各窒素励起セルの励起コイルとの間に挿入した整合用可変リアクタンス回路と、各窒素励起セルから放出される励起窒素ビームフラックス流量を検出する窒素ビームフラックス検出手段とを含み、上記窒素ビームフラックス検出手段による検出値がHB励起状態保持期間T3中、予め定めた一定値となるように上記RF電源の発振周波数を調整して上記励起コイルに比較的大きい一定の電力WHBをもってRF電力を投入するように構成したことを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項13に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置は、第1シャッターの周期的開閉動作に従って成膜サイクル動作を逐次制御する制御プログラムを記憶部に格納したコンピュータを用いて構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法によれば、第1分子線セルから第1シャッターを介して基板への第1(III族)分子線の照射量を制御するとともに、第1シャッターの閉期間T2中、LB励起状態からHB励起状態に切替えられた窒素励起セルから上記基板に向けて照射される窒素活性種のうち、生成膜の窒素化合物の化学(共有)結合に直接的に関与する励起窒素原子および基底窒素原子の照射量を制御しながら上記基板に付与されたIII族分子と共有結合させるようにしたから、従来のMBE成膜方法によるよりも当該窒素化合物膜の平坦性及び成膜速度を有効に高めるとともに成膜予備工程における励起窒素分子の保有エネルギーを有効に利用し、基板温度を比較的低温に抑えたままでエピタキシャル(層)膜の低温成膜を可能とし、熱力学的に安定性が高く、結晶性の良好な電気的特性の安定した立方晶または六方晶窒素化合物膜を容易にかつ安価に製造し得るという優れた作用効果を奏する。
【0025】
本発明の請求項3に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法によれば、窒素励起セル21の出口部に配置した第2シャッター32の開口部またはその周辺部の間隙もしくは開き具合を調整してそこから漏出する解離窒素原子の数量を制御することにより、基板表面の同元系の窒化を緩慢に生起させることにより、初期成長に有効なバッファ層を迅速にかつ安価に生成することができるという優れた作用効果を奏する。
【0026】
本発明の請求項3に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法によれば、窒素励起セルのLB励起モードからHB励起モードへの切替え応答遅れ時間(むだ時間)に相当する時間αだけ基板面上の金属分子と反応する窒素励起セルからの窒素活性種の照射開始を繰り上げ、1成膜サイクル期間Tあたり成膜所要時間をα時間短縮して成膜速度を有効に高め得るという優れた作用効果を奏する。
【0027】
本発明の請求項4に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法によれば、1成膜サイクル毎に窒素励起セルから供給される所定量の窒素活性種と反応しなかった基板上の余剰の金属分子をβ期間中に除去するようにしたから、成長面における窒素原子の欠損箇所の発生を抑制して平坦性及び結晶性を有効に高めかつ基板5上に残存する高温Ga分子を除去することにより、基板温度を低温に保持し、エピタキシャル膜の低温成膜を確保し得るという優れた作用効果を奏する。
【0028】
本発明の請求項5に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法によれば、1成膜サイクル毎に、第1分子線セルから基板面に1原子層の生成に必要な金属分子フラックスを照射するとともに窒素励起セルから該基板面における金属分子と過不足なく反応する量の励起窒素原子および基底窒素原子を照射するようにしたから、成長面における窒素原子の欠損箇所の少ない平坦性及び結晶性の良好な窒素化合物膜を成長させ得るという優れた作用効果を奏する。
【0029】
本発明の請求項6に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法によれば、1成膜サイクル毎に、第1分子線セルから基板面に複数原子層の生成に必要な金属分子フラックスを照射するとともに窒素励起セルから該基板面における金属分子と過不足なく反応する量の励起窒素原子および基底窒素原子を照射するようにしたから、比較的速い成長速度をもって平坦性の良好かつ結晶性が非常に高い窒素化合物膜を得られるという優れた作用効果を奏する。
【0030】
本発明の請求項7に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法によれば、窒素励起セルの全LB励起モード期間において該窒素励起セルの放電空間に電磁波エネルギーを補給して該放電空間内の解離窒素分子の分布に実質的な影響を及ぼすことなくLB励起状態を維持するようにしたから全成膜期間に渡って安定して基板面に成長させ得るという優れた作用効果を奏する。
【0031】
本発明の請求項8に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置によれば、第1シャッターの開閉動作、荷電粒子排除手段の窒素分子イオンおよび電子の排除動作ならびに給電制御手段の窒素励起コイルへの給電動作を逐次制御することにより、第1分子線セルから第1シャッターを介して基板への第1(III族)分子線の照射量を制御するとともに、窒素励起セルから上記基板に向けて照射される窒素活性種のうち、生成膜の窒素化合物の化学(共有)結合に実質的に関与する励起窒素原子および基底窒素原子の照射量を制御しながら上記基板に付与された第1分子(III族分子)と共有結合させるようにしたから、従来形式のMBE成膜装置によるよりも当該窒素化合物膜の平坦性及び成膜速度を有効に高めるとともに、LB励起状態の窒素励起セルから上記基板に照射される励起窒素分子の保有エネルギーを有効に利用し、基板温度を比較的低温に抑えたままでエピタキシャル(層)膜の低温成膜を可能とし、熱力学的に安定性が高く、共有性の良好な電気的特性の安定した立方晶または六方晶窒素化合物膜を容易にかつ安価に製造し得るという優れた作用効果を奏する。
