説明

流体投与装置の表面を処理する処理方法

本発明は、流体製品投与装置の表面を処理する処理方法に関し、前記流体投与装置の駆動中に流体と接触する、前記流体投与装置の1以上の部分の1以上の支持体表面に、前記流体のひっつきを防止する特性を有する薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含むこと、を特徴とする処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体投与装置を対象とした表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体投与装置は公知であり、通常は以下のものから成る。すなわち、貯蔵器、ポンプや弁などの投与部材、そして、投与開口部を備えた投与ヘッドである。それ以外の形では、変形例として、流体投与装置を吸入器として、各々が1回分の量の粉末又は液体を格納した複数の貯蔵器と、連続的に駆動される度に前記1回分ずつ開封し放出する手段と、を有する構成にすることもできる。こうした構成の装置には、駆動中に流体と接触する部品が多数ある。そのため、流体が、ユーザに投与される前の段階で、装置の1以上の部分に詰まったり付着したりして残ってしまう、という危険がある。こうした事態の結果として、投与される量が理論上の量よりも小さくなってしまうと、例えば喘息などの発作の治療の場合には、重要な問題が生じる。ひっつきの問題は特に貯蔵器で生じるが、それ以外に、ポンプチャンバ内のピストンにも、弁チャンバ内の弁部材にも生じ得る。同じことは、押下部材又は投与ヘッドにも当てはまる。
【0003】
全ての既存の表面処理方法には、問題点が見られる。いくつかの方法は、平面への使用にしか適していない。また、他の方法は、基材の選択が限られてしまう(例:金)。
国際公開第02/47829号や米国特許出願公開第2007/0131226号に記載された、プラズマによる分子の重合は、複雑であり、フッ素化モノマーや全フッ素置換モノマーの使用が必要となるため、高コストとなる。更に、得られるコーティング層も、制御が難しく、経年劣化の問題が見られる。
【0004】
同様に、紫外線放射による分子の重合も、複雑かつ高コストであり、感光性分子と共に用いる場合のみ機能する。同じことは原子移動ラジカル重合(ATRP)にも当てはまり、複雑かつ高コストである。最後に、電気的グラフト法は、複雑であって、支持体表面が導電性である必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/47829号
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0131226号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の問題点のない表面処理方法を提案することである。
具体的には、本発明は、効果的で耐久性が高く、無公害で実行が容易な表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、前記流体投与装置の駆動中に流体と接触する、前記流体投与装置の1以上の部分の1以上の支持体表面に、前記流体のひっつきを防止する特性を有する薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含む、という処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
効果的な実施の形として、前記化学グラフト処理は、流体と接触する前記支持体表面を1以上の定着剤を含む溶液と接触させる処理を含み、当該定着剤はクリーバブルなアリール塩であって、ビニル末端又はアクリル末端シロキサンから成るグループから選択された1以上のモノマー又はポリマであること、とする。
また、前記薄膜はシリコンを含むポリマ膜とするのが効果的である。
【0009】
また、前記シリコンは、DM300又はDM1000シリコンとするのが効果的である。
また、前記化学グラフトにより、前記薄膜の分子と前記支持体表面との間に共有結合を生じさせるのが効果的である。これにより、強固で長持ちする結合が生じる。
前記化学グラフトは水媒体の中で実行するのが効果的である。このようにすれば、無公害又は安全で、環境に対する危険のない形で化学作用を利用することができる。
【0010】
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩、アリールスルホニウム塩、アリールヨードニウム塩から成るグループから選択される。
クリーバブルなアリール塩は、一般式:ArN2+,X-(Arはアリール基を表し、X-は陰イオンを表す)の化合物から選択される。有機化合物のアリール基は芳香族環に由来する官能基である。
【0011】
実施にあたって、X-陰イオンは以下のものから選択される。すなわち、I-、Cl-、Br-などのハロゲン化物などの無機陰イオン;テトラフルオロホウ酸などのハロゲノホウ酸;アルコラート、カルボン酸塩、過塩素酸塩、スルホン酸塩などの有機陰イオン。
