説明

活物質の製造方法

【課題】 高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を得られる活物質の製造方法を提供すること。
【解決手段】 リチウム源、バナジウム源、リン酸源、水、及び、重量平均分子量が200〜10万である水溶性高分子を含み、バナジウム原子のモル数に対する全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数の割合が0.02〜1.0である混合物を加圧下で加熱し、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体を得る水熱合成工程と、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体を加熱し、β型結晶構造のLiVOPOを得る焼成工程と、を備える活物質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造式LiVOPOで表される結晶においては、Liが可逆的に挿入脱離することが知られている。特許文献1には、固相法によりβ型結晶構造(斜方晶)のLiVOPO及びα型結晶構造(三斜晶)のLiVOPOを作製し、これらを非水電解質二次電池の電極活物質として用いることが開示されている。そして、非水電解質二次電池の放電容量は、α型結晶構造(三斜晶)のLiVOPOに比べ、β型結晶構造のLiVOPOの方が大きいことが記載されている。
【0003】
非特許文献1には、VOPOとLiCOとを炭素の存在下で加熱し、炭素によりLiCOを還元して、β型結晶構造のLiVOPOを作製する方法(カーボサーマルリダクション法(CTR法))が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−303527号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Baker et al.,J.Electrochem.Soc.,151,A796(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1に記載された方法により得られたβ型結晶構造のLiVOPOは、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を得られるものではなかった。
【0007】
そこで、本発明は、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を得られる活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、リチウム源、バナジウム源、リン酸源、及び水とともに、重量平均分子量が200〜10万の水溶性高分子を、バナジウム原子のモル数に対する全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数の割合が0.02〜1.0となるように混合した混合物を、加圧下で加熱することにより、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体が得られることを見出した。そして、当該前駆体を焼成することにより、平均粒径が小さく、かつ、β型結晶構造の比率が高いLiVOPOを得られることを見出し、上記本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の活物質の製造方法は、リチウム源、バナジウム源、リン酸源、水、及び、重量平均分子量が200〜10万である水溶性高分子を含み、バナジウム原子のモル数に対する全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数の割合が0.02〜1.0である混合物を加圧下で加熱し、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体を得る水熱合成工程と、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体を加熱し、β型結晶構造のLiVOPOを得る焼成工程と、を備える。
【0010】
本発明によって得られた活物質は、平均粒径が小さく、かつ、β型結晶構造のLiVOPOの比率が高いため、Liイオンが拡散し易い。このような活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を得ることができる。平均粒径の小さなLiVOPOが得られる理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。混合物に、重量平均分子量が200〜10万の水溶性高分子を、混合物中のバナジウム原子のモル数に対する全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数の割合が0.02〜1.0となるように添加することにより、水溶性高分子が、混合物中の金属イオンに配位する。これにより、金属イオンの分散性が高い前駆体が得られ、当該前駆体の焼成工程において、熱処理による活物質の粒成長が抑制されるものと考えられる。また、β型結晶構造のLiVOPOの比率が高くなる理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。重量平均分子量が200〜10万の水溶性高分子が水熱合成時の核生成や核成長に影響し、β型結晶構造の成長を促進するものと考えられる。
