説明

活性酸素測定方法及び活性酸素測定装置

【課題】本発明が解決しようとする課題は、ヒトを含む動物や植物由来検体から、特定の細胞の分画、希釈、測定妨害物質除去等の前処理をすることなく、簡便かつ精度よく検体の活性酸素の測定をすることである。
【解決手段】本発明は、近赤外発光化合物を検体に添加する工程、及び当該近赤外発光化合物を添加した検体の発光強度を、−5〜20℃に冷却したセンサーを用いて測定する工程を含む、活性酸素の測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の活性酸素を測定する方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血中の免疫細胞等から発生する活性酸素の測定は、採血した血液から、好中球、顆粒球等の目的とする細胞を分画した上で、薬剤等の刺激により発生した活性酸素と発光化合物との反応により生じた微弱発光を、発光測定装置にて測定するか、血液を希釈し、薬剤等の刺激により血中の細胞から発生した活性酸素と発光化合物との反応により生じた微弱発光を、発光測定装置にて測定する方法により行われていた。
【0003】
また、動物の生体組織から発生する活性酸素の測定は、採取した生体組織から、活性酸素発生および活性酸素測定を妨害する血液成分や組織成分等を除去する必要があった。
【0004】
あるいは、植物由来の検体においての活性酸素測定では、活性酸素測定の妨害となるクロロフィルや植物成分、特に色素を除去する必要があった。
【0005】
これらの検体における活性酸素測定方法においては、発光化合物として、Luminol、MCLA等が用いられていたが、その発光波長は、400〜500nmであり、多くが血液成分、生体組織成分、植物成分に吸収され、正確な活性酸素測定は行うことが困難である。従って、上記のような検体の前処理が必要であった。
【0006】
例えば、血液から特定の細胞を分画する操作は、非常に煩雑である。また、操作に時間がかかるため、細胞の生物活性が低下する。よって、細胞から発生する活性酸素量は、採血してからの経過時間の影響をうける。さらに、操作が煩雑であることから、複数個体の活性酸素測定をすることには、不向きであるといった欠点があった。生体組織からの血液成分、色素成分の除去は、煩雑であり、その間に短寿命な活性酸素は消滅し、本来の目的とする活性酸素を測定することは不可能となる。また、植物由来の検体の場合には、植物由来色素や植物組織の除去を行う必要があり、その操作は、煩雑であり、その間に短寿命な活性酸素は消滅し、本来の目的とする活性酸素を測定することは不可能となる。
【0007】
かかる状況のもと、本発明者らは、光透過性に優れる近赤外光の発光を誘導する発光化合物の合成に成功している(特許文献1)。
【0008】
しかし、従来の測定装置及び測定方法では、かかる発光化合物を用いても、S/N比(Signal to Noise ratio)が小さいため、精度よく活性酸素の測定をすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
特開2009−215174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、ヒトを含む動物、植物等に由来する検体から、特定の細胞の分画、希釈、測定妨害物質除去等の前処理をすることなく、精度よく検体の活性酸素の測定をすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような状況の下、本発明者らは、鋭意研究した結果、発光化合物として、光透過性に優れる近赤外光を発する近赤外発光化合物を用い、活性酸素と発光化合物との反応により生じた近赤外光の発光強度を、特定の温度に冷却したセンサーを用いて、高い時間分解で、高感度で、高いS/N比で、生体に近い状態で、リアルタイムで測定することにより、精度よく目的とする活性酸素の測定ができることを見出した。本発明は、係る新規の知見に基づくものである。
【0012】
従って、本発明は、以下の項を提供する:
項1.近赤外発光化合物を検体に添加する工程、及び
当該近赤外発光化合物を添加した検体の発光強度を、−5〜20℃に冷却したセンサーを用いて測定する工程
を含む、活性酸素の測定方法。
【0013】
項2.前記近赤外発光化合物が、下記一般式(I)で表わされるインドシアニン結合型イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン化合物又はその塩である、項1に記載の活性酸素測定方法:
A−B−C (I)
[式中、Aは、下記一般式(II)で表わされるイミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン基を示す:
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R、R、R、及びRは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシル基、カルボキシル基、ホルミル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基又は複素環を示す。
但し、R、R、R、及びRのうち1つがスペーサー基Bに共有結合する。)
基Bは、スペーサー基を示す。
基Cは、下記式(III)で表わされるインドシアニン基を示す:
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、及びR25は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシル基、カルボキシル基、ホルミル基、スルホニル基、スルホン酸基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アリールオキシ基、アルキルペルオキシ基又は複素環を示す。
15及びR17は、これらが互いに結合して、不飽和4〜10員環を形成してもよい。
但し、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、及びR25のうち1つがスペーサー基Bに共有結合する。)]
