説明

流体制御装置

【課題】 外部ポンプを操作したり、パージラインを設けることなく、バルブを初期状態に戻すことが可能な、信頼性、耐久性が高い流体制御装置を提供する。
【解決手段】 流体の流れを制御するためのバルブを備えた流体制御装置であって、第一の流路101と、第二の流路102と、前記第一の流路と前記第二の流路の間に位置し、前記第二の流路から前記第一の流路へ流体が流れたときに、前記第一の流路を塞いで閉状態にして流れを遮断する可動部材105を有するバルブ103と、前記第一の流路に前記バルブを閉状態から開状態にするための発熱体素子104を備える流体制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流れを制御するためのバルブを備えた流体制御装置に関し、特にチップ上で化学分析や化学合成を行う小型化分析システム(μ−TAS:Micro Total Analysis System)において、流体の流れを制御するためのバルブを用いた流体制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、立体微細加工技術の発展に伴い、ガラスやシリコン等の基板上に、微小な流路とポンプ、バルブ等の流体素子およびセンサを集積化し、その基板上で化学分析を行うシステムが注目されている。これらのシステムは、小型化分析システム、μ−TAS(Micro Total Analysis System)あるいはLab on a Chipと呼ばれている。基板上に微小流路や流体制御素子を形成した基板をμTASチップと呼ぶ。化学分析システムを小型化することにより、無効体積の減少や試料の分量の大幅な低減が可能となる。また、分析時間の短縮やシステム全体の低消費電力化が可能となる。さらに、小型化によりシステムの低価格を期待することができる。μ−TASは、システムの小型化、低価格化および分析時間の大幅な短縮が可能なことから、在宅医療やベッドサイドモニタ等の医療分野、DNA解析やプロテオーム解析等のバイオ分野での応用が期待されている。
【0003】
上記したμ−TASにおいて、微小流路内の流体の流れを制御するために、様々な形態のバルブがこれまでに提案されている。マイクロマシーニング技術を用いてシリコン基板上に形成されたマイクロバルブが報告されている(非特許文献1参照)。該マイクロバルブは、シリコンのダイヤフラムを圧電アクチュエータで駆動することにより、流体の流れを制御することが可能である。
【0004】
また、図9に示すように、一方向(図9では右から左への方向)のみに流体が通過可能なようにバイパスライン901の形成された微小流路902中に、高分子よりなる可動部材903を形成し、流体の流れにより該可動部材903が移動することを利用して、一方向の流れのみが通過可能なCheck Valve(逆止弁)を構成した例が報告されている(非特許文献2参照)。このように、アクチュエータを備えずに、流体そのものにより動作するバルブは、受動バルブ(Passive valve)と呼ばれている。受動バルブは、アクチュエータが不要なので、比較的単純な構造で流体を制御でき信頼性、耐久性が高い。さらに、作製コストが低い等の利点がある。
【非特許文献1】M.Esashi,S.Shoji,and A.Nakano,“Normally closed microvalve and micropump fabricated on a silicon wafer,”Sensors and Actuators,Vol.20,No.1−2,p.163−169,1989年
【非特許文献2】B.J.Kirby and T.J.Shepodd,“Microvalve Architectures for High−Pressure Hydraulic and Electorkinetic Fluid Control in Microchips,”Micro Total Analysis Systems 2002,Kluwer Academic Publisher,Dordrecht,The Netherlands,p.338−340
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術で述べたマイクロバルブを用いて流体制御装置を構成した場合、以下に示す問題点があった。
図9を用いて、従来技術の問題点を説明する。図9(b)に示すようにバルブがいったん閉状態となると、図中右側から流体を流すか、図中左側の圧力を開放しないと、バルブは初期状態(図9(a))に戻らない。このため外部のポンプを駆動したり、パージ用のラインを設ける必要が生じる。また、図9に示した受動バルブを複数配置して流体システムを構成した場合、所望のバルブのみを個別に初期状態に戻すことが困難な場合がある。これにより、所望の流体制御を実現するための流体システムを構成できない場合がある。
