説明

活性酸素発生剤及び活性酸素発生方法

【課題】大がかりな装置等が必要なく、ドーパントがなくても活性酸素発生能力が高い活性酸素発生剤及び活性酸素発生方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物を含む活性酸素発生剤。(式(1)中、X1、X2、X3、及びX4は、それぞれ独立して、水素原子、上記式(2)で表される基、上記式(3)で表される基、及び上記式(4)で表される基から成る群から選ばれる1種であって、繰返し単位のnは、一般には4〜200であり、好適には8〜50である。また、mは1〜20の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素発生剤及び活性酸素発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中や空気中等に生息する微生物や細菌等を殺菌したり、有害な化学物質等を分解する方法として、例えば、薬剤で処理する薬剤法、電解殺菌法、紫外線照射法、光触媒法、活性酸素発生剤による活性酸素発生法等が知られているが、近年、これらの方法の中でも、大がかりな装置や高価な薬剤等の使用を必要としない活性酸素発生法が注目されている。
【0003】
活性酸素発生剤による活性酸素発生法のうちでも、酸素が溶存する液体とポリアニリンを含有する活性酸素発生剤とを接触させて活性酸素を発生させる方法(特許文献1)は、特殊な装置等や操作を必要とせず、容易に活性酸素を発生させることができる。
【0004】
ポリアニリンの活性酸素発生能力を向上させる手段としては、電気的に還元状態をとらせる方法(特許文献2)や、ドープ状態をとらせる方法(上記特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−175801号公報
【特許文献2】特開平11−79708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の方法は電極を必要とするため、システムが高価となり、また、装置が大型化してしまうという問題がある。また、特許文献1の方法では、活性酸素発生剤を水に接触させる場合、ドーパントが水との親和性が高い陰イオンであるため、ドーパントが水を介して系外へ流出し、短時間で性能が低下してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、大がかりな装置等が必要なく、ドーパントが無くても活性酸素発生能力が高い活性酸素発生剤及び活性酸素発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の活性酸素発生剤は、下記式(1)で表される化合物を含む。
【0009】
【化1】

【0010】
(式(1)中、X1、X2、X3、及びX4は、それぞれ独立して、水素原子、上記式(2)で表される基、上記式(3)で表される基、及び上記式(4)で表される基から成る群から選ばれる1種であって、繰返し単位のnは、一般には4〜200であり、好適には8〜50である。また、mは1〜20の整数である。)
本発明の活性酸素発生剤は、ドーパントを含まなくても、活性酸素発生能力が高い。そのため、ポリアニリンのように、活性酸素発生剤のドーパントが水を介して系外へ流出したことに起因して、活性酸素発生能力が大きく低下してしまうようなことがない。その結果、本発明の活性酸素発生剤は、活性酸素発生能力を長時間にわたって維持できる。
【0011】
また、本発明の活性酸素発生剤は、電極を用いて還元状態をとらせなくても、活性酸素発生能力が高い。そのため、本発明の活性酸素発生剤は、おおがかりな装置と併用しなくてもよい。
【0012】
前記式(1)で表される化合物としては、例えば、下記式(5)で表される化合物(ポリナフチルアミン)、又は下記式(6)で表される化合物(ポリメチルナフチルアミン)が挙げられる。
【0013】
【化2】

【0014】
前記式(1)で表される化合物は、酸化又は還元により、異なる形態を取り得るが、そのいずれであってもよい。例えば、前記式(1)で表される化合物のうち、ポリナフチルアミン(前記式(5)で表される化合物)は、酸化又は還元により、下記式(7)〜(9)の形態をとり得るが、そのいずれであってもよい。
【0015】
【化3】