【0032】
本発明の請求項9に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置によれば、窒素励起セルからターゲット位置に固定された基板に至る窒素活性種の照射経路領域に配置された電磁荷電粒子偏向回路により、第1シャッターの閉期間においてHB励起状態とされる窒素励起セルから上記基板に向けて放射される窒素活性種のうち、窒素分子イオンおよび電子を偏向させて基板上の第1分子(III族分子)との共有結合に実質的に関与する励起窒素原子及び基底窒素原子を上記基板に照射するようにしたから、熱力学的に安定性が高く、共有性の良好な電気的特性の安定した立方晶または六方晶窒素化合物膜を容易にかつ安価に製造し得るという優れた作用効果を奏する。
【0033】
本発明の請求項10に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置によれば、複数の、好ましくは、2つの窒素励起セルの出口部分にそれぞれ配置された第2シャッターの開閉動作を個別に制御することにより、各窒素励起セルから第2シャッターを介して基板への窒素励起原子及び基底窒素原子の供給態様を種々に変えることができ、化学活性度をより精密に制御することができ、立方晶または六方晶窒素化合物半導体膜をより確実にかつ安価に製造し得るという優れた作用効果を奏する。
【0034】
本発明の請求項11に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置によれば、RF電源と窒素励起セルの励起コイル間に挿入された可変リアクタンス回路のリアクタンス値を、該窒素励起セル内のLB励起モードとHB励起モード間の切替えに伴うインピーダンス変化に追従して変化させることにより、上記励起コイルに所定のRF電力を投入するようにして窒素励起セルを所望の窒素励起状態(LBまたはHB励起状態)に迅速に切替え得るという優れた作用効果を奏する。
【0035】
本発明の請求項12に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置によれば、RF電源の発振周波数を変化させることにより迅速かつ容易に可変インピーダンス回路のインピーダンス整合を行って瞬時的にLBおよびHB励起モード間の切替えを行い得るという優れた作用効果を奏する。
【0036】
本発明の請求項13に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置によれば、第1シャッターの周期的開閉動作に基づき構成される制御プログラムに従って全自動的に上記請求項1に記載の成膜サイクルを実行することにより第1分子線(III族分子線)ならびに励起窒素分子フラックスおよび窒素活性種フラックスを効率的に利用して基板温度を比較的低く抑えて低温成膜が可能となり、平坦性(均一成長)及び熱力学的に安定した、たとえば、立方晶または六方晶窒素化合物半導体膜を安価に量産し得るという優れた作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
本発明の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置1は、図1に示されるように、一般にMBE(分子線エピタキシー)成膜に用いられる、たとえば、V.G.Semicon(英国)社製VG80HMBE装置に、窒素励起セル21と給電制御回路51(整合用可変リアクタンス回路52及び自動リアクタンス調整回路54)とRF電源53とを1セットとして市販されている、アリオス株式会社(日本国東京)製IRFS−501RF励起窒素源(装置)を組み込んで構成される。上記MBE成膜装置1は、本発明の成膜装置の基本的構成概念を示す図2とともに詳細に説明する。なお、図2において、図1のMBE成膜装置の構成部分と等価の部分には同一の数字符号を付して詳細な説明を省略する。
【0038】
図1において、MBE成膜室2内のターゲット位置に配置された基板ホルダー3に、図示しない固定具により着脱可能に基板5を固定するとともにヒータ4を介して該基板5を所定温度、例えば、600℃に加熱し、上記基板5の表面にIII族窒素化合物、例えば、代表的に、Ga窒化物半導体(GaN)膜が成長させられる。基板ホルダー3に装着された操作棒を介してマニピュレータ7が装着される。マニピュレータ7により成膜室2の外部から基板ホルダー3に基板5を固定する操作とか、基板ホルダー3に固定された基板5を回転する操作が可能とされる。8は真空機構部で、例えば、ターボ分子ポンプを用いて成膜室2が10-5〜10-9Paの超真空とされる。
【0039】
基板ホルダー3の下方で成膜室2の底部に、複数の、例えば、4つの固体金属分子線セル11a〜11dが配置される。これらの固体金属分子線セル11(代表的にそれらのうちの1つを、添字a〜dを省略して示す)は、例えば、PBN(Pyrolytic Boron Nitride)製坩堝14を用いて構成される。坩堝14に装入されたIII族固体金属材料、代表的に、Gaが溶融ヒータ15により溶融蒸発され、各セル11の出口部分にそれぞれ装着された金属分子線セル用のシャッター(以降、これを第1シャッターという)12を開き、金属分子線セル11からターゲット位置に固定された基板5の表面にGa分子線が照射される。各第1シャッター12は、それぞれ、図示しない開閉駆動機構部のシャッター駆動回路46(図2参照)により開閉駆動される。第1シャッター11が開閉駆動機構部により開とされると、該第1シャッター12に対応する固体金属分子線セル(以降、この金属分子線セルを第1分子線セルという)11から溶融蒸発した金属分子線(Ga分子線)が基板5に照射される。これらの固体金属分子線セル11a〜11dと一緒に、ガスソース、例えば、炭素化合物バッファ層又は膜を生成するためのアセチレンガスを分解して炭素分子線を生成する、いわゆる、ガス分子線セル17が装着される。このガス分子線セル17には、ガス供給管19を介して、例えば、アセチレンガスとか、有機金属ガス(MOガス)等が供給される。なお、固体金属分子線セル11a〜11dに、基板5の表面に成膜しようとする金属材料、例えば、Ga以外のAl、In又はTl等の固体金属材料とか、成膜された金属窒素化合物半導体にドープされる不純物材料を装入して使用することができる。
