説明

活性炭処理

本発明は、活性炭処理を用いる化合物の精製方法に関する。本発明に係る方法では、マトリックス中に固定された活性炭の入ったいくつかのフィルターユニットは、逐次的にかつ向流モードで動作する。好適な体積の供給物を通した後、第1のシリーズのフィルターユニットから特定の位置番号のフィルターユニットを取り外しかつ追加のフィルターユニットを他の特定の位置番号に結合することにより次のシリーズのフィルターユニットを得て、それに次の体積の供給物を通して処理を継続させる。この方法により、従来の活性炭処理時に見られたような精製化合物の収率損失の問題が克服される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭処理を用いることにより化合物を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
何十年間にもわたり、価値ある化合物の精製プロセスにおいて、価値ある化合物から着色種のような不純物を除去するためにバルク活性炭粉末を使用する活性炭処理が適用されている。しかしながら、バルク炭素粉末を使用したときの問題点は、多くの場合に活性炭粒子が下流に移行して後続の回収工程で炭素混入を引き起こすことである。また、工業規模の精製プロセスにおいてバルク炭素で処理することは、健康および安全に有益でない。つい最近、これらの問題点を克服する活性炭カートリッジが開発された。これらのカートリッジでは、活性炭は濾過媒体中に固定される。活性炭カートリッジの使用については、ペニシリンVの精製に関して記述されている(アール・ヤンソン(R.Jansson)およびエム・ウィーヴァー(M.Weaver)著、製造化学者(Manufacturing chemist)、2002年3月、29〜30頁)。しかしながら、炭素カートリッジの使用はまた、時間のかかる回収プロセスを排除し、最終生成物の品質向上をもたらすという事実にもかかわらず、従来の炭素処理を改善する必要があると長い間考えられてきたが、カートリッジは工業プロセスに広く組み込まれてはいない。
【0003】
問題点の1つは、所望の化合物の収率が、必ずしも、商業的に効率的な工業規模で活性炭カートリッジを用いて精製を行うのに十分な程度に良好であるとは限らないことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、所望の化合物の収率が不十分であるというこの問題点を克服することである。この問題点は、逐次的にかつ向流モードで動作する活性炭の入った一シリーズのフィルターユニットに所望の化合物を含有する供給物を通すことによる本発明により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明は、化合物を精製する方法に関し、該方法は、マトリックス中に固定された活性炭の入ったフィルターユニットを用いる活性炭処理を含み、該処理は、
a)逐次的に動作する第1のシリーズのn個の結合されたフィルターユニットに該化合物を含有する好適な体積の供給物を通して流出物を得ることと、ここで、nは少なくとも2であり、該フィルターユニットは、該シリーズで位置番号1〜nが割り当てられ、かつ位置番号1は、該供給物が供給される最初の部分であり、
b)該好適な体積の供給物を通した後、1〜n−1のいずれかの位置番号のフィルターユニットを該第1のシリーズのフィルターユニットから取り外し、かつ該取り外されたフィルターユニットの位置番号よりも大きい番号を有する任意の位置に新たなフィルターユニットを結合することにより、次のシリーズのフィルターユニットを形成することと、
c)該次のシリーズのフィルターユニットに該化合物を含有する次の好適な体積の供給物を通して次の流出物を得ることと、
d)場合により、aおよびcで得られた該流出物を合わせることと、
e)該流出物から該化合物を回収することと、
を含む。
【0006】
本発明に係る炭素処理を用いると、精製化合物の収率が増大される。また、本発明に係る炭素処理を用いると、活性炭の利用可能な吸着容量が完全にまたはほぼ完全に利用される。さらに、本発明に係る活性炭処理を適用することにより、高スループットの精製システムが提供される。高スループットとは、処理時間の短縮およびロジスティックスの改良を意味する。この結果として、さらに価値ある化合物を工業規模で製造する能力が増大される。このほか、精製化合物の収率は、とくに、不安定な化合物の精製プロセスで、増大される。
【0007】
本発明に係る炭素処理は、従来の活性炭処理が使用される対象化合物の任意の精製プロセスに適用可能である。
【0008】
本発明において、有利に精製される化合物は、不安定な化合物、すなわち、処理時間および/または貯蔵期間の増大とともに分解および/または劣化する化合物でありうる。
【0009】
