説明

流体圧回路の制御装置および作業機械

【課題】流体圧アクチュエータの圧力制御のために設けられた電磁式可変リリーフ弁のリリーフ設定圧力に対するリリーフ圧精度の向上を図る。
【解決手段】アタッチメントシリンダ15に供給する作動油の圧力を電気的に指令可能な設定圧力に制御するために設けられている電磁式可変リリーフ弁33をコントローラ31により制御する。コントローラ31には、電磁式可変リリーフ弁33のリリーフ設定圧力およびリリーフ弁通過流量に関する入力信号に基づき上記電磁式可変リリーフ弁33のオーバーライド圧力特性を補正したリリーフ設定圧力に関する指令信号を上記電磁式可変リリーフ弁33に出力することを可能とする制御ロジックを盛り込み、このコントローラ31により制御を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁式可変リリーフ弁を備えた流体圧回路の制御装置およびこの制御装置を備えた作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に示されるように、建設機械の油圧回路で用いられるツールコントロールシステムは、可変容量型ポンプ1から吐出された作動油をコントロール弁2で制御してアタッチメントツール3に供給する外部の出力通路4に、外部リリーフ弁として電磁式可変リリーフ弁5を採用しており、この電磁式可変リリーフ弁5は、図9に示されるように指令電流値A0〜A7によってリリーフ圧力を設定できるため、図8に示されるように、建設機械などのキャブ内に設置された入力手段のモニタ6で選択したリリーフ設定圧力に基づき、機体コントローラ7が指令電流値A0〜A7の中から対応する電流値を電磁式可変リリーフ弁5に出力することで、リリーフ弁に付いているネジを手動で回すことなく、そのリリーフ設定圧力を容易に変更できるシステムとなっている。
【0003】
しかし、従来のツールコントロールシステムでは、いったん所定の電流値にてリリーフ圧力を設定すると、そのリリーフ設定圧力に応じた一定電流でリリーフ弁を制御しているので、図9に示されるようにリリーフ弁を通過する流量が増加すると弁抵抗による圧力が上昇するオーバーライド圧力特性が現われ、リリーフ設定圧力と実際の圧力が異なる問題がある。
【0004】
一方、図10に示されるように、油圧プレスなどの油圧制御では、可変容量型ポンプ8より吐出される流量を指令する信号であるポンプ指令流量に基いて、制御装置9が電磁式可変リリーフ弁10のオーバーライド圧力特性を補正するようにした圧力制御方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−146900号公報(第2頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたオーバーライド圧力補正技術は、ポンプ指令流量に基いて電磁式可変リリーフ弁のオーバーライド圧力特性を補正するので、複数の流体圧アクチュエータを有する機体においては、特定の流体圧アクチュエータのリリーフ圧を精度良くオーバーライド圧力補正することができない。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、特定の流体圧アクチュエータの圧力制御のために設けられた電磁式可変リリーフ弁のリリーフ設定圧力に対するリリーフ圧精度の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明は、作動流体により流体圧アクチュエータを作動する流体圧回路の制御装置において、上記流体圧アクチュエータに供給される作動流体の流体圧力を電気的に指令可能なリリーフ設定圧力に制御する電磁式可変リリーフ弁と、上記電磁式可変リリーフ弁のリリーフ設定圧力およびリリーフ弁通過流量に関する入力信号に基づき上記電磁式可変リリーフ弁のオーバーライド圧力特性を補正したリリーフ設定圧力に関する指令信号を上記電磁式可変リリーフ弁に出力する制御手段とを具備した流体圧回路の制御装置である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載の流体圧回路の制御装置における上記制御手段が、上記リリーフ設定圧力と、上記リリーフ弁通過流量と、上記オーバーライド圧力特性を補正したオーバーライド補正圧力との関係から予め作成された3次元マップにリリーフ設定圧力およびリリーフ弁通過流量を入力することで、オーバーライド補正圧力を演算する機能を備えたオーバーライド補正圧力演算部と、上記リリーフ設定圧力から上記オーバーライド補正圧力演算部で算出した上記オーバーライド補正圧力を差し引いてオーバーライド圧力補正後のリリーフ設定圧力を算出する減算部とを具備した流体圧回路の制御装置である。