説明

活性成分を含有するナノ尿素の分散液

本発明は、活性成分を含有するナノ尿素の分散液、その製造方法およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化合物を含有するナノ尿素の分散液、その製造方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
活性化合物によるプラスチックの仕上げは、活性化合物がプラスチックと適合せず、従って均一な導入が不可能であるという事実のゆえに、失敗することが多い。局所的に異なる活性化合物濃度は、これにより、活性化合物を含まず、従って不活性である領域が生じるので、大きな欠点である。さらに、プラスチックの機械的特性が、不均一な導入の場合に、非常に不利に影響を受けることがある。
【0003】
活性化合物を溶解し、それを(所望により同様に溶解した)プラスチックと混合することによって、プラスチックを修飾しようとする場合、この方法は以下の欠点を有する:即ち、一方において、同等に適する溶媒を、全ての活性化合物およびプラスチックに対して見つけることができない;他方において、有機溶媒の使用は、特に、その残留物が生成物中に残存することができ、これが、例えば医療技術物品にとって許容できないという事実のゆえに、原則的に不利である。
【0004】
しかし、活性化合物によるプラスチックの仕上げは、特に、医療技術の分野において重要である。例えば、医療技術物品(例えばカテーテル)の細菌コロニー形成は、これが、処置した患者の後の重篤な感染の最初の工程であることが多いので、大きな問題である。従って、カテーテルの抗微生物仕上げのための多くの方法が、提案されており、カテーテル材料それ自体の仕上げ(例えば、シリコーン、ポリウレタン、ラテックスまたはPVCの仕上げ)、および抗微生物活性材料による被覆の両方が可能である。抗微生物活性な被覆として、例えば、ドープした銀の純粋な金属層を沈着させることが提案されている(特許文献1、特許文献2および特許文献3)。しかし、これらの(もろい)被覆のカテーテル材料への付着は劣ったものとなる。特殊な無機ガラス(ガラスの加水分解によって、Ag、CuまたはZnイオンを放出する)の被覆がさらに提案されている(特許文献4)。Ag塩とスルホンアミド(特許文献5)またはトリクロサン(特許文献6)との混合物、および金属コロイドの使用がさらに提案されている。しかし、既に記載した欠点に加えて、上記した被覆の全ては、活性化合物の放出が、Agイオンを例にとると、時間的に一定ではないという欠点、即ち、Agイオンが初期に非常に迅速に溶出し、次いで放出が大きく減少し、そして抗微生物活性が失われるという欠点をさらに有する。初期活性化合物濃度の適切な増大による効果の埋め合わせは、それによって望ましくない副作用が生じることもあるので不可能である。従って、例えばカテーテルの場合、微生物汚染を減少させるために頻繁な交換が必要になる。
【0005】
特許文献7は、活性化合物を含有し、これを徐々に放出する中空空間を有するインプラントを記載している。この形態の封入は非常に複雑であり、インプラントを、外科的介入によって挿入しなければならない。この解決方法を被覆またはプラスチックに移し替えるのは、この種の巨視的な「徐放性」の系を用いては不可能である。
【0006】
特許文献8において、選択的な活性化合物放出のための、巨視的な経口医薬形態の被覆のためのpH感受性ポリマーの使用が記載されている。その適用可能性は、活性化合物の放出が、環境におけるpHの選択的変化によってもたらされるべき領域に限定される。
【0007】
特許文献9において、活性化合物を入れるために生分解性ポリマーが使用されている。その課題は、この種の化合物の加水分解または微生物分解に対する感受性のゆえに、水性系におけるこの種の化合物の安定性の欠如である。
【0008】
特許文献10は、水中に分散され、ゲル化剤を用いて固められる水不溶性ポリマーのミクロ粒子を記載している。後に乾燥すると、ポリマーペレットが得られる。その欠点は、非常に複雑な製造方法およびミクロ粒子と製剤由来の多くの添加剤(例えば、界面活性剤またはイオン荷電したポリマー)との不適合性である。
【0009】
特許文献11は、50〜2000μm直径のポリマービーズへの拡散による活性化合物の封入を記載している。この際に、ポリラクテートを使用すると、水分の存在下で貯蔵時に安定ではない系および微生物に対する不安定性が導かれる。
【0010】
特許文献12において、ある種のステロイドを含有し、遅延して放出することができる架橋ポリビニルピロリドンの徐放性配合物が記載されている。記載されている方法は、ある種のステロイドの使用に制限される。
【0011】