項3.前記近赤外発光化合物が、下記式(IV)又は(V)で表わされるインドシアニン結合型イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン化合物である、項1に記載の活性酸素測定方法。
【0018】
【化3】

【0019】
[式中、R16’は、アルキル基、アルコキシル基又はアリール基を示す。
Mは、水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。
kは、1〜7の整数を示す。
lは、1〜7の整数を示す。
mは、1〜7の整数を示す。
【0020】
【化4】

【0021】
[式中、Mは、同一又は異なって、水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。
k及びmは前記に同じ。
n及びpは、同一又は異なって、1〜7の整数を示す。
【0022】
項4.前記近赤外発光化合物が、下記式(VI)又は(VII)で示されるインドシアニン結合型イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン化合物である、項1に記載の活性酸素測定方法。
【0023】
【化5】

【0024】
[式中、Mは、同一又は異なって、水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。]。
【0025】
【化6】

【0026】
項5.近赤外発光化合物を導入するセル、
発光強度を測定するための手段、及び
当該発光強度測定手段を−5〜20℃に冷却する冷却手段、
を備えた、活性酸素の測定装置。
【0027】
項6.近赤外発光化合物及び請求項5に記載の活性酸素の測定装置を含む、活性酸素を測定するためのキット。
【発明の効果】
【0028】
本発明の方法によれば、ヒトを含む動物から採血した血液から、特定の細胞の分画、希釈等の前処理をすることなく、簡便かつ精度よく活性酸素を測定することができる。従って、細胞が潜在的に有する活性酸素を発生する能力を、より生体内に近い状態で評価することが可能となる。
【0029】
また、本発明の方法によれば、動物の生体組織から発生する活性酸素の測定を、採取した生体組織から、活性酸素発生および活性酸素測定を妨害する血液成分や組織成分あるいは組織固定物等を除去する必要なく簡便かつ精度よく活性酸素を測定することができる。
【0030】
さらには、本発明の方法によれば、植物由来の検体においての活性酸素測定では、活性酸素測定の妨害となるクロロフィルや植物成分、特に色素を除去する必要なく簡便かつ精度よく活性酸素を測定することができる。
【0031】
また、本発明の方法によれば、検体から自発的に発生するか、又は検体が含有する活性酸素の測定だけでなく、検体に活性酸素の発生又は活性酸素自体を添加した後に活性酸素の測定を行うことにより、検体の抗酸化能を測定・評価することもできる。例えば、ワイン等の検体に、活性酸素の発生系、例えば、キサンチン及びキサンチンオキシダーゼを添加した後、活性酸素を経時的に測定することにより、検体の抗酸化能を測定・評価することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の一つの実施形態における活性酸素測定装置の概略図を示す。
【図2】図2は、実施例1において、ヒト全血試料から発生した活性酸素と近赤外発光化合物との反応により生じた近赤外光の発光強度の経時的変化を示す。
【図3】図3は、実施例3において、ウシ血液試料から発生した活性酸素と近赤外発光化合物との反応により生じた近赤外光の発光強度の経時的変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
近赤外発光化合物
本発明において用いる、近赤外発光化合物としては、活性酸素と反応して、近赤外発光波長で発光を生じるものであればよい。
【0034】
好ましい実施形態において、近赤外発光化合物としては、一般式(I)で表わされるインドシアニン結合型イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン化合物又はその塩を挙げることができる:
A−B−C (I)。
[式中、A、B及びCは前記の通り]。
【0035】
ここで、スペーサー基Bとしては、基Aと基Cとを結合することができるものであれば、特に限定されず、例えば、下記一般式(VIII)で示される基を挙げることができる:
−(CH−(C=O)NH−(CH−NH(C=O)−(CH
(VIII)
[式中、k、n及びpは前記に同じ。]。
【0036】
また、前記一般式において示される各基は、具体的には次の通りである。
【0037】
アルキル基としては、炭素数1〜20、の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。より具体的には、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコサニル等が含まれる。
【0038】
アリール基としては、炭素数6〜20個の芳香族炭化水素を挙げることができる。より具体的には、例えば、フェニル、ナフチル等が含まれる。
【0039】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0040】
アルコキシル基としては、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシル基を挙げることができる。より具体的には、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、メチキシエトキシ、メトキシプロポキシ、エトキシエトキシ、エトキシプロポキシ、メトキシエトキシエトキシ基等が含まれる。
【0041】
アルキルオキシカルボニル基としては、アルキル部分が前記で例示したアルキル基であるアルキルオキシカルボニル基を挙げることができる。
【0042】
アリールカルボニル基としては、アリール部分が前記で例示したアリール基であるアリールカルボニル基を挙げることができる。
【0043】
