説明

流体を分注するためのシステムおよび方法

【課題】マルチウェルプレートの製造公差の範囲内の非平面性によるピペット操作に関連する問題の解決
【解決手段】1または複数の流体を標的のマルチウェルプレートのウェル内に分注するためのシステムに関し、
前記マルチウェルプレートを所定の保持位置に保持するためのホルダであって、前記プレートが前記流体を収容するための複数のウェルを設けたウェル領域と、該ウェル領域を包囲するエッジ領域とを有し、該ホルダが、
該ホルダとプレートとの間に形成された空隙を気密密閉する密閉領域を形成するエッジ領域に接触するようにされた接触領域と、ウェル領域を平面状態に支持するようにされた少なくとも1つの支持面と、前記ウェル領域を前記少なくとも1つの支持面上に引き出すために、前記空隙において負圧を生成するためのポンプに接続されるダクトと、を含むホルダ備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的のマルチウェルプレートのウェル内に流体を自動的に分注するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体液の臨床分析の継続的な増加の観点から、同時に複数のピペット操作を可能にする新しい自動ピペット装置を開発するために多大な努力がなされ、このような装置は、通常、マルチウェルプレートの使用をともなう。マルチウェルプレートは流体を受け取るための複数のウェルを設け、ウェルは、直角にて互いに交差する縦列および横列で構成された二次元の配列で規則的に配置される。使い捨てのみを対象として、プラスチック製のマルチウェルプレートは、平面性において一定の製造公差の範囲内で工業的に大量生産されており、そのため、わずかな凹凸の上面を呈し得る。このような差異は、マルチウェルプレートに比較的少数のウェルが設けられる場合は重要でないとみなされるが、多くの配列を有するマルチウェルプレートの場合は、通常、隣接するウェル間の距離が小さいため、ピペット操作に関連する問題が生じ得る。非均一なプレートは、たとえば、ピペットとウェルとの間の意図しない接触をもたらすことがあり、このことは、試料の二次汚染の危険性の増加となる。さらに、ピペット操作の誤りの増加が生じ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述に鑑みて、本発明の目的は、マルチウェルプレートのウェル内に1または複数の流体を分注するための改善されたシステムおよび方法を提供することである。この目的は、独立請求項によるシステムおよび方法によって達成される。本発明の好ましい実施の形態は、従属請求項の特徴に与えられる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の特徴によると、少なくとも1つの標的のマルチウェルプレートのウェル内に1または複数の流体を自動的に分注するための新しいシステムが提案される。本発明のシステムは、ユーザの特定の要求にしたがって、種々の様式で構成可能である。これは、たとえば、液体試料を分析するために使用できる。本発明のシステムにより分注する流体は、血液、血清、尿、脳脊髄液および核酸含有流体などの生物学的流体、化合物および薬剤などの非生物学的流体、およびマルチウェルプレートの使用を含む分注である限りにおいていかなる重要な流体を含み得る。
【0005】
本発明によると、システムは、所定の保持位置において少なくとも1つの標的のマルチウェルプレートを保持するようにされたホルダを備える。本発明のシステムの一部でないマルチウェルプレートではあるが、任意的にシステムの一部となり得るマルチウェルプレートは、以下において「ウェル領域」と称されて、流体を受け取るために二次元の配列において規則的に配置された複数のウェルを設けた第1の領域と、以下において「エッジ領域」と称されて、フレームのようにウェル領域を包囲する第2の領域とを有する。
【0006】
ホルダは、該ホルダと保持位置にあるプレートとの間に形成された空隙を気密に密閉する密閉領域を形成するために、標的のマルチウェルプレートのエッジ領域に接触させられる接触領域を有する。接触領域とエッジ領域との間には、ウェル領域を包囲する密閉領域が形成される。密閉領域は、たとえば、空隙を気密密閉するための、ゴム製などのガスケットなど、少なくとも1つの密閉手段を含み得る。
【0007】
ホルダは、さらに、平面状態にウェル領域を支持するようにされた少なくとも1つの支持面を含む。したがって、少なくとも1つの支持面は、平面の標的マルチウェルプレートを支持するようにされる。別の方法において、少なくとも1つの支持面は、標的のマルチウェルプレート面のウェル領域を少なくとも1つの支持面上に引き出すことによって、非平面の標的マルチウェルプレート(すなわち、標的のマルチウェルプレートの非平面のウェル領域)を平面化する(すなわち、平面にする)ために使用され得る。標的のマルチウェルプレートは、以下において「スペーサ」と称される少なくとも1つ構造的要素を含み、これは、少なくとも1つの支持面からマルチウェルプレートの上面を空間的に分離させるために、ホルダの少なくとも1つの支持面に接触させられる。スペーサは、少なくとも数個のウェルによって具現化可能であり、その場合、ウェルの外壁は少なくとも1つの支持面に接触する。代替的または追加的に、標的のマルチウェルプレートには、保持位置にある少なくとも1つの支持面に向かって突出した支柱などの複数の構造部材が設けられる。
【0008】
また、ホルダは、さらに、標的のマルチウェルプレートのウェル領域を少なくとも1つの支持面上に引き出すために、気密密閉された空隙において負圧を生成するポンプへの接続のためのダクトを含む。前に詳述したように、非平面のプレートの場合、ホルダの少なくとも1つの支持面が、ホルダとプレートとの間の空隙において負圧を生成することによってプレートのウェル領域を支持および平面化し、該負圧は充分に強いため、プレートのウェル領域の少なくとも1つの支持面への接触をもたらす。標的のマルチウェルプレートは、通常、プラスチック材料製であって数ミリメータのプレートの高さを有するため、プレートは、通常、ウェル領域を少なくとも1つの支持面上に引き出すことを可能にするように充分な可撓性を有する。プレートは、たとえば、96,384または1536個のウェルを含み、たとえば、0.5〜2ミリメータの範囲の開口部を有し得る。また、ポンプは、保持位置から標的のマルチウェルプレートを除去するために、空隙において正圧を生成するためにも使用できる。
【0009】
