説明

流体中微粒子のX線検出法

【解決課題】散乱法や遮光法における気泡による計測誤差、異種元素によるカウントロス、乳化による計測不能などの問題を解決し、低コストで簡易に、流体中の微粒子の数量及び粒子径などを正確に測定できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】流体を流すフローセル10と、フローセル10の側面からX線を照射するX線源20と、X線源20から照射されたX線が流体中の微粒子によって減弱された透過X線量を検出するX線検出器30と、X線源から照射されたX線により流体中の微粒子によって放出される蛍光X線を検出する蛍光X線検出器40と、透過X線量及び蛍光X線量の各基準量からの変動量に基づいて流体中の微粒子及び気泡を識別して微粒子の量及び粒径を算出する演算処理装置と、を具備する流体中微粒子の検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中に含まれる微粒子の検出法に関し、特に、X線を用いて流体中の微粒子を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子の集合体である粉体中の微粒子及びその微粒子径等の計測技術として、試料ふるい分け法、沈降法、沈降透過法、光またはレーザー回折・散乱法、光子相関法、遮光法、電気的検知法、画像解析法(顕微鏡法)、クロマトグラフィ法、気相法、及び比表面積測定法など多種多様なものが知られている。これらの技術は、測定対象とする粉体試料の状態、平均径や統計径など粒子径の種類、粒子径分布、形状などの粒子の幾何学的形状に関する測定対象項目によって使い分けられている。光回折・散乱法、遮光法は、微粒子を含む気体及び流体を狭い流路であるフローセルに入れて、気体または液体の流体中の微粒子の粒子数や粒径分布を連続的に計測する。
【0003】
散乱法は、フローセルなど流路中の微粒子にレーザーまたは光を照射して、微粒子からの散乱光を計測するものである。光の散乱光強度と微粒子の粒径の関係は、ミー散乱理論に基づき、一般に数ミクロン以下の粒子の場合には散乱光強度は粒径の5〜6乗に比例し、数ミクロン以上の粒子の場合には散乱光強度は粒径のほぼ2乗に比例することが知られている。
【0004】
透過または遮光法は、流路中の微粒子に光またはレーザー光を照射して、遮光され減少する光量を計測するものである。遮光される信号の減少量は、一般に粒子の断面積に比例するため、微粒子が球形の場合には粒径のほぼ2乗に比例する。この信号量と粒径の関係から粒径を算出する。
【0005】
散乱法では、微粒子の粒径が大きくなると粒子径と散乱光量の関係が複雑になり、また粒子形状によっても散乱光量が大きく変化するため、粒子径の正確な測定が困難となる。遮光法は、粒子径が小さくなると遮光量が小さくなり、微小な粒子の計測誤差が大きくなる。このため、流体の種類にかかわらず、微粒子の粒径が数10ミクロン以下の場合には散乱法、それ以上の比較的大きな微粒子の場合には遮光法が使用されることが多い。
【0006】
散乱法及び遮光法は、容易に低コストで開発できるため、光またはレーザー光を用いる光学式パーティクルカウンターとして広く学術産業分野で幅広く使用されている。散乱法の利用例としては、一般大気中のエアロゾルの計測、クリーンルームの浮遊粒子群の計測、純水中の不純物粒子の計測などを挙げることができる。遮光法の利用例としては、主に泥などを含んだ工業用水、一般排水や潤滑油などの産業用液体など、液体中の粒子径の比較的大きい異物粒子の計測を挙げることができる。また、個々の粒子を計測せず、流体の全体の光の散乱・透過量から粒子濃度や粒径分布を計測する手法も幅広く使われている。さらに、散乱光・透過光を画像計測して粒子を画像処理により個別に計測する手法もある。
【0007】
その他に、光散乱法を用いて液体中の微粒子を選別或いは精度良く計測する技術がこれまで多数開発されてきた。光またはレーザーの照射によって生じる微粒子からの光誘起蛍光を計測して微粒子物質の組成、蛍光物質、生物粒子、細菌、花粉等などの物質の識別を行う方法も開発されている。