【0040】
上記固体金属分子線セル11a〜11d及びガス分子線セル17と一緒に、窒素励起セル21が配置される。窒素励起セル21は、窒素ガスボンベ26から質量流量制御器27及びガス圧力計28を接続した窒素ガス供給管29から供給される窒素ガスN2を高周波電力により励起(放電)し、励起窒素分子、自由電子、励起窒素原子、基底窒素原子が混在する、いわゆる、窒素活性種を生成するものである。窒素励起セル21の励起室22を形成する筒体の外周に、同軸状に水冷パイプを兼用する励起コイル24が巻装される。この励起コイル24には、詳細に後述するように、RF電源43からRF電力を投入することにより励起室22内の窒素ガスを励起し、いわゆる、誘導結合プラズマICP(Inductively Coupled Plasma)方式にて窒素活性種を生成し、該窒素励起セル21の出口部に設けられたオリフィス25から窒素活性種を射出する。窒素励起セル21の後端部に形成した観察窓には、光ファイバーケーブルを介して、励起室22内の励起(放電)時の分光スペクトルを計測する、例えば、浜松ホトニクス社製のPMA−11分光器を用いた分光スペクトル測定器30が装着される。
【0041】
上記窒素励起セル21の出口部分の付近に荷電粒子排除器34が配置される。荷電粒子排除器34は、該窒素励起セル21から放出される荷電粒子、すなわち、LB励起状態(放電モード)時に放出される中性の励起窒素分子以外の窒素分子イオン及び電子、ならびに、HB励起状態(放電モード)時に放出される中性の励起窒素原子、基底窒素原子、励起窒素分子以外の窒素分子イオン及び電子を電磁的にターゲット位置に固定された基板5に至る軌道から逸脱する又は軌道を偏向するように作用するものである。
【0042】
荷電粒子排除器34は、一対の半割円筒状電極体35と、直流電源(図示を省略)と、磁界発生用コイルを含む磁界発生器(図示を省略)とにより構成される。一対の半割円筒状電極体35は、窒素励起セル21の先端部に固定されたリング状のセラミック絶縁体35に互いに対向しかつ起立状に装着される。両半割円筒状電極体35、35は、それぞれ、直流電源により正電位、負電位に設定され、両半割円筒状電極体35、35間の電圧に応じた強さの電界が形成される。両半割円筒状電極体35、35の先端部に上記磁界発生器が装着され、該磁界発生器の励磁コイルの軸方向に発生する磁界と両半割円筒状電極体35、35の空間部に形成される電界とが交差(略直交)するように取り付けられる。
【0043】
上記荷電粒子排除器34の各半割円筒状電極体35に印加する電圧は、MBE成膜室2内の真空圧、窒素励起セル21の操作条件(励起電流)等に応じて調整または制御され、窒素励起セル21から基板5に向けて放射される窒素分子イオン(+)及び電子(−)は、それぞれ、上記電界および磁界中で作用する電磁力によって逆電位(極性)の半割円筒状電極体35に吸引または吸着するもしくは偏向され、これによりターゲット位置に向かう軌道から逸脱し、荷電粒子フラックスから排除される。なお、本実施例のMBE成膜装置1においては、荷電粒子排除器34の電極体は、一対の半割円筒状電極体35を用いて構成されたが、複数の対向電極対を用いて構成することもできる。また、荷電粒子排除器34は、磁界発生器を省略して少なくとも一対の対向電極体により構成したものであってもよい。
【0044】
上記窒素励起セル21から基板ホルダー3に固定された基板5に照射される窒素活性種(励起窒素ビームフラックス)の分子数量は、例えば、基板ホルダー3と接続した固定部材に装着した窒素ビームフラックス検出器44により検出される。
【0045】
MBE成膜室2内のターゲット位置に固定された基板5の表面に、成膜室2の外壁の一側部(図1の左側部)に配置したRHEED(Reflection High-energy Electron Diffraction)電子銃41から浅い角度(1〜2°)で入射された反射高速電子ビームが基板5の表面で反射回折して他側部(図1の右側部)に配置されたRHEEDスクリーン42に投影され、該RHEEDスクリーン42の影像に基づき基板5の成長表面の結晶状態が観察される。例えば、RHEED反射ビーム強度の振動を公知の方法で分析することにより、結晶成長機構を解明可能とされる。また、MBE成膜室2の外壁部に四重極質量分析器43が配置され、該成膜室2内の残留ガスの種類及びその量を計測可能とされる。
【0046】
次に、本発明の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法を、たとえば、GaN半導体膜を成膜させる場合について、図3に示すタイムシーケンスにしたがって説明する。
上記タイムシーケンスに順じた成膜サイクルは、詳細に後述するように、図2に示される本発明のMBE成膜装置1の成膜制御装置45(図2に示す)を用いて実行される。
【0047】
まず、上記成膜サイクルの実行開始前、すなわち、時点t0より前に、窒素励起セル21を起動し、該窒素励起セル21から成膜対象の基板5に活性度の比較的低い励起窒素分子線を照射するかまたは活性度の比較的高い解離窒素原子線を照射して基板5、たとえば、Si基板の表面に窒化膜、単結晶β-Si34膜を生成する。
【0048】