さらに、システムは、ホルダに保持された標的のマルチウェルプレートのウェルに(to wells)/ウェルから(from wells)流体を分注および吸引するための少なくとも1つのピペットを設けた少なくとも1つのピペッタを含む。同時に複数のピペット操作を行うことができるように、ピペッタが複数のピペットを含むことが好ましいことがある。ピペッタはホルダに対して所定の空間的関係を有するため、プレートはピペッタに対して所定の空間的関係を有し、ピペット操作を容易にする。たとえば、ピペッタを固定する(またはピペッタを位置決めする位置決め手段を固定する)搭載部は、ホルダに対して所定の空間的関係を有し得る。ピペッタと標的のマルチウェルプレートとの間の所定の空間的関係によって、有利には、標的のマルチウェルプレートの位置を検出するための光学的検出手段などの専用手段を使用する必要がない。さらに、保持位置での平面化されたマルチウェルプレートによって、有利には、非平面の凸または凹状のプレートによって変化してウェルとピペットとの間の不要な接触をもたらし得る、ウェルの開口部を検出するための専用手段を使用する必要がない。特に、ジェットの使用によって流体の非接触分注を可能にするピペットの場合、ジェットは、しばしばウェルの中心を必ずしも標的としないため、流体の二次汚染の危険を引き起こすことが知られている。したがって、このような二次汚染を回避するために、流体がヘットにより分注される場合、ピペットとウェルとの間の距離が小さいことが重要である。したがって、保持位置において非平面のウェル領域を平面化することによって、ピペットは、有利には、ウェルに近接した位置にもたらされ、ピペットと標的のマルチウェルプレートのウェルとの間のきわめて小さな距離を可能にする。特に、ピペットとウェルの上縁部との間の距離は、たとえば、+2〜−2ミリメータ(負の値の場合、ピペット先端部はウェル内に突出する)まで小さくなるように選択可能である。
【0010】
また、他に、流体ジェットの使用によってウェルの内壁から流体が跳ね返ることがあることが知られている。したがって、平面化された標的のマルチウェルプレートの近傍にもたらされ得るピペットは、また、二次汚染を回避するために、跳ね返る流体から隣接するウェルを保護するためにも使用できる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態において、ピペッタは、流体ジェットの使用によって流体を非接触分注するようにされた1または複数のピペットを含む。この場合、ピペットとウェルの開口部との間の距離は、好ましくは、+1〜−1ミリメータの範囲となるように選択される。本発明の別の好ましい実施の形態において、ピペッタは、跳ね返る流体から隣接するウェルを保護するようにされた1または複数のピペットを含む。
【0012】
容易に理解できる本発明の好ましい実施の形態において、ホルダは、標的のマルチウェルプレートを支持するための少なくとも1つの支持面として使用される少なくとも1つの平面を含み、該平面には、互いに対して流体接続されて、ポンプ接続可能なダクトに接続された複数の溝が設けられる。この点において、支持面は、たとえば、互いに対して分離された溝により複数の支持面に分割され得る。この実施の形態において、ホルダの平面に対してポンプ接続可能なダクトを中心に配置することが好ましい場合もある。
【0013】
本発明の別の好ましい実施の形態によると、システムは、プレートの温度を制御するための機構を含み、該機構は、保持位置にある標的のマルチウェルプレートを加熱する加熱機構および/または保持位置にあるプレートを冷却するようにされた冷却機構として具現化可能である。標的のマルチウェルプレートの冷却は、比較的少量の流体の場合、流体の蒸発を減少するために重要となり得る。プレートの温度を雰囲気の露点、または雰囲気の露点の少なくとも近傍に設定することがきわめて有利となり得る。温度調節機構は、たとえば、水などの熱伝導流体、または専用の流体システムに流されるガスなどのあらゆる流体を含み得る。代替的に、温度調節機構は、たとえば、保持位置にある標的のマルチウェルプレートに接触し、ペルチェ効果を利用したペルチェ素子などの熱電素子として具現化可能である。当業者に知られるように、ペルチェ素子を通って電流が通過する際、印加された電流の方向に応じて、装置は、熱を吸収して標的のマルチウェルプレートを冷却するヒートシンクとして機能するか、または熱を放出して標的のマルチウェルプレートを加熱する熱源として機能する。
【0014】
本発明のさらに別の好ましい実施の形態によると、システムは、保持位置を各複数の標的マルチウェルプレートに適合させるためのアダプタを含み、該標的のマルチウェルプレートは互いに対して寸法が異なるため、ホルダが種々の標的マルチウェルプレートを保持するために使用され得る。
【0015】
本発明のさらに別の好ましい実施の形態によると、システムは、さらに、保持位置からプレートを排出するようにされた排出機構を含む。該排出機構は、プレートを保持位置から除去するために移動可能な可動プランジャなどの機械的排出装置として具現化され得る。代替的に、標的のマルチウェルプレートを保持位置から除去するために、プレートとホルダとの間の空隙において正圧を生じさせることができる。
【0016】
本発明のさらに別の好ましい実施の形態によると、システムは、さらに、マルチウェルプレートの存在を検出するようにされた検知センサ(presence sensor)、システムの温度を検出するようにされた温度センサ、システムでの凝縮の結果、水を検出するようにされた凝縮センサから選択された少なくとも1つのセンサを含み得る。
【0017】
本発明のさらに別の好ましい実施の形態によると、ホルダは、標的のマルチウェルプレートを所定の保持位置に位置決めするようにされ、以下において「ポジショナ」と称される複数の位置決め手段を含む。ポジショナは、標的のマルチウェルプレートに向かって、または標的のマルチウェルプレートから離れるように可動であるため、保持位置は、ユーザの特定の要求にしたがって変更可能である。この場合、システムは、さらに、ポジショナに対して標的のマルチウェルプレートを予備伸張するようにされたばねなどの予備伸張手段を含む。
【0018】
本発明のさらに別の好ましい実施の形態によると、ホルダは、基礎構造部から所望の通りに除去できるように基礎構造部に支持される。この場合、基礎構造部は、互いに対して異なる少なくとも2つの位置においてホルダを支持するようされることが好ましい。この点において、ホルダは、たとえば、互いに対して90°回転する少なくとも2つの位置において基礎構造部に固定され得る。システムは、また、ホルダを基礎構造部に連結する回転テーブルなど、ホルダをある位置から別の位置に移送するための手段を含み得る。
