説明

流体圧測定装置、流体圧測定方法、血圧測定装置、及び血圧測定方法

【課題】被測定対象の流体圧測定をする場合、特に生体内の流体圧すなわち血流の圧力(血圧)を測定する場合に、他の圧力計を使わず簡易に校正ができる流体圧測定装置を提供する。
【解決手段】流体圧測定装置は、測定部6,8を少なくとも2つを備え、測定対象部に内在する導管内を流動する流体速度及び導管径を測定し、導管の変化量、前記一方の測定部と前記他方の測定部での導管径の差、及び前記2つの測定部6,8の間の距離に基づいて導き出される水頭差に基づいて導き出される、流体圧の最大値と最小値との差分を求め、前記差分値と、前記一方あるいは他方の測定部6,8における流速値及び径値と、に基づいて係数値を導き出し、前記導管内を流動する流体の圧力を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧測定装置、流体圧測定方法、血圧測定装置、及び血圧測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある導管内を流れる流体の圧力を非侵襲、すなわち計測対象に毀損等の物理的痕跡を残すことなく測定することは、測定対象物に負荷無く測定できるため非常に有用である。特に生体内においては、昨今、血管内の流体圧力、すなわち血圧を非侵襲且つ無負荷に測定する試みがなされている。例えば、生体に非侵襲且つ無負荷に血圧を測定する方法として、超音波を用いて測定する方法が提案されている。動脈の局所部位において、最大直径及び最小直径を求め、それらのパラメーター値を非線形関数に与えておき、その非線形関数によって入力される各時刻の直径を換算することにより、局所部位についての各時刻の圧力を演算するようにしたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、血流速度、流量、又は容量などを超音波により及び脈波速度を光波により検出し、この両量を関連付けて血圧及びその変化量を算出する方法が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−041382号公報
【特許文献2】特開平4−250135号公報
【特許文献3】特開2004−154231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3にあるように従来の超音波を用いた血圧値の算出には、カフ型血圧計による校正が必要となる。これは24時間自由行動下、血圧測定(24hABPM)や一拍ごとの連続血圧測定を考えた場合、カフを常時身に付けたり、持ち歩いて適時使用するといった不便があり、普段の生活を送る上で実用が困難になる虞がある。
【0006】
また、カフ型血圧計による校正が必要なことに加え、その校正が定期的(30分〜1時間程度)に必要であることがさらに問題となる虞がある。特許文献3では血液粘度を含む補正係数をカフ型血圧計により求め、その補正係数を用いて血圧を導出している。血液粘度は、赤血球量、血漿粘度や赤血球の集合現象によって変化する。赤血球の集合現象は、脂質の多いものを食べたりすることによって、数時間のうちに起こりうるものであり、それに伴う血液粘度の変化は補正係数の変化へとつながる。すなわち、連続的かつ継続的に正しい血圧値を求めるには、校正は一度行うだけでは足りず、ある程度の間隔、例えば一時間程度ごとに行う必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]測定対象部の導管の長手方向に沿って、互いに離間して配置された少なくとも2つの測定部と、該測定部を制御する制御部を備えた流体圧測定装置であって、前記測定部は、測定媒体を前記測定対象部に送出する一方、該測定対象部から戻って来る前記測定媒体の一部を取得する測定媒体送受部を備え、前記制御部は、一方及び他方の前記測定部によって前記測定対象部に内在する導管内を流動する流体速度及び導管径を測定し、前記少なくとも1つの測定部において測定した導管径の変化量と、前記一方の測定部と前記他方の測定部での導管径の差と、及び前記2つの測定部の間の距離に基づいて導き出される水頭差と、に基づいて導き出される流体圧の変化量を求め、前記変化量と、前記一方あるいは他方の測定部における流体速度及び導管径と、に基づいて係数値を導き出し、前記導管内を流動する流体の圧力を求めることを特徴とする流体圧測定装置。