【0008】
しかし、光またはレーザーを照射する光散乱法及び遮光法では、フローセル内の液体流体中に含まれる微粒子を計測する時に、流体に含まれる気泡を微粒子として計測してしまう問題がある。液体中の気泡は、流路中を流れる液体と屈折率が大きく異なるため、液体と気泡との界面において光を屈折させ散乱させてしまう。このため、散乱法ではその光散乱量を計測して気泡を微粒子として計測してしまう。遮光法では気泡による光散乱のため光の信号量が減少して遮光と同様の効果となるため散乱法と同様に気泡を微粒子として計測してしまう。このため、液体中の微粒子を散乱法及び遮光法で計測する場合には、正確に微粒子数量、濃度及び粒径分布を計測することができず、誤った計測データを表示してしまうとう致命的な問題点がある。また、気泡が液体中に微粒子濃度よりも多く存在する場合には、気泡での光散乱或いは光の遮光が顕著になり、微粒子の光散乱や遮光が気泡による光散乱や遮光に埋もれてしまい計測不能となってしまう。よって、この液体中の気泡発生を抑制し、微粒子から気泡を分離し、または微粒子だけを識別して計測するために、液体を加熱、冷却、加圧処理して脱泡処理する手法、気泡を超音波、電気泳動などで分離する手法、流路の構造によって気泡を分離する手法、さらに蛍光により識別する手法、レーザーで気泡を補足し除外する手法や気泡を散乱光信号解析で識別する手法などが開発されている。しかしながら、これらの気泡分離、脱泡処理技術でも気泡を完全に分離或いは除去することは困難であり、光或いはレーザーの流路中の照射部分には微小な気泡が僅かながら存在してしまう。気泡を可能な限り微粒子と識別して精度良く液体中の微粒子を実際に計測するためには、超音波、電気泳動力、遠心力、或いは高い圧力まで加圧するか、或いは極端に高温加熱、低温冷却を用いるか、またはこれらの各技術を組み合わせて使用するなど、気泡分離のための装置が複雑かつ大型化し、さらに計測に係る最終的なコストも増大してしまうという計測器としての製品開発上の大きな問題がある。
【0009】
また、潤滑油など油製品中の微粒子を計測する場合には、潤滑油の劣化による着色などで入射する光或いはレーザー光の潤滑油中での光透過性が減少して、潤滑油による光の減衰により潤滑油中の微粒子への正常なレーザー照射強度が得られなくなり、また微粒子の散乱光強度も潤滑油中で減衰してしまうために正確な微粒子の数量や粒径計測が行えなくなるという問題もある。さらに、潤滑油の使用環境などにより水分が混入する場合には、乳化(エマルション)により一方の液体物質が粒状に会合する液滴状態であるミセルが発生し、光の散乱が著しく増大して液体中へ光が透過できなくなり、微粒子の計測が不可能となる。
【0010】
またさらに、散乱法や遮光法は、測定対象となる微粒子の構成物質が同一の場合には光散乱や光遮光で得られる信号量と粒子径の相関が得られるが、異なる元素組成からなる微粒子を含む場合には、微粒子の光学特性である屈折率、光の散乱特性や光の吸収、透過特性等が異なるため信号量と粒子径の相関が得られなくなり、正確な粒子数や粒径を計測できなくなる。散乱法では、同一の粒径であっても光の散乱が小さい物質や光吸収が大きい物質の場合には微粒子からの散乱光の信号量が極端に小さくなり、信号として計数されず、カウントロスを生じてしまう。さらに、同じ物質であっても微粒子の表面形状が凹凸で複雑な場合と滑らかな場合にも、光の散乱特性が異なるため正しく粒径が計測できない。遮光法では、同一の粒径であっても光吸収が小さくかつ光の透過性の大きい物質の場合には微粒子による遮光効果は小さいため、散乱法と同様に粒子として計数されずにカウントロスを生じてしまう。
【0011】
流体中の微粒子を元素別に識別して検出する手法として、X線照射により元素から放出される蛍光X線を検出する方法が提案されている(特許文献1及び2)。
特許文献1には、原子力発電所の加圧水型軽水炉の2次供給水中の微量のFe及びCuを検知対象物質とする濃度測定装置が記載されている。特許文献1には、フローセルにフィルターを設けて検知対象物質を捕集した上でX線を照射し、検知対象物質から放出される蛍光X線を検出する方法が開示されている。