実施にあたって、アリール基Arは、3〜8の炭素を有する1以上の芳香族環で構成される一置換又は多置換の芳香族基又はヘテロ芳香族基から選択することができる。ヘテロ芳香族化合物のヘテロ原子は、N、O、P、Sから選択される。置換基としては、アルキル基及び1以上のヘテロ原子(N、O、F、Cl、P、Si、Br、Sなど)がある。
【0012】
実施にあたって、アリール基は、NO2;COH;CN;CO2H;ケトン;エステル;アミン;そしてハロゲンなどの誘引基によって置換されたアリール基から選択される。
実施にあたって、アリール基は、フェニル基及びニトロフェニル基から成るグループから選択される。
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は、以下から成るグループから選択される:テトラフルオロほう酸フェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−ニトロフェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−ブロモフェニルジアゾニウム;4−アミノフェニルジアゾニウム塩化物;4−アミノメチルフェニルジアゾニウム塩化物;2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウム塩化物;テトラフルオロほう酸4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−シアノフェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−カルボキシフェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−アセトアミドフェニルジアゾニウム;テトラフルオロほう酸4−フェニル酢酸ジアゾニウム;2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウム硫酸塩;9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウム塩化物;テトラフルオロほう酸4−ニトロナフタレンジアゾニウム;テトラフルオロほう酸ナフタレンジアゾニウム。
【0013】
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は、以下から成るグループから選択される:テトラフルオロほう酸4−ニトロフェニルジアゾニウム;4−アミノフェニルジアゾニウム塩化物;2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウム塩化物;テトラフルオロほう酸4−カルボキシフェニルジアゾニウム。
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩の濃度は、5×10-3モル(M)から10-1Mの範囲とする。
【0014】
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩の濃度は、約5×10-2Mとする。
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は原位置で(in situ)調製される。
前記化学グラフト処理については、前記薄膜用のアンカー層の形成のために、ジアゾニウム塩の化学活性化によって開始される、とするのが効果的である。
また、前記化学グラフト処理は化学活性化によって開始されること、とするのが効果的である。
【0015】
実施にあたって、前記化学活性化は溶液中の還元剤の存在によって開始される。
実施にあたって、溶液は還元剤を含むものとする。
「還元剤」との用語は、酸化還元反応中に電子を供与する化合物を意味する。本発明の特徴として、クリーバブルなアリール塩の酸化還元電位に対する還元剤の酸化還元電位差は、0.3ボルト(V)から3Vの範囲とする。
【0016】
還元剤は、鉄、亜鉛又はニッケルなどの細かく分割することの可能な還元金属と、メタロセンの形をとることの可能な金属塩と、次亜リン酸やアスコルビン酸などの有機還元剤と、から成るグループから選択される。
実施にあたって、還元剤の濃度は0.005Mから2Mの範囲とする。
実施にあたって、還元剤の濃度は約0.6Mとする。
【0017】
実施にあたって、前記薄膜の厚みは1マイクロメートル(μm)未満であり、10オングストローム(Å)から2000Åの範囲とする。
実施にあたって、前記薄膜の厚みは1μm未満であり、10Åから800Åの範囲とする。
実施にあたって、前記薄膜の厚みは、400Åから1000Åの範囲とする。
【0018】
「ビニル末端又はアクリル末端シロキサン」との用語は、シリコン原子と酸素原子とが交互に並んだ直鎖又は分枝鎖で形成され、末端にビニル又はアクリルのモティーフを含む、飽和したシリコン・酸素水素化物を意味する。
