説明

流体動圧軸受用潤滑油組成物及びこれを利用したHDD用モータ

【課題】実用温度で粘度が低く、蒸発損失が少なく、酸化安定性も向上された流体動圧軸受用潤滑油組成物及びこれを利用したHDD用モータを提供する。
【解決手段】下記式で表されるカルボン酸と、イソプロピルアルコールとのエステル化反応により得られる脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含む流体動圧軸受用潤滑油組成物。具体的な例としては、イソパルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸イソプロピルなどが挙げられる。


(式中、nは6から20の整数である。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘度が低く、蒸発損失が少なく、酸化安定性も向上された流体動圧軸受用潤滑油組成物及びこれを利用したHDD用モータに関する。
【背景技術】
【0002】
情報保存装置の1つであるハードディスクドライブ(HDD;Hard Disk Drive)は、記録再生ヘッド(read/write head)を用いてディスクに保存されたデータを再生したり、ディスクにデータを記録する装置である。
【0003】
このようなハードディスクドライブはディスクを駆動させるディスク駆動装置が必要で、上記ディスク駆動装置には小型スピンドルモータが用いられる。
【0004】
小型スピンドルモータには流体動圧軸受アセンブリーが用いられており、上記流体動圧軸受アセンブリーのシャフトとスリーブの間には潤滑流体が介在され、上記潤滑流体から生じる流体圧力によりシャフトを支持する。
【0005】
スピンドルモータが回転する時、潤滑流体が、低温で粘度が高いと、モータの回転時に生じる動力発生溝に対する潤滑流体の粘性抵抗が大きくなり、結果的にモータの電力損失が大きくなる。
【0006】
逆に、モータが回転する時、潤滑流体が、高温領域で熱膨脹及び粘度が低下すると、支持する役割を十分に果たせないという問題がある。
【0007】
このことから、潤滑流体は、低温領域では低い粘度で保持され、高温領域では粘度が低下しない相反する粘度の挙動特性が求められる。
【0008】
このような粘度特性を満たすために、特定のエステル(Ester)化合物を主成分とする基油に酸化防止剤や極圧添加剤などの物質を添加するなど、様々な開発が行われている。
【0009】
しかし、上記様々な添加剤を使用した潤滑流体は、初期には効果を示すが、長期間使用すると、潤滑剤が蒸発し、粘度特性が変わって、このような効果を保持し続けることは困難である。
【0010】
また、モータが小型化、高精密化、高速回転化、低消費電力化するにつれ、潤滑流体も耐熱性、酸化安定性、低蒸発性及び摩耗防止性などの特性が求められている。
【0011】
しかし、上記基油は、低粘度化すると、蒸発損失の大きくなる傾向があるため、実用温度で低粘度、かつ蒸発損失が抑制される基油が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は粘度が低く、蒸発損失が少なく、酸化安定性も向上された流体動圧軸受用潤滑油組成物及びこれを利用したHDD用モータに関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による流体動圧軸受用潤滑油組成物は、下記[化学式1]で表されるカルボン酸と、イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)とのエステル化反応により得られる脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含むことができる。
【0014】
化学式1
【化1】

【0015】
ここで、上記nは6から20の整数である。
【0016】
上記脂肪族モノカルボン酸エステルは、下記[化学式3]で表される流体動圧軸受用潤滑油組成物であることができる。
【0017】
化学式3
【化2】

【0018】
ここで、上記mは6から20の整数である。
【0019】
上記脂肪族モノカルボン酸エステルは、イソパルミチン酸イソプロピル(Isopropyl isopalmitate)及びイソステアリン酸イソプロピル(Isopropyl isostearate)からなる群より選択される一つ以上であることができる。
【0020】
上記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、オイル酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含むことができ、上記オイル酸化防止剤は2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(2,2’−methylene−bis(4−methyl−6−tert−butylphenol))であることができる。
【0021】
上記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、金属酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含むことができ、上記金属酸化防止剤はバリウムジフェニルアミン−4−スルホネート(Barium diphenylamine−4−sulfonate)であることができる。
【0022】
上記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、耐圧防止剤0.01から2重量部をさらに含むことができ、上記耐圧防止剤はリン酸トリクレシル(Tricresyl Phosphate)であることができる。
【0023】
本発明によるHDD用モータは、下記[化学式1]で表されるカルボン酸と、イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)とのエステル化反応により得られる脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含む流体動圧軸受用潤滑油組成物を含むことができる。
【0024】
化学式1
【化3】

