説明

活性物質を含む架橋したヒドロゲル

本発明は、少なくとも一つの生物学的活性物質の移動度を制御するための、生体適合性を有する準安定性中間材料に関する。本発明の一例は、酸化剤で処理することによって糖環が開環して、アルデヒド基を形成した、ヒアルロン酸ナトリウムの架橋によって形成されたヒドロゲルである。本発明のゲルは、例えば加圧滅菌によって滅菌される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的活性物質の移動度を調節するための、ゲルなどの生体適合性を有する準安定性中間材料に関連し、該中間材料は架橋され、活性化され、滅菌された、好ましくは加圧滅菌処理された多糖である。本発明は、医療用具としての、及び薬物の供給のための、該中間材料を調製する方法及びその使用にも関連する。さらに本発明は、少なくとも一つの準安定性中間材料、及び少なくとも一つの滅菌した生物学的活性物質を含む薬剤を供給する系、生物学的活性物質の投与のための、薬剤を供給する系の調製方法及びその使用に関連する。また、本発明は、第一成分が準安定性中間材料または薬剤を供給する系で、第二成分が生物学的活性物質である、少なくとも2つの組成物を含むキットに関連する。
【背景技術】
【0002】
医薬品及び医療用品を安全なものとするために多くの要求がなされており、その要求の一つは滅菌性である。熱、放射線もしくはガス、またはこれらの組み合わせは、胞子、細菌及びウイルスまたはこれらの好ましくない生育を引き起こす要因などの、好ましからざる成分をつぶして、製品に無菌性を与えるのに主に使用されている。次に、滅菌フィルターは、好ましからざる成分より活性物質を分離するために使用されている。
【0003】
タンパク質及びペプチドなどの生物学的活性物質は、加熱、放射線またはガス処理によって、変性または不活化するだろう。このように、これらの生物学的活性物質は、その大きさにより、ゲルなどの架橋した多糖には不適切な滅菌方法である、滅菌フィルターで滅菌されなければならない。したがって、ゲルなどの多糖担体、及びタンパク質またはペプチドなどの活性物質を含む医薬品は、最終製品の形態では滅菌できない。医薬品中に含まれるすべての成分は、結果として混合する前に滅菌されなければならない。
【0004】
一般的に、滅菌フィルター処理を必要とする生物学的活性物質は、通常は静脈内使用のための滅菌水である滅菌溶媒を用いて再構成される固体として供給される。このような水溶液による投与では、活性物質の移動度及び放出を制御するのは難しい。
【0005】
生物学的活性物質の放出を制御する既知の方法としては、前立腺がん及び子宮内膜症の治療用のゴナドトロピン放出ホルモンアナログを放出する、ポリラクチド−グリコリド共重合ミクロスフェア剤形であるLupron Depot(TAP Pharmaceuticals Inc. イリノイ州、米国)、ステロイド分散剤を充填したシリコンゴム管を含む、移植可能な避妊用Norplant (Population Councilの登録商標)(薬物の放出が管壁中のステロイドの透過性によって制御され、かつ数年間にわたりほぼ一定している)、及び再狭窄の軽減などの任意の薬理効果を達成するために、薬剤がコーティング内に取り込まれ、かつ特定の状態で放出される、ステント上への薬物供給コーティングなどがある。
【0006】
水が結合している多糖のゲルは、生物医学分野において、広く使用されている。一般的に、これらは無限の網(infinite network)とするために、ポリマーの化学的架橋で調製される。医学的用途に最も広く利用されている生体適合性を有するポリマーの一つは、多糖であるヒアルロン酸添加物である。ヒアルロン酸添加物がそれぞれの生物において同一の組成物として存在するならば、副反応は最小限となり、かつ高度な医学的用途を可能にする。他の生体適合性を有する多糖は、例えば、デキストラン、アルギネート、及びヘパリンである。
【0007】
N.Kashyap,N.Kumar及び M.N.V.Ravi Kumar によるCritical Reviews in Therapeutic Drug Carder Systems,22(2):107−149(2005)の総説「ヒドロゲルの薬学的及び生物医学的な応用(hydrogels for pharmaceutical and biomedical applications)」では、ヒドロゲルの利点及び欠点が記載されている。ヒドロゲルの利点は、例えば、優れた組織適合性、簡便な操作性、及び溶質透過性である。機械的強度の低さ、滅菌の困難さ、及び架橋による毒性などのいくつかの顕著な制約が、ヒドロゲルの欠点である。