【0012】
特許文献2には、チューブに検体(細胞)の入った溶液をゆっくり流し、単色X線照射システムから高輝度な単色X線を照射し、検体内の各元素から放出される蛍光X線を検出するフローサイトメーターシステムが開示されている。
【0013】
しかし、特許文献1及び2はいずれも、特定の元素を検出することを目的としており、蛍光X線の特定のスペクトルを検出するに留まり、流体中に含まれる微粒子全般を検出することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−83767号公報
【特許文献2】特開2006−29921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、散乱法や遮光法における気泡による計測誤差、異種元素によるカウントロス、乳化による計測不能などの問題を解決し、低コストで簡易に、流体中の微粒子の数量及び粒子径などを正確に測定できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、流体中の微粒子を検出するために、X線を利用することを特徴とする。
X線を物質に照射すると、物質に吸収され、透過X線量は入射X線量よりも減弱する。X線の物質による減弱は下記式(1)によって表される。減弱係数μは、物質とその密度及びX線のエネルギーによって決まる(西野治監修、関口晃訳、W. J. Price原著、第1章、「放射線計測」、第17版、コロナ社、1993年発行)。
【0017】
I=I−μd (1)
(I:物質への入射X線量、I:物質の透過後のX線量、μ:減弱係数(または吸収係数)、d:物質の厚さ)
減弱係数μが同じであれば、微粒子を構成する元素、物質等が異なっていても、X線の微粒子による減弱量を計測することにより、光散乱法或いは遮光法で問題となる微粒子物質の光学特性の違いによるカウントロス問題は解消される。
【0018】
また、X線は、微粒子や液体と比べると殆ど減衰せずに気泡を透過する。照射するX線のエネルギーを適切に設定することにより、気泡と微粒子とは識別可能である。さらに、X線は、流体の着色や乳化などの流体の状態に影響を受けずに流体を透過する。
【0019】
さらに、フローセル中の流体に対してX線を照射すると、X線が照射された流体や微粒子からはその物質を構成する元素特有の蛍光X線が放出される。この蛍光X線のエネルギーは物質を構成する元素によって決まる。よって、蛍光X線をX線の減弱量とともに計測することで、微粒子の有無の確認だけでなく、物質の種類及び構成元素の特定も可能となる。気体中の微粒子計測の場合は、気体の密度が小さいため、気体から放出される蛍光X線は微粒子から放出される蛍光X線に比べて極端に小さく、蛍光X線スペクトルによって同定される元素は微粒子と考えられる。液体中の微粒子を計測する場合は、液体からの蛍光X線をも計測できる。
【0020】
本発明は以上の知見に基づいてなされたもので、流体を流すフローセルと、当該フローセルの側面からX線を照射するX線源と、当該X線源から照射されたX線が流体中の微粒子によって変動する透過X線量を検出するX線検出器と、当該X線源から照射されたX線により当該流体中の微粒子によって放出される蛍光X線を検出する蛍光X線検出器と、透過X線量及び蛍光X線量の各基準量からの変動量に基づいて流体中の微粒子及び気泡を識別して微粒子の量及び粒径を算出する演算処理装置と、を具備する流体中微粒子の検出装置;及びフローセルに流体を流し、当該流体にX線を照射し、当該流体中の微粒子及び気泡によって減弱された透過X線量をそれぞれ検出し、予め求めておいた基準透過X線量からの変動量に基づいて微粒子と気泡とを識別して微粒子の量及び粒径を算出すると共に、当該微粒子から放出される蛍光X線スペクトルを検出して、微粒子を構成する元素を同定することを含む流体中微粒子の検出方法を提供する。
【0021】
本発明には下記態様が含まれる。
