説明

活性酸素種の検出方法及び検出装置

【課題】活性酸素種を生成する装置により処理される被処理基材周辺の活性酸素種量を正しく反映して、上記装置により生成された活性酸素種を検出する活性酸素種の検出方法を提供する。
【解決手段】活性酸素種を捕捉する活性酸素種捕捉体として、銀を主成分として含有する金属板又は金属薄膜を有し、活性酸素種を、その表面または表層部で捕捉する活性酸素種捕捉体を用い、活性酸素種捕捉体の表面ないし表層部で活性酸素種を捕捉して該活性酸素種捕捉体との酸化反応により酸化銀を生成させ、次いで、活性酸素種捕捉体において生成した該酸化銀を窒素雰囲気下でアンモニア水溶液に溶解することにより、銀を含む溶液を得て、得られた溶液に対し、ICP発光分光分析法を用いて銀の量を計測することにより、活性酸素種捕捉体が捕捉した活性酸素種を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素種を利用したプロセス等において活性酸素種を生成する装置により生成される活性酸素種の検出方法及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性酸素種を金属、ガラス、半導体の各種基板洗浄や有機系基材の表面改質など工業用途のプロセスに応用することが広く行われている。
【0003】
活性酸素種としては、例えば、次のものが挙げられる。狭義の活性酸素種には酸素原子(O)・励起酸素原子(O*)・励起酸素分子(O2*)・オゾン(O3)等が含まれ、広義の活性酸素種には、これらに加えて、スーパーオキシド(O2-)・ヒドロペルオキシド(HO2)・過酸化水素(H22)・励起酸素(O2*)が含まれる。これらの活性酸素種の形態や酸化力の差異などの特性は、従来知られている(例えば、非特許文献1)。
【非特許文献1】「オゾンの基礎と応用」、杉光英俊著、光琳(1996年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
活性酸素種を利用した工業用途のプロセスにおいては、信頼性の向上という観点から、活性酸素種の生成量を精密に管理、制御することは非常に重要であり、上記のような活性酸素種の量の計測手段として、オゾン検知器や発光分光分析法などが知られている。
【0005】
しかしながら、オゾン検知器は計測対象がオゾンに限定されるため、その他の活性酸素種の計測は原理的に不可能であった。
【0006】
また、発光分光分析法はプラズマプロセスで広く用いられているが、活性酸素種が非発光励起種や発光が極端に弱い励起種である場合には、その同定が困難であるという課題があった。
【0007】
さらに、上記手法においては、活性酸素種を測定する箇所が、被処理基材が配置される場所から離れていることがある。このようなプロセスでは、計測した活性酸素量を被処理基材周辺の活性酸素量と等しく見なすことが難しいケースが多々あった。
【0008】
本発明は上記のような問題点を鑑み、活性酸素種を生成する装置により処理される被処理基材周辺の活性酸素種の量を正しく反映して、上記装置により生成された活性酸素種を検出する活性酸素種の検出方法及び検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するため、本発明は、活性酸素種を検出する方法であって、銀を主成分として含有する金属板又は金属薄膜の表面または表層部で前記活性酸素種を捕捉して酸化反応により酸化銀を生成し、窒素雰囲気下で該酸化銀をアンモニア水溶液に溶解することにより、銀を含む溶液を得て、得られた溶液から銀の量を計測することにより前記活性酸素種を定量すること、を特徴とする。
この方法によれば、活性酸素種捕捉体により活性酸素種を捕捉し、活性酸素種捕捉体において生成した酸化物を窒素雰囲気下においてアンモニア水溶液に全量溶解させて溶液とし、この溶液の銀の量を計測し、計測された銀の量を酸素量に換算して、活性酸素種を定量する。活性酸素種捕捉体としては、活性酸素種に対して適度な反応性を有する材料を用い、詳細には銀を主成分として含有する金属とし、形態は被処理基材に類似した板状又は薄膜状とし、その表面ないし表層部において、自らは酸化物(酸化銀)へと変化することにより捕捉する作用を有するものである。また、活性酸素種捕捉体において生成した酸化物の溶解には、この酸化物が可溶であって、かつ、その下の(未反応の)金属部分が不溶性を呈する試薬として、アンモニア水溶液を用いる。