【0008】
James R. Glass等(Biomaterials, vol 17, pages 1101−1108,(1996),“Characterization of hyaluronic acid−Arg−Gly−Asp peptide cell attachment matrix”)は、ヒアルロナンと過ヨウ素酸ナトリウムを架橋して、アルデヒド基を形成するための、BDDE(1,4−ブタンジニルジグリシジルエーテル:1,4−butanediyl diglycidyl ether)の使用を記載している。
【0009】
米国出願第2004/0077592号は、治療薬を供給するための生分解性担体を開示し、該担体は架橋した多糖を含んでいる。前記担体は、アルデヒド基を有する第一成分の多糖誘導体を、第二成分の多糖アミン誘導体と反応させることで調製され、前記担体は、2つの多糖が架橋した、ゲル様またはスポンジ様の形態となる。治療薬は、ゲル化の前に治療薬を一つの誘導体と混合するか、または薬剤溶液からの分散により、ゲル/スポンジ中に取り込まれる。薬剤はまた、担体上のアルデヒド基を、薬剤上のアミノ基と反応させることによって、ゲルまたはスポンジを形成する前に、担体と共有結合的に結合させることができる。滅菌最終生成物を作成するための方法は述べていないが、担体を調製するためのすべての成分は、これらのステップ後の滅菌がオプションでなくても、混合及び反応前に滅菌しなければならないとみなすことができる。
【0010】
米国特許出願第2007/0149441号(Aeschlimann 等)では、生理的条件下におけるヒアルロン酸の架橋を可能にする、種々の官能基でヒアルロン酸を化学修飾する方法が開示されている。この出願では、例えば、過ヨウ素酸ナトリウムを用いた、アルデヒド基を供給するためのヒアルロン酸の活性化と、これを天然型HYA及びいくつかの生物活性分子と結合させる工程は、細胞に認識されない状態にする天然型の骨格構造を損失するため、最終架橋ゲルの生体適合性を減じるであろうと認識されている。この出願のAeschlimann等は、所望の架橋及び生体分子の結合をもたらす、さまざまな官能基の導入を含む比較的複雑な工程によって、この問題を解決している。
【0011】
Robert A.Peattie等の論文(Biomaterials, vol 27, issue 9, p1868−1875,(2006),“Dual growth factor−induced angiogenesis in vivo using hyaluronan hydrogel implants”)では、タンパク質/ペプチドの担体またはマトリックスとしてのヒアルロナンの使用であって、すべてのステップの反応が無菌条件下で行われ、またこれによって提供されるフィルムは、用事まで無菌状態で保存されることが記載されている。
【0012】
投与後に生物学的活性物質の移動性を制御する、滅菌した供給方法の改良が、いまだに必要とされている。同様に、生物学的活性物質を含む、薬剤を供給する系を調製するための方法の改良が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、生物学的活性物質の移動度を制御するのに使用できる、生体適合性を有する滅菌した準安定性中間材料を提供することにより、先行技術の方法の欠点を、少なくとも部分的に克服する。当業者は出願時において、多糖をアルデヒド基で活性化することを知っていた。このような官能基が存在する場合、生物学的活性物質のアミノ基と共有結合し得る。しかしながら、このようなゲルは、活性を失うことなく、すなわち、アルデヒド基の喪失なしに、及び/またはゲルの特性を失う範囲でのゲルの分解なしに、加圧滅菌によって滅菌することができないと考えられていた。
【0014】
本発明の第一の態様においては、生体適合性を有する準安定性中間材料であって、該中間材料が架橋、活性化、滅菌、好ましくは加圧滅菌された、所望の程度で生物学的活性物質と結合するためのアルデヒド基を含む多糖である、生体適合性を有する準安定性中間材料が提供される。
【0015】
本発明の第二の態様では、準安定性中間材料を調製するための方法を提供する。
【0016】
本発明の別の態様においては、医療用具としての、及び薬物供給用の、準安定性中間材料の使用が提供される。
【0017】
本発明のさらに別の態様では、組織再生用などの、少なくとも一つの生物学的活性物質の移動性を制御するための、生体適合性の薬剤を供給する系が提供され、該系は少なくとも一つの本発明の準安定性中間材料、及び少なくとも一つの無菌の生物学的活性物質を含む。
