説明

流体封入式防振装置

【課題】可動板が収容スペース内壁面に当接せしめられる場合における異音の発生を安定して効果的に低減乃至は回避することが出来る新規な構造の可動板を備えた流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】仕切金具50によって可動板80を小変位可能に支持せしめて、可動板80の各一方の面に及ぼされる受圧室68と平衡室70との圧力差により可動板80が変位せしめられる圧力変動吸収機構を構成した流体封入式防振装置において、可動板80の変位量を制限する仕切金具50に対する可動板80の当接面に、最大外幅寸法よりも突出長さ寸法が大きくされたヒゲ状弾性突起102を複数本突出形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式防振装置に係り、特に、液圧吸収機構としての可動板を有する流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体乃至は防振支持体として、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結した防振ゴムが各種分野に広く採用されているが、このような防振ゴムの一種として、より優れた防振効果を得るために、封入した非圧縮性流体の共振作用等の流動作用を利用するようにした流体封入式防振装置が提案されている。かかる防振装置は、一般に、本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室と、変形容易とされた可撓性膜で壁部の一部が構成されて容積変化が許容される平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、両室を相互に連通させるオリフィス通路を設けた構造とされている。
【0003】
また、オリフィス通路を通じて流動せしめられる非圧縮性流体の共振作用に基づく防振効果は、予めチューニングされた特定の周波数域でしか有効に発揮され難い。そこで、特にオリフィス通路のチューニング周波数域よりも高周波数域の振動入力時における著しい高動ばね化を回避して防振性能を向上するために、可動板による液圧吸収機構が提案されている。この液圧吸収機構は、一般に、受圧室と平衡室を仕切る仕切部材に収容スペースを形成し、この収容スペースに対して微小変位可能に可動板を収容配置せしめた構造となっている。収容スペースは、受圧室と平衡室にそれぞれ通孔を通じて接続されており、それらの通孔を通じて、可動板の一方の面に受圧室の圧力が及ぼされ且つ他方の面に平衡室の圧力が及ぼされるようになっている。
【0004】
そして、受圧室と平衡室の圧力差に基づく可動板の変位によって、高周波数域の振動入力時における受圧室の微小圧力変動を平衡室に逃がして吸収するようにされている。一方、オリフィス通路がチューニングされた低周波数域の振動入力時には、かかる振動の振幅が大きいことから、可動板が収容スペースの内面に当接して重ね合わされた状態となって通孔を実質的に閉塞してしまうこととなる。それ故、液圧吸収機構による受圧室の圧力吸収が回避されて、受圧室と平衡室の相対的な圧力変動が有効に生ぜしめられることとなり、それら両室間でのオリフィス通路を通じての流体流動量が十分に確保されて、オリフィス通路による防振効果が発揮されるようにされる。
【0005】
ところが、このような液圧吸収機構では、大振幅振動が入力されて受圧室に急激な圧力変動が生ぜしめられた際、可動板が収容スペースの内面に勢い良く打ち当たる。そのために、可動板の収容スペース内面への打ち当たりの衝撃が、音や振動となって発生し易いという問題があった。例えば、自動車用のエンジンマウントとして採用する場合には、エンジンのクランキング時や段差乗り越えの際、運転者に聞こえる程の異音等となって、乗車フィーリングを低下させる原因の一つとなるおそれもあったのである。
【0006】
なお、このような問題に対処するために、例えば実公平4−33478号公報(特許文献1)には、可動板をゴム弾性板で構成すると共に、その表面にリップ状の小突起を一体形成し、この小突起で打ち当たりの際の衝撃を吸収することが提案されている。また、特開2006−258217号公報(特許文献2)には、前記リップ状の小突起の代わりに、可動ゴム板の両面に凹溝及び凸条を形成することで、打ち当たりの際の衝撃を吸収することが提案されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2に示されている従来構造では、突出部分の仕切部材への当接に伴う弾性的な圧縮変形に基づいて緩衝作用が発揮されるに過ぎなかった。それ故、充分に柔らかいばね特性を得ることが難しく、当接後のばね定数の立ち上がりが急激で充分な緩衝作用を得難かった。なお、柔らかいばね特性を実現するために弾性率が小さい弾性材料を用いることも考えられるが、耐久性や耐液性が得られ難く実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平4−33478号公報
【特許文献2】特開2006−258217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、可動板が仕切部材に当接せしめられる場合における異音の発生を安定して効果的に防ぐことができる新規な構造の可動板を備えた流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0011】
すなわち、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめて、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側にそれぞれ非圧縮性流体が封入されて振動入力時に相対的な圧力変動が生ぜしめられる第一の流体室と第二の流体室を形成すると共に、それら第一の流体室と第二の流体室を連通せしめるオリフィス通路を設ける一方、該仕切部材によって可動板を小変位可能に支持せしめて、該可動板の各一方の面に及ぼされる該第一の流体室と該第二の流体室との圧力差により該可動板が変位せしめられる圧力変動吸収機構を構成した流体封入式防振装置において、前記可動板の変位量を制限する前記仕切部材に対する該可動板の当接面に、最大外幅寸法よりも突出長さ寸法が大きくされたヒゲ状弾性突起を複数本突出形成したことを特徴とする。
【0012】