【0006】
本発明の課題は、外部ポンプを操作したり、パージラインを設けることなく、バルブを初期状態に戻すことが可能であり、信頼性、耐久性が高い流体制御装置を提供することである。
さらに、本発明の課題は、個々のバルブを独立して初期状態に戻すことが可能な流体制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、流体の流れを制御するためのバルブを備えた流体制御装置であって、第一の流路と、第二の流路と、前記第一の流路と前記第二の流路の間に位置し、前記第二の流路から前記第一の流路へ流体が流れたときに、前記第一の流路を塞いで閉状態にして流れを遮断する可動部材を有するバルブと、前記第一の流路に前記バルブを閉状態から開状態にするための手段を備えることを特徴とする流体制御装置である。
【0008】
また、本発明の流体制御システムは、流体制御装置を複数備えたことが好ましい。
本発明における流体とは、気体もしくは液体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、外部ポンプを操作したり、パージラインを設けることなく、バルブを初期状態に戻すことが可能な流体制御装置を提供することができる。
さらに本発明により、複数のバルブを備え、個々のバルブを独立して初期状態に戻すことが可能な流体制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の流体制御装置の構成の一例を概略図で示したものである。本発明の流体制御装置は、第一の流路101、第二の流路102、バルブ部103および第一の流路101内に形成された発熱体素子104よりなる。バルブ部103は、可動部材105およびバイパスライン106を備えることにより、第一の流路101から第二の流路102へ向かう流れは通過させ、第二の流路102から第一の流路101へ向かう流れは遮断する一方向バルブとして機能する。発熱体素子103は電極(不図示)に電気的に接続されており、該電極を介して外部のパルス電源に接続されている。これにより、発熱体素子103にパルス電圧を印加できるようになっている。
【0011】
図2を用いて、図1の流体制御装置のバルブ機能について説明する。
第一の流路101から第二の流路102へ流体が流れる場合、可動部材105は流れにより(流れにより発生した圧力差により)図の左方向に移動する。このとき流れは、バイパスライン106を流れることによりバルブ部103を通過することが可能である(図2(a))。
【0012】
一方、第二の流路102から第一の流路101へ流体が流れる場合、可動部材105は図の右方向に移動する。このとき、可動部材105が流路101の入り口を塞ぐため、流れは遮断される(図2(b))。
【0013】
バルブ部103の開閉には、しきい値特性を付与させることが可能である。すなわち、第二の流路から第一の流路へ流体が流れた場合に、ある特定のしきい値流量以下の流量では、可動部材105は移動せず、流体は通過することが可能となる。しきい値以上の流量では、可動部材105が移動し、第一の流路の入り口を塞ぐことにより、流れを遮断する。このしきい値は、可動部材105の移動するバルブ部103の流路壁面と可動部材の摩擦係数を変えることにより制御することができる。また、バイパスライン106と第二の流路の形状、断面積の比、バルブ部の断面積等の流路デザインおよび可動部材の質量、サイズ、形状等の設計事項により、所望の値に設定することが可能である。
【0014】
次に、本発明の重要な側面となるバルブを閉状態(図2(b))から開状態(図2(a))に戻す方法を図3を用いて説明する。
図3(a)の閉状態で、発熱体素子302にパルス電圧を印加し、膜沸騰が生じる温度まで急速に加熱する。これにより、発熱体素子の表面には、気泡301が発生する(図3(b))。
【0015】
発熱体素子302の表面に発生した気泡は、急速に膨張する。この気泡が膨張する力により、可動部材303は図における左方向に移動する(図3(c)〜(d))。
次に、気泡301は収縮に転ずる(図3(e))。気泡が収縮するときに、気泡の収縮力により、可動部材303が若干右方向に移動する場合がある。しかしながら、初期状態の図3(a)と比較して可動部材303が左に移動したことにより、バイパスライン304が開放され流路断面が広くなるので、可動部材303の気泡収縮時における変位は、気泡膨張時における変位と比較して小さくなる。このためバルブ部305は、開状態に復帰することができる(図3(f))。
【0016】
第一の流路内の流体にエネルギーを付与して、バルブを開状態に復帰させる手段としては、例えば、静電アクチュエータ、圧電アクチュエータ等のマイクロマシン技術を用いたアクチュエータを用いることも可能である。特に、本実施形態で説明したように、薄膜型の発熱体素子を用いて気泡を発生させる方式を用いることにより、流路内にメンブレン等の複雑な手段を形成することなく、エネルギーを付与することが可能である。