(1)気体又は液体の流体中の流路中に含まれる微粒子の計数、分析装置において、流体中にX線を照射して流体中に含まれる微粒子によるX線の吸収によるX線の減弱または減衰率、及び照射するX線によって励起される流体、微粒子、気泡等から発生する蛍光X線をリアルタイムで計測、分析することによってX線の照射領域を通過する微粒子の数量と粒径を計測することを可能とする流体中の微粒子の検出法。ここで、減衰率は、微粒子が含まれない場合のX線透過量(I)を基準とし、微粒子が含まれる場合の微粒子の吸収によって減少したX線透過量(I)との比率(I/I)で示される。
(2)流体中へのX線照射法とは、微小かつ狭いフローセル状の流体流路領域に連続的に流れる流体に流体の流れ方向に対して横方向から安定した細いビーム状のX線を流体の一部分に連続照射して透過させることを特徴とする(1)の微粒子の検出法。
(3)流体中の微粒子のX線の減弱による数量、粒径の計測法とは、流体流路中を透過したX線の量を計測することにより、X線照射下の流体中を微粒子が通過することによって生じる透過X線量が微粒子によって減弱し減衰するパルスを計測することにより、そのパルスの数から微粒子の数量を計数し、及び微粒子の大きさによって生じるX線量の減弱するパルスの大小から微粒子の粒径を計測することを特徴とする(1)の微粒子の検出法。
(4)流体中の微粒子の数量、粒径の計測法において、液体の流体中の場合には流体中の微粒子と気泡を透過X線量の増加または減衰するパルスの大小から明確に識別でき、液体中の気泡と区別して微粒子のみを計測することを可能とすることを特徴とする(3)の微粒子の検出法。
(5)X線照射によって励起される流体、微粒子等から発生する蛍光X線をリアルタイムで計測、分析することによって微粒子の数量、粒径を計測する方法とは、流体流路中を通過する流体または微粒子にX線が連続的に照射されることによって微粒子または流体の構成元素から発生する流体及び微粒子の構成元素特有の蛍光X線を分析することにより流体と微粒子の蛍光X線のエネルギー及びX線強度の相違により微粒子を特定して計数し、かつ微粒子の蛍光X線量から粒径を計測することが可能であることを特徴とする(1)の微粒子の検出法。
(6)液体の流体の場合には蛍光X線の有無、或いは蛍光X線のエネルギーの違いにより、流体中の微粒子と気泡を明確に識別でき、微粒子のみを計測することを可能とすることを特徴とする(5)の微粒子の検出法。
(7)流体中の流体及び微粒子から発生する蛍光X線を計測、分析することによって流体流路中を通過する流体と微粒子の構成元素を(3)の透過X線量の減弱による微粒子の数量と粒径の計測と同時に特定、計測することが可能であることを特徴とする(5)の微粒子の検出法。
(8)流体流路中へのX線照射法において、(3)の微粒子による透過X線量の減弱パルスによる微粒子の数量、粒径の計測法と(6)の異物微粒子からの蛍光X線の計測分析法を兼ね備えることによって、流体中の微粒子の数量、粒径とその構成元素及び特定の粒径と構成元素の関係、粒径分布と構成元素の関係等のそれらの相関関係をリアルタイムで計測分析することが可能であることを特徴とする(1)の微粒子の検出法。
【発明の効果】
【0022】
本発明では微粒子の光学特性に依存せずに、減弱X線量の計測及び蛍光X線検出により微粒子を元素別に検出することができる。このため、散乱法及び遮光法では解決困難であった微粒子のカウントロス、液体中気泡による誤計測及び乳化による計測不能などの問題を生じることなく、正確な計測が可能である。
【0023】
本発明によれば、従来技術よりも精度の高い微粒子計測を短時間で実現することができる。本発明の装置は、気泡の脱泡、除去や分離のための機器を必要としないために、単純な構成である。さらに、微粒子計測の精度が向上するため液体中の微粒子管理、メンテナンスが容易になり、液体の品質向上に繋がる。液体の品質向上は、液体の工業製品を製造または検査する食品、薬品、医療、化学工業、工業機械等の幅広い産業分野において、液体中の異物微粒子の管理に役立ち製品等の生産性の向上をもたらすことが期待できる。例えば、潤滑油の品質管理が計測精度の向上により厳密なり、さらに潤滑油の計測、分析時間の短縮にも効果を発揮するため、結果として潤滑油を用いた機械等の稼働率の向上、機械の生産性向上に繋がると予想される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の流体中微粒子計測装置の概念図である。