化合物は、二次代謝産物またはタンパク質を包含しうる。二次代謝産物は、抗生物質、ビタミン、カロテノイド、または多価不飽和脂肪酸(PUFA)を包含しうる。タンパク質は、酵素、たとえば、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、ラクターゼ、またはそれらの前駆体を包含しうる。抗生物質は、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、アクチノマイシン、テトラサイクリン、ナタマイシン、β−ラクタム化合物、たとえば、クラブラン酸、ペニシリンG、ペニシリンV、セファロスポリンC、セファマイシン、6−アミノペニシリン酸(6−APA)、7−アミノデアセトキシセファロスポラン酸(7−ADCA)、7−アミノセファロスポラン酸(7−ACA)、半合成ペニシリン、たとえば、アモキシシリン、クロキサシリン、フルクロキサシリン、メチシリン、オキサシリン、カルベニシリン、アンピシリン、および半合成セファロスポリン、たとえば、セファレキシン、セフラジン、セファロリジン、セファロチン、セファクロル、セファドロキシルを包含しうる。カロテノイドは、β−カロテンを包含しうる。
【0010】
本発明の特定の実施形態では、化合物は、微生物を用いて発酵により産生される。微生物は、発酵中に対象化合物を産生しうる原核生物もしくは真核生物または哺乳動物源もしくは植物源の細胞もしくは細胞系でありうる。好ましくは、微生物は、細菌、真菌、または酵母である。細菌は、大腸菌株、ストレプトマイセス株、バシラス株、またはプロピオニバクテリウム株でありうる。真菌は、ペニシリウム株、アスペルギルス株、またはムコール株でありうる。酵母は、サッカロマイセス株、クルイベロマイセス株、またはピキア株でありうる。
【0011】
本発明の好ましい実施形態では、化合物は、微生物としてストレプトマイセス種を用いる発酵により得られる。ストレプトマイセス種の発酵により得られる化合物は、本発明に係る炭素処理を用いて精製するのにとくに好適である。なぜなら、ストレプトマイセス種から得られる発酵ブロスさらには産生化合物は、着色種および黄色〜赤色/褐色が顕著に現れる可能性のある他の不純物を含有するからである。本発明によれば、これらの着色種および他の不純物は、化合物から非常に効率的に除去され、しかも精製化合物の収率は、驚くほど高い。好ましいストレプトマイセス種は、ストレプトマイセス・クラブリゲルス、S.コエリカラー、S.グリセウス、S.ベネズエラ、S.オーレオファシエンスでありうる。これらの株により産生される化合物は、クラブラン酸、ストレプトマイシン、セファマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、アクチノマイシン、またはβ−カロテンでありうる。好ましくは、化合物はクラブラン酸である。
【0012】
対象化合物を含む発酵流体は、濾過により発酵ブロス中のバイオマスから分離可能である。場合により、活性炭で処理する前に、化合物を含む発酵流体を濃縮することが可能でありかつ/または当技術分野で公知の技法を用いて化合物を沈殿させたり精製したりすることが可能である。本発明に係る活性炭処理に付される供給物は、化合物を含有しかつ溶媒を含む。使用される溶媒は、典型的には、対象化合物に依存するであろう。それは、水、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、またはそれらの混合物でありうる。好ましくは、それは、アルキルアセテートのようなエステル、より好ましくはエチルアセテートまたはメチルアセテートを含む。
【0013】
フィルターユニットは、マトリックス中に固定された活性炭を収容する。マトリックスは、化合物を含有する供給物を透過しうる任意のポーラスフィルター媒体でありうる。好ましくは、マトリックスは、担体材料および/またはバインダー材料を含む。マトリックス中の担体材料は、合成ポリマーまたは天然源のポリマーでありうる。合成ポリマーは、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメチルメタクリレートを包含しうる。天然源のポリマーは、セルロース、ポリサッカリド、デキストラン、アガロースを包含しうる。好ましくは、ポリマー担体材料は、十分な機械的剛性を提供するように繊維網状構造の形態をとる。バインダー材料は樹脂でありうる。マトリックスは、メンブレンシートの形態を有しうる。
【0014】
