説明

流体供給器具

【課題】気泡による悪影響を確実に防止する。
【解決手段】マイクロチップ20の流入口26に液体試料を流入させるフローセル10は、マイクロチップ20に対する対向面110が形成されたフローセル本体11を備える。フローセル本体11は、当該フローセル本体11の内部に設けられ、対向面における流入口26との対向位置から開口する送液路12と、対向面における送液路12の開口部分を環状に囲うよう当該対向面から突設されてマイクロチップ20に当接する環状突出部14と、を有する。送液路12と、環状突出部14とは、流入口26と内部形状が同一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体供給器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微小空間内で核酸、タンパク質、血液などの液体試料の分析を行う技術分野においては、図5に示すように、内部に微細な流路や回路を形成したマイクロチップ100と、当該マイクロチップ100に液体試料を供給するフローセル200等とが組み合わせられて使用されている。
【0003】
マイクロチップ100は、樹脂などで形成された2つの基板101,102を有しており、少なくとも一方の基板101に微細加工を施した後、これら2つの基板を貼り合わせることによって製造されている。ここで、微細加工によって基板101に形成された溝103は液体試料の微細流路105を形成し、貫通口104は液体試料の流入口106、流出口(図示せず)を形成するようになっている。
【0004】
一方、フローセル200は、板状に形成された器具本体201を有している。この器具本体201の内部には、当該器具本体201におけるマイクロチップ100との対向面205から開口する送液路203が設けられている。また、対向面205における送液路203の開口部分の周囲には、対向面205から環状に突出して当該開口部分を囲う環状突出部206が設けられている。この環状突出部206は、マイクロチップ100に当接することで、液体試料の漏れを防止するようになっている。なお、環状突出部206の径「c」は、送液路203の径「a」及び流入口106の径「b」よりも大きくなっている。
【0005】
ところで、以上のようなフローセル200を用いてマイクロチップ100に液体試料を供給する場合には、流入口106付近の隅部分(例えば図中の領域Rなど)に濡れ残りが生じてしまうと、当該濡れ残り部分に存在する気体が気泡として微細流路105に流れ込んでしまい、液体試料の化学反応や分析に悪影響を及ぼしてしまうという問題がある。
【0006】
そのため、近年、このような問題を解決する技術として、例えば以下の2つの様な技術が提案されている。
即ち、1つ目の技術は、流路内に気泡が発生しない程度の送液速度を求めた後、液体試料の流出口側から圧力を加えつつ必要最低量の液体試料を予め送液することで気泡の発生を防止する技術である(例えば特許文献1参照)。
【0007】
また、2つ目の技術は、液体試料の流路近傍に気泡のトラップを設けることで、気泡による悪影響を防止する技術である(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4273252号公報
【特許文献2】特許第4407271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の技術では、表面張力の影響などによって依然として濡れ残りが生じてしまうため、気泡による悪影響を確実に防止することはできない。また、この技術では、液体試料の化学反応や分析に先立って流速を制御しつつ液体試料を流さなくてはならず、手間が掛かってしまう。
【0010】
また、特許文献2の技術では、気泡が多量に生じてトラップ内に捕らえられたり、トラップ内に捕らえられた気泡が温度上昇などによって膨張したりすると、トラップ内に気泡が留まりきれずに微細流路に流れ込んでしまうため、気泡による悪影響を確実に防止することはできない。また、トラップ自体が塗れ残り部分となって気泡を生じさせてしまい、かえって気泡による悪影響を生じさせてしまう場合もあり得る。
【0011】
本発明の課題は、気泡による悪影響を確実に防止することのできる流体供給器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、マイクロチップの流入口に液体試料を流入させる流体供給器具において、
前記マイクロチップに対する対向面が形成された器具本体を備え、
前記器具本体は、