これにより、活性酸素種によって銀を酸化させることで活性酸素種を確実に捕捉し、捕捉した活性酸素種の量を、アンモニア水溶液に溶解した銀の量として正確に測定できる。従って、本発明の検出方法を適用することで、活性酸素種を生成する装置により処理される被処理基材周辺の活性酸素種の量を正しく反映して、上記装置により生成された活性酸素種の量を正確に定量できる。また、活性酸素種捕捉体の表面ないし表層部に存在する酸化銀を窒素雰囲気でアンモニア水溶液に溶解させるので、アンモニア水溶液中の溶存酸素が活性酸素種捕捉体に捕捉されて活性酸素種の量が見かけ上増えるという誤差の発生を防ぎ、正確な定量を実現できる。
【0010】
活性酸素種捕捉体が活性酸素種を捕捉すると、活性酸素種捕捉体の表面ないし表層部の金属が、全体的にあるいは部分的に、淡黄色から黄褐色、そして黒色と変色する。この黒色物質をX線回折法により分析したところ、図7に示すように酸化銀(Ag2O)の回折パターンを示したことから、酸化銀(Ag2O)であることが明らかになった。図7Aは対照のために活性酸素種を捕捉する前の状態における活性酸素種捕捉体のX線回折パターンを示し、図7Bに活性酸素種を捕捉した後の状態、すなわち黒変した活性酸素種捕捉体のX線回折パターンを示す。図7Bの回折パターンには、単体の銀(Ag)のピークに加え、Ag2Oによるピークが明瞭に現れている。従って、本発明において、酸化銀を溶解させるアンモニア水溶液を用い、このアンモニア水溶液に溶解した銀の量を測定することにより、活性酸素種の量を正確に定量できる。
【0011】
また、上記の方法において、得られた溶液に対し、ICP(Inductively Coupled Plasma:高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法を用いて銀の量を計測することにより前記活性酸素種を定量する方法が挙げられる。
この方法によれば、溶液中の銀の量を正確かつ迅速に検出及び測定することができ、活性酸素種の量を正確に、速やかに定量できる。
【0012】
ここで、前記酸化銀をアンモニア水溶液に溶解させる際に、前記アンモニア水溶液を収容した容器に窒素をフローさせながら前記アンモニア水溶液を加熱する操作を行い、この加熱後に、前記アンモニア水溶液に前記金属板又は金属薄膜を浸潤させるようにしてもよい。
この場合、アンモニア水溶液中の溶存酸素を確実に除去し、さらに新たに空気がアンモニア水溶液に溶解しない状態で、活性酸素種捕捉体をアンモニア水溶液に浸潤させて酸化銀を溶解させるので、アンモニア水溶液中の溶存酸素の影響を確実に排除した状態で、正確に酸化銀の検出・測定を行うことができる。
【0013】
さらに、前記金属板又は金属薄膜が、銀単体からなる金属、若しくは、銀と、パラジウムおよび銅のうちの少なくとも何れかから選択される金属とを含む合金から構成されるようにしてもよい。
この場合、活性酸素種捕捉体を構成する金属板又は金属薄膜が、銀単体、若しくは、銀と、パラジウム、銅のうちの何れかから選択される金属との合金から構成されるようにしたので、目的・用途に応じて活性酸素種との反応性の程度を選択できるという使い分けができる。銀は、常温、常圧下で空気中の酸素によっては酸化されにくい性質を有し、酸化物に変わった時これを溶解する試薬が存在する元素である。また銀にパラジウム、銅を少量添加することで銀の酸化を抑制する性質を示す。本検出方法の適用幅を広げる補助要素として使用するのが好ましい。
【0014】
また、本発明は、活性酸素種を検出する装置であって、銀を主成分として含有する金属板又は金属薄膜の表面または表層部で前記活性酸素種を捕捉して酸化反応により酸化銀を生成する活性酸素種捕捉体と、窒素雰囲気下で該酸化銀をアンモニア水溶液に溶解することにより、銀を含む溶液を得る手段と、得られた溶液から銀の量を計測することにより前記活性酸素種を定量する定量手段とを備えたことを特徴とする活性酸素種の検出装置を提供する。
この構成によれば、活性酸素種によって銀を酸化させることで活性酸素種を確実に捕捉し、捕捉した活性酸素種の量を、アンモニア水溶液に溶解した銀の量として正確に測定できる。従って、本発明の検出方法を適用することで、活性酸素種を生成する装置により処理される被処理基材周辺の活性酸素種の量を正しく反映して、上記装置により生成された活性酸素種の量を正確に定量できる。さらに、活性酸素種を捕捉して生成した酸化銀を窒素雰囲気でアンモニア水溶液に溶解させるので、アンモニア水溶液中の溶存酸素が活性酸素種捕捉体に捕捉されて活性酸素種の量が見かけ上増えるという誤差の発生を防ぎ、正確な定量を実現できる。