【0018】
本発明のさらなる態様では、少なくとも一つの本発明の準安定性中間材料ゲル、及び少なくとも一つの無菌の生物学的活性物質を含む、薬剤を供給する系を調製するための方法が提供される。
【0019】
本発明のまた別の態様では、生物学的活性物質を投与するための該系の使用が提供される。
【0020】
さらに、本発明の一態様においては、第一成分が本発明の準安定性中間材料または本発明の薬剤を供給する系、及び第二成分が好ましくは無菌の生物学的活性物質である、少なくとも2つの成分を含むキットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、第一の態様において、生物学的活性物質の移動性を制御するための、生体適合性を有する準安定性中間材料に関する。該準安定性中間材料は、生物学的活性物質と結合するためのアルデヒド基を有する、架橋され、活性化され、滅菌され、好ましくは加圧滅菌された多糖である。該準安定性中間材料は、水溶液に不溶である。
【0022】
本出願において、いくつかの用語及び表現は、以下の意味を与えられる。
【0023】
用語「活性化された」は、タンパク質及びペプチドなどの、他の分子の官能基(アミノ)との反応が企図された官能基(アルデヒド)を含むという、架橋された多糖材料の特性を記載するために使用される。用語「活性アルデヒド基」は、タンパク質及びペプチドなどの、他の分子のアミノ基と共有結合するための使用が企図され、及び反応性である、材料中に含まれるアルデヒド基を意味するものとして解釈されなければならない。したがって、本発明における活性アルデヒド基は、架橋には使用されない。
【0024】
「準安定性」は、保存時において特性を維持し、かつある分子に対して反応的である材料を意味する。
【0025】
「ゲル」は、液体媒質のある体積に亘って広がり、かつ液体媒質に不溶の、多糖分子などの、相互に結合した分子の多孔質ネットワークを意味する。
【0026】
「加圧滅菌」は、蒸気消毒を意味する。
【0027】
「生物学的活性物質」は、タンパク質及びペプチドなどの、アミノ基を含む化合物を意味する。
【0028】
準安定性中間材料の多糖は、デキストラン、アルギネート、キトサン、デンプン、セルロース、ヒアルロン酸及び他のグルコサミノグリカンならびにこれらの誘導体からなる群より選択され、好ましくはヒアルロン酸である。
【0029】
用語「ヒアルロン酸」は、ヒアルロナンと相互的に置換することができ、ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ナトリウムなどの、いくつかの塩形態で存在し得る。
【0030】
本発明の第一の態様による準安定性中間材料は、生体適合性であること、並びに架橋され、活性化され、及び滅菌されることによって特徴付けられ、好ましくは加圧滅菌されている。これは、ゲルなどの材料を、生物学的活性物質用の担体またはマトリックスとして使用し、例えば皮下もしくは筋肉注射で患者に投与、または患者に埋め込むことを可能にする。加圧滅菌された場合、及び過ヨウ素酸ナトリウムを使用して酸化された場合にも、ヒアルロナンが分解することは周知であるが、驚くべきことに、低度に架橋されたヒアルロナン材料は、酸化及び加圧滅菌の両方をされて活性化状態を維持することが可能であり、生体適合性及び形態を維持している。高度に架橋したヒアルロナンゲルは酸化及び加圧滅菌に耐え得るかもしれないが、高度の分子の修飾による副作用を導き、生細胞による認識が低い可能性がある。
【0031】
好ましくは、準安定性中間材料はゲルである。ゲルは、粒子状であり得、またはフィルムを構成し得る。粒子形態では、ゲルは注射器によって容易に注入され得る。準安定性中間材料は、心臓弁などの多糖でできた別の物理的実体(physical entity)の形態であり得、または、実体が生体適合性になるような方法で、物理的実体上に被覆され得る。
【0032】
本発明に従い生産された準安定性中間材料は滅菌され、好ましくは加圧滅菌され、かつ活性の顕著な損失、すなわち活性アルデヒド基の損失がなく、または材料の他の特性を損なうことなく、任意の期間保存され、保存すること、及び最終加工者または使用者への輸送が可能となる。
【0033】
製造の観点から、本発明は顕著に製造工程を簡素化し、無菌性の保証を増加し、かつ無菌で調製された系と比較して、薬剤を供給する系を調製するための経費を減少する。
【0034】