記載されている全ての系は、特定の適用系およびある種の活性化合物に対してのみ適している。広スペクトルの活性化合物を対象とすることができる方法は記載されていない。さらに、それぞれの系の製造は一般に複雑であり、ある種の場合には、使用した溶媒の完全分離が可能ではない。プラスチックまたは被覆への導入は記載されていない。
【0012】
サイズが10〜400nmの尿素粒子を含有する水性ナノ尿素分散液の製造が、原理的に知られており、例えば、特許文献13に記載されている。この方法において、親水性化ポリイソシアネートが、所望により触媒の存在下に水に添加され、これにより、本質的に分散した粒子内での架橋が尿素結合によって起こる。どの程度まで、該分散液が活性化合物と適合するか、および/または、該分散液をプラスチックの修飾のために使用することができるか(その中に含まれる活性化合物の制御された放出挙動を示す)は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5320908号明細書
【特許文献2】米国特許第5395651号明細書
【特許文献3】米国特許第5965204号明細書
【特許文献4】米国特許第6143318号明細書
【特許文献5】米国特許第4581028号明細書
【特許文献6】国際公開第2000/57933号パンフレット
【特許文献7】独国特許出願公開第69734168号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第10 2004 030504号明細書
【特許文献9】独国特許出願公開第69819145号明細書
【特許文献10】独国特許第4122591号明細書
【特許文献11】独国特許第19930795号明細書
【特許文献12】欧州特許第0429187号明細書
【特許文献13】国際公開第2005/063873号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、活性化合物に適合するプラスチックマトリックスであって、それから被覆および材料および成形物品を製造することができ、所望によりある期間にわたって遅延した「制御された放出挙動」(即ち、制御された放出特性)を示すプラスチックマトリックスを利用可能にすることであった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ここに、この目的が、放出を意図する活性化合物を含有する特別のナノ尿素分散液によって達成されることがわかった。
即ち、本発明は、活性化合物含有の水性ナノ尿素分散液の製造方法であって、以下の工程:
(A)水性媒体中の親水性化ポリイソシアネートの反応により、尿素構造:-NH-C(O)-NH-の形成を伴ってナノ尿素を形成させる工程;この際に
(B)工程(A)における尿素の形成前、形成中または形成後に、少なくとも1つの活性化合物を添加する工程;
を含んでなる方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、活性化合物を、生物系、特に、プリオン、ウイルス、細菌、細胞、菌類および生物に作用を有する元素または化学的化合物と定義する。
【0017】
その例は、例えば、殺虫、殺菌類、殺藻類、殺昆虫、除草、殺精子、殺寄生虫、抗細菌(細菌破壊性)、静菌、抗生物質、抗真菌(菌類破壊性);抗ウイルス(ウイルス破壊性)、静ウイルスおよび/または抗微生物(微生物破壊性)作用を有する殺生物活性化合物である。活性化合物の組合せ、ならびに、例えば賦形剤、結合剤、中和剤または添加剤との組合せも可能である。他の活性化合物およびその組合せ、例えば、ヒト医薬または獣医薬の分野からの活性化合物を使用することもできる。
【0018】
親水性化ポリイソシアネートとして、非イオン的に、(潜在的に)陰イオン的に、または(潜在的に)陽イオン的に親水性化されている当業者に知られる全てのNCO基含有化合物をそれ自体で使用することができる。好ましくは、親水性化ポリイソシアネートは、少なくとも1つの非イオン的に親水性化された構造単位を有する。特に好ましくは、ポリイソシアネートの親水性化は、専ら非イオン的に親水性化する基によって行う。
【0019】
このような非イオン的に親水性化する基は、好ましくは、ポリエーテルとの反応によってポリイソシアネート中に導入し、これらのポリエーテルは、好ましくは、その中に含まれるNCO基に反応性である基に関して1官能である。このようなNCO反応性基の例は、ヒドロキシル、チオールまたはアミノ官能基である。しかし、基本的にこれらは、1つを超えるNCO反応性基を含むこともできる。
【0020】
親水性化のために使用する上記した種類のポリエーテルは、通常はポリオキシアルキレンエーテルであり、好ましくは、30〜100重量%のオキシアルキレン単位がオキシエチレン基であり、70重量%までがオキシプロピレン単位である。
特に好ましくは、これらは上記した種類に対応し、統計学的平均で、1分子あたりに5〜70個、好ましくは7〜55個のオキシエチレン基を有する。
