説明

活性成分放出制御薬物製剤

【課題】消化管で長時間にわたり活性成分の放出プロファイルを有する薬物製剤の提供。
【解決手段】下記(a)、(b)及び(c)の構成を有する、活性成分の放出を制御するマトリックスシステム薬物製剤であって、2時間で80%、16時間で80%の活性成分の平均放出を有し、放出の最初の時間で活性成分の60%以下の初期放出を有する製剤:(a)1−シクロプロピル−7−([S,S]−2,8−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−8−イル)−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−8−メトキシ−4−オキソ−3−キノロンカルボン酸又はその薬学的に許容される塩及び/又はその水和物から選ばれる30から77.3重量%の活性成分、(b)少なくとも15mPa.sの粘度(20℃で2%強度の水溶液として測定)を有する19.3から50重量%の水膨潤性ポリマー、及び(c)0から50重量%の薬学的に許容される助剤又はキャリアーを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性成分として、1−シクロプロピル−7−([S,S]−2,8−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−8−イル)−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−8−メトキシ−4−オキソ−3−キノロンカルボン酸(以下化合物Iと略記する。)および/またはその薬学的に許容される塩および/またはその水和物を含有し、一定の放出速度で該活性成分を放出する薬物製剤に関する。
化合物IのINN(国際一般名)はモキシフロキサシン(moxifloxacin)である。
【背景技術】
【0002】
化合物Iおよび/またはその薬学的に許容される塩および/またはその水和物はグラム陰性菌と陽性菌に対し、スパルフロキサシンやシプロフロキサシンより、しばしば有意差をもって優れている新しい8−メトキシキノロンである(Drugs of the Future 1997, 22 (2): 109/113)。EP−A−0305733とEP−A−0550903は化合物Iの製剤とその薬学的に許容される塩を記載している。EP−A−0780390は化合物Iの塩酸塩モノ水和物の特定の結晶変形を記載している。
【0003】
キノロンカルボン酸抗生物質を含む活性物質の放出遅延および/または放出制御錠剤はあまり知られていない。JP−A−06024959はシプロフロキサシン塩酸塩からなる経口薬剤を明らかに記載しているが、しかし全消化管を通して活性化合物を放出する投与形態の製剤はシプロフロキサシン塩酸塩にとって実質的には不可能である。この理由は結腸でのシプロフロキサシンの吸収挙動である(S. Harder, U. Fuhr, D. Beermann, A. H. Staib著, “ヒト消化管の異なる領域でのシプロフロキサシンの吸収。hf−カプセルでの研究”, Br. J. Clin. Pharmac. 30, (1990), 35-39)。ヒトでのStaib とFuhrによって見出されたデータはシプロフロキサシン塩酸塩が結腸から非常に少量のみ吸収されることを示す動物実験からの現在のデータを確認している。このために、活性成分の放出を遅延する公知のシプロフロキサシン製剤の大部分は経口的に投与できない製剤である。かくして、US−A−5473103がシプロフロキサシン含有移植根錠(implants)を開示している。更に、US−A−5520920は活性成分の遅延放出性を有する眼の薬物製剤を開示している。同様に、約3時間で活性成分を完全に放出する非経口製剤がEP−A−0635272に、公知のキノロンカルボン酸抗生物質オフロキサシンに関して記載されている。
【0004】
EP−A−0350733は、この文献に記載の活性成分を腸管のある部分でのみ、または好ましくはその部分で、その活性成分を、場合により遅延して、放出する組成物に製剤する可能性を述べている。しかし、そこに開示の化合物の活性成分の放出を遅延する具体的製剤の開示はない。そこでの実施例1の化合物に関してEP−A−0350733に記載されている具体的錠剤製剤は通常約30分以内に活性成分を放出する速放出製剤である。EP−A−0780390に記載されている化合物Iの塩酸塩モノ水和物の薬学的製剤は、同様に約30分以内に活性成分の放出に通常導く速放出性を有する製剤である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような速放出錠剤製剤の投与後に、薬物製剤が治療の常法であるように、繰り返し投与されると、血中の活性成分の濃度は高い変動を受ける。例えば、上記活性成分の速放出錠剤を経口投与後、活性成分の血中最高濃度は4時間で達する。その濃度は次の投与までにかなり下がる。このように、活性成分の速放出性を有する錠剤製剤を複数回投与すると血中の活性成分の濃度の高変動をきたす。しかし、いくらかの例では、活性成分の速放出性を有する錠剤製剤の投与後に生じる血中での活性成分の高濃度は、例えば副作用が更にしばしば起こるかもしれないので、好ましくない。更には、いくらかの例では、血中での活性成分の濃度を長時間にわたり、より高レベルに維持することは望ましい。
