説明

流体を生物学的試料に適用するための方法および装置

本発明は、溶液で湿らせた曲面を生物学的試料近くに移させる段階を含んでなる、生物学的試料を溶液と接触させる方法であって、ここで、湿らせた曲面および生物学的試料を分離する距離が、移動する液体メニスカス層を両者の間に形成するのに充分であることを特徴とする方法に関する。本発明はまた、生物学的試料を上部に有する顕微鏡スライドを支持するための台、下部曲面が操作時に生物学的試料の近くにあるように台の上に置かれる、下部曲面を有する並進キャップ、並進キャップを生物学的試料上で前後に動かすための手段、および液体をキャップに適用しそしてそこから除去するための手段を含んでなる、生物標識を含有する疑いのある生物学的試料を溶液と接触させるための装置にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は一般的には生物学的試料処理の自動化に関し、そして具体的には低−容量接線流体方式(tangential fluid approach)を用いる生物学的試料の自動化された染色のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の記述
形態学的な可視化用の生検組織または細胞標本物(preparations)の染色は100年以上もさかのぼる近代的標準による昔ながらの技術である。最近では、異なるタイプの化学的染色剤および生物学的複合体分子を組織切片に適用する工程を自動化する試みがなされてきた。この目的のために設計された器具は二重カロウセルをベースとしたベンタナ・メディカル・システムの系統、例えば320/ES(R)、NexES(R)、BENCHMARK(R)、およびBENCHMARK(R)XT、を包含する。これらのシステムを記載している特許は、全てが引用することにより本発明の内容となる特許文献1、特許文献2、特許文献3、および特許文献4を包含する。別のタイプの自動化されたステイナー(stainer)は、両者とも引用することにより本発明の内容となる特許文献5および6に記載されているTechMate(R)系統のステイナーである。
【0003】
顕微鏡スライド上における切開された固定された組織の免疫組織化学的およびインシトウ(in situ)でのハイブリッド化染色の速度は、複合している生物分子が組織切片と直接接触して置かれる水溶液から固定された組織中に拡散する速度により制限される。典型的には、組織は切除直後にホルムアルデヒドの10%溶液中に入れることにより「固定され」、それはメチレン架橋による蛋白質の大部分の架橋結合により、組織を自己触媒破壊から保護する。この架橋結合された組織は個々の細胞および細胞小器官を包囲する脂質二層膜を包含する多くの拡散の追加障壁および固定工程が生ずる架橋結合の上記の影響を与える。複合体生物分子(抗体またはDNAプローブ分子)は比較的大きく、数キロダルトン〜数百キロダルトンの寸法範囲にわたり、それによりそれらが固体組織中に数分間〜数時間の範囲内の充分な拡散に関する典型的な時間にわたりゆっくり拡散するように拘束する。典型的なインキュベーション条件は摂氏37度における30分間である。
【0004】
拡散速度は濃度勾配により推進されるため、試薬中の複合体の濃度を高めることにより速度を高めることができる。しかしながら、これは2つの不利益な影響を有する。第一に、複合体はしばしば非常に高価であるため、それらの濃度の増加は不経済でありそしてしばしば経済的に実行できない。第二に、高濃度が使用される時に組織内に入れられる複合体の過剰な量は、組織中に滞留し、そしてすすぎ出すことが難しく且つ高水準の非特異的な背景染色をもたらす。非特異的な染色はまさにノイズである。ノイズを減少しそして特異的染色の信号を増加させるためには、最近の実施法は低濃度の複合体を長いインキュベーション時間と共に用いて複合体を見出しそして特異的部位だけに結合させることを指示している。
【0005】
これまでの拡散−推進染色手動方法の自動化は必要な比較的大きい試薬のプール(pools)のためにこれらの事象を増加させるだけであった。現在の組織染色器具は、発行された特許文献7、特許文献8などに開示されているように、比較的大容量(100μl)の試薬を典型的には300μlの緩衝液のパドル内で使用する。これが、比較的低濃度の複合体試薬を組織上に存在するパドル内で製造する。この器具は、上にある油層上への接線空気ジェットを交互することにより試薬を混合するが、ここで油層は交互する空気ジェットにより接触される時に回転および逆回転し、それにより下にある水性パドル内に動きを与える。この混合は遅くそして特に激しくなく、そして阻止しなければならない蒸発現象を生ずる。油層は水性パドルの蒸発を、それを低蒸気圧油で覆うことにより、最少にする。最後に、この器具は油で覆われた低濃度試薬の大きなパドルを物理的に置換するための大容量のすすぎ液体を使用する。このすすぎ方法は大容量の排液を生じ、それは有害廃棄物に分類されることがあり、そしていずれの場合にも激しい洗浄作用により組織を物理的に破壊しうる。
