説明

流体噴射装置、及び、医療機器

【課題】圧電素子を用いてより強い流体噴射を行うこと。
【解決手段】伸長方向と交差する交差方向に並ぶ複数の圧電素子と、前記交差方向に噴射
口を有するノズルと前記交差方向を長手方向とし前記ノズルと連通する圧力室であって、
前記複数の圧電素子の端部と対向する圧力室と、前記ノズルから離れた圧電素子から前記
ノズルに近い圧電素子へ向かって前記複数の圧電素子に電圧を印加して順次伸長させる制
御部と、を備える流体噴射装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置及び医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイアフラムに密着した圧電素子を変位させ、圧力室の容積を変更することによって、
流体をパルス状に噴射させる流体噴射装置が開発されている(特許文献1)。特許文献1
に示されるような流体噴射装置において圧力室は薄い円筒形をしている。そして、圧電素
子は円筒形圧力室の高さ方向に変位することにより圧力室を圧縮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−82202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電素子は、圧電定数や弾性定数、そして素子形状や素子サイズなどに依存し、各種振
動モードに対応する共振周波数を有しており、圧電素子の制御性の観点から、基本共振周
波数よりも十分に低い周波数で圧電素子を駆動しなければならないという制約がある。こ
のため圧電素子を用いた従来の流体噴射装置では、圧電素子の実際の最大変位速度はおよ
そ数cm/s程度と遅いため、圧力室の急激な圧縮は難しく、強い流体噴射を得ることは
困難であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、圧電素子を用いてより強い流
体噴射を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、
伸長方向と交差する交差方向に並ぶ複数の圧電素子と、
前記交差方向に噴射口を有するノズルと
前記交差方向を長手方向とし前記ノズルと連通する圧力室であって、前記複数の圧電素
子の端部と対向する圧力室と、
前記ノズルから離れた圧電素子から前記ノズルに近い圧電素子へ向かって前記複数の圧
電素子に電圧を印加して順次伸長させる制御部と、
を備える流体噴射装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態における流体噴射装置1の概略構成を示す断面図である。
【図2】圧電素子の駆動の説明図である。
【図3】圧電素子に印加される駆動波形の説明図である。
【図4】時間経過と各圧電素子の動作の説明図である。
【図5】第2実施形態における流体噴射装置101の概略構成を示す断面図である。
【図6】第2実施形態における時間経過と各圧電素子の動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
すなわち、 伸長方向と交差する交差方向に並ぶ複数の圧電素子と、
前記交差方向に噴射口を有するノズルと
前記交差方向を長手方向とし前記ノズルと連通する圧力室であって、前記複数の圧電素
子の端部と対向する圧力室と、
前記ノズルから離れた圧電素子から前記ノズルに近い圧電素子へ向かって前記複数の圧
電素子に電圧を印加して順次伸長させる制御部と、
を備える流体噴射装置である。
このような構成において圧電素子の伸長方向と交差する交差方向に並ぶ複数の圧電素子
の隣り合う圧電素子を順次伸長させることで、交差方向に流体を圧縮する速度を圧電素子
の伸長方向の変位速度よりも早くすることができる。そして、交差方向に進行する圧力波
を圧力室内に生成させ、交差方向に噴射口を有するノズルからより強い流体噴射を行うこ
とができるようになる。
【0010】
かかる流体噴射装置であって、前記制御部は、前記ノズルに最も近い圧電素子が最大変
位に伸長するまで、他の圧電素子が最大変位の伸長状態を維持するように前記圧電素子を
制御することが望ましい。
このようにすることで、圧力波がノズルがある方向とは逆方向に進行してしまうことを
妨げ、ノズルがある方向に圧力波の進行を集中させることができる。
【0011】