本発明の準安定性中間材料は、ペプチド及びタンパク質などの、アミノ基を有する化合物と反応可能な、活性アルデヒド基を有する。準安定性中間材料のさらなる特性は、例えば、目及び膝、外科手術の部位及び腫瘍組織内などの局所に生物学的活性物質を作用させることを可能にする、長時間にわたり投与部位に残存する能力であり、これによって持続放出または徐放を示す。
【0035】
本発明の第二の態様は、ゲルなどの準安定性中間材料を調製する方法に関し、
a)ゲルなどの材料を形成させるため多糖を架橋させるステップ、またはゲル形態などの架橋した多糖を提供するステップと、
b)前記架橋した多糖材料を酸化剤で処理して、糖環を開環させて活性なアルデヒド基を形成するステップと、
c)もし存在していれば、未反応の架橋剤、及び酸化剤を、除去及び/または中和するステップと、
d)ゲルを滅菌処理に付するステップ、
とを含む。
【0036】
ステップd)の滅菌処理は、好ましくは加圧滅菌によって行われる。
【0037】
多糖を架橋させてゲルなどの材料を形成する方法は、当業者に周知である。好ましくは、架橋は周知の架橋剤であるBDDE(1,4ブタンジイルジグリシジルエーテル:1,4−butanediyl diglycidyl ether)を含むNaOH溶液を使用して行われる。架橋したゲルはQ−Med AB 社(スウェーデン)などの企業により市販されている。ゲルが最初から加圧滅菌されているかどうかは、本発明の方法には無関係である。重要なのは、後続のゲルなどの材料の処理をするために、架橋の最初の程度を調節することであるが、注意すべきは、生体適合性を維持することである。
【0038】
アルデヒド基の形成は、酸化剤の使用によって達成され、好ましくは過ヨウ素酸ナトリウムであり、多糖と過ヨウ素酸ナトリウムとの反応によって達成される。使用する酸化剤の量は、ゲルの量、所望の活性アルデヒド基の数(活性化の程度)、及び反応時間に依存する。 通常、該反応は室温で行われるが、他の温度でも反応を行うことができる。アルデヒド基を形成する目的は、生物活性分子が準安定性中間材料と共有結合することを可能にするためであって、何らかの架橋に使用するためではないことを強調しておく。
【0039】
洗浄ステップにおいて、残っている場合には、未反応の架橋剤、及び酸化剤は、塩、緩衝液、エタノールまたはこれらの組み合わせを含む水溶液を用いる洗浄によって除去される。好ましくは、脱イオン水または0.9%NaCl溶液が、洗浄ステップに使用される。
【0040】
加圧滅菌は、医療器具及び医薬産業において一般的な標準手順を用いて、蒸気滅菌によって適切に行われる。好ましくは、加圧滅菌は121℃、20分で行われる。
【0041】
本発明に従って、準安定性中間材料は再現可能な様式で生産することができ、かつさらなる使用に先立って、特徴付けられ、かつ詳細に記載することができる。本発明は、異なる目的に使用することができる、異なる架橋及び活性度を有する材料の生産も可能にする。異なる架橋及び活性度のゲルの組み合わせは、所望の耐久性及び/または活性を達成するために、組み合わせることができる。
【0042】
本発明の別の態様は、ゲルなどの準安定性中間材料の、医療用具としての、及び薬物を供給するための使用に関する。このような医療用具の典型的な例は、ステント、カテーテル、軟移植組織及び心臓弁である。薬物供給に対して、材料は、抗がん剤、毒素、成長因子及び抗生物質などの、ワクチン及び薬剤の供給用の担体またはマトリックスとして使用し得る。
【0043】
さらに別の態様では、本発明は、ゲルなどの少なくとも一つの準安定性中間材料と、少なくとも一つの滅菌した生物学的活性物質とを含む、少なくとも一つの生物学的活性物質の移動性を制御する、生体適合性を有する薬剤を供給する系に関し、該生物学的活性物質は準安定性中間体ゲルと共有結合する。前記系は、異なる架橋度及び/または異なる活性度、すなわち、タンパク質及びペプチドなどの生物学的活性物質のアミノ基と結合するための、異なる量の活性アルデヒド基を有する、ゲルなどの準安定性中間材料を含み得る。生物学的活性物質の例としては、成長因子、抗癌剤、抗炎症剤、毒素及び抗原である。任意の共有結合物質に加え、ゲルは、投与後の迅速投与(boost dosage)に使用される、少なくとも一つの非結合生物学的活性物質を含むことがあり得る。
【0044】
多くのタンパク質及びペプチドは大変高価であるため、本発明のゲルなどの、改良した特性を有する準安定性中間材料の使用は、失敗のリスクを最小化するため、生産コストは減少する。
【0045】
本発明は、所望により、さらなる還元のための還元剤の存在下で、少なくとも一つの生物学的活性物質を、少なくとも一つの準安定性中間材料と接触させることによって、シッフ塩基の形成を通じて、生物学的活性物質を準安定性中間材料の活性なアルデヒド基と共有結合させるステップを含む、前記薬剤を供給する系を調製する方法のさらなる態様に関する。
