説明

流体噴射装置

【課題】噴射管と吸引管とを有する流体噴射装置を提供する。
【解決手段】流体噴射装置1は、流体を脈流に変換する脈流発生部20と、脈流発生部20に突設される吸引管80と、吸引管80に偏心して内挿されるとともに、脈流発生部20に連通する噴射開口部72を有する噴射管70と、吸引管80の内周面と噴射管70の外周面との間に形成される吸引流路81と吸引開口部82と、を有し、噴射開口部72の近傍で、噴射開口部72と吸引管80とが同心で配設されている。よって、術者は噴射開口部の位置を認識しやすく狙いの術部に流体を噴射することが容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射管と吸引管とを有する流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体噴射装置を用いて生体組織の切除・切開・破砕する方法は、熱損傷がなく、血管等の細管組織を温存できるなど手術具として優れた特性を有している。このような流体噴射装置を用いて手術等を行う場合、噴射された液体や切除組織等が術部に溜り視野が確保できないことがある。そのために液体や切除組織を吸引除去するための吸引管を併設するものがある。
【0003】
このような流体噴射装置の1例としては、高圧流体を噴射する噴射管を、吸引管の吸引流路内に、吸引流路に対して同心して配設したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の例としては、高圧流体を噴射させる噴射管を、吸引管の内周面に対して偏心させた状態で内挿した流体噴射装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、流体室の容積を容積変更手段により急激に変化させ流体を脈流に変換して噴射開口部からパルス状に高速噴射させる流体噴射装置がある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−313047号公報
【特許文献2】特開平6−90957号公報
【特許文献3】特開2008−82202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1では、吸引管の内周面と噴射管の外周面とが同心となるように配設されている。吸引流路の大きさ(吸引管の内周面と噴射管の外周面との隙間寸法)は、吸引管の内径と噴射管の外径との差の1/2となる。このような大きさで長い流路長を有する吸引流路では、大きめの切除組織は途中で詰まりやすく吸引流動することは困難である。また、吸引流路の大きさを確保するために吸引管の径を大きくすると、術者が噴射開口部の位置を認識しにくくなるという課題がある。
【0008】
また、特許文献2では、噴射管が吸引管の内周面に偏心された状態で内挿されていることから、吸引流路の大きさは、吸引管の内径と噴射管の外径との差となり、特許文献1と同じ内径の吸引管と同じ外径の噴射管を用いる場合に同心の場合よりも大きくなる。しかしながら、噴射開口部が吸引管に対して偏心していると、噴射開口部の位置が認識しにくいため、術部に対して正確な位置に流体を噴射させにくいという課題がある。
【0009】
また、高圧流体を噴射させる場合、噴射管の先端、つまり噴射開口部付近に振動が発生することがあり、狙いの術部に流体を噴射することがさらに困難となる。
【0010】
また、特許文献3による流体噴射装置は、上述した特許文献1または特許文献2の高圧流体を連続流で噴射させるものより少ない流量で切除することが可能であるが、術部の視認性を向上させるため、あるいは切除組織の吸引除去のために吸引管を設けることが求められる場合がある。このような場合、吸引流路を大きくするために、特許文献2のように噴射管を吸引管の内周面に対して偏心させた状態で内挿させる構造を採用することが可能である。しかし、流体をパルス状に噴射させる場合には、噴射管の振動は連続流噴射のものより大きくなることが予測される。
【0011】
噴射管に振動が発生した場合には、噴射管と吸引管とが当って異常な音が発生することや、噴射管の先端(噴射開口部)の振動により吸引管が共振して術部位置に流体を噴射させることが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0013】
[適用例1]本適用例に係る流体噴射装置は、流体を脈流に変換する脈流発生部と、前記脈流発生部に突設される吸引管と、前記吸引管に偏心して内挿されるとともに、前記脈流発生部に連通する噴射開口部を有する噴射管と、前記吸引管の内周面と前記噴射管の外周面との間に形成される吸引流路と当該吸引流路の端部に形成される吸引開口部と、を有し、前記噴射開口部の近傍で、前記噴射開口部と前記吸引管とが同心で配設されていることを特徴とする。
【0014】
本適用例によれば、噴射開口部の近傍では、噴射開口部と吸引管とが同心で配設されているため、術者は噴射開口部の位置を認識しやすく狙いの術部に流体を噴射することが容易となる。
