説明

流体健全性評価装置及びディーゼルエンジン燃料健全性制御システム

【課題】流体の健全性の評価に寄与する流体健全性評価装置及びディーゼルエンジン燃料健全性制御システムを提供する。
【解決手段】被計測流体である例えば燃料Fを収納する容器12と、該容器12中の被計測流体中に、所定間隔のギャップDを有し、入射部13と受光部14とが相対向して設けられ、光源21からの光の波長を可変させて受光部14における光透過率を計測し、400〜1100nmの範囲の少なくとも2箇所以上の波長又は2箇所以上の波長領域の光又は蛍光を受光センサ22で計測し、その強度比から残炭素量(MCR)を求める残炭素量計測部15と、前記容器12内に設けられ、前記被計測流体中の密度を計測する超音波速度計16と、前記残炭素量計測部15と、前記超音波速度計16との間に設けられた障壁17とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料等の被計測流体中の密度及び残炭素量(MCR)を評価して流体の健全性の評価に寄与する流体健全性評価装置及びディーゼルエンジン燃料健全性制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンにて着火性・燃焼性が悪い燃料(いわゆる粗悪燃料)を受け入れてしまうことにより、燃焼室熱負荷増大による信頼性低下の問題が発生している。
【0003】
ところで、ディーゼルエンジン、特に重質油を燃料として用いるディーゼルエンジンでは、燃料性状に起因する信頼性低下が問題となるが、燃料性状には多くのパラメータが存在するほか、燃料性状をオンラインでモニターする技術がなく、異常診断が困難であった。
【0004】
従来では、ディーゼルエンジンの異常診断として、燃焼圧力を指標とする方法が存在するが、直接的に燃料性状を把握できないため、異常診断として、的確な把握をすることが困難であった。
【0005】
また、重質油などの燃料性状では、MCR(残炭素量)が重要なパラメータとなるが、従来の計測方法は、サンプルを採取して、計測するので、その計測結果が判明するまでには、時間がかかるほか、自動化が困難であり、燃料性状をオンラインでモニターすることができない、という問題がある。
【0006】
従来のMCRの計測は、JISK2270に規定されている(非特許文献1)。
ここで、前記MCR(残炭素量)とは、試料を空気流通の少ない状態で蒸発および熱分解させたときに生成されるコークス状炭化残留物を残留炭素といい、重量%で表している。この試験法には、JIS K2270で規定する「コンラドソン法」と「ミクロ法」とがある。
【0007】
前記コンラドソン法は、規定のコンラドソン残留炭素分試験器を用い、試料3〜10gをるつぼにはかり採り、規定の条件で予熱、発生した油蒸気の加熱、残留物の強熱、放冷後の秤量を行い、残留炭素分を求めるものである。
これに対し、「ミクロ法」は、規定のミクロ残留炭素分試験器を用いて、試料0.15〜5gを試験容器にはかり採り、コーキング炉に入れてから炉内部を窒素雰囲気に置換した後、規定の条件で予熱、加熱、放冷後の秤量を行い、残留炭素分を求めるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】JIS K2270
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、JISに規定する試験方法は、バッチ処理であると共に、自動化によるオンライン分析はできないのが現状である。
【0010】
近年、比重のみを調整した粗悪燃料等は、受け入れ試験で比重試験に合格していれば、燃料の組成は不明のまま、大型船舶の燃料として受け入れてしまい、航行途中で、エンジンの着火性・燃料性に問題が発生する場合がある。
【0011】
そこで、特に船舶用のディーゼルエンジンにて着火性・燃焼性が悪い燃料(いわゆる粗悪燃料)を受け入れてしまった場合においても、航行途中において、迅速に対応でき、燃焼室熱負荷増大による信頼性低下を未然に防ぎ、エンジンの信頼性を向上するための燃料である流体の健全性の評価に寄与する流体健全性評価装置の出現が求められている。
【0012】