【0009】
本適用例によれば、最初に2つの測定部での流体の速度、導管の径及び測定部間の距離からもとまる係数値を求めることによって、その後は簡易に流体の圧力を求めることができる流体圧測定装置を提供できる。
【0010】
[適用例2]上記流体圧測定装置であって、前記2つの測定部間の重力(鉛直)方向の距離を決定する高低差決定部をさらに備えることを特徴とする流体圧測定装置。
【0011】
本適用例によれば、水頭圧を求める際の一要素である高低差を容易に決定できる。
【0012】
[適用例3]上記流体圧測定装置であって、前記2つの測定部の間の重力方向の距離は、前記2つの測定部の離間距離と、前記2つの測定部の重力方向との傾き角度により算出されることを特徴とする流体圧測定装置。
【0013】
本適用例によれば、2つの測定部の空間的配置に拠らず、水頭圧を求める際の一要素である高低差を容易に求めることできる。
【0014】
[適用例4]流体が流動する導管を内存する測定対象部の所定の第一部位が所定の高さに位置決めされた状態で、該第一部位の前記流体速度を該第一部位の前記導管径の2乗で割った値に対して所定の係数値で比例する前記流体の圧力であって、前記係数値を求める校正工程と、前記状態で、前記第一部位の前記導管径及び前記流体速度をそれぞれ測定する工程と、前記状態で、前記測定対象部の所定の第二部位での導管径及び流体速度をそれぞれ測定する工程と、前記第一部位の導管径、該第一部位の流体速度、及び前記係数値を用いて前記圧力を求める工程と、前記圧力を表示する工程と、及び、前記係数値の校正が必要か判断する工程と、を有することを特徴とする流体圧測定方法。
【0015】
本適用例によれば、他の圧力測定器を校正に使用することなく、精度よく流体圧を測定することができる。
【0016】
[適用例5]上記流体圧測定方法であって、前記校正工程は、前記第一部位が前記流体の圧力基準面の高さに位置決めされた状態で、前記第一及び第二部位の導管径の時間変化を測定し、平均導管径を求める工程と、前記第一部位での流体速度の時間変化を測定する工程と、前記第一部位での導管径及び流体速度の時間変化から、最高圧力時及び最低圧力時での、導管径及び流体速度を求める工程と、前記第一部位での平均導管径と前記第二部位での平均導管径とを用いて平均導管径の変化量を求める工程と、前記状態で、前記第一部位と前記第二部位との高低差を測定する高低差測定工程と、前記高低差を用いて前記第一部位と前記第二部位との間の水頭圧を求める工程と、前記水頭圧、前記平均導管径変化、前記最高圧力時の導管径、及び前記最低圧力時の導管径を用いて最高圧力と最低圧力との圧力差を求める工程と、及び、前記圧力差、前記最高圧力時の流体速度、前記最高圧力時の導管径、前記最低圧力時の流体速度、及び前記最低圧力時の導管径を用いて前記係数値を求める工程と、を有することを特徴とする流体圧測定方法。
【0017】
本適用例によれば、他の圧力測定器を使用せずに係数値を容易に校正できる。
【0018】
[適用例6]測定対象部の導管の長手方向に沿って、互いに離間して配置された少なくとも2つの測定部と、該測定部を制御する制御部を備えた血圧測定装置であって、前記測定部は、測定媒体を前記測定対象部に送出する一方、該測定対象部から戻って来る前記測定媒体の一部を取得する測定媒体送受部を備え、前記制御部は、一方及び他方の前記測定部によって前記測定対象部に内在する血管内を流動する血流の速度及び血管径を測定し、前記少なくとも1つの測定部において測定した血管径の変化量と、前記一方の測定部と前記他方の測定部での血管径の差と、及び前記2つの測定部の間の距離に基づいて導き出される水頭差と、に基づいて導き出される血圧の変化量を求め、前記変化量と、前記一方あるいは他方の測定部における血流速度及び血管径と、に基づいて係数値を導き出し、前記血管内を流動する血流の圧力を求めることを特徴とする血圧測定装置。
【0019】
本適用例によれば、最初に2つの測定部での血流速度、血管径及び測定部間の距離からもとまる係数値を求めることによって、その後は簡易に血圧を求めることができる血圧測定装置を提供できる。
【0020】
[適用例7]上記血圧測定装置であって、前記2つの測定部間の重力方向の距離を決定する高低差決定部をさらに備えることを特徴とする血圧測定装置。
【0021】
本適用例によれば、水頭圧を求める際の一要素である高低差を容易に決定できる。
