説明

流体供給装置及びボイラ水含有成分濃度測定装置

【課題】流体流路を流通する薬液又は試料液を所望の容量で正確に反応セルに供給することができ、しかも供給後に不随意に反応セル内に薬液又は試料液の液滴が供給されることがない小型の流体供給装置、及びその流体供給装置を組み込んでなるボイラ水含有成分濃度測定装置を提供すること。
【解決手段】ボイラ水から採取された試料液と薬液とを混合することのできるところの、大きくとも10mLの内容積を有する反応セルに試料液又は薬液を流通させ、かつ、前記反応セル内に開口する開口断面が0.2〜0.8mmである流体流路と、この流体流路の途中に配設され、圧電素子の駆動により流体流路中に存在する試料液又は薬液を前記反応セルに移送するポンプと、前記流体流路の途中であって前記ポンプから前記反応セルまでに配設された流路開閉弁と、を備える流体供給装置、及び前記流体供給装置を備えて成るボイラ水含有成分濃度測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体供給装置、及び、この流体供給装置を備えたボイラ水含有成分濃度測定装置に関し、更に詳しくは、少量の、例えば10mL以下の液体中の特定成分濃度を分析するのに使用される反応セルに薬液又は試料液を供給した後に反応セル中に前記薬液又は試料液が不随意に滴下することのない流体供給装置、及びこの流体供給装置を組み込むことによりボイラ水中の特定成分含有量を正確に測定することのできるボイラ水含有成分濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中に含まれる成分の濃度を測定する方法として、被測定物質と発色試薬との発色反応を利用する、吸光光度法が知られている。この吸光光度法では、水溶液中に含まれる被測定物質と発色試薬とを反応させて、生成した化合物によりその水溶液を呈色させた後、光源から発した光を呈色した水溶液に通過させて、この透過光を受光素子で受光し、受光素子から出力される電気信号に基づいて前記呈色水溶液の吸光度又は光透過率を測定し、これによって水溶液中に含まれる成分の濃度を求めることができる。
【0003】
更に言うと、例えば、ボイラ水中に微量に含まれるイオン状シリカ濃度を測定する場合には、モリブデン青吸光光度法が用いられる。モリブデン青吸光光度法では、採取されたボイラ水を貯留する反応セルに数種類の発色試薬を順次に注入する。
【0004】
今までのところ、ボイラ水中に含まれるイオン状シリカ濃度の測定は手分析により行われていた。手分析と称する分析方法は、ボイラ水を流通する配管系から所定量のボイラ水を抜き取り、抜き取ったボイラ水に前記モリブデン青吸光光度法を適用してボイラ水中に含まれるイオン状シリカ濃度を測定する手法である。
【0005】
容易に推測することができるように、このような手分析によるボイラ水中のイオン状シリカ濃度の測定には時間がかかり、タイムラグが生じる。したがって、ボイラ水中のイオン状シリカ濃度を時々刻々に測定することによるボイラ水の品質管理をすることができないという問題がある。
【0006】
この問題を解決するために、ボイラ水中のイオン状シリカ濃度を短時間で測定することのできるシリカ濃度自動測定装置が望まれる。また、近年においては、採取するボイラ水の容量が小さくて済む小型のシリカ濃度自動測定装置が望まれている。
シリカ濃度自動測定装置として、例えば、ボイラ水を流通させるボイラ配管から抜き出した所定量の試料液を有する反応セルに、プランジャー式ポンプ又はベローズ式ポンプにより所定量の試薬を注入する装置が想定される。
【0007】
前記プランジャー式ポンプ及びベローズ式ポンプは大型の装置である。したがって、前記プランジャー式ポンプ及びベローズ式ポンプを採用するシリカ濃度自動測定装置に小型化を望むことができない。
【0008】
シリカ濃度自動測定装置における反応セルに試薬を供給する仕組みとして、試薬を貯留する試薬タンクとこの試薬タンク内に加圧気体を圧入する加圧手段と、試薬タンク内の試薬を反応セルに移送する流体流通路と、この流体流通路の途中に介装された電磁弁とを備えた試薬供給手段が想定される。加圧手段を有する試薬供給手段を採用する場合、加圧気体を試薬タンク内に所定圧力で圧入することができるように、配管系及び試薬タンクを気密構造にする必要があるから装置構成が複雑になってしまう。また、試薬タンクに圧入する加圧気体は清浄でなければならないから、気体を清浄化する設備が必要になる。その結果、加圧気体を試薬タンク内に圧入する方式を採用するシリカ濃度自動測定装置は、小型にするのが、困難である。
【0009】