【0011】
ここで、上記焼成工程においては、水熱合成工程後のβ型結晶構造のLiVOPOの前駆体を、大気雰囲気下で加熱することが好ましい。
【0012】
水熱合成工程後のβ型結晶構造のLiVOPOの前駆体を、大気雰囲気下で加熱することにより、当該前駆体に残留した水溶性高分子を十分に除去することができる。これにより、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を得ることができる。
【0013】
また、水熱合成工程において、上記混合物に含まれる水溶性高分子の最高被占軌道の準位が−9.6eVより低いことが好ましい。水溶性高分子の最高被占軌道の準位が−9.6eVより低いと、β型結晶構造のLiVOPOが得られ易い。
【0014】
また、水溶性高分子が、ポリエチレングリコール,ビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0015】
水溶性高分子が、ポリエチレングリコール,ビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことにより、当該前駆体の焼成工程において、熱処理による活物質の粒成長が抑制され易くなる。
【0016】
また、水熱合成工程において、混合物中にさらに還元剤を添加することが好ましい。これにより、β型結晶構造のLiVOPOがより得られ易い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を得られる活物質の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態に係る活物質の製造方法は、リチウム源、バナジウム源、リン酸源、水、及び、重量平均分子量が200〜10万である水溶性高分子を含み、バナジウム原子のモル数に対する全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数の割合が0.02〜1.0である混合物を加圧下で加熱し、β型結晶構造のLiVOPOを得る水熱合成工程と、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体を加熱し、β型結晶構造のLiVOPOを得る焼成工程と、を備える。
【0019】
[水熱合成工程]
本実施形態に係る水熱合成工程は、リチウム源、バナジウム源、リン酸源、水、及び、重量平均分子量が200〜10万である水溶性高分子を含み、バナジウム原子のモル数に対する全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数の割合が0.02〜1.0である混合物を加圧下で加熱し、β型結晶構造のLiVOPOを得る工程である。
【0020】
(混合物)
リチウム源としては、例えば、LiNO、LiCO、LiOH、LiCl、LiSO及びCHCOOLi等のリチウム化合物が挙げられる。これらの中でも、LiNO、LiCOが好ましい。
バナジウム源としては、V及びNHVO等のバナジウム化合物が挙げられる。
リン酸源としては、例えば、HPO、NHPO、(NHHPO及びLiPO等のPO含有化合物が挙げられる。これらの中でも、HPO、(NHHPOが好ましい。
【0021】
リチウム源、リン酸源、及びバナジウム源の配合比は、組成式:LiVOPOで表される組成となるように、すなわち、Li原子:V原子:P原子:O原子=1:1:1:5(モル比)となるように調整すればよい。
【0022】
水溶性高分子は、水に溶解する高分子であり、分子中に極性を有する。中でも、特に分子中に酸素原子を含むものが好ましい。
ただし、水溶性高分子は、分子中に極性を有するものであっても、分子中にハロゲン原子、硫黄原子を含むもの、又は、混合物中で金属イオンを放出するものは、水熱合成用の装置を腐食したり、混合物中に不純物として残留したりする恐れがあるため、好ましくない。
【0023】
水溶性高分子は、ポリエチレングリコール、ビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの中でも、β型結晶構造のLiVOPOを高収率で得る観点から、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0024】
水溶性高分子の重量平均分子量は、200〜10万である。水溶性高分子として、ポリエチレングリコールを用いる場合、重量平均分子量は、400〜50000であることが好ましく、400〜4000であることが特に好ましい。上記範囲内においては、高いレート特性及び高い放電容量を得ることができる。