【0022】
[適用例8]上記血圧測定装置であって、前記2つの測定部の間の重力方向の距離は、前記2つの測定部の離間距離と、前記2つの測定部の重力方向との傾き角度により算出されることを特徴とする血圧測定装置。
【0023】
本適用例によれば、2つの測定部の空間的配置に拠らず、水頭圧を求める際の一要素である高低差を容易に測定できる。
【0024】
[適用例9]被測定者の所定の第一部位が所定の高さに位置決めされた状態で、前記所定の第一部位の血流速度を該第一部位の血管径の2乗で割った値に対して所定の係数値で比例する前記被測定者の血圧であって、前記係数値を求める校正工程と、前記状態で、前記第一部位の前記血管径及び前記血流速度をそれぞれ測定する工程と、前記状態で、前記被測定者の所定の第二部位での血管径及び血流速度をそれぞれ測定する工程と、前記第一部位の血管径、該第一部位の血流速度、及び前記係数値を用いて前記血圧を求める工程と、前記血圧を表示する工程と、及び、前記係数値の校正が必要か判断する工程と、を有することを特徴とする血圧測定方法。
【0025】
本適用例によれば、カフ型血圧計を使用することなく、精度よく血圧を測定することができ、校正の際もカフ型血圧計を使用しないため、被測定者が自由行動下で常時血圧測定をする場合の負荷を軽減できる。
【0026】
[適用例10]上記血圧測定方法であって、前記校正工程は、前記第一部位が前記被測定者の心臓の高さに位置決めされた状態で、前記第一及び第二部位の血管径の時間変化を測定し、平均血管径を求める工程と、前記第一部位での血流速度の時間変化を測定する工程と、前記第一部位での血管径及び血流速度の時間変化から、最高血圧時及び最低血圧時での、血管径及び血流速度を求める工程と、前記第一部位での平均血管径と前記第二部位での平均血管径とを用いて平均血管径変化を求める工程と、前記状態において、前記第一部位と前記第二部位との高低差を測定する高低差測定工程と、前記高低差を用いて前記第一部位と前記第二部位との間の水頭圧を求める工程と、前記水頭圧、前記平均血管径変化、前記最高血圧時の血管径、及び前記最低血圧時の血管径を用いて最高血圧と最低血圧との血圧差を求める工程と、及び、前記血圧差、前記最高血圧時の血流速度、前記最高血圧時の血管径、前記最低血圧時の血流速度、及び前記最低血圧時の血管径を用いて前記係数値を求める工程と、を有することを特徴とする血圧測定方法。
【0027】
本適用例によれば、カフ型血圧計を使用せずに係数値を容易に校正できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態に係る血圧測定装置が人体に装着された状態を示す外観図。
【図2】本実施形態に係る血流速度センサー及び血管径センサーを示す図。
【図3】本実施形態に係る回路ブロックを示す図。
【図4】本実施形態に係る血圧変動と血管径変動を示す図。
【図5】本実施形態に係る測定方法を示す図。
【図6】本実施形態に係る校正ルーチンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
一実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大又は縮小して表示している。
【0030】
図1は、本実施形態に係る流体圧測定装置としての血圧測定装置が人体に装着された状態を示す外観図である。この場合、流体圧測定装置は特に血圧測定装置1を想定し、上腕動脈(血管)5の血圧を測定する場合を考える。血圧測定装置1は、被測定者3の上腕部に装着され、流体速度として上腕動脈5の血流速度v及び導管径として血管径Dを測定することにより、流体圧として血圧値Pを求める。
【0031】
図1に示すように、2つの測定部としてセンサー6及び8は、バンド2等を用いて上腕の所定の第一部位と所定の第二部位とにそれぞれ装着される。上腕への装着は、センサー6,8を測定部位へ固定できればいいので、バンド2の代わりに皮膚との密着性のあるシール材などを用いてもよい。望ましくは、どちらか片方のセンサー位置が被測定者3の心臓4位置と同じ高さであり、同じ高さのセンサーを常時血圧測定に用いれば血圧値の水頭圧補正が不要となる。本実施形態ではセンサー6を心臓4と同じ高さとしている。ただし、どちらも高さ位置が心臓4と同じでなくても、予め心臓4との高低差を求めておけば水頭差を補正することで正しく血圧が求まる。つまり、実施例のような上腕部でなくとも測定は可能である。