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1記載の流体圧回路の制御装置における上記制御手段が、複数のリリーフ設定圧力と、各リリーフ設定圧力においてリリーフ弁通過流量に対する上記オーバーライド圧力特性を線形近似した場合の一定流量におけるオーバーライド圧力との関係から予め作成された2次元マップにリリーフ設定圧力を入力することで、リリーフ弁通過流量とオーバーライド圧力の特性を決定し、この決定されたリリーフ弁通過流量とオーバーライド圧力の特性に、リリーフ弁通過流量を掛けることでオーバーライド圧力を算出する機能を備えたオーバーライド補正圧力演算部と、上記リリーフ設定圧力から上記オーバーライド補正圧力演算部で算出した上記オーバーライド補正圧力を差し引いてオーバーライド圧力補正後のリリーフ設定圧力を算出する減算部とを具備した流体圧回路の制御装置である。
【0011】
請求項4に記載された発明は、請求項1乃至3のいずれか記載の流体圧回路の制御装置において、複数の流体圧アクチュエータを制御するコントロール弁のセンタバイパス通路から可変容量型ポンプの容量可変手段に対してネガティブフローコントロール圧を導くネガティブフローコントロール圧通路と、このネガティブフローコントロール圧通路中に設けられて特定アクチュエータに応じたポンプ流量制限値によりポンプ流量を制限するポンプ流量制限制御部と、このポンプ流量制限制御部に出力されるポンプ流量制限値を設定した入力手段とを備え、制御手段は、入力手段に設定されたポンプ流量制限値を上記特定アクチュエータ制御用の電磁式可変リリーフ弁の通過流量を表わす推定値として用いる流体圧回路の制御装置である。
【0012】
請求項5に記載された発明は、機体と、この機体に搭載され複数の流体圧アクチュエータにより作動される作業装置と、この作業装置の先端部に装着されたアタッチメントツールと、このアタッチメントツールを作動する流体圧アクチュエータに対して設けられた請求項1乃至4のいずれか記載の流体圧回路の制御装置とを具備した作業機械である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、制御手段により、流体圧アクチュエータへの通路をリリーフ設定圧力に制御する電磁式可変リリーフ弁のリリーフ設定圧力およびリリーフ弁通過流量に関する入力信号に基づき、この電磁式可変リリーフ弁のオーバーライド圧力特性を補正し、その補正したリリーフ設定圧力に関する指令信号を電磁式可変リリーフ弁に出力するので、特定の流体圧アクチュエータの圧力制御のために設けられた電磁式可変リリーフ弁のリリーフ設定圧力に対するリリーフ圧精度の向上を図ることができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、3次元マップを備えたオーバーライド補正圧力演算部と、オーバーライド圧力補正後のリリーフ設定圧力を算出する減算部とを用いてオーバーライド補正を正確に実現できる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、リリーフ弁通過流量に対する上記オーバーライド圧力特性を線形近似した2次元マップを備えたオーバーライド補正圧力演算部と、オーバーライド圧力補正後のリリーフ設定圧力を算出する減算部とを用いてオーバーライド補正を容易に実現できる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、制御手段は、入力手段に設定された、ネガティブフローコントロール圧通路中に設けられて特定アクチュエータに応じたポンプ流量制限値によりポンプ流量を制限するポンプ流量制限制御部へのポンプ流量制限値を、特定アクチュエータ制御用の電磁式可変リリーフ弁の通過流量を表わす推定値として用いるので、入力手段に設定されたポンプ流量制限値により電磁式可変リリーフ弁の通過流量を簡便に推定できる。