本発明は、前記問題に鑑み、流体の健全性の評価に寄与する流体健全性評価装置及びディーゼルエンジン燃料健全性制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、被計測流体を収納する容器と、該容器中の被計測流体中に、入射部と受光部とが相対向して設けられ、前記受光部における光透過率を計測し、400〜1100nmの範囲の少なくとも2箇所以上の波長又は2箇所以上の波長領域の光又は蛍光を受光センサで計測し、その強度比から残炭素量(MCR)を求める残炭素量計測部と、前記容器内に設けられ、前記被計測流体中の密度を計測する超音波速度計と、前記残炭素量計測部と、前記超音波速度計との間に設けられた障壁とを具備することを特徴とする流体健全性評価装置にある。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、前記被計測流体の導入ライン及び排出ラインと、前記容器とを保温する保温手段を有することを特徴とする流体健全性評価装置にある。
【0015】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記被計測流体が容器底部から導入され、容器上部側から排出されることを特徴とする流体健全性評価装置にある。
【0016】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、前記容器内に、被計測流体の導電率を計測する導電率センサ、又は被計測流体の誘電率を計測する誘電率センサを有することを特徴とする流体健全性評価装置にある。
【0017】
第5の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、所定間隔を有して入射部と相対向して設けられた受光部の径が、入射部の径よりも大きいことを特徴とする流体健全性評価装置にある。
【0018】
第6の発明は、第1乃至5のいずれか一つの発明において、前記相対向して設けられた入射部と受光部とを保持する保持部を有する容器に歪み計測手段を有することを特徴とする流体健全性評価装置にある。
【0019】
第7の発明は、第1乃至6のいずれか一つの発明において、前記受光センサが分光器又は複数のフォトダイオードの何れかであることを特徴とする流体健全性評価装置にある。
【0020】
第8の発明は、第1乃至7のいずれか一つの発明において、前記光源からの光を一部分岐し、その光量を計測する光源光量計測器を有することを特徴とする流体健全性評価装置にある。
【0021】
第9の発明は、被計測流体である例えば燃料を収納する容器と、該容器中の被計測流体中に、入射部と受光部とが相対向して設けられ、前記受光部における光透過率を計測し、400〜1100nmの範囲の少なくとも2箇所以上の波長又は2箇所以上の波長領域の光又は蛍光を受光センサで計測し、その強度比から残炭素量(MCR)を求める残炭素量計測部と、前記容器内に設けられ、前記被計測流体中の密度を計測する超音波速度計と、前記残炭素量計測部と、前記超音波速度計との間に設けられた障壁とを具備する流体健全性評価装置と、燃料F中の密度及び残炭素量(MCR)の値を求めた結果、予め求めた密度とMCRとの特性マップの健全性の範囲外の場合に、ディーゼルエンジン運転モードを変更させる制御装置とを具備することを特徴とするディーゼルエンジン燃料健全性制御システムにある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、密度を計測する超音波の計測の際に、超音波により対象の燃料油中に発生する疎密の影響を障壁により解消し、光学計測結果への影響が及ばないものとなり、安定した計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例1に係る流体健全性評価装置の概略図である。
【図2−1】図2−1は本実施例にかかる入射部と受光部の概略図である。
【図2−2】図2−2は本実施例にかかる入射部と受光部の概略図である。
【図2−3】図2−3は比較例にかかる入射部と受光部の概略図である。
【図3】図3は、流体健全性評価装置の容器の一部概略図である。
【図4】図4は、各MCRの濃度相違(A:MCR<0.01wt%、B:MCR=0.04wt%、C:MCR=0.3wt%、D:MCR=0.87wt%)における波長400〜1000nmにおける透過率比の計測結果図である。
【図5】図5は、ベンゼン(1環炭化水素)からペンタセン(5環炭化水素)までの波長帯と吸光度の計測結果図である。
【図6】図6は、予め求めた光透過率強度比とMCRとの関係図である。
【図7】図7は、光透過率強度比から求めたMCRと実測のMCRとの関係図である。