【特許文献1】米国特許第5595707号明細書
【特許文献2】米国特許第5654199号明細書
【特許文献3】米国特許第6093574号明細書
【特許文献4】米国特許第6296809号明細書
【特許文献5】米国特許第5355439号明細書
【特許文献6】米国特許第5737499号明細書
【特許文献7】米国特許第6,352,861号明細書
【特許文献8】米国特許第6,296,809号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
より迅速な処理およびより低い容量の試薬使用のための組織切片中への生物分子のより速い導入に関する要望が続いている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本発明の態様は、生物学的試料を溶液と接触させる方法であって、溶液で湿らせた曲面を生物学的試料近くに移動させ、それにより該湿らせた曲面および該生物学的試料を分離する距離を、移動する液体メニスカス層を両者の間に形成するのに充分にする段階を含んでなる方法に関する。
【0008】
本発明は、生物学的試料を上部に有する顕微鏡スライドを支持するための台、操作時に下部曲面が生物学的試料の近くにあるように台の上に置かれる、下部曲面を有する並進キャップ、並進キャップを生物学的試料上で前後に動かすための手段、および生物分子を含む溶液をキャップに適用しそしてそこから除去するための手段を含んでなる、生物標識(biomarker)を含有する疑いのある生物学的試料を分子を含む溶液と接触させるための装置にも関する。
【0009】
図面の簡単な記述
図1は右側からの立面図である。
図2は、キャップの中央を通して部分的に切断された、左側からの別の立面図である。
図3は、これもキャップを通して部分的に切断された、左側からの断面図である。
図4は並進キャップ、保持された試薬およびそのメニスカスの断面図の詳細である。
図5はスライド上の揺動キャップを示す別の態様の立面図である。
図6は貯蔵ドラム、引っぱりドラムおよび回転キャップを包含する膜をベースにした接触機構を示す別の態様の立面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
好ましい態様の記述
本発明は、複合体生物分子を含有する溶液で湿らせた曲面を生物学的試料近くに移動させる段階を含んでなる、生物標識を含有する疑いのある生物学的試料を溶液と接触させる方法であって、ここで、湿らせた曲面および生物学的試料を分離する距離を、移動する液体メニスカス層を両者の間に形成するのに充分にする方法に関する。
【0011】
本発明の概念は比較的簡単であるが、正確ですっきりしている。一般的に図面に関すると、顕微鏡スライド60の上にスライド表面から約10−100ミクロンという非常に近くに曲面30が置かれる。組織または生物学的試料50の最も厚い切片は普通4−6ミクロンであり、そして多くとも32ミクロンの厚さであり、これが組織50に接触せずに動くように曲面30に対する有意なゆとりを残す。曲面30は「並進キャップ10」と称するそれより大きい構造の一部であり、それは約10mmの長さであり、その底で半径は25mmでありうる。小容量の液体試薬40がスライドの長さに沿って組織とキャップの曲面との間の間隙中にメニスカスを形成する。インキュベーション中に、キャップはスライドの長さに沿って「並進し」、又は前後に移動し、生物学的試料を含有するスライドの有用な領域上でメニスカスを前後に引っぱる(pulling)。キャップの速度が速ければ速いほど、より多くの混合が起きるであろう。キャップを加熱するとそれに付着する液体も加熱することができる。
【0012】
すすぎは、キャップを移動させてスライドの端部からはずして、メニスカスを、キャップと反対方向に曲がった固体表面であって毛管作用によりキャップから流体を吸引するすすぎパッドまたはブロック110に接触させることにより、行われる。すすぎ溶液をすすぎブロック110中の垂直な孔130を通してキャップの底に加える。すすぎ溶液のこの流れがキャップを清浄化しそしてこの溶液の一部がキャップに表面張力により付着する。キャップは次にすすぎ溶液を担持しながらスライドの上で逆に動かされ、該溶液は次にスライド上に残存する液体と混合する。これを数回繰り返して順次希釈によりスライドを清浄化する。