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、作業装置の先端部に装着されたアタッチメントツールを作動する特定の流体圧アクチュエータの圧力制御のために設けられた電磁式可変リリーフ弁のオーバーライド圧力特性を補正してリリーフ設定圧力に対するリリーフ圧精度の向上を図れる作業機械を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る流体圧回路の制御装置の一実施の形態を示す回路概念図である。
【図2】同上制御装置の第1補正ロジック例を示すブロック図である。
【図3】同上制御装置の第2補正ロジック例を示すブロック図である。
【図4】同上制御装置の電磁式可変リリーフ弁のオーバーライド圧力特性とその補正原理を説明するための特性図である。
【図5】同上制御装置の電磁式可変リリーフ弁のオーバーライド圧力特性補正例を示す特性図である。
【図6】同上制御装置を搭載した作業機械の側面図である。
【図7】図1に示されたコントロール弁を回路図化した回路図である。
【図8】従来の建設機械の油圧回路で用いられるツールコントロールシステムを示す概念図である。
【図9】電磁式可変リリーフ弁のオーバーライド圧力特性を説明するための特性図である。
【図10】従来のオーバーライド圧力補正システムを示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、図1乃至図7に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0020】
図6は、油圧ショベル型の作業機械Mを示し、下部走行体11aに対し上部旋回体11bが旋回可能に設けられた機体11に、キャブ12および作業装置13が搭載され、この作業装置13の先端部にアタッチメントツール14が脱着可能に装着されている。
【0021】
この種のアタッチメントツールとしては、油圧ブレーカ(ハンマ)のような単動回路を用いるツールや、グラップル・破砕機といった複動回路を用いるツールがある。複動回路を用いるツールとしては、図6に示されるように流体圧アクチュエータかつ特定アクチュエータとしてのアタッチメントシリンダ15により1対の把持刃16などを開閉作動するアタッチメントツール14がある。
【0022】
作業装置13は、上部旋回体11bにブーム13bmの基端が上下方向回動自在に軸支され、このブーム13bmの先端にスティック13stが回動自在に軸支され、このスティック13stの先端にアタッチメントツール14が回動可能に軸支され、ブーム13bmはブームシリンダ13bmcによって回動され、スティック13stはスティックシリンダ13stcにより回動され、アタッチメントツール14は、バケットシリンダ13bkcにより回動される。アタッチメントツール14の開閉作動は、アタッチメントシリンダ15によりなされる。
【0023】
この図6に示された作業機械Mに、図1に示された流体圧回路の制御装置Aが搭載されている。作動流体は作動油とする。
【0024】
図1および図1のコントロール弁を回路図化した図7は、流体圧回路の制御装置Aの概要を示し、機体11に搭載された可変容量型ポンプ21の吐出口が、このポンプ21から吐出された作動油を制御するコントロール弁22に接続され、このコントロール弁22を構成する複数のアクチュエータ制御用スプール22spにより方向制御および流量制御される作動油の出力通路23が、例えば油圧ショベルの左右走行モータ、旋回モータ、ブームシリンダ13bmc、スティックシリンダ13stc、バケットシリンダ13bkcおよびアタッチメントシリンダ15などの各油圧アクチュエータに接続されている。
【0025】