【図8】図8は、各MCRの濃度相違(E:MCR<0.01wt%、F:MCR=0.04wt%、G:MCR=0.87wt%)における波長400〜1000nmにおける蛍光の強度比の計測結果図である。
【図9−1】図9−1は、超音波速度計の概略図である。
【図9−2】図9−2は、超音波速度の計測結果図である。
【図10】図10は、実施例1に係る他の流体健全性評価装置の概略図である。
【図11】図11は、ディーゼルエンジン燃料健全性制御システム図である。
【図12】図12は、予め求めた密度とMCRとの特性マップである。
【図13】図13は、燃料健全性の評価の工程図である。
【図14】図14は、実施例2に係る流体健全性評価装置の概略図である。
【図15】図15は、実施例3に係る流体健全性評価装置の概略図である。
【図16】図16は、実施例3に係る他の流体健全性評価装置の概略図である。
【図17】図17は、実施例4に係る流体健全性評価装置の概略図である。
【図18−1】図18−1は、実施例5に係る流体健全性評価装置の概略図である。
【図18−2】図18−2は、誘電率センサの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0025】
本発明による実施例1に係る流体健全性評価装置について、図面を参照して説明する。図1は、流体健全性評価装置の概略図である。図2−1〜図2−3は入射部と受光部の概略図である。図3は、流体健全性評価装置の容器の一部概略図である。
図1に示すように、本実施例に係る流体健全性評価装置10Aは、被計測流体である例えば燃料Fを収納する容器12と、該容器12中の被計測流体中に、所定間隔のギャップDを有し、入射部13と受光部14とが相対向して設けられ、光源21からの光の波長を可変させて受光部14における光透過率を計測し、400〜1100nmの範囲の少なくとも2箇所以上の波長又は2箇所以上の波長領域の光又は蛍光を受光センサ22で計測し、その強度比から残炭素量(MCR)を求める残炭素量計測部15と、前記容器12内に設けられ、前記被計測流体中の密度を計測する超音波速度計16と、前記残炭素量計測部15と、前記超音波速度計16との間に設けられた障壁17とを具備するものである。
【0026】
ここで、図1中、符号Dは入射部13の入射用光ファイバの端面と、受光部14の受光用光ファイバの端面とのギャップである。このギャップDとしては、数mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5〜1mmとするのがよい。これはギャップDの間隔が開きすぎると、受光が不可能となるからである。
【0027】
また、本実施例では、図2−1に示すように、入射部13側の入射用ファイバの径d1を200μmとし、受光部14側の受光用光ファイバの径d2を300μmとしている。
これは、被計測流体の散乱が大きい場合、同サイズの光源側、受光側のファイバでは、図2−3に示すように、受光できない光が多くなり、計測が不安定となるからである。よって、入射部13の入射用ファイバの径d1よりも、照射光を受光する受光部14側の受光用光ファイバの径d2を大きくする(d2>d1)ことで、散乱・吸収の大きな計測対象の場合でも、光の受光量を確保することができ、安定な透過特性計測が可能となる。
【0028】
また、光ファイバの径を異なるようにする代わりに、図2−2に示すように、入射部13と受光部14との間に、集光レンズ18を設けるようにしてもよい。
前記集光レンズ18の集光作用により、散乱・吸収の大きな計測対象の場合でも、光の受光量を確保することができ、安定な透過特性計測が可能となる。
【0029】
また、図3に示すように、入射部13と受光部14とを各々保持する保持部12a、12bに、歪み計測手段19を設け、材料の伸び等を検知するようにしてもよい。
そして、材料の伸び/縮みをモニターして信号処理部23に出力し、計測値の補正等を行うようにしてもよい。
これは、前記入射部13の入射用光ファイバの端面と、受光部14の受光用光ファイバの端面とのギャップDは、極めて小さいので、光学計測系の送光・受光間隔に変動があった場合でも、歪み計測手段19を計測することで、間隔Dと透過特性の関係のデータをもとに補正できるため、安定した計測を可能とするためである。
【0030】