【0013】
キャップの全体的な洗浄は、スライドが除去された後に、ヒーター表面へ強い薬剤、例えばpH14のNaOH、を添加し数回のその中でキャップを並進させて行われる。次に、ヒーター/キャップを通常のすすぎ溶液ですすぐ。これがいずれかの組織残存物をその前のスライドから除去しそしてスライド間の交差汚染を防止する。
【0014】
特許請求項およびそれらの適切な範囲を解釈する時に使用されるある種の定義を次に論じる。異なる意味が伴われることが明白である概念でない限り、定義されていない用語はそれらの一般的なそして普遍的な意味で示されるべきである。
【0015】
用語「複合体生物分子」は特異的に配置しそしてその補足表面に結合する能力を有する生物分子を記載するために使用される。例は、その補足エピトープに特異的に結合する抗体、ハイブリッド化可能な条件下でその補足配列にハイブリッド化するRNAもしくはDNAプローブ、または例えばケラチンの如き特定蛋白質を優先的に染色する化学的染色剤を包含する。化学的染色剤は一般的に生物分子と考えられないが、本出願の目的のためにはそれはそうであるとして包含される。それらは一般的に組織化学技術では「特殊染色剤」と称される。
【0016】
用語「生物学的試料」は一般的に、顕微鏡スライドまたは同様な実質的に水平なフォーマット上に置くことができる生物学的物質をさすために使用できる。例示生物学的試料としては、組織切片、細胞標本、例えばサイトピン類もしくはThinPrepTM類(サイティック(Cytyc)、マールボロウ、マサチューセッツ州)、または組織もしくは核酸マイクロアレイが包含される。
【0017】
用語「生物標識」は病理学的症状に多少関連する検出可能な生物学的標的分子の充満物質(plethora)を意味する。説明例としては、抗原、エピトープ類、細胞蛋白質、トランスメンブレン蛋白質、およびDNAまたはRNA配列が包含される。Her−2/neu遺伝子および蛋白質が生物標識の2つの説明例である。
【0018】
この方法は他の普遍的な免疫組織化学方法、例えば脱パラフィン化、抗原回復、および検出(細胞条件づけ)に適用可能である。引用することにより本発明の内容となる米国特許第6,544,798B1号明細書(熱を用いる水性脱パラフィン化)に記載された水性方法を用いる脱パラフィン化に関すると、熱を与えてパラフィンの融点より上で生物学的試料を浸す水溶液を加熱しなければならず、或いはスライド支持体中に組み入れられたヒーターがスライド/組織を直接加熱することができる。熱は試料をパラフィンの融点より高く加熱してパラフィンを非混和性水相中に放出させるのに充分でなければならず、水相は次に除去される。或いは、例えばキシレンまたはリモネンの如きパラフィン溶媒の使用を必要とする脱パラフィン化をこの装置を用いて行うこともできる。
【0019】
例えば抗体および核酸プローブの如き大きい生物分子による到達可能性を向上させるための、架橋結合された抗原部位の細胞条件づけをこの方法および装置を用いて行うこともできる。試料に対する熱の適用は細胞を条件づけするための一つの方法であり、従ってある種のフォーマットでは熱を試料に供給することが必要である。前記のスライド支持体ヒーターの他に、熱を直接的適用(伝導)、間接的伝導(顕微鏡スライドを通す)、対流(試料に向けられた加熱された空気)、または幅射的方法(赤外線もしくはマイクロ波)により適用することができる。現在では、間接的伝導が好ましい。細胞条件づけは典型的には、組織試料を水溶液中で75−100℃においてインキュベートしそして適切な抗原性が得られるまである期間、典型的には30−90分間、にわたりそれを加熱することにより、行われる。
【0020】
本発明はまた、この方法を行うための装置にも関する。装置は一般的に以下の図面および本発明の全体的な概念を記述する添付された書類に関連して記載することができる。
【0021】
図1−4は本発明の並進用の湾曲した(curved)キャップの好ましい態様を示す。図1および2は右および左側からの立面図である。図3は左側からの断面図でありそして図4は並進用キャップ、保持されている試薬およびそのメニスカスの断面図の詳細である。並進用キャップ10はその中央で切断され、キャップ10下の表面張力により保持される液体試薬40を示す。
【0022】