コントロール弁22内のセンタバイパス通路24には、ネガティブフローコントロール圧(以下、ネガコン圧という)を取り出すためのリリーフ弁25R、オリフィス25oおよびネガコン圧通路25Lが設けられ、可変容量型ポンプ21は、ネガティブフローコントロール圧通路すなわちネガコン圧通路25Lにより導出されたネガコン圧により制御される容量可変手段26を備えている。コントロール弁22の各アクチュエータ制御用スプール22spがアクチュエータを停止させる中立位置に近いほど、ネガコン圧は大きくなり、容量可変手段26は可変容量型ポンプ21の吐出流量を少なくするように制御する。このようにして、ネガコン圧による流量制限システムが構成されている。
【0026】
このネガコン圧通路25L中に、特定アクチュエータとしてのアタッチメントシリンダ15の作動に応じたポンプ流量制限値によりポンプ流量を制限するポンプ流量制限制御部27が設けられている。
【0027】
このポンプ流量制限制御部27は、ネガコン圧通路25L中に設けられたシャトル弁28aと、このシャトル弁28aを介してネガコン圧通路25Lに接続された電磁比例弁28bとを備え、この電磁比例弁28bにより、ネガコン圧通路25Lを利用して可変容量型ポンプ21の吐出流量を制御できるように構成されている。
【0028】
すなわち、キャブ12内に設置された入力手段としてのモニタ29からポンプ吐出流量を設定することが可能となり、モニタ29から入力されたポンプ吐出流量設定値が、モニタ29に接続された制御手段としての油圧ショベルの機体コントローラ(以下、単にコントローラという)31を介して対応する電流値に変換され、この電流値が制御手段31から電磁比例弁28bのソレノイドに入力され、電磁比例弁28bにて1次圧Pを電流値に応じて減圧制御した2次圧が、シャトル弁28aを経て容量可変手段26に作用し、可変容量型ポンプ21の吐出流量を制御する。
【0029】
また、コントロール弁22から各油圧アクチュエータに接続された作動油の出力通路23とタンク32との間には、キャブ12内に設置されたモニタ29から出力通路23の流体圧力を電気的に指令可能なリリーフ設定圧力に制御する電磁式可変リリーフ弁33が設けられている。
【0030】
この電磁式可変リリーフ弁33は、キャブ12内のオペレータがモニタ29で選択した値に基づいて、コントローラ31からソレノイド33solに出力される指令電流値に応じたリリーフ設定圧力に出力通路23の圧力を制御する圧力制御弁である。
【0031】
図4は、ある電磁式可変リリーフ弁33の特性を示し、指令電流値が小さいほど(A0<A1<…<A6<A7)、リリーフ設定圧力が高くなる場合を示している。また、電磁式可変リリーフ弁33を通過する流量が増加するほどオーバーライド圧力特性が顕著に現われるとともに、リリーフ設定圧力(指令電流値A0〜A7)によってもオーバーライド圧力特性値が異なる。
【0032】
これから、オーバーライド圧力特性を補正するには、補正時点でのリリーフ弁通過流量と、リリーフ設定圧力とを入力する必要があることが分かる。
【0033】
そして、図1に示されるように、アタッチメントシリンダ15の圧力を電磁式可変リリーフ弁33によりリリーフ設定圧力に制御する場合は、モニタ29からリリーフ設定圧力Prelと、リリーフ弁通過流量としてのアタッチメント設定流量Qattとをコントローラ31に入力し、図4に点線で示された補正前のリリーフ設定圧力(目標圧力)を、実線で示されたリリーフ設定圧力(指令圧力)に補正することで、例えば指令電流値A3で示された実際の圧力を、点線で示されたリリーフ設定圧力(目標圧力)に近付けるようにする。
【0034】
そのため、コントローラ31は、図1に示されるように、リリーフ設定圧力Prelとアタッチメント設定流量Qattとからオーバーライド補正圧力ΔPを演算するオーバーライド補正圧力演算部34と、このオーバーライド補正圧力演算部34で演算したアタッチメント設定流量に応じたオーバーライド補正圧力ΔPをリリーフ設定圧力Prelから差し引いてオーバーライド補正後のリリーフ設定圧力を指令圧力として演算する減算部35と、指令圧力を電流値に変換する変換器36とを備えている。
【0035】