複素環基としては、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を1〜4個有する5〜15員の単環、二項環または三項環の飽和または不飽和の複素環基を挙げることができる。このような複素環基としては、例えば、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ジヒドロピラゾリル、ピリジル、ピリジルN−オキシド、ジヒドロピリジル、ピリミジニル、テトラヒドロピリミジニル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、トリアゾリル、テトラジニル、テトラゾリル、ピロリジニル、ピペリジル、ピペラジニル、ジアゼパニル、インドリル、イソインドリル、インドリニル、ベンゾイミダゾリル、キノリル、ジヒドロキノリル、イソキノリル、インダゾリル、チエニル、テトラヒドロチエニル、フリル、ジオキソール、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル等が挙げられる。
【0044】
アリールオキシ基としては、アリール部分が前記で例示したアリール基であるアリールオキシ基を挙げることができる。
【0045】
アルキルペルオキシ基としては、アルキル部分が前記で例示したアルキル基であるアルキルペルオキシ基を挙げることができる。
【0046】
アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0047】
アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。
【0048】
近赤外発光化合物の製造方法
一般式(I)で表されるインドシアニン結合型イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン化合物は、種々の方法により製造され得るが、その一例を示せば、例えば、下記反応式−1で示される方法により製造される:
反応式−1
A−B01 + B02−C → A−B−C
ここで、基B01及びB02基は、互いに反応してスペーサー基Bを形成するものであれば、特に限定されない。
【0049】
基B01としては、例えば、基−(CH−(C=O)NH−(CH−NH
[式中、n及びpは前記に同じ。]、
基−(CH−COOH
[式中、nは前記に同じ。]
等を挙げることができる。
【0050】
基B02としては、例えば、基−(CH−(C=O)NH−(CH−NH
[式中、k及びpは前記に同じ。]、
基−(CH−COOH
[式中、kは前記に同じ。]
等を挙げることができる。
【0051】
本反応は、通常、反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、トリフルオロエタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジグライム等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;または他の有機溶媒中で行われる。さらに、本反応は、これらの慣用の溶媒の混合溶媒中で行われる。
【0052】
上記反応式−1における化合物A−B01と化合物B02−Cとの使用割合は、通常前者1モルに対し後者を1〜10モル、好ましくは1〜2モルとすればよい。
【0053】
反応温度は特に限定されず、通常、冷却下、室温下及び加熱下のいずれでも反応が行われる。上記反応は、好ましくは、室温付近の温度条件下に1〜30時間行うのがよい。
【0054】
本発明の好ましい実施形態において用いられる、前述の一般式(IV)で表わされるインドシアニン結合型イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン化合物は、例えば、以下の工程1〜5により、製造することができる。
【0055】
【化7】

【0056】
<工程1>
新規インドシアニン化合物である一般式(XII)で表わされる化合物(以下、単に化合物(XII)と示すこともある。同様に、一般式(I)〜(XV)で表わされる化合物もそれぞれ、単に化合物(I)〜(XV)と示すこともある。)は、例えば文献Cyaninedye labeling reagents: sulfoindocyanine succinimidyl esters, R. B. Mujumdar, L.A. Ernst, S. R. Mujumdar, C. J. Lewis, A. S. Waggoner, Bioconjugate Chem., 4,105-111 (1993).に記載の方法に準じて、化合物(IX)、化合物(X)及び化合物(XI)より合成することができる。例えば、化合物(IX)、化合物(X)及び、2-[6-acethlphenylamino]1,3,5-hexatrienyl]-3,3-dimethyl-5-sulfo-1-(4-sulfobutyl)3-H-indoliumをモル比1:1:1の混合比で、メタノール中、酢酸ナトリウム及び化合物(XI)を加え、室温から70℃で1時間から3時間反応することにより得ることができる。
【0057】
<工程2>
新規インドシアニン化合物である化合物(XIII)は、例えば、化合物(XII)をメタノール中、ナトリウムメトキシドやカリウムメトキシド等の金属アルコキシドを加え、室温から70℃で1時間から50時間反応することにより得ることができる。
【0058】
<工程3>
化合物(XIV)は、化合物(XIII)をピリジンとN,N-ジメチルホルムアミドとの混合液中で、室温から80℃で30分から2時間、N,N-ジスクシイミジルカーボネートと反応することにより得ることができる。

【0059】
<工程4>
一般式(IV)で示される発光化合物は、化合物(XIV)と化合物(XV)とをピリジンと燐酸緩衝液の混合液中で、0℃から50℃で30分から24時間、反応することによって得ることができる。
【0060】
<工程5>
一般式(IV)で示される発光化合物は、化合物(XIII)と化合物(XV)とをピリジンと燐酸緩衝液の混合液中で、0℃から50℃で30分から24時間、例えばジシクロヘキシルカルボジイミドやWSCなどの脱水縮合剤を加えることにより得ることができる。
【0061】
