説明

流体封入式防振装置

【課題】簡易な構成をもって、複数の周波数域の振動に対して有効な防振効果を発揮することの出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】第二の取付部材14に当接座66を設ける一方、本体ゴム弾性体16と該当接座66との振動入力方向対向部間に設けられて装着状態下で該本体ゴム弾性体16と該当接座66との間で弾性的に予圧をもって当接せしめられると共に、装着状態下において所定振幅以上の振動の入力時には該本体ゴム弾性体16と該当接座33との間での当接が解除される弾性当接部29を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式防振装置に係り、特に低周波の入力振動および高周波の入力振動の何れにも有効な防振効果を発揮し得るようにした流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体や防振支持体等の一種として、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結する一方、第二の取付部材によって支持された仕切部材を挟んだ両側に、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室と、壁部の一部が変形容易な可撓性膜で構成された平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室の間に跨って延びるオリフィス通路を設けた流体封入式防振装置が知られている。例えば、特許文献1に記載のものが、それである。
【0003】
かかる流体封入式防振装置では、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づいて、オリフィス通路がチューニングされた特定の周波数領域において優れた防振効果を得ることが出来ることから、例えば、20数Hzのエンジンのアイドリング振動に対して有効な防振効果を発揮し得る自動車用エンジンマウント等への適用が検討されている。
【0004】
ところで、自動車用エンジンマウント等においては、複数の周波数領域に対する防振特性が要求されることがある。具体的には、上記20数Hz程度のアイドリング振動に対して振動伝達を軽減する低動ばね効果が要求されると共に、10Hz程度のエンジンシェイクに対しては、振動を減衰せしめる高減衰効果が要求される。しかし、特許文献1に記載の如き従来構造の流体封入式防振装置においては、オリフィス通路を流動せしめられる流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される周波数域が比較的狭く、複数の周波数領域に亘って有効な防振効果を得ることは困難であった。
【0005】
そこで、このような問題に対処するために、例えば特許文献2にも開示されているように、エンジンシェイク等の低周波用とアイドリング振動等の高周波用の互いに異なるチューニングが施されたオリフィス通路を併設すると共に、入力振動の周波数に応じてそれら2つのオリフィス通路を選択切替する切替機構を備えた流体封入式防振装置が提案されている。
【0006】
ところが、それら従来構造の流体封入式防振装置においては、入力振動周波数の検出手段や、複数のオリフィス通路の切替弁体、および該切替弁体を駆動制御するためのアクチュエータなどの構成が必要となって、構造が複雑なものになるという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開昭59−89844号公報
【特許文献2】特公平2−29896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、簡易な構成をもって、複数の周波数域の振動に対して有効な防振効果を発揮することの出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめ、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室と、壁部の一部が可撓性膜で構成されて容積変化が許容される平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、該受圧室と該平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設けた流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材に当接座を設ける一方、前記本体ゴム弾性体と該当接座との振動入力方向対向部間に設けられて装着状態下で該本体ゴム弾性体と該当接座との間で弾性的に予圧をもって当接せしめられると共に、装着状態下において所定振幅以上の振動の入力時には該本体ゴム弾性体と該当接座との間での当接が解除される弾性当接部を設けたことを、特徴とする。
【0011】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、例えばアイドリング振動などの高周波小振幅振動が入力せしめられた場合には、入力振動の振幅が小さいことから、弾性当接部の本体ゴム弾性体と当接座との当接状態が保たれた状態で、第一および第二の取付部材が互いに相対的に接近/離隔せしめられる。これにより、受圧室と平衡室の間に惹起された相対的な圧力変動に基づいてオリフィス通路に流体流動が生ぜしめられて、オリフィス通路を流れる流体の共振作用等の流動作用によって、低動ばね特性による有効な振動絶縁効果が発揮せしめられる。
【0012】
一方、エンジンシェイクなどの低周波大振幅振動が入力せしめられた場合には、入力振動の振幅が大きいことから、第一および第二の取付部材が相互に離隔せしめられた場合に、弾性当接部の本体ゴム弾性体と当接座との間の当接状態が解除される。これにより、本体ゴム弾性体によって形成される受圧室の壁ばね剛性が低下せしめられると共に、受圧室の有効断面積が、弾性当接部の当接状態に比してより大きく拡大せしめられる。これにより、オリフィス通路による高減衰効果をより有利に生ぜしめることが出来ると共に、高減衰効果のピークをより低周波数域で生ぜしめることが出来る。従って、高周波小振幅振動に対しても、オリフィス通路を流れる流体の共振作用等の流動作用に基づく高減衰効果をより有効に生ぜしめることが出来る。