【0032】
図2は、本実施形態に係る測定部としての血流速度センサー10及び血管径センサー20を示す図であり、図3は、本実施形態に係る回路ブロックを示す図である。センサー6及び8には、図2に示すように、血流速度センサー10及び血管径センサー20の2つがそれぞれ含まれていて、図1における位置HとLそれぞれにおける血流速度v及び血管径Dが測定される。センサー6及び8に含まれる血流速度センサー10と血管径センサー20とは、1つのセンサーで同時測定できるのであれば、1つのセンサーで代用してもよい。また、本実施形態においては位置Lにおける血流速度の測定は不用である。
【0033】
血流速度センサー10は、上腕部内側の上腕動脈5に対し、測定媒体として超音波を照射できるような位置に取り付けられている。血流速度センサー10は、図3に示すように、血流速度センサー部15と、血流速度センサー駆動部11と、信号演算部14と、を備えている。血流速度センサー部15は、被測定者3の生体表面から生体内部の血液に波動を送受信して、生体内部の血液の流れを検出する。血流速度センサー部15は、発信部12(送信用素子)と受信部13(受信用素子)とから構成されている。駆動部11は、血流速度センサー部15を駆動させる。信号演算部14は、駆動部11と血流速度センサー部15とを制御し生体内部の血流速度vを求める。信号演算部14はドプラ法に基づき位置Lにおける、各時間での血流速度vを演算する。ドプラ法は、連続波ドプラ法、パルス波ドプラ法、カラーフローマッピング法など、測定部位や分解能などを考慮して最適なものを用いることができる。
【0034】
血管径センサー20は、上腕部内側の上腕動脈5に対し、測定媒体として超音波を照射できるような位置に取り付けられている。血管径センサー20は、図3に示すように、血管径センサー部25と、血管径センサー駆動部21と、血管径センサー信号演算部24と、を備えている。血管径センサー部25は、発信部22と受信部23とから構成されている。血管径センサー部25は、生体内部の上腕動脈5に超音波を送受信して、生体内部の上腕動脈5壁の変動を検出する。駆動部21は、血管径センサー部25を駆動させる。信号演算部24は、駆動部21と血管径センサー部25とを制御し生体内部の血管径Dを求める。
【0035】
血管径センサー20は、数MHzのパルス信号やバースト信号を送信し、管壁からの反射受信波の位相変化から血管の直径を算出する。これはエコートラッキング技術といい、具体的には、2つのトラッキングゲート内において血管の前壁と後壁の拍動を検知し、それぞれの壁の変動分から直径を算出する(参考文献:特公昭61−28336号公報)。なお、実施形態では測定媒体として超音波を用いたが、これに限ることではなく、レーザーやコヒーレントな光などを用いても良い。
【0036】
本実施形態に係る血圧測定装置1は、血圧値演算部43と、表示部41と、高低差決定部30と、スイッチ42と、操作パネル44と、電源部40と、を備えている。血圧値演算部43は、(心臓と同じ高さである)センサー6の信号演算部14と信号演算部24との演算結果を用いて被測定者3の血圧値Pを求める。表示部41は、被測定者3の血圧値Pを表示する。また、それをグラフなどで可視化して表示することもできる。さらに、脈拍についても同様に表示してもよい。さらにまた、校正が必要である旨を表示する。高低差決定部30は、血圧測定装置1のセンサー6及び8の高低差を決定する。スイッチ42は、血圧測定装置1の各機能部に対して電源部40からの電源の供給/遮断を切り替える。操作パネル44は表示部41において、測定血圧を表示したり、脈拍に切り替えたり、過去のロギングデータ表示に切り替えたりと操作ができる。電源部40は、血圧測定装置1の各機能部に対して電源を供給する。本実施形態では、例えば、充電可能な二次電池を想定している。
【0037】
次に、本実施例で用いた血圧値P導出の原理について説明する。
【0038】
血圧値Pは血流量Qと血流抵抗Rとを用いて以下のように表される。
血圧値P=血流量Q×血流抵抗R
血流量Q=(π×D2×v)/8 …(1)
血流抵抗R=η×C/D4 …(2)
このとき、Dは血管径、vは血流速度、ηは血液粘度、そしてCは係数である。以上をまとめると血圧値Pは以下のように表すことができる。