このような本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、最大外幅寸法よりも突出長さ寸法が大きくされたヒゲ状弾性突起を複数本突出形成したことにより、当接初期のばね特性を充分に柔らかくしつつ、曲げや座屈の変形が容易に生ぜしめられるようにした。これにより、当接後の圧縮変形による急激なばね特性の立ち上がりが回避され、優れた緩衝効果が発揮される。しかも、本発明で採用したヒゲ状弾性突起は当接初期のばね特性を充分に柔らかくできると共に、当接後の曲げや座屈の変形によって、弾性変形のストロークを低ばね特性のもとで大きく得ることも可能と為し得た。これにより、ヒゲ状弾性突起の当接初期では、当接状態下でも、可動板の変位に基づく液圧吸収機能が有効に発揮されることとなる。それ故、可動板の変位量を充分に小さく維持して低周波大振幅振動の入力時におけるオリフィス通路の流体流動量を確保しつつ、可動板のヒゲ状弾性突起による緩衝ストローク(緩衝機能が発揮される変位量)を大きく設定することで優れた緩衝性能を得ることが可能となる。以上のことから、振動入力時の可動ゴム板と収容スペース内壁面との当接により生じる圧力が急激に上昇することを防ぐことが出来て、かかる圧力の急激な上昇に起因して生じる当接打音の発生を効果的に防ぐことが出来る。
【0013】
また、ヒゲ状弾性突起の当接初期のばね特性を充分に柔らかくしつつ、曲げや座屈の変形が容易に生ぜしめられるようにしたことにより、ヒゲ状弾性突起の曲げや座屈の変形を高い耐久性を持って発揮させることが出来る。
【0014】
また、ヒゲ状弾性突起の最大外幅寸法や突出長さ寸法、或いは、設置場所や設置個数等を適宜に設定することによって、仕切部材と可動ゴム板の当接時に生じる圧力を容易に調節することが可能であり、可動ゴム板の弾性変形に伴う当接エネルギーの吸収作用を要求されるチューニング精度に応じて設定することが出来る。
【0015】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載の流体封入式防振装置において、前記ヒゲ状弾性突起が、前記仕切部材への当接により曲げ変形せしめられているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、ヒゲ状弾性突起が曲げ変形部材とされることにより、当接に伴うヒゲ状弾性突起のばね特性が一層柔らかく、且つ緩やかに増大することとなり、より有効な緩衝機能が発揮され得る。なお、曲げ変形が一層効果的に発揮されるようにするには、縦横比(突出長さ寸法/最大外幅寸法)を大きく(例えば1.5以上、より好適には2以上)する他、初期形状において中心軸(高さ方向の弾性主軸)が湾曲した形状を設定することも有効である。
【0017】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に記載の流体封入式防振装置において、前記可動板がゴム弾性体で形成されていると共に、前記ヒゲ状弾性突起が該可動板に一体形成されているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、可動板がゴム弾性体で形成されていることにより、可動板自体の弾性変形による緩衝作用も発揮されることとなり、当接時の打音や衝撃の更なる低減が図られ得る。なお、本態様では、可動板がゴム弾性体の単体で形成されている構造に限定されない。例えば、ゴム弾性体に金属や合成樹脂等からなる硬質プレートを被着して可動板の剛性を向上させたり、可動板の薄肉化を図ること等も可能である。
【0019】
本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れかの態様に記載の流体封入式防振装置において、前記ヒゲ状弾性突起の前記最大外幅寸法が基端部に設定されていると共に、該ヒゲ状弾性突起の先端部の外幅寸法が該基端部よりも小さくされているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、最大外幅寸法を高さ方向で異ならせることにより、当接初期のばね特性を柔らかくして当接時の衝撃を一層緩和すると共に、当接後のヒゲ状弾性突起の弾性変形量の増大に伴うばね特性の立ち上がりを非線形的に調節することが可能となる。より好適には、ヒゲ状弾性突起は、基端部から先端部に向かって外側寸法が小さくなる形状とされ、それによって成形時における成形型からの脱型も容易となる。
【0021】
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れかの態様に記載の流体封入式防振装置において、前記可動板の中心軸の位置を、前記仕切部材に対して軸直角方向で位置決めする位置決め手段が設けられているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、ヒゲ状弾性突起が湾曲変形することに伴い、その反力として可動板に及ぼされる中心軸に直交する方向への変位が、かかる位置決め手段で制限される。これにより、可動板が所定位置に安定して配設されることとなり、例えば可動板の外周面の仕切部材への緩衝等に起因する不安定な作動が回避され、目的とする液圧吸収機能が安定して発揮され得る。
【0023】
本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れかの態様に記載の流体封入式防振装置において、前記仕切部材に対する該可動板の当接面には、最大外幅寸法よりも突出高さ寸法が小さくされた緩衝突部が形成されていると共に、該緩衝突部の突出先端部を避けて前記ヒゲ状弾性突起が設けられているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、前記ヒゲ状弾性突起と共に緩衝突部が設けられている。これにより、当接時における緩衝作用を得るに際して、非線形なばね特性が一層効果的に実現可能となる。また、緩衝突部の突出先端部を避けてヒゲ状弾性突起を形成したことにより、ヒゲ状弾性突起の過度の変形に起因する耐久性の低下を回避できると共に、緩衝突部とヒゲ状弾性突起の両者の緩衝作用をそれぞれ有効に発揮させることができる。
【0025】
本発明の第七の態様は、前記第一乃至第六の何れかの態様に記載の流体封入式防振装置において、前記仕切部材には、前記可動板の変位方向での該可動板との対向面において、該可動板の各一方の面に対して前記第一の流体室又は前記第二の流体室の圧力を及ぼす通孔が形成されていると共に、該可動板における前記ヒゲ状弾性突起が、該仕切部材への前記当接面において該通孔を避けた径方向位置で周方向に並んで複数形成されているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、ヒゲ状弾性突起が通孔を避けて形成されている。これにより、ヒゲ状弾性突起を仕切部材に対して安定して当接させることができる。また、通孔を避けた径方向位置で周方向に環状列を為すようにヒゲ状突起を形成したことにより、仕切部材に対して可動板を組み付ける際、周方向の位置決めが不要となって組付作業を容易にできる。
【0027】
本発明の第八の態様は、前記第一乃至第七の何れかの態様に記載の流体封入式防振装置において、前記可動板の変位方向両側において、該可動板に形成された前記ヒゲ状突起の先端部分が前記仕切部材に対して当接されることにより、該可動板が弾性的に位置決めされているものである。