窒素励起セル21をLB励起状態に設定する場合には、詳細に後述するように、窒素励起セル21の出口部に装着した励起セル用の第2シャッター32を開として、成膜対象の基板の材質および径寸法に見合せて、たとえば、3インチ(7.62cm)のSi基板(Siウェハ)に対し、約20分間をかけて窒化膜(バッファ層)を生成する。一方、窒素励起セル21をHB励起状態に設定する場合には、上記第2シャッター32を閉じて、該第2シャッター32の隙間から漏出する解離窒素原子線を利用して約20秒程で窒化膜を生成することができる。このようにして、第2シャッター32を有効に利用することにより、初期成長に有効なバッファ層を迅速にかつ安価に生成することができる。
【0049】
第1分子線セル11の坩堝14にGa塊体を装入してヒータ15により加熱溶融され、Ga蒸気が生成される。上記窒素励起セル21の励起コイル24に、詳細に後述するように、RF電源53から比較的小さいRF電力が投入され、励起室22は、上記基板5に照射されたGa分子とは反応しない励起分子線が生起する低輝度励起状態(LB励起状態)に保持される。
【0050】
上記窒素励起セル21のLB励起状態は、窒素励起セル21の励起コイル24に、比較的小さい電力WLBもって給電することにより、図4(a)に示されるように、励起室22内に生起する専ら電界Eに基づき確立され、図4(b)に示されるように、上記窒素励起セル21のオリフィス25は、比較的暗い状態とされる。LB励起状態とされる窒素励起セル21から放出される励起窒素分子線のスペクトル(放電スペクトル)を、浜松ホトニクス株式会社製PMA−11分光器を用いて計測したところ、図4(c)に示されるように、励起窒素分子のみのスペクトルが観測された。また、比較的大きな第1正帯及び第2正帯が観測された。
【0051】
上記固体金属分子線セル11の出口部分に配置した第1シャッター12は、予め定めた一定の周期T及び開期間T1(T1<周期T)をもって周期的に繰り返し開閉される。周期Tは、事前に採取した実験データに基づき、上記基板5のAlNバッファ層上にエピタキシャル成長させるGaNの膜厚が1分子層(monolayer)以下となるように定められる。
【0052】
第1シャッター12が開いた時点t0から閉じる時点t1までの期間T1中、第1分子線セル11から射出される金属分子線、即ち、Gaフラックスを基板5に照射するとともにLB励起状態の窒素励起セル21から放射される励起窒素分子線を基板5に照射する成膜予備工程が実行される。
【0053】
上記成膜予備工程において、LB励起状態とされる窒素励起セル21から放射される窒素活性種のうち、プラス(+)の荷電粒子である窒素分子イオンと、マイナス(−)の荷電粒子である電子は、該窒素励起セル21の出口部分に配置された荷電粒子排除器34により有効に排除され、比較的低い励起電力WLBに応じたエネルギーを保有する励起窒素分子線が基板5に照射される。
【0054】
成膜予備工程において、基板5の表面に吸着されたGa用分子線セル(第1分子線セル)11からの1分子層分のGa分子が拡散又は移動すると同時に、窒素励起セル21から照射される励起窒素分子からGa分子にエネルギーが付与または転送され、基板5上のGa分子の拡散又は移動を有効に促進する。また、窒素励起分子からエネルギーを付与されたGa分子の活性度が高まり、基板温度の上昇を抑え、次のHB励起状態に切り替えられた窒素励起セル21から放射される窒素活性種による成膜工程においてGaN膜を低温成膜させることができる。
【0055】
次に、第1シャッターの開時点t0から予め定めた時間τが経過した又は遅れた時点t2で、詳細に後述するように、窒素励起セル21の励起コイル24にRF電源53から比較的大きい一定のRF電力を投入することによりLB励起状態からHB励起状態に切替え、該励起状態切変え時点t2から予め定めた期間T3中、HBモードを持続し、該窒素励起セル21内にHB励起状態で生成される励起窒素原子、基底窒素原子および励起窒素分子(これらを窒素活性種という)を一定の分子数量をもって上記基板5に照射し、該基板5に分散して吸着したGa分子と略過不足なく反応して金属窒素化合物GaNのエピタキシャル膜の生成が開始される。上記時間τは、本明細書において遅れ時間と称する。
【0056】
上記窒素励起セル21のHB励起状態は、窒素励起セル21の励起コイル24に、比較的大きい電力WHBもって給電することにより、図5(a)に示されるように、励起室22内に生起する電界Eおよび磁界Hに基づき確立され、図5(b)に示されるように、上記窒素励起セル21のオリフィス25は、非常に明るい状態とされる。HB励起状態とされる窒素励起セル21から放出される励起窒素分子線のスペクトル(放電スペクトル)を、上記PMA−11分光器を用いて計測したところ、図5(c)に示されるように、窒素原子の原子スペクトル747nm、励起窒素原子の原子スペクトル822nm、868nm、940nm等が観測された。また、比較的弱小な第1正帯及び第2正帯が観測された。
【0057】
上記遅れ時間τは、第1シャッター12の開期間T1と励起コイル24へのRF給電切替え条件に応じて予め定めた時間α(α≧0)とをもってτ=T1±αと表示される。遅れ時間τ=T1−αとは、時点t0から第1シャッター12の開期間T1が満了する時点t1より時間αだけ前の時点までの期間に相当する時間であり、遅れ時間τ=T1+αとは、時点t0から第1シャッター12の開期間T1が満了した時点t1より時間αだけ後の時点までの期間に相当する時間である。また、上記HB励起状態保持期間T3は、第1シャッター12の開期間T1中に基板5に供給されたGa分子と結合反応するのに必要な窒素活性種の分子数量に応じて予め定められる。
【0058】
次に、上記HBモード持続期間T3が満了した時点t3で再び窒素励起セル21の励起状態がLB励起状態に戻され、該時点t3から上記第1シャッター12が再び開とされる時点t0までの期間β中に、基板5の表面とか成膜室2の内部に残留するGa分子、即ち、1分子層の形成にあたり余剰のGa分子が、公知のクリーニング手段により除去される。このようにして、基板5上に残存する高温Ga分子を除去することにより、基板温度を低温に保持し、励起状態切替え時点t2から再び第1シャッター12が開とされる時点t0までの期間(成膜工程HB励起状態保持期間T3+期間β)、エピタキシャル膜の低温成膜を確保しながら成膜工程が実行される。