【0019】
本発明のさらに別の好ましい実施の形態によると、システムは、さらに、流体を少なくとも1つのピペットに吸引して、標的のマルチウェルプレートのウェル内に分注するための1または複数の供給容器を含む。流体を吸引するための1または複数の供給容器は、標的のマルチウェルプレートのホルダと同様の構造である別のホルダによって、たとえば、保持位置において保持可能である、たとえば、供給マルチウェルプレートとして具現化可能である。したがって、供給マルチウェルプレートは、該供給マルチウェルプレートとそのホルダとの間に形成された空隙において生成された負圧によって保持位置に保持可能であって、これにより供給マルチウェルプレートの非平面のウェル領域を平面化する。
【0020】
本発明のさらに別の好ましい実施の形態によると、標的のマルチウェルプレートは、導電性材料、たとえば、導電性にするために粒子また繊維などの炭素要素を設けたプラスチック材料製であり、ピペッタに電気的に接続されているため、標的のマルチウェルプレートおよびピペッタは、同一の静電電位を呈する。
【0021】
本発明の第2の特徴によると、少なくとも1つの標的のマルチウェルプレートを保持位置に保持するためのホルダが提案される。本発明の第1の特徴に関連して前に詳述したように、本発明のホルダの一部でない標的のマルチウェルプレートは、しかしながら任意的にその一部とすることができ、1または複数の流体を収容するための複数のウェルを設けたウェル領域と、該ウェル領域を包囲するエッジ領域とを含む。ホルダは、該ホルダとプレートとの間に形成された空隙を気密に密閉する密閉領域を形成するために、エッジ領域に接触させられる接触領域を有する。ホルダは、平面のマルチウェルプレートを支持するために、平面状態にウェル領域を支持するようにされた少なくとも1つの支持面を含み、すなわち、ウェル領域を少なくとも1つの支持面に接触させることで、非平面の標的マルチウェルプレートのウェル領域を平面化する。ホルダは、さらに、ウェル領域を少なくとも1つの支持面上に引き出すために、空隙において負圧を生成するポンプへの接続のためのダクトを含む。
【0022】
本発明の第3の特徴によると、少なくとも1つの標的のマルチウェルプレートのウェル内に1または複数の流体を分注する新しい方法が提案される。該方法は、前述の少なくとも1つの標的のマルチウェルプレートを保持領域に保持するためのホルダを提供する工程を含む。方法は、さらに、前述の標的のマルチウェルプレートを保持領域に設ける工程を含む。本発明の第1および第2の特徴に関連して前に詳述したように、標的のマルチウェルプレートは、1または複数の流体を収容するための複数のウェルを設けたウェル領域と、該ウェル領域を包囲するエッジ領域とを含む。ホルダは、該ホルダとプレートとの間に形成された空隙を気密に密閉する密閉領域を形成するために、エッジ領域に接触させられる接触領域を有する。ホルダは、さらに、プレートのウェル領域を少なくとも1つの支持面に接触させる際、平面の標的マルチウェルプレートを支持し、または非平面の標的マルチウェルプレートを平面化するために、プレートのウェル領域の平面状態において、ウェル領域を支持するようにされた少なくとも1つの支持面を含む。ホルダは、さらに、ウェル領域を少なくとも1つの支持面上に引き出すために、空隙において負圧を生成するポンプへの接続のためのダクトを含む。方法は、さらに、ウェル領域を少なくとも1つの支持面上に引き出すために、空隙において負圧を生成する工程を含む。
【0023】
方法は、さらに、標的のマルチウェルプレートの1または複数のウェル内に1または複数の流体を分注する工程を含む。
【0024】
本発明の実施の形態において、方法は、さらに、1または複数の供給容器から流体を吸引し、標的のマルチウェルプレートの1または複数のウェル内に分注する工程を含む。特に、流体は、供給マルチウェルプレートのウェルから吸引される。後者の場合、方法は、供給マルチウェルプレートを保持位置に保持するための別の(第2の)ホルダを設ける工程を含むことができ、第2のホルダは、標的のマルチウェルプレートを保持位置に保持するための(第1の)ホルダと同様の構造である。方法は、供給マルチウェルプレートを保持位置に設ける別の工程と、さらに、ウェル領域を第2のホルダの少なくとも1つの支持面上に引き出すために、供給マルチウェルプレートと第2のホルダとの間の空隙に負圧を生成する工程とを含む。
【0025】
本発明の方法のさらに別の実施の形態によると、流体はジェットにより分注され、この場合は前述したように、狭小な形状公差が液体処理を容易にする。
【0026】
本発明の方法のさらに別の実施の形態によると、流体の分注および/または吸引は、先端部(使い捨て式の先端部または複数回使用式の先端部)を使用して実施され、個々の流体はウェルの底に分注され(すなわち、液滴はウェルの底に配置される)、この場合もまた、狭小な形状公差が液体処理を容易にする。
【0027】
本発明のその他、およびさらなる目的、特徴および利点は、以下の説明からより完全に明らかとなる。明細書に組み入れられ、その一部を構成する添付の図面は、本発明の好ましい実施の形態を示し、前述の一般的な説明および以下の詳細な説明とともに、本発明の原理を説明するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のシステムの例示的実施の形態の略斜視図である。
【図2】図1のシステムのホルダの例示的実施の形態の略斜視図である。
【図3】保持位置にあるマルチウェルプレートを設けた図2のホルダの略斜視図である。
【図4】図3のホルダの線A−Aに沿った断面図である。
【図5】図3のホルダの線A−Aに沿った略斜視図である。
【図6】密閉領域を示す図4の詳細部の拡大図である。
【図7】さらなる例示的構成要素を示す図1のシステムの概略図である。
【図8】図7のシステムの変形例を示す別の概略図である。
【図9】図7のシステムの別の変形例を示す別の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
例証として、本発明が実施可能な特定の例示的実施の形態を説明する。これについて、「水平の」、「垂直の」、「上部」、「下部」、「中間」などの位置および方向に関する用語が、説明される図面の位置に関連して使用される。説明される実施の形態の構成要素は、多くの異なる位置に配置可能であるため、この用語は、例示目的のみであって、限定するものではない。