【0025】
ここで、上記nは6から20の整数である。
【0026】
上記脂肪族モノカルボン酸エステルは下記[化学式3]で表される流体動圧軸受用潤滑油組成物であることができる。
【0027】
化学式3
【化4】

【0028】
ここで、上記mは6から20の整数である。
【0029】
上記脂肪族モノカルボン酸エステルはイソパルミチン酸イソプロピル(Isopropyl isopalmitate)及びイソステアリン酸イソプロピル(Isopropyl isostearate)からなる群より選択される一つ以上であることができる。
【0030】
上記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、オイル酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含むことができ、上記オイル酸化防止剤は2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(2,2’−methylene−bis(4−methyl−6−tert−butylphenol))であることができる。
【0031】
上記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、金属酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含むことができ、上記金属酸化防止剤はバリウムジフェニルアミン−4−スルホネート(Barium diphenylamine−4−sulfonate)であることができる。
【0032】
上記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、耐圧防止剤0.01から2重量部をさらに含むことができ、上記耐圧防止剤はリン酸トリクレシル(Tricresyl Phosphate)であることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、実用温度で粘度が低く、蒸発損失が少なく、酸化安定性も向上された流体動圧軸受用潤滑油組成物を含んでHDD用モータを製作することで、モータの長期間使用による信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態による流体動圧軸受アセンブリーを含むHDD用モータを示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。従って、図面における要素の形状及びサイズなどは、より明確な説明のために誇張されることがあり、図面上に同じ符号で示される要素は同じ要素である。
【0036】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態による流体動圧軸受アセンブリーを含むHDD用モータを示した概略断面図である。
【0038】
図1を参照すると、本発明の一実施形態による流体動圧軸受用潤滑油組成物170は下記[化学式1]で表されるカルボン酸と、イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)とのエステル化反応により得られる脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含むことができる。
【0039】
化学式1
【化5】

【0040】
ここで、上記nは6から20の整数である。
【0041】
以下で、上記構成について詳しく説明する。
【0042】
上記[化学式1]で表されるカルボン酸は、イソ酸(Iso acid)であれば特に制限されず、nは6から20の整数であることができる。
【0043】
具体的な例としては、iso−ノナン酸(iso−nonane acid)、iso−デカン酸(iso−decane acid)、iso−ウンデカン酸(iso−undecane acid)、iso−ドデカン酸(iso−dodecane acid)、iso−トリデカン酸(iso−tridecane acid)、iso−テトラデカン酸(iso−tetradecane acid)、iso−ペンタデカン酸(iso−pentadecane acid)、iso−ヘキサデカン酸(iso−hexadecane acid)、iso−ヘプタデカン酸(iso−heptadecanoic acid)、iso−オクタデカン酸(iso−octadecanoic acid)、iso−ノナデカン酸(iso−nonadecanoic acid)、iso−イコサン酸(iso−icosanoic acid)、iso−ヘンイコサン酸(iso−henicosanoic acid)、iso−ドコサン酸(iso−docosanoic acid)及びiso−トリコサン酸(iso−tricosanoic acid)であることができ、これに制限されない。
【0044】
一方、本発明の一実施形態によると、上記[化学式1]で表されるカルボン酸とエステル化反応を行うために、アルコールとしてイソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)を用いることができる。
【0045】
上記イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)の構造は、下記[化学式2]で表されることができる。
【0046】
化学式2
【化6】

【0047】
本発明の一実施形態による流体動圧軸受用潤滑油組成物170は、上記[化学式1]で表されるカルボン酸と上記[化学式2]で表されるイソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)とのエステル化反応により得られる脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含むことができる。
【0048】
上記脂肪族モノカルボン酸エステルは特に制限されないが、例えば、総炭素数が12から26であることができる。
【0049】
上記脂肪族モノカルボン酸エステルは、下記[化学式3]で表されることができる
【0050】
化学式3
【化7】

【0051】
ここで、上記mは6から20の整数である。
【0052】
上記[化学式3]で表される脂肪族モノカルボン酸エステルは特に制限されず、mは6から20の整数であることができる。
【0053】
具体的に、上記脂肪族モノカルボン酸エステルは、イソパルミチン酸イソプロピル(Isopropyl isopalmitate)及びイソステアリン酸イソプロピル(Isopropyl isostearate)からなる群より選択される一つ以上であることができるが、これに制限されない。
【0054】
上記イソパルミチン酸イソプロピル(Isopropyl isopalmitate)及びイソステアリン酸イソプロピル(Isopropyl isostearate)は、下記[化学式4]及び[化学式5]で表されることができる。
【0055】
化学式4
【化8】