当該器具本体の内部に設けられ、前記対向面における前記流入口との対向位置から開口する送液路と、
前記対向面における前記送液路の開口部分を環状に囲うよう当該対向面から突設されて前記マイクロチップに当接する環状突出部と、
を有し、
前記送液路と、前記環状突出部とは、
前記流入口と内部形状が同一であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、気泡による悪影響を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る液体試料分析装置の全体構成を示す概念図である。
【図2】マイクロチップ及びフローセルを示す分解斜視図である。
【図3】マイクロチップ及びフローセルを示す断面図である。
【図4】気泡、液漏れの発生と、基板高さの変動率との関係を示す図である。
【図5】従来のマイクロチップ及びフローセルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
図1は、本実施の形態における液体試料分析装置1の概略構成図である。
【0016】
この図に示すように、液体試料分析装置1は、内部に液体試料を流すためのマイクロチップ20と、マイクロチップ20に連通して液体試料の供給排出を行うフローセル10と、フローセル10に液体試料を送液する送液部30と、フローセル10から排出された液体試料を保管する廃液容器50と、マイクロチップ20内の分析対象物を光学的に検出する検出部40と、フローセル10からマイクロチップ20へ液体試料を流入させる際にフローセル10をマイクロチップ20に対して押圧する押圧装置60と、液体試料分析装置1の各部を制御するとともに検出部40による検出結果を解析する制御装置2と、液体資料分析装置1における作業内容を出力するモニタ3等とを備えている。なお、これら液体試料分析装置1における各部のうち、送液部30、廃液容器50、検出部40、制御装置2及びモニタ3としては、例えば上記特許文献2に記載のもの等、従来より公知のものを用いることができる。また、押圧装置60としては、フローセル10をマイクロチップ20に対して垂直に押圧してこれらの間での液体試料の漏れを防ぐことが可能な限りにおいて、従来より公知のものを用いることができる。
【0017】
マイクロチップ20は、図2に示すように、樹脂などで形成された2つの基板21,22を有しており、少なくとも一方の基板(本実施の形態においては基板21)に微細加工を施した後、これら2つの基板21,22を貼り合わせることによって製造されている。ここで、微細加工によって基板21に形成された溝23は液体試料の微細流路25を形成し、貫通口24は液体試料の流入口26、流出口27を形成するようになっている。微細流路25における検出部40(図1参照)との対向領域には、液体試料中の分析対象物を検出部40に検出させるための検出領域(図示せず)が形成されている。この検出領域には、分析対象物と特異的に結合するプローブ分子が予め固定されていても良い。なお、本実施の形態においては、流入口26の断面形状(液体試料の流れ方向に直交する断面の形状)は円形となっている。また、図2では、溝23,微細流路25を簡略化して図示している。
【0018】
以上のマイクロチップ20は、液体試料の分析を行う度に交換可能となっている。このようなマイクロチップ20としては、例えば上記特許文献2に記載のもの等、従来より公知のマイクロチップを用いることができる。
【0019】
フローセル10は、本発明における流体供給器具であり、マイクロチップ20の上面に載置されて当該マイクロチップ20の流入口26に液体試料を流入させるとともに、マイクロチップ20の流出口27から液体試料を流出させるようになっている。このフローセル10は、板状に形成されてマイクロチップ20に下面110で対向するフローセル本体11を有している。
【0020】
フローセル本体11は、図2,図3(a)に示すように、送液路12,13と、環状突出部14とを有している。
【0021】
送液路12,13は、液体試料の流路であり、フローセル本体11の内部に設けられるとともに、下面110における流入口26,流出口27との対向位置からそれぞれ開口している。なお、本実施の形態においては、送液路12は、流入口26に供給するための液体試料を送液するようになっており、上流側の端部において送液部30に連通している。また、送液路13は、流出口27から排出された液体試料を送液するようになっており、下流側の端部(図2中、右上の部分)において廃液容器50に連通している。
【0022】
