説明

流体取扱装置および流体取扱方法

【課題】製造コストが安価であり、かつ流路内の流体の流れを容易に制御することができる流体取扱装置を提供すること。
【解決手段】流体取扱装置100は、第1の基板210と、第2の基板120と、第1の基板210および第2の基板120の間に配置された樹脂フィルム130とを有する。第1の基板210には、第1の流路111と、第1の流路111の端部に形成された弁体対向領域214と、第2の流路112と、弁体対向領域214と第2の流路112の端部との間に位置する隔壁215とが形成されている。第2の基板120には、圧力室123が形成されている。弁体対向領域214および隔壁215と、圧力室123とは、樹脂フィルム130のダイヤフラム部131を挟んで互いに対向している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料の分析や処理などに用いられる流体取扱装置および流体取扱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質や核酸などの微量な物質の分析を高精度かつ高速に行うために、マイクロ流路チップが使用されている。マイクロ流路チップは、試薬および試料の量が少なくてよいという利点を有しており、臨床検査や食物検査、環境検査などの様々な用途での使用が期待されている。
【0003】
マイクロ流路チップを用いた処理を自動化するために、マイクロ流路チップ内にバルブ構造を設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、流路の側壁の形状を変化させることで流路を開閉するダイヤフラム弁構造のマイクロバルブを有するマイクロ流路チップが開示されている。このマイクロ流路チップでは、第1の流路の近傍に第2の流路が形成されている。第2の流路内の流体の圧力が高まると、第1の流路および第2の流路の間に位置する第1の流路の壁(ダイヤフラム)が第1の流路を塞ぐように変形する。したがって、第2の流路内の流体の圧力を調整することで、第1の流路内の流体の流れを制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0019794号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のマイクロ流路チップには、製造コストが高いという問題がある。すなわち、特許文献1に記載の技術では、第1の流路の壁(ダイヤフラム)に弾性を持たせるために、マイクロ流路チップ全体を高価なエラストマー(例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS))で作製している。このため、特許文献1に記載の技術では、マイクロ流路チップを安価に製造することが困難である。
【0007】
製造コストを抑制する手段としては、樹脂を用いてマイクロ流路チップを作製することが考えられる。しかしながら、ある程度の厚みを有する樹脂フィルムを用いてダイヤフラムを作製した場合、樹脂はエラストマーに比べて剛性が高いため、樹脂フィルム(ダイヤフラム)により流路を完全に塞ぐことは困難である。すなわち、樹脂フィルム(ダイヤフラム)の一部が流路に接触してしまった後、ダイヤフラムの残部を流路に接触させるためには、非常に大きな圧力をかけなければならないのである。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、製造コストが安価であり、かつ流路内の流体の流れを容易に制御することができる流体取扱装置、および前記流体取扱装置を用いた流体取扱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の流体取扱装置は、第1の流路と、前記第1の流路の一方の端部に形成され、かつ略弓形の開口部を有する弁体対向領域と、第2の流路と、前記弁体対向領域および前記第2の流路の一方の端部の間に形成された隔壁とを含む第1の基板と、第3の流路と、前記第3の流路の一方の端部に形成され、かつ開口部を有する圧力室とを含む第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置され、略球冠状のダイヤフラム部を含む樹脂フィルムと、を有し、前記第1の基板および前記第2の基板は、前記樹脂フィルムを介して一体化されており、前記ダイヤフラム部は、前記弁体対向領域の開口部、前記第2の流路の一方の端部および前記隔壁と、前記圧力室の開口部との間に位置しており、平面視したときに、前記弁体対向領域の開口部の縁に含まれる円弧の中心および前記ダイヤフラム部の外縁の中心は一致し、前記圧力室内の圧力により前記ダイヤフラム部が前記隔壁に接触することで、前記弁体対向領域から前記隔壁と前記ダイヤフラム部との間を通って前記第2の流路へ向かう流体の流れが止まる、構成を採る。