【0030】
したがって、流体を分注するためのシステム1は、標的のマルチウェルプレート3を所定の保持位置に保持するためのホルダ2を含む。ホルダ2は、標的のマルチウェルプレート3を保持するためのプレート担体4から構成され、標的のマルチウェルプレートはプレート担体4を支持する基礎構造部5によって支持される。該基礎構造部5は、互いに重なって搭載された数個の部分から構成される。詳細には、基礎構造部5は、4つの台座8を各々の角部に備えた長方形の基板7を有する下部部材6と、下部部材6の台座8によって支持されたプレート状の中間部材9と、該中間部材9によって支持されたプレート状の上部部材10とを含む。部材6,9,10の固定は、溶接またはねじ止めなど従来の固定方法によって行われる。たとえば、図4に示されるように、中間部材9は、ねじ13により上部部材10に固定され、該ねじはねじ穴45に係合される。代替的に、基礎構造部5は、単一の構成要素でもよい。
【0031】
ホルダ2はプレート担体4から構成され、基礎構造部5は、基板7の穴12を通って延伸するねじ(詳細に図示せず)によって水平の作業板11に固定される。
【0032】
システム1は、流体を吸引または分注するために互いに対して連続的に配置された複数のピペット15を設けたピペッタ47を含む。8個のピペット15が例示目的のみで示されているが、ユーザの特定の要求に応じてあらゆる数のピペット15が想定されることが理解できる。ピペッタ47は、移送アーム16に連結された移送ヘッド14に取り付けられ、該移送アーム16は、作業板11に固定された垂直の後壁18上の水平のガイドレール17に沿って可動である。したがって、図1に概略的に示されるように、ピペッタ47は、移送アーム16を移動することによって作業板11上で第1の移動方向に可動である。移送ヘッド14は、さらに、移送アーム16(詳細に図示せず)に沿って可動であるため、ピペット15は、また、作業板11上で第2の移動方向に可動であり、第2の移動方向は第1の移動方向に対して直交する。さらに、移送ヘッド14は、第1および第2の方向の両方に対して垂直である第3の移動方向に可動であり、ピペット15をマルチウェルプレート3に近づけたり遠ざけたりできる。このような位置決め装置は当業者には周知であるため、ここでさらに説明する必要はない。ピペット15は、たとえば、ジェットの使用によって流体の分注に適合され得る。
【0033】
垂直の後壁18に固定され、また、後壁18およびホルダ2の両方が作業板11に支持されているため、ピペット15を含むピペッタ47は、プレート担体4に対して所定の空間的関係を有する。前に詳述したように、プレート担体4により付与されたホルダ2の最上部は、標的のマルチウェルプレート3を所定の保持位置に保持するためのものである。したがって、保持位置にある標的のマルチウェルプレート3は、ピペッタ47に対して所定の空間的関係を有する。
【0034】
平面図において長方形の形状である標的のマルチウェルプレート3は、流体を受け取るための複数のウェル20と、ウェル20を有さずにウェル領域19を包囲する外側のエッジ領域21と設けた内部のウェル領域19を含む。詳細には、エッジ領域21は、水平部分30と垂直部分31とを備えた直角のプレート部を形成する。ウェル領域19は、たとえば、互いに直角に交差する32の縦列と48の横列を含む1536個の比較的多数の配列のウェルを設ける。
【0035】
プレート担体4は、長方形の垂直のフレーム22によって包囲され、長方形の(水平な)平面の上面24を設ける。8つのポジショナ23はフレーム22の外側に取り付けられ、2つのポジショナ23がそれぞれ長方形のフレーム22の同じ側に配置されて、フレーム22とポジショナ23との間に小さな間隙32を設ける。フレーム22の上部のフレーム面39は、間隙32に収容される垂直部分31を有する標的のマルチウェルプレート3のエッジ領域21の水平部分30の下面49を支持するようにされる。詳細には、エッジ領域21の垂直部分31の外側に形成された肩部42が各ポジショナ23の停止面43に接触することで、標的のマルチウェルプレート3を所定の保持位置に位置決めする。
【0036】
さらに、フレーム22の2つの対向していない側に配置された4つのポジショナ23(図1〜3において見る人の側に近い)は、それぞれの座部44内において、直線的にプレート3に近づけたり遠ざけたりすることができるため、プレート3の所定の保持位置は所望の通りに変更可能である。そうでない場合、保持位置は、互いに異なる寸法である種々の標的のマルチウェルプレート3に容易に適合可能である。ホルダ2は、作業板11に固定されて、ポジショナ23により所定の保持位置が与えられるため、標的のマルチウェルプレート3は、ピペッタ47に対して所定の空間的関係を有しており、このことはピペット操作を容易にする。
【0037】
たとえば、ゴム製の閉ループ密閉ガスケット33が、標的のマルチウェルプレート3とホルダ2のプレート担体4との間に気密密閉領域48を形成するように、フレーム22とエッジ領域21の水平部分30の下面49との間に挟持される。詳細には、密閉ガスケット33は、マルチウェルプレート3のウェル領域19を包囲するように、フレーム22の上部のフレーム面39に挿入される縦溝41に収容される。したがって、ガスケット33および上部のフレーム面39は、ともに、エッジ領域21の水平部分30の下面49に接触する領域を形成する(導入部分では「接触領域」と称した)。
【0038】
図2の平面図に示されるように、複数の溝26がプレート担体4の上面24に挿入される。上面24の主要部分上に延伸する溝26は、互いに平行に配列した複数の平行溝27と、平行溝27に交差する2つの対角溝28とを含むため、流体相互接続構造の溝26が形成される。2つの対角溝28は中心穴29で交差する。溝26を上面24に組み込むことによって上面24は複数の分離部分に分割され、その各々は、標的のマルチウェルプレート3のウェル領域19を支持する支持面25として機能する。したがって、気密密閉された空隙35がマルチウェルプレート3とプレート担体4との間に形成される。空隙35は少なくとも溝26を含むが、凸状のプレート3の場合は、プレート担体4の上面24とプレート3の下側との間に中空空間も含む。
【0039】
対角溝28が互いに交差する中心穴29は中心の垂直ダクト34に接続され、該ダクトは、プレート担体4および基礎構造体5の種々の部材6,9,10に案内される数個の貫通孔(さらに詳述しない)を備える。貫通孔は、互いに対して垂直に配列される。ダクト34は、標的のマルチウェルプレート3とプレート担体4との間の気密密閉された空隙35内において負圧または正圧を生成するためのポンプ(図示せず)に接続可能である。