P=π/8×η×C×v/D2 …(3)
つまり(π/8×η×C)をある係数値として求めておけば、血流速度v及び血管径Dを求めればそのときの血圧値Pを求めることができる。
【0039】
従来方式では、予めカフ型血圧計などにより実血圧を測定し、上記係数値を校正していた。以下では、カフ型血圧計などによる校正を必要とせずに係数値を算出又は適時校正し、血圧を導出する原理について説明する。
【0040】
校正方法(係数値π/8×η×Cの算出)について説明する。
図1のように、上腕部の異なる高さ位置HとLとに取り付けられた2つのセンサー6,8により少なくとも以下1)〜3)のパラメーターを測定する。
1)高さ位置Hにおける、一心拍以上の血管径変化とその時の平均血管径DHm
2)高さ位置Lにおける、一心拍以上の血管径変化とその時の平均血管径DLm
3)高さ位置Hにおける、一心拍以上の血流速変化。
また、1)及び2)の測定により、前記高さ位置Hでの、最高血圧値Psys(収縮期血圧)における血管径DHsysと、最低血圧値Pdia(拡張期血圧)における血管径DHdiaと、が求まり、同時にDHmとDLmとの差ΔDm(=DLm−DHm)も求まる。また3)より、位置Hでの、最高血圧値Psysにおける血流速度vHsysと、最低血圧値Pdiaにおける血流速度vHdiaが求まる。
【0041】
次に、最高血圧値と最低血圧値の差圧(血圧値の変化量)Psys−Pdiaを求める。
図4は、本実施形態に係る血圧変動と血管径変動を示す図である。高さ位置H及びLでの血管径Dの変動と血圧値Pの変動の関係は図4のようになる。同一血圧値P時の、位置HとLとの血管径Dの差異は、水頭圧による差と考えられるので、平均血管径の差ΔDmと、高さ位置HとLとの高低差hによる水頭圧ρgh(水頭圧、ρ:血液の密度、g:重力加速度)は一意に対応する。これより、最高血圧値と最低血圧値の差(Psys−Pdia)とその時の血管径Dの差(DHsys−DHdia)を考えると、以下の関係が近似的に成り立つ。
【0042】
(Psys−Pdia):ρgh=(DHsys−DHdia):ΔDm …(4)
これより差圧Psys−Pdiaは、
sys−Pdia=ρgh×(DHsys−DHdia)/ΔDm …(5)
また、ここで式(3)より位置Hでの最高血圧値Psysと最低血圧値Pdiaとを求めると、
sys=π/8×η×C×vHsys/DHsys2 …(6)
dia=π/8×η×C×vHdia/DHdia2 …(7)
であるので、差圧は以下のようにも書ける。
sys−Pdia=π/8×η×C×(vHsys/DHsys2−vHdia/DHdia2) …(8)
式(8)より、係数値(π/8×η×C)は以下の式で算出できる。
π/8×η×C=(Psys−Pdia)/(vHsys/DHsys2−vHdia/DHdia2) …(9)
また、式(9)及び(5)より係数値(π/8×η×C)は以下のようにも書ける。
π/8×η×C=ρgh×(DHsys−DHdia)/{ΔDm×(vHsys/DHsys2−vHdia/DHdia2)} …(10)
【0043】
以上より血圧値Pは、適時測定した血管径Dとその時の血流速度v、及び上記により求めた係数値(π/8×η×C)を式(3)に代入することにより容易に求めることができる。
【0044】
図5は、本実施形態に係る血圧測定方法を示す図である。
先ず、スイッチ42を投入後、ステップS10に示すように、係数値(π/8×η×C)算出のための校正を行う。ステップS10の詳細については後述する。
続いて、ステップS20に示すように、血管径D及び血流速度vを測定する。測定方法は前述のエコートラッキング法により血管径Dを測定するものや、ドプラ法により血流速度vを測定する方法を用いる。
【0045】
次に、ステップS30では、ステップS10の校正ルーチンにより求めた係数値(π/8×η×C)を用いて血圧値Pを算出する。同一箇所、同時刻の血管径D及び血流速度vの時間的変化を求め、血圧値Pの時間変化を算出することもできる。
【0046】
次に、ステップS40に示すように、ステップS30で求めた血圧値Pを表示部41に表示する。また、それをグラフなどで可視化して表示部41に表示することもできる。さらに、脈拍についても同様に表示してもよい。
【0047】