好ましくは、マトリックス中に固定された活性炭は、カートリッジの形態をとりうる。カートリッジは、マトリックス中に固定されてメンブレンシートの形態で作製された粉末状活性炭の入った自蔵式のかつ容易に交換可能な構成要素である。メンブレンシートは、プラスチック製の透過性担体中に捕捉されてディスクを形成しうる。他の選択肢として、メンブレンシートは、渦巻状に巻回可能である。フィルター表面積を増大させるために、いくつかのディスクを互いに積み重ねることが可能である。好ましくは、互いに積み重ねられたディスクは、炭素処理された供給物をフィルターユニットから捕集して取り出すための中心コアパイプを有する。積み重ねられたディスクの形状は、レンズ状でありうる。さらに、既存のフィルターユニットに追加のカートリッジを付加することが可能であり、これは、同一のコレクター軸にこれらの追加のカートリッジを置くことにより(そのようしてスタックの高さを拡張することにより)、または同一のフィルターユニット中に平行スタックのカートリッジを収容し、場合により、フィルターハウジングの下端の1つの出口に独立したコレクター軸を結合することにより、行われる。
【0015】
炭素は、泥炭、亜炭、木材、またはヤシ殻のようなさまざまな原材料源のものが使用可能である。炭素源の選択は、単離される化合物に依存し、当技術分野で公知の方法に従って決定可能である。スチーム処理または化学処理のような当技術分野で公知の任意の方法を用いて、炭素を活性化させることが可能である。
【0016】
本発明において、マトリックス中に固定された活性炭は、独立したフィルターユニットを形成するようにハウジング中に配置可能である。各フィルターユニットは、精製される化合物を含有する供給物用の個別の入口および出口を有する。本発明で使用可能なフィルターユニットの例は、キュノ・インコーポレーテッド(Cuno Inc.)(米国メリデン(Meriden,USA))製またはポール・コーポレーション(Pall Corporation)(米国イーストヒル(East Hill,USA))製の炭素カートリッジである。
【0017】
本発明に係る方法では、好適な体積の供給物を通した後、n〜n−1の任意の位置番号のフィルターユニットを一シリーズの1番目からn番目まで結合されたフィルターユニットから取り外し、かつ取り外されたフィルターユニットの位置番号よりも大きい位置番号を有する任意の位置に新たなフィルターユニットを結合する(フィルターユニットの切換え)。「供給物の好適な体積」の大きさ(またはフィルターユニットの切換えの時期)は、種々のパラメーターに依存し、通常のプロセス最適化により決定可能である。たとえば、供給物の体積は、流出物の所要の品質および/または使用されるフィルターユニットの総数に依存しうる。したがって、フィルターユニットの切換えは、使用したフィルターユニットが不純物で実質的に飽和された時点で行いうる。使用したフィルターユニットが不純物で実質的に飽和された時点は、たとえば、許容しえない値に達した流出物の色により認識可能である。
【0018】
好ましい実施形態では、第1のシリーズのn個の結合されたフィルターユニットを通る供給物の体積は、次のシリーズのフィルターユニットを通る次の供給物の体積と同じ大きさである。このようにして、プロセスロジスティックスは、できるかぎり簡単にかつ再現可能に保持される。
【0019】
他の好ましい実施形態では、フィルターユニットは、位置番号1で取り外し可能であり、新たなフィルターユニットは、位置番号n+1に結合可能である。
【0020】
対象化合物の損失を減少させるために、フィルターユニットの切換え前に、好ましくは、化合物を溶解させるときと同一の溶媒を用いて、フィルターユニットを溶媒ですすぐことが可能である。溶媒によるすすぎは、ガス(好ましくは窒素)でパージングする前および/または後に行いうる。このようにして、炭素に吸着された残留生成物および/またはマトリックス内に残留する供給物の体積中の残留生成物を回収することが可能である。
【0021】
本発明に係る方法では、化合物を含有する供給物は、逐次的に動作する少なくとも2個の結合されたフィルターユニットに通される。すなわち、nは少なくとも2である。好ましくは、nは2〜10である。より好ましくは、nは2〜4であり、最も好ましくは、nは3である。また、精製される化合物を含む大ストリームの供給物を処理するために、逐次的に動作するいくつかのフィルターユニットを追加的に並列に結合可能である。
【0022】
一シリーズの2個の結合されたフィルターユニットが使用される本発明の特定の一実施形態では、精製される化合物を含有する供給物を位置番号1(すなわち、該シリーズの先頭位置)のフィルターユニットに供給し、そしてこのフィルターユニット1の流出物を位置番号2の第2のフィルターユニットに通す。好適な体積の供給物がフィルターユニットを貫通したときに、位置番号1のフィルターユニットを取り外しかつ位置番号3に新たなフィルターユニットを結合することにより、フィルターユニットの使用時に切換えを行うと、元の位置番号2のフィルターユニットは今度は最初に供給物が供給され位置番号1が割り当てられ、かつ前の位置番号3のフィルターユニットは今度は位置番号2が割り当てられるので、位置番号の再番号付けが行われることになる。
【0023】