【0017】
また前記手段は、バルブ部103に粒子等が詰まり可動部材303が可動できなくなった場合の回復手段として用いることができる。例えば、粒子等が詰まった状態で、前記発熱体素子を用いて気泡を発生させることにより、粒子を除去し、バルブ機能を回復することができる。
【0018】
図4に発熱体素子103の具体的な構成の例を示す。発熱体素子401は、第一の流路402の壁面に形成されている。発熱体素子401は、薄膜抵抗体403の上面を保護層404で、下面を蓄熱層405挟んだ構成となっている。薄膜抵抗体401の両端は、保護層402に形成したコンタクトホール406を介して配線407に電気的に接続されている。配線407はパルス電圧を発生する外部電源に接続されている。配線407を介して薄膜抵抗体403にパルス電圧を印加することにより、発熱体沿い401の表面に気泡を発生させることができる。
【0019】
発熱体素子401の厚さは、薄膜抵抗体、保護層、蓄熱層の厚さや材質にもよるが、一般的に数μm程度である。したがって、μTASチップで一般的な流路の幅である数10μmから数100μmの幅の流路に形成される場合、発熱体素子は流体の流れに対する立体障害にはなりにくい。
【0020】
薄膜抵抗体403の材質としては、金属材料もしくは導電性を持たせたシリコン等の半導体が挙げられる。
保護層404の役割は、薄膜抵抗体の表面を化学反応から保護することである。したがって保護層404の材質としては、薬品耐性が高いものが好ましい。例えば、SiO2 やSi34 等の絶縁材料、Ta等の金属材料が挙げられる。また、保護層404には、気泡が収縮して消滅するときに発生する衝撃(キャビテーション衝撃)から、薄膜抵抗体403を保護する役割もある。
【0021】
蓄熱層405の役割は、薄膜抵抗体403で発生した熱が基板側に散逸するのを防ぐことである。蓄熱層405を形成することにより、薄膜抵抗体403で発生した熱エネルギーを効率良く気泡の発生に用いることができる。蓄熱層405の材質としては、例えば、SiO2 やSi34 等の絶縁体材料が挙げられる。
【0022】
本発明の流体制御装置を構成するための材質としては、搬送する流体に対して耐性があれば特に制限はない。例えば、ステンレス、アルミニウム等の金属材料、ガラス材料、シリコン等の半導体材料、シリコーン樹脂、アクリル系の樹脂材料等が挙げられる。また、液体の搬送に電気浸透流を用いる場合は、電気浸透流を発生させる材料を選択することが可能である。
【0023】
可動部材105の材質としては、搬送する流体に対して耐性があれば特に制限はない。例えば、ステンレス、アルミニウム等の金属材料、ガラス材料、シリコン等の半導体材料、シリコーン樹脂、アクリル系の樹脂材料、アルミナ、ジルコニア等のセラミック材料等が挙げられる。
【0024】
可動部105の形状に関しては、第一の流路101を塞ぐことが可能でかつバルブ部103内に保持することが可能な形状であれば良い。流れに関する対称性の観点から球形状が特に好ましい。また、また、高分子等の変形可能な材料で可動部材105を形成し、流路101を塞ぐときに流路形状に従って変形させることにより、シール性を向上させることも可能である。
【0025】
図5は本発明の流体制御装置の構成の別の例を概略図で示したものである。本発明の流体制御装置は、第一の流路501、第二の流路502、バルブ部503および第一の流路501内に形成された発熱体素子504よりなる。バルブ部503は、平板505および板バネ506およびバルブシート部507よりなる。流体の流れがない状態においては、平板505は板バネ506により、バルブシート部507に間隙508を保って弾性支持されている。発熱体素子504は電極(不図示)に電気的に接続されており、該電極を介して外部のパルス電源に接続されている。これにより、発熱体素子503にパルス電圧を印加できるようになっている。
【0026】
発熱体素子503の構成は、図4に示した構成と同様の構成である。
発熱体素子503を配置する位置は、第一の流路501側であり、気泡の発生力がバルブ部に及ぶ位置であれば特に制限はない。図5においては、第一の流路501の底面に配置してあるが、例えば第一の流路501の側面に配置しても良い。
【0027】
以下、バルブ部503の開閉動作について説明する。