本実施例では、入射する光は波長可変としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばハロゲンランプ等のような広い波長域(400〜1100nm)を有する光を入射し、受光センサ22の分光器で波長分解する方法や、受光センサ22の前のフィルタを配置して、波長域を限定する方法等を用いることができる。
【0031】
ここで、本発明のMCR(micro carbon residue)の計測について説明する。
図4は燃料におけるMCRの濃度相違(A:MCR<0.01wt%、B:MCR=0.04wt%、C:MCR=0.3wt%、D:MCR=0.87wt%、)における波長400〜1000nmにおける分光器での透過率比の計測結果を示す。
図4に示すように、MCRの値が低い燃料ほど、低波長側に吸収ピークが存在する割合が多いものとなる。
【0032】
このように、MCRが変化すると透過率曲線において変化があるのは、芳香族環の大きさに起因することによる。図5は、ベンゼン(1環炭化水素)からペンタセン(5環炭化水素)までまでの波長帯と吸光度の計測結果図である。図5に示すように、徐々にその吸収波長域は長波長域に変化している。よって、燃料の燃焼性が良好な環が少ない物質の割合が多い場合には、低波長側となるので、図5のような挙動を呈することとなる。
【0033】
ここで、MCRの算出の仕方の一例を示す。
残炭素量(MCR:micro carbon residue)は、燃料の光透過率の強度比より求める。この強度比は、少なくとも2箇所以上の所定波長域の透過率の強度を積算し、これらを対比する。
図4においては、強度1としては、波長725〜775nmの間の強度を積算すると共に、強度2としては、波長950〜1100nmの間の強度を積算している。
そして、予め(強度2)/(強度1)とMCRとの関係を求めておき、前記測定した(強度2)/(強度1)の結果から、MCRを求める。
なお、透過率の絶対値には影響を受けるものではない。
【0034】
図6は、予め求めた光透過率強度比とMCRとの関係図である。
このように、予め、(強度2)/(強度1)とMCRとの関係を求めておき、測定した(強度2)/(強度1)からMCRを算出することとなる。
ここで、強度1は725nm〜775nmの範囲とし、強度2は950nm〜1050nmの範囲とし、下記式(1)からMCRを求めることができる。
MCR=α(強度2/強度1−γ)β…(1)
ここで、αは比例係数であり(α=0.14)、βは線形補正係数であり(β=0.7)であり、γは零点補正係数(γ=1.95)である。
【0035】
また、2ヶ所の波長領域以外にも、以下のような計算も可能である。
強度1を550nm〜650nmの範囲とし、強度2を750nm〜850nmn範囲とし、強度3を950nm〜1050nmの範囲とし、下記式(2)からMCRを求めることができる。なお、係数は前記と同様である。
MCR=α1 (強度2/強度1-γ1)β1 + α2(強度3/強度1-γ1)β2…(2)
【0036】
ここで、波長の選定は一例であり、2箇所の場合には、400〜800nmの低波長側の所定範囲の強度比の積算を強度1とし、500〜1100nmの長波長側の所定範囲の強度比の積算を強度2とするようにすればよい。
【0037】
また、3箇所の場合には、400〜700nmの低波長側の所定範囲の強度比の積算を強度1とし、700〜900nmの中波長側の所定範囲の強度比の積算を強度2とし、900〜1100nmの長波長側の所定範囲の強度比の積算を強度3とし、
(強度2/強度1)+(強度3/強度1)とするようにすればよい。
【0038】
また、所定波長の領域とせずに、特定の2箇所以上の波長同士(例えば強度1を725nmの値とし、強度2を950nmの値とする等。)を比較して残炭素量(MCR)を求めるようにしてもよい。
【0039】
図7は光透過率強度比から求めたMCRと実測のMCRとの関係図であるが、良好な相関関係を呈している。
【0040】
また、図8に示すように、光強度の代わりに蛍光強度からもMCRを求めるようにしてもよい(E:MCR<0.01wt%、F:MCR=0.04wt%、G:MCR=0.87wt%)。
【0041】
本発明におけるMCRの計測対象流体としては、重油、軽油、潤滑油、燃料オイル等を例示することができるが、流体の健全性を評価するものであればいずれでもよい。
【0042】
本実施例では、前記容器12は、被計測流体の燃料Fを流通または必要に応じて停止させて、容器12内に燃料Fを充満させることの出来るものであればいずれでもよい。