一シリーズの3個の結合されたフィルターユニットが使用される本発明の他の実施形態では、精製される化合物を含有する供給物を位置番号1(すなわち、該シリーズの先頭位置)のフィルターユニットに供給し、そしてこのフィルターユニット1の流出物を位置番号2の第2のフィルターユニットに通し、さらにこのフィルターユニット2の流出物を位置番号3の第3のフィルターユニットに通す。好適な体積の供給物が3個のフィルターユニットを貫通したときに、位置番号1のフィルターユニットを取り外しかつ位置番号4に新たなフィルターユニットを結合することにより、フィルターユニットの使用時に切換えを行うと、元の位置番号2のフィルターユニットは今度は最初に供給物が供給され位置番号1が割り当てられ、かつ前の位置番号3のフィルターユニットは今度は位置番号2が割り当てられ、かつ位置番号4に結合された新たなフィルターユニットは今度は位置番号3が割り当てられるので、位置番号の再番号付けが行われることになる。他の選択肢として、第1のフィルターユニットを取り外す代わりに、第2のフィルターユニット(すなわち、位置番号2のフィルターユニット)を取り外すことが可能であり、そのようにすると、位置番号1のフィルターユニットは、依然として供給物が最初に供給されるのでここに保持され、かつ位置番号3のフィルターユニットは今度は位置番号2が割り当てられ、かつ位置番号4に結合された新たなフィルターユニットは第2のシリーズで位置番号3が割り当てられる。
【0024】
該シリーズから取り外されたフィルターユニットは、使用済みの活性炭の入ったフィルターユニットである。すなわち、精製される化合物を含有する供給物が、この活性炭に通された。シリーズに結合される新たなフィルターユニットは、未使用の活性炭(すなわち、これまで使用されていない活性炭)を収容しうるフィルターユニットであるか、またはそれは、以前に使用されかつ再生された活性炭を収容しうる。新たなフィルターユニットは、その使用前、溶媒で湿潤させてから窒素でパージングすることが可能である。
【0025】
再生された活性炭は、活性炭の吸着容量を回復するように再生プロセスに付されたものである。再生は、当技術分野で公知の方法に従って溶媒ですすぐことにより達成しうる。再生用の典型的な溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン、またはエチルアセテートでありうる。再生は、in situで行いうる。in situとは、フィルターユニットをシリーズ中のその位置から物理的に移動させたり活性炭をフィルターユニットから物理的に移動させたりする必要なく、再生される活性炭の入ったフィルターユニットを溶媒ですすぐことを意味する。再生時、活性炭は、前の供給物中に存在する溶媒によるすすぎ、および/または再生溶媒によるすすぎ、および/または次の供給物中に存在する溶媒による湿潤の操作に付すことが可能である。活性炭のすすぎおよび/または湿潤の操作の間で、ガス(好ましくは窒素)でパージすることが可能である。
【0026】
本発明に係る方法では、各フィルターユニットは、ユニットの物理的移動により一シリーズのフィルターユニットに結合させたりそれから取り外したりすることが可能である。好ましくは、フィルターユニットは、ユニットの物理的移動を行うことなく一シリーズのフィルターユニットに結合させたりそれから取り外したりすることが可能である。これは、流量分布システムにより容易に行いうる。この流量分布システムは、完全自動化が可能である。好ましくは、流量分布システムは、多機能かつマルチポートのバルブ(好ましくは、ブロックアンドブリードタイプのもの)を含みうる。該バルブの操作は、ソフトウェアにより制御可能である。より好ましくは、フィルターユニットの結合および取外しは同時に行われる。
【0027】
本発明において、プロセスは、バッチモード、半連続モード、または連続モードで操作可能である。
【0028】
バッチモードの操作とは、逐次的に動作する結合されたフィルターユニットに好適な体積の供給物を通し、かつフィルターユニットの取外しおよび/または新たなフィルターユニットをシリーズへ結合するときに該供給物を停止させるプロセスを意味する。続いて、取外しおよび結合(フィルターユニットの切換え)を行った後、次の好適な体積の供給物で供給物の流動を継続させる。
【0029】
連続モードの操作とは、フィルターユニットを取り外しかつ新たなフィルターユニットを結合するときに供給物の流動を中断させないプロセス、すなわち、フィルターユニットの切換えのときに供給物の流動を中断させないプロセスを意味する。したがって、好適な体積の供給物および任意の次の好適な体積の供給物は、フィルターユニットの切換えを好適な時間間隔で行いながら、一シリーズのn個の結合されたフィルターユニットに連続的に通される。連続モードの操作は、好ましくは、フィルターユニットの切換えを行わなければならなくなる前にどれくらいの体積の供給物を一シリーズのフィルターユニットに通すことが可能であるかがわかっている状況で行われる。この知識は、経験によりまたはたとえばインライン測定により得ることができる。連続モードの実施の前提条件は、フィルターユニットの切換えの操作に必要な時間が不純物によるフィルターユニットの実質的飽和に必要な時間よりも短くなければならないということである。連続プロセスは、たとえば、新しい(バッチ)プロトコルへの変更が望まれる場合またはクリーニングもしくはメンテナンスを行うために、終了させることが可能である。