【0040】
空隙35内に負圧を生成することによって、マルチウェルプレート3のウェル領域19は、保持位置に固定するようにプレート担体4の方へ引き出し可能となる。さらに、たとえば、凸状の上部プレート面36を有する非平面のプレート3の場合、ウェル領域19のウェル20は支持面25に突き当たってプレート3のウェル領域19を平面化し、ウェル20の開口部を収容する標的のマルチウェルプレート3の平面の上部プレート面36を形成する。換言すれば、ウェル20の下側を支持面25に接触させることにより、プレート3の上部のプレート面36は、凸部または凹部を有することなく平面状になる。詳細には、プレート3の平面な上部プレート面36を有するように、ウェル領域19にある上部のプレート面36の第1の上面部37と支持面25との間の垂直距離は、エッジ領域20にある上部のプレート面36の第2の上面部38とフレーム22の上部のフレーム面39との間の距離に合わせられる。したがって、非平面のプレート3の場合、ウェル20を支持面25に接触させるように、空隙35において負圧を生成することによってプレート3は平面化され得る。プレート3は、たとえば3〜8mmなどの数ミリメータのプレートの高さを有するプラスチック材料製であり、空隙35に負圧を生成することによって平面化されるように充分な可撓性を呈する。
【0041】
プラスチック製のプレート3は、プレート3を導電性にするために、炭素粒子または炭素繊維などの導電性化合物を含み得る。その場合、プレート3は、ピペッタ47に電気的に接続可能であるため、プレート3およびピペッタ47は同一の電位を呈する。特に、支持面25に対して突き当たるウェル20は、支持面25から上部のプレート面36を空間的に分離するスペーサとして作用する。図面には示されないが、代替的または追加的に、プレート3は、たとえばウェル20の間に配置された支柱など、支持面25と接触する専用の構造要素を設けることも可能であり、該構造要素は、保持位置において支持面25に向かって突出する。溝26の延伸部分に対して直角の方向に見られる溝の幅は、空隙35での負圧の影響によって支持面25上にウェル領域19を引き出すことによるプレート3のいかなる曲げをも回避するように、充分に小さいことは言うまでもない。
【0042】
システム1は、さらに、プレート3の温度を制御するための温度調節機構を含む。詳細には、上部部材10には平行に配置された複数のチャネル40が設けられ、該チャネルは、プレート3の温度を制御するために、たとえば、水またはガスなどの加熱または冷却された流体で満たすことができる。プレート3は、たとえば、プレート3の温度を上昇または下降させるための温度調節機構によって加熱または冷却可能である。そうでない場合、プレート3の温度は一定に保持される。上部部材10とプレート担体4とは、プレート3へ(to the plates 3)/プレート3から(from the plates 3)熱エネルギーを伝達するために、良好な熱伝導率を有する材料製である。これらは、たとえば、金属材料製でよい。チャネル40は、たとえば、冷却用空気を生成するための冷却空気生成装置の出力に接続可能である。プレート3の温度は、好ましくは、周辺雰囲気の露点に、または露点の近傍に制御される。代替的に、システムは、ペルチェ効果を利用したペルチェ素子などの熱電温度調節素子を含むことができ、これは、保持位置にある標的のマルチウェルプレート3に接触する(図示せず)。
【0043】
システム1は、さらに、保持位置からプレート3を排出するようにされた排出機構を含み、これは、中心ダクト34を介して空隙35において正圧を生成することにより具現化され得る。代替的に、排出機構は、可動プランジャ(図示せず)などの機械的排出装置によって具現化可能である。
【0044】
また、システム1は、標的のマルチウェルプレート3の存在を検出するようにされた検知センサおよび/またはシステム1の温度を検出するようにされた温度センサおよび/またはシステム1での凝縮の結果として水を検出するようにされた凝縮センサを含み得る。
【0045】
システム1において、プレート担体4は基礎構造体5により支持され、該プレート担体4は、上部部材10の凹所46に収容される。したがって、プレート担体4は、基礎構造体5から容易に除去可能である。代替的に、プレート担体4は、第1の位置に対して90°回転された凹所46内の別の位置に収容可能である。したがって、上部部材10の凹所46は、2つの位置においてプレート担体4を収容するようにされるため、プレートは90°回転可能である。図示されていないが、システム1は、さらに、回転テーブルなど、両方の位置の間でプレート担体4を移送するための移送手段を含み得る。
【0046】
システム1は、たとえば、流体ジェットを使用した流体の分注に使用され得る。空隙35において負圧を生成することでプレート担体4に固定された平面プレート3によって、ピペット15は、ウェル20のきわめて近傍にもたらすことが可能であるため、ピペット15は、たとえば、プレート3の上部のプレート面36から+1〜−1mmの距離を有し得る。したがって、たとえば1536個の多数のウェル20を設けたマルチウェルプレート3に通常存在する比較的小さな開口部のウェル20の場合であっても、流体は確実にピペット可能である。したがって、システム1は、正確に標的されない流体ジェットおよび/またはウェル20へのジェットの拡張による流体の二次汚染の危険性なしに、流体の非接触分注を可能にする。さらに、ピペット15は、二次汚染を回避するために、ウェル20の内壁から跳ね返る流体から隣接するウェルを遮断するようにできる。
【0047】
図7を特に参照して、システム1のさらなる例示的な構成要素を説明する。これによると、システム1は、ピペット15のアクセスが可能になるように、1または複数の供給容器51を支持するための作業板11に固定された固定支持体50を含む。詳細には、支持体50は、1つの供給容器51か、またはボトルまたはカートリッジなどの複数の個々の供給容器51を支持するために使用可能である。また、これは、たとえば、ホルダ2に固定された標的のマルチウェルプレート3と異なるか、または類似した供給マルチウェルプレートとして具現化される複数の供給容器51を設けた単一要素の容器の配列を支持するために使用可能である。供給マルチウェルプレートは、たとえば、12,24,48または96個のウェルを含み得る。例示目的のみのために3つの供給容器51のみを示しているが、当業者は、ユーザの特定の要求に応じてこれより多いまたは少ない供給容器51を想定可能であることが理解できる。