本実施例では、図1に示すように、この容器12内には、前記MCR計測器15と共に、超音波速度計16とが障壁17に隔てられて配設されている。
【0043】
ここで、図9−1は被計測流体の密度を計測する超音波速度計の構成図である。図9−2は、超音波速度計を用いた計測結果図である。
前記超音波速度計16は、図9−1に示すように、超音波の発振部16aと反射部16bと、反射された超音波を受信する受信部16cから構成されている。
図9−2は、超音波速度計16により求めた、超音波計測結果である。図9−2に示すように、発振ピークと受信ピークとの時間を超音波速度(t)として求め、予め求めている超音波速度と密度との検量線から、密度を求めることができる。
【0044】
この超音波速度計16はその計測の際に発生する超音波により、被計測対象の燃料F中に疎密が生じ、光の屈折率を変化させ光学計測結果に影響を及ぼすおそれがあるが、本実施例では前記障壁17を設けているので、光学計測系の計測位置において超音波の影響が及ばないようにしている。
前記障壁17の材質は超音波に共鳴しないような材質(例えば金属、樹脂等)であればいずれでもよい。
【0045】
この結果、容器12内に超音波計測系と光学計測系とを設置した場合でも、計測対象(燃料油等)の密度、および残炭素量をオンラインでモニターすることが可能となる。この結果、別々の容器にMCR計測器15と共に超音波速度計16とを設けることなく、同一の容器12内にMCR計測器15と共に超音波速度計16とをコンパクトに設置できると共に、光学計測系に超音波の影響が及ばないような障壁17構造とすることにより、超音波系、光学系ともに安定した計測が可能とした簡易な構成の流体健全性評価装置10Aとすることができる。
よって、本実施例1の流体健全性評価装置10Aを用いることで、例えばディーゼルエンジンの運転時に粗悪燃料によるトラブルを未然に防ぐことが可能となる。
【0046】
また、超音波速度計16での超音波の発振後、所定時間経過し、超音波の残響が解消した時点で、MCR計測器15で光学計測を行うようにしてもよい。
【0047】
また、図10に示すように、前記光源21からの光を一部分岐し、その光量を計測する光源光量計測器24を有し、該光源光量計測器24によりその光源21の光量をモニターして、その変動状況を信号処理部23へ出力し、計測値の補正、または光源の光量調整を行うようにしてもよい。
これにより、光源21の出力が変動した場合でも、受光センサ22における受光量に対する影響を抑えられるため、安定した計測が可能となる。
【0048】
また、受光センサ22においては、前述したような分光器以外に、複数のフォトダイオード等とし、各々にフィルタ等を設けて、計測波長帯を分離して、計測対象を透過した各計測波長帯の光の信号量変化(透過率)を計測するようにしてもよい。
前記受光センサ22を複数のフォトダイオードとすることで、分光器を用いる場合よりも装置構成を安価にすることが可能となる。
【0049】
次に、本実施例の流体健全性評価装置10Aを用いて、燃料の健全性を評価するディーゼルエンジン燃料健全性制御システムについて説明する。
図11は、実施例に係るディーゼルエンジン燃料健全性制御システム図である。
図11に示すように、ディーゼルエンジン燃料健全性制御システム20は、図1に示す流体健全性評価装置10Aを、燃料ラインL1から分岐した計測用分岐燃料ラインL2に介装してなり、燃料F中の密度及び残炭素量(MCR)の値を求めた結果、予め求めた密度とMCRとの特性マップの健全性の範囲外の場合に、ディーゼルエンジン運転モードを変更させる制御装置(CPU)25とを具備するものである。
ここで、図11中、符号26は燃料タンク、27はディーゼルエンジン(D/E)、28は浄化手段を各々図示する。
【0050】
図12は、ディーゼル燃料の密度とMCRとの特性マップであり、これは予め求めておく。
そして、前述した流体健全性評価装置10Aを用いて、燃料(例えばディーゼル燃料)F中の密度及び残炭素量(MCR)の値を求めた結果を、図12に示す予め求めた密度とMCRとの特性マップに当てはめて、健全性の範囲内(図12中、白抜き部分)の場合には、燃料が健全であると判断する。
これに対して、健全性の範囲外(図12中、網掛け部分)の場合には、燃料の健全性が低下していると判断する。
なお、健全性の範囲外において、密度990(kg/cm3)以上、MCR22(wt%)以上の場合(図中、斜線部分)には、規格外燃料である。
【0051】