【0013】
このように、本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、入力振動に応じて当接突部の当接状態を切り換えることによって防振特性を変化せしめることが可能とされているのであり、例えば複数のオリフィス通路およびそれらを入力振動に応じて切り替える切換手段などを設けることなく、簡易な構成で、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動およびアイドリング振動等の高周波小振幅振動の何れに対しても、有効な防振効果を得ることが出来るのである。
【0014】
なお、弾性当接部は、本体ゴム弾性体側および当接座側の何れに形成されていても良いし、両方に形成されていても良い。また、弾性当接部は、必ずしもそれ自体が弾性を有する部材で形成される必要はないのであって、例えば、当接座を硬質の部材で形成して、本体ゴム弾性体に当接せしめる等しても良い。このような場合には、本体ゴム弾性体の弾性によって、弾性的に当接せしめられることとなる。また、本態様において、当接座は、必ずしも独立した部材をもって形成されている必要はなく、例えば、第二の取付部材と一体的に形成する等しても良い。
【0015】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材を円筒形状として、該第二の取付部材の一方の開口部側に前記第一の取付部材を離隔配置せしめて、それら第一の取付部材と第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結せしめたことを、特徴とする。
【0016】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、本体ゴム弾性体によって第二の取付部材の一方の開口部を覆蓋せしめることが出来て、受圧室を効率よく形成することが出来る。その結果、例えば、自動車用エンジンマウント等として有利に採用することが出来る。
【0017】
本発明の第三の態様は、前記第二の態様に係る流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材の一方の開口部を前記本体ゴム弾性体で流体密に覆蓋すると共に、該第二の取付部材の他方の開口部を前記可撓性膜で流体密に覆蓋せしめる一方、仕切部材を該第二の取付部材で固定的に支持せしめて、該仕切部材を該本体ゴム弾性体と該可撓性膜の対向面間で該第二の取付部材の軸直角方向に広がるように配設することにより、該仕切部材を挟んだ両側に前記受圧室と前記平衡室を形成し、それら受圧室と平衡室を相互に連通する前記オリフィス通路を該仕切部材の外周部分を周方向に延びるように形成したことを、特徴とする。
【0018】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、仕切部材の両側に受圧室と平衡室を効率的に形成することが可能となり、全体としてコンパクトな流体封入式防振装置を実現することが出来る。その結果、例えば、自動車用エンジンマウント等として有利に採用することが出来る。
【0019】
本発明の第四の態様は、前記第二又は三の態様に係る流体封入式防振装置において、前記弾性当接部が円環形状とされて、装着状態下で前記本体ゴム弾性体の周方向の全周に亘って当接せしめられていることを、特徴とする。
【0020】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、弾性当接部が本体ゴム弾性体の周方向の全周に亘って当接せしめられることから、弾性当接部の当接状態と当接解除状態における受圧室の有効断面積の変化をより安定して生ぜしめることが出来て、防振特性の切換をより安定して行なうことが出来る。それと共に、本体ゴム弾性体の弾性変形も安定して生ぜしめることが出来て、より安定した防振特性を得ることが出来る。
【0021】
本発明の第五の態様は、前記第二又は第三の態様に係る流体封入式防振装置において、前記弾性当接部が前記本体ゴム弾性体の周方向に所定間隔を隔てて複数形成されて、該本体ゴム弾性体の周方向で所定間隔を隔てて当接せしめられていることを、特徴とする。
【0022】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、弾性当接部の間から、非圧縮性流体を逃がすことが出来て、弾性当接部の当接をより円滑に行なうことが出来ると共に、弾性当接部の当接面積が小さくされることから、当接状態の解除もより円滑に行なうことが出来て、防振特性の切換をより容易に行なうことが出来る。
【0023】
本発明の第六の態様は、前記第二乃至五の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材の内周面から前記受圧室の内方に向けて突出する当接金具によって前記当接座を形成したことを、特徴とする。
【0024】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、例えば仕切部材を当接座として用いるようなこともなく、当接座としての当接金具を特別に設けたことから、弾性当接部と当接座との相対的な距離をより高い自由度をもって調節することが出来る。これにより、防振特性のチューニングをより容易且つ精度良く行なうことが出来る。但し、当接金具は、必ずしも独立した部材である必要はなく、例えば、第二の取付部材に内周面から径方向内方に延び出す板状部を一体形成して、かかる板状部を当接金具として用いる等しても良い。
【0025】
本発明の第七の態様は、前記第一乃至六の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記本体ゴム弾性体において前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の連結方向の中間部分に前記弾性当接部を配設したことを、特徴とする。