【0015】
一方、噴射管は、噴射開口部近傍以外の大部分の長さ領域において吸引管の内周面に対して偏心して内挿されている。例えば、吸引管の内径をd1、噴射管の外径をd2とすれば、吸引流路の大きさ(隙間寸法)はd1−d2となり、吸引管と噴射管とを単純に同心とする場合の吸引流路の大きさは(d1−d2)/2となる。よって、偏心させた場合の吸引流路の大きさは、同心にする場合よりも大きくなる。従って、吸引流路が長い場合であっても切除組織を吸引流動し、除去することを可能となる。
【0016】
[適用例2]上記適用例に係る流体噴射装置は、前記吸引管と前記噴射管とが偏心されている領域の少なくとも前記噴射開口部側において、前記吸引管と前記噴射管とが固定されていることが好ましい。
【0017】
このように、噴射管を噴射開口部の付近で吸引管の内周面に固定していることから噴射管の先端部の振動を抑制することができる。また、振動により噴射管と吸引管とが当って異常な音が発生することを防止し、振動により噴射管の先端(噴射開口部)が動くことがなく、この振動により発生する吸引管の共振を抑え、術部に正確に流体を噴射させることができるという効果がある。
【0018】
[適用例3]上記適用例に係る流体噴射装置は、前記噴射管は、前記噴射開口部が前記噴射管に対して偏心して開口され、且つ前記噴射開口部の周縁に壁部が形成されていることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、吸引管に対して噴射管は偏心しており、噴射開口部のみが同心の関係にある。よって、吸引開口部及び吸引流路を同心の場合に比べ大きくすることができる。
【0020】
噴射管に対して噴射開口部を偏心させて開口すると、噴射開口部の周縁には壁部が形成される。ここで、特許文献3のように脈流発生部により高圧を発生し流体をパルス状に高速噴射させる場合には、流体の圧力波が脈流発生部から噴射管内を伝播して噴射開口部周縁の壁部まで達して反射し、脈流発生部まで戻ってくる。この圧力波の共振効果により、流体をより強くパルス噴射させることができるという効果がある。
【0021】
[適用例4]上記適用例に係る流体噴射装置は、前記吸引管に、前記吸引開口部の周縁にかけて形成される切欠き部が設けられていることが望ましい。
【0022】
吸引開口部の周縁にかけて切欠き部を形成することで、術者は噴射開口部の位置をより明確に認識することができ、また、吸引開口部をこの切欠き部の分だけ大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態1に係る流体噴射装置を示す構成説明図。
【図2】第1実施例に係る脈流発生部、噴射管及び吸引管を流体の噴射方向に沿って切断した切断面を示す断面図。
【図3】第2実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示し、(a)は部分断面図、(b)は(a)の先端方向(図示E方向)から視認した正面図。
【図4】第3実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示す部分断面図。
【図5】第4実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示す部分断面図。
【図6】第5実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示す部分断面図。
【図7】第6実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示し、(a)は部分断面図、(b)は先端方向から視認した正面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明で参照する図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
(実施形態1)
【0025】
図1は、実施形態1に係る手術具としての流体噴射装置を示す構成説明図である。よって、以下で説明する流体は生理食塩水である。図1において、流体噴射装置1は、流体を収容する流体供給容器2と、流体供給手段としての供給ポンプ10と、供給ポンプ10から供給される流体を脈流(以降、パルス流と表すことがある)に変換させる脈流発生部20と、脈流発生部20に連通する噴射管70と、脈流発生部20に突設される吸引管80と、吸引手段としての吸引ポンプ11と、吸引された排液や切除組織を収容する排液容器3と、から構成されている。脈流発生部20と供給ポンプ10と流体供給容器2とは流体供給チューブ4によって接続されている。また、吸引管80と吸引ポンプ11と排液容器3とは吸引チューブ5によって接続されている。
【0026】
なお、脈流発生部としては、圧電素子を用いたピエゾ方式や、バブルジェット(登録商標)方式等、流体を脈流に変換してパルス状に噴射させることが可能な方式であれば適合可能であるが、以下に説明する脈流発生部はピエゾ方式を例示して説明する。