【0006】
更にこのような放出を遅延する薬物製剤は例えば、患者の不平を解決するより少ない頻度の投与の如き、多数の基本的利点を提供する。更に、速放出錠剤よりも平坦で長く持続する活性成分のレベルが重要である感染例の場合に、利点が達成されるかもしれない。結局は、放出を遅延する薬物製剤は特定の感染と患者の感受性に適した活性成分のレベルを調節する大きな可能性を提供する。
従って、上記の要件を満たした化合物Iおよびその薬学的に許容される塩および/またはその水和物の薬物製剤を開発することが本発明の目的であった。故に、本発明者はまず最初に化合物Iの塩酸塩(以下化合物IIと略記する。)の吸収動態を精力的に研究した結果、非常に驚くべきことに、例えば、上記のシプロフロキサシンとは対照的に、化合物IIはまた腸管の下部(結腸、直腸)で吸収されることを見出した。公知のキノロンカルボン酸抗生物質とは異なって、ただこのモキシフロキサシンの驚くべき吸収挙動はモキシフロキサシンの徐放製剤の開発の可能性に扉を開いた。
更なる精力的研究の間に、全体の消化管で長時間にわたりその活性成分を放出する薬物製剤を開発し、そして最後には先行技術の上記の問題点の解決に相応しいある放出プロファイルを有する薬物製剤を開発することがまた驚くべきことに可能となった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は活性成分の放出を制御する薬物製剤、該製剤は1−シクロプロピル−7−([S,S]−2,8−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−8−イル)−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−8−メトキシ−4−オキソ−3−キノロンカルボン酸またはその薬学的に許容される塩および/またはその水和物を含有し、そして2時間で80%、16時間で80%の平均放出を有し、そして放出の最初の時間でその活性成分の60%以下の初期放出を有する薬物製剤を提供することにある。
【0008】
本発明の定義に従う初期および平均放出を決定するために、本発明の薬物製剤はUSP XXIII “装置2”(米國薬局方 USP XXIII 1995, 1791-1792頁)で試験される。
使用される試験媒体は0.1モルの塩酸またはpH7.4のリン酸緩衝液900mlである。撹拌機の回転速度は50回転/分である。試験薬を8μmの篩いを通し、それぞれの活性成分の含量を決める。この方法で決定された活性成分の量は溶解されているので、使用活性成分の量を重量%に変換される。
【0009】
本発明の活性成分の放出を制御する薬物製剤は好ましくは、4−14時間の間で80%の平均放出(4時間で80%、14時間で80%)を有する。
本発明の活性成分の放出を制御する薬物製剤の更なる好ましい形態は、7時間と13時間の間の80%平均放出とそして放出の最初の時間で活性成分の50%以下の初期放出を有する製剤である。
【0010】
本発明の活性成分の放出を制御する薬物製剤は最初の時間での相対的に高い活性成分の初期放出(30−60%)または最初の時間での相対的に低い活性成分の初期放出(0−30%)が達成されるように製剤されうる。
【0011】
45−55%の最初の時間での相対的に高い活性成分の初期放出を有する活性成分の放出を制御する薬物製剤の好ましい形態においては、その製剤は8時間と12時間の間の80%平均放出を有する製剤である。
【0012】
0−20%の最初の時間での相対的に低い活性成分の初期放出を有する活性成分の放出を制御する薬物製剤の好ましい形態においては、この製剤は8時間と12時間の間の80%平均放出を特徴とする製剤である。
【0013】
活性成分の放出を制御する上述の薬物製剤は例えば、拡散制御ペレット(diffusion-controlled pellets)の形で存する。この拡散制御ペレットは、例えば活性成分と通常の結合剤およびthickener、更に必要なら以下に例示する通常の助剤、キャリアーの混合物が用いられ、そしてついで可塑剤を含む拡散コートで被覆された中性ペレットを含むか、または拡散コートで被覆された活性成分含有核(core)を含む。