【0026】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、弾性当接部の当接による本体ゴム弾性体の動ばね定数の変化をより効果的に生ぜしめることが出来て、本体ゴム弾性体によって形成される受圧室の壁ばね剛性の変化を有利に生ぜしめることが出来る。また、前記第四の態様と本態様を組み合わせて用いれば、受圧室の径方向中間部分が弾性当接部で仕切られることから、弾性当接部の当接状態が解除された場合における受圧室の有効断面積の変化を明確に生ぜしめることが出来る。
【0027】
本発明の第八の態様は、前記第一乃至七の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記第一の取付部材の振動入力方向投影で前記弾性当接部の少なくとも一部が重なるようにされていることを、特徴とする。
【0028】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、第一の取付部材による押圧力を弾性当接部に及ぼすことが出来る。これにより、弾性当接部に有効に予圧を与えて、高周波小振幅振動が入力された場合には、弾性当接部の当接状態を安定して維持することが出来る。また、大振幅振動が入力されて、弾性当接部の当接状態が解除された後に、弾性当接部が当接座に再び当接せしめられる場合でも、第一の取付部材による押圧力を及ぼして、より安定して当接せしめることが出来る。
【0029】
本発明の第九の態様は、前記第一乃至八の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記本体ゴム弾性体と一体的に前記弾性当接部が設けられていることを、特徴とする。
【0030】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、本体ゴム弾性体の弾性を巧く用いて、本体ゴム弾性体と一体的に弾性当接部を形成出来ることから、部品点数を低減することが出来る。また、弾性当接部の当接及びその解除状態の変化が直接に本体ゴム弾性体に伝えられることから、受圧室の壁ばね剛性がより速やか且つ確実に変化せしめられる。これにより、より速やか且つ安定した防振特性の切換を行なうことも出来る。
【0031】
本発明の第十の態様は、前記第一乃至九の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、自動車用のエンジンマウントであって、前記オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、前記弾性当接部が前記本体ゴム弾性体と前記当接座の間で当接せしめられた状態においてアイドリング振動に相当する周波数にチューニングされると共に、該弾性当接部の該本体ゴム弾性体と該当接座の間での当接が解除された状態においてエンジンシェイクに相当する周波数にチューニングされていることを、特徴とする。
【0032】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、例えばアイドリング振動等の高周波小振幅振動が入力された場合には、弾性当接部が当接状態とされる。そして、弾性当接部の当接状態下において、オリフィス通路がアイドリング振動に相当する周波数にチューニングされていることから、オリフィス通路を流動せしめられる流体の流動作用に基づく優れた低動ばね効果を得ることが出来る。一方、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動が入力された場合には、弾性当接部の当接状態が解除される。そして、弾性当接部の当接状態の解除下において、オリフィス通路がエンジンシェイクに相当する周波数にチューニングされていることから、オリフィス通路を流動せしめられる流体の流動作用に基づく優れた高減衰効果を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0034】
先ず、図1に、本発明の流体封入式防振装置に係る一実施形態としての自動車用エンジンマウント10を示す。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と、第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で弾性的に連結された構造とされており、第一の取付金具12が自動車のパワーユニットに取り付けられる一方、第二の取付金具14が自動車のボデーに取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して防振支持せしめるようになっている。なお、そのような装着状態下、エンジンマウント10には、パワーユニットの分担支持荷重が及ぼされることにより、本体ゴム弾性体16が弾性変形せしめられて、第一の取付金具12と第二の取付金具14が相互に接近位置せしめられるようになっている。また、かかる装着状態下、防振すべき主たる振動が、第一の取付金具12と第二の取付金具14の接近/離隔方向(マウント中心軸である図1中の略上下方向)に入力されることとなる。なお、以下の説明中、上下方向とは、特に断りのない限り、図1中の上下方向をいうものとする。
【0035】
より詳細には、第一の取付金具12は、逆向きの略円錐台形状を有しており、第一の取付金具12の中心軸上には、取付ボルト18が下端面から上方に向けて差し込まれて、先端部が第一の取付金具12の上端面から上方に向けて突出せしめられた状態で固定されており、この取付ボルト18によって、第一の取付金具12が、図示しないパワーユニットに固定的に取り付けられるようになっている。
【0036】
一方、第二の取付金具14は、大径の円筒形状を有しており、軸方向上方の開口部が、開口部側に向かって拡開するテーパ部20とされている。また、第二の取付金具14の軸方向下側端部には、径方向外方に広がる円環板形状の段差部22が設けられていると共に、段差部22の外周縁部から軸方向外方に突出するようにして、筒状のかしめ部24が一体形成されている。