第二の流路502から第一の流路501に流体が流れる場合、間隙508を流れるときに圧力低下が発生する。この圧力低下により、平板505の第一の流路501側(下流側)の圧力は、第二の流路502側(上流側)の圧力と比較して低くなる。この圧力差により平板505は、バルブシート部507へ向けて移動する。平板505は、上記圧力差により発生する駆動力と板バネ506により復元力がつりあう位置で静止する。平板505の前後に発生する圧力差は、流体の流量が多いほど大きくなる。バルブが閉状態となるためには、しきい値となる流量が存在する。流量がしきい値流量より大きい場合、平板505はバルブシート部507に接触し、第一の流路501の入り口を塞ぎ、バルブは閉状態(図5(b))となる。すなわちバルブ部503は、ある特定のしきい値以下の流量の場合のみ、流体が通過可能なバルブとして機能する。上で述べたしきい値流量は、間隙508の距離、平板505の形状、第一の流路501の断面形状、第二の流路502の断面形状、板バネ505の形状、本数、厚さ等の設計パラメータを変更することにより、変更可能である。
【0028】
一方、第一の流路501から第二の流路502へ流体が流れる場合は、バルブ部503の構造から明らかなように、常に流れは通過することが可能である。そのため、第二の流路502から第一の流路501への流れの流量が、上で述べたしきい値流量より大きい場合は、バルブ部503は一方向バルブ、逆止バルブとしての機能を有する。
【0029】
次に、本発明の重要な側面となるバルブ部503を閉状態(図5(b))から開状態(図5(a))に戻す方法を、図6を用いて説明する。
図6(a)の閉状態で、発熱体素子601にパルス電圧を印加し、膜沸騰が生じる温度まで急速に加熱する。これにより、発熱体素子601の表面には、気泡602が発生する(図6(b))。
【0030】
発熱体素子601の表面に発生した気泡602は、急速に膨張する。この気泡が膨張する力により、平板603は図における上方向に移動する(図6(c))。
次に、気泡602は収縮に転ずる(図6(d))。このときに、気泡の収縮力および流体が第二の流路605から第一の流路604へ移動するときに発生する駆動力により、平板603が下方向に移動する場合がある。上記した駆動力に板バネ606の復元力が打ち勝てば、バルブ部607は、開状態に戻る(図6(d))。板バネ606の復元力が、上記した駆動力より弱い場合は、バルブ部607は再び閉状態(図6(a))となる。この場合でも、発熱体素子の駆動前と比較すると、第一の流路604側と第二の流路605側の圧力差は、流体が移動したことにより小さくなっている。したがって、図6(a)〜図6(d)の工程を何度か繰り返すことにより、上記した流体の移動による駆動力は徐々に小さくなり、バルブ部607は、図6(e)の開状態に戻ることが可能である。
【0031】
板バネ506および平板505の材質としては、分析する溶液に対して耐性があり、かつ弾性変形に対してある程度の耐性を持つ材料であれば特に制限はない。例えばシリコンが望ましい。シリコーン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂材料を用いることも可能である。必要に応じて、表面をコーティングしても良い。
【0032】
第一の流路501を第二の流路502を形成する材質に関しては、分析する溶液に対して耐性がある材料であれば特に制限がない。例えば、ガラス、シリコン、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。また液体の搬送に電気浸透流を用いる場合は、電気浸透流を発生させる材料を選択することが可能である。
【0033】
平板505の形状は、第一の流路501の入り口を遮蔽することが可能な形状であれば特に制限はない。特に円形状が、流れの対称性の観点から好ましい。特に断面形状が円形の流路に対し、流路と中心を同一とする円形状の平板を配置することによりバルブ部503を構成することが好ましい。これにより、バルブ部503における流体の流れおよび圧力分布が中心軸に対して対称となり、遮蔽部の変位を安定させることが可能となる。さらに板バネを、平板505とバルブ部503の中心軸に対して対称に配置することが好ましい。
【0034】
本発明の流体制御装置を複数組み合わせることによってシステム化し、流体を制御することが可能である。該システムとしては、例えば、一定量の液体試料を流路より切り取って次工程へ導入するシステムが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
なお、実施例中における、寸法、形状、送液手段、送液条件等は一例であり、本発明の要件を満たす範囲内であれば、設計事項として任意に変更することが可能である。
【0036】
実施例1
本実施例では、本発明の流体制御装置を用いて、微小流路システムにおいて一定量の液体試料を切り取って次工程へ導入するシステムを構成した。図7A、Bは、本発明の流体制御装置を用いて微小流路システムを構成した実施例を示す概念図である。
【0037】
図7(a)は、本実施例の微小流路システムの概略図である。該システムは、第一の流体制御装置701、第二の流体制御装置702、流路703、流体ポンプ704、分析用素子705より構成される。上で述べたそれぞれの構成要素701〜705は、図7(a)に示したような位置関係で接続される。