【0015】
上記構成において、前記定量手段は、得られた溶液に対し、ICP発光分光分析法を用いて銀の量を計測することにより前記活性酸素種を定量するものとしてもよい。
この場合、溶液中の銀の量を正確かつ迅速に検出及び測定することができ、活性酸素種の量を正確に、速やかに定量できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、活性酸素種の形態および種類にかかわらず、装置により生成された活性酸素種を、活性酸素種捕捉体の金属板または金属薄膜の表面ないし表層部により捕捉して分析・計測の対象とし、定量することができる。これにより、上記装置により生成され、例えば工業プロセスにおいて実際の被処理基材に作用する活性酸素種の量を精密に定量可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明を行う。
図1は、本発明を適用した一つの実施態様に関し、銀を主成分として含有する活性酸素種捕捉体1の構成例を示す模式図である。図1Aは活性酸素種捕捉体1の斜視図であり、図1Bは活性酸素種捕捉体1を被処理基板3に載せた状態の斜視図である。
【0018】
図1に示す活性酸素種捕捉体1は、銀を主成分として含有する金属の塊である。この金属としては、銀単体(金属銀)か、若しくはパラジウムと銅の少なくとも何れか一方の金属と銀とを含む合金が挙げられる。
上記のような合金を用いる理由は、生成プロセスによって活性酸素種10の濃度や酸化力が異なるためである。つまり、活性酸素種捕捉体1に銀単体を用いた場合には酸化力が比較的弱い活性酸素種を確実に検出することができ、上記の合金を用いた活性酸素種捕捉体1は酸化力が強い活性酸素種の検出および定量に適している。例えば、酸化力が比較的弱いオゾンを検知して定量する場合には純銀単体からなる活性酸素種捕捉体1を用い、酸化力が強い原子状酸素を検知する場合には、純銀よりも耐酸化性が高い、銀にパラジウムまたは銅を少量添加した2元系合金、或いは、銀とパラジウムと銅とを含む3元系合金を用いるなど、用途に応じた使い分けをすると、正確かつ確実な検出と定量を行うことができ、好ましい。
【0019】
活性酸素種捕捉体1は、図1Bに示すように、実際のプロセスで用いられる被処理基板3に固定され、後述するように活性酸素種の検出に用いられる。活性酸素種捕捉体1は、被処理基板3の被処理面(通常のプロセスにおいて処理される面)に、脱離可能な程度の密着度で貼り付けられ、後述する活性酸素種プロセスで処理される。この処理の後、活性酸素種捕捉体1は被処理基板3から取り外され、後述するように酸化銀量の計測、定量が行われる。
被処理基板3を構成する材料としては、ガラス、プラスチック、金属、セラミクス等を用いることができる。これらの材料は、実際のプロセスで活性酸素種により処理される基板の材料である。
【0020】
また、活性酸素種捕捉体の形状は、活性酸素種捕捉体1のように板状に加工された金属塊の他、所定の基板に金属の薄膜を形成したものであってもよい。
図2は、銀を主成分として含有する薄膜が形成された活性酸素種捕捉体2の構成例を示す図であり、図2Aは活性酸素種捕捉体2の斜視図、図2Bは活性酸素種捕捉体2を被処理基板3に載せた状態を示す斜視図である。
【0021】
図2Aに示すように、活性酸素種捕捉体2は、銀を主成分とする金属の薄膜21を、基板20の上面に形成して構成される。薄膜21は、メッキ法、蒸着法、スパッタリング法、CVD法等の既存の成膜手法を用いて適宜、基板20の表面上に形成、保持すればよい。また、銀を主成分とする金属の薄板を形成し、これを基板20の上面に貼り付けて薄膜21としてもよい。
また、本発明で用いられる薄膜保持用の基板20には、ガラス、プラスチック、金属、セラミクス等の材料が用いられる。
【0022】
そして、活性酸素種捕捉体2は、図2Bに示すように、実際のプロセスで用いられる被処理基板3に固定され、後述するように活性酸素種の検出に用いられる。活性酸素種捕捉体2は、被処理基板3の被処理面(通常のプロセスにおいて処理される面)に、脱離可能な程度の密着度で貼り付けられ、後述する活性酸素種プロセスで処理される。この処理の後、活性酸素種捕捉体2は被処理基板3から取り外され、後述するように酸化銀量の計測、定量が行われる。