シリカ濃度自動測定装置に、試薬を反応セルに供給するために回転ポンプを採用することが想定される。しかし、回転ポンプは、回転部例えば回転軸の軸受け部分で磨耗が生じるので、定期的な部品交換が必要であり、回転ポンプのシール部からの液漏出の懸念がある。
【0010】
小型のシリカ濃度自動測定装置においては、反応セル内に正確に試料液としてのボイラ水及び薬液が供給されることが重要である。特に反応セルの内容積が10mL以下である場合には、試料液及び薬液の供給量の許容変動範囲が±3〜5%程度であることが要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明の課題は、流体流路を流通する薬液又は試料液を所望の容量で正確に反応セルに供給することができ、しかも供給後に不随意に反応セル内に薬液又は試料液の液滴が供給されることがない小型の流体供給装置を提供することにある。この発明の他の課題は、ボイラ水から採取された少量の試料液でボイラ水中に含まれる成分の濃度を測定することのできる小型のボイラ水含有成分濃度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、
「ボイラ水から採取された試料液と薬液とを混合することのできるところの、大きくとも10mLの内容積を有する反応セルに試料液又は薬液を流通させ、かつ、前記反応セル内に開口する開口断面が0.2〜0.8mmである流体流路と、
この流体流路の途中に配設され、圧電素子の駆動により流体流路中に存在する試料液又は薬液を前記反応セルに移送するポンプと、
前記流体流路の途中であって前記ポンプから前記反応セルまでに配設された流路開閉弁と、
を備えることを特徴とする流体供給装置」であり、
請求項2は、
「前記流路開閉弁が電磁弁である前記請求項1に記載の流体供給装置」であり、
請求項3は、
「前記請求項1又は2に記載の流体供給装置であって、前記流体流路が薬液を流通させる薬液流路であり、前記流路開閉弁が薬液流路開閉弁である流体供給装置と、
採取されたボイラ水を、反応セルよりも高い位置に配置されたボイラ水貯留槽、このボイラ水貯留槽内のボイラ水を反応セルに導出するボイラ水供給流路、及びこのボイラ水供給流路の途中に介装されたボイラ水供給流路開閉弁を備えた試料液供給装置と、
前記反応セル中に光を出射する発光素子及び前記発光素子から出射する光を受けて電気信号を出力する受光素子と、
前記受光素子から出力される電気信号に基づいてボイラ水中の特定成分の濃度を出力する出力手段と、
を備えてなることを特徴とするボイラ水含有成分濃度測定装置」であり、
請求項4は、
「前記出力手段は、ボイラ水中の特定成分の濃度を算出する演算手段と、特定成分の濃度を表示する表示手段とを有してなる前記請求項4に記載のボイラ水含有成分濃度測定装置」である。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る流体供給装置は、大きくとも10mLの内容積を有する反応セルに、この反応セル内に開口する流体流路の開口断面積が0.2〜0.8mmである流体流路から、薬液又はボイラ水から採取された試料液を供給する。このような内容積を有する反応セルに、前記開口断面積を有する流体流路から、流体例えば試料液又は薬液を供給する場合、この発明においては、圧電素子の駆動により動作するポンプ及び流路開閉弁により、反応セルへの流体の供給及びその供給停止を行う。流路開閉弁を使用せずに圧電素子の駆動を停止することにより、大きくとも10mLの内容積を有する反応セル内に、前記開口断面積を有する流体流路からの流体の供給を停止すると、流体流路の開口部に流体の液滴が残り、流体供給が停止した後においても、不随意に流体流路の開口部から反応セル内に、流体の液滴落下が発生する。しかし、この発明によると、流路開閉弁による流体流路の閉鎖動作により流体流路の開口部から流体の反応セルへの流体供給が停止されるので、流体流路の開口部における流体の切れが良くなり、流体の液滴が残ることがない。したがって、反応セルへの流体供給が停止した後に、流体流路の開口部に存在する流体が不随意に反応セル中に供給されることがない。このようにこの発明に係る流体供給装置における、反応セルへの流体供給を停止した後において不随意に反応セル内へ流体の液滴が供給されることがないという利点は、圧電素子の駆動により動作するポンプのみを用いて、反応セルへの流体の供給及びその供給停止を行う場合には達成されない顕著な利点である。この発明によると、10mL以下の内容積を有する反応セルに前記開口断面を有する流体流路により流体を供給する場合に、圧電素子で駆動される小型のポンプと流路開閉弁との組み合わせにより、流体流路の開口部から不随意に流体の滴下することのない流体供給装置が、提供される。