【0027】
噴射管70は、脈流発生部20の内部に形成される流体室60に連通する噴射流路71を有し、先端部には流路が縮小された噴射開口部72が開口されている。
【0028】
噴射管70は、吸引管80の内周面に外周面が接触するように偏心して吸引管80に内挿されている。そして、噴射管70は、噴射開口部72の近傍で曲げられており、噴射開口部72と吸引管80とは同心となるように配設されている。吸引管80の内周面と噴射管70の外周面との間に形成される隙間が吸引流路81であり、吸引流路81の噴射開口部72側の端部に吸引開口部82が設けられる。なお、噴射管70は、流体噴射時において変形しない程度の剛性を有し、吸引管80は噴射管70よりも剛性が高いことが望ましい。
【0029】
次に、このように構成された流体噴射装置1における流体の流動を簡単に説明する。流体供給容器2に収容された流体は、供給ポンプ10によって吸引され、一定の圧力で流体供給チューブ4を介して脈流発生部20に供給される。脈流発生部20には、流体室60と、この流体室60の容積を変化させる容積変更手段としての圧電素子30とダイアフラム40と、が備えられており、圧電素子30を駆動して流体室60内において脈流を発生させ、噴射流路71を通って噴射開口部72から流体をパルス状に高速噴射する。
【0030】
なお、脈流発生部20が駆動を停止している場合、つまり、流体室60の容積を変更させないときには、供給ポンプ10から一定の圧力で供給された流体は流体室60を通って、噴射開口部72から連続流噴射される。
【0031】
ここで脈流とは、流体の流れる方向が一定で、流体の流量または流速が周期的または不定期な変動を伴った流体の流動を意味する。脈流には、流体の流動と停止とを繰り返す間欠流も含むが、流体の流量または流速が周期的または不定期な変動をしていればよいため、必ずしも間欠流である必要はない。
【0032】
同様に、流体をパルス状に噴射するとは、噴射する流体の流量または移動速度が周期的または不定期に変動した流体の噴射を意味する。パルス状の噴射の一例として、流体の噴射と非噴射とを繰り返す間欠噴射が挙げられるが、噴射する流体の流量または移動速度が周期的または不定期に変動していればよいため、必ずしも間欠噴射である必要はない。
【0033】
次に、吸引について説明する。噴射開口部72から噴射された流体は、術部において排液として滞留する。また、術部には切除された生体組織(以降、切除組織と表す)が存在する。これら排液や切除組織は、吸引ポンプ11によって吸引開口部82から吸引され、吸引流路81及び吸引チューブ5を通って排液容器3に収容される。吸引ポンプ11の駆動は、脈流発生部20の駆動に連動させてもよく、定期的に間欠駆動させても、必要性が生じたときに駆動してもよい。
【0034】
なお、噴射管70及び吸引管80の形状及び構造は、いくつか複数通りのものが考えられる。そこで、それらを具体的な実施例として図面を参照して説明する。
(第1実施例)
【0035】
まず、第1実施例について説明する。
図2は、第1実施例に係る脈流発生部、噴射管及び吸引管を流体の噴射方向に沿って切断した切断面を示す断面図である。脈流発生部20は、供給ポンプ10から流体供給チューブ4を介して流体室60に流体を供給する入口流路61と、流体室60の容積を変化させる容積変更手段としての圧電素子30及びダイアフラム40と、流体室60に連通する出口流路62と、を有している。
【0036】
ダイアフラム40は、円盤状の金属薄板からなり、下ケース50と上ケース52によって密着固定されている。圧電素子30は、本実施形態では積層型圧電素子を例示しており、両端部の一方が上板35を介してダイアフラム40に、他方が底板51に固着されている。
【0037】
流体室60は、上ケース52のダイアフラム40に対向する面に形成される凹部とダイアフラム40とによって形成される空間である。流体室60の略中央部には出口流路62が開口されている。
【0038】
上ケース52と下ケース50とは、それぞれ対向する面において接合一体化されている(図2ではダイアフラム40を介在させている)。上ケース52には、出口流路62に連通する噴射流路71を有する噴射管70が圧入され、噴射管70の先端部には流路径が縮小された噴射開口部72が開口されている。なお、噴射開口部72をノズルで構成してもよい。
【0039】
また、上ケース52には、噴射管70の外套管としての吸引管80が突設されている。吸引管80の脈流発生部20側の基端部付近には管壁を貫通する開口部83が開口され、吸引チューブ5がこの開口部83に連通するよう取り付けられている。なお、術者は脈流発生部20を把持して操作するため、吸引チューブ5の脈流発生部20付近の延在方向は、流体供給チューブ4と同じ方向にすることで、操作性を向上させることができる。
【0040】