【0048】
通常、支持体50の1または複数の供給容器51は、種々の分析および/または反応での使用前に、液体試料または液体試薬などの流体52を受け取りおよび/または事前充填できる。ここで使用されるように、「試薬」という用語は、たとえば希釈剤などのあらゆる重要な流体を含む。より厳格な用語の意味において、試薬は、たとえば試料分析のための検体の特異的反応など液体試料との反応を可能にする流体である。
【0049】
システム1において、標的のマルチウェルプレート3は、前に詳述した上部のプレート面36の平面化をもたらす空隙35における負圧の生成によって、所定の位置においてホルダ2に正確に固定される。図7は、溝26において負圧または正圧を生成するための圧力線53を概略的に示す。詳細には、圧力線53は、ダクト34と流体接続する溝26において正圧または負圧を生成するためのポンプ(図示せず)とダクト34とを接続する。圧力線53は、たとえば、標的のマルチウェルプレート3の下方で空隙35を真空にする管として具現化可能である。周囲気圧より低い、たとえば、−50〜−950mbarの範囲、より好ましくは−100〜−800mbarの範囲の負圧が空隙35において生成される。
【0050】
ピペット15は、ピペット15を容器51内に含まれた流体52に浸して流体52を吸引し、ピペット15を標的のマルチウェルプレート3に移動して流体52をウェル20内に分注することによって、1または複数の流体を供給容器51から標的のマルチウェルプレート3に移送するために使用できる。平面化された標的のマルチウェルプレート3は、所定の位置においてホルダ2に正確に固定されているため、ピペット15は、ピペット15の穴とウェル20の開口部との間に、たとえば、1mm未満のきわめて小さい距離が設けられるまで下降できる。ピペット15の穴は、ウェル20の開口部を収容する上部のプレート面36と配列され得るか、またはウェル20に入り込むこともできる。したがって、たとえば、1536個の比較的多数のウェルを有する標準的なマルチウェルプレートによくあるように、ウェル20の比較的小さな開口部に流体52を分注する場合であっても、流体52のきわめて正確なピペット操作が実施可能である。
【0051】
特に、ピペット15は、分析される1または複数の液体試料(分析される液体試料の数=N)をN個の供給容器51から標的のマルチウェルプレート3のウェル20に移送するために使用できる。各試料は、数個のウェル20に分配可能である。各試料のいわゆるアリコートが生成される。試料毎のアリコートの数はMである。結果としてN×M個の充填された標的のウェル20となる。M組のウェル20では、単一の分析試料が分配された(定量分割された)標的のマルチウェルプレート3において、各々の試薬が特異的分析可能なM個の異なる試薬が存在する場合、1つの試料はM個のパラメータについて分析可能であって、たとえば、M個の遺伝子の亜類型について、M個の病原体について、またはM個のパラメータの発現プロフィールについて1つの試料の分析を可能にする。
【0052】
標的のマルチウェルプレート3にある試薬は、事前分注して乾燥されるか、または事前投与可能である。たとえば、M個の異なる試薬が、N個の各ウェルに分配可能である。これにより、M個のパラメータに対してN個の分析試料が与えられる。
【0053】
場合によっては、標的のマルチウェルプレート3には1または複数の試薬を事前搭載可能であって、分析される試料のみがピペット15によって標的のマルチウェルプレート3に移送される。
【0054】
場合によっては、標的のマルチウェルプレート3には1から複数の試料が事前搭載可能であって、試料を分析するために使用される試薬のみがピペット15によって標的のマルチウェルプレート3に移送される。
【0055】
また代替的に、第1のピペット手順において、1または複数の分析される液体試料(分析される液体試料の数=N)は、それぞれ、N個の供給容器51から標的のマルチウェルプレート3の1または複数の目的のウェル20(各試料のアリコート数=M)に移送される(=N個の各試料についてM個のウェルが試料で満たされる=N×M個のウェル)。第2のピペット手順において、単一の試料のM個の各アリコートに対して、異なる試薬が添加される(試料毎のアリコート数=添加された試薬数=M)。2つの手順は、混合物の組をもたらし(混合物の数=N×M)、各々のN個の試料はM個の試薬と混合されて、各混合物は個別のウェル20内にある(N×M)。
【0056】
また分析試料および試薬は、反対の順序で移送することも可能である。対照および複製もピペット可能である。通常、各試料は、1または複数の検体について分析可能である。より詳細には、N個の試料はM個の検体について分析可能である。より詳細には、N×M個のウェル20に含まれたN×M個の混合物の組が生成可能である。NおよびMは自然数であり、互いに対して同一であるかまたは異なる。
【0057】
図7に示されるように、ピペッタ47は移送ヘッド14に取り付けられ、該移送ヘッドは、ピペッタ47を作業板11上で移動するために、垂直の後壁18の水平のガイドレール17に沿って可動である。水平のガイドレール17によって案内される移送アーム(図示せず)は、ピペッタ47を作業板11上で平面に移動するために、ガイドレールに対して直角の方向にあるピペッタ47を移動するために使用できる。通常通り、ピペット15は、標的のマルチウェルプレート3に近づけたり遠ざけたりできる。ピペッタ47は、ピペット15を使用して流体52を、たとえば投与様式で吸引または分注するように操作可能な駆動装置54を含む。詳細には、駆動装置54は、たとえば、容積回転式ポンプ型のポンプなどの容積ポンプ、または非接触の液体分注のために圧電素子を設けた圧電駆動装置として具現化可能である。駆動装置54は、たとえば、試料、試薬、水、洗浄液、システム流体などの液体流体と、空気などの気体流体とをピペットするために使用できる。
【0058】
各々の供給容器51は、通常、所定回数の分析および/または、たとえば、分析目的のための反応を実施するために充分な流体52の体積を含む。詳細には、供給容器51は、たとえば、50μl〜50mlの範囲、好ましくは100μl〜50mlの範囲の流体体積を含み得る。一分析について、たとえば、0.25μl〜1000μlの範囲、特に0.25μl〜200μlの範囲、より詳細には0.5μl〜25μlの範囲の流体体積が使用できる。
【0059】