【0014】
この発明に係る流体供給装置においては、圧電素子を用いるポンプは、圧電素子の駆動により往復動可能に形成されたダイヤフラムと、前記ダイヤフラムの往復動により、上流側の前記流体流路中に存在する試料液又は薬液を吸引し、下流側の前記流体流路中に試料液又は薬液を吐出するポンプ室とを備えてなり、また流路開閉弁として電磁弁が採用されると、流体流路の開口部における流体の切れが特に良好であり、反応セルへの流体の供給が停止した後において流体開口部から反応セル内に流体の液滴が不随意に落下することがない。したがって、内容積10mL以下の反応セル内における10mL以下特に5mL以下の試料液と薬液との混合による呈色反応が化学量論的に正確に行われることができる。10mLをはるかに超える内容積の反応セル内での大容積での呈色反応においては、流体流路の開口部から不随意に液滴が落下しても呈色反応に大きな影響は無視可能な程度であるが、容積10mL以下で行われる呈色反応においては不随意に生じる液滴の落下が呈色反応に大きな影響を与えることを考慮すると、流体供給停止後において流体流路の開口部から反応セル内に不随意の液滴落下がないことは、正確な濃度測定を行う場合に大きな利点と評価される。
【0015】
この発明に係るボイラ水含有成分濃度測定装置にあっては、この反応セル内への流体、例えば試料液又は薬液の供給が圧電素子利用のポンプ及び流路開閉弁の組み合わせにより実行されるので、内容積が10mL以下の反応セル内への流体、例えば試料液又は薬液の供給停止後における不随意な液滴の流体流路の開口部からの落下がなく、したがって、小容量でのボイラ水中の有効成分濃度測定を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、この発明に係る流体供給装置の一例である薬液供給装置を示す概略図である。図2は、この発明におけるポンプの一例である圧電素子利用のポンプを示す概略図である。図3は、この発明に係るボイラ水含有成分濃度測定装置の一例であるイオン状シリカ濃度測定装置を示す概略図である。
【0017】
この薬液供給装置1は、図1及び図3に示されるように、薬液を貯留する薬液タンク2と反応セル14とに接続されて、薬液タンク2から反応セル14へと薬液を移送することのできる流体流路の一例である薬液移送流路3と、この薬液移送流路3の途中に介装され、圧電素子を利用したこの発明におけるポンプの一例であるところの、圧電素子を用いたポンプ4と、この薬液移送流路3の前記ポンプ4の下流側に介装された、流路開閉手段の一例である電磁弁5とを有する。
前記反応セル14は、その内容積が10mL以下であり、特に大きくとも5mL以下である。このような小容量の反応セル14が採用されるのは、小容量の試料液を収容することを目的とするからである。
【0018】
この反応セル14の内部には、薬液タンク2に貯留される薬液を反応セル14内に供給する薬液移送流路3の開口部が、配設される。この薬液移送流路3の開口部の開口断面積は、0.2〜0.8mmである。このような開口断面積を有する開口部から例えば、薬液が、0.4〜1.0mL/secの流量で反応セル14内に供給される。このような微少量の薬液供給量にあっては、反応セル14内への薬液供給が終了した後において、反応セル14内で薬液と試料液との化学量論的反応が正確に進行するためには、薬液移送流路3の開口部から不随意に薬液が滴下することが絶対的に禁止される。なお、図3に示されるように、この反応セル14に試料液を供給するための試料移送流路15が反応セル14に結合され、その試料移送流路15の末端開口部が反応セル14内の上方に開口する。
【0019】
この発明におけるポンプ4は、圧電素子が駆動することにより薬液移送流路中の薬液を吸引及び吐出して薬液移送流路中の薬液を反応セル14へと移送することができるように形成される。
このポンプ4は、図2に示されるように、薬液移送流路3に接続された入口流路6、入口弁7、ポンプ室8、出口弁9、薬液移送流路3に接続された出口流路10、ポンプ室8内の圧力を変化させるための、可撓性を有するダイヤフラム薄膜を有するダイヤフラム部11、ダイヤフラム部11の駆動手段であるディスク状の圧電素子12、圧電素子12に電圧を印加する電源(図示しない。)などで構成されている。
圧電素子12は、電圧が印加されることによって、振動や伸縮動を生ずる圧電性物質でできている。
【0020】
この発明の一実施例である圧電素子を用いたポンプ4の動作について概略を説明する。