【0025】
リチウム源、バナジウム源、リン酸源、水、及び水溶性高分子を含む混合物中の水溶性高分子の含有量は、バナジウム源のバナジウム原子のモル数に対する全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数の割合に換算して0.02〜1.0である。混合物中の水溶性高分子の含有量が上記範囲内の値であると、平均一次粒子径が小さく、かつ、β型結晶構造のLiVOPOの比率が高い活物質を得ることができる。混合物中の水溶性高分子の含有量が0.02より少ないと、平均一次粒子径の値は増加する。一方、1.0より多いと、β型結晶構造のLiVOPOが得られにくい。平均一次粒子径がより一層小さく、かつ、β型結晶構造のLiVOPOの比率が高い活物質を得る観点から、混合物中の水溶性高分子の含有量は、0.2〜0.8であることが好ましい。
【0026】
ここで、本実施形態における「平均一次粒子径」とは、得られたLiVOPOの一次粒子に対して測定した個数基準の粒度分布における、累積率が50%であるD50の値である。一次粒子の個数基準の粒度分布は、例えば、高分解能走査型電子顕微鏡で観察したイメージに基づいたLiVOPOの一次粒子の投影面積から投影面積円相当径を測定し、その累積率から算出することができる。なお、投影面積円相当径とは、粒子の投影面積と同じ投影面積を持つ球を想定し、その球の直径(円相当径)を粒子径として表したものである。
【0027】
ここで、「繰り返し単位」とは、具体的には、ポリエチレングリコール(PEG)については、下記式(I)に示されるものであり、ビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体(VEMA)の繰り返し単位については、下記式(II)に示されるものであり、ポリビニルピロリドン(PVP)については、下記式(III)に示されるものである。
【0028】
【化1】


【化2】


【化3】

【0029】
ここで、「全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数」とは、具体的には、混合物中に、水溶性高分子がm個存在している場合に、それぞれの分子中に含まれる繰り返し単位の数が、n、n、n、n、・・・nであれば、これらの総和(n+n+n+n+・・・+nm)を意味する。
【0030】
ここで、水溶性高分子は、最高被占軌道の準位が−9.6eVよりも低いことが好ましい。最高被占軌道の準位が−9.6eVよりも低いと、β型結晶構造のLiVOPOが得られ易い。水溶性高分子は、最高被占軌道の準位は、例えば、MOPACを用いて、計算により求めることができる。このような数値を参考にすれば、水溶性高分子として適したものを選定し易くなる。
【0031】
また、上記混合物中には、エチレンジアミン、ヒドラジン1水和物等の還元性の強い物質を添加することができる。これにより、活物質全体における、β型結晶構造のLiVOPOをより増加させることができ、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を得ることができる。
【0032】
ところで、得られた活物質用いて電極の活物質含有層を作製する場合、導電性を高めるべく、通常この活物質の表面に炭素材料等の導電材を接触させることが多い。この方法として、活物質の製造後に活物質と導電材とを混合して活物質含有層を形成してもよいが、例えば、混合物中に、炭素材料を導電材として添加して活物質に炭素を付着させることもできる。
【0033】
混合物中に炭素材料である導電材を添加する場合の導電材としては、例えば、活性炭、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン等が挙げられる。これらの中でも水熱合成時に炭素粒子を混合物に容易に分散させることができる、活性炭を用いることが好ましい。ただし、導電材は必ずしも水熱合成時に混合物に全量混合されている必要はなく、少なくとも一部が水熱合成時に混合物に混合されることが好ましい。これにより、活物質含有層を形成する際のバインダーを低減して容量密度を増加させることができる場合がある。
【0034】
水熱合成工程における混合物中の炭素粒子等の上記導電材の含有量は、炭素粒子を構成する炭素原子のモル数C2と、例えばバナジウム化合物に含まれるバナジウム原子のモル数Mとの比C2/Mが、0.04≦C2/M≦4を満たすように調製することが好ましい。導電材の含有量(モル数C2)が少な過ぎる場合、活物質と導電材により構成される電極活物質の電子伝導性及び容量密度が低下する傾向がある。導電材の含有量が多過ぎる場合、電極活物質に占める活物質の重量が相対的に減少し、電極活物質の容量密度が減少する傾向がある。導電材の含有量を上記の範囲内とすることにより、これらの傾向を抑制できる。
【0035】