【0028】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、ヒゲ状弾性突起が初期当たりした状態で組み付けられている。これにより、振動入力時におけるヒゲ状弾性突起の先端部の仕切部材への打ち当たりに伴う初期当たりの衝撃や打音を一層効果的に軽減できる。また、可動板が、変位ストロークの中間位置に安定して保持されることから、振動入力時における可動板の液圧吸収機能も一層安定して発現可能となる。
【0029】
本発明の第九の態様は、前記第一乃至第八の何れかの態様に記載の流体封入式防振装置において、前記可動板に形成された複数の前記ヒゲ状弾性突起の先端部分が前記仕切部材に対して当接せしめられた初期当たりの状態下において、該可動板の変位方向のばね定数が0.5〜2.0N/mmとされているものである。
【0030】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、ヒゲ状弾性突起の先端部分が仕切部材に当接せしめられた初期状態において、可動板の変位方向のばね定数が0.5〜2.0N/mmとされている。これにより、ヒゲ状弾性突起の当接初期のばね特性による当接時の衝撃緩和作用が一層効果的に発揮されうる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、最大外幅寸法よりも突出長さ寸法が大きくされたヒゲ状弾性突起を複数本突出形成したことにより、当接初期のばね特性を充分に柔らかくしつつ、曲げや座屈の変形が容易に生ぜしめられるようにした。これにより、当接後の圧縮変形による急激なばね特性の立ち上がりが回避され、当接圧力の過激な上昇による打音の抑制乃至は回避が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第一の実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウントを示す断面図。
【図2】本実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウントにおける可動板を示す上面拡大図。
【図3】本実施形態における可動板の動荷重の比較例との対比図。
【図4】本発明の第二の実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウントにおける可動板を示す断面拡大図。
【図5】本発明の第三の実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウントにおける可動板を示す断面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0034】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について説明する。先ず、図1には、本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で連結された構造とされている。また、エンジンマウント10は、第一の取付金具12がパワーユニット側に取り付けられる一方、第二の取付金具14がボデー側に取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して、他の図示しないエンジンマウント等と協働して防振支持せしめるようになっている。かかる装着状態下、エンジンマウント10には、パワーユニットの分担荷重の入力により本体ゴム弾性体16が弾性変形することに伴って、第一の取付金具12と第二の取付金具14が図1中の上下方向に所定量だけ接近して相対変位せしめられると共に、防振すべき主たる振動が、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に対して、図1中の略上下方向に入力されることとなる。なお、本実施形態のエンジンマウント10は、その装着状態下で、図1に示すように、マウント中心軸(第一及び第二の取付金具12,14の中心軸)が略鉛直方向とされることから、以下の説明中において、特に断りのない限り、図1中の上下方向を、上下方向とする。
【0035】
より詳細には、第一の取付金具12は、略円形のブロック形状を有しており、中心軸上には、上方に向かって延び出す固定ボルト18が形成されている。かかる固定ボルト18が、図示しないパワーユニットにおけるブラケット等の取付部材に形成された図示しないボルト穴に対して螺着されることによって、第一の取付金具12がパワーユニット側に固定されるようになっている。
【0036】
また、第二の取付金具14は、全体として厚肉の略円環板形状とされており、上取付金具20と下取付金具22を含んで構成されている。上取付金具20は、全体として略円環板形状の金属材によって形成されており、その径方向内周縁部には、軸方向上方に延び出す本体ゴム固着部24が形成されている。かかる本体ゴム固着部24は、略円環形状であって、軸方向上端部分の内周側が上方に向かって次第に拡開する傾斜面とされたテーパ面26とされている。また、上取付金具20の下面には、周方向に延びる圧入溝28が形成されていると共に、圧入溝28よりも内周側の下面が圧入溝28よりも外周側の下面よりも僅かに軸方向で上方に位置せしめられた固定金具支持部30とされている。更に、上取付金具20の内周縁部には、固定金具支持部30よりも僅かに軸方向上方に位置せしめられた段差状の仕切金具支持部32が形成されている。
【0037】
一方、下取付金具22は、上取付金具20に比して薄肉とされた略円環板形状の金属材によって形成されており、その内径寸法及び外形寸法がそれぞれ上取付金具20と略同一とされている。そして、上取付金具20と下取付金具22が同一中心軸上で上下に重ね合わせられることにより、全体として厚肉の略円環板形状を有する第二の取付金具14が構成されている。また、上下取付金具20,22の径方向中間部には、複数のボルト孔34が周方向で相互に離隔して貫通形成されており、各ボルト孔34に挿通される取付ボルトによって上下取付金具20,22が重ね合わせ状態で固着されて第二の取付金具14が構成されている。また、かかる取付ボルトを利用して、第二の取付金具14が、車両ボデーに対して直接に又はブラケット金具を介して取り付けられるようになっている。
【0038】
そして、第一の取付金具12と第二の取付金具14は、略同一中心軸上で図1中の上下に離隔して位置せしめられて、本体ゴム弾性体16で弾性的に連結されており、主たる支持荷重や防振荷重が、第一の取付金具12と第二の取付金具14との間で略対向方向に入力されるようになっている。
【0039】
