説明

流体中のアナライトを検出するためのセンサアレイ

【課題】 流体中のアナライトを検出するためのセンサアレイの提供。
【解決手段】 電気的測定装置に電気的に接続された少なくとも第1の化学的感受性レジスタと第2の化学的感受性レジスタとからなり、流体中のアナライトを検出するためのセンサアレイであって、それらの化学的感受性レジスタのそれぞれが非導電性有機ポリマー及びその非導電性有機ポリマーと組成的に異なる導電性物質の混合物を含み;それぞれのレジスタが非導電性有機ポリマー及び導電性物質の前記混合物を通る電気経路、第1の濃度で第1の化学アナライトを含む第1の流体と接触したときに第1の電気抵抗、及び第2の相異なる濃度で該化学アナライトを含む第2の流体と接触したときに第2の電気抵抗を与え;第1の化学的感受性レジスタの第1の電気抵抗と第2の電気抵抗との差が、第2の化学的感受性レジスタの第1の電気抵抗と第2の電気抵抗との差と相異なる;ことを特徴とするセンサアレイ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

発明の分野
発明の分野は流体中のアナライト(被検体)を検出するための電気的センサである。
【背景技術】
【0002】
背景
哺乳類臭覚系のアナログとして機能するセンサの開発に多大な興味がある(Lundstrom et a1.(1991)Nature 352:47−50;Shurmer and Gardner(1992)Sens.Act.B 8:1−11)。この臭覚系は単一の臭気を認識するために多くの異なるレセプターの確率能力(プロバビリステイック・レパートリイ)を利用すると考えられている。(Reed(1992)Neuron 8:205−209;Lancet and Ben−Airie(1993)Curr.Biol.3:668−674)。
【0003】
そのような構成において認識の負担は、化学物質感知についての伝統的な「錠と鍵(ロック・アンド・キイ)」分子認識アプローチにおけるように、高度に特定的なレセプターに負うものではなく、嗅覚球体と脳との分布パターン処理に依存する(Kauer(1991)TINS 14:79−85;DeVries and Baylor(1993)Cell 10(S):139−149)。広範囲にわたって応答するセンサアレイを作成しようとする従来の試行は、加熱金属酸化物薄膜レジスタ(Gardner et a1.(1991)Sens.Act.B 4:117−121;Gardner et a1.(1991)Sens.Act.B 6:71−75;Corcoran et a1.(1993)Sens.Act.B 15:32−37)、音波共鳴体の表面上のポリマー吸着層(Grate and Abraham(1991)Sens.Act.B 3:85−111;Grate et a1.(1993)Ana1.Chem.65:1868−1881)、電気化学的検出器のアレイ(配列)(Stetter et a1.(1986)Anal.Chem.58:860−866;Stetter et a1.(1990)Sens.Act.B 1:43−47;Stetter et a1.(1993)Anal.Chem.Acta 284:1−11)、あるいは導電性ポリマー類(Pearce et a1.(1993)Analyst 118:371−377;Shurmer et a1.(1991)Sens.Act.B 4:29−33)を利用してきている。典型的には種々の触媒を被覆されたS膜に基づいている、金属酸化物薄膜レジスタのアレイ(配列)は、いくつかの蒸気に対して明確な特徴的な応答を生じる(Gardner et a1.(1991)Sens.Act.B 4:117−121;Gardner et a1.(1991)Sens.Act.B 6:71−75;Corcoran et a1.(1993)Sens.Act.B 15:32−37)。しかし、触媒の機能の理解の不足のために、Sアレイはアレイ中の要素の応答の慎重な化学的制御を可能とせず、また個々のアレイの応答の再現性をも可能としない。表面音波共鳴体はアレイ要素中のコーティングの重量及び音響インピーダンスの両方の変化に対して極めて敏感であるが、その信号変換機構には、結晶中に100MHzのレイリー波を保持しつつ1Hzまでの周波数測定を必要とする若干複雑な電子工学手段が包含される(Grate and Abraham(1991)Sens.Act.B 3:85−111;Grate et a1.(1993)Ana1.Chem.65:1868−1881)。公称上同一のポリマーフィルム及びコーティングの中に電気化学的に成長された導電性ポリマー要素でもってセンサを構成しようとする試行がなされてきている(Pearce et a1.(1993)Analyst 118:371−377;Shurmer et a1.(1991)Sens.Act.B 4:29−33;Topart and Josowicz(1992)J.Phys.Chem.96:7824−7830;Charlesworth et a1.(1993)J.Phys.Chem.97:5418−5423)。
【0004】
一目的は、種々の「化学レジスタ(chemiresistor)」素子に基く広く応答しうるアナライト検出センサアレイを提供することである。それらの素子は簡単に製造され、広範囲のアナライトに応答するように容易に化学的に改変される。さらには、これらのセンサは目的流体に応答して迅速な、低電力、直流電気信号を生じ、それらの信号はアナライト同定の目的のソフトウエアまたはハードウエアに基くニュートラル回路によって容易に積分される。
【0005】
関連文献
Pearce et a1.(1993)Analyst 118:371−377;及びGardner et a1.(1994)Sensors and Actuators B 18−19:240−243には、ビールの香りを監視するためのポリピロールに基くセンサアレイを記載している。シャーマ(Shurmer)(1990)の米国特許No.4,907,441は特定の電気回路をもつ一般センサアレイを記載している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(項目1)電気的測定装置に電気的に接続された少なくとも第1の化学的感受性レジスタと第2の化学的感受性レジスタとからなり、流体中のアナライトを検出するためのセンサアレイであって:
それらの化学的感受性レジスタのそれぞれが、
非導電性有機ポリマー及びその非導電性有機ポリマーと組成的に異なる導電性物質の混合物を含み;
それぞれのレジスタが、非導電性有機ポリマー及び導電性物質の前記混合物を通る電気経路、
第1の濃度で第1の化学アナライトを含む第1の流体と接触したときに第1の電気抵抗、及び
第2の相異なる濃度で該化学アナライトを含む第2の流体と接触したときに第2の電気抵抗を与え;