環状突出部14は、下面110における送液路12,13の開口部分をそれぞれ環状に囲うよう当該下面110から突設されている。この環状突出部14におけるマイクロチップ20との当接部、つまり下端部は平坦面となっている。これにより、環状突出部14がマイクロチップ20に当接した場合には、液体試料の漏れが防止される。以下、送液路12の開口部分に設けられた環状突出部14と、送液路13の開口部分に設けられた環状突出部14とを区別し、前者を環状突出部14A、後者を環状突出部14Bとして説明する。
【0023】
ここで、図3に示すように、以上の送液路12と、環状突出部14Aとは、流入口26との間で内部形状が同一であり、流れ方向に沿って内面が段差を有さずに平坦となっている。より具体的には、本実施の形態における送液路12の内径「A」と、環状突出部14Aの内径「C」とは流入口26の内径「B」と等しく、かつ、送液路12及び環状突出部14Aは液体試料の流れ方向に直交する断面の形状が流入口26と同じく円形となっている。但し、送液路12及び環状突出部14Aの断面形状は、流入口26の断面形状と同じである限りにおいて、円形に限らず、例えば矩形状など、他の形状であっても良い。
【0024】
なお、本実施の形態におけるフローセル10はマイクロチップ20と検出部40との間に介在しており、検出部40はフローセル10を通して分析対象物の光学検出を行うようになっている。そのため、フローセル10は、検出部40との対向位置に、当該検出部40に分析対象物の光学検出を行わせるための観測孔(図示せず)を有している。このような観測孔としては、例えば上記特許文献2に記載のものを用いることができる。但し、フローセル10を透明な材料で形成する場合等には、フローセル10に観測孔を設けないこととしても良い。
【0025】
以上のフローセル10は、図3(a),(b)に示すように、マイクロチップ20に液体試料を流入させるときに、押圧装置60によって当該マイクロチップ20に対し押圧されるようになっており、以下の式(1)〜(3)を満たすようになっている。
【0026】
δ=(h/(AL×Eap))×W …(1)
5<100−{(h−δ)/h×100}<15 …(2)
2×h<h<3×h …(3)
【0027】
但し、式中の「δ」は、マイクロチップ20に対してフローセル10が押圧されたときの基板21の撓み量である。また、「W」は、フローセル10からマイクロチップ20に対して加えられる荷重である。また、「Eap」は、基板21の見かけヤング率である。また、「AL」は、環状突出部14におけるマイクロチップ20との当接部、つまり環状突出部14の下端面の面積である。また、「h」は、マイクロチップ20に対してフローセル10が押圧されていないときの基板22の上面から、基板21の上面までの距離である。また、「h」は、マイクロチップ20に対してフローセル10が押圧されていないときの、微細流路25の高さである。また、「h」は、環状突出部の高さである。
【0028】
ここで、上述の式(2)に関して本発明者等が実験を行って検討したところ、「100−{(h−δ)/h×100}」(以下、基板高さの変動率とする)の値を「0」,「5」,「10」,「15」,「20」に調整してフローセル10からマイクロチップ20に液体試料を送液した場合には、図4に示すような結果が得られている。この結果によれば、基板高さの変動率の値が「0」の場合には液漏れが生じ、値が「20」の場合にはマイクロチップ20の流路内に気泡が生じ、値が「5」,「10」,「15」,「20」の場合には液漏れも気泡も生じないことが分かる。但し、この実験においては、基板21としてシリコンゴム製のものを用いている。
【0029】
続いて、液体試料の分析を行うときの液体資料分析装置1の動作について説明する。
【0030】
まず、押圧装置60がフローセル10をマイクロチップ20に対して押圧する。これにより、送液路12の開口部分に設けられた環状突出部14Aが流入口26の周囲に当接するとともに、送液路13の開口部分に設けられた環状突出部14Bが流出口27の周囲に当接し、マイクロチップ20の流入口26,流出口27に対してフローセル10の送液路12,13が連通する。
【0031】
次に、送液部30がフローセル10に液体試料を送液する。これにより、液体試料はフローセル10の送液路12から環状突出部14A及び流入口26を介してマイクロチップ20内に流入した後、当該マイクロチップ20から流出口27及び環状突出部14Bを介してフローセル10に排出される。さらに、フローセル10に排出された液体試料は送液路13から廃液容器50に排出される。
【0032】