【0056】
化学式5
【化9】

【0057】
本発明の一実施形態による上記脂肪族モノカルボン酸エステルの動粘度は、−20℃、25℃及び85℃の粘度を同時に測定することができる。
【0058】
上記粘度はBrookfield DB−III Rheometer粘度計を使用して測定することができ、温度による傾向を確認するために、各々の成分に対し、3つの温度(−20℃、25℃及び85℃)で測定することができる。
【0059】
上記3つの温度のうち、−20℃は一般的なモータの信頼性テストにおける低温保管温度に該当し、25℃はモータの常温動作温度に該当し、85℃は上記モータの高温での動作温度を意味する。
【0060】
本発明の一実施形態によると、上記脂肪族モノカルボン酸エステルはDOA(Dioctyl adipate)とDOS(Dioctyl sebacate)またはDOZ(Dioctyl azelate)とのエステル反応による脂肪族モノカルボン酸エステルより粘度が低く、高温蒸発量も少ないことがある。
【0061】
従って、上記脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として使用する場合、低い粘度でありながら、装置の摩擦損失をさらに効果的に減らすことができ、蒸発量が少なくて高温での安定性に非常に優れる。
【0062】
上記脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含む潤滑油組成物は特に制限されないが、例えば、ハードディスクドライブ(Hard Disc Drive、HDD)用モータの流体軸受として使用するのに適することができる。
【0063】
小型ハードディスクドライブの場合、電力消耗量が少なくなければならず、モータが高速回転するため、高温での安定性が非常に重要な要素である。
【0064】
本発明の一実施形態による上記潤滑油組成物は、摩擦損失が少なく、高温で安定性を有するため、小型ハードディスクの上記条件を満たすことができる。
【0065】
上記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、オイル酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含むことができ、上記オイル酸化防止剤は特に制限されず、例えば、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(2,2’−methylene−bis(4−methyl−6−tert−butylphenol))であることができる。
【0066】
上記オイル酸化防止剤は、上記潤滑油組成物の性能を低下させない範囲内で0.01から2重量部を含むことができ、0.01重量部未満では、酸化防止剤を添加した効果が僅かで、2重量部を超えると、上記潤滑油組成物の性能を低下させることがある。
【0067】
また、上記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、金属酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含むことができ、上記金属酸化防止剤は特に制限されず、例えば、バリウムジフェニルアミン−4−スルホネート(Barium diphenylamine−4−sulfonate)であることができる。
【0068】
上記金属酸化防止剤の添加量が、0.01重量部未満では、酸化安定の効果が僅かで、2重量部を超えると、上記潤滑油組成物の性能を低下させることがあるため、その添加量は0.01から2重量部の範囲であることができる。
【0069】
上記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、耐圧防止剤0.01から2重量部をさらに含むことができ、上記耐圧防止剤は特に制限されず、例えば、リン酸トリクレシル(Tricresyl Phosphate)であることができる。
【0070】
上記耐圧防止剤の添加量が、0.01重量部未満では、耐圧防止の効果が僅かで、2重量部を超えると、上記潤滑油組成物の性能を低下させることがあるため、その添加量は0.01から2重量部の範囲であることができる。
【0071】
本発明の他の実施形態によるHDD用モータは下記[化学式1]で表されるカルボン酸と、イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)とのエステル化反応により得られる脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含む流体動圧軸受用潤滑油組成物を含むことができる。
【0072】
化学式1
【化10】