【0037】
そして、第二の取付金具14の略中心軸上で、軸方向上方に離隔して、第一の取付金具12が配設されており、互いに軸方向に対向位置せしめられていると共に、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14の対向面間に本体ゴム弾性体16が配設されている。本体ゴム弾性体16は、大径の略円錐台形状を有しており、小径側端面が第一の取付金具12の下端面に重ね合わされて加硫接着されていると共に、大径側端部外周面には、第二の取付金具14のテーパ部20の内周面が重ね合わされて加硫接着されている。これにより、本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12と第二の取付金具14を備えた一体加硫成形品として形成されており、第二の取付金具14の軸方向上側の開口部が、本体ゴム弾性体16によって流体密に覆蓋されている。
【0038】
なお、第二の取付金具14の内周面には、その略全面を覆う薄肉のシールゴム層26が、本体ゴム弾性体16と一体的に形成されている。また、本体ゴム弾性体16の大径側端面には、第二の取付金具14内に開口する大径の円形凹部28が形成されている。
【0039】
さらに、本体ゴム弾性体16において、第一の取付金具12と第二の取付金具14の連結方向(図1中、左右方向)の中間部分、換言すれば、円形凹部28における径方向の略中間部分には、振動入力方向(図1中、上下方向)で下方に突出する弾性当接部としての当接突部29が一体的に形成されている。かかる当接突部29は、本体ゴム弾性体16の周方向の全周に亘って延びる円環形状とされており、その内周面が略一定の内径寸法をもって振動入力方向と略平行に延びる筒状面とされている一方、その外周面が、突出方向に向けて次第に縮径せしめられたテーパ状面とされている。さらに、当接突部29の突出先端部31は、後述する図3に示すように、径方向内方に向けて僅かに上方に傾斜せしめられた略平坦面とされている。更にまた、当接突部29は、径方向内側部分が、振動入力方向の投影において第一の取付金具12と重なる位置に形成されている。
【0040】
一方、第二の取付金具14の軸方向下方の開口部には、可撓性膜としてのゴム薄膜からなるダイヤフラム30が配設されている。ダイヤフラム30は、変形容易なように弛みを持たせた薄肉円板形状を有している。更に、ダイヤフラム30の外周縁部には、全周に亘って上方に突出するように厚肉に形成されたシールゴム32が一体的に形成されていると共に、シールゴム32の外周縁部には、略円筒形状の固定金具35が加硫接着されている。そして、固定金具35およびシールゴム32が第二の取付金具14の段差部22に重ね合わされてかしめ部24でかしめ固定されることにより、第二の取付金具14の軸方向下方の開口部がダイヤフラム30によって流体密に覆蓋されており、以て、第二の取付金具14の軸方向両側を覆蓋する本体ゴム弾性体16とダイヤフラム30の対向面間において、非圧縮性流体が封入された流体室33が形成されている。なお、非圧縮性流体としては、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油等が採用されるが、特に後述する流体の共振作用に基づく防振効果を有利に得るために、本実施形態では、0.1Pa・S以下の低粘性流体が好適に採用される。
【0041】
また、本実施形態では、第二の取付金具14の下側開口部に底金具34が配設されており、ダイヤフラム30の外側(図中、下方)を覆うようにして、第二の取付金具14に組み付けられている。底金具34は、略浅底の有底円筒形状を有しており、底壁において軸方向下方に突出する一対の取付ボルト36が固設されていると共に、開口周縁部には、径方向外方に広がるフランジ状部38が一体形成されている。そして、このフランジ状部38が、ダイヤフラム30の外周縁部に設けられた固定金具35の下面に重ね合わされ、固定金具35と共に、第二の取付金具14のかしめ部24でかしめ固定されることによって、第二の取付金具14に対して固定的に組み付けられている。また、底金具34に固設された取付ボルト36が、図示しないボデーに固定されることにより、第二の取付金具14が、底金具34を介して、ボデーに固定的に取り付けられるようになっている。なお、ダイヤフラム30と底金具34の間には、ダイヤフラム30の変形を許容する空気室39が形成されている。そして、底金具34の底壁の中央部分および外周部分には、底金具34を板厚方向で貫通する複数の貫通孔40が形成されており、空気室39がこれら貫通孔40を通じて外部に連通せしめられている。
【0042】
さらに、第二の取付金具14の内部には、仕切部材42が収容配置されており、流体室33内に組み付けられている。仕切部材42は、全体として略円板形状とされており、かかる仕切部材42が本体ゴム弾性体16とダイヤフラム30の対向面間で軸直角方向に広がった状態で第二の取付金具14に固定されることにより、流体室33が、仕切部材42を挟んだ上下両側に仕切られている。これにより、仕切部材42の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された受圧室44が形成されている一方、仕切部材42の下側には、壁部の一部がダイヤフラム30で構成された平衡室46が形成されている。即ち、受圧室44は、振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形に伴って振動が入力されて内圧変動が生ぜしめられるようになっている一方、平衡室46は、ダイヤフラム30の変形に基づいて容積変化が容易に許容されて、内圧変化が吸収されるようになっている。
【0043】