【0010】
本発明の流体取扱装置は、第1の流路と、前記第1の流路の一方の端部に形成され、かつ略円形の開口部を有する弁体対向領域と、第2の流路と、前記弁体対向領域および前記第2の流路の一方の端部の間に形成された隔壁とを含む第1の基板と、第3の流路と、前記第3の流路の一方の端部に形成され、かつ開口部を有する圧力室とを含む第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置され、略球冠状のダイヤフラム部を含む樹脂フィルムと、を有し、前記第1の基板および前記第2の基板は、前記樹脂フィルムを介して一体化されており、前記ダイヤフラム部は、前記弁体対向領域の開口部、前記第2の流路の一方の端部および前記隔壁と、前記圧力室の開口部との間に位置しており、平面視したときに、前記ダイヤフラム部は、前記弁体対向領域の開口部よりも大きく、かつ前記弁体対向領域の開口部の縁および前記樹脂フィルムの前記ダイヤフラム部の外縁は、同心円であり、前記圧力室内の圧力により前記ダイヤフラム部が前記隔壁に接触することで、前記弁体対向領域から前記隔壁と前記ダイヤフラム部との間を通って前記第2の流路へ向かう流体の流れが止まる、構成を採る。
【0011】
本発明の流体取扱方法は、上記の流体取扱装置を使用して流体を取り扱う方法であって、前記第1の流路に第1の流体を導入して、前記第1の流路から、前記隔壁および前記ダイヤフラム部の間を通して前記第2の流路に前記第1の流体を移動させるステップと、前記第3の流路を通して前記圧力室に第2の流体を導入することで、前記圧力室内の前記第2の流体の圧力により前記ダイヤフラム部を前記隔壁に接触させて、前記第1の流体の流れを止めるステップと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造コストが安価であり、かつ流路内の流体の流れを容易に制御することができる流体取扱装置、および前記流体取扱装置を用いた流体取扱方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1Aは、実施の形態1のマイクロ流路チップの平面図であり、図1Bは、図1Aに示されるB−B線の断面図であり、図1Cは、図1Aに示されるC−C線の断面図である。
【図2】図2Aは、第1の基板の平面図であり、図2Bは、図2Aに示されるB−B線の断面図であり、図2Cは、図2Aに示されるC−C線の断面図である。
【図3】図3Aは、第2の基板の平面図であり、図3Bは、図3Aに示されるB−B線の断面図であり、図3Cは、図3Aに示されるC−C線の断面図である。
【図4】図4Aは、樹脂フィルムの平面図であり、図4Bは、図4Aに示されるB−B線の断面図であり、図4Cは、図4Aに示されるC−C線の断面図である。
【図5】実施の形態1のマイクロ流路チップの部分拡大平面図である。
【図6】実施の形態1のマイクロ流路チップの部分拡大平面図である。
【図7】図7Aおよび図7Bは、実施の形態1のマイクロ流路チップの使用態様を説明するためのマイクロ流路チップの部分拡大断面図である。
【図8】実施の形態1のマイクロ流路チップの別の例を示す部分拡大平面図である。
【図9】実施の形態2のマイクロ流路チップの平面図である。
【図10】図10Aは、第1の基板の平面図であり、図10Bは、第2の基板の平面図であり、図10Cは、樹脂フィルムの平面図である。
【図11】実施の形態2のマイクロ流路チップの部分拡大平面図である。
【図12】図12Aおよび図12Bは、実施の形態2のマイクロ流路チップの使用態様を説明するためのマイクロ流路チップの部分拡大断面図である。
【図13】実施の形態2のマイクロ流路チップの別の例を示す部分拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明では、本発明の流体取扱装置の代表例として、マイクロ流路チップについて説明する。
【0015】
<実施の形態1>
[マイクロ流路チップの構成]
図1は、実施の形態1のマイクロ流路チップ100の構成を示す図である。図1Aは、マイクロ流路チップ100の平面図であり、図1Bは、図1Aに示されるB−B線の断面図であり、図1Cは、図1Aに示されるC−C線の断面図である。
【0016】
図1A〜図1Cに示されるように、マイクロ流路チップ100は、第1の基板110と、第2の基板120と、第1の基板110および第2の基板120の間に配置された樹脂フィルム130とを有する。第1の基板110には、試薬や液体試料などの流体を流すための流路が形成されている。一方、樹脂フィルム130は、第1の流路内を流れる流体の流れを制御するマイクロバルブのダイヤフラム(弁体)として機能する。第2の基板120には、ダイヤフラムの動作を制御するための圧力室が形成されている。第1の基板110および第2の基板120は、樹脂フィルム130を介して一体化されている。