実施にあたって、ビニル末端又はアクリル末端シロキサンは、ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルシロキサンなどのビニル末端又はアクリル末端ポリアルキルシロキサンと;ポリジメチルシロキサン-アクリル酸塩(PDMS-アクリル酸塩)などのビニル末端又はアクリル末端ポリジメチルシロキサンと;ポリビニルフェニルシロキサンなどのビニル末端又はアクリル末端ポリフェニルシロキサンなどのビニル末端又はアクリル末端ポリアリールシロキサンと;ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルフェニルシロキサンなどのビニル末端又はアクリル末端ポリアリールアルキルシロキサンと、から成るグループから選択される。
【0019】
実施にあたって、前記溶液には電位差が与えられる。
「電位差」との用語は、2つの電極の間で計測される酸化還元電位差を意味する。
電位差は2つの電極に接続された電源から与えられる。当該2つの電極は同一でも別種でもよく、浸漬段階の間溶液に浸されている。
実施にあたって、電極は、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、プラチナ、金、銀、亜鉛、鉄、銅から選択される。単体(in pure form)でも合金でもよい。
【0020】
実施にあたって、電極はステンレス鋼で作られる。
実施にあたって、電源から加わる電位差は0.1Vから2Vの範囲にある。
実施にあたって、その値は約0.7Vとする。
実施にあたって、電位差は化学電池が生じさせる。
「化学電池」との語は、イオンブリッジを介して相互接続された2つの電極から成る電池を意味する。本発明の特徴として、2つの電極は、電位差が0.1Vから2.5Vの範囲となるように適切に選択される。
【0021】
実施にあたって、化学電池は、溶液に浸された2つの別個の電極の間で形成される。
実施にあたって、電極は、ニッケル、亜鉛、鉄、銅、銀から選択される。単体でも合金でもよい。
実施にあたって、化学電池が生じさせる電位差は0.1Vから1.5Vの範囲とする。
実施にあたって、電位差は約0.7Vとする。
【0022】
実施にあたって、溶液に入れられた基材とやはり溶液に浸された電極との接触が完全に回避されるように、電極は化学的に隔離される。
効果的な構成として、化学グラフトを用いて前記支持体表面に第2の追加薄膜を形成する処理を更に有し、前記第2の追加薄膜は、前記支持体表面と前記流体との間の相互反応を防止するものであること、とする。
【0023】
最初の例では、前記2つの薄膜は、2回の連続した化学グラフト処理によって前記支持体表面に積層される。そして、各回の処理は1つの単一成分槽(single-component bath)で実行される。
別の例では、前記2つの薄膜は、複数成分槽(multi-component bath)の中で行われる1回の化学グラフト処理によって、前記支持体表面に同時に積層される。
【0024】
また、前記支持体表面は、特にポリエチレン及びポリプロピレンの両方又は一方を含む合成材料から作られていること、とするのが効果的である。
また、前記支持体表面は金属製とするのが効果的である。
また、前記薄膜の厚みは1μm未満であり、好ましくは10Åから800Åの範囲であること、とするのが効果的である。従来のコーティング技術では、ここまで薄い化学グラフト層を得ることはできない。
【0025】
また、前記投与装置は、流体が格納された貯蔵器と、前記貯蔵器に固定されたポンプまたは弁である投与部材と、投与開口部を備えた投与ヘッドとを有し、投与ヘッドは前記投与部材を駆動させるためのものであること、とするのが効果的である。
また、前記投与装置は、各々が1回分の量の流体を格納している複数の個別の貯蔵器と、穴あけ針である貯蔵器開封手段と、開封された1個の貯蔵器の1回分の量の流体を投与開口部から投与する1回分投与手段とを有すること、とするのが効果的である。
【0026】
また、前記流体は、点鼻又は経口の形で噴霧される医薬である、とするのが効果的である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
実施にあたっては、国際公開第2008/078052号に記載されたものに類似の方法を用いることができる。当該国際公開に記載されているのは、非電気化学的条件の下で固体の支持体の表面に有機膜を設ける方法である。驚くべきことに、このタイプの方法は、上述の投与装置の駆動中に移動する表面に、ひっつき防止用薄膜を形成するのに適していることが分かった。グラフト法のこうした用法は、これまで考えられてこなかった。
【0028】
要約すれば、本方法は、固体の支持体の表面に薄膜(具体的には、ポリエチレン及び/又はポリプロピレン及び/又は金属でできた膜)を形成することを目的とする。本方法は主に、前記支持体表面を液体溶液に接触させる処理から成る。液体溶液は1以上の溶媒と1以上の定着剤とを含み、当該定着剤からはラジカル体(radical entities)の形成が可能である。
【0029】
「薄膜」とはポリマ膜であって(特に有機性のもの)、例えば、有機化学種の複数の単位から得られ、本方法が実施される支持体の表面に共有結合の形で結合されるものである。具体的には、支持体の表面に共有結合の形で結合され、類似の性質の構造単位から成る1以上の層から成る膜のことである。各種単位間で生じる共有結合により、膜厚に応じた結合力が実現される。薄膜にはシリコンを含ませるのが好ましい。