図示するように、噴射管70は吸引管80に偏心した状態で内挿されている。また、噴射管70は、噴射開口部72の近傍で曲げられ、噴射開口部72と吸引管80とが同心で配設されている。Pは、噴射開口部72及び吸引管80の中心を表している。
【0041】
第1実施例では、吸引管80の内周面に噴射管70の外周面が接触する構造となっている。このような構造では、噴射管70を吸引管80に内挿して、吸引管80の内周面と噴射管70の外周面とを当接させた状態で、接着剤等で固定しておき、上ケース52に圧入すれば組み込みが可能である。この際、図2に示すように噴射管70の上ケース52側基端部を吸引管80の基端部よりも突出させて上ケース52に圧入し、吸引管80は上ケース52とは遊勘の関係にして接着剤等で固定すればよい。なお、噴射管70及び吸引管80の上ケース52への固定には、接着剤、ロウ材等でシーリング補強することが望ましい。
【0042】
噴射管70と吸引管80との固定は、互いの長さ方向の接触範囲全体とすることが望ましいが、少なくとも噴射開口部72の先端付近(図2、図示Bの範囲)を固定すればよい。例えば、図示Bの範囲は噴射管70の全長の半分よりも噴射開口部72に近い側に設けられる。この場合、上ケース52に噴射管70、吸引管80の順に挿着した後、図示Bの範囲を接着剤、ロウ材等で接着固定するか、溶接等の固定手段を用いて固定すればよい。
【0043】
吸引管80の内周面と噴射管70の外周面との隙間が吸引流路81であって、吸引管80の流路径をd1、噴射管70の外径をd2とすると、(d1−d2)が吸引流路81の大きさとなる。
【0044】
ところで、特許文献1では、噴射管70が吸引管80に同心となるよう内挿されている。このような場合の吸引流路81の大きさは、(d1−d2)/2となり、吸引流路81の総面積は同じであっても、吸引流路81の大きさは偏心させた本実施例の方が大きくなる。
【0045】
第1実施例では、噴射管70と吸引管80とは先端部近傍では同心である。よって、同心の範囲の吸引流路81の大きさは、(d1−d2)/2となる。よって、偏心させた領域よりも吸引流路は小さくなる。このことから、噴射管70の曲げ部位置70aは、製造上可能な限り先端部に近い方がよい。
【0046】
また、吸引管80に設けられる開口部83及び吸引チューブ5の流路の大きさは、吸引開口部82の流路断面積と同じにするか、大きくすることが望ましい。
【0047】
また、図2では、吸引管80の内周面と噴射管70の外周面とが接するように配設されているが、僅かな隙間があってもよい。
【0048】
次に、本実施例における脈流発生部20のパルス流噴射動作について図1、図2を参照して説明する。供給ポンプ10によって入口流路61には一定の圧力で流体が供給されている。なお、供給ポンプ10からの流体供給量は噴射開口部72からのパルス流噴射量とほぼ等しい量であればよい。ここで、圧電素子30が動作を行わない場合、供給ポンプ10の吐出力と入口流路61側全体の流路抵抗の差によって流体は流体室60内に流動する。
【0049】
圧電素子30に駆動信号が入力され、圧電素子30がダイアフラム40の流体室60側の面に対して垂直方向に急激に伸長すると流体室60の容積が縮小され、流体室60内の圧力は、急速に上昇して数十気圧に達する。
【0050】
このとき、入口流路61から流体が流体室60へ流入する流量の減少量よりも、出口流路62から吐出される流体の増加量の方が大きいため噴射流路71に脈流が発生する。この吐出の際の圧力変動が噴射流路を伝播して、先端の噴射開口部72からパルス化された流体が高速で噴射される。
【0051】
以上説明した第1実施例によれば、噴射開口部72の近傍では、噴射開口部72と吸引管80とが同心で配設されているため、術者は噴射開口部の位置を認識しやすく狙いの術部に流体を噴射することが容易となる。
【0052】
また、噴射管70は、噴射開口部72近傍以外の大部分の長さ領域において吸引管80の内周面に対して偏心して内挿されている。従って、偏心させた場合の吸引流路81の大きさは、同心にする場合の吸引流路の大きさよりも大きくなる。従って、吸引流路81が長い場合であっても切除組織の流動抵抗を減じ吸引除去することができる。
【0053】
なお、噴射開口部と吸引管とを同心で配設することで、吸引口付近に関して、吸引管と噴射管との隙間寸法が大きく確保できなくなることがある。この場合、仮に吸引口に切除組織が吸い付いてしまっても、吸引力を調整すれば吸い付いた切除組織は比較的簡単に取れる。一方で、吸引流路の途中で切除組織が詰まると除去が難しいため、本実施例のように、先端部を除いて吸引流路が大きくなるように構成される。吸引流路は、吸引口から吸い込み側に向かって隙間が広くなるか、少なくとも同じ隙間を維持するほうが好ましい。
【0054】
また、噴射管70を噴射開口部72の近傍で吸引管80の内周面に固定していることから噴射管70の先端部の振動を抑制することができる。また、振動により噴射管70と吸引管80とが当って異常な音が発生することを防止し、振動により噴射管70の先端(噴射開口部72)が動くことがなく、この振動により発生する吸引管80の共振を抑え、術部位置に正確に流体を噴射させることができるという効果がある。