ここにおいて、仕切部材42は、上オリフィス金具48と下オリフィス金具50が重ね合わされた構造とされている。これら上下オリフィス金具48,50は、何れも薄肉の金属板で形成されており、略同じ深さの逆カップ形状を有していると共に、開口周縁部において径方向外方に広がるフランジ状部52,54を備えている。更に、下オリフィス金具50の筒壁部56は、上オリフィス金具48の筒壁部58よりも僅かに小径とされており、下オリフィス金具50が上オリフィス金具48に入り込むようにして、これら両オリフィス金具48,50の底壁部およびフランジ状部52,54が何れも互いに密着状態で重ね合わされている。そして、下オリフィス金具50の外周側が上オリフィス金具48で覆われることによって、上下オリフィス金具48,50の外周部分において、周方向に所定長さで延びる環状通路60が形成されている。
【0044】
さらに、第二の取付金具14の内部において仕切部材42の上方には、当接金具62が収容配置されており、流体室33内に組み付けられている。当接金具62は、略逆カップ形状とされており、開口周縁部において径方向外方に広がるフランジ状部64を備えている。更に、当接金具62の底壁部66の中央部分には、大径の通孔68が当接金具62の軸方向に貫設されている。かかる通孔68の径寸法は、本体ゴム弾性体16から突出せしめられた当接突部29の内径寸法よりも僅かに小さくされている。更に、当接金具62の内周面および底壁部66の上面には薄肉のシールゴム層70が被着されており、当接金具62の外周面およびフランジ状部64のみが、外部に直接に露出せしめられている。
【0045】
そして、このような構造とされた当接金具62は、流体室33に充填すべき非圧縮性流体に浸漬されて、かかる非圧縮性流体中において、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品として形成された第二の取付金具14における軸方向下側の開口部から底壁部66を差し入れて嵌め込まれると共に、当接金具62のフランジ状部64が第二の取付金具14のかしめ部24に挿入せしめられ、フランジ状部64の上面が、第二の取付金具14の段差部22の下面に重ね合わされる。続いて、非圧縮性流体に浸漬された状態下、仕切部材42が当接金具62に嵌め込まれて、上オリフィス金具48のフランジ状部52の上面が、シールゴム層70を介して当接金具62の筒状部の下端面に当接せしめられる。
【0046】
さらに、その後、かかる非圧縮性流体に浸漬せしめられた状態下、ダイヤフラム30が、シールゴム32を仕切部材42に外挿せしめて、下オリフィス金具50のフランジ状部54の下面に重ね合わされる。そして、底金具34のフランジ状部38が、第二の取付金具14のかしめ部24に挿入されてダイヤフラム30の下面に重ね合わされる。続いて、かしめ部24がかしめ加工されて径方向内方に屈曲せしめられることにより、第二の取付金具14の段差部22に重ね合わされた当接金具62、仕切部材42、ダイヤフラム30、および底金具34が、第二の取付金具14に対して一体的にかしめ固定されている。
【0047】
このようにして、ダイヤフラム30のシールゴム32が当接金具62と底金具34の両フランジ状部64,38で上下から狭圧固定される。これにより、第二の取付金具14の下側開口部が、ダイヤフラム30で流体密に覆蓋されることとなり、以て、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム30の間に、非圧縮性流体が充填せしめられた流体室33が形成される。
【0048】
それと共に、仕切部材42が、当接金具62に被着せしめられたシールゴム層70とダイヤフラム30によって上下から狭持固定されている。これにより、仕切部材42によって流体室33が上下に分割されており、仕切部材42の上方に非圧縮性流体が充填せしめられた受圧室44が形成される一方、下方に非圧縮性流体が充填せしめられた平衡室46が形成される。そして、仕切部材42における下オリフィス金具50の外周部分に形成された環状通路60は、上オリフィス金具48の底壁面に貫設された連通孔71によって、周方向の一方の端部が受圧室44に連通せしめられている一方、他方の端部が、下オリフィス金具50の筒壁部56に貫設された図示しない連通孔によって平衡室46に連通せしめられている。これにより、本実施形態においては、かかる環状通路60によって、受圧室44と平衡室46を相互に連通するオリフィス通路72が形成されている。
【0049】
ここにおいて、本実施形態におけるオリフィス通路72は、本体ゴム弾性体16に形成された当接突部29が当接金具62の底壁部66の上面に被着せしめられたシールゴム層70から離隔せしめられた状態において、エンジンシェイクの如き10Hz程度の低周波大振幅振動に対して有効な防振効果が発揮されると共に、当接突部29がシールゴム層70に当接せしめられた状態において、アイドリング振動の如き20Hz程度の高周波小振幅振動に対して有効な防振効果が発揮されるようにチューニングされている。かかるオリフィス通路72のチューニングは、例えば、受圧室44や平衡室46の各壁ばね剛性、即ちそれら各室44,46を単位容積だけ変化させるのに必要な圧力変化量に対応する本体ゴム弾性体16やダイヤフラム30等の各弾性変形量に基づく特性値を考慮しつつ、オリフィス通路72の通路長さと通路断面積を調節することによって行うことが可能であり、一般に、オリフィス通路72を通じて伝達される圧力変動の位相が変化して略共振状態となる周波数を、当該オリフィス通路72のチューニング周波数として把握することが出来る。
【0050】
また、かかる組み付け状態において、当接金具62のフランジ状部64が、第二の取付金具14の段差部22とダイヤフラム30のシールゴム32によって上下から狭持固定されており、これにより、当接金具62が、流体室33内に組み付けられている。ここにおいて、当接金具62は、底壁部66が流体室33の軸方向中間部分からやや上方において、第二の取付金具14の内周面から受圧室44の内方に向けて突出するように軸直角方向に広がると共に、本体ゴム弾性体16に形成された当接突部29と振動入力方向で対向位置せしめられて配設されており、後述する図3に示すように、パワーユニットの分担支持荷重が及ぼされていない状態で、当接突部29の突出先端部31と底壁部66の上面に被着せしめられたシールゴム層70との間で所定距離を隔てた位置に配設される。このように、本実施形態においては、底壁部66を含んで当接座が構成されている。なお、当接金具62の外周面は、第二の取付金具14の内周面に被着されたシールゴム層26に密接せしめられている。これにより、本実施形態においては、受圧室44の壁部の一部が当接金具62の内周面に被着せしめられたシールゴム層70によって構成されている。