この段階で、ステップS50に示すように、校正が再度必要であるか判断する。必要があればステップS10に戻り校正を行う。必要がなければステップS60へ進む。校正が必要である場合とは、例えば最高血圧値が通常と比べて±15mmHg以上変化した場合である。この場合再校正の指示が表示部41に表示される。
最後に、ステップS60に示すように、測定の続行が必要であるか判断する。必要があればステップS20に戻り血管径D及び血流速度vを測定する。必要がなければ終了する。これにより、カフ型血圧計を使わず簡易に校正ができ、被測定者が自由行動下で常時血圧測定することができる。
【0048】
図6は、本実施形態に係る校正ルーチンであって、図5のステップS10を詳細に示す図である。
【0049】
先ず、ステップS11に示すように、図1の高さ位置H及びLでの血管径Dを計測すると同時に平均血管径DHm,DLmを算出する。平均血管径DHm,DLmは、1心拍内において特定してもよいし、血管径D変化を10秒程度測定し、複数心拍分のアンサンブル平均を算出し、取得してもよい。
【0050】
次に、ステップS12では、図1の高さ位置Hでの血流速度vを測定する。なお、血流速度vの測定は、ステップS11で測定した血管径変化とできる限り時間的に近接しているのが望ましい。
【0051】
次に、ステップS13に示すように、ステップS11及びS12で測定した高さ位置Hでの、血管径Dと血流速度vとの時間変化より、最高血圧値に対応する血管径DHsys及び血流速度vHsys、最低血圧値に対応する血管径DHdia及び血流速度vHdiaを算出する。
【0052】
次に、ステップS14に示すように、ステップS11で算出した平均血管径DHm,DLmより、平均血管径変化ΔDmを算出する。
【0053】
ここで、ステップS15に示すように、水頭圧(ρgh)を算出する。水頭圧の算出及びそのための高低差hの決定方法の詳細については後述する。
【0054】
そして、ステップS16に示すように、最低血圧値Pdia及び最高血圧値Psysの血圧差(Psys−Pdia)を算出する。図1の高さ位置Hでの、最高血圧値Psysにおける血管径DHsysと、最低血圧値Pdiaとにおける血管径DHdiaを用いると、式(4)を変形して式(5)より、最低血圧値Pdiaと最高血圧値Psysとの血圧差(Psys−Pdia)を算出する。
【0055】
最後、ステップS17に示すように、式(9)にステップS16で算出した血圧差(Psys−Pdia)と、ステップS13で算出した高さ位置Hでの、最高血圧値Psysに対応する血管径D及び血流速度v、最低血圧値Pdiaに対応する血管径D及び血流速度vより、係数値(π/8×η×C)を算出する。
【0056】
係数値(π/8×η×C)算出に必要な水頭圧の算出方法について説明する。
【0057】
水頭圧ρghを求めるには、重力加速度g(≒9.8m/s2)のほかに、血液の密度及び高低差hが必要となる。血液の密度ρは男女差で1.055±0.005g/cm3程度なので、血圧値への影響は±0.数mmHgであることからここでは一定と見做すものとする。つまり、精度良く水頭圧を決定するには高低差hを正確に測定する必要がある。図1に示す通り、高低差hは、センサー6と8との間の距離を予め定規などで測定しておけば求めることができる。あるいは、センサー6と8とを任意長さの固定部材により繋いでおけば、該任意長さを高低差とすることもできる。ところで、被測定対象部が鉛直方向に揃っていれば前記決定方法で問題ないが、被測定対象部が鉛直方向から傾いている場合を考えると、誤差が生まれる。その場合は、センサー6又は8の角度を傾斜センサーなどで検出し、該検出角度とセンサー6と8との間の距離から高低差hを算出することもできる。あるいは、水晶デバイスを用いた超小型気圧センサーでは、高低差hをmmオーダーの分解能で測定可能となる可能性がある。これを用いれば、簡易に高低差hを精度良く測定することもできる。被測定対象部が鉛直方向から傾くことは、被測定者3が自由行動下で適時校正を行う場合に頻繁に起こりうると考えられる。よって、以上のような技術は被測定者3が自由行動下で測定する際に必要となる可能性が高いと考えられる。なお、前記方法はあくまで一例であり、ある手法により高低差hを正確に求めることができれば、水頭圧も精度よく算出できる。実際のところ、高低差hは上腕部で15cm程度と考えれば、水頭圧は11.6mmHg程度である。
【0058】