本体ゴム弾性体16は、大径の略円錐台形状を有していると共に、大径側端面に開口する略逆すり鉢形状の大径凹所36を備えている。第一の取付金具12は、本体ゴム弾性体16の小径側端面から軸方向下方に差し込まれた状態で、本体ゴム弾性体16と同一中心軸上に配されて加硫接着されている。また、本体ゴム弾性体16の大径側端部外周面が、第二の取付金具14を構成する上取付金具20に形成されたテーパ面26に加硫接着されている。要するに、本体ゴム弾性体16が、第一の取付金具12と上取付金具20を備えた一体加硫成形品として形成されている。また、上取付金具20が本体ゴム弾性体16に固着されていることにより、上取付金具14の一方(図1中、上)の開口部が本体ゴム弾性体16によって流体密に閉塞されている。また、上取付金具20の内周面における軸方向下側部分には、本体ゴム弾性体16と一体形成されたシールゴム層38が被着されている。
【0040】
一方、上取付金具14の他方(図1中、下)の開口部は、可撓性膜としてのダイヤフラム40で閉塞されている。ダイヤフラム40は、中央部分に十分な弛みをもたせて変形容易とした薄肉の略円板形状のゴム弾性膜によって構成されている。また、ダイヤフラム40の外周縁部には、大径の略円筒形状とされた固定金具42が加硫接着されている。固定金具42はその上部に段差部44が設けられており、段差部44より上方の部分が大径の圧入部46とされていると共に、段差部44より下方の部分が圧入部46に比して小径であって、下端開口部の内周面に対してダイヤフラム40が被着された膜固着部48とされている。
【0041】
かかる固定金具42は、圧入部46が上取付金具20の下面に形成された圧入溝28に圧入せしめられる一方、固定金具42の段差部44上面が上取付金具20の下面に形成された固定金具支持部30と重ね合わされると共に、段差部44の下面が下取付金具22の内周縁部上面と重ね合わされて、相互にボルト固定される上取付金具20と下取付金具22の重ね合わせ面間に挟み込まれている。これにより、固定金具42が第二の取付金具14に対して固定されて、上取付金具14ひいては第二の取付金具14の下側の開口がダイヤフラム40によって流体密に覆蓋されている。
【0042】
また、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム40の対向面間の領域が外部空間に対して密閉されており、かかる領域に非圧縮性流体が封入されることによって、流体封入領域が画成されている。なお、該流体封入領域に封入される流体としては、例えば水やアルキレングリコール, ポリアルキレングリコール, シリコーン油等が採用されるが、特に流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。また、非圧縮性流体の封入は、例えば第一の取付金具12及び上取付金具20を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対するダイヤフラム40の組み付けを非圧縮性流体中で行うこと等によって実現される。
【0043】
さらに、上述の如くして画成された流体封入領域には、仕切金具50が収容状態で配設されており、第二の取付金具14で固定的に支持されている。この仕切金具50は、上仕切金具52と下仕切金具54を含んで構成されている。
【0044】
上仕切金具52は、薄肉の略平面視円板形状を呈している。また、上仕切金具52の中央部分には、プレス加工等で上方に向かって略平坦な円形状に突出せしめられた中空の円形凸部56が形成されている。この円形凸部56の上底部には、その径方向中央部に係合孔58が貫設されていると共に、係合孔58の周囲には複数の円形小孔からなる通孔60が貫設されている。更に、上仕切金具52の外周部分には、下方に向かって開口する溝形断面で周方向に所定の長さで延びる環状凸部62が形成されている。
【0045】
一方、下仕切金具54は、薄肉の略円板形状であって、上仕切金具52と同様に、その径方向中央部に係合孔64が形成されていると共に、係合孔64の周囲には複数の円形小孔からなる通孔66が貫設されている。なお、通孔60と通孔66によって本実施形態における透孔が構成されている。
【0046】
そして、上仕切金具52と下仕切金具54が同一中心軸上で軸方向に重ね合わせられることにより仕切金具50が構成されている。かかる仕切金具50は、その外周縁部上面が第二の取付金具14を構成する上取付金具20の内周縁部の下面に形成された仕切金具支持部32に重ね合わせられると共に、その外周縁部下面が固定金具42に重ね合わせられることにより、固定金具42を介して上取付金具20と下取付金具22の間に外周部分を流体密に挟み込まれて固定的に支持されている。
【0047】
これにより、流体封入領域は、その内部に仕切金具50が軸直角方向に拡がるように配設されていることによって上下に二分されている。これに伴い、仕切金具50を挟んだ軸方向一方(図1中、上)の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間への振動入力時に、本体ゴム弾性体16の弾性変形に伴って圧力変動が生ぜしめられる第一の流体室としての受圧室68が形成されている。一方、仕切金具50を挟んだ軸方向他方(図1中、下)の側には、壁部の一部がダイヤフラム40で構成されて、該ダイヤフラム40の弾性変形に基づいて容積変化が容易に許容される第二の流体室としての平衡室70が形成されている。
【0048】
さらに、上仕切金具52に形成された環状凸部62の下側の開口が下取付金具22で覆蓋されており、径方向外周部における上仕切金具52と下仕切金具54の対向面間にオリフィス通路72を構成する流体流路が形成されている。
【0049】
この流体流路は、周方向に所定の長さで延びており、その一方の端部が上取付金具20に貫通形成された受圧室側連通孔74を通じて受圧室68に接続されていると共に、他方の端部が下取付金具22における、環状凸部62の開口を覆蓋する部分に貫通形成された平衡室側連通孔76を通じて平衡室70に接続されている。これにより、該流体流路を含んでなるオリフィス通路72によって受圧室68と平衡室70が相互に連通せしめられており、それら両室68,70間で、オリフィス通路72を通じての流体流動が許容されるようになっている。
【0050】
特に本実施形態では、オリフィス通路72を流動せしめられる流体の共振周波数が、該流体の共振作用に基づいてエンジンシェイク等に相当する10Hz前後の低周波数域の振動に対して有効な防振効果(高減衰効果)が発揮されるようにチューニングされている。なお、オリフィス通路72のチューニングは、例えば、受圧室68や平衡室70の各壁ばね剛性(単位容積だけ変化させるのに必要な圧力変化量に対応する特性値)等を考慮しつつ、オリフィス通路72の通路長さと通路断面積を調節することによって行うことが可能であり、一般に、オリフィス通路72を通じて伝達される圧力変動の位相が変化して略共振状態となる周波数を、当該オリフィス通路72のチューニング周波数として把握することが出来る。