また、前記制御部は、隣り合う圧電素子において前記ノズルから離れている側の圧電素
子が最大伸長となる前に、前記ノズルに近い側の圧電素子の伸長を開始させることが望ま
しい。
このようにすることで、隣り合う圧電素子間で連続的圧力波を生成することができる。
【0012】
また、前記制御部は、前記複数の圧電素子を順次伸長させる際の隣り合う圧電素子間の
駆動遅延時間が、前記圧力室内を前記交差方向に進行する圧力波が隣り合う圧電素子間の
距離を伝播する時間よりも長くなるように前記圧電素子を制御することが望ましい。
このようにすることで、生成された交差方向へ進行する圧力波を隣り合う圧電素子の伸
長が妨げてしまうことを防止することができる。
【0013】
また、前記制御部は、前記交差方向における前記圧電素子の幅を前記駆動遅延時間で除
した値が、前記圧電素子の伸長方向の変位速度よりも速くなるように前記圧電素子の変位
を制御することが望ましい。
このようにすることで、圧電素子の伸長方向の変位速度よりも早い速度で流体をノズル
方向に圧縮することができ、強い圧力波をノズル方向に伝播させることができる。
【0014】
また、前記圧電素子の前記端部は前記圧力室を形成する壁部材に接していることが望ま
しい。
このようにすることで、圧電素子の変位が損失なく壁部材に伝わり、確実に圧力室を変
形させて圧力波を生成することができる。
【0015】
また、さらに、前記圧力室を挟んで前記複数の圧電素子と対向する位置に他の複数の圧
電素子を備え、前記制御部は、前記他の複数の圧電素子を制御し、前記ノズルから離れた
圧電素子から前記ノズルに近い圧電素子へ向かって、前記圧力室を挟んで対向する圧電素
子を順次伸長させることとしてもよい。
このようにすることで、圧電素子が圧力室を圧縮する速度をより高めることができるの
で、より強い圧力波を生成することができるようになる。
【0016】
また、本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項も明らかとなる。
すなわち、上記のような流体噴射装置を備えた医療機器である。
このようにすることで、液体をパルス状に高速噴射することができるので、生体組織を
切除、切開、破砕することができ、特に、血管等の細管組織を温存できる手術具として優
れた特性を有する。また、噴射する液体の量が連続高圧流を用いたものに比して極めて少
ないため、術視野の視認性に優れた医療機器を提供することができる。
【0017】
===実施形態===
図1は、第1実施形態における流体噴射装置1の概略構成を示す断面図である。図には
、圧力室10とパイプ部20とノズル30と流体供給流路40と制御部50とが示されて
いる。圧力室10とパイプ部20とノズル30と流体供給流路40のそれぞれの部材は管
状の部材である。そして、これらの部材は同一軸を直線状に連通する。図1は、これらに
より構成される管の長手方向について切断した断面図となっている。
【0018】
圧力室10は、圧電素子の変位に追従した変形が可能である材料で製造された壁面12
により管状に構成される。
【0019】
パイプ部20は、その一端の径が圧力室10の初期状態のときにおける径と同径となる
ように形成され、その径は徐々に小さく絞られ、ノズル30と接続する端部はノズル30
の径と同等程度の径にまで小さく形成されている。パイプ部20は、パイプ部20内の流
体中を伝播する圧力波が、できる限り損失なくノズルまで到達し得るのに十分な硬さを有
する材質で製造されている。
【0020】
ノズル30は噴射口であり、後述する圧力波により液体を噴射する。流体供給流路40
は、圧力室10に噴射する液体を供給するための流路である。流体供給流路40には、ポ
ンプ等の流体供給手段によって常に一定圧力あるいは一定流量の液体が供給される。これ
らノズル30及び流体供給流路40は、圧力室10に比して変形しにくい材質で製造され
、例えば金属で形成されている。
【0021】
制御部50は、圧電素子PZT〜PZTに接続され、後述する電圧波形からなる駆
動波形を印加する。そして、圧電素子PZT〜PZTのそれぞれの伸長を駆動制御す
る。
【0022】
圧力室10の上部には、複数の圧電素子PZT〜PZTが圧力室10の長手方向に
並ぶように設けられている。圧電素子PZT〜PZTは、ノズル30から最も遠い側
から番号の小さい順に並べられる。複数の圧電素子PZT〜PZTは圧力室10の長