さらに、実際のプロセスで用いられる被処理基板3自体の一部に直接、銀を主成分として含有する薄膜21を形成して活性酸素種捕捉体としてもよい。
【0023】
そして、図1Bに示す活性酸素種捕捉体1または図2Bに示す活性酸素種捕捉体2を、後述する活性酸素種プロセスにて処理を行った後に取り出し、活性酸素種捕捉体1、2表面に形成された酸化銀量から、実際の基材に作用した活性酸素種10の計測、定量が行われる。上記酸化銀量は、アンモニア水溶液に酸化銀を溶解させ、このアンモニア水溶液に溶解している酸化銀の濃度をICP発光分光分析法によって計測することで定量される。
【0024】
ここで、活性酸素種捕捉体1、2を用いて活性酸素種を定量する対象となる装置について説明する。
図3は、活性酸素種を生成する装置の一例として、活性酸素種生成装置4の概略構成を示す断面図である。
活性酸素種生成装置4は、低圧水銀ランプ40をランプ収容部41に収容した構成を有する。ランプ収容部41は例えばステンレス製の中空容器であり、その下面の一部は開口して処理部42となっており、この処理部42を介してランプ収容部41の内部空間は外部と通じている。
【0025】
ランプ収容部41の内部は空気で満たされているため、低圧水銀ランプ40を点灯させることにより、空気中の酸素分子が低圧水銀ランプ40の発光(紫外光)により励起されて活性酸素種10が生成される。
低圧水銀ランプ40は、波長254nm(ナノメートル)と185nmのUV光を放射する。主として185nm放射は基底状態の酸素分子を解離して三重項の原子状酸素を生成し、さらに生成した三重項の原子状酸素と酸素分子が結合してオゾンが生成される。また、生成したオゾンは254nm放射を吸収して、基底状態の酸素分子と酸化力が非常に強い一重項の原子状酸素とに解離する。故に、低圧水銀ランプ40の点灯中、活性酸素種捕捉体1、2の表面付近には、上記のオゾン、三重項原子状酸素、一重項原子状酸素といった活性酸素種10が混在した状態となっている。
活性酸素プロセスで被処理基板3を処理する場合は、処理部42の直下に被処理基板3を置くことで、被処理基板3を活性酸素種10に曝露させる。本発明の検出方法では、処理部42の直下に活性酸素種捕捉体1、2を置いて、被処理基板3を処理する場合と同じ時間だけ活性酸素種10に曝露させる。これにより、被処理基板3と同様の条件において活性酸素種捕捉体1、2が活性酸素種10を捕捉する。
【0026】
図4は、活性酸素種を生成する装置の一例として、活性酸素種生成装置5の概略構成を示す断面図である。
活性酸素種生成装置5は、中空のランプ収容部50を有し、このランプ収容部50内にキセノンエキシマランプ51を収容した構成を有する。ランプ収容部50の内部は閉鎖された空間となっていて、窒素が充填されている。ランプ収容部50は密閉されたステンレス製の容器であり、その下部には、フッ化マグネシウム(MgF2)製の窓52が配置され、キセノンエキシマランプ51が発光すると、窓52から外部に紫外光が放射され、窓52の近傍において酸素分子が励起されて活性酸素種10が生成される。
キセノンエキシマランプ51は、波長172nmのUV光を放射し、基底状態の酸素分子を直接解離させて、三重項の原子状酸素と酸化力が非常に強い一重項の原子状酸素とに解離させる。故に、ランプ点灯中、活性酸素種捕捉体1の表面付近には、上記の、オゾン、三重項原子状酸素、一重項原子状酸素といった活性酸素種10が混在した状態となっている。
活性酸素プロセスで被処理基板3を処理する場合は、被処理基板3を窓52に対向させて置くことで、被処理基板3の周囲で活性酸素種10が生成されるため、被処理基板3が活性酸素種10に曝露される。本発明の検出方法では、窓52に対向させて活性酸素種捕捉体1、2を置いて、被処理基板3を処理する場合と同じ時間だけ活性酸素種10に曝露させる。これにより、被処理基板3と同様の条件において活性酸素種捕捉体1、2が活性酸素種10を捕捉する。
【0027】
活性酸素種10に曝露された活性酸素種捕捉体1、2における酸化銀量を測定するため、ICP発光分光法を用いる方法では、活性酸素種捕捉体1または活性酸素種捕捉体2の薄膜21と、活性酸素種10との酸化反応によって、活性酸素種捕捉体1または薄膜21の表面または表層部に形成される酸化銀(主としてAg2Oの形態)層のみがアンモニア水溶液に溶解する化学的性質を利用する。