【0017】
以下、マイクロ流路チップ100の各構成要素について説明する。
【0018】
(第1の基板)
図2は、第1の基板110の構成を示す図である。図2Aは、第1の基板110の平面図であり、図2Bは、図2Aに示されるB−B線の断面図であり、図2Cは、図2Aに示されるC−C線の断面図である。
【0019】
第1の基板110は、透明な略矩形の樹脂基板である。第1の基板110の厚さは、特に限定されないが、例えば1mm〜10mmである。第1の基板110を構成する樹脂の種類は、特に限定されず、公知の樹脂から適宜選択されうる。第1の基板110を構成する樹脂の例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、塩化ビニール、ポリプロピレン、ポリエーテル、ポリエチレンなどが含まれる。
【0020】
図2A〜図2Cに示されるように、第1の基板110には、第1の流路111、第2の流路112、第1の流体導入口113、弁体対向領域114、隔壁115および流体取出口116が形成されている。マイクロバルブの開放時には、第1の流路111、弁体対向領域114および第2の流路112は、一つの流路として機能し、第1の流体導入口113から導入された流体は、流体取出口116まで流れることができる。
【0021】
第1の流路111および第2の流路112は、第1の流体導入口113から導入された流体(例えば、試薬や液体試料など)が流れる流路である。第1の流路111および第2の流路112は、第1の基板110に形成された溝である。これらの溝の開口部は、樹脂フィルム130により塞がれる(図1B参照)。第1の流路111および第2の流路112の断面積および断面形状は、特に限定されない。たとえば、第1の流路111および第2の流路112は、毛管現象により流体が移動可能な流路である。この場合、第1の流路111および第2の流路112の断面形状は、例えば一辺の長さ(幅および深さ)が数十μm程度の略矩形である。なお、本明細書において、「流路の断面」とは、流体が流れる方向に直交する流路の断面を意味する。
【0022】
第1の流体導入口113および流体取出口116は、第1の基板110に形成された貫通孔である。第1の流体導入口113は、第1の流路111の第1の端部(上流側の端部)に形成されている。また、流体取出口116は、第2の流路112の第2の端部(下流側の端部)に形成されている。これらの貫通孔の一方の開口部は、樹脂フィルム130により塞がれる(図1B参照)。第1の流体導入口113および流体取出口116の形状は、特に限定されないが、例えば略円柱状である。第1の流体導入口113および流体取出口116の直径は、特に限定されないが、例えば2mm程度である。
【0023】
弁体対向領域114は、第1の基板110に形成された凹部である。弁体対向領域114は、第1の流路111の第2の端部(下流側の端部)に形成されている。凹部の開口部は、樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)と対向している(図1B参照)。弁体対向領域114の樹脂フィルム130側の開口部の形状は、略円形である(図2Aおよび図5参照)。弁体対向領域114の形状は、開口部の形状が略円形であれば特に限定されないが、例えば円柱状である。弁体対向領域114の開口部の直径は、特に限定されないが、例えば0.5mm程度である。
【0024】
隔壁115は、第1の流路111と第2の流路112の第1の端部(上流側の端部)との間に形成された壁である。後述するように、隔壁115は、マイクロバルブの弁座として機能する。
【0025】
(第2の基板)
図3は、第2の基板120の構成を示す図である。図3Aは、第2の基板120の平面図であり、図3Bは、図3Aに示されるB−B線の断面図であり、図3Cは、図3Aに示されるC−C線の断面図である。
【0026】
第2の基板120は、透明な略矩形の樹脂基板である。第2の基板120の厚さは、特に限定されないが、例えば1mm〜10mmである。第2の基板120を構成する樹脂の種類は、特に限定されず、公知の樹脂から適宜選択されうる。第2の基板120を構成する樹脂の例は、第1の基板110を構成する樹脂の例と同じである。
【0027】
図3A〜図3Cに示されるように、第2の基板120には、第3の流路121、第2の流体導入口122および圧力室123が形成されている。
【0028】
第3の流路121は、第2の流体導入口122から導入された流体(例えば、空気など)が流れる流路である。第3の流路121は、第2の基板120に形成された溝である。溝の開口部は、樹脂フィルム130により塞がれる(図1C参照)。第3の流路121の断面積および断面形状は、特に限定されない。たとえば、第3の流路121の断面形状は、例えば一辺の長さ(幅および深さ)が数十μm程度の略矩形である。