キャップは多種のタイプの材料から製造することができるが、プラスチック類、特にウルテム(ULTEM)TM(ゼネラル・エレクトリック(General Electric))、およびガラスを包含するセラミック類が最も好ましい。試薬液体を支持するであろう材料は化学物質、蛋白質および核酸のような適用されるであろう生物分子の範囲に関する条件下で湿潤可能であり且つ清浄可能でなければならない。好ましい態様では、曲面は顕微鏡スライド表面に関して凸面である。凸面形状がスライドおよび試料表面との正確な角度を形成するため、最適なメニスカスが形成される。キャップはスライドと同程度の幅であることができるが、いずれの場合にも試料表面の実質的に全てを覆わなければならない。曲面30は顕微鏡スライドの上部表面と平行に且つ生物学的試料の表面上を実質的に直線方式で移動させられる。典型的には、湿らせた曲面30および生物学的試料を分離する距離は約15ミクロン〜約45ミクロンである。
【0023】
別の態様では、キャップは電気伝導性であることができるため、キャップはそれが組織近くに置かれ、そして電解質溶液を通して電気接触状態にある時には電流を組織中に流す
ことができる。電気伝導性の利点は、電気泳動効果が与えられて荷電された分子が電気泳動により組織中に推進されうることである。
【0024】
キャップ10はその横端部に2つの滑動ガイド21、22を有し、それらの両者は図1に一緒に示されている。これらのガイドは顕微鏡スライド60の外側の頂端部に置かれそして約0.5mmの幅であるが、正確な幅は重要でない。図2および4に最も良く示されているように、それらはキャップを垂直に配置させそしてスライドの頂部とキャップ30の中央の曲がった部分の底との間に存在する間隙を決める。キャップの断面のために、1個だけの滑動ガイド21が図2および4に示されている。これらのガイドが停止している、スライド60の1/2ミリメートルより外側に、組織が存在しないことが好ましい。図2−4では、キャップはその中央で切断され、2つの滑動ガイド間の距離にわたる曲面30を示す。この態様におけるこの曲面30は25mmの半径を有しそして滑動ガイド21、22の底から約50ミクロン上に置かれる。これが曲面30の底とスライド60の頂部との間に50−ミクロンの間隙を生ずる。50−ミクロンの間隙はキャップ10の曲面30の底の下にある滑動ガイド21および22の垂直延長部により決められる。生物学的試料または組織50がスライド60に付着しそして典型的には、それが例えば脳の如き非常に軟質組織でない限り、厚さは8ミクロンより薄く、脳の場合にはそれは35ミクロン程度でありうる。50ミクロンの間隙により、キャップ10は組織50のいずれの通常の厚さの上をも滑動しうる。キャップがスライド60から引き込まれそしてすすぎパッド110の上に停止している時に、試薬液体40がスライドの頂部にピペット(示されていない)から少量で、例えば15μlで、適用される。例えば引用することにより本発明の内容となる米国特許第6,537,818B2号明細書に記載されているような自動化されたピペッターが1つのそのような例である。他の分配器、例えば引用することにより本発明の内容となる米国特許第6,192,945号明細書のようなインライン分配器、デザインを使用して同様な効果を得ることができる。キャップ10がスライド60に戻る時に、試薬液体40がキャップ30の底の曲面に引き込まれ、そこでそれが毛管作用により付着する。それが図4に40で最も良く示されている各端部におけるメニスカスを形成する。
【0025】
キャップ10は、キャップ10の中心に連結されている、垂直方向にしなう部分140に連結されているロッド120により、スライド60の長さに沿って縦方向に往復する(並進する)。ロッド120はまた、示されていない、例えば圧力もしくは真空−駆動空気シリンダー、モーター駆動スクリュー、または単一面で前後に部品を機械的に推進させる他の従来手段の如き動力機構により、作動させられる。2つの滑動端部21および22はスライドと接触している。キャップとスライドとの積極的な接触を与えるためのある種の機構が望ましい。1つの好ましい態様で使用される方法は、ロッド120とキャップ10との間の置かれる垂直方向にたわむ部分140によりキャップを連結させることである。垂直方向にたわむ部分は、ロッド120の軸の周りを自在に回転する連結部により、駆動ロッド120に連結される。垂直および軸回転のこれらの2つの自在度により、キャップをスライドから上昇させる傾向がありうる製造公差にもかかわらず、キャップは常にスライドと接触可能になる。