説明

流体動圧軸受用潤滑剤、流体動圧軸受装置、モータ及びディスク駆動装置

【課題】 流体動圧軸受用潤滑剤の加水分解物生成による劣化を防止し、潤滑機能低下までの時間が長く、長寿命な流体動圧軸受用潤滑剤、流体動圧軸受装置、モータ及びディスク駆動装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 エステルを主成分とする基油に、カルボジイミド化合物を0.1wt%以上含有し、リン酸エステル化合物を0.01wt%以下含有する流体動圧軸受用潤滑剤、流体動圧軸受装置、モータ及びディスク駆動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受用潤滑剤、流体動圧軸受装置、モータ及びディスク駆動装置に関し、より詳細には加水分解物生成による劣化を抑制する流体動圧軸受用潤滑剤、並びにそれを用いた流体動圧軸受装置、モータ及びディスク駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブなどに用いられるモータでは軸受として球軸受やころ軸受が従来は用いられていたが、モータの小型化、低振動・低騒音化などの要請から流体動圧軸受が近年開発・実用化されつつある。
【0003】
流体動圧軸受装置は、軸部材とスリーブ部材とが回転自在に嵌合してなり、軸部材とスリーブ部材には、軸部材又はスリーブ部材の半径方向の荷重を支持するラジアル軸受部と、軸方向の荷重を支持するスラスト軸受部とが形成されている。これらの各軸受部は、スリーブ部材に設けられた軸受面と、軸部材に設けられた軸受面とが微小間隙を介して対向してなり、前記軸受面の少なくとも一方に動圧発生溝が形成され、微小間隙には流体動圧軸受用潤滑剤が充填されている。
【0004】
このような構成の動圧軸受装置において、例えば軸部材が回転すると、微小隙間に保持されている流体動圧軸受用潤滑剤が動圧発生溝の溝パターンに沿って押圧され、流体動圧軸受用潤滑剤中に局部的な高圧部分が生じる。これによって、一対のラジアル軸受部において軸部材のラジアル方向の荷重が支持され、一対のスラスト軸受部において軸部材のスラスト方向の荷重が支持される。
【0005】
流体動圧軸受装置の使用条件が高速回転化および高温化になるに伴い、流体動圧軸受用潤滑剤が劣化を起こし、軸受面に特異的な剥離や焼き付きが生じ、モータの寿命が縮まる場合がある。
【0006】
このような流体動圧軸受用潤滑剤の劣化を防ぐ方法として、例えば、基油に耐磨耗剤としてリン酸エステルを特定の割合で含有するもの(特許文献1参照)、ジエステルを主成分とする基油に、摩耗防止剤としてリン酸エステルを含有し加水分解抑制剤としてカルボジイミドを含有するもの(特許文献2参照)、特定のヒンダードフェノール系酸化防止剤及び芳香族アミン系酸化防止剤を特定の割合で含有するもの(特許文献3参照)などが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−269475号公報
【特許文献2】特開2005−154726号公報
【特許文献3】特開平1−225697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特に高温高湿環境下での流体動圧軸受用潤滑剤の劣化、より詳細には加水分解物が生成することによる潤滑機能低下までの時間が長く、長寿命な流体動圧軸受用潤滑剤を提供することをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、流体動圧軸受に用いる潤滑剤であって、エステルを主成分とする基油と、カルボジイミド化合物と、リン酸エステル化合物と、を含有し、前記カルボジイミド化合物の含有量を0.1wt%以上とし、前記リン酸エステル化合物の含有量を0.01wt%以下とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種以上の酸化防止剤を含有する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1乃至2のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、前記流体動圧軸受用潤滑剤の40℃での動粘度が8.0〜14.0mm/sである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、前記基油は、ジエステルを主成分とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、前記カルボジイミド化合物は、0.5〜2.0wt%含有する。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、前記カルボジイミド化合物は、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体もしくはN,N’−ジアリールカルボジイミド誘導体である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、前記リン酸エステル化合物は、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩、中性リン酸エステル、中性亜リン酸エステルから選ばれる少なくとも一種以上の化合物である。
【0016】
請求項8に記載の発明は、軸部材とスリーブ部材とからなる流体動圧軸受装置において、請求項1乃至7に記載の流体動圧軸受用潤滑剤を用いる。
【0017】