第1の化学的感受性レジスタの第1の電気抵抗と第2の電気抵抗との差が、第2の化学的感受性レジスタの第1の電気抵抗と第2の電気抵抗との差と相異なる;ことを特徴とするセンサアレイ。
(項目2)第1の化学的感受性レジスタの非導電性有機ポリマーが第2の化学的感受性レジスタの非導電性有機ポリマーと相異なる項目1のセンサアレイ。
(項目3)導電性物質が無機導体である項目1のセンサアレイ。
(項目4)流体中のアナライトを検出するためのシステムであって、このシステムが;少なくとも第1の化学的感受性レジスタ及び第2の化学的感受性レジスタを含むセンサアレイを含み、それぞれの化学的感受性レジスタが非導電性有機ポリマー及びその非導電性ポリマーと組成的に異なる導電性物質の混合物を含み、それぞれのレジスタが非導電性有機ポリマー及び導電性物質の混合物を通る電気経路、第1の濃度で化学アナライトを含む第1の流体と接触したときに第1の電気抵抗、及び第2の相異なる濃度で該化学アナライトを含む第2の流体と接触したときに第2の相異なる第2の電気抵抗を与え、
第1の化学的感受性レジスタの第1の電気抵抗と第2の電気抵抗との差は、同一の条件下で第2の化学的感受性レジスタの第1の電気抵抗と第2の電気抵抗との差と相異なり、
さらに上記システムがそのセンサアレイに電気的に接続された電気的測定装置及び常駐アルゴリズムコンピュータを含み;
電気的測定装置が化学的感受性レジスタのそれぞれにおける第1及び第2の電気抵抗を検出し、そしてコンピュータがそれらの抵抗をセンサアレイ応答分布に集成することを特徴とする前記システム。
(項目5)第1の化学的感受性レジスタの非導電性有機ポリマーが第2の化学的感受性レジスタの非導電性有機ポリマーと相異なる項目4のシステム。
(項目6)導電性物質が無機導体である項目4のシステム。
(項目7)流体中のアナライトの存在を検出する方法であって、この方法が、少なくとも第1の化学的感受性レジスタ及び第2の化学的感受性レジスタを含むセンサアレイを用いて流体中のアナライトの存在を抵抗値で感知することからなり、化学的感受性レジスタのそれぞれが、非導電性有機ポリマー及びその非導電性有機ポリマーと組成的に異なる導電性物質の混合物を含み;各レジスタが非導電性有機ポリマーと導電性物質との前記混合物を通る電気経路、第1の濃度である化学アナライトを含む第1の流体と接触したときに第1の電気抵抗、及び第2の相異なる濃度でその化学アナライトを含む第2の流体と接触したときに第2の電気抵抗を与えることを特徴とする上記検出方法。
(項目8)第1の化学的感受性レジスタの非導電性有機ポリマーが第2の化学的感受性レジスタの非導電性有機ポリマーと相異なる項目7の方法。
(項目9)導電性物質が無機導体である項目7の方法。
(項目10)第1及び第2の抵抗のそれぞれは経時抵抗である項目7の方法。
【0007】
(発明の概要)
本発明は流体中のアナライトを検出するための方法、装置及び精巧なシステムを提供する。本発明の装置は、第1及び第2の導電性素子(例:導電性リード)と、それらの導電性素子の間に電気経路を与える化学的に感受性のレジスタとを電気的に接続してなる化学センサを含んでいる。そのレジスタは複数の交番する非導電性領域(非導電性有機ポリマーからなる)及び導電性領域(導電性物質からなる)から構成されている。第1及び第2の導電性素子の間の電気経路は、該複数の交番非導電性及び導電性領域を横断(貫通)している。使用において、レジスタは、第1の濃度の化学アナライトを含む流体と接触したときと、第2の相異なる濃度の該化学アナライトを含む流体と接触したときとでは、それらの導電性素子の間の抵抗に差を与える。
【0008】
任意の非導電性領域を通る電気経路は、典型的には長さが100オングストロームのオーダーであり、その領域を横切って100mΩのオーダーの抵抗を与える。あるセンサと別のセンサとの化学感受性の変化は、導電性及び/または非導電性領域の組成を定性的または定量的に変えることにより都合よく与えられる。例えば、一具体例において、各レジスタにおける導電性物質を一定のままとし(例えばポリピロールのような同一の導電性物質)、しかるに非導電性有機ポリマーをそれぞれのレジスタで変える(例えばポリスチレンのような相異なるプラスチック)。
【0009】
そのようなセンサのアレイは、相異なる抵抗差を与える相異なる化学感受性レジスタを有する少なくとも二つのセンサを備えるように構成される。流体中のアナライトを検出するための電子鼻(ノーズ)はそのようなアレイを、各センサの導電性素子に電気的に接続された電気測定デバイスと組合せて採用することにより構成されうる。そのような電子鼻には、各センサの一時的(テンポラル)応答を監視する手段、アナライト同一性を測定するためにセンサのデータをアセンブルして分析する手段等の種々の付帯要素を組み入れることができる。開示のセンサ、アレイ及び電子鼻を製造し、使用する方法も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
本発明は電気測定装置と組合せて使用するための、流体中のアナライト検出用のセンサアレイを提供する。これらのアレイは複数の組成的に異なる化学センサを含んでいる。各センサは化学的に感受性のレジスタに電気的に接合され、そしてそのレジスタによって分離されている少なくとも第1及び第2の導電性リードを含んでいる。それらのリードは適宜な導電性物質、通常は金属であってもよく、信号:ノイズ強度を最小化するために櫛型組合せされていてよい。
【0011】
レジスタは導電性リード間の電気経路を横切る複数の交番する非導電性及び導電性領域からなっている。一般にレジスタは、レジスタに接続された両リード間の電気経路が非導電性有機ポリマー物質のギャップ(複数)によって中断されるように導電性物質と非導電性有機ポリマーとをブレンドすることによって製造される。例えば、非導電性有機ポリマー物質のマトリックス中の粒状の導電性物質のコロイド、懸濁または分散物において、粒子同志を分離していてるマトリックス領域がそのようなギャップを与える。非導電性ギャップの経路長は約10〜1,000オングストロームの範囲であり、通常は100オングストロームのオーダーであり、個々ギャップを横切って約10〜1,000mΩ、通常は100mΩのオーダーの個別抵抗を与える。ある所与のギャップの経路長及び抵抗は一定ではなく、むしろ、その領域の非導電性有機ポリマーがアナライトを吸収し、吸着し、または同化するので変化すると信じられる。従って、ある所与のレジスタにおいてこれらのギャップによって与えられる動力学的総合抵抗は、非導電性領域のアナライト浸透の関数である。若干の具体例において、導電性物質も、アナライト浸透の関数として動力学的総合抵抗に寄与しうる(例えば導電性物質がポリピロールのような導電性有機ポリマーである時)。
【0012】