混合物中における水の量は水熱合成が可能であれば特に限定されないが、混合物中の水以外の物質の割合は35質量%以下となることが好ましい。
【0036】
混合物を調整する際の、原料の投入順序は特に制限されない。例えば、上記混合物の原料をまとめて混合してもよく、また、最初に、水とPO含有化合物の混合物に対してバナジウム化合物を添加し、その後、水溶性高分子を添加し、さらにその後、リチウム化合物を加えてもよい。混合物は十分に混合させ、添加成分を十分に分散させておくことが好ましい。
【0037】
水熱合成工程では、まず、内部を加熱、加圧する機能を有する反応容器(例えば、オートクレーブ等)内に、上述した混合物(リチウム化合物、バナジウム化合物、PO含有化合物、水、水溶性高分子等)を投入する。なお、反応容器内で混合物を調整してもよい。
【0038】
次に、反応容器を密閉して、混合物を加圧しながら加熱することにより、混合物の水熱反応を進行させる。これにより、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体を含む物質が水熱合成される。
【0039】
水熱合成により得られたβ型結晶構造のLiVOPOの前駆体を含む物質は、通常、水熱合成後の液中に固体として沈殿する。この物質に含まれるβ型結晶構造のLiVOPOの前駆体は、水和物の状態であると考えられる。そして、水熱合成後の液を、例えば、ろ過して固体を捕集し、捕集された固体を水やアセトン等で洗浄し、その後乾燥させることによりこの前駆体を高純度に得ることができる。
【0040】
水熱合成工程において、混合物に加える圧力は、0.1〜30MPaとすることが好ましい。混合物に加える圧力が低過ぎると、最終的に得られるβ型結晶構造のLiVOPOの結晶性が低下し、活物質の容量密度が減少する傾向がある。混合物に加える圧力が高過ぎると、反応容器に高い耐圧性が求められ、活物質製造コストが増大する傾向がある。混合物に加える圧力を上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0041】
水熱合成工程における混合物の温度は、120〜300℃とすることが好ましい。混合物の温度が低過ぎると、最終的に得られるβ型結晶構造のLiVOPOの結晶性が低下し、活物質の容量密度が減少する傾向がある。混合物の温度が高過ぎると、反応容器に高い耐熱性が求められ、活物質の製造コストが増大する傾向がある。混合物の温度を上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0042】
[焼成工程]
本実施形態に係る焼成工程は、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体を加熱し、β型結晶構造のLiVOPOを得る工程である。この工程では、水熱合成工程後の混合物中に残留した不純物等が除去される現象が起こると共に、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体が脱水されて結晶化が起こるものと考えられる。
【0043】
ここで、焼成工程では、上述の前駆体を400℃〜650℃に0.5〜10時間加熱することが好ましい。加熱時間が短すぎると、最終的に得られるβ型結晶構造のLiVOPOの結晶性が低下し、活物質の容量密度が減少する傾向がある。一方、加熱時間が長すぎると、活物質の粒成長が進み粒径が増大する結果、活物質におけるリチウムの拡散が遅くなり、活物質の容量密度が減少する傾向がある。加熱時間を上記の範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
【0044】
焼成工程の雰囲気は特に限定されないが、水溶性高分子の除去を行い易くするためには、大気雰囲気であることが好ましい。一方、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性雰囲気中で行うこともできる。
【0045】
上述した水熱合成工程及び焼成工程を備える活物質の製造方法によれば、平均一次粒子径が小さく、かつ、β型結晶構造のLiVOPOの比率が高い活物質を得ることができる。
【0046】
活物質に含まれるβ型結晶構造のLiVOPOは、β型結晶構造のLiVOPOとα型結晶構造のLiVOPOとの総和に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましい。ここで、粒子中におけるβ型結晶構造のLiVOPOやα型結晶構造のLiVOPO等の量は、例えば、X線回折法により測定することができる。通常、β型結晶構造のLiVOPOは2θ=27.0度にピークが現れ、α型結晶構造のLiVOPOは2θ=27.2度にピークが現れる。なお、活物質は、β型結晶構造のLiVOPO及びα型結晶構造のLiVOPO以外にも、未反応の原料成分等を微量含んでもよい。
【0047】
以上、本発明の活物質の製造方法の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0048】