【0073】
ここで、上記nは6から20の整数である。
【0074】
以下では、本発明の他の実施形態によるHDD用モータについて詳しく説明するが、上述の本発明の一実施形態における説明と重なる部分の説明は省略する。
【0075】
上記HDD用モータ400は固定部材120、140と回転部材110、130、212の間にオイルシーリング部160が形成されることができ、特に、スリーブ(sleeve)120、スラスト(thrust)プレート130及びキャップ部材(cap)140の間に形成されることができる。
【0076】
上記キャップ部材140は上記スラストプレート130の上側から圧入されて上記スラストプレート130との間で潤滑流体がシーリングされるようにする部材であり、上記スラストプレート130と上記スリーブ120に圧入されるように内径方向に溝が形成されることができる。
【0077】
上記キャップ部材140には、潤滑流体がシーリングされるようにするために、下面に突出部が形成されてよく、これはモータが駆動するとき、潤滑流体が外部に漏れることを防止するために毛細管現象及び潤滑流体の表面張力を利用したものである。
【0078】
一方、本発明の他の実施形態によるHDD用モータ400はシャフト110、スリーブ120、スラストプレート130、キャップ部材140及びオイルシーリング部160を含むことができる。
【0079】
上記スリーブ120は、上記シャフト110の上端が軸方向の上側に突出するように上記シャフト110を支持することができ、CuまたはAlを鍛造したり、Cu−Fe系合金粉末またはSUS系粉末を焼結して形成することができる。
【0080】
ここで、上記シャフト110は上記スリーブ120の軸孔と微小隙間を有するように挿入され、上記微小隙間には潤滑流体が充填され、上記シャフト110の外径及び上記スリーブ120の内径のうち少なくとも一つに形成されるラジアル動圧溝により上記ローター200の回転をさらに滑らかに支持することができる。
【0081】
上記ラジアル動圧溝は上記スリーブ120の軸孔の内部である上記スリーブ120の内側面に形成され、上記シャフト110の回転時に片方に偏向するように圧力を形成させることができる。
【0082】
但し、上記ラジアル動圧溝は上述のように上記スリーブ120の内側面に設けられることに限らず、上記シャフト110の外径部に設けられてもよく、個数にも制限がない。
【0083】
上記スリーブ120にはスリーブ120の上部と下部を連通するように形成されるバイパスチャンネル125を備え、流体動圧軸受アセンブリー100の内部の潤滑流体の圧力を分散させて平衡が保持できるようにし、上記流体動圧軸受アセンブリー100の内部に存在する気泡などを循環により排出されるように移動させることができる。
【0084】
ここで、上記スリーブ120の下部には、隙間を保持した状態で上記スリーブ120と結合し、上記隙間には潤滑流体を収容するカバープレート150が結合されてよい。
【0085】
上記カバープレート150は、上記スリーブ120との間の隙間に潤滑流体を収容してそれ自体が上記シャフト110の下面を支持する軸受としての機能をすることができる。
【0086】
上記スラストプレート130は上記スリーブ120の軸方向の上部に配置され、中央に備えられる孔に上記シャフト110が挿入されることができる。
【0087】
このとき、上記スラストプレート130は別途に製造されて上記シャフト110と結合されることも、製造時から上記シャフト110と一体に形成されることもでき、上記シャフト110が回転運動する時、上記シャフト110に従って回転運動する。
【0088】
また、上記スラストプレート130の上面には、上記シャフト110にスラスト動圧を提供するスラスト動圧溝が形成されてよい。
【0089】
上記スラスト動圧溝は、上述のように、上記スラストプレート130の上面に形成されることに限定されず、上記スラストプレート130の下面に対応するスリーブ120の上面にも形成されてよい。
【0090】
ステータ300はコイル320、コア330及びベース部材310を含むことができる。
【0091】
即ち、上記ステータ300は、電源印加時に一定サイズの電磁気力を発生させるコイル320と、上記コイル320が巻線される複数のコア330とを備える固定構造物であることができる。
【0092】