多様な導電性物質及び非導電性有機ポリマー物質を使用することができる。表1はレジスタ製造に使用するための代表的導電性物を与えており、例えばこれらの列挙されたものの混合物も使用できる。表2は非導電性有機ポリマー物質の代表例を与えており、例えばここに列挙されたもののブレンド及びコポリマーも使用することができる。組合せ、濃度、ブレンド量比、パーコレーション限界等は、以下に述べるようにプロトタイプのレジスタ(化学レジスタ)を製造しそして取捨選択することにより実験的に容易に決定される。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
化学レジスタは、溶液キャスティング、懸濁液キャスティング及び機械的混合のような多くの技法によって製造できるが、これに限定されるものではない。一般に、溶液キャストルートは、均質な組織を与え及び加工処理の容易性を与えるので有利である。溶液キャストルートでは、レジスタ素子は、スピン、スプレイまたはディップ・コーティングによって容易に製造できる。しかし、レジスタのすべての素子は可溶性でなければならないから、溶液キャストルートはその応用性において幾分制限される。懸濁液キャスティングもスピン、スプレイ、またはディップ・コーティングの可能性を与えるが、溶液キャスティング法によるよりも不均質な組織が予期される。機械的混合では、単にレジスタ各成分同志の物理的混合がなされるだけであるので、溶解度に関する制限がないが、デバイス製造は、スピン、スプレイ及びディップ・コーティングがもはや不可能であるので、一層困難である。これらのそれぞれについてのより詳しい説明を以下に示す。
【0016】
導電性及び非導電性の両媒体またはそれらの反応前駆物質が、ある共通溶媒に可溶性である場合の系については、化学レジスタは溶液キャスティングによって製造できる。ここに提示されたホスホモリブデン酸によるピロールの酸化はそのような系の代表である。この反応において、ホスホモリブデン酸及びピロールはテトラヒドロフラン(THF)中に溶解され、溶媒の蒸発の際に重合が生じる。これによってTHF可溶性非導電性ポリマーがこの反応混合物中へ溶け込まされるようになり、かくしてブレンドが溶媒蒸発のとき単一の工程で形成されるようになる。このルートにおける非導電性ポリマーの選択は、もちろん、反応媒中に可溶性であるものに限定される。上述のポリ(ピロール)の場合については、予備反応はTHF中で実施されたが、この反応は、アセトニトリルまたはエーテルのようなその他の非水性溶媒にまで一般化されうるであろう。この方式での種々の組み合せが、その他の導電性ポリマーについて可能である。これらのもののいくつかを以下に列挙する。置換されたポリ(シクロオクタテトラエン)類のようなある種の導電性ポリマーは、それらの未改質の非導電性の状態においては、THFまたはアセトニトリルのような溶媒中に可溶性である。従って、未改質ポリマーと可塑化用ポリマーとの間のブレンドが溶液キャスティングから形成されうる。その後で、ドーピング(改質)操作(例えばIへの曝露)をブレンドに対して実施してその置換されたポリ(シクロオクタテトラエン)を導電性にする。この場合も、非導電性ポリマーの選択は、未改質導電性ポリマーが可溶である溶媒に可溶であり、かつ改質(ドーピング)反応に対して安定であるものに限定される。ある種の導電性ポリマーは、可溶性前駆体ポリマーを経て合成することもできる。これらの場合、前駆体ポリマーと非導電性ポリマーとの間のブレンドをまず形成し、次いで前駆体ポリマーを所望の導電性ポリマーへ変えるための化学反応を実施する。例えば、ポリ(p−フェニレンビニレン)は可溶性スルホニウム前駆体を経て合成されうる。このスルホニウム前駆体と非導電性ポリマーとの間のブレンドは、溶液キャスティングにより形成されうる。しかる後に、ブレンドを真空下での熱処理に付して、スルホニウム前駆体を所望のポリ(p−フェニレンビニレン)に変える。
【0017】
懸濁液キャスティングでは、レジスタの成分の一つまたはそれ以上を一つの共通溶媒に懸濁させ、他の成分を溶解させる。懸濁液キャスティングは、激しい混合または超音波によって溶媒中に懸濁されうるカーボンブラックまたはコロイド状金属のような広範囲の物質種に応用しうる一般的な技法である。懸濁液キャスティングの一応用において、非導電性ポリマーを(THF、アセトニトリル、水等のような)適切な溶媒に溶解させる。次いでコロイド状銀をこの溶液中に懸濁させ、得られる混合物を用いて電極をディップコートする。
【0018】
機械的混合は、可能なすべての導電性/非導電性の組合せのために適当である。この技法において、材料は、ボールミルまたはその他の混合装置中で物理的に混合される。例えば、カーボンブラック:非導電性ポリマー複合体はボールミル加工によって容易に製造できる。非導電性ポリマーが分解せずに溶融され、または著しく軟化されうるときには、昇温での機械的混合は混合処理を改善しうる。あるいは、複合材製造はいくつかの逐次的な加熱及び混合工程によって改善されうる。
【0019】
製造された後に、個々の素子は、それらの化学的仕上げ及び形態を変えることによって、特定の応用のために最適化される。レジスタの化学的性質(種類)は、どのようなアナライトに対して応答するかを決定し、また相異なるアナライトを区別する能力を決定する。導電性成分と絶縁性成分との相対比率は応答の強さを決定するが、その理由は、パーコレーション限界に近付くにつれて、素子の抵抗が吸着された分子に対してより感受性になるからである。フィルムの形態も、応答特性の決定において重要である。例えば、薄いフィルムは厚いフィルムよりもアナライトに対してより迅速に応答する。従って、絶縁性成分と導電性成分との比を変えまた製造ルートを変えることにより製造された化学的に異なるセンサについての実験的情報カタログでは、特定の用途において予期されるアナライト、
それらの濃度及び所望の応答時間について適切であるセンサが選定されうる。さらなる最適化は、特定の条件下のアレイの性能へのフィードバックが得られるようになるにつれて、反復方式で実施されうる。
【0020】
レジスタ自体がリードまたはレジスタを付着するための基板をなしてもよい。例えば、レジスタの構造剛性は下記のような種々の技法によって増加されうる:重合体成分の化学的または照射による架橋結合(ジクミルペルオキシドラジカル架橋結合、ポリオレフィン類のUV照射架橋結合、ゴムの硫黄架橋結合、ナイロンの電子ビーム架橋結合等)、レジスタヘのポリマーその他の材料の導入による物理的性質の強化[例えば高分子量、高遷移金属(Tm)ポリマーの導入]、粘土またはポリマー網状構造のような担体マトリックス中へのレジスタ素子の導入(例えば、ポリメチレンメタクリレート網状構造内、またはモンモリロライト層内におけるレジスタブレンドの形成)等。別の具体例においては、レジスタはリードを支持するための手段を与える固体マトリックス上の表面層の形で析出される。典型的には、マトリックスはガラスまたはセラミックスのような化学的に不活性の非導電性基板である。