【0051】
このような構造とされたエンジンマウント10は、第一の取付金具12の取付ボルト18がパワーユニット側の取付部材に固定されると共に、第二の取付金具14に固着された底金具34の取付ボルト36が車両ボデー側の取付部材に固定されるようになっている。これにより、エンジンマウント10が、パワーユニットと車両ボデーの間に装着されて、パワーユニットを車両ボデーに防振支持せしめるようになっている。
【0052】
かかる装着状態下において、エンジンマウント10には、パワーユニットの分担支持荷重が及ぼされて、第一の取付金具12と第二の取付金具14が互いに接近せしめられる。これにより、特に本実施形態におけるエンジンマウント10は、図1にも示すように、振動が入力されていない装着状態下において、本体ゴム弾性体16に形成された当接突部29が、シールゴム層70を介して当接金具62の底壁部66に対して本体ゴム弾性体16の周方向の全周に亘って当接せしめられて、弾性的に圧縮変形せしめられた状態とされており、底壁部66に対して予圧をもった当接状態とされている。また、当接突部29が底壁部66に当接せしめられることによって、当接突部29の外周部分には、全周に亘って、受圧室44と仕切られた液封領域74が形成される。
【0053】
そして、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に、例えばアイドリング振動等の如き20Hz程度の高周波小振幅振動が入力された場合には、入力振動の振幅が小さいことから、本体ゴム弾性体16に形成された当接突部29と当接金具62に形成された底壁部66の当接状態が保たれた状態で、第一の取付金具12と第二の取付金具14が軸方向で相対的に接近/離隔せしめられる。そして、受圧室44と平衡室46との間に惹起された相対的な圧力変動に基づいて、オリフィス通路72内に流体流動が生ぜしめられる。ここにおいて、本実施形態では、オリフィス通路72が、当接突部29と底壁部66の当接状態において、20Hz程度の高周波小振幅振動に対して有効な防振効果が発揮されるようにチューニングされていることから、オリフィス通路72を流れる流体の共振作用等の流動作用に基づいて、アイドリング振動等の高周波小振幅振動に対して低動ばね特性による有効な振動絶縁効果が発揮せしめられる。
【0054】
一方、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に、例えばエンジンシェイク等の如き10Hz程度の低周波大振幅振動が圧縮方向(図1中、下方)に入力された場合には、図2に示すように、第一の取付金具12と第二の取付金具14が軸方向で接近せしめられる。ここにおいて、当接突部29と底壁部66が当接状態とされていることから、本体ゴム弾性体16の円形凹部28によって形成される受圧室44内径寸法は、当接突部29の内径寸法:L1とされる。
【0055】
そして、特に本実施形態においては、かかる低周波大振幅振動が引張方向(図1中、上方)に入力されて、第一の取付金具12と第二の取付金具14が相対的に離隔せしめられた場合には、振幅が大きいことから、図3に示すように、当接突部29と底壁部66との当接状態が解除されて、互いに離隔せしめられる。これにより、本体ゴム弾性体16によって形成される受圧室44の壁ばね剛性が低下せしめられる。即ち、第一の取付金具12と第二の取付金具14を弾性連結する本体ゴム弾性体16の自由長:lが、図1に示す如き当接突部29と底壁部66との当接状態では、第一の取付金具12から当接突部29の間の寸法:laに制限されているが、当接が解除された状態下では、図3に示す如き本体ゴム弾性体16の径方向寸法:lbの全長に亘ると考えられる。この自由長の変化により、本体ゴム弾性体16のばね剛性が小さくされる。それと共に、当接突部29と底壁部66との当接状態が解除されることによって、本体ゴム弾性体16の円形凹所28によって形成される受圧室44の内径寸法が、円形凹部28の内径寸法:L2とされて、受圧室44の有効断面積が増大せしめられる。そして、これら受圧室44の壁ばね剛性の低下と有効断面積の増大によって、オリフィス通路72による減衰効果をより有利に生ぜしめることが出来ると共に、高減衰効果のピークをより低周波数域で生ぜしめることが出来て、エンジンシェイク等の低周波大振幅振動に対して、オリフィス通路72を流れる流体の共振作用等の流動作用に基づく高減衰効果がより有効に生ぜしめられる。
【0056】
このように、本実施形態におけるエンジンマウント10においては、単一のオリフィス通路72によって、エンジンシェイクの如き低周波大振幅振動およびアイドリング振動の如き高周波小振幅振動の何れにおいても、有効な防振効果を得ることが可能となるのである。
【0057】
なお、図4(a)に、本発明に従う構造とされたエンジンマウントの動ばね特性について、入力振動の振幅を異ならせて測定した結果を、振幅の小さいものから順に実施例1乃至6として示す。なお、実施例1乃至6の入力振動の振幅は、実施例1の振幅をAとすると、実施例2は2A、実施例3は5A、実施例4は10a、実施例5は20A、実施例6は50Aの大きさとされている。また、図4(b)に、従来構造に従うエンジンマウントについて同様に、動ばね特性を測定した結果を、比較例1乃至6として示す。なお、ここにおいて、従来構造に従う構造とされたエンジンマウントとは、本発明において、当接突部29と底壁部66が当接せしめられた状態のものをいう。また、比較例1乃至6の入力振動の振幅は、それぞれ、実施例1乃至6の入力振動の振幅と同じ大きさとされている。
【0058】