【0029】
第2の流体導入口122は、第2の基板120に形成された貫通孔である。第2の流体導入口122は、第3の流路121の第1の端部(上流側の端部)に形成されている。貫通孔の一方の開口部は、樹脂フィルム130により塞がれる(図1C参照)。第2の流体導入口122の形状は、特に限定されないが、例えば略円柱状である。第2の流体導入口122の直径は、特に限定されないが、例えば2mm程度である。
【0030】
圧力室123は、第2の基板120に形成された凹部である。圧力室123は、第3の流路121の第2の端部(下流側の端部)に形成されている。凹部の開口部は、樹脂フィルム130により塞がれる(図1C参照)。圧力室123の樹脂フィルム130側の開口部の形状は、樹脂フィルム130のダイヤフラム部131と同じ大きさか、またはそれより大きければ特に限定されず、例えば略円形である(図3Aおよび図5参照)。圧力室123の形状は、特に限定されないが、例えば円柱状である。圧力室123の開口部の直径は、特に限定されないが、例えば1mm程度である。
【0031】
(樹脂フィルム)
図4は、樹脂フィルム130の構成を示す図である。図4Aは、樹脂フィルム130の平面図であり、図4Bは、図4Aに示されるB−B線の断面図であり、図4Cは、図4Aに示されるC−C線の断面図である。
【0032】
樹脂フィルム130は、透明な略矩形の樹脂フィルムである。樹脂フィルム130は、ダイヤフラム構造のマイクロバルブの弁体(ダイヤフラム)として機能する。
【0033】
樹脂フィルム130の第1の面は、第1の基板110の第1の流路111などが形成された面に接合されている。また、樹脂フィルム130の第2の面は、第2の基板120の第3の流路121などが形成された面に接合されている(図1A〜図1C参照)。前述の通り、樹脂フィルム130は、第1の基板110に形成された第1の流路111、第2の流路112、第1の流体導入口113および流体取出口116の開口部、ならびに第2の基板120に形成された第3の流路121、第2の流体導入口122および圧力室123の開口部を閉塞している。
【0034】
樹脂フィルム130を構成する樹脂の種類は、樹脂フィルム130が弁体(ダイヤフラム)として機能できれば特に限定されず、公知の樹脂から適宜選択されうる。樹脂フィルム130を構成する樹脂の例は、第1の基板110を構成する樹脂の例と同じである。樹脂フィルム130と第1の基板110および第2の基板120との密着性を向上させる観点からは、樹脂フィルム130を構成する樹脂は、第1の基板110および第2の基板120を構成する樹脂と同一であることが好ましい。
【0035】
樹脂フィルム130の厚さは、樹脂フィルム130が弁体(ダイヤフラム)として機能できれば特に限定されず、樹脂の種類(剛性)に応じて適宜設定されうる。たとえば、樹脂フィルム130の厚さは、20μm程度である。
【0036】
図4A〜図4Cに示されるように、樹脂フィルム130は、略球冠状のダイヤフラム部131を含む。図1Bに示されるように、第1の基板110の弁体対向領域114、隔壁115および第2の流路112の第1の端部(上流側の端部)と、第2の基板120の圧力室123とは、樹脂フィルム130を挟んで互いに対向している。樹脂フィルム130のうち、弁体対向領域114の開口部、隔壁115および第2の流路112の第1の端部(上流側の端部)と圧力室123の開口部との間に位置する部分がダイヤフラム部131である。ダイヤフラム部131は、略球冠状であり、第1の基板110および第2の基板120に接合されていない。
【0037】
図4Bおよび図4Cに示されるように、ダイヤフラム部131は、圧力室123に向かって凸形状となるように変形している。このため、圧力室123内の圧力が高まっていない場合は、ダイヤフラム部131は、第1の基板110の隔壁115とは接触しない。通常状態のダイヤフラム部131の高さは、ダイヤフラム部131と隔壁115との間に形成される隙間を流体が流れることができれば特に限定されない。たとえば、ダイヤフラム部131の高さは、数十μm程度である。
【0038】
図5は、マイクロ流路チップ100の部分拡大平面図である。この図では、第1の基板110に形成された構成要素を実線で示し、第2の基板120に形成された構成要素を破線で示し、樹脂フィルム130に形成された構成要素を一点鎖線で示している。前述の通り、第1の基板110に形成された弁体対向領域114の樹脂フィルム130側の開口部の形状は、略円形である。また、樹脂フィルム130のダイヤフラム部131の形状は、略球冠状である。ダイヤフラム部131は、弁体対向領域114だけでなく、隔壁115および第2の流路112の第1の端部(上流側の端部)とも対向するため、弁体対向領域114の略円形の開口部よりも大きい。一方で、ダイヤフラム部131は、圧力室123の開口部とは同じ大きさか、それよりも小さい。