【0014】
好ましい結合剤およびthickenerはヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはポリビニルピロリドンである。また他の天然、合成、半合成ポリマー、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコールまたはゼラチンを用いることもできる。
【0015】
特に好適な拡散コートはエチルセルロース、例えばAquacoatTM またはSureleaseTMの名の基に市販されている分散水溶液である。しかし、アクリレート(EudragitTM)、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートのような他の物質もまた使用できる。
【0016】
適当な可塑剤は、例えばフタール酸誘導体(例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート)、クエン酸誘導体(例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル)、他のエステル(例えば、セバシン酸ジエチル、トリアセチン)、脂肪酸および誘導体(グリセリンモノステアレイト、アセチル化脂肪酸グリセリド、芥子油および他の天然油、ミグリオール)、ポリオール(グリセリン、1,2−プロパンジオール、鎖の長さを変えたポリエチレングリコール)である。更に可塑剤の性質と量は本発明に従う上記に定義した放出とそのペレットの必要な安定性が達成されるように調整される。
【0017】
上記に規定の放出は拡散コートの細穴(pore)のサイズとその厚さをコントロールすることにより調整される。細穴のサイズを制御するために使用される細穴の形成剤は、可溶性ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、その塩、メチルセルロース、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、デキストラン、または他の可溶化物質、例えば塩(普通の塩、塩化カリウム、塩化アンモニアなど)、尿素、糖(ブドウ糖、蔗糖、果糖、乳糖など)、糖アルコール(マンニトール、ソルビトール、ラクチトールなど)である。被覆剤のうち細穴形成剤の割合は0−50%(w/w)、好ましくは0−25%または5−25%(w/w)(w=重量)である。
【0018】
このペレットに関しては、拡散膜に対し一定の重量割合の活性成分被覆ペレットを使用すること、そしてまた、可塑剤の量に対し一定の割合の拡散コートを使用することが特に重要である。
【0019】
被覆、続いての熱処理の間に使用した可塑剤のいくらかは蒸発するかもしれない。本発明の拡散コートのコートの量は限界値(パラメーター)を変えた場合修正されねばならない。このように、例えば所望の放出率が減少されるとき、細穴形成剤の量が増加されるとき、またはある可塑剤の場合その割合を減じるとき、大容量のコートが要求される。所望の放出率が増加されるとき、細穴形成剤の量が減少されるとき、またはある可塑剤の場合その割合を増やすとき、低容量のコートが要求される。
【0020】
本発明に従う拡散ペレットは、例えば活性成分を水に懸濁させるか、溶解させ、それを高濃度のヒドロキシプロピルメチルセルロース溶液で濃厚化することにより製造される。生じた懸濁液を中性ペレットに、流動床ユニットの中で噴射することにより、適用する。ついで、拡散膜で被覆、例えば適切な、生理的に許容される可塑剤を含有するエチルセルロース水分散液を、望ましくは流動床ユニットの中で、ペレットに噴射することによって被覆される。このペレットはついで50−125℃、好ましくは60−110℃で熱処理される。熱処理中のより高い温度は本発明に従う放出を得るに十分な低い量の被覆となり、そして貯蔵の際物理的に、更に安定なペレットが形成される。拡散膜の厚さ、可塑剤のタイプと量、ペレットのサイズは化合物IまたはIIの2−16時間の80%放出率が達成され、そしてその用量の60%以下が最初の時間内に放出されるように、選択される。1日量に対応するペレットの量、例えば化合物I(ベタイン形)の400mgが硬ゼラチンカプセルに充填される。
中性ペレットの上記被覆の他に、ペレット製剤の他の方法、例えば成型/球回転法(extrusion/spheronizer)、回転顆粒化または流動層造塊法も使用できる。
【0021】