上記コア330はパターン回路が印刷された印刷回路基板(不図示)が備えられるベース部材310の上部に固定配置され、上記巻線コイル320と対応するベース部材310の上部面には上記巻線コイル320を下部に露出させるように一定サイズのコイル孔が複数貫通形成されてよく、上記巻線コイル320は外部電源が供給されるように上記印刷回路基板(不図示)と電気的に連結されることができる。
【0093】
上記ベース部材310は上記スリーブ120の外周面が圧入されて固定され、その内部に上記コイル320が巻線されるコア330が挿入されることができる。
【0094】
また、上記ベース部材310及び上記スリーブ120は、上記ベース部材310の内面、あるいは上記スリーブ120の外面に接着剤を塗布して組み立てることができる。
【0095】
上記ローター200は、上記ステータ300に対して回転可能に備えられる回転構造物であり、上記コア330と一定間隔を置いて対応する環状のマグネット220を内周面に備えるローターケース210を含むことができる。
【0096】
また、上記マグネット220は円周方向にN極、S極が交互に着磁されて一定強さの磁気力を発生させる永久磁石であってよい。
【0097】
ここで、上記ローターケース210はシャフト110の上端に圧入されて固定されるようにするハーブベース212及び上記ハーブベース212から外径方向に延長され軸方向の下側に折れ曲がって上記マグネット220を支持するマグネット支持部214からなることができる。
【0098】
本発明の他の実施形態によるHDD用モータは、上記流体動圧軸受用潤滑油組成物170を含むことで、低い粘度でありながら、装置の摩擦損失をさらに効果的に減らすことができ、蒸発量が少なくて高温での安定性が非常に優れる。
【0099】
また、実用温度で粘度が低く、蒸発損失が少なく、酸化安定性も向上された流体動圧軸受用潤滑油組成物を含んでHDD用モータを製作することで、モータの長期間使用による信頼性を向上させることができる。
【0100】
上記HDD用モータ400の製造方法は、上記流体動圧軸受用潤滑油組成物170を含むことを除き、一般的な製造方法と同一であってよい。
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより制限されない。
【0102】
(実施例)
実施例1はシグマ(Sigma)A社のイソステアリン酸(Isostearic acid)とイソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)を反応させて、イソステアリン酸イソプロピル(Isopropyl isostearate)を合成した。
【0103】
上記反応条件は、アルコールと酸を反応器に入れ、200℃の温度で24時間反応した後、精製する工程を行った。
【0104】
上記イソステアリン酸イソプロピル(Isopropyl isostearate)は全体重量比で約95wt%を占め、残りの5wt%はその他の特性を向上させるための添加剤である。
【0105】
具体的には、オイルの酸化防止のために2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(2,2’−methylene−bis(4−methyl−6−tert−butylphenol))を2wt%添加し、耐圧防止剤としてリン酸トリクレシル(Tricresyl Phosphate)を2wt%添加した。
【0106】
また、オイルと接触する金属表面の酸化防止のためにバリウムジフェニルアミン−4−スルホネート(Barium diphenylamine−4−sulfonate)を1wt%添加した。
【0107】
(比較例1、2)
比較例1はセバシン酸ジオクチル(Dioctyl Sebacate、DOS)とアジピン酸ジオクチル(Dioctyl adipate、DOA)とのエステル化反応により潤滑油組成物を製造し、比較例2はアゼライン酸ジオクチル(Dioctyl azelate、DOZ)とアジピン酸ジオクチル(Dioctyl adipate、DOA)とのエステル化反応により潤滑油組成物を製造し、その他の添加剤の種類及び含量は実施例と同一である。
【0108】
上記比較例1及び2のエステルは下記[化学式6]及び[化学式7]で表されることができる。
【0109】
化学式6
【化11】