図2に示されるように、交流電圧が圧電素子12に印加されると、圧電素子12は、周縁部方向に伸縮し、ダイヤフラム部11におけるダイヤフラム薄膜も伸縮動する。このとき、ダイヤフラム部11におけるダイヤフラム薄膜は、ダイヤフラム部11の面に垂直な方向に撓んで、ダイヤフラム部11におけるダイヤフラム薄膜がポンプ室8の外側に凸状に撓む動作とダイヤフラム部11におけるダイヤフラム薄膜がポンプ室8の内側に凹状に撓む動作とを繰り返す。つまり、ダイヤフラム部におけるダイヤフラム薄膜が凸状湾曲と凹状湾曲との往復動を繰り返す。このようなダイヤフラム部11におけるダイヤフラム薄膜の往復動により、ポンプ室8の内容積が変化する。ポンプ室8の内容積が増大してポンプ室8内が負圧になると、出口弁9が閉じ、入口弁7が開くことで、入口流路6よりポンプ室8へ薬液が吸引される。ポンプ室8の内容積が縮小してポンプ室8内が正圧になると、入口弁7が閉じ、出口弁9が開くことで、ポンプ室8内の薬液が出口流路10より吐出される。このような動作を行うことによって、微量の液体を移送することが可能となる。
【0021】
この発明の一実施例である薬液供給装置1では、圧電素子12を駆動手段として使用しているので、構造が簡単になりその結果、長寿命で小型のポンプとすることができる。また、消費電力が少なく、閉塞運転ができるという利点がある。小型のポンプを使用すれば、薬液供給装置も小型にすることができ、さらに極微量の薬液を供給することができるので、薬液を注入する反応セルも小型化することができるので、この薬液供給装置1を組み込むボイラ水含有成分濃度供給装置全体を小型化することができる。
【0022】
図1では、流路開閉手段の一実施例として電磁弁5を使用している。電磁弁は、電磁弁への通電におけるON/OFFに対する応答速度が速いので、薬液移送流路の開閉を迅速に行うことができる。したがって、流路開閉手段としては電磁弁が好ましい。電磁弁として、ダイヤフラム式電磁弁、ピストン式電磁弁などを挙げることができる。もっとも、この発明においては、流路開閉手段は、薬液移送流路3を開閉することにより薬液移送流路3中の薬液を流通させ、又は流通を停止させることができる限り、電磁弁以外の様々の手段を採用することができる。電磁弁以外の流路開閉手段としては、ピンチバルブなどを挙げることができる。ピンチバルブは、薬液移送流路を押圧することにより流路を閉鎖状態にして、薬液移送流路中の薬液の流通を停止することができるように形成され、流路を開放状態にすることにより薬液移送流路中に薬液を流通させることができるように、形成される。
【0023】
薬液としては、例えば、分析装置又は検査装置などで使用される試薬を溶解した溶液を挙げることができる。
【0024】
薬液移送流路3は、通常使用される液体移送用の流路であれば良く、特に限定されない。薬液移送流路中を移送される薬液の種類、例えば薬液の粘性、腐食性、及び吐出量などを考慮して、薬液移送流路の材質、流路断面積、流路長などを適宜選択することができる。
薬液移送流路3の薬液が吐出される端部には、必要に応じて注入ノズルを取り付けることができる。この注入ノズルは、反応セルに取り付け易くするため及び/又は薬液の液滴の切れを良くするために使用するものであり、注入ノズルの材質及び形状などは適宜選択することができる。吐出ノズルを設ける場合にあっても、その吐出ノズルは薬液移送流路3の一部を形成しているので、その吐出ノズルの開口部は、開口断面積がこの発明で規定する0.2〜0.8mmであることを要する。
【0025】
薬液タンク2は、薬液を貯留するために通常使用されるタンクであれば良く、特に限定されない。薬液の腐食性、使用量などを考慮して、薬液タンクの材質及び容量などを適宜選択することができる。
【0026】
図1に示される薬液供給装置1の作用を以下に説明する。
図1に示されるように、薬液移送流路3は、薬液タンク2から下流側に沿って、圧電素子を用いたポンプ4と電磁弁5とをこの順に介装し、図2に示されるように薬液移送流路3に接続された薬液タンク2から圧電素子12を用いたポンプ4により薬液を移送し、図3に示されるように、薬液移送流路3の末端開口部からこの薬液を反応セル14に吐出させる。薬液の注入を停止する場合には、電磁弁5により薬液移送流路3を閉鎖状態にして、薬液の流通を停止する。
【0027】
圧電素子12を用いたポンプ4は電磁弁5が閉鎖状態のときでも、常に作動しておくことができる。したがって、電磁弁5の開閉操作だけで反応セル14への薬液の注入の時間及び流量の調整を行うことができるので、操作が簡単である。
【0028】