本発明の活物質は、リチウムイオン二次電池以外の電気化学素子の電極材料としても用いることができる。このような、電気化学素子としては、金属リチウム二次電池(カソードに本発明の活物質を含む電極を用い、アノードに金属リチウムを用いたもの)等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池や、リチウムキャパシタ等の電気化学キャパシタ等が挙げられる。これらの電気化学素子は、自走式のマイクロマシン、ICカードなどの電源や、プリント基板上又はプリント基板内に配置される分散電源の用途に使用することが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
<水熱合成工程>
500mlのマイヤーフラスコに、23.06g(0.20mol)のHPO(ナカライテスク社製、純度85%)、及び、180gの蒸留水(ナカライテスク社製、HPLC用)を入れ、マグネチックスターラーで攪拌した。続いて、18.38g(0.10mol)のV(ナカライテスク社製、純度99%)を加え、約2.5時間攪拌を続けた。
次に、重量平均分子量が400であるポリエチレングリコールを、上記混合物中に滴下した。ここで、混合物中のバナジウム原子のモル数に対する全ポリエチレングリコール分子の繰り返し単位の総モル数が0.02となるように、ポリエチレングリコール(ナカライテスク社製)を0.060g(0.00015mol)滴下した。
続いて、8.48g(0.20mol)のLiOH・HO(ナカライテスク社製、純度99%)を約10分かけて加えた。得られたペースト状の物質に、20gの蒸留水を追加した後、フラスコ内の物質250.96gを、0.5Lオートクレーブのガラス製の円筒容器内に移した。容器内の物質のpHを測定したところ、pHは4であった。容器を密閉した。ヒータのスイッチをオンにしてから、48時間、160℃で保持し、水熱合成を行った。
【0051】
ヒータのスイッチをオフにした後、約2時間かけて放冷を行い、茶褐色沈殿と無色透明の上澄みとを含む物質を得た。この物質のpHを測定したところ、pHは3.5であった。上澄みを除去した後、約200mlの蒸留水を加え、攪拌しながら容器内の沈殿物を洗浄した。その後、吸引濾過を行った。上記のような水洗を2回繰り返した後、約200mlのアセトンを加え、水洗と同様にして沈殿物の洗浄を行った。濾過後の物質をステンレスシャーレに移し、室温にて15.5時間の真空乾燥を行い、30.95gの茶褐色固体を得た。収率は、LiVOPO換算で94.0%であった。
【0052】
<焼成工程>
水熱合成工程で得られた茶褐色個体3.00gをアルミナ坩堝に入れ、大気雰囲気中、室温から600℃まで60分かけて昇温し、600℃で4時間熱処理することにより、粉体を得た。
【0053】
<水溶性高分子の最高被軌道(HOMO)の準位の算出>
重量平均分子量が400であるポリエチレングリコールの最高被軌道(HOMO)準位を、MOPAC6により計算したところ、−10.5eVであった。
【0054】
<β比の測定>
実施例1の活物質におけるβ型結晶構造のLiVOPOとα型結晶構造のLiVOPOとの総和に対するβ型結晶構造の割合(β比)を、粉末X線回折(XRD)の結果より求めた。実施例1の活物質におけるβ比は、86%であった。
【0055】
<個数基準の粒度分布及び平均一次粒子径の測定>
実施例1の活物質の個数基準の粒度分布を、高分解能走査型電子顕微鏡で観察したイメージに基づいた活物質の投影面積から求められる投影面積円相当径の累積率により算出した。求めた活物質の個数基準の粒度分布に基づき、活物質の平均一次粒子径(D50)を算出した。活物質の平均一次粒子径(D50)は、910nmであった。
【0056】
<放電容量の測定>
実施例1の活物質と、バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とアセチレンブラックを混合したものを、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。なお、スラリーにおいて活物質とアセチレンブラックとPVDFとの重量比が84:8:8となるように、スラリーを調製した。このスラリーを集電体であるアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させた後、圧延を行い、実施例1の活物質を含む活物質層が形成された電極(正極)を得た。
【0057】
次に、得られた電極と、その対極であるLi箔とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで積層し、積層体(素体)を得た。この積層体を、アルミラミネーターパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として1MのLiPF溶液を注入した後、真空シールし、実施例1の評価用セルを作製した。
【0058】