本実施形態においては、センサー6の位置Hを心臓4の高さ位置としたが、仮に位置Hと心臓4の高さが違う場合でも、予め心臓4からの高低差hを求めておけば水頭圧分の加減算により上記実施形態と同様に血圧値Pを算出することができる。また、本実施形態では、被測定対象を生体と仮定し、流体圧として血圧を算出したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
本実施形態の流体圧測定装置及び流体圧測定方法によれば、他の圧力測定装置を使用することなく適時校正を簡便にすることができ、精度良く流体圧Pを測定することができる。またそれを生体に応用した場合、カフ型血圧計を使用することなく血圧を算出するための係数値を適時校正することができ、それによりウエアラブルで常時計測可能な血圧測定装置及び血圧測定方法が提供できる。
【符号の説明】
【0060】
1…血圧測定装置 2…バンド 3…被測定者 4…心臓 5…上腕動脈(血管) 6,8…センサー 10…血流速度センサー(測定部) 11…駆動部(血流速度センサー駆動部) 12…発信部(送信用素子) 13…受信部(受信用素子) 14…信号演算部(血流速度センサー信号演算部) 15…血流速度センサー部 20…血管径センサー(測定部) 21…駆動部(血管径センサー駆動部) 22…発信部(送信用素子) 23…受信部(受信用素子) 24…信号演算部(血管径センサー信号演算部) 25…血管径センサー部 30…高低差決定部 40…電源部 41…表示部 42…スイッチ 43…血圧値演算部 44…操作パネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象部の導管の長手方向に沿って、互いに離間して配置された少なくとも2つの測定部と、該測定部を制御する制御部を備えた流体圧測定装置であって、
前記測定部は、測定媒体を前記測定対象部に送出する一方、該測定対象部から戻って来る前記測定媒体の一部を取得する測定媒体送受部を備え、
前記制御部は、
一方及び他方の前記測定部によって前記測定対象部に内在する導管内を流動する流体速度及び導管径を測定し、
前記少なくとも1つの測定部において測定した導管径の変化量と、前記一方の測定部と前記他方の測定部での導管径の差と、及び前記2つの測定部の間の距離に基づいて導き出される水頭差と、に基づいて導き出される流体圧の変化量を求め、
前記変化量と、前記一方あるいは他方の測定部における流体速度及び導管径と、に基づいて係数値を導き出し、
前記導管内を流動する流体の圧力を求めることを特徴とする流体圧測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体圧測定装置において、
前記2つの測定部間の重力(鉛直)方向の距離を決定する高低差決定部をさらに備えることを特徴とする流体圧測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の流体圧測定装置において、
前記2つの測定部の間の重力方向の距離は、前記2つの測定部の離間距離と、前記2つの測定部の重力方向との傾き角度により算出されることを特徴とする流体圧測定装置。
【請求項4】
流体が流動する導管を内存する測定対象部の所定の第一部位が所定の高さに位置決めされた状態で、該第一部位の前記流体速度を該第一部位の前記導管径の2乗で割った値に対して所定の係数値で比例する前記流体の圧力であって、前記係数値を求める校正工程と、
前記状態で、前記第一部位の前記導管径及び前記流体速度をそれぞれ測定する工程と、
前記状態で、前記測定対象部の所定の第二部位での導管径及び流体速度をそれぞれ測定する工程と、
前記第一部位の導管径、該第一部位の流体速度、及び前記係数値を用いて前記圧力を求める工程と、
前記圧力を表示する工程と、及び、
前記係数値の校正が必要か判断する工程と、
を有することを特徴とする流体圧測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の流体圧測定方法において、
前記校正工程は、
前記第一部位が前記流体の圧力基準面の高さに位置決めされた状態で、前記第一及び第二部位の導管径の時間変化を測定し、平均導管径を求める工程と、
前記第一部位での流体速度の時間変化を測定する工程と、
前記第一部位での導管径及び流体速度の時間変化から、最高圧力時及び最低圧力時での、導管径及び流体速度を求める工程と、