また、圧電素子12を用いたポンプ4を常時作動状態にしている場合には、常に薬液移送流路3中は薬液で満たされており、一定流量で薬液を流通できるように待機状態となっている。さらに、電磁弁5は流路の開閉を迅速に行うことができる。したがって、電磁弁5を開放状態にすれば直ちに一定の流量で薬液を流通させることができ、閉鎖状態にすれば迅速に薬液の流通を停止することができるので、所定時間電磁弁5を開放状態にすることにより、所定量の薬液を正確に吐出することができる。ポンプ4を駆動している状態で電磁弁5を閉鎖してもポンプ4は圧電素子12で駆動されているので、駆動され続けているポンプ4の駆動による衝撃が薬液移送流路3の末端開口部に伝達されることがなく、したがって、反応セル14内に開口する薬液移送流路3の末端開口部から液滴が不随意に反応セル14内に落下することがない。したがって、反応セル14内には、正確な量の試料液と正確な量の薬液とが供給されることになり化学量論的化学反応が進行して正確に試料液中含有成分の濃度が測定されることができる。
【0029】
さらに、圧電素子12を用いたポンプ4と電磁弁5とを組み合わせることにより、薬液が薬液移送流路3を流通するのを停止した後の薬液移送流路3の末端における薬液の切れが良くなるので、薬液移送流路3の末端に液滴が残り、不随意にこの液滴が反応セル内に落下するという問題がない。
【0030】
さらに、圧電素子を用いたポンプ4は、エアを薬液タンクに供給することにより薬液を移送する手段と異なり、加圧に耐える特別なタンクを準備する必要がない。また、遠心ポンプのようにポンプのエア抜きをする必要がない。さらに、プランジャー式ポンプと異なり、モータなどの駆動源、制御回路、及び液漏れ防止策などを必要としないので、ポンプを小型にすることができるので、薬液供給装置全体として小型化することができる。さらに、回転ポンプと異なりモータや軸受などの回転部が無いので、定期的な部品交換などのメンテナンスを必要としないという利点がある。
【0031】
この発明に係る薬液供給装置は、モリブデン黄吸光光度法及びモリブデン青吸光光度法(JIS B 8224)により水中の、例えばボイラ水中のイオン状シリカ濃度を測定する際に使用することができる。
以上において、この発明に係る薬液供給装置の一例について説明したが、この発明に係る薬液供給装置は、前記説明による薬液供給装置に限定されるものではない。前記説明おける薬液供給装置は、流体流路が薬液移送流路であったが、流体流路はボイラ水から採取された試料液を流通させる流路すなわち試料移送流路であってもよい。
【0032】
図3は、前記薬液供給装置1を備えた、この発明に係るボイラ水含有成分濃度測定装置の一例を示す概略図である。
この発明の一実施例である薬液供給装置1の薬液移送流路3a、3b、3cの端部が反応セル14に接続されており、薬液タンク(図示しない。)内にある薬液が薬液移送流路3a、3b、3cを流通して反応セル14に注入される。この例において、三本の薬液移送流路3a、3b、3cが設けられているのは、三種の薬液を反応セル14に供給する必要があるからである。
反応セル14には試料移送流路15が接続されており、この試料移送流路15の端部には試料タンク(図示しない。)が接続されている。試料タンク内にある試料水が試料移送流路15を流通して反応セル14に注入される。なお、試料タンクは、例えばボイラ配管(図示せず。)から採取されたボイラ水を貯留し、かつ前記反応セル14よりも高い位置に設置される。試料移送流路15の途中には、図示しない流路開閉弁が介装されている。したがって、試料移送流路15の途中に介装された流路開閉弁を開放状態にすると、試料タンク中に貯留された試料液がヘッド圧により反応セル14に移送されることができる。なお、試料液がボイラ水である場合には、試料タンクはボイラ水貯留槽、試料移送流路15はボイラ水供給流路、前記流路開閉弁はボイラ水供給流路開閉弁とも称される。
反応セル14の底部には廃液管16が接続されており、試料水と薬液とが混合された後に、混合液はこの廃液管16から排出される。
【0033】
反応セル14には、反応セル14内の液体中を通過可能に光を出射する光源17例えば発光素子と、前記液体中を通過した光を受光する受光素子18とがこの反応セル14内に、又はこの反応セル14を挟むように設置されており、前記受光素子18から出力される電気信号(検出信号とも称される。)に基づいて試料水中のイオン状シリカの濃度を算出する演算部19及びこの演算部19により算出されたイオン状シリカの濃度を表示する表示手段(図示せず)例えば液晶画面、CRT、プリンター等が備えられている。この発明においては前記演算部19と表示手段とでこの発明における出力手段が形成される。
【0034】