【0016】
本発明において、活性酸素とは、通常の酸素に比べて著しく活性が高く化学反応を起こしやすい酸素をいい、具体的には、一重項酸素,スーパーオキシドアニオンラジカル(・O2-),ヒドロキシラジカル(・OH),パーヒドロキシラジカル(・OOH)および過酸化水素をいう。
【0017】
本発明の活性酸素発生剤は、実質的に、上記式(1)で表される化合物のみから成っていてもよいし、あるいは、上記式(1)で表される化合物の他に、例えば、活性炭やゼオライトなどの粉体を配合してもよい。瞬間的な活性酸素発生量向上策として、添加剤としてp−トルエンスルホン酸、ベンゼンホスホン酸、トリフルオロ酢酸等の、強い有機酸を用いることができる。上記有機酸の添加量としては通常、式(1)の構造単位に対して5.0〜50モル%、好適には10〜25モル%である。
また、本発明の活性酸素発生剤は、その形態を限定するものではなく、例えば、粉末状であってもペレット状であってもよい。また、脱臭フィルターや、ペルチェ表面に、膜状に上記式(1)で表される化合物を付着させたものでもよい。
【0018】
本発明の活性酸素発生方法は、酸素が容存する液体と、上述した活性酸素発生剤とを接触させることを特徴とする。
本発明の活性酸素発生方法は、活性酸素発生剤がドーパントを含まないものであっても、活性酸素発生能力が高い。そのため、ポリアニリンを使用する方法のように、活性酸素発生剤のドーパントが水を介して系外へ流出したことに起因して、活性酸素発生能力が大きく低下してしまうようなことがない。その結果、本発明の活性酸素発生方法は、活性酸素発生能力を長時間にわたって維持できる。
【0019】
また、本発明の活性酸素発生方法は、電極を用いて活性酸素発生剤に還元状態をとらせなくても、活性酸素発生能力が高い。そのため、本発明の活性酸素発生方法は、大がかりな装置を用いなくてもよい。
【0020】
本発明の活性酸素発生方法に用いられる液体としては、例えば、殺菌対象となるものが挙げられ、例えば、水が挙げられる。この水は、酸素が溶存していれば特に制限されるものではなく、例えば、水道水、井戸水、わき水、純水などが挙げられる。また、生理食塩水、緩衝溶液などの電解質やその他の可溶性物質を含むものであってもよい。そして、水以外の液体としては、メタノールやエタノールのようなアルコール、フェノール、酢酸のようなカルボン酸など、プロトン性極性溶媒が挙げられ、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトンなどの非プロトン性溶媒は用いることができない。この溶媒選択性の要因は明確となっていないが、活性酸素発生において水素結合性のプロトンが反応に関与していると考えられる。これらの液体は、通常、空気中の酸素が溶存している。この溶存割合は、例えば、5〜500ppmである。
【0021】
そして、上記液体と本発明の活性酸素発生剤とを接触させる方法は、特に制限されるものではない。例えば、本発明の活性酸素発生剤をアルミ等の金属板に製膜し、金属板を冷却することにより蒸気液体を凝集させ、付着する方法が挙げられる。この他に、上記液体に、粉末状あるいはペレット状の本発明の活性酸素発生剤を投入して攪拌する方法や、多孔質部材に本発明の活性酸素発生剤を担持させ、これに上記液体を通して連続的に活性酸素を発生させる方法等が挙げられる。
【0022】
そして、活性酸素をより多く発生させる手段としては、空気や酸素含有量の多い気体を上記液体に供給する方法や、繰り返し上記式(1)で表される化合物と接触させる方法等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例】
【0024】
1.活性酸素発生剤Aの製造方法
以下のようにして、活性酸素発生剤A(ポリナフチルアミン)を製造した。アセトニトリル22重量部に対し、1−アミノナフタレン1.0重量部を加えて混合溶液とし、続いて、精製水110重量部、濃硫酸10重量部を加えた。さらに、アセトニトリル22重量部を加え均一溶液とした。
【0025】
続いて、この溶液に硫酸第一鉄7水和物5.6×10-2重量部を加えて撹拌した後、31%過酸化水素水1.6重量部を加え、30℃で40時間撹拌した。
反応終了後、溶液を濾過し、茶色の固形分をメタノール、続いて28%アンモニア水、メタノールで洗浄し、真空条件で乾燥させ、ポリナフチルアミンを得た。得られたポリナフチルアミンの数平均分子量は約4300であった。なお、分子量の測定には、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いた。
2.活性酸素発生剤Bの製造方法
以下のようにして、活性酸素発生剤B(ポリメチルナフチルアミン)を製造した。まず、2−メチル−1−ナフチルアミン1.0重量部、1.0規定塩酸20重量部、及び1−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)25重量部を混合し、均一溶液とした。次に、この溶液に、室温下、過硫酸アンモニウム4.0重量部を30分間かけて加えた。過硫酸アンモニウムの添加終了後、100℃に加温し、24時間撹拌した。
反応終了後、溶液を濾過し、茶色の固形分をメタノール、続いて28%アンモニア水、メタノールで洗浄し、真空条件で乾燥させて、ポリメチルナフチルアミンを得た。得られたポリメチルナフチルアミンの分子量は約4000であった。なお、分子量の測定には、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いた。
【0026】
3.比較例の活性酸素発生剤について
(3−1)ardrich製ポリアニリン(emeraldine base、Mw=~5,000)を比較例の活性酸素発生剤R1とした。ポリアニリンの分子構造を下記式(10)に示す。
【0027】
【化4】