被覆中性ペレットの場合に、拡散ペレットは10−50%(w/w)の中性ペレット(例えば、果糖と結合剤またはクエン酸)、好ましくは10−40%(w/w)の中性ペレットからなり、その上に10−85%(w/w)の活性成分層、好ましくは30−75%(w/w)の活性成分層が適用される。活性成分の高用量(各量当たりベタインの≧400mg)のために、特に好ましくは10−30%(w/w)の中性ペレットであり、それに50−85%(w/w)の活性成分層が適用される。活性成分層は70−99.5%(w/w)の活性成分と0.5−30%(w/w)の結合剤、好ましくは80−99.5%(w/w)の活性成分と0.5−20%(w/w)の結合剤を含む。活性成分の高用量のために、特に好ましくは活性成分層は90−99.5%(w/w)の活性成分と0.5−10%(w/w)の結合剤を含む。
【0022】
この方法で製造されたペレットは、好ましくは5−40%(w/w)の量の拡散コートまたは拡散層でコートされる。その拡散コートまたは拡散層は、コートの量に基づくが、40−90%(w/w)、好ましくは50−85%(w/w)、特に好ましくは60−85%(w/w)のフィルム形成剤(フィルム形成ポリマー、例えばエチルセルロース(AquacoatTM またはSureleaseTM)、アクリレート(EudragitTM)、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート)、0−50%(w/w)、好ましくは0−35%(w/w)、特に好ましくは0−25%(w/w)または5−25%(w/w)の範囲の細穴形成剤(可溶性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、メチルセルロース、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、デキストラン、または他の可溶化物、例えば塩(普通の塩、塩化カリウム、塩化アンモニアなど)、尿素、糖(ブドウ糖、蔗糖、果糖、乳糖など)、糖アルコール(マンニトール、ソルビトール、ラクチトールなど)、そして5−50%(w/w)、好ましくは5−35%(w/w)、特に好ましくは10−35%(w/w)の範囲の可塑剤を含む。
【0023】
被覆活性成分ペレットの場合に、拡散ペレットは50−90%(w/w)の活性成分ペレット、好ましくは60−95%(w/w)を含む。活性成分の高用量(各用量当たりベタインの≧400mg)のために、特に好ましくは70−95%(w/w)の活性成分ペレットを含むものである。これらの活性成分ペレットは70−99.5%(w/w)の活性成分と0.5−30%(w/w)の結合剤、特に好ましくは80−99.5%(w/w)の活性成分と0.5−20%(w/w)の結合剤を含む。活性成分の高用量のために、特に好ましい例は活性成分層は90−99.5%(w/w)の活性成分と0.5−10%(w/w)の結合剤であり、そして、もし適当なら更なる添加剤(微細結晶セルロース、熱可塑性ポリマー、他の薬学的通常の助剤)を含むものである。
【0024】
この方法で製造されたペレットは、5−50%(w/w)の量の拡散コートまたは拡散層でコートされる。その拡散コートまたは拡散層は、コートの量に基づくが、40−90%(w/w)、好ましくは50−85%(w/w)、特に好ましくは60−85%(w/w)のフィルム形成剤(フィルム形成ポリマー、例えばエチルセルロース(AquacoatTM またはSureleaseTM)、アクリレート(EudragitTM)、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート)、0−50%(w/w)、好ましくは0−35%(w/w)、特に好ましくは0−25%(w/w)または5−25%(w/w)の範囲の細穴形成剤(可溶性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、メチルセルロース、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、デキストラン、または他の可溶化物、例えば塩(普通の塩、塩化カリウム、塩化アンモニアなど)、尿素、糖(ブドウ糖、蔗糖、果糖、乳糖など)、糖アルコール(マンニトール、ソルビトール、ラクチトールなど)、そして5−50%(w/w)、好ましくは5−35%(w/w)、特に好ましくは10−35%(w/w)の範囲の可塑剤を含む。
【0025】
本発明の活性成分の放出を制御する薬物製剤の更なる具体化物では、活性成分を水膨潤性ポリマーのマトリックス中に含む製剤が用いられる。この製剤は錠剤の形が好ましい。
これらの所謂マトリックス中に含む製剤は重量で30−70%、好ましくは40−60%活性成分を含む。
水膨潤性ポリマーのマトリックスの重量割合は30−50%、好ましくは30−40%である。
更に好ましくはerosion 錠剤形の本発明の薬物製剤である。この錠剤は通常の助剤、キャリアー、錠剤用助剤の他に、一定の量の水膨潤性ハイドロゲル形成ポリマー(これらのポリマーは少なくとも15、好ましくは50mPa.s(20℃で2%強度の水溶液として測定)の粘度を有していなければならない。)を含んでいることを特徴としている。