供給容器51の開口部は標的のマルチウェルプレート3のウェル20の開口部よりさらに大きいため、供給容器51の位置決めは、通常、標的のマルチウェルプレート3の位置決めほどの正確性を要しない。そうでない場合、標的のマルチウェルプレート3の開口部ほどの小さい開口部を有する小さな容器51が想定され得る。この場合、支持体50の代わりに、供給マルチウェルプレートを所定位置に固定する場合と同様に、供給容器51を正確に固定するために別の(第2の)ホルダ2を使用できる。後者の場合、供給容器51は、好ましくは、供給マルチウェルプレートとして具現化され、供給マルチウェルプレートは標的のマルチウェルプレート3と同様または異なり得る。負圧を生成することによって、上部のプレート面の平面化と供給マルチウェルプレートの正確な位置決めとは、同様の様式で得ることができ、供給容器51に含まれた流体のきわめて正確なピペット操作を可能にする。
【0060】
システム1は、さらに、試料および/または試薬などのピペットされた流体52の残留物からピペット15を洗浄するための洗浄ステーション55を含み得る。特定の実施に応じて、ピペット15は、洗浄液を吸引するために洗浄ステーション55のキャビティ56に含まれた洗浄液(図示せず)に浸した後、該洗浄液をキャビティ56内に分注することができる。代替的に、システム流体などの洗浄液は、キャビティ56内のみに分注可能である。ピペット15は、必要な場合は洗浄ステーション55において乾燥可能である。ピペット15の洗浄は、たとえば、連続するピペット操作の間に実施可能である。
【0061】
ピペット15が使い捨て式のみのピペット先端部を使用する場合、使用済みのピペット先端部は、たとえば、洗浄ステーション55に隣接して配置された廃棄容器(図示せず)内に排出可能である。また、これはピペット15がピックアップできる新しいピペット先端部を設けた先端部のラックを含み得る。
【0062】
システム1において、さらなる処理(たとえば、目視検査、密閉、反応の実施、反応生成物の分析)のためのピペット操作を実施した後、標的のマルチウェルプレート3は、しシステム1の外部に配置された1または複数の分析方法に関連した機器に手動または自動で移送され、たとえば、試料中に含まれた1または複数の検体に関する分析結果を得ることができる。代替的に、本発明のシステム1は、ポリメラーゼ連鎖反応または核酸増幅型の他の反応などの1または複数の分析方法に関連し得る1または複数の機器に設けることができる。
【0063】
詳細には、システム1は、たとえば、システム1において標的マルチウェルプレート3を取り扱うためのハンドラを含み得る。システム1は、たとえば、標的のマルチウェルプレート3に密封箔などの密閉被覆を設けるための密封機と核酸を抽出するためのインキュベータとを含む、核酸増幅型の反応を実施するために試料を調製する調製器を含み得る。システム1は、たとえば、ポリメラーゼ連鎖反応を実施するために、一連の温度逸脱を通じて標的のマルチウェルプレート3に含まれた試料試薬混合物を熱サイクルするためのサーモサイクラを含む。システム1は、さらに、ポリメラーゼ連鎖反応の結果を光学的に検出するための1または複数の蛍光光度計を含み得る。詳細には、光透過性の密閉被覆を使用する場合、システム1は、ポリメラーゼ連鎖反応の進行中に密閉被覆を通して反応生成物を検出することによって、実時間でのポリメラーゼ連鎖反応を実施するために使用できる。
【0064】
特に図8を参照して、図7のシステム1の変形例を説明する。不要な反復を回避するために、図7との相違点のみを説明し、他は図7に関連した説明を参照できる。これによると、ピペッタ47には、ピペット15と、試薬および/または試料および/または洗浄液などの流体52を含む支持体50上の供給容器51とを駆動装置54を介して接続する複数の可撓性チューブ57が設けられる。より詳細には、流体52は、駆動装置54の作用によってチューブ57を通じて吸引された後、ピペット15によって標的マルチウェルプレート3のウェル20内に分注される。例示目的のみのために3つのみのチューブ57が示されているが、当業者は、ユーザの特定の要求に応じてより多数または少数のチューブ57が想定可能であることを理解するであろう。図8には、容器51およびピペット15に関して一対一の接続のみが示されているが、容器51とピペット15の接続については、ユーザの特定の要求に応じて、複数対一の接続、一対複数の接続、または複数対複数の接続が想定可能である。
【0065】
図9を特に参照して、図7のシステム1の別の変形例を説明する。不要な反復を回避するために、図7との相違点のみを説明し、他は図7に関連した説明を参照できる。これによると、支持体50に保持された複数の供給容器51の代わりに、試薬および/または試料などの流体52を含む1または複数の容器58がピペッタ47内に統合され、例示目的のみのためにそのうちの1つが示されている。より詳細には、1または複数の容器58は、ピペット15によって流体を連続的に分注するために駆動装置54に直接的に接続される。
【0066】
したがって、本発明において、ピペッタ47に対する標的のマルチウェルプレート3および任意的に供給容器51(たとえば、供給マルチウェルプレート)の正確な位置決めと、ホルダ2への固定による標的のマルチウェルプレート3(および任意的に、別のホルダ2への固定による供給マルチウェルプレート)の平面とによってもたらされた上部のプレート面36の平面性との組み合わせによって、ピペット15は、ウェル20のきわめて近傍に移動可能であり、ウェル20の比較的小さな開口部の場合であってもきわめて正確なピペット操作が可能となる。本発明は、通常、二次汚染しやすい円錐状ビームを有するジェットによる流体の分注の場合に特に有用である。
【0067】
明らかに、前述の説明に照らして、本発明の多くのさらなる変更および変形が可能である。したがって、添付の請求項の範囲内において、本発明は、特定の考案以外にも実施可能であることが理解される。
【符号の説明】
【0068】
1 システム
2 ホルダ
3 標的のマルチウェルプレート
4 プレート担体
5 基礎構造部
6 下部部材
7 基板
8 台座
9 中間部材
10 上部部材
11 作業板
12 穴
13 ねじ
14 移送ヘッド
15 ピペット
16 移送アーム
17 ガイドレール
18 後壁
19 ウェル領域
20 ウェル
21 エッジ領域
22 フレーム
23 ポジショナ
24 上面
25 支持面
26 溝
27 平行溝
28 対角溝
29 中心穴
30 水平部分
31 垂直部分
32 間隙
33 ガスケット
34 ダクト
35 空隙
36 上部のプレート面
37 第1の上面部