【0021】
大規模生産のために特に適したセンサアレイ、集積回路(IC)設計技術を用いて製造される。例えば、化学レジスタは、ニュートラルネットワークソフトウエアまたはハードウエア分析部門ヘデータ流を直接に効率的に供給するために、A/D変換器に接続された単純増幅器のフロント端に対して容易に集積できる。マイクロ製造技術は、化学レジスタを、アナログ信号調整/処理及びデータ分析のための回路を含むマイクロチップに対して直接に集積できる。このようにするとインクジェット技術を用いて単一の製造工程で次第に相異なる数百万のセンサ素子の製造ができる。一つのセンサアレイの多数の化学レジスタ素子における制御された組成上の傾斜は、カラーインクジェットプリンタが多数の色を沈着させ、混合する方式と類似の方法で生じさせることができる。しかし、この場合には多数の色ではなく、析出されうる溶液中の複数の相異なるポリマーを用いる。百万の別々の素子からなるセンサアレイは、10μmの仕上がりレベルのリソグラフィ法を用いて1cm×1cmの大きさのチップを必要とするにすぎず、これは従来の商業的処理加工及び析出方法の能力の範囲内である。この技法は感受性、小寸法、自立性化学センサの製造を可能とする。
【0022】
好ましいセンサアレイは、非導電性有機ポリマー領域の構造または組成について予め定めた変化(あるセンサと別のセンサとの間の)を有する。その変化は定性的及び/または定量的であってよい。例えばブレンド内の非導電性有機ポリマーの濃度は、センサを横切って変えられうる。あるいは、種々の相異なる有機ポリマーを相異なるセンサにおいて使用することもできる。流体中のあるアナライトを検出するための電子鼻は、組成的に相異なるセンサからなるあるアレイのセンサリードを、電気測定装置へ電気接続することにより製造できる。その装置は、アレイの各センサにおける抵抗の変化を、好ましくは同時に、そして好ましくはある期間にわたり、測定する。しばしば、その装置は信号処理手段を備えて、そして定性及び定量分析のために所与の応答プロファイルを構造応答プロファイルデータベースと比較するためのコンピュータ及びデータ構造と組合せて使用される。典型的には、そのような鼻は少なくとも10、普通は少なくとも100、そしてしばしば少なくとも1000の異なるセンサを備えているが、ここに記載したまたは当業界で公知の多量析出製造技法によっては少なくとも10個のオーダーのセンサからなるアレイが容易に製造される。
【0023】
操作において、各レジスタは、第1の濃度で化学アナライトを含む第1の流体と接触したときにその導電性リードの間に第1の電気抵抗を、そして第2の相異なる濃度の同じアナライトを含む第2の流体と接触したときにその導電性リードの間に第2の電気抵抗を与える。それらの流体の種類は液体でも気体でもよい。第1及び第2の流体は二つの異なる環境からの試料、二つの時点において採取された一つの流体中のアナライトの濃度の変化、ある試料とあるネガティブ対照体、等を表わしうる。センサアレイは、アナライト濃度のある変化に対して異なる応答をする複数のセンサを必要的に含む、すなわち一つのセンサの第1及び第2の電気抵抗の間の差は、別のセンサの第1及び第2の電気抵抗間の差とは異なる。
【0024】
好ましい具体例において、各センサの時間的応答(時間の関数としての抵抗)が記録される。各センサの時間的応答は、アナライトの曝露と関連する応答パターンを生じる抵抗の最大増加率及び最大減少率に対して標準化されてよい。既知アナライトの反復プロファイリングによって、アナライト及び応答プロファイルを相関させる構造関数データベースが生じる。未知アナライトは、応答パターン比較及び認識アルゴリズムを用いて特性化されまたは同定されうる。従って、センサアレイ、各化学レジスタを横切る抵抗を検出するための電気測定装置、コンピュータ、センサアレイ応答プロファイルのデータ構造、及び比較アルゴリズムを含むアナライト検出システムが提供される。別の具体例において、電気測定装置は、ニュートラルネットワークに基くハードウエア及び各センサにマルチプレックスされたデジタル・アナログ変換器(DAC)または相異なるセンサにそれぞれ接続された複数のDACからなる集積回路である。
【0025】
目的アナライトがアレイの複数のセンサにおいて応答差を発生しうる限り、ここに開示したセンサ、アレイ及び鼻によって広範なアナライト及び流体を分析することができる。アナライト用途は、アルカン、アルケン、アルキン、非環式炭化水素、アレン、アルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、カルボニル、カルバニオン、多核芳香族のような有機物質、そのような有機物質の誘導体(例えばハロゲン化誘導体等)、糖のような生化学分子、イソプレン及びイソプレノイド、脂肪酸及びそれらの誘導体等の如き広範な化学物質を包含する。従って、センサ、アレイ及び鼻の商業的応用には、環境毒物学及び治療、生化学薬剤、材料品質管理、食品及び農産物監視等が包含される。
【0026】
ある流体中のアナライトの存在を検出するために、ここに開示したセンサ、アレイ及び電子鼻を使用する方法においては、上述の化学的感受性レジスタに電気的に結合され、それによって分離されている第1及び第2の導電性リードからなる化学センサを用いて、そのレジスタが第1の濃度でアナライトを含む第1の流体と接触したときの両導電性リード間の第1の抵抗、ならびに第2の異なる濃度でそのアナライトを含む第2の流体と接触したときの第2の異なる抵抗を測定することにより、流体中のアナライトの存在を感知することがそれぞれなされる。
【0027】
以下の実施例は例示のために提示されるものであり、限定のために提示されるものではない。
【実施例】
【0028】
ポリマー合成
導電性、電気化学及び光学的測定のために用いたポリ(ピロール)フィルムは、(4.0mlの乾燥テトラヒドロフラン中の1.50mモル)のピロールのN−パージされた溶液と(4.0mlのテトラヒドロフラン中の0.75mモル)のホスホモリブデン酸との同体積を、N−パージされた試験管中に注入することにより調製した。その二つの溶液が混合されると、黄色のホスホモリブデン酸は暗緑色に変ったが、数時間は観察しうる沈澱を生じなかった。この溶液を1時間以内の混合でフィルム製造のために用いた。
センサ製造