一般式(V)で表わされる発光化合物は、特開2009−215174号公報に記載の方法を用いて、又はこれに準じて製造することができる。
【0062】
上記に示す各反応式で得られる各々の目的化合物は、反応混合物を、例えば、冷却した後、濾過、濃縮、抽出等の単離操作によって粗反応生成物を分離し、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の通常の精製操作によって、反応混合物から単離精製することができる。
【0063】
活性酸素の測定方法
本発明は、近赤外発光化合物を検体に添加する工程、及び
当該近赤外発光化合物を添加した検体の発光強度を、−5〜20℃に冷却したセンサーを用いて測定する工程
を含む、活性酸素の測定方法を提供する。
【0064】
本発明の方法において用いられる検体としては、例えば、ヒトを含む動物、植物等に由来するものが挙げられる。ここで、ヒトを含む動物、植物等に由来する検体としては、例えば、動物の体液、植物からの抽出液、これらを希釈、特定の画分、酵素等を分離したもの、その他の加工品(植物由来のブドウ酒等)等が挙げられる。
【0065】
また、かかる検体は、活性酸素を発生させる酵素、細胞等を含むものであっても、これを含まないものであってもよい。
【0066】
さらには、上記のような血液、生体組織、植物由来の検体以外にも、活性酸素を近赤外化学発光で測定できるものであれば、検体の種類は特に限定されない。たとえば、加工食品、未加工食品、化成品、化粧品、医薬品、農薬、プラスチック、ゴムなどがその他の検体としてあげられる。
【0067】
本発明において用いられる、細胞を含む検体としては、活性酸素を発生させる細胞を含む検体であれば特に限定されない。好ましい検体としては、ヒトを含む動物の血液が挙げられる。血液由来の検体としては、好中球、顆粒球等の目的とする細胞を分画したものでも、当該血液を希釈したものでもよいが、前処理の手間が不要である点、また、生体内に近い状態での活性酸素発生能を評価できる点から、これらの処理をしていない全血が好ましい。
【0068】
本発明の方法においては、検体から自発的に発生するか、又は検体が含有する活性酸素を測定しても、検体を刺激剤等で処理し、これにより発生した活性酸素を測定しても、検体に活性酸素を発生させる物質又は活性酸素自体を添加してその経時的変化を測定してもよい。
【0069】
刺激剤としては、例えば、酵母、黄色ブドウ球菌、大腸菌などの細菌や、これら由来の化合物、例えば、酵母であればZymosanがあげられる。また、これらの物質をオプソニン化したものもあげられる。さらには、化合物としてホルボールエステル、白血球走化性因子のひとつであるformyl-methionyl-leucyl-phenylalanin(fMLP)、白血球の遊走能や炎症に関与するケモカインやインターロイキン-1(IL-1) 等が挙げられる。さらには、通常の知られている刺激剤に限定されることなく、各研究で見出された、あるいは今後見出される刺激活性を有する物質があげられる。
【0070】
刺激剤を添加する場合、サンプル1mlに対し、刺激剤を、有効成分の重量として、0.000001mg〜100mg添加するのが好ましい。また、分子量が既知の化合物である場合、0.001 iM-100mMの範囲で添加することができる。ただし、添加量は、それぞれの測定に適した量であれば、特に限定させることはなく、上記の量の範囲以外で使用することには限定されない。
【0071】
上記検体に、近赤外発光化合物を添加する際、近赤外発光化合物の量は、発光測定および検体の質を低下させない範囲であれば特に限定されないが、例えば、添加後の最終濃度として、0.001-1000μMとなるように添加するのが好ましい。
【0072】
本発明の方法において、近赤外発光化合物は、これを単体で添加しても、賦形剤と混合した発光剤の形態で添加しても、さらに活性酸素測定に有用な成分を配合した活性酸素測定剤の形態で添加してもよい。当該実施形態においては、近赤外発光化合物は、化学発光反応基質の主成分となる。発光剤及び活性酸素測定剤は、固体、液体、及び気体のいずれの状態であってもよい。
【0073】
また、検体に、近赤外発光化合物、発光剤及び活性酸素測定剤以外の成分を同時あるいはこれらに前後して、添加してもよい。例えば、検体に、活性酸素の発生系、例えば、キサンチン及びキサンチンオキシダーゼを添加した後、活性酸素を経時的に測定することにより、検体の抗酸化能を測定・評価することもできる。近赤外発光化合物、発光剤及び活性酸素測定剤以外の成分は、固体、液体及び気体のいずれの状態のものでもよい。また、このようなその他成分としては、活性酸素発生系の物質だけでなく、活性酸素そのものを添加してもよい。
【0074】
そして、活性酸素と近赤外発光化合物との反応により生じた近赤外発光の発光強度を、冷却したセンサーを用いて測定する。その際、検体に近赤外発光化合物を添加し、当該センサーを含む測定装置にこれを導入しても、先に検体を測定装置に導入した後、近赤外発光化合物を添加してもよい。冷却温度は、−5〜20℃、好ましくは、−5〜15℃、より好ましくは0〜10℃である。発光試薬として近赤外発光化合物を用いた上でセンサーの冷却温度を上記範囲に設定し測定することで、高いS/N比で、発光強度を測定することができる。
【0075】
ここで、発光強度の測定の具体的態様は、特に限定されないが、例えば、検体から発する光を冷却したセンサーを用いて検出し、検出された光情報を電気信号に変換し、そして電気信号に変換された情報を処理する、というステップを経ることにより行うことができる。
【0076】
活性酸素測定装置
以下、本発明に係る活性酸素測定装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一つの実施形態における活性酸素測定装置の概略図を示す。
【0077】
本発明の活性酸素測定装置は、近赤外発光化合物を導入するセル4(本明細書中において、試料保持部と記載することもある)発光強度を測定するための手段(センサー)3、及び当該発光強度測定手段を−5〜20℃に冷却する冷却手段9を備える。
【0078】