コントローラ31は、モニタ29から入力されたポンプ吐出流量設定値を、対応する電流値に変換して電磁比例弁28bのソレノイドに出力する変換部37を備えている。そして、電磁比例弁28bは、1次圧Pをコントローラ31からの電流値に応じて減圧制御した2次圧を、シャトル弁28aを経て可変容量型ポンプ21の容量可変手段26に作用させ、可変容量型ポンプ21の吐出流量を制御する。
【0036】
このように、電磁式可変リリーフ弁33のオーバーライド圧力特性によりリリーフ設定圧力と実際の圧力が異なる問題を解決するため、リリーフ弁通過流量に応じたオーバーライド圧力特性の補正と、リリーフ設定圧力に応じたオーバーライド圧力特性の補正とを同時に加えるシステムを構築する。
【0037】
なお、上記問題を解決するためには、オーバーライド圧力特性により生じた誤差圧力すなわちオーバーライド圧力と、リリーフ流量とをフィードバック制御できることが望ましいが、電磁式可変リリーフ弁33を搭載する回路上に流量計および圧力計を搭載することは困難である。したがって、オーバーライド圧力および電磁式可変リリーフ弁33のリリーフ弁通過流量は、下記の推定値および事前に準備した値を使用するフィードフォワード制御を用いることとする。
【0038】
次に、具体的な補正手法を説明する。
【0039】
先ず、図4に示されるように、設計値、ベンチデータおよび実機上でのデータを基にして電磁式可変リリーフ弁33のオーバーライド圧力特性を把握する。
【0040】
次に電磁式可変リリーフ弁33を通過するリリーフ弁通過流量を推定する。このリリーフ弁通過流量は、アタッチメントツール制御用のアタッチメント設定流量Qattをリリーフ弁通過流量に関する制御入力とみなして用いる。
【0041】
すなわち、従来よりアタッチメントツール14のアタッチメントシリンダ15を作動させるときは、アタッチメントシリンダ15に過大流量が流れないように、ネガコン圧制御用の電磁比例弁28bによって、作業装置13に装着したアタッチメントツール14に応じたポンプ流量制限制御が行われている。この各アタッチメントツール14に合わせたポンプ流量制限値は、モニタ29にてあらかじめ設定しておく。このモニタ29に設定されたポンプ流量制限値を上記アタッチメントツール制御用のアタッチメント設定流量Qattすなわち電磁式可変リリーフ弁33の通過流量を表わす推定値として用いる。
【0042】
次に、図2に示された制御ロジックまたは図3に示された制御ロジックのどちらかを適用する。
【0043】
図2に示された制御ロジックは、オーバーライド補正圧力演算部34aに、リリーフ設定圧力Prelと、上記アタッチメント設定流量Qattと、オーバーライド補正圧力ΔPとの関係から予め作成された3次元マップ41を用いた補正方式である。
【0044】
このように、あらかじめ把握しておいたオーバーライド圧力特性を3次元マップ化し、このオーバーライド圧力特性に、リリーフ設定圧力Prelと、上記アタッチメント設定流量Qattとを入力することで、オーバーライド補正圧力ΔPを算出し、リリーフ設定圧力Prelからオーバーライド補正圧力ΔPを減算して、オーバーライド圧力特性を補正した補正後のリリーフ設定圧力(指令圧力)に対応する電流値により電磁式可変リリーフ弁33を制御する。
【0045】
図3に示された制御ロジックは、リリーフ弁通過流量に対するオーバーライド圧力特性を線形近似できる場合の簡易ロジックであり、上記3次元マップ41を用いなくても比較的容易に実現できるオーバーライド補正圧力演算部34bを用いている。
【0046】
このオーバーライド補正圧力演算部34bは、図4に示されるように電流値(A0〜A7)で示される複数のリリーフ設定圧力Prelと、各リリーフ設定圧力Prelにおいてリリーフ弁通過流量に対するオーバーライド圧力特性を線形近似した場合の一定流量におけるオーバーライド圧力(流量・圧力勾配)との関係から予め作成された2次元マップ42を用い、この2次元マップ42にリリーフ設定圧力Prelを入力することで一定流量におけるオーバーライド圧力(流量・圧力勾配)を決定する。
【0047】