手方向と交差する方向に伸張する。
【0023】
圧電素子PZTの伸長量は、数μm程度から十数μm程度と小さい。よって、圧電素子
PZTによって確実に圧力室10を変形させることができるように、これら圧電素子の先
端部は、圧力室10を構成する圧力室の壁面12に接していることが望ましい。
【0024】
図2は、圧電素子の駆動の説明図である。図には、前述の流体噴射装置1の横断面図と
共に、各圧電素子の駆動開始時刻tと駆動遅延時間Δtdが示されている。また、圧力室
10の長手方向における各圧電素子の幅Δzが示されている。尚、ここでは、説明を一般
化するために、圧電素子の番号がnで示され、n番目の圧電素子の駆動開始時刻がt
示される。また、圧力室10の長手方向におけるn番目の圧電素子の幅はΔzで示され
る。また、n+1番目の圧電素子の駆動開始時刻tn+1とn番目の圧電素子の駆動開始
時刻tとの差である駆動遅延時間はΔtdで示される。
【0025】
制御部50は、小さい番号の圧電素子から順に電圧波形を印加し、順に圧電素子を伸長
方向に伸長させる。例えば、時刻tに1番目の圧電素子PZTの駆動を開始し、時刻
に2番目の圧電素子PZTの駆動を開始する。以下、順次駆動し、時刻tにn番
目の圧電素子の駆動を開始する。このように圧電素子が圧力室10を順次押圧することに
より、圧力室には圧力波PWが生成される。この圧力波PWはノズル30の方向に進行す
る。
【0026】
尚、圧電素子の伸長量は、数μm程度から十数μm程度と小さいので、説明をわかりや
すくするためにここでは伸長量を誇張して図示した。
【0027】
図3は、圧電素子に印加される駆動波形の説明図である。図3を参照しつつ、電圧波形
と電圧波形の入力タイミングについて説明する。図3には、時間を横軸とし、電圧を縦軸
としたグラフが示されている。そして、図3にはn番目の圧電素子PZTに印加される
電圧波形Sが示されている。また、n番目の圧電素子PZTの駆動開始時刻tと、
駆動遅延時間Δtdとが示されている。また、n番目の圧電素子PZTに印加される
電圧波形Sが0(V)からピーク電圧Vm(V)に立ち上がるまでの時間として、Δt
が示されている。
【0028】
電圧波形Sは、時間Δtrの間に0(V)からピーク電圧Vm(V)まで急峻に立
ち上がり(この部分の波形を、立ち上がり波形と呼ぶ)、その後ピーク電圧Vmを維持し
、最終の圧電素子PZTに印加される電圧波形Sがピーク電圧Vmに達するまでその
状態を維持し、そこから徐々に電圧を低下させて0(V)になる(この部分の波形を、立
ち下がり波形と呼ぶ)駆動波形を有することが好ましい。
【0029】
ピーク電圧Vmが印加されたときに、印加される圧電素子の伸長量は最大となる。一方
、電圧0(V)のときには、圧電素子の伸長量は最小(初期状態)となる。
【0030】
後続する電圧波形Sn+1は、電圧波形Sの立ち上がりから時間差Δtdが経過後
、立ち上がりを開始し、立ち上がりを開始してから時間Δtrn+1の間に0(V)から
ピーク電圧Vm(V)まで急峻に立ち上がり、その後、ピーク電圧Vmを維持し、最終の
電圧波形Sがピーク電圧Vmに達するまでその状態を維持し、そこから徐々に電圧を低
下させて0(V)になる駆動波形を有する。
【0031】
尚、全ての電圧波形の立ち下がり波形は同じであって、これは全ての圧電素子の収縮が
同時に行われることを示している。
【0032】
このように、それぞれの圧電素子に対応する電圧波形が間断なく連続的に生成され、対
応する各圧電素子に印加される。
【0033】
立ち上がり波形を急峻にしているのは、圧力室10の容積を急激に縮小させ、圧力室1
0の内部圧力を急激に高めて圧力波を生成するためである。また、立ち下がり波形を緩や
かにしているのは、圧力室10への液体の供給を容易にするためである。また、圧電素子
の変位速度を緩やかにして破壊を防止し、さらに、電荷の除去を時間をかけて十分に行う
ためである。
【0034】
流体噴射装置1を駆動する際には、電圧波形S〜Sからなる基本電圧波形をある周
期で繰り返し印加してもよいし、ある周期で、ある有限の回数だけ繰り返し印加してもよ
い。または、基本電圧波形を単発で印加してもよい。
【0035】
前述のように圧電素子の幅をΔzとし、駆動遅延時間をΔtdとし、電圧波形S
が0(V)からピーク電圧Vm(V)に立ち上がるまでの時間をΔtrとする。そして