【0030】
本方法に関連して用いられる溶媒は、プロトン性でも非プロトン性でもよい。ただし、前記溶媒は定着剤を溶かすものとするのが好ましい。
「プロトン性溶媒」との用語は、陽子の形で放出することの可能な水素原子を1以上含む溶媒を意味する。プロトン性溶媒は、以下から成るグループから選択すればよい。すなわち、水、脱イオン水、蒸留水(酸性化してもよい)、酢酸、メタノールやエタノールなどのヒドロキシル化溶媒、エチレングリコールなどの低分子量の液体グリコール、そして、これらの混合物。
【0031】
第1の例では、プロトン性溶媒は、プロトン性溶媒単独としてもよいし、異なるプロトン性溶媒の混合物としてもよい。
次の例では、プロトン性溶媒又はプロトン性溶媒の混合物に1以上の非プロトン性溶媒を混合する。理解されるであろうが、この場合、結果として生じる混合物はプロトン性溶媒の特徴を示すものでなければならない。
【0032】
酸性化された水は、好ましいプロトン性溶媒であるが、より具体的に言えば、酸性化した蒸留水や、酸性化した脱イオン水が好ましい。
「非プロトン性溶媒」との用語は、プロトン性ではないと考えられる溶媒を意味する。非極限状況の下では、こうした溶媒は、陽子の放出や受け入れには適していない。非プロトン性溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)から選択するのが効果的である。
【0033】
「定着剤」との用語は、特定の条件下で、ラジカル化学グラフトなどのラジカル反応によって固体の支持体表面に化学吸着するのに適した有機分子を指す。こうした分子は、ラジカルと反応するのに適した1以上の官能基と、化学吸着後に別のラジカルと反応する反応性官能基とを含む。
従って、最初の分子が支持体表面にグラフトされた後、分子はポリマ膜を形成することができ、更にその後、環境に存在する他の分子と反応することができる。
【0034】
「ラジカル化学グラフト」との用語は、具体的には、不対電子を有する分子実体を用いて、共有結合の形で支持体表面との結合を形成することを指す。その場合の前記分子実体は、それらがグラフトされる支持体表面とは関わりなく発生させられる。よって、ラジカル反応の結果として、共有結合が、先ず対象の支持体表面とグラフトされる定着剤の派生物との間に形成され、その後、グラフトされた派生物と環境に存在する分子との間に形成される。
【0035】
「定着剤の派生物」との用語は、具体的には、定着剤から生じる化学的単位を指し、当該定着剤がラジカル化学的グラフトによって、特に固体支持体の表面又は他のラジカルと化学反応した後に生じるものである。当業者にとっては自明であろうが、定着剤の派生物の化学吸収の後に別のラジカルと反応する官能基は、特に固体の支持体の表面との共有結合に関連する官能基とは別のものである。
【0036】
定着剤については、クリーバブルなアリール塩であって、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩、アリールスルホニウム塩、アリールヨードニウム塩から成るグループから選択するのが効果的である。
薄膜にはシリコンを含ませるのが好ましいが、シリコンについては各種の医療用のもの(例えば、DM300やDM1000)とすることができる。また、水媒体の中で実現される支持体表面へのシリコンの直接的共有結合に関する変形例として、先にグラフトしておいた多孔層にシリコンを浸み込ませる、という方法を用いることも可能である。
【0037】
本発明の効果的な実施の形では、化学グラフトを用いて、同一の支持体表面に第2の薄膜を1以上形成することで、当該支持体表面に追加の特性を1以上与える。エラストマー表面、特に上記のガスケット表面、金属表面又はガラス表面、あるいは、例えばポリエチレン又はポリプロピレン製の合成物表面は、前記流体と相互反応する危険があり(例えば、前記流体への抽出物の放出(shedding))、こうした相互反応は前記流体に有害な影響を及ぼすおそれがある。
【0038】
本発明は、効果的な点として、エラストマー表面と流体との間の相互反応を防ぐ第2の薄膜を、化学グラフトを用いて形成する。第2の薄膜は、第2の化学グラフト処理で設けられる。その場合、各回の化学グラフト処理は、それぞれ単一成分槽の中で実施することができる。留意すべき点として、連続的に実施されるこれらの化学グラフト処理は、どんな順序で実施してもよい。なお、変形例では、別のやり方として、2つの薄膜を1回の化学グラフト処理で設けることもできるが、その場合、当該化学グラフト処理は複数成分槽で実施される。なお、必須ではないが、例えば駆動中に移動する部品間の摩擦を抑制する目的で、更に別の追加薄膜を化学グラフトで形成してもよい。
【0039】
本発明は更に、流体投与装置の駆動中に前記流体と接触する、前記流体投与装置の1以上の構成要素の1以上の表面に、前記流体のひっつきを防止する特性を有した薄膜を形成することを目的とした、本発明のグラフト法の使用法に関する。