【0039】
図5に示されるように、マイクロ流路チップ100を平面視した場合、弁体対向領域114の略円形の開口部の中心C1は、略球冠状のダイヤフラム部131の外縁の中心C2と一致する。すなわち、弁体対向領域114の開口部の縁および樹脂フィルム130のダイヤフラム部131の外縁は、同心円である。このようにすることで、図6に示されるように、ダイヤフラム部131の中心C2から隔壁115までの距離Lが、一定の距離(弁体対向領域114の半径と同じ距離)となる。
【0040】
なお、図1、図5および図6に示される例では、ダイヤフラム部131および圧力室123の開口部の大きさがほぼ一致している態様を示しているが、本発明はこれに限定されず、ダイヤフラム部131が圧力室123の開口部内に位置し、第1の流路111と第2の流路112との連通部を開閉させるためのダイヤフラムとして機能するように形成されていれば、ダイヤフラム部131の大きさは特に限定されない。すなわち、ダイヤフラム部131の大きさは、圧力室123の開口部と同じ大きさか、それよりも小さくてもよい。
【0041】
本実施の形態のマイクロ流路チップ100は、例えば、図2A〜図2Cに示される第1の基板110と、図3A〜図3Cに示される第2の基板120と、図4A〜図4Cに示される樹脂フィルム130(または平らな樹脂フィルム130)とを接合することで製造されうる。たとえば、樹脂フィルム130は、諸条件を調整して熱圧着により第1の基板110および第2の基板120に接合される。
【0042】
[マイクロ流路チップの使用方法]
次に、本実施の形態のマイクロ流路チップ100の使用方法について、図7を参照して説明する。図7Aおよび図7Bは、マイクロ流路チップ100の使用態様を説明するためのマイクロ流路チップ100の部分拡大断面図である(図1Bに対応)。
【0043】
まず、図7Aに示されるように、第1の流体導入口113に試薬や液体試料などの液体140を提供することで、第1の流路111に液体140を導入する。このとき、圧力室123内の圧力は高められておらず、樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)と隔壁115との間には隙間が形成されている(バルブ開放状態)。液体140は、毛管現象または外部からの圧力により第1の流路111、隔壁115と樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)との間、および第2の流路112を進み、流体取出口116に到達する。なお、第1の流体導入口113から導入される流体(第1の流体)は、液体である必要はなく、気体であってもよい。
【0044】
次いで、図7Bに示されるように、第2の流体導入口122から第3の流路121を通して圧力室123に空気を導入する。その結果、圧力室123内の圧力が高まり、樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)の形状が変化する。具体的には、ダイヤフラム部131は、弁体対向領域114側に凸の形状となる。これにより、樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)は隔壁115に接触する(バルブ閉鎖状態)。液体140は、隔壁115と樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)との間を進むことができなくなり、液体140の流れは止まる。なお、第2の流体導入口122から導入される流体(第2の流体)は、空気である必要はなく、液体または空気以外の気体であってもよい。
【0045】
ダイヤフラム部131が弁体対向領域114側に凸の形状となった場合、ダイヤフラム部131の形状は略円形であるため、ダイヤフラム部131の各地点の高さは、同心円状に変化する。すなわち、ダイヤフラム部131の中心からの距離が同じであれば、高さも同じである。前述の通り、本実施の形態のマイクロ流路チップ100では、ダイヤフラム部131の中心から隔壁115までの距離Lが、一定の距離(弁体対向領域114の半径と同じ距離)となっている(図6参照)。したがって、ダイヤフラム部131が弁体対向領域114側に凸の形状となった場合、ダイヤフラム部131は、隔壁115に均一に接触する。結果として、本実施の形態のマイクロ流路チップ100では、圧力室123内の圧力を過剰に高めなくても、第1の流路111内の液体140の流れを確実に止めることができる。
【0046】