この判断の結果に応じて、ディーゼルエンジン運転モードを制御装置25により変更するようにしている。
前記健全性の範囲として密度(D)=3.8X1×MCR−X2±X3と規定している。
ここでX1は比例係数(X1=3.8)、X2は密度係数(X2=925)、X3は燃料の許容範囲係数(X3=12)である。
なお、X3の燃料の許容範囲係数を増減することで、規制範囲を厳しくしたり緩和したりすることができる。
このように、健全性の範囲として、密度とMCRとを求め、図12に示すようにD=3.8×MCR−925±12から求めるようにしている。
ここで、図12において、領域Aは規定燃料(良好な燃料)の領域を示す。また、領域Bは要注意燃料の領域を示す。さらに、領域Cは規定外燃料を示す。
【0052】
ここで、前記ディーゼルエンジン運転モードの変更としては、エンジンの運転モードを変更する(例えば負荷をかけない運転とする)、注油率(潤滑油注入量)の増加、燃料タンクからの燃料を浄化させる、燃料の混合比率を変更させることの少なくとも一つである。
燃料中の密度及び残炭素量が変化すると、エンジン内の燃焼状態が変化し、例えば火炎がシリンダー内壁に接触あるいは近接することによりシリンダー内部の潤滑油が枯渇してピストンリングとの焼きつきを起こす。よって、燃料中の密度及び残炭素量のリアルタイム計測結果を基に、規定燃料以外の燃料が導入された場合に負荷低減、注油率の増加を行うことで、焼きつきなどを未然に防止することが可能となる。
さらに、複数種の組成の異なる燃料を有する場合においては、その燃料同士の配合割合を変更等するようにしてもよい。
【0053】
本発明に係る燃料健全性の評価の工程について図13を用いて説明する。
図13に示すように、第1の工程では、燃料中の残炭素量(MCR)及び密度をリアルタイムで計測する(S1)。
第2の工程では、燃料中の残炭素量(MCR)及び密度の値を求め、その結果、健全性の範囲(D=3.8×MCR−925±12)の基準値内か否かを判定する(S2)。
【0054】
基準値内(図12中、領域A)である場合には、燃料は良好であるとして、現状の通常運転を継続する(S3)。
これに対し、基準値外(図12中、領域B及びC)である場合には、燃料の健全性が良好ではないと判断し、警告を発する(S4)。この警告に引き続き、運転モードの変更を行う(S5)。
【0055】
ディーゼルエンジン運転モードを変更させる一例としては、図11に示すように、図示しない燃料切替手段により燃料FをバイパスラインL3へ変更する。
そして、バイパスラインL3に介装された浄化手段(例えば燃料ピュアリファイア又はフィルタ等)28を通過させ、燃料Fを浄化させるようにしている。
ここで、燃料ピュアリファイアとしては、精密多孔板エレメントを高速回転させて、低質粗悪重油中の軟質スラッジの粉砕、分散、ホモジナイズ等を行うと共に、精密濾過洗浄を行う手段であり、比重差のある硬質不純物やカーボンは濾過されずに、ドレンとして排出するものである。このピュアリファイアを通過させた後、さらに濾過をフィルタで行うことにより、燃料を浄化させて、燃料組成を変更するようにしている。
【0056】
このように、本発明によれば、燃料供給配管中の所定の箇所において、燃料性状(密度及びMCR)をオンラインで計測し、この計測結果に基づいて、燃料の健全性の評価を行い、健全性が悪い場合には、運転モードを変更させることで、例えば船舶の航行中においても、オンラインでその燃料性状に応じたディーゼルエンジン運転モードの変更を行うことができ、燃焼室熱負荷増大による信頼性低下を未然に防ぎ、エンジンの信頼性を向上することができる。なお、燃料は船舶用燃料に限定されず、陸用燃料に用いるようにしてもよい。
よって、オンライン計測ができない従来のような、手探り状態での運転を行うことが回避され、安定した航行が可能となる。
【実施例2】
【0057】
次に、本発明による実施例2に係る流体健全性評価装置について、図面を参照して説明する。図14は、流体健全性評価装置の概略図である。なお、実施例1に係る流体健全性評価装置10Aと同一部材については、同一符号を付してその説明は省略する。
図14に示すように、本実施例に係る流体健全性評価装置10Bは、前記被計測流体の導入ライン及び排出ラインと、前記容器12とを保温する保温手段30を有するものである。前記保温手段30には、図示しない断熱手段及び加温手段が設けられている。
【0058】