【0026】
通常の助剤およびキャリアーは、例えば乳糖、微細結晶セルロース、マンニトール、燐酸カルシウムである。これらの量は重量で0−50%、好ましくは10−40%、特に好ましくは20−40%である。
通常の錠剤助剤は、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、微細化珪素(AerosilTM)である。ステアリン酸マグネシウムの場合、0.5−1.5%重量、微細化珪素の場合、0.1−0.5%重量で存在する。
好ましい水溶性ハイドロゲル形成ポリマーはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ガラクトマンナン、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、メタアクリル酸コポリマー、メタアクリル酸メチル、グアガム、寒天、ペクチン、トラガントガム、アラビアガム、キサンタンガム、またはこれらの混合物である。特に好ましくはHPMCを使用することである。
ここで、本発明のerosion 錠剤は、錠剤の重量に基づくが、好ましくは、重量で少なくとも10%のヒドロキシプロピルメチルセルロースタイプ(その粘度は(20℃で2%強度の水溶液として測定)少なくとも15、好ましくは50mPasである)を含んでいるべきである。
【0027】
水膨潤性ポリマーのマトリックス中に活性成分を含む薬物製剤は、活性成分、上記のポリマー、適当な助剤、キャリアー、および通常の錠剤化助剤を混合し、直接錠剤化することにより製造される。更に、活性成分、水膨潤性ポリマー、および適当なキャリアーを流動床で顆粒化することも可能である。水膨潤性ポリマーの量および粘度は上記の平均放出率と初期放出を有する錠剤が得られるように選択される。乾燥した顆粒は篩いにかけ、滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウムと混合し、ついで錠剤化される。この錠剤はもし適切なら、更に被覆される。
本発明の活性成分の放出を制御する薬物製剤の更なる具体化物は浸透圧薬物放出システムである。この様な浸透圧薬物放出システムは原理的には先行技術で公知であり、例えばRichard W.Baker著 “浸透圧薬物配送:特許文献のレビュー”Journal of Controlled Release 35 (1995) 1-21で詳しく論ぜられている。
【0028】
浸透圧薬物放出システム薬物製剤は好ましくは、
a) 活性成分と所望により親水性ポリマー性膨潤剤と所望により浸透(osmosis)を誘導する水溶性物質を含む核(core)、および
b) 活性成分含有核の成分にとって水浸透性および非浸透性である殻(shell)、
c) 核に含まれている成分の周囲の水溶性体液への移送のための殻b)への開口部からなる。
【0029】
この特定の浸透圧薬物放出システムは原理的には先行技術、例えばDE−A−2328409またはUS−A−3845770に記載されている。核の成分に関しては本文で述べるEP−A−0277092、US−A−3916899とUS−A−3977404が参照される。
【0030】
適切な親水性ポリマー性膨潤剤に関しては、例えばEP−A−0277092とWO96/40080に記載のポリマー性膨潤剤を参照される。例えば種々の重合度を有するエチレンオキサイドホモポリマー(ポリエチレングリコール)(それは100,000から8,000,000の分子量のポリワックスTMの名前で知られている。)そしてポリビニルピロリドン/ビニルアセテートコポリマーおよびUS−A−3865108、US−A−4002173およびUS−A−4207893に記載の他の水膨潤ポリマーを使用することが可能である。
【0031】
浸透(osmotis)を誘導する水溶性物質は原則として薬学での使用が考えられる全ての水溶性物質で、例えば該薬局方または“Hager's Handbuch der Pharmazeutischen Praxis, 1990-1995, Springer Verlag”、およびまたRemington's Pharmaceutical Science に水可溶助剤として記載されている物質である。化合物Iおよび/またはその塩および/またはその水和物は相体的に水溶性が高い(およそ24g/l)ので、活性成分自体がまた、浸透的に活性である。このことは浸透圧薬物システムの製剤化の際考慮される。更なる特定の水溶性物質は無機または有機酸の塩、または高い水溶性を有する非イオン有機物質、例えば砂糖のような炭水化物などである。錠剤の核への開口部の作り方は文献公知であり、例えばUSPat.3485770およびUSPat.3916899に記載されている。