以下に示す例はガラス製容器の中で実行した。特記する場合を除き、これらの例は、常温・常圧(約22℃、約1気圧(atm))の雰囲気下で実行した。また、特に言及しない限り、試薬は市場から直接取得して使用しており、追加の精製処理は行っていない。サンプルは、40℃の石鹸水の中で前もって超音波洗浄した。
【0040】
例1−ポンプの部品を潤滑する目的でポリ(ジメチルシロキサン)の膜を当該部品にグラフトした
「ポンプ」という用語は、内部で1以上のピストンが摺動するポンプ本体を有する、手動の流体投与装置を意味する。
70ミリリットル(mL)のミリQ(mQ)水にBrij 35(登録商標)を入れた溶液(4.37g/Lの割合で0.874g)に、ビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)(1.0グラム(g)、5グラム・パー・リットル(g/L))を注ぎ、そうして得られた懸濁液を磁気撹拌してエマルジョンを形成した。
【0041】
4−アミノ安息香酸(1.370g、10-2モル(mol))を、塩化水素酸(120mLのmQ水に4.0mL)及び次亜リン酸(6.3mL、6.0×10-2mol)の溶液に溶かした。そして、当該溶液を上記PDMSエマルジョンに加えた。
そして、当該エマルジョンに、NaNO2(0.667g、9.7×10-3mol)の水溶液8mLを加えた後、ポンプ部品サンプルを入れた。
【0042】
30分間反応させた後、サンプル(すなわち、PP製の本体;上部ピストン;下部ピストン;ポリエチレンPE製の管)を取り出し、1%の石鹸水(Renoclean)を入れた複数の連続した槽で、40℃の温度で超音波すすぎを行い、更に、水を入れた槽でもすすぎを行った。
これら部品を圧縮空気で乾燥させた後、サンプル上のPDMSの存在を赤外線(IR)解析によって確認した。当該解析には、1260毎センチメートル(cm-1)、1110cm-1、1045cm-1における、PDMSの特有帯域を利用した。
【0043】
例2−弁の部品を潤滑する目的でポリ(ジメチルシロキサン)の膜を当該部品にグラフトした
「弁」という用語は、推進ガスを格納していると共に、内部で弁部材が摺動する弁本体を有する、という構成の流体投与装置を意味する。
先ず、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(1.307g、0.015M、)を175mLのmQ水に溶かした。そして、ビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)(2.5g、10g/L)を加え、そうして得られた混合物を磁気撹拌してエマルジョンを形成した。
【0044】
4−アミノ安息香酸(3.462g、2.5×10-2mol)を、塩化水素酸(20mLのmQ水に9.6mL)及び次亜リン酸(33mL、3.1×10-1mol)の溶液に溶かした。そして、当該溶液を上記PDMSエマルジョンに加えた。
そして、mQ水にNaNO2(1.664g、2.37×10-2mol)を入れた水溶液10mLを当該エマルジョンに加え、その後、サンプル(すなわち:エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)又はニトリルゴムのガスケット;ポリオキシメチレン(POM)製の弁部材上部;金のインジケータ用ストリップ)を入れた。
【0045】
15分間反応させた後、サンプルを取り出して、mQ水、エタノール、ヘキサンの中で連続してすすぎを行った。
そして、金ストリップ及び他のサンプル上のPDMSの存在を確認した。確認は、1260cm-1、1110cm-1、1045cm-1で、PDMSの特有帯域を用いたIR解析によって行った。
【0046】
例3−アクリルPDMS製のポリマ膜をポリエチレン基材に電気触媒化学グラフトした
本例は、潤滑性コーティング(アクリルPDMS)をPEなどの熱可塑性材料の上にグラフトする方法を説明する。
先ず、PEサンプルをエタノールに入れて5分間超音波洗浄した(50%の電力で、温度は40℃)。
【0047】
二相溶液を2段階で調製した。先ず、毎分300回転(rpm)で磁気撹拌しながら、ビーカー(1)に以下を順番に加えた:PDMS−アクリル酸塩(1g/L);8.5重量%(%wt)(4.37g/L)の割合で水に入れたBrij 35(登録商標)の溶液;33mLの脱イオン(DI)水。その後、超音波を当て、温度40℃、200ワット(W)(100%)の電力で、15分間にわたって乳化を生じさせた。
【0048】
その後、磁気撹拌(300rpm)しながら、ビーカー(2)に以下を加えた:テトラフルオロホウ酸ニトロベンゼンジアゾニウム(0.05mol/L);130mLのDI水;塩化水素酸(0.23mol/L)。
ビーカー(2)の内容物を、ビーカー(1)のエマルジョンに注いだ。そして、PEサンプル(2個);亜鉛メッキした巻き金属線(10回巻、すなわち約25〜30センチメートル(cm));巻きニッケル(Ni)線(10回巻、すなわち約25〜30センチメートル(cm))をビーカー(1)内に配置した。金属線及びニッケル線は一本につないで、電流計を直列に接続した。
【0049】