本発明においては、前述のように処理した、又は未処理の検体7及び近赤外発光化合物は、試料保持部4に導入される。当該試料保持部4の近傍に、試料の温度を保持するために、ヒーター6を設置してもよい。かかるヒーター6により、試料を生体環境に近い条件に保持することができる。
【0079】
また、本発明の活性酸素測定装置は、測定試料から生じた近赤外光を集約させるためのレンズ等の光学部8を備えていてもよい。
【0080】
発光強度を測定するための手段(センサー)3は、近赤外領域の発光強度を測定できることが必要である。
【0081】
活性酸素測定用システム
本発明は、また、前述の近赤外発光化合物及び前述の活性酸素測定装置を含む、活性酸素を測定するためのシステムを提供する。
【0082】
本発明においては、活性酸素測定方法の項において説明した、近赤外発光化合物、発光剤及び活性酸素測定剤以外の成分をさらに備えていてもよい。
【0083】
かかるシステムを用いることによって、特別な施設、環境等を必要とせず、専門家でなくとも、特別な技術を要することなく、活性酸素を精度よく測定することができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明をさらに詳細に説明するため、製造例及び実施例を記載する。これらの例は、本発明を具体化するものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0085】
製造例1:4-(2-((E)-2-((E)-3-((E)-2-(1-(2-carboxyethyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)-2-chlorocyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonateの合成(工程1)
4-(2,3,3-trimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonate(1.0g、一般式(IX)において、対応するMが水素であり、mが4の化合物に相当)、1-(2-carboxyethyl)-2,3,3-trimethyl-3H-indolium-5-sulfonate (0.82g、一般式(X)において、対応するMが水素であり、kが2の化合物に相当)、N-[(3-(アニリノメチレン)-2-クロロ-1-シクロヘキセン-1-イル)メチレン]アニリン塩酸(0.96g)、酢酸ナトリウム(0.88g)、メタノール(24mL)の混合物を50℃で1時間撹拌した。メタノールを減圧除去し、残渣に水(50mL)及びクロロホルム(50mL)を加え分配した。
【0086】
さらに水層をクロロホルム(50mL×5回)で洗浄し、水層を減圧濃縮した。残渣を0.1%TFA水溶液に溶解し、ODSカラムクロマトグラフィーに供し、水とアセトニトリルの混合液で溶出した。目的物の溶出液を減圧濃縮し、目的物0.67g(一般式(XII)において、対応するMが水素であり、kが2であり、lが3であり、mが4である化合物に相当)を青緑固体として得た。以下に目的物の機器分析データを示す。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, 25 ℃, TMS:0.0 ppm) 1.65 (6H, s),1.67 (6H, s), 1.75 (2H, quin, J = 7.3 Hz), 1.83 (4H, m), 2.60 (2H, t, J= 7.3 Hz), 2.70 (6H, m), 4.26 (2H, t, J = 7.3 Hz), 4.38 (2H, t, J= 7.3 Hz), 6.34 (1H, d, J = 14 Hz), 6.45 (1H, d, J = 14 Hz), 7.30(1H, d, J = 8.5 Hz), 7.47 (1H, d, J = 8.5 Hz), 7.62 (1H, d,d, J= 1.2, 8.5 Hz), 7.67 (1H, d,d, J = 1.2, 8.5 Hz), 7.74 (1H, d, J =1.2 Hz), 7.81 (1H, d, J = 1.2 Hz), 8.18 (1H, d, J = 14 Hz), 8.29(1H, d, J = 14 Hz)
ESI-MS m/z calcd for C37H43N2O11S3Cl
822.17, found 823.23 [M+1]
製造例2: 4-(2-((E)-2-((E)-3-((E)-2-(1-(2-carboxyethyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)-2-methoxycyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonateの合成(工程2)
製造例1で得られた4-(2-((E)-2-((E)-3-((E)-2-(1-(2-carboxyethyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)-2-chlorocyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonate(0.2g)、メタノール(12mL)、カリウムブトキシド(0.56g)の混合物を50℃で12時間撹拌し、次に氷冷下において水(20mL)、1N HCl水溶液(5mL)を加え中和した。反応液を減圧濃縮し、残渣を0.1%TFA水溶液に溶解し、ODSカラムクロマトグラフィーに供した。水とアセトニトリルの混合液で溶出し、溶出液を減圧濃縮し、目的物0.20g(一般式(XIII)において、対応するMが水素であり、kが2であり、lが3であり、mが4であり、R16’がメチルである化合物に相当)を青緑色固体として得た。以下に目的物の機器分析データを示す。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, 23 ℃, TMS:0.0 ppm) 1.65 (6H, s),
1.67 (6H, s), 1.70-1.85 (6H, m), 2.55-2.65 (6H, m), 2.70 (2H, t, J = 7.3
Hz), 3.95 (3H, s), 4.21 (2H, br.), 4.35 (2H, br.), 6.20 (1H, d, J = 14.1