可塑化されたポリ(ピロール)センサを、二つの溶液(すなわちその一つは5.0mlのテトラヒドロフラン中に0.29mモルのピロールを含み、他は5.0mlのテトラヒドロフラン中に0.25mモルのホスホモリブデン酸及び30mgの可塑剤を含むものであった)を混合することにより製造した。これら二つの溶液の混合物はピロール:可塑剤の2:3の重:重比となった。化学レジスタアレイ素子を枠付けするための安価な迅速な方法は、市販の22nFセラミックキャパシタ(ケメット・エレクトロニクス・コーポレーション)をゴバン目状に切断することにより達成された。これらのキャパシタの機械的スライ切断によって15μm分離された集積金属ライン(25%Ag:75%Pt)が現れたが、これらは導電性ポリマーによって容易に被覆することができた。次いでモノマー・可塑剤・オキシダント溶液を用いて、集積電極をディップコートして、重合された有機フィルムに強い電気コンタクトを設けた。重合が完結した後、フィルムは不溶性であり、溶剤(テトラヒドロフランまたはメタノール)ですすぎ洗いをして残留するホスホモリブデン酸及ぴ未反応モノマーを除去した。次いで、これらのセンサを市販バス片に接続し、その際に種々の「化学レジスタ」素子の抵抗をマルチプレクサ・デジタル抵抗計の使用によって容易にモニターした。
計装
IBM XTに接続したヒュウレッド・パッカード8452A分光光度計で光学スペクトルを得た。すべての電気化学実験は、プリンセトン・アプライド・リサーチ・Inc.173定電圧調節器/175ユニバーサルプログラマを用いて実施した。スピン・コーティングはヘッドウェイ・リサーチIncのホトレジスト・スピン・コータで実施した。フィルム厚はDektakモデル303プロファイロメータで測定した。導電性の測定はオスミウムチップ付き四点プローブ(アレッシ・インストルーメンツ・Inc.チップ間隙=0.050”、チップ半径=0.010”)で実施した。過渡抵抗測定は慣用マルチメータ(Flnke Inc.「Hydra Data Logger」メータ)で行なった。
【0029】
主要成分分析及び多重線型最小二乗適合。一つの臭気に対するアレイの単一回曝露から得られたデータセット一組の表示(すなわち抵抗)djを与えた。多重曝露から得られたデータが、かくして、データマトリックスDを与え、このデータマトリックスでは、jで表示される各列が単数のデータセット(すなわち臭気への単一曝露)を示すn個の表示から構成されていた。べ一スライン抵抗及び抵抗の相対的変化がセンサの間で変るので、データマトリックスはさらなる処理の前に自動基準化された(Hecht(1990)Mathematics in Chemistry:An Introduction to Modern Methods(Prentice Ha11,Englewood Cliffs,NJ))。この前処理技法において、単一の表示(すなわちデータマトリックスにおける一つのカラム)と関連するすべてのデータは単位標準偏差でゼロ付近に集中した。
【0030】
【数1】

【0031】
ここに
【0032】
【数2】

【0033】
は表示iの平均値であり、σ、は対応する標準偏差である。
【0034】
主要成分分析(Hecht(1990))はデータセットの要員間の最大変動(標準偏差の二乗として定義される。)がn個の相互直交ディメンジョンで得られるようなデータの線型組合せを決定するように実施した。データの線型組合せは、第1の主要成分(pc1)におけるデータセットの要員間に最大の変動(または分離)をもたらし、そして第2から第n番目の主要成分(pc2−pcn)まで変動の大きさの減少を生じさせた。自動基準化されたデータを主要成分空間へ(線型組合せによって)変換するのに必要とされる係数は、データマトリックスDにその交差Dを乗ずることにより(すなわちマトリックス対角化することにより)決定した(Hecht(1990))。
【0035】
R=D・D (2)
この操作は相互マトリックスRを与え、その対角要素は1(単位)であり、その非対角要素はデータの相関係数であった。データの全変動は、かくしてRの対角要素の合計によって与えられた。n個の固有値及び対応するn個の特性値がかくしてRについて決定された。各特性値はn個の係数の一組を含み、それらは線型組合せによってデータを、そのn個の主要成分のうちの一つに変形するのに用いられた。対応する固有値は該主要成分に含まれた全変動率を与えた。この操作は、主要成分マトリックスPを与え、これは元のデータマトリックスと同じディメンジョンを有した。これらの条件下でマトリックスPの各列は、なお、ある特定の臭気と関連しており、そして各カラムはある特定の成分と関連していた。
【0036】
主要成分空間における数値は物理的意味を有しないので、それは分圧及びモル分率のような物理的パラメータに関する主要成分分析の結果を表わすのに有用であった。これは主要成分値と対応する目的パラメータとの間での多重線型最小二乗法適合によって達成された。多重線型最小二乗法適合は主要成分の線型組合せを与え、このものは対応するパラメータ値に最良の適合を生じさせた。適合は、各エントリィが単位(1)であるカラムを主要成分マトリックスPを付随させることに達成され、各列jはベクタVに含まれる相異なるパラメータ値(例えば分圧)vに対応する。主要成分と目的パラメータとの間の最良多重線型適合のための係数は下記のマトリックス操作によって得られた。
【0037】
C=(P・P)−1・P・V (3)
ここにCは線型組合せのための係数を含むベクタであった。
【0038】
本発明の化学的に異種の感知素子を作るための可能性の鍵は、導電性有機ポリマーの加工可能、空気安定性フィルムの製造であった。これはホスホモリブデン酸(HPMo1240)(テトラヒドロフラン中で20)を用いてのピロール(PY)の制御された化学的酸化によって達成された。
【0039】
PY→PY・+e (4)
2PY・+→PY+2H (5)
PMo1240+2e+2H→HPMo1240 (6)
酸化還元により駆動されまたは電気化学的に誘起されたピロールの重合は従前に検討されているが、典型的にはこの反応方法は不溶性の取扱い困難なポリ(ピロール)析出物を生成物として生じる(Salmon et a1.(1982)J.Polym.Sci.,Polym.Lett.20:187−193)。我々の解決手段は、HPMo1240酸化剤(E°=+0.36V vs.SCE)の低い濃度を使用することであった(Pope(1983)Heteropoly and Isopoly Oxometalates(Springer−Verlag,New York),Chap.4)。PY・+/PYの電気化学的ポテンシャル(E°=+1.30V vs.SCE) (Andrieux et a1.(1990)J.Am.Chem.Soc.112:2439−2440)は、HPMo1240/HPMo1240のものよりも高い(+)であるので、PY・の平衡濃度、従って重合反応速度は稀薄溶液(0.19MのPY、0.09MのHPMo1240)では比較的低い。しかしながら、ピロールオリゴマーの酸化ポテンシャルが、単位の数が1か2そして3へ増加するにつれて+1.20Vから+0.55Vそして+0.26V(対SCE)へ低減すること、ならびにバルク状ポリ(ピロール)の酸化ポテンシャルが−0.10V(対SCE)で生じることが示された(Diaz et a1.(1981)J.Electroana1.Chem.121:355−361)。結果として、ホスホモリブデン酸によるピロールトリマーの酸化は熱力学的に優位であることが期待される。これはモノマー・酸化剤溶液の加工処理(すなわちスピンコーティング、ディップコーティング、可塑剤の導入等)を可能とし、その時間の後に薄フィルムを形成するための重合を、単に溶剤の蒸発によって実施した。ガラスのスライド板上にこの方法で作られたポリ(ピロール)フィルムのdc導電率は、過剰のホスホモリブデン酸及び/またはモノマーを除去するためのメタノールでのフィルムのすすぎ洗い後に、厚さ40〜100nmの範囲のフィルムについて15〜30 S・cm−1のオーダーであった。