請求項9に記載の発明は、ステータを保持するブラケットと、該ブラケットに対して相対回転するロータと、該ロータに固着され該ステータと協働して回転磁界を発生するロータマグネットと、該ロータの回転を支持する流体動圧軸受装置とを備えたモータにおいて、前記流体動圧軸受装置は、請求項8に記載した流体動圧軸受装置である。
【0018】
請求項10に記載の発明は、情報を記録できる記録ディスクが回転駆動されるディスク駆動装置において、ハウジングと、該ハウジングの内部に固定され該記録ディスクを回転させるモータと、該記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを有するディスク駆動装置であって、前記モータは、請求項9に記載のモータである。
【発明の効果】
【0019】
本発明者は、エステルを主成分とする基油に、加水分解抑制剤としてカルボジイミド化合物を用い、耐磨耗剤としてリン酸エステル化合物を同時に用いることで、カルボジイミド化合物のみを用いる場合よりも劣化防止能力が低下することを見出した。この場合、リン酸エステル化合物を用いることなく、カルボジイミド化合物を用いることで高温高湿環境下でも優れた加水分解抑制効果が得られる。また、アミン系酸化防止剤または、フェノール系酸化防止剤をカルボジイミドと併用することで、さらに酸化劣化防止効果も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態につき、図面も参照して説明する。
【0021】
(1) 潤滑剤の構成
本発明に係る潤滑剤を示す。本発明の潤滑剤は、基油と添加剤から構成される。
<基油> 本発明の基油の動粘度(40℃)は、5.0〜50.0mm/sで、さらには8.0〜14.0mm/sが好ましい。基油の粘度指数は、0〜250、特には20〜200、さらには40〜180が好ましい。潤滑油組成物中の基油の含有量は、90.0wt%以上、特には95.0〜99.9wt%が好ましい。
【0022】
基油を構成する化合物としては、酸素を含む有機化合物、特には酸素、炭素、水素のみから構成される化合物を主成分とすることが好ましい。主成分として好ましい化合物は、エステルを含む化合物で、特に複数のエステル結合を含む化合物、特にはジエステル、ポリオールエステルなどエステル結合を2〜4有するものが好ましい。これら主成分となる化合物が基油中に占める割合は、50.0wt%以上、特には80.0wt%以上、さらには90.0wt%以上が好ましい。
【0023】
本発明の基油に用いられるモノエステルは、モノカルボン酸と1価のアルコールをエステル化して得られた化合物である。モノエステルとしては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸などとメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノールなどの1価のアルコールからなるモノエステルが挙げられる。
【0024】
本発明の基油に用いられるジエステルは、ジカルボン酸と1価アルコールをエステル化して得られた化合物である。ジカルボン酸としては、脂肪族二塩基酸が、特には炭素数6〜12の直鎖又は分枝の脂肪族二塩基酸が好ましい。例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカ二酸などが挙げられる。また、1価アルコールとしては、脂肪族1価アルコール、特には炭素数6〜18の直鎖又は分枝の脂肪族1価アルコールが好ましい。例えば、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、及びこれらの直鎖のアルコールに対応する分枝のアルコールが挙げられる。特に好ましいジエステルとしては、ジオクチルアジペート(DOA)、ジイソノニルアジペート(DINA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジオクチルスベレート、ジブチルセバケート(DBS)、ジオクチルセバケート(DOS)、メチル・アセチルリシノレート(MAR−N)などが挙げられる。
【0025】
本発明の基油に用いられるポリオールエステルは、1価カルボン酸と多価アルコールをエステル化して得られた化合物である。1価カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸が、特には炭素数4〜18の直鎖又は分枝の脂肪族カルボン酸が好ましい。例えば、酪酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びこれらの直鎖の酸に対応する分枝の酸が挙げられる。また、多価アルコールとしては、脂肪族多価アルコール、特には炭素数4〜18の直鎖又は分枝の脂肪族多価アルコールが好ましい。例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ブチルエチルプロパンジオールなどの他、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0026】
本発明の基油に用いられるポリグリコールエステルとしては、ポリグリコールとカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸からなるグリコールエステルが挙げられる。
【0027】
本発明の基油に用いられるグリセリンエステルとしては、モノ脂肪酸グリセリン、ジ脂肪酸グリセリン、トリ脂肪酸グリセリンが挙げられ、脂肪酸にはカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸からなるグリセリンエステルが挙げられる。
【0028】