【0059】
上記第1シャッター12の開閉動作の1周期T中の成膜予備工程と成膜工程とから成る成膜サイクルは、上記基板5に成膜させるGaN半導体膜の膜厚に応じて複数回繰り返される。
【0060】
上記第1シャッター12の開期間T1は、上述したように、1分子層以下の金属分子数量に限らず、複数分子層分の金属分子数量に応じた期間長さとして成膜速度を高めるようにしてもよい。特に、所定厚さの金属窒素化合物膜を成膜させる初期には、複数分子層分の金属分子を供給して比較的速い速度で成膜させ、終盤の仕上げ時期では、1分子層分の金属分子数量に応じた期間T1をもって成膜予備工程を実行することにより、当該成膜操作全体の生成速度を有効に高めることができるとともに膜表面の平坦性及び結晶性を良好なものとすることができる。
【0061】
上記成膜制御装置45は、例えば、パーソナルコンピュータPCを用いて構成され、該コンピュータPCのメモリー(図示を省略する)に、図3に示されるタイムシーケンスにしたがって上述した成膜サイクルを実行する成膜制御プログラムが格納される。
【0062】
上記成膜制御装置45の制御盤(コントロールパネル)は、図4に示されるように、コンピュータPC用の液晶モニタ画面に可視表示される画像コントロールパネルが使用される。
【0063】
上記画像コントロールパネルにおいて、61は、成膜制御装置45の制御開始指令用のスタートボタン、62は、操作モード設定スイッチ、63は、運転モード設定スイッチ、64は、パルス(図2参照)周期切替えスイッチ、65は、詳細に後述する給電制御回路51における入力電流モニタ、66は、窒素励起セル21の励起コイル24への投入設定RF電力に対応する出力電圧モニタ、67は、HBモード設定RF電力Wに対応する電流目標値を設定する目標電流設定ダイヤル、68は、投入設定RF電力の上限値設定ダイヤル、69は、投入設定RF電力の下限値設定ダイヤル、70は、LB励起状態保持電力設定ダイヤルである。
【0064】
ユーザ(成膜制御装置45の使用者)が成膜作業対象に応じて予め設定する各種設定データ入力スイッチを備え、71は、第1シャッター12の周期的開閉動作の1周期T(sec)設定ボタン、72は、第1シャッター12の開期間T1(sec)設定ボタン、73は、時間α(sec)設定ボタン、74は、HBモード持続期間T3(sec)設定ボタン、75は、時間β(sec)設定ボタンである。なお、遅延時間τ=T1±αは、後述するタイマー回路からタイミング信号t2が出力される際、成膜制御装置45の図示しない演算論理部(ALU)にて設定ボタン72で設定されたT1値及び設定ボタン63で設定されたα値に基づいて演算される。その他、76は、リアクタンス調整回路54の動作モード切替えスイッチ、78は、マニュアル操作モード時の投入設定RF電力に対応する出力電圧設定ダイヤルである。
【0065】
上記成膜制御装置45のメモリー領域を利用してタイマー回路(図示しない)が形成され、上記コントロールパネルに配置されたデータ入力設定スイッチ71〜75と協働して該タイマー回路から第1シャッター12の開時点t0を示すタイミング信号、該時点t0から遅れ時間τが経過して窒素励起セル21をLB励起状態からHB励起状態に切替える時点t2を示すタイミング信号及び該時点t2から上記HB励起状態保持期間T3が経過した時点t3を示すタイミング信号が出力される。
【0066】
RF電源53と窒素励起セル21の励起コイル24とを接続する高周波給電線路に給電制御回路51が接続される。給電制御回路51は、窒素励起セル21における、例えば、それ自体公知の誘導結合型窒素ガス励起(放電)回路を構成する励起コイル24と上記RF電源(回路)53間に接続される整合用可変リアクタンス回路52と、上記窒素励起セル21から放出される励起窒素ビームフラックスの分子数量を検出する窒素ビームフラックス検出器44と、上記窒素ビームフラックス検出器44の検出値が上記目標電流設定ダイヤル67又はLB励起状態保持電力設定ダイヤル70で設定された目標値となるように整合用可変リアクタンス回路52のリアクタンス値をフィードバック制御し、これにより励起コイル24に比較的大きい一定の電力WHB又は比較的小さい一定の電力WLBをもってRF電力を投入するようにした自動リアクタンス調整(自動インピーダンスマッチング回路)54とにより構成される。
【0067】
上記構成により、自動リアクタンス調整回路54が成膜制御装置45のタイマー回路からタイミング信号t2を受けると、上記設定ボタン74により設定されたHB励起状態保持期間T3中、整合用可変リアクタンス回路52のリアクタンス値を調整してRF電源53から窒素励起セル21の励起コイル24に比較的大きい一定の電力WHBをもって給電し、窒素励起セル21の励起室22内にHB励起状態を確立する。同様にして、自動リアクタンス調整回路54が上記タイマー回路からタイミング信号t3を受けると、整合用可変リアクタンス回路52のリアクタンス値を調整してRF電源53から励起コイル24に、比較的小さい電力WLBをもって給電し、窒素励起セル21の励起室22がLB励起状態に切替えられる。該窒素励起セル21の励起室22は、時点t3以降、再び次の成膜サイクルにおいて自動リアクタンス調整回路54が上記タイマー回路からタイミング信号t2を受けるまでの期間(=β+τ)中、LB励起状態に保持される。なお、この期間(=β+τ)において、励起室22内に電磁波を照射して励起状態、即ち、放電が完全に消滅又は消弧しないようにすることができる。このようにして、窒素励起セル21のLBモードからHBモードへの切替えを安定して確実なものとすることができる。
【0068】