【0028】
(3−2)三菱レーヨン製のスルホン酸ポリアニリン(aquaPASS(R)-01x)を比較例の活性酸素発生剤R2とした。スルホン酸ポリアニリンの分子構造を上記式(11)に示す。
(3−3)以下のようにして、比較例の活性酸素発生剤R3(ポリアントラニルアミン)を製造した。
【0029】
アセトニトリル230重量部に対し、1−アミノアントラセン1.0重量部を加えて混合溶液とし、続いて、精製水300重量部、濃硫酸4.6重量部を加え、溶液とした。
続いて、この溶液に硫酸第一鉄7水和物3.7×10-2重量部を加えて撹拌した後、31%過酸化水素水1.9重量部を加え、30℃で22時間撹拌した。
反応終了後、溶液を濾過し、茶色の固形分をメタノール、続いて28%アンモニア水、メタノールで洗浄し、真空条件で乾燥させ、ポリナフチルアミンを得た。得られたポリナフチルアミンの数平均分子量は約4500であった。なお、分子量の測定には、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いた。ポリアントラニルアミンの分子構造を上記式(12)に示す。
【0030】
4.活性酸素発生剤を用いた活性酸素発生方法
活性酸素発生剤A〜B、及びR1〜R3のそれぞれを用いて、以下の活性酸素発生方法を行った。活性酸素発生方法は、活性酸素発生剤にドーパントを加える場合と、ドーパントを加えない場合のそれぞれについて行った。
(4−1)ドーパントなしの場合の活性酸素発生方法
構造単位に換算して5×10-10モルの活性酸素発生剤、及び10μlのNMPを混合して溶液を調製した。1cm2のガラス面に対し、この溶液を塗布し、120℃で30分乾燥させた。ここまでの工程で、ガラス面に未ドープ型ポリマー膜が形成される。
【0031】
次に、未ドープ型ポリマー膜が形成されたガラスを、精製水(酸素が容存する液体)1mlに7時間浸漬した。この工程で、未ドープ型ポリマー膜に活性酸素を発生させる能力があるならば、精製水中の容存酸素から、活性酸素が生成する。
(4−2)ドーパント有りの場合の活性酸素発生方法
構造単位に換算して5×10-10モルの活性酸素発生剤、7.9×10-8g(5×10-10モル)のベンゼンホスホン酸、及び10μlのNMPを混合して溶液を調製した。1cm2のガラス面に対し、この溶液を塗布し、120℃で30分乾燥させた。ここまでの工程で、ガラス面に酸ドープ型ポリマー膜が形成される。
【0032】
次に、酸ドープ型ポリマー膜が形成されたガラスを、精製水(酸素が容存する液体)1mlに7時間浸漬した。この工程で、酸ドープ型ポリマー膜に活性酸素を発生させる能力があるならば、精製水中の容存酸素から、活性酸素が生成する。
【0033】
5.活性酸素量の測定
前記4において、未ドープ型ポリマー膜、又は酸ドープ型ポリマー膜が形成されたガラスを7時間浸漬した精製水から0.5mlを分取した。分取した精製水中の活性酸素発生量を、電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance)装置 JES−FE2XG(日本電子製)を用いて測定した。具体的には、以下のように行った。
分取した精製水0.5mlに、活性酸素トラップ剤(高純度DMPO*ラボテック製)5μl、及びフェントン反応用試薬としての0.2mol/l硫酸第一鉄水溶液50μlを加え、200rpmで振とうし、そのうち200μlを水溶液用セルに注入した。そして、混合から2分後にESR測定を行った。
【0034】