上記基油は、1種単独で使用しても良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良く、また、鉱油と合成油を組み合わせて使用しても良い。
【0029】
<添加剤> 上記の基油に加えて、本発明では、更に各種添加剤を加えることが有効である。
【0030】
本発明で用いられるカルボジイミド化合物加水分解抑制剤は、R’−N=C=N−R”の一般式で表される。ここで、R’、R”は炭素数1〜18の炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。R’、R”は炭素数7〜14のアルキル置換フェニル基が好ましい。具体的な例としては、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド誘導体、1,3−ジ−t−ブチル−カルボジイミド誘導体、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体、1,3−ジ−p−トリルカルボジイミド誘導体、1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド誘導体などである。好ましくは、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、1,3−ジ−p−トリルカルボジイミド、1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドである。カルボジイミド化合物は化合物の単独又は2種以上を併用してもよく、0.1〜5.0wt%、特には0.5〜2.0wt%含有することが好ましい。
【0031】
本発明で用いられるリン酸エステル耐磨耗剤は、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩、中性リン酸エステル、中性亜リン酸エステルなどが挙げられる。具体的な例としては、酸性リン酸エステル系耐摩耗剤としては、ラウリルアシッドフォスフェートなどの酸性リン酸エステルが挙げられる。酸性亜リン酸エステル系耐摩耗剤としては、ジラウリルハイドロゲンフオスファイトなどの酸性亜リン酸エステルが挙げられる。酸性リン酸エステルアミン塩としては、ラウリルアシッドフォスフェートジエチルアミン塩が挙げられる。中性リン酸エステル系耐摩耗剤としては、トリエチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリス(トリデシル)フォスフェート、トリステアリルフォスフェート、トリメチロールプロパンフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリス(ノニルフェニル)フォスフェート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスフェート、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスフェート、テトラ(トリデシル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジフォスフェート、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジフォスフェート、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスフェート、レソルシノール・ビス・ジフェニルフォスフェートおよび水添ビスフェノールAペンタエリスリトールフォスフェートポリマーなどの中性リン酸エステルが挙げられる。中性亜リン酸エステル系耐摩耗剤としては、トリエチルフォスファイト、トリオクチルフォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、トリオレイルフォスファイト、トリステアリルフォスファイト、トリメチロールプロパンフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジフォスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイトおよび水添ビスフェノールAペンタエリスリトールフォスファイトポリマーなどの中性亜リン酸エステルが挙げられる。
【0032】
これらのリン酸エステルは実質的に添加されていないことが必要であり、含有量としては、0.1wt%以下、特には0.03wt%以下、さらには0.01wt%以下が好ましい。
【0033】
上記に加え、本発明は更に酸化防止剤を加えることが有効である。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の流体動圧軸受用潤滑剤に一般的に使用されているものであれば使用可能である。更なる種類の酸化防止剤の含有により、潤滑油組成物の劣化防止性をより高めることができる。
【0034】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは二種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
また、アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系を挙げることができる。上記のアミン系酸化防止剤は一種又は二種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
上記フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤は組み合せて配合しても良い。
【0037】