【0021】
このようなポリエーテルは、適当な開始剤分子のアルコキシル化により、自体既知の方法で得ることができる[例えば、Ullmanns Encyclopaedie der technischen Chemie (Ullmannの工業化学辞典)、第4版、第19巻、Verlag Chemie、Weinheim、第31-38頁)。
【0022】
適する開始剤分子は、例えば、以下に挙げるものである:飽和モノアルコール、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、異性体のペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびノナノール、n-デカノール、n-ドデカノール、n-テトラデカノール、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノール、シクロヘキサノール、異性体のメチルシクロヘキサノールまたはヒドロキシメチルシクロヘキサン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタンまたはテトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、不飽和アルコール、例えば、アリルアルコール、1,1-ジメチルアリルアルコールまたはオレイルアルコール、芳香族アルコール、例えば、フェノール、異性体のクレゾールまたはメトキシフェノール、アリール脂肪族アルコール、例えば、ベンジルアルコール、アニシルアルコールまたはシンナミルアルコール、第二モノアミン、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ビス(2-エチルヘキシル)アミン、N-メチル-およびN-エチルシクロヘキシルアミンまたはジシクロヘキシルアミン、ならびに、複素環式第二アミン、例えば、モルホリン、ピロリジン、ピペリジンまたは1H-ピラゾール。好ましい開始剤分子は、飽和モノアルコールである。特に好ましくは、メタノール、ブタノールおよびジエチレングリコールモノブチルエーテルを、開始剤分子として使用する。
【0023】
アルコキシル化反応に適するアルキレンオキシドは、特に、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドであり、これらを、アルコキシル化反応において、任意の所望の順序でまたは混合物として使用することができる。
【0024】
親水性化ポリイソシアネートは、分子あたりに1つを超えるNCO基および0.5〜50重量%、好ましくは3〜30重量%、特に好ましくは5〜25重量%のイソシアネート含量を有する当業者には自体既知である脂肪族、脂環式、アリール脂肪族および芳香族ポリイソシアネートまたはこれらの混合物に基づく。
【0025】
このような適するポリイソシアネートの例は、以下に挙げるものである:ブチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-および-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1-イソシアナト-3,3,5-トリメチル-5-イソシアナトメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアナトメチル-1,8-オクタンジイソシアネート、メチレンビス(4-イソシアナトシクロヘキサン)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)またはトリイソシアナトノナン(TIN、4-イソシアナトメチル-1,8-オクタンジイソシアネート)および所望により他のジまたはポリイソシアネートとの混合物。原則的に、芳香族ポリイソシアネート、例えば、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/または2,6-トルイレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン-2,4'-および/または4,4'-ジイソシアネート(MDI)、トリフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネートも適する。
【0026】
上記したポリイソシアネートに加えて、ウレトジオン、イソシアヌレート、ウレタン、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオンおよび/またはオキサジアジントリオン構造を有する比較的高分子量の二次生成物を使用することもできる。このような二次生成物は、例えば、Laasら[J.prakt.Chem.、336、1994、185-200]に記載され、かつ既知であるモノマージイソシアネート修飾反応によって、既知のようにして得られる。