【図2】図2は、図1での透過X線ビームの断面と直径方向の透過X線強度分布との関係を示す説明図である。
【図3】図3は、図1での流体中微粒子計測装置により検出される透過X線量の変化を示すグラフである。
【図4】図4は、図1での本発明の流体中微粒子計測装置により検出される蛍光X線スペクトルである。(a)はシリコン系潤滑油中のSiのピークであり、(b)は同じ潤滑油中のFeのピークを示す。
【図5】図5は、実施例1の本発明の流体中微粒子計測装置により油中微粒子を計測した場合の透過X線量信号を示す。
【図6】図6は、図5で気泡の存在を示す透過X線量信号が得られた時点での油中微粒子をX線カメラにより撮影した画像である。
【図7】図7は、実施例1の油中微粒子から放出された蛍光X線スペクトルである。
【好ましい実施形態】
【0025】
本発明の基本概念図を図1に示す。図1には、流体を流すフローセル10と、当該フローセル10の側面からX線を照射するX線源20と、当該X線源20から照射されたX線が流体中の微粒子によって減弱された透過X線量を検出するX線検出器30と、当該X線源から照射されたX線により当該流体中の微粒子によって放出される蛍光X線を検出する蛍光X線検出器40と、透過X線量及び蛍光X線量の各基準量からの変動量に基づいて流体中の微粒子及び気泡を識別して微粒子の量及び粒径を算出する演算処理装置(図示せず)と、を具備する流体中微粒子の検出装置1が概略図示されている。図1では、流体に液体を使用した場合に、液体に混入する気泡も表示した。
【0026】
フローセル10は、X線の吸収が少ない材料、例えばプラステック系材料、肉薄のガラス材料からなることが好ましい。また、フローセル10はX線の透過量が極端に減少することのないように肉厚が薄く、フローセルの外径と内径の差が小さい円筒であることが好ましく、かつ計測対象とする粒径の微粒子によって閉塞することのない程度の大きさ、つまり計測対象とする微粒子の最大粒径よりも1.1倍以上大きい寸法の内径であることが好ましい。さらに、フローセルの内径よりも大きいか、または内径の寸法より僅かに小さい微粒子によってフローセルが閉塞することを防ぐために、例えば内径400μmのフローセルで粒径400μm以下の微粒子を計測するには、360μm以上の粒径を有する微粒子がフローセル内へ流入することを防ぐフィルター(図示せず)をフローセルの入り口付近に設置することが好ましい。
【0027】
X線源20は、安定にX線を発生させることができる通常の医療用X線撮影や非破壊検査に用いられるコンパクトなX線管やその他電子ビーム等を用いて安定にX線を発生させるX線源が望ましい。
【0028】
X線検出器30は、X線フォトダイオード等のようなX線量を計測できるものやX線カメラのように画像計測できるものでも良い。フォトダイオードの場合は、フォトダイオードで検出される信号で透過X線量が求められ、X線カメラの場合には、画像として写る微粒子の透過の画像の信号を画像の各ピクセルを積算して透過X線量を求めることができる。
【0029】
蛍光X線検出器40は、半導体検出器やシンチレータを用いた検出器によりX線のエネルギーごとにX線量を検出できるエネルギー分散型のX線エネルギー分析器が望ましい。
流体をフローセルに流すために、フローセルにポンプを設置してもよいし、或いは流体の流れのある配管にインライン式にフローセルを設置してもよい。
【0030】
次に、図1に基づいて本発明の方法を説明する。
微小な流路であるフローセル10内に、ポンプ50を用いて微粒子群を含む気体又は液体である流体を流す。フローセル10内を流れる微粒子を含む流体は、照射領域において、X線源20よりフローセル10の側面から流体の流れに対して直交する方向に連続的に照射されている断面が円状または矩形状のX線ビームの照射を受ける。照射領域にある流体について、X線がフローセル、流体、気泡、微粒子によって吸収されて透過したX線量がX線検出器30によって検出され、励起された蛍光X線が蛍光X線検出器40によって検出される。