本発明の流体動圧軸受用潤滑剤において、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、通常潤滑剤組成物全量基準で5.0wt%以下であり、好ましくは3.0wt%以下であり、さらに好ましくは1.0wt%以下である。その含有量が5.0wt%を超える場合は、配合量に見合った十分な酸化防止性が得られないため好ましくない。一方、その含有量は、潤滑剤劣化過程における酸化防止効果をより高めるためには潤滑剤組成物全量基準で好ましくは0.1wt%以上である。
【0038】
なお、このとき、更に必要により本発明の効果を害さない範囲で、粘度指数向上剤や流動点降下剤、金属不活性剤、界面活性剤、防錆剤、腐食防止剤など従来公知の各種添加剤を配合してもよい。
【0039】
(2)動圧軸受装置、スピンドルモータ、及びディスク駆動装置
(2−1)ディスク駆動装置
図1は、ディスク駆動装置(本例ではハードディスク装置)60の内部構成を示す。ディスク駆動装置60のハウジング61の内部は、塵や埃が極度に少ないクリーンな空間となっている。ハウジング61の内部には、情報が記録されるディスク状の記録媒体62が装着されたディスク駆動用のスピンドルモータ1と、記録媒体62への情報の書き込みおよび読み出しを行うアクセス部63が収容されている。
【0040】
(2−2)スピンドルモータ
図2は、スピンドルモータ1の構成を示す縦断面図である。スピンドルモータ1は、静止部材と、回転部材とを備えている。本発明の実施形態である動圧軸受装置により、回転部材は固定部材に対して回転軸部32を中心として回転可能に支持されている。なお、本発明の説明において、各部材の位置関係や方向を上下左右で説明するときは、あくまで図面における位置関係や方向を示し、実際の機器に組み込まれたときの位置関係や方向を示すものではない。
【0041】
(2−2−1)スピンドルモータの静止部材
ベース10は、その中心部に設けられた平坦部11と、この平坦部11の中央部に設けられた環状ボス部13とを有する。環状ボス部13と平坦部11の外周部に設けられた環状段部14との間は、環状の凹部となっている。平坦部11に対して固定されたステータ17と、後述するハブ31に取り付けられたロータマグネット34とは、この凹部に配置される。環状ボス部13は、上方へ突出した円筒支持壁15外周部寄りの位置に設けられており、ステータ17はその外周に固定されている。
【0042】
環状ボス部13の内側には、動圧軸受装置の一部を構成するステンレス製の軸受静止部20が内嵌固定されている。この軸受静止部20は、略円筒形状のスリーブ21と、このスリーブ21の下端開口を閉塞するカウンタプレート22よりなる。スリーブ21の円筒状の内周面は、このスリーブ21のほぼ全長に渡って形成され、ラジアル軸受部が位置する小径内周面21aと、スリーブ21の下部に位置し小径内周面21aより拡径された中径内周面21bと、スリーブ21の最下端に位置し中径内周面21bよりさらに拡径された大径内周面21cとに分けられる。カウンタプレート22は、大径内周面21cに配置され、スリーブ21に固定されている。スリーブ21外周面の下半分は、環状ボス部13の内周面に固定されている。また、スリーブ21の上部外周面には、後述するテーパシール部の内側の周面を形成するテーパ面23が形成されている。
【0043】
(2−2−2)回転部材、及び、動圧軸受装置の構成
ロータ30は、逆カップ状のハブ31及び該ハブ31の回転中心位置に配置された回転軸部32から構成されている。
【0044】
ハブ31は鉄、ステンレス等の強磁性体材料よりなる。円盤部31aの外周部には、図中で下方向に伸びる円筒部31bが接続されている。この円筒部31bの下端には、径方向外方に張り出すフランジ部31cがある。円筒部31bの内側には、円盤部31aから下方に伸びる環状壁31dが配置されている。
【0045】
円盤部31aの中央に孔が形成されており、回転軸部32の上端部が固定されている。回転軸部32の外周面32aとスリーブ21の小径内周面21aとは、僅かな隙間を介して径方向(ラジアル方向)に向かい合っている。
【0046】
回転軸部32の下端には、抜け止め部材33が固定されている。この抜け止め部材33の円形板部33aは、回転軸部32の外径より大きく中径内周面21bの内径より小さい外径を有している。回転軸部32をスリーブから引き抜く方向に力が加わった場合には、円形板部32bがスリーブ21に接触することで、回転軸部32が引き抜かれることが防止される。
【0047】
ハブ31の円筒部31bの内側には、周方向に複数の磁極を配列してなる環状のロータマグネット34が配置されている。ロータマグネット34は、ステータ17を外周から囲む位置に配置されている。
【0048】
ハブ31のフランジ部31cには、図1に示すように、一枚若しくは複数枚の、円盤状記録用ディスク(ハードディスク)が載置される。
【0049】
スリーブ21の小径内周面21aと回転軸部32の外周面32aとの間、及びハブ31の円盤部31aの下面とスリーブ21の上端面との間には、それぞれ微小間隙が確保され、上述の潤滑剤40で満たされている。
【0050】
潤滑油40は、スリーブ21の中径内周面21b、カウンタプレート22の表面、及び抜け止め部材33の円形板部33aの表面、で囲まれた空間をも満たしている。潤滑油40は、ハブ31の環状壁31dの内周面31fとスリーブ21の上部外周のテーパ面23とで形成されたテーパシール部41において外気と接しており、断面が弧状の液面が維持されている。このテーパシール部41は、上方に進むに従って間隙が縮小するテーパ形状を有する。
【0051】