以上の手順により、液体140を第1の流路110から第2の流路112に流すこと、および第1の流路110から第2の流路112への液体140の流れを止めること、を任意のタイミングで行うことができる。たとえば、第1の流体導入口113内において液体140を特定の試薬と一定時間反応させた後に、第1の流体導入口113内の液体140を流体取出口116内に移動させて、流体取出口116内において液体140を別の試薬と反応させることが可能である。
【0047】
[効果]
本実施の形態のマイクロ流路チップ100は、圧力室123内の流体(第2の流体)の圧力を調整することで、第1の流路111から第2の流路112に流れる流体(第1の流体)の流れを容易に制御することができる。また、本実施の形態のマイクロ流路チップ100は、エラストマーではなく樹脂を用いて製造されうるため、製造コストを抑制することができる。このように、本実施の形態のマイクロ流路チップ100は、製造コストが安価であり、かつ流路内の流体の流れを容易に制御することができる。
【0048】
なお、これまでの説明では、弁体対向領域114、隔壁115および圧力室123を含むマイクロバルブ構造が1つ形成されたマイクロ流路チップ100について説明したが、マイクロ流路チップ100内のマイクロバルブ構造の数はこれに限定されない。たとえば、図8に示されるように、1つのマイクロ流路チップ100内に複数のマイクロバルブ構造が形成されていてもよい。
【0049】
<実施の形態2>
[マイクロ流路チップの構成]
図9は、実施の形態2のマイクロ流路チップ200の構成を示す平面図である。マイクロ流路チップ200は、実施の形態1のマイクロ流路チップ100と同様に、第1の基板210と、第2の基板120と、第1の基板210および第2の基板120の間に配置された樹脂フィルム130とを有する(図12参照)。
【0050】
図10Aは、第1の基板210の平面図であり、図10Bは、第2の基板120の平面図であり、図10Cは、樹脂フィルム130の平面図である。実施の形態1のマイクロ流路チップ100と同様に、第1の基板210および第2の基板120は、樹脂フィルム130を介して一体化されている(図12参照)。
【0051】
実施の形態2のマイクロ流路チップ200では、第1の基板210が有する弁体対向領域214、隔壁215の形状が実施の形態1のマイクロ流路チップ100と異なる。そこで、本実施の形態では、第1の基板210についてのみ説明する。なお、実施の形態1のマイクロ流路チップ100と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0052】
図10Aに示されるように、第1の基板210には、第1の流路111、第2の流路112、第1の流体導入口113、弁体対向領域214、隔壁215および流体取出口116が形成されている。マイクロバルブの開放時には、第1の流路111、弁体対向領域214および第2の流路112は、一つの流路として機能し、第1の流体導入口113から導入された流体は、流体取出口116まで流れることができる。
【0053】
弁体対向領域214は、第1の基板210に形成された凹部である。弁体対向領域214は、第1の流路111の第2の端部(下流側の端部)に形成されている。凹部の開口部は、樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)と対向している(図12参照)。弁体対向領域214の樹脂フィルム130側の開口部の形状は、略弓形である(図10A参照)。ここで「弓形」とは、円を1つの弦で2つに分けたときにできる形状をいう。弓形は、1つの円弧と、前記円弧の両端を結ぶ1つの弦とを含む。弁体対向領域214の形状は、開口部の形状が略弓形であれば特に限定されないが、例えば弓形柱状である。
【0054】
隔壁215は、弁体対向領域214(弓形の弦の部分)と、第2の流路112の第1の端部(上流側の端部)との間に形成された壁である。隔壁215は、マイクロバルブの弁座として機能する。
【0055】
図11は、マイクロ流路チップ200の部分拡大平面図である。この図では、第1の基板210に形成された構成要素を実線で示し、第2の基板120に形成された構成要素を破線で示し、樹脂フィルム130に形成された構成要素を一点鎖線で示している。前述の通り、第1の基板210に形成された弁体対向領域214の樹脂フィルム130側の開口部の形状は、略弓形である。また、樹脂フィルム130のダイヤフラム部131の形状は、略球冠状である。
【0056】