【0030】
半連続モードの操作とは、フィルターユニットを取り外しかつ新たなフィルターユニットを結合するときに供給物を中断させないが、すなわち、フィルターの切換えのときに供給物を中断させないが、不純物によるフィルターユニットの実質的飽和を回避するために供給物を中断させるプロセスを意味する。後者は、フィルターユニットの切換え操作に必要な時間が不純物によるフィルターユニットの実質的飽和に必要な時間よりも長い場合に起こりうる。
【0031】
本発明に係る方法は、さまざまな実施形態で実施可能であり、いずれも化合物の収率増加を目標とする。
【0032】
第1の実施形態では、供給物の流量は、0.05〜400L/分、好ましくは20〜100L/分、より好ましくは30〜40L/分である。供給物の流量は、少なくとも0.05L/分である。好ましくは、流量は、少なくとも20L/分であり、より好ましくは、流量は、少なくとも30L/分である。流量は、最大で400L/分を有しうる。好ましくは、流量は、100L/分を超えることはなく、より好ましくは、流量は、40L/分を超えることはない。
【0033】
さらに他の実施形態では、マトリックス中に固定された活性炭が平方メートル(m)単位で与えられる表面積を有するメンブレンシートの形態をとる場合、供給物の流束は、1〜50L/m/分、好ましくは1.5〜20L/m/分、より好ましくは1.5〜10L/m/分である。好ましくは、流束は、少なくとも1L/m/分である。より好ましくは、流束は、少なくとも1.5L/m/分である。流束は、最大で50L/m/分を有することが可能であり、好ましくは、流束は、20L/m/分を超えることはなく、より好ましくは、流束は、15L/m/分を超えることはない。流束とは、メンブレンシートの表面積1平方メーターあたりの供給物の流量を意味する。
【0034】
さらに他の実施形態では、単一フィルターユニット中における化合物を含有する供給物の滞留時間は、少なくとも15秒間かつ最大60分間である。単一フィルターユニット中における化合物を含有する供給物の滞留時間は、少なくとも15秒間であり、好ましくは少なくとも30秒間であり、より好ましくは少なくとも60秒間であり、最も好ましくは2分間である。単一フィルターユニット中における化合物の滞留時間は、最大60分間であり、好ましくは30分間以下であり、より好ましくは15分間以下である。単一フィルターユニット中における化合物を含有する供給物の滞留時間は、単一フィルターユニットを介する供給物の流入と供給物の流出との時間差を測定することにより決定可能である。化合物を含有する供給物を一シリーズのn個の結合されたフィルターユニットに通す場合、該シリーズ中における供給物の全滞留時間は、単一フィルターユニット中における滞留時間のn倍である。
【0035】
さらに他の実施形態では、マイナス10〜+40℃の温度でプロセスを操作することが可能である。化合物を含有する供給物がフィルターユニットに通す前と通した後の両方で液相中に存在するように温度が選択されることは明らかであろう。温度は、供給物中に存在する溶媒のタイプおよび化合物の熱安定性に依存しうる。温度は、少なくともマイナス10℃であり、好ましくは少なくともマイナス2℃であり、より好ましくは少なくとも5℃である。温度は、40℃以下であり、好ましくは25℃以下であり、より好ましくは15℃以下である。
【0036】
本発明に係る活性炭処理を適用した後、化合物は、当業者に公知の方法に従って流出物から回収される。回収に使用される方法は、典型的には、化合物のタイプおよび/または使用目的に依存するであろう。回収は、好適な安定剤で流出物中の化合物を安定化させること、流出物を濃縮すること、流出物を乾燥させること、流出物を顆粒化プロセスに付すこと、流出物から化合物の精製すること(たとえば、結晶化および/またはカラムクロマトグラフィーにより)、のうちの1つまたは少なくとも2つの組合せを含みうる。
【0037】
回収された化合物は、薬学的に許容可能な塩または食品グレードの生成物にさらに変換することが可能である。
【実施例】
【0038】
実施例1
ストレプトマイセス・クラブリゲルスの発酵により得られたクラブラン酸の水性ブロスを、活性炭処理の前に、濾過し、抽出し、そして30g/lに濃縮した。50gのバルク粉末状活性炭とマグネティックスターラーとが入っているビーカーに500mlの濃縮抽出物を添加した。90分間の反応時間の後、ブフナー漏斗を用いることにより活性炭を抽出物から分離した。活性炭処理の前と後の抽出物の吸光度差を測色計で測定することにより、脱色パーセントを決定した。脱色パーセントは、90%であった。活性炭処理の後のクラブラン酸の収率は、86%であった。