この方法では、酸化銀をアンモニア水に溶解させ、このアンモニア水溶液を、高周波誘導結合プラズマを励起源として誘導結合性高周波励起し、その放電プラズマからの発光を分光して、発光励起種である銀を同定、定量化し、化学量論的に活性酸素種量を見積る。この方法によれば、活性酸素種捕捉体1、または、活性酸素種捕捉体2の薄膜21の表面ないし表層部に捕捉された酸化銀は全てアンモニア水溶液に溶解されるため、広範囲に亘って作用した活性酸素種10の総量を一括して求めることが可能である。
【0028】
ところで、活性酸素種生成装置4、5に曝露された活性酸素種捕捉体1、2が活性酸素種10を捕捉すると、活性酸素種捕捉体の1、2の表面ないし表層部の金属が、全体的にあるいは部分的に、淡黄色から黄褐色、そして黒色と変色する。この黒色物質をX線回折法により分析したところ、図7に示すように酸化銀(Ag2O)の回折パターンを示したことから、酸化銀(Ag2O)であることが明らかになった。図7Aは対照のために活性酸素種を捕捉する前の状態における活性酸素種捕捉体のX線回折パターンを示し、図7Bに活性酸素種を捕捉した後の状態、すなわち黒変した活性酸素種捕捉体のX線回折パターンを示す。図7Bの回折パターンには、単体の銀(Ag)のピークに加え、Ag2Oによるピークが明瞭に現れている。従って、活性酸素種捕捉体1、2において生成した酸化銀の量から、活性酸素種10の量を求めることができる。
【0029】
なお、活性酸素種を捕捉した活性酸素種捕捉体1、2の活性酸素種量を計測する方法には、ICP発光分光分析法の他、原子吸光光度法、比色分析法、イオン電極法等が知られているが、ICP発光分光分析法は液体に溶解している銀の濃度を速やかに、かつ正確に検出する目的に好適であるため、本実施形態では一例として、ICP発光分光分析法を用いた場合について説明する。
【0030】
図5は、活性酸素種捕捉体において生成された酸化銀を溶解させる装置及び工程を説明する説明図である。
この図5に示す装置は、本発明において酸化銀をアンモニア水溶液に溶解させて銀を含む溶液を得る手段に対応する。この装置を用いる工程では、まず、アンモニア水溶液7を入れたビーカーやフラスコ等のガラス容器6が、ホットプレート8により加熱される。また、加熱中、ガラス容器6の上方から窒素ガスフロー装置9によって窒素ガスが、例えば20l/min.(リットル/分)でフローされる。この過程で、アンモニア水溶液7に溶解していた溶存酸素が加熱により除去される。加熱中に窒素ガスがフローされることで、新たに空気中の酸素がアンモニア水溶液7に溶解することがなく、確実にアンモニア水溶液7中の酸素を除去できる。
このようにして酸素を除去したアンモニア水溶液7中に、活性酸素種10に曝露された活性酸素種捕捉体1、2を沈めて、ホットプレート8により、例えば5分間加熱する。アンモニア水溶液7の溶存酸素を除去する工程から引き続いて、活性酸素種捕捉体1、2を入れた状態で加熱を行う間も、窒素ガスが例えば20l/min.でフローされる。
ここで、活性酸素種捕捉体1、2をアンモニア水溶液7中に沈めて加熱する工程で、活性酸素種捕捉体1、2の厚み(図中符号A)が約1mm(ミリメートル)である場合に、アンモニア水溶液7の深さ(図中符号B)は少なくとも7mm程度であることが好ましい。
【0031】
活性酸素種捕捉体1、2の酸化銀をアンモニア水溶液7に溶解させる際に、アンモニア水溶液7中に溶存酸素が存在すると、この溶存酸素が活性酸素種捕捉体1、2を酸化し、その結果、検出される活性酸素種10の量が増えるという誤差が生じる。この解決方法として、本実施形態では、窒素ガスをフローしながらアンモニア水溶液7を加熱することでアンモニア水溶液7中の溶存酸素を除去し、周辺空気のアンモニア水溶液7中への溶解も防いでいる。さらに、窒素ガスフロー装置9を用いたガスシャワー等でガラス容器6内へ窒素ガスを導入しオーバーフローさせながら加熱することで、アンモニア水溶液7内に投入される活性酸素種捕捉体1と空気との接触を防止し、目的の活性酸素種10以外の要因による銀の酸化を防止している。
【0032】
そして、活性酸素種捕捉体1、2に生成された酸化銀が溶解した後、活性酸素種捕捉体1、2をガラス容器6から取り出し、得られた溶解液をメスフラスコ等に移し入れて純水で希釈し、ICP発光分光分析用の測定試料溶液とする。この測定試料溶液をICP発光分光分析装置のアルゴンプラズマ中に噴霧し、波長328.07nmの発光強度を測定する。ここで、ICP発光分光分析装置は、本発明において定量手段に相当する。
ICP発光分光分析装置で測定された発光強度から酸化銀の量を定量するためには、予め同装置で作成された検量線を用いる。