Hz), 6.28 (1H, d, J = 14.7 Hz), 7.27 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.42
(1H, d, J = 8.0 Hz), 7.62 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7. 65 (1H, d, J
= 8.0 Hz), 7.72 (1H, s), 7.79 (1H, s), 7.95 (1H, d, J = 14.1 Hz), 8.06
(1H, d, J = 14.7 Hz)
ESI-MS m/z calcd for C38H46N2O12S3
818.22, found 819.19 [M+1]
製造例3: 4-(2-((E)-2-((E)-3-((E)-2-(1-(3-(2,5-dioxopyrrolidin-1-yloxy)-3-oxopropyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)-2-methoxycyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonateの合成(工程3)
製造例2で得られた4-(2-((E)-2-((E)-3-((E)-2-(1-(2-carboxyethyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)-2-methoxycyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonate(0.15g)、N,N-ジスクシイミジルカーボネート(0.7g)、ピリジン(3mL)、N,N-ジメチルホルムアミド(3mL)の混合物を、50℃で40分間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣を塩化メチレンとメタノールの混合液に溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。塩化メチレンとメタノールの混合液で溶出し、目的物を含む溶出液を減圧濃縮し、目的物0.143g(一般式(XIV)において、対応するMが水素であり、kが2であり、lが3であり、mが4であり、R16’がメチルである化合物に相当)を青色固体として得た。以下に目的物の機器分析データを示す。
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, 23 ℃, TMS:0.0 ppm) 1.63 (6H, s),1.66 (6H, s), 1.70-1.85 (6H, m), 2.55 (2H, t, J = 7.3 Hz), 2.60 (4H,Br.), 2.78 (4H, s), 3.25 (2H, t, J = 7.3 Hz), 3.94 (3H, s), 4.23 (2H,br.), 4.43 (2H, br.), 6.08 (1H, d, J = 13.3 Hz), 6.35 (1H, d, J =14.6 Hz), 7.23 (1H, d, J = 8.5 Hz), 7.45 (1H, d, J = 8.5 Hz),7.56 (1H, d, d, J = 1.2, 8.5 Hz), 7.66 (1H, d, J = 8.5 Hz), 7.67(1H, s), 7.80 (1H, s), 7.88 (1H, d, J = 13.3 Hz), 8.10 (1H, d, J= 14.6 Hz)
ESI-MS m/z calcd for C42H49N3O14S3
915.24, found 916.11 [M+1]
製造例4:4-(2-((E)-2-((E)-2-methoxy-3-((E)-2-(1-(3-(2-(3-(6-(4-methoxyphenyl)-3-oxo-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazin-2-yl)propanamido)ethylamino)-3-oxopropyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)cyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonateの合成(工程4)
製造例3で得られた4-(2-((E)-2-((E)-3-((E)-2-(1-(3-(2,5-dioxopyrrolidin-1-yloxy)-3-oxopropyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)-2-methoxycyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonate(0.05g)と一般式(XV)で表わされるN-(2-aminoethyl)-3-(6-(4-methoxyphenyl)-3-oxo-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazin-2-yl)propanamide(0.0087g)をピリジン(0.6mL)及び0.1M燐酸緩衝液(pH7.4、0.25mL)の混合液中、水素置換し室温で4時間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣を0.1%TFA水溶液で溶解し、本溶液をODSカラムクロマトグラフィーに供した。水とアセトニトリルの混合液で溶出し、目的物の溶出液を減圧濃縮し、目的物0.009g(一般式(IV)において、対応するMが水素であり、kが2であり、lが3であり、mが4であり、R16’がメチルである化合物に相当)を黄緑色固体として得た。以下に目的物の機器分析データを示す。