この発明に係る反応セル14は、円柱状、直方体状、球状、円錐状などの、試料水と薬液とを完全に混合することのできる形状を有しているのであれば、特に限定されない。スターラー等の撹拌子を用いて混合する場合には、底面が平面となっている形状が好ましい。なおこの例においては、撹拌子は反応セル外に存在する駆動源の磁力によって回転するスターラーが採用されているが、この発明においてはこのスターラーに限定されることはなく、駆動源による機械的力により回転する回転軸に撹拌羽根を設けて成る撹拌子であってもよい。
【0035】
反応セル14の材質は、特に限定されないが、反応セル14を挟むように分光光度計を設けて、反応セル14内にある液体の吸光度又は透過率の測定を行うのであれば、イオン状シリカと薬液とが反応した結果として得られる反応生成液が呈する色を吸収しない材料、例えば黄色の波長帯域である400nm付近から青色の波長帯域である800nm付近の光を吸収しない材料であることが好ましく、例えば、石英ガラス、プラスチックなどが挙げられる。
【0036】
この発明における反応セル14の内容積はこの発明における重要な要素である。というのは、ボイラ水含有成分濃度測定装置の小型化する要請に応える必要があるからである。この発明における反応セル14の内容積は大きくても10mLであり、特には大きくても5mLである。ボイラ水配管内から採取されたボイラ水から5mL以下の容量で採取された試料液を用いてイオン状シリカ濃度を測定することが、近年におけるイオン状シリカ濃度測定についての要望事項であるから、このように小規模の内容積を有する反応セルは、前記要望事項に好適に応えることができる。
イオン状シリカの濃度を正確に測定するには試料水中のイオン状シリカと薬液とを完全に反応させることが必要である。反応セル14の容積が前記10mLよりも大きいときには、薬液の反応セル14への注入量が変動すること及び薬液の注入を停止して所定時間経過後に薬液移送流路の端部に残っていた液滴が落下することは、測定誤差の範囲内となり問題とならないが、ボイラ水含有成分濃度測定装置13の小型化が望まれ、反応セル14を小型化した場合、反応セル14を小型化するほど薬液の注入量の変動及び薬液の注入を停止した後に薬液移送流路3a、3b、3cの反応セル14内における開口部に残留する液滴が不随意に落下することは、反応セル14の内容積に比べて無視できないほどの比率で大きくなる。その場合に、この発明に係る薬液供給装置を使用すると、所定量の薬液を正確に注入することができ、薬液の注入を停止した後においても薬液移送流路3a、3b、3cの開口端部に残っていた液滴が不随意に落下することがないので、試料水中のイオン状シリカと薬液とを正確に化学量論的に反応させることができる。したがって、試料水に含有されるイオン状シリカと薬液とを完全に反応させることができるので、小型であり、しかも正確にイオン状シリカの濃度を測定することのできるボイラ水含有成分濃度測定装置13が提供される。
【0037】
ここで、試料水中に含まれるイオン状シリカは、JIS B 8224に記載されているように「イオン状シリカは七モリブデン酸六アンモニウムと反応して生成するヘテロポリ化合物の黄色を生成するシリカ」等を挙げることができる。
ボイラ水中に含まれるイオン状シリカの濃度を測定する場合の薬液としては、モリブデン酸アンモニウム溶液とシュウ酸とアスコルビン酸溶液とが用いられる。モリブデン酸アンモニウム溶液は、JIS K 8905に、シュウ酸は、JIS K 8519に、アスコルビン酸溶液は、JIS K 9502に規定されている。
【0038】
この発明に係るボイラ水含有成分濃度測定装置13は、モリブデン黄吸光光度法及びモリブデン青吸光光度法(JIS B 8224)により水中の、例えばボイラ水中のイオン状シリカ濃度を測定する際に使用することができる。前記ボイラ水含有成分濃度測定装置13を使用して試料水中のイオン状シリカと薬液とを完全に反応させた液体の光の吸光度又は透過率を分光光度計により測定することで、水中のイオン状シリカ濃度を測定することができる。この分光光度計は、図3に示されるように、光源17例えば発光素子と受光素子18例えば受光素子と受光素子18から出力される検知信号に基づいてイオン状シリカ濃度を演算部19にて測定することができる。光源17から出た光は、イオン状シリカと薬液とを完全に反応させた液体を通過して、受光素子18に到達する。イオン状シリカの濃度測定にはモリブデン黄吸光光度法、及び、モリブデン青吸光光度法のいずれかを採用することができる。モリブデン黄吸光光度法は、イオン状シリカが七モリブデン酸六アンモニウムと反応して生成するヘテロポリ化合物の黄色の吸光度を測定してシリカを定量する。受光素子によりモリブデン黄吸光光度法では波長400nm付近の吸光度又は透過率を測定することにより、シリカ濃度が演算部により算出される。モリブデン青吸光光度法では波長800nm付近の吸光度又は透過率を測定することにより、シリカ濃度が演算部19により算出される。モリブデン青吸光光度法は、イオン状シリカが七モリブデン酸六アンモニウムと反応して生成するヘテロポリ酸をシュウ酸及びアスコルビン酸で還元してモリブデン青に変え、このモリブデン青の吸光度を測定する。