【0046】
還元剤の使用は、生物学的活性物質と準安定性中間材料との間の結合を高度に安定化し、かつ水性環境下において容易に加水分解されない結合に転換する。還元剤の使用による前記結合の転換は、加水分解されることができない結合に関する化学平衡のシフトによるものであり、かつその結果として、生物学的活性物質はより安定に準安定性中間材料に結合する。還元剤は、例えば、シアノ水素化ホウ素、水素化ホウ素ナトリウム、及びアスコルビン酸が挙げられ、本発明ではアスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸の使用は、さらなる精製なしに、即時使用可能な生産物を与える。
【0047】
好ましくは、還元剤は生物学的活性物質と準安定性中間材料ゲルとの混合時に、または混合開始時に添加される。
【0048】
生物学的活性物質にアミノ基が含まれていればいるほど、ゲルへの結合部位の数が多くなり、還元剤の使用の必要性が少なくなる。
【0049】
さらなる態様において、本発明は、生物学的活性物質の投与のための前記系の使用に関する。本発明の重要な特徴は、例えば静脈投与法で投与したら、望ましくない全身的作用を引き起こすであろう、多種多様の物質を局所に置くことの可能性である。これは特に、いくつかの点で物質が毒性な場合、及び該毒性が体内の特異的な傷害部位において局所治療に使用される場合である。典型的な例は、例えば癌腫瘍の治療用の毒素であるだろう。
【0050】
得られるアルデヒド−アミン結合が異なる加水分解性を示す、異なる架橋及び活性度を有する生体適合性を有する準安定性中間材料の、それに結合する生物学的活性物質との組み合わせでの使用は、生物学的活性物質の所望の放出特性を有する系を提供する。低度の架橋度を有する多糖材料は、一旦患者の体内に投与されれば、高度の架橋度を有する多糖材料よりも早く分解するだろう。したがって生物学的活性物質は、例えば迅速投与として、架橋度の低い材料に結合した場合、それらを速く分解する身体能力のため、架橋度の高い材料に結合した場合と比べて、準安定性中間材料より迅速に放出されるだろう。「分解」とは、準安定性中間材料の体内におけるプロセスによる分解を意味する。準安定性中間材料の活性度はまた、生物学的活性物質の所望の放出特性の制御を可能な状態にし、より多くのアルデヒド基が存在すれば、生物学的活性物質中のアミノ基の結合部位の数が高くなる。準安定性中間材料のアルデヒドと、生物学的活性物質のアミド基との間の結合の加水分解性はまた、活性物質の放出を制御する機序を与える。
【0051】
例えば、前記系は、例えば準安定性中間材料に結合した成長因子BMP(骨形成タンパク質)を含む組織再生に使用し得、BMPは、ゲルなどの準安定性中間材料の患者への投与後体内で分解されて、放出されるだろう。例えば、前記系は、準安定性中間材料に結合した抗原を含むワクチンとしても使用される。
【0052】
例えばペプチド及びタンパク質、またはホルモンなどのアミン官能性を有する物質を結合するゲルの能力は、現在使用されている方法と比較して、潜在的に優れた挙動を示し、応用の全領域を開拓するだろう。
【0053】
これは、持続性薬剤の投与によって投与率が実質的に減少するという点において、また大変大きな経済的影響を有する。先行技術の方法の臨床研究において、投与率が週2回から、月1回に減少、すなわちほぼ90%減少することを示すことが可能であった。例えば、大変高価な薬物である成長ホルモンまたは貧血に関連するホルモンに対して、これは顕著な節約を意味する。
【0054】
タンパク質及び他の複合体物が、本発明によるゲルなどの材料へ結合することのさらに有利な点は、このような物質が、物質の天然状態、すなわち化合物自体への修飾がないことが必要ではない状態で、事実上使用することができることである。唯一の「修飾」は、いくつかの官能基がゲルとの結合に使用されることであるが、一旦ゲルから放出されると、このような結合は物質に影響しないだろう。
【0055】
本発明のまたさらに別の態様においては、第一成分が本発明の準安定性中間材料または本発明の薬剤を供給する系で、第二成分が生物学的活性物質である、少なくとも2つの組成物を含むキットが提供される。準安定性中間材料は、ゲル、フィルム、または該材料で作成した若しくは該材料で被覆した物理的実体であり得る。薬剤を供給する系は、少なくとも一つの準安定性中間材料、及び少なくとも一つのゲルに結合した生物学的活性物質を含む。さらに、結合していない生物学的活性物質が準安定性中間材料中に存在し得、これは例えば拡散によって材料中に導入される。