、流体中における圧力波の伝播速度、すなわち音速をVとすると、以下の式を満たすよ
うに各圧電素子の伸長が駆動制御されることが好ましい。
Δzn+1/Vs < Δtd < Δtr (n=1,2,3,・・・N−1)
【0036】
これは、隣り合う圧電素子間の駆動遅延時間が、隣り合う圧電素子間の距離を圧力波が
伝播する時間よりも長くなるように、各圧電素子の伸長が制御されることを表わしている
。すなわち、隣り合う圧電素子間の距離を駆動遅延時間で除した値が、流体中の音速より
小さくなるように各圧電素子の伸長が制御される。
また、駆動遅延時間Δtdが立ち上がり時間Δtrよりも短くなるように、圧電素
子の伸長が制御される。これは隣り合う圧電素子間で間断の無い連続的な圧力波が生成さ
れることを表わしている。
【0037】
さらに、圧電素子の伸長方向に対する変位速度をVpとした時、隣り合う圧電素子の中
心間の距離を駆動遅延時間で除した速度が、変位速度Vpより速くなるように各圧電素子
が駆動制御される。これは、圧電素子の伸長方向の変位速度よりも早い速度で流体をノズ
ル方向に圧縮することを表わしている。
【0038】
図4は、時間経過と各圧電素子の動作の説明図である。図には流体噴射装置1の時刻の
異なる複数の状態が示されており、z軸は圧力波の移動方向を示し、t軸は時刻を示す。
ここでは、圧電素子の数を8個として説明を行う。なお、圧電素子の伸長量は、数μm程
度から十数μm程度と小さいので、ここでも説明をわかりやすくするために伸長量を誇張
して図示している。
【0039】
時刻tにおける流体噴射装置1の図は、圧電素子PZTに電圧波形Sの印加が開
始される状態を表している。このとき、いずれの圧電素子に印加されている電圧は0(V
)であるから、いずれの圧電素子の伸長量は0であって、圧力室10の容積も初期状態(
容積最大)である。
【0040】
時刻t+Δtrにおける流体噴射装置1の図は、ノズルから最も遠い圧電素子PZ
に電圧波形Sのピーク電圧Vmが印加された状態を表している。時刻tから時刻
+Δtrにかけて、圧電素子PZTは圧力室10の容積を縮小する方向に急速に
伸長し、圧力室10内にノズル方向へと進行する圧力波を発生させる。そして、時刻t
+Δtrにおいて電圧波形Sがピーク電圧Vmに達すると、圧電素子PZTはその
伸長状態を維持する。
【0041】
また、時刻tから時刻Δtrの間には、時刻tが到来する。よって、時刻t
ら時刻Δtrの間に、圧電素子PZTには電圧波形Sの印加が開始され、その伸長
が開始していることになる。
【0042】
時刻t+Δtrにおける流体噴射装置1の図は、圧電素子PZTに電圧波形S
のピーク電圧Vmが印加された状態を表している。なお、時刻tから時刻t+Δtr
にかけて、圧電素子PZTは圧力室10の容積を縮小する方向に急速に伸長し、圧力
室10内にノズル方向へ進行する圧力波を発生させる。そして、時刻t+Δtrにお
いて電圧波形Sがピーク電圧Vmに達すると、圧電素子PZTはその伸長状態を維持
する。
【0043】
上記と同様に圧電素子PZT〜PZTのそれぞれには対応する電圧波形S〜S
が印加される。これにより、圧力室10内にノズル方向へと進行する圧力波を間断なく連
続的に発生させる。発生した圧力波は、パイプ部20を通過しノズル30に到達し、高速
噴流として流体が噴射される。
【0044】
すなわち、圧電素子PZT〜PZTに駆動電圧が印加され、ノズルから離れている
圧電素子から順に伸長する。その結果、圧力室10の容積は、ノズルから離れている側か
らノズル側に向かって急速に縮小され、圧力室10内の流体自身が有する圧縮性により圧
力が急速に上昇する。圧力室10内で急激に高められた圧力は、非常に大きな流体変位量
を伴った圧力波としてパイプ部内をノズルへ向かって伝播し始める。この圧力波は、パイ
プ部内をノズル方向へ音速で伝播し、ノズル30に到達したときに、強い高速噴流として
流体が噴射される。
【0045】
時刻tにおいて電圧波形Sがピーク電圧Vmに達すると、前述の通り電圧波形S
〜Sの電圧は0Vへと降下させられる。そのため、圧電素子PZT〜PZTは伸長
状態から元の状態へと収縮し、圧力室10は初期状態に復帰する。このとき、圧力室10
の内部圧力は低下し、流体供給流路40から液体を吸引する。
【0046】
電圧波形S〜Sが0(V)になった後、再び電圧波形Sから順にSまで入力さ