【0040】
この操作で作られたポリ(ピロール)フィルムはすぐれた電気化学的及び光学的性質を示した。例えば図2は、化学的に重合されたポリ(ピロール)フィルムの−1.00Vから+0.70V(対SCE)の10サイクル後の循環電圧電流性能を示す。−0.40Vにおけるカソード波はポリ(ピロール)をその中性、非導電性状態にまで還元することに相当し、そして−0.20Vにおけるアノード波はポリ(ピロール)をその導電性状態にまで再酸化することに相当した(Kanazawa et a1.(1981)Synth.Met.4:119−130)。フィルム内のホスホモリブデン酸の酸化及び還元からもたらされると考えられるさらなるファラディ電流が見られないことは、ホスホモリブデン酸のケギン(Keggin)構造がフィルムアニオン中に存在しないことを示唆し(Bidan et a1.(1988)J.Electroana1.Chem.251:297−306)、そしてMoO2−またはその他のアニオンが重合されたフィルムにおいてポリ(ピロール)対イオンとして作用したことを暗示している。
【0041】
図3はガラス上にスピンコートされ、次いでメタノールで洗浄された加工剤ポリピロールフィルムの光学スペクトルを示す。単一吸光最大値は高度に酸化されたポリ(ピロール)の特性であり(Kaufman et a1.(1984)Phys.Tev.Lett.53:1005−1008)、そして4.0eVにおける吸光バンドは導伝及び原子価バンドの間のバンド間遷移の特性であった。このエネルギー範囲でその他のバンドが存在しないことは、高度に酸化されたポリ(ピロール)(Id)において観察されたように、バイポーラオン(bipolaron)状態の存在の証拠であった(図3A参照)。0.10M[(CN]+[ClO・アセトニトリル中でフィルムを循環させ、次いで0.10M KCl−HO中で光学スペクトルを記録することにより、酸化されたポリ(ピロール)中のポーラオン状態の光学的遷移特性を観察することができた(図3B参照)。ポーラロン状態は三つの光学的遷移点(Id.)を生じさせると報告されており、それらは図3Bの2.0、2.9及び4.1eVのところで観察された。フィルムの還元のとき(図3B参照)、2.9eVバンド中に大きな強度と青移行が観察され、これはポリマー主鎖中に含まれるピロール単位と関連するπ→π*遷移を予想させる(Yakushi et a1.(1983)J.Chem.Phys.79:4774−4778)。実験の項に記載のように多様な可塑剤をポリマーフィルムに導入した(表3)。
【0042】
【表3】

【0043】
センサはピロールと可塑剤とを2:3(重:重)比で含んでいた。
**フィルムは過剰のホスホモリブデン酸除去のための洗浄をしなかった。
【0044】
これらの可塑剤の含有によって、得られる可塑化ポリマーの結着性及び導電性についての化学的制御が可能であった。センサアレイは14個もの多くの異なる素子から構成され、各素子は区別しうる化学組成をもち、従って区別しうるセンサ応答を生ずるようにそのポリマーフィルムに関し合成された。各フィルム被覆付きセンサ個々の抵抗Rは、種々の臭気への曝露の前、間及び後に自動的に記録された。典型的な試験は、センサを流動空気(3.0リットル/分)に曝露する60秒の休止期間、空気(3.0リットル/分)と溶媒で飽和された空気(0.5〜3.5リットル/分)との混合物に曝露する60秒の期間、次いで空気(3.0リットル/分)に曝露する240秒の期間から構成された。
【0045】
ここに示されたデータの初期処理において、使用した唯一の情報は、各個センサ素子の抵抗変化の最大幅を初期抵抗で除したもの(ΔRmax/Ri)であった。センサのほとんどは、種々のタイプの化学物質に曝露されたときのポリマー特性の変化から予期されるように、種々の蒸気に曝露されたときに抵抗の増加または減少を示した(Topart and Josowicz(1992)J.Phys.Chem.96:7824−7830;Charlesworth et a1.(1993)J.Phys.Chem.97:5418−5423)。しかしながら、若干の場合に、センサはテスト臭気に対する応答して初期の抵抗減少及びそれに続く抵抗増加を示した。各センサの抵抗は、その初期値と比較して増加及び/または減少しうるので、ΔRmax/Riの二つの値を各センサについて報告した。若干のセンサ/臭気対の二方向挙動の原因はまだ詳しく研究されていないが、多くの場合に、この挙動はこの研究の試験臭気を発生させるのに使用された試薬級溶媒における水(このもの自体がフィルムの抵抗の迅速な減少を生じさせた。)の存在から起っていた。これらの空気曝露された含水試験溶媒に応答して観察された挙動は、ある所与のセンサアレイについて再現性及び可逆性であり、そしてその環境は、空気及び水が容易には排除されない多くの実用的臭気感知用途を代表するものであった。
【0046】
図4B〜4Dは、センサアレイのセンサ幅応答の代表的な例である(表3参照)。この実験において、データは空気中を流れるアセトン、ベンゼン及ぴエタノールの三つの別々の蒸気への曝露について記録された。表3に示されたセンサアレイにより発生された応答パターンは(B)アセトン、(C)ベンゼン及び(D)エタノールについて表示されている。センサ応答は、溶媒蒸気に曝露されたときの各センサの抵抗を初期抵抗で(灰色棒グラフ及び黒色棒グラフ)割ったときの最大増加率及び減少率として定義される。多くの場合に、センサは抵抗の再現性のある増加及び減少を示した。1回の曝露は(i)センサを流動空気(3.0リットル/分)に曝露した60秒休止期間、(ii)空気(3.0リットル/分)及び溶媒で飽和された空気(0.5リットル/分)の混合物への60秒曝露及び(iii)空気(3.0リットル/分)への240秒曝露から構成された。これらの臭気はそれぞれセンサアレイに区別しうる応答を生じさせたことが容易に明かとなる。さらなる実験において、ある範囲の化学的及び物理的性質を包括するように選択された合計8つの別個の蒸気(アセトン、ベンゼン、クロロホルム、エタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、テトラヒドロフラン、及び酢酸エチル)が、14素子センサアレイ(表3)で5日間にわたり評価された。以下に検討されるように、各臭気はこのセンサ装置を用いることによって、他の臭気から明確にかつ再現性を以って同定され得た。