このとき、上述したように送液路12と環状突出部14Aとは、マイクロチップ20の流入口26と内部形状が同一であるので、濡れ残り、ひいては気泡の発生が防止されることとなる。また、環状突出部14Aにおけるマイクロチップ20との当接部は平坦面をなすので、マイクロチップ20に対して液体試料を流入させる際の液漏れの発生が防止されることとなる。更に、環状突出部14Aの高さ「h」等が上述の式(1)〜(3)を満たすので、図4に示したように、液漏れや気泡の発生がより確実に防止される。
【0033】
そして、制御装置2が検出部40によってマイクロチップ20内の分析対象物を検出するとともに、検出結果を解析してモニタ3に出力する。
【0034】
以上のように、本実施の形態における液体試料分析装置1によれば、送液路12と環状突出部14Aとは、マイクロチップ20の流入口26と内部形状が同一であるので、濡れ残りの発生を防止することができる。従って、濡れ残りによって気泡が発生してしまうのを防止することができるため、気泡による悪影響を確実に防止することができる。また、特許文献1記載の技術と異なり、予め流速を制御しつつ液体試料を流す必要がないため、手間を軽減することができる。
【0035】
また、環状突出部14Aにおけるマイクロチップ20との当接部は平坦面をなすので、マイクロチップ20に対して液体試料を流入させる際に液漏れが生じるのを防止することができる。
【0036】
また、環状突出部14Aの高さ「h」等が式(1)〜(3)を満たすので、液漏れや気泡の発生をより確実に防止することができる。
【0037】
なお、上記実施の形態においては、液体試料分析装置1が液体試料の分析を行うこととして説明したが、液体試料に化学反応を行わせたり、液体試料の成分を分離させたりすることとしても良い。
【0038】
また、その他の点についても、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
10 フローセル(流体供給器具)
11 フローセル本体(器具本体)
12 送液路
14 環状突出部
20 マイクロチップ
26 流入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロチップの流入口に液体試料を流入させる流体供給器具において、
前記マイクロチップに対する対向面が形成された器具本体を備え、
前記器具本体は、
当該器具本体の内部に設けられ、前記対向面における前記流入口との対向位置から開口する送液路と、
前記対向面における前記送液路の開口部分を環状に囲うよう当該対向面から突設されて前記マイクロチップに当接する環状突出部と、
を有し、
前記送液路と、前記環状突出部とは、
前記流入口と内部形状が同一であることを特徴とする流体供給器具。
【請求項2】
請求項1記載の流体供給器具において、
前記環状突出部における前記マイクロチップとの当接部は、平坦面をなすことを特徴とする流体供給器具。
【請求項3】
請求項1または2記載の流体供給器具において、
前記マイクロチップは、
貼り合わされた2枚の基板の間に液体試料の流路を有するとともに、これら2枚の基板のうち一方の基板に前記流入口を有しており、
当該流体供給器具は、
前記マイクロチップに液体試料を流入させるときに、当該マイクロチップに対して押圧されるものであり、
前記マイクロチップに対して当該流体供給器具が押圧されたときの前記一方の基板における撓み量を「δ」とし、
当該流体供給器具から前記マイクロチップに対して加えられる荷重を「W」とし、
前記一方の基板の見かけヤング率を「Eap」とし、
前記環状突出部における前記マイクロチップとの当接部の面積を「AL」とし、
前記マイクロチップに対して当該流体供給器具が押圧されていないときの、前記2枚の基板のうち他方の基板における前記対向面側の面から、前記一方の基板における前記対向面側の面までの距離を「h」、前記流路の高さを「h」、前記環状突出部の高さを「h」とした場合に、
δ=(h/(AL×Eap))×W、
5<100−{(h−δ)/h×100}<15、かつ、
2×h<h<3×h
を満たすことを特徴とする流体供給器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−104865(P2013−104865A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251250(P2011−251250)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】