【0039】
この発光素子及び受光素子は、図3に示されるように、反応セル14を挟むように設けても良いし、廃液管16を挟むように設けても良いし、廃液管16より下流側に測定セルを設けて測定セルを挟むように設けても良い。
【0040】
次に、イオン状シリカの濃度の分析方法について説明する。
【0041】
まず、25〜45℃に温められた試料水を一定時間試料水流路15から反応セル14に注入する。試料水を加温することにより、試料水中の物質と薬液との反応を促進させることができるので、全測定時間を短縮することができ、迅速な分析が実現するからである。このとき、スターラーを回転させつつ電磁弁(図示しない。)を間欠的に開閉し、反応セル、廃液管の洗浄を行う。
【0042】
次に、試料水の注入及びスターラーの回転を停止し、電磁弁を閉状態として、反応セル内に適量の試料水が保持されるようにする。その後、薬液移送流路3aから薬液Xと硫酸の混合液を適量注入し、スターラーを回転させて混合する。この薬液Xとしては、モリブデン酸アンモニウム溶液を挙げることができ、試料水中のイオン状シリカ及びリン酸イオンとモリブデン酸アンモニウムとを反応させて、試料水を黄色に呈色させる。このとき、イオン状シリカとモリブデン酸アンモニウムとが反応し、この反応と平行してリン酸イオンとモリブデン酸アンモニウムとが反応してそれぞれ黄色を呈する二種類の化合物が試料水中に生成している。したがって、黄色を呈する試料液の吸光度からはイオン状シリカの濃度を算出することができない。
【0043】
そこで、一時的にスターラーの回転を停止して、薬液移送流路3bから所定量の薬液Yを反応セル内に注入して、再度スターラーを回転させて混合する。この薬液Yとしては、シュウ酸溶液を挙げることができる。シュウ酸溶液の添加により、黄色を呈していたリン酸イオンとモリブデン酸アンモニウムとの反応生成物とシュウ酸とが反応することによりリン酸イオンとモリブデン酸アンモニウムとの反応生成物による黄色が消失する。そこで、発光素子及び受光素子により黄色に呈色した反応生成液の吸光度又は透過率を測定すると、試料水中のイオン状シリカの濃度が測定可能となる。
この発明においては、10mL以下の内容積を有する反応セルを採用するので、2〜20mg/Lの高濃度範囲のイオン状シリカ濃度を、測定することができる。ここまでの測定法はモリブデン黄吸光光度法に準拠する。つまり、ボイラ水中に高濃度でイオン状シリカが含有されるときには、モリブデン黄吸光光度法が適している。
【0044】
さらに、低濃度のイオン状シリカ濃度を測定する場合には、次に、薬液移送流路3cから所定量の薬液Zを注入し、試料水と薬液とを十分に混合する。この薬液Zとしては、アスコルビン酸溶液を挙げることができる。モリブデン酸アンモニウムをボイラ水である試料液に添加することにより生成したところの、黄色を呈する反応生成液にアスコルビン酸溶液が添加されると、イオン状シリカとモリブデン酸アンモニウムとの反応生成物とアルコルビン酸とが反応することにより、黄色を呈していた反応生成液が青色を呈するようになる。スターラーの回転を停止し、一定時間放置した後に分光光度計により青色に呈色した反応生成液の光の吸光度又は透過率を測定する。これにより1〜2000μg/Lの濃度範囲のイオン状シリカ濃度を測定することができる。ここまでの測定法はモリブデン青吸光光度法に準拠する。つまり、ボイラ水中に低濃度でイオン状シリカが含有されるときには、モリブデン青吸光光度法が適している。
測定が終了した後、反応セル中の液体を排出する。
【0045】
なお、前記イオン状シリカの濃度の分析方法において、混合時間、放置時間、及び薬液注入のタイミングなどは適宜に決定することができる。
【0046】
試料液であるボイラ水中に含まれるリン酸イオンと薬液Xとが反応して生成した反応生成液中の黄色呈色化合物が薬液Yと完全に反応せずに反応生成液中に残存する場合に、この黄色呈色化合物と薬液Zとが反応すると、青色を呈する別の化合物が生成する。そうすると、このように青色を呈する化合物を含有する反応生成液における青色の吸光度を測定すると、得られる測定値がシリカ濃度であると誤って出力されてしまうことになる。したがって、薬液X、Y、Zが所定時間に所定の容量で正確に反応セルに注入され、その結果、薬液X、Y、Zと試料水中の特定物質との反応が完全に行われることが、測定誤差を小さくすることになる。