図6は、検量線の一例を示す図である。
この検量線は、ICP発光分光分析装置において、標準溶液の測定を行い、得た発光強度と銀量との関係線を作成することで得られる。
より詳細には、銀標準原液を、段階的な銀濃度となる様に複数回メスフラスコに分取し、各々の銀標準原液に、測定試料溶液中と同じアンモニア濃度となる様にアンモニア水を加えた後、純水で標線まで希釈し標準溶液とする。この標準溶液の一部をICP発光分光分析装置のアルゴンプラズマ中に噴霧し、波長328.07nmの発光強度を測定し、得た発光強度と銀量との関係線を作成し、その関係線を検量線とする。
活性酸素種捕捉体1、2から得られる測定試料溶液を測定する場合には、ICP発光分光分析装置により上記と同様に測定を行い、その発光強度と、作成した検量線(図6)から銀量を求める。活性酸素種量は、検量線から求められた銀量をもとに、下記式(1)に従って算出できる。なお、下記式(1)においては、酸化銀(Ag2O)における酸素量をもとにして活性酸素種量を求めることになっている。これは、上述したように、銀を主成分とする金属からなる活性酸素種捕捉体1、2が活性酸素種10に曝露された場合に生じる生成物の殆どが黒色の酸化銀であることから、酸化銀を想定した計算式を用いることで正確な活性酸素種の量を求められるためである。
【数1】

【0033】
尚、本発明でいう活性酸素種は、文字通り活性化した酸素原子を含む化学種の総称であり、何れも通常、空気中などに存在する基底状懇の酸素分子より酸化反応力が強いという性質を持つため、洗浄、改質、殺菌、滅菌、酸化処理など工業プロセスにおいて頻繁に利用される。
【0034】
以上説明したように、本発明の検出方法によって、被処理基材に実際に作用した活性酸素種を定量することが可能である。この方法により活性酸素種の検出、定量を行うことで、活性酸素種の生成量を管理、制御することが可能となり、表面処理プロセスの歩留まり向上が図れるため、経済的に著しく優れた効果がもたらされる。
【0035】
なお、上記実施形態においては、活性酸素種捕捉体1、2を被処理基板3に配置する場合、図1B及び図2Bに示したように、被処理基板3の上面の略中央に1個のみ配置する例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
すなわち、被処理基板3の被処理面において、複数の活性酸素種捕捉体1、2を配置することも可能である。この場合、被処理基板3を活性酸素種生成装置4、5にセットして活性酸素種に曝露し、各々の活性酸素種捕捉体1、2について、上述した実施形態と同様に活性酸素種の量を定量する。この場合、被処理基板3に作用する活性酸素種の量を、被処理面の場所ごとに定量することができるので、実際のプロセスにおいて被処理基板3に作用する活性酸素種の場所毎のばらつき(分布)を検知できる。
また、被処理基板3に複数の活性酸素種捕捉体1、2を配置する場合には、活性酸素種捕捉体1、2を互いに離隔させてもよいし、近接あるいは接して配置してもよく、活性酸素種捕捉体1、2の大きさについても適宜変更可能であり、活性酸素種捕捉体1、2のどちらを用いるかについても任意である。
【0036】
以下、本発明を適用した実施形態の具体的態様について、実施例として示す。
【実施例】
【0037】
〈実験1;検量線の作成〉
銀標準原液を、段階的な銀濃度となる様にメスフラスコに分取し、各々の銀標準原液に、測定試料溶液中と同じアンモニア濃度となる様にアンモニア水を加えた後、純水で標線まで希釈し標準溶液とした。
この標準溶液を一部採取して、ICP発光分光分析装置のアルゴンプラズマ中に噴霧し、波長328.07nmの発光強度を測定し、得た発光強度と銀量との関係線を作成し、その関係線を検量線とした。これにより、図6に示した検量線が得られた。
標準溶液としては、1000mg/l(関東化学株式会社製)の溶液を用い、標準溶液中のアンモニア水濃度は、測定試料溶液と同濃度とした。また、ICP発光分光分析装置としては、現エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS−1200Aを用い、RFパワー1.23kW、分析線328.07nmにて発光強度を測定した。
【0038】
〈実験2;活性酸素種の定量〉