れる。このような動作を繰り返すことで、ノズル30から周期的なパルス状の流体を高速
噴射させる。
【0047】
このようにすることで、隣り合う圧電素子を圧電素子の伸長する速度よりも早く駆動さ
せ、ノズル方向に向かって急速に流体を圧縮することができるため、より強い流体噴射を
行うことができるようになる。
【0048】
図5は、第2実施形態における流体噴射装置101の概略構成を示す断面図である。図
には、圧力室110とパイプ部120とノズル130と流体供給流路140とが示されて
いる。尚、制御部を不図示としているが、第2実施形態でも制御部を有し、制御部から各
圧電素子に電圧波形を印加できるようになっている。これらの基本的な機能は、第1実施
形態のものと同様であるため、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、
その説明を省略する。第2実施形態において第1実施形態と異なっているのは、第1実施
形態では圧電素子PZT〜PZTが圧力室10の上部のみに配列されていたのに対し
、第2実施形態では、圧力室110の上部及び下部にそれぞれ圧電素子PZTu1〜PZ
u8、及び、圧電素子PZTl1〜PZTl8が配列されていることである。また、圧
電素子を圧力室110の下部にも設けたため、圧力室の径が第1実施形態のものよりも大
きくされている。
【0049】
第2実施形態では、それぞれ上下対向する圧電素子同士が同時に伸長を開始し、同時に
伸長を停止する。そのために、上側の圧電素子PZTunと下側の圧電素子PZTln
は、同じ電圧波形Sが印加される。電圧波形の形状は図3に示すものと同様である。こ
こで「同時」とは完全に同一時刻に事象が発生することのみならず、実質的に同時に事象
が発生しているとみなす事が可能なわずかな誤差がある場合も含む。
【0050】
図6は、第2実施形態における時間経過と各圧電素子の動作の説明図である。本図を参
照しつつ、第2実施形態における時間経過と圧電素子の動作について説明する。
【0051】
時刻tにおける流体噴射装置101の図は、圧電素子PZTu1及び圧電素子PZT
l1に電圧波形Sの印加が開始される状態を表している。このとき、いずれの圧電素子
に印加されている電圧は0(V)であるから、いずれの圧電素子の伸長量は0であって、
圧力室110の容積も初期状態(容積最大)である。
【0052】
時刻t+Δtrにおける流体噴射装置101の図は、ノズルから最も遠い対向する
2つの圧電素子PZTu1及び圧電素子PZTl1に電圧波形Sのピーク電圧Vmが印
加された状態を表している。時刻tから時刻t+Δtrにかけて、圧電素子PZT
u1及び圧電素子PZTl1は圧力室110の容積を縮小する方向に急速に伸長し、圧力
室110内にノズル方向へと進行する圧力波を発生させる。そして、時刻t+Δtr
において電圧波形Sがピーク電圧Vmに達すると、圧電素子PZTu1及び圧電素子P
ZTl1はその伸長状態を維持する。
【0053】
また、時刻tから時刻Δtrの間には、時刻tが到来する。よって、時刻t
ら時刻Δtrの間に、圧電素子PZTu2及び圧電素子PZTl2には電圧波形S
印加が開始され、その伸長が開始していることになる。
【0054】
時刻t+Δtrにおける流体噴射装置101の図は、圧電素子PZTu2及び圧電
素子PZTl2に電圧波形Sのピーク電圧Vmが印加された状態を表している。なお、
時刻tから時刻t+Δtrにかけて、圧電素子PZTu2及び圧電素子PZTl2
は圧力室110の容積を縮小する方向に急速に伸長し、圧力室110内にノズル方向へ進
行する圧力波を発生させる。そして、時刻t+Δtrにおいて電圧波形Sがピーク
電圧Vmに達すると、圧電素子PZTu2及び圧電素子PZTl2はその伸長状態を維持
する。
【0055】
上記と同様に圧電素子PZTu3〜PZTu8及び圧電素子PZTl3〜PZTl8
それぞれには対応する電圧波形S〜Sが印加される。これにより、圧力室110内に
ノズル方向へと進行する圧力波を間断なく連続的に発生させる。発生した圧力波は、パイ
プ部120を通過しノズル130に到達し、高速噴流として流体が噴射される。
【0056】
このようにすることで、上下同時に圧電素子を駆動することになるため、圧力室110
の体積圧縮率が第1実施形態のときよりも速くなる。そのため、第1実施形態のときより
もエネルギーの高い圧力波を生成することができ、より強い流体噴射を行うことができる