図11に示されるように、マイクロ流路チップ200を平面視した場合、弁体対向領域214の略弓形の開口部の縁に含まれる円弧の中心C1は、略球冠状のダイヤフラム部131の外縁の中心C2と一致する。また、ダイヤフラム部131の外縁の半径は、弁体対向領域214の前記円弧の半径(中心C1と円弧との距離)よりも小さい。このようにすることで、図11に示されるように、弁体対向領域214の開口部の縁(円弧の部分)からダイヤフラム部131の外縁までの距離が一定となる。なお、弁体対向領域214の開口部の縁(円弧の部分)からダイヤフラム部131の外縁までの距離が一定であれば、ダイヤフラム部131の外縁の半径が弁体対向領域214の円弧の半径(中心C1と円弧との距離)と同等かまたはわずかに大きくてもよい。弁体対向領域214の開口部の縁(円弧の部分)とダイヤフラム部131の外縁との間の樹脂フィルム130は、平板状である(図12参照)。
【0057】
なお、ダイヤフラム部131の外縁の半径が弁体対向領域214の円弧の半径よりも小さい場合でも、弁体対向領域214の開口部の形状が略弓形であるため、ダイヤフラム部131は、弁体対向領域214だけでなく、隔壁215および第2の流路112の第1の端部(上流側の端部)とも対向することができる。
【0058】
本実施の形態のマイクロ流路チップ200は、例えば、図10Aに示される第1の基板210と、図10Bに示される第2の基板120と、図10Cに示される樹脂フィルム130とを接合することで製造されうる。たとえば、樹脂フィルム130は、諸条件を調整して熱圧着により第1の基板210および第2の基板120に接合される。
【0059】
[マイクロ流路チップの使用方法]
次に、本実施の形態のマイクロ流路チップ200の使用方法について、図12を参照して説明する。図12Aおよび図12Bは、マイクロ流路チップ200の使用態様を説明するためのマイクロ流路チップ200の部分拡大断面図である。
【0060】
まず、図12Aに示されるように、第1の流体導入口113に試薬や液体試料などの液体140を提供することで、第1の流路111に液体140を導入する。このとき、圧力室123内の圧力は高められておらず、樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)と隔壁215との間には隙間が形成されている(バルブ開放状態)。液体140は、毛管現象または外部からの圧力により第1の流路111、隔壁215と樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)との間、および第2の流路112を進み、流体取出口116に到達する。なお、第1の流体導入口113から導入される流体(第1の流体)は、液体である必要はなく、気体であってもよい。
【0061】
次いで、図12Bに示されるように、第2の流体導入口122から第3の流路121を通して圧力室123に空気を導入する。その結果、圧力室123内の圧力が高まり、樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)の形状が変化する。具体的には、ダイヤフラム部131は、弁体対向領域214側に凸の形状となる。これにより、樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)は隔壁215に接触する(バルブ閉鎖状態)。液体140は、隔壁215と樹脂フィルム130(ダイヤフラム部131)との間を進むことができなくなり、液体140の流れは止まる。なお、第2の流体導入口122から導入される流体(第2の流体)は、空気である必要はなく、液体または空気以外の気体であってもよい。
【0062】
本実施の形態のマイクロ流路チップ200では、ダイヤフラム部131の外縁の半径が弁体対向領域214の円弧の半径よりも小さいため、ダイヤフラム部131と隔壁215との間に隙間が形成されにくい(図7Bと図12Bを比較参照)。したがって、ダイヤフラム部131が弁体対向領域214側に凸の形状となった場合、ダイヤフラム部131は、隔壁215に均一に接触する。結果として、本実施の形態のマイクロ流路チップ200では、圧力室123内の圧力を過剰に高めなくても、第1の流路111内の液体140の流れを確実に止めることができる。
【0063】
以上の手順により、液体140を第1の流路110から第2の流路112に流すこと、および第1の流路110から第2の流路112への液体140の流れを止めること、を任意のタイミングで行うことができる。
【0064】
[効果]
本実施の形態のマイクロ流路チップ200は、実施の形態1のマイクロ流路チップ100と同様の効果に加えて、ダイヤフラム部131と隔壁215との間に気泡が入りにくく、より扱いやすいという効果を有する。
【0065】
なお、図13に示されるように、弁体対向領域214を構成する側壁に、樹脂フィルム130に対して垂直方向に伸びる2以上の凸条または凹条214a,214bが形成されていてもよい。この場合、2以上の凸条または凹条214a,214bは、第1の流路111の開口部に対して対称に配置されていることが好ましい。このようにすることで、弁体対向領域214内において中央部を通る液体140を優先的に流すことが可能となり、ダイヤフラム部131と隔壁215との間に気泡がより入りにくくなる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の流体取扱装置は、例えば、科学分野や医学分野などにおいて使用されるマイクロチップまたはマイクロ流路チップとして有用である。