図4(a),(b)から明らかなように、本発明に従う構造とされたエンジンマウントは、実施例1乃至4の如き小振幅の振動が入力された場合には、従来構造の比較例1乃至4と略同様の動ばね特性が発現せしめられて、20Hz付近で低動ばね効果が発揮せしめられている。従って、本発明に従う構造とされたエンジンマウントは、アイドリング振動の如き20Hz程度の高周波小振幅振動において、従来構造と同等の低動ばね効果を発揮し得ることが明らかである。
【0059】
さらに、図5(a)に、本発明に従う構造とされたエンジンマウントの減衰特性について、入力振動の振幅を異ならせて測定した結果を振幅の小さいものから順に実施例7乃至12として示す。なお、実施例1乃至6の入力振動の振幅は、実施例1の振幅をAとすると、実施例2は2A、実施例3は5A、実施例4は10a、実施例5は20A、実施例6は50Aの大きさとされている。また、図5(b)に、従来構造に従うエンジンマウントについて同様に、減衰特性を測定した結果を、比較例7乃至12として示す。なお、ここにおいて、従来構造に従う構造とされたエンジンマウントとは、本発明において、当接突部29と底壁部66が当接せしめられた状態のものをいう。また、比較例1乃至6の入力振動の振幅は、それぞれ、実施例1乃至6の入力振動の振幅と同じ大きさとされている。
【0060】
図5(a),(b)から明らかなように、本発明に従う構造とされたエンジンマウントは、実施例11および12の如き大振幅の振動が入力された場合には、従来構造に比して、より高い減衰効果が発現せしめられると共に、それら減衰のピークがより低周波側に位置せしめられている。特に、実施例において最も振幅の大きい実施例12においては、従来構造に比して高減衰効果がより顕著に生ぜしめられていると共に、減衰のピークがより10Hz付近に位置せしめられている。従って、本発明に従う構造とされたエンジンマウントは、エンジンシェイク等の10Hz程度の低周波大振幅振動において、より優れた高減衰効果が発現せしめられることが明らかである。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0062】
例えば、弾性当接部は、必ずしも本体ゴム弾性体に形成される必要はないのであって、当接座に形成しても良いし、或いは、本体ゴム弾性体および当接座の両方に形成する等しても良い。具体的には、例えば、前述の実施形態において、本体ゴム弾性体16に当接突部29を形成することなく、当接金具62における底壁部66から本体ゴム弾性体16に向けて突出する突部を一体的に形成して、かかる突部を当接突部として本体ゴム弾性体16に当接せしめる等しても良い。このような場合には、底壁部66が金属によって形成されていることから、かかる突部は硬質とされるが、本体ゴム弾性体16の弾性によって、本体ゴム弾性体16に対して弾性的に当接せしめられることとなる。このように、弾性当接部としては、それ自体が弾性を有することなく、本体ゴム弾性体など他の部材の弾性を用いて本体ゴム弾性体や当接座に弾性的に当接せしめる等しても良い。また、前述の実施形態において、底壁部66の上面に被着せしめられたシールゴム層70から、本体ゴム弾性体16に設けられた当接突部29に向けて上方に突出する弾性突部を設け、かかる弾性突部と当接突部29を装着状態下で当接せしめることによって、かかる弾性突部と当接突部29によって弾性当接部を形成する等しても良い。
【0063】
また、前述の実施形態において、当接突部29の適当な箇所に、液封領域74と受圧室44を連通せしめる連通孔を貫設する等しても良い。このようにすれば、当接突部29が底壁部66に当接せしめられた状態においても、液封領域74と受圧室44が連通状態に維持される。これにより、本体ゴム弾性体16が引張変形せしめられた場合に液封領域74に負圧吸引力が生ぜしめられて、当接突部29と底壁部66との離隔方向の変位を阻害するようなことや、キャビテーション等に起因する異音の発生のおそれを軽減することも出来る。更に、同様の理由から、当接突部29を、本体ゴム弾性体16の周方向で不連続に、適当な間隔を隔てて複数形成して、本体ゴム弾性体16の周方向で適当な間隔を隔てて当接せしめる等しても良い。このようにしても、当接突部29の間に形成された所定の間隔によって、当接突部29と底壁部66の当接状態において、液封領域74と受圧室44の連通状態を維持することが出来る。また、このようにすれば、当接突部29の当接面積が小さくされることから、シールゴム層70との吸着も軽減されて、大振幅入力時の当接状態の解除をより円滑に行なうことが出来る。
【0064】
さらに、液封領域74は、必ずしも必要ではないのであって、例えば、前述の実施形態において液封領域74が形成される部位にも当接突部29を形成する等しても良い。これにより、上述の如き負圧吸引力や異音の発生を回避することが出来る。なお、液封領域74の形成部位にも当接突部29を形成する場合には、液封領域74の形成部位の下方に位置する底壁部66の外周部分において、底壁部66およびシールゴム層70を貫通して、底壁部66の上下空間を連通せしめる連通孔を形成することが望ましい。このようにすれば、当接突部29とシールゴム層70との吸着や異音のおそれを軽減することが出来る。
【0065】
また、当接座を形成するために、必ずしも当接金具などの部材を別途に設ける必要はない。例えば、仕切部材を用いて当接座を形成する等しても良いのであって、仕切部材を本体ゴム弾性体に近い位置に配設せしめて、仕切部材の上面を当接座として用いたり、或いは、仕切部材から本体ゴム弾性体に延び出す突出部を形成して、かかる突出部を当接座として用いる等しても良い。
【0066】
また、本発明は、必ずしも前述の如き、第二の取付部材の一方の端部が本体ゴム弾性体で覆蓋せしめられると共に、他方の端部が可撓性膜で覆蓋せしめられた構造の流体封入式防振装置に限定されるものではなく、例えば、特開2004−232792号公報や特開2004−232803号公報に記載の如き、本体ゴム弾性体の上方を覆うように可撓性膜が形成されて、本体ゴム弾性体を挟んだ上下に受圧室と平衡室が形成される流体封入式防振装置に適用することも可能であるし、或いは、特開2004−36780号公報や特開2004−278706号公報に記載の如き、インナ筒部材の外周側にアウタ筒部材を離隔配置せしめて、それら筒部材の一方の端部を本体ゴム弾性体で連結せしめると共に、他方の端部を可撓性膜で連結せしめた筒型の流体封入式防振装置に適用すること等も可能である。