38 第2の上面部
39 上部のフレーム面
40 チャネル
41 縦溝
42 肩部
43 停止面
44 座部
45 ねじ穴
46 凹所
47 ピペッタ
48 密閉領域
49 下面
50 支持体
51 供給容器
52 流体
53 圧力線
54 駆動装置
55 洗浄ステーション
56 キャビティ
57 チューブ
58 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の流体(52)を少なくとも1つの標的のマルチウェルプレート(3)のウェル(20)内に分注するためのシステム(1)であって、
前記マルチウェルプレート(3)を所定の保持位置に保持するためのホルダ(2)であって、該ホルダ(2)とプレート(3)との間に形成された空隙(35)を気密密閉する密閉領域(48)を形成するプレート(3)のエッジ領域(21)に接触するようにされた接触領域(33,39)と、プレート(3)のウェル領域(19)を平面状態に支持するようにされた少なくとも1つの支持面(25)であって、該ウェル領域(19)には複数のウェル(20)が設けられて、前記エッジ領域(21)によって包囲されてなる、少なくとも1つの支持面と、前記ウェル領域(19)を前記少なくとも1つの支持面(25)上に引き出すために、前記空隙(35)において負圧を生成するためのポンプに接続されるダクト(34)と、を含むホルダ(2)と、
前記流体(52)を前記ウェル(20)に分注するための少なくとも1つのピペット(15)を設けた少なくとも1つのピペッタ(47)と、を備え、前記ピペッタ(47)は、プレート(3)が前記ピペッタ(47)に対して所定の空間的関係を有するように、前記ホルダ(2)に対して所定の空間的関係を有してなるシステム。
【請求項2】
前記ホルダ(2)が、互いに対して接続され、および前記ダクト(34)に接続された複数の溝(26)を設けた平面(24)を含む請求項1記載のシステム(1)。
【請求項3】
前記ダクト(34)が、前記平面(24)に対して中心に配置されてなる請求項2記載のシステム(1)。
【請求項4】
前記密閉領域(48)が、前記空隙(35)を気密密閉するための少なくとも1つの密閉手段(33)を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステム(1)。
【請求項5】
前記少なくとも1つの支持面(25)が、少なくともいくつかの前記ウェル(20)支持するようにされてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム(1)。
【請求項6】
前記ピペッタ(47)が、複数のピペット(15)を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のシステム(1)。
【請求項7】
前記ホルダ(2)が、前記プレート(3)の温度を制御するようにされた温度調節機構を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のシステム(1)。
【請求項8】
前記ホルダ(2)が、前記保持位置を、互いに対して異なる寸法の各複数の標的マルチウェルプレートに適合させるためのアダプタを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載のシステム(1)。
【請求項9】
前記保持位置から前記プレート(3)を排出するようにされた排出機構をさらに含む請求項1〜8のいずれか1項に記載のシステム(1)。
【請求項10】
前記ホルダ(2)が基礎構造部(5)から除去可能なように基礎構造部(5)に支持されてなる請求項1〜9のいずれか1項に記載のシステム(1)。
【請求項11】
前記基礎構造部(5)が、互いに対して異なる少なくとも2つの位置において前記ホルダ(2)を支持するようにされてなる請求項10記載のシステム(1)。
【請求項12】
前記少なくとも1つのピペット(15)内に前記流体(52)を吸引するための1または複数の供給容器(51)さらに含む請求項1〜11のいずれか1項に記載のシステム(1)。
【請求項13】
少なくとも1つの標的マルチウェルプレート(3)を所定の保持位置に保持するためのホルダ(2)であって、
前記ホルダ(2)と保持位置にあるプレート(3)との間に形成された空隙(35)を気密密閉する密閉領域(48)を形成するために、プレート(3)のエッジ領域(21)に接触させられる接触領域(33,39)と、
ウェル領域(19)を平面状態に支持するようにされた少なくとも1つの支持面(25)であって、前記ウェル領域(19)には複数の前記ウェル(20)が設けられて、前記エッジ領域(21)により包囲されてなる少なくとも1つの支持面と、
前記ウェル領域(19)を前記少なくとも1つの支持面(25)上に引き出すために、前記空隙(35)において負圧を生成するためのポンプに接続されるダクト(34)と、を含むホルダ。
【請求項14】
1または複数の流体(52)を少なくとも1つの標的マルチウェルプレート(3)のウェル(20)内に分注するための方法であって、次の工程、
前記標的のマルチウェルプレート(3)を所定の保持位置に保持するためのホルダ(2)を設ける工程、
前記保持位置に前記標的のマルチウェルプレート(3)を提供する工程であって、前記ホルダとプレート(3)との間に空隙(35)が形成され、該空隙(35)が、前記ホルダ(2)と前記プレート(3)のエッジ領域(21)との間に形成された密閉領域(48)によって気密密閉されてなる、工程と、
複数の前記ウェル(20)を設け、前記エッジ領域(21)に包囲された前記プレート(3)のウェル領域(19)を、該ウェル領域(19)を平面状態に支持するようにされた少なくとも1つの支持面(25)上に引き出すために、前記空隙(35)において負圧を生成する工程と、
前記流体(52)を前記標的のマルチウェルプレート(3)の1または複数のウェル(20)内に分注する工程と、を含む方法。
【請求項15】
前記流体(52)が、前記標的のマルチウェルプレート(3)の前記1または複数のウェル(20)内に分注するために、1または複数の供給容器(51)によって吸引される請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−271315(P2010−271315A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−115843(P2010−115843)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】