【0047】
主要成分分析(Hecht(1990)Mathematics in Chemistry:An Introduction to Modern Methods(Prentice Ha11,Englewood Cliffs,NJ))を用いて、データの表示を簡素化し、個々のセンサ及びアレイの分別性能を全体として定量化させた。この手段において、アレイ中の素子についてのΔRmax/Riデータの線型組合せは、最大変動(標準偏差の二乗として定義される)が最も少ない相互直交ディメンジョンに含まれるように、構成した。これによってほとんどの情報の表示が二つまたは三つのディメンジョン内の表4B−4Dに示したデータセット内に含まれうるようになった。新たな次元空間における類似の曝露データにもたらされる群団(クラスタリング)またはその欠如は、センサアレイの別能力及び再現性の尺度として使用された。
【0048】
可塑化用ポリマーの変化からもたらされた個々のセンサのセンサ応答の変動を例示するために、典型的アレイ(図5)の14個のセンサ素子のそれぞれの個々の単離された応答で主要成分分析を行なった。データはアセトン(a)、ベンゼン(b)、クロロホルム(c)、エタノール(e)、イソプロピルアルコール(i)、メタノール(m)、テトラヒドロフラン(t)または酢酸エチル(@)に対して5日間にわたり種々の順序でそれらの蒸気を曝露することによる多重曝露から得た。図中の数字は表3に記したセンサ素子を示している。軸に沿った単位はある臭気についての特定のデータセットを記すために用いた主要成分の幅を示している。黒い領域はすべての他のものから区別できた単一溶媒に対応する群団(クラスター)を示し、灰色領域は、その周囲の他の記号と重なり合った信号の溶媒最も明白なデータを示す。曝露条件は図4に示したものと同じである。
【0049】
各個センサは二つのデータ値を生じたので、これらの応答の主要成分分析は二つの直交する主要成分pc1及びpc2のみをもたらした。個々のセンサ素子によって示される選択性の例として、図5で5として示されたセンサ(ポリスチレンによって可塑化された)は、アセトンを、クロロホルム、イソプロピルアルコール、及びテトラヒドロフランと混同した。またそれはベンゼンを酢酸エチルと混同したもののエタノール及びメタノールをその他のすべての溶媒から区別した。可塑剤をポリ(α−メチルスチレン)に変えると(図5の第6番のセンサ)、相互に関しまた最初のものに関し応答の空間的分布にほとんど影響を与えなかった。従って、予期されるように、可塑剤のわずかな化学的変更は8つの試験臭気の相対的変動にほとんど影響を与えなかった。これと対照的に、ポリ(スチレン−アクリロニトリル)の形で可塑剤にシアノ基を加えると(図5の第7番のセンサ)、ベンゼン及びクロロホルムによる全体的変動により大きく貢献した。可塑剤中の置換基を水素結合酸に変えることにより[ポリ(スチレン・アリルアルコール)、図5の第9番のセンサ]、全体の変動に対するアセトンの貢献を増大させ、一方では地の臭気に対してほとんど影響しなかったが、メタノールとエタノールとの混同が例外である。これらの結果は、センサの挙動は、可塑化用ポリマーの化学的組成を変えることによって系統的に変えられうることを示唆している。
【0050】
図6A及び6Bは、表3及び図4及び5に示されたすべての14センサについての主要成分分析を示している。溶媒が三次元臭気空間へ投入されると(図6Aまたは6B)、すべての8溶媒は、ここに述べられた特定アレイに容易に識別された。ある個々のテスト臭気の検出は、アレイ中のすべての素子についての約1%のΔRmax/Ri価の観察という要件のみに基いて、流動空気流の温度や湿度についての制御もせずに1000分の幾部のレベルで達成された。さらなる感度の増加は、ΔRmax/Riデータの時間的成分の完全な利用ならびにアレイ中のノイズのより完全な特性化によって得られるようである。
【0051】
我々はある種のテスト混合物の成分の同定のための本発明センサアレイの適性についても研究した。この仕事は、アレイが所与の臭気の濃度が変化したときに予告的信号応答を示せば、そして種々の個々の臭気の応答が加成的であれば(すなわち重なり合いが維持されるならば)、著しく単純化される。19素子センサアレイを空気中のある数nの相異なるアセトン濃度に曝露したときに、(CHCO濃度は第1主要成分から半定量的に推定された。これは最初の三つの主要成分を介して良好な線型最小二乗法適合から明かである(第1の主要成分の線型最小二乗法適合について図7A参照)。
【0052】
同じセンサアレイは、種々のテストメタノール・エタノール混合物における成分の分別が可能であった(Morris et a1.(1942)Can.J.Res.B 20:207−211)。図7Bに示されるように、線型関係は、CHOH−COH混合物中の液相での主要成分とメタノールのモル分率xmとの間に観察され、これは重なり合いが、この混合物/センサアレイの組合せについて保持されることを示している。さらには混合物中の各成分は第1主要成分から可成り正確に推定され得たけれども、精度の向上は、最初の三つの主要成分を介しての多重線型最小二乗法適合を用いて達成できる。この関係は、この蒸気混合物の空気飽和溶液中の0〜1.0のCHOH/(CHOH+COH)比について有効である。導電性ポリマーに基くセンサアレイは、従って、純粋なテスト蒸気の間の区別をなすのみでなく、臭気の濃度の分析ならびに二成分蒸気混合物の分析をも可能とする。
【0053】
要するにここに示された結果は、アナライトセンサ設計の分野を進歩させる。単に複合低電力dc電気抵抗発生信号を用いる比較的簡単なアレイ設計は種々のテスト臭気を容易に区別することが示された。そのような導電性ポリマーに基くアレイは構成及び改変が単純であり、ある蒸気の応答パターンについて化学的に制御する機会を与えうる。例えば可塑剤と導電性ポリマーとの比を増大することにより、パーコレーション限界にまで近付けることが可能であり、その点では導電性が吸着分子の存在に対して非常に高感度の応答を示す。さらには、より薄いフィルムを製造することにより、短い応答時間を得る機会を与え、また可塑化用ポリマーの数の増加する機会を与え、またポリマー主鎖要素はセンサの増大した多様性をもたらすであろう。このタイプのポリマーべ一スのアレイは化学的にフレキシブルであり、製造、改変、分析するのが簡単であり、そして、低電力dc抵抗発生信号変換経路を用いて化学データを空気信号に変換する。それは哺乳類の嗅覚のための化学的模倣の基礎及び応用研究のための広く応答しうる臭気センサヘの新しいアプローチを与える。そのようなシステムは種々の臭気の方向性、濃度及び同一性を哺乳類の嗅覚系統がいかに特定するのを理解するために開発されたニュートラルネットワークアルゴリズムの普辺性を評価するのに有用である。