【0056】
例えば、使用前に混合するために、準安定性中間材料または薬剤を供給する系は、バイアルで、及び生物学的活性物質は注射器で供給される、キットを提供することが考えられる。他の可能なキットは 準安定性中間材料または薬剤を供給する系、及び生物学的活性物質をそれぞれ含む注射器を含み、混合は2つの注射器を接続後、注射器を交互に空にすることによって、これらの内容物を混合することにより行われる。
【0057】
本発明のキットは、最低6ヶ月間、好ましくはそれ以上の保存においてその特性を維持できる。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
(活性化されたゲルの調製)
ブフナー漏斗を用いて、Restylane Sub Q(Q−Med社(Uppsala,スウェーデン)で製造され、及び同社より入手可能)を0.9%NaCl溶液で洗浄した。約9.7gの洗浄したゲルを、9.7gの過ヨウ素酸ナトリウム酸化剤溶液(0.9%NaCl溶液中で2.3mM)と2分間混合した。0.9%NaClを用いてゲルを繰り返し洗浄後、121℃で20分間、加圧滅菌した。BCA(ビシンコニン酸;Pierce社より入手可能なタンパク質測定試薬)を用いて、色が変わることによって、ゲルはアルデヒド基を有することを示した。過ヨウ素酸または加圧滅菌のいずれでも処理されていない、洗浄したSub Qゲルは、測定可能量のアルデヒド基の兆候を示さなかった。
【0059】
[実施例2]
(活性化されたゲルの調製及び活性のテスト)
架橋したヒアルロン酸を含むゲルであるRestylane Sub Q(Q−Med社(Uppsala, スウェーデン)で製造され及び同社より入手可能)に、酸化剤として過ヨウ素酸ナトリウムを加えた。約40分後、混合物を数回脱イオン水で洗浄した。アルデヒド活性を試験するために、フクシンの水溶液を洗浄したゲルに加えた。約25分後、ゲルを0.9%NaCl溶液で繰り返し洗浄した。ゲルは深紅であり、アルデヒド基が存在することにより、フクシンがゲルに付着していたことを示した。過ヨウ素酸で処理しなかったゲルは、わずかに発色した。
【0060】
[実施例3]
(架橋したゲルの調製及び酸化剤の量を変化させたことによる活性化に及ぼす効果)
ヒアルロン酸ナトリウムをBDDEを用いて架橋して、ゲルを形成した。ゲル片を異なる量の過ヨウ素酸ナトリウム(0〜40mgの範囲)で、室温で40分間処理後、0.9%NaClを使用して広範囲に洗浄した。BCA(Pierce社より入手可能なタンパク質測定試薬)を用いて、ゲル片中に見出されるアルデヒド基の量は、過ヨウ素酸ナトリウムの増加量と共に増加することを、変色により示した。
【0061】
[実施例4]
(異なる程度で活性化されたゲルの加圧滅菌)
実施例3に従い準備した一連のゲル片を、121℃で20分間、加圧滅菌した。30及び40mgの過ヨウ素酸ナトリウムで処理したサンプルは、ゲル粒子よりは粘性溶液の挙動を示した。 しかしながら、過ヨウ素酸ナトリウム(すなわち10及び20mgの濃度?)で処理した残りのサンプルは、なおゲル形態であって、かつBCAでは活性化が維持されており、アルデヒド基を含んでいた。
【0062】
[実施例5]
(活性化していないゲルと比較した場合の活性化したゲルへのタンパク質の結合)
FITC−アルブミン溶液を一方は活性化した、他方は活性化していないヒアルロナンゲルに、リン酸緩衝液中で添加した。活性化したゲルは明るい黄色であり、FITC−アルブミンがゲルに付着したことを示した。活性化していないゲルは透明であり、ほとんど黄色を呈さなかった。
【0063】
[実施例6]
(加圧滅菌処理した異なる活性化度でのゲルへのタンパク質の結合)
実施例4で作成した活性化後加圧滅菌したゲルのそれぞれに、FITC−アルブミン溶液を加えた。20mgの過ヨウ素酸ナトリウムで処理したゲルは最も黄色く、0.4mgの過ヨウ素酸ナトリウムで処理したゲルは最も黄色が薄かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの生物学的活性物質の移動度を制御するための、生体適合性を有する準安定性中間材料であって、前記準安定性中間材料は、所望の程度で生物学的活性物質と結合することができるアルデヒド基を含む、架橋され、滅菌された多糖であることを特徴とする、生体適合性を有する準安定性中間材料。
【請求項2】
前記材料は加圧滅菌によって滅菌されていることを特徴とする、請求項1に記載の準安定性中間材料。
【請求項3】