【0038】
以下、図7(a)の微小流路システムを用いて、一定量の液体試料を分析用素子へ導入する方法について説明する。
まず、ポンプ704を用いて、キャリア用液体706を、第一の流体制御装置701、第二の流体制御装置702、流路703、分析用素子705に満たす(図7(b))。このとき、第一の流体制御装置701および第二の流体制御装置702におけるキャリア液体706の流量が、両流体制御装置のしきい値流量より小さくなるような送液条件で送液する。この場合は、可動部材707および可動部材708は移動しないので、キャリア液体706は図のように流れることが可能である。
【0039】
次に、第一の流体制御装置701の上流側にある送液手段(不図示)を用いて、分析する液体試料709を、第一の流体制御装置から第二の流体制御装置に向かう方向に流す(図7(c))。このとき、第一の流体制御装置内の流れは、常に通過可能な方向である。第二の流体制御装置内の流れの流量は、しきい値流量未満となるように送液条件を設定する。また、分析用素子705、ポンプ704への方向の流抵抗は、第二の流体制御装置702への方向と比較して大きくなるように流路を設計する。図7(c)に示したように、流路703においては、切り出し部分710にのみ液体試料709が導入される。
【0040】
次に、ポンプ704を動作させ、第一流体制御装置701、第二の流体制御装置702における流量がしきい値流量以上となる送液条件で、キャリア液体を送液する。このとき、可動部707および可動部708が移動することにより、第一流体制御装置701および第二の流体制御装置702内のバルブ部は閉状態となる。これにより、切り出し部710にあった液体試料711は切り出され、分析用素子705へ導入される(図7(d))。
【0041】
分析終了後、第一の流体制御装置の発熱体素子712および第二の流体制御装置の発熱体素子713を駆動することにより、可動部707および708を移動させ、第一流体制御装置701および第二の流体制御装置702内のバルブ部を開状態とする。この状態で、ポンプ704を駆動し、キャリア用液体を、流体制御装置のしきい値流量以下の流量で送液することにより、第一の流体制御装置701、第二の流体制御装置702、流路703、分析用素子705に満たす(図7(e))。
【0042】
以上の操作により、微小流路システムは、図7(b)に示した初期状態に復帰する。以下、同様の工程を繰り返すことにより、異なる液体試料を分析することが可能である。
なお、図7(e)において、第一の流体制御装置701と第二の流体制御装置702のしきい値流量が異なる場合は、第一の流体制御装置701、第二の流体制御装置702を同時に開状態として、キャリア用液体を満たすのが困難な場合がある。あるいは、困難ではないが効率的でない場合がある。そのような場合は、分析終了後、以下の操作を行う。
【0043】
まず、第一の流体制御装置の発熱体素子712のみを駆動することにより、可動部707を移動させ、第一の流体制御装置701内のバルブ部を開状態とする。この状態で、ポンプ704を駆動し、キャリア用液体を、第一の流体制御装置701のしきい値流量以下の流量で送液することにより、第一の流体制御装置701、流路703、分析用素子705に満たす。このとき、第二の流体制御素子702内のバルブ部は閉状態なので、第二の流体制御素子702内には、液体試料711が残存している。
【0044】
次に、ポンプ704を動作させ、第一流体制御装置701における流量がしきい値流量以上となる送液条件で、キャリア液体を短時間送液することにより、第一流体制御装置701内のバルブ部を閉状態とする。
【0045】
次に、第二の流体制御装置の発熱体素子713のみを駆動することにより、可動部708を移動させ、第二の流体制御装置702内のバルブ部を開状態とする。この状態で、ポンプ704を駆動し、キャリア用液体を、第二の流体制御装置702のしきい値流量以下の流量で送液することにより、第二の流体制御装置702に満たす。
【0046】
すなわち、本発明の流体システムでは、複数の流体制御装置を個別に駆動することが可能なため、従来技術の流体制御装置では困難であった、流体の制御が可能になる。
本流体システムでは、分析用素子705に導入される液体試料の体積は、切り出し部710の体積により規定されるので、常に一定量の液体試料を分析用素子に導入できる。これにより再現性のある分析を実施することが可能となる。
【0047】
本実施例では、本発明の流体制御装置を用いて流体システムを構成する。これにより、分析後の流路のパージ作業が短時間で簡便に実施可能になる。これにより分析作業全体に要する時間を短縮することが可能となり、分析効率を向上させることができる。
【0048】