上記自動リアクタンス調整回路54による整合用可変リアクタンス回路52のリアクタンス値の調整操作に代えて、RF電源53の発振周波数を変化させることにより、当該高周波給電回路のインピーダンスマッチング操作を行うようにしてもよい。このようにして、自動マッチング操作の応答性を有効に高め、したがって、膜の成長をより精密に制御することができる。
【0069】
上記実施例のMBE成膜装置1においては、固体金属としてIII族金属元素のGaを使用する場合について説明したが、その他のIII族金属元素Al、In又はTlの窒素化合物AlN、InN又はTlN及びそれらを含む合金膜を生成する場合にも適用することができる。
【0070】
上記実施例のMBE成膜装置1においては、単一の窒素励起セル21が装着されたが、
複数、好ましくは、2〜3の窒素励起セル21を装着するようにしてもよい。図11及び図12に示されるように、たとえば、2つの窒素励起セル21を、間隔をあけて配置し、各窒素励起セル21の出口部の中心軸をターゲット位置に固定された基板面に適宜設定した2つの照準点(位置)に合わせて各窒素励起セル21から窒素活性種フラックスを放射するように構成することができる。この構成により、ターゲット位置に固定された基板5における成膜領域の化学活性度をより精密に制御可能となり、高品質のエピタキシャル膜を製造することができる。
【0071】
また、図11および図12に示すように、窒素励起セル21の出口部の先端部に、セラミック絶縁体35および荷電粒子排除器34を装着し、該荷電粒子排除器34の前方に、窒素励起セル用シャッター32(以下、これを第2シャッターという)を配置し、第1分子線セル用の第1シャッター12と同様、シャッター駆動回路33を介して第2シャッター32の開閉動作を制御することにより、ターゲット位置に固定された基板5における成膜領域の化学活性度をより精密に制御可能となり、高品質のエピタキシャル膜を製造することができる。
【0072】
さらに、窒素励起セル21の出口部に第2シャッター32を配置することにより、窒素励起セル21のHB励起状態時、第2シャッター32の開口部またはその周辺部の間隙もしくは開き具合を調整してそこから漏出する解離窒素原子量を変化させることができる。これにより、基板5の表面に到達する解離窒素原子の数量を制御することができ、反応数量に見合うようにGa原子とか、Al原子数量を調整すれば成膜量を制御することができる。基板表面、たとえば、Si基板の場合、その表面の同元系(Si)の窒化を緩慢に起こさせることにより、成膜工程における基板のバッファ層として単結晶β−Si34膜を生成することができる。このようにして、成膜サイクルの開始直後における初期成長を制御することができ、成膜領域の結晶性および平坦性の良好なエピタキシャル膜を製造することができる。この場合、窒素原子ビームフラックスは窒素原子ビームフラックス測定器44を用いて計測またはモニタしながら、第2シャッター32のしまり具合を調整することができる。
【0073】
次に、本発明のMBE成膜装置を用いて、共に、3インチ(7.62cm)のSi(111)基板(試料1および試料2)にAlNバッファ層を成膜させた後、両試料1および試料2に、第1分子線セル11からGa分子線を、窒素励起セル21から荷電粒子排除器34を介して窒素活性種を、図3のタイムシーケンスにしたがって共に同一の周期T=2.8秒、T1=1秒、T2=1.8秒にて繰り返し照射することによりGaN膜を生成した。
試料1においては、第1シャッター12が開とされ、試料1にGa分子線を照射するとともに窒素励起セル21の出口部に装着した第2シャッター32を開き、LB励起状態とされる窒素励起セル21から荷電粒子排除器34を介して試料1の基板面に励起窒素分子線を照射する。次いで、第1シャッター12を閉じて基板面へのGa分子線の照射を停止し、HB励起状態に切り替えられた窒素励起セル21から開とされた第2シャッター32および荷電粒子排除器34を介して基板面に解離窒素原子を照射する成膜サイクルを繰り返し実行してGaN膜が生成された。
試料2においては、第1シャッター12が開とされ、試料1にGa分子線を照射するとともに窒素励起セル21の出口部に装着した第2シャッター32を閉じ、LB励起状態とされる窒素励起セル21から荷電粒子排除器34を介して試料1の基板面へ励起窒素分子線の照射を遮断する。次いで、第1シャッター12を閉じて基板面へのGa分子線の照射を停止し、HB励起状態に切り替えられた窒素励起セル21から開とされた第2シャッター32および荷電粒子排除器34を介して基板面に解離窒素原子を照射する成膜サイクルを繰り返し実行してGaN膜が生成された。
試料1および試料2は、成膜時ともに基板ホルダー3を回転することなく、基板温度がともに610℃とされ、Ga分子線セル(第1分子線セル)11内の温度がともに1030℃とされた。
【0074】
試料1および試料2のGaN表面の干渉写真(図9)から分かるように、試料1では、同心円状の濃淡縞が見られる一方、試料2では、一方向に並んだ干渉縞が見られ、平坦性に関し、試料1の方が良好であった。
試料1および試料2のGaN表面における膜厚分布に関し、図8のX線回折計測データから分かるように、平坦性に関し、試料1の方が試料2よりも良好であった。
また、試料1および試料2のGaN表面における膜厚分布に関し、図8のX線回折計測データから分かるように、試料1のX線回折半値幅が試料2の半値幅よりも狭小で 平坦性に関し、試料1の方が試料2よりも良好であった。
【0075】
上記実施例からも明らかなように、本発明の成膜方法は、III族窒素化合物半導体に限らず、例えば、上記窒素ガス励起セル21と同様のRF酸素ガス励起セル(図示しない)を用いて、錫(Sn)とか亜鉛(Zn)などの金属系元素を酸化させた酸化物半導体、例えば、TiO2、ZnO、NiO、SnO2等の成膜に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の成膜方法を適用できる活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置の概略断面図である。