【0051】
また、上仕切金具52に形成されている円形凸部56の下側の開口が下仕切金具54の中央部分によって覆蓋されており、径方向中央における上仕切金具52と下仕切金具54の対向面間に収容スペースとしての収容領域78が形成されている。
【0052】
さらに、収容領域78には、可動板としての弾性ゴム板80が配設されている。弾性ゴム板80は、全体として略円板形状とされており、その中心軸上には、軸方向上下にそれぞれ突出する係合凸部82が形成されている。係合凸部82は上下の仕切金具52,54の中央部にそれぞれ形成された係合孔58,64の内径よりも僅かに小さな外径の円形断面を有して軸方向に延びており、係合凸部82が上下の仕切金具52,54にそれぞれ形成された係合孔58,64に対して挿通せしめられることにより、弾性ゴム板80の収容領域78内における軸方向への変位が許容されると共に、弾性ゴム板80の収容領域78内での径方向の変位量が制限されるようになっている。要するに、係合凸部82と係合孔58,64により、本実施形態において弾性ゴム板80の軸直角方向への変位を制限する係合部が構成されている。また、弾性ゴム板80は収容領域78の径方向寸法よりも小さな径方向寸法で形成されており、弾性ゴム板80の外周面と収容領域78の側壁内面の対向面間には、隙間が設けられて流体流通領域84とされている。
【0053】
弾性ゴム板80には、板厚方向上下両面において、それぞれ、周方向に延びる複数条の凹凸が形成されている。本実施形態では、弾性ゴム板80の中心軸上で略円錐形状をもって軸方向上下にそれぞれ突出する中央凸部86が形成されていると共に、外周縁部には軸方向上下にそれぞれ突出する略円環形状とされた凸条としての外周凸条88が形成されており、さらにこれら中央凸部86と外周凸条88の径方向中間部には軸方向上下にそれぞれ突出する略円環形状とされた凸条としての中間凸条90が形成されている。また、それら中央凸部86と中間凸条90と外周凸条88の径方向間を周方向に延びるように凹溝としての中間周溝92が形成されている。そして、中央凸部86と中間凸条90と外周凸条88によってそれぞれ中央厚肉部94、中間厚肉部96、外周厚肉部98が形成されている一方、中間周溝92によって中間薄肉部100が形成されており、厚肉とされた部分と薄肉とされた部分が弾性ゴム板80の径方向で交互に位置するように形成されている。
【0054】
中央凸部86は、突出先端に向かって次第に小径となる略円錐台形状を有して弾性ゴム板80の両面中央にそれぞれ形成されている。また、中央凸部86の突出高さが係合凸部82の突出高さに比して十分に低く設定されており、中央凸部86の径方向中央部分から軸方向上下に向かって係合凸部82が延び出すように形成されている。外周凸条88は、弾性ゴム板80の外周縁部に形成されて、略直角三角形断面で周方向に延びる凸条とされている。一方、中間凸条90は、弾性ゴム板80の径方向中間の一部に形成されて、略三角形状の略一定断面で周方向に延びる凸条とされている。また、中間凸条90の断面における突出先端部の角度が鈍角とされていると共に、突出先端の狭い領域が僅かに湾曲面で構成されている。更に、中間周溝92は、略三角形断面を有する凹溝として形成されており、その最深部が僅かに湾曲面とされている。中間周溝92は、弾性ゴム板80の上下両面にそれぞれ形成されており、各面に形成された中間周溝92が互いに同じ径方向位置に形成されている。また、中間周溝92上に位置するように、上仕切金具52と下仕切金具54にそれぞれ形成された通孔60,66が位置合せされて貫設されている。
【0055】
また、弾性ゴム板80の最大厚さ寸法が、収容領域78の内法寸法よりも小さくなるように、中央凸部86や中間凸条90、外周凸条88の突出高さが設定されている。要するに、中央凸部86や中間凸条90、外周凸条88の突出高さは互いに略同じとされていると共に、弾性ゴム板80の両面にそれぞれ形成された中央凸部86等の突出先端間の距離が、収容領域78の軸方向寸法よりも小さくされている。これにより、一方の面に形成された中央凸部86,中間凸条90,外周凸条88が収容領域78の上側内壁面に当接することで規定される弾性ゴム板80の上端変位端と、他方の面に形成された中央凸部86,中間凸条90,外周凸条88が収容領域78の下側内壁面に当接することで規定される弾性ゴム板80の下側変位端との間で、弾性ゴム板80が、収容領域78内において、板厚方向に所定ストロークで変位可能とされている。
【0056】
さらに、弾性ゴム板80の両面には、それぞれ、多数のヒゲ状弾性突起102が、弾性ゴム板80の突出して形成されている。かかるヒゲ状弾性突起102は、仕切金具50に対する弾性ゴム板80の対向面の略全体に亘って分布する状態で、特に本実施形態では周方向で略均等に分布する状態で、且つ径方向の複数部分に位置して形成されている。
【0057】
各ヒゲ状弾性突起102は、最大外幅寸法よりも突出長さ寸法が大きくされた髭や紐、針条の細長形状とされている。因みに、緩衝突部たる、中央凸部86や中間凸条90や外周凸条88、は最大外幅寸法よりも突出高さ寸法が小さくされている。ヒゲ状弾性突起102の断面形状は特に限定されるものでなく、多角形や楕円形等も採用可能であるが本実施形態では円形断面とされている。また、本実施形態では、ヒゲ状弾性突起102の断面形状や断面積が、長さ方向(突出方向)の全長に亘って一定とされているが、長さ方向の途中で変化していても良い。例えば、ヒゲ状弾性突起102の基端部分の断面積を大きくし、基端部から先端側に向かって次第に小さな断面積とすることにより、ヒゲ状弾性突起102の耐久性の向上を図ったり、当接時のばね特性を非線形化するなどのばね特性の調節を行うことも可能となる。
【0058】
また、ヒゲ状弾性突起102の細長比(外径寸法に対する長さ寸法の比)や断面積、長さなどは、要求されるばね特性や緩衝性能に応じて、ヒゲ状弾性突起102の材質を考慮して適宜に設定される。その際、ヒゲ状弾性突起102のばね定数は、突出方向(弾性ゴム板80の変位方向)での変形初期において、当接する全ヒゲ状弾性突起102の総計で0.5〜2.0N/mmとされることが望ましい。これにより、エンジンマウントにおいて要求される緩衝性能を一層効果的に発揮し得る。
【0059】
また、本実施形態では、ヒゲ状弾性突起102が、弾性ゴム板80の上下両面に突出して一体形成されており、上下両面で互いに略同じ位置に形成されている。弾性ゴム板80の両面に突設されたヒゲ状弾性突起102は、中央凸部86,中間凸条90,外周凸条88よりも、弾性ゴム板80から表裏両面外方に大きく突出する高さ寸法とされている。特に本実施形態では、全てのヒゲ状弾性突起102の突出先端位置が、弾性ゴム板80の表裏両面において略同じとされており、弾性ゴム板80の板厚方向への変位に際して、各一方の面に設けられた複数のヒゲ状弾性突起102の先端部が、収容領域78の内面に対して略同時に当接するようになっている。