【0032】
本発明の活性成分の放出を制御する薬物製剤の上記平均放出と初期放出は核を形成する半浸透性物質の性質と量、所望により加えられる親水性ポリマー性膨潤剤の性質と量、および浸透(osmotis)を誘導する所望により加えられる水溶性物質によって調整される。
本発明の薬物製剤は活性成分、1−シクロプロピル−7−([S,S]−2,8−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−8−イル)−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−8−メトキシ−4−オキソ−3−キノロンカルボン酸を基にして、200−800mg、好ましくは400−600mgを含有する。
【0033】
本発明の活性成分の制御放出性を有する薬物製剤は好ましくは、同じ用量で、最高血中濃度(Cmax)が、EP−A−0780390の実施例7に記載されているように、速放性薬剤製剤のCmax値より低い製剤であり、そして変動(ゆらぎ)幅のピークPTF[%]がEP−A−0780390の実施例7の製剤の対応PTF値より低い製剤である。

PTF=Cmax − Cmin / Cav,τ

Cmin:血中、血漿または血清中の活性成分の最小濃度
Cav,τ:1回投与後、または複数回投与後の最初の投与間隔(τ)後の血漿濃度/時間データから計算された平均安定濃度
【0034】
PTFの決定はH.Boxenbaum著 “徐放性製剤のデザインと評価におけるPharmacokinetic determination”,Pharm.Res.,15,82−88(1984)に記載されている。
血中濃度はH. Stass, A. Dalhoff, D. Kubitza, “BAY 12-8039, A new 8-Methoxy-Quinolone: First pharmacokinetic results in healthy male volunteers”, Proc. of 36th ICAAC, New Orleans, 1996, F024, page104 に記載のように決定される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】比較例1の製剤(速放出)と実施例1−4の製剤(制御放出)からの活性成分の放出の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施例
比較実施例1
(EP−A−0780390の実施例7に従う、先行技術に対応する速放出錠剤)
組成:
化合物II(塩酸塩) 436.8mg
微細粉末セルロース 61.8mg
トウモロコシデンプン 31.8mg
クロスカルメロースNa 3.6mg
ステアリン酸マグネシウム 8.0mg

この錠剤はEP−A−0780390の実施例7に順じて製造した。
【0037】
実施例1
(マトリックス錠)
マトリックス錠剤は以下の組成からなる。
化合物II(塩酸塩) 436.8mg
HPMC90SH100 191.0mg
ステアリン酸マグネシウム 8.0mg
酸化鉄 0.3mg
二酸化チタン 2.7mg
ポリエチレングリコール4000 3.0mg
HPMC15cP 9.0mg

化合物II(塩酸塩)、HPMC90SH100およびステアリン酸マグネシウムを混合し、打錠する。この錠剤を酸化鉄、二酸化チタン、ポリエチレングリコール4000およびHPMCを含有する水性懸濁液で被覆する。
【0038】
実施例2
(マトリックス錠)
マトリックス錠剤は以下の組成からなる。
化合物II(塩酸塩) 436.8mg
HPMC15cP 334.0mg
乳糖モノ水和物 334.0mg
ステアリン酸マグネシウム 8.2mg
酸化鉄 0.45mg
二酸化チタン 4.05mg
ポリエチレングリコール4000 4.5mg
HPMC15cP 13.5mg

化合物II(塩酸塩)、HPMC15cPおよび乳糖を流動相造粒機中で混合し、ステアリン酸マグネシウムを加え、この混合物を打錠する。この錠剤を酸化鉄、二酸化チタン、ポリエチレングリコール4000およびHPMCを含有する水性懸濁液で被覆する。
【0039】
実施例3
(マトリックス錠)
マトリックス錠は以下の組成からなる。
化合物II(塩酸塩) 436.8mg
HPMC15cP 334.0mg
燐酸水素カルシウム 334.0mg
ステアリン酸マグネシウム 8.2mg
酸化鉄 0.45mg
二酸化チタン 4.05mg
ポリエチレングリコール4000 4.5mg
HPMC15cP 13.5mg