スリーブ21の小径内周面21aには、ヘリングボーン形状の動圧発生溝が形成され、一対のラジアル動圧軸受42,43が構成されている。このヘリングボーン形状の動圧発生溝は、スピンドルモータが所定の方向に回転する際に、回転軸部32を半径方向に保持する支持力を発生する。また、スリーブ21の上端面にも、スパイラル形状の動圧発生溝が形成されており、スラスト動圧軸受部44が構成されている。このスパイラル形状の溝は、スピンドルモータが前記の所定の方向に回転する際に、動圧発生溝が形成されている領域よりも内側における潤滑油の圧力を高める。また、ハブ31を軸線方向上方に向けて浮上させる支持力を生ずる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例の流体動圧軸受用潤滑剤について説明するが本発明はこれにより何ら限定されるものではない。また実施例に用いる基油は、ジエステルである。
【0053】
実施例1 基油100重量部に対し、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体を0.5wt%添加し、アミン系酸化防止剤として4,4’−ジブチルジフェニルアミン、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体、腐食防止剤としてコハク酸エステル誘導体をそれぞれ0.05〜1.0wt%添加した流体動圧軸受用潤滑剤。
【0054】
実施例2 基油100重量部に対し、N,N’−ジアリールカルボジイミド誘導体を0.5wt%添加し、アミン系酸化防止剤として4,4’−ジブチルジフェニルアミン、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体、腐食防止剤としてコハク酸エステル誘導体をそれぞれ0.05〜1.0wt%添加した流体動圧軸受用潤滑剤。
【0055】
実施例3 基油100重量部に対し、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド誘導体を0.5wt%添加し、アミン系酸化防止剤として4,4’−ジブチルジフェニルアミン、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体、腐食防止剤としてコハク酸エステル誘導体をそれぞれ0.05〜1.0wt%添加した流体動圧軸受用潤滑剤。
【0056】
実施例4 基油100重量部に対し、N,N’−ジアリールカルボジイミド誘導体を1.0wt%添加し、アミン系酸化防止剤として4,4’−ジブチルジフェニルアミン、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体、腐食防止剤としてコハク酸エステル誘導体をそれぞれ0.05〜1.0wt%添加した流体動圧軸受用潤滑剤。
【0057】
実施例5 基油100重量部に対し、N,N’−ジアリールカルボジイミド誘導体を1.5wt%添加し、アミン系酸化防止剤として4,4’−ジブチルジフェニルアミン、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体、腐食防止剤としてコハク酸エステル誘導体をそれぞれ0.05〜1.0wt%添加した流体動圧軸受用潤滑剤。
【0058】
比較例1 基油100重量部に対し、アミン系酸化防止剤として4,4’−ジブチルジフェニルアミン、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体、腐食防止剤としてコハク酸エステル誘導体をそれぞれ0.05〜1.0wt%添加した流体動圧軸受用潤滑剤。
【0059】
比較例2 基油100重量部に対し、耐磨耗剤としてトリフェニルフォスフェート誘導体を0.5wt%添加し、更にアミン系酸化防止剤として4,4’−ジブチルジフェニルアミン、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体、腐食防止剤としてコハク酸エステル誘導体をそれぞれ0.05〜1.0wt%添加した流体動圧軸受用潤滑剤。
【0060】
比較例3 基油100重量部に対し、N,N’−ジアリールカルボジイミド誘導体を0.5wt%添加し、耐磨耗剤としてトリフェニルフォスフェート誘導体を0.5wt%添加し、更にアミン系酸化防止剤として4,4’−ジブチルジフェニルアミン、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体、腐食防止剤としてコハク酸エステル誘導体をそれぞれ0.05〜1.0wt%添加した流体動圧軸受用潤滑剤。
【0061】
上記実施例1乃至3及び比較例1乃至3の流体動圧軸受用潤滑剤を用いて下記に示す耐湿性試験を行った。
【0062】
実施例および比較例の流体動圧軸受用潤滑剤を110℃、95%の環境下において、その状況を観察し、加水分解物を確認するまでの時間を測定した。測定装置は、液体クロマトグラフィーを用いて、加水分解物の生成を確認した。測定結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
この結果から、実施例が比較例に比べて優れており、長時間にわたり加水分解が抑制され、流体動圧軸受用潤滑剤として安定していることが分かる。
【0065】