【0067】
加えて、前記実施形態では、本発明を自動車用エンジンマウントに適用したものの具体例について説明したが、本発明は、自動車用ボデーマウントやデフマウント、サスペンションメンバマウント等の他、自動車以外の各種振動体の防振装置に対して、何れも、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。
【図2】同防振装置の圧縮方向の振動入力状態を示す縦断面図。
【図3】同防振装置の引張方向の振動入力状態を示す縦断面図。
【図4】本発明および従来構造に従う防振装置の動ばね特性を示すグラフ。
【図5】本発明および従来構造に従う防振装置の減衰特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0069】
10:エンジンマウント、12:第一の取付金具、14:第二の取付金具、16:本体ゴム弾性体、29:当接突部、30:ダイヤフラム、42:仕切部材、44:受圧室、46:平衡室、62:当接金具、66:底壁部、72:オリフィス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめ、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室と、壁部の一部が可撓性膜で構成されて容積変化が許容される平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、該受圧室と該平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設けた流体封入式防振装置において、
前記第二の取付部材に当接座を設ける一方、前記本体ゴム弾性体と該当接座との振動入力方向対向部間に設けられて装着状態下で該本体ゴム弾性体と該当接座との間で弾性的に予圧をもって当接せしめられると共に、装着状態下において所定振幅以上の振動の入力時には該本体ゴム弾性体と該当接座との間での当接が解除される弾性当接部を設けたことを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記第二の取付部材を円筒形状として、該第二の取付部材の一方の開口部側に前記第一の取付部材を離隔配置せしめて、それら第一の取付部材と第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結せしめた請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記第二の取付部材の一方の開口部を前記本体ゴム弾性体で流体密に覆蓋すると共に、該第二の取付部材の他方の開口部を前記可撓性膜で流体密に覆蓋せしめる一方、仕切部材を該第二の取付部材で固定的に支持せしめて、該仕切部材を該本体ゴム弾性体と該可撓性膜の対向面間で該第二の取付部材の軸直角方向に広がるように配設することにより、該仕切部材を挟んだ両側に前記受圧室と前記平衡室を形成し、それら受圧室と平衡室を相互に連通する前記オリフィス通路を該仕切部材の外周部分を周方向に延びるように形成した請求項2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記弾性当接部が円環形状とされて、装着状態下で前記本体ゴム弾性体の周方向の全周に亘って当接せしめられている請求項2又は3に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記弾性当接部が前記本体ゴム弾性体の周方向に所定間隔を隔てて複数形成されて、該本体ゴム弾性体の周方向で所定間隔を隔てて当接せしめられている請求項2又は3に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記第二の取付部材の内周面から前記受圧室の内方に向けて突出する当接金具によって前記当接座を形成した請求項2乃至5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記本体ゴム弾性体において前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の連結方向の中間部分に前記弾性当接部を配設した請求項1乃至6の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項8】
前記第一の取付部材の振動入力方向投影で前記弾性当接部の少なくとも一部が重なるようにされている請求項1乃至7の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項9】
前記本体ゴム弾性体と一体的に前記弾性当接部が設けられている請求項1乃至8の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項10】
自動車用のエンジンマウントであって、前記オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、前記弾性当接部が前記本体ゴム弾性体と前記当接座の間で当接せしめられた状態においてアイドリング振動に相当する周波数にチューニングされると共に、該弾性当接部の該本体ゴム弾性体と該当接座の間での当接が解除された状態においてエンジンシェイクに相当する周波数にチューニングされている請求項1乃至9の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−240891(P2008−240891A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82175(P2007−82175)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】