【0039】
実施例2
発酵で得られたクラブラン酸の水性ブロスを、活性炭処理の前に、濾過し、抽出し、そして30g/lに濃縮した。0.0057mの近似有効表面積を有する活性炭フィルタープレート(キュノ・リミテッド(CUNO Ltd.)製のゼータカーボン(Zetacarbon)(登録商標)R35、φ90mm)の入った単一フィルターユニットに500mlの濃縮抽出物を通した。フィルターユニットを介する濃縮抽出物を含む供給物の流量を0.03L/分に設定した。流束は、5.0L/分/mであった。脱色パーセントは、90%であった。炭素処理の後のクラブラン酸の収率は、90%であった。
【0040】
実施例3
濃縮クラブラン酸抽出物を含有する37.5リットルの供給物(25g/L)を逐次的に動作する3個の結合されたフィルターユニットに通した。各フィルターユニットには、約0.29mの有効表面積を有する新たな活性炭カートリッジ(キュノ・リミテッド(CUNO Ltd.)製のゼータカーボン(Zetacarbon)(登録商標)C08DB;R35S)が入っていた。供給物の流量は1.0L/分であり、流束は3.5L/分/mであった。位置番号1のフィルターユニットに不純な抽出物を含有する供給物を最初に供給した。位置番号2のフィルターユニットをフィルターユニット1からの流出物に暴露した。位置番号3のフィルターユニットをフィルターユニット2からの流出物に暴露した。第4の追加のフィルターユニットは、位置番号4で該シリーズ中に整列されていたが、該シリーズの3個のフィルターユニットには接続されていないので使用状態ではなかった。
【0041】
3個のフィルターユニットに37.5リットルの抽出物を通した後、供給物が最初に供給された1番目のフィルターユニットを該シリーズから取り外し、かつ前の位置番号4の追加のフィルターユニットを該シリーズに結合し、位置番号を新たに割り当てた。すなわち、前の位置番号4のユニットに今度は位置番号3を割り当て、前の位置番号3のユニットに今度は位置番号2を割り当て、前の位置番号2のユニットに今度は位置番号1を割り当てることにより、逐次的に動作する第2のシリーズの3個の結合されたフィルターユニットを形成した。ここで、該シリーズの第1および第2のフィルターユニットは、いずれも1回使用されたものであり、該シリーズの第3のフィルターユニットは新しいものである。フィルターユニットを取り外しかつ新たなフィルターユニットを結合した後、濃縮クラブラン酸抽出物を含有する37.5リットルの未炭素処理供給物をこの第2のシリーズの3個の結合されたフィルターユニットに通すことにより、供給を継続させた。この第2の濾過では、脱色パーセントは94%であった。クラブラン酸の全収率は、94%であった。
【0042】
実施例4
実施例3の活性炭処理を繰り返した。ただし、次の点が異なっていた。すなわち、3個の結合されたフィルターユニットよりなる第1および第2のシリーズのいずれにおいても、フィルターユニットには、それぞれ、位置番号1に2回使用されたカートリッジ、位置番号2に1回使用されたカートリッジ、および位置番号3に新たなカートリッジが収容されていた。第2の濾過では、脱色パーセントは93%であった。捕集された全脱色抽出物中のクラブラン酸の収率は、97%であった。
【0043】
実施例5
実施例4に従って活性炭処理を行った。クラブラン酸を含む供給物を第2のシリーズのフィルターユニットに通した後、21Lのエチルアセテートをフィルターユニットに通すことにより、フィルターユニット内に入っていた活性炭カートリッジを洗浄した。脱色パーセントは、94%であった。捕集された全脱色抽出物の収率は、98%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス中に固定された活性炭の入ったフィルターユニットを用いる活性炭処理を含む化合物の精製方法であって、該処理が、
a)逐次的に動作する第1のシリーズのn個の結合されたフィルターユニットに前記化合物を含有する好適な体積の供給物を通して流出物を得ることと、ここで、nは少なくとも2であり、該フィルターユニットは、該シリーズで位置番号1〜nが割り当てられ、かつ位置番号1は、該供給物が供給される最初の部分であり、
b)前記好適な体積の供給物を通した後、1〜n−1のいずれかの位置番号のフィルターユニットを該第1のシリーズのフィルターユニットから取り外し、かつ該取り外されたフィルターユニットの位置番号よりも大きい番号を有する任意の位置に新たなフィルターユニットを結合することにより、次のシリーズのフィルターユニットを形成することと、
c)前記次のシリーズのフィルターユニットに前記化合物を含有する次の好適な体積の供給物を通して次の流出物を得ることと、
d)場合により、aおよびcで得られた前記流出物を合わせることと、