実施例1の評価用セルを用いて、放電レートを0.01C(25℃で定電流放電を行ったときに100時間で放電終了となる電流値)とした場合の放電容量(単位:mAh/g)を測定した。0.1Cでの放電容量は、142mAh/gであった。また、放電レートを0.1C(25℃で定電流放電を行ったときに10時間で放電終了となる電流値)とした場合の放電容量(単位:mAh/g)を測定した。0.1Cでの放電容量は、98mAh/gであった。
【0059】
<レート特性の評価>
0.01Cでの放電容量に対する、0.1Cでの放電容量の百分率を算出し、レート特性として評価した。実施例1の評価用セルのレート特性は、69.0%であった。
【0060】
(実施例2〜14、比較例1〜5)
水熱合成工程において混合物中に添加する水溶性高分子の種類及び重量平均分子量、混合物中の水溶性高分子の含有量、水熱合成温度、並びに、焼成工程における焼成雰囲気を下記表1、2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜14、比較例1〜5の活物質を得た。得られた活物質におけるβ型結晶構造のLiVOPOとα型結晶構造のLiVOPOとの総和に対するβ型結晶構造の割合(β比)、活物質の平均一次粒子径(D50)並びに、これらの活物質を用いた評価用セルの放電容量及びレート特性を表3、4に示す。
なお、実施例14は、Vの添加後、激しく攪拌しながら、2.55g(0.05mol)のヒドラジン1水和物を滴下した。ヒドラジン1水和物を滴下した後、約60分間攪拌を続けた(還元剤の添加)。その後、重量平均分子量が400であるポリエチレングリコールを、上記混合物中に滴下し、実施例1と同様の手順で混合物を調製した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
実施例1〜14で得られた活物質は、β型結晶構造のLiVOPOであった。また、得られた活物質の平均一次粒子径(D50)は、1000nmより小さく、活物質を含む電極を用いたセルは、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を示した。還元剤を用いた実施例14は、活物質に占めるβ型結晶構造のLiVOPOの割合が最も高く、最も高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を示した。
【0066】
焼成工程において、大気雰囲気中で加熱を行った実施例2と、アルゴン雰囲気中で加熱を行った実施例7とを比較すると、大気雰囲気中で加熱を行った実施例2のほうが、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量が得られた。
【0067】
実施例1〜14及び比較例1〜5により、特定範囲の分子量を有する水溶性高分子を含み、バナジウム原子のモル数に対する全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数の割合を特定範囲となるように調整した混合物を水熱合成し、さらに焼成することにより、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量のβ型結晶構造のLiVOPOを得られることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム源、バナジウム源、リン酸源、水、及び、重量平均分子量が200〜10万である水溶性高分子を含み、バナジウム原子のモル数に対する全水溶性高分子の繰り返し単位の総モル数の割合が0.02〜1.0である混合物を加圧下で加熱し、β型結晶構造のLiVOPOの前駆体を得る水熱合成工程と、
前記β型結晶構造のLiVOPOの前駆体を加熱し、β型結晶構造のLiVOPOを得る焼成工程と、
を備える活物質の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程では、前記水熱合成工程後のβ型結晶構造のLiVOPOの前駆体を、大気雰囲気下で加熱する請求項1記載の活物質の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子の最高被占軌道の準位が−9.6eVより低い請求項1又は2記載の活物質の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール,ビニルメチルエーテル無水マレイン酸共重合体及びポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれか一項記載の活物質の製造方法。
【請求項5】
前記水熱合成工程において、前記混合物中にさらに還元剤を添加する、請求項1〜4のいずれか一項記載の活物質の製造方法。

【公開番号】特開2011−51859(P2011−51859A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204623(P2009−204623)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】