たわむ部分140は、好ましい態様では、厚さが約0.15mmであり、幅が10mmであり、長さが25mmである302ステンレス鋼の薄い部分から製造される。このたわむ部分140は垂直以外の全ての方向において堅く、そしてそのためにキャップ10はスライド上の下方重力により引っ張られうる。たわむ部分140はロッド120に、上方160に曲げられそしてナット170により保持されるその遠端部にある孔150に通すことにより、連結される。図面では、孔160は垂直に曲がる部分140の垂直部分160の中にあるが、これらの図面では見られない。しかしながら、ロッド120が孔150を通ることは理解されうる。例えば通常の操作ではキャップ滑動端部をスライド表面に接触させて押すための衝撃吸収器の如きスプリング−充填補強器を包含する、キャップをスライドの表面と連続的に接触させる他の手段が多数ある。当業者は多くのそのような積極的に接触する溶液を供給することができ、それらの全てが当該技術の範囲内である。
【0026】
キャップはスライドに沿って前後に往復するため、キャップ30底の曲面はその最端限度において一端ではスライドの端部から数mmでありそして他の端部ではバーコードラベル100から数mmである。試薬流体の多くは移動するキャップ下で捕獲されるが、一部は組織上でスライドの表面に残る。移動するキャップは常にいくらかの試薬を伴い、これを組織上に残っている層と混合する。かくして、試薬はスライドとキャップの曲がった部分の底との間の狭い通路中を通らなければならないことにより連続的に激しく混合される。生物学的試料と接触しているスライド表面の表面化学はさらに疎水性またはさらに親水性になるように改質することもでき、それによりスライド表面に残る液体の量に影響を与える。例えば、水溶液を使用しそして親水性キャップ表面を仮定する時には、キャップは親水性であり、そして水溶液は疎水性スライドにより反撥されるため、疎水性がより大きいスライド表面が、溶液をキャップおよびスライド表面により決められる空間内に留めることを促進させるであろう。逆に、親水性スライド表面はスライド表面上で溶液をより多く延展させ、スライド上により多い「パドル」を生ずるであろう。当業者は、めんどうな実験なしに、使用にとって最適な表面特性を決めることができるであろう。
【0027】
特に図2に関すると、スライドから試薬液体をすすぎ出すために、キャップは全てずっとすすぎブロック110の頂部にあるように引き込まれる。すすぎブロックの頂部は、約25mmの半径を有するキャップの底から反対方向に湾曲している。すすぎ流体はすすぎ孔130を通してポンプで汲み上げられ、それがキャップ10の底の曲面30をすすぎそしてそれに付着したある量のすすぎ流体を残す。キャップはスライドの長さにわたり1回往復され、そこでそれはキャップ上のすすぎ流体をスライド上に残る流体と混合する。キャップは再びすすぎブロックに戻されそしてきれいなすすぎ溶液ですすがれる。この工程が複数回繰り返され、スライド上の液体を順次希釈する。希釈が50%だけでも、20個のストック中では百万倍の希釈であろう。すすぎからの全ての過剰な流体は重力によりここには示されていない室の底に流れ、そこでそれはこれも示されていない廃棄管から流出する。
【0028】
組織化学用に使用されるほとんどの反応は、40°から90℃以上の高められた温度を必要とする。湿度が100%より低い場合には、スライドの表面上に残る水性試薬の薄層は蒸発するであろう。少なくとも2つの解決方法がある。1つは純水を試薬中に逆に機械的に連続的に加える方法、すなわち、液状の水をノズル/ピペッター/分配器から分配させる方法である。他の方法はスライド周囲の湿度を100%に保つことである。加熱された湿った室は、それが熱に呈されてインシトウのハイブリッド化反応、細胞条件づけ、または熱に基づく脱パラフィン化を行う場合には、生物学的試料の乾燥に対処する必要があろう。図1−4に関すると、好ましい態様では全ての機構はここには示されていない隔離された(insulated)室内に包囲される。室は一端に扉を有し、これを通してこれも示されていない顕微鏡スライドが挿入される。スライドは例えば引用することにより本発明の内容となる米国特許第6,296,809号明細書に開示されたものの如き側面が描かれた抵抗ヒーター70により加熱される。スライドのバーコード100端部に、ヒーター70はカップまたは受器の下にある延長部90を有する。キャップ下にあるヒーター部分はスライド上の試薬の水性パドルの温度より常に摂氏約5度ほど高く設定される。加熱されたキャップは数ミリリットルの水80を含有する。この熱水は常に蒸発して室を暖かい水蒸気で満たすため、蒸気はそれが蒸発するのと同程度の速さで湿ったスライド上で逆に液化し、試薬パドルからの水の正味損失はない。一部の水は室の内表面上で液化し、それをキャップ90の水の温度に加熱するであろう。室からの熱損失を最少にするために、それは良好に隔離されていなければならない。