【0027】
好ましくは、成分(A)の親水性化ポリイソシアネートは、専ら脂肪族結合または脂環式結合したイソシアネート基を有する上記した種類のポリイソシアネートまたはポリイソシアネート混合物またはその任意の混合物に基づく。
【0028】
特に好ましくは、親水性化ポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートまたは異性体のビス(4,4'-イソシアナトシクロヘキシル)メタンおよび上記ジイソシアネートの混合物に基づく。
【0029】
ナノ尿素分散液の製造のために、触媒を追加で使用することができる。適する触媒は、例えば、第三アミン、スズ、亜鉛またはビスマス化合物あるいは塩基性塩である。
【0030】
適する第三アミンは、以下に挙げるものである:トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N',N'-テトラメチルジアミノジエチルエーテル、ビス-(ジメチルアミノプロピル)尿素、N-メチル-およびN-エチルモルホリン、N,N'-ジモルホリノジエチルエーテル(DMDEE)、N-シクロヘキシルモルホリン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラメチルブタンジアミン、N,N,N',N'-テトラメチルヘキサン-1,6-ジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ジメチルピペラジン、N-ジメチルアミノエチルピペリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、N-ヒドロキシプロピルイミダゾール、1-アザビシクロ-(2,2,0)-オクタン、1,4-ジアザビシクロ-(2,2,2)-オクタン(Dabco)およびアルカノールアミン化合物、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチル-およびN-エチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、2-(N,N-ジメチルアミノエトキシ)エタノール、N,N',N-トリス-(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロトリアジン、例えば、N,N',N-トリス(ジメチルアミノプロピル)-s-ヘキサヒドロトリアジン、塩化鉄(II)、塩化亜鉛またはオクタン酸鉛。
【0031】
上記した種類の第三アミン、スズ塩、例えば、スズジオクトエート、スズジエチルヘキソエート、ジブチルスズジラウレートおよび/またはジブチルジラウリルスズメルカプチド 2,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン、水酸化テトラアルキルアンモニウム、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、アルカリ金属アルコキシド、例えば、ナトリウムメトキシドおよびカリウムイソプロポキシドおよび/または長鎖脂肪酸(10〜20個の炭素原子を有し、所望により側部OH基を有する)のアルカリ金属塩が好ましい。
【0032】
特に好ましい触媒は、第三アミンであり、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミンおよび1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンが特に好ましい。
【0033】
これらの触媒は、得られる分散液の全固形分を基準に、通常は0.01〜8重量%、好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.1〜3重量%の量で使用される。また、触媒の混合物を添加することもできる。
【0034】
混合溶媒、例えば、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、メトキシプロピルアセテート、ジメチルスルホキシド、メチルオキシプロピルアセテート、アセトンおよび/またはメチルエチルケトンなどを添加することができる。反応および分散の終了後に、揮発性溶媒、例えば、アセトンおよび/またはメチルエチルケトンを、蒸留によって除去することができる。溶媒を使用しない製造およびアセトンまたはメチルエチルケトンの使用が好ましく、溶媒を使用しない製造が特に好ましい。
【0035】
分散液の製造のために、上記した親水性化ポリイソシアネートを、所望により触媒の存在下に、水性媒体中に分散させる。
分散および反応は、好ましくは、撹拌機による十分な混合によって、または他の種類の十分な混合、例えば、再循環、静的ミキサー、スパイクミキサー、ノズルジェットディスペンサー、回転子および固定子によって、または超音波の影響下で行う。