e)前記流出物から前記化合物を回収することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記フィルターユニットが1〜n−1の位置番号で取り外され、かつ新たなフィルターユニットが位置番号n+1に結合される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フィルターユニットが位置番号1で取り外され、かつ新たなフィルターユニットが位置番号n+1に結合される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
逐次的に動作する結合されたフィルターユニットの数nが2〜10である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記処理が、バッチモード、半連続モード、または連続モードで操作される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記供給物の流量が、0.05〜400L/分、好ましくは20〜100L/分、より好ましくは30〜40L/分である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
マトリックス中に固定された前記活性炭がメンブレンシートの形態である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記メンブレンシートを介する流束が、1〜50L/m/分、好ましくは1.5〜20L/m/分、より好ましくは1.5〜10L/m/分である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
単一フィルターユニット中における前記化合物を含有する供給物の滞留時間が、少なくとも15秒間かつ最大60分間である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法がマイナス10℃〜40℃の温度で実施される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1個の取り外されたフィルターユニットが、溶媒ですすぐことによりin situで再生される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が不安定な化合物である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物が二次代謝産物またはタンパク質である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記二次代謝産物が、抗生物質、ビタミン、カロテノイド、およびPUFAからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物が、微生物を用いる発酵により得られる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記微生物がストレプトマイセス(Streptomyces)種である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ストレプトマイセス(Streptomyces)種が、S.クラブリゲルス(clavuligerus)、S.コエリカラー(coelicolor)、S.グリセウス(griseus)、S.ベネズエラ(venezuela)、S.ジュモンジネンシス(jumonjinensis)、S.カツラハマヌス(katsurahamanus)、およびS.オーレオファシエンス(aureofaciens)よりなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記化合物が、クラブラン酸、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、およびβ−カロテンよりなる群から選択される、請求項14〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記化合物を製薬上許容しうる塩または食品グレードの生成物に変換する工程をさらに含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−512232(P2007−512232A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530146(P2006−530146)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011387
【国際公開番号】WO2005/039756
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】