【0060】
特に本実施形態では、弾性ゴム板80から両面外方に突出するヒゲ状弾性突起102の両側先端部間距離が、収容領域78の内法寸法と略同じとされている。これにより、収容領域78に収容された弾性ゴム板80は、上面に突設されたヒゲ状弾性突起102の先端面が収容領域78の上壁内面に対して、押付力が略0のゼロタッチ状態で当接されていると共に、下面に突設されたヒゲ状弾性突起102の先端面が収容領域78の下壁内面に対して略ゼロタッチ状態で当接されている。これにより、弾性ゴム板80は、上下に突設されたヒゲ状弾性突起102の弾性支持力に基づいて、収容領域78内の高さ方向の略中央部分へ弾性的に位置決め保持されている。
【0061】
そして、ヒゲ状弾性突起102の先端部が収容領域78の内面に当接した状態で、弾性ゴム板80が板厚方向に変位せしめられた場合には、ヒゲ状弾性突起102が弾性変形せしめられ、更に変位量が大きくなると中央凸部86,中間凸条90,外周凸条88の各突出先端部分が収容領域78の内面に当接するようになっている。
【0062】
なお、本実施形態では、弾性ゴム板80のヒゲ状弾性突起102は、仕切金具50への対向面に突出形成されており、上下仕切金具52,54の各通孔60,66に対向位置する部分を除いて形成されている。特に、弾性ゴム板80は周方向で位置決めされていないことから、上下仕切金具52,54の各通孔60,66に対向位置する可能性がある中間周溝92近傍には設けられていない。また、仕切金具50に対する間隙が狭くヒゲ状弾性突起102が短くなりすぎてしまうため、緩衝突部たる、中央凸部86や中間凸条90や外周凸条88、の先端部分にもヒゲ状弾性突起102は設けられていない。要するに、ヒゲ状弾性突起102は、弾性ゴム板80の上下両面における中央凸部86や中間凸条90、外周凸条88の各傾斜面上で、それぞれ、同一中心軸周りの円上に所定間隔で配列されて形成されている。なお、図1に示す弾性ゴム板80は、図2のI−I断面図に相当する。このように、本実施形態では、表裏が同一構造とされていることで、組付時に表裏の識別を不要と為し得、労力軽減や誤組付けによる不具合の発生を回避することができる。また、本実施形態では、通孔60,66を避けて径方向位置で周方向に並んで上下両面の同じ位置に複数のヒゲ状弾性突起102を形成する等して、中心軸回りの周方向でも実質的に方向性のない構造としたことにより、仕切金具50に対して弾性ゴム板80を組み付ける際、周方向の位置決めが不要となって組付作業が容易とされる。
【0063】
上述の如き構造とされた自動車用エンジンマウント10において、シェイク等の低周波数大振幅振動が入力された場合には、予めシェイク等の低周波数域の振動にチューニングされたオリフィス通路72を通じて受圧室68と平衡室70の間で積極的な流体流動が生ぜしめられる。また、低周波大振幅振動の入力時には、弾性ゴム板80の変位が追従しきれず、弾性ゴム板80が収容領域78の内壁面に対して押し付けられて、弾性ゴム板80の変位による液圧の吸収が阻止されると共に、上仕切金具52及び下仕切金具54にそれぞれ形成された通孔60,66の少なくとも一方が弾性ゴム板80によって閉塞せしめられることにより、通孔60,66及び収容領域78を通じての両室68,70間での流体の流動が防がれることとなる。これにより、受圧室68内に生じた圧力変動を有利に確保することが出来て、オリフィス通路72を通じて両室68,70間を流動せしめられる流動流体量を有利に得ることが出来て、オリフィス通路72を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果を有効に発揮せしめることが出来る。
【0064】
ここにおいて、低周波大振幅振動の入力時における弾性ゴム板80の収容領域78内壁面に対する当接時の衝撃力に起因する当接打音が問題となり易いが、本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10においては、かかる当接時の衝撃力を効果的に低減することが出来て、当接時の衝撃力に基づく異音の発生を低減乃至は回避することが可能となる。
【0065】
すなわち、弾性ゴム板80が軸方向で変位せしめられて、収容領域78の壁面に当接する場合には、本実施形態に係るエンジンマウント10における弾性ゴム板80では、先ず、ヒゲ状弾性突起102が収容領域78の壁面を構成する仕切金具50に当接せしめられる。特に本実施形態では、それらヒゲ状弾性突起102が略同一の突出高さで形成されており、略同時に仕切金具50に対して当接せしめられるようになっている一方、ヒゲ状弾性突起102が最大外幅寸法よりも突出長さ寸法が大きくされているにより、仕切金具50に当接直後にはヒゲ状弾性突起102は曲げ変形せしめられることとなって、当接初期の衝撃力が有効に分散,緩和される。なお、曲げ変形が一層効果的に発揮されるようにするには、細長比(突出長さ寸法/最大外幅寸法)を大きく(例えば1.5以上、より好適には2以上)する他、初期形状において中心軸(高さ方向の弾性主軸)が湾曲した形状を設定することも有効である。
【0066】
なお、ヒゲ状弾性突起102は、少なくとも5本以上が略同時に初期当接することが望ましく、好適には10本以上、更に好適には同時に20本以上が略同時に初期当接するようにされることが望ましい。それによって、安定した初期ばね特性が発揮されると共に、弾性ゴム板80の姿勢も、傾斜等の不安定化が防止されて、安定した状態のままで変位せしめられるのである。
【0067】
また、受圧室68と平衡室70の相対的な圧力差により弾性ゴム板80が更に仕切金具50に対して押圧されると、ヒゲ状弾性突起102が一層曲げ変形せしめられると共に、中間凸条90と外周凸条88の先端部が軸方向で圧縮されて弾性変形し始める。すなわち、弾性ゴム板80に圧力が作用せしめられて、まずヒゲ状弾性突起102が仕切金具50が当接し、曲げ変形せしめられる構成にしたことにより、当接圧力の増加を緩やかなものにすることができて、当接時の急激な圧力変動に基づく当接打音の発生を低減乃至は回避することが出来る。
【0068】
図3に、試作品を用いて評価を行った、本実施形態としてのエンジンマウント10における弾性ゴム板80の動荷重特性を、比較例と対比して示す。ここで、比較例とは、ヒゲ状弾性突起102のない従来構造の弾性ゴム板を用いた場合である。この結果より、一般的に動荷重が小さいほど打音も小さいことから、本実施形態における打音の低減を実測により確認することが出来た。また、この試作品を用いた実測結果より、弾性ゴム板80に形成された複数のヒゲ状弾性突起102の先端部分が仕切金具52,54に初期当接した時の、弾性ゴム板80の変位方向のばね定数が0.5〜2.0N/mmとされていることが望ましいことが分かった。