アンモニア水(JIS特級試薬)10m1を希釈して作製した10%(v/v)アンモニア水溶液7を、図6に示した装置のガラス容器6に採取し、100℃に設定したホットプレート8により加熱しながら、ガラス容器6内へ窒素を流量20l/min.でフローし、アンモニア水溶液7中の溶存酸素を除去した。
続いて、活性酸素種生成装置4における曝露操作で活性酸素種10により表面が酸化した活性酸素種捕捉体1を、上記のアンモニア水溶液7へ浸漬し、更に窒素を流量20l/min.でフローしながら、ホットプレート8により5分間加熱して、銀の表面の酸化物を溶解した。その後、活性酸素種捕捉体1をガラス容器6から取り出し、ガラス容器6内に残ったアンモニア水溶液7をメスフラスコに移し入れ、純水で標線まで希釈し測定試料溶液とした。
この測定試料溶液を所定量採取して、ICP発光分光分析装置のアルゴンプラズマ中に噴霧し、波長328.07nmの発光強度を測定し、得た発光強度と検量線(図6)から銀量を求め、上記式(1)により活性酸素種量を算出した。
活性酸素種生成装置5における曝露操作で酸化された活性酸素種捕捉体1の分析、及び、活性酸素種捕捉体1に代えて活性酸素種生成装置4、5で曝露操作された活性酸素種捕捉体2の分析も、上記と全く同様の方法で行った。
【0039】
〈実験3;低圧水銀ランプによる活性酸素種の生成量計測〉
図3に示す活性酸素種生成装置4において、低圧水銀ランプ40を専用の安定器(図示略)に接続し、電源を投入することで点灯させて活性酸素種10を発生させた。低圧水銀ランプ40の点灯状態で、処理部42の位置に活性酸素種捕捉体1を配置して活性酸素種に曝露し、実験2の分析方法を用いて活性酸素種量を分析した。
使用した低圧水銀ランプ40は、岩崎電気株式会社製低圧水銀ランプ(型式QGL110U−3)であった。また、活性酸素種捕捉体1において活性酸素種10に曝露された表面積は、活性酸素種捕捉体1の上面の6.25cm2(2.5cm×2.5cm)であった。
活性酸素種捕捉体1を低圧水銀ランプ40から4.5cm離れた位置に設置し、5分間暴露して、活性酸素種10を捕捉した。この活性酸素種10を捕捉した活性酸素種捕捉体1を、上記分析方法として記載したように処理して測定試料溶液を作製した後、ICP発光分光分析装置(現エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS−1200A)を用い、RFパワー1.23kW、分析線328.07nmにて発光強度を測定し、この測定結果と図6の検量線より、銀量を測定した。検出された銀量は、350×10-6gであった。この銀量を、上記式(1)を用いて活性酸素種量に換算すると1.6×10-6molであった。
【0040】
〈実験4;キセノンエキシマランプによる活性酸素種の生成量計測〉
図4に示す活性酸素種生成装置5において、ステンレス容器からなるランプ収容部50内を窒素ガス雰囲気とし、キセノンエキシマランプ51を専用の安定器(図示略)に接続して、電源を投入することで点灯させた。キセノンエキシマランプ51が点灯した状態で、ランプ管下面の窓52の位置に活性酸素種捕捉体1を配置して活性酸素種10に曝露し、実験2の分析方法を用いて活性酸素種量を分析した。
使用したキセノンエキシマランプ51は、岩崎電気株式会社製キセノンエキシマランプ(型式EXH240−1)であった。また、活性酸素種捕捉体1において活性酸素種10に曝露された表面積は、活性酸素種捕捉体1の上面の、6.25cm2(2.5cm×2.5cm)であった。ステンレス製の容器であるランプ収容部50内は窒素ガス雰囲気とし、キセノンエキシマランプ51から3cmの距離に位置するUV光出射口のフッ化マグネシウム(MgF2)窓52から0.2cmの位置に活性酸素種捕捉体1を設置し、5分間暴露し活性酸素種10を捕捉した。この活性酸素種10を捕捉した活性酸素種捕捉体1を、上記分析方法として記載したように処理して測定試料溶液を作製した後、ICP発光分光分析装置(現エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS−1200A)を用い、RFパワー1.23kW、分析線328.07nmにて発光強度を測定し、この測定結果と図6の検量線より、銀量を測定したところ38×10-3gであった。この銀量を、上記式(1)を用いて活性酸素種量に換算すると1.8×10-4mo1であった。
【0041】