1H NMR (500 MHz, D2O, 22 ℃, Aceton:2.07 ppm) 1.21(6H, s), 1.38 (6H, s), 1.52 (2H, br.), 1.62 (2H, br.), 2.37 (2H, t, J =7.3 Hz), 2.45 (2H, br.), 2.72 (4H, m), 3.00 (4H, m), 3.42 (3H, s), 3.46 (3H,s), 3.62 (2H, br.), 4.00 (2H, br.), 5.25 (1H, br.), 5.55 (1H, br.), 6.48 (2H,d, J = 7.9 Hz), 6.78 (1H, br.), 6.93 (1H, br.), 7.10 (2H, d, J =7.9 Hz), 7.35 (1H, s), 7.40 (1H, d, J = 7.4 Hz), 7.48 (1H, br.), 7.55(3H, m), 7.63 (1H, s), 7.83 (1H, s)
ESI-MS m/z calcd for C56H65N7O14S3
1155.38, found 1156.33 [M+1]
製造例5: 4-(2-((E)-2-((E)-2-methoxy-3-((E)-2-(1-(3-(2-(3-(6-(4-methoxyphenyl)-3-oxo-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazin-2-yl)propanamido)ethylamino)-3-oxopropyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)cyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonateの合成(工程5)
製造例2で得られた4-(2-((E)-2-((E)-3-((E)-2-(1-(2-carboxyethyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)-2-methoxycyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonate(0.03g)、一般式(XV)で表わされるN-(2-aminoethyl)-3-(6-(4-methoxyphenyl)-3-oxo-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazin-2-yl)propanamide(0.017g)、WSC HCl(0.22g)、ピリジン(0.6mL)及び0.1M燐酸緩衝液(pH7.4、0.05mL)の混合物を、水素置換し室温で2時間攪拌した。反応液にアセトンを加え、生成した固体と上澄み液とを分離した後、固体を0.1%TFA水溶液で溶解し、本溶液をODSカラムクロマトグラフィーに供した。水とアセトニトリルの混合液で溶出し、目的物の溶出液を減圧濃縮し、目的物0.007g(一般式(IV)において、対応するMが水素であり、kが2であり、lが3であり、mが4であり、R16’がメチルである化合物に相当)を黄緑色固体として得た。
【0087】
実施例1 ヒト全血から発生する活性酸素の測定
測定試料として、ヒトの血液を用いた。測定試料は、ヘパリン処理採血管で採血し、採血後37℃で保温したものを用いた。
【0088】
発光試薬としては、4-(2-((E)-2-((E)-2-methoxy-3-((E)-2-(1-(3-(2-(3-(6-(4-methoxyphenyl)-3-oxo-3,7-dihydroimidazo[1,2-a]pyrazin-2-yl)propanamido)ethylamino)-3-oxopropyl)-3,3-dimethyl-5-sulfoindolin-2-ylidene)ethylidene)cyclohex-1-enyl)vinyl)-3,3-dimethyl-5-sulfo-3H-indolium-1-yl)butane-1-sulfonate(一般式(IV)において、対応するMが水素であり、kが2であり、lが3であり、mが4であり、R16’がメチルである化合物に相当。以下、本実施例において、単にNIR−CLAと記載することもある)の0.1 mM 水溶液を用いた。刺激剤として、Zymosan溶液(25mg/mL PBS(-))を用いた。
【0089】
計測には、近赤外測定装置を使用した。計測容器に血液1.0 mLと発光試薬10μLを添加し、測定を開始した。測定は、[30秒測定+30秒休み]のサイクルで行った。センサー部分の温度は、5℃に設定した。サンプルの温度を、37℃に保持した状態で、発光強度を測定した。測定5.5分後にZymosan溶液 50μLを添加し、再度近赤外発光測定装置で同様の測定を行った。
【0090】
測定結果を図2に示す。図2に示されるように、ヒト全血中の細胞から発生した活性酸素を、好中球の分画等の処理をすることなく測定することができた。
【0091】
実施例2 センサー温度条件による測定精度の比較
測定装置として、近赤外発光測定装置を用い、センサー部の温度を25℃又は5℃に保持して、発光強度を測定した。
【0092】
発光試薬として、前述のNIR−CLA1mgをミリQ水866uLにて溶解し1mM溶液としたものを使用した。当該溶液は100uLずつエッヘ゜ンチューフ゛に分注し試験時まで-80℃に保存した。
【0093】
試験の際、上記発光試薬の溶液をさらにミリQ水にて希釈した。具体的には、まず0.3μM溶液(30μL/100μL)とし、この溶液から更に0.03μM溶液を作製した。この溶液から2倍希釈系列を作製し、0.03及び0.015μM溶液とした。
【0094】
活性酸素の発生系として、XOD-Xanthine系を用いた。具体的には、下記の内容のATTO AB2970 CLETA-Sの酵素・基質を使用した:
0.125unit/mL XOD 1.2M (NH4)2SO4-0.25M HEPES 0.05mM EDTA pH7.5
0.1mM Xanthine 0.25M HEPES 0.05mM EDTA pH7.5
4.計測
以下の容量で試料を混合、装置にセットし、発光強度を10秒間測定し、測定値を積算した。
【0095】
発光試薬溶液:10μL (final conc.0.001及び0.005μM)
XOD(キサンチンオキシダーゼ):80μL (final conc. 0.01unit/tube)
Xanthine 200μL
測定は各試験区につき、3回行い、平均値を算出した。
【0096】