さらに、アタッチメント設定流量QattにゲインGを掛けてこの設定流量Qattの影響力を調整し、2次元マップ42に接続された乗算器43により、一定流量におけるオーバーライド圧力(流量・圧力勾配)に上記の設定流量G・Qattを掛けることで、アタッチメント設定流量Qattにおけるオーバーライド補正圧力ΔPを演算し、このオーバーライド補正圧力ΔPをリリーフ設定圧力Prelから減算して、オーバーライド圧力特性を補正した補正後のリリーフ設定圧力(指令圧力)に対応する電流値により電磁式可変リリーフ弁33を制御する。
【0048】
図5は、オーバーライド圧力補正の実験結果を示し、補正前のオーバーライド圧力特性量が、図4の指令圧力で示されるオーバーライド圧力補正により著しく減少して、目標圧力に近づいたことが分かる。すなわち、電磁式可変リリーフ弁33の目標圧力に対するリリーフ圧精度を飛躍的に向上できる。
【0049】
また、図7に示されるように、本制御方法では、アタッチメントツール14のアタッチメントシリンダ15に流れ込むと想定される流量を設定するアタッチメント設定流量Qattにより電磁式可変リリーフ弁33のオーバーライド補正圧力を算出し、可変容量型ポンプ21の容量可変手段26を制御するポンプ指令流量は、オーバーライド補正圧力の計算に用いない。
【0050】
これに対して、図10に示された油圧プレスなどの油圧制御では、ポンプ指令流量からオーバーライド補正圧力を算出しているが、この方式をそのままネガコン圧による流量制限システムに適用すると、アタッチメント設定流量と、他のアクチュエータの連動時に他のアクチュエータの動作に必要とする連動追加流量との和であるポンプ指令流量からオーバーライド補正圧力を算出することになる。
【0051】
以上のように、作動流体により複数の流体圧アクチュエータを連動する流体圧回路において、コントローラ31により、アタッチメントシリンダ15への通路23をリリーフ設定圧力に制御する電磁式可変リリーフ弁33のリリーフ設定圧力およびリリーフ弁通過流量に関する入力信号に基づき、この電磁式可変リリーフ弁33のオーバーライド圧力特性を補正したリリーフ設定圧力に関する指令信号を電磁式可変リリーフ弁33に出力するので、アタッチメントシリンダ15の作動圧を制限するために設けられた電磁式可変リリーフ弁33のリリーフ設定圧力に対するリリーフ圧精度の向上を図ることができる。
【0052】
また、3次元マップ41を備えたオーバーライド補正圧力演算部34aと、オーバーライド圧力補正後のリリーフ設定圧力を算出する減算部35とを用いてオーバーライド補正を正確に実現できる。
【0053】
同様に、リリーフ弁通過流量に対する上記オーバーライド圧力特性を線形近似した2次元マップ42を備えたオーバーライド補正圧力演算部34bと、オーバーライド圧力補正後のリリーフ設定圧力を算出する減算部35とを用いてオーバーライド補正を容易に実現できる。
【0054】
また、コントローラ31は、モニタ29に設定された、ネガコン圧通路25L中に設けられて使用するアタッチメントに応じたポンプ流量制限値によりポンプ流量を制限するポンプ流量制限制御部27へのポンプ流量制限値(アタッチメント設定流量)を、アタッチメントシリンダ制御用の電磁式可変リリーフ弁33の通過流量を表わす推定値として用いるので、モニタ29に設定されたポンプ流量制限値により電磁式可変リリーフ弁33の通過流量を簡便に規定できる。
【0055】
さらに、作業装置13の先端部に装着されたアタッチメントツール14を作動するアタッチメントシリンダ15の作動圧を制限するために設けられた電磁式可変リリーフ弁33のオーバーライド圧力特性を補正してリリーフ設定圧力に対するリリーフ圧精度の向上を図れる作業機械Mを提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、流体圧回路の制御装置および作業機械を製造、販売する産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
M 作業機械
A 流体圧回路の制御装置
11 機体
13 作業装置
13bmc,13stc,13bkc 流体圧アクチュエータ
14 アタッチメントツール
15 流体圧アクチュエータかつ特定アクチュエータとしてのアタッチメントシリンダ
21 可変容量型ポンプ
22 コントロール弁