なお、上述した方法では、活性酸素種により処理プロセスを経た活性酸素種捕捉体1、2をアンモニア水に浸潤して酸化銀を溶解させ、この酸化銀量を定量していたが、可視域、紫外域、赤外域の何れか波長域、君しくはこれらが複合した波長域の光に対する活性酸素種捕捉体1、2の反射光量若しくは透過光量による計測法を用いれば、プロセス装置に、上記波長の光を活性酸素種捕捉体1、2に投光可能な投光器、また、活性酸素種捕捉体1、2からの反射光若しくは透過光を受光する受光器を設置して、活性酸素種捕捉体1、2表面の酸化銀層による反射、透過光量の変化をモニターすることで、リアルタイムでのプロセス監視が可能である。活性酸素種捕捉体1、2の表面の酸化の度合いに応じた反射、透過光量の変化量を上記のような他の計測法と併用して事前に測定しておくことで、プロセス中の酸化量の同定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る活性酸素種捕捉体の構成例を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る活性酸素種捕捉体の構成例を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る活性酸素種生成装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係る活性酸素種生成装置の別の例を示す概略図である。
【図5】酸化銀をアンモニア水溶液に溶解させる装置及び工程を示す説明図である。
【図6】ICP発光分光分析法における検量線の一例を示す図である。
【図7】活性酸素種捕捉体表面のX線回折パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1、2 活性酸素種捕捉体
3 被処理基板
4、5 活性酸素種生成装置
6 ガラス容器
7 アンモニア水溶液
8 ホットプレート
9 窒素ガスフロー装置
10 活性酸素種
20 基板
21 薄膜
40 ランプ収容部
41 低圧水銀ランプ
42 処理部
50 ランプ収容部
51 キセノンエキシマランプ
52 窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性酸素種を検出する方法であって、
銀を主成分として含有する金属板又は金属薄膜の表面または表層部で前記活性酸素種を捕捉して酸化反応により酸化銀を生成し、
窒素雰囲気下で該酸化銀をアンモニア水溶液に溶解することにより、銀を含む溶液を得て、
得られた溶液から銀の量を計測することにより前記活性酸素種を定量すること、を特徴とする活性酸素種の検出方法。
【請求項2】
得られた溶液に対し、ICP発光分光分析法を用いて銀の量を計測することにより前記活性酸素種を定量すること、を特徴とする請求項1に記載の活性酸素種の検出方法。
【請求項3】
前記酸化銀をアンモニア水溶液に溶解させる際に、前記アンモニア水溶液を収容した容器に窒素をフローさせながら前記アンモニア水溶液を加熱する操作を行い、この加熱後に、前記アンモニア水溶液に前記金属板又は金属薄膜を浸潤させる、ことを特徴とする請求項1または2記載の活性酸素種の検出方法。
【請求項4】
前記金属板又は金属薄膜が、銀単体からなる金属、若しくは、銀と、パラジウムおよび銅のうちの少なくとも何れかから選択される金属とを含む合金から構成される、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の活性酸素種の検出方法。
【請求項5】
活性酸素種を検出する装置であって、
銀を主成分として含有する金属板又は金属薄膜の表面または表層部で前記活性酸素種を捕捉して酸化反応により酸化銀を生成する活性酸素種捕捉体と、
窒素雰囲気下で該酸化銀をアンモニア水溶液に溶解することにより、銀を含む溶液を得る手段と、
得られた溶液から銀の量を計測することにより前記活性酸素種を定量する定量手段とを備えたことを特徴とする活性酸素種の検出装置。
【請求項6】
前記定量手段は、得られた溶液に対し、ICP発光分光分析法を用いて銀の量を計測することにより前記活性酸素種を定量すること、を特徴とする請求項5に記載の活性酸素種の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−133710(P2009−133710A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309847(P2007−309847)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】