【符号の説明】
【0067】
100,200 マイクロ流路チップ
110,210 第1の基板
111 第1の流路
112 第2の流路
113 第1の流体導入口
114,214 弁体対向領域
115,215 隔壁
116 流体取出口
120 第2の基板
121 第3の流路
122 第2の流体導入口
123 圧力室
130 樹脂フィルム
131 ダイヤフラム部
140 液体
214a,214b 凹条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流路と、前記第1の流路の一方の端部に形成され、かつ略弓形の開口部を有する弁体対向領域と、第2の流路と、前記弁体対向領域および前記第2の流路の一方の端部の間に形成された隔壁とを含む第1の基板と、
第3の流路と、前記第3の流路の一方の端部に形成され、かつ開口部を有する圧力室とを含む第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置され、略球冠状のダイヤフラム部を含む樹脂フィルムと、を有し、
前記第1の基板および前記第2の基板は、前記樹脂フィルムを介して一体化されており、
前記ダイヤフラム部は、前記弁体対向領域の開口部、前記第2の流路の一方の端部および前記隔壁と、前記圧力室の開口部との間に位置しており、
平面視したときに、前記弁体対向領域の開口部の縁に含まれる円弧の中心および前記ダイヤフラム部の外縁の中心は一致し、
前記圧力室内の圧力により前記ダイヤフラム部が前記隔壁に接触することで、前記弁体対向領域から前記隔壁と前記ダイヤフラム部との間を通って前記第2の流路へ向かう流体の流れが止まる、
流体取扱装置。
【請求項2】
前記ダイヤフラム部の外縁の半径は、前記弁体対向領域の前記円弧の半径よりも小さい、請求項1に記載の流体取扱装置。
【請求項3】
第1の流路と、前記第1の流路の一方の端部に形成され、かつ略円形の開口部を有する弁体対向領域と、第2の流路と、前記弁体対向領域および前記第2の流路の一方の端部の間に形成された隔壁とを含む第1の基板と、
第3の流路と、前記第3の流路の一方の端部に形成され、かつ開口部を有する圧力室とを含む第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置され、略球冠状のダイヤフラム部を含む樹脂フィルムと、を有し、
前記第1の基板および前記第2の基板は、前記樹脂フィルムを介して一体化されており、
前記ダイヤフラム部は、前記弁体対向領域の開口部、前記第2の流路の一方の端部および前記隔壁と、前記圧力室の開口部との間に位置しており、
平面視したときに、前記ダイヤフラム部は、前記弁体対向領域の開口部よりも大きく、かつ前記弁体対向領域の開口部の縁および前記樹脂フィルムの前記ダイヤフラム部の外縁は、同心円であり、
前記圧力室内の圧力により前記ダイヤフラム部が前記隔壁に接触することで、前記弁体対向領域から前記隔壁と前記ダイヤフラム部との間を通って前記第2の流路へ向かう流体の流れが止まる、
流体取扱装置。
【請求項4】
前記弁体対向領域を構成する側壁に、前記樹脂フィルムに対して垂直方向に伸びる2以上の凸条または凹条が形成されており、
前記2以上の凸条または凹条は、前記第1の流路の開口部に対して対称に配置されている、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の流体取扱装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の流体取扱装置を使用して流体を取り扱う方法であって、
前記第1の流路に第1の流体を導入して、前記第1の流路から、前記隔壁および前記ダイヤフラム部の間を通して前記第2の流路に前記第1の流体を移動させるステップと、
前記第3の流路を通して前記圧力室に第2の流体を導入することで、前記圧力室内の前記第2の流体の圧力により前記ダイヤフラム部を前記隔壁に接触させて、前記第1の流体の流れを止めるステップと、
を含む、流体取扱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−47672(P2013−47672A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160407(P2012−160407)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)
【Fターム(参考)】