最終段階として、上記組立物を準備した後、次亜リン酸(0.7mol/L)を最後に加え、それによって反応を開始させた。雰囲気温度で30分間反応させた後、PEサンプルを取り出した。そして、水、エタノール、そして最後にイソプロパノールという順で連続してすすぎを行った。すすぎは、ソックスレーの中で16時間行った。
ソックスレーは、中にサンプルが配置されるガラス製の本体、サイフォン管、そして蒸留管から成る。ソックスレーをフラスコ上に置き、凝縮器をソックスレーの上に載せた。当該フラスコは、具体的には、フラスコヒータで加熱及び撹拌される500mLフラスコであり、溶媒(具体的には300mLのイソプロパノール)が格納されている。
【0050】
フラスコを加熱すると、溶媒が蒸気となって蒸留管を通過し、凝縮器において凝縮して、液滴に戻ってガラス製の本体の中に落ちた。それによって、サンプルは純粋な溶媒に浸されることになった(下を通る蒸気によって加熱される)。凝縮した溶媒は抽出器に溜まっていくが、最終的にはサイフォン管の頂上にまで達し、液体は容器に戻ることになるが、その際には抽出物質を伴う。こうして、容器に入っていた溶媒は、徐々に可溶性化合物でエンリッチされた。
【0051】
従って、抽出物質が容器内に残っている間(抽出物質の沸点は、抽出器溶媒の沸点よりも大幅に高いものとする必要がある)、溶媒は継続的に気化した。
ソックスレー抽出器の使用により、PE基材表面のアクリルPDMSの化学グラフトの状態を確認することが可能となった。
IR分光学による解析を実施した。Si−CH3結合の振動に一致する1260cm-1の特有帯域の存在することから、赤外線スペクトルによってアクリルPDMSのグラフトを確認することができた。
【0052】
例4−ポテンショスタットが存在する環境で、ポリエチレン基材上にアクリルPDMSのポリマ膜を電気触媒化学グラフトした
本例は、ポテンショスタットが存在する環境で、潤滑性コーティング(アクリルPDMS)をPEなどの熱可塑性材料の上にグラフトする方法を説明する。
先ず、PEサンプルをエタノールに入れて5分間超音波洗浄した(電力は100W、温度は40℃)。
【0053】
二相溶液を2段階で調製した。そして、磁気撹拌(300rpm)しながら、ビーカー(1)に以下を順番に加えた:PDMS−アクリル酸塩(1g/L);8.5%wt(4.37g/L)の割合で水に入れたBrij(登録商標)35の溶液;そして、33mLのDI水。その後、超音波を当て、温度40℃、200ワット(W)(100%)の電力で、15分間にわたって乳化を生じさせた。
【0054】
その後、磁気撹拌(300rpm)しながら、ビーカー(2)に以下を加えた:テトラフルオロホウ酸ニトロベンゼンジアゾニウム(0.05mol/L);130mLのDI水;塩化水素酸(0.23mol/L)。
ビーカー(2)の内容物を、ビーカー(1)のエマルジョンに注いだ。そして、PEサンプル(2個);亜鉛メッキした巻き金属線(10回巻、すなわち約25〜30cm);巻きNi線(10回巻、すなわち約25〜30cm)をビーカー(1)内に配置した。金属線及びニッケル線をポテンショスタットに接続し、そして電流計を直列に接続した。ポテンショスタットから、0.5Vの一定の電位差を加えた。時間経過に沿って電流計で電流を計測した。
【0055】
最終段階として、上記組立物を準備した後、次亜リン酸(0.7mol/L)を最後に加え、それによって反応を開始させた。雰囲気温度で30分間反応させた後、PEサンプルを取り出した。そして、水(1段階(a cascade))、エタノール(1段階)、そして最後にイソプロパノールの順で連続してすすぎを行った。すすぎは、ソックスレーの中で16時間行った。
【0056】
ソックスレー抽出器の使用により、PE基材表面のアクリルPDMSの化学グラフトの状態を確認することが可能となった。
IR分光学による解析を実施した。Si−CH3結合の振動に一致する1260cm-1の特有帯域の存在することから、赤外線スペクトルによってアクリルPDMSのグラフトを確認することができた。
【0057】
当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱しない形で、様々な変更を考案することが可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、
前記流体投与装置の駆動中に流体と接触する、前記流体投与装置の1以上の部分の1以上の支持体表面に、前記流体のひっつきを防止する特性を有する薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含むこと、
を特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記化学グラフト処理は、流体と接触する前記支持体表面を1以上の定着剤を含む溶液と接触させる処理を含み、
当該定着剤はクリーバブルなアリール塩であって、ビニル末端又はアクリル末端シロキサンから成るグループから選択された1以上のモノマー又はポリマであること、
を特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