【0031】
照射X線量と、X線検出器30によって検出される透過X線量との差が、流体などによって減弱されたX線量となる。ここで、予め、フローセルに流体のみを流した状態でX線を照射し、透過X線量を求めて基準透過X線量とし、演算処理装置に記憶させておく。被験試料について求めた透過X線量と基準透過X線量との差が、計測対象となる微粒子及び気泡の透過X線量となる。
【0032】
図2に透過X線ビーム断面とX線強度とを示す。図2(1)に示すように、予め、フローセルに流体のみを流した場合の透過X線量を基準透過X線量として求めておく。X線の減弱係数、すなわち透過X線量は物質の密度に依存して変動するため、密度の異なる物質であれば透過X線量には相違が現れる。たとえば、図2(2)に示すように、照射領域内の流体が微粒子を含む場合、気体や液体よりも密度が高い微粒子であれば、微粒子のX線の減弱係数が大きく、照射X線は微粒子に吸収されるため、微粒子のシルエットに相当する面積における透過X線量が基準透過X線量よりも低くなる。また、照射領域内の流体が気泡を含む気体である場合、気泡のX線吸収量は液体よりも低いため、図2(3)に示すように、気泡のシルエットに相当する面積における透過X線量が基準透過X線量よりも高くなる。
【0033】
微粒子が単独の構成物質からなる場合または気泡の場合には、粒子または気泡の大きさ及び体積などに依存して、透過X線量が減少または増加する。透過X線ビームの断面におけるシルエット部分は微粒子または気泡の断面積を表す。微粒子または気泡が球状で断面積が円形の場合、透過X線量の減少量または増加量は直径の2乗にほぼ比例するので、透過X線の減少量または増加量から微粒子または気泡の直径を算出することができる。すなわち、粒径が既知の球状微粒子を標準として、予め粒径と透過X線量との関係を求めて校正曲線を作成しておき、実測値との比較を行って粒径を求める。微粒子が多種類の構成物質からなる場合には、通常の光学式微粒子検出器で用いられる粒径の校正法と同様に標準校正粒子を用いて校正し、その標準校正粒子の相当径で表示することができる。
【0034】
図2に示す微粒子や液体中の気泡のX線の透過特性の違いからフローセル中に微粒子、気泡が流体とともに流れているときの透過X線量をX線検出器で計測すると、原理上、図3に示す結果が得られる。図2(1)のX線照射領域に微粒子や気泡が無い場合の透過X線量を基準とすると、X線照射領域に微粒子が通過する際に微粒子によるX線の減弱があり透過X線量が一時的に減衰するマイナス側のパルスが現れる。また、気泡が通過する場合には、液体よりも気泡によるX線吸収が少ないため、微粒子の通過の場合とは逆に、基準透過X線量からプラス側にパルスが現れる。このように、基準透過X線量よりプラス側かマイナス側のどちらにパルス信号が現れるかによって微粒子か気泡かを識別することができる。マイナス側に現れるパルスのみを計測すれば、液体中の微粒子のみを検出することができ、その数量やパルスの大きさから粒径を計測することができる。流体が気体の場合には、気泡は存在しないので基準透過X線量よりプラス側に現れるパルスは発生せず、微粒子のみのマイナス側にだけ微粒子のパルスが現れる。
【0035】
さらに、フローセルのX線照射領域からは、フローセルの材料、流体及び微粒子の物質を構成する元素が、照射したX線により励起されて、それらの元素特有の蛍光X線が発生する。この蛍光X線をX線エネルギー分析器40で計測すると、図4のような蛍光X線のスペクトルが得られる。透過X線量の計測と同時に、この蛍光X線量を計測することで、微粒子の物質の元素組成に関する情報が得られる。流体及びフローセルからのX線蛍光スペクトル情報を予め取得しておいて基準としておき、これらと異なるスペクトルが現れた場合のスペクトル情報が微粒子または気泡のスペクトル情報となる。液体の流体の場合に発生する気泡の場合には、流体からの蛍光X線が減少するので液体からスペクトルの輝度が小さくなる。一方、微粒子については、微粒子を構成する元素固有の蛍光X線スペクトルが検出されるため、蛍光X線の計測からも微粒子と気泡を識別することが可能となる。