次に図3は、実施例1,3,4及び比較例2について、流体軸受装置を90℃、95%の環境下において4200rpmで連続回転させて、その状況を観察し、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体が消費されるまでの時間を、液体クロマトグラフィーを用いて計測した。この結果により、添加量がある程度増加すると、消費するまでの時間が延長され、加水分解抑制効果はさらに向上するが、添加量とN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の消費量に比例関係はなく、2.0wt%以上添加してもN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の消費量が促進され、加水分解抑制効果の更なる向上はみられず、低温環境化などで再析出することがある。
【0066】
以上に示したとおり、エステルを主成分とする基油に、0.1wt%以上のカルボジイミド化合物を添加し、リン酸エステル化合物を添加しない流体動圧軸受用潤滑剤は、流体動圧軸受用潤滑剤の加水分解物生成による潤滑機能低下までの時間が長く、長寿命の流体動圧軸受を提供することが出来る。
【0067】
以上、本発明に従う流体動圧軸受用潤滑剤、流体動圧軸受装置、モータ及びディスク駆動装置の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0068】
例えば、本実施形態では、流体動圧軸受は、2つのラジアル動圧軸受部と1つのスラスト動圧軸受部からなる構造を示したが、流体動圧軸受の構造はこれに限定されず、動圧発生溝の形成位置も限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の記録ディスク駆動装置を示す縦断面図である。
【図2】本発明のスピンドルモータを示す縦断面図である。
【図3】カルボジイミド誘導体の消費量を示した図である
【符号の説明】
【0070】
10 ベース
17 ステータ
21 スリーブ
30 ロータ
31 ハブ
32 回転軸部
34 ロータマグネット
42,43 ラジアル動圧軸受部
44 スラスト動圧軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体動圧軸受に用いる潤滑剤であって、
エステルを主成分とする基油と、
カルボジイミド化合物と、
リン酸エステル化合物と、
を含有し、
前記カルボジイミド化合物の含有量を0.1wt%以上とし、
前記リン酸エステル化合物の含有量を0.01wt%以下とする、
ことを特徴とする流体動圧軸受用潤滑剤。
【請求項2】
請求項1に記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、
フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも一種以上の酸化防止剤を含有することを特徴とする流体動圧軸受用潤滑剤。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、
前記流体動圧軸受用潤滑剤の40℃での動粘度が8.0〜14.0mm/sであることを特徴とする流体動圧軸受用潤滑剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、
前記基油は、ジエステルを主成分とすることを特徴とする流体動圧軸受用潤滑剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、
前記カルボジイミド化合物は、0.5〜2.0wt%含有することを特徴とする流体動圧軸受用潤滑剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、
前記カルボジイミド化合物は、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体もしくはN,N’−ジアリールカルボジイミド誘導体であることを特徴とする流体動圧軸受用潤滑剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の流体動圧軸受用潤滑剤であって、
前記リン酸エステル化合物は、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルアミン塩、中性リン酸エステル、中性亜リン酸エステルから選ばれる少なくとも一種以上の化合物であることを特徴とする流体動圧軸受用潤滑剤。
【請求項8】
軸部材とスリーブ部材とからなる流体動圧軸受装置において、請求項1乃至7に記載の流体動圧軸受用潤滑剤を用いることを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項9】
ステータを保持するブラケットと、
該ブラケットに対して相対回転するロータと、
該ロータに固着され該ステータと協働して回転磁界を発生するロータマグネットと、
該ロータの回転を支持する流体動圧軸受装置とを備えたモータにおいて、
前記流体動圧軸受装置は、請求項8に記載した流体動圧軸受装置であることを特徴とするモータ。
【請求項10】
情報を記録できる記録ディスクが回転駆動されるディスク駆動装置において、
ハウジングと、
該ハウジングの内部に固定され該記録ディスクを回転させるモータと、
該記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス手段とを有するディスク駆動装置であって、
前記モータは、請求項9に記載のモータであることを特徴とするディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−35705(P2009−35705A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280059(P2007−280059)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】