【0036】
原則的に、分散中または分散後に、イソシアネート反応性化合物、例えば、第一または第二アミンおよび/または(ポリ)アルコールによるNCO基の修飾を行うことができる。
親水性化ポリイソシアネートのNCO基:水のモル比は、好ましくは1:100〜1:5、特に好ましくは1:30〜1:10である。
【0037】
原則的に、親水性化ポリイソシアネートを水中に一度で分散させることができる。親水性化ポリイソシアネートの連続添加、例えば、30分間〜20時間にわたる連続添加も可能である。しかし、少しずつの添加が好ましく、添加の数は2〜50回、好ましくは3〜20回、特に好ましくは4〜10回であり、各添加は、同一または互いに異なる量であることができる。
【0038】
個々の添加の間の待機時間は、通常は5分間〜12時間、好ましくは10分間〜8時間、特に好ましくは30分間〜5時間である。
1〜24時間、好ましくは2〜15時間にわたる親水性化ポリイソシアネートの連続添加も同様に好ましい。
尿素粒子の製造において、容器温度は、通常は10〜80℃、好ましくは20〜70℃、特に好ましくは25〜50℃である。
【0039】
好ましくは、親水性化ポリイソシアネートと水の反応に続いて、反応器を、内部温度0〜80℃、好ましくは20〜60℃、特に好ましくは25〜50℃で排気する。この排気は、内部圧力1〜900mバール、好ましくは10〜800mバール、特に好ましくは100〜400mバールまで行う。実際の反応に続くこの脱ガス時間は、通常は1分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間である。排気をしない温度上昇による脱ガスも可能である。
好ましくは、排気と同時に、ナノ尿素分散液を、例えば撹拌によって十分に混合する。
【0040】
工程(A)に従って得られる分散液中に存在する尿素粒子の固形分は、通常は10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%、特に好ましくは30〜45重量%である。
【0041】
活性化合物の導入は、粒子の製造中または製造後に行うことができる。このために、活性化合物を、親水性化ポリイソシアネートの分散中にも存在させることができるか、またはこれと平行して添加することができるか、粒子の製造後に添加することができる。ここで、粒子中への活性化合物の少なくとも部分的な吸収が起こる。この粒子の内部および/または表面への吸収は、活性化合物の時間分散放出特性を導く。
【0042】
添加した活性化合物が分散液中に完全に溶解しないかまたは吸収されない場合、残留する活性化合物を、例えば濾過によって分離することができる。
【0043】
ナノ尿素に結合していない分散水中に溶解した活性化合物を除去するためには、分散液から、低分子量構成成分を、例えば、自体既知の方法に従って透析または限外濾過によって除去することができる。この際、膜の特定の排除限界を、溶解した活性化合物の流体力学的体積に従って選択すべきである。好ましい排除限界は、1,000,000ダルトン(=g/モル)未満、特に好ましくは100,000ダルトン(=g/モル)未満である。
【0044】
活性化合物の量は、存在する尿素粒子の固形分を基準に、通常は0.0001〜50重量%、好ましくは1〜20重量%、特に好ましくは5〜15重量%である。通常、活性化合物の量は、特定の適応に必要とされる特定の活性化合物の量に依存する。
【0045】
水にわずかに可溶性または全く不溶性である活性化合物は、好ましくは、所望により共溶媒の助けを借りて親水性化ポリイソシアネートと混合し、次いで水性媒体中に分散させる。しかし、好ましくは、これらの活性化合物は、NCO反応性基を含まないか、またはこのような基を含む場合には、尿素を与える反応を、NCO基と活性化合物との目立った反応が起こらないように設計しなければならない。活性化合物の導入のために溶媒を使用する場合、好ましくは、導入後の蒸留によって溶媒を再び除去する。
活性化合物の導入の際に、好ましくは、25〜100℃の温度を選択する。
【0046】
本発明の方法において、勿論、賦形剤および添加剤、例えば、安定剤、界面活性剤、可溶化剤、中和剤、反応基の捕捉試薬、流れ助剤および/またはフリーラジカル捕捉剤などをさらに使用することができる。
【0047】
本発明の方法によって得られる分散液およびそれに含まれる活性化合物含有ナノスケール尿素粒子は、本発明のさらなる対象である。
これらのナノ尿素粒子は、レーザー相関分光法によって測定した平均粒径が10〜300nm、好ましくは20〜150nmである。
【0048】
これらの活性化合物含有ナノ尿素分散液を、当分野で自体普通の方法によって、例えば、蒸留、凍結乾燥または噴霧乾燥によって乾燥することもできる。
【0049】