【図2】本発明の成膜装置の主要構成部分を拡大して示す概略図である。
【図3】本発明の成膜方法の成膜サイクルの基本的タイムシーケンスを示す図である。
【図4】本発明に適用される窒素励起セルのLB励起状態の説明図で、(a)は、LB励起状態発生の原理を示す図、(b)は、LB励起状態作動時のオリフィス部の明るさを示す写真で、(c)は、LB励起状態時の窒素励起セル21から放出される励起窒素分子線のスペクトル(放電スペクトル)の計測グラフを示す。
【図5】本発明に適用される窒素励起セルのHB励起状態の説明図で、(a)は、HB励起状態発生の原理を示す図、(b)は、HB励起状態作動時のオリフィス部の明るさを示す写真で、(c)は、HB励起状態時の窒素励起セル21から放出される励起窒素分子線のスペクトル(放電スペクトル)の計測グラフを示す。
【図6】本発明の成膜装置における給電制御装置のコントロールパネルの正面図である。
【図7】本発明の成膜装置を用いて異なる成膜制御方式により実施された2つの平坦性の比較データを示す。
【図8】上記試料1及び試料2に生成されたGaN表面の平坦性改善比較データを示す。
【図9】上記試料1及び試料2に生成されたGaN表面の位置に対する膜厚分布の比較データを示す。
【図10】上記試料1及び試料2に生成されたGaN表面の干渉写真である。
【図11】本発明のMBE成膜装置の変形例の主要構成部分の概念図を示す。
【図12】上記変形例の主要構成部分の概略図を示す。
【符号の説明】
【0077】
1 本発明のMBE成膜装置
2 MBE成膜室
3 基板ホルダー
5 基板
8 真空機構部(ターボ分子ポンプ)
9 液体窒素シュラウド
11 固体金属分子線セル(第1分子線セル)
11a〜11d 固体金属分子線セル(Kセル)
12 第1シャッター(金属分子線セル用シャッター)
14 PBN坩堝
15 溶融ヒータ
21 窒素励起セル
22 励起室
24 励起コイル
25 オリフィス
26 窒素ガスボンベ
27 質量流量制御器
28 圧力計
29 窒素ガス供給管
30 分光スペクトル測定器
32 第2シャッター(窒素励起セル用シャッター)
33 第2シャッター駆動回路
34 荷電粒子排除器
35 セラミック絶縁体
36 半割円筒状電極体
41 RHEED電子銃
42 RHEEDスクリーン
43 四重極質量分析器
44 窒素ビームフラックス検出器
45 成膜制御装置(回路)
46 シャッター駆動回路
47 コントロールパネル
48 スタートボタン
49 データ入力設定ボタン(データ入力設定器)
51 給電制御回路
52 整合用可変リアクタンス回路
53 RF(高周波)電源
61 スタートボタン
67 目標電流(励起電力)設定ダイヤル
70 LBモード維持電力設定ダイヤル
71 周期T設定スイッチ
72 開期間T1設定スイッチ
73 時間α設定スイッチ
74 HB励起状態保持期間T3設定スイッチ
75 時間β設定スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MBE(分子線エピタキシー)成膜室内のターゲット位置に固定した基板に、第1分子線セルの出口部分に配置した第1シャッターを介して第1分子線を供給するとともに窒素励起セルから上記基板に窒素活性種フラックスを供給して窒素化合物のエピタキシャル膜を生成するにあたり、
上記第1シャッターを周期的に繰り返し開閉し、
上記第1シャッターの開期間T1中、上記第1分子線セルから放出される第1分子線(III族分子線)を、該第1シャッターを介して上記基板に照射するとともに、上記窒素励起セル内を低輝度(Low Brightness:LB)励起状態に維持して該窒素励起セルから上記基板に放射される窒素分子イオンおよび電子を排除して実質的に励起窒素分子のみを該基板に照射する成膜予備工程と、上記第1シャッター閉期間T2における一定期間中、上記第1分子線セルから上記基板へ第1分子線の照射を遮断するとともに上記窒素励起セル内を高輝度(High Brightness:HB)励起状態に維持して該窒素励起セルから上記基板に向けて放射される窒素活性種のうち、窒素分子イオン及び電子を排除して上記基板に実質的に励起窒素原子、基底窒素原子および励起窒素分子を照射することにより該基板に窒素化合物のエピタキシャル膜を生成する成膜工程とから成る、成膜サイクルを複数回繰り返すことを特徴とする活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法。
【請求項2】
成膜工程を開始するまでに、LB励起状態とした窒素励起セルからターゲット位置に固定した基板に、窒素分子イオンおよび電子を排除して実質的に励起窒素分子のみを供給するかまたはHB励起状態とした窒素励起セルから放出される窒素活性種のうち、窒素分子イオン及び電子を排除して実質的に励起窒素原子および基底窒素原子を低流量をもって上記基板に供給することにより上記基板表面に該基板と同元系の単結晶窒化膜を生成することを特徴とする請求項1に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法。
【請求項3】
第1シャッターの開時点t0から該第1シャッターの繰り返し一定開期間T1に応じて予め定めた時間αだけ短い遅れ時間τ=(T1−α)を経過した時点t2で窒素励起セル内のLB励起状態をHB励起状態に切替えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法。
【請求項4】
第1シャッターが閉じた期間T2において、窒素励起セル内をHB励起状態からLB励起状態に戻した時点t3より該第1シャッターが再び開く時点t0までの期間β中、LB励起状態の窒素励起セルからの励起窒素分子により基板上の残留第1分子を除去することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法。