【0069】
次に、自動車用エンジンマウント10に対して、走行こもり音等の高周波数小振幅振動が入力された場合には、入力振動よりも低い周波数域の振動にチューニングされたオリフィス通路72は、反共振的な作用によって流体の流通抵抗が著しく大きくなって、実質的に閉塞状態とされる。
【0070】
一方、高周波小振幅振動の入力によって受圧室68に惹起される小さな振幅の圧力変動により、弾性ゴム板80が収容領域78内で軸方向に微小変位せしめられる。これにより、受圧室68の圧力変動が平衡室70に対して効率的に伝達されて、受圧室68内に惹起される圧力変動が容積変化を許容された平衡室70で吸収されることとなる。更に、上仕切金具52に形成された通孔60と流体流通領域84と下仕切金具54に形成された通孔66を通じて、受圧室68と平衡室70の間での流体流動が生じることにより、受圧室68内の液圧が平衡室70へ逃されることとなる。このような圧力変動吸収機構により、オリフィス通路72の実質的な閉塞に起因するエンジンマウント10の著しい高動ばね化が回避されて、高周波小振幅振動に対する良好な防振効果(低動ばね特性に基づく振動絶縁効果)が発揮されるのである。
【0071】
このような本実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウント10においては、大振幅の振動入力時における仕切金具50に対する弾性ゴム板80の当接に基づく衝撃力が、弾性ゴム板80に形成されたヒゲ状弾性突起102により効果的に吸収されて、かかる衝撃力に起因する異音の発生を有効に低減乃至は回避することが出来る。
【0072】
また、弾性ゴム板80中央に形成された係合凸部82が仕切金具50中央に形成された係合孔58,64に対して係合せしめられることにより、弾性ゴム板80が仕切金具50に対して径方向で位置決めされている。それ故、径方向外方に形成された流体流通領域84を安定して確保することが出来て、弾性ゴム板80の摩擦による変位不良が回避されると共に、小振幅振動入力時における受圧室68と平衡室70との流体流動を許容することによる液圧吸収効果を一層効果的に得ることが出来る。
【0073】
次に、図4には、本発明の第二の実施形態としてのエンジンマウント10における弾性ゴム板104の断面拡大図が示されている。なお、以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同一とされた部材乃至部位については、図中に同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0074】
より詳細には、本実施形態の弾性ゴム板104は、前記本発明の第一の実施形態の弾性ゴム板80において、突出方向の先端位置が互いに異なる二種類のヒゲ状弾性突起102,106を形成したものである。第一のヒゲ状弾性突起102は、第一の実施形態におけるヒゲ状弾性突起102と同じであるが、第二のヒゲ状弾性突起106は、その突出方向の先端位置が第一のヒゲ状弾性突起102よりも小さくされている。なお、第二のヒゲ状弾性突起106も、第一のヒゲ状弾性突起102と同様に、中央凸部86や中間凸条90、外周凸条88の突出先端部よりも外方にまで突出する高さとされている。また、中央凸部86や中間凸条90、外周凸条88の突出先端部を外れた傾斜面に突設されていると共に、上下仕切金具52,54の各通孔60,66を避けた径方向位置で周方向に環状に並んで配列形成されている。
【0075】
前記第一の実施形態のエンジンマウント10において、その弾性ゴム板80に代えて本実施形態の弾性ゴム板104を採用した場合でも、低周波大振幅振動の入力時における弾性ゴム板104の収容領域78内面への打ち当たりに伴う衝撃を効果的に低減することが出来て、異音や振動の発生を低減乃至は回避することが可能となる。
【0076】
特に本実施形態では、弾性ゴム板104が大きく変位せしめられる際、先ず、第一のヒゲ状弾性突起102が収容領域78の壁面を構成する仕切金具52,54に当接せしめられ、その後、弾性ゴム板104の変位量が更に大きくなると、次いで、第二のヒゲ状弾性突起106が当接せしめられる。また、より一層弾性ゴム板104の変位量が大きくなった場合には、続いて中間凸条90や外周凸条88が、収容領域78の壁面を構成する仕切金具52,54に当接せしめられる。その結果、第一のヒゲ状弾性突起102、第二のヒゲ状弾性突起106、外周凸条88や中間凸条90が、順次に当接することにより、弾性ゴム板104の変位に伴う当接ばね特性を非線形的に且つ穏やかに又は段階的に変化させて大きくすることができ、当接時の急激な当接ばね特性に起因する当接打音や当接衝撃の発生を一層効果的に抑えることができるのである。
【0077】
以上、本発明の幾つかの実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0078】
例えば、ヒゲ状弾性突起102,106の形状は、必ずしも本実施形態に示されているものに限定されるものではない。具体的には、例えば、ヒゲ状弾性突起102,106においては、基端部が最も太く、先端部はそれよりも細くなる形状とされてもよい。これにより、当接初期のばね特性を柔らかくして当接時の衝撃を一層緩和すると共に、当接後のヒゲ状弾性突起102,106の弾性変形量の増大に伴うばね特性の立ち上がりを非線形的に調節することが可能となる。また、ヒゲ状弾性突起102,106は、基端部から先端部に向かって外側寸法が小さくなる形状とされることにより、成形時における成形型からの脱型も容易となる。また、基端部を最も太く形成することは、耐久性の向上にも有利に働く。
【0079】
さらに、本実施形態では、弾性ゴム板80の上下両方に突出するヒゲ状弾性突起102が、初期状態で仕切金具52,54に当接していたが、弾性ゴム板80の上下何れかのヒゲ状弾性突起102だけが初期当たりした状態で組み付けられていても構わない。即ち、前記実施形態では、弾性ゴム板80の上下両方に突出するヒゲ状弾性突起102が何れも初期状態で仕切金具52,54に当接されていることにより、振動入力時におけるヒゲ状弾性突起102の先端部の仕切金具52,54への打ち当たりに伴う初期当たりの衝撃や打音を一層効果的に軽減できると共に、弾性ゴム板80が変位ストロークの中間位置に安定して保持されて、振動入力時における弾性ゴム板80の液圧吸収機能も一層安定して発現可能となる。しかし、初期状態でヒゲ状弾性突起102が仕切金具から離隔していても、ヒゲ状弾性突起102の充分に柔らかいばね特性で優れた緩衝作用が発揮され得る。
【0080】
