説明

活性成分および活性成分を検査するための方法

本発明は、ヒトまたは動物の体(13、14)に投与される治療活性成分に関する。前記活性成分は、α-ヒドロキシ酸、α-アミノ酸、ペプチド、またはタンパク質を含み、前記成分は、11Cで放射標識されており、放射性原子は、α位におけるカルボキシル基またはペプチド結合のC原子を置き換えている。治療目的のために使用される活性成分と化学的に同一である標識された治療活性成分は、ポジトロン放出断層撮影によって、組織試料中、またはヒトもしくは動物の体内で、検査される活性成分を分散させる検査において有利に使用することができる。補足情報は、例えば、薬物の承認手順を加速するのに役立つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは動物の体に投与するための治療活性成分に関し、この活性成分は、以下の化学化合物の1つを含み、またはそれによって形成される。治療活性成分は、α-ヒドロキシ酸、α-アミノ酸、ペプチド、またはタンパク質を含む。
【0002】
本発明はさらに、治療活性成分を検査するための方法に関し、この方法において、活性成分は、被検体に投与され、または活性成分は、活性成分で治療される組織の組織試料に施される。
【背景技術】
【0003】
治療活性成分(以下、略して活性成分とも呼ばれる)は、ヒトまたは動物の体を治療するための最新医学において大いに使用される。本発明の目的に関して、治療活性成分は、目的が、ヒトまたは動物の体における疾患を治癒し、または愁訴を軽減する目的である物質を意味すると理解されるべきである。治療活性成分は、治療活性成分を含む製剤である薬物として市場で入手可能である。ここでは、冒頭に列挙された化学成分を含み、またはこれらから形成される活性成分も使用される。治療される個体における活性成分の複雑な反応により、治療される個体に対する活性成分の望まれない効果を除外し、またはこれらを耐容可能な最小限まで低減するために、市場に活性成分(薬物)を投入する前に包括的な試験が必要である。これらの実験は、とりわけ、シミュレーション、動物実験によって、新薬の承認前の最終フェーズにおいて、また、ヒトへの薬物の投与を試験することによって実施される。しかし、ヒトの体に対する試験のための被検体のために、薬物の作用機序について行うことができるステートメント(statement)は、限られた数の臨床的診断法が生体を試験するのに利用可能であるという点で限定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kjerstin Bruus-Jensen、論文、Technical University of Munich、2006年、「Entwicklung and Evaluierung neuer Methoden zur Radiomarkierung peptidischer Tracer mit 18F and 99MTc fur die nuklearmedizinische Diagnostik」(「Developing and evaluating new methods for radiolabeling peptide tracers with 18F and 99MTc for diagnostic nuclear medicine」)
【非特許文献2】J. Bolsterら、European Journal of Nuclear Medicine (1986)、321〜324頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、活性成分の最終承認の前に比較的広範な試験を可能にする治療活性成分を提供すること、および薬物の承認の前に実施される比較的包括的な試験を可能にする、治療活性成分を検査するための方法を特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、冒頭に述べた活性成分を使用して、本目的は、11Cを用いて活性成分を放射標識することによって実現され、11Cは、α-ヒドロキシ酸もしくはα-アミノ酸のカルボキシル基のα-炭素結合炭素(α-carbon-binding carbon)、またはペプチドもしくはタンパク質のペプチド結合の炭素を置き換える。したがって、結果は、有利には、標識された活性成分は、試験される活性成分と同一であるということであり、その理由は、活性成分の単に1つの炭素が11Cで置き換えられ、したがって、有利には、標識された活性成分の化学効果は、試験される活性成分の化学効果と同一であるためである。したがって、本発明は、効果が、同一の未標識の活性成分の事前の試験のために予測可能であるが、薬物を投与した後にポジトロン放出断層撮影(以下、略してPETとも呼ばれる)を使用する調査によって、試験される活性成分の作用機序を記述することを可能にする活性成分を提供する。
【0007】
したがって、上述した目的は、放射標識を有する活性成分が使用され、被検体における活性成分の分布が、ポジトロン放出断層撮影(以下、略してPETとも呼ばれる)によって求められる、活性成分を検査するための特定された方法による本発明によって実現される。あるいは、放射標識された活性成分を、活性成分で処置される組織の組織試料に施すことも可能である。ポジトロン放出断層撮影を使用して、次いで、組織中の活性成分の分布を求めることが、本発明によって可能である。
【0008】