図7に示した流路システムを用いて、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)分析を実施する例を説明する。
キャリア液706としては、100mMリン酸緩衝液(pH=7.0)とメタノールを75:25に混合した溶液を用いる。液体試料709としては、安息香酸、サリチル酸、フェノールを100mMリン酸緩衝液(pH=7.0)に溶解させた混合水溶液を用いる。分析用素子705としては、HPLC用のODS(オクタデシル化シルカ)カラムを用いる。
【0049】
上で説明した工程を用いて、液体試料709をHPLCカラムに導入し、各成分に分離する。分離された各成分を、波長280mmの紫外光吸収検出器で検出することにより、安息香酸、サリチル酸、フェノールの溶離時間の差に基づいた3本の明瞭な信号ピークを得ることができる。
【0050】
実施例2
本実施例では、本発明の流体制御装置を用いて、図8A、Bに示した微小流路システムを構成する。本微小流路システムは、分析装置に分析する試料を導入するときのバイパス用ラインに用いられる。分析装置に試料を導入する場合、前処理した試料を分析装置に導入する際に、初期の試料は夾雑物等が混入している可能性がある。本微小流路システムを用いることにより、初期の試料をバイパスラインに流すことにより除去し、夾雑物等を除いた試料のみを分析することが可能となる。
【0051】
本微小流路システムは、図8(a)に示したように、第一の流路801、第二の流路802、第三の流路803、第四の流路804、ポンプ805、流体制御装置806、分析用素子807より構成される。第一の流路の一端には、ポンプ805が接続されている。第一の流路801のポンプ805が接続された端と逆の一端は、第二の流路802、第四の流路804に分岐している。第二の流路802、第三の流路803の間に、液体搬送装置806が配置されている。第四の流路804には、分析用素子807が接続されている。流体制御装置806のバルブ部が開状態においては、第二の流路802側の流路抵抗は、第四の流路804側の流路抵抗と比較して、低くなるように流路が設計されている。
【0052】
以下、図8(a)の微小流路システムを用いて、分析用素子の試料を導入する方法について説明する。
まず、ポンプ805を用いて、流路801〜804、流体制御装置806、分析用素子807をキャリア液809で満たす(図8(a))。
【0053】
次に、分析する液体試料808を、ポンプ805を用いて、第一の流路801へ導入する。送液条件は、流体制御装置806のバルブ部が閉状態とならない送液条件、すなわち流体制御装置806における流量がしきい値流量以下となる送液条件を用いる。このとき、第二の流路802側の流路抵抗は、第四の流路804側(分析用素子807側)の流路抵抗と比較して低いので、液体試料は第二の流路側802に側に流れ、分析用素子807には導入されない(図8(b))。第二の流路802、流体制御装置806、第三の流路803はバイパスラインの役割を果たす。
【0054】
一定時間、第二の流路802側に液体試料を搬送し、初期の夾雑物等を含んだ試料を除去した後、送液条件を、流体制御装置806における流量がしきい値流量以上となる送液条件に切り替える。これにより、流体制御装置806のバルブ部は閉状態となる。液体試料808は、第二の流路802側に流れなくなり、分析用素子807に導入されて分析される(図8(c))。
【0055】
分析終了後、流体制御装置806のバルブ部が閉状態のまま、キャリア液809を送液する。これにより、第四の流路804及び分析用素子807内は、キャリア液809で置換される(図8(d))。
【0056】
次に、流体制御装置806の発熱体素子810を駆動することにより、バルブを開状態にする。一度の駆動で開状態に戻らない場合は、複数回駆動を行い、開状態に戻す。この状態で、流体制御装置806のバルブ部が閉状態とならない送液条件で、キャリア液809を送液する。これにより、第一の流路801、流体制御装置806、第三の流路803はキャリア液で置換される(図8(e))。
【0057】
以上の操作で、微小流路システムは、図8(a)の初期状態に戻る。以下、必要に応じて上記工程を繰り返すことにより、異なる液体試料を分析することが可能になる。
本実施例では、本発明の流体制御装置を用いて流体システムを構成する。これにより、分析後の流路のパージ作業が短時間で簡便に実施可能になる。これにより分析作業全体に要する時間を短縮することが可能となり、分析効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の流体制御装置は、外部ポンプを操作したり、パージラインを設けることなく、バルブを初期状態に戻すことが可能であり、チップ上で化学分析や化学合成を行う小型化分析システムにおいて、流体の流れを制御するためのバルブ等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の流体制御装置の実施形態の一例を示す概念図である。