また、ヒゲ状弾性突起102の形状は、必ずしも最初から直立していなくても良く、最初から湾曲や傾斜していても良い。例えば、図5に例示されているように、ヒゲ状弾性突起102の形状が、長さ方向の全長で又は部分的に湾曲した湾曲部110を有する形状を採用すれば、ヒゲ状弾性突起102の仕切金具52,54への当接時の緩衝作用を更に向上させることも可能となる。また、背の高さを調整して直立状態のヒゲ状にしておいて、上下の仕切金具52,54内にセットした段階で、図5のような湾曲や傾斜になるようにすることも当然可能である。
【0081】
また、ヒゲ状弾性突起102を除く弾性ゴム板80の断面形状は、必ずしも本実施形態に示されているものに限定されるものではない。具体的には、例えば、中間凸条90を二条以上の複数条形成することにより、当接時の圧力を有利に分散させて、当接打音の低減効果の向上を図ることも出来る。また、それに伴って、中間凸条90や外周凸条88,中間周溝92の形状も適宜に選択されて採用され得る。具体的には、例えば、中間凸条90の断面形状が突出先端が湾曲せしめられた略半楕円形状や略台形形状とされていても良い。また、極言すれば、ヒゲ状弾性突起102を除く弾性ゴム板80の表面(裏面)形状は、平らでも良い。
【0082】
また、ヒゲ状弾性突起102は、全てが同じ形状や大きさに限定されるものではない。例えば、弾性ゴム板80,104の上面と下面で異ならせることもできる。また、弾性ゴム板80,104の一方の面においても、高さが異なるヒゲ状弾性突起102や、湾曲の程度が異なるヒゲ状弾性突起102、更に外幅寸法が異なるヒゲ状弾性突起102などの、複数種類を設けることも可能であり、それによって当接時のばね定数の立ち上がりを一層大きな自由度をもってチューニングすることが可能になる。
【0083】
また、本実施形態では、径方向中央部に係合凸部82が形成されていたが、かかる係合凸部82は必ずしも必要ではない。また、それに伴い、上下の仕切金具52,54にそれぞれ形成されている係合孔58,64も必ずしも必要ではない。
【0084】
また、本実施形態では、可動板としての弾性ゴム板80をゴム弾性体で形成していたが、必ずしもゴム弾性体に限定されるものではなく、例えば合成樹脂や金属等からなるプレートを可動板とし、その表面にヒゲ状弾性突起102を形成することも可能である。
【0085】
また、仕切金具50は、金属によって形成されていたが、必ずしも金属製である必要はなく、例えば、硬質の樹脂材等によって形成されていても良い。
【0086】
また、オリフィス通路72における形状や大きさ、構造、位置、数などの形態は、要求される防振特性や製作性などに応じて設定変更されるものであり、例示の如きものに限定されるものでない。
【0087】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0088】
10:エンジンマウント、12:第一の取付金具、14:第二の取付金具、16:本体ゴム弾性体、40:ダイヤフラム、50:仕切金具、52:上仕切金具、54:下仕切金具、58,64:係合孔、60,66:通孔、68:受圧室、70:平衡室、72:オリフィス通路、78:収容領域、80,104:弾性ゴム板、82:係合凸部、84:流体流通領域、102:ヒゲ状弾性突起、106:第二のヒゲ状弾性突起、110:湾曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめて、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側にそれぞれ非圧縮性流体が封入されて振動入力時に相対的な圧力変動が生ぜしめられる第一の流体室と第二の流体室を形成すると共に、それら第一の流体室と第二の流体室を連通せしめるオリフィス通路を設ける一方、該仕切部材によって可動板を小変位可能に支持せしめて、該可動板の各一方の面に及ぼされる該第一の流体室と該第二の流体室との圧力差により該可動板が変位せしめられる圧力変動吸収機構を構成した流体封入式防振装置において、
前記可動板の変位量を制限する前記仕切部材に対する該可動板の当接面に、最大外幅寸法よりも突出長さ寸法が大きくされたヒゲ状弾性突起を複数本突出形成したことを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記ヒゲ状弾性突起が、前記仕切部材への当接により曲げ変形せしめられる請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記可動板がゴム弾性体で形成されていると共に、前記ヒゲ状弾性突起が該可動板に一体形成されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記ヒゲ状弾性突起の前記最大外幅寸法が基端部に設定されていると共に、該ヒゲ状弾性突起の先端部の外幅寸法が該基端部よりも小さくされている請求項1〜3の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記可動板の中心軸の位置を、前記仕切部材に対して軸直角方向で位置決めする位置決め手段が設けられている請求項1〜4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記仕切部材に対する該可動板の当接面には、最大外幅寸法よりも突出高さ寸法が小さくされた緩衝突部が形成されていると共に、該緩衝突部の突出先端部を避けて前記ヒゲ状弾性突起が設けられている請求項1〜5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記仕切部材には、前記可動板の変位方向での該可動板との対向面において、該可動板の各一方の面に対して前記第一の流体室又は前記第二の流体室の圧力を及ぼす通孔が形成されていると共に、
該可動板における前記ヒゲ状弾性突起が、該仕切部材への前記当接面において該通孔を避けた径方向位置で周方向に並んで複数形成されている請求項1〜6の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項8】
前記可動板の変位方向両側において、該可動板に形成された前記ヒゲ状突起の先端部分が前記仕切部材に対して当接されることにより、該可動板が弾性的に位置決めされている請求項1〜7の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項9】
前記可動板に形成された複数の前記ヒゲ状弾性突起の先端部分が前記仕切部材に対して当接せしめられた初期当たりの状態下において、該可動板の変位方向のばね定数が0.5〜2.0N/mmとされている請求項1〜8の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−72483(P2013−72483A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211704(P2011−211704)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】