【0055】
なお、第1実施例では、吸引管80を上ケース52に固定する構造を例示したが、上ケース52を突出させて吸引管とすることも可能である。
また、吸引チューブ5の配設位置、延在方向は特に限定されないが、術者は脈流発生部20を把持して操作するので、脈流発生部20の近傍では、吸引チューブ5と流体供給チューブ4とを互いに沿うように延在することで、操作するときのバランスがよくなり、操作性を向上させることができる。
(第2実施例)
【0056】
続いて、第2実施例について図面を参照して説明する。第2実施例は、前述した第1実施例が、噴射管70を曲げて噴射開口部72と吸引管80とを同心にしていることに対して、噴射開口部72を吸引管80と同心としていることを特徴としている。よって、第1実施例との相違箇所を中心に、第1実施例と同じ符号を付して説明する。
【0057】
図3は、第2実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示し、(a)は部分断面図、(b)は(a)の先端方向(図示E方向)から視認した正面図である。噴射管70は吸引管80に対して偏心して内挿されている。そして、先端部(図示Bの範囲)において、噴射管70と吸引管80とを接着剤、ロウ材等により接着固定、または溶接等の固定手段を用いて固定されている。
【0058】
噴射管70は、噴射開口部72が噴射流路71に対して偏心して開口されている。そして、噴射開口部72は、吸引管80に対しては同心となる位置に配設される。従って、噴射開口部72の周縁には壁部73が形成される。
【0059】
第1実施例(図2、参照)で説明したように、圧電素子30に駆動信号が入力され、圧電素子30がダイアフラム40の流体室60側の面に対して垂直方向に急激に伸長すると流体室60の容積が縮小され、流体室60内の圧力は、急速に上昇して数十気圧に達する。このときの圧力波は、流体室60から噴射開口部72まで伝播し、壁部73で反射されて流体室60に戻る。このサイクルに合うような周波数で圧電素子30に駆動信号を入力すると、圧力波は圧電素子30の駆動と共振関係にあるといえる。よって、圧力波の共振効果により、流体をより強くパルス状に噴射させることができる。
【0060】
また、噴射管70と吸引管80とは、吸引開口部82を含めて吸引管80の長さ範囲に偏心させているため、吸引流路81の長さ全体の流路が同心の場合より大きくできるので、大きめの切除組織の吸引除去が可能となる。
(第3実施例)
【0061】
続いて、第3実施例について図面を参照して説明する。第3実施例は、前述した第2実施例の変形例であって、噴射開口部をノズルで形成したことを特徴とする。よって、第2実施例との相違箇所を中心に説明する。
【0062】
図4は、第3実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示す部分断面図である。噴射管70の先端部にはノズル75が挿着されている。ノズル75には噴射開口部76が開口され、この噴射開口部76は、吸引管80とは同心位置にある。そして、噴射開口部76の周縁には壁部77が形成される。噴射開口部76は図3の噴射開口部72に相当し、壁部77は、図3の壁部73に相当する。
【0063】
よって、第3実施例は、前述した第2実施例と同様な効果が得られる。
また、第2実施例の噴射開口部72を細長い噴射管70の先端に開口することに対して、ノズル75に噴射開口部76を開口するため、製造しやすいという効果がある。
(第4実施例)
【0064】
続いて、第4実施例について図面を参照して説明する。第4実施例は、前述した第1実施例の変形例であって、吸引開口部82の大きさを吸引流路81の大きさとほぼ同じ大きさとなる形状にすることに特徴を有する。よって、第1実施例との相違箇所を中心に説明する。
【0065】
図5は、第4実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示す部分断面図である。吸引管80の先端部84は、噴射管70の曲げ部位置70aの近傍で、それ以外の部位よりも大きく広げられている。先端部84と噴射開口部72は同心の関係にある。先端部84における流路81aは、吸引流路81とほぼ同じ大きさである。
【0066】
従って、噴射開口部72と吸引管80とが同心にあることの効果が得られると共に、吸引開口部82と吸引流路81とが、ほぼ同じ大きさで連続しているので、第1実施例に(図2、参照)対して大きめの切除組織を吸引することができる。
【0067】
なお、先端部84の形状は、先端方向に広がるテーパー形状としてもよい。
(第5実施例)
【0068】
続いて、第5実施例について図面を参照して説明する。第5実施例は、前述した第1実施例から第4実施例の流体噴射方向が、噴射流路71に対して直線上または平行であることに対して、噴射流路71に対して傾斜した方向に向いていることに特徴を有している。