前記第一部位での平均導管径と前記第二部位での平均導管径とを用いて平均導管径の変化量を求める工程と、
前記状態で、前記第一部位と前記第二部位との高低差を測定する高低差測定工程と、
前記高低差を用いて前記第一部位と前記第二部位との間の水頭圧を求める工程と、
前記水頭圧、前記平均導管径変化、前記最高圧力時の導管径、及び前記最低圧力時の導管径を用いて最高圧力と最低圧力との圧力差を求める工程と、及び、
前記圧力差、前記最高圧力時の流体速度、前記最高圧力時の導管径、前記最低圧力時の流体速度、及び前記最低圧力時の導管径を用いて前記係数値を求める工程と、
を有することを特徴とする流体圧測定方法。
【請求項6】
測定対象部の導管の長手方向に沿って、互いに離間して配置された少なくとも2つの測定部と、該測定部を制御する制御部を備えた血圧測定装置であって、
前記測定部は、測定媒体を前記測定対象部に送出する一方、該測定対象部から戻って来る前記測定媒体の一部を取得する測定媒体送受部を備え、
前記制御部は、
一方及び他方の前記測定部によって前記測定対象部に内在する血管内を流動する血流の速度及び血管径を測定し、
前記少なくとも1つの測定部において測定した血管径の変化量と、前記一方の測定部と前記他方の測定部での血管径の差と、及び前記2つの測定部の間の距離に基づいて導き出される水頭差と、に基づいて導き出される血圧の変化量を求め、
前記変化量と、前記一方あるいは他方の測定部における血流速度及び血管径と、に基づいて係数値を導き出し、
前記血管内を流動する血流の圧力を求めることを特徴とする血圧測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の血圧測定装置において、
前記2つの測定部間の重力方向の距離を決定する高低差決定部をさらに備えることを特徴とする血圧測定装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の血圧測定装置において、
前記2つの測定部の間の重力方向の距離は、前記2つの測定部の離間距離と、前記2つの測定部の重力方向との傾き角度により算出されることを特徴とする血圧測定装置。
【請求項9】
被測定者の所定の第一部位が所定の高さに位置決めされた状態で、前記所定の第一部位の血流速度を該第一部位の血管径の2乗で割った値に対して所定の係数値で比例する前記被測定者の血圧であって、前記係数値を求める校正工程と、
前記状態で、前記第一部位の前記血管径及び前記血流速度をそれぞれ測定する工程と、
前記状態で、前記被測定者の所定の第二部位での血管径及び血流速度をそれぞれ測定する工程と、
前記第一部位の血管径、該第一部位の血流速度、及び前記係数値を用いて前記血圧を求める工程と、
前記血圧を表示する工程と、及び、
前記係数値の校正が必要か判断する工程と、
を有することを特徴とする血圧測定方法。
【請求項10】
請求項9に記載の血圧測定方法において、
前記校正工程は、
前記第一部位が前記被測定者の心臓の高さに位置決めされた状態で、前記第一及び第二部位の血管径の時間変化を測定し、平均血管径を求める工程と、
前記第一部位での血流速度の時間変化を測定する工程と、
前記第一部位での血管径及び血流速度の時間変化から、最高血圧時及び最低血圧時での、血管径及び血流速度を求める工程と、
前記第一部位での平均血管径と前記第二部位での平均血管径とを用いて平均血管径変化を求める工程と、
前記状態で、前記第一部位と前記第二部位との高低差を測定する高低差測定工程と、
前記高低差を用いて前記第一部位と前記第二部位との間の水頭圧を求める工程と、
前記水頭圧、前記平均血管径変化、前記最高血圧時の血管径、及び前記最低血圧時の血管径を用いて最高血圧と最低血圧との血圧差を求める工程と、及び、
前記血圧差、前記最高血圧時の血流速度、前記最高血圧時の血管径、前記最低血圧時の血流速度、及び前記最低血圧時の血管径を用いて前記係数値を求める工程と、
を有することを特徴とする血圧測定方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−61131(P2012−61131A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207675(P2010−207675)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】