【図2】本発明の流体制御装置の動作を示す概念図である。
【図3】本発明の流体制御装置の動作を示す概念図である。
【図4】本発明の流体制御装置に用いる発熱体素子を示す概念図である。
【図5】本発明の流体制御装置の実施形態の一例を示す概念図である。
【図6】本発明の流体制御装置の動作を示す概念図である。
【図7A】本発明の流体制御装置を用いて微小流路システムを構成した実施例を示す概念図である。
【図7B】本発明の流体制御装置を用いて微小流路システムを構成した実施例を示す概念図である。
【図8A】本発明の流体制御装置を用いて微小流路システムを構成した実施例を示す概念図である。
【図8B】本発明の流体制御装置を用いて微小流路システムを構成した実施例を示す概念図である。
【図9】従来技術の流体制御装置を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
101 第一の流路
102 第二の流路
103 バルブ部
104 発熱体素子
301 気泡
302 発熱体素子
303 可動部材
304 バイパスライン
305 バルブ部
401 発熱体素子
402 第一の流路
403 薄膜抵抗体
404 保護層
405 蓄熱層
406 コンタクトホール
407 配線
501 第一の流路
502 第二の流路
503 バルブ部
504 発熱体素子
505 平板
506 板バネ
507 バルブシート部
508 間隙
601 発熱体素子
602 気泡
603 平板
604 第一の流路
605 第二の流路
606 板バネ
607 バルブ部
701 第一の流体制御装置
702 第二の流体制御装置
703 流路
704 ポンプ
705 分析用素子
706 キャリア液
707、708 可動部材
709 液体試料
710 切り出し部
711 液体試料
712,713 発熱体素子
801 第一の流路
802 第二の流路
803 第三の流路
804 第四の流路
805 ポンプ
806 流体制御装置
807 分析用素子
808 液体試料
809 キャリア液
810 発熱体素子
901 バイパスライン
902 微小流路
903 可動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流れを制御するためのバルブを備えた流体制御装置であって、第一の流路と、第二の流路と、前記第一の流路と前記第二の流路の間に位置し、前記第二の流路から前記第一の流路へ流体が流れたときに、前記第一の流路を塞いで閉状態にして流れを遮断する可動部材を有するバルブと、前記第一の流路に前記バルブを閉状態から開状態にするための手段を備えることを特徴とする流体制御装置。
【請求項2】
前記バルブを開状態にするための手段が、前記バルブが閉状態において、前記第一の流路内の流体にエネルギーを付与することにより前記可動部材を駆動して開状態にする手段であることを特徴とする請求項1記載の流体制御装置。
【請求項3】
前記流体が液体であり、前記バルブを開状態にするための手段が、前記第一の流路内の液体を急速に加熱することにより前記流路内に気泡を発生させる発熱体素子であることを特徴とする請求項1または2に記載の流体制御装置。
【請求項4】
前記バルブが、前記可動部材を前記流路の所定の位置に配置するための弾性体を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の流体制御装置。
【請求項5】
前記バルブが、前記第一の流路と前記第二の流路との間の圧力差が所定の圧力値P0 未満のときは流体を通過させ、前記圧力差がP0 以上のときは流体の流れを遮断することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の流体制御装置。
【請求項6】
前記バルブが、前記第二の流路から前記第一の流路への流れの流量が所定の流量Q0 未満のときは流体を通過させ、前記流量がQ0 以上のときは流体の流れを遮断することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の流体制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の流体制御装置を複数備えたことを特徴とする流体制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−46605(P2006−46605A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231590(P2004−231590)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】