また、各種濃度の過酸化水素水についても、同様にESR測定し、活性酸素発生量とESR測定における検出値との検量線を作成した。そして、その検量線を用いて、各活性酸素発生剤により発生した活性酸素発生量を定量した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、活性酸素発生剤A、Bを用いた場合の活性酸素発生量は顕著に多かった。特に、ドーパントなしの条件でも、活性酸素発生量が多かった。それに対し、比較例の活性酸素発生剤R1を用いた場合は、ドーパントなしの条件で、活性酸素発生量が非常に少なかった。また、比較例の活性酸素発生剤R2を用いた場合は、ドーパントなし/有りのいずれの条件においても、活性酸素が発生しなかった。また、比較例の活性酸素発生剤R3を用いた場合は、ドーパントなし/有りのいずれの条件においても、活性酸素が少なかった。
【0037】
6.各種液体中での活性酸素発生有無の確認
精製水、メタノール、エタノール、フェノール、酢酸、比較例としてジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトンをそれぞれ1.0重量部用意した。上記液体のそれぞれに対し、前記4−1において、未ドープ活性酸素発生剤A(ポリナフチルアミン)膜が形成されたガラスを、7時間浸漬し、ガラスを取り除いた後、精製水を1.0重量部加え、過酸化物テストシート(メルコクァント製)を各液体に浸漬し、過酸化物テストシートの色の変化を確認した。この過酸化物テストシートは、過酸化物がない時は白色、過酸化物に触れると青く変色するシートである。その結果を表2に示す。ただし、上記8種の液体1.0倍量に精製水1.0重量部を加え、31%過酸化水素水6.0×10-5重量部を混合させた時、過酸化物テストシートを浸漬すると全ての液体で過酸化物テストシートは青色に変化した。
【0038】
【表2】

【0039】
尚、本発明は前記実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、上記式(1)で表される化合物は、活性酸素発生剤A、B以外であっても、活性酸素発生剤A、Bと略同様の作用効果を奏することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を含む活性酸素発生剤。
【化1】

(式(1)中、X1、X2、X3、及びX4は、それぞれ独立して、水素原子、上記式(2)で表される基、上記式(3)で表される基、及び上記式(4)で表される基から成る群から選ばれる1種であって、繰返し単位のnは、4〜200である。また、mは1〜20の整数である。)
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(5)又は(6)で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の活性酸素発生剤。
【化2】

【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が、実質的にドーパントを含まないことを特徴とする請求項1又は2記載の活性酸素発生剤。
【請求項4】
酸素が容存する液体と、請求項1〜3のいずれかに記載の活性酸素発生剤とを接触させることを特徴とする活性酸素発生方法。
【請求項5】
前記液体がプロトン性極性溶媒であることを特徴とする請求項4記載の活性酸素発生方法。

【公開番号】特開2010−209179(P2010−209179A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55360(P2009−55360)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】