本発明の目的に関して、活性成分または薬物は、患者の治療的処置の間に状態の所望の変化、例えば、疾患の治癒または愁訴の軽減をもたらす、生理的に活性な作用剤を意味すると理解される。ポジトロン放出断層撮影によって、活性成分を検査する間に、活性成分およびその代謝産物がどのように体内に分布するかを立証することが可能である。これは、ポジトロン放出断層撮影が、被検体中のポジトロン放射物質の分布の3次元画像を取得することを可能にするためである。活性成分を検査する間にこのようにして得られる知見は、有利には、作用機序、特に、活性成分の作用部位、および活性成分の代謝についての可能な情報をもたらすことができる。例えば、治療される器官中だけでなく、他の器官中にも蓄積する活性成分の結果として生じる有害作用を予測することが可能である。活性成分が、摂取後に作用部位に到達するのにどの程度長くかかり、活性成分が、作用部位でどの程度長く作用するかを立証することも可能である。
【0009】
ポジトロン放出断層撮影の方法は、それ自体公知である。一般に、この方法は、特定の組織を調査するためのイメージング方法として実施される。先行技術では、体内の物質と類似しており、したがって同等に挙動するトレーサーまたは生物マーカーとして知られるものが、この目的のために調製される。2006年(「Entwicklung and Evaluierung neuer Methoden zur Radiomarkierung peptidischer Tracer mit 18F and 99MTc fur die nuklearmedizinische Diagnostik」(「Developing and evaluating new methods for radiolabeling peptide tracers with 18F and 99MTc for diagnostic nuclear medicine」))からの、Technical University of MunichのKjerstin Bruus-Jensenによる論文の諸言において記載されているように、例えば、ペプチドを放射性フッ素で標識することは慣例的である。これらは、ヒト体内でのin vivo調査のために使用することができ、この診断法の目的は、体内の調査される組織の病理状態についての情報を得ることである。例えば、放射標識ペプチド中のOH基を置き換えるための18Fの使用は、この物質を化学的に変化させ、ヒト体内の対象とするペプチドとの反応に対する効果が無視できる分子の領域中で行われなければならないことに留意すべきである。
【0010】
対照的に、治療活性成分を、11Cを用いて本発明によって標識化することは、標識される物質が、試験される物質と化学的に同一であるという利点を有する。したがって、PETによって行うことができるステートメントは、制限なく、試験される治療活性成分に適用することができる。
【0011】
有利には、治療活性成分は、酵素またはホルモンからなる群に由来し得る。有利には、治療活性成分は、抗体または抗体断片からなる群に由来することも可能である。これらの活性成分は、疾患を治療するための免疫グロブリンとして使用される。また、コンジュゲートとして知られる形態で抗体または抗体断片を使用することが可能であり、この場合、治療活性成分の治療的に有効な分子は、抗体または抗体断片と結合される。
【0012】
活性成分が、例えば、錠剤形態または別の異なる剤形での薬物として後に供給される場合であっても、治療活性成分が、注射用液体、注入可能液体(infusible liquid)、または吸入剤として調製されることも有利である。注射、注入、または吸入による活性成分の投与は、有利には、吸収を速くし、したがって、体内の分布を、活性成分を投与した後に、PETによって比較的迅速に求めることができる。これは有利であり、その理由は、11Cで標識された活性成分は短い半減期を有し、したがって、活性成分を投与した後、PETによって体内の活性成分を検出するのに短時間しか利用可能でないためである。
【0013】
上述した目的はまた、すでに上述した活性成分が使用され、被検体中の活性成分の分布がポジトロン放出断層撮影(PET)によって求められる、治療活性成分を検査するための方法によって実現される。治療活性成分を検査する間にさらなる情報をもたらすというこの方法の利点は、すでに説明されている。あるいは、有利には、治療される組織を実際に代表する組織試料に治療活性成分を施すことも可能である。ここでも、PETによって治療活性成分の分布をモニターすることが可能であり、有利には、この方法は、ヒトまたは動物被検体をストレスに曝すことなく実施することができる。
【0014】
被検体または組織中の活性成分の分布を、活性成分を用いた療法の効力を確認するために参照分布と比較することができる場合、有利である。参照分布は、例えば、治療される組織中のある特定の活性物質群の必要とされる濃度および分布と関連づける文献から入手可能な値とすることができる。したがって、有利には、新規治療活性成分の効果が、治療される組織中の十分な分布に依存する場合、新規治療活性成分の効果のより良好な予測を行うことが可能である。
【0015】
参照分布はまた、本発明による方法に従って、参照実験によって求めることができる。例えば、意図された治療転帰を実現するために必要とされる、組織試料中の治療活性成分の濃度を確立することが可能である。引き続いて、治療活性成分についての投与量の指針を求めるために、被検体の治療される組織中の活性成分の必要とされる濃度を実現し、したがって、薬物の必要とされる投与量を求めることを目的として、ヒトまたは動物被検体における治療活性成分の投与を試験することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による方法の例示的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明についてのさらなる詳細は、図面を参照して以下に説明される。1つの図面は、本発明による方法の例示的な実施形態を示す。