ようになる。
【0057】
また、上記の第1実施形態及び第2実施形態の流体噴射装置を医療機器に搭載すること
もできる。このとき、流体噴射装置は、複数の圧電素子を駆動することによって、ノズル
30から一連のパルス状の微少液滴を高速噴射する。パルス状の微少液滴の噴射による手
術は、生体組織の切除、切開、破砕する際、熱損傷がなく、生体組織を選択的に切除並び
に温存できるなど、手術具として優れた特性を有する。また、このような流体噴射装置を
用いて手術等を行う場合、噴射する液体量が従来の高圧定常流を用いたものに比べ少なく
、術部の視認性に優れているという利点もある。
【0058】
尚、上記の第1実施形態及び第2実施形態の構成を説明するために、ここでは圧電素子
PZTをノズル方向へ8個並べているが、個数はこれに限られず、任意の複数とすること
ができる。
【0059】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解
釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得
ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1 流体噴射装置、
10 圧力室、
20 パイプ部、
30 ノズル、
40 流体供給流路、
50 制御部、
PZT〜PZT 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸長方向と交差する交差方向に並ぶ複数の圧電素子と、
前記交差方向に噴射口を有するノズルと
前記交差方向を長手方向とし前記ノズルと連通する圧力室であって、前記複数の圧電素
子の端部と対向する圧力室と、
前記ノズルから離れた圧電素子から前記ノズルに近い圧電素子へ向かって前記複数の圧
電素子に電圧を印加して順次伸長させる制御部と、
を備える流体噴射装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ノズルに最も近い圧電素子が最大変位に伸長するまで、他の圧電素
子が最大変位の伸長状態を維持するように前記圧電素子を制御する、請求項1に記載の流
体噴射装置。
【請求項3】
前記制御部は、隣り合う圧電素子において前記ノズルから離れている側の圧電素子が最
大伸長となる前に、前記ノズルに近い側の圧電素子の伸長を開始させる、請求項1又は2
に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数の圧電素子を順次伸長させる際の隣り合う圧電素子間の駆動遅
延時間が、前記圧力室内を前記交差方向に進行する圧力波が隣り合う圧電素子間の距離を
伝播する時間よりも長くなるように前記圧電素子を制御する、請求項1〜3のいずれかに
記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記交差方向における前記圧電素子の幅を前記駆動遅延時間で除した値
が、前記圧電素子の伸長方向の変位速度よりも速くなるように前記圧電素子の変位を制御
する、請求項4に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記圧電素子の前記端部は前記圧力室を形成する壁部材に接している、請求項1〜5の
いずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項7】
さらに、前記圧力室を挟んで前記複数の圧電素子と対向する位置に他の複数の圧電素子
を備え、
前記制御部は、前記他の複数の圧電素子を制御し、前記ノズルから離れた圧電素子から
前記ノズルに近い圧電素子へ向かって、前記圧力室を挟んで対向する圧電素子を順次伸長
させる、請求項1〜6のいずれかに記載の流体噴射装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の流体噴射装置を備えた医療機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167586(P2012−167586A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28278(P2011−28278)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】