【0036】
以上のように、X線検出器30からの透過X線量の検出値に基づいて、流体中の微粒子または気泡の直径または含有量を求め、蛍光X線検出器40からの蛍光X線スペクトル情報に基づいて微粒子を構成する元素を検出することができる。
【0037】
また、流体に含まれる微粒子の物質が一種類の場合など、微粒子の物質が既知で蛍光X線スペクトルの情報が不要のような場合は、透過X線量の検出値のみで微粒子を検出することも可能である。
【実施例】
【0038】
図1に示す本発明の装置を用いて、粒径が60〜150μm範囲(粒径は光学式顕微鏡で確認した)に分布するチタン鉱物の残渣物試料である粉体微粒子を混入させたシリコンオイルを流し、透過X線量及び蛍光X線スペクトルを検出した。フローセルとして、内径0.4mm、長さ3cm、肉厚0.5mmのガラス製フローセルを使用した。フローセル中の流体の流速は約0.1〜2cc/minとした。X線源としてX線管を使用し、管電圧は約70kVとした。
【0039】
図5に、流体を流しながら計測した透過X線量を示す。図中点線は基準透過X線量を示す。透過X線量が基準透過X線量よりも大きくなるポイントが数回現れており、気泡の存在が示唆される。透過X線量が基準透過X線量よりも小さくなるパルスピークは、流体中の微粒子の存在を示す。基準透過X線量との差を示すパルスピークの大きさ(高さ)は微粒子の大きさと相関があることが確認された。粒子の形状を球形と仮定すると、その断面積Sはπr2(r:微粒子の半径)であり、断面積Sは粒径の2乗に比例する。また、微粒子によってX線が殆ど吸収されるとすると図2の(2)に示す微粒子のシルエット面積(断面積S)に相当するX線量が減少して透過X線量が減衰する。その減衰量(I−I:ピークの大きさ)は、断面積Sの大きさに比例し、粒径の2乗に比例する。すなわち、I−I∝S∝r2となる。この関係に基づき図5の減衰ピークから粒径を推定すると、図5に示す約75msの最も減衰の大きなピークは、光学式顕微鏡で確認した最も大きな粒径(150μm程度)に相当する。前後の約55ms及び約95msの小さなピークの減衰量は最も大きなピークの5分の1程度である。最も大きなピークの強度比の1/2乗(約0.45倍)が粒径の比に相当するので、小さなピークの大きさは、約65μmとなる。使用した粉体微粒子を光学式顕微鏡で観測したところ、粒径は60μmに近い値を示し、パルスの大きさが粒径に依存することが確認された。通常の光学式微粒子計測器のように、大きさの異なる正確に粒径の決まった校正用の標準微粒子を用いて校正試験を行えば、このピークの大きさから粒径が導き出せる。
【0040】
図6は、幅3mm、肉厚1mmの断面矩形のフローセルに、チタン鉱物の残渣物試料である粉体微粒子(粒径60〜150μm程度)を混入させたシリコンオイルを流した場合の透過X線の写真である。図6中、多数の黒い点が微粒子を示し、中心部の円形状の色の薄い部分が気泡を示す。黒く写るのは、微粒子によって吸収されて透過するX線量が流体だけの場合よりも減少するためであり、白く写るのは、気泡がX線を吸収しにくく透過するX線量が流体だけの場合よりも増加するためである。
【0041】
図7は、微粒子から発生した蛍光X線のスペクトルを示す。透過X線量を計測すると同時にフローセルからの蛍光X線をモニターして、スペクトルを同定することにより、これらのスペクトルの有無から微粒子の存在が確定できるとともに微粒子物質の構成元素を調べることができる。X線照射領域に微粒子が無い場合には、このようなスペクトルは現れずフローセルの材料物質、流体の蛍光X線のみが現れ、微粒子が通過すると微粒子の蛍光X線スペクトルが検出される。本実施例では、チタンを主成分とし、チタン以外の僅かな不純物元素(銅(Cu)、カルシウム(Ca)、シリコン(Si),鉄(Fe)など)をも含むチタン鉱物の残渣試料である標準粉体微粒子を使用した。図7の微粒子の蛍光X線のスペクトルに示すように、チタン(Ti)のスペクトルが大きく現れたことから、チタン鉱物の残渣試料の微粒子であることを確認できた。気泡が通過する場合には、液体からの蛍光X線スペクトルが減少し、かつ図7に示す微粒子からの蛍光X線のスペクトルは現れなかった。