カーボンブラックに基くセンサアレイの製造及びテストセンサー製造
個々のセンサ素子は下記のようにして作った。各非導電性ポリマー(80mg:表4参照)を6mlのTHFに溶解した。
【0054】
【表4】

【0055】
次いで20mgのカーボンブラック(BP2000、Cabot Corp.)を激しく混合して懸濁させた。咬合電極(前記の開裂キャパシタ)を次いでこの混合物に浸漬し、溶媒を蒸発させた。異なる非導電性ポリマーを有する一連のそのようなセンサ素子を作り、市販バス片へ導入した。そのバス片によって一つの複合抵抗計を用いて化学レジスタを容易に監視することができた。
センサアレイ試験
カーボンブラックに基くセンサの性能を評価するために、20個もの素子を有するアレイを一連のアナライトに曝露した。一回のセンサ曝露は、(1)流動空気(6リットル/分)への60秒曝露、(2)空気(6リットル/分)とアナライトで飽和された空気(0.5リットル/分)との混合物への60秒曝露及び(3)センサアレイを流動空気(6リットル/分)に曝露する5分回復期間から構成された。素子の抵抗は曝露中に監視され、フィルムの厚さ及び化学仕上げに応じて250%もの大きな抵抗変化が、あるアナライトヘの応答で観察された。一つの実験において、一連の非導電性ポリマー(表4参照)で形成されたカーボンブラック複合体から構成された10素子センサを2日間にわたり、アセトン、ベンゼン、クロロホルム、エタノール、ヘキサン、メタノール及びトルエンに曝露した。これらのアナライトに対し合計58の曝露をこの時間内に実施した。すべての場合に、アナライトに応答しての抵抗の変化は正であり、アセトンを例外として可逆的であった(図8参照)。次いで最大の正変動を、ポリ(ピロール)に基くセンサについて記述されたのと同様な方法で主要成分分析に付した。図9は、10素子アレイ全体についての主要成分分析の結果を示している。トルエンとベンゼンとの重なり合いを例外として、アナライトは相互に区別された。
【0056】
この明細書において引用されているすべての出版物及び特許出願は、あたかも各個の刊行物及び特許出願が参考のために特定的かつ個別的に指示されて参照されるように、ここに編入されている。前記の発明は理解の明確化の目的で例示及び実例によって詳しく説明されたけれども、当業者にとってはこの発明の教示に鑑みある種の変更及び改変は添付の請求の範囲の精神を離れることなく行ないうることは明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1−1】図1Aはセンサ構成の概念図を示し、図1Bはセンサ操作の概念図を示し、図1Cはシステム操作の概念図を示す。
【図1−2】図1−2は、図1−1のつづきである。
【図2】図2は、ポリ(ピロール)被覆白金電極の循環電圧電流図を示す。電解液はアセトニトリル中0.10Mの[(CN][ClOであり、0.10Vs−1の走査速度であった。
【図3】図3Aは過剰のピロール及び還元されたホスホモリブデン酸を除去するためにメタノールで洗浄されたスピン被覆されたポリ(ピロール)膜の光学スペクトル図を示し、図3Bは、0.10Vs−1の走査速度でアセトニトリル中0.10M[(CN][ClO液中でのSVEに対しての+0.70〜−1.00V間の10回のポテンシャルサイクル後のインジウム−すず酸化物上のスピン被覆ポリ(ピロール)膜の光学スペクトル図である。これらのスペクトルは0.10MのKCl−HO中で得られた。
【図4】図4Aは、検出素子として使用された改良セラミックキャパシタの一つの拡大を示すセンサアレイの概略図である。表3に示されたアレイによって発生された応答パターンは、アセトンについて図4B、ベンゼンについて図4C、そしてエタノールについて図4Dに示されている。
【図5】図5は相異なる可塑剤を含む個々のセンサからの自動計数データの主要成分の分析である。各四角枠の上右角中の数字は表3に示された相異なる素子を示している。
【図6】図6A及び図6Bはすべてのセンサ(表3)から得られたデータの主要成分分析である。条件及び符号は図5A〜5Dと同じである。図6Aは最初の三つの主要成分pc1,pc2及びpc3に表わされたデータを示し、一方図6Bはpc1,pc2及びpc4に表わされたときのデータを示す。若干の溶剤同志の間でのより高度な区別が、図6B中のクロロホルム、テトラヒドロフラン及びイソプロパノールの間のより大きな隔離によって図示されるように第4の主要成分を考慮することによって得られる。
【図7】図7Aは、第1主要成分の関数としてのアセトン分圧(O)のプロットである;アセトンの分圧と第1主要成分との間の線型最小二乗適合(−)(Pa=8.26・pc1+83.4,R=0.989);アセトンの分圧と最初の三つの主要成分との間の多線型最小二乗適合から推定されたアセトン分圧(+)[Pa=8.26・pc1−0.673・pc2+6.25・pc3+83.4,R=0.998)。図7Bは第1主要成分の関数としてのメタノール−エタノール混合物中のメタノールのモル分率xm(0)のプロットである;xmと第1主要成分との間の線型最小二乗適合(−)(xm=0.112・pc1+0.524,R=0.979);xmと最初の三主要成分との間での多線型最小二乗適合(+)から推定されるxm(xm=0.112・pc1−0.0300・pc2−0.0444・pc3+0.524,R=0.987)。
【図8】図8はメタノール、アセトン及びベンゼンに対してポリ(N−ビニルピロリドン):カーボンブラック(20重/重%カーボンブラック)センサ素子の応答抵抗である。アナライトはt=60sにおいて60sの間導入された。各露出の前にセンサ素子の抵抗(約125Ω)によって各軌路を標準化する。
【図9】図9は10素子のカーボンブラック基センサの応答についての最初の三つの主要成分である。使用されたカーボンブラック複合体の非導電性要素は表3に示されており、レジスタは20重/重%のカーボンブラックであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中のアナライトを検出するためのセンサアレイ。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−10703(P2006−10703A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222200(P2005−222200)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【分割の表示】特願平8−529590の分割
【原出願日】平成8年3月26日(1996.3.26)
【出願人】(598128421)カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー (26)
【Fターム(参考)】