23 通路
24 センタバイパス通路
25L ネガティブフローコントロール圧通路
26 容量可変手段
27 ポンプ流量制限制御部
29 入力手段としてのモニタ
31 制御手段としてのコントローラ
33 電磁式可変リリーフ弁
34a,34b オーバーライド補正圧力演算部
35 減算部
41 3次元マップ
42 2次元マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体により流体圧アクチュエータを作動する流体圧回路の制御装置において、
上記流体圧アクチュエータに供給される作動流体の流体圧力を電気的に指令可能なリリーフ設定圧力に制御する電磁式可変リリーフ弁と、
上記電磁式可変リリーフ弁のリリーフ設定圧力およびリリーフ弁通過流量に関する入力信号に基づき上記電磁式可変リリーフ弁のオーバーライド圧力特性を補正したリリーフ設定圧力に関する指令信号を上記電磁式可変リリーフ弁に出力する制御手段と
を具備したことを特徴とする流体圧回路の制御装置。
【請求項2】
上記制御手段は、
上記リリーフ設定圧力と、上記リリーフ弁通過流量と、上記オーバーライド圧力特性を補正したオーバーライド補正圧力との関係から予め作成された3次元マップにリリーフ設定圧力およびリリーフ弁通過流量を入力することで、オーバーライド補正圧力を演算する機能を備えたオーバーライド補正圧力演算部と、
上記リリーフ設定圧力から上記オーバーライド補正圧力演算部で算出した上記オーバーライド補正圧力を差し引いてオーバーライド圧力補正後のリリーフ設定圧力を算出する減算部と
を具備したことを特徴とする請求項1記載の流体圧回路の制御装置。
【請求項3】
上記制御手段は、
複数のリリーフ設定圧力と、各リリーフ設定圧力においてリリーフ弁通過流量に対する上記オーバーライド圧力特性を線形近似した場合の一定流量におけるオーバーライド圧力との関係から予め作成された2次元マップにリリーフ設定圧力を入力することで、リリーフ弁通過流量とオーバーライド圧力の特性を決定し、この決定されたリリーフ弁通過流量とオーバーライド圧力の特性に、リリーフ弁通過流量を掛けることでオーバーライド圧力を算出する機能を備えたオーバーライド補正圧力演算部と、
上記リリーフ設定圧力から上記オーバーライド補正圧力演算部で算出した上記オーバーライド補正圧力を差し引いてオーバーライド圧力補正後のリリーフ設定圧力を算出する減算部と
を具備したことを特徴とする請求項1記載の流体圧回路の制御装置。
【請求項4】
複数の流体圧アクチュエータを制御するコントロール弁のセンタバイパス通路から可変容量型ポンプの容量可変手段に対してネガティブフローコントロール圧を導くネガティブフローコントロール圧通路と、
このネガティブフローコントロール圧通路中に設けられて特定アクチュエータに応じたポンプ流量制限値によりポンプ流量を制限するポンプ流量制限制御部と、
このポンプ流量制限制御部に出力されるポンプ流量制限値を設定した入力手段とを備え、
制御手段は、入力手段に設定されたポンプ流量制限値を上記特定アクチュエータ制御用の電磁式可変リリーフ弁の通過流量を表わす推定値として用いる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の流体圧回路の制御装置。
【請求項5】
機体と、
この機体に搭載され複数の流体圧アクチュエータにより作動される作業装置と、
この作業装置の先端部に装着されたアタッチメントツールと、
このアタッチメントツールを作動する流体圧アクチュエータに対して設けられた請求項1乃至4のいずれか記載の流体圧回路の制御装置と
を具備したことを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−141705(P2012−141705A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292878(P2010−292878)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(505236469)キャタピラー エス エー アール エル (144)
【Fターム(参考)】