本発明に従って得られる分散液およびそれに含まれる粒子の両方は、活性化合物含有の被覆剤、材料および成形物品(好ましくはポリウレタンに基づく)の製造のための有用な出発材料である。
【0050】
被覆配合物中に導入するために、活性化合物含有ナノ尿素分散液を、そのまま使用することができる(特に、被覆配合物それ自体が水中に分散させた構成成分、例えば結合剤などを含有する場合)。
しかし、分散液を乾燥し、活性化合物含有ナノ尿素を固体として導入することもできる。溶媒に活性化合物を含むナノ尿素を導入することもできる。
【0051】
このような被覆配合物における好ましい結合剤は、あらゆる種類のポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルおよびシリコーンである。水性分散液、有機溶媒中の溶液または溶媒不含の形態で使用しうるポリウレタンが特に好ましい。ここで、1成分および2成分ポリウレタンを同様に使用することができる。
【0052】
この被覆配合物を、任意の所望の方法で、例えば、噴霧、蒸発、ブラシがけ、浸漬、流し塗りによって、またはローラーおよびドクターブレードの助けを借りて、物品に適用することができる。適する基材は、例えば、金属、プラスチック、特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、木材、材料、織物またはガラスである。被覆配合物の適用ならびに乾燥および/または硬化は、物品の造形前、造形中または造形後に行うことができる。乾燥および/または硬化は、室温または高温で、所望により減圧下に行う。
【0053】
本発明の分散液および粒子を用いて製造することができるか、または本発明の粒子を含有する被覆剤で被覆することができる材料および成形物品は、例えば、頻繁な接触(例えば、あらゆる種類のハンドル)のゆえに微生物暴露が起こる自体既知のあらゆる商品であるが、これらの中で、液体媒体の貯蔵、輸送(例えばパイプ)または加工のための物品も挙げることができる。しかし、医療技術分野の物品、例えば、カテーテル、チューブ、容器、オリフィス、インプラント、人工器官(身体の外側および内側)、装具、血管装具(ステント)、視覚補助具(例えばコンタクトレンズ)、内視鏡および傷被覆材などが好ましい。
【実施例】
【0054】
異なって記載することがなければ、全てのパーセント値は重量%を意味する。
異なって記載することがなければ、全ての分析測定値は温度23℃を意味する。
記載した粘度は、DIN 53019に従って回転粘度測定法により測定した[23℃、Anton Paar Germany GmbH(Ostfildern、独国)からの回転粘度計を用いた]。
【0055】
他に明示することがなければ、NCO含量は、DIN-EN ISO 11909に従って容量分析により測定した。
記載した粒径は、レーザー相関分光法によって測定した[装置:Malvern Zetasizer 1000(Malver Inst. Limited)]。
固形分は、DIN-EN ISO 3251に従って測定した。
【0056】
遊離NCO基のチェックは、IR分光法(2260cm-1のバンド)により行った。
銀イオン濃度は、DIN ISO 17025に従って分光法により測定した。
透析は、Spectra/PorのFloat-A-Lyzer 浮遊透析管を用いて行った。管材料は、25,000g/モルの名目排除限界を有するセルロースエステル膜であった。この膜を、使用前に脱イオン水で濯ぎ、水浴中でコンディショニングした。
【0057】
化学物質
・Bayhydur VP LS 2336:ヘキサメチレンジイソシアネートに基づく親水性化ポリイソシアネート、溶媒不含、粘度 約6800mPas、イソシアネート含量 約16.2%、Bayer MaterialScienceAG (Leverkusen、独国)
・Impranil DLN:陰イオン的に親水性化された未架橋の脂肪族ポリエステルポリウレタンの水中分散液(固形分 約40%を有する)、Bayer MaterialScience AG (Leverkusen、独国)
・Isofoam 16:消泡剤、Petrofer-Chemie (Hildesheim、独国)
・他の化学物質は、Sigma-Aldrich GmbH (Taufkirchen、独国)のファインケミカル事業から得た。
【0058】
活性化合物
【表1】

【0059】
実施例1:活性化合物を含まないナノ尿素分散液の製造
Bayhydur VP LS 2336 (820.20g)、次いでIsofoam 16 (0.32g)を、脱イオン水(4952g)中のトリエチルアミン(20.72g)の溶液に、30℃で激しく撹拌しながら添加し、さらに撹拌した。3、6および9時間後に、Bayhydur VP LS 2336 (それぞれさらに820.20g)、次いでIsofoam 16 (それぞれ0.32g)を添加し、次いで混合物を30℃でさらに4時間撹拌した。その後、これを200mバールの真空下に30℃でさらに3時間撹拌し、得られた分散液をビン詰めした。