セバシン酸ジオクチル(Dioctyl Sebacate)
アジピン酸ジオクチル(Dioctyl adipate)
【0110】
化学式7
【化12】

アゼライン酸ジオクチル(Dioctyl azelate)
アジピン酸ジオクチル(Dioctyl adipate)
【0111】
下の[表1]は上記実施例及び比較例による潤滑油組成物の性能を比較するための粘度、及び信頼性を比較するための蒸発量を測定して比較したものである。
【0112】
上記粘度はBrookfield DB−III Rheometer粘度計を使用して測定し、温度による傾向を確認するために各々の成分に対し、3つの温度(−20℃、25℃及び85℃)で測定した。
【0113】
蒸発量の測定は、各成分を含む流体動圧軸受用潤滑油組成物をSUS材質の蒸発皿に5gずつ入れ、100℃の恒温槽に入れて実験を行った。
【0114】
実験は144時間(6日)行い、蒸発皿に上記潤滑油組成物を入れた最初の重さと、100℃で144時間経過後の重さを測定して蒸発量を比較した。
【0115】
【表1】

【0116】
上記[表1]を参照すると、本発明による潤滑油組成物(実施例1)はセバシン酸ジオクチル(Dioctyl Sebacate、DOS)とDOA(Dioctyl adipate)とのエステル化反応による潤滑油組成物(比較例1)及びDOZ(Dioctyl azelate)とDOA(Dioctyl adipate)とのエステル化反応による潤滑油組成物(比較例2)より、粘度も低く、蒸発量も少ないことが分かる。
【0117】
従って、本発明の一実施形態によると、実用温度で粘度が低く、蒸発損失が少なく、酸化安定性も向上された流体動圧軸受用潤滑油組成物を含んでHDD用モータを製作することで、モータの長期間使用による信頼性を向上させることができる。
【0118】
本発明は上述した実施形態及び添付の図面により限定されるのではなく、添付の請求の範囲により限定される。従って、請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で当技術分野の通常の知識を有する者により多様な形態の置換、変形及び変更が可能であり、これも本発明の範囲に属する。
【符号の説明】
【0119】
100 流体動圧軸受アセンブリー
110 シャフト
120 スリーブ
125 バイパスチャンネル
130 スラストプレート
140 キャップ部材
150 カバープレート
160 オイルシーリング部
170 潤滑油組成物
200 ローター
210 ローターケース
212 ハーブ
214 マグネット支持部
220 マグネット
300 ステータ
310 ベース部材
320 巻線コイル
330 コア
400 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[化学式1]で表されるカルボン酸と、イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)とのエステル化反応により得られる脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含む流体動圧軸受用潤滑油組成物。
化学式1
【化1】

ここで、前記nは6から20の整数である。
【請求項2】
前記脂肪族モノカルボン酸エステルは下記[化学式3]で表される請求項1に記載の流体動圧軸受用潤滑油組成物。
化学式3
【化2】

ここで、前記mは6から20の整数である。
【請求項3】
前記脂肪族モノカルボン酸エステルはイソパルミチン酸イソプロピル(Isopropyl isopalmitate)及びイソステアリン酸イソプロピル(Isopropyl isostearate)からなる群より選択される一つ以上である請求項1に記載の流体動圧軸受用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、オイル酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含む請求項1に記載の流体動圧軸受用潤滑油組成物。
【請求項5】
前記オイル酸化防止剤は2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(2,2’−methylene−bis(4−methyl−6−tert−butylphenol))である請求項4に記載の流体動圧軸受用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、金属酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含む請求項1に記載の流体動圧軸受用潤滑油組成物。
【請求項7】
前記金属酸化防止剤は、バリウムジフェニルアミン−4−スルホネート(Barium diphenylamine−4−sulfonate)である請求項6に記載の流体動圧軸受用潤滑油組成物。
【請求項8】
前記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、耐圧防止剤0.01から2重量部をさらに含む請求項1に記載の流体動圧軸受用潤滑油組成物。
【請求項9】
前記耐圧防止剤は、リン酸トリクレシル(Tricresyl Phosphate)である請求項8に記載の流体動圧軸受用潤滑油組成物。
【請求項10】
下記[化学式1]で表されるカルボン酸と、イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)とのエステル化反応により得られる脂肪族モノカルボン酸エステルを基油として含む流体動圧軸受用潤滑油組成物を含むHDD用モータ。
化学式1
【化3】

ここで、前記nは6から20の整数である。
【請求項11】
前記脂肪族モノカルボン酸エステルは下記[化学式3]で表される請求項10に記載のHDD用モータ。
化学式3
【化4】

ここで、前記mは6から20の整数である。
【請求項12】
前記脂肪族モノカルボン酸エステルはイソパルミチン酸イソプロピル(Isopropyl isopalmitate)及びイソステアリン酸イソプロピル(Isopropyl isostearate)からなる群より選択される一つ以上である請求項10に記載のHDD用モータ。
【請求項13】
前記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、オイル酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含む請求項10に記載のHDD用モータ。
【請求項14】
前記オイル酸化防止剤は2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(2,2’−methylene−bis(4−methyl−6−tert−butylphenol))である請求項13に記載のHDD用モータ。
【請求項15】
前記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、金属酸化防止剤0.01から2重量部をさらに含む請求項10に記載のHDD用モータ。
【請求項16】
前記金属酸化防止剤は、バリウムジフェニルアミン−4−スルホネート(Barium diphenylamine−4−sulfonate)である請求項15に記載のHDD用モータ。
【請求項17】
前記流体動圧軸受用潤滑油組成物は、耐圧防止剤0.01から2重量部をさらに含む請求項10に記載のHDD用モータ。
【請求項18】
前記耐圧防止剤は、リン酸トリクレシル(Tricresyl Phosphate)である請求項17に記載のHDD用モータ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−82868(P2013−82868A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280964(P2011−280964)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(594023722)サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド. (1,585)
【Fターム(参考)】