【0018】
放射性11C-標識を有する治療活性成分は、システム11において調製され、これは、前記システムの必須要素、すなわち、サイクロトロン11によって図式的に表されている。標識を有する活性成分が調製された後、これは、検査の第1段階で組織試料12に間もなく施され、その分布がPETによって確認される。この手順は、十分な結果が実現されるまで、修正とともに数回繰り返すことができる。ここでは、例えば、対象とする組織中で所望の治療効果を実現するために必要な、治療活性成分の分布を示す基準値を生成することが可能である。
【0019】
第2段階において、放射標識された治療剤を、検査動物13に投与することができる。PETによって、例えば、治療される組織12を含む、検査動物13の器官中の治療剤の分布を求めることが可能である。これは、有利には、治療活性成分が生体中でどのように分布しているか、および第1段階において得られた情報を適用することができるかどうかに関して、最初のステートメントを行うことができることを意味する。
【0020】
第3段階において、次に治療活性成分を、ヒト被験者14に投与することができる。ここでも、分布についてPETによって求められた値を、第1段階で求められた基準値と比較することができる。実験の段階IIから得られた情報が、ヒトに適用可能かどうかに関するステートメントも可能である。
【0021】
例えば、11C-標識アミノ酸の調製は、それ自体公知である。例えば、J. Bolsterらは、European Journal of Nuclear Medicine (1986)、321〜324頁において、チロシンの標識化を記載している。この方法は、ペプチドおよびタンパク質中に存在する他のアミノ酸について、同様に使用することができる。さらに、このようにして得られるアミノ酸は、慣例的な方法によってペプチドまたはタンパク質中に組み込むことができる。α-11C-標識ヒドロキシ酸は、例えば、11CO2の取り込みとともに、ケトンの電気化学的還元的カルボキシル化によって合成することができる。
【符号の説明】
【0022】
11 システム、サイクロトロン
12 組織試料
13 検査動物
14 ヒト被験者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学化合物、すなわち、
・ α-ヒドロキシ酸、
・ α-アミノ酸、
・ ペプチド、または
・ タンパク質
の1つを含み、またはこれらから形成される、治療的処置の成功を実現する目的のためにヒトまたは動物の体に投与するための治療活性成分であって、
活性成分は、11Cで放射標識され、11Cは、α-ヒドロキシ酸もしくはα-アミノ酸のカルボキシル基のα-炭素結合炭素、またはペプチドもしくはタンパク質のペプチド結合の炭素を置き換えることを特徴とする治療活性成分。
【請求項2】
酵素またはホルモンからなる群に由来することを特徴とする、請求項1に記載の活性成分。
【請求項3】
抗体または抗体断片からなる群に由来することを特徴とする、請求項1に記載の活性成分。
【請求項4】
抗体または抗体断片の、治療的に有効な分子とのコンジュゲートからなる群に由来することを特徴とする、請求項1に記載の活性成分。
【請求項5】
注射用液体、注入可能液体、または吸入剤として調製されることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の活性成分。
【請求項6】
被検体(13、14)の療法の成功の目的、および被検体中の組織の状態を診断する目的のためでなく、活性成分の作用機序についての情報を得る目的のために、被検体に投与される治療活性成分を検査するための方法であって、
請求項1、2、3、または4に記載の放射標識された活性成分が使用され、被検体(13、14)中の活性成分の分布がポジトロン放出断層撮影によって求められることを特徴とする方法。
【請求項7】
活性成分が、静脈内に、または吸入によって投与されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
活性成分で処置される組織の組織試料(12)に活性成分が施される、治療活性成分を検査するための方法であって、
請求項1、2、3、または4に記載の放射標識された活性成分が使用され、組織試料(12)中の活性成分の分布がポジトロン放出断層撮影によって求められることを特徴とする方法。
【請求項9】
活性成分を用いた療法の効力を確認するために、被検体(13、14)または組織試料(12)中の活性成分の分布が、参照分布と比較されることを特徴とする、請求項6から8のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−500296(P2013−500296A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522082(P2012−522082)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060006
【国際公開番号】WO2011/012435
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(508008865)シーメンス アクティエンゲゼルシャフト (99)
【Fターム(参考)】