【0042】
また、このスペクトルをモニターすることで、チタンを多く含む微粒子を気泡と明確に識別して計測することができた。さらに、別の組成からなる微粒子が通過すれば、このスペクトルは変化する。例えば、鉄(Fe)を主成分として多く含む微粒子が通過すれば鉄のスペクトルが大きく現れると予想される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、大気中に浮遊する人体に有害な重金属等の特定の元素を含むエアロゾルや湖水、河川または地下水等の環境水溶液中に含まれる有害な重金属等を含む微粒子を検出することを目的とする環境分析産業分野、ウラン、プルトニウム等の放射性物質を含む微粒子、放射性エアロゾルの検出を行う核関連物質を管理する原子力産業分野で利用することができる。さらに、液体または気体等の工業製品を製造または検査する食品、薬品、医療、化学工業、工業機械等の幅広い産業分野において、液体または気体の製品に含まれる異物粒子の検出及び分析を行い、それら製品等の検査、メンテナンス、管理等を実施する手段として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流すフローセルと、当該フローセルの側面からX線を照射するX線源と、当該X線源から照射されたX線が流体中の微粒子によって減弱された透過X線量を検出するX線検出器と、当該X線源から照射されたX線により当該流体中の微粒子によって放出される蛍光X線を検出する蛍光X線検出器と、透過X線量及び蛍光X線量の各基準量からの変動量に基づいて流体中の微粒子及び気泡を識別して微粒子の量及び粒径を算出する演算処理装置と、を具備する流体中微粒子の検出装置。
【請求項2】
前記X線検出器は、X線量を常時検出することができるフォトダイオード、シンチレータX線検出器またはX線カメラである、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項3】
フローセルに流体を流し、当該流体にX線を照射し、
当該流体中の微粒子及び気泡によって変動する透過X線量をそれぞれ検出し、予め求めておいた基準透過X線量からの変動量に基づいて微粒子と気泡とを識別して微粒子の量及び粒径を算出すると共に、
当該微粒子から放出される蛍光X線スペクトルを検出して微粒子を構成する元素を同定する
ことを含む流体中微粒子の検出方法。
【請求項4】
前記流体が液体であり、前記基準透過X線量よりも透過X線量が少ない場合には微粒子として計測し、前記基準透過X線量よりも透過X線量が多い場合には気泡として計測する、請求項3に記載の検出方法。
【請求項5】
前記基準透過X線量よりも透過X線量が減少して生じる透過X線量の少なくなるパルス状の信号のピーク数から微粒子の数量を算出し、当該ピーク高さから微粒子の粒径を算出する、請求項3または4に記載の検出方法。
【請求項6】
前記X線は、前記フローセルを流れる流体に対して連続して照射され、リアルタイム計測を行う、請求項3〜5のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項7】
予め、標準となる微粒子の粒径と透過X線量との関係から校正曲線を求め、当該校正曲線と透過X線量の実測値とを用いて、被検体の微粒子の粒径を求める、請求項3〜6のいずれか1項に記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−145162(P2011−145162A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5933(P2010−5933)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】