【0029】
図5に示された別の態様では、キャップはその湾曲した軸(curved axis)
に沿って伸びていることができるため、ロッドにより生物学的試料上で前後に推進される必要はない。その代わり、それは揺動するため、メニスカス層が図5に示された揺動する曲面下で前後に動き、ここで201は揺動キャップでありそして202は約50ミクロンの高さの外側レールでありそして図1、2および4の滑動ガイド21および22に対する機能と同等である。
【0030】
図6に示された別の態様は図6に示されているように一方のスライドから他方に乗り換えうる膜の上で、表面を往復させることであり、そこで101は貯蔵ドラム103から巻き戻すことにより一方のスライドから次に乗り換えられそして引っ張りドラム102上に引っ張られる膜である。操作時に、巻き取りキャップ104はスペーサーリップ(lip)105により遠ざけられているスライドに沿って並進しそして巻き取り、このリップは約50ミクロンと膜の厚さとの合計であり、そして図1、2および4の滑動ガイド21および22に対する機能と同等である。この態様の利点は別の作業での新しい接触表面の使用を可能にしてそれにより試薬の交差汚染を最少にすることを包含する。
【0031】
ここに記載された作動の全ては、該操作を調節可能なコンピューター処理されるインターフェースの適切なデザインにより、自動的に調節することができる。自動化されたコンピューターで調節される染色器具の例は、前記の器具のVentana群、特に引用することにより本発明の内容となる米国特許第6,296,809B1号明細書に記載されたBENCHMARK(R)系統、を包含する。
【0032】
本発明のある種の現在好ましい態様をここに記載したが、本発明の精神および範囲から逸脱せずに記載された態様の種々の変更および改変を行えることは本発明が関与する当業者に明らかであろう。例えば、丸くされたキャップが曲がった表面用に開示されているが、例えば球、半球、または円筒の如き他の構造を使用することもできる。従って、本発明は添付された特許請求の範囲および適用可能な法則により要求される程度にだけ限定されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は右側からの立面図である。
【図2】図2は、キャップの中央を通して部分的に切断された、左側からの別の立面図である。
【図3】図3は、これもキャップを通して部分的に切断された、左側からの断面図である。
【図4】図4は並進キャップ、保持された試薬およびそのメニスカスの断面図の詳細である。
【図5】図5はスライド上の揺動キャップを示す別の態様の立面図である。
【図6】図6は貯蔵ドラム、引っぱりドラムおよび回転キャップを包含する膜をベースにした接触機構を示す別の態様の立面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料を溶液と接触させる方法であって、溶液で湿らせた曲面を該生物学的試料近くに移動させ、それによって該湿らせた曲面および該生物学的試料を分離する距離を、移動する液体メニスカス層を両者の間に形成するのに充分にする段階を含んでなる方法。
【請求項2】
該溶液が、抗体、RNA/DNAプローブ、または検出において使用される化学的染色剤もしくは化学物質よりなる群から選択される複合生物分子を含有する請求項1の方法。
【請求項3】
該生物学的試料が、組織切片、細胞標本、またはRNA/DNA、組織、蛋白質もしくはペプチドのアレイである請求項1の方法。
【請求項4】
該組織が、抗原、エピトープ、細胞蛋白質、またはDNA/RNA配列よりなる群から選択される生物標識を含有する請求項1の方法。
【請求項5】
該曲面が、金属、プラスチックまたはセラミックから製造される請求項1の方法。
【請求項6】
該曲面が、顕微鏡スライド表面に関して凸面である請求項1の方法。
【請求項7】
該曲面を、顕微鏡スライドの上部表面と実質的に平行に且つ生物学的試料の表面上を直線方式で移動させる請求項1の方法。
【請求項8】
該湿らせた曲面および該生物学的試料を分離する距離が、約10ミクロン〜約100ミクロンである請求項1の方法。
【請求項9】