【0060】
得られた白色分散液は、以下の特性を有していた:
固形分:40%
粒径(LKS):83nm
粘度(粘度計、23℃):<50mPas
pH(23℃):8.33
電荷測定:全電荷 57±6μeq/g、表面電荷 15±1μeq/g
ゼータ電位(pH=8):24.9±1.0
【0061】
実施例2:その後のナノ尿素への活性化合物の導入
活性化合物を含有するナノ尿素分散液を製造するために、実施例1のナノ尿素分散液(それぞれ50g)を、固形分を基準に約3%濃度の活性化合物濃度が得られるような量の活性化合物1〜21でそれぞれ処理した。混合物を、磁気撹拌機を用いて、18時間激しく撹拌した。得られた分散液を濾過した後、得られた試料(それぞれ10ml)を透析管に充填し、脱イオン水(それぞれ約1L)に対して2回透析した(全部で約22時間)。試料をピペットにより透析管から抜き取り、活性化合物試験において使用した。
【0062】
実施例3:活性化合物の存在下でのナノ尿素の製造
Bayhydur VP LS 2336 (410g)およびショウノウ(41.0g)を、撹拌しながら反応容器中で混合した。次いで、この混合物を、約23℃で激しく撹拌しながら、脱イオン水(1058g)の添加によって分散させ、Isofoam 16 (0.04g)およびトリエチルアミン(2.59g)で処理した。その直後に、200mバールの真空にし、混合物を約10時間撹拌した。一方、この過程で温度は約30℃に上昇した。得られた分散液をビン詰めした。
【0063】
得られた白色分散液は、以下の特性を有していた:
固形分:27%
粒径(LKS):93nm
粘度(粘度計、23℃):<50mPas
pH(23℃):6.98
【0064】
実施例4:活性化合物の存在下でのナノ尿素の製造
操作は実施例3に記載した通りであったが、ショウノウの代わりにラセミ体メントールを使用した。
得られた白色分散液は、以下の特性を有していた:
固形分:28%
粒径(LKS):86nm
粘度(粘度計、23℃):<50mPas
pH(23℃):7.90
【0065】
実施例5:活性化合物を導入したナノ尿素分散液の細菌に対する作用の試験
Staphylococcus epidermidis 498およびBacillus subtilis 168の細胞を、37℃で一晩のインキュベート後に、これらが寒天上に目に見える細胞叢を形成するように、寒天プレート上にプレーティングした。この寒天は、複合の富栄養培地を含有していた(Mueller-Hinton培地、OD600=0.1セット;1プレートあたり200μlをプレーティング、室温で1時間乾燥)。それぞれ、プレートの中心に穴を開けた。実施例2と同様にして調製した、活性化合物が専ら結合形態で存在する、活性化合物含有ナノ尿素分散液(100μl)を、該穴に充填した。一晩のインキュベート後に、抗生物質活性化合物の拡散[開けた穴の周りに失われた細胞叢(「阻害ハロー」)が観察される]について、寒天を調べた。これらの阻害ハローを、さらなる添加剤を含まない寒天プレートおよび活性化合物不含のナノ尿素分散液を含む寒天プレートと比較した。
【0066】
【表2】

【0067】
対照実験AおよびBと比較して、活性化合物修飾したナノ尿素分散液(C〜E)を使用したときに抗微生物作用が存在することが観察された。
さらに、本発明の活性化合物を導入したナノ尿素分散液は、結合形態でその中に含まれる活性化合物に基づいて、制御された放出プロフィールを有する。このことは、検出された抗細菌作用によって理解することができる。これは、先行して行った透析のゆえに、使用した分散液それ自体がもはや遊離の未結合の活性化合物を全く含んでおらず、結合した活性化合物が再び放出されることによってのみ、抗細菌作用が現れるためである。
【0068】
実施例6:活性化合物を導入したナノ尿素分散液の細菌に対する作用の試験
実施例5に記載した試験を、Staphylococcus epidermidis (ATC 14990)の一晩培養物において行った。一方、基礎となる活性化合物を導入した分散液F〜Kは、実施例2と同様にして調製した。比較L〜Oとして、種々濃度のシプロフロキサシン(Cipro)を含む水溶液を追加で試験した。
【0069】
【表3】

【0070】
実施例7:活性化合物の遅延放出(徐放特性)を測定するための試験
(a)実施例1のナノ尿素分散液(それぞれ900g)を、ビーカー中で撹拌しながら硝酸銀(36g)で処理した。この分散液を室温で24時間撹拌し、次いで密閉ビン中で5ヶ月間貯蔵した。