被計測流体である燃料Fは通常粘性を有しており、その供給の際には加温されている。よって、加熱された燃料Fを計測できるよう、容器、配管等を加熱・保温できる構造としている。そして、容器12内を計測する温度計31を有し、該温度計31の出力を信号処理部23に送り、温調、計測信号補正等に使用できるようにしている。
【0059】
特に、例えば100℃以上でないと流動性を持たないような油等を計測する際には計測容器12内のセンサ領域も高温を保持する必要があるが、本実施例の計測装置により対応が可能となる。
また、温度毎に密度、残留炭素分と計測信号の対応を与えるテーブルを予め取得しておき、付設の温度計31の出力と比較することで、計測時の温度に影響を受けない計測が可能となる。
【0060】
本実施例の流体健全性評価装置を用いることで、計測時の温度に影響を受けない計測が可能となる。よって、本実施例の流体健全性評価装置を用いることで、ディーゼルエンジン燃料健全性制御システムにおける計測が良好なものとなる。
【実施例3】
【0061】
次に、本発明による実施例3に係る流体健全性評価装置について、図面を参照して説明する。図15は、流体健全性評価装置の概略図である。なお、実施例1に係る流体健全性評価装置10Aと同一部材については、同一符号を付してその説明は省略する。
図15に示すように、本実施例に係る流体健全性評価装置10Cは、被計測流体である燃料Fが容器底部12aから導入され、容器上部12b側から排出されるようにしている。
【0062】
流体の計測中に気泡が存在する場合、超音波計測や光学計測結果に影響するため、燃料の供給を容器底部12aから計測対象を導入し、容器上部12bから排出する構造としている。
【0063】
この結果、燃料F中に気泡が存在する場合にも速やかに、上部に移動し、料油中に気泡が存在すると、超音波の進行、光の透過・屈折に影響を及ぼし、
計測結果の誤差要因となることを回避することができる。
本実施例により、気泡の影響を排除し、安定・高信頼性の計測結果出力が可能となる。
【0064】
また、図16に示す流体健全性評価装置10Dのように、容器12内部の上方部分に空間33を設けるように、流体を排出するようにし、その空間33内部を真空ポンプ34により脱気することで、燃料F中に存在する微細な気泡を積極的に排除するようにしてもよい。
【0065】
本実施例の流体健全性評価装置を用いることで、計測の際における燃料中の気泡の影響を排除した計測が可能となる。よって、本実施例の流体健全性評価装置を用いることで、ディーゼルエンジン燃料健全性制御システムにおける計測が良好なものとなる。
【実施例4】
【0066】
次に、本発明による実施例4に係る流体健全性評価装置について、図面を参照して説明する。図17は、流体健全性評価装置の概略図である。なお、実施例1に係る流体健全性評価装置10Aと同一部材については、同一符号を付してその説明は省略する。
図17に示すように、本実施例に係る流体健全性評価装置10Eは、容器12内に、被計測流体である燃料Fの導電率を計測する導電率センサ35を有するものである。
【0067】
超音波速度計16による計測に併せて、更に導電率センサ35により燃料Fの導電率を計測することにより燃料Fの密度の評価の信頼性を向上させている。
【0068】
本実施例の流体健全性評価装置を用いることで、導電率を考慮して計測が可能となる。よって、本実施例の流体健全性評価装置を用いることで、ディーゼルエンジン燃料健全性制御システムにおける計測が良好なものとなる。
【実施例5】
【0069】
次に、本発明による実施例5に係る流体健全性評価装置について、図面を参照して説明する。図18−1は、流体健全性評価装置の概略図及び図18−2は、誘電率センサの概略図である。なお、実施例1に係る流体健全性評価装置10Aと同一部材については、同一符号を付してその説明は省略する。
図18−1に示すように、本実施例に係る流体健全性評価装置10Fは、容器12内に、被計測流体である燃料Fの導電率を計測する導電率センサ35と、燃料Fの誘電率を計測する誘電率センサ36とを有するものである。
誘電率センサ36は、図18−2に示すように、一対の検出電極36aとアース電極36bとから構成される。
そして、光学計測系に併せて誘電率計測系の出力により燃料の残留炭素分を評価することにより、より高信頼の計測が可能となる。
【0070】