化合物II(塩酸塩)、HPMC15cPおよび燐酸水素カルシウムを顆粒化し、ステアリン酸マグネシウムを加え、この混合物を打錠する。この錠剤を酸化鉄、二酸化チタン、ポリエチレングリコール4000およびHPMCを含有する水性懸濁液で被覆する。
【0040】
実施例4
(マトリックス錠)
マトリックス錠は以下の組成からなる。
微細化化合物II(塩酸塩) 436.8mg
HPMC50cP 109.2mg
ステアリン酸マグネシウム 4.0mg
酸化鉄 0.3mg
二酸化チタン 2.7mg
ポリエチレングリコール4000 3.0mg
HPMC15cP 9.0mg
【0041】
比較例1の製剤と実施例1−4の製剤の活性成分の放出の比較(前記の米薬局方 XXIIIに従って得られた)を図1に示す。
【0042】
実施例5
(拡散ペレット)
拡散ペレットを作製するために、化合物II(436g)、ポリビニルピロリドン25(17.5g)、HPMC(110g)、ポリエチレングリコール4000(18g)、エチルセルロース(220g)およびクエン酸トリエチル(21g)を用いて製剤し、流動床ユニット中で、そのペレットに被覆し、カプセルに充填する。
【0043】
実施例6
(浸透圧放出システム)
化合物II(724.6g)、通常の塩(182.5g)、微細結晶セルロース(82.9g)を顆粒化し、この顆粒をステアリン酸マグネシウム(10g)と混合し、混合物を打錠(format 5.5 r 9)。この錠剤をアセトンに溶かしたセルロースアセテート、ポリエチレングリコール3350およびグリセリンの混合物(49.8g)で被覆する。この錠剤を適当な方法で穿孔する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)および(c)の構成を有する、活性成分の放出を制御するマトリックスシステム薬物製剤であって、
2時間で80%、16時間で80%の活性成分の平均放出を有し、そして放出の最初の時間で活性成分の60%以下の初期放出を有する製剤:
(a)1−シクロプロピル−7−([S,S]−2,8−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−8−イル)−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−8−メトキシ−4−オキソ−3−キノロンカルボン酸またはその薬学的に許容される塩および/またはその水和物から選ばれる30から77.3重量%の活性成分、(b)少なくとも15mPa.sの粘度(20℃で2%強度の水溶液として測定)を有する19.3から50重量%の水膨潤性ポリマー、および(c)0から50重量%の薬学的に許容される助剤またはキャリアーを含有する。
【請求項2】
薬物製剤が錠剤である請求項1の薬物製剤。
【請求項3】
水膨潤性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択される請求項1の薬物製剤。
【請求項4】
放出の最初の時間での初期放出が活性成分の30−60%である請求項1、2または3の薬物製剤。
【請求項5】
放出の最初の時間での初期放出が活性成分の0−30%である請求項1、2または3の薬物製剤。
【請求項6】
活性成分の平均放出が4時間で80%、14時間で80%である請求項1、2または3の薬物製剤。
【請求項7】
活性成分の平均放出が7時間で80%、13時間で80%であり、そして放出の最初の時間で該活性成分の55%以下の初期放出を有する請求項6の薬物製剤。
【請求項8】
活性成分の平均放出が8時間で80%、12時間で80%であり、そして初期放出が放出の最初の時間で該活性成分の45−55%である請求項6の薬物製剤。
【請求項9】
活性成分の平均放出が8時間で80%、12時間で80%であり、そして初期放出が放出の最初の時間で該活性成分の0−20%である請求項6の薬物製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163455(P2010−163455A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58157(P2010−58157)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【分割の表示】特願2000−512541(P2000−512541)の分割
【原出願日】平成10年9月15日(1998.9.15)
【出願人】(507113188)バイエル・シェーリング・ファルマ・アクチェンゲゼルシャフト (141)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Schering Pharma Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】