【請求項5】
第1シャッターの開期間T1は基板に1分子層以下の膜をエピタキシャル成長させる金属分子の数量に応じて定め、HB励起状態保持期間T3は第1シャッターの開期間T1中に基板に供給された金属分子と反応するに必要な窒素活性種の原子数量に応じて定めることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法。
【請求項6】
第1シャッターの開期間T1が基板に複数分子層の膜をエピタキシャル成長させる金属分子の数量に応じて定められ、HB励起状態保持期間T3が第1シャッターの開期間T1中に基板に供給された金属分子と反応するに必要な窒素活性種の原子数量に応じて定められることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法。
【請求項7】
窒素励起セル内に電磁波を照射してLB励起状態を維持することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜方法。
【請求項8】
MBE(分子線エピタキシー)成膜室内のターゲット位置に固定した基板に、第1分子線セルの出口部分に配置されて周期的に繰り返し開閉する第1シャッターを介して第1分子線を供給するとともに上記基板に窒素励起セルから窒素活性種フラックスを供給して窒素化合物のエピタキシャル膜を生成する窒素化合物MBE成膜装置において、
上記窒素励起セルの放出口部付近に配置され、上記第1シャッターの閉期間T2中、上記窒素励起セルから放出される窒素活性種のうち窒素分子イオン及び電子を排除して実質的に励起窒素原子、基底窒素原子および励起窒素分子を上記基板に照射するようにした荷電粒子排除手段と、
上記第1シャッターを一定の開期間T1をもって周期的に繰り返し開閉する第1シャッター駆動手段と、
成膜対象に応じて少なくとも上記第1シャッターを開閉する周期T、開期間T1およびHB励起状態保持期間T3を予め定めてこれらの設定データ(T、T1、T3)を入力する設定データ入力手段と、
上記第1シャッターの開閉動作に同期して上記窒素励起セルの励起コイルに、比較的小さい電力WLBをもって給電することによりLB励起状態を確立する一方、比較的大きい電力WHBをもって給電することによりHB励起状態を確立するように、励起電力を切替え制御する給電制御手段とを備え、
上記窒素励起セルから窒素活性種フラックスの化学活性度を制御しながら上記基板に供給して窒素化合物のエピタキシャル膜を生成することを特徴とする活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置。
【請求項9】
荷電粒子排除手段は電磁荷電粒子偏向回路を含み、窒素励起セルから放出される窒素活性種のうち窒素分子イオン及び電子を偏向させて実質的に励起窒素原子、基底窒素原子および励起窒素分子をターゲット位置に固定された基板に照射するように構成したことを特徴とする請求項8に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置。
【請求項10】
MBE成膜室内に複数の窒素励起セルを配置するとともに各窒素励起セルの出口部分にそれぞれ第2シャッターを配置し、第1シャッターの開閉動作と同期して各第2シャッターの開閉を、第2シャッター駆動手段を介して制御するとともに、各窒素励起セルの励起コイルに給電する励起電力を、給電制御手段を介して切替え制御することにより、各窒素励起セルからターゲット位置に固定した基板に放射する窒素活性種の活性度を制御しながら該基板に窒素化合物のエピタキシャル膜を生成することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置。
【請求項11】
給電制御手段は、RF(高周波)電源と各窒素励起セルの励起コイルとの間に挿入した整合用可変リアクタンス回路と、上記窒素励起セルから放出される励起窒素ビームフラックス流量を検出する窒素ビームフラックス検出手段とを含み、上記窒素ビームフラックス検出手段による検出値がHB励起状態保持期間T3中、上記整合用可変リアクタンス回路のリアクタンス値を予め定めた一定値となるように調整して上記励起コイルに比較的大きい一定の電力WHBをもってRF電力を投入するように構成したことを特徴とする請求項8〜請求項10のいずれかに記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置。
【請求項12】
給電制御手段は、RF(高周波)電源と各窒素励起セルの励起コイルとの間に挿入した整合用可変リアクタンス回路と、各窒素励起セルから放出される励起窒素ビームフラックス流量を検出する窒素ビームフラックス検出手段とを含み、上記窒素ビームフラックス検出手段による検出値がHB励起状態保持期間T3中、予め定めた一定値となるように上記RF電源の発振周波数を調整して上記励起コイルに比較的大きい一定の電力WHBをもってRF電力を投入するように構成したことを特徴とする請求項8〜請求項10のいずれかに記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置。
【請求項13】
第1シャッターの周期的開閉動作に従って成膜サイクル動作を逐次制御する制御プログラムを記憶部に格納したコンピュータを用いて構成したことを特徴とする請求項8〜請求項12のいずれかに記載の活性度制御式窒素化合物MBE成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−117466(P2009−117466A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286231(P2007−286231)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(500036831)アリオス株式会社 (14)
【Fターム(参考)】