本実施例の流体健全性評価装置を用いることで、導電率及び誘電率を考慮した計測が可能となる。よって、本実施例の流体健全性評価装置を用いることで、ディーゼルエンジン燃料健全性制御システムにおける計測が良好なものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明によれば、密度を計測する超音波の計測の際に超音波により対象の燃料油中に発生する疎密の影響を障壁により解消し、光学計測結果への影響がなく、その結果に応じた例えばディーゼルエンジン運転モードの変更を行うことで、燃焼室熱負荷増大による信頼性低下を未然に防ぎ、エンジンの信頼性を向上することができる。
【符号の説明】
【0072】
10A〜10F 流体健全性評価装置
12 容器
13 入射部
14 受光部
16 超音波速度計
17 障壁
21 光源
22 受光センサ
23 信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測流体を収納する容器と、
該容器中の被計測流体中に、入射部と受光部とが相対向して設けられ、前記受光部における光透過率を計測し、400〜1100nmの範囲の少なくとも2箇所以上の波長又は2箇所以上の波長領域の光又は蛍光を受光センサで計測し、その強度比から残炭素量(MCR)を求める残炭素量計測部と、
前記容器内に設けられ、前記被計測流体中の密度を計測する超音波速度計と、
前記残炭素量計測部と、前記超音波速度計との間に設けられた障壁とを具備することを特徴とする流体健全性評価装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記被計測流体の導入ライン及び排出ラインと、前記容器とを保温する保温手段を有することを特徴とする流体健全性評価装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記被計測流体が容器底部から導入され、容器上部側から排出されることを特徴とする流体健全性評価装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
前記容器内に、被計測流体の導電率を計測する導電率センサ、又は被計測流体の誘電率を計測する誘電率センサを有することを特徴とする流体健全性評価装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
所定間隔を有して入射部と相対向して設けられた受光部の径が、入射部の径よりも大きいことを特徴とする流体健全性評価装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つにおいて、
前記相対向して設けられた入射部と受光部とを保持する保持部を有する容器に歪み計測手段を有することを特徴とする流体健全性評価装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つにおいて、
前記受光センサが分光器又は複数のフォトダイオードの何れかであることを特徴とする流体健全性評価装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一つにおいて、
前記光源からの光を一部分岐し、その光量を計測する光源光量計測器を有することを特徴とする流体健全性評価装置。
【請求項9】
被計測流体である例えば燃料を収納する容器と、
該容器中の被計測流体中に、入射部と受光部とが相対向して設けられ、前記受光部における光透過率を計測し、400〜1100nmの範囲の少なくとも2箇所以上の波長又は2箇所以上の波長領域の光又は蛍光を受光センサで計測し、その強度比から残炭素量(MCR)を求める残炭素量計測部と、
前記容器内に設けられ、前記被計測流体中の密度を計測する超音波速度計と、
前記残炭素量計測部と、前記超音波速度計との間に設けられた障壁とを具備する流体健全性評価装置と、
燃料F中の密度及び残炭素量(MCR)の値を求めた結果、予め求めた密度とMCRとの特性マップの健全性の範囲外の場合に、ディーゼルエンジン運転モードを変更させる制御装置とを具備することを特徴とするディーゼルエンジン燃料健全性制御システム。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【公開番号】特開2010−197250(P2010−197250A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43133(P2009−43133)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】