生物標識を含有する疑いのある生物学的試料を溶液と接触させる自動化された方法であって、該溶液で湿らせた曲面をコンピューター調節下で該生物学的試料近くに移動させ、該溶液が複合生物分子を含有しており、それによって、該湿らせた曲面および該生物学的試料を分離する距離を、移動する液体メニスカス層を両者の間に形成するのに充分にする段階を含んでなる、方法。
【請求項10】
該溶液が、抗体、RNA/DNAプローブ、または検出において使用される化学的染色剤もしくは化学物質よりなる群から選択される複合生物分子を含有する請求項9の方法。
【請求項11】
該生物学的試料が、組織切片、細胞標本、またはRNA/DNA、組織、蛋白質もしくはペプチドのアレイである請求項9の方法。
【請求項12】
該組織が、抗原、エピトープ、細胞蛋白質、またはDNA/RNA配列よりなる群から選択される生物標識を含有する請求項9の方法。
【請求項13】
該曲面が、金属、プラスチックまたはセラミックから製造される請求項9の方法。
【請求項14】
該曲面が、顕微鏡スライド表面に関して凸面である請求項9の方法。
【請求項15】
該曲面が、顕微鏡スライドの上部表面と実質的に平行に且つ生物学的試料の表面上に直線方式で移動させられる請求項9の方法。
【請求項16】
該湿らせた曲面および該生物学的試料を分離する距離が、約10ミクロン〜約100ミクロンである請求項9の方法。
【請求項17】
(a)生物学的試料を上部に有する顕微鏡スライドを支持するための台、
(b)下部曲面が、操作時に該生物学的試料の近くにあるように該台の上に置かれた、下部曲面を有する並進するキャップ、
(c)該並進するキャップを該生物学的試料上で前後に移動させるための手段、および
(d)液体を該キャップに適用し、かつそこから除去するための手段
を含んでなる、生物標識を含有する疑いのある生物学的試料を溶液と接触させるための装置。
【請求項18】
該台が上部に置かれたスライドを加熱することができる請求項17の装置。
【請求項19】
該キャップが該顕微鏡スライドの幅を実質的に覆う請求項17の装置。
【請求項20】
該キャップがプラスチックまたはセラミックから製造される請求項17の装置。
【請求項21】
該キャップが、下部曲面と上部スライド表面との間で形成される液体のメニスカスを支持することが可能な下部曲面を有する請求項17の装置。
【請求項22】
該下部曲面が約25mmの半径を有する請求項17の装置。
【請求項23】
該キャップのメニスカス−形成部分の最下部が該スライドより約0.01〜約0.10mm上にある請求項17の装置。
【請求項24】
該並進するキャップを前後に移動させるための該手段が、一方の端部で該キャップに連結され、そして他方の端部で該キャップに動きを与えるための機構に連結されたロッドを含んでなる請求項17の装置。
【請求項25】
該ロッドが、第一端部で該キャップに連結され、そしてその第二端部で該ロッドに連結された、垂直方向にたわむ部品をさらに含んでなる請求項24の装置。
【請求項26】
液体を該キャップに適用し、かつそこから除去するための該手段が、すすぎパッドを含み、該キャップが該すすぎパッド近くにもたらされた時に液体を該キャップに適用するように適合されている請求項17の装置。
【請求項27】
液体を該キャップに適用するための該手段が、液体を該キャップに適用するためのピペッター装置を含んでなる請求項17の装置。
【請求項28】
(a)生物学的試料を上部に有する顕微鏡スライドを支持するための台、
(b)下部曲面が操作時に該生物学的試料の近くにあるように該台の上に置かれた、下部曲面を有する並進するキャップ、
(c)該並進するキャップを該生物学的試料上で前後に移動させるための手段、
(d)液体を該キャップに適用し、かつそこから除去するための手段、および
(e)該装置の動作の全てを電子的に調節するための手段
を含んでなる、複合生物分子を、生物標識を含有する疑いのある生物学的試料に加えるための自動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−507701(P2008−507701A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522795(P2007−522795)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/026014
【国際公開番号】WO2006/012498
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(599075070)ベンタナ・メデイカル・システムズ・インコーポレーテツド (31)
【Fターム(参考)】