前記多糖はデキストラン、アルギネート、キトサン、デンプン、セルロース、ヒアルロン酸及び他のグルコサミノグリカン並びにこれらの誘導体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の準安定性中間材料。
【請求項4】
前記多糖はヒアルロン酸であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の準安定性中間材料。
【請求項5】
前記材料はゲルであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の準安定性中間材料。
【請求項6】
前記材料は少なくとも部分的に前記材料で作成された物理的実体であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の準安定性中間材料。
【請求項7】
前記材料はすべて前記材料で作成された物理的実体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の準安定性中間材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の準安定性中間材料を調製するための方法であって、
a)材料を形成するために多糖を架橋させる、または架橋された多糖材料を準備するステップと、
b)前記架橋された多糖材料を酸化剤で処理して、糖環を開環させてアルデヒド基を形成するステップと、
c)未反応の架橋剤及び前記酸化剤を除去及び/または中和するステップと、
d)前記ゲルを滅菌に付するステップ
とを含む、準安定性中間材料を調製するための方法。
【請求項9】
前記ステップd)は、前記ゲルを加圧滅菌に付するステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
医療用具としての、及び薬物供給用の、請求項1〜7のいずれか一項に記載の準安定性中間材料の使用。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の少なくとも一つの準安定性中間材料ゲル、及び前記準安定性中間材料と前記材料中のアルデヒド基を介して共有結合した、少なくとも一つの滅菌した生物学的活性物質を含む、少なくとも一つの生物学的物質の移動性を制御するための、生体適合性の薬剤を供給する系。
【請求項12】
前記生物学的活性物質がタンパク質またはペプチドであることを特徴とする、請求項11に記載の系。
【請求項13】
前記生物学的活性物質が滅菌されていることを特徴とする、請求項11または12に記載の系。
【請求項14】
前記生物学的活性物質を前記準安定性中間材料に接触させるステップであって、前記材料中のアルデヒド基を介して、前記生物学的活性物質が前記準安定性中間材料と共有結合するステップ、を含む、請求項11〜13のいずれか一項に記載の系を調製する方法。
【請求項15】
前記材料中のアルデヒド基を介した、前記生物学的活性物質の前記準安定性中間材料ゲルへの結合が、還元剤の存在下で起こる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記還元剤がシアノ水素化ホウ素または水素化ホウ素ナトリウムである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記還元剤がアスコルビン酸である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
生物学的活性物質の投与のための、請求項11〜13のいずれか一項に記載の系の使用。
【請求項19】
第一成分が請求項1〜7のいずれか一項に記載の準安定性中間材料、または請求項11〜13のいずれか一項に記載の系であって、第二成分が生物学的活性物質である、少なくとも2つの成分を含むキット。
【請求項20】
前記生物学的活性物質が滅菌されていることを特徴とする、請求項19に記載のキット。

【公表番号】特表2011−507841(P2011−507841A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539390(P2010−539390)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国際出願番号】PCT/SE2008/051550
【国際公開番号】WO2009/082354
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510170936)エンセコール アーベー (1)
【Fターム(参考)】