この混合物(1.04g;硝酸銀0.04gに対応する)を、Impranil DLN (40g)中に混ぜ込んだ(80分間)。次いで、ドクターブレード(ギャップ:210μm)を用いてガラスプレート上にフィルムを引き、室温で1時間乾燥した。このフィルムを引き離し、その中心から大きさが3×3cmの試料片を切り出した。切り出したフィルムを、ネジ蓋ビン中の脱イオン水(10ml)中に入れ、水が完全にフィルムの周りを流れるようにした。24時間後に、水を交換して表面に付着した銀イオンを分離した。
次いで、3、7および51日後に水を新たな脱イオン水に交換し(水の最初の交換から数える)、それぞれ銀イオン濃度を分析した。
(b)操作は(a)と同様であったが、硝酸銀とナノ尿素分散液の混合物を新たに調製し、さらに24時間の混合後に直接使用した。
(c)(比較実験) 操作は(a)と同様であったが、硝酸銀とナノ尿素分散液の混合物の代わりに、硝酸銀(0.04g)をImpranil DLN 分散液中に直接混合した。
【0071】
【表4】


同一量の混合した銀イオンを用いて、ナノ尿素の添加がない比較実験(c)の場合に、銀イオンの放出量は、ナノ尿素を添加した場合よりも明らかに速く減少することが観察された。7日と51日の間の期間に、比較実験(c)においては実験(a)および(b)と比較して、約1/3の銀イオンが放出されるのみである。このことは、比較実験(c)における抗微生物作用が、実験(a)および(b)と比較して相当に低下することを示す。実験(a)および(b)においては、硝酸銀イオンの所望の遅延放出が実現される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化合物含有の水性ナノ尿素分散液の製造方法であって、以下の工程:
(A)水性媒体中の親水性化ポリイソシアネートの反応により、尿素構造:-NH-C(O)-NH-の形成を伴ってナノ尿素を形成させる工程;この際に
(B)工程(A)における尿素の形成前、形成中または形成後に、少なくとも1つの活性化合物を添加する工程;
を含んでなる方法。
【請求項2】
工程(A)における水性媒体が、少なくとも95重量%の水を含有する含水混合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
親水性化ポリイソシアネートが、非イオン的親水性化ポリイソシアネートであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
親水性化ポリイソシアネートが、専ら脂肪族結合または脂環式結合したイソシアネート基を有するポリイソシアネートまたはその任意の混合物に基づくことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
触媒を追加で尿素形成のために使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
触媒が第三アミンであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
親水性化ポリイソシアネートのNCO基:水のモル比が1:30〜1:10であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程(A)において、親水性化ポリイソシアネートを、水性媒体に少しずつ導入することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
分散液によって結合されなかった活性化合物を、後に分散液から除去することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
活性化合物の量を、活性化合物を導入した分散液において、分散液の全固形分を基準に5〜15重量%の結合した活性化合物の含量が得られるように算出することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法によって得られる分散液。
【請求項12】
活性化合物を含有することを特徴とする、レーザー相関分光法に従って測定した平均粒径が10〜300nmであるナノ尿素粒子。
【請求項13】
活性化合物濃度が5〜15重量%であることを特徴とする請求項12に記載のナノ尿素粒子。
【請求項14】
請求項11に記載の分散液あるいは請求項12または13に記載の粒子を用いて得られる被覆配合物、被覆、材料および成形物品。

【公表番号】特表2010−501016(P2010−501016A)
【公表日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524930(P2009−524930)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006989
【国際公開番号】WO2008/019782
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】