測定結果として、各試験区の発光強度を表1に、S/N比を表2に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
表2に示されるように、センサー温度を25℃とした場合、S/N比は、いずれも2.3以下と低い値に止まっていた。これに対し、センサー温度を5℃とした場合、S/N比は、9.0以上と非常に高く、活性酸素濃度を高精度で測定できることが分かる。
【0100】
実施例3 ウシ血液サンプルから発生する活性酸素の測定
測定試料として、27日齢の雄ウシの血液(ホルスタイン)を用いた。測定試料は、ヘパリン処理採血管で採血し、採血後37℃で保温したものを用いた。
【0101】
発光試薬としては、前述のNIR-CLAの0.0125 mM水溶液を用いた。刺激剤として、Zymosan溶液(25mg/mL PBS(-))を用いた。
【0102】
計測には、近赤外測定装置を使用した。計測容器に血液50μL、PBS(-)200μL及び発光試薬 10μLを添加し、測定を開始した。測定は、[10秒測定+50秒休み]のサイクルで行った。センサー部分の温度は、5℃に設定した。サンプルの温度を37℃に保持した状態で、発光強度を測定した。測定10分後にZymosan溶液 10μLを添加し、再度近赤外発光測定装置で引続き、同様の測定を行った。
【0103】
測定結果を図3に示す。図3に示されるように、ウシ血中の細胞から発生した活性酸素を、好中球等の分画をすることなく測定することができた。
【符号の説明】
【0104】
1.筺体
2.暗箱
3.センサー
4.試料保持部
5.測定試料容器
6.ヒーター(試料温度保持用)
7.測定試料
8.光学部
9.冷却ユニット(センサー温度保持用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外発光化合物を検体に添加する工程、及び
当該近赤外発光化合物を添加した検体の発光強度を、−5〜20℃に冷却したセンサーを用いて測定する工程
を含む、活性酸素の測定方法。
【請求項2】
前記近赤外発光化合物が、下記一般式(I)で表わされるインドシアニン結合型イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン化合物又はその塩である、請求項1に記載の活性酸素測定方法:
A−B−C (I)
[式中、Aは、下記一般式(II)で表わされるイミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン基を示す:
【化1】

(式中、R、R、R、及びRは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシル基、カルボキシル基、ホルミル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基又は複素環を示す。
但し、R、R、R、及びRのうち1つがスペーサー基Bに共有結合する。)
基Bは、スペーサー基を示す。
基Cは、下記式(III)で表わされるインドシアニン基を示す:
【化2】

(式中、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、及びR25は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、アルコキシル基、カルボキシル基、ホルミル基、スルホニル基、スルホン酸基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アリールオキシ基、アルキルペルオキシ基又は複素環を示す。
15及びR17は、これらが互いに結合して、不飽和4〜10員環を形成してもよい。
但し、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、及びR25のうち1つがスペーサー基Bに共有結合する。)]
【請求項3】
前記近赤外発光化合物が、下記式(IV)又は(V)で表わされるインドシアニン結合型イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン化合物である、請求項1に記載の活性酸素測定方法。
【化3】

[式中、R16’は、アルキル基、アルコキシル基又はアリール基を示す。
Mは、水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。
k、l及びmは、同一又は異なって、1〜7の整数を示す。]
【化4】

[式中、Mは、同一又は異なって、水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。
k及びmは前記に同じ。
n及びpは、同一又は異なって、1〜7の整数を示す。]。
【請求項4】
前記近赤外発光化合物が、下記式(VI)又は(VII)で示されるインドシアニン結合型イミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン化合物である、請求項1に記載の活性酸素測定方法。
【化5】

[式中、Mは、同一又は異なって、水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。]。
【化6】

【請求項5】
近赤外発光化合物を導入するセル、
発光強度を測定するための手段、及び
当該発光強度測定手段を−5〜20℃に冷却する冷却手段、
を備えた、活性酸素の測定装置。
【請求項6】
近赤外発光化合物及び請求項5に記載の活性酸素の測定装置を含む、活性酸素を測定するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−8084(P2012−8084A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146275(P2010−146275)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(503096591)学校法人酪農学園 (13)
【出願人】(000101466)アトー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】