【0047】
この発明の一実施例であるボイラ水含有成分濃度測定装置13は、薬液を貯留する薬液タンクに接続された薬液移送流路に、上流側から順に、圧電素子を用いたダイヤフラムポンプと、電磁弁とを介装してなる薬液供給装置1を使用しているので、この薬液供給装置1が接続された反応セル14に、薬液移送流路3a、3b、3cを流通する薬液X,Y,Zを、所望の時間に及び所望の容量を正確に注入することができ、しかも注入後において不随意に薬液の液滴が反応セル内に落下することがない。つまり、薬液を反応セル14に注入することを停止した後の薬液移送流路3a、3b、3cの末端における薬液の切れが良くなるので、薬液移送流路の末端に液滴が残り、所定時間経過した後にこの液滴が落下することがない。したがって、薬液が順次注入される毎に試料水中のイオン状シリカ、リン酸イオン及び生成した化合物と薬液とを完全に反応させることができるので、精度良く試料水中のイオン状シリカ濃度を側定することができる。また、薬液供給装置1が小型であること及び薬液供給装置1により所望の容量の薬液を正確に反応セルに注入することができるので、反応セルを小型にすることができることから、これらを備えるボイラ水含有成分濃度測定装置13を小型化することができる。また、薬液供給装置1がメンテナンスの必要がほとんどないので、これを備えたボイラ水含有成分濃度測定装置13もメンテナンスの必要がほとんどない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、この発明に係る薬液供給装置の実施例を示す概略図である。
【図2】図2は、この発明に係る薬液移送手段の一実施例を示す圧電素子を用いたダイヤフラムポンプの概略図である。
【図3】図3は、この発明に係るボイラ水含有成分濃度測定装置の実施例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0049】
1 薬液供給装置
2 薬液タンク
3、3a、3b、3c 薬液移送流路
4 圧電素子を用いたダイヤフラムポンプ
5 電磁弁
6 入口流路
7 入口弁
8 ポンプ室
9 出口弁
10 出口流路
11 ダイヤフラム部
12 圧電素子
13 ボイラ水含有成分濃度測定装置
14 反応セル
15 試料移送流路
16 廃液管
17 光源
18 受光素子
19 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ水から採取された試料液と薬液とを混合することのできるところの、大きくとも10mLの内容積を有する反応セルに試料液又は薬液を流通させ、かつ、前記反応セル内に開口する開口断面が0.2〜0.8mmである流体流路と、
この流体流路の途中に配設され、圧電素子の駆動により流体流路中に存在する試料液又は薬液を前記反応セルに移送するポンプと、
前記流体流路の途中であって前記ポンプから前記反応セルまでに配設された流路開閉弁と、
を備えることを特徴とする流体供給装置。
【請求項2】
前記流路開閉弁が電磁弁である前記請求項1に記載の流体供給装置。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の流体供給装置であって、前記流体流路が薬液を流通させる薬液流路であり、前記流路開閉弁が薬液流路開閉弁である流体供給装置と、
採取されたボイラ水を、反応セルよりも高い位置に配置されたボイラ水貯留槽、このボイラ水貯留槽内のボイラ水を反応セルに導出するボイラ水供給流路、及びこのボイラ水供給流路の途中に介装されたボイラ水供給流路開閉弁を備えた試料液供給装置と、
前記反応セル中に光を出射する発光素子及び前記発光素子から出射する光を受けて電気信号を出力する受光素子と、
前記受光素子から出力される電気信号に基づいてボイラ水中の特定成分の濃度を出力する出力手段と、
を備えてなることを特徴とするボイラ水含有成分濃度測定装置。
【請求項4】
前記出力手段は、ボイラ水中の特定成分の濃度を算出する演算手段と、特定成分の濃度を表示する表示手段とを有してなる前記請求項3に記載のボイラ水含有成分濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−31110(P2009−31110A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195107(P2007−195107)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】