手術部位によっては、噴射管70の延在方向とはずれた位置の切除を行う場合がある。本実施例は、そのような場合に対応可能な形態を有する。なお、第1実施例の構造をベースにして、第1実施例との共通機能要素には同じ符号を付して説明する。
【0069】
図6は、第5実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示す部分断面図である。噴射管70及び吸引管80は先端部において曲げられ、曲げ部より先端部において噴射管70と吸引管80は同心としている。よって、噴射開口部72は、吸引管80の中心線P上に配置されている。そして、曲げ部よりも基端側で、接着剤、ロウ材等で固定、または溶接等の固定手段を用いて吸引管80の内周面に固定されている。
【0070】
なお、吸引管80の流路径をd1とし、噴射管70の曲げ高さをhで表したとき、流路径d1は、h<d1の関係になるように設定する。このようにすることで、噴射管70を吸引管80に内挿することが可能となる。
【0071】
このような構成によれば、噴射管70(吸引管80)直線上からずれた位置の切除と、切除組織の吸引除去を行うことができる。
(第6実施例)請求項4
【0072】
次に、第6実施例について図面を参照して説明する。前述した各実施例で説明したように、噴射開口部72は吸引管80と同心に配置されており、このことにより、術者は噴射開口部72の位置を認識しやすくしている。本実施例は、吸引管80に、吸引開口部82の周縁にかけて切欠き部を設けることにより、噴射開口部72を視認可能な構成にしていることを特徴としている。なお、第1実施例の構造をベースにして、第1実施例との共通機能要素には同じ符号を付して説明する。
【0073】
図7は、第6実施例に係る噴射管及び吸引管の先端部構造を示し、(a)は部分断面図、(b)は先端方向(矢印E方向)から視認した正面図である。図7(a),(b)において、吸引管80の噴射開口部72の近傍には、切欠き部86が形成されている。切欠き部86は、吸引開口部82の周縁にかかる位置に形成されており、術者は噴射管70の先端部(噴射開口部位置)を視認することが可能である。
【0074】
従って、吸引管80の先端部に切欠き部86を設けることによって、術者は噴射管70の先端部(噴射開口部位置)を直接認識して操作することがきる。よって、正確な術部に流体を噴射し、切除することができる。
【0075】
また、切欠き部86を設けることにより、吸引開口部82の大きさをさらに補完することができ、切除組織の吸引除去能力を向上させることができる。
【0076】
なお、切欠き部の位置は、図7に示すような噴射開口部72の偏心側に限られず、噴射開口部72の偏心側の反対としても良い。また、切欠き部は、一つに限らず複数個設ける構成としてもよい。例えば、図7に示す切欠き部86と対向する位置にもう一つの切欠き部を設けることが可能である。このように切欠き部を複数個設ければ、吸引開口部における切除組織の吸引能力を高めることができる。
【符号の説明】
【0077】
1…流体噴射装置、20…脈流発生部、70…噴射管、72…噴射開口部、80…吸引管、81…吸引流路、82…吸引開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を脈流に変換する脈流発生部と、
前記脈流発生部に突設される吸引管と、
前記吸引管に偏心して内挿されるとともに、前記脈流発生部に連通する噴射開口部を有する噴射管と、
前記吸引管の内周面と前記噴射管の外周面との間に形成される吸引流路と該吸引流路の端部に形成される吸引開口部と、を有し、
前記噴射開口部の近傍で、前記噴射開口部と前記吸引管とが同心で配設されていることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置において、
前記吸引管と前記噴射管とが偏心されている領域の少なくとも前記噴射開口部側において、前記吸引管と前記噴射管とが固定されていることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体噴射装置において、
前記噴射管は、前記噴射開口部が前記噴射管に対して偏心して開口され、且つ前記噴射開口部の周縁に壁部が形成されていることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の流体噴射装置において、
前記吸引管に、前記吸引開口部の周縁にかけて形成される切欠き部が設けられていることを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−193949(P2011−193949A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62078(P2010−62078)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】