ビニル末端又はアクリル末端シロキサンは、
ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアルキルシロキサンと;
ポリジメチルシロキサン-アクリル酸塩(PDMS-アクリル酸塩)であるビニル末端又はアクリル末端ポリジメチルシロキサンと;
ポリビニルフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアリールシロキサンと;
ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアリールアルキルシロキサンと、
から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
クリーバブルなアリール塩は、アリールジアゾニウム塩と、アリールアンモニウム塩と、アリールホスホニウム塩と、アリールスルホニウム塩と、アリールヨードニウム塩と、から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記化学グラフト処理は化学活性化によって開始されること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記化学活性化は溶液中の還元剤の存在によって開始されること、
を特徴とする請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
還元剤は、
鉄、亜鉛又はニッケルである、細かく分割することの可能な還元金属と、
メタロセンの形をとることの可能な金属塩と、
次亜リン酸又はアスコルビン酸である有機還元剤と、
から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記溶液に電位差が加えられること、
を特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項9】
電位差は2つの電極に接続された電源から加えられ、当該2つの電極は同一でも別種でもよく、溶液に浸されていること、
を特徴とする請求項8に記載の処理方法。
【請求項10】
電位差は化学電池によって生じさせられること、
を特徴とする請求項8に記載の処理方法。
【請求項11】
化学グラフトを用いて前記支持体表面に第2の追加薄膜を形成する処理を更に有し、前記第2の追加薄膜は、前記支持体表面と前記流体との間の相互反応を防止するものであること、
を特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項12】
前記支持体表面は、特にポリエチレン及びポリプロピレンの両方又は一方を含む合成材料から作られていること、
を特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項13】
前記支持体表面は、エラストマー、ガラス、又は金属であること、
を特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項14】
前記薄膜の厚みは1μm未満であり、好ましくは10Åから2000Åの範囲であること、
を特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項15】
前記投与装置は、流体が格納された貯蔵器と、前記貯蔵器に固定されたポンプまたは弁である投与部材と、投与開口部を備えた投与ヘッドとを有し、投与ヘッドは前記投与部材を駆動させるためのものであること、
を特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項16】
前記投与装置は、各々が1回分の量の流体を格納している複数の個別の貯蔵器と、穴あけ針である貯蔵器開封手段と、開封された1個の貯蔵器の1回分の量の流体を投与開口部から投与する1回分投与手段と、を有すること、
を特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項17】
前記流体は、特に鼻又は口に噴霧される液体又は粉末の医薬であること、
を特徴とする請求項1乃至16のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項18】
請求項1乃至17のいずれか一項に記載のグラフト法の使用法であって、駆動中に前記流体に接触する、当該流体投与装置の1以上の部分の1以上の支持体表面にひっつき防止特性を有する薄膜を形成することを目的とした使用法。

【公表番号】特表2013−515533(P2013−515533A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545403(P2012−545403)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052889
【国際公開番号】WO2011/077056
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(502343252)アプター フランス エスアーエス (144)
【Fターム(参考)】